モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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霞龍

 森を霧が包み込んでいた。

 

 

「───なんだ、この状況。明らかに変だよ」

 古代樹の森から放たれた救難信号。

 

 アステラからの増援より先に、大蟻塚の荒地から森に入ったポットはその異様な光景に目を細める。

 

 

 雨が降ったわけでもないのに、大量に発生した霧。

 救難信号の中でも最上級の急を要するという信号弾。

 

 嫌な予感がして、ポットは視界が悪い中、辺りに目を凝らしながら森を歩いた。

 

 

「アンワ、見てくれ!」

「何か見付けたの?」

 彼の言葉を聞いて駆け寄ってきたアンワは、外傷なく倒れているジャグラス達の亡骸を見て首を傾げる。

 

「……死んでる。毒? プケプケか」

「そうかな。いくらプケプケでも、ジャグラスをこんなに殺してしまえる程の毒はそう簡単には作れない。……そもそも、あのロウ君達がプケプケで救難信号を出すと思うかい?」

 ポットの言葉にアンワは「確かに」と頷くが、だとすれば余計に分からなくなった。

 

 

「それじゃ、これは何? 救難信号と何か関係ある訳?」

「ないとは思えないね! しかし、調査団の資料を見る限りでは古代樹の森で毒を扱うモンスターはプケプケと火竜くらいだった筈。そのどちらでもないとなれば、少なくとも古代樹の森では未発見のモンスターという事! ロウ君達が救難信号を出すのも頷ける!」

 古代樹の森に調査団の彼等が把握していないモンスターがいる。

 

 それがロウの手に負えない事が理由での救難信号だとすれば───ポットは嫌な予感がして、腕を組んで固まった。

 

 

「何やってんの。何はともあれ、早く二人を探さないと」

「そうだね。しかし、アンワ。気を付けた方が良いかもしれない」

「何を?」

「……相手は、古龍の可能性がある」

 ロウが優秀なハンターである事はポット達も知っている。

 

 しかしその彼等が、ゾラ・マグダラオス誘導作戦の為に人手の少ないこの時に救難信号を迷わず出す相手だ。

 ソレが如何に強力なモンスターか、想像は出来る。

 

 

「しかし! そうだ! 何はともあれ急がねば! 待っていてくれロウ君! 今、君の親友が行くぞ!!」

「いや気を付けろとか言ったあんたが大声を出すな!!」

 二人はそうして森を進んだ。

 

 森の奥に行くにつれて、霧が濃くなる森へと。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 銃弾が空を切る。

 

 

「くそ! 見失った……!」

「背中に着けたのに、もう気付いて洗い流したのか。流石、古龍だね。感心してる場合じゃないけど!」

 森の中。

 

 オオナズチに追い付かれたロウ達二人は、なんとか距離を取る時間を稼ぐ為に交戦をしようとしていた。

 

 

 しかし、こちらから戦意を向けると、かの龍は二人を弄ぶように姿を消す。キリエラが着けた血も洗い流されてしまい、オオナズチはまた完全に姿を消せるようになってしまった。

 これでは逃げようにも何処に逃げれば良いのか分からない。逃げる方向を間違えれば、隠れていたオオナズチと正面衝突する可能性もあるだろう。

 

 

「キリエラ」

「分かってる。手は考えてあるよ。……ただ、どうしても一回だけオオナズチの正確な位置が欲しい。博打で僕が死んだら、ロウは怒るでしょ」

「怒る。……弾が勿体無いが、やるしかないか」

 オオナズチとの戦闘で無駄に弾丸を使わされ、ロウの手持ちの弾丸も少なくなってきた。

 

 討伐する必要はないが、弾がなくなればこちらから出来る事は限られてくる。

 ここからはある程度博打が絡んでくるが、自分達の生き死にだけを考えれば選択肢は一つだ。

 

 

「全方位に適当に弾を流す。それで場所が割れたらどうする?」

「走るから、着いてきて」

「分かった」

 言いながら、ロウはヘビィボウガンを展開してその銃口を何も居ないように見える空間に向ける。

 

 目に見えていなくても、直ぐそこにいるかもしれない。

 そんな恐怖から目を逸らして、ロウは一定間隔の空間に通常弾を叩き付けた。

 

 

 一発目、二発目、三発目と空を切る。

 そして四発目。その弾丸は空中で弾け、一瞬その周りの空間が歪んだように見えた。

 

「そこか」

「ロウ! こっち!」

 オオナズチの位置を特定して、キリエラはその反対側の草陰まで走る。

 滑り込むようにして背の高い草に潜り込んだ二人の背後の空間を、オオナズチの舌が抉り取った。

 

 

 そんな所に逃げてどうするのか。

 

 オオナズチはそう言うように、姿を消してゆっくりと草陰に近付いていく。

 

 

 しかし、ロウにはその理由が分かった。

 元から信頼していたから、その後全てを彼女に任せる。

 

 

「これでどうだ!!」

 言いながら、キリエラはその場で暴れ始めた。

 

 すると、彼女達が隠れていた草陰から大量の白い煙が舞って周囲を包み込む。

 

 

 綿胞子草。

 ロウが初めてキリエラと会った日、アンジャナフから隠れる為に利用した植物だ。

 衝撃を与えると胞子を空気中に大量に放つ。

 

 視界がかなり遮られる事になるが、どうせオオナズチの姿は見えないのだから変わらない。それに───

 

 

 

「───そこか」

 ───放たれた胞子が影になっている場所が見えた。

 

