モンスターハンターArriving in New world【完結】 作:皇我リキ
龍は笑う。もしやこの種族ならば、アレを───
「───なんだ!?」
「───まさか」
───アレを止められるかもしれない。
龍の咆哮が森に轟いた。
ディアブロスの咆哮のような、強い音波ではない。
しかし、空間が割れるような重圧感がある。地響きが起き、岩盤が砕ける音がした。
「嘘でしょ!?」
「おいおい……」
地面が抜ける。
オオナズチの周囲の岩盤が砕け、穴が空いた。
地面の下にはまるで宝石のような結晶が幾つも連なっている。
まさか森の下にこんな場所があるとは───
「───いや、これ……龍脈?」
「───新大陸を巡るエネルギー源、か」
龍が死に、その命を還元する事で豊かな生態系を築く新大陸。
その新大陸に張り巡らされた龍脈。
二人が見ている物こそ、新大陸の謎の一つ、そのものだった。
かの龍を拘束していたツタの木は岩盤の崩落に巻き込まれて、龍を解放する。
オオナズチは翼を翻し、二人を見下ろしながら滞空した。
「まさかキミの目的は───」
「ロウ君!! キリエラ君!! ぇ、ちょ───え!? うわ!? 古龍!?」
「嘘でしょ……。オオナズチ!? 二人共、無事!?」
唖然としていたロウ達の背後から、ポットとアンワが合流する。
二人の背後にはアステラに残っていたハンター二人も居て、空を飛ぶオオナズチを見て目を丸くした。
「ポット、アンワ……来てくれたのか」
「当たり前よ。でも、これは……」
「ろ、ロウ君! 多分弾切れなんだろう? コレを」
驚きながらも、ポットは用意してきたボウガンの弾をロウに渡す。
今は空を飛んでいるだけだが、いつオオナズチがこちらを襲ってくるか分からない。
状況は緊迫していた。
「どうして分かった」
「銃声が全く聞こえてこなかったからね。そのおかげで探すのに苦労したけれど」
弾込めをしながら聞いたロウに、ポットはそう答える。
今さっきの狙撃竜弾でやっと二人の位置が分かる程、確かに森は静かだった。
「……流石だな。お前と組まなかったのを少し後悔した」
「本当かい?」
「いや、悪い嘘だ。……俺の相棒はキリエラだからな」
「ふふ、なるほど。確かにそうだね」
笑い合って、オオナズチに視線を向ける。
しかしオオナズチは特に攻撃してくる素振りをみせない。
数が増えて状況を見定めているのか、それとも───
「キミの目的次第では、キミは此処で引く筈だ。キミが此処で引かないなら、それはそれでキミの目的が分かる」
言いながら、キリエラはオオナズチと視線を合わせた。こころなしか、オオナズチもキリエラの瞳を見ている気がする。
「───さぁ、教えて貰おうか。キミの目的を、僕達
調査団。
新大陸の謎を解明するべく集まった者達。
龍は満足気に唸り、地面に降り立った。
狩人達は構える。
ならば、と───龍は目的を果たしたのか、後退りしながらその姿を消すのだった。
「消えた!?」
「どこからくる!!」
「いや、気配も消えた……。もう、此処には居ない」
焦るハンター二人に、ポットが片手を上げてそう言う。
「助かった、のか……」
緊張がほぐれて、ロウはその場に座り込んだ。
朝日が登る。
「一体何があったんだと聞きたい所だけど」
「今は帰ろうか。此処は狩場、何が起こるか分からないからね」
オオナズチが消えてから直ぐ、森はいつもの騒がしさを取り戻したように様々な生き物が立てる音が広がっていった。
かの龍は確かにこの森から気配を消したのだろう。
本当に居なくなったかどうかはともかく、今この場所には確かにオオナズチは存在しない。
まるで、夢か幻でも見ていたかのようだった。
「帰ろっか、ロウ」
「……あぁ」
伸ばされた手を取る。
───あぁ、やっと、その手を取れた。やっと、手を伸ばせた。
☆ ☆ ☆
夢を見る。
「もう!! 二人共、心配したじゃない!!」
「あはは、ごめんって
「そうですよ、ロウ。あまり無理は良くありません」
「……すまない、
アステラに帰ってきて、怒られる夢だ。
キリエラの姉と、ロウの師匠。
二人の大切な人は、もうこの世界には居ない。
だから、これは夢なんだって始めから分かっている。
「しかし、お手柄でしたね。ロウ」
「二人が見付けたオオナズチが開けた穴、もしかしたら新大陸の謎の中枢に繋がっているかもしれないって話だよ」
「あの穴が?」
二人はオオナズチを拘束したが、その拘束は簡単に解かれてしまった。
しかし、そこまで執拗に二人を追ってきたオオナズチはその場で岩盤を破壊する程の力を残しておきながら逃亡したのである。
その時にオオナズチが開けた穴。
