モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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乱入

 現大陸で奇妙な報告がされた事がある。

 

 

 ドンドルマ周辺に現れたゴグマジオス。

 そしてその巨龍を追うようにして、一匹の龍がその周辺に現れたというのだ。

 

 超常的な力を持つ古龍種は、それを自覚しているかのように滅多な事がなければお互いに干渉しようとはしない傾向があると思われている。

 しかしその龍は、ゴグマジオスに自ら干渉しようとしていた可能性があったという報告だ。

 

 

 龍はゴグマジオスとの接触前に討伐されたが、その目的は明らかになっていない。

 

 

 かの龍と対峙したハンターはこう語る。

 

 

 ───まるで、何かを探していたようだった。

 

 

 理由は分からない。

 しかし、間違いなく、その龍の意識にゴグマジオスがあったという事だけは確かだったと語られている。

 

 

 

 その龍の名は───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ───ネルギガンテ。誰かがそう言った。

 

 

「総司令!」

「アレは……」

 ゾラ・マグダラオス捕獲作戦。

 

 かの龍が第二障壁の前に辿り着き、今まさに単発式拘束弾による古龍の捕獲が遂行されようとしている。

 ゾラ・マグダラオスの体力は排熱器官への攻撃で充分に減少していた。

 

 このまま拘束し、一時的に捕獲したゾラ・マグダラオスを調査する。それが今回の作戦による調査団の目的だ。

 

 

 

 ───しかし、ゾラ・マグダラオスを拘束した直後。峡谷の上空から黒い影が舞い降りる。

 

 それはゾラ・マグダラオスの背中に着地すると、一対の翼を広げて空気を振るわせる程の咆哮を放った。

 

 

 

「あのモンスターは!」

「ロウ、アレってもしかして……」

「荒地に居た奴なのか……。なんでこんな所に」

 捕獲作戦の為、荒地を超えてこの大峡谷に物資を運ぶ最中。ロウ達は砂嵐の中一対の角と翼を持つ龍を目撃している。

 

 あの時は砂嵐の中でしっかりと姿が見えなかったが、間違いない。その龍は、あの時の龍だとロウ達は確信した。

 

 

 二本の角に、強靭な四肢と翼。

 遠目にディアブロス亜種の影と見間違えるそれらの特徴は、砂嵐の中でみた影に酷似している。

 

 

 あの時、その龍は何かを探しているようにも見えた。

 今なら分かる。あの龍は───

 

 

 

「まずい、暴れ出したぞ」

「このままだとマグダラオスの拘束が解かれてしまう!」

 龍はゾラ・マグダラオスの背中の上で暴れ始めた。

 

 総司令やリーダーの命令で、ゾラ・マグダラオスに取り付いていたハンター達が直ぐに応戦に向かう。

 あの龍が暴れ続ければ、拘束弾がその余波で外れてしまうかもしれない。そうなれば、体力を回復したゾラ・マグダラオスは今すぐにでも第二障壁を突破してしまう可能性もあった。

 

 

「アイツを止めろ!」

 ロウ達とバリスタを使っていたハンターの声で、周りのハンター達も対応に当たっていく。

 

 

「なんで……なんでこんな所に……」

「……ロウ? どうしたの? ロウってば!」

「古龍が……」

 しかし、そんな中でロウだけが動けないでいた。

 

 

 新大陸古龍調査団は古龍を過剰に恐れる事はない。

 その殆どがかの龍の事を知らなくても、勇敢に立ち向かおうとしている。このゾラ・マグダラオスの捕獲作戦を成功させる為に戦っていた。

 

 しかし、ロウだけは、動けないでいる。

 

 

「ロウ!!」

「───っ、いや。悪い」

 その手は震えていた。

 

「ロウ、もしかして……」

 キリエラは大蟻塚の荒地での事を思い出す。

 

 

 あの龍が去った後。

 物資班を纏めながら、ポットを揶揄っていたロウの姿。

 

 しかし、そんな彼の手はあの時も震えていた。

 

 

 

「……怖いの?」

「……ち、違う。そんな事は!」

 ふと漏れたキリエラの言葉を、ロウは冷や汗を流しながら否定する。

 

 

「お、俺は古龍調査団だ。怖い訳がないだろ」

 言いながら、ロウはヘビィボウガンを背中から下ろして構えた。

 

 彼の狙撃技術なら、ゾラ・マグダラオスの背中の上で戦っているハンターを避けて弾丸を叩き込む事も出来るだろう。

 しかし、ロウは構えるだけで引き金を引かない。

 

 

「……もし、アイツがこっちに来たらどうする?」

 ふと漏らした彼のそんな言葉に、キリエラは確信した。

 

 

「ここに居るハンターであの龍を撃退出来れば、多分ゾラ・マグダラオスの捕獲は成功する。むしろ、そうなってくれた方が僕達にとっては都合が良いと思う」

「キリエラ、ポットと一緒に安全な場所まで後退してくれ」

「ロウ……」

 彼は怖いのだろう。

 

 古龍が。

 否、古龍にまた何かを奪われるのが。

 

 

「いや、そもそもなんで古龍が二匹も集まってる。古龍渡りと何か関係があるのか。まさか他にも居る? ならダメだ……キリエラ達を誰が守る。俺はこんな事してる場合か? あの古龍は何かを探しているようだった。ゾラ・マグダラオスの目的も分からない。ここに居るのは危険か。二人だけじゃない、皆が危ない。作戦は中止して撤退を、いや……他に古龍が居たらどうす───」

