モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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信号弾

 大地を踏み締める。

 

 

「上陸したぞ!! 新大陸!!」

 全身から海水を滴らせながら、一人の男が両手を広げて声を上げた。

 

「して!! ここは何処だ!!」

 彼の名はポット。

 調査団の船に乗っていたが、不慮の事故により船から海に落とされてしまった5期団の編纂者の一人である。

 

 

「到着早々森の調査とは、僕も中々に仕事熱心だな! しかし、ママに泳ぎの稽古をさせてもらっていて良かった。そうでなければ今頃海の藻屑となっていただろう!」

 言いながらポットは辺りをゆっくりと見渡した。

 

 見渡す限りの緑。

 ここが一体何処なのか検討も付かない。

 

 

「まさかここはあの世か!!」

 愕然とした表情で崩れ落ちるポット。

 

 しかし、ふと目の前の木々の奥から聞こえてきた音に顔を上げて───彼はこう呟く。

 

 

「いや、違うな。あの世に来てまでこんな恐ろしい目に遭いたくない」

 視界を上げたその先。

 燻んだ桃色の巨体。血肉に飢えた眼差しと、鋭い牙。

 

 

「おっと!!! これは死ぬぞぉぉぉおおお!!! 助けてママぁぁあああ!!!」

 ポットは文字通り、裸足で逃げ出すのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 音が鳴って空を見上げる。

 

 

「なんだアレは」

「信号弾だよ。数とか色で色んな意味があって、遠くの仲間に連絡する時に使うんだ」

 信号弾に気が付いたロウにそう説明しながら、キリエラは放たれた信号弾に視線を移した。

 

「……なるほど。で、アレはどういう意味だ」

「怪我人の輸送中。モンスターに追われてるって!」

「急ぐぞ!」

「ちょ、キミ!」

 キリエラの言葉を聞いて、ロウは信号弾が上がった地点に向けて走る。

 そこには怪我をした5期団のハンターを運ぶ、4期団のハンターがいた。

 

「怪我人か!」

「おう! キリか! そっちは?」

「後輩の5期団! 今一緒に救助活動してた所!」

「駆け付けてくれたんだな、5期団! 助かるぜ。キリもありがとうな!」

 4期団のハンターと親しげに話すキリエラ。

 自らを4期団と自称していた十八の少女。しかし、それは嘘ではないらしい。

 

 

「怪我人は」

「この通り。足をやられててな」

 4期団のハンターが背負っている5期団のハンターをロウに見せるように振り向くと、背負われていたハンターは「いてて!」と悲鳴を上げる。

 

「大丈夫そうだが、走れはしないだろうな」

「っと、そんな事話してる場合じゃねぇ。追い付かれちまった」

 4期団は冷や汗を流しながら、ロウの背後に視線を向けた。

 

 その先には桃色の大顎が立っている。

 

 

「アンジャナフ……」

「さっき僕達を追ってた子だよ。今凄い数の調査団が救助したりされたりで森に居るから、あの子多分今片っ端から調査団の皆を襲ってるんだと思う」

 キリエラの言う通り、このアンジャナフは何度か調査団を襲っているらしい。

 その度に迎撃されたり見失ってしまい腹を立てているのか、アンジャナフは鼻先の器官を展開させて息を荒げ、ロウ達に血走った瞳を向けていた。

 

「凄い怒ってる」

「見れば分かる」

「ヤバいな。おい! 5期団!」

「分かってる! あんたらは怪我人を。あいつは───俺が止める」

 言いながら、ロウは背負っていた自らの得物に手を伸ばす。

 

 二つ折りになっていた身の丈程もある大筒を展開し、ロウは迫ってくるアンジャナフの足元に銃口を向けて引き金を引いた。

 

 

 発射された弾丸は地面を抉り、同時に破裂。

 地面を吹き飛ばしてアンジャナフの動きを鈍らせる。

 

 続いて弾丸を込めてから引き金を引くロウ。

 今度は動きを止めたアンジャナフの頭部に三発。アンジャナフはまるで頭部を槌に叩かれたかのように悲鳴を上げながらの仰け反った。

 

 

「今のうちに!」

「ヘビィボウガンか、良い腕だ。助かるぜ! 5期団!」

 負傷者を背負って調査拠点へと向かう4期団を尻目に、ロウは一度大筒を二つ折りにして背負いながら走る。

 

「こっちだ! 来い!」

 態とアンジャナフの目の前を通りながら、挑発するような言葉を漏らした。

 勿論モンスターに人の言葉は分からないだろうが、今さっき自分を攻撃してきた相手が逃げていけば、アンジャナフというモンスターは追いかけて来る。

 

