モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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夜明

 大峡谷の空は広い。

 その一面に広がる星々の光が、夜の峡谷を照らしていた。

 

 

「───首尾は」

 ゾラ・マグダラオスの捕獲。

 その作戦に必要な物資を運び、アステラの守りを固め、砦や大砲等の兵器をかき集め───

 

 突貫工事の末、調査団はゾラ・マグダラオスが到着する前に捕獲作戦の準備を完了する。

 

 

 大峡谷では時折短い地鳴りが響くようになっていた。

 

 それは、かの龍がこの地へと近付いている証拠だろう。

 

 

「夜明けと共に、作戦開始だ」

 順調に進む作業を眺めながら、総司令がそう声を上げた。彼の声に、作業を進める調査団達は最後の仕上げに入り始める。

 

 

「長丁場になりそうだな、じいちゃん」

「日暮れまでには終わらせるぞ」

 今、五十年にも渡る新大陸古龍調査団最大の作戦が決行されようとしていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 焚き火を囲み、ロウは空を見上げる。

 

 

「ボーっとしてるけど、どうかしたの?」

 片手で持ってきたマグカップをロウの眼前に差し出しながら、キリエラがそう問い掛けた。

 

 反射的にそれを受け取ってから、彼女の手にはマグカップが一つしかない事に気が付いてロウは少しの間固まる。

 

 

「いや、別に。……悪いな、お前のかコレ」

「まさか。ロウに持ってきたんだよ。この手では二人分持てなくてね」

 自分の義手を指差しながら半目で茶化すようにそう言って、彼女はロウの隣に座り込んだ。

 

「僕はさっき飲んできたから、良いよ。それに今から頑張るのはロウ達ハンターだし」

「そうか。……ありがとう」

 素直に受け取って、温かいミルクに口を付ける。夜の寒さに冷え込んだ身体が、中から暖かくなっていくのを感じた。

 

 

「新大陸に来て早々だが、まさかこんな事をやる事になるとはな」

「あはは。確かに、古龍の捕獲なんて凄い事しようとするよね。そもそも、この新大陸の謎を解き明かそうって集団の総大将のやる事だから、驚かないけどさ」

 笑いながらも、彼女は古龍の捕獲という行為を馬鹿にはしていない。

 

 きっと現大陸でこの話をすれば「そんな馬鹿な事」と罵られるだろう。

 

 

 しかし調査団はこの地の謎、古龍渡りの謎を解明しにやってきた者達だ。

 

 古龍の捕獲。

 そんな途方もない行為すら笑う者は居ない。

 

 

「成功すると思うか?」

「半々かな。分からない。けど、分からないからやるんだよ。多分ね」

「だろうな」

 実際。

 ゾラ・マグダラオスを捕獲出来るという確証はない。

 

 しかし、捕獲出来ないという確証もないのは確かである。

 

 

 誰も成し遂げた事がない、は誰も成し遂げられないではない。

 

 挑戦していない、成功していない、ただそれだけだ。

 

 

 

 

「僕はこの通り役立たずだし。見ている事しか出来ないけど、きっと悪い方向には進まない。ここに居る人達は皆優秀だからね」

「そうだな」

 その事は、新大陸に来た時から痛感している。

 

 

 一見何も考えていないように見えて頭の回るバカや、優秀なハンターの仲間達。

 そして小さくても、その知識と柔軟さでこの十年間新大陸の仲間達を導いていた少女。

 

 

「───お前の力が必要になる時も来るかもしれない。だからこの作戦、しっかりとその眼を光らせておいてくれ」

「……うん。それは、勿論。任せてよ」

「何か気付いたら頼むぞ。俺も俺に出来る事をする」

 ゾラ・マグダラオスの捕獲作戦にはハンターや技術者達だけではなく、編纂者達も参加していた。

 

 キリエラは特に何か役割をこなせる訳ではないが、編纂者の中にはボウガンを担ぐ者や大砲等の兵器運用を任されている者もいる。

 

 

 ポット達編纂者も混みで、5期団はほぼ全てが投入。

 

 それだけ、このゾラ・マグダラオス捕獲に掛けられた思いは強い。

 

 

 その時を待ち続ける調査団は、時折響く地鳴りの間隔が短くなってきている事に少し浮き足立っていた。

 

 

 

「……僕に出来る事、か」

 眼を細めて焚き火の火を見るキリエラ。

 

 彼女の義手は簡単な構造で、ただ何かに引っ掛けられるフックの着いた棒である。

 片側にスリンガーこそ着いているが、肘がない分操作は難しい。

 

 そもそも八歳で新大陸に来た彼女はハンターという訳ではなかった。

 しかし、偶に自分も狩人として調査団の役に立つ事が出来たらな───と、思う。

 

 

 

