【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第三十七章+第三十八章+第三十九章+番外編3

 

―――――遺跡船起動から少しして。

 

 

「・・・・・・・・・知らない天井だ」

 

 

 気絶から覚めて、なんとなくボケを咬ましてみた。

いやまぁ実際はあの遺跡の天井なんですがね。

 ・・・・・いい加減鼻がバカになっちまったぜ。

 

 

「ったく、何が起きたって言うんスか」

 

 

 あの振動の最中気絶して、イスらしきモノから投げ出され、俺は床に倒れていた。

 非常にヘルメットの中身が顔面に付着して気持ちが悪いが、手元に水がない為VFまで戻らんと洗浄出来ない。一度戻らなくてはと思いつつ身体を起す。

 

 

「・・・・・?」

 

 

 ココでふと違和感に気付く。実はさっきの振動でこけた際ヘルメットのライトが壊れた。

 だからこの部屋は、空間パネルの光だけで照らされているだけで薄暗い筈なのだが――――。

 

 

「灯りが・・・点いたッスか?」

 

 

さっきまでこの部屋は埃だらけで真っ暗だったこの部屋は明るくなっていた。

今この部屋の明るさは、普通に太陽の下に居る時くらいの明るさである。

 何つーか、あの溝?アレから光が発せられて、室内を明るく照らしてやがるゼ。

 

 ほへー、扉の開閉に反応してたから只のセンサーの類かと思っていたけど。

実は照明を兼ねていたと・・・遺跡文明パネェな。

 

 

「・・・・うん?あら?おろ?・・・・・埃も無い、だと!」

 

 

 な、何と言う事でしょう。

遺跡に歴史を感じさせる重厚感を演出していた埃が消え去り。

今では光りが明るく遺跡を包み、手元を明るく照らしています。

これで今まで大変だったハウスダストも気にならなくなりました。

換気設備が稼働し、強力な空気洗浄が行われたようです。

 

 

うん、ビフォーアフターは二度ネタだね。

だけどユーリはついついやっちゃうん・・・・。

 

 

「・・・・は!まだ教祖さまが居る!?」

 

 

――――よんだかい☆

 

 

 呼んでません。本当にコレで最後です。お帰り下さい。

 

 

――――ヒャッハッハッハッハッ☆

 

 

 ふぅ、帰ったか。全く遺跡だからってデムパはもうこりごりじゃ。

 って、んなことしている暇はねぇ!どうなってんだ?この状況は!

 

 

「・・・・一度VFまで戻ろう。まずはそれからだ」

 

 

 この部屋がコレだけ変化しているんだ。きっとVFのある所も変化があったに違いない。

 そう思い俺はまだふら付くがメーザーライフルを杖に立ち上がると、扉へと向かう。

 入って来た時と同じように、溝が集中する突起部部へと手を伸ばした。

 

 

≪――――ヘコ≫

 

「・・・・・・あれ?反応しないッスか?」

 

≪ヘコ、ヘコ―――ヘコヘコヘコヘコヘコヘコヘコヘコヘコ!!!≫

 

「・・・・・ダメっすね。うんともすんとも言わないッス」

 

 

 参った。なんか遺跡が稼働しているっぽいのに、今度は扉の機能がおじゃんなのか?

 突起の部分に触れまくってんのに、扉は全然反応しない。

 いや、触るごとに溝に走る光りが若干強くなるけどそんだけ、ソレ以外反応なしだ。

 

 

「どーしたもんスかね・・・」

 

 

 鼻がバカになっているとはいえ、臭いが強烈だから早くメットを外したい。

 何故ならこの部屋には水道がない。いや遺跡で水道があったらビックリだけどさ。

 

 

「うーん・・・・ん?」

 

 

 視線を扉に這わせていると、ふと視界にあのスイッチらしきものが付いた台座が見える。

 うわぁ、ピカピカしてるぅ・・・そして俺は気がつくとその台座の前に立っていた。

 どうだい?このスイッチ?―――凄く、怪しいです。

 

 

「・・・押せと囁くんだ。俺の中のGhostが・・・てな訳でポチっとな!」

 

 

 俺は俺の中の声に従い、指を台座に当てた!すると―――

 

 

「・・・・・・・・反応無しかい」

 

 

 ざんねん、とびらはひらかれなかった。

 だが絶望するには早い、台座にはまだスイッチが残されているんだぜ!

 

 

「てな訳でもう一度ポチっとな」

 

≪ヴォン――カシュッ≫

 

 

 おし、開いた。どうやら遺跡が稼働したので、溝の所は反応しなくなったようだ。

 そしてこの台座はやはり開閉スイッチの類だったらしい。俺GJ。

 とりあえず一度VFに戻ることにしたぜ。

だってマジで気持ち悪いんだよ・・・ヘルメット・・・。

 

 

 

 

 

――――艦長、移動中。

 

 

 

 

 

 VFに戻った俺は胴体のメンテナンスハッチを開き、予備冷却タンクから水を取りだした。

 冷却用の純水な為飲むことは出来ないが、顔を拭く程度には丁度良い。

 

 そして一度VFの操縦席へと戻り操縦席を閉じてヘルメットを外し顔を拭いた。

 ヘルメットの中身も洗浄したいが、そこまでの水は無い為、拭くだけで代用。

 

 やや臭うが、最初よかマシになったそれを被り直した。

 酸味が効いた匂いが何とも言えない気持ち悪さを醸し出すが我慢できない程じゃない。

 ゆーりくんはつおいこ。だからがまんできるお。

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな訳で(どんな訳?)、先程の部屋へと戻って来た。

 まぁなんやかんやでまだ詳しくは見ていなかったので、好奇心が働いたと言える。

 とりあえず入って来た扉に一番近いイスへと足を向けた。

 

 

「えっと、確かココを触れたら空間パネルが開いてたんスよね」

 

 

 そしてなんとなくだが、あの時座っていたイスの前にあるテーブルみたいな台に触れる。

 あんときは暗くてよく見えなかったが、今はもう明るいので良く見えてる。

壁の溝みたく光が走ってて、ボタンみたいな部分が見受けられた。

 

なんつーか、アレだ。良く解らんがエピタフが反応した原因はコレだと思う。

 コレを調べたら、もっと何か解る様な気がしたのである。尚エピタフは鎮静化している。

 専門家じゃないくせに、なにするだー!って感じがしないでもないが無視するぜ。

 

 

「肘を置いてたのがココだから――」

 

 

 なんとなく、ボタンがあれば押したくなるのが俺クオリティ。

 う~ん、仲間が居ないとなんか行動にエスカレートが掛ってる気がする。

 ちょwww俺自重wwwってか?やだね。俺は自重しないぜ。

 

 そう言う訳で、それっぽーいボタンを弄くってしまう。

 どちらにしても、戻ったところでVFが置いてある所からつながるエレベーターは開かない。

 いやスイッチの類はあったんだけどさ?VFで強引に入った時にゴツンとこう・・・。

 はい、ぶっ壊してました。暗いって怖いね。

 

 

「こぉぉぉぉ、北○真拳奥義・・・っぽく手を動かす!」

 

 

 みよ!かつてパソコンで字を打つ際に鍛え上げた見事な一本指タッチ!

 アタタタタとボタンらしき個所を押して行くぜ!耐えられるのなら耐えてみな!

そして指でやること2分半・・・・・・・何で全然反応しないんだろうか?

 

 

「ゼェ、ゼェ、なかなか手ごわい。こうなれば禁断の足も使って・・・」

 

 

 誰も止めてくれないから、俺の暴走はエスカレート中。

 誰か俺を止めてくれ、そう頭の片隅で願うとその願いは聞き届けられた。

 

 

『ザザ・・・艦――聞――すか!』

 

「チェス・・・ん?短波通信ッスか?」

 

 

 メットに通信が入り、今まさに振り下ろされようとしていた足が間一髪で止まる。

 とりあえず通信帯を合わせて見ることにした。

 

 

「はい、こちら艦長のユーリ。この声はユピッスか?」

 

『か、艦長!ご無事でしたか!ハイ私です!ユピです!無事でよかった!』

 

「いや、正確に言うとあんまり無事じゃなかったりするッス」

 

『でも無事で・・・生きていてくれて本当によかったでずぅ・・・ふえぇ・・』

 

 

 ちょ!ユピが泣いてる?!マジで!?俺そんなに心配かけてたん?!

 多少おろおろしながら通信で彼女を慰める事にする。

 

 女が泣いていたら、手を差し伸べる。ソレが男ってモンだ!

 まぁ実際は彼女に泣かれると現状説明が出来ないってのもあるんだが・・・。

 

 

「・・・・落ちついたッスか?」

 

『は、はい、済みません取り乱してしまって・・・』

 

「はは、良いッスよ別に・・・(泣かれたままの方が辛いからな)」

 

 

 とりあえず通信機越しで向うが落ちついたのを見計らい、俺は現状を説明した。

 ココまでの経緯を説明し、脱出ルートを探していたら閉じ込められたとも話しておく。

 半分好奇心で探検していたことは話さない。だって怒られるもん。

 

 

『そうだったのですか。大変でしたね』

 

「いんやー、こうして仲間の声が聞けただけでも安心出来るッスよ~」

 

『仲間・・・へへ。あ、それよりも艦長!今外は大変なんですよ!』

 

「何かあったッスか?」

 

『はい、それが――――』

 

 

 えーと長いので省略するが、要訳するとだな?

 

 

「遺跡の半分以上が小天体を突きぬけて飛びだしてる!?ユピテルクルー達は無事ッスか?!」

 

『幸い距離が離れていた為、皆さん無事です。多少不時着面に亀裂が来た程度でしょうか』

 

 

 どうやら俺が今いるこの遺跡が小天体から突き出しているらしい。

 あの振動は遺跡が外に飛び出した際の振動だったんだろう。

 おお、つまり地下から出たから短距離通信機でも電波が届いたってワケか。

 ん?でも遺跡の中に居てVFの電波って届くのか?

 

 

『それは私が操作しているRVFが、微弱な電波を拾って増幅しているからですよ』

 

「あ、なーるほどッス」

 

 

 道理で遺跡の中なのにノイズ無しで聞こえる訳だ。

 なんとなくRVFが電波拾う為に遺跡の壁にヒッ付いている姿を想像し吹いた。他意は無い。

 

 

「そんじゃ、俺はココで待機してるッスから、出来れば助けに来てほしいッス」

 

『了解しました。ケセイヤさん達を送りますね』

 

「頼むッス」

 

 

 そんな訳で俺のVF-0Sから救難ビーコンを目印に、助けに来てもらう事にした。

 だって自力で出られそうもないし、それなら他の皆と合流する方が良い。

 そんな訳で、通信を切った後、俺はしばらく寝ることにした。

 

 どうせ皆来るまで暇だしな。胃の中身出しちまったからエネルギーも足りない。

 俺は遺跡の床にゴロンと一の字になると、そのまま眠ったのであった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 さて、ユーリがのんきに遺跡の中で爆睡している頃。

 ユピテルからは遺跡探索及び艦長救出隊が組織され、遺跡へと向かっている最中であった。

 乗っているのはサナダ・ミユ・ケセイヤのマッド衆達。

 ソレと先導役のユピとか科学班や整備班を含めた十数人だけだった。

 

 トスカも来たがったが、今フネを離れる訳にもいかず、彼女はフネの復旧の為に残った。

 そして救出隊に「絶対ユーリ連れてコイ、莫迦には制裁」と、半分ワラキアになって指示をだ割いていたので、その怖さにユピが半泣きになっていたのは余談である。

 そして、ユピが操るRVF-0に先導されて、中型作業艇に乗り遺跡へとやって来ていた。

 

 

「さて、来たのはいいがどうやって入るんだ?」

 

「ユピが少年に聞いた話しだと、入口があるらしいぞ?」

 

「だがそこは入った後艦長自身が閉じてしまったのだろう?」

 

「なら、ソレらしいとこ探すっきゃねぇな」

 

 

 とりあえず遺跡の壁の周辺をグルグル回ること十数分。

 センサーを総動員しつつ、目視も使って見つけた恐らくは扉らしきもの。

 とはいえ扉は見つかったが、どうやって入るかで悩むことになる。

 

 何故なら扉は堅く閉ざされているし、遺跡故何をどうすればいいのかわからない。

 扉の開け方が解らない以上、扉を壊して入るしかないのである。

 

 

「まったく、艦長はどうやって中に入ったんだ?」

 

 

 誰かがこぼしたその言葉に、聞えていた全員が賛同していた。

 とにかく、遺跡の扉を開ける為に中型作業艇を扉に密着させる。

 

この作業艇は何らかの原因で壁にあなを開けた宇宙船の壁を修理する為の物である。

その為、作業する時フネのエアが逃げないように、宇宙船と作業艇との間を特殊な素材でパッキングするかのように囲み吸盤のように張り付き、空気漏れを出さない様に作業を行う事が出来る。

 

作業艇は遺跡の壁に取りつくと、クレーンを伸ばしプラズマジェットバーナーをセットした。

 コレは歪んでしまった宇宙船の壁を取り外す際に、溶断する為に用いるバーナーである。

 超高温高圧のプラズマ流が大抵の金属を瞬時に溶断させる事が出来るすぐれものだった。

 

