新世紀エヴァンゲリオン 天才少年シンジ君(試作) 作:高橋ヒナタ
ヤツは空を飛びます、当たり前ですよね。
第三新東京市までびっちびち跳ねながら
やってくるとは思えなかったんだ。
「フィールド偏向制御を使ってみよう、アスカ」
シンジが打とうとした一手は、幼い頃からエヴァに
乗っていたアスカでさえ知らない機能だった。
「フィールドの偏向制御?何よそれ!?」
「ATフィールドの展開形状を自在に変えるための技術
もとい装置を使った、新しいATフィールドの使い方だよ」
シンジが言うには、エヴァにあるATフィールドは
使徒と同じようにバリアに使えるのは当然のこととして
張る向きを変えたり、複数枚に分けたり
敵へ投げつけたり、色んなものに使えるらしい。
複雑な展開を可能とするためのシステムを開発中で
今はまだ大したフィールドの偏向制御は出来ないらしい。
しかし、今回は海に落ちなければいいのだ
足場として展開するくらいなら機器が無くても
出来るのでは無いだろうか、ということらしい。
「ほんっとシンジって天才ね」
「アスカ、僕も力を貸すよ」
『シンジ君、アスカ、あのバカを頼むわね』
シンジはミサトに対し、エヴァ零号機を新横須賀港に
呼んでおくように頼んでいる。
アスカは失敗する気などさらさら無かったが
取り逃してしまうと迎撃は一気に難しくなる。
そのバックアップを頼んでいたのだ。
「行くわよシンジ」
「うん」
「「せぇーのッ!」」
アンビリカルケーブルをパージし一気に大ジャンプする。
海に対しての拒絶を強く思えば良いらしいので
あの海を「落ちたらアウトな溶岩」とでもイメージする。
ガキィーンッ!
ATフィールドが足元へ展開されている。
「行けるッ!」
ガキンガキンとATフィールドを蹴ってガギエルを追う。
ここから新横須賀港まではもうかなり近くなっており
内部電源は余裕で持ってくれるだろう。
「加持さん!使徒だ!使徒が追いかけてきてるぞ!!」
『何だって!?』
ザバァーーーッ!!!
加持さんのVTOL機へ向けシンジが警戒を呼びかける。
ガギエルが加持さんのVTOL機に飛びかかるのと
機体が回避運動に入ったのはほぼ同タイミングだった。
ドッ…パァーーーンッ!!!
『うお~ッ!?…危なかったよシンジ君、アスカ』
水しぶきにまみれながらも加持さんのVTOL機は無事だった
ガギエルはその後も何度かVTOL機を狙って
飛びかかり攻撃を繰り出すも、加持さんの機体操縦で
ひらりひらりと躱されていく。
「加持さん!このまま陸へ揚げるわ!」
『了解!新横須賀港へ向かえばいいな?』
「はい、レイも零号機で来てますから!」
VTOL機へ飛びかかるガギエルに対して2号機からも
タックルや蹴りを浴びせて軌道を逸らしたり
海中へ叩き返したりしていく。
「シンジ、フィールド!」
「任せろ!」
ガギエルはかなりイライラしてきているらしく
飛びかかりの頻度が増えていっているが
シンジもATフィールドを張る手助けをしているため
アスカは余裕でガギエルの攻撃を捌けている。
「来た!ヤツの本気だわ!」
陸が近くなったことでついにガギエルが空を泳ぎ出す。
全長が400m近くあるガギエルが空を泳ぐ姿は
何とも言えないシュールさがあったが
油断をしている暇はない。
ガギエルはATフィールドでの飛行に切り替えたのだ
下手すると海中より器用な動きが出来るようになっている
可能性もある。
『シンジ君、大丈夫?』
ついに零号機と通信が繋がる。
「レイ、援護を頼む!」
『任せて!』
新横須賀港からスナイパーライフルを使って
ガギエルを狙撃してくれている零号機。
アスカにも余裕が出来たことでシンジはレイと話し始める
「レイ、そっちからコアは見えた?」
『いいえ、まだ確認出来てないわ』
ここまでガギエルをしばき続けているがヤツのコアは
まだ見つけられて居なかった。シンジはコアの在り処を
ガギエルの体内、あるいは攻撃行動中にのみ
どこかへ現れているのではないかと予想した。
アスカも使徒との戦闘データは全て目を通しているため
シンジの言うことも何となくわかる気がした。
サキエルとシャムシエルはコアを隠せるほど
体格が大きくなかったし、ラミエルは攻撃行動中に
コアが実体化しているのを見ていたからだ。
そして、VTOL機の前へ回り込んでいた2号機が
後方から襲いかかるガギエルの下顎へ飛び蹴りを
叩きこんだ時だった。
「「コアだ!」」
口の中である。ガギエルの大きく裂けた口の中
人間で言えば口蓋垂にあたる部分に赤く輝く球体を
見つけたのである。シンジはそれを見るやいなや
レイへ連絡し上陸後の作戦を話し始める。
「陸上へ上がったら僕らのほうで使徒の口を開かせる!