 だからその言葉は願掛けのような物だった。

 

 

 走りながら、ロウは出来るだけアステラから離れるように動こうと考える。

 このアンジャナフが近くにいたのでは救助活動に支障が出るかもしれない。今は討伐や撃退よりも、アンジャナフを引き付けるのが優先だ。

 

 

 ───最悪、自分()()()()で他の皆の命が助かるのならそれで良い。

 

「───で、どうする気! キミ!」

「は!?」

 走ってる途中でそんな言葉が聞こえてきて、ロウは目を丸くして顔だけ振り向く。

 視線の先には、鬼の形相で迫ってくるアンジャナフと───青い髪を靡かせながら自分の背後についてくるキリエラの姿があった。

 

 

「どうして着いてきた……!」

「どうしてって僕はキミの相棒だぞ! 当たり前じゃないか!」

 走りながら頭を抱えたくなるが、そんな事をしている場合じゃない。

 

 怪我人を連れた4期団と一緒に拠点に帰った物だと思っていた少女は、走っているロウの右隣に着いてこう口を開く。

 

 

「ヘビィボウガンの腕に自信は?」

「は?」

「腕前を聞いてるんだよ! 僕はキミの事をあまり知らない。だから、作戦を立て難い」

「作戦って……」

 今は逃げる、ただそれだけを考えていた。

 

 もし自分が犠牲になっても、このアンジャナフを拠点から遠ざければそれだけで多くの命が救われるかもしれない。

 人柱になる事に躊躇いはないし、むしろやっと自分の番になったのだとロウは思っていたのである。

 

 

 だから、作戦なんてない。

 

 

「もしかして、死ぬ気だった訳!?」

 走って、倒れた樹木を飛び越えながらキリエラはそう言った。ロウは返事をしない。

 

「図星か……。キミ、そんなのは新大陸じゃ許されないよ」

「厳しい調査地だ。犠牲は付き物だろ」

「違う。厳しい調査地だからこそ、貴重な人員を減らす訳には行かないの! キミ一人が居なくなった事で一人の犠牲で済むとか思ってるかもしれないけど! キミ一人が居なかったせいでその後何人死ぬと思ってるんだよ! 自分の命を自分だけの物だと思ってる奴は、団体では三流もいい所だ!」

 キリエラの言葉に、ロウは唇を噛む。

 反論出来ない。彼女の言う事は正しい。

 

 

「……だったらどうするんだよ」

「キミの腕を見込んで、僕が囮になってキミが撃つ! これで行こう!」

「はぁ!?」

 あまりにも無茶な作戦に、ロウは躓きそうになって表情を歪めた。

 背後から迫るアンジャナフが、さっき飛び越えた樹木を踏み潰しながら迫ってくるのが見える。

 

 その巨体に踏まれただけで人間は肉片と化すのがモンスターという生き物だ。

 

 

「お前バカか! さっき貴重な人員がなんだの言ってただろうが!」

「おー、やっと僕を貴重な人員───4期団の編纂者だって認めてくれたね! うれしい!」

「だったら───」

「僕はちゃんと考えてる。キミがしっかりやってくれれば、僕は死なない」

「……っ」

 僕は死なない。

 そんな言葉を聞いて、ロウは表情を歪ませる。

 

 

 人間は何を言っていようが簡単に死ぬ生き物だ。

 

 

「……俺は───」

「僕は死なない。絶対に。……キミが守ってくれるなら、ね」

「───くそ! 分かった。作戦は!!」

 四の五の言っている場合ではない事は確かである。

 

 今二人が生き残る道を選ぶのなら、アンジャナフを何処かで撃退しなければならない。

 

 

「ここじゃまだアステラに近い。森の中ならあの子の足も少しは遅くなるから、そこを通って距離を稼いでから迎え撃つよ!」

「分かった。けれど一つ約束してくれ」

「ん?」

「……死なないで欲しい」

 ロウがそう言うと、キリエラは一瞬キョトンとしながら彼の表情を覗き込む。

 その瞳は揺れていた。

 

「大丈夫。僕は十年この新大陸でやってきた先輩だぞ!」

 言いながら、彼女は左腕の義手を真っ直ぐロウに向ける。ロウはその言葉に応えるように、義手を右手の甲で叩いた。

 

「着くまでに作戦を話す! 走りながら聞いてよ!」

「……分かったよ、先輩」

 一瞬だけ瞳を閉じる。

 

 

 脳裏に映った光景を振り解くように、ロウは首を横に振ってから前を見た。

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