モンスターハンターArriving in New world【完結】 作:皇我リキ
その場所は地獄だった。
阿吽絶叫。阿鼻叫喚。
巨戟龍───ゴグマジオス。
かの龍の進行ルートを砦へと誘導する作戦。
ゾラ・マグダラオスもその類であるが、巨大龍は小さな人間を敵として認識しない事が多い。その為接近しなければ危険度は低いと予測されていたのである。
しかし、ゴグマジオスに関しては、それは大きく誤りであった。
誘導作戦開始後、ゴグマジオスは誘導班を照射型ブレスで攻撃。誘導班はほぼ壊滅する被害を受ける。
しかし、その被害はゴグマジオス一匹に齎された物ではない。
約五十名の勇敢なハンターの命を奪ったのは───厄災の使者ガブラス、ゴグマジオスの進行ルート上に縄張りを作っていたイーオス達だ。
おこぼれを狙っていた彼等は、ゴグマジオスの攻撃により混乱した部隊を襲い被害を最大まで拡大させる。
生き延びたロウにとって、その光景は地獄そのものだった。
☆ ☆ ☆
狩人達が忙しなく動く。
ゾラ・マグダラオスの出現までに捕獲作戦準備は完了していた。後は作戦を完遂するのみ。
そんな中、ロウは遠目に見付けたバルノスの迎撃任務に当たっている。
「───凄いなあんた! この距離で当てられるのか!」
接近される前に───そう判断し、ロウはそう何度も使える訳ではない狙撃竜弾をバルノス数匹に当たるようにして遠距離狙撃をやってみせた。
調査班リーダーの命でロウに預けられた数人のガンナーが歓声の声を上げる。
「……とはいえ効率が悪い。何匹居るんだ」
成果を素直に喜べないのは、バルノスの数が異常に多いから。
嫌でも過去にあった地獄のような光景を思い出して、ロウは舌を鳴らして目を細めた。
アレが近付いて来たら確実に被害が出る。近付かれる前に、なんとか数を減らしたい。
「わ、私のヘビィボウガンを使って下さい! 私のヘビィボウガンも狙撃竜弾が撃てるので……。私、狙撃! 下手なんで!!」
どうしたものかと悩んでいたロウの前に、一人の女性ハンターがヘビィボウガンを差し出した。
ロウは目を丸くするが、直ぐに彼女のヘビィボウガンを手に取って構える。
他人の武器は手癖が出て使いにくい。しかし、そうも言っていられる場合ではなかった。
「自信のある奴は当てれる距離で数を減らしてくれ。ここで出来るだけバルノスを減らす。良いな?」
「おう、任せろ! 俺達も良いところ見せようぜ!」
ロウの言葉に、周りにいた数名のガンナー達が威勢よく返事をする。
「……頼もしいな」
今さっき彼を誉めたヘビィボウガン使いの男は、パーティで古龍の撃退経験があるハンターだ。
彼にヘビィボウガンを渡した女性も、実はジエンモーランという巨大龍の撃退戦に参加した事がある。
この新大陸に集められたハンター達はそういった強者達ばかりだ。
そんな中、自分に出来る事を探してそれを成す。
それが今の彼等に求められている事だった。
「───それにしても、デカい」
狙撃竜弾を撃って、残りは通常弾丸で削ろうと自分のヘビィボウガンを構える。
そうしながら、ロウは進行するゾラ・マグダラオスの背中を横目で確認した。
距離感が狂いそうになる程の巨体。
かつてロウが対峙したゴグマジオスという龍も巨大龍と呼ばれるモンスターである。
しかし、それでも、ゾラ・マグダラオスの巨大さはゴグマジオスと比べる事すら出来ない。
ゴグマジオスはかの龍の脚一本くらいの大きさしかなかったのではないだろうか。実際にどうだったのかは覚えていないが、彼はその巨体を見てそう思う程気が遠くなっていた。
この龍を今から捕獲する。
ロウ達はバルノス達が本隊を襲うのを防ぐ為に少し進行して、ゾラ・マグダラオスの背面に着いていた。
今この時も、ゾラ・マグダラオスの真横や正面付近ではかの龍の足止め作戦が実行されている。
幸いゾラ・マグダラオスが調査団に敵意を向けているようには見えないが、それでもその質量そのものが捕獲作戦の一番の難所だ。
自分に出来る事を。
そう言って、キリエラと別れた時の事を思い出す。
「ロウ!」
「俺はバルノスをなんとかする。キリエラはゾラ・マグダラオスを!」
そう言って目に付いたガンナーを片っ端から集めるロウを尻目に、キリエラは「さてと……」と周りを見渡した。
既に狩人達はゾラ・マグダラオスへの攻撃を開始している。
当たれば一撃で飛竜をも葬る大砲に、高威力の弾丸の他にも拘束弾を装備したバリスタ。
場合によってはメルノスに乗ってゾラ・マグダラオスの背中に乗る手筈まで整えられているが、大砲の弾が直撃しようがかの龍は身じろぎ一つする様子がなかった。
「……お、思ってたより大きいな」
唖然とする。
もはやソレは人が踏み入れる事の出来ない領域なのか。
かの龍との間には人がその知識の結晶を叩き込んでも破れない壁があって、人の攻撃は実際に届いていないのではないかと思ってしまった。