 工作機械を設置し、作業艇は作業を開始する。

 遺跡の壁にプラズマジェットが放たれて、その部分が白熱化して白くなっていった。

 だが、遺跡の材質が特殊なモノらしく、白熱化してから貫通するまでに時間が掛った。

途中溶断機用の燃料を補充して、普通の20倍の時間をかけてようやく切断する事が出来た。

 

 

「どんだけ時間がかかるんだよ。お陰でバーナーが一ついかれちまったぜ」

 

「ふむ、この遺跡の壁は見たことがない合金で構成されているな。もしかしたら、未発見の元素で出来ているのかもしれない」

 

「ミユくん、調べるのは後にしよう。今は艦長を助けるのが一応の優先事項だ」

 

「確かにそれには異論は無いよ」

 

 

 切断面が冷えるのを待って、壁を取り払うと中にもう一つ壁がある事を確認する。

 どうやらココも与圧室であったらしく、二重構造となっていたようであった。

 仕方なしに作業艇はもう一度、中にあった扉を溶断する。

 

 こうしてなんとか遺跡への入口を作ることが出来た彼ら。

中型作業艇に乗せて来た作業用反重力車を降ろし、それに分乗して遺跡の奥へと入って行った。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

 さて、ユーリとは違うルートで遺跡に入った彼らは、1時間程かけて長い通路を反重力車で進んでいた。ユーリの話しでは至る所隔壁が降りていたと言っていたが、遺跡が稼働した際に全て、隔壁が全て上がったらしく、特に動きを止めることなく奥へと進んでいける。

 

 しばらくして、なんやらパイプの様なモノが沢山ある部屋へと出た。

 何の部屋なのかは、専門家集団である彼らにはたちどころに理解出来た。

 その部屋は機関室、もしくはそれに準ずる何かであるという事をである。

 

 遺跡が浮上した際に動いたことから、この遺跡はフネである可能性が高い。 

 フネであるならば、動力源が必要となることは明白である。

 尚、機関部が作動した原因は、ユーリが無茶苦茶に弄くったスイッチの所為だったりする。

 下手すれば暴走の憂いがあったのに、上手い事起動した程度で済むとは悪運が強い男だ。

 

 そして彼らは、センサーに測定しきれない程のエネルギーを探知した為、あまりモノに触れることなく部屋を後にした。下手に装置に触れて暴走でもされたら、自分たちのみならず周辺宙域もろとも消滅出来る程のエネルギーを内包している事がわかったからだった。

 

 

「・・・本当にロストテクノロジーの塊みたいな遺跡だぜ」

 

「コレだけのモノが未発見であったとは・・・ゼーペンスト領は損をしていたな」

 

「確かに、早く艦長を見つけ出してココの研究をしてみたいものだ」

 

「「確かに」」

 

「えーと、皆さんビーコンはこっちの方角ですからついて来てください」

 

 

 段々と目的が擦り変わってきそうだが、一応まだ平気である・・多分。

 ソレはさて置き、彼らはその後も素晴らしきロストテクノロジーを垣間見、創作意欲を掻きたてられるモノや研究したい欲が増大していった。

 

 こういった遺跡というのは異星人が作り上げた可能性が高い。

 それ故、研究者にとっては今の状況はよだれの滝が出来そうな程の状況だった。

 早く艦長を見つけ出し、研究をしなければならない。

 

 こうして彼らは機関室らしき部屋を抜け、何や植物の残がいがある部屋を抜ける。

 恐らくは何かのプラントだった部屋も通り抜け、あのだだっ広い空間に到達した。

 途中、何人もの科学班や整備班の人間が途中下車をしたがったが、ソレらを無理矢理車に乗せて、なんとかここまで辿りつけたといった感じであった。

 

 

「わぁ、広い・・・遺跡の中だって思えませんね」

 

「床には恐らく元は土だったもんがあるな。でも煤が付いてるぜ?」

 

「さっき壁も見て来たが、全て煤で覆われていた。この空間ごと昔炎で包まれたって所だろう。そう言えば少年がいる場所はココからつながっているのだな?」

 

「あ、はい。艦長の言葉が正しければ、ココから工場区画の様な所を抜ければ・・・」

 

「くぅ、凄く研究がしたい・・・あそこにあれだけの資料があるというのに・・・」

 

 

 冷静なサナダですら悔しそうに、本当に悔しそうに遺跡の中の街を眺めていた。

 だが、今すべきことが分かっている為、彼らはまた車に分乗する。

 

 

「急ぐぞ!艦長を早く見つけ出すんだ!」

 

「応ッ!」×艦長救出隊全員。

 

 

 遺跡への探究心が、いま彼らの心を一つとしていた。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

「アレは・・・造船区画なのか?」

 

「アッチは工業区っぽいな」

 

「すばらしい。アレだけの規模でありながら無駄がない。あれこそ人類が目指すべき極地」

 

「皆さん!後で幾らでも見学できるんですから、今は急いでくださいよ!」

 

「サーセン」×艦長救助隊から遺跡探索隊にシフトしつつある連中全員。

 

 

 ユーリを救助しに来た救助隊は、あの広い空間を抜けて、あの工場区を移動していた。

 あの時は真っ暗で遠くにあるモノがうっすらとしか見えなかったが、今は太陽の元に居るかの様な明るさな為、救助隊が移動中のハイウェイからでも遠くが良く見える。

 

 そこにあったのは極小、小、中、大、極大、超極大の生産ライン。

 いわゆる工場ってヤツが今にも稼働しそうな状態でそこにあった。

 また奥の方にはおそらくはフネ用の造船ドックと思わしき空間もある。

 

 いや、実際ドックの幾つかにフネらしき建造物が安置されている。

幾つかは建造途中で放棄された感じがあるが、形状からしてフネであることは明白。

なので、アレが造船ドックである事は疑う余地も無い。

 

 小さな都市に匹敵する生活空間、そしてフネが持つには余りにも大きな工場区画。

 この遺跡船が一体どんな目的で、且つ何の為のフネだったのかがおぼろげに解って来る。

 

 

「・・・・多分だが、この遺跡は一つの都市船だった可能性があるな」

 

「サナダ、貴方もそう思うか?私もそう思った」

 

「しかも、何世代にわたり超長距離を移動するという考えが見えるぜ。恒星間とかじゃなく銀河間クラスのフネだったのかもな」

 

 

 真相は不明、だがだからこそ解明したくなる。

 技術者や科学者としての本能が、この遺跡船を調べろと騒ぎたてる。

 こうして彼らはこの遺跡に魅入られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、艦長が居らっしゃるのはこのシャフトらしき竪穴を上がった場所の様です」

 

「ふむ、だが扉が閉じたままだな」

 

 

 ようやく、ユーリが昇って行ったエレベーターシャフトに到達した救出隊。

 だが、エレベーターはあの罠(接触不良?)の所為で昇り切ったままである。

 

 

「・・・・仕方ない、この先は飛行していこう」

 

 

 反重力車な為、実を言えば空を飛べる。

 ドライバーが運転席のパネルで“地上滑走”から“飛行”へと設定を変更した。

 重力制御装置の振動が増し、車が空中へと浮かびあがる。

 

 すこし時間をかけて一番上の方まで昇って来ることが出来た。

 だが、当然扉は閉まっており、エレベーターが暴走した際に開閉スイッチも破壊されている。

 さすがにこの先に行くには、扉を壊すかどうにかしなければなるまい。

 

 

「どうするか、バーナーでいけるか?」

 

「止めておいたほうが良い。あの扉も外壁を同じ素材だ。只のバーナーじゃ歯が立たん」

 

「そうか・・・・っておい、ケセイヤ。お前も手を貸せ」

 

 

 サナダとミユがどうするかと頭を悩ませていると、車の後ろで何やらガチャガチャと音を立てているケセイヤ。

 すこしして音が止むと、何やら手に機械らしきモノを持ったケセイヤが前の席に寄った。

 

 

「おい、すこしあの壊れた開閉スイッチ辺りに寄せてくれ」

 

 

 サナダとミユはお互い顔を見合せるものの、何か考えがあるのだろうと思い従う。

 反重力車が開閉スイッチがあった場所へと寄せた。

 車が停止すると、ケセイヤはドアを開けて身を乗り出し、開閉スイッチへと何かを繋いだ。

 コード類が伸びた箱らしきモノに付いたキーボードを弄くり回している。

 

しばらくの間、車内にピポパと電子音だけが響いていた。

ケセイヤは何をしているのかと、ミユとサナダが問いただそうとした瞬間―――

 

 

≪―――ガゴォンッ!ズズズズ≫

 

「「な、なにー!?」」

 

「おっし、流石は俺。異星人のシステムでも似た様なもんだな。ハハ」

 

 

―――本の数分で、ケセイヤは遺跡のドアの開閉プログラムに侵入、扉を開けた。

 

 とりあえず言っておこう、遺跡のシステムは現行のシステムとかなり異なる。

 ソレに対し、一部でも制御を行えるように接続するのは容易なことではない。

 とりあえず片手間にこさえた簡易的なハッキング装置でやるようなことじゃない。

 

これって最早天才とかそう言うレベルじゃないんじゃね的な空気が車内に流れる。

 流石のマッド陣営であるサナダとミユも、流れ出る冷や汗を隠すことは出来ない。

 でも、考えてみたらケセイヤである。コイツなら出来ると納得できる面もあるのだ。

 

 

「皆さ~ん!固まってないで行きましょう!ホラ!あそこに艦長の機体が!」

 

「あ、ああ!確かにあるな。あれは少年の専用機じゃないか」

 

「そうだな。きっとこの奥だ。急ごう」

 

 

 早く奥に行きましょうよ~!と騒ぐユピに賛同して車から降りるメンバー。

 ケセイヤの事はとりあえず保留にし、今は目的の場所へと向かう事にする。

 深く考えても仕方がない気がしたのだ。だってケセイヤだし・・・。

 

 そんなこんなで特に障害も無くユーリがいる部屋へとやって来た面々。

 その部屋は外側に開閉コンソールがある為、普通に押したら開いた。

 そして、部屋に入った救助隊が見たモノは―――

 

 

「・・・くかー・・・くかー・・・Zzzz」

 

 

部屋の中央で大の字になって眠るバカ一名の姿だった。

 何とも呑気な姿にもはや起こる気にもなれない。

 とりあえず艦長回収して一度帰ろうかって感じになった。

 

 だがその時ユピテルがユーリの元に走り寄って抱きついた。

 心配して、心配してもうこれでもかってくらい顔をくしゃくしゃにしちゃっている。

 ユーリに抱きついた彼女に犬の耳と嬉しそうに揺れるしっぽが幻視出来そうな感じだ。

 

 

「かんちょぉぉぉぉ!!無事でよかったぁぁぁぁ!!!」

 

「・・・ふへ?ああおはよう≪メキョ≫にゃー!腕が曲がっちゃいけない方向にーー!!」

 

 

 さて、ユピはAIであるが、身体は電子知性妖精と呼ばれるコミュニケーション端末である。

 その素体はナノマシン集合体の様なものであり、戦闘用にナノマシンを調整されたヘルプ・ガールことヘルガは凄まじい戦闘力を持つ。

 

そしてそのヘルガに使われたパーツの予備で構成されたのがユピの肉体である。

彼女の素体は人間とほぼ同じ質感になる様に設定され、戦闘用では無い。

だが、スペック上はその素体のポテンシャルは人間を遥かに上回る力を秘めている。

 

 普段はリミッターを設けて、人間と同じくらいにその力を抑えているユピ。

 だが、実はこのリミッターは任意や無自覚で外せてしまうのである。

 その為――――

 

 

「・・・・・ブクブクブク」

 

「は!艦長は白目をむいて泡を?!だ、誰か助けてあげて!≪ギュ!≫」

 

「クェッ!――――ちーん」

 

「かんちょーーーー!!!」

 

「あー、ユピ。とりあえず少年を離そう。じゃないと死ぬぞ?」

 

 

 大好きなユーリと再会できた為か、思わずリミッターが外れた状態で抱きついたユピ。

 当然そのパワーは凄まじく、車ですらサバ折りに出来るほどのパワーであった。

 ユーリは装甲宇宙服を着こんでいた為、ゴアバックになる事態は防げたが比較的もろい関節部が人間として曲がってはいけない方向に曲がってしまったのも仕方ない事であろう。

 

 

 こうして、せっかく無傷だったユーリは非常に間抜けな感じで負傷する事になる。

 彼に抱きついて涙目なユピとか、それに呆れるクルー達やら、この部屋がいわば遺跡船のブリッジである事に驚きを隠すどころか哂い始めたマッドが居る等、ケイオス空間が形成された。

 

 

 そんな訳で、ユーリは気絶した状態で運ばれる羽目となった。

そして一度ユピテルの医務室送りになったのであった。チャンチャン。

 

 

***

 

 

「・・・・・・知らない・・・いや、知っている天井か」

 

「何いっとるんじゃ艦長?」

 

 

 あ、サド先生お早うございます。なんとなく二度ネタをしたかっただけで他意はないです。

 医務室の責任者のサド先生が居るって事は、俺はユピテルに戻って来たって所か。

 

 

「・・・・・・あ、サド先生、あざーす」

 

「ほい、おはようさん。ところで左腕の調子はどうじゃろうか?」

 

「うで?・・・アツツ!あれ?何で痛いッスか?!」

 

「そりゃ折れたからじゃよ」

 

 

 折れた!?Why?どうして?なんか包帯巻かれてるし、どうなってんだ!?

