モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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侵略者

 森に音が響いた。

 

 

 ドスジャグラスの断末魔の叫び。

 周りにいたジャグラス達は、数瞬瞬きをしてお互いの顔を見合わせる。

 

 ボスが死んだ。

 理解して、ドスジャグラスの叫び声を思い出す。

 

 

 一匹が狩人に背中を向けた。

 同時に仲間達も一目散に掛けていく。

 

 群れのボスが敗れた。

 この縄張りは奪われる。

 

 

 竜達はどうしたら良いか考えた。

 巣に帰り、群れのボスが───ドスジャグラスが守ろうとした物を見詰める。

 

 

 いくつかは捨て置かなければならない。

 

 

 それでも───

 

 

 一匹のジャグラスが声を上げた。

 

 

 ───それでも、生きていかなければならない。

 

 

 

 竜達は駆ける。

 ドスジャグラスの最期の声を思い出しながら。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 卵があった。

 

 

「もうジャグラス達は見当たらないな」

「ボスが死んで、縄張りを放棄したんだね。んー、コレはそろそろ生まれる頃合いか」

 放棄されたジャグラス達の縄張り。

 

 ドスジャグラスを討伐したロウ達は、近くにあったジャグラス達の巣を見つける。

 そこにはもう少しで孵化する時期だと思われる卵がいくつか放置されていた。

 

 

「繁殖期だったジャグラス達が縄張りにしてたんだね」

「ハンターをやってると、どうしてもこういう事はあるが……まるで侵略者だな俺達は」

 キリエラに習って卵を指で突きながら、ロウはそんな言葉を漏らす。

 

 

 安全の為、今を生きる糧とする為、研究し未来に役立てる為、ハンターはモンスターを狩るのが仕事だ。

 

 しかし、それが良い事なのか悪い事なのか、ロウは偶に分からなくなる。

 少なくともあまり良い気分ではなかった。

 

 

「キミはそう思うんだね」

「お前はそう思わないのか」

 聞かれて、キリエラは「んー」と顎に指を当てる。少し考えてから、彼女はこう返事をした。

 

「思う。僕達は侵略者だよ、彼らにとって」

「思うんじゃないか」

「でも、少し考え方は違うかな。例えばだけど、あのドスジャグラスを殺したのがキミじゃなくてアンジャナフだったら? キミはどう思う」

「……縄張り争いでドスジャグラスが負けた」

「つまりそう言う事」

 少し考えてから返事をしたロウに、キリエラは指を一本立てて得意げに話す。

 

 そう言う事と言われても、ロウはまだ理解できない。

 

 

「これは僕達人間という生き物と、ジャグラスという生き物との縄張り争いなんだよ。僕達人間はアステラという縄張りを広げて、勢力を拡大しようとしている。そこに、ドスジャグラスとアンジャナフの縄張り争いとの違いはあまりないと思うな。……勿論、アンジャナフも僕達もジャグラス達からすれば侵略者だってのはやっぱり間違いじゃないけどね」

 言いながら、キリエラはジャグラスの卵を一つ持ち上げて巣の奥に転がした。

 

 何をしているのかとロウが問い掛ける前に、彼女はこう話を続ける。

 

 

「僕は八歳で新大陸に来て、それから十年経った。人生の半分以上はここに居る。僕だけじゃなくて、1期団や2期団の人達なんかは半生以上を新大陸で過ごしてる人も多い。リーダーなんかは、新大陸で生まれて新大陸で育った。……僕達は新大陸で、自分達をこの自然の中の一つだと思ってるんだ。だからね、僕達は自分達がこの世界で生きるために戦ってる。他の生き物と何も変わらない。僕は、そう思ってる」

「自然の中の一つ、か。姉弟子もそんな事を言っていた気がするな」

 古い記憶を思い出した。

 

 自らに狩人としてのあり方を教えてくれた師。

 師にはロウ以外にも弟子が居て、彼女に言われた同じような言葉が頭を過ぎる。

 

 

「だから、僕は侵略を悪い事だとは思わない。僕達は縄張り争いに勝った。……ただ、それだけだよ」

「それでも、人間は必要以上に生き物を殺す事がある。ギルドが密猟なんかを罰するのはそういう事をするからだろ?」

「そうだね。でも、きっとそういう事をし続けて僕達人間が自然を逸脱してしまったなら……きっと自然は僕達を切り離すよ。人間がどうこう考えたりしなくても、この世界はこの世界を自らで浄化する力がある。僕はそう思ってる」

 そう言って、キリエラは二つ目の卵をさらに転がした。

 

 彼女が何をしているのか、ロウは分からない。

 

 

「そんでもって、コレこそが人間のエゴ」

「卵を隠してるのか?」

「うん。でも、こんな事しても多分意味はないけどね。この子たちはきっと産まれる事が出来ても生きていけない。……何かの糧になった方が、自然としては正しいと思う」

 言いながら、また一個。

 

 巣の端に隠れるように。見付からないように。

 

 

 そんな事をしても意味はない。

 

 

