モンスターハンターArriving in New world【完結】 作:皇我リキ
薄暗い森を、緑色の小さな灯りが灯した。
「───この痕跡は、ジャグラス達の親分か」
森の中で、一人の少女が小さな灯りを頼りに目を細める。
灯りの正体は何かに群がるようにして集まる蟲だった。
蟲達は少女───キリエラが手を翳すと、バラバラになってまた別の場所に集まる。
その蟲達が集まって出来た光は、何か大きな生き物の足跡のような形をしていた。
「導虫の反応が強くなって来てるな……。これ以上近付くと危なそうだけど───」
導蟲。
キリエラの眼前で集まるこの光る蟲達はそう呼ばれている。
この導蟲はモンスターの痕跡等に反応して群がる性質を持つ蟲だ。
調査団はこの導蟲を使役し、その性質を利用してフィールドの探索やモンスター追跡に活用している。
文字通り、調査団を導く蟲だ。
諸説あるが、導蟲がモンスターの痕跡に反応して集まり光を放つのは──仲間に危険を知らせる──為だとも言われている。
逆に言えば導蟲が集まり光っている先には危険なモンスターが居るという事だ。
また、匂いを覚えさせるとその匂いの元に向かう性質を持っているのも導蟲の特徴である。
「───さて、キミは誰の匂いに反応してるんだい?」
そんな導蟲が一匹だけ、地面に落ちている
モンスターの痕跡に集まる導蟲の傍でキリエラの視界にその
その何かは普通落ちている物でもないが、キリエラにとって珍しいものでもない。
「地図か……。誰が落としていったんだろ」
導蟲の止まった
綺麗に二つ折りにされた古代樹の地図。
調査の進む古代樹の森なら、別に落ちていても珍しいものでは無い。落とし物である。
しかし、導蟲が反応するモンスターの
キリエラは唇を尖らせて「やれやれ」と溜め息を吐いた。
「何もなければヨシ。何かあれば調べて、対処して、報告するのが調査団!」
合図をして導蟲を虫籠の中に集めると、キリエラは痕跡を辿って歩いていく。
少し進むと、モンスター達の鳴き声が聞こえるのだった。
☆ ☆ ☆
引き金を引く。
「何匹居るんだ……」
放たれた弾丸は狙った位置に直撃し、一匹のモンスターの命を奪った。
細長い胴体と尻尾、長い爪。
全身を黄色と緑の鱗で覆った
その口の中に銃口を向けるロウ。
躊躇いなく放たれた弾丸が、そのモンスターの頭部を吹き飛ばした。
「これだけジャグラスが居てボスが出てこないのは妙だが、今はコイツらだけでも厄介だな」
ジャグラス。
それが、今ロウの目の前にいるモンスターの名前である。
小型といわれているが、その全長は人のそれよりも大きい。
さらに厄介なのは、このモンスターが群れを作って行動するモンスターという事だ。
今ロウの周りにはこのジャグラスの死体が三つ転がっているが、ロウを囲うジャグラスはその倍の数がいる。
さらに愚痴を言っている間に一匹増え、合計七匹のジャグラスに囲まれてしまった。
既に三匹の仲間を失ってジャグラス達も警戒しているが、一歩間違えれば一瞬で肉片になるのはロウである。
「さて、どうするか」
しかし、彼はどこか冷静だった。
この程度の苦難は何度も切り抜けてきている。
伊達に死神と呼ばれるまで生き残っている訳ではないと、ロウは自嘲混じりの苦笑いを零した。
先に動く。
ロウは背後から忍び寄るジャグラスの脇を抜けるように、ヘビィボウガンを構えたまま地面を後ろに転がった。
囲まれていたロウだが、これで七匹を正面に捉える。
そしてボウガンに弾を込めると、彼は間髪入れずに引き金を引いた。
発射された弾丸は空間を包み込むように放射状に散る。弾丸の小さな欠片が、辺りのジャグラスに襲い掛かった。
散弾。
文字通り発射後に砕け散り、小さな欠片を広範囲に放つ弾丸である。
ボウガンはこのように通常の弾丸に加えて様々な種類の弾丸を状況により使い分ける武器だ。
他にも着弾後爆発する徹甲榴弾、貫通力の高い貫通弾、毒を含む状態異常弾等々───様々な弾丸がある。
散弾は威力が低い代わりに広範囲を攻撃出来る弾丸だ。
