モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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第一章【二人の死神】
死神


 霞の中。

 

 

 一面の白。

 

 辛うじて見える影を頼りに、手探りで探す。

 

 

「師匠!!」

 男の声が霞の中で響いた。

 

 

「ロウ、君は生きなさい。この龍は───」

「どうして───」

 伸ばした手は霞を掴む。

 

 

 視界は鮮血に塗られた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 5期団の到着から数日。

 

 

 新大陸調査団はゾラ・マグダラオスの痕跡を追って、古代樹の森一帯の調査を進めていた。

 

 

「つまり!! この痕跡を辿れば、ゾラ・マグダラオスの現在地を特定!! もしくは補足できるという事なんだよ!!」

「そうか。で、俺に何の用だ。そしてあんたは誰だ」

「釣れないなロウ君!! 僕だよ、ポット・デノモーブ!!」

「ポッと出のモブ?」

「そう!! だけど何かイントネーションが違う気がする!!」

 調査拠点アステラ。

 5期団の到着から調査の続くアステラは、調査に出るハンターやそれを纏める編纂者が忙しなく動き回り活気を見せている。

 

 

「ゾラ・マグダラオスを追って、古龍渡りの謎を追う。それは我々5期団の出発以前からある任務じゃないか!」

「そんな事は分かってる。それで、俺に何の用だって聞いてるだろ」

 ロウはそう言って、顔の近いポットの頭を押し返した。

 

 ゾラ・マグダラオス。

 5期団の船が新大陸に到着する時、船を押し上げて海面から現れ───そのまま新大陸に上陸して行方をくらませた()の正体である。

 

 

 海から船を持ち上げたのは、山程の体格を持つ超巨大生物だった。

 

 その正体は古龍。

 熔山龍───ゾラ・マグダラオス。

 

 十年に一度の周期で訪れるようになった古龍渡り。

 その古龍渡りで新大陸に向かっている途中のゾラ・マグダラオスを発見したギルドは、かの龍を追いかけるように5期団を派遣する。

 

 そして不慮の事後で船を一隻失う事になったが、5期団員は全員無事に新大陸入りを果たし、調査は順調に進んでいた。

 

 

「何の用だって? 決まってるじゃないか。僕()もゾラ・マグダラオスの痕跡を調べに行こうというお誘いだよ!!」

 親指を立てて、異様に白い歯を光らせるポット。

 ロウは一度目を細めると、何かに気が付いたかのように目を見開いてから口角を吊り上げる。

 

「なるほど」

 言いながら、ポットに習うように親指を立てるロウ。

 そんな彼をみて目を輝かせるポットだが、ロウは目を細めてその指をそのまま真下に向けた。

 

 

「お断りだ。他を誘え」

「どうして!?」

「どうしてもクソもあるか。何度言わせれば分かるんだ。俺は誰とも組む気はないって言ってるだろ」

 5期団が新大陸に到着して数日。

 

 ポットは毎日のようにロウを探しては、一緒に調査をしようという話を持ちかけてくる。

 彼とは逆に、共にアンジャナフを罠に掛けたキリエラという少女は救助活動の時こそしつこい程に着いてきたが、今は見る影もなかった。

 

 ロウにとってはそっちの方が都合が良く、今はこのポットという男に対してのみ煩わしさを感じている。

 

 

「これは文字通りの巷の噂なんだけど」

 話を切って、この場を立ち去ろうとしたロウに向けてポットはそう口を開いた。

 少しだけ立ち止まったロウに、ポットはこう話を続ける。

 

 

「君は現大陸で()()と呼ばれていたそうじゃないか。……なんでも、護衛クエストで何度も護衛対象の命を守りきれなかった。死を運んでくる、護衛とは名ばかりの死神ハンターだってね」

「……っ」

 ポットの言葉にロウは表情を歪ませ、怒るでもなく瞳を瞑って固まってしまった。

 

「……そうだ」

 否定はしない。

 

 

「俺は現大陸で書士隊の護衛ハンターをやっていた。その中で何人もの仲間を見殺しにして、守れなくて、俺が殺したも同じだ! しまいには俺と一緒に古龍と戦った奴も沢山死んで、俺は生き残った! 死を運んでくる死神? そうだな、言われる通りだ」

 自虐的にそう言うと、ロウはゆっくりと歩いてポットの胸倉を掴む。

 

「そんな俺と組みたいだと? 死にたいなら一人で死んでくれ。俺の前で死なないでくれ……!」

「でも、君が殺したわけじゃない」

 ポットは静かにそう言うと、両手を上げて首を横に振った。

 

