ランチの焼肉定食を頼むと、カルビやロースの入った皿がドンと置かれ、ロースターに火が入った。
「昼から肉を焼くとは思わなかったよ」
涼真はトングで肉を並べて行く。
「ふふっ、だってずっと病院食だったのよ? 病院出たらまず、お肉って決めてたの」
彩夏はナムルをつまみながら言う。
「まぁ、好きなもの食べてよ。お肉もおかわりしていいよ」
「ありがと。……。ねぇ? 私たち周りからどう見えてるかな?」
彩夏が好奇心いっぱいの顔で嬉しそうに言う。
「ど、どうって?」
彩夏は涼真に近づくと、小さな声で言った。
「二人で焼肉を食べるのは、エッチしたことのあるカップルって決まってるらしいわ」
「な、な、な、何言ってんだよ!?」
涼真は思わず真っ赤になって答える。
「涼ちゃんは女の子と二人で焼肉食べたことある?」
「……。焼肉どころかお茶も……ないな……」
涼真は渋い顔をしながら、焼けた肉を彩夏の皿へと乗せて行く。
「えー、涼ちゃん女の子に興味ないの?」
「あるけど、縁がないの! そんな事いいから早く食べて!」
涼真は眉を寄せながらトングでカンカンと金網を叩いた。
「はーい! ……。あ、柔らかぁい。涼ちゃん焼くの上手いわ。いいお婿さんになれるわ」
恍惚とした表情で
「そもそも一日中バイトで出会いなんかなかったんだからな」
涼真はムッとしながら自分もカルビを口に運んだ。
「……。そう……だよね。ごめんなさい」
ハッとしてしおれる彩夏。
「あ、いや、いいんだ。彩夏が元気になる事の方が彼女よりもずっとずっと大切なことだから」
慌ててフォローするが彩夏はうつむいて動かなくなった。
「ほら、次も焼けたよ、どんどん食べて」
涼真は皿にお肉を盛る。
「……。兄妹じゃ……、なかったら……」
「え?」
「兄妹じゃなかったら、私が彼女になってあげたのにね」
彩夏はそう言うと肉をガツガツと食べた。
「いや、まぁ、ありがたいけど、俺たち兄妹だしね」
涼真は冷や汗を浮かべながら肉を乗せた白米をかき込んだ。
「彼女……、できたら教えてね。涼ちゃんの取扱説明書を渡すから」
「取説? 何だよ、俺は家電かよ!」
「靴下はリビングの隅で丸めて脱いだままになってるから、寝る前に片付けさせること」
彩夏はニヤリと笑いながら言った。
「ゴ、ゴメンよ。そんな事伝えなくていいよ」
渋い顔しながら答える涼真。
「コーヒーはあのメーカーのビタータイプ。卵は半熟のスクランブルエッグにマヨネーズ。朝起こす時はそっと背中にくっついて、最近ハマってる曲を耳元で歌うこと……」
彩夏は宙を見上げながらうれしそうに指折り数えて言う。
「分かった、分かったから、肉食べて」
「ふふっ、ちゃんと教えてね」
目を細めて彩夏は言った。
◇
満腹になり、駅へと向かう二人。
「ふぅ、食った食った! これから彩夏を治してくれた人の所へ行くから、先に帰ってて」
そう言って涼真が立ち去ろうとすると、
「え? 行って何するの?」
と、彩夏が腕をつかんで引きとめる。
涼真はどう説明したらいいのか悩んだ。『魔王を倒す』なんてどう説明したらいいか、うまい言葉が思い浮かばなかったのだ。
「うーん、何だか俺にやって欲しいことがあるんだって」
すると、彩夏はじっと涼真を見つめる。
「……。まさか……、危険な……こと?」
「危険かどうかは……、まだ分からない。その話を聞きに行くんだ」
涼真は目をそらしながら答えた。
その様子に何かを感じた彩夏は、
「だったら私も行く!」
と言って涼真にずいっと迫る。
「いやいや、彩夏が行くって話になってないから……」
「何言ってるの? 私の病気のために行くんだから私が行かなきゃ!」
彩夏は必死なまなざしで涼真を見つめる。
涼真は目をつぶってしばらく考え、大きく息をつくと言った。
「わかった……。一緒に行こう」