モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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誘導作戦

 居住区やアステラの広場は驚く程人が少なかった。

 

 

「───で、今回のパオウルムーの素材がいるって訳ね。これで多分ゾラ・マグダラオスの誘導作戦は大丈夫でしょ。僕達は他の調査を進めよう」

 現在、調査団はゾラ・マグダラオスの誘導作戦に向けてその殆どが出払っている所である。

 

 

「……もうこれを言う気はなかったが、こんな時に留守番なんてしていて良いのか? 俺達は。爆発するんだろ? ゾラ・マグダラオスは」

「らしいねぇ」

 行方不明だったゾラ・マグダラオスは5期団の活躍と古代竜人と呼ばれる新大陸の先住人の知恵により所在を掴む事が出来た。

 

 しかしその古代竜人によればゾラ・マグダラオスは死の淵にあり、膨大なエネルギーを蓄えているらしい。

 

 現在ゾラ・マグダラオスは新大陸の地下にある地脈回廊を進んでおり、地脈回廊はポットが瘴気の谷で見付けたように新大陸の至る所に張り巡らされている。

 その地脈回廊でゾラ・マグダラオスが蓄えていたエネルギーを放出すれば新大陸は火の海に飲まれる事になるかもしれない。

 

 そして調査団はそれを阻止すべく、ゾラ・マグダラオスを地脈回廊から海に向けて誘導する作戦を現在展開していた。

 ロウが討伐したパオウルムーの素材は、作戦に必要な素材だっという訳である。

 

 

「らしい、って。他人事みたいに」

「ま、大丈夫でしょ。調査団の皆は優秀だしね。それより、お留守番も立派な仕事だよ。突然モンスターが拠点を襲って、せっかくゾラ・マグダラオスの誘導作戦に成功しても帰る家が無くなってたら大問題だ」

「それはそうだ、な」

 捕獲作戦同様、ゾラ・マグダラオス誘導作戦は人員の殆どを割く大規模な作戦だ。

 失敗は許されない。

 

 故に、拠点であるアステラを守る事も重要な任務である。

 

 

「───そうだぞ、二人共」

 食事をしながらそんな事を話している二人に、調査班のリーダーが話しかけて来た。

 彼は「隣、良いか?」と聞くと食事の乗った皿を音を立てながら机に置く。

 

「リーダー、誘導作戦の準備してたんじゃないの?」

「あぁ。今最終チェックをしてる所だ。俺は、アステラの守りを万全にしておきたくて一度戻ってきた所だな」

 キリエラの問い掛けに、調査班リーダーはそう答えて首の骨を鳴らした。

 

 彼は色々な場所を駆け回っていて、その顔には疲労も伺える。やっと一息、食事の時間といった所だろうか。

 

 

「実は二人を探してたんだ。アステラに残ってくれるなら、古代樹の森の見回りをお願いしたくてな」

「見回り?」

 キリエラが聞き返すと、調査班リーダーは水を一杯のんでこう続けた。

 

「二人以外にもアステラに残ってもらうパーティには色々頼んでいてな。二人の馴染みだと、アンワとポットには大蟻塚の荒地の見回りをして貰う予定なんだ。見回りと言っても、何がどうこうって訳じゃないんだが……。ただ、ゾラ・マグダラオスの移動でモンスター達がおかしな行動をするかもしれない。……それで、アステラに被害が出るのは避けたいんだ」

「もし森の探索中におかしな様子のモンスターがいたらアステラに近付かないようにさせる……それか討伐する。こういう事だね」

「話が早くて助かる」

 アステラに待機するだけでも良いが、不安の種を早く見付けられるなら見付けた方が良い。

 調査班リーダーの二人への任務はそんな所だろう。

 

 

「このクエスト、受けてくれるか?」

「勿論。ロウも、良いよね?」

「勿論」

 断る理由はない。

 

 ロウが恐れているのは古龍だ。

 捕獲作戦の時、ゾラ・マグダラオスに接近したネルギガンテが再び現れるかもしれない。

 そもそも古龍であるゾラ・マグダラオスの誘導作戦にロウが参加しないのは己の恐怖を自覚しているからである。

 

 それが悪い事だとは、もう思わない。自分に出来る事をすると決めたから。

 

 

「頼もしいな。頼んだぞ、二人共。……よし、これでアステラは安心だ。俺も地脈回廊に戻らないとな」

 言いながら、調査班リーダーは食事を掻き込むと、酒樽を勢い良く机に叩き付けた。

 しかし中に入っていたのは水である。今は酒を飲むのも憚られる程忙しい。

 

 ロウやポット達を含め、調査班リーダーはアステラに残って拠点を守ってくれる人員一通りに声を掛けてきたのだ。

 そうして動き回り続けている彼の期待に応える為にも、拠点の守りは万全にしなければならないだろう。

 

 

「ゾラ・マグダラオスが誘導地点に到着しだい作戦開始だ。こうしている今もその時が来るかもしれないからな、俺はもう戻るよ。二人共、頼んだぞ!」

 律儀に食器を片付けながら、彼はそう言って翼竜を呼び、アステラを去った。

 

