【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第二十九章+第三十章+第三十一章+第三十二章

 

 さて、勝手にフネに戻ったトスカ姐さんは、その後しばらく自室から出てくることは無かった。この国の対応がもしかしたら故郷の国の対応に似ていたからかもしれない。

 とりあえず、俺は開発部への開発費の増額を決定した。一応の備えってヤツだ。

今のままで戦ったとして生き残れるのか?そう考えたら凄まじく不安だったからだ。

 

だからこそ、フネの改造をもっとやらせることにした。

やらせるのは勿論我がフネが誇るマッド陣・・・・危険な賭け無きがするがもう遅い。

一応基本方針として、フネの装甲、機動性、火力の三つとも上げられる様には通達してある。

願わくば、ヤッハバッハの戦力がそれ程でもないことを祈りたいぜ。

 

 そして、若干不安な事もあったモノの、俺達はエルメッツァ首都のツィーズロンドを後にしたのだった。

 

 

 

「ユーリ、ちょっといいかい?」

 

「なんです?」

 

「いや、エルメッツァから出る前に、ドゥンガによって貰いたいんだ」

 

「ふーん、シュベインさんとですか?」

 

「う、うん。そうなんだよ」

 

「・・・・まぁいいですけどねー。俺も事情は知ってるのに、仲間外れですもんねー」

 

「それは・・・本当にすまないと思ってる。だけど・・・」

 

「・・・・はぁ。まぁ話せないとか巻き込みたくない気持ちは解りますけどね?死に急ぐ真似だけはしないでくださいよ?」

 

「解った・・・なぁ何でそんな喋り方何だい?何時もの“ッス~”っていうアレは?」

 

「・・・・何かムカって来たから使わんかっただけッスよ。まぁとりあえず航路は丁度ドゥンガを通るから問題無いッスね」

 

「すまないね」

 

 

***

 

 

 はい、てな訳で惑星ドゥンガの酒場にやってまいりました。

 カウンター席に居る見た事のある後ろ姿。シュベインさんだな。

 

 

「待たせたねシュベイン」

 

「どうもッス」

 

「おお、これはトスカ様とユーリ様。何、さほど待ってはいませんよ」

 

 

 適当に挨拶を交わしつつカウンターへと座る。

 今回この酒場に一緒に来ているのは俺とトスカ姐さんだけだ。

 ほかの連中に聞かれてもいいが、説明が面倒臭いしな。

 それにココだけの話、今からする話しには政府に逆らう的な内容も含まれるぜ。

 

 

「航海記録装置(ヴォヤージ・メモライザー)のバックアップデータの解析は?」

 

「はい、画像と同期して採取されたデータの内。比較的精度の高いモノのみを取り出しました。レーザー観測データ、重力波データおよび画像範囲内インフラトン粒子の測定データをクロス分析解析致しました結果・・・・主力艦のサイズは2000mクラスのモノが複数だと思われます」

 

「ウチのユピテルとほぼ同じくらいの大きさッスね。数は?」

 

 

 2000m、キロに直すと2kmだ。

戦艦大和が大体263m位だったから、ソレのおよそ8倍に相当する。

そんなのが宇宙を艦隊組んでごろごろ飛んでるとかどんだけやねん。

 

 

「あくまでメモライザーの観測範囲のみの計算ではありますが・・・およそ10万隻は下らないかと・・・」

 

「・・・・小マゼランの軍を全部足した上で倍以上の数ッスか・・・うわっ勝てねぇ」

 

「ええ、しかも彼らのフネは強力かつ堅牢です」

 

「シュベイン、この事をエルメッツァ政府は?」

 

「知ってはいますが分析結果が大分違っている様ですな。どうも古い艦故に一隻当たりのインフラトン排出量が多いモノと判断している様で、政府内の知人によりますと、艦船数は1000隻程度と見積もっているとのことです」

 

「・・・・・何をどうすれば10万隻が1000隻になるんスか」

 

 

 沈黙が流れる。例え連中が1000隻だったとしても、エルメッツァが送る使節艦隊は壊滅する事だろう。ソレ位の力を奴らは持っているのだ。

 

それに宇宙に航路が開かれて幾千年。

それなりに発展した星系国家を築いた相手にケンカを売るガッツがある連中だ。

戦闘力よりも生産性と低価格を優先し、パワーと耐久力を犠牲にして作られたこちらのフネなんかひとたまりも無い。

 

 

「ふん、どいつもこいつも、どうして敵を見くびりたがるかねぇ」

 

「組織がでかくなった上、敵対出来る存在がいなかったからッスね。どんな敵にも負けない、只の張り子のトラだって言う事にも気が付いて無いんスよ。それに気が付くのは、艦隊が壊滅した後って所でしょうね」

 

「国家組織としての弊害でしょう。力が増せば増す程、人間は愚かになってしまう」

 

「どちらにしても、このデータがあった所でエルメッツァも同じデータ持ってるから、こっちの話しも聞きやしないッスね」

 

「・・・もうチョイ色々と解っていればねぇ」

 

 

 いや、流石にこれ以上の情報は望めないでしょう。

コレ以上欲しいなら、俺達だけで威力偵察でもしてみますかい?

10万隻相手にケンカ売ったら、さぞ凄まじい事になりそうッスけどね。

 さて、沈黙が流れる中、酒を一杯煽ったトスカ姐さんが俺に向き直った。

 

 

「・・・・ユーリ、デイジーリップ号を精密メンテナンスに出しておきたい。この先何があるか解らないからね」

 

「え、デイジーリップ号ッスか?・・・そういや、何処にしまったんだっけ?」

 

「え?」

 

 

 いや、本当に何時頃まで使ってたっけ?あれ。

 

 

「ちょいと待ってくれッス。今ユピに問い合わせてみるッス」

 

 

 俺は携帯端末からユピにアクセスした。

 腕に付けた腕輪から空間投影されたユピのインターフェイスが映し出される。

 

 

『お呼びですか艦長?』

 

「うん、トスカさんの以前乗っていた乗艦はどこにしまったか解らないッスか?」

 

『少々お待ち下さい・・・・・解りました。本艦の格納区画にモスボール処置を受けて収まっています。ただ―――』

 

「?何か問題でもあるッスか?」

 

『いえ、そのう・・・デイジーリップ号のある格納庫なんですけど・・・・・・・・開発部に近い区画にあるんです』

 

「「な、なんだってー!?」」

 

 

 この時、俺とトスカ姐さんに電流走る。

シュベインさんはよくわかっていない為、叫んだ俺達に対して首をかしげる。

 

 な、なんて言う事だ。よりにも寄って開発部の近くにあるなんて――

 通称“マッドの巣”と呼ばれる異空間だぞ!?あそこは!?

 

 

「そ、倉庫の映像は?!」

 

『あ、はい。監視カメラと映像を繋ぎます』

 

 

 携帯端末の映像が切り替わり、ちょっと薄暗い格納庫の中が映し出された。

 ふむ、見た感じ改造とかされている様には見えない。

 

元は旧式の小型輸送船を改造したデイジーリップ号。

両舷のペイロード部分に無理やりスラスターを兼ねたシールドジェネレーターと武装を、半ば無理やりに取りつけてある。

その為バランスを保つ為に胴体部分に反重力スタビライザーを四本も取り付けたらしい。

 

その場当たり的な改造のお陰で非常にピーキーな機体なので、トスカ姐さん以外に乗りこなせる人間がいないフネがデイジーリップ号なのだ。

 

 

「ふぅ、とりあえず変なことはされ――」

 

「・・・・ユピ、少しカメラを引いてみて。あと左舷側も見てみたいッス」

 

『了解』

 

 

 カメラが引いて行き、デイジーリップ号の全体があらわになっていく。

 全体的な形とかは変わってないみたいだが―――

 

 

「トスカさん、手遅れだったみたいッス」

 

「・・・・・アタシのフネが」

 

 

 頭を抱えるトスカ姐さんと俺。

放置されていたデイジーリップはマッド達のおもちゃにされたらしい。

 デイジーリップ号の右舷側ペイロード。

そこには、ミサイルランチャ-と小型レーザー砲があるだけだった筈だ。

だが今は左舷側のシールドジェネレーターがあった筈の所にも武装が追加されている。

全体的に見れば左右非対称でバランスが悪かった機体バランスが少し改善されている。

 

 ウン?よく見たらペイロード部分がもう二つ追加されてる?

 ああ、成程それがシールドジェネレーターだったのか。

 元々主翼みたいに出っ張っていたペイロードの下に取り付けてあるから、複葉機みたいだぜ。

 

武装もシールドも2倍になってやがる。

しかもスタビライザーも小型のが幾つか見え隠れしてるし・・・。

フネの後部に追加のエンジンでもくっ付けたのか、少し全長も増しているみたいだ。

 

ミサイルランチャ-も小型のヤツだが、クラスターミサイルと交換されてる。

おまけになんか用途不明の装置らしきモノも追加されてるみたいだぜ・・・・。

こりゃかなりの趣味にはしってんなー。

 

 

「な、ななな――」

 

「こりゃ大分前から改造されてるッスね。そんな事が出来るのは古参のあの人くらい」

 

「ケセイヤーーーーー!!!アタシのフネになんてことしてくれてんだーーーーー!!!」

 

 

 彼女はこんなことをしでかしてくれた張本人の名前を叫びながら酒場から飛び出した。

 まぁ自分の愛機が気が付けば改良されちまってたら、怒りもするだろうなぁ。

 

 

 

***

 

 

 

 さて、あの後トスカ姐さんがマッドの一人をボコボコにした。

 マッドが倒れる時“マッド死すとも、改造は止めぬ”と迷言を残したとかなんとか。

 懲りない人だねー、とか思いつつもとりあえず俺達はネージリンスへと戻ってきた。

 そろそろ天文台の解析が終わるだろうと踏んだからである。

 

案の定、俺達がネージリンス領に帰還したと同時に通信が入った。

 解析が完了するから、そろそろ来てほしいとの事だったので、そのままティロアへと向かった。

 ティロアに着くとその足で天文台へとちょっこした俺達をアルピナ所長が出迎えてくれた。

 

 

「ああ、ユーリ君。ちょうどよかったわ。後10時間程で解析が終わるそうよ」

 

 

 ―――とは、アルピナさんの言。

 

 流石は小マゼラン有数の研究施設、仕事が早いぜ。

 解析が終わるまでこの星で待つので、ホテルの部屋を取ってもらった。

 

 地上でドンチャン騒ぎをする事が多く、酒場で夜明しならしたことがある。

だが、その後は大抵ユピテルに戻ってしまう為、ホテルに泊るのは本当に久しぶりだった。

 

 ちなみにクルー全員がホテルに泊まった訳じゃ無く、天文台についてきた連中だけだ。

 流石に数千人いるクルー達を全員泊められる宿泊施設なんてある訳がねぇ。

 でも宇宙にはそう言う事が可能なホテルがあると聞いたことがあるから恐ろしいぜ。

 

 

≪カチ・・・コチ・・・カチ・・・コチ・・・カチ・・・コチ―――≫

 

「・・・・・」

 

≪カチ・・・コチ・・・カチ・・・コチ・・・カチ・・・コチ―――≫

 

「・・・・・」

 

≪カチ・・・コチ・・・カチ・・・コチ・・・カチ・・・コチ―――≫

 

「・・・・・・・・・・・・眠れねぇッス」

 

 

 よく旅先の旅館とかにある時計の音が気になって眠れないって事あるよな? 

 くそ、誰だよ。レトロチックな置時計を部屋においておくなんて・・・。

 趣味はいいけど眠れねぇっての。

 

 

「う~ん☆ヒマだし、さんぽでもしようかな?」

 

 

 ちょっと某ハンバーガー屋ピエロさんの真似をしつつ、ベットから起きる俺。

 一度目が覚めちまったら、そうそう寝付けないだべ。

 時間的には、むむ、売店も閉まってるだろうしなぁ・・・コンビニでもちかくにあるかな?

 

 

 

 

 

 

・・・・――――さて、一方その頃。

 

 

 

「艦長、まだ起きてるかなぁ?」

 

「ユーリ、起きてるかな?」

 

「「ん?」」

 

 

 俺の泊る部屋から少し離れた廊下で、二人の少女が遭遇していたらしい。

 片方は我らがAI様ユピ。もう片方は我らが妹様チェルシーだ。

 

 

「(艦長の妹さん?)」

 

「(たしかこの娘、フネのAI・・・だったよね?)」

 

 

 廊下で見つめあうこと数分、再起動に時間が掛ったのか、ハッとする二人。

 

 

「「あ、あの。こんな時間に何をしに?」」

 

 

 異口同音で問われた質問。

 流れる沈黙のなか無音の風が加速した。

 

 

 

***

 

 

 

「やべぇ、企業戦士マンダム超おもしれぇッス」

 

  

 少々マナー違反だが、俺はホテル近くのコンビニで漫画雑誌片手に立ち読み中。

 読んでいたのは、とある企業に入った少年が年代を重ねながら徐々に渋みを増して他企業を圧倒していく様子を描いたリーマン漫画。創刊は30年近く前だが、何気に人気があるらしくマンダムエースなる専門雑誌まである。

 

 しかし、やっぱどんな世界にもあるもんだねぇ、コンビニ。

 24時間営業のソレは、暗い夜を明るく照らす頼もしい味方。

 立ち読みして時間つぶすのにちょうどいい空間だ。

 店員の目が厳しくなってるが、オレは自重しないぜ!

