モンスターハンターArriving in New world【完結】 作:皇我リキ
キリエラの部屋に戻る前。
ロウは調査班リーダーに、十年前に何があったのかを聞いた。
部屋の前まで戻ってきたは良いが、意気込みだけで進んできてこれからどう接するか考えていない事に気が付く。
それなのに突然開いた扉の奥で「おかえり! よーし! 調査に出発だ!」とハイテンションで片手を上げる彼女に、ロウは苦笑いをするのであった。
☆ ☆ ☆
十年前。
「よーし! 調査に出発だ!」
「だからキリエラちゃん。君はあかんて」
部屋を出て、古代樹の森へそのまま走り去ってしまいそうな一人の少女の
竜人族。
人に近い姿をしている全く別の生物ではあるが、文化的に人間と共存している種族だ。
高い鼻や長い耳、四本指の手や人とは異なる形の足も特徴的だが───人との一番の違いはその平均寿命だろう。
竜人族は百歳を超えても人でいう所の二十歳頃の姿をしている。
数百年という年月を生きる彼等の技術や知識は人よりも遥かに高い。その力を彼等は人と共存し、共生していた。
「しょちょー! 僕の邪魔をするのかー!」
「邪魔いうかなー、危ない事はせんといてってこの前もいうたやろ」
「研究に危険は付き物だ! 生態研究所の所長なら分かってるでしょ!」
「いやそういう問題とちがう」
八歳のキリエラを捕まえて困り顔のこの竜人族───生態研究所の所長も調査団として人と共存する竜人族の一人である。
「この前僕のおかげでプケプケの行動範囲が分かって上手く捕獲出来たのを忘れたのかー!」
所長の指に摘まれながら声を上げるキリエラ。
4期団として新大陸にやって来た姉に付いて来てしまい、一人帰す訳にも行かず新大陸で暮らす事になった一人の少女。
調査団の皆からは後に調査班のリーダーとなる総司令の孫と共に可愛がられていたが、二人共やんちゃが過ぎるとこうして困らせられる事も珍しくはなかった。
「せやけどもなー。……確かに、キリエラちゃんの発見や考察には助けられとるが」
「だろー! 僕も4期団としてちゃんと調査を手伝いたいんだって!」
両手を腰に当てて胸を張るキリエラ。
彼女の行動力と判断力は十年前から大人と比べても頭一つ抜けていて、度々のやんちゃで調査が飛躍的に進んだりと───八歳の4期団がアステラに貢献した事例は少なくない。
4期団の仲間はそんな彼女をおとぎ話に登場する導きの青い星に準えて「4期団の青い星」と呼ぶ者も居る。
それだけ、4期団の到着からキリエラはこの新大陸での調査に貢献していたのだった。
「でもなー、危険な事には───」
「大丈夫よ所長。私達が居るわ」
古代樹の森に行くと言って聞かないキリエラに困っていた所長の背後から聞こえてくる声。
「お姉ちゃん!」
「キリエラ。調査団として働くのは良いけど、ハンターと一緒じゃなきゃダメだって言ったでしょ」
整った青い髪。
何処となくキリエラに風貌が似ている一人の女性。
キリエラの姉であり、4期団のハンターである彼女はキリエラの頭にチョップを入れながら生態研究所の所長に「キリエラを止めておいてくれてありがとうございます」と片手を上げる。
「あんたらが一緒なら安心や。ならキリエラちゃん、また新しい発見したら教えてな」
言いながら、姉にチョップをされて半泣きのキリエラの頭を撫でる研究所の所長。
やんちゃに悩まされてはいるが、彼女の功績は無視出来ない物だった。
優秀な姉───そしてその仲間も居る。
「でも危ない事は絶対しない。絶対に無事に帰る事。怪我したら、げんこや」
「うん! 任せて、しょちょー! また凄い発見してくるからね! 今度は古龍見付けるから!」
「古龍!?」
だから失念していたのかもしれない。
彼女がまだ小さな子供だという事を。
「───この痕跡、なんだろう」
森の中。
三人のハンターに着いて、キリエラは古代樹の森を歩いていた。
第1期団が新大陸に到着してから三十年。
調査の地盤を固め、ついに新大陸の調査を拡大する為に構成された4期団には優秀なハンターも少なくない。
その一人でもあるキリエラの姉は、古龍との交戦経験もあるベテランハンターである。
彼女は新大陸に来てから数日でアンジャナフを討伐するという功績を残し、調査団を支える重要な柱の一つになろうとしていた。
一部から荷物になると危惧されていたキリエラも調査を大きく進める発見を度々してくるようになってからは、調査団メンバー達から期待の眼差しすら浴びるようになっている。
