俺は個性は—— 作:ぱらぱらどきしかる
第二種目は、騎馬戦。
大体四人チームで一つの騎馬を作り、点数の書かれたハチマキを奪い合う。
第一種目での成績をもとに各個人に点数が与えられ、その点数の合計が記されたハチマキを奪い合う。
より獲ったハチマキの点数の合計が高い順に四チーム。
厳密に言えば十六名が第三種目に出場できる。
「十六人ってことは、第三種目はトーナメント戦である可能性が高いな」
ほとんどの人間が察していることを今さらになって反芻する男が一人。
彼は白方道行。雄英体育祭をあまり見てこなかったため、例年多少の違いはあれど開催されているトーナメント方式の最終種目について知らない、世俗に疎い男子高校生だ。
そんな彼に近づいてくる女子が一人。
「立場、利用させてください!」
快活にしゃべるその女子はどうやら注目されたいようだ。
サポート科として、ヒーローのコスチュームを作る企業からの注目を集めたい。そのために白方の一位というもっとも注目される立場がほしいのだとか。
白方はよくわからないが了承した。
彼女が現在装着しているメカメカしいものは、サポート科のみに着用を許されている自身の開発品らしく、活かせば大きな戦力になりそうだ。
保持点数が高く狙われやすい一位とわざわざ組もうという人間は、やはりこういった多少変人味のある人間なのだろうかと、白方は嘆息した。
しかし、以外にも、白方に接触してきた人間は一人ではなかった。
「白方クン、組もうよ!」
一瞬だれなのかわからなかったが、その相手が透明人間であることを知ると、ああ、と間を置いて反応した。
「葉隠さんか」
「そう! 透明仲間!」
「多分かなり狙われる」
「ハイリスクハイリターン! 逃げ切ってやろうよ!」
「そうか。響香さんは?」
「なんで下の名? まぁ……ここでわざわざ逃げるのはロックじゃないからね。葉隠に最後まで付き合うよ」
「さすが耳郎ちゃん! もつべきは友!」
「うわぁ! 抱きつくな!」
下の名呼びは耳郎という字が男のようで本人が気にしているのではないかという思惑だったか、怪訝な顔をされただけだった。
こういう勘ぐりはやめた方がいいのだろうかと、白方は目のまえの百合をよそに考えていた。
「やるからには、勝とう。」
「おっ! 頼むよ期待の転校生!」
「私のドッ可愛いベイビーの力! みせてやりましょう!」
作戦会議を始める。
まずは全員の個性の確認だが、発目は「ズーム」遠くのものを見ることができる。
耳郎は「イヤホンジャック」。耳たぶから伸びたイヤホンジャックは音を衝撃波のようにして攻撃したり、相手の居場所などを感知したりできる。
葉隠の個性は「透明化」。常時透明化しているが、服までは透明にすることはできない。
大まかな作戦を練ったのち、敵の出方も考える。
「まずは、敵の厄介な個性の確認か。」
「やっぱ轟くんとか?」
「とりあえず、要対応の個性を言っていくか」
この事は隠してたって仕方がないかと妥協する。
指を指しながら、白方は言う。
「あいつはコピー、あいつは洗脳、そしてあいつは空気凝固、あいつは……接着剤。あとあいつは――」
「ちょ、ちょっと待って、なんで知ってんの?」
「………………リサーチだ」
「いやそんな馬鹿な」
「さすが転校生!」
白方が知っているのは、原作知識もあるが、自身の個性に関するものだ。
「一番怖いのは、洗脳だな。あいつの言葉に返答するだけで意識を奪われると考えていい」
「うはー、強敵だね」
心操が白方を警戒し騎馬戦でも近づく気がないということ、白方は知らない。
やはり雄英。普通科であろうと、一般人と比べて良個性が多い。それでももちろん他校のヒーロー科などと比べてもいいところ同レベルというところだが。個性が良ければ雄英の入試に落ちても、他の高校のヒーロー科に入学しただろう。
周りの人間をよりつぶさに観察して、他に注視すべき人間がいないか確かめる。
