モンスターハンターArriving in New world【完結】 作:皇我リキ
狩人。
文字通り、狩りを生業とする人の事を言う。
この世界の理───モンスターを狩猟する事は容易ではない。
モンスターは時に人の何倍もの体格を持ち、時に海や空等と人の手の及ばぬ領域を支配し、時に体から炎や電気を生み出した。
人には手に余る力。
そんなモンスターを、ハンターは知恵と勇気───時々お金を振り絞って狩猟する。
人々は彼等を───モンスターハンターと読んだ。
☆ ☆ ☆
古代樹と呼ばれる樹木の集合体。
そこを中心に広がる森は、古代樹から離れる程に樹木の背が低くなっていく。
「───開ける場所に出るよ! 作戦は頭に叩き込んだね!」
「信じて良いんだな?」
「勿論!」
アンジャナフから逃げながら、二人は作戦を確認すると同時に二手に分かれた。
開ける視界。
ロウは背後から陰になる岩場に飛び込んで、キリエラはそのまま走る。
朝焼けが眩しい海岸沿い。
キリエラは海沿いの岩場に真っ直ぐ向かい、アンジャナフは岩陰に隠れたロウの真隣を通り抜けてキリエラを追いかけた。
「……絶対に死なせない」
言いながら、ロウは背負っていたヘビィボウガンと呼ばれる大筒を展開する。
ヘビィボウガン。
ハンターが使用する武器の一つで、その名の通りボウガンの一種だ。
大筒とも呼ばれるその名は伊達ではなく、発射される弾丸は小型の大砲の威力にも匹敵する。
しかしその威力の代償として重量が極端に重く、背負ってならともかく構えている状態では満足に走る事も出来ない。
遠距離から高威力の弾丸を叩き込める代わりに機動力を犠牲にした、扱いの難しい武器───それがヘビィボウガンだった。
「こっちこっち!」
走るキリエラ。
追い掛けるアンジャナフは、目を血走らせてキリエラを噛み砕かんとその牙を光らせる。
真っ直ぐ進むと開けた視界の中に一本の木が聳え立っているのが見えた。
キリエラはそれを確認すると、満足気に「よし!」と意気込んで真っ直ぐに走る。
「あの木か」
ロウはキリエラの視線の先にある木に銃口を向けた。
ヘビィボウガンのスコープを覗いて、その時を待つ。
キリエラがその木を横切る寸前にロウが引き金を引くと、銃口から放たれた弾丸がキリエラが横切った瞬間に木に突き刺さった。
次の瞬間。
爆発。
突き刺さった弾丸が破裂して、樹木の下部を半分吹き飛ばす。
重心の崩れた木は横倒しに倒れ───キリエラを追いかけて来たアンジャナフの背中を叩き付けた。
「かかった!」
振り返るキリエラ。
ロウが倒した木はツタ状の葉を有しており、アンジャナフは倒れて来た木のツタの葉に絡まって身動きが取れなくなる。
暴れれば暴れる程絡まっていくツタの葉。
さらにロウは、アンジャナフの足元に向けて銃弾を叩き付けた。
今度は爆発こそしないが、アンジャナフは悲鳴を上げて横倒しになる。
そうしてアンジャナフはさらに身動きを封じられた。
これで暫くは追って来られないだろう。今の内に逃げてしまえば、無事に拠点に戻る事が出来る筈だ。
狩人はモンスターを狩猟する。
しかし、それはこの世界からモンスターを根絶やしにする為ではない。時にはこうして、お互いに手を引かせるような結果も必要だった。
「ナイス徹甲榴弾!」
「アイツにもう何度かその徹甲榴弾を打ち込めば、討伐だって出来るんじゃないか?」
片手を上げて歩いてくるキリエラの手には応えず、ロウは暴れ回るアンジャナフを遠目にそう口にする。
徹甲榴弾は衝撃を与えると爆発する弾丸だ。
ヘビィボウガンの威力も相まって、モンスターに直撃させれば大ダメージを与える事も出来る。
「この大陸の調査が新大陸調査団の第一の目的。無用な殺傷は避ける。ロウだって、それが分かってたからやらなかったんでしょ?」
キリエラはそう言うと、日が昇り始めた海岸沿いを少し眺めて「急いで帰ろうか。また追い掛けられても嫌だし」と続けた。
日が上がって来れば、また別の救助作戦を展開出来る。
それに現在の救助状態を確認したい。もう救助が終わっていたら、ひとまずは安心出来るが。
そんな事を考えながら、キリエラはアステラに向けて歩き出した。
ツタの葉からなんとか抜け出そうとするアンジャナフを尻目に、ロウは胸を撫で下ろす。
「心配してくれた?」
「……黙れ」
「釣れないな───ん?」
「───なんだ?」
ふと、地鳴りがして二人は辺りを見渡した。
モンスターが走って来る時のような地面の揺れ。
しかし、件のアンジャナフは未だにツタの葉の下で暴れ回っている。
