モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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地図

 昔の事を思い出す。

 

 

「また迷子になってしまっていたんですね、ロウ」

「し、師匠……」

 森の中。

 書士隊に所属していた頃、彼は度々チームとはぐれて迷子になっていた。

 

 その度に師に見付けてもらうのは「()()迷子になってしまっていた」という言葉から察せる通り、殆ど毎度の事である。

 

 

「ロウ、君は誰かと居なさい。人間出来ない事は沢山あるのですから。でもそれは……君に出来る事を、その誰かの力にも出来るという事なんですよ」

「俺は───」

 ───その事を、俺は忘れられない。けれど、怖いんだ。また、貴方のように失うのが。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 アステラ。

 

 

「───なるほど、妙に引き退らないジャグラスか」

 ロウからの調査報告を聞いて、調査班リーダーは眉を顰める。

 

 アステラに帰還したロウは古代樹の森で遭遇したジャグラス達の事を報告していた。

 仲間が何匹か屠られ、散弾に怯んだ様子はあっても引く気が全く見られなかったジャグラス。徹甲榴弾の爆発でようやく撤退したが、ロウは何か妙な意地のような物を感じたのである。

 

 

「縄張りを守るのは、どんな生き物でも同じだ。俺達がこのアステラの安全を確保してるようにな。……ロウはどう思ったんだ?」

「確かに、生き物として当たり前の行動かもしれない。……けど同時に、生き残る事も生き物として当たり前の行動だ。それに───」

「それに?」

「───あの量のジャグラスが居たのに、ドスジャグラスが出てこなかった。大きな群れなら……なによりあそこまで縄張りを誇示するジャグラスの群れなら親玉が居ると思ったんだが、そこが引っ掛かる」

 ロウの言葉を聞いて、調査班リーダーは「ドスジャグラスが不在の群れ、か」と目を細めた。

 

 どうやらロウの見解通り、新大陸でも十を超える群れに親玉が居ないのは珍しいらしい。

 

 

「ドスジャグラスの生態がヒントになるかもね」

 ふと、脇で話を聞いていたキリエラがそんな言葉を漏らす。

 

 ドスジャグラス。

 ジャグラスというモンスターの群れを収めるボスであり、ジャグラスの数倍もの体躯を持つ大型モンスターだ。

 

「キリ、何か分かるのか?」

「憶測だけどね。ドスジャグラスは子分の為にアプトノスとかを()としてばら撒く生態があるでしょ? 彼が遭遇したジャグラス達の親玉はご飯を取りに行って不在だった、とか」

「だったらジャグラスが逃げないのもおかしいだろ。ボスがいないのに勝てない相手に挑むか? ボスを守るって理由もないなら尚更だ」

「ボス以外に守るものがあるとしたら?」

 キリエラの言葉にロウは目を丸くする。

 

 

 ボス以外に守るもの。そんなのは一つしかない。

 

 

「……繁殖中なのか」

「憶測、ね。キミが進もうとした先にジャグラス達の巣があったのかもしれない。卵……もしくは幼体か」

「そこまで分かれば話は早い。この件は俺からじいちゃんに話しておくから、今日はもう休んで良いぞ」

 じいちゃん───とは、調査班リーダーの祖父。この新大陸で、調査団の総司令を務める人物だ。

 

 

 調査団のリーダーとキリエラ曰く、件のドスジャグラスは直ぐに討伐クエストが張り出されるだろうとの事。

 ロウは「討伐するんですか?」と調査班リーダーに問い掛ける。

 

 新大陸の調査が目的なら討伐ではなく、観察を優先すると思ったからだ。

 

 

「新しいベースキャンプはこれからの調査をより安全にする為にどうしても必要だからな」

 5期団の到着で、調査団の新大陸調査はより加速していくだろう。そんな中で、ベースキャンプの確保は団員の安全の為にも不可欠だった。

 

「ところで、キリと組んだのか? コイツは悪ガキだが、頭の回る奴だ。上手く使ってやってくれ」

「いや、組んでない。俺は誰とも───そもそもこんな得体の知れない奴と誰が組むか……」

「なんて酷い言いようだ」

 ロウの言葉にキリエラは目を細める。

 

 しかし、彼の言う通りキリエラは別にロウと組んだ訳ではない。調査班リーダーの勘違いだ。

 

 

