【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第二十二章+第二十三章+第二十四章

 

「艦長、早期警戒RVF-0が救助信号を探知しました。現在艦種特定中」

 

「救助信号?海賊のテリトリーの中なのに?」

 

「艦種特定、カルバライヤのククル級です。発信源は針路上ですが・・・いかがしましょう?」

 

 

 ふ~む、ククル級か、確かカルバライヤでは要人送迎にも使われる豪華客船だったか?装甲が厚いから、海賊に襲われにくいと聞いたことがあるけど、流石にグアッシュ海賊団みたいに集団で来たら為す術も無かったようだ。

 

しかし、海賊のテリトリーに入って一日。運良くもまだ海賊には見つかっていないが、罠の可能性もある・・・だが、もしかしたらどこぞの航路から流されてきた可能性も捨てがたい。

 一応航路とは言うが、支流みたいな航路も幾つか存在しているからな。

 

 

「一応、警戒しつつ前衛のK級を救援に向かわせるッス。ルーインさん」

 

『なんだ艦長?』

 

「もしかしたら船外作業になるかも知れないんで・・・」

 

『あいよ。K級に移動しとくぜ』

 

「お願いするッス。トーロ」

 

 

 EVA班長のルーインさんに通信をつないだ後、アバリスのトーロにも連絡を入れる。

 アバリスには威力は普通だが射程が長いリフレクションカノンが搭載されているからな。

 いざとなったら、早期警戒機とのリンクで、レンジ外からの砲撃を敢行するのだ。

 

 

『なんだ?』

 

「リフレクションカノンを、何時でも使える様に準備しておいてほしいッス」

 

『おいおい、警戒のしすぎじゃねぇか?K級だけでも逃げるだけなら大丈夫だろう?』

 

「最悪の事態に備えて置くのも、艦長の仕事ッスよ。頼めるッスか?」

 

『・・・最悪の事態、ね。了解、準備しとく』

 

 

 さて、蛇が出るかそれともって感じか。いずれにしても針路上に居る訳だから、接触しない訳にもいかないからな。艦隊の位置表示をしてある空間ウィンドウを見ると、前衛K級艦を表すグリッドが、もうすぐ救助信号を発しているフネに接舷するところだった。

 

 外部モニターを見ると、信号を発していたフネは、やはり戦闘によって大破させられたらしく、外面は殆どがボロボロになるくらいに破損していた。推進機の損傷が激しいことから、まずはそこを狙い撃ちにされて、航行を停止してしまったのだろう。感じからすると既に略奪が終わった後のように見える。しかしトラップだと言う訳でも無いみたいだし・・・。

 

 

「エコーさん、周辺に反応は?」

 

「今の所~、3次元レーダーにもー、空間ソナーにもー、全く反応が無いわ~」

 

「やはり自力でココまで来たのか?だとしたら、なんて言う幸運なフネだろうねぇ」

 

 

 穴開きチーズにされた状態で、よく信号を出せたモンだと感心しちまう。

 さて、少しして中にはいったルーインから連絡が届いた。曰く生存者がいたとの事。

 死体かと思ったら、動いたらしく若いEVAの一人が漏らしかけたとかなんとか。

 

長いこと無重力空間に放置されていたらしく、現在衰弱しているので、医務室預かりとなっているらしい。あれま、本当に生存者がいたよ。偶然だが、通りかかってよかったなぁオイ。

そのまま放置されてたら、窒息か被ばくかもしくはデブリの衝突か、いずれにしても良い死に方はしなかっただろうさ。

 

 

「――さて、少し時間を取られたけど、くもの巣まで後どれくらいっスかね?」

 

「宙域保安局の情報が正しければ、航路に乗って行ってあと1日もしない距離だそうだ」

 

「・・・・ステルス偵察機を出して置いた方が、良いかも知れないッスね」

 

「まずは情報ってかい?何だか女々しいねぇ」

 

 

 女々しくて結構、エルメッツァでは周辺地域や軍の情報が豊富だったからよかったが、今回は保安局も状況を把握し切れていないのだ。特に相手の戦力に対する情報が圧倒的に足りない。何さ?巡洋艦多数って、調べるんならちゃんと調べておいて欲しい。

 

こんな色々と情報も足りないのに、敵の本拠地に突っ込むのはアホのする事だ。そうそう俺の艦隊が負ける事は無いかと思うが、出来れば損害なしで済む事に越したことは無い。

 

 

「ケセイヤさんに通信を繋いでくれッス。それとトランプ隊にも」

 

「アイサー艦長」

 

 

 とりあえずケセイヤさんに頼んで、ステルス強化型RVF-0を出してもらう事にした。乗るのはトランプ隊の中から、ププロネンさんが選んだ人員。無人機にしたいところだけど、ステルス機という隠密偵察を行う以上、無線誘導では気付かれる恐れがあるからだ。

 

 

「ステルス偵察機、発艦します」

 

「出来れば良い報告を・・・・出来ればね」

 

 

 偵察機が帰ってくるまで、半舷休息の令をだし、そのまま各自休息へと入ったのだった。

 

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

 

―――32時間後―――

 

 ようやく偵察に出した機体が、艦隊の元に帰還した。ステルスのお陰で気がつかれることなく任務を達成できたことに安堵したが、偵察機が持ち帰った情報には素直には喜ぶ事が出来なかった。

 戦況把握用の大型パネルスクリーンがあるCICにて、俺達は敵さんの分析を行っていた。

 

 

「ふ~む、この画像を見る限り、巡洋艦クラスのバクゥ級が40隻、駆逐艦クラスのタタワ級が100隻以上、おまけに幹部用なのかは知らないが、通常と異なる艦が数十隻。まさに要塞ッスね」

 

「解析の結果なのだが、殆どの艦がカスタマイズを施されたアッパーバージョンの相当する事が判明した。さらに、これを見て欲しい」

 

 

 解析を行ってくれたサナダさんが、コンソールを操作して別の画像をパネルに映した。

 そこには先程映し出されていた、今まで見たことが無い艦が映し出されていた。

 

 

「解析の結果、このフネはカルバライヤ軍で使用されている巡洋艦の、バゥズ級と言う事が判明した。問題はこのフネに装備されている武装なのだが」

 

 

 彼はそう言うと、コンソールを操作して画像をアップにした。

 恐らくは兵装部分だと思われるのだが・・・。

 

 

「?――これがどうかしたのかいサナダ?」

 

「ちょっと解りずらいだろうが、対艦ミサイル発射管をよく見て欲しい」

 

「・・・・あー成程。コイツはまた」

 

 

 アップされた画像には、ちょっとこのフネの大きさには不釣り合いな程の大きな穴。

 ソレが片方に3門、恐らく両舷合わせて6門の発射口が見える。

 

 

「恐らくだが、このフネがくもの巣を守る守備隊の旗艦に相当するフネだと思われる。それと兵装には本来の兵装では無い大型ミサイルを、無理やりに差し込んだのだと思われる痕跡が見られた。弾頭にもよるが、例え通常弾であっても相手の勢力から考えると、すこしバカに出来ん兵装だろう」

 

「デフレクターじゃ防ぎきれそうもないッスね」

 

「ユピテルは平気だろう。元々が耐久力も防御力も高い戦艦だから4~5発程度直撃しても沈むことは有り得ない。問題はユピテルに追随する駆逐艦群だ。もしも艦隊を分散して戦った場合、此方の勝率は3割を切る程になる」

 

「確かにあのミサイルは、駆逐艦搭載のデフレクター程度じゃ防ぎきれそうもないッスね」

 

 

 ガラーナK級にはデフレクター同調展開という機能があるが、あれを使用すると著しく機動性が低下するという弱点がある。一応巡洋艦クラスの場合、10隻全部で同調展開すれば自身の3倍の戦力相手でも、持ちこたえることが出来る計算になる。

 

だが、大型のミサイルが搭載されたあの巡洋艦相手だと、一時的には防げる事だろうが、その前にデフレクターシステムが不可に耐えきれなくなって、最終的にはオーバーロードを起して自壊して爆散する可能性が高い。

 

ユピテルやその他の艦も加わっての同調展開でも、恐らく敵さんの勢力から考えると、負けはしないが相当の被害を覚悟しなければならない事だろう。艦載機を用いても、相当数が撃破される恐れもある。

 

 もしも、もしもだがあの大型ミサイルの弾頭が、反陽子魚雷とかの様な高威力弾頭だった場合、俺達だけでも防ぎ切れるかどうか・・・。

 

 

「せめて、戦力的にはもう一隻戦艦クラスのフネが無いと、現状では厳しいだろう。ソレが科学班が出した解析の結論だ」

 

「うす、解析ありがとっス」

 

 

 さーてさて、困ったぞ。原作だと問題無しに突っ込んでいったが、これは少しばかり厄介だ。

 まさか敵さんがあんな無茶な改造を、自分たちのフネに施しているなんてな。デフレクターは確かに実体弾の防御に効果的だが、無敵という訳では無い。

 

もしも、少し前に何も考えずこのまま突っ込んでいたら、あの大型ミサイルをフネが剣山になるくらいに撃ちこまれていた所だったろう。しかし、このまま進まない訳にも行かないし・・・。

 だけど、今回ばかりは引くしかなさそうだな。戦力が足りないのに突っ込むのは得策じゃない。

 

 

「仕方ないッス。今回は一度引くッスよ。幾らなんでも敵さんに規模が、エルメッツァとも違い過ぎるッス」

 

「数十隻くらいだったら、無傷で撃破してやるんだがなぁ」

 

「1000隻・・・はいかねぇだろうけど、あの分じゃ数百隻は行ってそうだしな」

 

 

 ストール達の呟きを聞きつつも、俺は状況把握の為に来てもらっていた教授へと頭を下げた。

 

 

「ジェロウ教授、悪いんスが、もう少しムーレア行きは我慢して欲しいッス」

 

「仕方ないネ。幾ら研究がしたくても、死んでしまっては意味が無いヨ。なに、まだ時間はあるから、なにか別の方法を考えることとしよう」

 

「・・・・貴方が合理的に、物事を考える方でよかったッス」

 

「なに、わしとて人間。研究が終わる前に死にたくも無いしネ」

 

 

 この場での結論としては、とりあえず海賊に見つかる前に一旦下がり、今後どうするか考えると言う事にまとまった。各員解散と言う事で、反転の指示を出そうとしていた所―――

 

 

「――ん?艦長、医務室から連絡です。リアさんが話したいとの事です」

 

「リアさん?誰ッスか?」

 

「艦内時間で34時間前に、大破したククル級から救助されて医務室に収容された人です」

 

 

 ユピから医務室にいたリアと言う人が、俺と話したいと言う事を伝えられた。

 はて?なにか御用なんだろうか?フネの待遇に気にいらないとか?

 いや、ソレは無いか・・・。

 

 

「なんだろう?俺に何か様なんスかね?・・・ま、いいや。ユピ、通信開いてくれッス」

 

「アイサー、医務室とつなぎます」

 

 

 ユピがフッと目をつぶり、フネのシステムにアクセスする。

 そして空間パネルを俺の前に展開し、医務室と中継してくれた。

 ユピはフネと直結した電子知性妖精だから、こんなことが出来るんだよな。

 

 

「あなたが艦長のユーリさん?私はリア・サーチェス。まずは助けてくれた事に感謝を」

 

「ああ、いんや。偶然発見出来ただけッスよ」

 

 

 通信パネルに映し出された黄色い髪留めをつけた女性は、俺にまずは感謝の言葉を述べた。

 まぁ、そのまま放置されてたら、当然確実に死んでいたのだから、そう言うのも解らんでも無い。

 

 

「でも、何であんな危険な所を航海していたんですか?」

 

「・・・実はその件で、艦長に相談したい事があるのですが、今度話しを聞いてもらえるかしら?」

 

「ん?ああ、良いッスよ別に(話を聞くだけならね)」

 

 

 なんとなーく嫌な予感がしなくもないのだが、まぁ軍とかのアレに比べたら軽いモンだ。

 その後一言二言話をした結果、彼女もクルーとして迎え入れる事になった。元々輸送船に乗っていたらしいので、航海経験は豊富なんだそうだ。すぐにでも実働要員として使えるクルーとはありがたい。

 

でも・・・また歓迎会やるのか。今度は酔っぱらい共に捕まらんようにしなくてはなるまい。ついこの間も酔いつぶされる一歩手前だったからな。この時代に良い薬があってホントよかったと感じた瞬間だった。

 

 

 

 

――惑星ガゼオン――

 

 さて、航路上最も近い惑星のガゼオンに一度戻り、補給がてら停泊した白鯨艦隊。序でに以前予約されたリアさんの話を聞く為に酒場に行く事になった。どうにもこの世界では、相談事は酒場で行う的な風潮があるよな。まぁ、別に困らんから良いけどさ。

 

 

「で、話ってな何スか?」

 

「実は人を探しているんです」

 

 

 とりあえず長くなったので要訳すると、彼女は行方不明になった恋人を探して、あんな所にまで行っていたらしい。その人物はそれなりに優秀な、射撃管制システムの開発者だったらしく、監獄惑星ザクロウの自動迎撃装置、オールト・インターセプト・システムを完成させた後、行方不明になってしまったのだそうだ。

 

 尚、ココまでかなり簡素化して書いているが、実際はこの話に行きつくまでに3倍近い長さのノロケ話を聞かされているので、正直ぐったりである。つまり彼女は恋人探しの為に、俺のフネに乗っているらしい。ちなみに配属先はトーロのアバリスね。

 

 

「ま、カルバライヤに居るって言うなら、案外すぐに見つかるんじゃないッスか?」

 

「だと良いんだけど・・・」

 

 

 まぁ、恋人が見つからんのは不安な事だろうさ。

 航海経験はあると言っていただけあり、仕事ぶりにも何の問題も無いしね。

 ウチとしては人手不足でちょうど良かったから、正規クルーとして登録した。

 

 さてさて、とりあえずこの後は・・・・本当は嫌だけど宙域保安局にもう一度赴くかねぇ。

 どうやら嫌な予感が当たってしまった。絶対厄介事に巻き込まれると言うそう言うの。

 まぁ、俺達の艦隊と宙域保安局の戦力があれば、なんとかくもの巣くらい壊滅出来るかな?