 分かっていても、彼女は続ける。

 

 

 

「きっと、その時が来たら自然は僕達を新大陸から───この世界から消し去ると思う。でも、僕達はそういう事を考える事が出来るし戦う事も出来る。この大自然に向き合うって事は、そういう事だと僕は思ってるよ」

「戦う、か」

 人の営みは必ずしも安定した物ではない。

 

 

 現大陸では一匹の龍が国を滅ぼした、なんて話が与太話で語り継がれていた。

 

 新大陸。

 アステラ程小さな場所なら、龍の一匹でも滅ぼすのは容易い。

 

 

 人がこの大陸を侵し、過ちを繰り返したのなら、龍の逆鱗に触れる事があれば、新大陸はこの地から人々を消し去るだろう。

 

 

 

 この世界にはそういう力があると、キリエラはそう言った。

 

 

 

「……その時は、俺も戦う」

 言いながら、ロウはキリエラを真似てジャグラスの卵を転がす。

 

「頼もしいね」

「ハンターだからな」

 そう言って、二人はジャグラス達の巣だった場所を後にした。

 

 一匹の竜が彼等の背中を覗き込みながら、卵を隠した場所に身体を向ける。

 そんな竜を尻目に、キリエラは小さく「ごめんね」と呟いた。

 

 卵が割れる後が、森の中で小さく木霊する。

 

 

 二人は聞こえないふりをして、アステラへと真っ直ぐ歩いた。

 

 

 

 アステラに辿り着いた二人は、調査班リーダーにドスジャグラスの討伐を報告する。

 

 彼等が繁殖期だった事等も含め、調査班リーダーは総司令への報告を済ませる為にその場を後にした。

 

 

 長い一日だったと溜息を吐いて、ロウは辺りを見渡す。

 無事に帰還していれば、姿が見える筈だが───

 

 

「ロウ君! 彼女も無事だったんだね」

 ───姿が見えて、ロウはゲンナリした。先に帰還していたポットが手を振って歩いてくる。

 

 無事なのは良い。

 だが、ロウは正直彼が苦手だった。

 

 

「……足は」

「この通り! しばらくはちゃんと歩けないよ!」

 言葉と話のテンションが真逆な彼は、片足を引き摺りながらクルクルとその場で回ってみせる。

 確かに怪我の具合は悪そうだがテンション通り大した事はなさそうだ。安心して良いらしい。

 

 

「ふむふむ。大丈夫そうでなによりだね。でも、しばらくは安静にしないとダメだよ?」

「無事だったならそれで良い。怪我が悪くならないようにとっとと帰って寝ろ」

「そんな事言わずに! 助けて貰ったんだ。晩飯くらい奢らせてくれ! ほら!」

 ポットは二人の忠告を無視してそう言い、半ば強引に食事場に連れて行って座らせる。

 

 この男のこういう所がロウは苦手なのだ。

 

 

 

「改めて二人共、今日はありがとう。二人のお陰でなんとか命拾いをした! ふふ、悔しいけど二人は最高の相棒(バディ)だよ。素晴らしい連携だった!」

 流れで三人は注文を済ませ、飲み物が到着するとポットがそう切り出す。

 

 彼は達人ビールを飲み干し、酒を飲んでも飲まなくても変わらないテンションでこう話を続けた。

 

 

「本当は僕がロウ君の相棒になるつもりだったが仕方ない! ロウ君の事は君に譲る事にしよう! いや! しょうがない! 僕は大人しく身を引くよ!」

「おいちょっと待て。俺は誰とも組む気はないし、コイツも別に俺と組む気は───」

「そんな僕に遠慮しないでくれたまえ! 分かっている。彼女と組むから、僕の誘いを断っていたんだろう? 分かっている! 分かっているんだよロウ君!」

「なんでお前はこうも人の話を聞かないんだ!?」

 あまりにも会話が成立しないで苦笑いを通り越して声を上げるロウ。

 

 彼はキリエラに「お前からもなんか言ってくれ」と頭を抱える。

 彼女は既に誰かと組んでいるか、そもそも自分と同じで別に誰かと組む気はない───ロウはそう思っていたからだ。

 

 

「んー、そうだね。今日から僕達相棒(バディ)だ。よろしく」

「なんでそうなった?」

 頼みの綱が切れ、ロウは唖然とする。

 

 

「これで二人は最高の相棒だ! 祝福するよ! 今日は僕の奢りだからね、存分に楽しんでくれたまえ!」

 ポットの言葉に反発する元気もロウには残っていなかった。

 

 

 とりあえず勝手に言わせて、タダ飯と酒だけは貰って。

 後の話は流せば良い。

 

 ロウはそう割り切って、溜息を酒で飲み込む事にする。

 

 

「そんじゃ、これからよろしくね。相棒」

「んぁ? あ……あぁ? あぁ……」

 誰とも組む気はない。

 

 だから、コレは建前だ。

 

 

 そうして傾けられた樽ジョッキをぶつける。

 

 食事場を照らす火が、ボヤけた視界でユラユラと揺れていた。

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