モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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一発

 蛇に睨まれた蛙が動かないのは、恐怖で体が震えてしまっているから。

 

 

 そう言われて、しかしキリエラはそれを否定した。

 

「考えてるのかもしれないよ。どうやったら、逃げられるのか」

 そんな彼女の言葉に、キリエラの姉は感心する。

 

 

 きっとこの子は大物になる、そう確信していた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 オオナズチに睨まれ、考える。

 

 

 残る弾丸は狙撃竜弾一発。

 

 キリエラも、ロウも限界だった。

 

 

 

「ロウ、一つだけ言っておきたい事があるんだ」

「こんな時になんだ」

「あの夜、実は何かあったんだよね」

「はぁ」

「ロウったらもう暴れて暴れて大変だった。暴れ過ぎて布団が絡まって動けなくなるまで僕の事襲ったんだよ」

「おま……え、マジか」

「ね、ロウ。またお酒飲もう」

「……バカ言え」

 不敵に笑う。

 

 

「───絶対にごめんこうむる」

 まさかとは思うが、この状態で何か手を考えてるとは思うまい。

 

 

 オオナズチは、これでやっと目的が果たせると内心呆れたように口を開いた。

 

 無理矢理連れて行くか、追い込んでやれば良い。

 そうすれば、この小さな生き物達でもこの世界に何が起きてるのか分かる。

 

 

 なれば、そのあとこの小さな生き物の個体が一つ二つどうなろうが、龍にもこの世界にも関係はなかった。

 

 

 

 龍の咆哮が木霊する。

 

 

「キリエラ、頼んだ!!」

 言いながら、ロウはヘビィボウガンをキリエラに向けて投げ捨てた。

 

「ぐぇ───ろ、ロウ!?」

 彼女の小さな身体では、投げられたヘビィボウガンを支える事が出来ずにそのまま転んで潰されてしまう。

 

 そんな彼女を尻目に、ロウはキリエラを置いたまま走った。

 

 

「こっちだ、オオナズチ!! この陰湿グルグル目玉野郎!!」

 スリンガーで石ころをオオナズチに当て、大きな声で叫ぶロウ。

 

 オオナズチにその悪口の意味が分かっているのか分からないが、なんとなくロウはオオナズチがこちらの意図を察しているような気すらしている。

 

 

 煙の中からの攻撃を、彼は何度か貰って地面を転がった。

 

 初めはこちらを殺す気がなく、ただ追いかけてきたのは何か目的があるからだろう。

 

 

 オオナズチに人と同じかそれ以上の知性があるとすれば、龍はキリエラを無視して追いかけてくる筈だ。

 

 

「───俺を。そうだ、俺を追いかけろ」

 オオナズチの目的がなんであれ、それは生きていなければ意味が無い可能性が高いだろう。

 

 ならば、ヘビィボウガンを投げられただけで倒れるような貧弱なキリエラよりもロウを追いかける筈。

 

 

 そしてオオナズチは彼の読み通り、キリエラを無視してロウを追いかけた。

 

 かの龍にとってもそれは好都合である。

 何故なら、かの龍の目的地は二人を追い込もうとしたその奥。ロウが走り去っていった方角だからだ。

 

 足元で何かに潰されて倒れているソレは、もう走るのも限界だろう。

 

 

 殺してやる理由もない。龍の目的はただ一つだ。

 ならば、大きい方の個体を追い込み、()()()()に連れて行く。

 

 そうすれば分かる筈だ。

 

 

 アレが生まれれば、あの巨大な龍が地脈で息途絶えるよりも悲惨な未来がこの世界に待っている事を。

 

 

 

「……行った」

 オオナズチを見届けて、キリエラはヘビィボウガンを持ち上げながら身体を起こす。

 

 かの龍が人語を理解しているかどうかは分からないが、多分ロウには伝わった筈だ。

 だとすると、キリエラにはやる事がある。

 

 しかし、どうもヘビィボウガンというのは重い。

 

 

「ロウ、待っててね」

 ヘビィボウガンを背負って走った。()()()は、決まっている。

 

 

 

 走れ。

 

 信じて走れ。

 

 

 

 あの時掴めなかった手を、掴む為に。

 

 

「いやコイツ、俺を殺す気か!?」

 オオナズチの舌を、地面を転がって避けながらロウは悲鳴を上げた。

 

 殺す気はないと思っていたが、そもそもオオナズチは手加減というのが上手く出来ないらしい。

 キリエラがもう少しで死ぬところだったと思うと、ロウはゾッとする。

 

 だが、いやだからこそ此処で死ぬ訳にはいかない。

 

 

 約束の場所に、手を伸ばすまで。

 

 

「───ガッ、……っ! くそ!!」

 横腹を殴り付けられた。

 

 瞬きの内に地面を転がった身体は、木にぶつかってやっと静止する。

 しかし、それも五回目だ。

 

 

「悪いが、俺はキリエラより丈夫だぞ……!!」

 直ぐに起き上がる。

 

 骨の何本かにヒビが入っているか最悪折れているだろうが、今足を止めれば確実に待っているのは死だ。

 どれだけ不格好でも、どれだけ泥臭くても走る。

 

 

 その手を掴む為に。その手を掴ませる為に。

 

 

「こい、オオナズチ。お前を連れてってやる!!」

 オオナズチに恨みがある訳じゃない。

 

 師匠を殺したオオナズチと同じ個体ではないだろうが、そもそもあのオオナズチにしたって彼は恨んでいなかった。

 

 

 この世界は単純だから。

 狩るか、狩られるか。

 

 恨むなら力の無かった己自身だろう。

 

