俺は個性は—— 作:ぱらぱらどきしかる
「私の……ベイビー…………、出番…………、注目ゥ…………」
亡霊のような女生徒が、白方とすれ違う。
彼女の名前は発目明であり、白方と騎馬戦でチームを組んだ結果、敗退し個人戦で自分のサポートアイテムを疲労することができなかった哀れな生徒だった。
ゆらゆらと揺れながらどこかに向かうその姿に、白方はとりあえず心で謝罪を唱えた。
生徒観覧用の席に戻ると、すでに試合が始まっている。
ヒーロー用の観客席から迂回しコーヒーを購入。飲み物を買いに行っていたというアリバイ工作の後に、できるかぎりの速度で戻ってきた白方。やはりこの大きなドームの移動にはそれなりの時間がかかる。
そこは緊張感に包まれていた。
どうやら試合がかなり緊迫しているようだ。
席が空いていないか確認したが、どうやら唯一空いているのは青山というつかみどころのない男子の隣だった。
青山が白方に近づき、謎のウィンクを送る。
白方は首を傾げた。
「隣いいか?」
「いいよ♪」
席に座り、コーヒーの口を開ける。
最近はあまりカフェインは口にしてこなかった白方だが、久しぶりの珈琲飲料に思わず感嘆を漏らす。
「美味いな」
「上手いよね」
青山が反応する。
白方は虚をつかれた。
「ああ、なんか懐かしい味がする」
「僕もさ♪」
どういうことなのかわからず白方が青山の方を向くと、彼は試合に目線をやっていた。
「苦渋の味だよね。いま戦っている二人、どちらも自分に個性があっていない」
「え? ああ、そうだな」
現在の試合は、緑谷VS心操。自分の発言に応答した人物を強制的に白昼夢にかかったかのような状態にし操れるという心操の個性「洗脳」。それにまんまと引っかかった緑谷は、場外に出ようとしてた。
いまにも場外へと出てしまう寸でのところで、自身の指を暴発させ洗脳の効果を解く。
それからは心操の妬みつらみを一身に受けながらも、緑谷は彼を場外に押し出した。
「緑谷くんは自分の力が体にあっていないし、相手の彼は自分の個性が理想にあっていない。まさに同じような宿命を持った敵だったんだよね」
「宿命……!」
青山の近くにいた常闇踏影という生徒が反応する。
「そうか」
「僕もそうなんだ。このベルトがなければまともに個性を使うことができないのさ」
「そうか」
「君もそうでしょ」
「そうか」
コーヒーの苦みが口に広がる。
どこかほっとする感覚に、白方は心を癒していた。
「君はきっと、背中に背負っているそれがないと、個性がままならないんだよね」
指さされたそれは、白方が常時身に着けているカプセルだった。
強固な外殻に包まれ容易には壊れない代物が、白方は確かにそれが壊れないように慎重に扱っている。
「まぁそうだな。重要なものだ」
「僕らの個性補助アイテムは、僕たちの弱さを教えてくれる。いつでもこのベルトを触れば、初心に帰ることができる」
おそらくいい事を言っているだのだろうと思ったが、白方の意識は目の前の珈琲に注がれていた。
もちろん最低限会話を聞いてはいるのだが。
緑谷VS心操の試合は緑谷の勝利で終わり、すぐさま次の瀬呂VS轟の試合となる。
氷と炎を操る「半冷半燃」。と肘からセロテープを出す個性。
常軌を逸する轟の「半冷」の能力によって、ドームからあふれ出すほどの氷結を起こし瀬呂を氷漬けにした。
「轟、強いな」
「彼は現在のナンバーツーヒーローの血縁だからね」
「ああ……そういえばそうだったか」
白方の脳裏に浮かぶのは、アニメにて一年後期のインターンに轟、爆豪、緑谷を迎えるヒーロー「エンデヴァー」の姿。
彼の精神面における成長は後半になるにつれて著しくなっていく。
そのきっかけとなったのは、ナンバーワンヒーローであるオールマイトの引退だった。
