モンスターハンターArriving in New world【完結】 作:皇我リキ
猛烈な風圧が陸珊瑚で出来た地面を抉った。
下手をすると自分の
その風は自然なものではなく、モンスターが発生させたブレスだった。
「キリエラだったら吹っ飛んでるな……!」
目を細めながらなんとか持ち堪えたロウは、強がりを吐きながら地面を蹴って転がる。
刹那、今しがた彼が立っていた場所を巨大な白が踏み潰した。
人が二人並んで寝れそうなフカフカの白い丸。
しかしそれは柔らかいベッドではなく、竜の頭が着いた鈍器である。
浮空竜───パオウルムー。
空気を吸い込んで喉を膨らませ、自身を浮遊させる事が出来る程の肺活量が特徴的な飛竜種だ。
「やはり降りてこないか。自分のテリトリーで戦うのは賢い選択だし、ガンナー以外だと苦労するというのは納得だな」
このパオウルムーは今ロウが一人で相手をしている。
数日前、三人のハンターが資材会得の為パオウルムーに挑戦したが、その飛行能力に文字通り手も足も出せず撤退を余儀なくされた。
ゾラ・マグダラオス捜索の為、人員の限られるパオウルムー討伐クエストに対して挙手をしたのはロウではなくキリエラである。
曰く「ロウなら一人でもパオウルムーの討伐くらい出来るよ。こっちは任せて欲しい!」なんて啖呵を切って来たらしい。
「重い責任を押し付けやがって……!」
愚痴を零しながら、ロウは浮遊するパオウルムーに銃口を向けた。
的がデカい分、この近距離では狙いを定める必要もない。引き金を引くと、放たれた弾丸はパオウルムーの頭部を抉ってその巨体がひっくり返る。
浮遊しているが故に上下左右もないその身体に銃弾が叩き付けられる度に、パオウルムーは空中で何度もひっくり返された。
このままでは不味いと、溜めた空気を吐き出して地面に落ちるパオウルムー。
起き上がる竜に、ロウは容赦無く徹甲榴弾を撃ち込む。
破裂音。
やっと地面に脚を付ける事が出来たかと思えば、今度は頭が揺れて地面の上でひっくり返るパオウルムー。
ヘビィボウガンの火力は絶大だ。
故にロウはこの武器で近距離戦をこなす時、まずは自分のペースを作る事を意識する。
射撃をしている時はその火力故に一方的に攻撃をする事が出来るが、ボウガンは弾を装填しなければ発射できない。
そのリロードの隙をいかに減らして、自分が攻撃する時間をいかに増やすか。
これがヘビィボウガンという武器を使う時にロウが気にしている事だった。
「───弾切れか」
装填した徹甲榴弾を撃ち尽くすと、パオウルムーは爆煙の中から怒りに満ちた眼光をロウに向ける。
ここからは相手のターンだ。
ロウは冷や汗を流しながら、弾丸を装填する隙を探る。
「懲りずに飛ぶな……。俺が攻撃出来ない事が分かってるのか?」
空気を吸い込み、再び空へと舞い上がるパオウルムー。
飛行よりも自由が効くパオウルムーの浮遊は、翼を羽ばたかせる必要がなく攻撃に集中出来る事が強みだ。
パオウルムーはロウの頭上から風を叩き付け、両脚で蹴り飛ばそうとしてくる。
弾丸を装填している暇はない。ロウは回避に徹して、パオウルムーはそれを分かっているかのように執拗に攻撃の手を緩めなかった。
「……くそ、ジリ貧だ」
武器を背負う暇もなく、ロウは何度も地面を転がる。攻撃を避け切れず、なんとか衝撃を和らげるので手一杯だ。
なんとか隙を見付けてリロードさえ出来れば、浮いているだけのパオウルムーに弾を当てるのは容易い。
しかし、クエストを始めてからその隙を見付けるのがどうも一苦労である。
「ロウ!!」
「はぁ!?」
そんな時、聞き覚えのある有り得ない声が耳に届いた。
「何で来た!!」
「ハンターの助けをするのが編纂者の仕事! さー、キミ! こっちを見ろ!」
言いながら、キリエラは左肩をパオウルムーに向けた。
義手に装着されているスリンガーから放たれた石ころが直撃し、パオウルムーは苛立ちの表情を見せながらキリエラを睨む。
「今!!」
「馬鹿野郎、危ない事を……!」
文句を垂れるが、パオウルムーの意識がロウから離れた事は確かだった。
ロウはすかさず通常弾を装填し、その銃口をパオウルムーに向ける。
当のパオウルムーは石ころをぶつけて来たキリエラに怒って、彼女の小さな身体を踏み潰さんと脚を向けようとしている所だ。
「うげ!? キミ浮いてるだけなのに早いね!?」