 

 

 

―――惑星ブラッサム・宙域保安局―――

 

 さて、再度宙域保安局を訪れた俺は、またまたシーバット宙佐と対面していた。

 彼の横にはやはりといった顔のウィンネル宙尉と、ニヤニヤしているバリオ宙尉が立っていた。

 ・・・・そりゃ失敗したけどバリオさん?ニヤニヤ笑うなよ。なんかイラッてきたぞ?

 

 

「どうだったかね?自力でムーレアまで行けそうか」

 

「一応偵察して来たんですが、あれは無いですね。あれだけの勢力になるまでどうして放置されてたんだか」

 

「偵察して、帰って来れたのか・・・我々の偵察隊は殆ど帰還出来なかったというのに」

 

「運が良かっただけですよ。もっとも、こちらも交戦はしていません。」

 

 

 どうやら偵察を出したのに、気付かれずに帰って来れた事に驚かれたらしい。

 まぁ艦隊は常にステルスモードは展開していたし、偵察にしてもトランプ隊の中でも腕の立つ人間にやってもらったのだ。性格はともかく腕は一流という、某華の戦艦の様な気風がここで役立った訳である。

 

 

「しかし、アレだけの戦力をよく放置しておきましたね」

 

「ソレを言われると耳が痛い。だが、見て来た君達には、アレの危険性が理解出来たことだろう」

 

「ええ、そりゃもう。戦ったらギリギリ勝てる程度で、此方の損害がバカにならないですよ」

 

「・・・・ギリギリ勝てるのか」

 

 

 あり?何か宙佐が落ち込んでいる?なんで?

 なんか落ち込むような事、俺言ったか?

 

 

「ま、まぁ、俺達の艦隊だけでは不安でしたね」

 

「・・・そうか、ならば我々の計画に協力してくれないだろうか?かなり荒療治になるだろうが、グアッシュの連中に対抗するには、この計画しかないのだ」

 

「良いですよ。どうせ海賊をなんとかしないと、ここでの航海が安全じゃないッスから。ムーレアにも行かなければならないですしね」

 

「うむ、では詳しくはバリオ宙尉から聞いてくれたまえ。打ち合わせの場所はそうだな――」

 

「一杯ひっかけながらでいいでしょ。この建物内で出来る話でもなし」

 

「む、ソレもそうか」

 

 

 宙佐がどこにしようかと、一瞬考える仕草を取ると、背後に控えていたバリオさんが前に出て提案をしてきた。そしてやはりこの世界では、相談事は酒場でという公式が成り立つことが実証された訳だな。

 

 

「こちらもソレで良いですよ?場所は軌道エレベーターにある0Gの所で良いですか?」

 

「ああ、そこなら人が絶えることは無いから、相談事にはうってつけだ。じゃ、俺たちゃ一足先にやってます。・・・ウィンネル、行こうぜ」

 

「あ、ああ」

 

 

 彼らはそう言うと、此方に軽く手を振りながら室内から出てしまった。

 それにしても計画か・・・何をする計画だったか・・・?

 一応覚えてはいるんだが、若干こんがらがってて思いだせん。まぁなるようになるか?

 

 

「では宙佐、我々も・・・」

 

「うむ、それでは」

 

 

 そして俺達も、部屋から退室する。俺は仲間に目配せをして、そのまま酒場へと向かった。

 

 

***

 

 

「よぉ、来たな。まずは一杯ひっかけて、のんびりしろよ」

 

「うぃ~す」

 

「って、君達は未成年じゃないか!」

 

 

 酒場に着くと、さっそくバリオさんとウィンネルさんを見つけたので、彼らの元に来た俺。

 だが、ウィンネルさんが慌ててそんな事を言ったので、結局トスカ姐さん以外はのめない事になってしまった。おのれウィンネルめ・・・。

 

 

「で、呑むのはいいが、急いでるんでね。さっさと本題に入って欲しいね」

 

「おお、怖。綺麗な姉さん、んなこと言わないでさ?まずは仲良くなってからって事で――」

 

「・・・握りつぶして欲しいのかい?」

 

「「「「サーセンした!!」」」」

 

 

 トスカ姐さんがぽつりと言った言葉に、この場の男子はほぼ全員がある部分を抑えて土下座した。

 すんませんトスカ姐さん、アンタがソレ言うとマジで洒落になりませんぜ。

 だが、かなり打ち解けたので、ソレはそれでと言う事で―――

 

 さて、誰と話すか―――

 

・バリオ   ←

・ウィンネル 

 

 

・バリオ   

・ウィンネル ←

 

 

・バリオ   ←OK?

・ウィンネル 

 

――――おし、バリオさんに話しかけよう。なんとなくだ。

 俺はバリオさんから本題を聞き出す為に、彼に話しかける事にした。

 

 

「さて、本題に行きますか」

 

「ん?そだな。んじゃ本題。グアッシュ海賊団についてどれだけ知っている?」

 

「ええと、実は頭のグアッシュはとっくの昔に捕まってるとか。サマラという海賊と対立してるとか。アホみたいに戦力が沢山あるとか?」

 

「ああ、それだけ知っててくれりゃ十分」

 

 

 さて、ここで少し話がそれるが、海賊団は何故アレだけいて保安局と全面的に対立を起していないのか疑問に思う事だろう。海賊団の癖して、その戦力は地方軍規模に達しているくらいなのに、どうして宙域保安局を海賊が叩こうとしないのか?

 

 理由は簡単、おまんまが無くなってしまうからである。正確には稼ぎの事なのだが、もしも宙域保安局を潰した場合、完璧に各惑星間のフネの航行が制限されてしまう事になる。そうなれば、航路に網を張って、民間船を襲う海賊としては、おまんまの食い上げになってしまうのだ。

 

 また、宙域保安局を叩けば必ず防衛軍が動くことになる。幾ら海賊の規模がでかくても、スタンドプレーから生じる結果的な協力が主な戦法でしかない集団なので、統一されキチンとした訓練を受けている軍を相手に戦うのは分が悪すぎる事を、本能で理解しているのだ。

 

 だから海賊たちは、どちらかと言えば現状が好ましいと言える。現状ならばやり過ぎなければ、少なくても軍は動かないし、獲物である民間船の運航も止まることは無い。―――と、大分話がそれたので、そろそろ元に戻そうか?

 

 

「さて、問題は頭が捕まったにも関わらず、グアッシュ海賊団の勢いは全く衰えていないって事だ。ソレどころか最近はますます艦船数を増やしているありさまでね」

 

「たしかに、偵察してきて解ったのは、少なくても400隻近いフネがいるんスよね。しかも見えている分でソレッスから・・・」

 

「え?そんなに増えてたのか?」

 

「・・・・ほい、偵察した映像」

 

 

 俺が持っていた携帯端末、そこに偵察したくもの巣の映像を出してバリオさんに見せてやる。

 

 

「・・・・恥ずかしながら、もう我々保安局の手には負えなくなっている状況だ」

 

「ぶっちゃけましたね。ところで正規軍は動かせないんスか?」

 

「バハロスの連中はダメだ。海賊は保安局(こっち)の管轄だって話で終わっちまったよ。まぁ連中の元々の仕事は、ネージリンスとの国境防衛だからな」

 

 

 ココで一応、カルバライヤ星団連合とネージリンス星系共和国と呼ばれる二つの国について説明しておこう。

 

カルバライヤ星団連合は、いわば一攫千金を狙う労働者達が、エルメッツァ星間国家連合から独立したような、いわば独立戦争時代を終えたアメリカ的のような国である。ハングリー精神に富んだ開拓者たちが集まった様な集団で、合理性よりも情緒で動く国民的気質がある国である。

 

一方のネージリンス星系共和国は、小マゼランの人間では無く、マゼラニックストリームを越えた大マゼランにあるネージリッドと呼ばれる国家から流れて来た難民たちによって組織された国家である。

勢力的には人工はカルバライヤの3分の1程度しか無く、勢力圏も小さく資源すら持たない国だが、生来の合理性と論理性を重んじる性情を生かし、金融や技術分野に特化する事で国を成り立たせる経済国家である。

 

 この二つの国は緊張状態にあり、その元々の発端はネージリンスが難民として移住してきた宙域が、もともとはカルバライヤが開拓しようとしていた宙域であり、そこに先に移住されてしまったが為、カルバライヤ側としては肥沃な土地を奪われたと言う風に捉えた訳なのだ。

 

 第三者からしてみれば、難民であり行き場所が無かったネージリンスの民が、ギリギリの状況の中で築き上げた国家と言う事になるのだが、カルバライヤにとってはとられたと言う感情の方が根強く、また感情的に動く気質も相まって、合理性を重んじるネージリンスとは相性が悪かったのである。

 

 そう言う訳で、この二つの国は過去に戦争もしているだけあり、お互いを敵視し合う状態にある訳なのである。現在こそ戦争はしていないが、冷戦に近い緊張状態は続いており、お互いに睨みを利かす為、国境沿いに軍を配備しているのである。だからそう簡単に軍は動かせないと言う訳だ。

 

 

「そんな訳で、政府レベルの指示でも無い限り、勝手には動けないだろうさ。だから、我々としては毒を持って毒を制するしかないって結論に達した訳だ」

 

「毒をもって、毒を制す?」

 

「つまり、実に簡単な事だ。グアッシュと対立中の勢力がもう一つあるだろう?」

 

 

 グアッシュ海賊団と対立中・・・あ!

 

 

「サマラ・ク・スィーッスか!」

 

「そ。んでサマラ・ク・スィーを協力してグアッシュに対抗するって訳だ」

 

 

 成程、確かにソレは毒をもって毒を制すだ。

 しかし、これはマタ随分と危険な賭けに打って出るもんだ。

 

 

「保安局が海賊と取引すんのかい?」

 

「ソレってかなり不味いんじゃないッスか?」

 

「ああ、マズイね。ヤバ過ぎだね」

 

 

 トスカ姐さんが言った指摘に、案外すんなりと答える保安局。

 危険性は十分承知、だがそうもいっていられないと言う事か。

 

 

「だがそうも言っていられない。このままだとカルバライヤの要。このジャンクションの海運が壊滅しちまう」

 

「成程・・・話しは解ったスが、それじゃ俺達は結局何をすればいいんスか?」

 

「サマラと交渉して、協力の約束をさせて欲しい。俺達は保安局の人間だから、会おうとしても逃げられるか返り討ち。だが0Gの君達なら話を聞いてくれるかも知れないからな」

 

 

 どーん、と、何気に問題発言をサラリと言ってくれましたよこの人。

 え?なに?俺達がグアッシュと同程度の戦力を持つサマラと会って、あまつさえ仲間に引き入れろと?・・・・常識的に考えたら、すさまじく無謀すぎる。

 

 

「――引き入れる条件は?」

 

「カルバライヤにおける指名手配の停止、過去3年以前の犯罪データ2万件の消去だ」

 

「そんな条件で、名の通った海賊がウンと言うかねぇ?」

 

「うんと言ってもらうしか無いな。まさか保安局が海賊に報酬を払う訳にも行かないし、これでも最大限の譲歩なんだぜ?裏工作がメンドイの何のって・・・」

 

 

 あー、まぁ過去2万件近い犯罪データの消去なんて、すさまじく工作が面倒臭そうだよな。

 しかも裏取引だから、絶対に公には出来ない事なんだぜ?

