【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第四十章+第四十一章+第四十二章+第四十三章

Side三人称

 

 小マゼラン星雲の小さな星系であるアーヴェスト星系。そのアーヴェスト星系をまたがる航路を、サウザーン級を改修した民間交易船が航行している。いや、輸送を重視した為、必要最低限の兵装を付けただけのフネは、今己が出せる全速力で航行していた。

 

―――何故なら、このフネは現在絶体絶命の危機にひんしていたからだった。

 

 

「SOSだ!近くに警備艇はいないか!」

 

「ダメです!警備艇の巡回航路から離れすぎています!」

 

「諦めるな!補助エンジンも回せ!全速で離脱する!」

 

 

 船長の怒号か飛び、交易船団は速度を上げる為に補助エンジンも点火する。

 しかしソレを見計らっていたかの如く、レーザーが機関部へと迫っていた。

 

 

「船長!海賊船振り切れません!」

 

「もっと速度は出ないのか?このままだと消し炭にされちまう!」

 

「そ、そんなこと言ったって――ぐわっ!」

 

≪ドォーン!!≫

 

 

 船内に響く衝撃音、ソレはこのフネが攻撃を受けている事を示していた。

 彼らを攻撃している相手は、この周辺を根城にする海賊イーグルクロウ団である。

 彼らは細々と地道にこの航路を通る民間船を狙う海賊たちであった。

 

 

「当たりました!総統――もといキャプテン!」

 

「ふむ、攻撃をつづけるんじゃ。ところでヨシダくん、何度わしの役職を間違えれば気が済むのかね?」

 

「はい!申し訳ありません総・・・キャプテン!それと後少しで交易船を停止させられます!」

 

「あんまりやり過ぎないようにな。わしらのモットーは“小さなことからコツコツ”とじゃからな」

 

「了解です!じっくり安全に仕留めてやります!フィリップやっちまえ!」

 

「ワカリマシタ、れーざーハッシャ」

 

 

 安全に仕留めるとはどういう事なのだろうか?

 ソレはさて置き、交易船は様々な物資を満載している為、海賊にとっては宝の山と同義。

 その為偶々網を張っていた宙域を通りかかった交易船を襲うのは必然と言えた。

 

 イーグルクロウ団のバクゥ級2隻、それを引き連れたシャンクヤード級が1隻。

彼らは偶々航路を通った貨物を満載した交易船を見つけ襲ったと言う訳だ。

 襲われた方の交易船にとってはまさに悪夢のような事態であった。

 そして更に放たれる光弾が、交易船へと命中し、航行能力を低下させていく。

 

 

「機関室、応答ありません!」

 

「最後の一瞬まで諦めるな!」

 

「降伏しましょう!船長!」

 

「奴らは狩りを楽しんでおる!エモノが降伏してもなぶり殺しに会うだけだ!」

 

 

 実際はこの交易船の船長が思っている程、海賊船の方は外道でも邪悪では無い。

 だが現状として、何度も撃たれているのに沈まない状況がそうであるように見せていた。

 実際は海賊船の砲撃主の腕が悪いだけなのだが、彼らはそれに気がつかない。

 

 

≪ドドーン!≫

 

「ぐぅ!――め、メインエンジン停止、もうダメです」

 

「くぅぅ・・・・ココまでか」

 

 

 交易船としてのフネであり、一応自衛の為の兵装は残されてはいた。

 ソレはこの近辺のバクゥ級を使う海賊であったなら退けられる程度ではあった。

 だからこそこのフネは単艦で、ココまで航海して来ていたのである。

 

 しかし今襲ってきている海賊艦隊には、通常ならばいない筈のシャンクヤードがいる。

 シャンクヤード級は遠く大マゼランの技術を用いて建造された汎用巡洋艦であった。

 その性能は小マゼランのフネを圧倒出来るほどの力を有していたのである。

 

 

≪ズズーン≫

 

「APFS展開率も限界値です」

 

「・・・・降伏を打電しろ」

 

「――ッ!了解」

 

「・・・・せめて皆殺しにされない事を祈る事にしよう」

 

 

 幾度となく繰り返される攻撃に、APFSも損耗して貫通され被弾していく交易船。

 交易船の操舵主がベテランであった為、今まで大した被害も無かったが限界が近かった。

 ベテランと言えど、長時間集中が続く訳では無いのだ。このままでは確実に落される。

 

 そして先程被弾した所為で、メインエンジンが緊急停止した。

 これでもはや逃げる事も叶わず、エネルギーが無い為に戦う事も出来ない。

 交易船の船長は悔しさで顔を歪めつつも、海賊船へと降伏する事を打電したのだった。

 

 

「キャプテン、降伏すると通信が来てます!」

 

「ふっふっふ、大金を叩いてマゼラニックストリームで買った甲斐があったわい。」

 

「まぁ老朽化したフネを下取りしただけなんですけどね」

 

「ヨシダくん、そう言った事は知っていても言わないモノだヨ?」

 

「済みませんキャプテン。お母さんからは物事は素直に言う様に言われておりまして」

 

「そう言うのは美徳だと思うんじゃが、今は必要ないとおもうぞ?」

 

 

 一方の海賊船の中では、非常に呑気な会話が行われている。

ソレもそうだ。既に交易船は彼らの手中にあると言っても同然。

 ゆっくりといたぶった後は、骨の髄まで頂いて行くのが海賊稼業というものだ。

 まぁコイツらはいたぶる気など無いが、腕が無い為必然的にそうなってしまうのは仕方が無い。

 

 

「まぁいい。とにかくお宝を頂く事にしよう」

 

「了解です。おいフィリップ!どけよ」

 

「Nooooo!!ヨシダサ~ン!!!」

 

「どうしたんだよフィリップ?蛙が潰れた様な声出して」

 

「ソレヨリモ、コレ」

 

「・・・う、うわぁ~~!!た、大変です総統、もといキャプテン!!」

 

「どうしたんじゃ!そんなハトがメーザーブラスター喰らった様な顔を」

 

「それだと跡形も残りません―――じゃなくて!兵装が起動して、その照準が交易船のブリッジに!」

 

「な、なんじゃとう!?」

 

「おまけに他の連中も全弾発射しちゃったみたいです。やっちまったぜ☆」

 

 

 船員の一人が砲撃班長を押した所為で、勝手にコンソールが起動し全弾発射されていた。

 しかもそれを見た他のフネも、指示が出る前に勝手に全弾発射を行ってしまった。

 傷ついた交易船にとっては文字通り“止め”となりかねない攻撃が放たれてしまったのだった。

 

 

「せ、船長・・・回避不可能です」

 

「くっ!奴らの目的は積み荷じゃなかったのか・・・外道め」

 

 

 インフラトン粒子を含んだ蒼色のエネルギーブレットが交易船へと迫る。

 交易船は海賊船からの容赦のない砲撃をみて、自分たちの命はココで果てると覚悟した。

 そして光線が交易船へと命中する・・・・かに思われた。

 

 

≪ババババババーーンッ!!!!!!≫

 

「エネルギーブレッド全弾命中・・・しませんでした」

 

「な、なんじゃとう!?」

 

 

 海賊たちは自分たちの攻撃が、空間で忽然と消えた事に驚き――――

 

 

「せ、船長」

 

「た、たすかったのか?」

 

 

 交易船団は絶体絶命と思われる攻撃が、自分たちへと届かなかった事実に驚いていた。

 そう、攻撃は“届かなかった”まるでそこに壁があるかの如く、光線が消えたのである。

 信じられない事態に、目を丸くするしか無い両者。奇跡でも起きたのかと考えたほどだ。

 

 だが、何故攻撃がかき消されたのかと言う疑問は、すぐに晴れることになる。 

光線が消えた辺りが揺らめき、そこから信じられないほど巨大な物体が現れたのだ。

 今の今まで、センサーに探知されず、存在していなかった筈の超巨大な物体が、である。

 

 

「な、なんだアレは?!」

 

「たかが交易船団にあんなのが居るなんて聞いとらんぞ!?」

 

「キャプテン、ヤバそうです。逃げましょうよ」

 

「んあぁぁ、ど、どうしようヨシダく~ん!!」

 

「だから逃げましょうって!あれ絶対ヤバいッスよ!」

 

 

 海賊艦隊は突如として現れた巨大な物体に驚愕していた。

 その大きさは全長が36km、全高が11kmもある巨大さだ。

 この予想だにしない事態に大慌ての海賊艦隊は、完全にキョどっていた、

一体何なのか解らず、結局出来た事は攻撃を一旦停止させることくらいであった。

 

 

「せ、船長・・・」

 

「絶対に動くんじゃないぞ?もし敵対行動なんかしたら、俺達は粒子すら残らないぞ。それと機関部の修理は?」

 

「あ、後少しで補助エンジンなら」

 

「静かに急がせろ、もしもの時は全力で離脱するんだ」

 

 