龍脈の洞窟。
古代樹の森を古代樹の森たらしめるエネルギーの根源。
きっとそれは、新大陸の謎を解き明かす鍵になるに違いない。
「岩盤は脆くて洞窟を進むのは危険ですが、それがそこにあるという事が分かっただけでも大手柄ですよ」
「とはいえ、大変だったのは確かだし。しばらく調査はお休みして、ゆっくりしてようね」
キリエラの姉が手を伸ばした。
その手を取ろうとして、キリエラは思い留まる。
彼女は首を横に振って、隣に座っていたロウの手を取った。
「……僕は、もう大丈夫だよ」
「そう?」
少し寂しそうに聞く姉に、キリエラは笑い掛ける。
「うん、もう大丈夫。僕はもう、一人じゃない」
「そっか」
優しい顔で、妹の頭を撫でる彼女は満足気にその場から消えた。
「……ありがとう、お姉ちゃん」
大丈夫。
「ロウ」
「ま、待ってくれ……師匠、俺は……!」
「いつまでも貴方は子供ではありませんよ。決めたのでしょう、その手を取ったのは、貴方です」
言われて、自分の手を見る。
その手はしっかりとキリエラの手を握っていた。
「……はい」
「誰かと一緒に居なさい。その手を握れる人を、ちゃんと見付けたのだから」
「はい。師匠」
ロウの肩を叩いて、彼の師も姿を消す。
暗闇になった。
けれど、その手は離さない。もう、絶対に。離さない。
「───ウ君! ロウ!! 疲れているのかい? しかし! 腑抜けている暇はないよ!!」
「……誰だお前」
目を覚ます。
或いは、寝てなんていなかったかもしれない。
一瞬の微睡み。
薄い記憶。けれど、ハッキリと心地が良かった。
「ポットだよ!! ポット・デノモーブ!! 寝ぼけているのかい!?」
「ポッと出のモブ……?」
「そうそう!! ポット・デノモーブ!! いや、何かイントネーションがおかしい気がするけどね!!」
意識がハッキリとしていく中で、やかましい友人に目を細めながらロウは首を持ち上げる。
アステラの食事場。
どうやら、朝食中にまだ眠かったのかうたた寝してしまったらしい。
「それで、話の続きなんだけど!」
「話───あぁ、あの時の穴の話か」
オオナズチとの邂逅。それから数日が経った。
あの日の身体へのダメージもようやく回復してきて、やっと調査に復帰出来そうである。
「件のゾラ・マグダラオス誘導作戦で調査団が立ち寄った地脈回廊があるだろう? 誘導作戦が成功した後、その地を調べたら僕達が見付けた穴にあった結晶らしき物が見つかったんだ」
ロウ達がアステラの
地脈回廊の奥でかの龍が命を終えれば、溜め込んでいた膨大なエネルギーが放出され新大陸は火の海になると言われていた。
それを防ぐ為に、調査団はゾラ・マグダラオスを海へと誘導。
この重大な任務を見事成し遂げ、新大陸での生存を───この地に生きる事を勝ち取ったのである。
「やっぱり、アレは……新大陸のエネルギーの源だったという事か」
「僕もそう思うよ! この新大陸には地脈からなんらかのエネルギーが全体に行き渡っている! もしあの結晶を辿ってその中心に行く事が出来れば、この新大陸の謎をまた一つ解明出来るかもしれないね!」
浮き足だった表情でそう語るポット。
そんな彼を見ながら、ロウは「そうだな」と微笑んだ。
新大陸。
「ポット、あんたここに居たのね。キリエラちゃんが声掛けてくれなかったら、また私だけ朝ごはん抜きだったんだけど!!」
「お花摘みからただいま。というか二人共もう食べてる!? 僕の事待ってくれても良くない!?」
「やあアンワ! キリエラ君! おはよう。お先しているよ」
「お先しているよ、じゃないでしょ! 朝は一緒に食べてからその日の行動を決めるって言ってるじゃない!!」
ここは、龍が渡りの末に辿り着く地。
「ポットが急かすから」
「あれ!? 僕のせい!? ロウ君がお腹すいたと泣きそうな顔で言うか───痛!!」
「俺は何も言ってない」
「まぁ、遊んでないで早く食べるわよ。あんた達も今日から復帰でしょ?」
「そうだね。僕もこの通り! 新しい義手もバッチリ!」
ここは、人が目指す新天地。
「そうだ! ロウ、僕達は大蟻塚の荒地の調査に行くよ! どうやら、荒地には生息していなかった筈のプケプケが荒地で見付かったらしいんだ。その謎を究明しに行く!」
「げ……またプケプケか」
「オオナズチよりマシでしょ?」
「それとコレとは違うだろ。……いや、良いけどな。分かった分かった。プケプケだな」
ここは、数多の謎を辿る物語の地。
「さー、行こう。新大陸の謎はまだまだ解明されてないからね!」
「そう急かすな、
これは、その数多の物語の一つ。
青年と少女が見付けた、手に取った、掴んだ、新しい世界の物語。