「お前の相手は……こっちだ!!」
引き金を引く。
放たれた弾丸はパオウルムーの足を弾いた。続いて二発。尻尾と背中に通常弾を叩き付けると、パオウルムーは再び空中でひっくり返る。
「キリエラ! 離れろ!」
「え? あ、うん!」
言いながら、ロウは再び装填出来るだけ弾を詰め込んでパオウルムーに通常弾を叩き込んだ。
空中で何度も弾かれるパオウルムーが遂に地面に落下する頃には、その身体はボロボロになっている。
「……悪いな」
そんなパオウルムーの眼前に立ち、眉間に銃口を向けたロウは溜息を吐きながらその引き金を引くのだった。
☆ ☆ ☆
アステラ。キリエラとロウの部屋。
「───だから謝ってるじゃないかぁ……。そんなに怒らないでよ!」
「……怒ってない」
「怒ってる!」
パオウルムー討伐のクエストから帰ってきた二人は、部屋で言い争いをしている。
「じゃあなんでこっち向いてくれないのさ!」
「……なんでも良いだろ」
───と、いうよりはキリエラが何故かロウに避けられてそれを問い詰めている所だ。
「良くないよ! もう、ご飯食べようよ。クエスト頑張ってお腹減ったでしょ?」
「……要らない」
「なんだこの子、面倒くさいな!! 僕はキミのおかあちゃんじゃないんだぞ!?」
「面倒くさい!?」
ついにキリエラが怒ると、ロウは涙目になって振り向く。まさか泣くとは思っていなくて、キリエラは「ご、ごめんごめん。言い過ぎた」と両肩を持ち上げる。
「……でも、とりあえず部屋の隅で丸まって拗ねるのはやめて欲しい。あまりにも居心地が悪いよ」
「……す、すまない」
キリエラから目を逸らしてそう謝るロウ。
彼はパオウルムー討伐からキリエラと一言も話さずにアステラまで戻り、部屋に戻っくるなり部屋の隅で丸まってしまったのだ。
キリエラはどうしてそんな事になってしまったのか分からず、頭を抱えていた所である。
「本当にどうしたのさ、もう」
「……お前が。……キリエラが危ない事をするから」
「……ぇ? 僕が? 危ない事?」
「パオウルムーの前に出てきただろ。怪我でもしたらどうするんだ!!」
「過保護か!! キミは僕のおかあちゃんか!!」
どうやらロウはキリエラが狩場に出て来た事を怒っているらしい。
彼女としては狩りの微々たる助けのつもりで危ない事をしたという自覚はないし、ロウが苦戦していたのは事実だ。
しかし、ロウはキリエラがパオウルムーの前に立った時本気で焦っていたのだろう。
当然だ。
ロウにとってキリエラは守るべき大切な
「……怪我だけじゃない。パオウルムーだって、危険な大型モンスターには変わらないんだ。何を間違わなくたって、ほんの些細な事で人は死ぬ」
「そ、それは……そうだ、ね。うん。ごめん。……でも、それはロウだって同じなんだよ? ロウだって、死んじゃうかもしれないんだよ?」
「俺はそんな簡単に死なない」
「なんて自信なんだ」
しかし、ロウは確かに優秀なハンターである。
これまで彼はパーティでもソロでも、大きな怪我をした事はない。
新大陸に5期団が到着してそれなりの時間が経つが、優秀な5期団のハンターでも大小はあれ怪我をする者は少ない訳ではなかった。
「でも……」
「……頼む、危ない事はしないでくれ。……怖いんだ」
「でも、それは───いや、うん。ごめん」
言葉を飲み込んで、キリエラはロウに謝る。
彼の気持ちは分かった。
キリエラは大切な人を失った者の気持ちは分かるつもりでいる。その立場が逆でも、何よりその感情は心に大きな傷をつけるものだから。
でも、だからこそ、キリエラもロウが心配なのだ。
心配だから、手助けをしてしまう。
余計な事だったのかもしれない。それに、良く考えれば自分も逆の立場なら怒っていた。そう考えて言葉を飲み込む。
「……ふふ、いや。うん。ロウはよっぽど僕の事が大切なんだね!」
「馬鹿! ちが───いや、お前はただの相棒だ。……だから、相棒だから、大切なのは当たり前だろ」
「そこでそんな素直になられると反応に困るな。あはは、僕もロウが大切だよ。……よし、気を取り直してクエスト成功のお祝いをしようよ! ほらご飯行こうご飯。偶には外でご飯食べないとね」
そう言って、キリエラはロウを外に連れ出した。
無理矢理、いつもみたいに元気に。
ロウが姉のようになってしまうかもしれない。そんな不安を、振り払うように。