 一方交易船団の方でも、困惑が広がっていた。あまりにも強大なその物体、恐らくフネであることは解っていたが、敵なのか味方なのか不明であった。その為交易船団を率いている老年の船長は各艦に絶対に動くなと命令をかけて、事態を静観する構えを取っていた。

 

海賊も交易船も静観する中、その巨大なフネの表面から何かが競り上がった。

超巨大なフネの装甲板が稼働して展開し、見ようによっては連装の砲塔に見える。

 ソレらは海賊艦隊の居る方向へと回転し、砲を向けている様な形となった。

 そして―――

 

 

≪―――ズォォォォォッン!!≫

 

 

海賊の方へと照準を合わせた連装砲塔から、二乗の光が発射された。

放たれたのは螺旋を描く様な不思議な形をした薄緑色のエネルギービームである。

レーザーともインフラトンとも違う、しいて言えばプラズマが一番近いエネルギー。

 

この海賊艦隊に向けて威嚇砲撃を敢行したことで事態は動き出した。

その放たれたエネルギーによる威嚇砲撃は、海賊艦隊の付近を通過した。

余波だけで近くに居たバクゥ級一隻に損傷を与え、後方へと突き進んでいく。

 

 

やがて光弾は海賊艦隊の後方にあった岩塊を、粉砕しながら進んで消えていった。

その信じられない程の威力と貫通力に驚愕する海賊艦隊。

掠っただけで被害が出たのなら、直撃すればいか程のモノなのか。

 

 彼らはそれを考えて恐怖した。絶対に防げない事が解っていたからである。

先程まで狩る側だった自分たちが、今度は命を握られている。

その事に茫然としていると、突如巨大なフネから近距離の周波数帯に通信が発信された。

 

 

『我等は白鯨艦隊旗艦デメテール、海賊艦隊に告げる。ただちに海賊行為を停止せよ』

 

 

 白鯨艦隊、その単語を聞いた瞬間に海賊たちは震えあがった。

 一応0Gでもある彼らにも0G間の話が入って来ることがある。

 その中でも特に海賊にとっての脅威、海賊殺しの白鯨艦隊が現れたのである。

 嘘だと思いたかった海賊たちであるが、目の前の圧倒的存在に動く事も出来ない。

 

 

 一方の交易船の方はある意味で安堵していた。

 白鯨艦隊は海賊を専門に狩ると知られており、民間船を襲った事は今まで一度も無いのである。

 故に、交易船はこれ幸いにと補助エンジンを全開にしてこの宙域から離脱していった。

 逃げる交易船には目もくれず、デメテールに搭載された砲門が海賊船をロックオンしていた。

 

 

「キャプテン、敵艦にロックオンされました・・・キャプテン?」

 

「うぅぅぅ、優しく殺して、優しく殺して、キリングミーソフトリー!」

 

「・・・ボサツトウゲ、キャプテンを医務室のドクトル・レオナルドの所に連れてってくれ」

 

「・・・(コク)」

 

 

 錯乱した海賊船のキャプテンがブリッジから出ていくのを見送りつつ、副長のヨシダは心の中で“ねぇさん、事件です”と呟いていた。ちなみにコイツに姉はいない。そんなこんなで結局大した抵抗をするでなく、海賊たちは降伏するのであった。

 

 

――ちなみに逃げだした交易船が、逃げ付いた惑星に置いて白鯨の話しを広めた為、彼らの名声があがったのは余談である。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 俺はデメテールのドックへと収納されていく海賊船を眺め、久々の仕事に満足しつつ、艦長席へと腰かける。やった事はいつもと変わらず、民間船を襲う海賊を懲らしめつつ、海賊船から物資や資源を頂くというものだ。

 

 ―――相変わらず海賊相手の追剥だな。

 

と少し笑みをこぼしつつ、回収した海賊船の情報を読んでいく。

 海賊一味は全員降参し、現在拘束して収納、いずれ別の惑星にておろす予定。

 収穫はバクゥ級とここいらでは珍しいシャンクヤード級巡洋艦。

 

 正しシャンクヤード級は老朽艦も良いところで屑鉄に近い状態である。

 コレはシャンクヤードってよりかはジャンクヤードって読んだ方が良いとの事。

 そしてお目当てのIP通信機が手に入った。

 

 

「ふぅ、コレでどうにかステーションに連絡が取れるッスね」

 

「ユピテルの通信装置が全ておじゃんになっちまってたからね。下手に近づいたら面倒臭い事になってただろうさ」

 

 

 そう、このフネは元々遺跡船であり、通信手段がこの世界のフネのモノと全く異なるのだ。

 以前ユピテルについていたIP通信設備はヴァランタインとの戦闘によって全て破壊されている。

 その為、近隣ステーションへ連絡を取ることが出来なかった。

 

 0GドックとしてのIDやナショナリティコードを発信しないと海賊扱いされるからな。

 近隣星系から警備艇を呼ばれたり、ステーション備え付けの火器で攻撃されたくは無い。

 物資も手に入らない中、そんな事態になったら文字通り海賊にならなきゃいけなくなるしな。

 

 ソレはそれで自由そうで面白そうだけど、当分先にしたいぜ。

 このキナ臭い情勢の中では、まだ早すぎる。

 でも“俺は俺の旗のもとで生きる”ってのにはあこがれちゃいます。

自分もオトコノコですから!

 

 

 ソレはさて置き、このフネの工廠で作れれば良かったんだけどな。

 生憎IP通信設備の設計図は無かったのだ。大抵フネとセットだからってのもある。

 それに例え設計図があっても材料が無い為、どちらにしても造れない。

 いかに立派な工廠でも材料が無ければタダの設備でしか無いって訳やな。

 

 

「それで、通信設備の設置状況は?」

 

「現在ケセイヤ整備班長が急ピッチで作業に当たっています。予定作業終了時間は6時間後と推定されます」

 

「そかそか、報告ありがとミドリさん。ああ、序でに次の標的が見つかるまでは各艦に半舷休息を出しといてくれッス」

 

「了解、そのようにいたします」

 

 

 俺はミドリさんにそう指示を出し、トスカ姐さんにブリッジを頼むとブリッジから出る。

 敵が来ない限りは艦長の出番なんてそうそう無いしなぁ。

 とりあえず、寝たい・・・でも仕事が残ってる・・・鬱や。

 

 

***

 

 

 さて、俺っちが鬱になりかけながらも仕事を遂行していてもフネは進む。幸いにしてIP通信設備を手に入れた事により、近隣の通商管理局ステーションへと連絡を入れることが可能となった。  

これにより、元の0GのIDとナショナリティコードの照会が行われ晴れてステーションの利用が可能となった。コレで一息つけたと言える事だろう・・・だが―――

 

 

「物資が足りないッスか!?」

 

「いや、正確には部品つーべきか?補充したくてもこの星系じゃ扱ってねぇらしい」

 

 

 現在デメテールはネージリンス領にあるアーヴェスト星系辺境。

NN005と呼ばれる惑星の衛星軌道上に、惑星間の重力場の影響を消しつつ停泊している。

ゼーペンストから大分流された為、一番近いボイドゲートがある宙域にまで自力で航行し、個まで辿り着き、物資の補給をステーションに打診したのだ。

 

んで、そこの管理局ステーションから、物資の補給を受けた。 

輸送船を幾つか借り、ピストン輸送でデメテールに足りない物資を補給していった。

そしてソレは意外と早く終わる事になる。

 

基本的に運用している人員は少ないから、それ程食糧とか生活品の補充は要らなかったのだ。

 だけども、今の時代のフネに必需品と言える機材とかの幾つかが手に入らなかったのだ。

 この宙域のステーションには造船設備が付いていない事も大きい。

 

 辺境故にそういった設備は使われる事が無い

その為、必要じゃないから予備が無かったのである。

 その事に頭を抱えたケセイヤから報告を受けているという訳だ。

 

 

「んで、何が足りないッスか?」

 

「ん~、一番足りないのはオキシジェン・ジェネレーターのコアユニットだな。一応鹵獲したフネから移し換えはしたが、このフネ全域を全部補える程じゃねぇ」

 

「ぬぅ、ソレは困ったっス」

 

「いまサナダ達科学班がケミカルプラントの方を完全稼働出来ないか試してはいるが、あんまし芳しくは無いらしい。まぁ一万年近く放置されてた機材が完全に動く方がおかしいからな」

 

 

 更に足りない部品はコレだけじゃないらしい。

 補機のインフラトン機関のコアユニットにも交換しなければならない部品が多々ある。

 主に粒子コントロール装置やエネルギー伝導管の類だ。

 

 しかもソレらは通常の造船工廠では扱っていない。

 この時代の造船の殆どはブロック工法で行われている。

 大抵は完成品の部品をくみ上げて、フネを作っているのである。

 

