モンスターハンターArriving in New world【完結】 作:皇我リキ
翼竜。
文字通り翼を持つ竜であるが、飛竜と呼ばれる中でも一般的に有名なリオレウス等と比べるとその体格は小柄な種が多い。
その中でも新大陸に多く生息するメルノスと呼ばれるモンスターは草食生で大人しく、人にも慣れる為調査団はアプトノスのように彼等を飼育していた。
メルノスは小柄ながら武装したハンターを連れて飛行する事も出来る為、調査団の移動手段としても度々用いられている。
調査団の飼育するメルノスは足に目印となる足輪を付けており、ハンターの口笛で近寄ってくる訓練をしているので狩場から脱出する際は飛んでいる調査団飼育のメルノスを見付けて口笛を吹けば良い。
古代樹の森でキリエラを囮にしてポットをアステラに避難させた時に、彼を運んでくれた竜こそこの翼竜───メルノスというモンスターなのだ。
☆ ☆ ☆
砂の荒地の空を見上げると、数匹のメルノスが群れで移動している姿が見える。
「アレは
物資班の一人が晴天の空に指を向けながらそう言うと、ロウは目を細めて「違うな。野良だ」と短く答えた。
「目が良いな、あんちゃん」
「まぁ」
「本当だね。僕でも見えないよ」
驚くキリエラを他所に、ロウはもう一度飛んでいるメルノス達に視線を向ける。
何がなのか分からないが、何かが不自然な気がしてならなかった。
「しかし静かだなぁ。大蟻塚の荒地ってこんなに穏やかだったか?」
物資班の男は以前にも何度か大蟻塚の荒地に出向いた事がある。
その時はもっとモンスターの気配が多く「もしここで物資を運ぶなら、それはもう大変そうだ」と不安に思っていたのだ。
「キリ、なんか思う事は?」
「分かんない。なんか不自然だけど、珍しい事じゃないしね」
ロウ達5期団と違い、キリエラはこの新大陸で十年過ごしている。
そんなキリエラが「分からない」という違和感の正体にロウ達が気が付ける訳もない。
「不自然というと、そういえばだけど新大陸にはガレオスやデルクスみたいなモンスターは居ないのね」
ロウから見て竜車の反対側でポットを引き摺りながらそう言うアンワ。彼女の相棒で首根っこを掴まれて引き摺られているポットは「確かに!」と思い出したように同意した。
現大陸の砂漠地帯にはガレオスやデルクスといった───砂の中を泳ぐモンスターが多い。
彼等は足場の悪い砂の大地に完全に適応しており、他の大型モンスターと比べても遭遇率が高い為、砂漠を行き来する商人達にとっては一番の難敵である。
「ガレオスか! 久し振りに名前を聞いたな。そういや
物資班の彼もキリエラと同じく4期団で、新大陸に来たのは十年前だ。彼にとってはもう懐かしい名前だろう。
「居ないのか、ガレオス」
「居ないよ。そもそも僕は見たことないけどね。どんなモンスターなの?」
「プケプケより少し小さいくらいのサイズで砂の中を泳ぐサメだ」
「怖」
ロウの説明を聞いてキリエラは表情を引き攣らせた。
ガレオス等は遭遇率もそうだが、砂の中を自由に動き回り単体でも危険であり、さらに群れをなすモンスターでもある。
砂漠地帯においてモンスターによる被害で一番多いのは彼等であるとも言われている程に厄介なモンスターだ。
だから、ロウはそういう相手がいない事については安心している。
留意すべきは大型モンスターだが、的がデカい分には見付けやすい為幾分かは気が楽だ。砂漠地帯での護衛では一番に気をつけるのはガレオス等の群れに気付かない事である。
「砂の中にまで注意を向けなくて良いのは楽だが、視界は悪いな」
「そうね。古代樹の森程じゃないけど、私達の知ってる砂漠と違って岩とか多いし。アレ何? 蟻塚? デカ過ぎ」
ロウの言葉にため息を吐きながら同意するアンワ。砂の大地に点在する岩石や巨大な蟻塚が死角になって、遠くまで見渡せないのは不安要素の一つだ。
物陰からモンスターが出てきて襲われた、なんて事になると護衛は間に合わない。
出来るだけ岩石等に近付かずに進んでいるが、そのせいで進行は予定よりも遅れている。
「高いところから見れたら良いんだけどね。竜車の上くらいじゃダメだなぁ」
荷物の上に立って双眼鏡を除くキリエラだが、荒地にはモンスターの背よりも高く形成された蟻塚が多数並んでいる為、竜車の上程度ではまだ視界は開かなかった。
「お! それなら僕に良い作戦があるぞ!」
そう言って道端に転がっている石ころを拾うポット。
彼はその石ころを左手に装着した
スリンガーは新大陸調査団が使用する標準装備だ。
左手に装着出来るサイズの小さな弩で、石ころ等を装填して射出する事が出来る。
さらに装備されたロープを射出する事も出来るため、このロープをメルノスの足に括り付けての移動にも使用出来る優れものだ。