 

 適当にとった漫画雑誌、どうも未来になっても漫画と言うジャンルは終えないらしい。

 描き方も20世紀のそれとほぼ変わらん。

稀によく解らん構図の漫画あるけど、過去に描かれた漫画でもよくある話なので気にしない。

 

 つーか、このトガシとかいう作者の書いた漫画。

ぶっ飛んでて面白いけど、話しもぶっ飛んでるね(休載的な意味で)

 でもやっぱり俺が気に行ったのは、ルスィックPという人の書いたヤツだね。

 まるで実際に見て来た様な臨場感がたまらねぇゼ。

 

 

「ふん、ふん・・・――あ、読み終わっちまったッス」

 

 

 俺は結構読むのが早い、だから置いてあった雑誌の殆どは読んでしまった。

 残っているのは女性向け雑誌とアングラ系、それと青年指定系のソレ。

 前者は周りの目を考えなければ普通に読める。

だが、後者は何か命の危険を感じる為、手をつけたくない。

 単行本系は全部ラッピングされていて読めないし・・・仕方ないから戻るべ。

 

 

「・・・1人手酌でもすっかねぇ」

 

 

 ふと酒とつまみのコーナーが見えた。

 1人晩酌って言うのもオツなもんだろうとかオヤジ臭いこと考えつつも購入。

 買ったのはビールっぽい発泡酒系の何かと、ジャーキー的な何か。

 詳しくは知らん、まぁ以前食った時にそう言う風に感じたからそう言ってるだけ。

 不味くは無いしむしろ合うから問題無し。

 長時間立ち読みをしていた俺を睨むコンビニ店員の視線を受けつつホテルへと戻った。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 部屋に戻ると中に人の気配、こんな時間帯に来るやつなんて普通いない。

 イコール、悪意を持った誰かの可能性がある。

 だけど、オレ誰かに恨まれる様な事・・・該当件数があり過ぎます。もっと絞ってください。

 

 さて、良い感じに脳内アナウンスが流れた後、そうっと部屋の中の様子をうかがう事にする。

 中折れ接続式のハンディバズも腰のホルダーから外して組み立てる。

 コイツは外見が天空の城のあの大砲にそっくりだが連射が可能な憎いヤツだぜ!

 

 まぁちょいと変なテンションで近くのリネン室に置いてあった段ボールを接収した。

 そしてそれを被り部屋へと入る、気分は伝説の蛇さんだぜ。

 

 

「(こちらユネーク、侵入に成功した)」

 

 

 1人MGSごっこは男の子ならだれでも一度はやってみたいだろう。

 そんな訳で部屋の中に屈みながら入った―――段ボールを被って。

 変なテンションなのは帰る途中でヒャッハー!我慢できねぇー!って感じで酒一本空けたから。

 まぁ多めに見てくれたまえ。

 

 

「(さぁ、何処のどいつが待ち伏せ中なのか)」

 

 

 部屋に入って気配を探る。

 はて、何故か人の気配はベットの方から感じられる。

 一体誰がと思い、段ボールの隙間から覗いて見た俺は後悔した。

 

 

「(た、大佐、美少女が2人何故か俺のベットで寝ている。どうすればいい!?)」

 

 

 脳内の大佐に救援コールを送るくらい、今の俺は混乱中だ。

 ベッドに寝ていたのはユピとチェルシー、何故か仲良し姉妹の用に抱き合って熟睡中。

 チェルシーは解る、彼女が小さな頃は怖がりで一緒に寝ていたという。

ラスボス連中の妙に凝ったかつ、ねつ造記憶が存在しているからだ。

 

 ちなみに脳内大佐はYouヤっちゃいなよー若気の至り万歳WRYEEE!!と非常に問題のある発言をかましてくれている。つーかやめい大佐!

 

彼女たちに手を出すとか俺のジャスティスが許さん!

 片方は年齢的に中学生でもう片方は歳一ケタだぞ!?ロリコンどころの話じゃないわい!

 そんな訳で臆病でヘタレなオイラは部屋からそそくさと撤退した。

 

 

 

 

 

 

 

・・・―――んで、コンビニのビニール片手にホテル徘徊中。

 

 特に行く場所も無く、夜は警備の人間以外は居ない自動化されたホテルを歩く。

 ロビーで寝たら流石に朝ホテルの人になんて説明すれば良いか解らんしなぁ。

 かと言ってあの二人の居た部屋はオートロックが掛っているだろうし・・。

 は?一緒に寝れば良い?・・・・生殺しってキツイなんてもんじゃなくて地獄なんだぜぇ?

 

 

「・・・・トスカさん辺りなら起きてるかもしれないッス」

 

 

 イネスは今回来てないし、かと言ってトーロは・・・彼女とよろしくやっている。

 ケセイヤさんとかのマッド陣営の所には迂闊に近づきたくないという心理が働いた。

 となると、自然と消去法で一番信用が置ける人物と言う事になる。

 

 

「丁度酒もある事だし、夜空を肴に飲みますかねぇ」

 

 

 トスカ姐さんが寝てたらまたコンビニにでも行って夜を明かそう。

 そんな訳でトスカ姐さんが寝てる部屋へと瞬間移動・・・もとい普通に歩いて到着。

 とりあえずドアをノックしてみた。

 

 

「トスカさん、ユーリッス。起きてるッスかー?」

 

「ユーリ?あ、ああ。起きてるよー」

 

 

 どうやら起きていたらしい、ドアは開いているとの事で中に入った。

 部屋に入ると若干薄暗く、よく見れば部屋の中がプラネタリウムの如く星が写っている。

 

 

「これまた面白い部屋ッスねー」

 

 

 素直に感想を述べる。むむ、俺もこんな感じの部屋にしたかったぞ。

 もっとホテルの案内書見ればよかったぜ。

 

 

「ああ、面白そうだからココにして貰ったのさ・・・それは酒かい?」

 

「あ、よかったら飲みます?適当に寝酒程度にでも」

 

「いいね、ちょうど欲しかったとこだ」

 

 

 ベッドにけだるそうに座っていた彼女は、俺が持っているもんに気が付いた。

 適当にホテルの部屋備え付けのコップを拝借し、ソレに注いで渡してやる。

 彼女は黙ってそれを受け取り一口、俺も自分のを用意して飲む。 

沈黙が辺りを包むが居心地は悪くない。

 

 

「・・・で、何かあったのかい?こんな夜中に」

 

「いやー、ちーと眠れなかったんスよ」

 

 

 俺の部屋のベッドは占領中だしな!俺の応えにトスカ姐さんはそっかと応えた。

 再びい流れる沈黙・・・居心地は悪く(ry

 

 

「人間が・・・」

 

「はい?」

 

「人が光の速度を越えられる様になって・・・それ、良かったのかね?」

 

「というと?」

 

「いま、この部屋のモニターに映っている星の光は過去の映像。この中にはもう存在しない星もあるかもしれない・・・滅んだものはきれいさっぱり消えるべきなんだ。昔のままの姿で見え続けるなんて・・傲慢さ」

 

 

 そういうと彼女は杯を仰いだ。

 

 

「・・・・うーん、俺は学が無いので上手い事は言えないッスが。例えそうだとしても、何時かは見えなくなる。だったら見えている間は、見つめ続けるのも一興なんだと思うんスよ」

 

「・・・・・・かも、しれないねぇ」

 

「ま、俺の考えッスからね。自分で言って訳解んねぇッス」

 

「なんだそりゃ」

 

 

 そういってクスクス笑うトスカ姐さん。ふぃ~こういったしんみりは苦手ですたい。

 この後は結局彼女と朝まで呑んで夜を明かした。

 つーか酒が無くなったからパシらされた。あり?俺ってかんちょうだったよな?

 

 

***

 

 

 ちなみにチェルシー達はユーリと夜会話したい為に部屋で待っていたが、睡魔に負けて寝てしまった。次の日の朝二人して赤面していたのは余談である。

 

 

***

 

 

 さて、翌日になってまたもや天文台。

 解析結果がでると聞いて興奮しているジェロウ教授を宥めつつ、部屋に入る。

 すでに準備されたモニターには、様々な比較グラフが展開され、色んな数値が出ている。

 アルピナさんやその他研究員が若干疲れた顔をしながらもやり遂げたという顔をしている。

 そしてプレゼンを始めたのだが――正直チンプンカンプンだぜ。

 

 

「――こほん、結論を申し上げますと」

 

 

 む、いかん。意識が別の方に飛んでいる間に結論が出ている。

 俺はすぐに意識をそちらに傾ける事に全神経を集中させた。

 

 

「(ユーリ艦長、凄い気迫ね。よっぽどエピタフに関心があるんだわ)――エピタフとデッドゲートには、やはり何らかの関係性が見受けられます」

 

 

 そう言うと彼女は手元のコンソールをピポパと動かす。

 すると背後のモニターに映し出されていた画が変わった。

 

 

「先生たちが採取されたサンプルには、微弱ながらヒッグス粒子反応が確認されました。これは私たちが以前偶然にも観測に成功した11番目のヒッグス粒子、ドローンヒッグス粒子と完全に同一でした」

 

 

 ヒッグス粒子つーのは、ヒッグス場を量子化して得られる粒子の事だ。

 詳しい事はウィキで調べれば出てくると思う。

すでにおにーさんの頭は爆発寸前だから、コレ以上聞かないでほしいぜ。

 

 さて、俺にとっては正直“なにそれ美味しいの?”的な話しを終えたアルピナさん。

 ジェロウは自説が証明されたと喜んでいる。

 あそこまで喜ばれると、ムーレアまで連れて行った甲斐もあるもんだ。

 

 さて、もっと簡単に結論を言うと、先のドローン・ヒッグスとかいう粒子の観測。

 それによってエピタフのある場所も解るかも・・・ってのがアルピナさんの説だ。

 

 

「ちなみにこのDH粒子が強く観測された宙域があるの。ゼーペンスト自治領の宙域で以前から微弱な反応があったのを検出する事はあったのだけど、最近検出回数が上がっているわ」

 

「自治領ッスか・・・そらまた面倒臭い場所に」

 

「あそこの領主バハシュールがエピタフを持っていたという噂は以前からあるわ。彼の父親、すなわち先代の領主でありバハシュール自治領を開拓した初代バハシュールね。彼が航海している時に見つけたといわれているわ」

 

 

 普通なら胡散臭ぇと鼻で笑うだろうが、DH粒子の検出量の多いところでエピタフが見つかると言うのなら、信憑性も増している。序でに言えば火が無い所に煙は立たず、噂があるってことは少なくても何かがある可能性が高いと言う事でもある。

 

 まぁまったくの無駄足に終わる事も多いだろうけどね。

 ことエピタフ関連は半分信じて半分疑う程度がちょうどいいのさ。

 

 

「ヒッグス粒子を観測できる装置を、フネに搭載出来るといいんだが・・・」

 

「流石に無理ッスよね。この天文台の能力でようやく観測可能だっていうのに」

 

 

 ちなみにこの天文台、敷地だけでも20平方kmある。

 設備だけにしても、数キロ以上地下に埋没しているから、流石にフネに乗せるのは難しい。

 幾らウチにマッドが多くても、ダウンサイジング化は難しいだろう。

流石にフネ一隻をタダの観測用として使える程余裕はないしな。

 

 

「なんとか乗せられないかネ・・・」

 

「アバリス級を一隻食いつぶす覚悟があるなら可能でしょうけどね」

 

「・・・艦長」

 

「いや、流石にもう一隻作る余裕はないッスよ?」

 

「だが、エピタフを発見したくは無いかナ?」

 

「はっは、だが断る」

 

 

 断るとシューンとした感じになるジェロウ教授。

 いや、一応金はあるッスけど、流石にそこまでやりたくねぇよ。

 以前のグアッシュとの戦闘で受けた損害、正直プラマイで言ったらマイナスに近いんだぜ?

 アレでもし戦闘で犠牲者が出ていたらと思うと・・・はぁ、葬式代もばかにならん。

 

 とりあえず、解析は終えた。これ以上は天文台に居ても仕方ない。

 更なる調査解析はここの職員たちに任せる事にして、俺達は俺達で宙域を回って情報収集だ。

 

 

 だけど、まさかまた色々と巻き込まれるとはなぁ~。

 人生ってのはままならないッス。ウン。

 

***

 

 

各惑星を巡って教授が求める情報を集めることにした俺達。とりあえずウチのデータベースで一番近隣でエピタフがありそうなバハシュール領に付いて調べてみることにした。

IP通信で通商管理局にもアクセスが可能だから、そこから情報を引きだすことにする。

 

バハシュール領はゼーペンストに存在する自治領の一つで、先代が基礎を築きあげた国だ。

現在はその息子があとを引き継いでいるという典型的な2世領主が治めている。 

 

もっとも、更なる反映とかでは無く親が築いた財を子孫が食いつぶしている。

公式のデータベースにすら乗っているダメ領主ってどうよ?

 

 また領主の性格は非常に傲慢勝つ気分屋であるとの分析結果も出ている。

 一自治領を収める治世者がそんなんでいいのかと問いたいところだが、次世代の教育を怠った先代に否があるし、正直そんな話しは幾千万とある星間国家連盟にはよくある話だ。

 

 つーか毎日美女侍らせて退廃的な生活が出来るなんてなんてうらy――ゲ、ゲフン。

 ともかく、そいつは近づく民間船ですら稀に気まぐれで沈めたって話がある。

 そんな頭のネジがゆるんでるヤツの所には行きたくないねぇ。

 

 

「艦長、もうすぐ惑星ポヒューラです」

 

「ん、了解、各艦繋留準備、管制塔の指示に従って順次入港してくれッス」

 

「アイサー、各艦、管制塔の指示があるまで待機せよ。繰り返す――」

 

 

さて、長い事宇宙を飛びまわっていた為、いい加減補給をしなければならなくなった

 目的は、まぁ金稼ぎと言ったところ、あ、海賊退治じゃないよ?