一瞬で一方的な戦いを経て、上鳴VS塩崎との闘いが始まる。
塩崎の用いるツタは、絶縁体としてツタを盾のように張り、上鳴の電気が切れるのを待って捕縛した。
これもまた一瞬のことだ。
純粋に相性が悪い戦いだった。
「そろそろ僕の出番が近くなってくるから行くよ♪」
青山が退出し、その後、敗北を喫した上鳴が戻ってくる。
励ましの言葉を受けているが、当の本人は電力の消費により理性を失った状態なので「ウェイ」としか反応していない。
第四戦目は、飯田VS尾白。
尾白の尻尾によるバランス感覚によって、飯田の攻撃を場外直前で裁ききったものの、飯田の「レシプロバースト」という圧倒的な出力には適わず、そのまま壁まで吹き飛ばされた。
おぼろげだが、確か彼は兄がヴィランに殺害されているのだったかと白石は回想する。
彼の原作記憶は、詳細に覚えているのはアニメ第五期のみ。それ以降は漫画などを読んでいなかったことにより知らないし、その前もあまり正確に記憶できていない。
「記憶力……ほしいな…………」
「ウェイ?」
コーヒーを啜る。
「うまい…………」
「ウェイウェイ」
青山VS葦戸の個人戦。
葦戸の身体能力は趣味のダンスも相まってかなり高い、身体を柔軟につかった動きで青山の腹部から出る「ネビルレーザー」をすべて避ける。
最終的には青山の腹部をズボンごと葦戸の「溶解液」で溶かした。青山の下着はギリギリ大丈夫のようだ。
「あのベルトは保証入るんだろうか」
「ウェイウェウェウェイ(体操服と同じで補償あるんじゃね?)」
「そうかもしれない」
さすが雄英だと感心する。
体育祭で個性ありきというある程度の危険を生徒に冒させる代わりに、雄英には十全な治療環境やある程度の補償がある。生徒が全身全霊を以て晴れ舞台に臨むためには必ず必要なものだった
その後の常闇VS八百万では接近戦に持ち込まれた八百万がなすすべなく敗北。
「ふと思ったんだが」
「どうしたウェイ?」
「なぜ女性陣はチアガールのコスプレをしていたんだ」
「そりぁ、雄ウェイ生として他の模範となる行動をだな――」
「そうか。模範か。」
第三種目前のレクリエーションでチアリーダーの格好をしていた女子を、白方は生徒席に帰っている最中に窓から見ていたのだった。
鉄哲と切島の戦いは殴り合いの泥仕合だった。
「スティール」と「硬化」。同じ個性。同じような気性。
結果、お互いが同時に気絶し、決着は次回へと持ち越すことになった。
その後の麗日VS爆豪では、麗日が勝算ありきで粘ったものの、爆豪の圧倒的火力の前に敗北した。
第三種目全員がいったん試合を終え、ベスト8を決める試合が始まった。
もっとも派手だった試合は、緑谷VS轟だろう。
右側の炎を使わない轟と、その禍根にかまわず使わせようとした緑谷。
最終的にはセメントスの阻害も吹き飛ばす莫大な衝撃が会場全体に響き、最後には緑谷が場外で勝敗が決まった。
シード権のように轟と爆轟の二人はトーナメントで両端にいたが、その決着も、すでに終わろうとしている。
ひときわ大きな爆音が鳴り響く。
轟が、場外防止用に作った氷壁さえも砕いて、場外へと吹き飛んでいった。
優勝者は、爆豪勝己だ。
優勝台にいる本人は全身で不満と不服を表していた。
その後、教員としてナンバーワンヒーロー直々にメダルの授与が行われ、ある程度の激励によってこの雄英体育祭は締めくくられた。
多くのものを疲れを感じながらも達成感や目標を見定める意思を胸に帰宅していく。
爆豪によってところどころが焼けている体操服を修繕に出し、白方も帰宅せんと、荷物をまとめ始める。
額の包帯はもう外しても大丈夫だった。
そもそも地面に落ちたくらいの傷では白方か半日休めば完治する。
