モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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 龍はずっとそこに()()

 

 

 幾年の月日。

 森に溶け込むように、この地に降り立った龍は不思議な感覚を感じる。

 

 まるで何かに呼ばれているような、導かれるような感覚。

 

 元より放浪の身であった龍は、その感覚に疑問を抱きながらもこの地に住まうことにした。

 百数十年もの歳月を生きてきた龍が初めて感じたのは興味。

 

 

 その地は命に溢れている。

 龍は様々な痕跡を見た。同じく龍種である者の痕跡、これまで見たことも無い痕跡。

 

 長く生きた龍は、自らが知らない事等ないと思っていたのである。

 

 火を吐く竜、身体に電気を纏う竜、敵に自らの排泄物を投げつける獣。

 自然豊かな森、湿気の多い沼地、灼熱と極寒の砂原、炎の山。

 

 龍は様々な知識があった。

 それなのに、この地には龍の知らない事が多くある。

 

 

 ───そこで出会った、小さな獣。

 

 踏み潰せば潰れてしまいそうな、好物の虫と大差ないと思える弱い生き物。

 彼等はこの地の様々な場所に足を運び、何かを詮索するような仕草をしていた。

 

 

 もしかすれば、彼等ならこの地への自らの疑問を解き明かす事があるかもしれない。

 

 龍は彼等を観察する事にする。

 

 

 自らの能力を最大限に活かし。

 誰にも悟られないように、身を潜め、彼等の詮索をゆっくりと見届ける事にした。

 

 

 しかし、小さな生き物達は感覚が鈍い。

 この地に何が起きているのか、全く何も分かっていないようである。

 

 このままでは、その時が来てしまうかもしれない。

 

 

 ───龍には時間が残されていなかった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 紫が視界を包み込む。

 

 

「───オオナズチ」

 古龍。

 

 この世界の理。

 十年に一度、世界各地で報告されている古龍渡り。

 

 龍が新大陸に渡る現象。

 それを解明する為に派遣された調査団。

 

 

 彼等は知らなかった。

 この地にその龍が()()という事を。

 

 

「ロウ! 逃げよう!」

「……っ。こっちだ!」

 龍───オオナズチは、二人を見下ろして固まっている。

 

 何がしたいのか分からない不気味さ。

 恐怖で固まってしまった二人だが、キリエラは大きく首を横に振ってなんとか足を動かした。

 

 

 走る。

 龍はその背中をゆっくりと追いかけた。

 

 

「追ってきてない!?」

「分からない。なんでアイツがここに居る。くそ……!」

 全身の血の気が引いていく感覚がする。

 

 古龍への恐怖。

 それも、ロウにとってはトラウマになった龍と同種のモンスターだ。

 

 

 オオナズチはゆっくりと二人の事を追い掛ける。

 しかし、龍にとってゆっくりでも二人にとっては走って追いかけられているのと一緒だ。

 

 もし龍がその翼をつかえば、四肢でしっかりと地面を踏み抜いて走れば、二人は一瞬で追い付かれて潰されてしまうだろう。

 

 

 だこらこそ、龍が何を考えているのか分からない。余計な恐怖心が煽られた。

 

 

「とにかく相手が分かったならそれでいい。なんとか撒いて、拠点に戻───」

「……ッオェ」

 妙な声に振り向く。

 

「───キリエラ?」

「ご、ごめん。気持ち悪くて……僕の事は置いていって」

「そんな事出来るか!! 頼む、今は走れ」

 キリエラの手を取って無理矢理走らせようとするが、ふと龍の気配が全くない事に気が付いた。

 

 ロウは「は?」と口を開いて固まる。

 さっきまで追いかけて来たモンスターの気配が突然消えた。どうしたら良いのか分からない。

 

 

「……なんだ、なんなんだアイツは。キリエラ、立てるか? どうした? 毒か」

「……多分、毒かな。いつのまにか貰って───ぅ」

 その場に蹲って嘔吐するキリエラ。オオナズチが現れた時、咄嗟にロウを庇ったがその時から調子が悪い。

 ただ、そんな事を言えばロウは気にするだろう。そう思って、キリエラは左肩を上げながら「大丈夫、落ち着いた」と青ざめた顔を上げた。

 

「何処がだ。解毒薬を持って来てるだろ。とりあえず飲め」

「安全が確認出来てから、だよ。そういうのは。オオナズチは?」

「分からない……。消えた」

「そんな事───ロウ!!」

「は?」

 振り向く。

 

 そこに、またその姿が映った。

 

 

「───くっそ!! なんなんだお前は!!!」

 ヘビィボウガンに手を向ける。しかし、その手が背中の得物に触れる事はなかった。

 