 星々を巡っていると航路を遊廻しているデブリや小惑星帯とかを見つけることがある。

 

 そのデブリや小惑星帯には、レアメタル等のお金になるモノが含有されていることが多い。

 てな訳で、今回は掘削屋の真似ごとをして、ウチのフネの修理素材+売りモンになりそうなレアメタル等を探しだし、ペイロードに詰んだコンテナに満載している訳である。

 

 そして今回惑星ポフューラで受ける補給というのは、主に生活雑貨だ。

食料品はどういう訳か自然公園の艦内農園がある所為で100%とは行かないが自給できている。つーか気が付いたらパンモロとかいう名前だけなら男がときめきそうな牛科の生き物がいた。

 

 なんか最近乳製品使ったメニューが多いかと思ったら、そんな理由だった。

 本当に誰が持ち込んだんだろうか?俺は許可出した記憶がない。

 ありうるとすれば、トスカ姐さんがいなかった時に朦朧としつつ書類決算してた時だろう。

 

 まぁ今んとこ問題ないから放置してるけどな。

 お陰で自然公園なのに農家に来ている気分になってくるけど、ソレもまた一興。

 むしろ農家体験の予約が一杯になるくらい人気が出ている。

 

 

 リスト見たら、3年先まで予約でいっぱいってどんなだよ?

 

 

***

 

 

「――3,2,1、逆噴射減速。軌道ステーションからの誘導ビームに乗ります」

 

「微速前進」

 

「微速前進ヨーソロ、インフラトン機関内 レベル2から1へ正常に移行、推進機停止」

 

「軌道誤差X:0,0002 Y:0,0003 Z:0,0012 全て修正誤差範囲内」

 

「反重力スタビライザー・・・作動」

 

 

 推進機の火が落ち、慣性の力で港内へと入港するユピテル。

 各所のアポジモーターやスラスターが微調整を繰り返し、接舷ドックへの軌道に乗った。

 

 そして壁とかにぶつからない様に、反重力スタビライザーでバランスを取っていく。

 ある程度まで近づくと、船上と船底を固定するガントリーがせり出してきた。

 

 

「接舷ガントリーを確認。本艦と速度同期・・・ロック、艦底完全固定まで13秒」

 

「最終逆噴射、機関停止」

 

「よーそろ、機関停ー止ぃー」

 

 

 その巨体を覆い隠すかのように、ユピテルは弩級船舶用ドックへと入った。

 ガコンという音がフネの内部に響き、船体が完全に港に固定されて接舷される。

 前方のドックの隔壁が降りていき、完全に閉じると連絡橋がフネのエアロックへと固定されると同時にドック内部にエアが充填されて気圧が確保された。

 

 

「・・・・・接舷完了、ドック内気圧0,4から0,8へ上昇、エアロック解除します」

 

 

 ―――接舷手順、全行程完了。

オペレーターのミドリさんのその言葉に、ブリッジ内に安堵の空気が流れた。

 

 

「う~ん、やっぱり偶には人の手で入港ってのもオツなもんスね」

 

「ま、使わなきゃ腕は鈍るからねぇ。最近は何時もユピ任せだったし」

 

 

 今回は久々に手動での入港手順を踏んだのだ。ウチには並列処理でさっきまでブリッジ要員がしてしまう事を全部で来ちゃうAIさまが居られるから正直俺達の手はいらない。

でも流石にそれじゃいけないと思い、久々に手動でやってみたのである。

 結果は、まぁまぁと言ったところかな?特にこれと言ったミスは無かったしな。

 

 

「むむむ、なんかお仕事盗られた気分です」

 

「まぁまぁ、偶には良いじゃないッスかユピ。俺達は人間だから使わないと忘れちまうんスよ」

 

「でも、なんか・・・むぅ」

 

 

 でもうちのAI様としてはお仕事を盗られた気がするらしく、ほほをプクンとされています。

 むす~と、いかにも私不機嫌ですといった感じだが、どう見ても微笑ましさしか感じられないぜ。

 まったく、かぁいいなぁ~ウチのAIは。

 

 

「それに多分定期的に手動手順の訓練は入れる事になるッスけどね」

 

 

 幾らフネが優秀でも、乗っている人間がダメじゃ意味がねぇ。

 いくらAIが優秀になろうとも、フネを動かして行くのは人である。

 だから、マンパワーの低下ってヤツほど恐ろしいモンは無い。

 

 これからも適度に腕がなまらない程度に訓練を入れていこう。

 準備をしすぎるとか言う事はないんだから。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

 とりあえず情報収集も兼ねてユピとかその他引き連れて星に降りたぜ。

 ポフューラだと俺あんましいい思い出は無いんだが・・・。

まぁコレも仕事と割り切るしか無い。

 

 そんな訳で、俺はこの星で一番人や情報が集まりそうな場所を巡っている。

 酒場やその他を巡り、次はセグェン・グラスチ社系列の大ホテルへとやって来ていた。

 ネージリンスで一番のコングロマリット系企業で、造船からその他まで様々な分野で成功をおさめた大企業だ。

 

 だけど俺としてはあんましいい印象じゃねぇ。

だってこの間 この系統の支社の方で門前払いされたしな!

 

・・・・まぁあんときは対応してくれた人間が悪かったんだろうさ。

 一応客商売なんだし、客として行く分には邪険にはされねぇだろう。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・なんだ?この重苦しい空気?」

 

 

さて、ホテルのロビーに来たのはいいんだが、なんかZUNとした空気が漂っている。

はっきりいってまとわりついてくるみたいでウザいくらいのが辺りに充満していた。

 ドンくらいっていうと、そうだな・・・「おやっさん!死んじゃダメだおやっさん!・・・おやっさん?―――ッ!おやっさぁぁぁぁぁぁぁん!!!」と主人公が叫ぶVシネマ程度のヤツ。

 

 まぁんなことはこの業界やってればいくらでも遭遇出来る、日常の空気みたいなモンだ。

 それよりも問題なのは、その空気を辺りにまき散らしていらっしゃる存在だ。

 

 

「・・・・・・」

 

「あ、バリ雄・・・もといバリオさんじゃないッスか。お久しぶりッス!」

 

「バリオ宙尉?――あれま本当だ。でもなんでネージリンスにカルバライヤの軍人が?」

 

 

 瘴気というか暗黒ガスの出所は、以前カルバライヤ宙域で海賊退治をした際に協力しあった宙域保安局のバリオ宙尉だった。

 あれ?考えてみればここはネージリンス側だから、ある意味敵国のカルバライヤの人間がいるなんて珍しいを越えて仰天映像だぞ?

 

 

「・・・・君たちか・・・・へへ、奇遇だぜ。へへ」

 

「「「うわー・・・・」」」

 

 

 なんかもうどうにでもなれって感じのバリオの雰囲気に、この場の全員が引いた。

 つーか、うすら笑いしながらソファーにシナだれてんじゃねぇよ。

 何かあったんだろうか?あのお調子者でフェミニストきどりのバリオさんがこんなことになってるなんて。

 

「な、なんか顔色というか雰囲気が変ですけど・・・」

 

「・・・・実は――」

 

 

 バリオさんは何故ネージリンスに来ているのかを、やけっぱちな感じで話してくれた。

 どうも以前、監獄惑星ザクロウで行われていた人身売買を追ったところ、なんと国境を越えて隣国のネージリンスに送られていたことが判明したらしい。

 

 その為あの幸薄そうなシーバット宙佐が売られた先に単身交渉に出向いたのだそうだ。

 だが問題は、その売られて先が俺達が調べていたバハシュール領だったのだ。

 そしてそこでシーバット宙佐は―――

 

 

「シーバット宙佐が殺されたッスか!?」

 

「・・・ああ、領主に会う事は出来た。だがその後に領主が突如態度を変えて宙佐を・・・くそ」

 

 

 バリオは祈るような手の形に腕を組んでうなだれる。

 彼から少し経ってから聞いた話だと、宙佐は殺される直前に緊急通信でバリオに売られた人達がいることを最後の力を振り絞って伝えて来たらしい。

 だが、その事が領主にばれて通信がつながった状態でとどめを―――

 

 

「・・・・クソ領主ッスね。つーか下手すりゃ戦争の引き金になるじゃないッスか」

 

「ああ、だから・・・保安局としては動くことが出来ないんだ」

 

「でも何でまたシーバット宙佐はそんな所に単身で向かったんだい?それにグアッシュ海賊団を倒す時からあんた達の動きはどこかおかしかった。何か隠してるんじゃないだろうね?」

 

 

 トスカ姐さんが若干すごみながらバリオさんを問い詰める。

 最初はとぼけるフリをしようとしていたバリオさんだったが、どうやらその元気も長くは続かなかったらしい。

 

 

「・・・・はぁ、もう俺の上官はいないし、海賊退治に命をかけてくれた君たちには効く権利があるな」

 

 

どこか疲れたような感じで、突然両手の掌を返したように彼は語り出した。

 

 

「俺達が最初に出会ったところは覚えてるか?」

 

「えーと、鉱山の酒場ッスね」

 

「・・・・・スマン言い方が悪かった。宇宙で最初に出会ったのは?」

 

「たしか、客船が海賊に襲われていたあの時だね」

 

「そうだ、あの時客船の中にはトゥキタ氏ともう一人――セグェン・ランバースの孫娘であるキャロ・ランバースが乗りこんでいた」

 

 

 成程、大分話が見えて来たぞ。

あの時グアッシュ海賊たちが狙っていたのは、客船に乗っていたVIP。

セグェン社のセグェン会長の孫娘、キャロ・ランバースを狙っていたんだ。

そしてあの時、既に彼女は海賊船に連れ去られていたって訳なのね。

 

 

「だから我々は彼女を救出する為にあらゆる手を尽くした」

 

 

 しかし、時すでに遅く、せっかく捕まえたドエスバンから情報を聞きだしたが、既に彼女は人身売買のルートで売られた後だったってことなのか。

 しかも売られた先が道楽ダメ領主のバハシュール・・・・生還絶望的じゃね?

 

 

「成程、相手は自治領領主、普通なら諦めるところだがそうもいかない。ことを荒立てたくは無かったから・・・」

 

「宙佐は単身で乗り込んだってワケッスね」

 

「ああ」

 

 

 そして再びドヨーンとした空気を纏わせるバリオさん。まぁ尊敬出来る上司だったんだろうな。

宙佐とは少ししか話せなかったが、かなりの人格者だったのは記憶に新しい。

 ・・・・一応知り合いだったし、袖触れ合うも何かの縁――か。

 

 

「バリオさんはどうするッスか?」

 

「聞いた通り保安局としては動けん。しかも連中は先代が築きあげた強力な艦隊に守られて、彼の星からも出て来ないからな。宙佐も居なくなってしまったし、この件はコレで終わりさ・・・」

 

 

 彼は立ち上がりながら、俺もカルバライヤに戻る、君たちももう関わらない方がいい、と言ってこの場を後にしようとした。

 

一見、平気そうに話したバリオさんだが・・・・。

 

 

「バリオさん、その手・・・無理しなくても良いッスよ」

 

「・・・ッ!」

 

 

 俺の指摘に動揺した様に手を隠す、彼の手は本当に悔しそうに、血が流れるくらいに握りしめられていた。よほど悔しかったんだろう。

だが彼は保安局という役職に付いている。そうなるともう彼にはコレ以上の事は出来ない。

 

つまりさっきからの暗~い空気を出していたのは、ふがいない自分に対してだったのか。

 カルバライヤの民族性からいって、感情を誤魔化すことは大変だったろうにな。

 だけど下手に動けばソレが戦争の引き金になる可能性もある。

 

 どうすりゃいいかわからねぇんだろう。

バリオさんは仇を取りたいが戦争はしたくないんだ。

 

 

「どうすりゃ・・・いいんだよ」

 

 

 そう、小さくこぼすしかないバリオさん。

 沈黙が流れるかと思いきや―――

 

 

「バリオ様、ここにいらっしゃいましたか。実はこたびの件でカルバライヤに協力して貰えたことのお礼をと――まだご滞在は可能ですかな?」

 

「・・・いや、もう帰る事にしましたトゥキタ氏。それに我々は役に立てなかった故 礼はいりません。ご期待に添えなくて申し訳ない」

 

「いえ、こちらこそ・・・本当に立派な方が亡くなられて残念です」

 

「・・・・そう言ってもらえれば、宙佐も喜んだ事でしょう」

 

 やや長めの髪をオールバックにし、立派な口髭を蓄えた紳士が話しかけて来た。

 話しぶりから察するに、どうやらバリオさんと知り合いの様である。

 

 

「バリオさん?」

 

「ん?あ、ああ、この人はトゥキタ・ガリクソン。ランバース家に仕えている執事だ」

 

 

 ほへー、本物の執事さんなんて初めて見たぜ。

 この老年の紳士が執事とか・・・スゲェイメージがあってやがる。

 よく見れば赤い蝶ネクタイだし、物腰も穏やかなのにどこかきびきびとしてる。

 

 

「トゥキタと申します。あのバリオさま、この方々は?」

 

「彼らは・・・まぁシーバット宙佐の知り合いですよ・・・あと俺はコレで」

 

 