 それをしなけりゃならんほど、追い詰められてますって証しだな・・・。

 

 

「行く行かないの問題の前に、サマラに出会う方法なんてあるんスか?」

 

「彼女は資源惑星ザザンの周辺宙域によく出るらしい。あの辺りは資源採掘船を狙って、グアッシュ海賊団の幹部クラスも活動しているからな。それを更にサマラが狙っていると言う訳だ」

 

「ピラミッド構造ってワケか・・・まるで食物連鎖ッスね」

 

「言いえて妙だな。ま、ソレ位しか情報は無いから、後は自力で頼む」

 

「はい、わかり・・・って待て待て、まだウチはやるとは言ってないッスよ?」

 

「ちぇっ!ノリでウンって行ってくれるかと思ったんだが」

 

「「「何やってんだアンタは!」」」

 

 

 ペロっと舌を出してふざけたバリオさんを、俺、トスカ姐さん、ウィンネルさんが怒突き、テーブルに撃沈した。まったく油断も隙もありゃしない。

 

 

「いつつ、軽いカルバライヤジョークなのに・・・」

 

「お前はどうしてそうやって話をややこしくしたがるかなぁ」

 

 

 なんか疲れた感じのウィンネルさんに同情しつつも、俺はこの話を受けた。

 サマラ・ク・スィーは0Gランキングの上位ランカーだ。当然実力は半端無い。

 それが戦力に加わってくれれば、グアッシュを叩くのもやりやすくなることだろう。

 それに、サマラさんとお知り合いが、ウチにはいるしね・・・。

 

 

「―――ん?何か用かいユーリ?」

 

「うんにゃ。ただ、この先大変だなぁって思って」

 

「??そうかい?まぁ、そうだろうねぇ」

 

 

 はてなマークを浮かべるトスカさんを見つつも、次の目的地はザザンかと思う俺だった

 

 

***

 

 

―――惑星ザザン周辺宙域―――

 

 

 さて、1週間かけてやって参りました資源惑星ザザンの周辺宙域。

 ここら辺で、サマラ・ク・スィーが出ると言うので、航路を進んでいると――

 

 

「艦長、哨戒機が前方で戦闘レベルのインフラトン反応を検知、交戦中の様です」

 

「戦闘・・・サマラのフネッスかね?」

 

「哨戒機からの映像を中継、モニターに映します」

 

 

 空間パネルが開き、そこに哨戒機からの映像が映し出される。

 紅黒く細長い船体をひるがえした戦艦と、黒と赤の2色の軽巡洋艦が戦っていた。

 戦艦相手に軽巡洋艦一隻で立ち向かうヤツなんて・・・・ああ、一人いたなぁ原作に。

 

 

「間違いないね。アレはサマラ・ク・スィーのエリエロンドだ。相手は大マゼラン製のフネみたいだが・・・さて、何時まで持つことかな」

 

「サマラ艦から小型の機械の射出を確認!」

 

 

 トスカ姐さんの話を聞いていたが、ミドリさんからの言葉に再び目をモニターに移す。

 エリエロンド級から五つの飛翔体が射出され、自艦の前方に展開していた。

 

 その飛翔体は3枚のパネルを開くと、そこに重力レンズパネルを形成した。

そしてエリエロンド級が放ったレーザーが4枚のパネルに接触。

そのまま反射した先にあった1枚のパネルにレーザーが収束加速し、強大なレーザーとなって軽巡洋艦を掠めて行った。軽巡洋艦は掠ったのにもかかわらず、後退しようとしない。

 

 

「ホレ言わんこっちゃない」

 

「間違いないッスね。ありゃリフレクションショット。あんな機構を搭載しているフネはエリエロンド級しかいないッス」

 

「おや?詳しいね?」

 

「まぁそれなりに」

 

 

 アバリスに搭載されているリフレクションレーザーカノンも似た様な機構ではあるが、エリエロンドのように、主砲クラスの威力を持つと言う訳では無く、アレは重力レンズで収束させた加速レーザーを放つ機構だから、全くの別モンだろうな。

 

 

「・・・で、アレに接触ッスか」

 

「戦闘の直後だから、日を改めた方が・・・」

 

 

 俺もそうしたいぜユピよ。だが、ココで逃したらチャンスが無いかも知れん!

 

 

「そうも言ってらんないッス。サナダさん、ステルスモード解除、ミドリさんは哨戒機を経由して通信回線を開いてくれッス」

 

「「了解」」

 

 

 ステルスモードを解除し、相手にこちらが発見できるようにした後、全通話回線を開いての対話を望む通信を入れた。もっともそれが偶々軽巡洋艦との戦闘に割って入った形になるのだが、そんな事知っちゃいねぇ。

 だが、残念なことに相手は通信に反応することなく、そのまま左舷に転舵して行ってしまった

 

 

「あれま、ガン無視ッスか。やな感じッスね」

 

「艦長、あっちの軽巡洋艦から、通信が来ていますけど・・・」

 

「え?」

 

 

 俺が驚く前に、全通話回線から無理やりに捩りこんだ回線が開き、通信可能状態となった。

 

 

『おい!そっちのフネ!聞えてるか!?何で邪魔しやがる!もうちょっとでサマラと言う海賊を仕留められたってのによ!!!』

 

「・・・・声デケェ」

 

 

 そして、耳を思わず塞ぎたくなるような、腹から出してるだろ的な大声の通信が入る。

 通信機は音量調節機構が付いてるのに、どうやってんだか・・・・。

 

 

「こちらは白鯨艦隊旗艦ユピテル。サマラ艦には―――」

 

『やかましい!テメェら見てぇな低ランクの連中にかまっている時間は無いからな!次は邪魔すんなよ!いいな!≪ブツン≫』

 

「通信、キレました」

 

 

 いやまぁ、なんて言うか・・・嵐みたいな感じだったぜ。

 言いたい事だけ言ってさっさと通信切りやがった。流石は皇子だぜ。

 

 

「何だったんだろうね?」

 

「さぁ?大方賞金稼ぎを生業にしているヴァカじゃないッスか?」

 

「おや?さっきのにイラッと来たのかい?」

 

「いいえー、べつにー」

 

 

 イラッとは来てないッスよ?ムカってきたけど・・・って同じか。

 流石は皇子、冷静な俺っちも怒らせるとは・・・恐るべし!

 

 

「で、どうすんだい?」

 

「・・・話を聞いてもらわないと何もできないッスから、ここら辺で網張りましょう」

 

「了解、んじゃステルスモードでぶくぶく潜航ってね」

 

 

 そう言う訳で、俺達はサマラと対話する為に、この宙域で網を張る事にした。

 それまではヒマだから、他の部署んとこ遊びに行ったのだが、マッドの巣でまたもやナニカ研究に没頭する連中が出始めた。何でもリフレクションショットを見て、開発意欲を増進させたらしい。

 

 その中でもミユさんは、エリエロンドに使われている装甲素材が、通称「ブラック・ラピュラス」と呼ばれる黒体鉱物であり、すさまじいステルス性を持っている事に関心しているとのコメントを残し、俺に「潜宙艦を作ってみないかね?」と、またもや迫って来たので逃げるので大変だった。

 

 ――そうして、この宙域に潜み続ける俺たちだった。

 

***

 

――40時間後――

 

「―――艦長、来ました。サマラ艦です!」

 

「今度こそ通信を入れるッス!エコー!もしも逃げたとしてもトレースを忘れない様に!」

 

「了解ー!」

 

 

 実は前回、サマラ艦がステルスモードを途中で使用した為、レーダーでのトレースが出来なかったのだ。今回は様々な機器を使うので、もし逃げられても痕跡を追う事は可能となっている。

 

 さて、この後何度か通信を入れたのだが、相手は一向に無視したままである。

 さて、どうしたもんか・・・・・・・・・・・・・・あ、そうだ!

 

 

「トスカさ~ん、ちょいと頼みますッス」

 

「え?ちょっ!アンタまさか私がサマラと知り合いだって」

 

「前に酒の席で・・・ま、頼んますッス」

 

「・・・・はぁ、お酒控えようかな」

 

 

 でへへ、実は元から知っています。ですが不用意に呑みまくる貴女が悪いのですよ。

 時たま記憶なくす位呑みやがって、ウチの酒代結構バカにならない値段の時があるんだぜ?

 少しくらい反省して貰わねぇとな・・・そうすりゃ被害者も減るだろうよ。

 さて、俺から通信パネルを受け取ったトスカ姐さんは、スーッと息を大きく吸って肺を広げた後、目をカッと見開いた。

 

 

「おーい!コラサマラー!無視してんじゃないよー!返事くらいしなこのトーヘンボク!!」

 

『・・・・その声、その下品な喋り方、トスカ・ジッタリンダか?』

 

「下品は余計だ!・・・それはさて置き、アンタと話がしたいのさ。サシでね」

 

『・・・・・よかろう、そちらの艦へ行く≪ガチャッ≫』

 

「通信、切れました」

 

 

 へぇ、自ら乗り込んでくるとは、これまた度胸のある方だぜ。

 俺だったら絶対にそんな事しねぇ。だって怖すぎるもん。

 そゆことする前に、通信及び電文で全部済ませるしな!・・・言ってて情けねぇな。

 

 

「さぁ、お客さんが来る見たいッス!リーフ!ユピテルをエリエロンドに接舷してくれッス!」

 

「アイサー艦長」

 

 

 エリエロンドが接舷する様子を見た後、俺はブリッジを出て接続チューブの元に向かう

 そして接舷してつながったチューブの減圧室につくと、ちょうど中から人が出てくるところだった。

 

 

「・・・・」

 

「(・・・・何故に酒瓶を持ってるんだ?)」

 

 

 海賊らしく、胸にどくろマークが描かれた空間服を纏った男が先に出て来た。

 だが何故か片手には酒瓶が握られている・・・・無類の酒好きなんだろうか?

 サド先生当たりと会話が弾みそうな人物だな。

 

 

「・・・・」

 

「(うわぉ、これまた凄く美人、でも冷たい感じがする・・・でもソレもクールでいいね!)」

 

 

 そして酒瓶をもった男性の背後から現れたのが、凄まじい美貌と長い髪を靡かせ、口元に冷笑を湛えた通称“無慈悲な夜の女王”こと、サマラ・ク・スィーその人だった。

 彼女は俺を一瞥した後、すぐに俺の背後にいたトスカ姐さんに視線を向けた。

 

 

「まさかこんな艦のクルーになっているとはな・・・相変わらず驚かせてくれるよトスカ」

 

「ま、色々あってね。今はココに居るユーリの手伝いをしている所さ」

 

「どうも、艦長をしているユーリです」

 

「ほう・・・この坊やが今の男かい?趣味が変わったのか?」

 

「はは、そうだったら良かったんですが・・「ちょっ!ユーリ!?」――生憎と違いますよ?」

 

 

 ちょっ!ジョークにジョークで返しただけなのに、トスカ姐さん何動揺してるんスか?

 そんな反応されたらこっちだって恥ずかしくなっちまうッス・・・・。

 

 

「「・・・・」」

 

「あー、そこ。仲が良いのはわかったから、私に話しというのがあるんだろう?」

 

 

 なんか妙な空気になって、サマラさんが苦笑して(と言うか呆れて)声を掛けてくるまで、なんか変な空気だった。ありがとうサマラさん、お陰で変な雰囲気から抜け出せたぜ。

 

 

「それじゃ、まぁココじゃあれ何で、とりあえず会議室へどうぞ」

 

 

 流石に減圧室で話しこむ訳にも行かない。

なので、防諜対策が為された会議室へと案内したのであった。

 

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

 

「・・・・成程、ブラッサムも余程焦っていると見える。だが・・・そんな話しに、このサマラ・ク・スィーが乗るとでも?」

 

 

 会議室へと移動し、宙域保安局からの話を伝えた結果がこれである。

 まぁ、長年追われ追いかけの生活してる間柄だし、そうそうウマくはいかねぇか。

 そう思い、答えあぐねて沈黙していた所・・・

 

 

「―――まぁ、考えてやってもいい」

 

「え?!」

 

「お嬢!本気ですかい!?」

 

「ガティ。ザクロウに入るいい機会だろう?」

 

「あ、な~る・・・」

 

 

 背後でガティと呼ばれた酒瓶を片手に持つ男が、サマラさんの言葉にいきり立ったが、サマラさんが言った“ザクロウに入る”という言葉にすぐに押し黙った。

 ?・・・ザクロウって、確か監獄惑星だったよな?