きっとこの姉妹は今後の新大陸を担う事になると、そう思っていた者は少なくなかった。
「どうしたの? キリエラ」
「なんか見た事ない痕跡があって」
振り向いた姉にそう言いながら、キリエラは目の前にある虫の死骸と睨めっこをする。
イレグイコガネ等が代表的な、硬い甲殻を持つ甲虫と呼ばれる種の虫の死骸。それが、何かに握り潰されたかのようにバラバラに砕けて地面に散乱していた。
「うわ虫の死骸。ニクイドリ達に食べられちゃったんじゃないの?」
キリエラの姉は虫が苦手らしい。その虫が鳥類に食べられている光景が頭に浮かび、表情を引き攣らせる。
「イレグイコガネですね。釣り餌にするとお魚が沢山寄ってくる虫ですよ」
「美味いのか?」
「美味しいかどうかはともかく、お魚が好むくらいなので栄養価は高いかもしれませんね。ニクイドリも好んで食べると思います。そんなに不思議な痕跡ですか?」
見た事のない痕跡だと不思議がるキリエラに、仲間の一人がそう問い掛けた。虫の死骸は特に珍しいものでもない。ただその小さな命が一生を終えた末に辿り着く姿だ。
「んー、でもこんな食べ方しないよね。僕だったらこうするし」
言いながら、キリエラはその辺にいたイレグイコガネを手で掴む。
そしてソレを口の中に放り込んで、バリバリと噛み砕いた。
「ひぃ!!」
姉はドン引きして泣く。
「うん、美味しくない。……で、普通に食べたら、こんな握り潰したみたいにバラバラになったりしないと思うんだよね。一口サイズだし」
「普通に食べないで欲しかった」
「確かにな。イレグイコガネなんて、ニクイドリでも一口で食べるだろ。死骸なんて残るわけがないか」
「しかもバラバラになってますし、握りつぶすように何かで捕まえてから食べられてるんですね。トビカガチとかクルルヤックではこうはなりません」
頭を抱えるキリエラの姉の横で、二人の仲間が顎に手を向けながらそう口にした。
4期団が調査団に加わって数ヶ月。イレグイコガネのような小さな虫を器用に握るように捕まえて屠るモンスターを彼等は確認していない。
「もしかして僕達が知らないモンスターがいるかも! 古龍とか!」
「古龍が虫なんか食うかよ。でも、未発見のモンスターがいる可能性は確かに高いな!」
「これはまた新発見かもしれませんよ!」
興奮する三人にキリエラの姉は「だとしたら、注意を怠らずに進まないとね」と仲間の一人の背中を叩く。
「それもそうだな」
ここは狩場だ。何が起きてもおかしくはない。
未だ未開の地で、彼女達は命懸けの調査をしているのである。
「どうします? キリエラは一度アステラに戻しますか?」
「えー! 僕が見付けた痕跡だよ!?」
「私達三人だけで未知のモンスターを追うのは少し怖いかな。私達、腕は立つけど頭はダメだし」
「俺は居てくれた方が助かる。この前森で迷子になった時はキリエラが居なかったら俺達死んでたし」
大切にされているが、頼りにもされているのがキリエラという少女だった。
「それじゃ、決まり。キリエラ、その謎の痕跡を追って次の報告で皆を驚かせよう!」
「うん! 任せてよお姉ちゃん!」
そう言ってキリエラは辺りを調べ始める。
彼女を囲うように周りに視線を向け、モンスターの気配を探る三人。
こうして安全を確保しながら調査を進めるのが彼女達のやり方だった。
気配はない。
「ん? 雨。……いや、若干霧っぽい」
少し進むと、森を霧が覆い始める。近くに水源があるのは頭にあったが、視界が悪くなるのは調査を進める上では厄介だった。
安全を考えるなら一度アステラに帰還した方が良いだろう。
しかし、モンスターの痕跡も増えてきて目標まであと少しという所まで迫っていた。しかし、だからこそ───
「……何か居る? ねぇ、お姉ちゃ───」
衝撃が走る。
身体が浮く感覚と、身体の中がぐちゃぐちゃに混ざってしまいそうな衝撃が何度も続いた。
何が起きたか分からない。ただ、痛くて怖い。
調査には危険が付き物である。しかし、それは安全を確保しなくて良いという訳ではない。
未知の世界。未知のモンスター。新しい発見をすれば、調査団の皆が喜ぶだろう。
「───お姉ちゃ、助け……!」
───しかし、だからこそ、引き返すべきだった。
その未知は齢八の少女にも等しく牙を剥くのだから。
※スタミナライチュウに羽はございませんでした。後日編集して別の虫に変更致します。申し訳ありません。(4/23)
※上記の表記を編集致しました(4/24)