新世紀エヴァンゲリオン 天才少年シンジ君(試作) 作:高橋ヒナタ
vs4444C&44B。
「──44Bに高エネルギー反応っ!」
それは、完全なる不意打ちだった。
「………」
「整備長っ!」
使い捨て同然の44Aやグリューンにかまけていた結果
本命となる4444Cの奇襲を許してしまったのだ。
『配置が悪過ぎるッ…!』
『ヤツめ、ここをまとめて持っていくつもりか…!』
4444Cが狙っているのは封印柱の頂点に居るマヤ達──
だけでは無い。その射線の先にはパリ中心街があるのだ。
そう、今まさにシンジ達が活動の拠点にしている
結界を無効化された貴重なエリアが。
先程シンジはグリューンらを迎撃する際に
パリ市街への被害は多少なら目を瞑ると言ったが
目の前でチャージされようとしているものは
余りにも例外が過ぎる。
『アレを撃たせたらどれだけの被害が…!』
陽電子砲は、一発撃つ度に周囲に凄まじい電磁波と
少量ながらも有害な放射線をばら撒いてしまう。
ヤシマ作戦の際は市街地への直撃には至らなかったうえ
住民の避難先や除染作業の準備も十二分に整っていた。
だが、ここはパリ支部があるとはいえ浄化結界のど真ん中
周りには支援してくれる存在なんて何一つ無い。
陽電子砲を撃たれてしまった場合の被害は深刻だった。
「44B、大出力電力放射装置へ蓄電開始!」
不意を突く事に成功した44B達は機体全体を
ブルブルと振動させながら、一斉に発電を開始する。
「ゼルエル!間に合いそう?!」
「ダメだ赤木博士、"盾持ち"に防がれている!」
『レン、シイ!届くかっ?!』
「くそっ…遠くて威力が足りないッ…!」
「ATフィールドで防がれているわ!」
ゼルエル達護衛部隊はすぐさま銃撃を44Bへ集中させ
電力の供給源を断とうと試みたが、陽動で距離を離され
有効射程距離から遠のいてしまった射撃では
ESVシールドとATフィールドによる防御を抜けなかった。
ヴンダー級の主砲も強力な陽電子砲であるため
上空へまとめられた44Aを撃ち抜くならまだしも
地表付近にいる4444C・44B目掛けて発射する事は──
奪還予定の土地を放射能で汚染する様な行為は
可能な限り避けたい所である。
「4444C、発射体勢に入りました!全給電システム解放!
続けて陽電子加速システム作動開始!」
しかし、モタモタしている暇は無い。
4444Cは回転させていた触手状脚部を固定させ
陽電子砲の銃口の高さを封印柱の頂点へ合わせると
機体下部に設けられた照射電力の給電装置を起動し
44Bからの放電を待つ姿勢を取った。
まるでエネルギーの流れを表すかのように
陽電子砲各所のケーブルが輝きを放ち始める。
砲身の左右に取り付けられた陽電子加速装置が
光の輪を形成し、陽電子の加速を行う。
──ここまで僅か十数秒。
「来ますっ!」
44Bも超大電力の発電を終え、機体上部の放電プラグから
4444Cの給電システムへと電力が放射される。
「激ヤバですぅッ!誰でもいいから助けて~ッ!」
このまま陽電子砲の発射を許してしまえば
復元作業中のマヤ達4人と戦況オペレート中のミドリ
そして無言で状況を見定めているリツコは
跡形もなく消し飛んでしまう。
そんな絶体絶命な状況下でシンジが取った選択とは──
『ヴンダーをヤツの前に割り込ませろッ!』
なんと、ヴンダーを盾にする事だった。
『正気なの?!碇艦長!』
『構わんッ!"直撃"よりはいいッ!!』
バシュィィィーーーンッッッ!!!