「騎手は俺でいいか?」
「葉隠じゃなくて?」
「俺ならハチマキごと透明化できる。」
「なるほど」
「葉隠さんは、上を脱がなくていい。個性をもろに食らう可能性がある」
「それだと私の立つ瀬がないけど、オッケー!」
その後、ある程度の最初の立ち回りを決めたあたりで、騎馬を作るように指示が飛ぶ。
競技開始直前、心操のほうを見たが、騎手となり洗脳を使ってA組の数名を馬にさせていた。白方あてつけだろうと考える。実際は事前に保持しているポイントがより高いA組を狙っただけである。
ゴングが鳴らされる。
白方がハチマキごと透明化する。それに同時に白方のチームを囲うようにいくつかの騎馬が現れる。
近い位置にいるのは、B組の二つのチーム。
コピー能力持ちがいる騎馬じゃない。コピーする能力を得るため攻防に長けた他の目ぼしい個性持ちとの接触を図ろうとしているのだろう。白方はそう予想した。
拳を大きくさせる個性持ちのチームと、体を鉄にする個性持ちのチーム。
体を鉄にするチームには、地面などを液状化させる「柔化」、物と物をくっつける「溶接」、遠近両用の茨を操作する「ツル」という個性を持っている生徒がいる。かなり厄介だった。
「金属男のチームから距離をとろう。女子のほうはそこまででもない」
一応挑発もかけていたその発言に、女子の指令塔らしき騎手役が好戦的な顔をした。
「私らは弱いってことかいッ!?」
接近し、体勢を崩すように振りぬかれんとした大きな掌。
白方はそれを空中で避ける。
「ただの挑発だ」
そのインパクト。
ただでさえ重く大きい拳が、不安定な足場で無造作に振るわれている。
重力とそれに伴う遠心力。
その隙をついて、白方は拳に飛び乗り、目の前の騎手、
「あっ、やばっ」
「――すまない」
地面に落ちる瞬間、同騎馬の、物を操る個性「ポルターガイスト」を持つ女生徒が拳藤を浮かせようとする。しかし、反応が遅れたのと、まだ人ひとり分を支えられるほど個性を成長させていないのもあって、あえなく拳藤は地面に落下した。
《拳藤チーム、騎手が地面に落ちたことにより、失格!》
そのアナウンスに、当の本人たちは落胆の表情を見せる。心が痛むが、白方たちの戦闘はまだ終わっていない。
迫るは皮膚が鉄と化した男とそのチームメンバー。
耳郎はツタを操る個性持ちの動向を確認している。
彼女には事前の作戦会議で、遠距離型の個性持ちの攻撃は本体を攻撃することで防いでほしいと伝えていた。
同じBチームが早々にやられたことで、もう一方の騎馬は白方たちに対する警戒を強めていた。
「みんな、慎重に。多分、俺たちの個性割れてる」
「まじか骨抜! なんでだ!」
「向こうもお前みたいに視察たんだろ」
「視察じゃねェ! 宣戦だ!」
骨抜は、他のB組と比べて第一種目で高い順位に位置していた自分たちなら、個性が把握されていることも有りうるだろうと結論付けた。
「それで白方、どうすんの? 逃げる?」
「逃げる」
騎馬がより正確にうごくためにはチームの意思疎通が必要になる。
この場合、洗脳の個性持ちは強い。一人の意思がそのまま騎馬の意思になるのだから。たとえ騎馬の個性を使わせることができないとしても、心操の洗脳ならば、この試合を制し第三種目へ行くこともできるかもれない。
「あいつらのなかに地質をやわらかくできるものがいるが、そのためにはしゃがんで地面に触れる必要がある。注意すれば逃げれる」
「なるほどね」
ふと、何か圧を感じて、首を傾ける。
ムチのようにしなりながら、何かが飛んできた。
赤い。これは――
「舌……?」
背後からやってきて、頬横を舐めて通り過ぎたそれを、白方は反射で掴んだ。
「おいおいどうした!?」
「舌を掴まれたわ、峰田ちゃん」
「反射神経バケモンだろぉ……」
その声は、背後にいる図体の大きい異形型の個性持ちから聞こえてくる。