 バリオ宙尉がそう言うと、そのままホテルを出ていった。

残された俺達とトゥキタ氏、彼はこちらを見て若干眼を見開いた。

 そして申し訳なさそうにこちらに向き直ると深々と頭を下げた。

 

 

「シーバット宙佐の・・・宙佐には本当に申し訳ないことをしてしまいました」

 

「いえ、バハシュールの手にかかってしまったことは聞きました。その事情もね・・・キャロ・ランバース嬢を単身救出に向かわれたからだそうで」

 

「はい・・・、あの方は我が国とカルバライヤの関係をよくしたいと自ら交渉役を買って出られたのです。」

 

 

 もう何回目になるかは解らないが、一応状況整理の為に捕捉しておく。

今俺達がいるネージリンスとカルバライヤは仲が非常に悪い。

いまだ戦争こそ起こっていないが、国境では緊張状態は保たれているほどだ。

 

 トゥキタ氏の話によると、セグェン氏がその事に心を痛め二国間の関係改善の為に、主に経済面で動いていたらしい。以前海賊に襲われていた客船には彼とキャロ嬢と経済大使団が乗りこんでいたのだが、グアッシュにキャロ嬢はさらわれてしまったのがこの件の発端だ。

 

 

「―――そしてその後、バハシュールからセグェン様に交流を止める様に脅しが入って来ております。最初からグアッシュ海賊団、そしてその背後にいたバハシュールの目的はソレであったかと」

 

「・・・・ボンクラ2世領主の考えることは解らんスね」

 

 

 これまで集めた数少ないバハシュールの情報を分析する限り、あの道楽2世馬鹿領主が戦争を拡大させる様な事で何かメリットがあるとは思えんのだが・・・・。

 

 

 だがこれではっきりしたな。

 

 

「トスカさん、宇宙開拓法第11条って適用可能ッスよね?」

 

「ほほう、大分0Gの事が解ってきたじゃないか」

 

 

宇宙開拓法第11条、『自治領領主はその宙域の防衛に関し、全ての責を負う』

 つまり、自治領に対する襲撃者が海賊や民間人だったら、それに国家は介入して来れない。

 以前俺達がロウズで大暴れした時、指名手配とかされなかったのはこの法律のお陰だ。

 

 

「しっかし、シーバット宙佐の仇打ちかい?」

 

「それもあるんスけど、一丁 悪代官を懲らしめてやりたくなったッスよ(それにエピタフとかその他もな)」

 

「言うじゃないか、ソレでこそわたしが見込んだだけはあるよ」

 

 

 俺達が自治領を攻めて、そこを制圧してしまえば、エピタフ遺跡は俺達のモンだ。

 ふひひwwwオレって結構外道じゃんwww

 

 

「お、お待ちください!バハシュールの抱える戦力は―――」

 

「なに、グアッシュよりかは少ないんでしょう?」

 

「そ、ソレは確かに」

 

「ならへ兵器ですよ。それに、ウチの白鯨艦隊はそうそう負けませんから」

 

「は、白鯨艦隊!?貴方達がですか!?――っと失礼、少し驚きましたが故」

 

 

 艦隊名を名乗った途端、紳士のトゥキタ氏が声を荒げた。

 すぐに何時もの柔和な笑みに戻ったが、一瞬だけ垣間見えた表情には驚きの色が浮かんでいた。

 

 

「俺達、そんなに有名なんスか?」

 

「有名も何も、近年に入ってわずか数カ月の内に0Gランキング上位に食い込み。どこの既存のフネとは違うカスタム船で宇宙を駆け、海賊たちを専門に倒し続ける正義の艦隊。海賊やゴロツキどもからは『海賊殺し』『見えないクジラ』『海賊専門の追剥』『白の恐怖』という二つ名まで付いているくらいです・・・よもや知らなかったのですか?」

 

 

 あ、いやー、なんつーか海賊専門の追剥とかは知ってたけど・・・。

なんか大分尾ひれが付いて無いか?つーか海賊殺しってなんだよ?

見えないクジラは・・・そういや海賊を襲う時はステルスモードの状態で奇襲してたっけ。

 

 しばらく宇宙で採掘している内に、大分噂が広まっていたらしい。

名声値の上昇っていうのは凄いんだな。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 さて、自治領とはいえ国は国、一艦隊でしか無い俺らが責めるというのは大変だろう。

 なのに何故挑むことにしたのか?まぁ実を言えばスルーしても良かったんだがね。

 まぁアレですよ、一応この先ヤッハバッハが来る訳です。

 

 だけど俺達が今まで経験した戦闘は、全部海賊とかの戦略が無い戦闘ばかり。

 この先戦うであろう正規の国家が運用する艦隊とかは相手にした経験が少ないのだ。

 だからある意味予行演習も兼ねてるんだよね・・・宙佐の弔いってのもあるけどさ。

 

 

結構気にいってたんだよな、あのおっさんの事は―――。

 

 

 

「さー、国家相手にケンカ売るんス。どんなことがあるかわからんスから、補給品は何時もの3倍注文しておいてくれッス」

 

『あいよ艦長。任しときな。上手い事ペイロードに収まるようにしてやるよ』

 

「苦労かけてすまねぇッスアねコーさん」

 

『いいよ、こういった刺激が欲しくて0Gに登録したってのもあるしね。どちらにしろ艦長には従うさ・・・通信終わり』

 

 

 さて、そう言った訳で我等 白鯨艦隊は出港準備を急いでいた。

 どうなるかわからねぇから、補給品や修理材とかは多めに摘みこんでいく。

 俺はその作業の確認を行っていたのだが―――

 

 

「――艦長」

 

「ん?何スかユピ」

 

「ドック入口に面会をしたいという方がいらしています」

 

 

 ―――面会?誰だろうか?

 

 

「危険人物の可能性は?」

 

「武器の持ち込み、及び過去の犯罪データには該当なしです・・・あと女性です」

 

「そうッスか、ま、危険人物じゃないなら上がってもらっても良いか・・・」

 

「了解、クルーにブリッジへと案内させるように指示を出します」

 

 

 稀に来るセールスの商人か何かだろうと思い、フネに面会者を呼ぶ事にした。

 しかし、なんかユピが報告の後半ブツブツ言ってなんか不機嫌なのは何でだろうか? 

 まぁそれはさて置き、しばらくしてクルーに案内されて面会者がやってきた。

 

 その人物は―――

 

 

「失礼する「あーーーー!あんたは!」え!」

 

 

 そこに居たのは忘れもしない!

あの俺を小馬鹿にした挙句、ティッシュを渡してきたあの女!

 

 

「ネルネル・ネルネ!」

 

「ファルネリ・ネルネよ!!って、本当にあなたが白鯨艦隊の指揮官?」

 

「ふん、見てくれはそうは見えないだろうけどねー」

 

「・・・・どうやら本当みたいね」

 

「んで、なんでネルネさんがこちらに?我が艦隊はもうすぐバハシュール領へと発進するのですが?」

 

「え、ええ。トゥキタから聞いたの、貴方達がキャロお嬢様の救出に向かうって」

 

 

 実際はエピタフ遺跡とかその他もろもろの財源確保の為の侵攻なんだけどね。

 表向きはキャロ嬢の救出って事に主眼を置いておいたっけな。

 まぁ誰しも利益が全くない状態では動きませんわ。勿論ソレはこの場では口に出さないんだけどな!

 

 

「ええ、確かにキャロ嬢の救出も(序でだけど)します」

 

「だから、私も同行させてもらいます」

 

 

・・・・・・・・・・・・・はぁ!?

 

 

「い、いや!何でいきなりそうなるんスか!?」

 

「私はキャロお嬢様が小さな頃から知っているのよ?だからどうしてもお嬢様を助けたいの。その為に会長におひまを頂いてきたわ。お願い、あの時の無礼は詫びます。どうか私もクルーとしてキャロお嬢様の救出を手伝わせて!」

 

 

 途中から声を張り上げるかの様に、俺に懇願するファルネリさん。

 いや、なんつーかそんな声出されると、ブリッジの眼が俺に集中するんですけど?

 というか流れ的にコレを断ったら俺空気読めないどころじゃ無くない?

 

 でも個人的には乗せたくねぇなぁ。

 俺あの時のむかついたのまだ覚えてるんだよな。

 だからちょいと渋って見せていたんだが―――

 

 

「艦長、乗せて上げましょうよ」

 

「ユピ?――だけど」

 

 

 俺の後ろに控えていたユピが、珍しく俺に意見を述べて来た。

 彼女は懇願の眼差しを向けるファルネリさんを見た後、俺の方をむく。

 ユピの瞳には、同情した光が浮かんでいるのが見えた。

 

 

「わたしは人間じゃないからよくわからないですけど・・・だけどこの人、本当に心配してるって事だけは解ります。だから艦長―――」

 

「む、むぅ・・・」

 

 

 どうやら、ユピはファルネリさんを乗せることに賛成らしい。

 う゛・・ユ、ユピ!そんな純粋な瞳でけがれちまったオイラを見ないでくれぇっ!

 俺のガラスのハートがブロークンしちまうぜ!!

 

 

「じー・・・」

 

「むぅ」

 

「じー・・・」

 

「う、うぐぅ」

 

「じーー・・・」

 

「わ、解ったッス。だからその純粋な眼でオイラを見んといてくれッス」

 

 

 ま、負けた。つーかウルウルとした純粋な眼で見ないでほしい。

 すっごく汚れちまった俺には、まぶし過ぎらぁ。

 

 

「はぁ、てな訳で、貴方を乗船させることを許可します。期間はキャロ嬢が無事に戻るまでで良いッスか?」

 

「ありがとう艦長!少しは役に立つつもりよ」

 

「まぁ配属先については後で決めましょう。一時的とはいえようこそネルネさん。我が白鯨艦隊に」

 

「ファルネリでかまわないわ。あと敬語とさんもいらない。キャロお嬢様を救出するまでとはいえ、このフネのクルーとなるのだから」

 

「・・・了解、いや解ったよファルネリさん。まぁこのフネを一時の家だと思ってくつろいでくれッス」

 

 

 こうして、新たな仲間を加えることになった白鯨艦隊は、補給品を詰み終えてポフューラを出港した。

 当然、新しく仲間になった彼女はクルー達に紹介され、他にも補充されたクルー達と一緒に歓迎会という名の宴会へと強制参加させられた為、このフネの流儀を一晩で理解したと後で語っていた。

 

 ちなみに彼女、ルーべやトスカ姐さん程じゃないが酒豪だった。

 なんでも会長秘書の嗜みらしい・・・秘書をやる人間はお酒に強いのだろうか?

 歓迎会で酔いつぶされた男どもが医務室に搬送されるのを涼しい顔して見てたけどな。 

 

 

 

 ・・・・酒豪ってよりかはザルか。

なんかこの世界の女性って酒に強いのだと改めて思った一日であった。

 

***

 

 

Side三人称

 

 首都惑星ゼーペンスト。

 

バハシュールの領地の首都であるこの星の領主亭というか、宮殿の様にゴテゴテと装飾が為された悪趣味な館において、バハシュールはいつものように享楽的な暮らしをしていた。

 

 

「アーハァ?領内に侵入してきた艦隊がいるって?だったらとっとと所属国家に抗議すれば良いじゃないか、ヴルゴ将軍?」

 

 

 美女を侍らせ片手に酒の入ったグラスを手に、バハシュールは目の前にいる守備隊の総司令官に呑気に声を駆ける。

 

 

「それが、その侵入者は民間人のようなのです。ですから警戒の為本国艦隊の出動許可を頂きたいのですが・・・」

 

 

 ヴルゴと呼ばれた筋骨隆々の男はバハシュールの見せるふまじめなその態度には特に何も見せず報告を続行する。この領主が普段からコレなのは素手に慣れてしまったことなのだ。

 

 

「ハァーン?そんな事したらココの警備が手薄になるじゃないかぁ」

 

「しかし―――」

 

 

 いつもと違いヴルゴはすこし粘ってみせた。

先代の頃からこの領の防衛隊を率いて、自治領を守っていた彼は今回の不法侵入艦隊に何か直感めいたモノを感じたのだ。

 だがバハシュールは彼の普段とは違う態度には全く気がつかずに適当に合いの手を返す。

 

 

「わかったわかった。とりあえず警備隊には気をつけるように指示をだしておくよ。さぁ行った、行った」

 

「は・・・」

 

 

 もうコレで用は無いと行った感じで手をふり、再び快楽と享楽に興じる自分の領主。

 ヴルゴはその姿に何処かあきらめにも似た光りを眼にともしつつ、その場を後にした。

 一体どこで教育を間違えてしまったのだろうか・・・今更か。

 溜息を吐きつつも彼はもしや来るかもしれない自治領の脅威を考えずにはいられなかった。

 

 

Sideout

 

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

「エネルギーブリッド、目標に命中まで後10秒――5,4,3,2,1、命中します」

 

「敵航宙母艦の撃沈を確認、敵残存戦力をトランプ隊が撃破、作戦フェイズ最終段階です」

 

 

 ゼーペンスト領に入りかれこれ一週間、適当に現れる警備隊は全て撃沈している。

 そして現在、俺達はアクティブレーダーもパッシブも全開でゆっくり航行していた。

 ステルスモードを使わずあえてこうしているのは、敵の戦力をもぐためだ。

 

 自治領にある戦力がどれほどだろうが、全部を同時にってのは今のフネでは無理。

 だが、こまごまと今はまだ分散している警備艦隊を完膚なきまでに堕とす。

 最悪かなりの艦隊が来てもステルスで逃げられるしな。

 

 

「航宙母艦か・・・近づいちまえばタダの的だよなぁ」

 

「耐久力も低いしな。つーか錬度低いよなこの星系の敵」

 

「ストール!リーフ!喋ってないで仕事しな!給料下げるよ!」

 

「「サーセン副長!」」

 

 

 とはいえ、この星系の艦隊は若干・・・つーかかなり錬度が低い。

 自治領として機能はしているけど、スカーバレル海賊団クラスが現れたら終わりだな。

 ネージリンス系特優の機動部隊も操る人間がダメじゃ豚に真珠か猫に小判。

 むしろその財源を俺達にくれって感じがするゼイ。

 

 

「やれやれ、もう少し手間取るかと思っていたが、案外いけるもんだね」

 

「ま、たったの10隻程度ッスからねぇ。まぁこの分じゃ一度に30程度なら全然ヨ湯みたいッスけど・・・油断は禁物ッスね」

 

「考え過ぎじゃないかい?」

 

「物事は何事も疑ってかかる方が良いんスよ」

 

 

 敵を侮って撃沈されたら今までの苦労がパーだモンな。

 

 

「―――ん~?あら~?これって~~・・・あーやっぱりそうだ~~」

 

「ちょっとエコー?」

 

「あ、ごめんごめん~。艦長~ここからかなり遠いけど誰かが戦闘しているわ~」

 

「戦闘?警備隊と?」

 

「ううん~、センサーの陰りから考えて多分警備隊じゃないとおもう~」

 

 

 大分遠いから、何処の誰だかは解らないけど~、とはエコーの談。

 誰か俺達以外にこの自治領に来ているヤツがいるんだろうか?

