モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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大峡谷

 圧巻な光景が広がっている。

 

 

「───うっひゃぁぁ!! 見てくれアンワ!! ロウ君キリエラ君!! すっごいぞ!!」

 目の前に広がる光景に、興奮を隠しきれず声を上げるポット。

 

 大峡谷。

 連なる二つの山に挟まれた深い谷。物資班が辿り着いたのはそんな場所だった。

 

 

「……凄いな」

「圧巻だよねぇ。僕も初めて見た時は頭抱えたよ」

 峡谷は東西に気が遠くなる程続いており、迂回しても谷の向こう側に辿り着ける場所があるようには見えない。

 

「落ちたら登って来れないんじゃないかしら」

「だから向こう側にも行くのも難しいんだよね。あの先には陸珊瑚の台地っていう凄く綺麗な場所が広がってるらしいんだけどね」

「らしい? 誰かこの峡谷を超えて向こう側に言った人が居るのか? それとも、回り道があるのか」

 何かを思い出すように語るキリエラにロウが問いかけると、彼女は目を輝かせてこう口を開く。

 

 

「居るんだよねー、僕の師匠! フィールドマスターのおばさまが! おばさまはねー、凄いんだよ。気球船でこの谷を超えようとして行方不明になっちゃった3期団の人達を見付けてきたり! 僕達が行けるような場所でも色々な発見をしてきてるんだ!」

 これまで見たこともないような嬉しそうな顔でそう語るキリエラ。

 

 続けて話す彼女曰く───大峡谷は陸珊瑚の台地を一周するように囲っていて、その外と中を完全に隔てている為に独自の生態系が確立されているらしい。

 何故こんな場所が出来たのかは分かっていないが、この谷は一説によると超巨大モンスターが通った跡だとする説もあるのだとか。

 

 

「師匠、か」

「───あ、ごめん……」

 キリエラが話しているのを聞きながら、ふと漏らした言葉に彼女はハッとして謝罪をした。

 

 ロウは自らの師匠を失っている。

 そんな彼に師の話をするのは酷だったかもしれないと、キリエラは気まずそうに目を逸らした。

 

 

「……いや、良い師匠が居たんだな。納得だ」

「納得……? 何が……?」

「いや、別に。その、フィールドマスターってのは今何処に居るんだ? 俺も会ってみたいが」

「んー、師匠は先生や大団長みたいに忙しく放浪してるからなー。僕も一年くらい会ってない気がする」

「一年」

「一年」

「一年」

 目を丸くして聞き返すロウ。

 

 アステラはお世辞にも広いとは言えず、探さなくても会いたくない相手にだって会えるような場所である。

 それでも一年会っていないという事がどういう事なのか良くわからない。そのフィールドマスターという人物はその名の通り年単位で狩場でのサバイバルをしているとでもいうのだろうか。

 

 

「……心配にならないのか?」

「師匠なら大丈夫!」

 絶大な信頼の言葉にロウは関心の声を漏らした。

 

 危ない事はするな。

 そういう事ばかり言うキリエラがそう言うなら、大丈夫なのだろう。

 

 

「しかし! ここでゾラ・マグダラオスを捕獲する訳だね! うーむ、俄然楽しみになってきたよ!!」

「ここまで深い谷なら確かにゾラ・マグダラオスでも捕獲出来そうね。けれどあの巨体よりも深い谷、もしモンスターが作ったっていうならそのモンスターは何者なの?」

 積荷を下ろす片手間で、ポットとアンワがそんな会話をしていた。

 

 この世界には分からない事が沢山ある。

 調査団は今、その一つ一つを解き明かそうと前に進もうとしていた。ゾラ・マグダラオスの捕獲は、その第一歩なのだろう。

 

 

 

「───よーし、荷物を下ろしたら作業班とハンター二人を置いてアステラに戻るぞ! 物資運搬はこの一回じゃ済まないからな!」

 ゾラ・マグダラオスの捕獲には大量の物資が必要だ。

 

 それはアステラから大峡谷までを一周した程度では補えない。

 

 一向は作業班とハンター二人を置いて、早々に帰路に着く事にする。

 大峡谷はその特殊な環境故に大型モンスターは生息していない。しかし、荒地で古龍と思われるモンスターと遭遇してしまっては話は別だった。

 

 双剣とランス使いのハンター二人を置いて、物資班は再び物資を運ぶためにアステラへと帰還する。

 

 

 

 しかし、不安要素は杞憂に終わる事になった。

 

 

 物資班は後、護衛ハンターを増やしたが一度も交戦する事なく物資の運搬作業を終えたのである。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 アステラの調査司令部にはロウ達が遭遇した龍の事が報告されていた。

 

 