 

 

「綺麗に折れとったから、栄養剤と骨細胞活性剤を服用すれば、接合するのに4時間、完治なら一日あれば事足りるじゃろう。それまでは安静にしておく必要があるがな」

 

 

 ・・・・何気にスゲェなこの世界のお薬。でも、本当何で折れてるんだろうか?

 

 

「どうしてって顔しとるとこ悪いが、覚えてないのか?」

 

「・・・・・・」

 

 

 ん?ン~~~~~・・・あーー、そうそう思い出した。

 

 

「ユピに抱きつかれたところまでは覚えてるッス」

 

「うん、そして彼女の力が強くて腕が折れたって訳じゃ。ところで―――」

 

 

 サド先生が入口の方をちょいちょいと指差して見せた。

 釣られて視線をそちらに向けると、何やら見覚えがある顔がちらちらと覗いている。

 

 

「―――結構気にしとったから、な?」

 

 

 後は解るだろうという慈愛の様な視線と、自分の聖域にもめごと持ち込むんじゃねぇという視線が4:6で混ざった様な視線を受けた。まぁ基本的には不干渉の姿勢なのだろう。

 サド先生は片手に一升瓶もって奥へと引っ込んだ・・・微妙に見ている辺り酒の肴にするつもりのようだけどな。

 

 俺はなははと苦笑しつつ、医務室の扉の陰に隠れているユピを手招きする。

 手招きするとユピがピクンと反応し、なかなか医務室へと入ろうとはしなかった。

 なんか小さい子が悪いことをして叱られる時に見せる反応に似てるな・・・。

 

 

「ユピ」

 

「≪――ピク≫」

 

「ホラ、ちょっとこっちくるッス」

 

 

びくびくって感じでようやく部屋に入って来たユピ。

 やだ、何この子・・・子犬みたいで可愛いわ。

 

 

「・・・・艦長」

 

「ああ、次はもっと近くに・・・」

 

 

 俺に言われ恐る恐る近づいたユピ。

 俺が寝ているベッドの右手側のイスに腰掛けた。

そして俺は無事な右手を彼女の方へと伸ばす。

 

 

≪ポフポフ≫

 

「え?」

 

「ま、気が動転してたんスよね。なら仕方がない―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして伸ばした手をポフポフと彼女の頭に軽く乗せ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――なんて言うと思ったかァァァァ!!!」

 

「ふぇっ!?か、艦長!イタイ!いたいです!!指食い込んでますぅぅぅぅ!!」

 

 

 思いっきり掴む!俺はまだ骨を折った事を許すとは言っていない!

 俺のこの手が真っ赤に燃える!とにかく怒れととどろき叫ぶぅ!

 喰らえ!リンゴくらい割るアイアンクロォォォォォウッ!!!!!

 

 

「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 そして医務室に悲鳴が響いたのであった。ふ、むなしい勝利だぜ。

 あとサド先生、酒瓶片手に何じゃ詰らんとか言わない。見せモノとちゃうで。

 

 

「うぅ、いたいですぅ」

 

「だよね。そして俺はもっと痛かったッス。でも俺自身にも遺跡に閉じ込められたっていう責があるから、コレで勘弁するッス。まぁ骨折られたことへの、ちょっとした八つ当り?」

 

「しどい・・・けど艦長が痛かったのは事実なんですね」

 

「うん。あ、それと―――」

 

 

 彼女にもう一度手を伸ばすと、またクローが来ると思ったのかビクっと身体を震わせるユピ。

 その反応を見ても、、俺はお構いなしに彼女の頭に手を乗せた。そして――

 

 

「あの時俺を探して、助けに来てくれて、ありがとね」

 

≪がしがし≫

 

「―――あっ」

 

 

 ―――グワシグワシと、ちょっと乱暴に彼女の頭を撫でる。

 

 あの時、俺を探していてその後もちゃんと救出隊を引き連れて来てくれたのだ。

 実際もしあのまま放置されてたら、俺多分ココに居ないだろうしね。

 この子が偵察機を飛ばしていたから、俺のVFが出していた短波通信を受信出来た。

 

 そう言った意味でコレは親愛を込めた御礼を兼ねた、いわばスキンシップなのである。

 そんな事考えながらユピを見下ろしていると、何故か彼女は言葉に詰まっている。

 何、この可愛い生きモノ。何故か千切れそうなほど振われる尻尾が見えた気が。

 

 

「あ・・・・・・うぅ・・・・・」

 

「ユピ、顔が赤いけどどうしたッス?」

 

「えう、えっと(何でだろう、艦長に撫でられると顔の火照りが止まらないよ~)」

 

「疲れてるんスか?AIだって言ってもナノマシンへの疲労の蓄積くらいはあるんスから、一度部屋に戻って休むと言いッスよ。俺はホラ、もう心配いらないし」

 

 

 彼女を気遣って休むように勧める。相手の事を気遣えるのが人気者になる第一歩だぜ。

 

 

「あ、はい!お気づかい感謝します!」

 

「はっは、なんのなんの」

 

「で、では私は仕事に戻ります。えっと・・・お大事に艦長」

 

「あいあ・・・・」

 

 

 いつものように軽く返事を返そうとした瞬間、俺は見てしまった。

 ユピの、彼女の背後に立つ修羅の姿を・・・ああユピ、不思議そうに首を傾げないで、可愛いから。

 

 

「あ・・・ああ」

 

「やぁユーリ、災難だったな」

 

「ト、トスカさん」

 

「どうしたのかな?そんなこの世の絶望みたいな顔してさ?そんなに私が見舞いに来たのが珍しいのかイ?」

 

 

 ちゃべー、身体の震えが止まらねぇ。あれ?今度こそ俺詰んだ?死ぬの?バカなの?

 そして彼女は俺の方へと手を伸ばし・・・・。

 

 

「心配掛けさせんじゃない!」

 

「ひぃぃぃぃ許してェェェェェ!!」

 

「あわわわわ!!」

 

「(ふむ、騒がしいが見ている分には面白いのう。酒の肴にはなるワイ)」

 

 

 医務室に哀れな俺の悲痛な叫びがとどろいたのであった。

 結果:怒れるトスカ姐さんのお仕置きならぬOSIOKIにより入院が3週間伸びた。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

 ユーリが無事・・・とは言い難いがなんとかユピテルの帰還した後、ユピテルの復旧作業が開始された。融解した装甲板を交換し、歪みが出来た個所にパッチを当ててエアが漏れない様にしていく作業が延々と続けられる。

 

とはいえ、船体の半分近くが持って行かれ、インフラトン機関も損傷してしまっている現状において、例え応急修理でもフネを恒星間移動させる事は出来ない。

 無事だったVFを使い、応援を呼びに行くという案も出たのだが、あの戦闘によってかなり流されてしまった為、既にVFが到達できる航続距離の限界をとっくに超えてしまっていた。

 

 

 また仮に呼びに行けたとしても、修理素材が不足している為、インフラトン機関が不調なのである。その為何時インフラトン機関が停止してしまうかがまったく解らない。

 もしもVFが応援を呼びに行けたとしても、インフラトン機関が止まればどの道助からない事は明白であった。フネにおける全ての装置のエネルギー源である故の弊害だった。

 

 科学班も整備班もこれには頭を抱えてしまった。今の所予備電源で酸素の供給が行えているが、フネの竜骨も装甲板もかなり歪んでしまい、エア漏れが至るところで起きているので、インフラトン機関へ修理の手が回らなかったのである。

 

 

 このままでは数日中に空気中のCO2 の量が安全値を上回り、乗組員全員が酸欠で死に絶える事態になってしまう。運良くフネでも通ればいいが、航路から大分離れている上希望的観測は当てにならない。

 

 どうしたモノかと、現在入院中のユーリ以外が集まって話しあっていると、ユーリ救出に向かった乗組員の一人が冗談で「あの遺跡の中で作業すればいいと思うばい」と述べたことで、マッド三人衆に電流が走った。

 

 あの遺跡の中にユピテルを持ちこむのは流石に無理だが、今遺跡は稼働状態にあり人間が呼吸していける空気が供給されているのである。それはユーリを救出しに行った時、中に入って観測したデータなため信用が置けた。

 

 今のエア漏れ激しいユピテルにとどまるよりも、一度住処をあの遺跡へと乗り換え、ユピテルを修理した方が効率が良い。それに同時に遺跡を調べれば、ユピテルの修理に使える物が見つかるかもしれない。その考えに行きついた彼らは、さっそく拠点を移すことになった。

 

 

 

 そしてユピテルが落ちてからおよそ30時間経過した。

科学班と整備班はそれぞれが作業艇に分乗して、機材と共に遺跡へと向かう事になった。

尚艦長であるユーリは負傷していた為、作業には参加できないモノの、内火艇に乗せられて先行している。怪我はしていても指示は出せるので、人手が足りない今は彼も働く羽目になった。

 

遺跡へと乗り込んだ彼らは、まずあのユーリ救出の際に開けた侵入口を改造して与圧室と機能出来るようにした。そこを搬入口に見立てて、これからの作業を行いやすくするためだ。

遺跡の壁は非常に強固であったが、マッド連中の行く手を阻む程度では無い。

モノの数時間で侵入口を与圧機能付きの搬入口へと改造してしまったのであった。

 

まぁそれで作業が終わったという訳ではない。次は資材や機材の搬入が残っている。

遺跡の機材がどの程度使えるか不明な為、ユピテルから持ち出せるモノは大抵持ち出した。

 機材は基本的に解体して組み立てが可能な為、部品単位で遺跡へと運びこんだのである。

 

 資材関連は密閉コンテナのままピストン輸送して遺跡へと運びこんでいった。

 その中にはユピテル修理の為の資材の他に、様々なモノがパッキングされ、今の彼らの生命線であると言えた。

 

 

 そして次は運びこんだ機材を、あの広い空間に運び込んだ。

結構色々な機材がある為、搬入口付近の通路に置きっぱなしにはしておけなかったからだ。

幸い広い空間は風が吹かない為、砂や埃が舞い上がる心配がない。

 

やたらと広い空間に、一部ぽつねんとコンテナや機械が積み上げられて、周りの景色とまったく合わないソレらがあるそこだけ異質な雰囲気を放っている。

まぁ今はそんな事を言っている場合ではないので、彼らは特に気にはしなかった。

 

とりあえず持ち運んだコンテナを開封し、野戦用の天幕を設置していく。何気に海賊拠点とかの様な地上での戦いを経験している為、何時か使うかもという理由で、そう言った類の装備品が準備されていたのだ。

 

 まさか他の惑星に不時着して使用するならともかく、謎の遺跡の中で展開する事になるとは思わなかったのであるが、ソレはともかくとして、ちゃんと天幕が機能するように準備していく、しばらくは仮の住居としてそこで寝泊まりする事になるのだ。ある意味真剣にもなる。

 

 

 ユーリも設営を手伝おうとしたが、怪我をしている身であるという事で止められた。

 何じゃかんじゃ言っても、クルー達は皆この艦長の事を好いているのである。

 もっとも、彼の腕を離そうとしないユピや、その様子を見て何故か機嫌が悪くなるトスカを見てニヤニヤとしながら楽しんでいるので、ユーリにとっては余り良いとは言えないだろう。

 

 何気にミユもニヤニヤしながら、ユピやトスカの前でワザとユーリにエロいちょっかいを出して、ユーリのチェリー故の初心な反応を楽しんでいたりするので、ユーリは身体の怪我はともかく、今度は心労に悩まされそうで怖いと漏らしていた。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 さて、ユピテルが不時着してから三日目の朝を迎えていた。

 まぁ遺跡の中は常に一定の灯りが灯っている為、実際は宇宙標準時に合わせたモノであったが、宇宙で暮らしているとそう言ったのは余り気にならない。

 

 とりあえず、ユピテルの修理は整備班と科学班の混合チームと修理用ドロイド群に任せ、残った人間(主にマッド三人衆内二人)は遺跡を探索する方向に決まった。

 トスカは前回遺跡に来ることが出来なかった為、この遺跡探索に参加する運びとなった。

 

 ユーリも行きたがったが、結局怪我でまだ動けない為、サド先生の元で療養中である。

 最後まで「行きたいッスー!行きたいッスー!」と駄々をこねたが、トスカの「もぐよ」の一言で完全に沈黙した。

 

序でにまわりの男性クルーも、全員がほぼ同じ場所を抑えて震えあがっていたのを見て、ユピが「・・・不潔です」と漏らした為、男性クルー達に2000の精神ダメージがあった事は余談である。男は皆、あの個所の痛みというモノを共通出来るというのは、どの時代も変わらない。

 

 

 

 そんなこんなで遺跡探索に行く前にひと悶着あったが、遺跡の探索が開始された。

 メンバー的には空いている人間たち、ソレとサナダとミユ、トスカ等が参加する予定である。

 また通信のみでケセイヤとユピも彼らをサポートするのである意味参加メンバーとも言える。

 