 その為、こういった特殊な部品は、辺境の整備ドックには置いて無いのだ。

 取り寄せる事も出来なくはないが、時間がかかる上費用が異常に掛かる。

 しかも今のフネは規格外の超巨大艦、部品のサイズや量も当然規格外になる為、オーダーメイドで作る必要がある。

 

 やろうと思えば艦内工廠で作れるモノの、その材料を扱っている所はこの近辺には無い。

 どちらんしても別の宙域、ココからなら・・・そう、カシュケント辺りに行かねば手に入らないだろう。

 

 

「やっぱり、カシュケントまで行った方が良いッスかね?」

 

「精密部品や機械だからな。流石にウチのフネクラスの奴をあつかっている業者は無い。それに自分たちのフネに使うものは自分たちの眼で品定めした方が良いと思うぜ」

 

「・・・解ったッス。とりあえず会計課と副長とユピを招集して、カシュケントまでに必要な物資、酸素、水等をわりださせるッスよ」

 

「んじゃ、俺は必要になりそうな精密機器の部品、材料とかのリストを作っておけばいいんだな?」

 

「出来れば出港前に頼むッス。一応2週間程度の滞在を予定してるッスから」

 

「りょーかい、んじゃそれまでにその他の物資の補給も済ませときますか」

 

「ウス、頼んだッス」

 

 

 こうして、事務系の連中を招集し、AI故に計算が得意なユピが必要なモンを算出。

 ソレにかかる費用系統も算出し、とりあえずは今まで溜めていた海賊を倒した時の金から出す。

 それも足りなくなればまた海賊を狩るという話で落ちついた。

 

 とくにこの先のカシュケントがあるマゼラニックストリームの入口近辺には海賊が多い。

 しかもそいつらの乗るフネの殆どが、大マゼラン系統の技術を組んだフネだ。

 いずれは大マゼランにまで足を運びたい我等としては良い予行演習になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 とりあえずソレで会議を終了し、俺は一度大居住区へと戻る事にした。

 本当は艦長室へ戻り仕事の続きをしないといけないが・・・まぁ息抜きだべ。

 そんな訳で大居住区の一角にある食堂区域へとやって来た。

 

 物資の補充がある程度出来たので、現在ようやく食堂が開店出来たのである。

 いや、生活班クルーが居ないから、実際は食堂じゃなくて屋台に近いかもな。

 はやくタムラさんとかを呼び戻したいぜ。

 

 

「ふぅ、最近色々やることがあり過ぎッス・・・」

 

 

 んで、何時の間にやら出来ている食事処とかレストラン的な店を見て回る俺。

 何気に個人的趣味からか屋台的な店を出しているクルーがチラホラといる。

 んで凄いのにもなると、ビルを改装して前述のレストラン的な店を作っていた。

 

 なんだかんだでウチのクルー達のバイタリティは凄まじいのだ。この要塞戦艦がある程度機能を取り戻してから、まだ一カ月程度しかたっていないのだが、既に一階部分に料理サンプルが入ったショーウィンドウが付けられたビルが所狭し建っているのである。

 

ココまで活気が良い街みたく出来たのは、ひとえにクルー達の尽力があればこそだろう。

 

 

「お、艦長、疲れた顔してどうした?」

 

「ま~た副長にお仕置きでもされたか?おおっとソレは艦長の業界ではご褒美か?」

 

「リーフ、ストール。ただ単に仕事疲れなだけッスよ」

 

 

 さて、適当に歩いていたら、何時の間にやら出来ていたオープンカフェに野郎が二匹。

 まぁ友人同士らしいから、特に何も言う事は無いか。ウン。

 

 

「艦長も休んでくか?」

 

「・・・そうするッス。偶にはさぼりたいッス」

 

 

 二人に言われた俺は、ホイホイ付いていっちゃうんだZE☆

 まぁブリッジ要員の二人とは知り合いだし、たまには会話を楽しむのも一興さ。

 二人に招かれ、彼らの座るオープンカフェのイスに座る。

 あれ?そう言えば・・・。

 

 

「おろ?そう言えば何時の間にこんな店が?」

 

「アレ艦長知らなかったん?ここ3週間前からあったんだぜ?」

 

「整備班連中が“町にはカフェがあってしかるべき!”とか叫んで一日で作ってたな」

 

 

 イヤ知らんよ、大体その時俺は自室で缶詰だったし、飯も配給制だったじゃんか。

 というか相変わらず整備班連中パネェな・・・あれ?

 

 

「生活班はいないんじゃ・・・」

 

「だから整備班の誰かが交代で切り盛りしてる」

 

「あー、道理で・・・」

 

 

 道理でさっきから視界にマッチョなのにウェートレスが移る訳だ。

 ちなみに俺はソレらを意識的に思考から排除してます。そうしないと危険です。

 主に精神汚染的な意味で・・・。

 

 

「これは急いで生活班の再編を進めないと不味いッスね。主に精神修行的な意味で」

 

「「まったくだ」」

 

 

 というか、何で普通にウェイターの格好をさせないのだろうか?

 お陰でこの店人が閑古鳥だから、静かっちゃー静かだけどさ。

 まぁいいか気にしたところでしゃー無い。今はさぼり中さぼり中。

 

 

「所でストール、どーッスか?新しい兵器のホールドキャノンは?」

 

「どうって・・・凄まじいの一言に尽きるな。まぁ基本は光学兵装と変わらんが」

 

「ホールドキャノン?何ぞそら?」

 

「ほれ、この間海賊とっちめた時に威嚇で一発ぶちかましたじゃねぇか」

 

「あー、あの螺旋を描く光弾が特徴的なアレか」

 

 

 ホールドキャノン、ソレは遺跡船であったデメテールに元から付いていた兵装の一つだ。

 船体前部の全翼機のような部分に横一列に上下合わせて12基配備されている。

 またこの大砲は基部が上下に動くので、射線をさえぎらないのも特徴だ。

 

 エンジンブロックがある船体後部にはこの大砲は付いてはいない。

 だが、内蔵式の同型砲が埋め込まれており、真横に対して発射できる。

 イメージ的には昔の帆船の大砲の配置に近いか?そんな感じだ。

 

 

「威力、射程共に優秀。精度も悪くは無い。やや連射力が低いが遠距離攻撃仕様と考えたら、十分に連射力があると言えるな」

 

「流石はデメテールに元から付いていた兵装だけあるって感じッスかね?」

 

「あれにプラスして連射が効くHLもつけたらマジで敵なしだろうよ」

 

 

 もっとも、今はそれをする為の資材も金も無いってな。

 てな訳でマゼラニックストリームに行くのが一番手っ取り早いのだ。

 

 

「まったく、俺は何時になったら書類から解放されるんスかね?」

 

「艦長代理を立てればすぐじゃないか?」

 

「副長に全部ポイするとか?」

 

「ストール、艦長代理やって見るッスか?あとリーフ、それやったら最後トスカさんに殺されるッスよ?八つ辺りで全員」

 

「いやいや、艦長職。それはユーリ艦長の天職だよ。なぁリーフ」

 

「ああ、全くだ」

 

 

 はぁ、働けど働けど、我が暮らし楽にならざり、じっと空見る―――

 

 

「んだとこらー!」

 

「テメぇ!ぶっころーす!」

 

 

―――ああ、アレ(艦内で問題起すヤツ)の所為か・・・俺は徐に携帯端末を取り出した。

 

 

「――あ、ユピ?ちょっといい?今さ、食堂区画のとこでケンカ起こってるから保安部員よこしてくれッス。俺の携帯端末のビーコン辿ればすぐッス・・・え?仕事?いや、ちゃんとこれからやりますよ?おーい、もしもーし!?・・・・早く戻らないと・・・・」

 

 

 ユピさんに俺がさぼっていた事がバレた。

 不味い、コレ以上問題が来る前にとっとと処理しちまおうと思った結果がコレだよ!

 とほほ、説教+書類仕事って拷問だぜ。泣きそうだ。

 

 

「俺仕事に戻るッス」

 

「おう、まぁがんばれよ艦長。ほどほどにな?」

 

「お前が倒れたら、マジでヤバいからな(フネが暴走しそうな意味で)」

 

「あいあい、ユーリさんはほどほどに頑張るッスよ~」

 

 

 なんかドナドナのBGMが聞えて来そうな感じで哀愁を漂わせながら席を立つ。

 ああ、胃薬上乗せだ・・・序でに頭痛薬も・・・頭が沸騰しそうだよー。

 

こんなんだったら会計課も数半減させるんじゃ無かったなぁ。

 そんな事を考えつつ、俺は艦長室へと戻った。

 

 

その後もこうした平和な日常は進み、俺も仕事を進め(キャロ嬢の妨害あり)2週間が経過。

 デメテールはカシュケントまで行くのに、十分な酸素と水と物資を抱え、NN005を旅立った。

 

 

 うぐぐ、俺に胃薬をくれ・・・割と切実に・・・。

 

***

 

 

 はーい、最近強いチート戦艦を手に入れたモノの、戦闘よりも事務で殺されそうなユーリだ。

いやホント切実に我がフネの人手不足は極まっておる!