 オオナズチは光を屈折させてその場に居ないように見えているだけで、実際にその身体が消えている訳ではない。

 そこに透明な何かがあれば、この煙の中でソレは逆に目立つ事になる。

 

 

 つまり、今はオオナズチの場所がハッキリと分かるという事だ。

 

 

「ロウ、今!」

「怯ませて走るぞ……!!」

 草むらを飛び出て、ロウは徹甲榴弾を煙の影に三発打ち込む。

 

 突き刺さった徹甲榴弾が爆発し、煙が吹き飛ぶと同時にオオナズチの悲鳴が森に木霊した。

 その鳴き声を確認する事なく、二人は手を繋いで走る。

 

 

「アステラから離れ過ぎか?」

「反対に逃げようにも、オオナズチの位置が悪いんだよね。もしかしたら、分かってやってるのかもしれないけど」

 二人はまるで追い込まれるように、アステラから次第に離れていっていた。

 

 元々アステラにオオナズチを近付けようとは思っていなかったが、こうなると相手の手の上で踊っているように感じなくもない。

 

 

「……っ、はぁ……はぁ、ひぃ。ちょっと、休憩」

「ダメだ。走るぞ」

「腕、痛い。義手捨てて来ちゃったから」

 キリエラの義手はただの棒だが、無くなった左腕のバランスを支える為に重い素材で作られている。

 それをロウに見付けてもらう為とはいえ捨てて来てしまった彼女の身体のバランスは今最悪だ。

 

 その状態でずっと走っていた彼女の身体は、オオナズチから貰ったダメージを抜きにしても既にボロボロである。

 

 

「……やっぱ、荷物かな。僕」

「そんな訳あるか。……荷物は、こっちだな」

 言いながら、ロウはヘビィボウガンを投げ捨てた。

 

「ロウ……」

「今ので弾切れだ。狙撃竜弾だけは残ってるが、それだけあってもクソの役にも立たない。お前の事を背負ってる方が百倍マシだろ」

 言いながら、ロウはキリエラを背負う為に姿勢を低くする。

 

「でも、これじゃ振り出しだ」

「そうかもな。……いや、違う。ここからは折り返しだ。今の攻撃である程度の余裕は出来た筈。少しだけ迂回しながら、アステラの方角に向かうぞ」

 徹甲榴弾三発の直撃。

 

 当たりどころが悪ければ、大型モンスターでも気絶させる事すら出来る攻撃だ。

 如何な古龍といえどタダでは済んでいないだろう。

 

 

「救難信号で仲間が来てくれている筈だ。今稼いだ時間で、仲間と会える事に賭ける」

 オオナズチも直ぐには追ってこれない。

 

 もしロウの算段通りに事が運ぶなら、確かに良い作戦だ。

 今からアステラに向かおうともアステラに辿り着く前に仲間と合流する事になる。

 

 既にアステラに古龍を連れて行くという最悪なシナリオは回避されていた。

 

 

 

 ───算段通りにいけば、の話だが。

 

 

 

「───馬鹿な」

 空気が重くなる。

 

 古龍が持つ雰囲気独特の、圧迫感。

 

 

 二人の背後でその姿を表したオオナズチは、ゆっくりとその視線を下ろした。

 

 

「ダメージが……ない?」

「徹甲榴弾三発だぞ……!!」

 反射的にヘビィボウガンを拾いながら転がり、その銃口を向ける。

 

 しかし、彼の武器には弾丸が入っていない。

 

 

 それを知ってか知らずか、オオナズチは警戒するように二人を見比べた。

 

 実際。

 ダメージが全くないという訳ではない。

 

 オオナズチはそこまで防御に適した身体をしている訳ではなく、鋼の龍とも呼ばれる古龍───クシャルダオラ等からすればあまりにも貧弱な身体の持ち主である。

 しかし、かの龍の能力はその弱点を無に返す程に強力だ。一説によると、クシャルダオラとオオナズチが戦えばオオナズチが勝利する割合が高いとまで言われている。

 

 

 オオナズチの武器はその萎びやかな身体と毒や透明になる能力。そして首を動かさずにほぼ全方位を目視出来る目に、鋭い観察眼だ。

 

 相手をよく見て、自分が勝てない相手なら直ぐに逃げる。だからかの龍の目撃情報は他の古龍に比べ、極めて少ない。

 そういう事が出来る彼等の種だからこそ、古より紡がれる種として繁栄しているのだ。

 

 

「どうなってる……」

 徹甲榴弾を撃ってから、ロウは逃げる時にオオナズチの悲鳴を聞いている。

 

 しかし、オオナズチにそれらしい外傷はない。

 初めに不意打ちで当てた狙撃竜弾と徹甲榴弾、通常弾数発。それが今オオナズチに見られる外傷だ。

 

 

「別の個体……? いや、他の傷はある。なんなんだ、お前は……!」

 今さっきの攻撃がなかった事にされている。そんな気すらした。

 

「当たったフリ、か。僕達を油断させる為の」

 大きな悲鳴が聞こえれば、攻撃が当たったと思うのは当たり前だろう。

 

「くっそ……!!」

 そうして逃げる側は、ある程度時間が稼げたと余裕を持って油断するのだ。

 

 

 

 この小さな生き物はその小さな頭で考えている事だろう。

 

 どうしてこの生き物はさっきの攻撃が聞いてないのか。

 

 

 

 龍は翼を広げ、二人を見下ろした。

 

 

 

 

 ───教えてやろう。この世界の理がどちら側にあるのかを。

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