俺は個性は—— 作:ぱらぱらどきしかる
職場体験先は、生徒一人一人に勧誘が来て、そのなかから選ぶ形で決まる。
白方の異能は、現在のところ透明化だと思われている。
Aクラスのなかでもどちらかというと地味な個性。
コスチュームごと透明化するのだから意味がない。
それでもいくつかの事務所から勧誘が来ていた。
なかでも、かなり異質なのかいくつか。
一つ。
警視庁。
そもそもヒーロー事務局ではない。
なぜか白方にだけこの勧誘が来ていた。
その理由は、最近明らかになった。
数日前、帰宅途中。
メールが届いた。
それはどうやら警察を名乗る誰かからのもので、要件としては「近くのカフェで会おう」というようなとにかく接触を図ろうとするもののようだった。
メールを送る時間帯のよさ、警察という自分とはいろいろと関係深い組織、その他諸々の不気味な点。
担任に掛け合おうとしたが、どうやら現在取り込み中のようだ。
周りを注意深く見まわしても、自分を監視しているような人影は見当たらない。何らの個性によって遠隔的にこちらの情報を把握しているのか、それとも学校側とつながりがあるのか。
警戒しながらも指定された喫茶店へと向かう。
店内にはあまり人がおらず、なかにいる数人も、見ればほとんどが一般人ではないことはわかった。
「(三人、そしてこの個性。罠のようなものはない。何かあっても抜け出せるか)」
白方は剣呑な雰囲気を発しながら、入店する。
すぐさま一番奥の席に座っていた壮年の男がこちらに気づき手を振ってきた。
「こんにちは白方君、僕は佐藤慎太です」
警察手帳を見せながら彼はそういう。
向かいの席に座ろうとする彼を制して、男は店主に一言「おっちゃん、部屋借りるわ」と言った。
どうやら公にはできない会話をする予定のようだ。
白方の脳内にいくつかの可能性が浮かぶ。
・純粋に職場体験の勧誘を成功させたいがための行動
・何かの捜査に協力させようとしている
・AFOの被害者として事情聴取をしようとしている
・百面相かどうかを見定めようとしている
・百面相だとすでにバレており捕まえようとしている
・百面相だとすでにバレており司法取引として戦力に加えようとしている
相手の個性を分析する。
目の前の佐藤慎太と名乗った男。
個性は「ショットガン」
ショットガン並みの打撃力を各部位から出すことができる。
弱点として、各部位一発放つごとに、その関節を鳴らす「リロード」が必要となる。
例えば片腕全体での殴打を放つと、もう一度同じ攻撃を放つためには、肘を引いて骨を鳴らす必要がある。
注意深く相手の動きを観察して、攻撃に転じた瞬間にこちらも迎撃する必要があると考える。
「いいよいいよ座って」
促され、和風な部屋の畳へと靴を脱いで上がり座る。
男はカフェオレを二つ注文して座った。
来ていたスーツの上を脱いで露骨にくつろぎはじめる。
「えっとね、今日は君に提案があって呼んだんだ。ごめんね急に」
「提案とは?」
ことを急かす白方に、男はバッグから何かを探し始める。
「ええっと、あった、これ」
机の上におかれたのは、白方の個人情報。
誕生日、親類、これまでに通ってきた小中高の情報など。実際にいきなり見せられると背筋が凍るようなものだった。
そのなかには、個性届もある。
「義務教育も満足に受けられず、家は親類をたらい回し、おまけに個性改造を受けた。君はとても悲しい人生を送ってきたんだね。」
同情するように、彼は何度も頷いた。
「君はいま、補助を受けて生活しているが、いかんせん安全面に欠けると警察では考えているんだ」
「そうなんですか?」
「そんなんだ。またいつヴィランに狙われるとも限らない。だから、警察の管轄下にある寮に来ないかと今日は打診しにきた」
寮。
警察学校の宿舎のようなものだろうかと白方は考える。
「その話は、高校には通したのですか?」
「これはあくまで君個人の話だからね、高校は関係ない」
どこか胡散臭さを感じる。
まるで、なにかにおびき寄せられているような。
「このままでも、僕は生活に支障がないと考えていますし、教師陣を信用しています」