「蛙吹さんと、峰田くんか。」
「梅雨ちゃんと呼んで」
「女子の上に乗りやがって、許さねぇぞ白方ァァァァ!!」
「言い方が悪いわ峰田ちゃん」
いくつもの黒い球体のようなものが、障子の背中に構築されているテントのような場所から投げでされている。
これらは峰田のもつ粘着性の球体で、体につくとなかなかとれない。
「ここは私に任せてください!」
白方の足もとで発目の声がした。
彼女が持っているサポートアイテム、その一つから糸が射出され、見る間にすべての球体を剥ぎ取る。
「助かる。それを――」
「わかっています」
振り返りながらその糸を、慎重に近づいてきていた金属男の騎馬へと飛ばす。
粘着という属性が付与されたワイヤーは、騎馬をそのままぐるぐる巻きにして機動力を奪おうとしたが、ツタの個性によって、すんでのところで止めれた。
「ぶねぇ、ナイス塩崎」
「ですがこれでは私の髪が」
しかしツタもこれで使うと絡まるようになった。戦闘力はおおはばに落とせただろう。
白方は発目にワイヤーを手放すように言う。
少々渋ったが、彼女は身につけたサポートアイテムごとその場に捨てた。
深追いはしない。
向こうも、球体がついたツタを武器として使ってくる可能性は難しいだろうがある。
現在白方たちの順位は一位だ。
このまま一位であるためには、ある程度のチャンスを逃してもハチマキを守り切ることが必要である。
現在の状況を確認する。
どうやら、緑谷の騎馬は轟の騎馬と交戦。二人とも厄介な個性持ちを仲間にしている、それらの矛先が向いていない白方にとっては吉であった。
そしてその少し遠くで、爆豪とコピー能力者が戦っている。
硬化と爆発をコピーして善戦していたコピー能力者。さらにコピー能力者の仲間による空気凝固の個性が、爆豪の行く手を阻む。しかし、闘争心をむき出しにした爆豪は凝固し浮かぶ空気のバリアをたたき割り、見事ハチマキを盗った。
「爆豪にとられたあの騎馬の近くに行こう、少しやりたいことがある」
そう言ってコピーの個性持ち――
「いいところに来たじゃんせさぁ。君、A組に転校してきた人だよね。噂なんだけどさ――、君ってヴィランの仲間なの?」
一瞬だけ、白方の動きが止まる。
依然として騎馬は動いていた。物間チームにも白方の微々たる硬直は見てとれなかった。
が、事実として、彼は意表をつかれたように、硬直した。
それは、彼らを抱えていた三人にだけ伝わった。
「アンタら……言っていいことと悪いことがあるんじゃない?」
「さすがにひどいよ」
「あのぉ……私のベイビーまだ使いきれてないんですが……」
三名中二名は物間たちに敵愾心を抱く。
「物間ァ、お前そろそろ……」
「だってそうじゃないか、とくに透明ならいかにもヴィランっぽい。諜報員とか向いているんじゃないかい」
「ごめん、ウチ、あいつ嫌いだわ」
日が浅いとはいえ仲間を侮辱することは、彼女らに相当の怒りを覚えた。
特に、葉隠さえも侮辱されたと捉えた耳郎は怒り心頭だ。
対して白方は、彼女らがすでに自分に仲間意識を持ってくれているということを知り、複雑な気持ちになった。
「でもその個性、いいよね。僕にくれよ。1000万ポイントといっしょにさァ!!」
こちらに近づく物間の騎馬と、迎え討たんとする白方チーム。
爆発での目くらまし、そして耳郎の渾身のイヤホンジャックを空気凝固で防ぐ。
そうしてまんまと、物間は白方に触れた。
その瞬間、白方は物間の頭を踏み台にし、大きく跳躍する。
反射で硬化を使おうとした物間であったが、なぜか発動しなかった。
そのまま、白方は移動する。
「どこだ?」
振り向いて確認するが、物間に消えた白方の消息を掴むことは叶わなかった。
そうしている間に、白方の騎馬が撤退する。
それを見て、物間は白方が自分を翻弄したことに気づいた。
爆発であの騎馬に追いつける気はしない。
そしてなによりも、物間には異変が起こっている。