治りが早いのは彼の売りだ。
マナーモードを切った携帯電話から、ぴろりんと音が鳴る。
「ヒナか、何かあったのか……?」
見てみると多くの着信が来ていた。
その数はゆうに百件を超えている。
『惜しかったな』
『だが私はお前があの中でもっとも戦略的だったと思うぞ』
『今日は帰ってくるんだよな?』
『今夜何が食べたい』
『これから買い物に行ってくる』
『何かほしいものはないか』
『よく考えればお前の好物をよく知らない気がする』
(レッツゴーと書かれた行進するハムスターのスタンプ)
『帰ってきたぞ』
『既読がついていない』
『何かあったのか?』
『試合を見ているのか』
『他の生徒の試合を見るという機会を雄英生はないがしろにできないわけだな』
『つくづくあの校風はめんどくさい』
『雄英の自由性は真の自由ではない』
『聞いているか』
『もしかして落ち込んでいるのか?』
『別に気にすることはない』
『お前は本気を出していなかった』
『個性全開ならあの紅白小僧も瞬殺だろう』
『話は変わるが』
『ヒーロー側から貸し付けられた家のことだ』
『最近ずっとあの家にいるな』
『もちろん疑われないためだとわかってはいるが』
『もっと帰ってきた方がいい』
『このままでは私が孤独死をする可能性がある』
『もちろん今日は帰ってくるよな?』
『忙しいのか?』
『個人試合も終幕に差し掛かったな』
『あまり見る価値はないが』
『雄英生としてはAクラスがやはり注目されている』
『おい』
『聞いているか』
『おい(っ・д・)=⊃』
『こら(っ・д・)=⊃』
『((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラ』
『((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラ』
『((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラ』
――――以下省略。
かなり病的な質を感じさせる長いコメントの列だ。
罪悪感を感じた白方はとりあえす謝罪文を送る。その前に新たなメッセージが送られてきていた。
『既読がついた』
『やっと見たか』
『それでどうなんだ』
『今日は帰ってくるのか』
『そういえば、』
――――中略。
『すまない。返信が遅れた』
『だいじょうぶだつたかしんぱいしたぞ』
『ああ、今から帰る』
がたん、と音がする。
見てみると、爆豪が外にでようとしているところだった。
爆豪は一瞬だけだが、白方の姿を見て煽ろうと構え、その拍子にケータイを覗いてしまい、なんだか気まずくなって何も言わずに外に出ようとしていた。
「爆豪か。」
「なんだよザコナメクジが!!」
「優勝おめでとう」
「おめでとうじゃねぇよあんなカス勝利に一銭の価値もねェ!! てか悔しがって突っかかってこいよゴミが! 達観してんじゃねェぞああ!?」
怒気が少しだけ下がる。
そして鋭い視線はそのままに、白方に対して率直に問うた。
「お前、ほんとに本気だしてたのかよ?」
「どういうことだ」
「センコーが言ってたろが、透明化はあくまで『応用』だとよ」
なんだそのことかと白方は内心安堵する。
「単純に、使う機会がなかった」
「ザコが」
「お前は強いな。爆豪。俺がヴィランだったら、お前にだけは追われたくない」
「テメェにヴィランは似合わねぇよカス転校生」
「そうか、ありがとう」
「ケッ」と悪態をつきながら、爆豪はせかせかと出て行った。
「ヴィランは似合わない…………」
少し笑って、白方もその場から退出した。
その夜、哲家の作ったいつもより相当量が多い夕食を食べ、破裂しそうな腹を抱えて泥のように眠った。