「───けど、思った通りだ」
───けど、そんな事はない。
かの龍は岩のような外郭を持ち、その名の通り山のような巨体を持つ。
大砲が直撃して外郭が多少消し飛んでも、かの龍は怯むような仕草すらみせない。
何故か。
「あの外郭は殆ど体組織じゃないんだ。森や荒地に落ちていた痕跡もそうだけど、もうそれはあの龍の体表にくっ付いてるだけの岩。……削っても本体に大したダメージはない」
ゾラ・マグダラオスを形成するその外郭の殆どが、体表を覆い尽くした岩石で覆われているとすれば───大砲が直撃してもダメージがないように見えるのは当たり前だ。
人でいうなら防具に石ころが当たっているだけに過ぎない。衝撃により多少のダメージはあるかもしれないが、その程度だろう。
ゾラ・マグダラオスの体力を削り、捕獲するには、他のアプローチが必要なのは明確だった。
「───じゃあ、それはなんだ。あの子が生き物の範疇にあるなら、どこかに
双眼鏡を除いてゾラ・マグダラオスを観察する。
見れば見る程、その外郭は殆どが岩だ。
話によれば5期団のハンターが持ち上げられた船から落ちてゾラ・マグダラオスの背中の上を走り回ったのだとか。
人が安定して立てる程にしっかりとした岩で外郭を包み込んだ龍に、どうしたらダメージを与えられる。
そう考えながら双眼鏡を覗き込むが、視界に入るのは岩だけだった。
「なんだ?」
しかし、ふとゾラ・マグダラオスがその巨体を身じろぐ。
大砲の一撃が効いたのだろうか。
キリエラが居る場所からは、何が起きたのかハッキリ分からない。
「んー! デカい! ゾラ・マグダラオス! デカい!」
距離感が狂いそうになる程の巨体。
観察しようとしても、どうも全体を見る事が出来ない事にキリエラは目を細めた。
「キリエラ君! こんな所に居たんだね! 何か困り事かい?」
そうして悩んでいたキリエラに、ポットが声を掛ける。
「あ、ポット君。キミはむしろ何をしてるの?」
「バリスタが下手過ぎて同期に散歩でもしてろと言われてしまってね! 散歩中なんだ!」
「ドウシテ」
彼はバリスタを担当していたのだが、あまりにも下手くそだったので同期のハンターに席を取られてしまったところだった。
人間誰しも得意不得意がある、と彼は語る。
「おや、厄介なのが来たね」
ふと空を見上げたポットの視界に、バルノスの姿が映った。
ロウが見付けた時は無数にいたバルノス達だが、迎撃部隊が上手く数を減らしてくれたのだろう。
そうでなければ、今ここは無数のバルノスに襲われていた筈だ。取りこぼしが少ない訳ではないが、充分な戦果に違いない。
「流石だね、ロウ。……そうだ! ポット君、ちょっと援護してね!」
「え? 何をする気だい?」
ポットの顔を見て、思い出したような顔で足元に落ちている石ころを拾うキリエラ。
彼女はそれを義手に付いている小型のスリンガーに装填して、空を飛んでいるバルノスに肩から狙いを定める。
「ごめんねー!」
言いながら。
彼女は石ころを射出して、ポットが荒地でメルノスにやったように、石ころで怯んだバルノスの脚に向けてスリンガーで縄を括り付けた。
空を飛ぶバルノスにぶら下がりながら、彼女はゾラ・マグダラオスを上から見下ろす。
「キリエラ君!?」
「これなら見やすいね。……おっと」
バルノスは大人しい性格ではない。
なんなら今から襲おうとしていた人間を吊り下げたまま飛ぶのも不本意に思っている筈だ。
キリエラを振り落とそうと暴れ回るバルノスだが、キリエラは起用にバランスをとってゾラ・マグダラオスを観察する。
かの龍よりも高くから、その全貌を見渡した彼女の瞳に映る命の灯火。
その巨体に相応しい、まるで火山の火口のような光を見てキリエラは確信した。
「───そこか」
「キリエラ君! もう一匹来たよ!」
ポットが叫ぶ。
空に浮いている不自然な人間を見付けて、他のバルノスが襲い掛かろうとしていた。
「ありがとポット君!」
言いながら、キリエラはスリンガーの縄を外して飛び降りる。
「うわぁぁぁ!? キリエラ君!?」
空高くから飛び降りてくるものだから、ポットは焦って彼女を受け止めようとし───彼女に踏み潰された。
「痛い!!!」
「わ!? ごめん、ポット君……。大丈夫?」
彼女としては安全に着地するつもりだったので、ポットが受け止めてくれようとするとは思っていなかったのである。
踏み潰してしまったポットに謝罪するキリエラに「問題ないよ! 僕は頑丈だからね!」と彼は起き上がった。
「それで、何か見付けたのかい?」
「うん。見付けたよ! ゾラ・マグダラオスの弱点!」
何かを探しているようだったキリエラにポットがそう聞くと、彼女は自信満々な表情でそう声を上げる。
同時にゾラ・マグダラオスへ単発式拘束弾が放たれ───捕獲作戦は中盤へと差し掛かろうとしていた。