ともすれば別のモンスターなのだが、次の瞬間───目の前の木々の間から現れた者に二人は目を見開いて固まった。
「うわ!! 人がいた!! 助けてくれ!! 僕は5期団のポット・デノモーブ!! 君達は!? あれ!? ロウ君!! ロウ君じゃないか!!」
「誰だお前」
「知り合いじゃないの?」
「……あ、お前確か───」
「そんな事言ってる場合じゃなかった!! 助けてくれ!! アイツが来るんだよ!!」
森の中から出てきた男───5期団のポットは慌てふためきながら自分が走って来た森を指差す。
次の瞬間、その指先の木々を吹き飛ばしながら
「アンジャナフだと!?」
振り返るまでもなく。
これは今さっき拘束したアンジャナフとは別の個体だ。
新しく現れたアンジャナフに、ポットは「ひぇぇえええ!!」と悲鳴を上げてロウの後ろに隠れる。
にが虫を噛んだような表情で背中に背負うヘビィボウガンに手を伸ばすが、ほぼ目と鼻の先に居るアンジャナフに対して重量の重いヘビィボウガンを構えるのは悪手だ。
「……っ」
やっとの事で二人共無事に帰られると思った矢先。
救助対象を見付けたは良いが、突然の状況にロウは唇を噛む。
冷静でいようとしても、どうしたって良い手が浮かばない。このまま諦めて自分が囮になって二人を逃す事くらいしか思い付かなかった。
もうそれしかない。
回らない頭を横に振って、二人に「逃げろ」と言おうとした矢先。
「───ここは、やっぱり僕達の世界じゃないなぁ」
キリエラが右手でロウを制するように下がらせる。
次の瞬間。
咆哮。
追っていた獲物が突然三人に増え、どうしてやろうかと涎を垂らしていたアンジャナフの背中を───もう一匹の
森中に広がる悲鳴。
噛み付いたアンジャナフは、同種のアンジャナフをその顎で持ち上げると近くの岩場に放り投げる。
砕ける岩。
砂埃の中でなんとか立ち上がったアンジャナフは、突然の奇襲に苛立ちを見せて鼻の器官を展開。
さらに背中に閉まっていた翼のような放熱器官も広げて、その大顎から炎を漏らし始めた。
「さっきのアンジャナフ……。縄張り争いか?」」
「僕達がもたもたしてる間にツタの葉から抜け出して来たみたいだね。でも、アンジャナフ同士で縄張りを超えて争いになるなんて……。何が起きてるんだろう」
振り返れば、ツタの葉の下敷きになっていた筈のアンジャナフの姿がない。
抜け出してきたは良いが、自分を罠に嵌めた小さな狩人よりも───自らの縄張りを犯した同種の存在の方がアンジャナフにとって狩猟対象だったという事だろう。
ロウ達を追っていたアンジャナフも、鼻と背中の器官を展開して目の前のアンジャナフを睨んだ。
先に動き出した、ポットを追ってきて背中を噛み付かれたアンジャナフが口から炎を吐き出す。
しかし、対するアンジャナフはその炎の中を突っ切って───炎を吐き出すアンジャナフの首元にその大顎の牙を突き立てた。
狩人。
文字通り、狩りを生業とする人の事を言う。
しかしそれは、人が作り出した言葉だ。
真にこの世界で狩りを生業にするのはこの世界の理であるモンスター達に他ならない。
その狩人達の戦いを見て呆気に取られている二人を引っ張るようにして、キリエラはこう口にする。
「調査団として縄張り争いに興味があるのは間違いじゃないし、どうしてアンジャナフがこんなにも出てくるのかとか興味は尽きないけど! 今は逃げるのが先決だよ二名共!」
「……そ、そうか」
「それもそうだね!! 二人共、アステラまで案内して欲しい!! 船から落ちてしまっておパンツまでびしょ濡れなんだ!!」
キリエラに言われて、二匹のアンジャナフを尻目に三人はアステラへ向け走った。
古代樹の森に竜の咆哮が木霊する。
その鳴き声は、三人がアステラに到着する寸前まで続いていた。
そうしてロウとキリエラは、無事に5期団の遭難者一名を救助して調査拠点に戻る。
先に拠点に戻っていた4期団と怪我をした5期団も無事に到着していたようだ。
彼等が戻って数時間後───ゾラ・マグダラオスの頭上から飛び降り、後に調査団の青い星と呼ばれるようになる
前期団の助力。
そして精鋭を集めた5期団の判断力と行動により、怪我人こそ出たものの今回の件で犠牲者は出なかった。
これにて新大陸古龍調査団、第5期団総員が調査拠点アステラに到着する。
古龍渡り。
ゾラ・マグダラオス。
新大陸の生態系の異常。
5期団の到着。
導きの青い星。
古龍。
新大陸に集まったそれらを中心に、その全てを巻き込む渦のように巡る物語が始まろうとしていた。