モンスターハンターArriving in New world【完結】 作:皇我リキ
───追記。リーダーへ。
僕から言うのは狡い気がするから、リーダーが彼にあの事を教えて欲しい。
それで彼が嫌だと言わないなら、僕は彼と組もうと思う。
なんだか、鏡を見ているようで放っておけないから。
☆ ☆ ☆
「───よし。ロウ、キリにはなんて言われてきたんだ?」
ロウから手渡された手紙を読んで、調査班リーダーは彼にそう問い掛けた。
「昨日酔っ払った勢いで組もうって話になってしまったらしく……。その趣旨をリーダーや総司令に手紙を持って伝えてきてくれ、と」
記憶がなくなるほど飲んだという事だけは隠して、ロウはそう返事をする。
昨日の4期団の先輩やリーダーとの会話を聞く限り、キリエラは仲間達と相当仲が良い筈だ。
謂わばアステラのムードメーカーであり幼いお姫様でもあり、大切にされている存在だというのは間違いない。
そしてそんな彼女に手を出したなんて嘘でも本当でも話が広がれば───考えられる未来はあまりにも酷い物だろう。
「なるほど、酔っ払ってキリに嵌められたか。誰とも組む気はないとか言ってたが、そんなに酔うまで飲んだのか?」
「あ、ぃぇ、はい……まぁ、はは……」
苦笑いで誤魔化すロウ。幸い調査班リーダーはそこまで考えていないのか「飲み過ぎは注意かもな!」と笑って済ませてくれた。
ひとまずは安心である。
「───ところで」
ふと、話は終わったし帰ろうと踵を返したロウにリーダーはそう話を続けようとした。
正直とっととこの場を離れたいロウは、冷や汗を流しながら再び振り向く。
「あんたはキリの事が好きか?」
「ぇ、それは……その、えーと」
リーダーの言葉にロウは返事を悩んだ。
彼女の事は嫌いじゃない。むしろ好意的に思える人物だとすら思っている。
しかし、ロウは誰かを失うのが怖かった。
彼女を失って辛くなる誰かにしたくない。出来る事ならやはり関わりたくない。
誰とも組む気はないという彼の気持ちもまた、本物である。
「……そうか。俺は、調査団の仲間が全員好きだ。大切な仲間だからな。だから勿論、キリの事も好きだよ。あいつは賢いし、皆に優しい。少し危なっかしい所もあるが、周りの事がよく見えてる。根も良い奴だ」
「そうですね。……俺も、そう思います」
「そして同じくらい、俺はロウの事も大切だ。俺はまだロウの事をちゃんと知ってる訳じゃないけどな。でもお前は、救助活動中に現れたアンジャナフを遠くまで誘き寄せようとしてくれたそうじゃないか。仲間想いの良い奴なんだって事は分かる」
そう言ってリーダーはロウの肩を叩いた。
キリエラ曰く、彼はこの新大陸で産まれて新大陸で育ったという。
この世界しか知らない彼にとって、新大陸の仲間は家族のような物なのだろう。だからこそ、調査班リーダーという任を受けるに値する人物だと言っても良い。
「でも俺は、何人もの人を守れなかった死神です」
「それは、キリエラも同じだ」
「え?」
返された言葉に、ロウは目を丸くした。
キリエラが同じ。
何を言っているのか、分からない。
「ロウはキリエラがどういう奴なのか気にならなかったか? アイツ、まだ十八だってのは知ってるだろ?」
「それは、まぁ。でも、人には知られたくない過去もある」
実際ロウ本人がそうであるように。
知られたくない、思い出したくもない過去がある人間は少なくないだろう。
彼女が何か事情を持ってる事くらいは、ロウも勘付いてはいた。
「キリから許可は貰ってる。ロウが知りたければ、俺は今ここでアイツの事を話すがどうする? 俺としては、もし本当にロウがキリと組んでも良いと思ってくれるなら聞いて欲しい」
「その言い方は狡くないですか?」
「その通りかもな。言い方が悪かったかもしれない。もし、この話を聞いてもキリと組んでくれると言うなら。俺はキリとロウが組む事を認めるよ」
失笑してからそう言って、調査団リーダーは近くにあった椅子に座りながらロウを手招きする。
ロウは黙って彼の近くに座ると、その口が開くのを待った。
「4期団の皆が新大陸に来たのは十年前だ。あの頃は俺もまだ先生達に悪ガキとか言われてたっけな」
「十年単位の古龍渡りに合わせてこの新大陸を調査してるのが調査団だから、俺はアイツを見た時5期団の船に迷い込んだ迷子かと思ったんですが……」
