モンスターハンターArriving in New world【完結】 作:皇我リキ
スコープを除く。
呼吸を整え、伸ばした身体の力を抜いた。
引き金に添えられた指を呼吸と一緒に揺らしながら、ロウはその瞬間を待つ。
「今」
「───当たれ」
風の音。
貫く弾丸。遅れてくる破裂音。
狙撃竜弾。
超高速で発火性液体を射出するヘビィボウガン専用の弾丸は、上手く使いこなせば大型モンスターの命も一撃で奪う事が出来る弾だ。
「大当たりだね」
「次行くぞ。プケプケの大量発生……ゾラ・マグダラオスの痕跡と関係あるのか知らないが───」
古代樹にて。
キリエラとロウは今、大量発生したプケプケの数を減らすという仕事をこなしている。
現大陸でも稀にイャンクックやゲリョス等の鳥竜種が大量発生する事もあるが、その場合もこうして大連続狩猟クエストが発注される事が多い。
しかしプケプケの大量発生というのはこれまで古代樹の森では観測されなかった事象だった。
調査班リーダーにプケプケの間引き、及び大量発生原因の究明を依頼された二人は、今こうして古代樹の森でプケプケを狩猟しているという訳である。
「プケプケは目も嗅覚も鋭いから、気付かれずに不意打ちするのは難しいんだけどね。こうも遠くから攻撃されたら流石のプケプケも気付けないのか……。なるほど」
「これで三匹目だが……。確かに多いな」
一日で三匹。
ロウはその全てを一撃の狙撃竜弾で仕留め、引き金は三度しか引いていない。
彼曰くプケプケは
接敵せずにモンスターを狩猟してしまう技量にキリエラは素直に感心していた。
「───でも戦ってるところ見れないから全然観察出来ないや」
「……問題があれば普通に戦うが」
「迷いどころだけど、これで済むなら済ませよう。とりあえず、
キリエラはそう言って狙撃したプケプケの元に歩き出す。
「……まだ、
そんな彼女を追いかけて、ロウは頭を掻きながら目を細めるのだった。
☆ ☆ ☆
ロウとキリエラが組んでから数日が経つ。
二人は掻鳥クルルヤックの狩猟や、古代樹近辺でのゾラ・マグダラオスの痕跡捜索を行いながら調査を進めていた。
新大陸での生活にもある程度慣れてきた所で、先日調査班リーダーから頼まれたクエストがこのプケプケの大連続狩猟である。
「プケプケはこの喉袋で摂取した植物と体内の毒を混ぜて、自らの毒をより強力な毒に変化させる生態があるんだよ。僕は昔、プケプケは昆虫を好んで食べるんだと思っていたんだけどね。最近の研究でこうして植物を───って、キミ? どうかしたの?」
プケプケの遺体を調べながら、その生態を語るキリエラ。しかし、彼女はロウが不自然な態度を取っていることに気が付いて視線を持ち上げた。
ロウはプケプケ三頭分程の離れた木陰からキリエラの事を覗き込んでいる。
「……なんでそんなに離れてるのさ」
「……嫌いなんだよプケプケ」
目を細める二人。
プケプケを嫌いというロウの言葉に、キリエラは首を傾げる。
「嫌い?」
「……オオナズチに似てるからな」
言いながら、ロウはため息を吐いてキリエラの元まで歩いた。
「オオナズチ? えーと、古龍の名前だよね。僕は見た事ないけど」
生理的に受け付けないという訳ではなく、ロウにはトラウマを思い出す見た目をしているという事らしい。
「……あぁ。丁度プケプケみたいに飛び出した目玉を持っていたり舌を伸ばしてきたり、毒を使うんだ」
言いながらロウは目を細めてプケプケを見下ろす。嫌いとは言ったがプケプケに悪意を向ける訳でもなく、奪った命を無駄にしない為に素材は剥ぎ取った。
「後は霧の中に隠れたり、身体の色を変幻自在に変えて見えなくなったりする。これはプケプケには出来ないだろうが」
「へぇ、凄いモンスターだね。オオナズチかぁ、新大陸では聞いた事ないけど」
「古龍渡りなんていうものだから新大陸にオオナズチが居てもおかしくはないと思っていたが、居ないなら安心だ」
剥ぎ取りを終えたロウはそう言ってから立ち上がり、辺りを見渡す。
これで三匹のプケプケを討伐したが、周りにはプケプケの痕跡が沢山残っていた。
自分達の予想よりもプケプケの数が多いかもしれない。そう感じる。
「姿が見えなくなる、か……。なんか、引っ掛かるな」
「実は居ました、なんてやめてくれよ」
「見えないんじゃ結局分からないけどね。キミはオオナズチに嫌な思い出でもあるの?」
「……師匠を殺された」
「……おっと」