 

 

「油断ならないねぇ。何考えてんだい?」

 

「ふふ、たのしいことさ」

 

 

 トスカ姐さんも警戒していたが、本人はいたって楽しそうだ。

 ま、あちらさんにはあちらさんの目的があるんだろうさ。

 

 

「それじゃ、保安局まで来てくれるッスか?」

 

「ああ、そこまで同行し、そこで私を捕えて貰い監獄惑星ザクロウに送って貰う。ソレが私からの条件だ」

 

 

 ・・・・な~に考えてるんでしょ~ね~?

 ま、そんな条件でグアッシュ海賊団壊滅作戦に協力してくれるのだ。

 悪い話じゃ・・・ねぇわなぁ?

 

 

「んじゃ、ソレで良いッスね」

 

「交渉成立だな。ガティ、エリエロンドを頼むぞ?」

 

「がってんでさぁ」

 

 

 ガティさんはそう言うと、エリエロンドに戻るのか席を立った。

 どうやらサマラさんはこのフネに乗って、ブロッサムまで行くらしい。

 まぁエリエロンドごとだと、保安局に捕まるだろうしな。 

 

 

「それではサマラさん、このようなフネで恐縮ですけど、ブラッサムまではゲストとして歓迎いたします」

 

「ふむ、世話になろうか」

 

 

 そう言った訳で、彼女の目的は何なのかは知らないが、彼女を保安局へと送ることとなった。

 まぁ、彼女は誇り高き女性だからな。こちらもそれなりの対応をさせて貰おうかな。

 

***

 

 

Side三人称

 

――監獄惑星ザクロウ――

 

 半永久稼働する惑星防衛システム『オールト・インターセプト・システム』に守られた。犯罪者を収監するだけの惑星である。許可なく近づいた場合は勿論、惑星からも許可なく発進したフネに対し、自動迎撃衛星が容赦のない攻撃を仕掛け沈めてしまう為、一般の航路からは外れている。

 

 そこに、トスカとサマラを連れて、バリオがやって来ていた。サマラとの密約の条件として、この惑星に連れてくると言うのがあり、トスカはサマラの旧知という事あり監視としてついて来ていた。バリオはこの星の実質的なトップである所長の男と対談していた。

 

 

「やぁやぁようこそ惑星ザクロウへ、この私が所長のドエスバン・ゲスです」

 

「保安局海賊対策部所属、バリオ・ジル・バリオ三等宙尉、囚人2名の護送に参りました」

 

「ほっほ、歓迎いたしますぞ。モチロン、そちらの2人のお嬢さんもね」

 

「・・・(ジロジロ見んな。デブ)」「・・・(何故だ?あの男からは不本意だが同類の気が)」

 

 

 拘束具をつけられ、バリオの後ろにいたサマラとトスカを、舐めまわすかのように一通り見たドエスバンは、ソレを咎めるかの様に咳をしたバリオを恨めしそうに見ながら視線を戻す。

 

 

「ん~、ん~、ん~。いやいやこれ程の女囚が2人も・・・女囚・・・ジョシュウ・・・ん~」

 

「あの・・・所長?」

 

「女囚という言葉はお好きですかな?」

 

「―――は?」

 

 

 唐突にそんな言葉を吐かれて困惑するバリオ。いきなり何言ってんだこのおっさんと、バリオは思ったが一応階級的には相手が上な為口には出さないように我慢する。

 表面上は無表情だったが、ドエスバン事態が自分が言った事に気が付いたらしく、誤魔化すかのように腕を振った。

 

 

「あ、ああ・・・いやいや、何でもありませんぞ」

 

「・・・(今更誤魔化しても遅いんだよ。この○○○○(ピー)野郎)」

 

 

 トスカが心の中で、放送が禁止されそうなスラングで毒づく中、ドエスバンは話を続けた。

 

 

「―――で、貴方も7日程駐留されるとか」

 

「ええ、これ程の大海賊ですからね。念には念を入れて経過を見ろと上からの命令でしてね」

 

「成程成程、いやいやごもっとも。では貴方の部屋もご用意しましょう・・・すぐにね」

 

 

 ―――こうしてトスカ達は監獄惑星へと降り立ったのだった。

 

 

***

 

 

~一週間後・白鯨艦隊旗艦ユピテル艦長室~

 

 ユピテル艦長室、ユーリは相変わらず艦長職に精を出していた。何せ艦隊を引き連れているのだ。殆どを無人化している無人艦隊とはいえ、現在の運用している人間の総数は、既に数千にまで膨れ上がりつつあった。

 

 その為、フネの中の福祉厚生やその他の配備の書類は、ほぼ毎日彼の元に送られて来る。それらに目を通し、決算し、変な書類が無いかをチェックするのが、最近の日課となりつつある。この世界における事務系のソフトウェアの発達のお陰により、ズブの素人でも決算が出来るのがありがたいところだろう。

 

 そして今日も秘書のように、事務作業をかいがいしく手伝ってくれているユピをとなりに、頬をパシンと叩き“よしゃっ!一丁やったるか!”と気合を入れた。

 そして、手元の執務机についている備え付けPCを起動させようとしたその時――

 

 

「――艦長、ケセイヤさんが参られています」

 

「ケセイヤさんがッスか?なんだろう」

 

 

 艦長室前のドアにケセイヤがやって来ていた。ユピにより外部監視カメラからの生中継が、空間ホログラムモニターに投影されて、ユーリの目に前に映し出されている。

 

 

「お通ししますか?」

 

「良いッスよー」

 

「ではドアロック解除します」

 

 

 パシューというドアのエアロックが外れる音が響き、艦長室の扉が開かれる。そこを訪れた客であるケセイヤは、そのまま中に入ろうとしたのだが、突然つんのめるかのようによろけて、転んでししまった。しばらくしても起き上がらないので、ユーリは声を掛けた。

 

 

「どしたんスかケセイヤさん?」

 

「・・・・重力制御をノーマルにしちくんねぇかな?艦長」

 

「あ!忘れてたッス!すまんすまん。ユピ」

 

「はい、艦長」

 

 

 ポリポリと後頭部を掻きながら、済まなさそうに言うユーリ。自分もその昔体験した事がある為、バツが悪そうだ。部屋の重力が通常の1G程度に戻り、ちょっとフラフラしつつも立ちあがることが出来る様になったケセイヤは、服をはたきながら起き上った。

 

ところで何故ケセイヤが動けなくなったのか?それは艦長室の重力が異常だったからだ。

最近てんで修練に行けないユーリが、せめて身体能力を落さない為に考え付いたのが、自室だけ重力制御を施し、日がな一日筋肉に負荷を掛け続けると行ったモノだった。

 

 この方法は何気にトーロも愛用している方法で有り、現にこれを行っているトーロは精錬された細きマッチョへと変身を遂げつつある。もっとも、これで上がるのはあくまで身体能力だけなので、戦闘術としての格闘術はたまに練習しないと身につかないらしい。

 

 ユーリも身体能力は流石にトーロには劣るものの、VF-0Sw/Ghost通称「特攻仕様」のゴーストパックで起こる慣性制御装置の限界すら超えた殺人的Gにも、ある程度耐えられる様になってきたのだから、ある意味で凄い。

もっとも本人は最近シミュレーター訓練しか出来無くて、酷くつまんなそうだ。

 

 

「まったくヒデェ目にあったぜ」

 

「んで、今日は何か用ッスか?出来れば仕事を早く終わらせたいんで、早めに簡潔に述べてくれッス」

 

「スルーかよ。まぁ良いか、今回来たのはコイツを作りたいから予算についての交渉だ」

 

「・・・・とりあえず見ようか?」

 

 

 普通なら、経理部門でも通してくれと言うところだが、ケセイヤの事だ。ただの企みでは無いことくらいユーリも把握している。なので、某人造人間を製造したとこの髭司令のように、口元を隠す形でポーズを取るユーリ。所謂ゲンドウポーズってヤツである。

 

 事務作業用に付けていた眼鏡が逆光で反射している為、妙に様になっている。なんじゃカンじゃでノリが良い艦長に内心感謝しながら、ケセイヤは懐からデータチップを取り出し、ユーリの近くで控えていたユピに手渡したのだった。

 

 

 

 

 

「―――むぅ、コレを作るには・・・護衛艦を幾つか売らないとダメっスね」

 

「そうか、戦力の低下は避けられネェか」

 

「うんにゃ、護衛艦を売った分の穴を埋める形になるから艦隊数は変わらんス。護衛艦を売った金+研究費って形ッスね。スペックがカタログデータ通りなら問題なしね。ま、そこら辺は言わずと知れた我が艦隊の開発班が作るワケッスから、あんまし心配なんてして無いッスがね」

 

「あたりまえだ。俺が作るもんはカタログなんかじゃ計れねぇゼ」

 

 

 そういって不敵に笑うケセイヤ。それを見てユーリは苦笑しつつ―――

 

 

「よろしい、予算はなんとかする。存分にやりたまえ」

 

 

 そう、まるで悪の親玉のように言い放ったのだった。

 

 

Sideout

 

***

 

Sideユーリ

 

 さて、サマラさんを保安局に送り届けてたのが1週間前、監獄惑星に向かう彼女の監視として、ウチからなんとトスカ姐さんまで一緒に行っちまうんだから、トスカ姐さんの仕事が俺に流れ込んできて、最近部屋から出て無い・・・。

 

 仕事を手伝ってくれるユピと、食事を運んでくれるチェルシー居なかったら倒れてたぜ。過労で。

俺ぁ艦隊を運営しているからな。それなりに組織として機能し始めたから、そう言った仕事は当然俺の仕事な訳で・・・あうー、専門の部署でも立ち上げようかな?

 

 

「お疲れみたいですね艦長?」

 

「・・・いい加減、経理専門の部署を立ち上げた方が良いと思うんスけど、どう思うッス?」

 

「んー、まだ時期早々かと(そんな部署が出来たら、私との時間が減るじゃないですか)」

 

 

 ん?なんか寒気を感じたが、気の所為か?

 

 

「そう言えば、艦長はトスカさんの事、あまり気にしてないんですか?」

 

「ん?何がッスか?」

 

「だって、心配じゃないんですか?監獄惑星に行っちゃってるんですよ?女っ気が無い星に美女が2人も行ってるんですよ?今頃男達のよくぼうのはけ口にされてやしないかと心配です」

 

「・・・・・・とりあえずユピ、意味解って言ってる?」

 

「え、ええと、後半はあんまり――でも艦内で噂で流れてた話で・・・・」

 

「とりあえず、その噂をしていた奴らを教えてくれないかな?かな?」

 

「は、はいー!!!超特急でリスト作りますーー!!!」

 

「まったく、下品な思考の持ち主達ッスね。クスクスクス―――」

 

 

 あのトスカ姐さんの事だ。そんな事態になる前に相手のを潰すことだろう。

 ・・・・あえて何がとは言わんが、ナニが潰される事は間違いないな。

 ――怖ッ!。

 

 

「ま、心配はして無くは無いッスが、信頼してるッスからね。俺は」

 

 

 トントンと机の上の書類をまとめつつ(いや、データだけでなく、紙媒体も使ってますよ?)、事務の時は気分的につけている伊達眼鏡を外す俺。何せトスカ姐さんは俺と会う前から、普通に0Gドックをして生計を立ててた訳だしな。護身術もかなりレベル高いのだ。いやマジで。

 

 それに大海賊サマラ・ク・スィーも一緒何だぞ?男の方が縮みあがって手を出せねぇだろうよ。こう言っちゃ何だが男ってのは(以下、検閲の為削除されました)

 

 

「・・・・艦長、不潔です」

 

「あ!ああ、そんな、そんな汚物を見る様な眼で見ないでッス~~!!」

 

 

 あ、でもなんか新しい世界に・・・いや、自重しますハイ。

 さてと、仕事の続きをしなければ―――別に、ユピのジト目が辛いからじゃないぞ?