頭痛薬おかわりだー!不味い!もう一杯!ヒャッハー我慢できねぇ胃薬だぁバリボリ!

 

そんな感じでジャンキーの一歩手前のオイラであるが、

今日ようやく溜まっていた書類を処理する事に成功した。

これまで胃痛と頭痛に耐えて書類と格闘したオイラを褒めてけれ。

 

 何せ今の今までマゼラニックストリームに蔓延る海賊たちのフネ。

シャンクヤード級やリークフレア級の巡洋艦。

それとファンクス級高速戦艦をジャンクに変えて収集していたからな。

本当は拿捕の方が良いんだけど、うちは人員が足りなくて拿捕出来ないし、

今の兵装が強力すぎて武装だけ壊すってのが出来ない。

 

コレでホーミングレーザーが使えたら武装だけ破壊して丸々拿捕が出来たんだが。

HLを搭載出来るだけの予算が無いから今の内は仕方ないね。

ジャンクだと平均450Gにしかならないが・・・。

まぁ数だけは多いから狩りまくっている。

海賊たちには涙目な話だぜコレは。

 

 

「ああ、ベッドよ。今はその優しき抱擁こそ愛おしい・・・」

 

 

 そう言う訳で、仕事を終えた俺はそのままベッドにダイブした。

この間の補給で良いベッドを仕入れたからな。

 

パラ○ウントもビックリの超低反発マット搭載――

沈みこむ?いやもう埋まるでいいんじゃね?

――な特別製キングサイズベッドを手に入れたのだ!

 

 ちょっとした散財だったけど、給料使う暇が無かったから別に良いよね?

 もうゴールしても、良いよね?反論は聞かん!

そう言う訳でお休みな―――

 

 

≪ドーン!≫

 

「ふわっぷ!?何スか?」

 

 

 突然の振動に驚いた俺は、飛び起きようとして失敗し、ベッドから落ちた。

 意外と頭から落ちるのって痛い、首と顔面(特に鼻)に大ダメージである。

イタタと頭をさすっていると、ブリッジのミドリさんから通信が入った。

 

 

『艦長、赤色超巨大恒星ヴァナージの太陽嵐影響圏に・・・大丈夫ですか?艦長』

 

「うっす、大丈夫ッスよミドリさん。たださっきの振動に驚いて落ちただけッス」

 

 

 どうやらマゼラニックストリームを航行中に、巨大恒星ヴァナージを通過したらしい。

 そのヴァナージの表面で大規模な太陽フレアが発生し、爆発的な太陽風が吹き荒れ。

デメテールのデフレクターを揺るがす程の太陽嵐が吹いたようだ。

 

 どうやら丁度11年周期の極大期に入っているらしい。

高荷電粒子のエネルギーが噴き出したのだろう。

それにあれだけの赤色超巨大恒星である。

フネ一つ動かせる程度のエネルギーを持ち合わせていても不思議じゃない。

 

 

「艦内に影響は出て無いッスか?」

 

『外壁に近い区画では、一時的に宇宙船の量が通常の数十倍に膨れ上がりましたが、今は正常値に戻りつつあります。大居住区はもとよりシールドされているので、それ程影響は出ておりません』

 

 

 熱波の方もシールドは完璧な為、航行に支障は無いらしい。

とはいえ、航路が赤色超巨大恒星の付近を通過する為。

若干排気が間に合わず温度が上昇するかもしれないとの事。

しかも排気が出来ないとなると、ステルスモードは使えなくなる。

だからしばらくは丸見えの状態で航行しなければならない。

 ウチみたいにデカイフネだと、遠くからでも発見されやすくなるから危険だ。

 

 

「ま、それ程大事なことは無いみたいッスね。他に何か影響でも出たら教えてくれッス」

 

『了解しました。それではお休みなさい』

 

「お休みッス~」

 

 

 自然界の現象には幾らチートなフネでも太刀打ちするのは難しいモンだなぁ。

そんな事考えつつ床についた俺だったが、とあることを忘れていたのだった。

 

 

 

 

 

 そして、それは俺が床について約3時間経過した時だった―――。

 

 

 

 

 

≪―――ピー、ピー、ピー≫

 

「・・・うん、何スか?何か問題で――『艦長!大変です!』」

 

 

 昼の時間帯とはいえ、肉体と精神の疲労が限界だった俺は自室で駄眠を貪っていた。

 だがその最も愛おしい時間を破り、けたたましいアラームが鳴り響く。

何だろうかと思い目を向けると、何やら通信ウィンドウに慌ててた様子のユピが映っていた。

 うーん、移動性ブラックホールでも出たのか?

 

 

『キャロさんが倒れました!』

 

「―――ッ!」

 

 

 俺はその瞬間、バッドで殴られたかのように驚きで目を丸くしていたらしい。

憂慮すべき事柄を思いっきり忘れていたからである。

キャロ嬢は先祖返りに近い肉体であり、宇宙放射線に極端に弱い。

先程の巨大恒星ヴァナージの太陽嵐と爆発的フレアの影響が今になって出てきてしまったのだ。

 

 

『現在医務室にて治療中です。今の所経過は安定しているとの事です』

 

「ホッ、よかったッス」

 

 

 彼女は賓客であるという事もあるが、何より友達でもある。

 友達が苦しんでいるのを見て見ぬふりが出来るほど大人じゃないからな。

 とりあえずキャロ嬢の為に早い所カシュケント辺りに行った方が良いだろう。

 そう言う指示を出そうとした時、艦内に警報が鳴り響いた。

 

 

「ユピ、この警報は?」

 

『敵性艦隊の反応をヴァナージの影にキャッチしました。すみません。先程のフレアで探知が遅れた様です』

 

「艦内に第二種警戒態勢、コンディションイエローッス。俺もすぐに行くッス」

 

『了解です』

 

 

 結局まだ眠っていないが、緊急事態発生だしそんな事言ってられない様だ。

 俺はすぐさま服を着替えて自室を飛びだした。

 

 

***

 

 

「状況は?」

 

「ファンクス級を旗艦にして計20隻規模の艦隊です艦長」

 

「相対速度を合わせて、此方から一定距離を維持したままだよ。ユーリ・・・大丈夫かい?」

 

「HAHAHA,眠る直前を邪魔されて、少しイライラがありますが薬で安定させたので平気ッス」

 

 

 今の自分の顔色を見たら凄まじい事になっているだろうなぁ。

 元居た世界の現代人のワーカーホリックもビックリなくらい働いているしな。

 なまじ身体鍛えていたからタフになっちまって耐えられるのが問題だぜ。

 

 

「ま、まぁムリしなさんな。このフネを率いるのはあんたしかいないんだから」

 

 

 トスカ姐さんはそう言うとコンソールを操作して空間ウィンドウを開く。

 そこにはヴァナージの影響からから画像が歪んでいるが、辛うじて艦隊の姿が映っていた。

 ここいらの連中は単艦でいる海賊が多かったが、どうやら徒党を組んでいるらしい。

 

 船体に描かれたマークや武装等の統一化が計られている事が窺える。

 コレは一筋縄じゃいかない連中かもしれない。

 

 

「停船勧告は?」

 

「まったく応答がありません。様々な周波帯や発光信号も試しましたが応答なし。敵性意思ありと判断いたしました」

 

 

 通常航路においては、フネ同士のニアミスや接触等の事故を避ける為。

お互いが安全に通る為の相対距離というものが、航宙法で定められている。

 フネ同士が円滑かつ安全に宇宙を航海する為のルールの様なものだ。

 

 そして、この相対距離を突破してくる場合、敵対の意思があると捉えられてしまう。

 つーか、さっきから勧告しているのに、全く反応が無いのだ。

警告を全部無視してくれてるのだから、これは敵対意思バリバリだろう。

 

 

「相手の進路から察するに、このままヴァナージの周回軌道上にて襲うつもりの様です。」

 

「周回軌道で?こんな電磁波や高エネルギー状態の荷電粒子が飛び交う軌道上でッスか?」

 

「ここいらは連中の縄張りだ。自分たちの土俵だからこそ襲うのかもな。それにココでは大抵のフネがスウィングバイを行う。その瞬間は軌道を変えられないから大抵無防備になっちまうのさ」

 

「尚、予想されるランデブー時間は、およそ27分後です艦長」

 

 

 ふむ、考える時間もない・・か。

 

 

「回避は?」

 

「現在本艦はヴァナージの重力圏を利用し、スウィングバイする為の軌道に入りました。今から軌道変更する事は不可能です。ムリに進路を変えるとヴァナージの超重力に捕まり、最悪恒星に落下します。またその場合、敵に横腹を曝すことになります」

 

 