そして、4444Cを構成する4機のエヴァの仮面の瞳が輝き
陽電子砲が放たれる。
『陽電子砲、右舷第2船体に着弾!!』
「うわあっ!?」
周囲を輝きで橙色に染め上げる高エネルギーの奔流は
間一髪のところで、地面を抉りながらも滑り込んだ
ヴンダーの右舷側第2船体へと命中。
船体がVPS・ナノラミネート複合装甲材で作られていて
エネルギー兵器を屈折ないし放熱させ無効化するとは言え
陽電子砲レベルの超火力兵器を前にしてしまうと
防ぎ切る事は出来ず、着弾した箇所がみるみるうちに
溶解していく。
「…………」
「ぐ…うっ…凄まじい熱…っ!」
しかしその甲斐あってか、マヤ達の元へ届いたのは
強烈な熱風程度まで抑え込まれていた。
ナノラミネート加工によって砲撃の一部が弾かれ
まるで水流が枝分かれするように跳弾していくが
それもあくまでヴンダーの艦首側──
およそ2km程離れた場所で発生しているため
跳弾がマヤ達へと飛ぶ事も無い。
「だ…第一射、終了を確認!」
ミドリが危機からの脱出を叫んだ。
『状況は?!』
『右舷第2船体中破!けどまだ許容範囲内よ!』
ヴンダーへの被害もそれ程深刻ではなかった。
防御機能を最大出力にしていたお陰で
被弾した箇所の表層ブロックが多少溶解した程度で済み
右舷側の中枢機能へのダメージも無かったのだ。
更に、ヴンダーが身を呈して守った事で
パリ中心街へ着弾した流れ弾もほとんど無く
一見無謀にも思われたシンジの奇策は
マヤ達、パリ中心街、ヴンダー、それら全てへの
「直撃」を避けるという最高の結果を齎したのである。
しかし、その直後──
「4444Cが再び発射体勢に入りましたッ!」
早くも第二射が来ることがミドリの口から告げられる。
「陽電子加速システム最終段階!第二射すぐに来ます!」
かつてのヤシマ作戦の際は、ヒューズの排莢・再装填や
送電システムを含む各機器の冷却などが求められ
単純にリロードをすればいいという話では無かった。
がしかし、目の前で再チャージを開始した4444Cは
そんなものは必要無いと言わんばかりだ。
赤い木々を薙ぎ倒しながら触手状脚部がうねり
目標との高度が合わせられた。ケーブルに再び光が走り
給電システムのカバーが再度解放される。
もはや第二射までは秒読み段階だった。
「──!!A.T.F.ランチャーフルチャージ完了ッ!」
「同じくエネルギー充填率200%!」
だが、エネルギーをチャージしていたのは
4444C達だけでは無い。
レン達の持つA.T.F.ランチャー改弐型である。
通常であれば銃弾は高圧縮されたATフィールドだが
機体側のN2リアクターからエネルギーを借用し
2段階のエネルギーチャージシステムを用いる事で
ATフィールド・ビーム複合の超高火力射撃へ
パワーアップさせる事が可能なのである。
『シンジ!』
『ヴンダー、急速離脱ッ!』
2番艦艦長である父の声にシンジが離脱指示を出す。
4444Cと真正面から向き合っていたヴンダーが
ゆっくりと左舷側へ離脱していくと
すぐ後方で控えていたホフヌングの艦首甲板上で
2丁のA.T.F.ランチャーの銃口が眩い輝きを放っていた。
「
反撃の危機に気付いた盾持ちのグリューン8機が
大慌てで4444Cの目の前へ躍り出る。
ESVシールドとATフィールドの防御壁をフルで使い
何としてでも4444Cの陽電子砲を守ろうという構えだ。
『構わん撃てッ!』
「「発射ッ!!」」
バシュィィィーーーンッッッ!!!
先に火を吹いたのは、2丁のA.T.F.ランチャー。
封印柱の上のマヤ達を綺麗に避けつつも
2本の光条は的確に4444Cの元へと駆け抜ける。
「Mark.06´、2機目沈黙!続けて3機目が沈黙!」
ATフィールドを意図も容易く貫くその銃弾は
グリューンを盾ごと溶かし尽くしていく。
2段階チャージには、エネルギーの消耗が非常に大きく
チャージ完了までかなりの時間が掛かるという
大きな欠点を抱えていたが、その破壊力は絶大だ。
「ッ!!」
──ビギュオンッッッ!!!
そこへゼルエルの怪光線によるダメ押しが突き刺さる。
4機、5機、6機、と立て続けにグリューンが撃墜され
防御壁が突き崩されていく。
グリューンの持つESVシールドは頑強とはいえ
所詮は18年前のシロモノ。今のZUKUNFTが持つ高火力には
とても耐えきれないのである。
だが、4444Cも狼狽えたりする事は無い。
「第二射チャージ完了!来ますッ!」
バシュィィィーーーンッッッ!!!
グリューン達の犠牲の裏で進められていた
陽電子砲へのエネルギーチャージが完了し
ZUKUNFTへ反撃を放ったのである。
死の光がマヤ達とパリ中心街を襲おうとした
その瞬間、シンジの"頭脳"が輝く──
『シャムシエル!ATフィールドを陽電子砲入射角に対して
最大1°以内で全力展開ッ!!!』
「任されましたァッ!!!」
今の今まで静観を続けていたシャムシエルが遂に動く。
ミリ単位で精密に制御されたATフィールドを
美しい青空へと向けて展開したのだ。
人間の目には完全に
その強力なATフィールドは、陽電子砲の入射角が
1°以内に収まるようほんの僅かにだけ傾斜していた。
本来、耐熱耐ビーム加工を施してあったとしても
高エネルギーの陽電子砲を盾で受け流そうとすれば
その盾は凄まじい超高温に晒される事になる。
無論、ATフィールドで同様のことを試みたとしても
あっという間にATフィールドは割られてしまう。
では、1°以内というその僅かな傾斜が一体どんな結果を
もたらすのかというと──
カキィーーーーーンッ!!!