 ケセイヤはユピテルの修理作業があるので拠点を離れられないし、ユピはユピでユーリの看病と修理ドロイド達の統制をおこなうという仕事があるのだ。

 ケセイヤは若干残念がったが、ユピテルを修理するのも自分の仕事である事を理解している為、ユーリの様に駄々をこねる様な事はしなかった。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 とりあえず反重力車を浮かべ、大居住空間を滑走していく遺跡探索メンバーたち。

 その中の一両の車内ではこれからどこに向かうかと言う事を相談する事にした。

 少なくてもメンバーの内、トスカはこの遺跡の内部をまだ見ていない。

 だから、ユーリ救出の際に内部を見て回っただろうマッドに話を振ったのだった。

 

 

「まず何処へ行くんだい?」

 

「ふむ、色んなところを見て回るというのも捨てがたいのだが・・・」

 

 

 サナダはちらりとミユの方に目を向けた。

彼女はそれを受けて言葉を繋げて説明を行う。

 

 

「ああ、ソレも捨てがたい。だがまずわれわれが優先すべきは、ココで行きぬけるように資材やテクノロジーを手に入れるという事だ」

 

「つまりは報告にあった工場地区と思われる処へ向かうってことかい?」

 

「その通りだトスカ副長。艦長を救出しに行った際、かなりの規模の工場区画が見えた」

 

「そこになら何らかの資材、または機材がある可能性もある。よもやとは思うが、遺跡の工場も稼働出来るかも試してみたい」

 

 

 もしも遺跡にて発見した機材が修理に転用出来る場合、遺跡の工場が稼働出来た方が都合が良い。また遺跡を動かせるようになれば、もしかしたらこの遺跡の調査も早く進めることが出来る。

 異星人か、はたまた違う銀河島からの漂流船かは不明だが、少なくてもマゼランの人間にも動かせるという事が解るからだ。

 

 動かせるとわかったなら、恐らく遺跡船であるこのフネを操作する事も出来るようになるかもしれない。そうなれば白鯨艦隊は大規模な拠点を得られるという事になるのである。これを逃す手は無い。

 

まぁ流石にこのサイズになると、空間通商管理局の軌道ステーションに入港できなくなるが、補給に関しては専用の輸送船を造ってピストン輸送すればいいので、一応は問題無しである。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな訳で工場区画へとやって来た彼らは、コントロールルームを探した。

 自動化された機械が多かった為、何処かに統合コントロール室があるのではと思い探した結果、その考えは正しかったようで、ソレらしい部屋を探し出すことに成功していた。

 

 

「―――しっかし、この遺跡は・・・随分と綺麗なモンだ」

 

「一応居住空間に残された土、埃等を調べたら1万飛んで2千年前のモノだって事はわかっている」 

 

「1万とんで2千年前・・・風の無い時代のフネってことかい?」

 

 

 ココで少し補足しておくと―――

 風の無い時代とは、マゼラン銀河文明が起こる以前、1万年ほど続いた移民船時代の事である。

 

テラ文明の末期である第二期、およそ23~24世紀に掛けてインフラトンエネルギー技術がブレイクスルーし、超光速恒星間船が実用化された。これによって恒星間どころか更に遠い外宇宙への航海も可能となり、次々と超光速船が造られていくことになる。

 

また同時期、宇宙適応型人類も発見され、人類は遺伝子的にも宇宙で生きられる肉体を手に入れることになり、当時既に人口が数百億を突破しそうであった人類は、I3・エクシード航法を用いた大規模宇宙移民計画『MAYAプロジェクト』を発動し、宇宙へと旅立って行った。

 

 『MAYAプロジェクト』により超大型移民船団4万隻がテラを旅立ち、様々な方面の移住可能惑星へと進んでいった。しかし、超長距離の航海の間に、移民船に乗る人間の繁殖力の低下によって、居住民の滅亡と言う形で多くの移民船団が消滅してしまう。

 

 その中でなんとか生き残った人類がマゼランに到達した時より、マゼラン銀河文明がスタートする事になる。そしてソレ以前の大航海時代の事を“風の無い時代”と呼ぶのである。

 

 またこの風の無い時代において、サイバネティクス技術が先鋭化し、現在のマゼラン銀河文明よりも進んでいたとされ、ソレが“公式”ではロストテクノロジーとされているのである。

 

―――以上、補足完了。

 

 

「いや、あくまであそこの土がそうであるだけで、実際はもっと古いモノである可能性が高い。もしかしたら異星人のフネの可能性もある」

 

「へぇ、そうなのかい?」

 

 

 サナダの言葉に少し驚いた顔をするトスカ。

まぁ今自分たちがいるフネが宇宙人のフネですと言われれば、悪い冗談か何かの類だろうと考えるところだが・・・話す人間が普段冗談を言わない為、信憑性が増して行く。

 

ソレを聞いていたミユも「サナダの言う通り、確かにその可能性が高いかもしれない。まぁ今はそれよりも、ユピ」と言って、携帯端末でユピを呼び出し、今回の目的である工場区画の調査を再開する事にした。調べたいのは山々だが、今はその時ではないのである。

 

 

『―――はい、こちらユピです。なにか解りましたか?』

 

「工場区画の統合コントロール室と思われる場所についた。端末を接続するから、解析をお願いしたい」

 

『了解しました』

 

 

 ミユは携帯端末に形状記憶端子を接続し、端子をコントロール室の端末へ接続した。

 ユピが解析を行っている間、自分たちも他のシステムや何やらを調べあげていく。

 現行のシステムとは異なるが、ユピの演算機能によってシステムを掌握する事に成功した。

 そして、更なる解析が行われる事となったのであった。

 

 

 

 

 

―――さて、サナダ達が工場区画で解析を行っている頃、別の一団が遺跡内を探索していた。

 

 

「トクガワ機関長、この先だそうです」

 

「うむ、そうか。遺跡の動力源。気になるのう」

 

「どんなエンジンなのか楽しみですな」

 

 

 ユピテルのインフラトン機関がある機関室へと、いまだ入ることが出来ないトクガワ機関長を中心とした機関士達の一団だ。この遺跡船にも生きている動力源があると聞いた彼らも、もしかしたら何か使えるかもしれないと思い、遺跡船の動力室へと足を向けていた。

 

 しかし、機関室に辿り着いた彼らを待っていたのは、既存の機関とは全く違う未知のエンジン。調べてみれば凄まじいエネルギーを生み出せる機関である事は解る。しかし詳しいシステム、制御法に至っては今の所彼らに手を出せる代物では無かった。

 

 

 

 他にも空いている者たちはそれぞれ散らばり、密閉式バイオマスプラントを見に行ったり、使えるモノがないかを探しに出ていた。とはいえ、遺跡船の余りの広さに隅々まで調べることは出来ず、使えそうなガラクタ関連を集めては持ち帰るという作業を行うだけであった。

 

 

 

 

 

 

―――――ユピテルが不時着し、遺跡船内に拠点を移してから一週間経過した。

 

その間にユピテルの修理は、とりあえず空いた穴を塞ぐところまで終えることが出来た。エアが漏れ出ない様にパッチを当てただけなため、戦闘はおろか通常航行もおぼつかない。エンジンもてつかづな為、実質通常航行すら出来るかも怪しかった。

 

 とはいえ一週間の間に遺跡の解析も進み、各種隔壁の開放等は行えるようになっていた。ケセイヤがユピテル修理の片手間に、遺跡船の統合制御AIへとアクセスできるように、ユピを基盤ごと遺跡へと持ち込んだのである。

 

 ユピが遺跡船へと直接アクセスする事が出来るようになり、色々と遺跡船を管理するプログラムを解析した結果、使われている言語モデルを手に入れることに成功し、それを元にケセイヤがこれまた怪しい機械を使用。ある程度のシステム干渉が可能になった。

 

また言語モデルを獲得した事で、遺跡船のコンピューター内に残されたデーターベースらしきデータ類を翻訳する事が可能となり、これまでどう扱えばいいのか不明だった装置の使用法等が解る様になった為、更に遺跡の解析は進んだ。

 

 

 中でも重要だったのが、遺跡の環境管理プログラムの存在と遺跡の動力源やその他運用に必要な情報が残されいたという事であった。また遺跡船を管理しているAIの様な人格データはかつて存在していたことが判明した。

 

しかし、随分と昔にその人格データは破棄されていた。正確には自壊させたらしく、遺跡船に残された居住民が消えた時期と一致する事から、居住民が消えた時に己のレゾンデートルが無くなってしまったが為、それによるストレスから自殺したのではとユピが推測していた。

 

 この遺跡のAIはソレだけフネの中に住む人達の事が好きだったのでしょうと、人が消えた時に自らを破壊してしまう程悲しんだ程に、遺跡船のAIは優しいAIであったのだと・・・。

 

 遺跡船内で何かが起きたのであろうが、映像資料に関しては厳重にロックされており、普通では見られない。既にシステムの8割を掌握しているユピですら、このデータに掛けられた障壁を突破する事が出来なかった。

 

 

 しかし映像こそ見れなかったモノの、遺跡船で何が起きたのかは推測できた。

簡単に言えば出生率低下による衰退と滅亡である。このフネは居住民が死に絶えた為、無傷のまま宇宙をさまよう羽目になったのだ。

 

それを示すように、サルベージされたデータには、居住民の人口を表すグラフが非常にゆっくりとした感じで下降していくグラフも見つかっていた。衰退の道は非常にゆっくりと進み、気がついた時には取り返しのつかないところまで来ていたのかもしれない。

 

 また街と思われる空間は事前に消火装置が働かないように細工され、火が出た時には居住区の隔壁が閉鎖され送風されるエアの酸素濃度も高めに設定されていたていたことから、ワザと放火されて火が消えない様にしたものであると推測できた。

 

恐らくは最後の一人が思い出の残る街ごと燃やしつくそうとしたのだろう。

 なんでそんなことをしでかしたのかは、今になっては謎のままだ。

 ま、そんな事よりも今は生きることが優先なため、それ以上調べることはしなかった。

 

 そして自殺したAIのあとがまとして、暫定的にユピの基盤を接続する事になった。

 今の遺跡船はサブシステムにて動いている状態であり、今後の為にもキチンと動いてもらわないといけないという事になった為、だったらユピを接続しちゃえばいいじゃんって話しになった。

 

 幸いシステムは全て掌握したも同然であり、専任のAIが消えた際にファイアーウォールの様な防衛プログラムも未知連れにしていた為、あとがまに座ることは難しい事では無かったのである。

 

 そしてユピがフネと完全に接続した事で、今まで未開通であった場所に何があるのかも解明される様になる。フネの工場区もデータさえあれば大抵のモノを作ることが出来るシステムであり、今の管理局ステーションの機能に近いモノだった。

 

 また、工場区画には造船所らしき場所が見えたのだが、実際ソコは造船区画であった。なので今は外の小天体に浮かんでいるユピテルをそのまま遺跡船へと回収、造船区画に置いて完全に修理する事となったのである。

 

 

 

 

 ちなみにこれら全ての工程が完了するまで、不時着してから換算して3週間かかっていた。

その為、ユーリ自身は結局ほぼ何もすることなく、遺跡船が使用可能になる時までずっと寝込んでいただけであった。

 

 その為、遺跡船が使用可能になったと聞いた瞬間。

彼の顔が面白いほどポケーとした顔になっていたのは余談である。

 

 とりあえず、やっとサドの元から退院したユーリが、完全ではないが遺跡船を動かすことが出来るようになったと聞いた時、彼は「ウチのクルーまじパネェッス」と漏らしていたという。

 

***

 

 

 あ、ありのままに起こった事を話すぜ?

 

「やっと退院出来たと思ったら、白鯨艦隊の旗艦はこの遺跡船になっていた」

 

 一体全体何が起きたのか解らなかった。頭がどうにかなりそうだった。

 未知のシステム解析したなんて言うレベル何かじゃ断じてねぇ

 マッド共の恐ろしいほどのチートを味わったぜ。

 

 

 

 いきなりポルナレフで困惑したと思うが、正直俺自身が困惑していた。

 だってやっと退院の許可が降りたと思ったらコレだぜ?ユピテルはどうしたって話だ。

 

 ・・・・まぁ、ユピテルはやっぱり損傷が激し過ぎたらしい。

 キールが完全に歪んでしまっていた為、直すよりも造り直した方が良いとの事。

 

 ユピテルは小マゼランで、かなり長い事共に歩んだフネだったから愛着があったんだがな。

 それでも、流石にあそこまで壊されてしまったら、もう共には飛べない。

 

 一応修理はしたらしいが、もう戦艦として機能させることは出来ないらしい。

 今は遺跡船の造船ドックの一つに収容され、モスボール処置待ち何だそうな。

 

 

「まったく、次から次へと・・・波乱万丈な人生ってヤツッスかねぇ?」

 

 

 頭をポリポリと掻きながら、医務室にされていた天幕から出る。

 ま、とりあえずユピテルの方へとよる事にしよう。

 コレもあの船を建造した艦長としての仕事ってヤツだ。

 

 

――――そんな訳で、俺はこの大居住ブロックから工場区へと足を向けた。

 

 

***

 

 

 流石に船内が広すぎる為、俺専用VFを使う事にした。

 あれを使えば広い艦内も楽に移動できる。

 ・・・・戦闘機が普通に飛びまわれるフネって、どんだけでかいんだろうな?

