モンスターハンターArriving in New world【完結】   作:皇我リキ

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肉塊

 半日前。

 

 

 ロウに振られたポットは、仲間の5期団と共に食事の場で談笑をしていた。

 

「───と、結局振られてしまってね。僕の何が行けなかったんだろうか!」

「そりゃ死神ハンターなんて話を本人にしたら気を悪くするだろ」

「お前が悪いよポット」

 死神ハンター。

 護衛クエストで何人もの犠牲を出したロウは現大陸でそう呼ばれていて、その事を本人に話したというポットに5期団の仲間は口を揃える。

 

「むむむ、確かにあまり良い話題ではなかった!」

「大体死神ハンターなんて───」

「となれば! 僕のするべき事は一つだ! 君達ありがとう。僕はロウ君をコッソリ付けてコッソリ相棒として編纂者の仕事をするよ! そして時を見て謝ろう!」

 人の話も聞かずにスタスタと支度をしながらそう話すポット。

 仲間の5期団達は肩をすくめながらも、彼のこういう前向きな所は嫌いではないので勝手にやらせる事にしたのだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 森を歩く。

 

 

 漂ってくる焼けた肉の匂いに、ロウは頭を抑えて溜め息を吐いた。

 

「どうしたんだキミ。顔色が悪いぞ」

 そんなロウの隣で()()()()()を頬張りながら口を開くキリエラ。

 彼女はロウを待たせて態々持ってきたこんがり肉を片手に、頬に肉片を着けながら「食べたいのか?」とこんがり肉を持ち上げる。

 

「食べる訳ないだろ。お前、こんな時になんで肉なんて食ってるんだ……」

「こんな時だからこそだよ。お腹が減ってはなんとやらって言葉もあるでしょ? ほら、キミもお食べ」

 そう言って食べ掛けのこんがり肉をロウの頬にぶつけるキリエラ。ロウは眉間に皺を寄せながら、キリエラからこんがり肉を奪うようにして齧り付いた。

 

 実際の所、探索から帰ってきて直ぐにまた古代樹の森に戻る事になったロウは空腹感を感じていたのである。

 しかし何やら見透かされているようで気分が悪い。

 

 

「さて、ここだよ。僕が地図を拾った場所は」

「俺がジャグラスと遭遇した場所だな」

「となると、ジャグラスと遭遇して戦いやすい場所まで逃げたキミを追おうとしたのかな?」

「そこで、ジャグラスか何かに襲われて」

「地図を落とした」

 同じ見解に辿り着いて、キリエラは満足気に持ち上げた地図を開いた。

 

 この付近はロウが見た通りジャグラス達の縄張りになっている。

 ポットが何者かに襲われたのなら、その相手はジャグラスの可能性が高い。

 

 

「とにかく、アイツを探さないと話にならない」

「……キミって人の名前を覚えないよね。そこまでして人と関わるのが嫌な訳?」

「……そういうお前こそ俺の名前を呼ばないだろ」

「僕は名乗ったけど、キミは名乗ってない。名乗ってないのに名前を呼べというのは失礼だよ」

 言われて、そういえばそうだと思い出した。ポットが名前を呼んだりしてキリエラはロウの名前を知っているが、ロウから名乗った覚えはない。

 

「……別に、呼ばなくて良い。お前のいう通り、俺は他人と関わりたくないんだ。……俺は、死神だからな」

「死神、ねぇ」

 目を細めて、キリエラはロウから視線を逸らす。

 

 

 一度しゃがんだ彼女は、導蟲の虫籠を開きながらこう口を開いた。

 

「どうせ、不慮の事故が重なってさ、それが原因で死神と呼ばれるようになったり。今度は護衛対象が勝手な行動をしたりとか、そんな所でしょ」

「それでも、俺は守れなかった」

 不慮の事故は確かにあったし、護衛対象が勝手な行動をした事は否定出来ない。けれど───

 

「───俺は一番大切な人を、目の前で死なせて、自分だけ生き残った……死神なんだ」

 ───自分が許せない。

 

 

「……だから、他人の事は助けたいけど関わりたくないと」

「何か文句があるのか?」

「いや、別に。でもさ、その生き方……辛くない?」

 ふと、導虫が飛んでいく姿を見送りながらキリエラはロウの顔を覗き込む。

 

 彼女の質問に答える事がロウには出来なかった。

 

 

「きっとキミが悪いなんて思ってる人は一部の人だけで、分かってくれる人は皆分かってくれてる。自分が許せない気持ちは分かるけどさ、困った時に誰かに頼らなかったら最終的にまた自分を恨むだけだよ」

