黒歴史小説 トリプルエッジ   作:味噌村 幸太郎

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第四章 ハーク
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 私はハークと一緒にモニタールームを出て、廊下の一番奥にある部屋に案内された。

 

 中世の貴族が暮らしていたような豪華な部屋だった。

 そこだけが別世界で、アンティーク家具や、ゴブラン織りのソファーが置いてあった。

 天井には金色のシャンデリアが吊るされていた。

 

 私は年甲斐もなく、お姫様になったような気がした。

 

「好きなところに座りなさい」

 ぬいぐるみのような小さな魔族、ハーク・フォゼフィールドはソファーの上に飛び乗った。

 

「そう言えば、まだ、名前を聞いていなかったな」

「あ、ごめんなさい。私、倉石 真帆(くらいし まほ)です」

 ハークは頬から左右に伸びた長髭を触りながら言った。

 

「ほう、いい名前だな。ところで、わしのことを誰から聞いたのかね?」

「はい、私もよく分からないんですけど……なんか、ピエロの格好をしている人が、猫を探しなさいって」

 そう言った瞬間、ハークの顔が険しくなる。

 

「ピエロじゃと……ヤツも日本に来ていたのか。……何を企んでおる」

「あの、ピエロさんとはお友達なんですか?」

 ハークはその小さな姿から想像も出来ない、恐ろしい獣の目をした。

 

「わしがヤツとお友達? ふざけたことをぬかすな。あんな卑怯で残酷で冷血な男を誰が、友と呼ぶ? 天と地がひっくり返っても、手は組まん」

 ハークは不機嫌そうに、ソファーから下りた。

「す、すみません……私、何も知らなくて」

「いや、いいんじゃよ」

「本当にごめんなさい……。あの、ペータンが言ってたんですけど、私のことを仲間だって……魔族だって……本当ですか?」

 ハークは顎をボリボリと掻きながら、言った。

「本当ですかと言われてもな……そりゃ、間違いないじゃろう」

「え! そうなんですか?」

「うむ。おぬしの体からは、わしらと同じ、魔族の匂いがプンプンするからの」

「プ、プンプン……」

 私もいずれ、さっきの猫人間のように、頭から縦耳が生えてくるのだろうか、と不安に思った。

 

 

「じゃが、正確には半分じゃ」

「半分ですか?」

「ああ、おぬしは多分、魔族と人間とのハーフじゃ」

 私はそう言われて、少しほっとした。

 

 でも、そこで一つの疑問が頭に浮ぶ。

 私の死んだ母さんにはネコのような縦耳も、お尻にしっぽだって生えていなかった。

 じゃあ、私のお父さんが魔族なのかな?

 

 

 私はこの世に生まれてから、お父さんという人に会ったことがない。

 生前、母さんは私が生まれる少し前に、交通事故でお父さんは死んだと言っていた。

 私が顔をしかめて悩んでいると、ハークが笑った。

 

「まあ、そう悩んでも仕方ないじゃろう。そう言えば、おぬし、腹が減っていないか?」

 ハークに言われた通り、私のおなかはさっきから、危険信号が鳴りっぱなしだ。

「は、はい。めちゃめちゃ、へってます」

 ハークは「かかかっ」と笑って、内線電話に向かって食事を持ってくるように指示した。

 五分も経たないうちに、また例の猫人間が部屋に入ってきて、トレーをテーブルの上に置いた。

 トレーには猫のマークの銀紙に包まれたハンバーガーとジュースがのっていた。

 

「さあ、食べなさい。ジャンクフードじゃが、これがなかなか美味いんじゃよ。うちの新商品の〝超サンマバーガー〟じゃ」

 ハークは銀紙を破って、美味しそうにハンバーガーを頬張っている。

 私も我慢できなくなって、〝超サンマバーガー〟なる物を食べてみた。

 少し臭みはあったが、あぶらののったサンマがいい味を引き出していて、けっこうイケる。

 

「あの、訊いてもいいですか?」

 ハークはハンバーガーをポロポロ、膝に落としながら、私の方を見た。

「なんじゃ?」

「ハークさんって、ネコ科なんですか?」

 彼は肩をブルブルと震わせたあとに、まだ口の中に入っていたハンバーガーを唾と一緒に飛ばしながら怒鳴った。

「誰が猫じゃ! わしをあんな下等な生き物と一緒にするな! わしはこれでも、ハーリー族の始祖でもあり、百八魔頭(ひゃくはちまとう)の一人にして、五大魔神じゃぞ」

「百八魔頭って……何ですか?」

 ハークは持っていた食べかけのハンバーガーをテーブルに置き、ジュースで流し込んでから言った。

 

「百八魔頭というのは、先の〝マザーの戦い〟で生まれた称号じゃ」

 私は耳慣れない言葉に首を傾げた。

「〝マザーの戦い〟?」

「……話が長くなるぞ」

「はい、お願いします」

 ハークは椅子に座りなおしてから、話を始めた。

 


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