レイはそこでコアをライフルで攻撃してくれ!」
『了解。ケーブルは出しておいたわ』
それに加えてシンジは何故か加持のVTOL機を拘束するよう
レイに指示を出したのだ。アスカにはその理由は
分からなかったが、この真剣な場でシンジが
ふざけたことを言い出すようなヤツじゃないことは
分かっていたのでアスカは口は出さなかった。
そしてついに、2号機とガギエルは陸地へたどり着いた。
すぐさまケーブルを接続しガギエルを追う。
「どぉりゃーッ!」
近くの山を使ってガギエルの上顎へ向けて蹴りを入れ
地面へと叩きつけた。そしてガギエルの歯へ手をかけ
フルパワーで口をこじ開けにかかった
「「開け、開け、開けーッ!!!」」
2号機の瞳の光が一気に強さを増し、ガギエルの口が
大きくこじ開けられる。零号機もライフルを手に合流し
ガギエルの口の中へ向けて弾を放った。
「ライフル、発射!!」
ドォーーーンッッッ!
ガギエルは口の中をコア諸共穴だらけにされて力尽きた。
そしてそこには、アスカたちの勝利を祝うかのように
綺麗な十字の光が立ち上っていた。
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
加持リョウジは自身が置かれている状況に困惑していた。
様々な組織のスパイとして活動している加持だったが
自分を初めてまともに拘束し尋問をしてきた相手が
エヴァを動かせるとはいえ、14歳の少年少女だったことに
驚きと困惑を隠せないでいたのだ。
(俺はどこで何を間違えたんだ…)
VTOL機でNERVの司令へある"ブツ"を届けに行くために
オーバーザレインボーに同乗していたまでは良かった。
使徒に襲撃された艦からひと足早く離脱したのだが
それに気付いたのか使徒に追いかけられてしまったのだ。
(使徒に気づかれたから、ではないだろうなァ…)
2号機の援護を受けてなんとか新横須賀港まで
たどり着いた加持だったが、待っていた零号機に
ワイヤーを巻き付けられてVTOL機の動きを封じられ
使徒殲滅が終わるまで機内に閉じ込められていたのだ。
「さて加持さん、機内を捜索させてもらうよ」
「…悪いけど大人しくしててもらうわよ」
『………』
そして、一応は機内から解放されたこの場でも
アスカが拳銃で、レイが零号機で見張っているのだ。
シンジは機内の捜索を始めたため無防備だが
ロープで体を拘束されているので身動きは取れなかった。
(俺に取れる行動は…無いか)
仮に逃げ出そうとしたり、シンジに危害を加えれば
2人の少女は容赦なく実力行使に出るだろう。
アスカの持つ銃には加持の目の前で実弾が装填されており
何時でも撃てるよう構えられている。
零号機はライフルを手に持った状態で待機しているが
そのモノアイもずっとこちらを捉え続けている。
「あった…加持さん、これはなにかな?」
司令へ届けるハズの"ブツ"も見つけられてしまう。
厳重なロックが掛かっているためシンジには
開けることは出来ないだろうが、ほぼ手詰まりだった。
「まぁ僕には何となく予想が付いてるんだけどね」
加持の額に一筋の冷や汗が走る。
シンジはニコニコした顔をこちらへ向けているが
その表情は逆に酷く恐ろしかった。
(まさかシンジ君は本当に…中身を知っているのか?)