 この航路に入ったフネは、必然的に減速を余儀なくされる。

 亜光速状態で入ろうものなら、重力変調で船体をズタズタに引き裂かれる事もあるからだ。

他に航路があれば良かったのだが、このヴァナージ以外の航路は重力変調が非常に激しい。

常にデブリストームと呼べる嵐が吹き荒れている為、突破は容易では無い。

 

それに幾ら重力制御が優秀でも、巨大恒星の重力圏に入るとあまり関係が無くなる。

巨星の持つ超重力が、周辺の重力変調の嵐を抑え込んでいるのである。

このヴァナージが持つ重力場があるからこそ、航路を通過する事が可能となるのである。

 非常に厳しい航路であるのだが、デブリで穴だらけになるよかマシなのだろう。

 

 

「なら中央突破ッスね。総員第一級戦闘配備。各砲座展開。エンジン戦闘臨界に」

 

「アイサー」

 

「艦内エアロック全閉鎖、連装ホールドキャノンスタンバイ」

 

 

 ちなみに、この航路以外の航路で起きる重力変調がどれくらい激しいのかと言うと。

以前エルメッツァにあったメテオストーム。

 アレの数倍の速さの流れが複数の方向からランダムに襲い掛かると考えてくれれば良い。

 

デフレクター無しじゃ、まず絶対に通れないだろう。

例えデフレクターがあっても出力が低下すれば最後である。

まぁこんな凄まじい環境だが、ココを抜けるのが一番大マゼランに行く近道だ。

 

そう言う訳で海賊たちもココで網を張っていたのだろう。

だからと言って通らない訳にはいかないのだ。

とりあえずカシュケントにつくまではな!修理材量を手に入れる的な意味で!

 

 

『総員第一級戦闘配備、繰り返します。総員―――』

 

 

 戦闘配備が通達され、艦内の中が慌しくなり、緊張した空気となっていく。

 ブリッジにあるデメテールの前方方向を映しているモニター。

そこでは、上下甲板に連装ホールドキャノンが展開していく光景が映し出されていた。

 普段は装甲板と一体化している砲がせり上がり、四角いバレルを持つ連装砲が現れた。

 

 また艦内の必要ではない照明が落とされ、非常灯へと切り替わっていった。

 エネルギーの節約と言えばいいだろうか?戦闘に入ればいくらあっても足りないのだ。

 このデメテールはロストシップだからか、いまだ各機関は本調子じゃない。

 もしもに備えて、エネルギーがあるに越したことは無いのである。

 

 

「敵艦、間もなく連装ホールドキャノンの射程圏内に入ります」

 

 

 ミドリさんの報告が入り、俺は指示を出す為にコンソールに触れた。

 こちらは進路変更が効かない状態なため、敵の射程に入る前に攻撃を開始する事になる。

 

 敵陣中央突破、慌ててはいけない。慌ててしまっては出来る事も出来なくなる。

まずは簡単に艦砲射撃による小手調べが、セオリーといったところだろう。

 ・・・・出来ればそれで倒れて欲しいとこだけどね。

 

 

「砲雷撃戦用意!各砲一斉射後は順砲発射に切り替えろッス!」

 

「了解、ジェネレーター出力20%をホールドキャノンに回すぜ。各砲座敵艦自動追尾」

 

 

 ストールが自席のコンソールを操作し、エネルギーが砲に回されていく。

 船体前部の翼部分に展開している計12基の砲座が、砲身を調整し敵艦へと照準。

 超圧縮され半分物質と化したエネルギーの固まりが砲身内で渦巻いて行く。

 

 

「全砲照準合わせ完了」

 

「連装ホールドキャノン、てぇーっ!」

 

「了解!ホイさほら来たポチっとな!」

 

 

 主砲から薄緑色のエネルギー弾が放たれた。

膨大なエネルギーの塊は、前方に展開している海賊の元へと軌跡を残し伸びていく。

 ソレらは真っ直ぐと前衛のリークフレア級巡洋艦へと伸び―――

 

 

「・・・・初弾、全弾外れました」

 

 

―――何故か全弾外れました。あれー?

 

 

「艦長、ヴァナージの影響で兵器の命中率が低下しているらしい。注意してくれ」

 

「・・・・早く教えてほしかったスね」

 

「ある程度私が補正します。ですが、ある程度の命中率の低下は覚悟なさってください」

 

 

 あれ?スルー?スルーされた!?・・・クスン、いいもんね別に。

 ともあれ、先程の一斉射撃で、この宙域での砲撃への影響がどれほどなのか観測出来た。

 あとはそれを分析したデータをもとに、補正してやればこちらの攻撃は当たる。

 まぁ後何発かは同じことをしないと、データが溜まらないのだが・・・。

 

 

「敵艦発砲を開始、命中まで4,3,2,――命中します」

 

≪ガーン、ガガガーン≫

 

 

 ちなみに現在スウィングバイの途中なため、回避機動が取れないから攻撃が全部当たる。

 装甲が特殊だしAPFSもあるから、ビーム系やプラズマ系は当たっても特に問題は無い。

 光学兵器系の防御に関して問題は無かった。問題は攻撃だった。

 

 

「チッ!射線が安定しねぇ!おまけにちょこちょこ避けやがってクソ!」

 

 

 一応反撃するが、やはりこの周辺を狩り場としているだけあり操船が上手い。

 ヴァナージの重力圏の影響もあり、放った攻撃は逸れる為、ことごとく回避されていく。

 そしてお返しとばかりに、長距離レーザーと大型レーザーの弾幕が当たる当たる。

 

 

「デフレクター展開率75%にまで低下、貫通弾はありません」

 

「あの程度の攻撃じゃ此方の防御は破けない・・・が、なんか一方的に攻撃を当てられるのも癪だねぇ」

 

「しょうがないッスよ。ここら辺はあちらさんの得意なホームフィールド何スから」

 

 

 こちらの方もデータが溜まって来たからか、徐々に攻撃が掠る程度にはなっている。

 マッド達が増設した、ユピの結晶量子回路の演算性能は伊達では無い。

 このままいけば勝てるには勝てるだろう・・・だが何かもやもやするぜ。

 

 

――――上から来るぞ!気をつけろ!

 

 

 と、脳内神主からの突然の電波を受信したその瞬間。

 

 

≪ズズズズズズーンッ!!≫

 

「わきゃっ!」

 

「つぅ!」

 

「わっと!なんスか?」

 

 

 突然の振動がデメテールを襲う、敵の攻撃がデフレクターを貫通したのか!

 

 

「船体下部に多弾頭ミサイルが直撃!下方に敵艦隊多数感知!」

 

「下からかよ!」

 

「は?何言ってんだい?」

 

「あ、いや。何でも無いッス」

 

 

 あんまり電波も当てにならんな。太陽に近い所為か?

・・・・・まぁソレは置いておこう。

 

 ヴァナージの陰に隠れて此方に密かに迫っていた連中が、下方から攻撃を仕掛けてきた。

 前方に展開している艦隊がレーザーを照射し、デフレクターが減衰した瞬間。

 その一瞬を狙って着弾する様に、中型規模の多弾頭ミサイルが船底に直撃した。

 

 タダでさえ減衰していた防御重力場に襲い掛かる大量の小型ミサイル。

 ソレにより更に減衰したデフレクターを幾つかの弾頭が突破したのである。

 

 

「損害は?」

 

「船体下部に被弾。損傷は軽微です」

 

「ですが、部分的に爆発の衝撃で共鳴裂傷が発生、装甲強度が2割低下します」

 

 

 ミドリさんとユピからの報告によると、どうやら損傷していたらしい。

 勿論このフネの大きさからすれば、非常に些細なモノだ。

 だがこういった些細な傷が、致命的になる可能性もある。

 

 確かに今のままでも、デメテールの装甲板の堅牢さはかなりのモノだ。

 だが長い事眠っていた為、部分的に弱い個所に直撃を受ければどうなるか分からない。

 新しい革袋に古い皮をつぎはぎした状態で水を入れれば、水は古い部分を突き破るのと同じ。

 

 幾ら強度があっても、部分的な弱さがある状態ではその堅牢さが逆に仇となる。

 ソレを修復するには、材料と人手と長い時間が必要である事だろうなぁ。

 そして、それを行う為の事務作業は俺に・・・・死ぬかもしれない。

 

 

「ミサイル第2波、第3波の発射を確認」

 

 

 さて、敵艦からのミサイル攻撃はまだ続いている。

どうやらある程度硬化がある事に気が付いたらしく、ミサイルの大判振る舞いである。

 ウチのフネの装甲なら、あん程度なら数十発くらいの直撃に耐えられると思う。

だが、先程の様な多弾頭が、同じ個所に命中したら、流石のデメテールでもヤバい。

 

 

「射撃諸元データの採取は?」

 

「ヴァナージ近辺のスキャンは終了した。フレアの発生パターンも予測完了。現在FCSにインストール中」

 

