モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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熔山龍

 龍を捕獲したという事例は今現在確認された事はない。

 

 龍はこの世の理から離れた存在なのだから、この世の理の内に居る我々人間が干渉する事等出来る筈がない───そう語る者も居る。

 

 

 しかし、龍を討伐したという事例は少なくない。

 

 近年では狂竜ウイルスによりバルバレ周辺の生態系に多大な影響を与えたシャガルマガラ、高速で広範囲に飛翔し周囲の村を危険に陥れたバルファルク、ドンドルマへと襲来したゴグマジオス等の討伐は調査団なら誰もが知る程に有名な話だ。

 

 

 それは有名な話であって、龍の討伐や撃退なら数えられない程の物語がそこにはあるだろう。

 龍はこの世の理から離れた存在ではない。

 

 ならば、何故、龍を捕獲した事例が確認されていないのか。

 

 

 誰も成した事がないからだ。

 

 誰も成そうとした事がないからだ。

 

 

 龍は確かにこの世の理から離れていると言いたくなる程に圧倒的な存在である。

 

 この世界の生態系から外れているというだけなら間違っていないかもしれない。

 そんな途方もない存在を捕獲しようとは誰も思わなかった。だから、成功例がないだけなのだ。

 

 

 

 しかしこの地に集う者達はそうは思わない。

 

 彼等はそんな途方もない存在と戦った事がある。龍と邂逅した上で生還し、今ここに生きているのだ。

 彼等は龍が生き物だという事を知っている。その息が荒くなる事を知っている。その心臓の鼓動が止まる事を知っている。

 

 

 

「いや、しかし! 一生に一度会えるか会えないかと言われている古龍の捕獲作戦とは! 僕の人生は凄い確率だな!」

 以前そう言うポットに、ロウが言っていた言葉をキリエラは思い出した。

 

「───知ってるか。その、一生に一度会えるかどうかって話はな……古龍に会えたらソイツは基本死ぬからそう言われてるんだ。ギルドがそうならないように配慮してるってのもあるが」

「怖!!」

 彼の言う通り。

 

 

 そして殆どの狩人がそう思う通り。

 

 

 龍は途方もない存在である。

 

 

 

 しかし、龍は生き物だ。他の生き物のように弱点もある。その心臓の鼓動は止まる。

 

 

 ならば捕獲出来ない道理があるだろうか。否───その答えは、その先を見た者だけが知っていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 捕獲作戦は佳境を迎えている。

 

 

「───ゾラ・マグダラオスの弱点?」

「うん! あの子の身体、アレはマグマみたいなのが固まって出来た鎧って感じなんだと思う。だから、あの岩みたいな外郭に攻撃してもちゃんとしたダメージは入らないんだ」

 調査班リーダーの元に駆け寄ったキリエラは、さらにこう続けた。

 

 

「それで、さっきバルノスにぶら下がってあの子を上から見たんだけど」

「バルノスにぶら下がって」

「バルノスにぶら下がって」

「なんでそんなに危ない事を───」

「それで! 見付けたんだよ! あの子───ゾラ・マグダラオスは体内の熱エネルギーをマグマみたいに吹き出して岩石の鎧を構成していく器官がある。その器官だけは、岩の鎧じゃない筈だからダメージも通る筈でしょ?」

 ゾラ・マグダラオスの背中を指差しながらそう言うキリエラの言葉に頷きながら、調査班リーダーはかの龍の背中に熱せられて光る部分が数ヶ所あるのを確認する。

 

 同時に、単発式拘束弾によるゾラ・マグダラオスの拘束が解かれた。

 かの龍は眼前の第一障壁をあってもないような物だとでも言うように、簡単に突破してみせる。それこそ体力の減少が不十分という証だ。

 

 

「キリ、良くやった! そこを攻撃すれば、ゾラ・マグダラオスの体力を削れそうだな! よし、じいちゃん!」

 調査団は仮にそれを()()()()と呼称。

 

 

 ゾラ・マグダラオスが第二障壁へと到着する前に、その体力を出来るだけ削る作戦が実行される。

 

 

 

「───キリエラ、アレの捕獲は?」

「一回目は失敗。体力を全然削れてなくてね。でも、第二障壁の前での捕獲に向けて、今リーダー達があの子の背中に乗ってるよ! ロウがバルノスを減らしてくれたから、順調に行けそうだ」

 バルノスへの対応を終えたロウは合流して、作戦の現状をキリエラに聞かされた。

 

「取りこぼしはあったが……。被害は抑えれそうだな」

 ハンター達は今ゾラ・マグダラオスの背中で排熱器官を攻撃している。

 もしバルノスの数がもっと多ければ、ゾラ・マグダラオスに取り付く事は難しかったかもしれない。ロウ達がバルノスの対処を早めに行えたのが大きかった。

 

 

「俺達はバリスタと大砲で援護だな! ガンナーの底力、見せてやろうぜ!」

 一人のガンナーがそう意気込んで近くの兵器に並んでいく。

 

 ロウはそれに倣うようにバリスタの弾を拾うと、その弾丸をハンターが狙いにくい位置にある排熱器官へと叩き付けた。

 

 