「ちょ!! ロウ!! 落ち着いて!! 落ち着いてって!!」

 まるで目の前が真っ暗になって何も見えなくなった子供のように、ロウは体を痙攣させながら頭を抱えて蹲った。

 

 脳裏に映るのは血と炎の赤と霧、人の肉が焼ける匂い、人々の悲鳴。

 頭の中を掻き回すような残酷な記憶。

 

 まるでこの世界から音が無くなったかのように感じる。聞こえるのは記憶の中の声。蹲った彼の視線の先にあるのは、地面に透けて見える地獄のような光景だけ。

 

 

「ロウってば……!!」

 キリエラは、ロウが自分を助けられなかった姉だと思っていた。

 

 

 十年前、もし姉が自分の事を助けられなかったら───

 

 きっと彼女は苦しむだろう。自分がそうであるように、姉も自分の事を愛していてくれた事を知っている。

 

 

 大切な人を守れなかった。

 キリエラはそういう人達の気持ちを、分かっているつもりでいたのである。きっと姉はこう考えた筈だと。けれど───

 

 

 

「ロウ……」

 取り乱すロウを見て、キリエラは自分が間違っていた事を思い知らされた。

 

 ───そんな程度の物ではない。

 

 

 大切な人を守れなかったという後悔と懺悔の気持ち。

 そして、今まさに目の前に現れた龍によって悲劇が再現されるかもしれないという恐怖。

 

 

 もし姉が生きていて、あの時自分が死んでいたら。

 

 

 姉もまた、こうして蹲っていたかもしれない。

 

 

 

「キリエラ君、彼を安全な場所に。僕に何か出来る事はあるかい?」

「え、あ、えーと……。あの龍の事やゾラ・マグダラオスの事ちゃんと見てて欲しい! うん、僕はロウを連れて行く」

 このまま蹲っているだけなら、ロウは作戦の邪魔になってしまうかもしれない。

 キリエラはその小さな体でロウに肩を貸して、なんとか近くに設置したベースキャンプへと向かう。

 

 

 二人の動向に関係なく、捕獲作戦は佳境を迎えた。

 

 

 ゾラ・マグダラオスの背中の上で暴れる一匹の龍。その余波で拘束弾が外れていき、ゾラ・マグダラオスの体力も回復して行く。

 優秀なハンター達の力で犠牲こそ出さずに立ち回るが、龍は執拗にゾラ・マグダラオスから離れようとはしなかった。

 

 

「───撃て!!」

 バリスタの一斉射撃。

 

 ゾラ・マグダラオスの体力を削る為ではなく、取り付いた龍への攻撃が放たれる。

 バリスタの威力は絶大だ。しかし龍は、傷口を再生させる程の生命力を見せ付けハンター達の攻撃を意に介さずにゾラ・マグダラオスの背中の上で暴れ回る。

 

 

 そして、その末───

 

 

 

 

 地鳴りが響いた。

 

「落ち着いた?」

「……すまない」

 キリエラから紅茶を受け取りながら、ロウはそれに口を付けずにただ黙り込む。

 

 大峡谷に仮設置されたベースキャンプ。

 ロウはそこで座って、外から聞こえて来る音に時折身体を痙攣させていた。

 

 

「……すまない」

「そんな何度も謝らないでよ。ロウが辛いのは僕も分かる。どれだけ辛いのかだけは分からなかったから、僕はロウをここに連れてきてしまった。……ごめんね」

 座っているロウと視線を合わせて、キリエラはゆっくりと言葉を選びながらロウの頭を撫でる。

 年下の女の子にそうされるのをロウはいつも嫌がるが、今はその手を振り解く元気もないようだった。

 

「……俺は、怖いんだ」

「うん。分かるよ」

「古龍が怖い。いや、古龍に大切な人達を奪われるのが怖い。……俺は独りで死ぬつもりでここに来た。なのに、また大切なものが出来てしまった。お前も、ポットも、仲間のハンター達も。死んで欲しくない。死なせたくない。怖い。誰もいなくならないで欲しい。もう嫌なんだ」

 蹲って、声が漏れる。

 

 

「……大丈夫。大丈夫だよ、ロウ。僕はここに居る。ポット君や他のハンター達も、皆ちゃんとここに居る。大丈夫、大丈夫だからね」

 言いながら、キリエラは彼をその小さな胸の中に抱きしめた。

 

 暖かい。

 それを失うのが怖い。

 

 

「……俺は、調査団に向いてない」

「そんな事───」

「キリエラ君!」

 ベースキャンプの中にポットが入ってくる。気が付けば、外の喧騒は信じられない程に静かに収まっていた。

 

 その理由は一つしかないだろう。

 

 

「……作戦は? ゾラ・マグダラオスは?」

 顔を上げたロウはそう言って、キリエラはポットの口から出て来る答えが予想出来て視線を逸らした。

 

 

「……失敗だね。あの龍は何処かに行ってしまったけど、第二障壁は壊されてゾラ・マグダラオスは峡谷の奥深くに向かってしまった。追跡は出来ない」

 死人こそ出さなかったが、時間と体力、そして大量の資材を使い果たした調査団が同規模の作戦を行うのは困難だろう。

 

 

 

 人類史上初の古龍───ゾラ・マグダラオス捕獲作戦は、一匹の龍の乱入により失敗に終わったのだった。

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