「データのインストールが完了次第、主砲連装ホールドキャノンは前方の艦隊を、船体下部8段砲列のホールドキャノンは下方の艦隊へ照準ッス」

 

「アイサー!」

 

 

 デメテールの主砲、連装式ホールドキャノン12基が前方の艦隊へ照準を合わせる。

 装甲と一体化している為、四角く直角的な砲門が前方の敵艦隊を捉えていた。

 同時に船底に埋め込まれている砲列が開口、その照準を下方の艦隊に向けた。

 こちらはバレルが無いが、ある程度はビームの偏向が可能であるので照準を合わせられる。

 

 

「主砲1番から6番発射。7番から12番は1番から6番をチャージしている間に、タイミングをズラして発射。敵に目にもの見せてやれ」

 

「アイサー副長、ホールドキャノン、ぽちっとな」

 

 

 トスカ姐さんの号令に従い、ストールが照準を合わせユピが補正した砲が発射される。

 薄緑色の弾頭が重力の影響を受けて、弧を描いて直進していった。

 先程とは違いかなりの精度の射撃に驚いたのか、若干艦隊機動が乱れる海賊。

 こちらはンなこと関係ねぇとばかりに撃ちまくる。

 

 奴さんらも反撃とばかりに撃ち返してくるが、挙動が乱れた所為で射撃が安定しない。

 デフレクターの防御重力場に散々して当たるのだ。その所為で威力が拡散してしまう。

先程の息の合った艦砲射撃とは違いバラバラなのだから、あまり意味のない攻撃だ。

 

 

「エネルギーブレッド、第7射目、12発中6発命中」 

 

 

 そしてようやく命中する弾頭が増えた。

薄緑色の弾頭は、巡洋艦の幾つかに命中し、大破及び小破させていた。

大破したフネは眼下のプロミネンスに焼かれ粒子へと融解していく。

 

 まったく、環境が厳しすぎてこれほどまで戦闘が困難とは思わなかった。

 流石はマゼラニックストリーム、通常宇宙空間とはマジで次元が違うぜ。

 

 

「間もなく下方艦隊の上空を通過します」

 

「下部8段砲列用意、射撃間隔は0,01ッス」

 

「アイサー」

 

 

 船体下部砲列群からも砲撃を開始し、下方でミサイルを撃ちまくってくる連中を落す。

 そう言えば、なんであいつ等のミサイルは重力場に引かれないのだろうか?

 そう思ってさっきよか近づいたお陰か、若干鮮明になった画面を覗いてみた。

 

 すると、よーく見るとミサイルがなんか棒状の筒から凄まじい速さで射出されている。

 なーるほど、初速が凄いレールガンで撃ちあげているから重力に逆らえる訳か。

 

 

「特殊な環境を根城にしているだけの事はあるッスね~」

 

「ふむ、ミサイルをレールガンで加速・・・いいアイディアだ」

 

「サナダ、解っているとは思うけど、ウチは今は余裕無いんだから仕事増やすんじゃないよ?」

 

「わ、解っているとも副長。カシュケントについてから考えるとも」

 

 

 もしもーし、冷や汗出してそっぽ向かないでくださーい。

 それと、もしも勝手に俺らの書類仕事とか増やしたら、俺ら何すっか解んねぇからな?

 そこら辺を理解していてくれることを期待しておく。なんちって。

 

 

「間もなく前方の艦隊を中央突破します。敵艦は進路から退去」

 

 

 こちらはスウィングバイの途中であるから、軌道変更も速度の強弱も変えられない。

 だからかなりの速度で敵陣へと突っ込む事になる。

 初めは紡錘陣形で弾幕を形成していた海賊であったが、最大の大きさの旗艦が910m。

 

 対してこちらは36000m、どう考えても蟻と象である。

 進路上から離脱していく艦数を10隻にまで減らした海賊艦隊。

 彼らの横をデメテールは悠然と速度落とすことなく通過する。

 

彼らにしてみれば、デメテールは大きいから攻撃も当てやすいと思ったんか。

この特殊な環境故自分たちに利があると踏んだのか。

 はたまたタダのバカだったのかは解らないが、コレだけは言える。

 彼らでは今加速状態にあるデメテールを止めることは不可能であるという事だ。

 

 まぁこんなロストテクノロジーの塊、手に入れたところで売れないだろうけどな。

 ウチですら持て余す程のフネで、いまだに手の入っていない区画が存在するフネだ。

 ロストテクノロジーは国軍とか、国立研究所の様な所で無いと運用は難しい。

 

 市場が限られているのだから、そう言ったところにパイプが無いとまず売れんだろう。

 もっともウチの場合は、マッド達が手放そうとはしないだろうがね。

 

 

「敵陣を突破、このままデメテールは加速状態に入ります」

 

「ヴァナージ影響圏を脱出後、ステルス航行に移行ッス。今回はちょっと急がないと不味いッスからね」

 

 

 スウィングバイによる加速で、敵海賊艦隊を完全に振り切った。

 こうしてなんとか難所をくぐり抜ける事に成功したデメテール。

 多少装甲板が傷付いたが、修復できる範疇である事に安堵しつつ。

俺達はカシュケントへと針路をとるのだった。

 

 

***

 

 

 さて、カシュケントまで後少しといったところまで来た。

 案外しぶとい海賊が多くて、チート艦でも油断できねぇなぁとか考えていた。

 確かに装甲も厚いし、カシュケントで修理出来れば機関出力も上がる。

 だが所詮は人(異星人でも人だよな?)が造りしフネなのだ。

幾らチートでも限界はある。

 

大体このフネでもヴァランタインに勝てる気がしねぇ。

一度負けたからか、臆病な色眼鏡が付いちまったってのもあるけど・・・。

もう絶対ヴァランタインとは敵対はしたくしないぜ。

 

 

「ふふ、ふふふ、なんで昨日片づけたのに、また電子書類が・・・」

 

「諦めな。人手が足りないんだから。ホレ手を動かす!」

 

「トスカさん・・・代わって?」

 

「いやだ。まだ死にたく無いよ私は」

 

「ですよねー」

 

 

 もはや一つの都市と化しているデメテール。

 都市となれば当然様々な問題が出てくるものである。

 つーか、何故に排水管の書類がこっちに来る!?

そこら辺は整備班の方だろうが!大体これ提出期限ぎりぎりとかどういう事だ!?

 

 

「あー、ケセイヤの奴は書類整理出来ないからねぇ。溜まってたのがこっち来たんだろ?」

 

「・・・・≪ギャキ≫」

 

「はいはい、バズ取り出さない。ちゃんと仕置きは死といたからさ」

 

「・・・・解ったス」

 

 

 トスカ姐さんがそう言うならという事で、一度取り出しかけたバズをしまった。

 その後トスカ姐さんも仕事がある為、艦長室から出て行くのを見送る。

黄昏ていても仕方ないので、さぁ仕事しようとコンソールに手を置こうとする。

 

 

 そう、置こうとしたのだが・・・・。

 

 

「じー」

 

「・・・・・・」

 

「じーーー」

 

「・・・・・・」

 

「じーーーーーー」

 

「・・・・・・医務室に居たんじゃないッスか?キャロ嬢」

 

「暇だから遊びに来た」

 

 

 ―――きゃろ嬢が、かまってほしそうに、こちらをみている!

 

 どうしますか?

 

・あそぶ

 

・たしなめる ←

 

・いいのかい?ホイホイきちまって(ry

 

 

――――おk、とりあえず落ちつこうか?

 

 

「キャロ嬢、あんた倒れたんスから、ちゃんと療養しててくれッス」

 

「えー、だってもう何ともないのに暇じゃない」

 

「だとしてもッス。キャロ嬢はウチにとって賓客何スよ?もしコレで何かあったらネージリンスに何されるか・・・」

 

「まぁまぁ、その時は私がおじい様に取りなして、私の子飼いの部下として雇ってあげるわよ」

 

「わーい、再就職先決~定!って何言わすんスか?!つーか俺0G止めるの前提!?」

 

 

 キャロ嬢がどういう訳だか艦長室に来ていた。

 どうやら医務室を抜けだしたらしく、服は入院服にガウンといった感じだ。

 まったく、普通の人間と違うんだから、もっと大人しくしててくれよ。

 

 

「だめ、なの?」

 

「むぅ、そんなすがる様な眼で見られても・・・」

 

「うるうる」

 

「・・・・ごめん、自分で言ってるの見るとちょっと」

 

「うん、私も自分でそう思った」

 

 

 テヘ、失敗失敗と頭を小突く仕草はかわいらしいモンがあるが、生憎俺の食指は動かんな。

 

 

「んで、お嬢様?何故わたくしめのようないやしい艦長風情の元に?」

 

「私を丁寧に運んで下さる艦長さんに、ねぎらいの言葉をお送りしたかっただけですわ」

 

 

 そう言うと彼女は上品に微笑みながら此方を向いた。

 その変わり様に思わ茫然としてしまう。

 なるほど、コレがランバース家のご令嬢ってわけね。

・・・・・普段が普段だから忘れちまうけど。

 

 

「・・・・様になってるッスね。流石ご令嬢」

 

「今のくらいなら5歳の子でも出来るわよ」

 

「それを普通に出来るか出来ないかって事ッス。少なくても俺は出来ねぇ」

 

「練習すればいいわ。そうすれば出来るようになるから」

 

「いやー、一介の0Gには必要「私の執事になるならソレ位はね~」――ってさっきのは冗談と違ったんスか?!しかも子飼いの部下から執事にランクアップしてるし!!?」

 

 

 あーもう!その“何を当たり前のことを”と言う様な目つきはやめい!