「……また、奴が現れたのか」

「じいちゃん、もしかして」

「いや、断言は出来ない。どうあれ、ゾラ・マグダラオスの捕獲は決行する」

 白髪を乗せた褐色の初老。彼こそは調査班リーダーの祖父であり、この調査団の総司令である。

 彼は決意の硬い表情で、作戦の続行を決めていた。

 

 ネルギガンテ。

 総司令はその名前を知っていて、独自に同期のハンターと調査を進めている。

 

 

 もし、かの龍が捕獲作戦中やその前に現れる事になれば、作戦の最大の障壁になる事は間違いない。

 

「……奴の目的はなんだ」

 会議の結果を知らせる為に走る孫の後ろ姿を見ながら、総司令は十年前───4期団が到着した時の事を思い出していた。

 

 あの時も、確か───

 

 

 

「───話してきたぞ、キリ。でも、作戦は続行だ」

「総司令ならそうだよねー。うん、僕も止めようとは思ってないけどさ」

 ネルギガンテの事を報告したキリエラとロウの元に帰って来た調査班リーダーは総司令の決定を二人に話す。

 

 調査団は古龍一匹に恐れを成す組織ではない。

 そもそも、その古龍であるゾラ・マグダラオスを捕獲しようとしている集団だ。障壁の一つ二つで止まるとは誰も思っていないだろう。

 

 

「気を付けてるだけで、色々変わる事はあるからね」

「でも、二人も他の奴も。その龍をしっかり見た訳じゃないんだよな?」

「うん。砂嵐の中だったからね。だから、もしかしたら僕達の知らない古龍だったのかもしれないし。なんなら古龍じゃなかったかもしれないし、夢か幻だったのかもしれないしね」

 あの緊迫した状況の中。

 

 もしも古龍程の気迫を持つ他の何かだったとすれば、物資班全員で勘違いを起こしていた可能性は否定出来ない。

 

 

「───だが、確実に何かは居た。荒地に入った時、メルノスが群れで飛んでいただろ? 確かにメルノスは臆病だが、よく考えたらディアブロスが暴れていたくらいで群れごと何処かに飛んで行こうとはしない筈だ」

「……確かに」

 ロウの言葉を聞いて、キリエラは荒地で見た()()のメルノス達の事を思い出した。

 そしてロウ達が交戦した傷付いたディアブロス亜種。

 

 あの場には確かに何かが居たのである。

 

 

「十年前とか、今になってゾラ・マグダラオスの痕跡の近くで見付かってる棘の痕跡も気になるよね。僕達も大蟻塚の荒地で似たような物を見つけたけど、導蟲が変な反応をしてたんだよ」

「辺な反応?」

「うん。なんかね、いつもと違って青い光を出してたんだ。緑とか赤とかなら見た事あるけど、青い光は初めて見た」

 調査班リーダーに、自分の虫籠を持ち上げて見せながらそう話すキリエラ。

 

 

「青い光、か。俺も聞いたが事ないな」

「調査班のリーダーが知らない、か。キリエラの気のせいなんじゃないか?」

「そ、そんな事ないと思うけどなぁ?  本当に青く光ってた、気がするんだけど」

 彼女がその光を見たのは、棘の痕跡から離れようとした時に一瞬だけだった。

 

 昼間なのにまるで夜空に光る星のような───青い星のような光を覚えている。

 

 

「……ともあれ、報告ご苦労だったな。物資班はまた直ぐに出発するんだろ? 護衛のハンターは倍に増やして、安全重視で進めていこう。アステラの守りを固める算段も立ってきたしな」

 ゾラ・マグダラオスの捕獲に必要なのは物資やそれを組み立てる作業だけではない。

 

 捕獲作戦の為に多くの調査団員がアステラを空ける必要があった。

 その場合アステラの守りが手薄になる。ゾラ・マグダラオスの捕獲が成功しても、万が一アステラがモンスターに攻撃されてしまえば調査どころではない。

 

 

 この為、調査班リーダーは優秀なハンターにアステラ付近に縄張りを定着させてしまったアンジャナフを討伐する任務を依頼したようだ。

 リーダー曰く、アンジャナフ討伐を依頼したハンターは件の空からやってきた5期団らしい。そのハンターの事はロウも知っていて、彼曰く心配する必要はないとか。

 

 

 そうしてゾラ・マグダラオス捕獲の準備は滞りなく進んでいく。

 

 

 物資の搬送。アンジャナフの狩猟。大峡谷での作業。そして───

 

 

 

「───間に合ったな」

 ───時は来た。

 

 見上げる程の空間に設置されたバリスタや大砲の数々。ゾラ・マグダラオスを足止めする為の砦。

 

 

 揺れる台地。

 それは、かの龍がこの地に接近している事を意味していた。

 

 

 

 青い光が空を覆い尽くす。

 

 

 新大陸古龍調査団決死の作戦が開始されようとしていた。

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