「陽電子ビームが…反射されていきますっ!」
鏡やプリズムへ照射された光が綺麗に屈折するように
陽電子のビームがATフィールドで反射されたのだ。
臨界角と呼ばれる角度より小さい入射角で
侵入した陽電子ビームは、物質との反発力によって
全反射という現象を引き起こしてしまう。
こうなってしまえば、ビームを照射された側の物質──
今回で言う所のシャムシエル機のATフィールドには
殆ど負荷を与える事が出来ないのである。
「ひえぇ…助かったぁ…」
結果、マヤ達を初めとする封印柱復元班は
間一髪の所で陽電子砲の直撃を免れ
パリ中心街へもダメージを発生させずに済んでいた。
──物質を対消滅させあらゆる物を焼き尽くす
眩い死の光が自分たちの頭上を駆け抜けていくという
もう二度と経験したくない恐怖の光景が過ぎ去り
ミドリは思わず気の抜けた声をこぼす。
ここからはZUKUNFTの反撃のターンだ。
「ステージ5復号、全てクリア!」
「最終セキュリティを突破しました!」
「アンチLシステム起動可能!」
熱風と閃光の中でも指を走らせる事を止めなかった
復元班の男たち3人が作業の完了を一斉に報告する。
全ての暗号化を解除する事に成功したのだ。
「先輩!アンチLシステム、発動しますッ!」
部下達からの報告を受けたマヤが起動コマンドを打ち込み
封印柱のアンチLシステムがアクティブになる。
黒一色だった封印柱の表面に赤い光を放つ紋様
使徒封印用呪詛紋様と呼ばれる文字が浮かぶと
封印柱は一瞬眩い光を纏い、それが地面へ打ち込まれる。
打ち込まれた光は柱を中心に広がっていき
コア化した赤い大地が本来の姿へ戻っていく。
「帰投準備、急ぐわよ」
「「「はいっ!」」」
復元オペを完了させたマヤ達はすぐさま機材を回収し
撤収の準備を始める。
システム再起動に使用したラップトップや
各観測用機材を手早くDSRVへと積み込み
自分たちも速やかに船内へと乗り込む。
「シャムシエル、頼むわ」
「了解ですゥ!」
全ての撤収作業を終えハシゴに手を掛けたリツコは
柱のすぐ傍で待機しているシャムシエルへ声を掛けた。
DSRVをワイヤーでここへ降下させたヴンダーは
現在4444C・44Bらとの交戦中であるため
リツコ達の帰投は手の空いたシャムシエル機が行う。
船体上部に増設されたエヴァ用のグリップを使えば
丁度小物入れでも持つかのように保持出来るので
パリ中心街の方で待機しているホフヌングへ
エヴァ発進用ゲートを使って格納する手筈となっている。
「残りの防御は薄い。畳み掛けるぞ」
「ゼルエルさん…分かったッ!」
「了解!」
4444Cとの戦闘も、遂に大詰めへと入った。
護衛の盾持ちグリューンを軒並み沈めたことで
残っているのは自衛手段を持たない発電専用の44Bと
小回りが利かず露払いの出来ない4444C──
陽電子砲を発射する為には44Bの存在が必須なため
そちらを手早く数機ほど破壊してやるだけで
44Bは勿論のこと4444Cも攻撃手段を失う事になる。
「当たれぇッ!」
バシューーーッ!!
レンの放った弾丸が4444CのATフィールドを穿つ。
「終わりよ!」
「良い射撃だレン君」
無防備になった44Bへ、シイのA.T.F.ランチャーと
ゼルエルの荷電粒子ライフルが放たれ
44Bはいとも容易く破壊されていった。
「あとはあのデカブツだけだね」
「これなら余裕」
そして、色を取り戻したパリ市街東部に残されたのは
必殺の一撃が撃てなくなった哀れな4444C──
陽電子砲が機能しなくなった4444Cなど
ただ巨大なだけのマトでしかない。
4枚の仮面から怪光線を撃つ姿が先程の二射で確認されたが
あくまでも陽電子砲の補助としてしか使えない様で
フライトユニット装備のゼルエル機に対しては勿論
レン達も5km程離れた場所に陣取っているため
数少ない攻撃手段である
『よし…撃ちまくれぇッ!!』
「うおぉぉぉっ!」
「外さないわ!」
「ターゲット、ロックオン…!」
ドォーーーンッッッ!
『4444C、完全に沈黙!』
『パターン青の消失を確認!』
A.T.F.ランチャー2丁、高収束荷電粒子ライフル2丁
対空砲ファウスト8門の集中砲火に晒された4444Cは
全身を穴だらけにされて吹き飛んだ。
何とも哀れな最後である。
こうして、シンジ達ZUKUNFTはまた一つ
人類の世界の奪還に成功したのだった。
──つづく。
WILLE、もといZUKUNFTの現有戦力が
原作シンとだいぶ異なっているので
どう戦闘を運ばせるか少々難儀しましたが
上手いことまとまったかと思います。
4444Cくん、陽電子砲発射の瞬間に
仮面から怪光線エフェクト出してるんですけど
ビームは陽電子砲の1本しか描かれてないし
それ単体では一切撃ってないんですよね…
ということで、怪光線は単独使用不可としました。
A.T.F.改弐型の2段チャージの元ネタは
「ルビコン行きたい」とだけ言っておきます。