迷子になった彼が古代樹の森からアステラに帰還した時も、そうして近くにいたメルノスに捕まり無事に拠点に辿り着いたのである。
ロウは元々ヘビィボウガン使いであり、物を射出するという点においてヘビィボウガン以上の成果は期待出来ない分あまり使用してはいない。
だから、彼はポットが何をしようとしているのか分からなかった。
「ちょっと、また勝手に! 何をする気よ!」
「良いから見ていてくれたまえ! うーん、ここだ! 射撃!」
狙いを定め、スリンガーから石ころを射出するポット。
射出された石ころは空高くに吸い込まれるようにして飛んでいく。その先に居たのは、野生のメルノスだった。
メルノスは突然飛んできた石ころの衝撃に驚き、高度を落とす。ポットはそんなメルノスに、今度はスリンガーでロープを射出した。
そのロープを引っ張れば、ポットの身体が空高くまで上がっていく。
調査団で飼っているメルノスならともかく、野生のメルノスに捕まろうとするとは誰も思わなかった。
「ハッハッハッ! これなら高いところから見渡せるよ!」
空を飛ぶ野生のメルノスにぶら下がりながら、ポットは片手で双眼鏡を覗き込む。
そんな彼を見上げながらキリエラは「おー、頭良いね」と素直な賞賛の声を漏らした。
「アイツ、バカなのにこういう時直ぐに動けるのよね。感心するわ。バカなのか天才なのか偶に分からなくなるわよ」
相棒のアンワも彼と組んでそう長い訳ではないが、ポットの行動には度々驚かされるらしい。
「ウワ!! でもどうやって降りるんだコレ!! 怖い!! どうしよう!!」
「いやバカだろ」
「バカね」
「バカだねぇ」
「バカがいる」
「おいあのバカどうする?」
「なんだあのバカ」
「おいバカが空を飛んでるぞ」
「バカは高い所が好きって本当だったんだな」
「おーい、バカ! なんか見えるか?」
「何言ってるか聞こえないぞー、バカ」
「バーカバーカ」
「おかしい!! 何故か皆がバカしか言わなくなってしまった!! そして誰も助けてくれる素振りを見せない!!」
どうやって降りようか分からなくなったバカは、しかし───ふと視界に入った何かが気になって再び双眼鏡を覗く。
視界に一瞬映り込んだ黒と、二本の角。
ポットの脳裏に浮かぶのは現大陸でも砂漠の主と言われている竜の姿。そしてその種は、ここ新大陸でも確認されていた。
「まずいぞ……!」
岩陰に隠れて一瞬で、しかも一部分しか姿が見えなかったが、そうじゃなくても何かが居たのは確かである。
ポットは急いで縄を外して、砂の大地に飛び降りた。頭から。
「頭から落ちるバカがいるか!?」
流石のロウも、自分の目の前に頭から降って来たポットに驚いて声を上げる。
柔らかい砂の上ではあるが、見た目は大惨事だ。
「───ブハッ! 大変だ! 進路方向! 何が居る。二本角の黒い奴!」
「二本角?」
「黒い奴!?」
ポットの言葉に物資班数人の顔が真っ青になる。
砂漠で二本の角、そして黒いと言われれば考えられるのは一つだけだ。
「───ディアブロス亜種って事?」
「さて、一番厄介なのが来たね。やけに静かだったのは繁殖期のディアブロスが居たからかな?」
ディアブロス。
大型の飛竜種にして、砂漠の暴漢とも呼ばれている危険なモンスターである。
この種の雌は繁殖期になると体色が黒く変色して普段よりもさらに凶暴になる事で有名だ。
「キリ、どうしたら良い?」
「ポット君、モンスターが居たのは?」
「ここからでも見えるあの一番大きな岩陰だよ。直ぐに見失ってしまったけどね」
「通りたかった道だねぇ」
物資班の男に聞かれ、キリエラは目を細める。
ゾラ・マグダラオス捕獲作戦の為には出来るだけ多く、そして早く資材を大峡谷に持ち運ぶ必要があった。
足止めは捕獲作戦の是非にも関わる。迂回して遠回りするのも、あまりしたくはない選択だ。
「私が囮になって引きつけようか?」
そう提案したアンワに、キリエラは「一人は危険。ダメ」と義手を向ける。
「それじゃ、後一人着けてよ。私は現大陸にいた時、一人でディアブロスを狩った事がある。これなら安心でしょ?」
「いや、本隊から離れるのは無しだ」
付け加えたアンワの言葉に、今度はロウが待ったをかけた。良い作戦だと思っていたアンワは口を尖らせて「なんでよ」と問い掛ける。
「囮作戦が失敗した時のリスクが大きい。戦力を減らして別のモンスターに接敵すれば護衛は困難になる」
「……なるほど」
これはロウの経験則だ。
彼が死神と呼ばれていた事をアンワも知っている。だからこそ、彼の言葉は信じるに値した。
「それじゃ、どうする訳?」
しかし、他に手がないのなら話は別である。ゾラ・マグダラオスは待ってくれないのだから。
「───ディアブロスを先に叩く」
少し考えて。
ロウが出した答えに、調査団達は一考してから賛同するのだった。