「キリエラ、一発ずつで良いから弾を持ってきてくれ」

「了解!」

「僕は! 僕はどうしたら良い!」

「誰だお前」

「ポットだよ!! ポット・デノモーブ!!」

「ポッとでのモブ……?」

「そうそう! いや! イントネーションがなんかおかしいけど!! そう!!」

「何バカやってんのポット君。はい、ロウ! バリスタの弾」

「助かる。……おいバカ。お前の相棒は?」

 ロウに聞かれて、ポットは無言でゾラ・マグダラオスの背中を指差す。

 

 彼の相棒───アンワは今ゾラ・マグダラオスに取り憑いて排熱器官を攻撃中だ。

 彼が手持ち無沙汰なのは見て分かる。

 

 

「分かった。キリエラ、交代」

「僕の仕事が!」

「お前はゾラ・マグダラオスの観察に集中した方が良い。ポット、弾」

「これかい!」

「それは大砲の弾───軽々しく待つな、お前」

 キリエラの腕ではバリスタの弾を持つのが精一杯だが、ロウが大砲ではなくバリスタを使う事を選んだ理由は他にあった。

 

 

「え? そんなに重くないよ、これ」

「……そ、そうか」

 大砲の弾は重い。

 

 それがヘビィボウガンより重いかと言われればそうではないが、そもそもロウがヘビィボウガンを担ぐ理由が己の筋力に自信がないからである。

 自分の腕力で叩きつけなければならない大剣やハンマーと違い、ヘビィボウガンは引き金を引けばその威力を発揮出来るからだ。

 

 だから、ロウは大砲を使おうとは思わなかったが───

 

 

 

「よし、お前は弾を込めろ。キリエラ、大砲が効率良く効きそうな場所を教えてくれ。……俺は当てる」

 ───ポットが思ったよりも腕力があるなら話は別である。

 

 ポットが弾を運んで、キリエラが当たる場所を選んで、ロウが当てれば良い。

 命中制度の低い大砲だが、ロウはそういう事には自信があった。

 

 

「僕が役に立つ時が来たようだね! 任せてくれたまえ!」

「おー、頼りになるねポット君! よーし、頑張るぞー!」

 自分に出来る事を最大限に発揮する。

 

 

 ──君は誰かと居なさい──

 

 あの時の師の言葉の意味が、ロウの中で鮮明になった気がした。

 

 

 

 

 バリスタや大砲による攻撃と、取り付いたハンター達による排熱器官への攻撃でゾラ・マグダラオスの体力は順調に削られているように見える。

 

 

「───おいおい立ち上がったぞ!?」

「───海の中じゃないんだぞここは!!」

 しかし途中、かの龍は信じられない事に陸上でその巨体を持ち上げて二本足で立ち上がった。

 かの龍がこの地に上陸した時、自身の背中に調査団の船を乗せたまま海中で立ち上がる姿は確認されたが───それは浮力の影響する海中での話である。

 

 

「で、デカいな……」

 四足歩行をしていた時ですら狂いそうになっていた距離感がさらにおかしくなりそうだった。

 ここが峡谷でなければ、ロウ達は天を見上げる事になっていただろう。山が動いているというのが、もはや比喩表現ですらなくなってしまったようだ。

 

 

「乗ってた奴ら大丈夫か?」

「上手く動いてくれてるみたいだよ。ただ、あのままじゃ単発式拘束弾も効かないかもしれない。僕達は後脚を狙ってゾラ・マグダラオスをまた四足歩行にさせよう」

「後脚か、分かった」

 尻尾があるとはいえあの自重を二本の脚だけで支えられる事には驚きだが、後脚に負担が全くない事はないだろう。

 

 ロウ達はバリスタや大砲でゾラ・マグダラオスの脚への攻撃を開始した。

 

 

 

 吹き荒れる爆風、風を切る弾丸。

 

 小国一つなら落とすのに充分な程の火力が、一つの命にぶつけられる。まるで人と自然の戦争だ。

 しかし、岩盤をも砕くバリスタも、一撃で竜の命を屠る大砲も───かの龍は虫に噛まれた程度の反応しか示さない。

 

 それでも確実に、狩人達は───調査団はゾラ・マグダラオスの体力を奪っていく。

 

 まるで、本当に山を攻撃しているような感覚だった。本当はそこには火山があって、命なんてなくて、文字通り雲を掴むような事をしているのだと。

 

 

 

 ───しかし、そうではない。

 

 

 

「ゾラ・マグダラオスが……!」

 かの龍は二足歩行を辞め、唸るようにして第二障壁の前で立ち止まった。

 

 つい先程あってもないようなものだと言わんばかりに破壊したものと大差ない障壁を前に、ゾラ・マグダラオスが初めてその歩みを止めたのである。

 それはかの龍の体力を充分に削ったという証だ。

 

 大自然そのものとすら言われた龍の命を削り切った証。

 

 

「よし! 拘束を開始する! 単発式拘束弾用意!!」

 そして、ここからが本番である。

 

 総司令の命令で、各自持ち場の者達が単発式拘束弾を用意してその時を待った。

 かの龍は疲労からか、障壁を破壊する事が出来ずに脚を止めている。

 

 

 確実に、ゾラ・マグダラオスは弱っている筈だ。

 

 

 

「拘束弾用意───撃て!!!」

 放たれる。

 

 古龍を捕獲する作戦。その成否が問われる一撃が放たれた。

 

 

 

「ねぇ、ロウ! アレ!」

「なんだ……アレ。いや、アレは───」

 その傍で───

 

 

「───古龍」

 ───古を喰らう龍がその地に降り立つ。

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