 

 まぁそんな感じで、乾ドックに停泊中のユピテルへと近寄っていく。

 2000mクラスのフネを停泊させてもまだ余裕がある乾ドックの周辺を飛び、VFがおけそうな場所を探した。

 

 丁度、乾ドックの両サイドが壁のようにそそり立ち、その上に3m弱の幅がある。

 なのでそこにVFを乗せ、俺は壁の上に降り立った。

 位置的には丁度ユピテルの側舷側が一望できる位置である。

 

 

「・・・・・確かに、大分傷が目立つッスね」

 

 

 そこから見えるユピテルは、以前の様な白く美しい船体では無くなっていた。

 あの戦いによって、装甲板のいたるところが剥離した為、部分的に灰色になっている。

 パッチを当てたところも目立つ上、何よりもフネ自体が何処か歪んでしまっている様だった。

 

 考えてみればグランヘイムの軸線重力砲が命中しているのである。

 あの重力子の塊を受けて、キールがひしゃげた程度で済んだのは運が良いのだ。

 船体強度が脆ければ、周辺空間すら超重力で捻じ曲げる砲撃によって完全に押しつぶされていた筈だ。爆散していなかったこと自体が奇跡だった。

 

 

「・・・・・ユピテルも、頑張ってくれたんスね」

 

 

 良いフネだった。俺がのった戦艦の中で一番のフネだった。

 フネには魂が宿ると言うが、もしユピテルにそう言うのがあったなら、あってみたかったな。

 そして、謝りたかった。ゴメンなさいと、もう乗ることが出来無くてゴメンと。

 

 

「せめて、就役年数に達するまでは使ってあげたかったんスけど・・・ゴメンな」

 

 

 俺達と共に戦いの中を突き進んだ戦友ユピテル。

 もう乗ってあげることは出来ないが、モスボール処置をするって話しだから保存される事になるだろう。

 

ありがとう、そしてさようならユピテル。

俺達を守ってくれてありがとう。

後は俺達に任せて静かに眠ってくれ。

 

 そう心の中で呟いた瞬間、一瞬だけユピテルの航海灯が光った様な気がした。

 思わず目をこすったが、航海灯は消えており、ユピテルは静かに鎮座しているだけ。

 すこしだけ茫然としていたが、俺は立ち上がるとVFに乗り込み、その場を後にした。

 

 

***

 

 

さて、俺が復帰したのはいいが、やることは山ほどある。

 まずは白鯨艦隊の再編成、正確には散らばってしまった仲間をもう一度集めるって事だな。

 あいつ等の事だから殺しても死なないとは思うけど、いてくれた方が心強い。

 

 それと遺跡船を航行可能にするという事、実の所船体の半分はまだ小天体に埋まっている。

 この遺跡船は船体前部が平べったく、全翼機の様な構造をしており、それにエンジンブロックが接続している形状を取っている。(形状的にはエウレ○のスーパーイズモ艦?色は灰色)

 

 

 大きさはこのフネに残されたデータによると、全長が約36kmもある。

 武装は現在の所、あるにはあるのだが、調べてない為どんなものかは不明。

 ただ既存のレーザーやミサイルの様な兵器では無いという事は判明している。

 

 装甲素材も不明、内部工廠で生産可能であること以外はよくわからないらしい。

 それと機関部については、補機としてインフラトン機関が搭載されているが主機は別。

しかも現段階で理論でしか無い筈の機関が搭載されていることが判明している。

 

 

その名も相似次元機関―――

 

 無限に存在する次元空間から自身の次元よりも高エネルギーを持つ相似性の高い次元を選別し、相似次元からエネルギーを此方側へと移しかえる作業を繰り返すことで、理論値限界以上のエネルギーを機関内に形成したユークリッド空間へと復元させ、超高エネルギーを生み出せるエンジン。

 

―――らしい。技術的な説明は勘弁して欲しい。

 

 

 簡単に言っちまえば、インフラトン機関みたく別次元からエネルギーを得る機関だ。

 ただ、インフラトン機関よりも出力が高い・・・と言うか理論上は上限がないらしい。

 違う次元からエネルギーを移すことからシフト・サイクル・エンジンとも言うそうな。

 

 また機関に限界出力が設定されているが、ソレは機関部の耐久値である。

 それ以上は機関部が造り出す出力に、機関部の構成素材が耐えられないらしい。

 完全稼働出来れば武装撃ち放題なので、ある意味チート機関です。蛇足です。

 

 

 こんな強力なフネだったが、長年眠っていた為、本調子では無い個所もある。

 後で気がついたのだが、この遺跡船オキシジェン・ジェネレーターが積んでなかったのだ。

 何と今時珍しい閉鎖式バイオプラントと密閉式ケミカルプラントのハイブリッドだった。

 

バイオプラントの方は、余りに放置されていた所為で植物が死滅し、当然稼働していない。

現在このフネの空気を提供しているのはケミカルプラントだが、ソレも調子が悪いのだ。

そりゃ一万年近く放置されてた訳だしな。何処か不具合も出るだろう。

 

 他にも操船方法がまだよくわかっていないし、船体各所にロストテクノロジーと思われる装置も多数確認されている。

 全体的に技術力が非常に高いのだが、所々現在と劣っている部分もあるから不思議だ。

 

 

 まぁこうして色々と思い返してみたが・・・・大きさだけで、ちょっとした要塞だな。

 むしろ宇宙基地が、そのまんま戦闘機動が取れるフネになったと考えるべきか?

遺跡船と書いて要塞艦と読んだ方がいいかも知れん。

 

 当然目立つ事この上ないから、ステルスモードを使う為の特殊素材の塗装を急がせている。

 幸い艦内工廠で作れるらしいのだが・・・ストックしていたレアメタルが全部消えるらしい。

 

 レアメタル無くなりました!――ああ、次は金稼ぎだ・・・。

 まぁそんな訳で色々と考えねばならぬことに頭痛を感じつつも居住区へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――ざわ・・・・ざわ・・・・・

 

 

一度大居住区へと戻ってきた俺は、現在の住処である天幕へとやって来ていた。

 今後どうしようかと頭を悩ませていると、何やら人だかりが出来た一角が目についた。

 

 

「・・・・ん?何スかあの人だかり?」

 

 

 近寄って見ると、トスカ姐さんやその他のクルーの姿も見える。

 確かその天幕はサド先生が居るところだから、医務室関連だろうか?

 

 

「どうしたんスか?誰か大けがでもしたんスか?」

 

「ユーリか・・・ちーと不味い事が判明してね」

 

「不味い事?」

 

 

 俺が話しかけると、やじ馬が道を開けてくれた。

 トスカ姐さんは俺を確認すると、眉間にしわを寄せていかにも大変だって顔をしている。

 

 

「密航者が居たんだよ。しかも密航してたのはキャロ・ランバース。ゼーペンストで助け出して保安局が連れ帰った筈のお嬢さんさ」

 

「うげ!マジっすか?」

 

「ちなみに発見者はファルネリさ。コンテナ整理をしてたら見つけたらしい」

 

 

 おいおい、どうやってユピテルのセキュリティを突破したんだ?

 

 

「・・・・って、あれ?ファルネリさん残ってたんスか?」

 

「私物を取りにユピテルに戻ってたら、そのままフネが出港しちまったんだそうだ。んで、そのまま不貞寝してたら何時の間にか戦闘終わっててビックリだってさ」

 

 

 ・・・・・俺としてはヴァランタインとの戦闘の最中に、グースカ寝てられたって所に驚きを禁じ得ないんスけど・・・え?それも秘書の嗜み?秘書パネェなオイ。

 

とりあえず、保護したキャロ嬢は何やら衰弱しているらしいので、現在医務室代りの天幕にいる密航者さんの所に居るらしい。

 

 

「はぁ、どうやってもぐりこんだのか聞きださないと・・・」

 

「じゃ、案内するよ。こっちだ」

 

 

とりあえず様子を見る為に、キャロ嬢の所に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――医療天幕。

 

 

 天幕に入ると治療用ベッドに点滴をつけて眠る、見覚えのある金髪の少女が寝かされていた。

その少女、キャロ嬢に付き添うファルネリさんが、俺達が入って来た事に気がついた。

 立ち上がって今にも謝りそうに頭を下げようとする彼女に、俺は手をだして制止させる。

 

 

「あ、あの・・・」

 

「ファルネリさん、貴女が謝る必要はないッス」

 

「しかし・・・」

 

「彼女が忍び込んでいた事に気がつかなかった此方にも否はあるッスよ」

 

「・・・・すみません」

 

 

 いや、そう申し訳なさそうにされると、こちらとしてもどうにもやり辛いぜ。

 とりあえず、キャロ嬢の容態を聞く事にしよう。

 

 

「それで、キャロ嬢は大丈夫何スか?」

 

「あ、はい。只の脱水症状ですから大丈夫です。お嬢様が忍び込んでいたのが食糧コンテナでしたから、栄養は取っていたみたいですし」

 

 

 そして話しを聞いて行くうちに、どうやってキャロ嬢が忍び込んだのか大体掴めてきた。

 ユピテルはゼーペンストのステーションに停泊していた。

 ステーションでは停泊したフネに自動的に補給が行われるシステムがある。

 恐らく逃げだしたキャロ嬢は、隠れ場所としてコンテナに忍び込んだ。

 

 そしてそのコンテナがウチの補給に使われるコンテナだったらしい。

 キャロ嬢が入ったコンテナはユピテルに乗せられた。 

 多分そのコンテナがユピテルに補給されるコンテナだって知ってたんだろう。

 大方出港してからコンテナから飛びだして、俺達を驚かせそのまま自分を送らせようって魂胆だったのだ。

 

 

 ―――だが誤算があった。

 

 ユピテルはそのままヴァランタインとの交戦に突入したのだ。

 飛びだそうにも外はドンパチやっているので出るに出られない。

 仕方なしに彼女は閉じこもることを選択したらしく、付近のコンテナから水を探し出した。

 

 まぁ攻撃が直撃したら何処に居ても大体同じ運命だし(要は死ぬって事、意外とドライだよな)、戦闘が無事終わればソレで良し、てな訳でコンテナに潜んで戦闘が終わるのを待っていた。

 んで、その後も結局出るに出られなくて、こうなったって事か。

 

 

「それと、心配なのは、お嬢様は先天的なフェルメドシンホルモン欠乏症なのよ」

 

「じゃあ、今回倒れたのって・・・」

 

「あ、今回は只の脱水症状らしいから大丈夫よ。それに一応薬は私が持ってるしね」

 

 

 フェルメドシンホルモン、ソレは低重力症や宇宙放射線に対する耐性を強めるホルモンの事。

 コレがあるからこそ、俺達は過酷な宇宙空間でも長期にわたる航海が出来るのだ。

 ちなみにこの病気はいわば先祖返りみたいなもので、根治治療法がない。

だが足りないホルモンを注射すればいいので生活に支障は無いそうだ。

 

 

「だけど、手持の分だとどれだけ持たせる事が出来るかわからないのが辛いわ」

 

 

 手持の無針注射機を見せるファルネリさん。

 医務室があるとはいえ、薬を作る様な設備は生憎搭載していない。

 遺跡のシステム使えば造れなくも無さそうだが、完全に解明した訳でもないしな。

 どうしたもんかと頭を傾げていると、俺の後ろに立っていたトスカ姐さんが声を発した。

 

 

「あー、それなら大丈夫だと思うよ?しばらくは」

 

「え?どういう事ッスか?トスカさん」

 

「この間の調査で分かったんだが、この遺跡船元々長期間にわたる航海を目的にしてるらしくてさ?私らが使用するフネの何十倍も宇宙線やそう言ったのに対するシールドが強いんだよ。艦内環境も外見ればわかるだろうけど地上とほぼ変わらない様に造られてるしね」

 

「成程、確かにそれならお嬢様に使う薬の量も抑えられるわ」

 

「ま、幾らシールドされてても完璧じゃないから、どこかの惑星に寄って薬を補充しないといけないだろうけどね」

 

 

 ふむ、ってことは多少遺跡船のステルス加工を行う工期を延期してでも、動かせるようにしないと不味いか。

今の彼女はカルバライヤとネージリンスが戦争を起すか起こさないかのキーマン。

 失われる訳にはいかないのである。

 

つーかご自分の身分解ってんだろうかね?

コレでもしユピテル沈んでたら、キャロ嬢の救出が失敗に終わっていたって事になる。

激怒したセグウェン氏が報復として戦争を逆にカルバライヤに仕掛けないとも限らないぜ。

 

 

「・・・・・ところで、キャロ嬢が無事な事連絡したんスか?」

 

「あ、いいえ。お嬢様が発見されたごたごたで・・・」

 

 

 つーことは、まだ連絡して無いって事か・・・。

 

 

「トスカさん」

 

「あいよ。通信ポッドをネージリンスとカルバライヤに射出しておくよ」

 

 

 そう言うと彼女は天幕から出て行った。

 実はIP通信を含めた超長距離通信が今出来ないんだよね。

 この間の戦争で通信室を含めた殆どが吹き飛んじまってるからさ。

 やや旧式だけど、通信ポッドを射出して上手く届く事を祈るしかない。

 

 

「まったく、このお嬢様は色々と問題起してくれるッスね」

 

「め、面目無いわ」

 

「そう思うなら、今度はきっちり手綱握っておいてくれよ?一応貴方達は客分扱いにしておく。流石にコレ以上の援助は出来ないッスからね」

 

 

 苦笑しながらそう言うと、ファルネリさんは驚いた様な顔をした。

 

 

「え?私も?」

 

「忘れたんスか?ファルネリさんがウチに務める期限って、キャロ嬢を救出した時までッスよ?」

 

 

 彼女が白鯨艦隊でクルーとして働く期限は、キャロ嬢を発見し救出した時まで。

 コレは彼女自身が決めた契約内容だ。違える訳にもいかないでしょ?