「でも、そうだね。組んだ訳じゃないよリーダー。僕はただ、森で迷子になって困ってる彼をここまで案内しただけ」

「なんだ、そうなのか」

「うん。森に地図が落ちてて、誰かモンスターに襲われてるのかなって思って探してみたら彼が居てね。手助けは要らなそうだったけど、道を覚えるのが苦手みたいでね。あ、そうだ! キミの地図。ほらコレ」

 そう言って、キリエラはポーチに入れて置いた地図をロウに手渡そうとする。

 

 綺麗に二つ折りにされた地図だ。

 

 

「は? それは俺の地図じゃない」

「え?」

 ロウは「何を言ってるんだお前は」とでも言いたげな表情で、自分のポーチに入れていた地図をキリエラに見せびらかす。

 少し皺の入った地図だ。キリエラが拾った地図と同じ物だが、こちらは扱いが悪い。

 

「地図を持ってても迷子になるのかキミは!?」

「今はそこじゃないだろ……」

 目を細めるロウ。

 

 キリエラが拾った地図がロウの物ではないとすると、他の誰かが古代樹の森で地図を落としていたという事になる。

 彼女が心配した──地図を落とした──人物はロウではなかったという事が問題だった。

 

 

「それじゃ、この地図は───」

「よう! あの時の5期団とキリじゃねーか。お前らあれから組んだのか?」

 ふと、ロウ達に手を挙げて一人の男が話し掛けてくる。

 それは救助活動中にアンジャナフに追われていた4期団の先輩だった。

 

「あの時は助かったぜ。お陰で助けた5期団も軽い怪我で済んだ! あーっと、そんな事を言いに来たんじゃなかった。あんたら、ポットって奴が何処にいるか知らないか? 編纂の仕事で話があるんだが」

「ポット……。誰だそれは」

 目を細めるロウ。頭の中にやけにテンションの高い男の顔が浮かぶ。

 

「ほら、二匹目のアンジャナフを連れて来ちゃったあの人だよ。なんで名前覚えてないの」

「あー、アレか。確か……ポッと出のモブ」

「そんな名前の奴が居るのか」

 驚く調査班リーダーの横で「そんなバカな」と目を細めるキリエラ。そんなバカな話はともかく、4期団の先輩は「そうそう、ソイツだよ。ソイツ───」と話を続けた。

 

「───ソイツ、確か……ロウ君をコッソリ付けてコッソリ相棒として編纂者の仕事をする……なんて事を言ってたらしいんだが一緒じゃないのか?」

 曰く。

 ポットの知り合いの5期団に聞いたところ、彼はそう言って古代樹の森に向かったらしい。

 

 4期団の先輩の言葉を聞いたロウとキリエラは、一枚の地図とお互いの顔を何度か見比べて表情を真っ青にした。

 

 

「「ソレだぁぁあああ!!」」

 重なる二人の声と持ち上げられる地図。

 

 何が何だか分からない4期団の先輩は「なんだ?」と首を傾げる。

 

 

「じいちゃんに相談してる場合じゃないな。よし、緊急クエストだ! ロウ、ドスジャグラスの討伐を頼めるか?」

 事態は一刻を争うかもしれない。

 

 三人の話を纏めるに、ポットが古代樹の森で何かに襲われて地図を落とした可能性が高かった。

 その何かとはドスジャグラスやジャグラス達の可能性が高いだろう。

 

 

「……分かりました」

 静かに頷いたロウは、自分のポーチに充分な弾薬がある事を確認して直ぐに調査班リーダーに背中を向けた。

 しかし、そんなロウの背中をキリエラの義手が引っ張る。

 

「なんだ?」

「一人で行けるの?」

「それは……」

 目を細めて言うキリエラの言葉に何も言い返せないロウ。

 気合を入れてクエストに臨むのは良いが、方向音痴が祟って()()()()()()()()では問題だ。それはロウも分かっている。

 

 

「ちょっとだけ待ってて! 料理長にお肉もらってくるから!」

「は? お肉?」

「その内にキミはアイテムポーチを万全にしておく事!」

 そう言ってから言葉通りに()()()()して戻ってきたキリエラと共に、ロウは古代樹の森に向かうのだった。

 

 

 

「キリが誰かと組んでるなんて、珍しいな。リーダー、アイツなんかあったのか?」

「どうだろうな。……ただ、キリにとって新しい風になってくれる奴が来たのかもしれない」

 そう言って、調査班リーダーは「さて、じいちゃんに報告だけしないとな」とアステラからでも見える古代樹に背中を向ける。

 

 生暖かい海風がアステラに停泊する船の帆を揺らしていた。

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