そしてシンジは自らの考察を語り出した。
第6使徒ガギエルはエヴァ2号機を前にして突然逃走
加持のVTOL機を追跡しはじめた。それはその機内に
エヴァ以上に使徒を強く誘引する何かがあるという証拠。
そして、使徒が求めているものは始祖たる存在のみだ。
これに使徒がたどり着けばサードインパクトが
起こり、人類が滅ぶといわれている。
始祖の一体である第2使徒リリスはNERVの地下にある。
となれば加持の手元にあったのが何なのかは
当然決まっているだろう。もう一体の始祖──
「──第1使徒アダム」
加持は背筋が凍りつくような思いをしていた。
自分が持っているこの荷物の中身が始祖アダムであると
目の前の少年少女たちは見抜いていたというのだ。
「さて、僕達はこれからNERV本部へ向かう。加持さんにも
来てもらうよ。」
シンジはNERVへ電話を掛けて迎えを呼んでいた。
アダムを持ってNERVではないどこかの機関へ
寝返るのかと思いきや行先はNERVだというのだ。
加持は自分を待ち受ける運命がまるで見えなかった。
「加持、アンタ何やってんのよ…」
「すまんな葛城」
下手しなくても自分の命は保証されないだろう。
迎えに来たかつての恋人に、申し訳なさで一杯になった。
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
「何!?諜報員をシンジ君たちが捕らえただと?」
司令室で冬月が入ってきた報告へ答える。
葛城ミサトから連絡があり、
オーバーザレインボーでパイロットを誘拐しようとした
他組織の諜報員をその場にいたセカンドと加持と協力して
逆に捕らえた、とのことだった。
また、かなりの重要機密を持っており目撃者である加持と
新横須賀港から司令室へ直行する、と報告されたのだ。
「どうする碇、アダムは加持首席監察官の手元だろう?」
「………どういうことだ…!?」
加持リョウジにアダムの極秘運搬を依頼し
届くのを待っていたタイミングで入ってきた報告。
2人は嫌な予感が頭の中で渦巻いていた。
アダムを受け取りたい所だが、当の加持が事件の目撃者で
被害者がエヴァパイロットと来ているため
司令室での受け渡しなどはできそうにない。
「碇シンジです。入るよ父さん」
司令室へまず入ってきたのはシンジだった。
この時点で冬月とゲンドウは嫌な予感しかしなかったが
続いて入ってきた面子に、その予感が的中していることを
嫌でも思い知らされることとなった。
シンジは加持が持っているはずのケースを持っており
その加持は両手を後ろへ回されロープで拘束されている。
セカンドとファーストは拳銃を構えており
その照準はキッチリとこちらへ向けられていたのだ。
ミサトとリツコも手元に拳銃を持っている。
「さて父さん、この"第1使徒アダム"を何に使うつもりか
教えて貰えるかな?」
「……なんの事だ」
ゲンドウは思わずヒザから崩れ落ちそうになる。
しかし、強靭な精神力で平静を装って答えた。
自らが進めている計画は今シンジが持っているケースの
中に入っているもの、アダムが無ければ成立しないのだ。
「──人類補完計画。」
ビクッ!
「…ご存知なんですね?碇司令」
…アウトだ。シンジからは絶対に出てくるはずのない
人類補完計画というキーワードに動揺してしまったのだ。
ここで下手を打てばミサトやリツコはすぐに照準を定め
正確に自分の脳天すら撃ち抜いてくれるだろう。
ゲンドウは絶望で床へ崩れ落ちた。
そして、次の言葉でゲンドウは死を悟った。
「さぁ、母さんのところへ行こうか?」
シンジは母ユイが初号機のコアの中にいることを
知らないはずである。つまりユイとはあの世で会ってこい
というシンジなりの死刑宣告だとゲンドウには聞こえた。
「司令を初号機ケイジへお連れして!」
ゲンドウはさらに混乱の渦へ落ちていった。
ユイが初号機にいることをシンジが知っているのなら
ユイと会うための何らかの方法を試そうとしている訳だが
そうでないのなら…それは最高の皮肉と言えよう。
息子を道具のように使ってでもユイと会おうとして
ユイの眠る初号機の前で息子に殺されるのだから。
「さあ父さん、コアへ触っていてね」
初号機ケイジまでくると、初号機は胸の装甲板が外され
コアが剥き出しになっている。
ゲンドウはシンジに言われるがままコアへ触れる。
それを確認するとシンジは初号機へ乗り込んだ。
まさか初号機で握りつぶすつもりなのか、と
ゲンドウは死ぬ覚悟を決めていたが…
『初号機パイロット、深層シンクロを開始──』
オペレーターがそう告げたのを聞いた瞬間に
ゲンドウの意識は光へと溶けていった。
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
(…あなた)
(ユイかっ!?)