 

 

「―――まったく・・・ん?艦長、ミドリさんから連絡です。保安局から通信が来ました」

 

「ふむ、思ってたよりも早かったッスね。了解、ブリッジに行くッスよ」

 

「はい」

 

 

 俺はユピを引き連れて、艦長室を後にした。

 ちなみにブリッジは艦長室のすぐ真下だったりする。

 艦長室はなぁ!第一艦橋の上だって決まってんだ!ですよね?沖田艦長。

 まぁそんな訳で(どんな訳だ?)俺はブリッジへと足を向けた。

 

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

 

 ブリッジに付くと、既に回線がつながっており、空間パネルのホログラムスクリーンに立体映像のシーバット宙佐が映し出されていた。彼の表情からして、吉報と言う間では無いのだが、俺は適当に挨拶をしてから本題に入ることにした。

 

 

「こちら白鯨艦隊のユーリです。どうです宙佐、大物でも釣り上げましたか?」

 

『それならばよかったのだがね。まだバリオ達からの連絡が一度も無いんだ。コレは幾らなんでも異常な事態だ。一応こちらでも法務局に働きかけて、ザクロウへの調査許可を出しているところだ』

 

 

 どうやら吉報では無く、凶報になりそうな感じである。

 いやまぁ、トスカ姐さんだしねぇ?多分大丈夫だとは思うんだが・・・

 

 

「・・・・許可は、どれくらいの時間がかかりますか?」

 

『解らんが、急がせてはいる。とりあえず君の方に現状を知らせておこうと思ってな。・・・もうしばらく待っていてくれたまえ』

 

「了解、出来れば早く許可が降りる事を願ってますよ。ソレでは」

 

『うむ、それでは』

 

 

 通信が切れる。俺は肩の力を抜き、普段の艦長モードへと移行した。

 あう~、くそったれ。面倒臭い状態だぜ。全く持って厄い。

 

 

「なんか、大変なことになってるね艦長」

 

「そうみたいッスねイネス・・・・何か用スか?」

 

 

 慌てても仕方が無いので、適当に落ち着いて考える為に、飲み物をユピに頼んで艦長席で胡坐をかいていると、イネスが艦長席の近くに寄って来た。

 

 

「艦長、ザクロウは何かがおかしいと思わないか?グアッシュと言うリーダーが不在なのに、連中の活動が衰えていない事からして、そもそもおかしいんだ」

 

「幹部連中が動かしている・・・っつーのにしては、精強過ぎるッスね」

 

「そして、サマラが自らザクロウへ行きたいと言い出した。つまり――」

 

 

 イネスは眼鏡をキランを光らせ、手を振り上げながら言葉を放った。

 

 

「―――つまり、あそこには何か秘密があるんだよ!」

 

「な、なんだってー!!」

 

「・・・・艦長、真面目な話なんだが?」

 

「・・・すまん、ついノリで」

 

 

 なんとなく、そうしなければならないと何処かから電波が・・・。

 

 

「ソレは置いといて、そこら辺は保安局も把握済みなんじゃないッスか?」

 

「解ってる。これくらいの想像は保安局もしているさ」

 

「――だから、サマラさんの申し出にあっさりと乗ったんですね」

 

「ユピ」

 

「なんかお話の途中に来ちゃってすみません。あ、コレ飲み物です。イネスさんもどうぞ」

 

「「あ、どうも」ッス」

 

 そう言って差し出された飲みもんを受け取りつつ、話を続きを促すようにイネスにサインを送る俺、とりあえずどうするか考えとかないとな。

 

 

「ズズ・・まぁ問題は確証を掴むかって事だけだろう?」

 

「ごくごく・・・その分じゃ、何か策でもあるんスか?」

 

「至極簡単な話さ。情報が無いなら、ある所から聞けばいい」

 

「その心は?」

 

「グアッシュの連中に聞く。どうせそこら辺をうろうろしてるんだ。白兵戦をすれば拿捕出来るだろう?」

 

「成程、いやさその眼鏡は伊達じゃないってとこッスね。つーかイネス、何かトスカさん居ないと、随分と生きいきしてるッス」

 

「はっは、女性陣が静かになるからね。お陰で脅威が減って、ストレスが減ったよ」

 

 

 ふーん、まぁソレは良いが安心してると足元すくわれるぜ?この間、マッドの巣を通りかかったら、なんか教授が怪しい薬を女性陣に渡してるとこみたしな。

 ・・・・・何の薬なのかはしらねぇ。知りたくもねぇ。

 

 

「でも、海賊さん情報なんて持ってるんでしょうか?」

 

「ユピの懸念ももっともだ。多分幹部クラスならあるいは・・・」

 

「幹部クラス、ねぇ?」

 

 

 幹部クラスの敵さんが良そうな場所・・・わからんな。

 敵さんが正規軍ならともかく、あちらさんはのんきな海賊稼業。

 居場所を固定しているとは思えないし―――

 

 

「―――多分ですが、以前サマラさんを追いかけたザザン宙域が良いかと思います」

 

「ああ、そっか。あそこはサマラ海賊団のテリトリー、グアッシュも良くちょっかいを掛けに行っている筈!」

 

「ふむふむ、成程ッス。いい案ッスよユピ」

 

「えへへ、褒められた」

 

 

 なんかテレテレしているユピ、なんか仕草が最近ドンドン人間っぽくなってきたぜ。

 これも、ユピテルの連中のお陰かなぁ。ウチのチェルシーも影響受けてたしな。

 ・・・・お陰でガンコレクターになってたのは誤算だったが。

 

 

「リーフさ~ん、航路変更、ザザンの方に向けといてくれッス~」

 

「あいよー」

 

 

 とりあえず、ザザンの方に行ってみよう。話しはそれからだべさ。

 

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

 

 

 さて、ザザン宙域にやってきました白鯨艦隊、全艦ステルスモードで潜宙中。エモノが来るのをジッと待っていた所―――

 

 

「艦長、インフラトン反応多数、艦隊の様です」

 

「艦の中に他のとは違うインフラトン反応を確認、バゥズ級と思われます」

 

 

―――案外すぐに見つけることに成功した。

データ解析の結果、あのミサイルは搭載していないらしい。

 

 

「どうやら、あのミサイルは本拠地防衛の連中しか装備していない様です」

 

「当たり前だ。あんなミサイルを無理やりつけたら、航続距離が短くなるはずだ」

 

 

 ミドリさんの報告にサナダさんがそう返した。まぁ案だけデカイのを運搬するとなると、フネのペイロード削らなきゃいけないだろうし、機動力がモノを言う海賊稼業で、拠点防衛じゃない時にはあのミサイルは邪魔だろうしな。

 

 

「・・・幹部のフネッスね。・・・準備は?」

 

「滞りなく終えています。敵は既に網にかかった様なものです」

 

 

 戦況モニターには、敵艦隊を示す紅いグリッド、そしてそれを取り囲む小さな白いグリッドが表示されていた。もうすぐ敵艦隊は白いグリッドに逃げ場もふさがれる。

 敵艦隊が白いグリッドに完全に囲まれたのを見て、俺は全艦に向けて指示を出した。

 

 

「全艦ステルスモード解除!“錨を上げろ!”ッス」

 

「アイサー、全艦ステルスモード解除」

 

「本艦出力、ステルスから戦闘状態へ移行、臨界まで3秒」

 

 

 そして白鯨艦隊は敵艦隊のすぐ目の前に姿を現した。光学的にもレーダー的にも見えずらいステルスモードは、まさに宇宙における潜宙を可能としてくれる。敵さんは突然の敵反応に驚いて、急激に艦隊挙動が乱れていった。うむ、かく乱は戦闘の基本じゃわい。

 

 

「全艦全兵装自由(オールウェポンズフリー)!幹部のフネと思わしきヤツ以外は叩き落せ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 ユピテルと護衛艦隊はH(ホーミング)L(レーザー)シェキナを使用、アバリスはR(リフレクション)L(レーザー)C(キャノン)を使用し、精密射撃で僚艦を撃沈した。

 そして―――

 

 

「VF隊!VB隊!今ッス!!」

 

 

―――兵員輸送使用のVBがステルスを解除し残った幹部艦へと突っ込んでゆく。

 幹部艦は対空兵装を使用しようとするが、兵装が使われるよりも先に、VF隊によって兵装が全て破壊されてしまった為、だるま状態である。

 逃げようにもVF隊に囲まれている為、幹部艦は逃げることが出来ない。

 

 

 そして戦闘開始から十分も経たない内に、敵の幹部を捕えることに成功したのだった。

 と言うか反撃させる前に、ほぼ艦隊ごと潰しちまったしな。

 恐らくあまりの電撃戦に、何が起きたのか解んなかったんじゃねぇか?

 

 

「ユピ、海賊の幹部は?」

 

「現在装甲尋問室に収監、尋問中です」

 

「丁度良い、ソコと内線をつなぐッス。俺が直接尋問するッス」

 

「了解しました」

 

 

 とりあえず捕まえた海賊幹部とOHANASHIしてみる・・・もといお話してみることにした。

 ブンって音と共に、画面に映し出されたのは、えんじ色の襟付きマントを着け、スカーフを付けた何処か撃たれ弱そうなおっさんだった。

 でも、捕まっても暴れ出さない程度の肝っ玉は有るらしい・・・・少し足震えてるけど。

 

 

『何だ貴様は?』

 

「俺ッスか?俺はこのフネの艦長ッスよ。実質的な艦隊の頂点でもあるんスがね」

 

『フンッ、噂の白鯨艦隊の頂点が、年端もいかぬ小僧だとはな。まさかその小僧に捕らわれるとは、このダタラッチも焼きが回ったものだ。言っておくがワガハイはな~んにも話さんぞ!』

 

 

 あー、カッコ着けてるのはいいんスが・・・。

 

 

「―――震えてるッスよ?」

 

『こ、これは武者震いというのだ!』

 

 

 まぁ、怖いもんは怖いわなぁ。

しかし、そうなら―――

 

 

「成程、貴方の決意は固いようだ」

 

『む?なんだ小僧?急に雰囲気が――』

 

「仕方有るまい。貴方はグアッシュ海賊団の幹部。そして俺は敵だ。故に口は割らない。しかしそうなると、貴方の価値は無いに等しい」

 

 

 俺はニヤリと笑いながら、ダタラッチを見る。

 まだどういう意味なのかは解っていない様だ。

 

 

「価値が無いなら、このフネにおく必要も無い。このまま放りだしましょう。着の身着のままでね」

 

『フ、フン!冗談を言うな。小僧の脅しに――』

 

「・・・・エアロックちょっと解放」

 

「エアロック解放します」

 

『へ?!』

 

 

 途端装甲尋問室の隔壁が開く、装甲尋問室は爆発物を持っていたりした時用に、すぐ外に放り出せるよう隔壁は宇宙へ直結なのである。画面の向うでは、急激に気圧がさがり吹き荒れる突風の様な空気漏れに苦しむダタラッチの姿があった。

 

 ダタラッチは今だ拘束されている為、そのまま宇宙に放りだされる事は無いのだが、それが逆におっさんを苦しめる結果となっている。この急速な減圧は応えた様だった。

 

 

「ユピ」

 

「はい」

 

 

 俺が合図すると、阿吽の呼吸でエアロックが閉まる。補給される気圧と酸素に、ダタラッチは喘ぐように酸素を脳へ送る為に、口をパクパクさせながら思いっきり息を吸い続けていた。

 

 宇宙で生活するモノにとって、酸素というか空気は必要不可欠のモノ。急激な減圧は例え一瞬だけでも、めまいや吐き気、頭痛を引き起こすのだ。それを平然と行う俺にダタラッチは恐怖を感じているようだ。

 

 ―――もっとも、脅し様だから死なない様にキチンと計算してあるんだがね。

 

『はっはっ、あひっあひー!き、貴様正気!?』

 

「今のは警告だ。俺は手段を選ぶ必要は無い。あんたに価値が無いなら別の幹部を探す。もっと“モノ解りのいいヤツ”をな?さぁ、今度はじっくり行くかな?さっきのは急激な減圧だったから、それ程でもないだろうが、真綿で首を絞められる様に・・・じっくりと・・・」

 

『い、イカレテルー!貴様はいかれてるぞーー!!』

 

「・・・出来れば、死ぬ前に全部話して欲しいかな?」

 

 

 俺は二コリと笑いながら、彼を見る。画面の向うではガタガタと震えが完全に恐怖のモノとなったダタラッチが、大慌てしている姿が映っていた。

 

 

『ま、待て待て待てぇぇぇぇぇ!!いう!なんでも言うーーーーー!!!!』

 

「そう、それでいい。貴方も“モノ解りの言い人間”だったみたいだ。情報を全て言うなら、キチンと食事を与え、それなりの待遇を約束しよう」

 

 

 俺の言葉にダタラッチは心底安堵したのか、緊張が切れたらしく気絶した。

ちょっと強引で冷酷で俺っぽくは無いやり方だったが、相手は敵なのだ。無用の情けをかけられるほど俺は強く無い。0Gである以上、こう言った事をヤル、ヤラレルは常識。その事を知っているので、ブリッジの面々も何も言わなかった。

 

 

「あの男を拘束したまま、サド先生に見せてやってくれ・・・丁重にな?」

 

「はい、艦長」

 

 

 俺はそう言った指示をユピに出して置いた。

 やれやれ、俺もこの世界に染まって入るが、いまだ少しばかり甘さもあるようだ。

 ・・・・すこし焦ってるのかもな。トスカ姐さんが隣にいないって事に。

 