 

 

「だけど―――」

 

「それに、貴女の本来の仕事はキャロ嬢のお世話にある。そこら辺は我々より気心の知れた貴女じゃないとダメでしょ?」

 

「艦長・・・・ご配慮感謝します」

 

 

 彼女は立ち上がると、綺麗な姿勢できちんとした敬礼を俺にしてきた。

 今の彼女に出来ることはそれしか無いからである。

 俺はソレをみて頷き、敬礼を受け取った事を示した。

 

 

「はは、なんのなんの・・・ですが、彼女にキチンと言っておいてくださいよ?他人のフネに勝手に乗り込んだ場合、撃ち殺されても文句は言えないって事を」

 

「ええ、必ず!もうこんなことさせない様にキッチリみっちりと英才教育を――」

 

 

 なんか瞳に火を灯らせたファルネリさんを見て、キャロ嬢哀れにと思っちまった。

 財閥お嬢様の教育とか大変そうだよな。礼儀やマナー辺りがさ?

 

 

「それじゃ、俺は我がままお嬢様が目を覚ます前に撤退しますッス。後は任せた!」

 

「お任せください!清楚な淑女に仕上げて見せるわ!」

 

 

 あれ、なんか話しがかみ合って無い様な気が・・・まぁいいか。

 俺はそのまま立ち上がり、サド先生の天幕を後にしたのだった。

 なんとなくこのままいたら、キャロ嬢が起きて面倒臭い事になりそうだったかな!

 はぁ、しっかしお荷物拾っちまったぜ。これからどうしよう?

 

 

***

 

 

 さて、それからまた時間は過ぎて数日が経過していた。

 この遺跡船の重要区画についてはあらかた把握出来たらしい。

 コレもユピがシステムをあらかた掌握してくれたお陰だろう。

 

 まずこのフネは大まかに分けると、船体前部には工場区画がある。

 そこでは日用品からフネの部品まで、大抵のモノを作ることが可能である。

 勿論設計図か資料がなければモノを作ることは出来ないが、それでもフネを動かすには十分すぎるらしい。

 

 そして船体中央部には大居住ブロック、まぁ今俺が居るところだな。

 10kmのドーム状巨大空間に町がすっぽりと収まっているのだ。

 その数あるビル群の幾つかを改装し、現在仮の住まいという事で寝泊まりしている。

 

 流石に天幕の簡易ベッドじゃ安まらねぇからな。

遺跡の内部構造を見るに、遺跡を使ってたのが人型生命体だったのがありがたいぜ。

 お陰で改装をするとしても最低限の人間とドロイド達で事足りたからな。

 

 

そして俺はそのビル群の一つ、臨時の艦長室代わりの部屋にて仕事中だ。

 遺跡船内で見つかった資材や物資、その総数を計算しどれほど持つのかを計算するのである。

 何でかって言うと、俺くらいしかそう言うのが出来る人間が居ないからだ。

 

 会計係だった生活班の人間をアバリスに引き上げた為、また俺が主計・会計・事務をする羽目になったのである、ユピが手伝ってくれるので、なんとか体裁を保っているって所か。

 こういう時演算計算に強いAIって便利だと思う。

 

 

「・・・・さて、今日もお仕事するッス!」

 

「艦長!ガンバです!」

 

 

 ユピの応援を受けて、いざ艦長室に臨時設置されたコンソールを立ち上げようとした。

 コンソールの機動スイッチを押そうとしたその瞬間――――

 

 

≪バンッ!≫

 

 

 音を上げて開かれる扉。それと―――

 

 

「やっほー!お邪魔するわよユーリ」

 

 

 ――――金髪の少女、このフネの客分であるキャロ嬢が部屋に入って来た。

 

 

「邪魔するんやったら帰ってくれッス~」

 

「わかったわ~、って違うわよ!私は遊びに来たの!」

 

「そうッスか~、でも俺はこれから仕事があるッス。だからお帰りは後ろのドアッスよ~」

 

「ああん、もう!笑いながら出てけって言うのね!でもそう言うところもいいわ!」

 

「・・・・(言外に帰れって言ってんのわからんのかい)」

 

 

 柔らかく退室を命じているのだが、どういう訳だか彼女は艦長室のイスに勝手に座っていた。

 まるでこの部屋は自分のモノだと言わんばかりである。

仕事しないといけない身な為、仕事の最中に話しかけてくる彼女は非常にうっとおしい。

 

いや、彼女の事嫌いってワケじゃないですよ?なんつっても美少女だしね。

容姿も非常に良いんですよ。それこそ何処のアイドルってなくらいに。

だけど、毎回毎回艦長室に飛び込んで来ては執務の邪魔をされるのは困る。

 

そりゃ時たま相手にする分は良いですよ?俺だって仕事の鬼とかじゃないし。

だけどこの数日毎回押しかけてくるんだぜ?うっとおしく感じてくるってモンだ。

 

 

「ねぇ~ユーリかんちょー、遊ぼうよー」

 

「あんね?俺仕事あんの。コレやらないとダメなの。解るッスか?」

 

「そうですよキャロさん。艦長のお仕事の邪魔をしないでください」

 

「あ~ら、私は邪魔しに来た覚えは無いわ。ただ、遊んで欲しいだけ」

 

 

 天真爛漫もココまで行くと我がままにしか見えてこないな。

 と言うか、彼女が駄々を言うたびに背後の気温が低下してる気がする。

 怒ってますよね?絶対怒ってますよねユピさん。

 

 

「仕事って言ったって、コンソール弄くってるだけじゃん!」

 

「在庫整理の為にコンソール使ってるッス。大体コレ使わないと仕事にならんス」

 

「えー、おじいちゃんは普通に書類は紙のを使ってたよ」

 

 

 今明かされる事実、セグウェン氏はレトロ派であった!

 ・・・・どうでもいい事実だな。

 

 

「それにほら、可愛い子がせっかく部屋に訪ねて来てるんだからさ?なんかクルもの無いの?」

 

「HAHAHA、クルって何が?」

 

「だって私、自分で言うのもアレだけど可愛いし」

 

「残念、俺の好みは可愛い系じゃなくて瀟洒で清楚系なんスよ(・・・胸も無いしな)」

 

「むか、何か今すっごい失礼なことを考えたでしょ?」

 

「御冗談を、私目は只仕事がしたいだけッスよ~」

 

「ふ~ん、まいっか。でもでも、遊んでくれないならお話しようよ!」

 

 

 う~ん、キャロ嬢って最初会った時はもう少し理知的だった気がするんだが。

 なんか性格幼くなってません?しかも我がまま方面に特化している様な気もする。

 いやまぁ、実際我がままなのかも知れねぇけどさ。

結構ご令嬢ってヤツは、窮屈なのかもねぇ。

 

 

「ねね!少しで良いから、またお話してよ!0Gになってからの事!」

 

 

 こうして俺に0Gドックやってる話を聞きたがるってのも。

 自分はソラに上がれないって事を知ってしまっているからなのかもねぇ。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

「――――まぁそう言う訳で、アルゴンを倒して、そいつの基地にあったモンを全部頂いたんス」

 

「あっきれた。まるで強盗ね」

 

「合法スレスレッスよ。あくまでも海賊を対峙したら“拾った”もんスから」

 

「うわっ、グレーなのねぇ。0Gってそんなの日常茶飯事?」

 

「むしろ、そう言う旨味がないと部下がついて来ないッス・・・幻滅したッス?」

 

「ううん、むしろ凄いと思ったわ」

 

「そいつは良かった。さて俺はそろそ「で、その後は?」・・・仕事させてくれッスー」

 

 

 不味い、かれこれキャロ嬢相手に2時間近く話している。

こんなとこトスカ姐さんに見られたら「しごとしろー!」って言われて殺されちまう。

 ・・・・・最近トスカ姐さんの尻に敷かれているような。え?前から?さいですか。

 

 

「はぁ、あのねぇ。もう時間的に不味いんスよ。いい加減にしないと人を呼ぶッスよ?」

 

「あら、紳士なユーリ艦長はいたいけな少女をいじめるというのね?」

 

 

 なーにがいたいけな少女だよ。

ワザとらしくハンカチ咬んでヨヨヨとか言ってんじゃねぇ。

 大体それ棒読みじゃねぇか。

 

 

「キャロさん、本当にいい加減にしてください(艦長と二人っきりの時間がドンドン減る!)」

 

「いいじゃない。こうやってリフレッシュする事も、時には必要よ?(ふーん、この子もなんだ)」

 

 

 ユピがキャロ嬢を諌めるが、あんまし聞いていない様である。

 つーか何で竜虎の幻影が見えるんやろうか?なんの対決だオイ。

 

 結局その日も、報告に来たトスカ姐さんに見つかって酷い目にあった。

 しかもユピの視線が、なんか俺を責めている様な視線だった。

 

う~ん、俺が仕事しなかったから怒ったのかな。

後で食事にでも誘って謝っておこう。

 

 

―――しかし、本当にコレ以上は不味いな・・・どうしたもんだろう。

 

 

***

 

 

 さて、それから更に時間が立ち、不時着してから約一カ月近い時間が経った。

 ようやく、このフネを小天体から飛び立たせる程度には調べ終わった。というか、既に物資の在庫が底を尽きそうだった事が判明し、急いで補給しに行かなければならない事がわかったのである。

 

 今ある在庫で行くと、倹約してあと1カ月で全員餓死する可能性があった。

 やはりユピテルの抉られた半分にあった倉庫の中身が、あの時一緒に消し飛んだのが痛い。

 なのでとりあえず飛び立たせる事を中心に作業を続け、ようやくその目途が経った。

 

 

―――そして今日は遺跡船が旅立つ日でもある。

 

 

「遺跡船・・・いや、要塞戦艦デメテール。出港準備開始せよ」

 

 

 そしてこのフネの新しい名前、要塞戦艦デメテール。大規模な閉鎖式バイオプラントを有するこのフネは、バイオプラント自体が農場になる為、多くの実りをもたらしてくれる豊穣神の名前が相応しい事だろう。

 

今は植物が無いからアレだが、いずれは緑を増やしていく予定である。

いやさ?人間やっぱり自然が無いと心が休まらないっていうの?

幸い居住ブロック自体が自然ドームみたいなもんだ。

けど、今は植物がない荒廃とした感じだし、どうせ住むなら自然が多い方がね。

 

 

「出港準備が発令されました。各員配置についてください」

 

「艦内環境システム異常ありません。全てオールグリーン」

 

「FCSは異常無し・・・だけどテストしてみないと後は不明っと」

 

「装甲板及び防御フィールドに異常は見られない。デフレクターも問題無く稼働出来る」

 

 

 各部署の報告が上がって来る。 

 手元にあるコンソールは、遺跡船に元々付いていたコンソールでは無く、ユピテルに搭載されていたコンソールと付け変えた奴なので、扱い慣れたソレを操っている。

 多少レイアウトが変化しているが、ソレはこのフネに付いている機能を使う為のモンだ。

 と言ってもまだテストして無いから触るな危険って張り紙してあるけどな。

 

 

 

「補機・インフラトン機関臨界稼働開始、主機・相似次元機関も問題無く稼働開始」

 

 

 補機であるインフラトン機関が稼働し、エネルギーが増して行く。 

 そのエネルギーを用い、主機である相似次元機関も機関内出力を上げていった。

 I3エクシードエンジンとはまた違った始動時の稼働音が船内に響く。

 

 

「主機、間もなく設定臨界に到達します」

 

「デメテール、発進!」

 

「主機関、推進機とコンタクト!」

 

 

 リーフが操舵席のコンソールにあるレバーを引いた。

 すると臨界出力で稼働してた機関の稼働音が――――

 

 

≪ギュゥゥゥゥン――――・・・・・≫

 

 

―――急に小さくなるのを聞いた・・・・。

アラ?失敗?一瞬ブリッジクルー達の間にそんな思考がよぎる。

 リーフは冷や汗をだらだら流しつつもレバーを引いた状態で固定されていた。

 

 

「もう一度―――」

 

 

 俺がそう言いかけた瞬間。

 

 

≪・・・・―――――ヴィーーーーーンッ!!≫

 

 

 再び艦内に響くエンジンの駆動音。

 それは間違いなく、このフネの心臓部から発せられる音だった。

 今まさに長い眠りから、この遺跡は目覚め、白鯨艦隊旗艦として産声を上げた瞬間だった。

 

 

「主機完全に起動しました。推進機とコンタクト完了」

 

「「「よっしゃー!!」」」

 

 

 ブリッジ内に歓声が漏れる。だけど、まだエンジンが動いただけだ。

 

 

「本艦はこれより試験航海を兼ねて出港する!近隣の宇宙島へと航路設定ッス!」

 