 ・・・・早めに確かめておいたほうがいいか。

 

 

「サナダさん、ステルスモードを展開してくれッス。ちょっと確かめに行くッス。偵察用RVF-0も発進、光学映像を中継させるッスよ」

 

「了解した。各艦ステルスモード準備」

 

「偵察用無人RVF-0発進、IPブースター通信でリアルタイム映像を受信します」

 

 

 とりあえずステルスで姿を隠し、付近で戦闘している奴らを見に行く事にした。

 偶々自治領に迷い込んだ海賊の可能性もあるが、まぁ確かめれば解るだろう。

 そして数十分が経過した辺りで、ようやくセンサーで精密探査できる距離に到達した。

 

 

 んで、そこで戦っていたのは誰かっちゅーと―――

 

 

「この反応、あの時の軽巡洋艦です」

 

「・・・・あー、サマラさんに無謀にも一隻で突っ込んで玉砕したアレか」

 

「ユーリ、玉砕していたらここにはいないよ?」

 

 

 光学用モニターに映し出されていたのは、赤と黒の軽巡洋艦だった。

 確か大マゼラン製の巡洋艦で艦種はラーヴィチェ級というヤツ。

 そいつがまた別のフネと交戦しているのだが、その相手はというと・・・マジでヤバい。

 

 

「もう片方は―――データ照合完了、艦種・・・ッ!?」

 

「・・・?ミドリ、どうした?」

 

「す、すみません。艦種識別終了、グランヘイム級です」

 

「・・・・・・・・・・・・・・マジか?」

 

「本気と書いてマジと呼ぶくらいには」

 

 

 グランヘイム級、ソレは大海賊と名高いヴァランタインが所有する海賊船だ。

 伝統的な艦体中央からやや後部に位置するブリッジや三連装砲。

 艦首につけられた軸線反重力砲、通称肺ストリームブラスターを搭載し、艦載機も搭載。

 単艦でなら他に類を見ない程の戦闘能力を備えたフネ自体が暴力の塊ともいえる存在だった。

 

 ある意味ヴァランタインはマゼランにおいてはなまはげの如く恐れられる存在である。

 小さな子供が悪さをしたら、ヴァランタインが来るぞと脅される位に地上の善良な一般市民から恐怖の対象にされているのだ。

 

 そのグランヘイムに巡洋艦で挑むなんて・・・・・。

 

 

「・・・・・あれは自殺志願者なんスかね?」

 

 

 俺がそうこぼした事に誰も返事はしなかったが、心内は同じらしく首をウンウンと振っていた。

 タダでさえ銀河最高のフネと名高い戦艦にレディメイドの巡洋艦が勝てる訳がねぇ。

 あ、後部単装主砲×4と前部三連装砲×3の一斉射撃喰らってら。

 

 

「あれでよく沈まねぇな」

 

「操艦している人間の腕が良いんだろうさ。もっとも火器管制との連携は取れてないみたいだが」

 

「確かに避けるのに必死で反撃が全部違う所に――あ、まぐれ当たりッス」

 

 

 見れば避ける時になんかやけくそ気味にはなった一撃が、グランヘイムの装甲板に当たり霧散していた。やはりグランヘイムの装甲はかなり分厚いみたいだ。

 ・・・・ウチのフネの主砲で貫けるかな?

 

 

「ふーむ、今装甲強度を計算してみたが、流石はグランヘイムと言ったところだろう」

 

「サナダさん、何時の間に・・・」

 

「技術屋としては一度でいいから分解してみたいものだ。同型艦と思われし設計図はあるが、オリジナルとは天と地の差があるようだしな」

 

 

 0Gランク1位の報酬として大分前に貰ったけど、恐れ多すぎて使わなかったヤツだな。

 マッドが解析したけど、確かに強力なフネだったが思っていたよりは普通って感じだった。

 つーか、よく見たら設計図に所々謎の空間と思わしき空白の個所の存在があった。

 多分ボイドゲートフレームだとか、ロストテクノロジーのある部分は意図的に削除されているだろう。

 

 まぁオリジナルのまま強力なフネだったら、今頃航路は大変なことになってるだろうしな。

 グランヘイムがずらりとひしめく海賊団・・・・怖すぎるぞオイ。

 

 

「どうするよユーリ?助けるかい?」

 

「いや助けるって言われてもねぇ?」

 

 

 アレに関わるのはちょっと勘弁とか考えていたら―――

 

 

「あ!グランヘイムが第2射を――流れ弾がこちらに!?回避間に合いません!!」

 

「「げぇ!?」」

 

 

 はたして本当に流れ弾だったのか、はたまた狙われたのかは不明だ。

 だが、偶々密集形態で航行していたのがあだになり、回避運動が取れない。

 

このまま傍観していようと思った矢先にコレだ。つーかどんだけ射程長いんだよ!

普通の戦艦だったらこの距離で届くことなんてあり得んぞ。

 ――ってそんなこと考えている場合じゃない!

 

 

「ステルスモード緊急解除!APFS全力稼働!デフレクター出力最大ッス!」

 

「こっちの存在がバレるよ!?」

 

「暗黒物質になって死ぬのと見つかってから逃げるのとどっちが良いッスか!」

 

 

 ステルスモード使用中は極端にフネのシールドが薄くなってしまう。

 ソレは敵から探知されない様に最低限デブリ対策の分しか稼働させないからだ。

 だが、センサーで捉えられるか否かの距離に普通に届く程の弾だ。

 その威力はかなりのモノであることは容易に推測できるぜ。

 

 

「着弾まで後3秒、耐ショックを!」

 

≪ズズーーーーーーーンッ!!!!!!≫

 

「「「ぐあっ!」」」

 

 

 凄まじい衝撃がフネを揺らす、流石は大海賊ヴァランタインの乗艦、パワーが半端ねぇ。

 とはいえ、どうやらデフレクターで相殺出来た様だ。

 

 

「ふむ、成程、あの三連装砲のロングバレルがリフレクションレーザーの収束レンズと同じ役割を果たす訳か、そして指向性を持たせた長距離攻撃に威力を発揮できる・・・てっきりイミテーションかと思っていれば、イヤなかなか理にかなっている」

 

 

 そしてサナダさんは冷静に分析した結果を話し続けている。

 撃沈の可能性もある中で解析かい・・・ある意味スゲェよあんた。

 

 

「――ふぅ、被害報告は?」

 

「着弾したのは本艦のみ、ソレもデフレクターで防げましたのでダメージは0です」

 

「おまけに今の攻撃でグランヘイムの砲の威力の測定が出来た。もし戦う事になっても大分参考になる」

 

 

 そいつは良かったね。だけどね?ぼくたち見つかっちゃったんだお。

 下手すると三つ巴の闘いになるお。損害が馬鹿にならなさそうなんだお。

 是非ともオイラとしては逃げたい一心なんだおッ!

 

 と、内心情けないことを考えているのだが、艦長という役職上表には出せない。

 さて、どうしたもんかなと考えていると―――

 

 

「・・・・グランヘイム、後退していきます」

 

「うっとおしくなっただけだろうが・・・素直に後退してくれて助かったね」

 

「・・・・見逃してもらえたって事か≪ヴィー≫ん?巡洋艦から通信スか?」

 

 

 どうやらまた“一言”もの申したいらしいな。

 さて、耳栓を準備しまして、さーこい。

 

 

『オイッ!!テメェら何邪魔してくれてんだ・・・ってまたお前たちか!!』

 

「――っ~~」

 

 

 ・・・・耳栓用意してたのに、耳がイテェ。

 

 

『あん?人が話してる時に何うずくまってやがる?』

 

「・・・スマン、何でも無い。こちら白鯨艦隊のユーリだ。随分としてやられたみたいだな」

 

『ぬぁんだとぉ!?わかった様な口きいてくれるじゃねぇかっ!!お前ヤツと戦った事があるとでも言うのかよ!』

 

「手を出すも出さないも、さっき飛んできた流れ弾だけで、こちらが勝てないと思わされたよ」

 

『・・・ッ。チッ、今度は俺の邪魔≪ドーン!≫――なっ!?どうした?』

 

 

 あやや?なんか通信回線の向うで爆発音が聞こえたんだが?

 

 

『若!不味いです!さっきの戦闘でかなりやられてしまって!!』

 

『あん?だったらすぐ修理すればいいじゃねぇか!最近だらしねぇな』

 

「どうかしたのか?なんかトラブルっぽいが?」

 

『テメェにゃ関係『あ!そこの方!出来れば助けてほしいです!』あ、こんにゃろ!!』

 

 

 俺に悪態を突こうとした青年艦長を押しのけて、副官らしき男が割り込んできた。

 かなり必死そうだったので、俺は頷いて見せて続きを促す。

 

 

『よ、よかったぁ~、実は先の戦闘でオキシジェン・ジェネレーターが破壊されまして・・・それと装甲板の修理素材も底を付いていまして・・・』

 

『な!テメェ!この間ちゃんと補給しとけって言ったじゃねぇか!』

 

『その補給量を上回る形で戦闘ばっかりしたのは誰ですか!さっきだって向うが後退してくれなかったらどうなって!』

 

『チゲェぞ?後退していったじゃなくて後退させたんだ。流石は俺、最強の宇宙の男だぜ』

 

『「・・・・・・・・」』

 

 

 あれ?何でだろう?凄く眼がしらが熱くなってきたぞ?

なんかアホの子が目の前に居るよ?青年の主張にとなりの副官さんが妙に煤けてるぜ。

流石にもう突っ込む気力も無いらしく“燃え尽きちまった・・真っ白にな”って感じだな。

 ・・・ふむ。

 

 

「よろしければ、こちらで補給や応急修理を請け負いますが?」

 

『施しは『<――ガバッ>!本当ですか!?あ、ありがたい!』だからテメェは回線に割り込むな!』

 

「いや、とりあえず君は自艦の様子を見てから考えた方がいいと思うぞ?」

 

 

 正直、彼のフネは何で撃沈されて無いのか不思議なくらいの状態で航行していた。

 装甲板は至るところがそげ落ち、内部機構が露出している個所も見受けられる。

 武装という武装は破壊されるかひんまがっており、とてもじゃないが継戦は不可能だろう。

 しかも外から見て解るくらいに空気漏れが発生しており、EVAと思わしき人間がパテを片手に穴を塞ぐ作業を行っている。

 

 ――――簡単に言っちまえば、穴だらけのチーズと行った感じか。

 

 

「それと、航海者の最低限のマナーとして困っている人間を助けるのは当然の事だ。

現にヤバいだろう?ココから一番近い惑星までは飛ばしてもおよそ1日掛かる。

見た所エンジンも損傷しているそちらのフネが、オキシジェン・ジェネレーターも無しで辿りつけるのか?」

 

『・・・グッ』

 

「・・・・解っては貰えたみたいだな。すぐに艦を向かわせるぞ?」

 

『あ、ありがとうございます!本当に助かります!』

 

『ケッ』

 

 

 まったく、ここまで突っ張られるとむしろすがすがしいな。

 副官さんはもう首が取れそうなくらいにブンブンと頭下げてるし・・・。

 苦労してそうだなぁ。

 

 

「ってな訳で聞いた通りッス」

 

「あいよ。トーロ聞いてたね?アバリスの修理機能使うから準備しな」

 

『了解、整備班の到着を待って修理機能を作動させるぜ』

 

 

 こうして俺はこの後も何度も出会う羽目になるくされ縁の野郎と合う事になった。  

 本当にくされ縁になるんだよなぁ。しかし思ってたよりも⑨・・・もといアホの子だった。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

『よーし、誘導レーザーで捉えた。トラクタービームで固定完了。修理を開始するぜ』

 

『こちらアコー、エアチューブの接続を確認、補給品を送るよ』

 

 

 ボロボロでボンボン煙を吐き出していた巡洋艦のすぐ横に停泊し、補給を修理を行う。

 いやはや、まさか戦闘用に多めに持ってきた補給品をここで使う羽目になろうとはね。

 

 

「艦長、彼のフネの副官さんからの補給して欲しいモノのリストです」

 

「ん、あんがとユピ」

 

 

 とりあえず向うが指定してきた補給品のリストに眼を通す。

 本当にどれだけ戦闘を重ねればコレだけ消耗するのかってくらいの量だ。

 つーか予想以上に医薬品とかの補充が多いな・・・ふむ。

 

 

「ユピ、ちょっと向うに通信入れて?」

 

「了解・・・・つながりました」

 

「ありがと。ちょっとお聞きしたい事があるのですがよろしいですか?」

 

 

 俺が話しかけると、相変わらずあの副官さんがおどおどとした感じで通信に出た。

 いや、幾らなんでもおどおどし過ぎだろう。流石にこっちも引くぞ?