 

***

 

 

 さて、ダタラッチの意識が回復し、すこし錯乱していたモノの、ほぼすべてを話してくれた。やはり海賊団の指示はザクロウから出ていたらしい。どうにもそこいらの記憶があいまいだったから、これで補てんされた。

 

 

「―――つまり、ザクロウから全部指示が出ていると・・・ウソ偽りは無いッスね?」

 

「そ、そうだ・・・グアッシュ様にかかればザクロウも安全な別荘と言う訳だ」

 

 

 俺は先程まで話していたダタラッチと医務室で対面していた。先の減圧により上手いこと体も動かせない上、拘束も着いたままなので、ダタラッチは大人しく話しに応じている。

 

 でもまぁ案外丹力あるなぁ、目の前の俺が減圧の張本人なのに、普通に話をしているよこの人。普通はあそこまでされたら、取り乱すよなぁ?この世界の人間は、精神の根っこの方もかなり強いのかもしれないな。

 

 

「おまけにさらった人間をあそこに送りこめば、たんまり報酬も貰える。であるからして、ワガハイたちは資金には困っておらんのだ」

 

「成程、今日び珍しくも無い人身売買ッスか。――送られた人間は?」

 

「詳しくは知らぬ。ただ、ある程度数がそろったところで、どこぞの自治領に売られるそうだ」

 

 

 これまた、星系間どころか宇宙島をまたにかけた大掛かりな人身売買だなオイ。不味いなぁ、トスカ姐さんたち、まさか売られちまったのか?だとすると、一度ザクロウに行って売られた先を突き止めねぇと行けなくなっちまった。

 

 

「ま、情報ありがとさんッス。適当に休んてくれてても良いッスよー」

 

「・・・・・フン」

 

 

 奴さんの情報は有益なもんだったな・・・。

 さて―――

 

「全員聞いてたッスか?」

 

『『『『アイサー』』』』

 

 

 通信端末を経由して空間パネルが投影され、そこにはブリッジクルーの殆どが移っていた。

 先程のダタラッチとの会話も、全て聞いていたのである。

 

 

「どう思うッス?俺はウソついているようには見えなかったッスけど」

 

『そりゃあんだけ脅されれば、なぁ?』

 

『『『うんうん』』』

 

『艦長を敵に回したくないと思った瞬間でしたね。もっともゾクゾクって来てましたけど』

 

『あう~、艦長は――S?・・・・ぶー!』

 

『ああ、またこの子ったら鼻血』

 

『最近ブリッジのティッシュの減りが早いのはそれか』

 

『若いのう』

 

 

 どうにもマイペースだな。ウチのブリッジクルーは。

 エコーさんは妄想で鼻血吹いてるし、ソレをみてトクガワさんはホッホと笑ってるし。

 

「トーロはどう思うッス?」

 

『他の連中と同意見だ。ありゃウソはついてねぇぜ?』

 

『艦長、アイツを保安局に連れて行こう。証人にしてしまうんだ』

 

「どういう事ッスか?イネス」

 

『証人さえいれば、法務局も保安局も重い腰を動かせるって事だ』

 

『『『『『イネス頭良い(~)(な)(のう)』』』』』

 

 

 こらこら、ブリッジ。何全員で共鳴してんのさ。

 だが、ともかくやることは決まったな。

 

 

「よし、リーフ」

 

『ブラッサムへ――だろ?アイサー艦長』

 

 

 こうして俺達はすぐさまとんぼ返りし、保安局がある惑星ブラッサムへと向かったのだった。

 

***

 

 

 は~い、現在ブラッサムの宙域保安局にまたまた来ています。

 前回海賊幹部ダタラッチを捕まえた俺達は、そのまますぐに保安局へとやってきたのだ。

 で、ダタラッチを保安局に引き渡し、ヤツが持っていた情報を渡した時のシーバット宙佐の一言。

 

 

「ううむ・・・まさかザクロウが、そこまでグアッシュに牛耳られていたとは・・・」

 

 

 流石の宙佐も自分が所属している組織で、そんな犯罪行為が行われていると言うのは応えた様だった。顔のしわが更に深く・・・苦労人ですね。だが、残念ながら旦那、どうやら事実らしいですぜ?

 

ダタラッチは管轄が違ったらしいが、海賊船の中にはオールト・インターセプト・システム(以下O・I・S)の認証コード持っている奴らもいたらしいし、ソレ使って自由に出入りで来てたんだから、ホント灯台もと暗しだよな。

 

 

「引き渡した海賊幹部からの情報ですから、ほぼ間違いないかと・・・・」

 

「何と言う事だ・・・」

 

 

 ちなみに余談なんだが、連れて来た海賊幹部ダタラッチは保安局に引き渡した。だが、何故だか知らないが、アイツ何時の間にか何気にウチの艦の中に馴染んでたんだよな。基本的にユピが24時間監視しているので、重要区画以外は出入り自由にしてたらそうなってたんだ。

 

何気に掃除とかを何時の間にか手伝ってたし、偶に食堂に現れては海賊をしてた頃の・・・いや現在も海賊だが、その地位に至るまでの話とかが面白かった。特に下っ端時代の下積み話は、涙と笑い無しには語れない面白さが・・・コホン閑話休題。

 

 

―――それはさて置き、これを聞きウィンネル宙尉がザクロウを強襲すべきと発言した。

 

 

「バリオたちだけじゃない。もしも“例の人物”があそこにもしも送られていたら――」

 

「うーむ、保安局の許可を待っている場合ではないか・・・止むを得んか。第3、第9管域の保安対、および惑星強襲隊を呼集――準備が出来次第出発する!」

 

「は!」

 

 

 宙尉はシーバット宙佐に敬礼をすると、踵を返して部屋から出ていった。

 それを見送ったシーバット宙佐は、俺達の方に向き直る。

 

 

「ユーリ君、君たちにも――」

 

「ウチも仲間が命張ってますからね。ダメと言っても行きますよ」

 

「助かる。では今から12時間後に――」

 

「了解、それまでに準備しておきます」

 

 

 俺は宙佐と宙尉に返事をして、保安局を後にした。

 さて、ザクロウ行きか・・・白兵戦の準備はしておかないと不味い。

 装甲宇宙服も開発がかなり進んでるからな。まさかあんなもんが出来るとは思わんかった。

他はVF隊とVB隊は当然出すから、後は行ってからって所だろう。

 元々陸戦も想定してあるVB隊なら、かなり凄いことになるだろうな。

 

 

―――そして、12時間後、俺達はザクロウへと向けて発進した。

 

 

そう言えばケセイヤさんの発案してたアレは・・・・まだ完成して無いか。

アレも使えたら楽だったけど、間に合わなかったのなら仕方が無いさ。

是非ともグアッシュの時には使える様になっていて欲しいぜ。

 

 

 

***

 

 

 

 さて、惑星ブラッサムをでて、現在O・I・Sが展開されている宙域に到達した。時間が無い為強行突破するらしい。インフラトン・インヴァイターを搭載したロケットを囮(デコイ)として使って突入するのである。

 

 

「保安局艦隊、デコイ射出しました。各艦隊進撃開始」

 

「本艦隊も保安局に合わせて進撃を開始する。両舷全速!保安局に遅れるな!」

 

「「「アイアイサー!」」」

 

 

 保安局の艦隊がデコイとなるロケットを発射した所を見計らって、俺たちもデフレクター及びAPFSを出力最大にしてO・I・Sの影響圏へ突入した。ユピテルは単体、アバリス及びその他護衛艦群はデフレクター同調展開システムを用いて、防御力を高めて一気に突破するのだ。

 

 そしてユピテルのFCSが、多数の衛星砲が此方を捕捉した事を警告してくる。だがそれを無視し、そのまま突き進む。

 

 

≪ズズーン!≫

 

「被害報告!」

 

「流れ弾が右舷側に命中、デフレクターおよびAPFS順調作動、損害なし」

 

「K級、S級にも直撃弾多数、同調システムの許容範囲内の為、損害なし」

 

 

 流石にこっちのフネはデカイだけあり目立つ為、大量の弾が飛んで来るモノの、直径数十メートルも無い衛星に搭載されたビーム砲程度では、魔改造戦艦のシールドを突破出来る程では無いらしい。流石にクロスファイアされると、かすり傷が出来てしまうのだが、今のところ問題は無い。

 

 

≪ドーーーンッ!!≫

 

「ッ!い、今のは!?」

 

「保安局艦隊所属、巡洋艦エルビーが大破。爆散しました。その衝撃波です」

 

「保安局のフネでは、この中を強行突破するのは難しいだろう。」

 

「そう何スか?サナダさん」

 

「ウチは常にバージョンアップを続けているが、あちらさんは好きなように改造が出来ないからな」

 

 

 保安局の方は既製品のシールドしか無い為、こちらと違い被害が出てしまっているようだ。だが止まる訳にはいかない。全速で突入した為、慣性の力によって止められないのだ。むしろ止まってしまったら、衛星砲の餌食となってしまうだろう。

 

 

「さらに大破したフネ多数確認、脱出ポッドを発見しましたが・・・」

 

「・・・・無視して突破を優先するッス。リーフ、針路上に居たらぶつからない様に避けるッス」

 

「あいよ」

 

 

 大破した艦の乗員を救出する事は今は叶わない為、脱出ポッドの方はこのO・I・Sを管理しているザクロウを落してからじゃないと、救出は出来ない。なので俺達は急いでこの宙域を突破するしか無かった。

 

両舷全速だったので、白鯨艦隊は保安局艦隊を追い越し、艦内時間にしておよそ30分程度でO・I・S宙域を抜けられた。デフレクター同調展開システムのお陰で、此方の損害は比較的軽微で済んだ。しかし、O・I・S宙域を抜けて安心したのも束の間――

 

 

「ザクロウの宇宙港から大型艦の発進を確認~!突っ込んできますー!」

 

 

 ―――ザクロウからの艦隊の発進を確認した。

よく見ればグアッシュ海賊団のフネも混じっている。どうやらザクロウでも俺達が何で来たのかを察知したんだろう。慌てて戦闘艦を発進させたって感じで、艦隊挙動が不安定だった。

 

 

「艦種特定、タタワ級駆逐艦多数、バクゥ級巡洋艦多数、旗艦にはダガロイ級装甲空母!」

 

「これまた大量のお客さんッスね――各艦コンディションレッド発令!砲雷撃船、および対空戦闘用意っ!密集隊形を取って突破するッス!」

 

「「「「アイアイサー!!」」」」

 

 

 俺の指示により、艦内は非常灯が点灯し、待機していたVF隊が次々を発艦していく。

 ダガロイ級からも艦載機が発進したが、基本性能も操縦者達の腕も段違いなのだ。

 予想通りこちらは無傷、相手は壊滅という形で全編隊を落していた。

 

 

「敵艦隊、VF隊迎撃の為、船足を落しました」

 

「各砲FCSデータリンク、空間重力レンズ形成、シェキナ発射準備用意良し」

 

『こちらアバリス、RLC(リフレクションレーザーキャノン)も発者準備OKだぜ!』

 

「全艦一斉発射、発射後は各砲自由射撃!トランプ隊に通達、30秒後に砲撃を開始するッス」

 

「トランプ隊に通達します」

 

「カウントダウンを表示、発射に備えジェネレーターに出力を回します」

 

 

 トランプ隊全機に30秒後に砲撃が放たれる事が通達された。ユピ彼らは一糸乱れぬ動きで、此方の射線に被らない様に後退していく。こちらのカウンターが0になりエネルギーも充填された頃には、回避行動に移っていない鈍い獲物だけが残される。

 

 

「ほいよ、ほら来たぽちっとな」

 

 

 そして、ストール久々のぽちっとなが発動し、HLシェキナとRLC、およびガトリングキャノンの弾幕が放たれた。高出力のレーザービームが複数、一点に集約されて敵艦隊は為すすべなく爆沈する。ストールの腕があってこその芸当だ。

 

 

「前衛艦隊撃破、これをA1 と呼称、続いてA2 及びA3までの艦隊接近中」

 

「艦載機はトランプ隊に、各艦照準を装甲空母へ照準ッス!」

 

「HLシステム座標入力――って、ミューズ!重力レンズの角度が少し乱れてるぜ!」

 

「ゴメン・・・今直すわ・・・これで―――」

 

「よしOK!後は敵来い!来い来い来い!よし座標設定完了!ぽちっとな!」

 

 

 ストールがそう言って発射ボタンを押すと、艦内に冷却機の出すかすかな音と振動が響き、艦外モニターにユピテルから放たれた弧を描くエネルギー弾が、敵艦に向けて直進していくのが確認出来た。