 

「あ、ロウ! 次は一緒に飲もう」

「え、遠慮しておきます。……酒、弱いので」

「そうか? いや、でも一緒に飯くらい良いだろ」

「勿論。……気を付けて」

「気を付けてね」

「あぁ! 行ってくる」

 もしこの作戦が失敗すれば、新大陸は火の海と化す。

 

 そんな事が想像出来ない程に綺麗な夜空を見上げながら、ロウ達も拠点の守りを固める為にリーダーに習って勢い良く食事を掻き込むのだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 古代樹の森。

 

 

 二人はベースキャンプで焚き火を組んで座っている。

 

 既に日は沈んでいる為、探索まではしない。

 しかし森の中に居れば何か異変が起きた時に分かりやすい筈だ。

 

 もし二人が何も気が付けなくても、アステラにも優秀なハンターが残ってくれている。

 

 森の見回り。

 調査班リーダーの頼みを聞いて、二人はゾラ・マグダラオスの誘導作戦が終了するまでこうして古代樹の森で寝泊まりする事に決めたのだった。

 

 

「───でも、確かにちょっと妙だよね」

 焚き火に木の枝を投げながら、キリエラがそう口を開く。

 

「モンスターをあまり見掛けなかった事か? 確かに、少し気になる」

 食事を終えた後、二人は準備をしてからそれなりの時間古代樹の森を歩き回った。

 

 異常そのものは見られない。

 しかし、普段よりも生き物の気配を少なく感じる。こんな事は初めてだった。

 

 

「ゾラ・マグダラオスが関係しているのかな? 古龍が居ると、他のモンスターは怖がって隠れちゃうって言うし」

「他の古龍が居る可能性も否定は出来ない、か」

「そうなったら───」

「悪いが、俺は逃げる。多分大した戦力にならない。アステラに戻って、残ってるハンターに情報を渡して作戦を立てよう」

 そもそもいくら優秀なハンターであろうとも、一人で古龍を相手にするのはまず人間のやる事ではない。優秀なハンターという括りにすら入らない。

 

 この世界には単独での古龍討伐(そういう事)が出来る人間は少数、確かに存在するし5期団の中には()()()()人も居るだろう。

 しかしロウはそうではないし、仮にそういうハンターが居たとしても態々自分から一人で古龍に挑むような事はしない。

 

 

「そうだね、それが良い。古龍が居るなんて決まった訳じゃないけど、最悪の想定はしておいた方が良いに決まってるしね」

「そうだな。……とりあえず、一度休憩しよう。根を詰め過ぎても良くない。寝てきて良いぞ」

「僕はまだ眠くないし、ロウが先に休んでて良いよ」

 キリエラはそう言いながら、焚き火で温めた湯で作った紅茶をロウに渡した。

 

「分かった。そうさせてもらう。少し寝たら、交代だ」

「うん」

 ロウは素直にキリエラの提案を受け入れて、テントの中のベッドに横になる。テントからは直ぐに寝息が聞こえてきた。

 

 パオウルムーの討伐から一日と待たずに狩場に出てから歩き回って疲れているのだろう。

 キリエラはロウを起こさないようにゆっくりとテントに入って、その寝顔を覗き込んだ。

 

 

「キミは本当に可愛いな」

 年上の男性だが、キリエラにはロウが可愛く見えるらしい。

 

 ロウは男の中でもそれなりに背が高く、声も低いし、目付きが悪い。

 さらに態度も悪く、口数も少ない方だろう。

 

 

 大人びていると周りには思われているが、短くはない間彼と過ごしていて本来の彼の事が少しずつ分かってきた。

 

 

 ロウは地図も読めないし、割と寝息が煩い。

 

 優秀なハンターなのは間違いなく、頼り甲斐もある。

 

 だけど彼は案外寂しがり屋だ。

 

 ポットの事を嫌がっているように見えるが、彼と話してる時は子供のような楽しそうな顔をする。

 

 

 意外と意地っ張りだったり、実は野菜が苦手らしい。

 

 

 まるで大きな子供のようで、悪い意味ではなくキリエラはロウの事が可愛いと思っていた。

 

 

 

「……ロウ」

 そして、彼は寝ている時───偶にうなされている。

 

 彼には深いトラウマがあった。

 大切な人を失った悲しみ。ネルギガンテを見た時の彼の怯え方は尋常ではなかった事を思い出す。

 

 自分の師匠を失った時の夢を見ているのだろうか。

 偶に聞こえてくる「師匠……」という消え入りそうな声を聞くと、胸が締め付けられるようだった。

 

 

「───俺を、置いて……いかないでくれ。嫌だ」

「置いていかないよ。ロウ、大丈夫だよ」

 その頭に手を乗せて、優しく撫でるとロウは安心したようにゆっくりと寝息を零すようになる。

 キリエラはそれを確認して、しずかにテントから出た。

 

 

「……キミは、僕が絶対に守るから」

 いつか見た、姉の最後の顔を思い出しながら───

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