失言だった、とキリエラは目を逸らした。
しかし、ロウは少しだけ間を置いてからこう口を開く。
「……お前は俺に過去を教えてくれたな」
「誰にも言いたくない事はあるし、別に言いたくなければ言わなくて良いんだよ。前も言ったけどね」
「お前と組むなら、話しておきたい。……久し振りなんだ、誰かとこうやって長く組むのは」
これまでずっと。
ロウは一人でやってきた。
もう誰も失うのが嫌で、最後には面倒を見てくれていた姉弟子からも離れて新大陸に来たのは───独りで朽ちる言い訳が欲しかったからである。
けれど、それは独りよがりの自己満足だとキリエラに気付かされた。
同じく大切な人を失った彼女が前向きに歩いている。誰かに必要とされ、誰かと関わっている。
自分の事が恥ずかしくなった。
「……そっか、僕とキミは
「だから、その
「キミ?」
「相棒の名前くらい覚えてくれても良いだろ」
「
「だから───」
「いや、でもキミだって僕の事を
「……そ、それは」
半目でそう言ったキリエラに反論出来ず、目を泳がせるロウ。
流石に可哀想に思ったのか、キリエラは苦笑いをしてからこう口を開く。
「それじゃ、初めからやろうか。僕はキリエラ。キリって呼んでいいからね。キミの名前は?」
「……ロウ」
「そっか。よろしくね、ロウ」
「……あぁ」
「名前」
「……よろしく、キリエラ」
「んふふ、二十点。ま、良いや。……で、何があったの?」
プケプケから剥ぎ取った素材をポーチに入れながら、キリエラは立ち上がって話を持ちかけた。
ロウが大切な人を失っている事。
キリエラは随分前から気付いていたのだろう。何故なら、彼は自分と同じ目をしていたからだ。
今でも二人の気持ちは変わらない。
もう誰も失いたくないという心の傷が、消える事はないのだから。
「───書士隊で俺を育ててくれた先生が居たんだ。頭が良くて、色々な所に気が効く良い人だった。……けどある日、狩場の調査をしている時に古龍と遭遇してな」
「それがオオナズチ?」
「そうだ。……霧の中で、先生はアイツの舌に引き摺られそうになった俺を助けようとして───俺は先生を助けられなかった」
今でも忘れられない。
霧の中。
師匠に押し倒され、目の前で師が何者かに引き摺られていく姿。
唯一左腕だと思われる肉塊だけが残り、死体すら見付からないまま二度と会う事が出来なくなる。
瞳を閉じれば自分を助けた時の先生の顔がそこに張り付いているようだった。
「……それから、ずっと怖かった」
「……そっか」
歩きながら話をして、話終わるとキリエラは左手の義手をロウに打ち付ける。
「───グハッ。……な、なん……で」
「キミは……おっと。ロウはデカい」
「は?」
殴られたお腹を抑えながら文句を言おうと顔を上げるロウ。
しかし、その顔は腰よりも上に上がる事なく、キリエラの左手に押さえ付けられた。
「……よしよし」
その左手でロウの頭を撫でるキリエラ。
なんだコレ、と苦笑いを溢すロウだが不思議な心地良さにしばらくこうしていても良い───なんて事を思う。
しかし、ふと頭を横に傾けると視界に入った物を見てロウはキリエラの手をすっ飛ばす勢いで顔を持ち上げた。
「おっと!? やっぱ嫌だった? ごめんごめん、そんなに嫌がらなくても───」
「おいキリエラ。アレ、なんだと思う?」
「ん? アレは───」
ロウが指差す先。
巨大な岩───のような痕跡。
「───ゾラ・マグダラオスの痕跡」
ゾラ・マグダラオスが残した痕跡だろう。人の身体よりも大きく、熱を持った岩石がそこには転がっていた。
「プケプケを追ってここまで来たけど、この先は大蟻塚の荒地だ……。大蟻塚の荒地にプケプケは居ない筈だけど、何匹ものプケプケが古代樹の森から追い込まれるようにこの辺りで大量発生している」
「確かプケプケは臆病なモンスターだったな。何かから逃げるようにしてこの付近に集まったとするなら、その何かは?」
「……新大陸に上陸したゾラ・マグダラオス。あの巨体から逃げるようにして大蟻塚の荒地方面にプケプケが集まっていたとすると?」
「俺達調査団が探しているゾラ・マグダラオスの進路方向は───」
二人はお互いに顔を見合わせてその答えに辿り着く。
第5期団が追って来たゾラ・マグダラオス。その行方は───
「「───この先にある、大蟻塚の荒地!!」」
森の先。
アステラの東にある狩場───大蟻塚の荒地だ。