 そして白鯨艦隊各艦からも、データリンクによって統制された弾幕が同時に放たれていた。高エネルギーが敵艦を貫いて行く。生き残った艦船も、そのほとんどがトランプ隊によって駆逐されたので、ザクロウまでの道が出来た。

 

 

「保安局艦隊、O・I・Sから抜けました」

 

 

そして丁度O・I・Sを抜けて来た保安局艦隊と合流する。

 よく見ると全体の1割くらいの艦船が消えている。強行軍ってのはやっぱ正規軍にはキツイ。

 

 

『ユーリ君!無事かね?!』

 

「こっちは平気です。ですが其方は?」

 

『若干の被害が出たが、ザクロウを制圧すれば助けられる!急いぐぞ!』

 

「了解しました」

 

 

 保安局艦隊と合流した俺達は、そのままザクロウへと舵を切る。

 敵の航宙戦力は先程撃破したので、特に問題無く惑星ザクロウ上空へと接近出来た。

 

 

「保安局艦隊、大気圏突入部隊が降下します」

 

「VF隊に通達、降下部隊を援護せよ。VB隊も発進準備ッス!」

 

 

 VF-0 フェニックスには、ちゃんと大気圏に突入できる能力が備わっている。

 ザクロウ大気圏内に少なくない数の敵戦闘機が飛んでいるのをレーダーでとらえているので、降下中は動けない降下部隊を守らせる事にした。

 

 ついでに砲戦能力が高いVB隊も惑星へと降下させた。

 降下部隊を後方から火力で支援できるだろう。

 

 

「艦長、シーバット宙佐から通信です」

 

「了解ッス、ミドリさん。通信つないでくれッス」

 

「了解、回線繋ぎます」

 

『ユーリ君聞えるかね?先行して降下部隊が軌道エレベーターを占領する。我々はステーションを制圧するぞ』

 

「解りましたシーバット宙佐。一応兵装はパラライザーに限定しますか?」

 

『出来れば正規職員には被害を出したくは無い。ソレで頼む。通信終わり』

 

 

 シーバット宙佐は通信を切ると、自らの乗艦をステーションへと突撃させた。

 港事態は通商空間管理局の管轄なので、入るのは容易だが、エアロックを抜けた先の区画ではバリケードを敵がこさえているらしい。そこを突破して、ステーションを制圧するのだ。

 

 

「ミドリさん、ウチも白兵戦準備ッス。装甲宇宙服の使用を許可するッス」

 

「解りました。保安部に連絡します」

 

 

 そして俺達も後を追い、ステーションへと入港し、白兵戦隊が制圧を開始する。

 いやはや、ケセイヤさん特製の白兵戦用装甲宇宙服“ミョルニル・アーマー”があるおかげか、制圧が早いこと早いこと。名前で解るだろうが、外見はモロそれだが気にしてはいけない。

 

 元々それ程多くの人員を割いておけなかったのか、軌道エレベーターに居た防衛隊はすぐに落ちた為、俺達は軌道エレベーターに乗り込んで、眼下に広がる惑星ザクロウへと、降下したのであった。

 

 

***

 

Side三人称

 

 

 ユーリ達がまだ軌道エレベーターに居る頃―――

 

 

「くっそう!なんなんだあの兵器は!保安局の奴ら何時の間にあんなモンスターを!?」

 

「ドエスバン所長からの情報に、あんなのなかったぞ!」

 

「・・・・つーか何だよ。あのデカイ大砲」

 

 

 ―――階下の軌道エレベーター周辺地区は、撃戦地区となっていた。

 

 

 保安局の降下部隊と、それを支援している謎の陸戦兵器。いやさ、正確には飛行機が変形した機動兵器がザクロウの主要個所を攻めていたのだった。ドエスバンの配下に混じって戦う海賊たちには、あの機動兵器も保安局の開発した兵器に見えていた。

 

各セクションの建物に立てこもり、抵抗を続けているドエスバン配下の職員達ですら正直困惑していた。自分たちの所属している保安局に、あんんあ機動兵器が存在しているとは聞いたことが無い。かと言って軍ですらあの様な兵器は持っていない事を知っているので、余計に混乱していた。

 

 その機動兵器は、四門の大型キャノン砲を背負った重砲戦機、人型で空を自在に飛び回り、様々な兵装でこちらを攻撃してくる人型機動兵器、前者はVB-6ケーニッヒモンスター、後者はVF-0フェニックスである。

 

VF隊とVB隊はユーリの命令に従い、降下部隊の援護を請け負っていたのだ。だが敵はその事を知らないので、ただ保安局が本気出した程度の認識でしか無かったのである。

 

 

「ヤベ!デカブツがこっち向いた!皆伏せろ!」

 

≪―――キュン、パウ!ドーーーーーーーンッ!!!!≫

 

 

 そして強力なレールキャノンと重ミサイルが、敵が潜む建物付近の敵を吹き飛ばした。

 VF・VB隊と降下部隊との連携は稚拙なモノだ。降下部隊が対処できない場合に、援護要請を出して、ソレを受けたVF・VB隊が指定されたポイントに砲撃支援を行ったり、ガトリングポッドを斉射したりして、確実に落して行くというモノ。

 

非常に地味な作業だが、確実に制圧が出来るやり方であり、戦闘が続くにつれて、VF・VB隊と降下部隊との連携も、徐々に簡単に出来るようになっていった。お互いの勝手が時間がたつにつれて理解出来るようになり、データリンクも構築されたからだ。

 

 

―――それにより更なる苛烈な攻撃が、反逆したザクロウ警備部隊+海賊に行われた。

 

 

 VFが掃射攻撃で数を減らし、重火器をもった車両をVBが破壊し、立てこもっている建物を降下部隊が制圧する。ザクロウにはそれなりの数の海賊が駐留していたので、歩兵戦力的には互角であったが、機動兵器と人間の質において圧倒的に劣っている彼らは徐々に数を減らしていった。

 

 

「くそ!収容施設の方に後退するぞ!このままじゃ全滅だ!」

 

「あそこなら防衛にはうってつけだ!」

 

 

 そう誰が叫んだか、それぞれ防衛していた建物を破棄し、もともと囚人の暴動に備え、防御力の高い囚人収容施設へと立てこもるべく、分散していた戦力が各収容施設に集結していく。高機動装甲車や軽戦車のような、本来なら囚人相手に使われるはずだった戦闘車両に分乗して、入口に着くとそれらをバリケードにしていった。

 

 流石の機動兵器も建物の中に立てこもられると攻撃が出来ない。何故ならトスカやサマラがどの収容施設に捕らわれているのか特定が出来ないからである。故に彼らは基本施設の外に居る敵にしか攻撃が行えなかった。

 

 そして反逆者部隊は施設に立てこもる作戦を取ったので、VF・VB隊は手出しが出来なくなり、弾薬も乏しいことから一度フネへと帰還した。しかしそうなると、今度は降下部隊と施設防衛戦力との間がこう着状態へと突入してしまった。

 

降下部隊が持ちこめる火器は良くても迫撃砲程度である。シーバット宙佐から、正規職員に被害を及ぼさない様に、基本パラライズモードでしか、小火器を使用できないように命令が下っており、一応バリケードとなっていた戦闘車両は破壊出来たモノの、決定打に欠ける結果となってしまっていたのだった。

 

 2時間が経過し、降下部隊がどうにも攻めあぐねいていると、軌道エレベーターを制圧したユーリの白兵戦部隊が援軍として収容所前へと到着した。人工的に作られた高重力下の中で鍛えられ、またマッド陣営の技術力を総動員した最新の装甲宇宙服(アーマード・スペース・スーツ)を着込んだ部隊だ。

 

 彼らは降下部隊達と合流後、彼らよりも前に出た。そして遮蔽物に隠れながら、収容所の入口に持ってきた火器を向けて発射した。発射したのは、ユーリが持っているのと同型のエネルギー式バズーカで、艦長自ら試作品であったモノを使い続け、そのデータが反映されたモデルである。

 

 その驚くべき特徴としては、エネルギー火器の癖して、何故か爆発する。そしてパラライズモードが選択可能という、今回の様な制圧戦で“なにそのチート武器?”と思わず突っ込んでしまいそうな装備であった。マッドの技術力恐るべし。

 

 

 こうして収容所入口はあっけなく、ユーリの保安部員達に抑えられてしまったのだった。

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

 ―――さて、ザクロウ制圧戦が開始されて、現在4時間が経過した。

 

 どうやら俺らが参加させた保安部の白兵戦用装甲宇宙服隊が、かなりの働きを見せてくれたらしい。お陰で残る収容所は3つ、西館と東館と中央にある管理棟だ。さて、一体どこの施設に居るんだろうかねぇ?ウチのトスカ姐さんは・・・。

 

 

「バリオさんやトスカさん達って、どこに居ると思う?」

 

 

 俺は何故かついて来てしまったユピに問いかけた。

 

 

「えーと、恐らくですけど、男の囚人と女の囚人は大抵は分けて捕えておきますから」

 

「バリオの子坊なら東館、トスカ嬢ちゃんなら西館の可能性があるんじゃよー、と」

 

 

そしてユピと彼女に着いてきたヘルガがそう答えた。ユピは戦闘は出来ないから置いてきたかったんだがなぁ。何故かヘルガを護衛に着けて来ちゃったんだよ。まぁヘルガはコンバットロイドでもあるから、彼女の周囲にいればメッチャ安全だろうけどさ。

 

 

「ふーむ、トスカさんは女性だから―――」

 

「西館でしょうね」

 

「なら、行く場所は決定ッスね」

 

「それじゃあ、確かイネ坊が車両を回してたから、それに便乗して西館に直行するんじゃよー、と」

 

「ああ、そうしようっス」

 

 

 んで、にべもなく目的地は決めた。男の囚人がいる方は・・・保安部員達に任せよう。

 バリオさんは良いのかって?――野郎相手に頑張る気なんて起きないさぁ。

 なんくるないさー。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、イネスに車両を回してもらい、やってきましたは西館。

女囚の館である・・・何かそう書くとエロいなオイ!

まぁそないな事は置いておいて、とりあえず入口付近を制圧する事にした。

 

 

「へるがパンチ!じゃよー、と」

 

『『『『『うわぁぁぁぁぁーーーー!!!』』』』』

 

「目からビーム(低出力)じゃよー、と」

 

『『『『『ひぇぇぇぇぇぇーーーー!!!』』』』』

 

「ヘルガのこの手がまっかにもえるぅ!お前ら消えろと轟き叫ぶー!はぁくねつ!」

 

『『『『『ちょ!おま!!』』』』』

 

「ヘルガ・フィンガー!!」

 

『『『『『めめたぁぁぁぁぁーーーー!!!』』』』』

 

 

―――そして、あえて言おう。ヘルガが強すぎる。

 

 

俺やトーロやイネス、その他の面々も攻撃を仕掛けようと思い準備してたのに、50人以上いた敵をヘルガが普通になぎ倒してしまった。しかも自分はほぼ無傷で、敵さんはボロボロではあるが気絶させただけで済ませている。

 

 

「むー、加減がまだ解らなくて、こがしてしまったんじゃよー、と。テヘ、なんじゃよー、と」

 

「「「「「テヘじゃねぇ!!だがいいぞ!可愛いぞ!!もっとやれ!!!」」」」」

 

 

 ・・・・そしてウチのクルーにも病気の人間が多いねぇ。

 この後も、ヘルガとヘルガFCの皆様が警備員という警備員達をバッタバッタと気絶させて行ってしまう為、俺とかがマジで暇になってしまった。

 

 

「なんか、スゲェヒマッスね」

 

「ま、まぁ、彼女はバトルロイドだし、ある意味間違ってはいないんだろうけど」

 

「しかしようイネス。正直ついて行くだけだと俺達何しに来たんだって感じしねぇか?」

 

「・・・トーロの言う事も解らなくもないね」

 

「ま、ある意味楽が出来るって考えれば、儲けもん何スがね」

 

 

 あうー、これだったら先の戦闘でVF・VB隊として出てたトランプ隊と一緒に、フネに残って報告待ちしてれば良かったなぁ。・・・ん、報告?