 少なくても俺はやめる気何ぞ無いぞ!って上目遣いも禁止じゃあ!

 

 

「まったく、何度も言っているけど、俺は仕事があるッスよ~」

 

「いいじゃない少しくらい構ってくれたって~。賓客をもてなすのも艦長の仕事なのよ?」

 

「頻度が問題何ス。キャロ嬢ほっとくと何時までも居るじゃないッスか」

 

「だって、楽しいし・・・ユーリといるのが」

 

「キャロ嬢・・・」

 

「ユーリで遊ぶのが」

 

「ビキビキ(^ω^♯)」

 

「じょ、冗談よ。だから笑ったまま怒らないでよ」

 

 

 ははは、怒って無いですよ?おれはすこしねぶそくなだけだお?

まぁ兎に角だ。この際だからはっきりと言うべきかな。

 

 

「はぁ、寂しいのも解るッス。一人は辛いんスよね?」

 

「――え?」

 

「このフネにおいて、キャロ嬢と同じくらいの年齢の人間は俺くらいしかいないッスからね。大体予想は付いてたッス」

 

 

 俺がそう切り出すと、彼女は目を見開き驚いていた。

 そりゃコレだけ言い寄られればねぇ?ある程度の予想くらい立てられるさ。

 

 

「俺は良くも悪くも、相手に対して余り態度を変えないッス。そりゃ初対面の時は猫かぶりもするッスけど、知り合いになればそんな遠慮もしなくなるッス。だからこそ、この際ッスからはっきりと言っても良いッスか?」

 

「・・・なによ」

 

「いい加減にしてくれ。俺にだって堪忍袋ってモンがある。今の今までアンタの行動を容認してたが、いい加減キレそうだ。寂しいのは解る。構って欲しいというのは話をしたい口実だって言うのも。でも、だからって俺をアンタの都合の為に使おうとしないでくれ」

 

「え、う・・・」

 

 

 多少キツイ言い方であるが、少しは懲りて欲しい。

 俺にだってプライドッちゅうモンがある。

 

 

「・・・・・解ったッスか?」

 

「・・・・・うん」

 

「まぁあれッスよ。幾ら友人関係でも遠慮くらいはして欲しいっつーか」

 

「友、人?」

 

「ん?あれ?てっきり俺は既に友人だと思ってたッスけど、違ったスかね?」

 

 

 なんかキャロ嬢の事を友人と言ったら目を見開かれた。

 あれ?やっぱり俺の事はていの良いおもちゃ扱いだったのかしらん?

 だとしたら悲しいわぁ。ユーリさん泣いちゃうよ?

 

 

 

 この後は何故か静かになってしまった彼女を、ファルネリさんに引き渡した。

なんかキャロ嬢が普段とは違い妙に静かだったからか、

俺が何かしたんじゃないかと言う眼でファルネリさんから睨まれて逆に泣きそうだったぜ。

 

 

―――断じて違います。そして勘弁してください。

 

 

 とりあえず、そんな事があって、彼女はあまり頻繁に訪ねては来なくなった。

 てっきり嫌われたのかと思ったのだが、どうやら彼女なりに考えた結果らしい。

 訪ねてくる時にはちゃんと、携帯端末で俺に連絡して、行っても良いか聞くようになった。

 多少は俺の言った事が伝わってくれていたのなら嬉しい限りだな。

 

 

 こんなことがあった事以外は、デメテールは海賊狩り以外実に平和であった。

 そしてデメテールは多少損傷が出ていたモノの、カシュケントへと到達したのであった。

 

***

 

Sideユーリ

 

 

 さて、ようやくマゼラニックストリームで最大の貿易地。

荒くれ者の貿易商人が集う商業の中心地、惑星カシュケントへと到着した。

 いやー、何処に停泊させようか悩んだが、とりあえずカシュケント近くの空間に泊めた。

 

 勿論ステルスは常時発動させ、事前に管理局に連絡も入れてあるから準備万端である。

 こうでもしとかないと、あとあと怒られそうだしね。デカイから邪魔だって。

それはさて置き、今デメテールにある格納庫では・・・・。

 

 

「お前ら!準備は出来てるかー!」

 

「「「「おぉぉぉぉぉっ!!」」」」

 

 

 整備班を筆頭に手が空いている人員達が集っていた。

 陣頭指揮を執るのは当然のことながら、拡声器片手に持つケセイヤさん。

 彼は思いっきり息を吸い込むと、集まったクルー達に向け大きな声をだした。

 

 

「ジャンクコンテナは持ったかぁッ!!!」

 

「「「「おぉぉぉぉぉっ!!」」」」

 

「よろしい、ならば換金だ。まずは修理材を買う為にジャンクを売りさばくぞ!」

 

「「「「うぉぉぉぉぉっ!!」」」」

 

「それじゃあ行くぞテメェら!!」

 

「「「「ヒャッハー!!」」」」

 

 

 整備班長ケセイヤさんの声にこたえ、彼の号令の元散っていく行くクルー達。

 ある者はフォークリフトを、ある者はVFの作業用パック搭載型に乗りこんでいく。

そして本来なら航行や整備を補佐する為のAIドロイドすら持ちだしている。

それもこれも格納庫に無造作に収められし宝の山│(ジャンク)を、運び出す為だった。

 

いやー、しかしゴミの山ですら金に変わるとかボロい商売だよねぇ。

 俺は俺で、彼らの邪魔にならないよう、キャットウォークから連中が働く所を見ていた。

 流石にこういったのは非常時でも無いと艦長自らやる事じゃないからねぇ。

 

 

「よう、見送りか?」

 

「あ、ケセイヤさん。作業見て無くていいんスか?」

 

「指示は出したからな。後は積み込みを終えるのを待つだけだ」

 

 

 と、クルー達を上から眺めていると、声を掛けられたのでそっちを向く。

 何時の間にかココに上がって来ていたらしいケセイヤがそこに居た。

 彼も全体総指揮というのがあるから、格納庫全体を見渡せる所に来たのだろう。

 

 

「とりあえず、第一陣はこの第3格納庫から、お次は第4、第5と順に運び出すぜ」

 

「うす、第3から第9までの全部で7つの格納庫(にしている空間)、前部空にしちゃってくれッス」

 

「そしてがっぽり儲けて、研究三昧うわはははは」

 

「あー、うん。まぁほどほどにね?フネ壊さないように」

 

「うんうん、任せておいてくれニシシ」

 

 

 ケセイヤは怪しい笑みを浮かべて、指揮をしにこの場を立ち去った。

 しまいにゃフネを解体しないだろうな?マッドだから心配だぜ。

 

しかし、フネが大きくなったお陰かペイロードとしてのスペースが広がったからな。

これまでとは比べ物にならない程ジャンクを積みこめるようになった。 

 とりあえずはこの第3格納庫一杯のジャンクを、シャンクヤード級に積み込む。

 

そしてそれをカシュケントに持って行き売る。俺ら儲かるって寸法だ。

ここいらのフネは強力なフネばかりだったから、例えジャンクでも高く売れる。

 

ああっと、そう言えばこの辺の商業組合の元締めが居るんだよな?