 

 

『あ、はぁ、なんでしょう?』

 

「補給品のリストに眼を通したんですが――」

 

『ああ!やはり要求が多すぎましたか!?』

 

「いえ、ウチのフネは過分に持ち歩いていたんで問題はありません」

 

 

 とはいえ、これ程多く欲しいと言われるとは予想外だったがな。

 補給品に関しては後でステーションで補充できるからいいんだ。

 だがそれよりも―――

 

 

「それよりも、もしかしてかなりの怪我人が出ているのではありませんか?」

 

『――ッ!お察しの通りです。先の戦闘でかなりのクルーが・・・』

 

「ふむ、なら我が艦の医療班も派遣しましょう。助けておいて途中で力尽きて漂流されても後味が悪いですからね」

 

『かさねがさね申し訳ありません』

 

「こちらが助けると言った以上、コレもソレの内に入るから問題無しです」

 

『あ、後で若・・・もとい艦長ともどもお礼に上がります!それでは!』

 

 

 そう言って通信は終わった。しっかし別に礼なんていいんだがな。

 こっちがある意味勝手にしている訳だしさ。

 

 

「自由奔放艦長と真面目な副官か・・・胃薬をリストに加えておいてやろう」

 

 

 マッド謹製の超強力タイプだ。多分必要になるだろうしな。

 俺は副官さんの苦労に涙しつつ、仕事へともどった。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 さて、補給と応急修理がある程度終わったあたりで、向うからお客さんがやってきた。

 あの青年艦長とそれを支える副長さんである。お礼に伺う為に乗り込んでくるつもりらしい。

 そんな訳でとりあえず食堂の方に案内し、そこで会う事にした。

 

 

「リス、す、スカンク、く、く・・・クマ、マリ、リス――あ、お手付きか」

 

 

 んで食堂で待っている間1人しりとりして待っていた。

 寂しいヤツとか言うなよ。他の連中は現在作業中で出払ってるからな。

 艦長の仕事にはゲストをお出迎えすると言うのもあるのだ。

 

 ソレはさて置き、食堂の扉が開く音が聞えたので俺はそちらに目を向けた。

 そこにはあの巡洋艦の青年艦長&副官さんが立っていた。

 何やら眼を丸くしている様だったが、このフネのデカさに驚いているんだろうかね?

 

 さて、お客さんも来た訳だし、俺はお出迎えをする事にした。

 だけどつい自重というロックが外れちまったんだ。

 

 

「やぁようこそ我がユピテルの食堂へ、このバーボンはサービスだから安心して欲しい」

 

「「・・・はぁ?」」

 

 

 いっけね、ついついやっちまったぜ☆

 俺の言葉の意味が解らないからか、ただ風が吹く音だけが響くぜ。

はぁだけどこの手のネタが全然通じないのって何か悲しいぜ。

 

 

「コホン、冗談はさて置き、改めてようこそユピテルへ、本艦の艦長兼艦隊司令を務めるユーリです」

 

「お前がこのフネの?」

 

「ど、どうも」

 

「ああ、あまり恐縮しなくても結構です。自分の事はユーリでかまいません。ソレはそうと立ったままもアレですし、どうぞおかけください」

 

 

 俺はイスを指さし、二人に着席するように促す。

 微妙に警戒している様な感じだったが、客としてきている以上指示には従ってくれた。

 相変わらず青年艦長君はふてぶてしい態度のままだけどな。

 しっかし―――

 

 

「ふむ、あれだけフネがやられていたのに、怪我ひとつ無いとは凄いな」

 

「――ッ!おう!その辺の連中とは、鍛え方が違うからな!ヴァランタインだってさっきは逃げちまったが居場所はわかってんだ。次は絶対ブッ潰してやるぜ」

 

 

 なぜ聞いていないことまで話すんだろうかこの男。

 

 

「ちょ、ちょっと若!懲りて無かったんですか!」

 

「あん?懲りるって何がだ?」

 

「・・・・優秀な副官がいて良かったな」

 

「おう!コイツは優秀だぜ!」

 

 

 褒めてねぇよ。

 

 

「しっかしユーリだったか?俺とそんなに歳も違わないのになかなかのもんじゃねぇか」

 

「だから若!失礼ですって!」

 

「オメェはだーってろ。俺はギリアス。バウンゼィのギリアスだ。助けてもらったのは余計な御世話だったが・・・まぁ礼は言っておくゼ」

 

 

 そう言うと恥ずかしそうに頬を掻くギリアスくん。うん、ナイスツンデレ!

 だけどそれを野郎がやっても、ただ気色悪いって事をお忘れなく!!

 

 

「礼は頂いておきますよ。まだ補給と応急修理には時間がありますから、ゆっくりなさってください」

 

「お気づかい感謝いたします!」

 

「おう、あんがとさん」

 

 

 さて、とりあえず対談を行った訳だが、途中でギリアスくんの腹が鳴った。

どうやら戦闘の後食事をとって無かったらしい。

てな訳で丁度食堂にいるってことで、飯を奢る事にした。

 副官さんも怖々としながらもご相伴にあずかることにしたらしい。

 

 ただ、まさかギリアスくんが常人の5~6倍食べるとは予想外だった。

 お前はアレか?フードファイターでも目指すんかい。

 リアルでズゾゾゾゾとか音たてて飯を食うヤツを見たなんて初めてだぞ。

 

 

「はっは、よく食べますな」

 

「お、おはずかしい」

 

「いえいえ、食材は十分にありますから」

 

 

 自家栽培もしてるしな。数千人の胃袋を支えているフネの食堂なんだ。食材は尽きない。

 

 

「――ングングングング・・・ぶはー!コレあと6人前!」

 

「「まだ食うんかい!?」」

 

「あん?腹減ってるしユーリのおごりなんだからいいだろ?」

 

 

 あ、副官さんがまた胸を押さえてら。胃袋が痛くなったのかな?

 つーかギリアス、確かに奢るとは行ったがお前は自重しろ。

 

 

 

「ところで、以前もたしかサマラ海賊団とかと戦ってましたよね」

 

「んー?ああ、そう言えばそんな事もあったな。あのときもお前らが邪魔しなければ」

 

「若」

 

「はは、まぁあの時は俺達も彼女に用がありましたからね。サマラさんを堕とさせる訳には行かなかったんですよ。でも何でまたこんな危険な事ばかり?」

 

「俺は、とにかく速く名をあげなくちゃなんねぇんだよ。それによえーヤツと戦っても面白くねぇじゃねぇか」

 

 

 こりゃなんつーか、とんでもない狂犬だな。当たり構わず噛みつくって感じか。

 俺も一言行ってやろうと思って口を開こうとしたんだが・・・。

 

 

「無茶な戦いはしたらダメだよ。怪我したりするし、何よりクルーの人達が死んじゃったりするんだよ。無茶なことをしないでまずは地道にやることが近道だよ」

 

「ありゃ?チェルシー何時の間に?」

 

「さっき出前が終わって帰ってきたの。そしたらユーリの姿が見えたから・・・」

 

 

 何時の間にかチェルシーが食堂に戻って来ていたらしい。

 偶々聞えたギリアスくんの言葉にちょっと思うところがあったのか声を出したのだ。

 そういや、ギリアスくんはこの娘に惚れるんだっけな・・・。

 

 

「・・・・・」

 

「ちょっと、若」

 

「あ?ああ、一理あるよな」

 

「―――ッ!?若が人の意見に同意を示した!?明日は宇宙乱気流が起きる!?」

 

「・・・テメェ、とりあえず表でろや」

 

 

 おk、お前一目ぼれか・・・大事な妹はわぁたすぁんぞぉぉ(cv若本)

 

 

「・・・で、そんなことより、お前たちこそ、こんなとこで何してんだ?このゼーペンストは結構ヤバいところだぜ?」

 

「まぁ、それなりに目的があってね」

 

「ほう、何やるつもりなんだ?一応お前には借りがあるから、手伝えるなら手伝うぜ?」

 

「言っても良いけど行ったらキミは多分引くと思いますよ?」

 

「は!俺がか?んなの聞いて見てからじゃねぇと解んねぇよ」

 

 

 まぁ確かに・・・別に隠している事じゃないからいいか。

 

 

「まぁ簡単にいえば、この自治領を潰します」

 

「はぁ!?つーことはあれか?バハシュールを殺るだってぇ!?」

 

「~~~~!!つー、ギリアス、君は声がデカイよ・・・」

 

「あ、すまねぇ」

 

 

 くそ、不意打ち気味でドデカイ声を生で聞いちまった。

 通信機で聞いた比じゃねぇな、頭がクワンクワンするぜ。

 

 

「「うう~~ん・・・(パタ)」」

 

 

 ――って副官さんとチェルシーが気絶した!?

 ギリアス、お前の声は音響兵器かよ・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、話しを戻すけどよ。ソレマジでいってんのか?」

 

「本気さ。出なかったらこんな所まで足は運ばない」

 

 

 気絶したチェルシー達を食堂のイスを並べた即席ベットに寝かせ、話を続ける俺達。

 若干ヤツの視線が気絶したチェルシーの方を見ているのに気が付いてニヤニヤしていたのは俺だけの秘密だ。若いってええのう。

 

 

「ふぅん・・・・・おもしれぇ!俺もいっちょカマさせてもらおうか!」

 

「・・・マジで言ってるのか?」

 

「俺は何時だってマジで全力だぜぇ。それに一国の艦隊とやり合おうってのが気に入った!」

 

「・・・・ま、いいか。そんじゃ手伝ってもらうッスか」

 

「あん?話し方が変わったなオイ?そっちが地か?」

 

「手伝ってくれるって事は一時的でも同志、なら別に猫かぶらなくても良いッスよ」

 

「ますます気にいったぜ!で、俺は何をすればいい?」

 

 

 こうして俺は彼の協力を得ることに成功する。

 やってもらう事は簡単だ、俺達と戦うバハシュールに“第3者”を乱入させるだけ。

 上手くすれば、奴さん等の戦力を大分そげるって訳だ。

 元々はイネスが考える筈の案だけど、使えるから使わせてもらうZE!

 

***

 

Side三人称

 

 

――ゼーペンスト領防衛艦隊駐屯ステーション――

 

 

「将軍!正体不明艦隊が航路を本国に向けて真っ直ぐ進んできます!」

 

「なんだと!」

 

「偵察衛星網に移りました。計算上このままの速度を維持されると、およそ40時間後に本国に到達します!」

 

 

 ここはゼーペンストからほど近い最終防衛圏にある本国防衛艦隊駐屯宇宙基地。

 基地の執務室の一角で本国防衛艦隊司令のヴルゴ・べズンは報告を聞き驚愕した。

 以前から微妙に警備隊を撃破していることは報告に上がっていたのだが―――

 

 

「(何故、急に本国に?まさか何か切り札でも使うつもりなのか?)」

 

 

 参謀陣営の予想ではもっと後になって本国へと来ると思われていた。

 だが、ここまで急激に進撃を進めてくるとは何かがある。

 彼の指揮官としての勘が警鐘を鳴らしているが、何をしてくるのか予想が付かない。

 

 

「将軍!」

 

「――ッ!本国防衛艦隊を全て発進!敵の迎撃に当たらせろ。嫌な予感がする。こちらも旗艦で出るぞ」

 

「了解しました!」

 

 

 執務室を走り去っていく部下の後ろ姿を追いながら、ヴルゴは執務室を出た。

 ゼーペンスト本国防衛艦隊の旗艦を出す為、自分の乗艦へと急いでいるのである。

また歩きながらも各所に設けられた端末から艦隊全体へと指示を出し、更に足を速めた。

 

 

≪ピーッ!ピーッ!≫

 

「どうした?何か問題が起きたか?」

 

 

 乗艦まで後少しと言ったところで彼の通信機に通信が入る。

 彼は早足を続けながら通信機を取り出すと通信に出た。

すると通信機の向う側から若干焦った感じの部下の声が聞こえてくる。

 声から察するに何かが起こったなと彼は感じた。

 

 

『将軍、敵艦隊が哨戒艦隊と交戦を開始しました!』

 

「随分と早いな。敵はどうなった?」

 

『哨戒艦隊は全ての艦載機が落されました。ですが艦隊自体は無事です!敵はどうも攻撃しては逃げてを繰り返しているようであります』

 

 

 どういう事だろうか?戦力的には哨戒の艦隊は国境付近の警備艦隊と規模は変わらない。

 普通なら撃破できてしまう戦力を持つのに、何故後退していく必要があるのだ?