 

 もしここで戦ったとして、この龍に一人で勝てるのか。

 

 そもそも今戦おうとすれば、キリエラが巻き添えになる。ただでさえ毒で弱っている彼女を放っておく訳にはいかない。

 

 

「悪いが、もうお前達に奪われるのはごめんだ!!」

 言いながら、ロウは背負っていたヘビィボウガンそのものをオオナズチに投げつけた。そうして彼は、空いた背中にキリエラの小さな身体を背負って走る。

 

 

「ちょ、ロウ……。無理だよ、この状態で……逃げるとか───っ」

「うるさい静かにしてろ! くそ!! くそ!! なんなんだよ。来るなよ、くそ!!」

 振り向かない。

 

 しかし、早くはないが確実に近付いてくる龍の気配に身体が震えた。

 

 

 怖い。

 ただただ、そんな感情がロウを呑み込もうとする。

 彼は大きく横に首を振って走った。けれど、身体の震えは止まらない。

 

「ロウ……」

 キリエラを背負っている手から、背中から、彼の恐怖が伝わってくる。

 一人で走っていれば、もしかしたら逃げられたかもしれない。けれど、ロウが彼女を見捨てるなんて事はしない事ぐらい分かっていた。

 

 

 また、重荷になってしまっている。

 

 これじゃ姉の時と同じだ。

 

 

 嫌な記憶が蘇る。

 自らを助ける為に命を落とした大切な人。

 

 このままいけば、ロウも姉と同じく自分を助ける為に命を落とすかもしれない。

 そんなのは嫌だ。けれど、それはロウも同じなのだろう事はキリエラにも分かる。

 

 

「ロウ! 高い所まで行こう。足場が悪くなれば、あの巨体じゃ着いてこれない」

「分かった。少し我慢してくれ」

 だから、二人で生き残るんだ。

 

 

 守れなかったなんて、絶対に思わせない。

 

 自分のせいで大切な人を、もう失いたくない。

 

 

「ロウ、僕はこれでも一人で十年間やって来た身だからね。実は凄いんだよ」

「今そんな話をしてる場合か!?」

 走る。

 

 いくらキリエラの身体が軽くてヘビィボウガンを捨ててきたといっても、人一人を背負って古代樹の木々から出来た塔を登るのは苦難の道のりだ。

 キリエラの言葉に反応しながら、ロウは胃液を吐き出しそうな程に消耗しながら足を動かす。

 

 

 止まったら死ぬ。

 あの日、師匠がそうなったように。

 

 龍に潰されて、跡形も残らず、苦しんで。

 

 

 怖い。

 

 

 嫌だ。

 

 

 

「……なんで、ここまで来て、追いかけて来る」

 地面が遠くなる程、木々で出来た塔を登っていく。

 

 しかし、オオナズチとの距離は離れない。

 付かず離れずの距離を永遠と保って、もし足を止めたらその瞬間殺されるような、何を考えているのか分からない視線を向けてきていた。

 

 

「来るなよ!! くそ!! 来るな!!」

「ロウ、下ろして」

「は!?」

「止まって」

 キリエラはそう言って、突然ロウの背中の上で暴れて転がる。

 

「キリエラ!!」

 振り向くと、オオナズチは突然の事に驚いたのか固まって動かなくなっていた。

 しかし、その目はギョロリと二人に向けられる。

 

 

「……っ」

「ロウ。こんな所まで突き合わせてごめんね、怖かったよね」

「お前、何を言ってるんだ? 良いから逃げるぞ。早く───」

「うん。逃げよう。……大丈夫。大丈夫だよ、ロウ。僕が、ロウを守るから」

「───は?」

 そう言って、キリエラは肩のスリンガーをロウの足元に向けた。

 

 スリンガーにはいつのまにか拾ったのか、石ころが設置してある。

 

 

「何を───」

「ロウ、僕は絶対大丈夫だから。……ロウだけでも、先に逃げて」

「───言って」

 刹那。

 

 放たれたスリンガーはロウの足元で弾けた。

 衝撃に足を浮かせたロウに、キリエラは渾身のタックルを決める。

 

 

「───は?」

 足場の悪い、古代樹の木の上。

 

 身体が浮いた。

 足元には空気しかない。

 

 

 落ちる。

 

 

「キリ───」

「逃げて」

 手を伸ばした。

 

 

 また、その手は届かない。

 

 

 

 なんで。

 

 

 

 なんでまたこうなる。

 

 

 

 確かに怖い。

 

 古龍が怖い。

 その目を見るだけで竦んだ。恐怖で身体が震えた。

 

 

 けれどそれは、違う。

 

 

「どうして───」

 伸ばした手は届かない。

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