 

 

「おーい、ユピさんや。こっちゃ来い来いッス」

 

「はーい!なにか御用ですか♪」

 

「・・・なんか機嫌良いなぁ。まぁ良いッス。ヒマ何でデータリンクから、他の所がどうなったか教えて欲しいッス」

 

「解りました!それじゃ少しお待ちください!」

 

 

 俺達の前方20m先でココの所長配下の警備員が宙を舞っているのを横目に、他の所がどうなっているのかをユピに調べてもらった。

 すこしして、ユピはデータを収集し終えたのか、空間パネルをつかって情報を見せてくれた。

 

 

「えーと、中央の管理棟は相変わらずこう着状態です」

 

「ま、あそこが一番戦力が多いみたいだしな。所長いるらしいし」

 

「まぁ保安局の降下部隊は、O・I・Sの管制塔制圧に忙しいッスからね」

 

「そろそろ脱出ポッドを救助しないと不味いだろうからね。彼らも必死なのさ」

 

 

 こっちは出てないが、あちらさんは仲間が結構やられている。一応殆どのクルーが脱出出来ているらしいが、O・I・Sいまだ宇宙空間の所為で救助を待っている状態だ。色んな意味で早く助けないと危険なんだろう。

 

 

「えーと、東館は白鯨艦隊の保安部が制圧を完了。バリオさんと他一名を確保しました」

 

「他一名?」

 

「えーと、名前はライ・デリック・ガルドスさん。どうやらリアさんの行方不明だった恋人見たいです。現在映像が中継出来ますけど・・・・どうします」

 

「おk、ちょっとだけ覗いてみよう」

 

 

 せっかくの恋人同士の再開なんだから、これは覗かないとダメでしょう?

 

 

「では、投影します」

 

 

 そして空間パネルに映像が映された―――

 

 

『―――ねぇ!ライ!ライ何でしょう!』

 

『・・・・・あ、リア。久しぶり』

 

『久しぶりじゃないわよ!どうして生きてるなら連絡一つくれなかったのよ!!』

 

『う~んとね。ここ研究し放題で高価な機材使い放題で・・・その前にリアは何で怒ってる?』

 

『あ、あんたは――前からマイペースだとは思ってたけど・・・・』

 

『あ、そうか。手紙も出さなかったから、リアは怒ってるんだね?』

 

『今気付いたの?!遅いわよぉぉぉ!!!』

 

『アベシ!』 ← ライがリアからドロップキックをくらい倒れた。

 

「ユピ、もう良いッス。なんか見てらんねぇッス」

 

 

―――とりあえずココまで見たが、もういいや。後は二人の問題だろうしね。

 

 

「でもま、リアさん恋人見つかって良かったな」

 

「まったくだ。普段は普通に仕事してたけど、時折うなだれいた事もあったし」

 

「うんうん、仲好きことは良い事ッスよねぇ。あれはきっとケンカするほど仲が良いんスよきっと」

 

「・・・どちらかと言えば、あまりにマイペースなライさんにリアさんが怒って入るんだけど、マイペースすぎてライさんが気付いてないの方が正しいような」

 

 

 ま、いいでねぇの?恋人見つかったんだしさ。

 コレ以上は野暮なこといいっこなしよ。幾らコントに見えそうでもね。

 

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

 

「むー、西館にはトスカさんいなかったみたいッスー!」

 

「東館も制圧が終わったし・・・」

 

「後は管理棟だけですね」

 

 

 さて、ヘルガにより制圧がすぐに終わったのは良いが、トスカ姐さんの姿は影も形も無かった。どうも俺達が来る以前に脱走していたらしく、刑務官の日誌にそんな記述があった。

 でも他に制圧した所でも見つかってないし、後残っているのは中央の管理棟だけだ。

 

 しょうがねぇので、管理棟へ移動する。保安局降下部隊もO・I・S管制塔の制圧が完了したらしく、中央管理棟の制圧を行うらしいので、俺達もそれに便乗する事にした。

 

 

「・・・さて、入ったのは良いんスが―――」

 

「??ありゃ??」

 

「だれも、いないな」

 

「一応ターレットとかは作動してましたけど。それ以外はなにも無かったですね」

 

 

 0Gらしく先頭を切って突入したと言うのに、誰もいないとは拍子抜けである。

 

 

「・・・・とりあえず、情報が欲しいッスね」

 

「それじゃあ、監視室に行こう。あそこならこの施設のサーバーにアクセスできるだろう」

 

「お!イネスあったまいい!」

 

「俺たちじゃ思い付かない事を平然と言ってのける!そこにしびれるあこがれるぅ!ッス」

 

「・・・・艦長!何言ってるんだ!」

 

「いや、なんかノリで」

 

 

 で、そう言う君は何故顔を赤くしてんだ?そんなに怒るような事言ったか?

 

 

「まったく・・・僕は先に行くからね!」

 

「なーに怒ってんだアイツ?」

 

「さぁ?」

 

 

 ズンズンと言った感じで歩いて行くイネスの後ろ姿を追いつつ、監視室へと向かう。

 そう言えばユピが“イネスさん、貴方もなんですね?今なら解ります”とか言っていたが、何の事なんだろうか?

 

 

 

 

 

~管理棟・監視室~

 

 さて、監視室に来たので、ユピが監視室の端末にアクセスし情報の洗い出しを行った。

 PCに直接接続して情報を得るユピの身体から、淡い燐光が発している。

 どうやらユピの身体が、PCとアクセスしている為エネルギーが活性化しているようだ。

 ややあって彼女は顔を上げた。どうやら情報の洗い出しが終わったらしい。

 

 

「・・・どうやら所長室の所に隠し部屋があるらしいです」

 

「悪者の頭領の部屋に隠し部屋。古臭い設定みたいだぜ」

 

「まぁまぁ、で、そこに行くには?」

 

「回線の集中具合からすると、所長のデスクに何かあるかと思います」

 

 

 成程、そこに隠れたってワケか。監視室のデータを消し忘れたくらいだから大分慌ててたのか。それとも罠か・・・少なくても隠し部屋に行ってみなきゃ解らんな。

 

 

「おし、とりあえず隠し部屋に急ぐッス!もしかしたらグアッシュを追いかけているサマラさんとトスカさん達もそこに居るかも知れないッスからね」

 

 

「「「了解!」」」

 

「了解じゃよー、と」

 

 

 監視室で情報を得た俺達は、急いで所長室へと向かった。

 

 

 

 

~管理棟・所長室~

 

 

「有った!隠し部屋のスイッチだ!」

 

「デカしたイネス!――ってマジでスイッチなんッスか!?」

 

「引き出しの中とか・・・テンプレすぎるぜ」

 

「だけどこれ以外は無さそうだよ?デスクのPCには何も無いってユピが言ってたし」

 

 

 見つけたのはいいが、あからさまにあやすぃ。だけどこれ以外手がかりなさそうだし・・。

 

 

「ええい!ままよ!ぽちっとな!」

 

「「え!?か、艦長!?」」

 

≪ポチ―――ぷしゅーん≫

 

 

 俺が思いっきりスイッチを押すと、部屋の奥の扉が動いて、隠し部屋への通路が現れた。

 つーか、本当に隠し部屋空けるスイッチだったのかよ・・・。

ある意味ロマンが解る男だったのか?ココの所長さん。

 

 

「とりあえず入るッス!」

 

「ちょ!ちょっと艦長1人じゃ危ないです!」

 

「ヘルガは2番乗りなんじゃよー、と!」

 

「ああもう!罠あったらどうするんですかー!!」

 

 

 やや薄暗い通路を真っ直ぐ進んでいくと、通路は右に続いていた。

 ほかに部屋や通路らしきモノは無いので、俺は右に進む。

 どうやらトラップの類はなさそうだった。

 

 

「・・・何気に長い通路ッスね」

 

「隠し部屋への通路って言いますけど、どんだけお金を使ったんでしょう?」

 

「それだけ稼いでたって事だろうさ」

 

 

 その後も真っ直ぐ直進する道が続き、またもや右に曲がる。コレ最終的に所長室の隣の部屋にでも出るんじゃねぇのとか考えてたら、今度は左折だった。分かれ道が無いので、とにかく道沿いに進むしかない。

 

 

「あ、あそこに誰か倒れてます」

 

「え?薄暗くてよく見えないッス。まさかトスカさんじゃ・・・」

 

「灯りをつけるんじゃよー、と」

 

 

 ヘルガのバイザーに着いたフラッシュライトが、俺の少し前を照らした。

 だが、そこに照らし出されていたのは―――

 

「くぁwせdrftgyふじこl;@:」

 

「きゃっ!」

 

「げぇ!死体かよ」

 

 

 上からイネス、ユピ、トーロの順である。

 

 

「・・・・ユピ、イネス・・・クビ絞めてるッス。苦しいッス」

 

「「あ、ごめんなさい」」

 

 

 そして、怖かったのかイネスとユピに抱きつかれ首を絞められた。

 落ちるかと思ったぞオイ。―――しかし、随分と古い死体だな。乾燥してミイラ化してら。

 

 

「こいつは、もしかすると―――」

 

「グアッシュのなれの果てさ」

 

「え!?トスカさん!?」

 

 

 突然、その死体の向う側から声が聞こえ、明るみにトスカ姐さんが現れた。

 サマラさんの姿も見える、目立った外傷らしきモノを追ってはいないらしい。

 

 

「ココに閉じ込められて飢え死にしたんだ」

 

「名の通った海賊にしては、哀れな死に方だがな」

 

 

 サマラさんはそう言って、グアッシュのなれの果てを蹴る。風化しかけていたグアッシュの亡骸はガラガラと骨の音だけを鳴らして、崩れてしまった。

 

 

「ト、トスカさん!サマラさん!無事だったんスね!ボカァもう心配で心配で!」

 

「な?私の言った通りだったろサマラ」

 

「だな、まったく賭けに負けてしまった」

 

 

 あのう、何でマネーカードのデータのやり取りしてるんスか?

 つーか、賭けって何?

 

 

「いやさ?ユーリが一番乗りでキチンと迎えに来るかどうかって賭け」

 

「そうしたら、本当にお前が一番乗りだ。保安局員がさきかと思ったんだが」

 

 

 ・・・・あーそう。

 

 

「二人とも、よく無事だったよな?ずっとここにいたのかトスカさん?」

 

「ああ。脱獄した後、この部屋を運良く見つけたのはよかったんだが、調べている最中に所長に気付かれてね。そのまま閉じ込められちまったんだ」

 

「てことは、やっぱり所長が海賊とつるんで――」

 

「そうじゃあない。ヤツがグアッシュなのだ。収監したグアッシュを殺し、すり変わった所長がココから資金を渡して部下に指示を出していた」

 

 

 成程、幾ら部下を叩いても捕まえても、最終的に送られる場所に頭がいたならすぐに仕事に復帰できるって訳だ。しかも監獄惑星なんて普段は誰も来たがらないから秘匿性も高い。

 

 

「とりあえず、シーバット宙佐に連絡しておこうッス」

 

「宙佐と回線をつなぎます」

 

「うす、ユピ頼むッス」

 

 

 ユピが回線を繋げ、すぐに通信に中佐が現れた。俺達はココで知った事をすぐに報告する。報告を聞いている宙佐はさらに眉間の皺を深くしていった。

 

 

「むぅ、そうか。所長のドエスバンが、な」

 

「ヤツはまだ見つかって無いのですか?」

 

「どうやら我々がO・I・Sを突破している間に逃げたらしい。捕まえたヤツの部下だった者からの情報だ」

 

 

どうやら、俺達がこの星の制圧に手間取っている間に、ドエスバンはとっとと逃げだしていたらしい。この星事態が囮だったのだ。だが、大体の行き先は解るなぁ。

 

 

「ドエスバンが逃げたのなら、私は追いかけさせて貰う」

 

「―――って、サマラさん行き先解るんスか?」

 

「この星の奥にグアッシュの本拠地“クモの巣”に通じる航路がある。ヤツが逃げるとしたら、そのルートしか有るまい」

 

「なるほど、それならすぐにでも―――」

 

 

 と、俺達が通信を切って、軌道エレベーターに向かおうとすると、シーバット宙佐が慌てて俺達を引き止めようとした。

 

 

「ま、待ってくれ!我々はココの後始末でまだ動けないんだ。それを待ってから――」

 

「ソレでは追撃は間に合うまい。それに私が約束したのは連中を潰すと言う事だけ・保安局と行動を一緒にする気は無い」

 

 

 彼女がそう言うと、突然響き渡る振動音。

施設全体が微振動を起しているのを見ると、重力波によるものだろう。

 どうやら上空にフネが来ているらしい。

 

 

「迎えも来たようだな。私は行くぞ」

 

「俺達も行くッス。あいつ等を倒さないと、先に進めないッスからね。それに綺麗なお姉さんを、あの所長の視線の中で過ごさせてしまったお詫びも兼ねて」

 

「・・・ふ、好きにするがいい。私は先に行っている」

 

 

 彼女はそう言い残し、俺達に背を向けると、管理棟の外へと向かって行った。

 多分さっきの重力波振動は、エリエロンドが来たからだろう。

 彼女はそれに乗りこむ為に俺達と別れたのだった。

 

 

***

 


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