黒歴史小説 トリプルエッジ   作:味噌村 幸太郎

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 私は暗くて冷たい、何も無い部屋にいた。

「ここは……また? なの……」

 真っ暗な闇に、スポットライトが当てられた。

 光りが当てられた場所には、石で出来た大きな王座があった。

 

「一年ぶり……か」

 そこには金色の覆面兜を被った男が一人座っていた。

 よく見ると、たくましい背には大きな白い翼。

 とてもヘンテコな格好をしているのに、妙に似合っているというか、様になっている。

 

「久しぶりだな」

 私は首を傾げた。

「どこかで、お会いしました?」

「なんだ、忘れたのか? ほら、海峡で会っただろう」

「え、海峡で……」

 このおじさん、何なのかな……。

 

「まあ、いい。母は元気か?」

 私は俯いて、答えた。

「母は五年前に死にました」

「そうか……すまない」

「いいんです。私、お母さんが死んでも、周りにいい人がたくさんいたから、寂しくありませんでした……あ、あれ……何でだろう。涙が……」

 

 涙が止まらない。止められない。

 なぜだろう……この人の前では、嘘がつけない。

 

「すまなかったな……」

 私は涙を拭いて、おじさんの方を向いた。

「何で謝るんですか?」

 その人は立ち上ると、私の頭を撫でてくれた。

 

「辛い思いをさせた……全て、私のせいだ……」

 おじさんの手は、とても大きかった。

 私の頭がすっぽり入るぐらい。

 頭を撫でてもらうと、なぜか落ち着いた。

 暖かい手がとても心地よい。

 まるで、母さんの膝枕のよう。

 

「真帆……」

 私は目を丸くした。

「え? どうして、私の名前を知っているんです?」

 おじさんは答えず、私の手に何かを握らせた。

「せめてもの罪滅ぼしだ……。どんなことがあっても、生きてくれ……」

 渡された物は、私の手におさまるぐらいの小さな短剣だった。

 

「それから、お前の大事に想う人間が近くにいる。その人間は破滅に近づこうとしている。早く……早く、助けねばならない。それは、真帆、お前しか出来ないことだ」

 おじさんはそう言うと、王座に戻る。

 

「あ、待ってください!」

 スポッライトが消えた。

 また、耳元で、プツンという音が鳴った。

 

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 気がつくと、私はピエロの前に立っていた。

 

「そ、そんな……あの人は私を見捨てるというのか!」

 私を見て、ピエロが叫ぶ。

 

 手には夢でおじさんがくれた短剣が握られていた。

「ピエロさん……あなた、嫌い」

「な、何をおっしゃるのですか……お嬢様……」

「私、お嬢様なんかじゃない……。倉石 真帆だもん!」

 短剣を強く握る。剣先をピエロに向けた。

「あんたなんか、大っ嫌い!」

 ピエロはおびえて、私に背を向けると、空に飛び上がった。

 私と少し、距離をおくと振り返る。

 

「わ、私に立ち向かうとは、愚かな! いいでしょう。殺して差し上げます!」

 ピエロが拳をにぎって、私に向けた。

 拳を開くと、手のひらから、無数の光線が放たれた。

 

 私は思わず「えいっ!」と言って、剣を振った。

 振ったと言っても、何も考えずに空間を斬っただけだ。攻撃というには程遠い。

 だけど、私が剣を振ると、呼応したように剣が赤く光り、剣の先から灼熱の炎が放たれた。

 炎は光線を掻き消し、勢いを緩めずにピエロを襲った。

 

「ぐわあああああ! そ、そんなバカなことがあってたまるか! 私は……私は、百八魔頭の一人だ! こんなところでぇ!」

 私がもう一度、剣を振ると、今度は剣が黒く光り、剣から無数の獣が飛び出て、空へ駆け上っていった。

 その獣達の姿は皆、皮膚がただれていたり、骨が体から突き出ていたり、首がなかったり……と、五体満足ではない。

 まるで、地獄から送られてきたようだ。

 

 獣達は一斉に、ピエロへ飛び掛った。

 逃げる事も出来ず、獣達が彼の肉体を貪る。

 ピエロは恐怖と痛みから、半狂乱の状態に陥っていた。

 息も絶え絶えに呟く。

 

「こ、これは……タイガの剣」

 やがて一匹の獣が空に向かって、咆哮をあげる。

 すると、何も無かった空間に黒い切れ目が生じ、徐々に開いて楕円の穴ができた。

 その穴は底無しの闇で、中からは黒い腕が何本も蠢いてた。

 獣達は引き千切られたピエロの体を引っ張って、穴の中に入っていく。

 

「い、嫌だ! 嫌だぁ!」

 ピエロは心底、恐怖を味わっているようで、残った身体をじたばたとさせて、抵抗し続けている。

 だが、獣達は容赦なく、彼を闇の穴へと引き連れていった。

 そして、穴が塞がれると、私の手に握られていた短剣が灰となって、風に流された。

 

 

 気がつけば、氷塊の雨は止んでいた。

 ハークは、未だに気を失ってはいたが、息はある。

「よ、よかった……」

 私は、地面にへなへなと腰を下ろした。

 ふと、北の空を見た。。

「あれって……」

 そこには、大きな古城が宙に浮んでいた。


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