「目的地設定は近隣の宇宙島っと、りょーかいユーリ。それじゃ改めて」

 

「デメテール、発進ッス!」

 

「デメテール発進、ヨーソロ。デフレクター稼働開始」

 

 

 俺の命令によって推進機が稼働し、船体が振動する。

 グラヴィティ・ウェルとデフレクターが周辺の岩塊や土砂を吹き飛ばして行った。

 そして推進機が稼働し、推進力を得たデメテールがゆっくりとだが力強く発進する。

 

 完全に蘇った遺跡船は、力強く自らの半身が埋まっていた小天体を打ち破り、デブリを撒き散らしつつも宇宙空間へと飛び出したのであった。

 

***

 

Side三人称

 

 

 

―――離脱した白鯨艦隊。

 

 少し時間は遡り、ユーリ達と別れたトーロは、アバリスを一路ネージリンス領へと向けていた。自治領では無く正規国家領である為、大海賊といえども追跡は困難であると判断したからである。

 

 

「トーロ艦長、惑星ティロアに到着しました」

 

「了解だ。修理と補給をステーションに打電しておいてくれ」

 

「アイサー・・・・ユーリ艦長、無事でしょうか?」

 

「心配すんな。あいつがこの程度でくたばるタマかよ」

 

 

 部下の不安そうな質問に笑って返すトーロ。しかし内心は似た様なモノであった。

 確かにあのバカは殺そうがすり潰そうが“痛かったッスー”とか言って復活しそうだ。

 しかしあの時戦ったのは、言わずと知れた大海賊ヴァランタインなのだ。

 艦隊を組んでいた時にすら勝てなかったのに、単艦で挑んで勝てる訳がない。

 

 そう言った意味では、今の白鯨艦隊残存クルー達の結束力も心配だ。

 今のクルー達は殆どがユーリを慕っていると言っても良い。

 そんな中、ユピテルがユーリと共に沈んだとなれば、クルーの結束力が瓦解する可能性もある。

 どうしたもんかと思いつつ、頭を抱えたくなる衝動を抑えるしかないトーロ。

 

 本来彼はこういった頭を使うことに全くと言っていいほど向いていない。

 でも今は自分が白鯨艦隊のクルー達を率いているのである。

 それ故に掛かる重圧は一艦の艦長をしていた時とは比べ物にならなかった。

 

普段こんな重圧受けて仕事してたのか、ユーリはスゲェな。

 そんな考えが浮かび、苦笑するしかない。

 とりあえず今後の方針を決める為、こちらに残った主要クルー達を集めることにした。

 

 

「―――さて、とりあえず集まってもらったんだけどよ。俺が言いたいことはなんとなく解るよな?」

 

 

 アバリスの会議室でトーロが集まった人間にそう問いかけた。

 集まった人間は殆どがトーロのその言葉に頷いていた。

 

 

「ああ、今後どうするかって事だろう?」

 

 

 イネスは少しずれていた眼鏡をクイっと上げながらそう応える。

 彼はユーリが死んだなんて一欠けらも考えてはいなかった。

 むしろそれまでにフネが瓦解しない様に全力を尽くすつもりである。

 

 

「・・・私は、ユーリを探しに行きたい」

 

 

 そう応えたのはチェルシーだ。

彼女はユーリの義妹だから、彼の事が心配で仕方がないのだろう。

 そして彼女の言葉は、現在会議室の様子を携帯端末で聞いている大半のクルーの総意でもある。

 

 

「待った。今の私たちじゃ死に行く様なもんだ」

 

「戦力差は歴然でしたもんね~。探しに行くのはムリ~」

 

 

 そのチェルシーに待ったを吐けたのはアコーとエコーの姉妹である。

 彼女等とてユーリを見捨てたい訳ではない。しかしエコーが言ったように、戦力差は歴然である。

 

 まだあの宙域にヴァランタインが居るかもしれないのに戻るのは、せっかくその身を盾に逃がしてくれたユーリの思いを裏切ってしまうのではないかと考えていた。

それに賛同したクルーは機関室クルーを現在取り仕切っているルーべも含まれていた。

 

 

「ふむ、まぁわしは正式なクルーでは無いから、何とも言えないネ」

 

「私は面白ければいいから、どっちでもいいんじゃよーっと」

 

 

 とりあえず集まっていた人間にはジェロウ教授、それとヘルガがいた。

 ジェロウは研究家であり、実質的な科学班の親玉となりつつあるが、フネの事に口出しできる立場では無い。またヘルガも元はヘルプGであり、フネに関する知識は持っているが本人にその知識を使う気は無かった。

 

 ヘルガの場合は単純に面倒臭がっているというのもある。新しい身体に変わってから性格に変化が生じたからだろう。ジェロウやヘルガに賛同したのはリアやライ達である。どちらにしろ彼らはフネの運航に口出しできる立場の人間では無いと思っていた為、口を噤んでいた。

 

 

 こうして始まった会議ではあったが、話しは混迷を極めた。

 助けに行く側と待つ側とで意見が真っ向から対立していたからである。

 唯一の救いは、その根底にはユーリ達を助けに行きたいという思いがあるという事だろう。

 それが今すぐ助けに行くか、ユーリ達を信じて待つべきかと言う風に別れただけなのだ。

 

 

「早く助けに行くべきです!」「だから危険過ぎるってば!」「ユーリ達が心配じゃないんですか!」「クルーの生活も考えろ言ってんだ!」「それに私たちにも~もし何かあればユーリ君悲しむよ~?」「ぐっ、だけど」「俺だってチェルシーちゃんと同意見だ!」「俺も!」「ラーメン食べたい!」

 

 

 騒々しく声が飛び交う会議室、若干違うのも混ざっている様な気がしたが気にしない。

 トーロは半分どなり声になりつつある会議の様子を、ただじっと眺めていた。

 というか、最初の時に声を出してから一度も声を出していない。

 

 

(やべぇ、言いたい事言われた挙句、言いだそうにも言いだせないぜ)

 

 

 いや、正確には熱気に押されて口出しできる状況じゃないからだった。

 彼にだって言い分はあるが、ソレを今の段階で言っても火に航空燃料を入れる様なものだ。

 只でさえカオスなのに、コレ以上混沌とさせたら手がつけられないだろう。

 さて、白熱している会議室だったが、とあるヤツが言った一言で凍りつくことになる。

 

 

「相手はヴァランタインだったんだ。不幸な事故と思ってあきらめた方がいいと思うぜ」

 

 

 ソレを言ったのは、まだ入ってから日が浅い新米クルーだった。

 そのクルーが現状に対し、その様な事を言った理由も解らなくは無い。

ヴァランタインに逆らう事は死を意味する。

小マゼランに暮らす人間にってそれは常識であったのだから。

 

 

「――ッ!不味い!チェルシー!」

 

 

 その時トーロは急に自分の席を立ち、鍛え上げた肉体を最大限に駆使して走りだした。

そしてそのままチェルシーを背後から羽交い絞めにしていた。

突然のトーロの奇行に周りの人間は驚いていたが、ある一点に目が言った時に理解した。

トーロが必死で抑えつけている彼女の手の中に、小型のメーザーサブマシンガンが握られていたのだから。

 

 

「・・・・はなしてトーロ、そいつ殺せない」

 

「だぁー!俺のフネん中でスプラッタは勘弁してくれ!ホラ!お前も謝れって!」

 

「ひぃっ!へあ・・・」

 

「早く!」

 

「す、すみませんでしたチェルシーさん!!絶対艦長は生きてますーーー!!!!!」

 

 

 先程諦めた方が良いといったクルーは、普段は柔和なチェルシーの変貌に腰を抜かしつつも彼女に向けて土下座をしていた。そうしなければ殺されると本能が訴えたからである。

 

 

「ほら!コイツも謝ったんだ!頼むからユーリにチェルシーをフネの外に放り出したなんていい訳を俺にさせないでくれ!」

 

 

 土下座を続けるクルーと必死に止めるトーロを見て、最初は感情がないくらいに無表情だったチェルシーの身体から力が抜けていく。しかし目から危険な光りは消えておらず『次同じこと言ったら殺す』という光りをはらんでおり、ソレを見ていた人間を戦慄させた。

 

 

「はぁ・・・胃薬が欲しいぜ」

 

 

 チェルシーをなんとか落ちつかせたトーロは、自分の席に戻りながら思わずそう呟いた。

 彼女も最初に比べれば落ち着いて来ていたが、やはり長年の性質は変えられないのだろう。

 

 こりゃしばらくユーリ関連のジョークはチェルシーの前では出来ないと思いつつ、食べ過ぎによる腹痛以外では服用する事が無かった胃薬が必要になりそうな現実に、頭を抱えたくなったトーロだった。当然頭痛薬もセットである。

 

 

「・・・さて、話しを戻すがな。俺としてはやはりアバリスを動かすことは出来ないと思う」

 

「―――ッ!」

 

「チェルシー、落ちつけ。トーロがまだ話してる」

 

 

 何やら激昂しそうになったチェルシーをイネスが宥めている。彼女は普段平常に見えても、こういった自体になると途端に昔の様にユーリに依存していた頃の面が出てきてしまうようだ。勿論、普段は普通である、しかし今回の様にユーリ達が生死不明になるとはだれが予想出来ようか? 

 

 そんな彼女を後目に、トーロは言葉を続けた。

 

 

「チェルシーや他の皆が思う事も解るぜ。だけどな、俺達はユーリに生かされたんだ。ココまで育てた白鯨艦隊が壊滅しない様に、態々艦隊構成員の3分の2を移動させてまでな」

 

 

 しんっと静まり返る会議室、携帯端末の向うに居るクルーも声を発しない。

 バカな話である、この時代人が死ぬなんてザラなのだ。

 態々他人の為に命を張るバカは本当に少ないのである。

 

 そして、ユーリはそのバカ・・・いやさヴァカの一人だった。

 フネの艦長とは厳格なモノである。フネの法律そのものと言っても良い。

 ソレは人類が宇宙に進出するよりずっと以前、風の無い時代よりもさらに昔。

まだフネが海洋上に浮かんでいた時代から変わっていない常識である。

 他人に厳しく、自分にも厳しい。そう言った人間が艦長に求められるのだ。

 

 そう言った意味では、ユーリは艦長失格であったことだろう。

 普通艦長とクルーとは気軽に会話したりなんてしない。

 そこには必ずと言っていいほど上下間の隔たりが存在している。

 だがユーリはどのクルーに対しても“平等”だった。

 非常に人懐っこく、言い方を変えれば友人と接するようにクルー達と接していた。

 

 それは彼の中身がこの時代から1万年近く前の地球にある日本人だったからかもしれない。 

 艦長とは何かなんて知る由も無い元一般人の彼は、ただ普通に接していただけだ。

 それが傍から見れば異常であり、また新鮮な驚きであったことも確かだ。

 艦長と一緒に飯を食べて、一緒に呑んで、一緒に二日酔いにかかる。

 最後のはともかく、同じ釜の飯を食った者同士愛着は湧いてくるモノである。

 

 

「だから俺達は生きなきゃならねぇ。ユーリ達が生きているにしても死んでいるにしても、だ」

 

「・・・・絶対に、生きてるよ」

 

「ああ、その通りだぜ。コレでユーリが死んでたら、あの世までアバリスで乗り込んで怒突かなきゃならんだろ?」

 

 

 更なる沈黙、あ、ヤベ、外したかとトーロは思った。

だが、誰かがクスリと笑う声が会議室に聞えた。

なまじ周りが静かだった事もあり、余計に響いて聞えたソレは伝搬していく。

徐々に笑いへと変わっていく声に、会議室は包まれていった。

 あの半黒化していたチェルシーですら、周りの空気に当てられたのか、いつもの柔和な顔に戻っている。

 ――――そう、全員解っているのだ。

 

 ユーリは絶対に死んでいない。アレが死ぬ時は世界が終わる時くらいだろう。

あのバカは絶対に自分たちの想像を超えた事をしでかすに違い無い。

 それこそ思わずはぁ?と言ってしまいそうな、何かを持って・・・。

 

 

「とにかく、俺達はユーリからお呼びがかかるまで、艦隊を維持していくって事だ。あいつが戻って来た時に必要なクルーが居なきゃ意味がないからな」

 

「成程、確かにそれは言えるな」

 

「だろ?んで本題何だが―――」

 

 

 トーロはココである提案をした。

ソレはユーリ不在の間、暫定的に艦隊を指揮する司令を決めようというモノだ。

 クルー達はてっきり艦隊唯一の残存艦アバリスの艦長をしているトーロがするものと思っていたので、トーロのその提案には驚いていた。

 

 

「ほう、トーロ君がするのではないのかネ?」

 

「よしてくれよ教授、俺はそんなガラじゃねぇよ」

 

 

 正直、現段階でも大分胃が痛いのだ。

更に責任を負われそうな部署に臨時とはいえなりたく無い。

 幼馴染であるティータが後ろから情けないわね~という視線を送って来る。

 だがしかし、トーロもこればかりは自分の独断で決めるつもりは無かった。

 ・・・・・流石に胃薬と頭痛薬のデュアル接種は簡便だと思ったからだ。

 

 

「でだ、俺はイネスを押したい」

 