今のロウのように小型モンスターに囲まれた状態でこそ真価を発揮する。
「……気が立ってるのか、引かない理由があるのか」
威力が低いとはいうが人に向ければ一瞬で肉片に出来る程の威力を持つ弾丸だ。
ジャグラス達もタダではすまない。一撃の弾丸で鱗は何枚も弾け飛び、眼球が潰されたジャグラスも居る。
しかし、ジャグラス達は未だに威嚇をしながらロウにその鋭い眼光を見せていた。
全く戦意の衰えないジャグラス達を見て、ロウは考えを巡らせる。
このまま七匹共殺してしまうのは彼にとって簡単な事だった。しかし、ロウの───ハンターの仕事はモンスターを一匹残らず殲滅する事ではない。
ハンターは人とモンスターが上手く付き合っていく為に存在している。
こと新大陸の調査団ならば尚更だ。
ロウの目的はキャンプ付近のモンスター達の生態調査である。討伐でもない。
「うまく避けろよ……」
言いながら、ロウはヘビィボウガンに徹甲榴弾を装填した。
これは先日アンジャナフを罠に嵌めるために木を吹き飛ばした──爆発する──弾丸である。
それを、ジャグラス達の足元に放った。次いで爆発。
地面を抉る程の爆発に驚いたのか、ジャグラス達は戦意を削がれてロウから逃げていく。
「ふぅ───」
なんとかなったが───と、ヘビィボウガンを背負おうとした直後に背後から音が聞こえてロウは反射的に振り向きながら銃口を向けた。
「待った待った待った! 僕だよ! 仲間!」
「───お前か」
振り向いた先。
そこには、両手を挙げて降参のポーズを取る一人の少女の姿が見える。
その両手の内、左手は棒が着いただけの義手になっていた。
先日ロウと共にアンジャナフを罠に掛けた少女───キリエラである。
「見事な腕だったね! 流石5期団。一人でも上手くやってるみたいで少し安心したよ」
「元々一人でやるつもりだったからな。……お前はなんだ? 冷やかしか。俺を誘いに来たなら断───」
「いや、別にそうじゃない。ジャグラスの鳴き声がして気になったから覗いてみただけだよ」
ポットにはあまりにも執拗にコンビの誘いをされたからか、どうやら早とちりをしてしまったようだ。
ロウは「そ、そうか」と恥ずかしくて顔を晒す。
別に誘って欲しかった訳じゃない、なんて小さな声を漏らしている事も自分で気が付かない程ロウは動揺していた。
本当は彼は───
「ヨシ。問題なさそうだし、邪魔しちゃ悪いから僕はこれで! ジャグラスの事は僕よりキミが報告した方が良いだろうから、宜しくね!」
「お、おいちょっと待て!」
その場を去ろうとしたキリエラを呼び止めるロウ。
振り向いて「どうかした?」と首を傾けるキリエラに、ロウはボソボソと環境生物の鳴き声に掻き消される程の小さな声を漏らす。
「どうしたのさ」
「……て、くれ」
「ん?」
「……アステラまで案内してくれ」
顔まで真っ赤にしてそう言うロウ。
キリエラはそんな彼を見て、ロウがこれまでの人生で誰もしている所を見たことも無いような凄いニヤ付き顔をしていた。
「キミ、結構可愛い所あるね」
「うるさい……! 別に良い! 一人で帰れる。迷子になったからって死ぬ訳じゃない」
確かにロウはこれまで何度も狩場で迷子になっている。
狩場で彷徨う事は一流のハンターでも危険な事だ。それは、現大陸だろうが同じである。
それでもロウはこうして生きているのだから、腕は確かだった。
しかし、それとこれとは話が違う。
「リーダーからのクエスト、調査だったよね。早く帰って報告しなくて良いの?」
「……っ」
「リーダー、怒ると怖いよ」
「マジか」
「うん。特に仲間や自分の命を粗末にする人にはね」
キリエラはそう言うと、ロウの元まで歩いてこう続けた。
「だから僕も、リーダーに怒られたくないし。心配しなくてもちゃんと案内するって。まったくもー、キミは中々可愛い後輩君だな!」
満面の笑みの歳下に背中をバンバンと叩かれ、ロウは全身真っ赤にして湯気まで出しながら前を歩くキリエラに着いていく。
絶対に何か仕返しをしてやると表情を歪ませるロウの背後で、一匹のジャグラスが森を歩く二人を覗き込んでいた。