 それを見てロウはポットを突き放す。

 そろそろ周りの仲間に止められる頃合いだったが、ロウもそれを察知したのか一度深呼吸をした。

 

 

 別に暴力を振るおうとした訳ではないが、くだらない事で問題を起こしたくはない。

 

 

「……俺が殺したような物なんだよ。何も知らないなら、放っておいてくれ」

「5期団は選りすぐりのハンターが集まる場所だ。君の噂は確かにあるけど、誰も君の事を怖がったりはしない。なぜなら君も! その選りすぐりのハンターの一人なのだから。ギルドに期待され、新大陸に足を踏み入れた誇り高き5期団の一員だからだ! この場所なら、君も誰かが死ぬ事なんて恐れなくて良いんだよ!」

 ポットに背中を向けて、ロウは古代樹の森に向かっていく。

 

 彼は投げ掛けられる言葉をそっと胸の内にしまいながら「それでも俺は───」とその場を後にした。

 

 

 

「───それでも俺は、また誰かがこの手の中で死ぬのが怖いんだよ」

 古代樹の森。

 ロウは大自然が作り出した迷路を、地図を頼りに歩く。

 

 少し強く握られた紙の地図は皺だらけになっていた。

 

 

 そんな地図を一度しまうと、ロウは座り込んで水分補給をする。

 

「くそ……」

 嫌な事を思い出して手の震えが止まらない。

 

 

 彼は現大陸で死神と呼ばれていた。

 

 書士隊の護衛ハンター。

 それが、ロウという青年の過去である。

 

 

 5期団として新大陸に渡る事が許される程、彼は優秀だった。

 

 

 多数の大型モンスター討伐経験。

 

 そして二回の古龍撃退戦への参加。

 

 

 彼もポットの言う通り、選りすぐりのハンターである事は間違いない。

 

 しかし、彼が現大陸で死神と呼ばれていたのも確かである。

 

 

 五人。

 ロウが護衛を引き受けた書士隊の任務やクエストで犠牲になった人数だ。

 

 街では「護衛対象を守れなかった間抜け」「自分だけ生きて帰ってきて良い御身分だ」と心無い事を言われていたが、クエストを失敗したのは確かで言い返す事も出来ない。

 そんな声から逃げるようにロウは新大陸古龍調査団への入団を希望して、今ここにいる。

 

 

 それが、ロウというハンターが5期団として新大陸に渡った経緯だった。

 

 

 

「……いや。もう良いだろ。俺はもう、一人でやる。その為にここに来たんだ」

 落ち着いて、首を横に振ってから大きな溜息を吐く。

 

「今は任務に集中しろ……」

 そしてロウはそう言うと、再び地図を取り出して辺りの風景と照らし合わせた。

 

 

 ここ数日間の5期団の活躍により、古代樹の森の数カ所にベースキャンプを設立する事に成功している。

 ロウは今日、調査団のリーダーからそのベースキャンプ周辺の安全確保及び生態系の調査を任されていた。

 

 

 曰く「よう! ロウだったな。もし手が空いてるなら、このクエストを受けてくれないか? 5期団の仲間から、ロウは書士隊所属でモンスターの生態調査なんかも慣れてそうだって聞いてな!」との事。

 どうやら5期団の仲間はロウが何者なのか知っている者も多いらしい。

 

 死神。

 そんな言葉が頭に浮かんで、ロウは再び首を横に振る。

 

 

「さて、この辺りにベースキャンプが作られたって書いてあるが」

 気を取り直して地図と睨めっこするが、どうも目の前の光景と地図が一致しない。

 

 

「まさか……まさかな」

 冷や汗が土に落ちた。

 

 

「……また迷子か」

 ロウという青年には方向音痴の節があるらしい。

 

 思えば書士隊に所属していた頃も、良く一人で迷子になっては師匠や姉弟子に探して貰う日々を過ごしていたのである。

 ましてやここは未知で未開の地だ。

 

 

「……アステラは何処だ」

 悩めば悩む程自分が今何処にいるのか分からなくなる。現在地への自信がなくなると、地図の見方も覚束なくなるからだ。

 

 そもそも護衛任務は着いていくだけなので、この方向音痴が原因で護衛対象を守れなかった訳ではない。

 故に致命的に困った事は()()()()なかったのだが───

 

 

「不味いかもな」

 薄暗い森の中で、ロウは嫌な気配を感じる。

 

 

「───ジャグラスか」

 森を彷徨う青年一人。それを狙う狩人が集まって来ていた。

 

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