モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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調査拠点

 手を伸ばす。

 

 

 少女の伸ばした手は、闇の中に吸われていった。

 

 鮮血に顔を歪める。

 けれど、少女はそれでも手を伸ばした。

 

「どうして───」

 疑問の表情を見せる少女の前で、その龍は───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 調査拠点アステラ。

 

 

 新大陸。

 ギルドがそう呼ぶこの大陸には、新大陸調査団が四十年の時を掛けて作り出した拠点が存在している。

 

「よぅ、5期団! ようこそアステラへ!」

 それがこのアステラだ。

 水車を利用したリフトや、前期団の船を利用した建築物等、特徴的な様相が多くみられる。

 それは、この新大陸という物資の補給も儘ならない未開の地で、アステラが四十年の月日を掛けて整備されていった場所だからだった。

 

 

「俺はあんたらの先輩に当たる4期団の───あー、自己紹介は後だな」

 一人の男が、到着した五期団達の前で話している。

 

 五期団は数刻前、新大陸に上陸した()()()()()()()に巻き込まれた。

 船が何隻か横転し、少なくない五期団員が海に放り出されてしまったのである。

 

 

「話は聞いた。到着早々で悪いが、新大陸での初仕事をこなして貰うぞ。勿論、俺達も手伝う」

 海に投げ出された者───そうして海に投げ出され、自力でアステラの外に上陸した物も居るかもしれない。

 

 そうした()()()の救助。

 それが五期団が新大陸に辿り着いて初めての仕事になった。

 

 

「海の方は先に到着した船を向かわせてある。あんたらは出来れば編纂者とハンターの二人一組になって古代樹の森の捜索だ! 良いな?」

 男の指示に、五期団員達は一斉に立ち上がって救助活動へと赴いていく。

 

 古代樹の森。

 調査拠点アステラからも見上げる事が出来る、巨大な樹木の集合体を中心に広がる森の総称だ。

 

 

 当たり前だが5期団は新大陸に到着して間も無く、新しい狩場である古代樹の森について何も知らない。

 そんな場所での救助活動は二次災害を起こしかねないが───編纂者が居れば話は別だろう。

 

 編纂者は狩りではなく、情報統括のエキスパートだ。

 彼等彼女等は新大陸の調査の為ハンターと協力し、古龍渡りの謎を解き明かす為の知識と判断力を持っている。

 

 故に新大陸では狩人一人につき専属の編纂者一人が付く相棒(バディ)制が推奨されていた。

 

 

 しかし、到着間も無い五期団のハンター全てに専属の編纂者がいる訳でもない。

 とすれば最低でも二人。誰かとペア(相棒)になって、二次災害の確率を減らすのが常識的な考え方である。

 

 

「……二人、一組?」

 しかし、5期団の一人───ロウは誰かと行動すると言われて固まっていた。

 

 ゾロゾロと、周りの人間が知り合いや友人を誘って救助活動に向かう中───彼は一人ポツンとアステラに残ってしまったのである。

 

「いや、俺は一人で良い。……一人が良い」

 そう言って、ロウは首を横に振る。

 

 

 船の上でもポットを避けていたが、彼は()()()()()()()()()()だった。

 

 

「古代樹の森、か。とにかく、俺も救助活動に───」

 しかし、彼に仲間意識や思い遣りがないわけではない。

 現に船が持ち上げられた時に彼はポットを助けようとしていたし、今も仲間を一人でも助けようと、単独でも古代樹に向かおうとしている。

 

 そうして一人で古代樹に向かおうとするロウの片手を、あまり強くない力で止める一人の人物がいた。

 

 

「キミ、一人で行こうとしてるの? 友達居ないの?」

「あぁ? なんだおま───」

 あまりにも失礼な物言いに振り返るロウは、視界に入った一人の少女の姿に目を丸くする。

 

「───何だこのチビ」

「おい、僕はレディだぞ。その物言いはあまりにも失礼じゃないか?」

 先に失礼な物言いをしたのはお前だ、と口が動く前に異様な光景がロウの目に入ってきた。

 

 

 自分の腕を止めた何か。

 

 あまり強くない力。

 それもその筈で、ロウの片手を止めていたのは人間の腕ではなく小型のボウガンのような物が着いたフック付きの棒だったのである。

 

 

 彼を呼び止めた少女は、左腕が無く、簡単な義手を着けていた。

 

 

「固まってどうしたんだ、キミ。……あー、これ? 気にしないでくれ。それよりキミの事だ」

 肩と肘の中間部分までだけ残っている、()の付いた腕をクルクル回しながらそう言う少女。

 