「───アレはなんだ? メルノスじゃない」

 ふとロウが峡谷に視線を向けると、それまで居なかった何かが峡谷の中を飛んでいるのが見えた。翼竜に見えるが、調査団の使役するメルノスには見えない。

 

 ロウでなければ双眼鏡でしか確認出来いような距離である。

 彼はキリエラに双眼鏡で峡谷を見てくれと目で諭すと、自らももう一度峡谷に視線を向けた。

 

 

 二、三匹どころではない。十数匹、あるいは数十匹。

 

 悪寒が走る。

 彼はその光景に見覚えがあった。

 

 

 

「……アレはバルノスかな。うん、メルノスじゃない」

「バルノス?」

「結構凶暴な翼竜だよ。……なんでこんな所に居───ロウ!? ちょっと待ってよどこ行くの!?」

 キリエラの言葉を最後まで聞かずに、ロウは焦っているように駆け出す。

 

 その先で調査班リーダーを見付けた彼は、息を荒げながらこう口を開いた。

 

 

「アレを近付けたら作戦は失敗する!」

「ロウ? キリエラも、どうしたんだ」

 突然声を上げるロウに驚いたリーダーは、肩で息をするロウにそう問い掛ける。

 

 日の出が近い。

 

 

 そんな中、狩人達に響めきが広がった。

 

 

「俺は現大陸でゴグマジオスという古龍の誘導作戦に参加した事がある。その時、一番狩人を殺したのはゴグマジオスよりも、イーオスやガブラスみたいな()()()()を食いに来た小型モンスターだ!」

 必死な声。

 

 

 ゴグマジオス。

 別名巨戟龍(きょげきりゅう)とも呼ばれ、その名の通りゾラ・マグダラオス等と同じ巨大な龍である。

 

 その全長こそゾラ・マグダラオスには遠く及ばないが飛竜等に追従を許さない巨体の持ち主ながら、俊敏に動く機動力と天をも貫く灼熱のブレスで出現地域にて多大な被害をもたらした。

 

 

 

 その龍を撃退する為、街の砦へと誘導する作戦。

 

 その作戦に参加していたロウは、かの作戦で起きた事を思い出す。

 

 

 

「───ゴグマジオスの攻撃で混乱した俺達はおこぼれを貰いに来た奴等に部隊を壊滅させられた。ゾラ・マグダラオスは人間を無視する古龍だと聞いているし、海の上でも実際にそうだったが……()()にそれは関係ない」

 古龍と呼ばれるモンスターにはその大小に関わらず、その場を通り過ぎるだけで周囲に甚大な被害をもたらす生き物だ。

 

 そしてその被害の()()()()を貰うために、古龍に追従する生き物も少なくない。

 

 

 ロウが口にしたガブラスというモンスターはその最たるもので、彼等は厄災の前兆とも言われている程である。

 

 

 

 遠目に胡麻粒のように見えるバルノス達がゾラ・マグダラオスが歩く道で被害にあった生態系を狙っているとしたら───

 

 

「アレをなんとかしないと、ゾラ・マグダラオス捕獲作戦どころじゃなくなる」

「ロウ……。分かった、そのゴグマジオスという古龍との戦いの経験を活か───」

 調査班リーダーが、ロウに指揮を取らせてバルノスへの対処を任せようとしたその時だ。

 

 

 

「───っぅ、ふぅ……な、なんだ? 導蟲が」

 突然走っていくロウを追いかけて息を切らしていたキリエラの視界に青い光が映り込む。

 

 それは彼女が荒地で見たという光に似ていて───

 

 

 

「わ……綺麗」

 思わずそんな声が漏れた。

 

 青い光の主───導蟲は、キリエラの虫籠以外の様々な場所からも飛び出して、地上に現れた星かのように夜の空を照らしていく。

 その光景は、今さっきまで必死な表情をしていたロウすらも瞬きを数回して固まってしまうような幻想的な光景だった。

 

 

 導きの青い星。

 そんな言葉を思い出した者も少なくないだろう。

 

 

 

「なんだ?」

「青い光───うわ!?」

 同時に。

 

 大地が揺れ、峡谷のある一点に導蟲の青い光が集まっていった。

 光はまるで花火のように突如赤色になって弾け、その光の花が咲いた場所から岩盤が割れていく。

 

 

 

「───来たか」

 誰かがそう言った。

 

 

 大地の割れ目から、山そのものが顔を覗かせる。

 

 まるで火山が形成されていくかのように、その巨大龍は地面の中から現れた。

 

 

 距離感が狂う程の巨体。

 

 他の龍にすら一切の追従を許さない圧倒的質量。

 

 

 この世界の理。古龍。

 

 

 

 ─── 熔山龍(ようざんりゅう)ゾラ・マグダラオス。

 

 

 

「……作戦開始!!」

 かの龍の出現と同時に、朝日が峡谷を照らし始める。

 

 

 総司令の号令が響き、ゾラ・マグダラオス捕獲作戦がここに開始されたのだった。

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