「個性を消せる個性持ちだってずっと君の傍にいるわけじゃない、それになにより教師陣は君だけでなく学校全体を守る義務がある。少し荷が重いと思わないかい?」
少し早口でまくし立てられる。
「個性を根本から停止させる方法も、うちにくれば手にはいるかもしれない」
その言葉は、根拠のある言い方だった。
実際、この男が話していることは真実だ。
暴走するかもしれない個性、その個性を止める方法は抹消以外にも存在する。
個性破壊弾。
文字通り個性を永久に破壊する弾丸。
撃たれたものは、おそらく抗体剤をもっていない限り自身の個性を永久に失う。
とある組織が秘密裏に開発しているもので、市場に出回れば個性を中心としているヒーロー社会そのものを揺るがしかねない代物。
この弾丸の開発を、警察の上層部は黙認している。
その研究のために犠牲になっている人間はとても少ない。
待っていれば研究を横取りできる可能性もある。
そのため、ヒーローはともかくとして、警察は動くつもりはないものだった。
もし個性破壊弾を入手できた場合、白方にそれを打ち込めば、AFO白方に個性を付与すると同時に埋め込んだものごと消し去ることができる。
もちろん白方の個性は、与えられたものではなく生まれながらに持っていたものだが、転校するためにAFOに個性を付与、強化されたのだと警察には伝わっているし、それをもし今になって否定しようと、背中にあるカプセルが依然としてその説の信憑性を濃くするだろう。
「なぜ警察がそこまで僕のために動くのですか?」
純粋な疑問をぶつける。
「ヒーロー志望だった気のいい奴らか多いからさ」
田中慎太は答えた。
「ご提案。お断りします」
きっぱりと白方は告げる。
「いまの環境を変えるつもりはありませんよ。職場体験先もそちらになることはないでしょう」
それは果たして英断だった。
白方は、哲家とほとんど会えなくなる状況を想像して、それではいけないと断った。
「そっか……。……よかった。」
なぜかそのとき、申し出を断られたはずの田中慎太は、やわらかくそしてどこかほっとしたように笑った。
コーヒーが運ばれる。
彼は気を紛らわせるようにそれを飲もうとして、淹れたばかりのコーヒーの熱さに悶えた。
――『白方道行を、公安に引き入れろ』
ヒーロー社会の灰色である公安局は、ヒーローたちでは対処不可能または危険度が高いものを、時には殺人という手段を用いても対処するという活動をしている。
上層部の決断のもと、田中慎太は彼に接触した。
透明化というのは隠密に使える。
そして、おそらく戦闘にも向いている。
雄英に入る頭脳もある。
なにより、この少年には身寄りがない。丸め込むのは容易い。
殺人や諜報の技術を教え込み、公安の傀儡とする。
その目的は、田中慎太という男にとって、非常に心苦しいものだった。
この少年は、とても苦難な道のりを歩いて来た。いまやっとその線路から外れ、ヒーローとしての道に進み始めた。
その路に足を掛けまた闇に引きずりこむのは、彼の好むところではなかった。
だからこそ、「よかった」という本心が口をついて出てしまった。
「話は終わりましたね、そろそろ帰宅させていただきます」
白方は席を立った。
「カフェオレ、飲まないのかい?」
「いえ、帰路を急いでいるので、すいません」
そう言って白方が立ち去ったのち、田中はただコーヒーの苦みを味わっていた。
片手で、机の上にある白方道行の個性届をめくる。
「『反射』、かぁ……」
白方道行。
個性「反射」
衝撃や光、熱などを反射することができる。
反射の指向性もある程度もたせることが可能。
「前から来た光を横に反射してそれをさらに二回反射し後方へ、その機能を全面に貼ることによって疑似的な透明化をつくる、か……。視覚も確保しているし、ほんと器用だな…………」
使い方によれば、最強にもなれる個性。
田中慎太は、彼がちゃんと輝ける舞台へ行くことを、心底望んだ。
それから少しして、口の軽さと軽率な行動から、田中慎太は公安に
彼が表舞台にでてくることは、もうない。