「十年前、俺も同じような事を思ったよ。なんだったら十年前キリエラは八歳だからな! そんなデカくなった訳じゃないが、今よりもっと小さな女の子って感じの子供だった。まぁ、活発なのは今も昔も変わらないが」
キリエラはどちらかといえば中性的な少女である。それは昔から変わっていないらしい。
「俺は聞いたんだ。どうして子供が船に乗ってるんだってな。そしたら、キリの姉さんが出て来てこう言ったんだよ。……その子は私の妹で、私に黙って着いて来ちまったんだ───ってな」
「本当に迷子だったのか」
「キリはどうも姉さんの事が凄く好きだったらしくてな、新大陸に行くって決めた姉さんと別れたくなくて船に乗り込んだんだと」
十年前は八歳のキリエラが4期団として調査団に所属していた理由がこれだ。
「知っての通り現大陸と新大陸の往復はかなり難しい。キリを一人返す為に船を出す訳にはいかなくてな。それで、キリは正式に4期団として姉さんと一緒に調査団に加わったって事だ」
「納得だが、姉さんは?」
八歳の子供が戻ってこれない事を承知で着いて行く程に親しい仲だった姉。
そんな人物が居るなら、キリエラはその姉とバディを組んでいる筈だろう。
ふと聞いてから、嫌な予感がしてロウはリーダーから視線を逸らした。
そんな彼の気持ちを察してか、リーダーは少し間を置いてからゆっくりと口を開く。
「亡くなったよ」
嫌な予感通りの言葉に、ロウはため息を漏らしながら目を瞑った。
大切な人を失いたくない。
そんな事は、その経験があるにせよないにせよ当たり前の事である。
けれど、己は自分の気持ちは誰にも分からないと、そういう態度で他人を突き放して来た。
これではどちらが子供なのか分からない。
「言わなきゃ良かったか?」
「いや、これは俺が悪い。……姉さんは、なんで?」
「ロウと同じだ。立場が逆なだけでな。……現大陸じゃ、死神なんて呼ばれ方をしてたんだって?」
「……はい。俺は、守れなかったから」
「そうか。……でも、誰かを守るのは難しい。俺も調査班リーダーとして調査団の皆を守る責任がある。だけど、難しいよな。……難しいんだ」
ゆっくり目を閉じて、既に新大陸には居ない少なくない仲間の顔を思い浮かべる調査班リーダー。
彼にも色々な葛藤があったのだろう。ロウには想像も出来ない。
「キリを守る為に、三人の仲間が死んだ。……その一人が、キリの姉さんだ」
「守る為に……」
「そう。だから、キリはロウと似てるようで違う。ロウは守れなかったのかもしれないが、キリは守ってもらったが故に大切な人を失った。多分、キリはロウの事を写し鏡の姉さんみたいに思ってるのかもな」
そう言って、調査班リーダーはもう一度手紙に視線を落とした。
「───もし、キリを守ろうとしなかったら彼女の姉さんは死んでなかった。今も新大陸で調査をしてて、後輩の面倒を見てたかもしれない。面倒見の良い優秀なハンターでな、キリも憧れてた。俺もだ」
「その言い方は……」
「そうだな、ないよな。でも……もしキリを守ってなかったら、彼女もロウみたいに悩んでたかもしれない。……守れなかったって」
だからロウは、キリエラを守れなかった姉との写し鏡なのだろう。
結果は違った。
けれど、キリエラの姉がロウと同じ感情を抱える事になっていた可能性は十分にある。
「キリはそれから誰とも組まなかった。お前と同じで、大切な人を失いたくないから。例えそれが逆の立場だとしてもな。……ロウ、キリの事を頼めるか?」
「俺は───」
ふと、ロウは失った大切な人の言葉を思い出した。
──君は誰かと居なさい──
また、失うかもしれない。でもそれは、誰もが思っている事なのだろう。
──人間出来ない事は沢山あるのですから。でもそれは……君に出来る事を、その誰かの力にも出来るという事なんですよ──
だからそれは、怖がっているだけだ。逃げても、否定しても、何時か失ってしまう物なら───
「───俺は、もう失いたくない」
「そうか」
「だから、俺は守ります。アイツだけじゃない。調査団の皆も、この新大陸の仲間全部。その為には、アイツの力が必要かもしれない。俺には、荷が重過ぎるから」
───自分に出来る事を、誰かの為にしよう。
「宜しくな、ロウ」
「はい」
もう、失わない為に。