モンスターハンターArriving in New world【完結】 作:皇我リキ
大蟻塚
調査拠点から東。
古代樹の森から反対方向には、荒涼とした大地が広がっていた。
森の水源から沼地が広がり、背の低い木々が森と荒地の狭間として立っている。
乾燥地帯に広がるのは、広大な蟻塚群。
時にモンスターよりも巨大なそれを指し、調査団の人々はその地域を
その地にて、二本の角を持つモンスターが何かを探すようにその眼を光らせる。
その視線の先には───
☆ ☆ ☆
ゾラ・マグダラオスの行方が少しずつ分かってきた。
調査団の活躍により、ゾラ・マグダラオスの痕跡を多数発見。
その進路方向が明らかになる。
「学者達が、ゾラ・マグダラオスの進行ルートについてくわしい調査を進めた結果。奴は、大峡谷を目指していることが判明した」
大峡谷。
大蟻塚の荒地と呼ばれる地の向こう側に横たわる巨大な谷の事だ。
人間にはとても渡ることのできないような場所だが、ゾラ・マグダラオス程の巨体を持ってすれば容易に直進してしまう事だろう。
「ここで、一つ提案がある。大峡谷で、ゾラ・マグダラオスの捕獲を決行したい」
そこで新大陸調査団総司令の出した提案は、歴史上類を見ない古龍捕獲作戦の決行だった。
誰も成し遂げた事のない作戦。
しかし、ゾラ・マグダラオスの巨体と大峡谷───そして到着した優秀なハンターを中心に構成された5期団。
このチャンスを逃せば、次はない。
新大陸、そして古龍渡りの謎を解明する。
彼等調査団は勝算がなければ動けない心臓など持ち合わせてはいなかった。
「───これより、ゾラ・マグダラオスの捕獲を目標とする! 各々、準備を開始しろ! 以上、解散!」
総司令の命により次の調査団の目標が定められる。
ハンター達は大規模作戦前に拠点の守りを固める為の狩猟、学者達はゾラ・マグダラオスやその他気になる点の研究を進め、物資班は大峡谷への物資の持ち込み。
各々の仕事を確実に進め、調査団はゾラ・マグダラオスの捕獲へ向けて動き出していた。
大蟻塚の荒地。
日の光に目を細めながら、ロウは不思議な気持ちで水筒を持ち上げる。
後ろで縛った赤い髪を揺らす風は、どこか涼しげだった。
「どうかした?」
その風に青い髪を揺らしながら、キリエラは妙な表情をしているロウに声を掛ける。
何か気が付いた事があるなら共有しておく事が、新大陸を生きる上で必要な事だ。この地は未だ未知の大地なのだから。
「……やけに涼しいな、と思ってな」
「え? そう? それなりじゃない?」
ロウの言葉にキリエラは頭の上で沢山のクエスチョンマークを浮かべる。そんな彼女の反応を見てロウは逆に首を傾げた。
「森からの水源で沼があったりするが、ある程度進むとその先は殆どが乾いた砂漠だ。砂漠ってのは、熱いのが普通だろ。まだ砂漠が見えてる訳じゃないが、俺は今クーラードリンクも要らないくらいだと思ってる」
「あー、そうか。現大陸で狩場の砂漠っていうと凄い乾いててめっちゃ熱かったり寒かったりだっけ?」
ロウの居た現大陸では砂漠の昼は肌を焼くような灼熱地獄が続き、夜には鼻水も凍る極寒に変わる。そんな厳しい環境が砂漠という場所だった。
しかし新大陸の砂の大地、大蟻塚の荒地では少なくともクーラードリンクを用いらなければ行動出来なくなる程の気温にはなっていない。
「新大陸特有の環境か」
「調べてみる? 面白そう」
「今は自分の仕事に集中する」
現大陸での感覚との差に戸惑いながら、ロウは目の前の仕事に意識を戻す。
草食竜アプトノスが引く竜車。
それが二列に六頭。その車両に並走するするようにして、ロウを含めた狩人が数人歩いていた。
ゾラ・マグダラオス捕獲の為の大峡谷への物資の持ち込み。
その道中の護衛が今ここに居るロウ達ハンターの仕事である。
「それにしても多いな」
「これでもまだ一周目だからね。後三周はしないと、ゾラ・マグダラオスの捕獲は出来ないよ」
巨大なゾラ・マグダラオスの捕獲には相当の物資が必要だ。
それこそ、この作戦を決行した後に同じ規模の作戦を展開する事は不可能だとされる程の物資を運ぶ必要がある。
そこで竜車による物資の運搬なのだが、大蟻塚の荒地を横切る為にこうしてハンターの護衛が必要だった。
この任務に名乗りを挙げたのはキリエラである。
ロウは新大陸で護衛対象を守りきれず死神と呼ばれていたハンターだ。そんな彼が自分から護衛クエストを受ける訳もなく。