愛する妻の声でゲンドウが目を覚ます。
なぜか自分は浅瀬の海に寝そべっていた。
起き上がって辺りを見回すと、そこに広がっていたのは
無限に続いているこの浅瀬の海とそして青空。
(ここは…?)
(…あなた。こっちですよ)
(ユイ!)
前方からはっきりと聞こえた声にゲンドウは駆け出す。
少し走っていくと目の前に小さな島が見えてきた。
そこには木がたった1本だけ生えており
その下には2人の人影が立っている。
(ユイなのかっ!)
島へ近づくにつれて人影の顔もはっきりと見えてくる。
(ユイ…か!…シンジもいるのか!?)
(あなた…)
(おまたせ、父さん)
シンジとユイはゲンドウを暖かく迎え入れてくれた。
ゲンドウは思わず涙が溢れ出る。
(父さん、僕はたとえ世界に滅びの運命しか無いとしても
その世界で足掻き続けていきたいと思ってるんだ。
父さんと、そして母さんとも。)
(全ての使徒を殲滅したあとでサルベージしてくれれば
私はかならずあなたのもとへ帰るつもりでいますから。)
(シンジぃ!!ユイぃ!!すまなかったっ!!)
息子と妻が自分のためにここまでしてくれているとは
思っていなかったゲンドウは罪悪感で涙が止まらなくなる
(父さん、大丈夫だよ。時計の針は元にはもどらないけど
未来は自らの手で作り出すことができるんだから。)
ゲンドウはシンジの言葉に心打たれる。
まさかここまで強い子に育ってくれたとは、と。
(あなた、親は子供を見守るものですよ。見守りましょう
シンジを。私は初号機として、あなたはNERVの司令として)
ついにゲンドウは覚悟を決めた。
子供のために、子供とともに運命と戦う覚悟を。
たとえそれが仕組まれた運命であったとしても。
(シンジ、今まですまなかったな。これからは父さんにも
お前の戦いの協力をさせてくれ。)
(うん。頼りにしてるよ、父さん。…母さんも。)
(親子の仲直り、いい光景ねぇ)
ふとシンジとユイが同時にゲンドウへ向き直った。
最近も見たことがある2人の表情にゲンドウの額には
再び大粒の冷や汗が滝のように流れ始める。
((…さてあなた(父さん)、この件とは別で色々と
お話がありますから覚悟しておいてくださいね?))
(ひいぃ頼むユイ、シンジ!許してくれぇっ!)
そして、ゲンドウへの説教が一通り済むと
この空間は親子の楽しそうな声に包まれていた。
「私とシンジから通達がある!」
現実世界へ帰還したシンジとゲンドウから
新たに定められるNERVの最終目的が発表される。
使徒を全て殲滅することは変わらないが
使徒殲滅後に発生しうるであろうサードインパクトと
人類補完計画の発動を阻止することを最終目標とする
と、ミサトやリツコを含む一部職員に発表されたのだ。
部屋には運命の歯車が狂い始める音が響いていた。
つづく
シンジ君は加持さんが持っていたアダムに気付き
少し強引にゲンドウと和解しにかかりました。
ゲンドウがゼーレからの裏切りを決意。
補完計画と戦う覚悟を決めました。
量産機戦は2号機単体なら超ハードモードなもの
そしてそれを打ち砕くような展開を
予定してますのでお楽しみに。
原作4巻はガギエル+イスラフェルなので
ま~だまだあるんですよね…
次回の投稿は少し時間が掛かりそうです。