 身体の欠損はハンターをやっているロウからすれば別に珍しい物ではない。

 しかし、問題なのは目の前の少女がまだ年端も行かない少女だという事である。

 

 

 海のように青いショートカットの髪と瞳。

 年齢は良くて十代後半だろうか。ロウにはもっと幼く見えた。

 

 

「キミ、大丈夫?」

「……いや。お前はなんだ。船に紛れ込んで来た子供か?」

「おっと、さらに失礼だな。言っておくが僕はキミの先輩なんだぞ」

「は?」

 少女の言葉に、ロウは口を開けて固まる。

 

 

「僕は4期団、キミは5期団。僕はキミの先輩。良いね?」

「4期団だと?」

 4期団は今から十年前に新大陸に出発した調査団だ。それはつまり、彼女の言う事が本当なら、この少女は十年前からこの新大陸に居たという事になる。

 

 もう一度ロウは少女の姿を見て、目を細めた。

 

 

 ありえない。

 

 

「お前何歳だ……」

「んー、確か今年で十八だったかな! 多分な! あとお前じゃない! 僕はキリエラ! 君は?」

「十八……」

 4期団が新大陸に訪れたのは十年前の話である。

 つまりこの少女は、十八というのが本当でも八歳の頃からこの新大陸で4期団をやっていると言うのだ。あまりにも胡散臭い。

 

 

「どうかしたの? 僕の顔に何か着いてる?」

「いや……。あのな、チビ助。ここ子供が来るような場所じゃない。何処かにいる大人に間違って来てしまった事を言って謝ってろ」

 首を横に振って、ロウは彼なりに言葉を選んで少女───キリエラにそう伝える。

 

 そうして少女を振り解いて古代樹の森に向かおうとするが、今度は強い力で腕を引っ張られた。

 

 

「良い加減に───」

 良い加減にしろ。

 そう言おうとして振り向いたロウの視界に、少女ではない青年の姿が映る。

 

「まぁ、そう言うなって」

「───誰だ」

 短い黒髪。大きく開いた胸元に目立つ竜の骨を使った首飾り。

 

 4期団───にしては、少し若い。

 年齢は自分とあまり変わらないだろうからと、ロウは彼を同期(5期団)だと思いこう口を開いた。

 

 

「……あんたも5期団か。もう丁度良い、あんたで構わない。一緒に救助活動に来てくれ」

「いや、5期団じゃないけどな」

「……なんだ。すまない。4期団の先輩だったか」

 見誤ったと、ロウは短く会釈をする。

 

 すると青年は「あー、違う違う。俺は何期団でもないんだ」と両手を開いた。

 

 

「……はぁ?」

 目の前の少女と良い、到着早々変な奴ばかりに絡まれる。

 ロウは眉間に皺を寄せながら溜息を吐いた。

 

 

「俺は新大陸で生まれて新大陸で育ったからな。それで、今はここで調査班のリーダーをさせてもらってる。よろしく」

「え」

 調査班のリーダー。

 

 要するに偉い人である。

 まがいなりにも社会の波という物に揉まれていた経験があったロウは、表情を引き攣らせて背筋を伸ばした。

 

 

「……すみませんでした」

 直立から綺麗な直角。

 あまりにも見事なお辞儀に調査班リーダーとキリエラは目を合わせて笑ってしまう。

 

 

「い、いや頭を上げてくれ。あんた名前は?」

「……ロウ」

「ロウか。ようこそ、新大陸調査団調査拠点アステラへ。一人で古代樹の森に救助活動をしに行くのは危険だ。彼女───キリを連れて行くと良い」

「……は?」

 キリエラの背中を優しく叩きながら、調査班リーダーはロウにそう言った。

 何を言っているのか分からないロウは目を丸くする。

 

 

「彼女は立派な4期団の編纂者だ。きっと君の役に立ってくれる。俺は俺で救助活動に参加するから、二人もよろしく頼む」

「分かったよリーダー! さて、行こうかロウ」

「ちょ、待───」

 勝手に話が進んでいき、ロウが呼び止めるのも聞こえなかったのか、調査班リーダーは翼竜に捕まって何処かに行ってしまった。

 

 

「……ぁ、あぁ」

 表情を引き攣らせるロウ。

 

 しかし、このまま固まっている訳にもいない。

 

 

「それじゃ、よろしく! 相棒!」

 片腕を上げるキリエラを横目に、ロウは溜息を吐きながら支度を済ませて古代樹の森を目指す。

 無言で出発するロウを見て、キリエラは「無口だな」と首を傾げるのだった。

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