 言いながら、キリエラは導蟲を追いかけて歩き出す。緑色の光は、まるで道を照らしてくれるように真っ直ぐに進んだ。

 

「導蟲にポット君の匂いを覚えさせたから、この子達が案内してくれるよ。ちょっとバカそうだったけどあの人も5期団の一員だからきっとどこかに隠れてる筈。早く迎えに行ってあげよう!」

 まるで見透かされているような言葉を静かに投げ続けた少女は、打って変わって年相応よりも高いテンションで導蟲を追い掛ける。

 ロウは「調子が狂うな」と頭を掻きながら彼女を追い掛けた。

 

 

 彼女のいう事はもっともである。

 

 死神。

 そう呼んでいたのは、一部の人達だけだ。

 

 危険な狩場での護衛任務は失敗率が低い訳ではない。むしろ一人で大型モンスターを討伐するよりもたちが悪いクエストだとも言われている。

 自分一人ならまだしも、素人を連れて守らなければならないのだ。その素人が勝手な行動を取れば守れる物も守れない。

 

 

 それでも、事実として彼は何人もの依頼者を見殺しにしてしまった。

 

 

 

「もう二度と、誰も死なせない」

 歩きながらキリエラがそんな言葉を漏らす。

 

「それで良いじゃないか。どうしたって、過去には戻れない。失った物は取り戻せない。……だったらさ、今頑張ろうよ」

 そう言って、キリエラは導蟲を追い掛けるのを辞めた。

 

 追い付いたともいうべきか。

 真っ直ぐに迷いなく進んでいた導蟲達が、まるで道に迷ったかのように揺れている。

 

 

 何故か。

 その答えは目の前にあった。

 

 

 

「なんだコレは……」

「アプトノスの死体だね。したいというか、肉塊? ドスジャグラスが吐き出した奴だ」

 腐った血と肉の匂い。

 

 羽虫が飛び交う眼前に、バラバラになった骨と肉の塊が転がっている。

 

 

「酷いな……」

「ここで導蟲が止まっちゃったという事は……」

「まさか───」

 最悪な結末が頭を過った。

 

 眼前の肉塊の中にポットが混じっていても、二人には分からないだろう。

 

 

 崩れ落ちるロウ。

 キリエラも、頭を抱えて溜め息を漏らした。

 

 しかしここは狩場である。既に腐肉になりかけているとはいえ、血と肉の匂いに釣られていつモンスターが来てもおかしくはない。

 ポットの事は一度拠点で報告をして───そう思って動こうとしたその時だった。

 

 

「その声は!! やはりロウ君だね!!」

「───うわぁぁぁああああ!!」

「───うわぁぁあああ!! 腐肉から死体が出て来たぁぁあああ!!」

 突然腐肉の中から血塗れの何かが立ち上がって声を上げる。

 

「って、うわ!! キミ、ポット君か!! なんて場所から出て来るんだよ!!」

「は? うわ本当だ。なんだお前。怖……。いやキモ……」

 しかしよく見ると、それは二人が探していたポット本人だった。

 どうやら彼は腐肉の中に隠れていたらしい。身体中血と腐った肉がこびり付いて、見た目は完全に腐った死体である。

 

 

「いや! 失礼! ジャグラスに追われてここに逃げ込んだのだけど、出て行くタイミングを見失ってしまってな!」

「驚かせるなよ!!」

「さ、流石5期団。僕はキミ達を甘く見ていたらしいね」

 頭を抱えるキリエラ。

 正直偉そうな事を言った挙句、間に合っていなかったとなればどうした物かと思ってしまったがそうならなくて何よりだった。

 ともあれ腐肉の中に隠れるなんて奇行は想像出来なかったので、やはり5期団は凄いなとキリエラは感心する。

 

「5期団全員コイツみたいな変態だと思われるのは癪だが?」

「あれ? もしかして僕は今凄くバカにされてないかい!?」

「お前はある意味凄いと褒めている」

「それは良かった! 所でロウ君!」

「なんだ。別にお前が俺を追い掛けてこうなった事に責任を感じてる訳じゃないからな。何度も言うが俺は誰とも組む気は───」

「いやそうじゃなくて後ろ」

「あ?」

 この展開、何処かで───そう思ってロウはポットの指差す方角に振り向いた。

 

 

 木々の木陰から顔を覗かせる何匹かのジャグラス。

 その背後から、地面を揺らしながら足音を立てて現れる大型モンスターが一匹。

 

 

「ドスジャグラス……」

 ドスジャグラス。

 牙竜種ジャグラスの群れを統べる大型モンスターである。

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