「え!ぼ、ボクかい?!」

 

 

 唐突に自分の名前を言われたイネスは、跳び上がりそうなくらいに驚いていた。

 そりゃ確かに以前は自分のフネを持ちたいと思ってはいた。

 だが、司令という艦隊では実質上頂点に君臨する役職に指名されるとは予想外だったのだ。

 その為予想外の事態に狼狽しているイネスだったが、トーロはそれを見て別の事を考えていた。

 

 

「・・・・(生贄ゲーット!!)」

 

 

 気が動転しているイネスは今のところ気がついては居ないのだが、艦隊の運用にはかなりの苦労が付きまとう。それこそ胃に穴が開く様な事ばかりなのを、トーロは身近な人物であるユーリを見て知っている。

 

 ユーリは艦長兼司令なので、最初の頃は司令の仕事をこなしつつも艦長をしていたのである。今は総務課があるが、当時は人材が足りなかったというのもあるし、本人も既に慣れてしまっていたので余り気にしてはいないのだが、その仕事量はかなりのモノがあるのだ。

 

 フネの備品、装備、艤装、補給品リストの確認などなどの仕事。

そして何よりも一番厄介なのは、クルー達の不平不満の申し立て処理である。

 

やれもっとうまいモノが食べたい、売店の品物を多くしてくれといった即物的なものから、コイツが嫌いだから部署を変えたい、好きな子が居るんだが話しかけることが・・・といったお悩み相談的なモノまであるのだ。

 

 中には差出人も名前も何も無く、只一言「やらないか」と書かれたメールが来た事もある。当時それを初めて受け取ったユーリは、しばらくの間ずっと辺りに気をめぐらして、特に近寄って来る男性クルーに警戒していたのはまた別の話である。尚、犯人は見つかっていない。閑話休題。

 

 要するに何が言いたいのかと言えば、トーロはていの良い生贄を求めたという事だ。

 流石に自分にあれだけの事務を遂行する能力も力も無い。

 事務屋が居るとはいえ、今の状況かだ。不平不満も膨大な量になることが予想される。

 

 

「だ、だけどトーロ、ぼくだってそう言った事はしたことが・・・」

 

「大丈夫、あのユーリにだって出来てたんだ。要は慣れだ慣れ。他の連中も、もしもやってみたいってんなら立候補しな。選ばれれば俺は従うからよ」

 

 

 さぁ生贄よ・・・早く決まりたまへと、トーロは内心ほくそ笑んでいた。

 白鯨に入ってから何気に腹黒くなっているトーロ。コレもユーリの影響だろうか?

 ソレはさて置き、悩み始めるクルーを見て、コレで思惑が達せられると踏んだトーロであったが、予想外の所でソレは破られてしまった。

 

 

「・・・・いや、ぼくはいいよ。参謀役の方が性に合っている気がするしね」

 

「そうか、そいつは残念「その代わりぼくはトーロを押すよ」――は?」

 

 

 イネスが辞退した為、別の奴を押そうとした矢先、突然イネスがトーロを指名した。

 突然の事に今度はトーロが目を白黒させている。

 

 

「只でさえ混乱しているのに、冷静にみんなを招集して会議を開き、おまけにそれを指揮っている。そう言ったリーダーシップが取れるなんて羨ましいよ」

 

「え、いやあの・・・」

 

「だから僕はやっぱりトーロを押すよ。どうだい皆?」

 

「意義な~し」×会議室+携帯端末のクルー全員。

 

「だ、だから待っ―――」

 

 

 トーロは自分はそう言う事をやる気は無いと言おうとした。

 だがその時、背中に戦慄が走る。

 思わずバッと振り返り、背後を見やるとそこには―――

 

 

「うん、そかそか。トーロが艦長をするんだよね?」

 

「あ、あのチェルシーさん?」

 

「うん、大丈夫。トーロなら出来るよ。だから―――」

 

≪―――チャキ≫

 

 

 その時、トーロは確かに銃の安全装置が解除される音を聞いた。

 戦慄を通り越して冷や汗が止まらない。

 そんなトーロを見て、チェルシーはすこしクスクス笑っている。

 

 

「ちゃんと、ユーリ探して、ね?」

 

「イエスマム!!!」

 

 

 内心濁涙しながらトーロは返事を返した。こ、こんなはずではと、トーロは思っているが、いつの時代も腹黒いことを考えたらその身に帰ってくるのである。身から出たさびと言うべきであろう。そう言う訳でトーロは臨時で司令となったのだった。

 

 

「それで、これからどうする?」

 

「あん?ああ、その事なんだがよぉ。とりあえず情報や人やモノが集まる場所に行こうと思うんだ」

 

「って事は他の宇宙島かい?」

 

「おうよ、俺達が次に向かおうと思っているのは―――」

 

 

 イネスにこれからどうするのか聞かれたトーロは、手元のコンソールをピポパと操る。

 会議室のテーブルの中央には空間投影機があり、そこにとあるチャートが映し出された。

 

 

「マゼラニックストリーム、人も物も情報も集まる大マゼランと小マゼランを繋ぐ玄関口だ。そして、そのマゼラニックストリーム内の星系にある星を目指そうとおもう」

 

「マゼラニックストリーム・・・大バザールか!」

 

「おうよ。そこなら情報も物も手に入りやすい。ちょっと危険ではあるがな」

 

 

 マゼラニックストリーム、ソレはマゼラン星雲にあるガスの流れの事である。

 周辺の天体による重力変調や巨大恒星の存在により、その航路は並の船乗りを通さない。

 しかし、そこを渡れる程の腕を持つという事は、船乗りとしては一流である証しでもある。

 海賊も多く危険な宙域ではあるが、挑戦する価値はあるという事だ。

 

 

 と言う訳で、彼らの行先は決まった。

 とりあえずのクルーの再編成も終え、彼らはネージリンス領を後にした。

 必ずまた、あの艦長とバカ騒ぎが出来る未来を信じて・・・・。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideミユ

 

 

―――――ミユ博士の一日。

 

 

 ふっとした感じで意識が浮上した。固まってしまった身体をほぐしつつ周りを見る。

無機質な部屋に書類や機材が散乱している。どうやら私はまた研究室で寝ていたようだ。

コーヒーを入れて自分のデスクの元に戻り、イスに座りなおした私は今までの事に思考を傾ける。

 

 この遺跡船、いや今は要塞艦デメテールであったか。デメテールに来てから退屈する暇が無い。

 むしろ寝る間も惜しんで研究三昧だ。ある意味研究者冥利に尽きると言える事だろう。

 何せこのフネには秘密がまだまだ沢山あるのだ。ロストテクノロジーの塊だ。

 いや、ロストテクノロジーだけでなくオーバーテクノロジーの塊でもあるだろう。

 

 このフネの装甲板だけでも、我々が現在作り上げた最高峰の硬度を誇る金属並だ。

 信じられない事に、圧力やエネルギーを与えてやることで自らを強化出来る合金らしい。

 とはいえ、長年埋没していた所為かそれを動かす装置の機能は今の所失われている。

 ケセイヤがなんとかして直そうとしていたが、なおるのは何時頃になる事やら。

 

 それとこのフネを構成している金属や合金系に関しては専門である私でもよくわからない。

 ただ言えるのは、とてつもないオーバーテクノロジーであり、このフネでしか生産できないという事実だけだろう。どうやって作っているのか知りたいところだが、ソレをするには生産レーンを一つ潰さなければならない。

 現状でソレをするのは流石に憚られる。もう少し落ちついてからの方が良いだろう。

 

 

「・・・・ん?ああ、そろそろ朝食か」

 

 

 ふと時計を見れば、丁度朝の時間帯に入っていた。

 現在このフネにおいて食事は配給という事になっている。

 なので時間を逃すと食事抜きという事態になりかねんのだ。

 研究者という職種である為、脳にカロリーを持って行かれる。

 朝食を抜くというのは、ある意味自虐行為に等しい事なのだ。

 

 

「・・・・またレーションパックか」

 

 

 さて、生活班がごっそり抜けている上、配給食となればコレになる。

 栄養価を考えて、色んな食材がセットになっている食事である。

 元々は野戦を想定して造られたモノだ。味なんかは二の次―――

 

 

「ふむ、パンモロのシチューは温めたらいいモノだな。乾パンと合う」

 

 

―――と思われるかもしれないが、実はそうでもないのだ。

味は1000年以上前には、普通のそう食事と変わらない物に変更が為されている。

いつの時代も人のニーズによって、物事が改善されるという事はよくある話だ。

 

ちなみに朝食用はレトルトパックが三つと乾パンと飲み物が入っている。

飲み物に関しては、コンテナから自販機用の缶ジュースがある為余り制限は無い。

こうして私は朝食を平らげると、また研究室に戻る。

それが仕事であるし、それ以外に特にするつもりも・・・いや一つだけあったか。

 

 

「やぁ少年、いまから朝食か?」

 

「あ、ミユさんアザース!今日もいい天気――」

 

「フネの中で天気も何も無いとは思うが?」

 

「ふふ、なんとこのフネの居住区には人工天気装置が!」

 

「壊れて作動しないがね」

 

「うぐぐ、そうだったッス」

 

 

 こうして艦長“で”遊ぶのも私の重要なレクリエーションとなっている。

 ああ、やはり艦長“で”遊ぶのはいい、日ごろのストレスもすぐに溶け落ちる。

 考えてみれば彼と出会ったのは海賊の基地にとらわれていた時だった。

 戦闘のどさくさにまぎれて逃げだそうとした私と出会ったのが彼だ。

 

 出会った最初は、私は随分と滑稽に見えていた事だろう。

 まさか逃げようと入った通風口が点検用ハッチで、その配線に絡まっていたなんて誰が想像できようか?普通はおるまい。

 

 こうして私は彼と出会った訳だが、最初は白鯨艦隊に加わるつもりは毛頭なかった。

 私は研究さえ出来れば良い、それ以外にはあまり興味が無いのだ。

 しかし、現実は厳しい、少し海賊に捕まっていただけだというのに、私が居た大学は私を首にしていた。

 

 海賊に捕まる事はそれイコール死んだも同じと言われている。

 例え死んでいなくても、私は女だ。海賊に捕まればそう言った事をされる事も有り得た。

 勿論そんな事をされてはいない。だが大学側は世間体を守るためという下らない事私を切った。

 

 それ自体は別段悪いことではないし、恨んではいない。

 この時代そう言った事はごく当たり前の空気みたいなものだ。

 一々目くじらを立てていたら生きていけないのも道理だった。

 そう言う訳でどうしようかと悩んでいた時に目に入ったのが少年だった。

 

 海賊に捕まっていた人達を解放し、海賊基地をそのまま手に入れた手腕。

 さりとて、そのまま海賊基地を活用するのでは無く、只物資を奪った程度。

 乗組員は癖があるのにどういう訳だが、全員女性には紳士的だった。

 そんな連中をまとめあげているあの少年に興味を抱いた私は、彼らに近づく為に手伝いを申し出た。

 

 結果は、なんというかあっさりとOKされていた。

 本当に人手不足であったらしく、事務作業もそれなりに出来る人間は重宝されていたらしい。

 また研究者であると解った時、普通に科学班の方に回された。

 あまりの手際の良さに最初から目をつけられていたのではと錯覚してしまいそうだった程だ。

 

 だが気が付けば私はこの白鯨艦隊の研究者集団トップ3の一人に数えられていた。

 どういう訳だが、このフネは居心地が良かった。自宅に居た時よりも安心できた。

 今では白鯨艦隊こそ我が居場所を胸を張って言う事も出来る事だろう。

 何よりもだ―――― 

 

 

「てい」

 

「うわっぷ!み、ミユさん何をッ!?」

 

「なに、軽いスキンシップのハグだ」

 

「うわぁ情熱的・・・ってちょっと!周りからの視線に殺気が籠って来てるッスよ?!」

 

「大丈夫だ。私は気にしないぞ少年」

「俺が気にするッス~!は~な~し~て~!!!」

 

 

―――こんな風に艦長である彼を弄くれるなんて、他じゃ味わえないからな。

 

 

 こうして少年分を補給し、今日も研究に戻る。

 今の私は充実している。以前の生活も悪くは無かったが今の方が良い。

 

 

「か~ん~ちょ~う!!」

 

「ユーリ・・・」

 

「ヒッ!ユ、ユピとトスカさん!?こ、コレは俺が原因では無くてミユさんが」

 

「おや、少年は嫌がってはいなかったと記憶しているが?」

 

「ユーリ~!!」「艦長~!!」

 

「首引っ張らないで!俺を何処に連れてくつもりッスか!!あとミユさん助けて~!!」

 

「はっは、サド先生は優秀だから心配はいらないさ少年」

 

「怪我する事前提ッスか~!誰か助けてくれ~~~っス!!!」

 

「「「「ケッ、リア充爆発しろ!」」」」

 

 

 首根っこを掴まれて、ユピと副長に連れて行かれる少年を見て私は笑う。

 ああ、この瞬間こそ私がココにとどまる理由だ。

 

 人と交わり、話し、遊ぶ。ただそれだけの事が自然に出来る。

 その空間をもたらしてくれた少年、いやユーリ艦長、私は貴方の味方であろう。

 これから先も、ずっとだ。そして私を楽しませてくれ。

 

 


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