「……これを護衛するのは骨が折れるだろ」
ロウは初め断ろうとしたのだが、キリエラに
ただでさえ物資の数が多い。
そして物資の量と同じくらい懸念材料なのが、大蟻塚の荒地の地形の悪さである。
この護衛クエストの前にロウは何度か大蟻塚の荒地で狩猟をこなしたが、足場の良い道は勿論モンスターが蔓延っていた。
そこで足場の悪い沼地を先に調査したのだが、ジュラトドスというモンスターと交戦。これを討伐するが、ガライーバという小型モンスターが多く足場も悪い沼地は危険だという判断が下される。
よってロウ達ハンターは比較的追い払うのが楽なケストドンというモンスターの縄張りが多い足場の良い大地を進みながら、大峡谷へ向かう道を進んでいた。
「───大丈夫だよロウ君! 骨は折れても治るからね!」
文句を漏らすロウに向けて、竜車の上から飛び降りてきた金髪の青年が彼の肩を叩きながら大きな声を漏らす。
「誰だお前。急に話しかけてくるな」
「おかしい! 僕だよ! ポット! ポット・デノモーブ!!」
「ポッと出のモブ?」
「そう!! でもなんかイントネーションが違う気がするね!!」
ハッハッ、と笑う青年の名はポット。
彼は5期団の編纂者で、ロウのパートナーになろうとして振られ───今は別のハンターと組んでいるらしい。
「いやー、楽しみだね! 大峡谷! 古龍、ゾラ・マグダラオスの捕獲! 今から楽しみで仕方がない!」
キリエラもそうだが、ポットは大峡谷という場所に興味がありこの護衛クエストへの同行を選んでいた。
古龍の捕獲作戦。
前例を見ないこの任務に心を躍らせている調査団のメンバーは少なくない。
否、殆どの調査団がその時を待ち侘びている。
「……そうだな」
ロウとてその一人であるように。
「ロウ君、少し素直になったかい? 船に乗ってた時はそんな風に笑わなかったのに」
「……うるさい黙れ」
目を細めてポットの頬を抓るロウ。ポットは「痛い痛い!」と涙を漏らした。
「ポット君、もう足は大丈夫なの?」
「やあ! キリエラ君。この通り! ピンピンしているよ!」
ロウとキリエラが組む事になった前日。
ポットはドスジャグラスの群れから逃げている時に足に怪我をしてしまったらしいが、大した事にはならなかったようである。
こうして新しい相棒を見つけ、調査に駆り出せるのだから心配はしなくて良さそうだ。
「───ポットぉ!! 何処よ!! 私の目の届く範囲に居ろっていつも言ってるでしょうがぁ!!」
突然。
竜車の反対側から女性の怒号が聞こえる。その声はまるでラージャンの雄叫びのようだった。
「ポット君の事探してない?」
「この声はマイフレンド! 僕の相棒の声だね! 僕が居なくて寂しがってるのかな?」
「いやどう聞いてもブチギレてるが?」
ロウは呆れながらポットの首根っこを掴む。まるで母アイルーが子アイルーを巣に連れ帰る時のように。
「居た!! ポット、あんた本当にいい加減にしなさいよ!? 何!? あんたは私を精神的に痛ぶるのが趣味な訳!?」
竜車の反対側から。
背中に身の丈程の大剣を背負った銀髪の女性が目を光らせながら駆け寄って来た。その瞳はまるで怒ったナルガクルガのようである。
「やあ! アンワ! そうだ、紹介するよ。彼はロウ君、こっちの小さい子はキリエラ君! 僕の友達さ!!」
「そんな! ポットに友達が居たなんて!? どうも宜しく。私はアンワ───じゃなくて、人の話を聞け!! 毎回毎回居なくなるなって言ってるでしょ!?」
アンワという女性はロウからポットを受け取って、胸倉を掴んで彼の体を何度も揺らした。
「……お前は本当に問題児だな。組まなくて良かった」
苦笑いを溢すロウ。
彼女の言葉を聞く限り、ポットはいつもこんな調子らしい。普通に嫌である。
「賑やかになってきた所悪いけど、そろそろ集中した方が良いよー。大蟻塚の荒地の難関……砂の大地が見えて来たからね」
いつのまにか竜車の上に乗っていたキリエラが、三人にそう声を掛けた。
彼女の言葉に三人は直ぐに意識を切り替える。ふざけていても、彼等は調査団なのだ。
視界に映る見上げる程の蟻塚。見渡す限りの砂の大地。
背の低い木々や沼地を抜けると、そこには荒々しい地形と厳しい環境が待っている。
砂の荒地。
極限の環境下でのみ生きる事の出来る強大なモンスターの暮らす地に、調査団の物資班達がその足を踏み入れようとしていた。