「おかしいな……」
踏まれた頭の痛みを無視して物間はつぶやく。
「どうした物間!」
「コピーした個性が、全部吹き飛んだ。使えない。」
それは物間にも初めての経験だった。
が、コピーした個性をすぐさま使えるほど個性に対して器用な彼だからこそ、直感的に理解した。
「……あいつの個性をコピーするのに使う容量がデカすぎて、すでにコピーしていた個性のストックがまるごと吹き飛んだのか…………?」
未知との遭遇に冷や汗を流す。
透明化ではなく、もっとヤバい個性のその一端に触れたような、緊張感と圧迫感。
試合の終わりが近づいている……
爆豪は、試合終了十数秒前、ほとんど空中に浮くような状態になりながら、その飽くなき向上心とともに、獲れるハチマキを探していた。
「(あの前髪死滅男か? いや遠すぎる。デクは――、黒ェ奴が邪魔だ!)」
彼は理性は打算が、ターゲットを絞る。
現在動いている騎馬。
白方チームの騎馬を目にして、瞬時に爆豪は行動に移す。
最大出力の爆撃でさらに上空へと飛ぶ。
そして、白方チームの真上で、そのまま急転直下の体勢変更。そのまま、真下へと全速力で落下した。
――上からの攻撃なら避けれねぇ、それに騎馬が移動しているなら、初期の体勢でいる可能性が高い
白方を狙っているのは、爆豪一人だけではなかった。
北側から、緑谷が、尻尾を持つ
南側からは障子チームの蛙吹が、爆豪と緑谷チームの動きにまぎれ、白方を狙って舌を延ばした。
それら三者三様の接近。
「!」
「チィ!」
「?」
すべてが空振りに終わる。
爆豪だけが何かに気づいて、その場から急速に方向転換。
物間と爆豪との騎馬戦にて、自分が叩き割った空中にある凝固シールド。それ目掛けて飛翔する。
「お前はァア! ここだろ!! 分かってんだよ!」
凝固体に、ぱきりと罅が深くなる。
そこには白方が掴まっていた。
彼は透明というアドバンテージを生かして、物間に触れられたとき、物間の頭を踏み台にして空中に固定された凝固体につかまった。
気づかれなければ、ずっとそこで試合終了まで誰とも交戦せずハチマキを保持することができた。
爆風が白方を襲う。
その爆風の指向を見て、爆豪は白方の全貌、姿勢を割り出す。
ならば次は、額か、頭か。どちらにハチマキがついているのか。
どうやって判別する?
「吹き飛ばしゃ関係ねェ!」
彼は後方と前方に同じタイミングで爆破を放った。
そのとき、ひらりと何かが舞い上がる。
二本。
どちらかが、1000万ポイントの、ハチマキ。
なにかわけのわからない言葉を紡ぎながら、爆豪は加速し、それら布きれを、二枚とも掴みとった。
「……すごいな」
《タイムアップ!!》
勢いを減衰されられず、爆豪は観客席へと激突した。
爆風により体勢を崩された白方もまた、地面と追突する。
「「白方くん!?」」
「爆豪ォ!!」
緑谷と白方チームの面々が、地面に落ちた白方に叫び。切島が爆豪の名を呼んだ。
白方は、頭を擦って多少血を流しながらも、立ち上がった。
段々と傷口から血があふれる。
「大丈夫だ。」
「いや血! あわわ早くリカバリーガールのところに!」
さきほどまで敵だった者に対しての言葉とは思えない。
緑谷はやはり主人公なのだと、白方は再確認した。
「そんなことより、あの汗腺爆裂ボーイは……」
「何そのネーミング!」
爆豪が飛び込んだ観客席ではちょっとしたパニックが起こっていた。
だが、爆豪はタフだった。
「生きてるわ! 勝手に殺すな!」
観客席から吠える。
試合終了直前に、爆豪から点を取られ、白方チームは結果0ポイントとなっていた。
爆豪の勘と勝利への渇望に敗北したのだと、白方は素直に受け入れる。
そんな白方と異なり、「ベイビーを見せることができなかった」などとブツブツ文句を言う女子もいた。
雄英体育祭。
第二種目を以て、白方は敗退することとなった。