 

 あの時手を掴めなかった自分の弱さが、師匠を殺した。

 

 

 だけど、今は違う。

 

 

 もう彼女の手を離さないと決めた。きっと彼女も、同じ覚悟をしている。

 

 

 

 だから彼女を信じた。彼女の言葉を。

 

 

 

「オオナズチ、お前は俺達の言葉が分かってるのか知らないが。俺達の作戦は何故かバレバレだった。何でだろうな」

 付着させた血液も洗い流され、煙の中からの攻撃も看破されている。

 

 まるで、こちらの行動が読まれているようだ。

 

 

「理由は二つしかない。……本当に俺達の言葉が分かっているか、お前のその目が暗闇だろうが何だろうが全て見通せているからだ」

 ほぼ三百六十度見渡せるオオナズチの瞳。

 

 もしこの暗闇の中でもハッキリと色を判別出来る程の能力がかの龍にあるなら、血痕を直ぐに洗い流された事にも理由が付く。

 夜。霧の中。そのうえ煙の中でも相手の位置が分かる程の視力なら、一発目はわざと当たってその次の本命を交わす事も用意な筈だ。

 

 

 なら、かの龍の目に見えない作戦を立てるしかない。

 

 

 ──あの夜、実は何かあったんだよね──

 

 キリエラの言葉を思い出す。

 

 ──ロウったらもう暴れて暴れて大変だった。暴れ過ぎて布団が絡まって動けなくなるまで僕の事襲ったんだよ──

 

 ──ね、ロウ。またお酒飲もう──

 

 アレを使えば、或いは───

 

 

 走る。

 

 気が付けば微かな日の光が空を塗り替える準備をしている所だった。

 

 

 朝焼けよりも前。

 

 森を走り抜ける。何度も捕まりそうになり、何度も地面を転がって、何度も毒を吐かれた。

 

 

 それでも走れ。前に。

 

 

 古代樹の森は、その中心となる古代樹から離れれば離れる程に木の高さが低くなっていく。

 

 

 開ける視界。

 ロウは背後から陰になる岩場にある物を見付けて、その岩陰に飛び込んだ。

 

 

 同時に、飛び込んだ岩陰から一人の少女が飛び出す。

 

 

「また会ったね! オオナズチ! 追いかけっこは交代の時間だ!!」

 言いながら、彼女はオオナズチの前を横切って走った。

 

 オオナズチはそれを追い掛ける。

 

 

 なぜ置いてきた個体が此処にいるのか。そんな事はどうでも良い。

 

 もう少しだ。もう少しで目的の場所に辿り着く。

 

 

 龍は吠えた。

 この際、この生き物がどうなろうがどうでも良い。背後にもう一匹隠れたのは見えている。

 

 後は、この地の地脈を───

 

 

「……任せたよ、ロウ」 

「……絶対に死なせない」

 言いながらロウは、キリエラがここまで運んで岩陰に置いてあったヘビィボウガンを展開した。

 

 装填されている弾丸は一発。最後の狙撃竜弾。

 

 

「この一撃で、決める」

「こっちこっち!」

 走るキリエラ。

 追い掛けるオオナズチは、キリエラを踏み潰す勢いで彼女を追う。

 

 もはや龍にとって、それが生きているかどうかなんてものは関係なかった。

 

 

 もはや警戒する物はない。背後で武器を構えている生き物の攻撃も、かの龍には見えている。

 一撃目は超遠距離からの不意打ちで避けられなかったが、見えていればそれを交わす事くらいこのオオナズチには容易かった。

 

 

 キリエラが走る海岸線。一本の木が立っている。

 

 

「ロウ!」 

「当たれ」

 ロウはキリエラがその木を通り過ぎたり瞬間、引き金を引いた。

 

 

 龍には見えている。

 

 放たれた弾丸も、その軌道も。

 

 

 最後の賭けに手でも震えたのだろうか。その弾丸は、龍に擦りもしない軌道を描いていた。

 

 避ける理由すらない。

 その弾丸は、オオナズチを通り過ぎて、かの龍の正面にあった木の根元を吹き飛ばす。

 

 最後の足掻きも失敗した二人を見て、目を細めるオオナズチ。

 

 

 やっと終わりか。

 

 

 

「───かかった!」

 振り返るキリエラ。

 

 ロウが倒した木はツタ状の葉を有しており、倒れて来た木のツタの葉はオオナズチの身体を絡め取った。

 暴れれば暴れる程絡まっていくツタの葉。

 

 

 龍は唖然とする。

 

 こんな事があるのか。

 

 この貧弱で小さな獣に、一杯食わされた。

 

 

「どうだぁ!?」

 限界が来て地面を転がるキリエラ。

 

 しかし、そんな彼女をオオナズチが追い掛ける事は出来ない。

 かの龍もまた、それなりに体力を消費している。そんな中で、ツタに絡まった巨体はそう簡単には動けなかった。

 

 

「キリエラ、寝てるな。立てるか?」

「あ、うん。……そうだね」

 まさか、後一歩。

 

 

「でも、よくさっきのアレでこの罠を使うって分かってくれたね」

「それなりの付き合いだからな。……それに、俺はそんなに暴れてないし襲ってない筈だ」

 後一歩の所で、こんな反撃をしてくるとは。

 

 

「え? どうかな」

「……っ。良いから逃げるぞ!」

 龍は内心で不敵に笑う。

 

 

 見えず、読めず。

 観察眼に自信のあった龍が、駆け引きで遅れを取った。

 

 

 

 

 

 面白い。

 

 龍は笑う。もしやこの種族ならば、アレを───

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