 ヴルゴはどう考えても不審な動きを見せる敵に不気味さを隠せない。

 だが、かと言って指示を出さない訳にもいかないので、通信機を使い指示を送った。

 

 

「解ったこちらも急ぐ。私が旗艦に乗り込み次第、艦隊を順次発進させる。それまでは第4支隊を哨戒艦隊の残存艦隊と合流させて様子見だ」

 

『了解!』

 

 

 ココで正体不明艦隊は落さなければならない。彼の中の勘はそう警鐘を鳴らし続けている。

そうしないとゼーペンストが終わると・・・そう告げる声。

 とにかく急いでこの自治領を乱す不届きな輩を排除しなければ。

 彼はそう思いつつ、自らの乗艦へと乗り込みステーションを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

さて、ヴルゴがステーションを発ったのと同時刻。

ゼーペンスト領首都惑星にあるバハシュールの城の中で、バハシュールは正体不明艦隊が攻撃を受けたことを部下から知らされていた。

 

 

「アーハン?正体不明艦隊の攻撃を受けたって?」

 

「は!現在第4支隊に迎撃を命じましたが、まだ撃沈の確認はありません」

 

 

「シット!ヴルゴ将軍を呼び出せ!」

 

「ハッ!」

 

 

 バハシュールはヴルゴを呼び出すように部下に指示を出す。

部下は言われた通りに出撃しているフネに通信を繋ぎヴルゴを呼び出していた。

 しばらくしてバハシュールの部屋の空間投影モニターにヴルゴの姿が映し出された。

 

 

『バハシュール閣下、お呼びで』

 

「何をしているんだ将軍。さっさと全艦隊で侵入者をもみつぶせ!」

 

 

 バハシュールは気分屋である。どうでもいいと言っておきながら、ソレを突然に覆す。

 今回の正体不明艦隊による襲撃は以前から報告がなされてはいた。

 だが彼の脳みそはそんな事を1μも覚えてはいなかった。

 その事を知っていたヴルゴは通信の向うで内心溜息を吐きながらも落ち着いて言葉を紡ぐ。

 

 

『ソレは危険です閣下、敵は不審な動きを―――』

 

「フンンンン!!この僕が“ヤレ”と言ってるんだ!すぐに本国艦隊全艦を出せ!!」

 

『・・・・・はっ』

 

 

 だが、既に興奮状態のバハシュールはヴルゴの忠言何ぞ聞きやしない。

 甘やかされて育ったが故に、己の言葉こそ全てにおいて優先されると考えているのだ。

 気分的に群がる蠅をブチ殺したかった彼はわめくように将軍に全軍出撃の命令を下す。

 

 そんな気分屋でも上司は上司、真面目なヴルゴは従うしか無く、全軍発進を決めた。 

だが、やはり本国の防衛が心配であった為、自分を含めた親衛隊だけは残しておくことにした。

しかし、それ以外は全艦出撃というゼーペンスト誕生以来初めての事態だった。

ソレがまさか、あんな事態になろうとは、この時の彼は考えても居なかったのだった。

 

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

「敵艦隊の本体が移動を開始しました。本艦に向けて追撃を開始」

 

「よし!ユーリ、敵の本隊が動きだしたよ」

 

「そッスねイネス。ほんだば、一丁釣ってやろうか。リーフ!」

 

「了解、針路をクェス宙域へと向けるぜ。ゆっくりでな」

 

 

 付かず離れずの距離を保ちつつも白鯨艦隊は航路を奔るってな。

 さてさて、ウマい事敵の本隊をおびき出すことに成功したらしい。

 ま、原作をやっていて知っていたからこそ出来る芸当何だがね。

 

 つーかまさかマジで全艦隊を導入してくるとか・・・領主は本当にアホなんじゃねぇか?

 普通なら本拠地を守る艦隊の一つや二つくらい残しておくもんだろう。

 

 

「相手がバカで助かったね。これなら面白い事になるだろうさ」

 

「で、でも、既に敵の数が50を超えてますよ?」

 

「まぁゼーペンストの本国艦隊は70隻だから8割が付いて来てるって感じッスか」

 

「他は旧式艦らしいね。最新鋭艦はなんとか追随している様だが・・・」

 

 

 流石にユピテルのスピードに追い付けねぇか。

 まぁウチのフネはかなりの大改修が行われているからな。

 相応に金を掛けているんだし、簡単に追い付かれたらオラ泣くど。

 

 

「クェス宙域に到達、敵追撃艦隊接近中!」

 

「ギリアスは!」

 

「確認出来ませ~ン!ってあら~?」

 

「どうした!」

 

「なんか~所属不明艦がー接近ちゅ――あっ、撃ったー」

 

 

 ギリアスはまだ来ていなかったのだが、エコーさんは間延びした声によって報告が入った。

 所属不明艦が唐突に追撃艦隊に攻撃を仕掛けているらしい。 

 モニターで見るとカルバライヤ系の巡洋艦・・・あーっと?誰だ?

 

 

「所属不明艦より電文、“こちらバリオ 白鯨艦隊を 援護する”以上です」

 

「・・・・・何で電文?」

 

「通信入れるヒマが無いからじゃないかい?ホラ」

 

 

 見れば単艦で艦隊に挑んでちょっとヤバげなバリオ艦の姿が・・・。

 おいおい熱血漢なのはいいけど、いきなり来て沈まねぇでくれよ。

 

 

「さて、それじゃギリアスが来るまで耐えるとするッスかね」

 

「だな。全艦第一級戦闘配備!コンディションレッド発令!」

 

「了解、全艦第一級戦闘配備、コンディションレッド発令します」

 

 

 フネの内部が慌しくなる。と言っても今回は積極的攻勢には撃って出ない。

 必要なのは敵艦隊を一定時間この場にしばりつけておくことなのだ。

 なのでほぼやることは飛んでくる敵艦載機を撃ち落とす程度である。

 敵はこちらが防御に移行したのを見て、勝機と思ったのか集団で突っ込んできた。

 

 

≪ズズーン・・・≫

 

「デフレクターに直撃弾、展開率90%、問題無く稼働します」

 

「もうそろそろ来ないッスか「大出力インフラトン反応を確認~」・・来たッスね」

 

 

 突然現れた大出力のインフラトン反応に驚いているのだろう。

 敵艦隊の機動が若干乱れている。まぁソレもそうだ。

 何せ今連中の眼に写っている光景は、通常じゃ絶対に有り得ないモノだからだ。

 

 

 

 

『はっはー!!ヴァランタインのつり出しに成功したZEーーー!』≪ズガーン≫

 

 

 

 そしてこれまた唐突に通信に入る音響兵器・・・ギリアスが到着したのだ。

 それもヴァランタインという“最高の敵役”を引き連れて・・・。

 種を明かせば簡単だ。ギリアスのフネのバウンゼイには特殊なレーダーが搭載されている。

 

 ソレは特定のインフラトン粒子の波長をもった敵を追跡できる便利な代物だった。

 つまりヤツが何故毎回大物と戦えていたのかの理由がそれだ。

 この特殊レーダーで毎回大物がいる場所を探知してケンカ売っていたのである。

 敵側にはたまらない事だろうが、今回はそれが役に立った。

 

 

「ゼーペンスト艦隊、グランヘイムに向けて攻撃開始。両者交戦状態へと入りました」

 

「これは釣れたね」

 

「ウス。今の内に宙域を離脱するッス!狙うはバハシュールの首!バリオさん達にも連絡を!」

 

「「「「アイアイサー!」」」」

 

 

 つまりは“敵の敵は味方?イヤイヤやっぱ敵でっせ奥さん・・って奥さんって誰やねん”作戦だ。

 俺達だけでは流石に戦力としては不足、なら戦力を持ってくればいい。

 ソレは何も味方である必要なんて無いのだ。第3勢力の存在。ソレらに相手をさせれば良い。

 そしてその第3勢力とは、現在ゼーペンスト艦隊を蹂躙中のグランヘイムだったのだ!

 丁度良い時に大海賊ヴァランタインがいてくれたってモンよ!

 

 

「グランヘイム、敵艦隊の2割を撃破」

 

「すげぇな、まだ一時間も経ってねぇよ」

 

「・・・・単艦で全滅させられるんじゃねぇか?」

 

「というよりかは、なんじゃか敵が哀れじゃのう」

 

「「「「確かに」」」」

 

 

 トクガワさんの言葉に思わず全員がそう頷いてしまう。

 何せ現在背後の宙域では火線が飛び交い火球が至るところで発生している映像が写っている。

 しかもソレはグランヘイムという単艦が引き起こしているのだ。

 ありゃ確かに暴力の塊って言葉が一番似合うだろうなぁ。

 

 とにかく今は丸裸同然の首都惑星へと針路を向けた。

 あの大艦隊と戦わずに済んだのはある意味嬉しい。戦ってたら絶対赤字だ。

 

 さぁ待っていろバハシュール、テメェの御殿にあるお宝は俺のゲフンゲフン。

 もとい奴隷とかは全員解放させてもらうぜ!

 

 これまで良い思いしたんだ、もう十分だろう・・・ってカッコいいな俺!

 微妙に脳内でハイテンションになりながら、艦を進める俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ゼーペンスト領の最終防衛ラインも敵艦がいなかった為難なく突破した。

 後は惑星アイナスを越えれば、その先は障害も無く首都惑星ゼーペンストに到着できる。

 俺達が首都惑星に着くまでに追い付ける艦隊は多分もういないだろうさ。

 グランヘイムが全部食っちまったからなぁ!

 

 

「さてさて、ココまで来ればもう首都惑星は一息ッスね」

 

「しっかし自分で戦わないでヴァランタインに相手をさせるとはねー」

 

「真正面がダメなら地の利を生かせって感じッスかね。まぁ偉そうなことはいえんのですが」

 

 

 今回は偶々近くにヴァランタインがいて、ソレを釣れるギリアスくんがいたお陰なんだ。

 俺のもつ薄れゆく原作知識もあったからなんとかなったけど、この先どうなるかなー。

 

 

「惑星アイナスをスウィング・バイで通過しま――インフラトンパターン確認、敵です」

 

 

 惑星の軌道上を通過していると、惑星の影から敵の艦隊の姿が現れた。

 どうやら惑星の影に隠れていたらしい。影になって見えていなかったのだ。

 よくある古典的な策敵防御法であるが、技術革新が進んだ今でも通用する。

 こいつぁもしかすると・・・・。

 

 

「コイツは・・・・強敵かもしれないッス」

 

「だろうね。大方あれは親衛隊って所かい」

 

「敵は空母を中心とした機動艦隊、数は21です艦長」

 

 

 ユピの報告を聞きつつも光学映像から目を離さない。

 艦隊の動きが非常にスムーズだ。成程、確かに親衛隊なのかもしれないな。

 

 

「敵艦インフラトン出力上昇、戦闘出力に入ります」

 

「やる気満々か・・・なら押し通るだけッス!各艦対艦、対空戦闘用意!」

 

 

 とにかく全艦戦闘配備を通達し、これから始まるであろう戦闘に備えさせる。

 フネの隔壁を閉鎖し、ジェネレーター出力を戦闘臨界にまで上げて置くのだ。

 それと―――

 

 

「ギリアス、聞えてるッスか?」

 

『おう、聞えてるぜ』

 

「とりあえず左翼の5隻は任せたいんスが」

 

『あいよ。任しときな。引き受けてやるぜ』

 

『俺も参加しよう。右翼の5隻をやる、君は中央を頼む』

 

「バリオさんもお気をつけて」

 

 

 とりあえず連れて来ていたギリアスくんやバリオさんにも協力要請。

 仕えるもんは何でも使うのじゃ。敵の方が少ないからって油断したらいけない。

 この世界じゃ少数でも敵を打ち破れることを、俺達自身が証明しているからな。

 

 いやまぁ本当なら戦闘を避けたいのは山々何スがね。

 背後にはまだヴァランタインがいるんだよなぁ。

 

 多分俺らが囮にしたって事くらい理解しちゃってるだろうし・・・。

 今反転してあの宙域に戻ったら確実にBADENDなんだ。

 

 ある意味前門の虎後門の狼な状況。あれ?前門の狼後門の虎だっけ?

 と、とにかく戻ったらヤバいって事なのだ!

 

 

「トランプ隊、進路クリア。発進どうぞ」

 

『こちらププロネン機、トランプ隊全機、発進する』

 

 

 全編隊発進の為、カタパルトを使用せず複数の機体が同時に発進していく。

 十数機纏めて艦載機が発進していく光景はどこか頼もしく感じられるゼ。

 そして先に出た艦載機達を追う形で、VB-6 編隊も次々と発進する。

 

 ガザンさんが指揮する部隊で、打撃力なら戦艦を超えるかもしれない部隊だ。

 弾頭は当然、通常に非ずってな・・・巻き込まれない様にしとかねぇと・・・。

 

 

「敵艦隊接近、数は11、本艦の射程まで残り120秒」

 

「全砲門開け、ファイアロック解除、FCSコンタクトッスよストール」

 

「アイサー、FCS開きます。CICとリンク。ユピ、無人艦隊を調整してユピテルの射線を確保してくれ。護衛艦隊と挟唆攻撃が出来るようにな」

 

「了解です」

 

 

 ユピが無人艦隊に指示を送り、護衛無人艦隊の陣形に変化が現れる。

 火線が味方に被らない様に、さりとて攻撃は届くように展開していった。

 十字砲火(クロスファイア)が可能になるように、艦隊の位置を調整しているのである。

 

要はさ?単艦の火力だとたかが知れているけど・・・あ、グランヘイムは除くぜ?

 あれは最凶のフネだから、単艦でも艦隊とやりあえるからな。

 話しがズレたけど、護衛無人駆逐艦隊の単艦の火力だとあまり効果は上げられない。

 

 だけど複数の駆逐艦の火力を一隻に集中させてやればあら不思議。簡単に撃沈出来るのだ。

 要は弱そうなヤツ一人に目をつけて集団でフクロにしちまうって事だ。エゲツねぇな!

 勿論その逆も有り得るから、しっかりと回避機動取らせないとこっちが堕ちるけどな!

 

 

「HL(ホーミングレーザー)シェキナ、砲門開口します」

 

「発振体展開、エネルギー全段直結を確認。冷却機正常稼働も確認」

 

「・・・・特殊デフレクター、作動に問題無し・・・空間重力レンズ形成、完了したわ」

 

 

 そしてユピテルのファイアロックが外れ、HLシェキナの砲門が開口していく。

 本艦の両サイドにつけられたHL発振体があらわとなり、かすかに光を放っていた。

 デフレクターの重力波ブレードも稼働し、空間重力レンズが形成されていつでも発射出来るぜ。

 

 

「敵空母から艦載機の発進を確認、第一波、VF-0隊、トランプ隊と接敵します」

 

「HL曲斜砲撃、敵のドテっ腹を食い破ってやるッス!他の艦は艦載機部隊の援護を開始ッス」

 

「了解、各艦に通達します」

 

 

 さて、戦闘の火ぶたが切って落とされたと言うべきか。

 ある意味遭遇戦と言うべきか、それとも待ち伏せを受けていたと言うべきなのか。

 ともかくこうして戦闘は開始されたのだった。

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 戦闘が開始されたものの、両者の戦力差はユーリの方が優位であった。

 ゼーペンスト親衛隊は確かにエリートで構成された精強な軍ではある。

 歴戦の戦士たるヴルゴが率いている為、結束も統率も取れている。

 

 だが長い事自分の国に籠り、定期訓練をしていただけの人間とは違い。

 宇宙を放浪し、様々な経験を積んできた0Gドックのユーリ達の方がタフであった。

 最初こそ互角の勝負を見せていた親衛隊も、徐々に押されていく事となる。

 

 

「フリエラ級4番艦ルベン被弾!我、操舵不能を発信し続けています!」

 

「将軍!護衛艦の残りは4隻です!後退の指示を――」

 

「我々が下がってどうする!首都惑星は目と鼻の先なんだぞ!クェス宙域の友軍は?」

 

「・・・だめです。応答がありません」

 

 

 また新たに護衛艦が中破して戦線を離脱していく事にヴルゴは舌打ちする。

 当初は10隻ちかくの護衛艦が追随しており、最初こそ互角ではあった。

 

 

「・・・・敵艦隊の総数は?」

 

「駆逐艦クラスが10隻、巡洋艦クラスが2隻、弩級戦艦クラスが2隻の計14隻です」

 

「落とせたのは5隻、しかも駆逐艦のみか・・・」

 

 

 だが既にヴルゴの親衛隊艦隊は半分が落され、敵の方も5隻沈めたが全て駆逐艦だ。

 戦力の中核を担っている弩級戦艦2隻に目ぼしい損害は全く出ていない。

ソレどころか、いまもまさに弾幕と言うべき砲撃が続いている。

 

 そして恐るべきは敵の弩級戦艦の持つその特殊な兵装だった。

 片方は波長が異なる指向性エネルギービームを乱射出来る砲台。

 もう片方はなんとビームが空間で曲がり、弧を描いて横からビームが命中したのである。

 

 フネは正面の方が装甲が厚く、また当然のことながら被弾面積は少ない。

 だが横になると当然被弾面積は非常に大きくなってしまう上、耐久性も若干下がるのだ。

 しっかし生きている内に、光学兵器がひん曲がる兵器を見ることになろうとは思わなかった。

 ヴルゴはそう考えつつも更なる指示を出そうと思っていたのだが・・・。

 

 

「将軍、全護衛艦が撃沈されました。残りは本艦のみです」

 

「・・・・何と言う事だ・・・他に交戦中の友軍は?」

 

「まだ保っていますが押されています」

 

 

 どうやら既に“詰んだ”状況らしい。

コレ以上何をしても、もはや戦況は覆らないとヴルゴは直感した。

 彼は少し考えた後、部下に指示を出した。

 

 

「よし。友軍艦船に後退を命じろ。それと本艦の操縦をオートにし、乗員を退艦させるのだ」

 

「将軍、ソレは―――」

 

 

 ヴルゴからの指示に戸惑いの表情を見せる部下たち。このタイミングで退艦させ、更に操縦をオートパイロットに設定せよと言われれば何をするのか位理解出来る。

 

 

「私は後退の為の時間を稼ぐ・・・・復唱はどうした!」

 

「は、ハッ!これより本艦はオートパイロットに移行、乗員は退艦します!」

 

「ソレで良い。急がぬか!」

 

「ハッ・・・将軍、どうかご無事で」

 

 

 見ればブリッジにつめる乗組員の殆どが、ヴルゴに対し敬礼を行っていた。

 彼は部下には好かれていたという事なのだろう。

 

 そしてヴルゴに敬礼した乗員達が、退艦命令を受けて次々と席を離れて離脱していく。

内火艇や予備の艦載機に分乗した乗組員たちがフネを離れていくのが見えた。

ソレを見ながら誰も居なくなったブリッジの中で、ヴルゴは一人艦長席に深く腰掛けた。

 

 

「・・・フン、先代に受けた恩をボンクラの2代目に返す・・・我ながら詰らん人生よ」

 

≪オートパイロットモード、起動シマス≫

 

 

 艦制御コンピューターの無機質な電子音声が流れ、インフラトン機関が出力を上げた。

エンジンの音を聞きながら、出力を全開にして単艦で突撃をかける。

 ヴルゴは艦長席からFCSにダイレクトにコントロールを繋ぎ戦闘を再開させた。

 

 

 

 ――――自分は軍人、ならば軍人としての使命を全うするのみよッ!!

 

 

 

 一方その頃ユピテルの方では突然加速を始めたヴルゴ艦を探知していた。

 

 

「え、ええ~!空母が単艦で突っ込んできます~!」

 

「な!バンザイアタックか!?」

 

 

 バンザイアタック、ソレは敵に自分のフネごと体当たりを咬ます特攻の事だ。

 空母は耐久力はそれ程でもないが、艦載機を詰め込む為その質量は他のフネよりも大きい。

 そして迫るブルゴ艦はドゥガーチ級と呼ばれる全長680mの大型空母である。

 

もし特攻なら弩級戦艦クラスのユピテルやアバリスでも大破しかねないだろう。

 だが、敵は特攻では断じてなかった。

 

 

「敵艦砲撃を開始、S級近衛艦被弾、損害軽微」

 

「まさか単艦で艦隊に挑むつもりッスか?!しかも空母が!」

 

「・・・・負けだとわかっていても、引けないって事だろうね」

 

 

 無人のS級近衛駆逐艦がそれぞれ砲撃を開始する。

S級が搭載している近接防衛のエステバリス隊も発進して空母を取り囲んだ。

 空母は対空クラスターミサイルと小型レーザー砲を使って吶喊してくる。

 その命を散らすかのような最後の咆哮に白鯨艦隊の人間は驚愕していた。

 

 だが、所詮空母は空母、対艦戦闘を行えるようには設計されていない。

 むき出しのエンジン区画にエステバリスの持つレールガンが命中した。

 電磁カタパルトのレール部分は既に艦隊からの砲撃で吹き飛んでいる。

 それでもなお、後退も撤退もせず、逃げていく友軍を守るかのように立ちふさがる。

 

 まるで古の源義経を守ろうとした弁慶の如く、白鯨艦隊を足止めしていた。

 だが、それでもたった一隻で敵う筈も無い。

 

 

「敵空母に直撃弾、インフラトン機関が完全に停止しました」

 

 

 エンジン部分を吹き飛ばされてもエンジンブロックを切り離して戦い続けた空母。

 しかしエンジンが無ければフネを満足に動かすことは出来ない。

 そして弱まったシールドを貫通し、完全に航行機能を失い停止した。

もはや動くことのない空母は、タダそこにあるだけとなったのだった。

 

 

Sideout

 

***

 

 

 ふひぃ~、まさか最後の最後に突撃してくる人間がいるなんてなぁ。

 てっきり国境警備隊の連中に錬度の無さに、根性のある人間はいないと思っていたけど。

 いやはや中々どうして、凄まじい根性というか執念だったな。

 

 

「敵残存艦、宙域を離脱していきます」

 

「・・・ウス、それじゃ生存者の救助をしたら即行くッスか」

 

 

 流石に敵だったとはいえ放置ってのは寝覚めが悪すぎる。

 戦闘が終わったら人類みな兄弟だお。

 ってなわけで、とりあえず漂流している人をかき集めることにした。

 そう言えば――

 

 

「あの最後に突っ込んできた空母も調べておいたほうが良いッスかね?」

 

「まぁ前例がある事だし、誰か生きているかもねぇ」

 

 

 

 ちなみに前例とは、カルバライヤのグアッシュ海賊団のダタラッチの事である。

 あいつはフネが撃沈されたのに普通に生きていたある意味幸運なヤツだ。

 例えフネが爆発しても隔壁をキチンと閉じていると生き残っている事もありうるって証明だな。

 

 そんな訳で、空母の方も探索させてみたんだが―――

 

 

『艦長、こちらEVA探索班のルーイン。生存者がいたぞ』

 

 

 まさかマジで生存者がいるとは・・・予想外デス。

 

 

『艦長、唯一の生存者を連れて来ましたぜ』

 

「ああ、お疲れ様ッスルーインさん。休んで貰ってもいいッス。で、生存者は?」

 

『旗艦だろう空母のブリッジで倒れていました。恐らくは―――』

 

「敵の艦長か、はたまた艦隊指揮官かってところだねぇ・・・そいつは何処に?」

 

『怪我がヒデェんで医務室に放り込んでまさぁ。助かるかは五分五分ってところでして』

 

 

 成程、殿になり我が身を盾にして、艦隊が全滅するのを防いだのか・・。

 なんてカッコいい!気にいったぜ!

 

 

「気にいったッス。医務室のスタッフに全力で直してくれって伝えてくれッス」

 

『アイサー艦長、ちょうど近くに居るから伝えといてやるよ』

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

 さて、負傷者を救護したその足で首都惑星ゼーペンストへとやってきた。

 防衛艦隊は全て出撃し、先程親衛隊も倒したのだから、とても静かなもんである。

 襲撃の心配はほぼ無いので、悠々と惑星のステーションへと航行していた。

 

 

「お、見てみなユーリ。ここにもデッドゲートがあるよ」

 

「そう言えばアルビナさんの説が正しいと――」

 

「そう、エピタフ遺跡の近くにデッドゲートはあるってことだネ」

 

「む!その特徴的な語尾!教授じゃないッスか、なんか用スか?」

 

 

 俺に気配を悟らせないなんて―――教授、恐ろしい人!(○影先生調)

 さて俺が白眼でフフフと笑っているのを軽くスルーする教授。

 流石に慣れてきてしまったようだ。く、悔しい、でも感じち(ry

 まぁふざけんのはそれくらいにしてっと。話しを聞きますか。

 

 

「で、結局何しに?」

 

「なに、散歩だヨ。戦闘中は開発が出来ないから、微妙にヒマなんだヨ。ソレはさて置きさっきのはなしだけどネ。アルピナくんが最近この宙域でヒッグス粒子の検出回数が上がっていると言っていただろう?あれ、ヴァランタインがこの宙域にいた為ではないかナ?」

 

「ヴァランタインがッスか?なんで――」

 

 

 この時ふと思いだした。そういやヴァランタインもオイラと同じ観測者じゃねぇか。

 なんでこの宙域に居んのかなぁって思ってたけど、そう言う訳だったか。

 

 

「彼もエピタフを良く狙うらしい。ということはエピタフも当然幾つか入手しているだろう。フフ、どうやら彼女の自説は裏付けられてきたようだ。オモチロクなってきたネ」

 

 

 そう教授は言い残すと、エレベーターの方に向かいブリッジから去っていった。

 自分の弟子の説が証明されるってのが嬉しいのかもな。

 教授は変な人ではあるが、一応人間の感情って言うもんを持っている。

 嬉しい事は嬉しいって言えるのは、ある意味良い性格だよな。

 

 

 

 

 さて、惑星に降りる為にステーションへと入ろうとしていると、通信が入ってきた。

 相手はバウンゼイのギリアスから、はて、なんか用だろうか?

 

 

『おい、ユーリ、聞えてやがるか?』

 

「どうかしたッスか?ギリアス」

 

『ちょっとさっきの戦闘でフネの部品が足りなくなった。管理局に問い合わせたんだが、この宙域では扱ってない部品らしくてな・・・』

 

 

 通信の向う側で本当に申し訳なさそうに顔をしかめているギリアスが写る。

 こいつが人をだます様な腹芸が今の段階で出来るとは到底思えん。 

 そう考えると、言っていることは事実って事か・・・。ふむ。

 

 

「あーなら仕方ないッス。いやココまで手伝って貰えただけでもありがたいッスよ」

 

『すまねぇな。最後まで手伝えなくてよ・・・またいつか会おうぜ!それじゃあな!』

 

 

 ギリアスからの通信が切れ、彼の乗艦バウンゼイはインフラトン粒子を靡かせて宙域から離れていく。この時、彼も残っていてくれればあの事態は回避・・・出来なかっただろうなぁ。

 

 


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