売りに行くなら、そう言った人間にも挨拶を師とかねぇとなぁ。

後で誰が元締めなのか調べとかないと・・・。

 

 

***

 

 

 さて、とりあえずブリッジに戻って来た。

 あそこに居ても手伝えないし、危ないし、何より邪魔だしね。

 そんな訳で、ブリッジからジャンクを乗せたフネの見送りだ。

 

 

「シャンクヤード級、本艦から離れました。問題無くカシュケントへと向かっています」

 

「了解ッス。第一弾の連中が帰ってきたら、次のジャンク品の積み込みが終わり次第、上陸希望者を順番に乗船させてくれッス」

 

「了解です。・・・キャロ・ランバース様、大丈夫でしょうか?」

 

「・・・まぁこのフネには彼女を治療する設備が無いッスからね」

 

 

 ちなみにキャロ嬢も、さっきのフネに乗って一路カシュケントへと向かって貰った。

 この星系は貿易地となっているだけあり、医療関連も充実している。

 ファルネリさんも一緒だから、彼女に必要な薬がある病院もすぐに見つかるだろう。

 ・・・・勿論、嫌がって暴れた為、俺は多大な精神的労力を払ったのは余談だぜ。はぁ。

 

 

「俺としては、あの子を説明する方が大変だったスよ」

 

「ふふ、確かに・・・そう言えば艦長もカシュケントへ行かれるのですか?」

 

「俺ッスか?俺はもう少し後で良いッスよ。ちょっとやる事あるし」

 

 

 HLが無い為、鹵獲出来たシャンクヤード級は全部で3隻しかない。

シャンクヤード級は輸送船に出来るほどのペイロードを誇るフネではある。

だが流石のシャンクヤード級でも、全てのジャンクを運びだすには時間がいる。

 

ピストン輸送をするから、作業的には不眠不休で最低3日はかかるだろう。

 実際はそんなに急いでやる事では無いので、一週間くらいを目途にしてるけどな。

 てな訳で、この空いた時間俺は暇になる。だから少しは休憩出来るってワケ。

 

 

「やる事、ですか?」

 

「ふふ、オトコノコには秘密があるんスよミドリさん。さてと、ちょっくら遊びに行って来るかな」

 

「・・・?」

 

 

 俺はそう言って後手に手を振りつつブリッジを後にした。

 後には首をきょとんとさせたミドリさんだけが残るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――さて、俺は皆を見送った後、艦内のとある場所に向けて歩きだした。

 

 

 そこはついこの間見つけた珍しい場所だ。今の所俺以外知る人間はいない。

 俺専用VF-0Sでその空間がある所の近くまで飛び、後は通路を歩いて行く。

 少し歩けば、その場所へとすぐに辿り着く事が出来た。

 

ここは大居住区から出て、工場区画に行く道の途中にある所謂電算室に相当する場所。

 いわばサブコンピュータ群とでも呼べばいいのか。

 ユピの本体が安置されている中央電算室とは違う、こじんまりとした空間である。

 

 

「ココをこうしてピポパってな」

 

 

 備え付けのコンソールを慣れた手つきで操り、コンピュータを起動させる。

 なんせココには何回か足を運んだからな。ある程度は扱い方も解るってモンだ。

 まぁ実際は手をコンソールに置くだけで、ほぼ自動でこちらの考えを読み取ってくれるんだが。

 

 ソレはさて置き、この部屋を発見したのは、実は本当に偶然だった。

 その日、俺は仕事が限界だった為、息抜きがてら部屋から出ていた(サボりとも言う)

 そんで何処か静かな場所でもないかと思って見つけたのが、この部屋なのである。

 

 ココはいわばライブラリー(図書室)の様な所だった。

 それも、ココに置かれたデータというのが―――

 

 

「わぁお!なるほど、バルパスバウ付きのフネなんてなんてレトロッス!浪漫ッス!」

 

 

 ―――全てフネに関するモノだったからだ。ちなみに設計図では無い。

 

 多分カタログ的なモノなのだという事は理解できる。もしくは図鑑だろうと。

 でも異星人の言葉で書かれた説明文は、流石の俺も読めたりはしない。

 これで何故か異星人の言葉が日本語だったらいいんだが、流石にそこまでご都合主義は無い。

 

 そんな訳で、この小さなライブラリーに保存されし異星の資料は、

俺の中の精神浄化作用に一役買っていた。

いやー、ストレスに少しだけ負けて部屋から逃げた甲斐もあるってモンだ。

 

 まぁいずれは発見される訳だが、それまではココは俺の城―――

 

 

「艦長!ようやく見つけましたぁ!」

 

「ありゃ?ユ、ユピ!?」

 

 

 ―――と、思っていたが、案外あっさりと発見されてしまった。

 

 そういやユピはこのフネそのモノ。

俺の居場所を見つけるなんて、飯を食うより簡単だ。

 

 

「どうしたんスか?なにか急用でも?」

 

「あ、いえ。そのう・・・・」

 

 

 はて・・・?なんでモジモジとしてるんだろうか?

 いやいや、つーかチラホラとこっちを窺うかのような仕草。

 なにこの可愛い生きもの?

 

 

「あ、あのう!後でケセイヤさん達が帰って来たら、次の便でカシュケントを見学に行きませんか!?」

 

「うわっと!近いよユピ」

 

 

 いきなりこっちにガバッて来るから、俺っちびっくらこいちまったい。

 しかし、必死やねぇ?このつまらん男と何でまた行きたいのかねぇ?

 

 

「はう!すみません!」

 

「いや、別に構わんスけど・・・他に誰かいないんスか?」

 

「あ、えっと、こういった事他のめるのって艦長くらいしか」

 

 

 ふむ、まぁユピとは仕事がてら、惑星に行った事とかあるしな。

 シフトの都合でいけない誰かから、買い物でも頼まれたりしたのかもな。

 そう言った意味では、俺とかの方が気軽に頼めるんだろう。

 

 

「行くにしても、ジャンクとかの運搬が優先だし、その次は病人とか上陸希望者が優先ッス。俺が行くのはそのずっと後ッスねぇ」

 

「あう、そうですか・・・」

 

「心配しなさんな。ユピが行きたいって言うなら俺も行くッスよ」

 

「本当ですか!」

 

 

 おう、おいちゃん嘘つかないよ。せっかくユピが誘ってくれたんだしな。

 娘が一緒に外出したいと言っている様なモンだ・・・まぁ俺結婚して無いけど。

 

 

「でも、それまでは俺は休憩ッス。偶には好きな事したいッスからねぇ~」

 

「そう言えば艦長は先程からココでなにをなさっていたのですか?」

 

 

 アー俺?何、適当に宇宙船のカタログ的なモノを眺めて妄想してただけよー。

 

 

「カタログ・・・ですか?」

 

「おう、ここのライブラリーに結構な数が入ってたッス。どれもこれも、マゼラン系統では見られないタイプのフネばかりッス」

 

「うふふ、船乗りの血が騒ぎますか?・・・・浮気ですか?」

 

「いや浮気はしないッス。けど、いいフネってのは見ていて楽しいんスよ」

 

 

 何故だろう?急に寒気が来たぞ?まぁ良いけど。

 とりあえず俺は視線を図鑑に戻し、フネの鑑賞を再開することにした。

 

それにしても、なんか良いなこのフネ。

直角と曲線の融合、工業的でありながら何処かユーモアと言うか・・・。

ロジックが備わったカタチに必然性のある「工業デザイン」がベースというか。

・・・・・どう見てもシド・○ードです。本当にありが(ry

 

いやいや、幾らなんでも1万数千年前の人間が居る訳ねぇだろう。

しかもこのフネは異星人のフネ、デザインが似ているに過ぎないって・・・。

それにしてもこのフネ無限航路にあっても違和感無い、違和感仕事しろって話しだ。

 

しかし、このシドさんデザインっぽい戦艦は何て名前だろう?

なんか昔どっかで見た様な記憶がふつふつと・・・。

 

 

「・・・・コレはブルーノア級というみたいですね」

 

 

・・・・まて。

 

 

「え、嘘。マジっすか?」

 

「えーと、翻訳するとそうありますが」

 

 

 えー、このデルタ翼機に三連装砲並列で並べた様なフネが?

 しかし随分と古い上にマイナーだな。知っている人間少ないんじゃないか?

 そんな目得たな事を考えられる俺って何モンだオイ。

 

 

 

 ――――さて、それじゃココは、だ。

 

 

 

「見なかった事にしよう」

 

 

 

 ――――秘儀、大人のスルー力(ちから)を発動し、見なかった事にしたのだった。

 

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

 さて、ただ漠然と図鑑を眺めるというのも、最終的には図鑑に載ったフネを見終えればそれで終わってしまう。図鑑という事もあり300近いフネが乗せられてはいるが、字が読めなければそれに意味は無い。

 

ユピに頼めば翻訳くらいしてくれるだろうが、只でさえ我が艦の様々な部署を代行してくれている彼女にコレ以上負担をかけたいと思うほど俺は鬼畜産では無いのだ。

そんな訳で、只ライブラリーを眺めていたが、絵や図を見るだけではすぐに終わってしまう。

 

久々の休みだった為、1時間程度の時間をかければ全部の画像データを再生する事は容易だった。データの中で幾つか気に行ったモノを選んで置き、後でじっくりを鑑賞したりしたが、いい加減限界だ。

 

 

「・・・・・そうだ!」

 

「わわ!ビックリした」

 

 

 ココで俺の灰色の脳みそが閃き、頭の上に電球が付いた。

 コレ以上ライブラリーが無いなら、足せばいいじゃ無~い!

 俺はごそごそと懐を漁り、取り出したるは小さな小さなマイクロチップだった。

 

 

「それ、何ですか?」

 

「んー?コレは・・・俺が貰った幸運のデータッス」

 

 

 俺が取り出したのは、初めてソラに上がったあの日。

 ロウズ自治領の廃棄されたコロニーの中のコンピュータで発見したデータ達。

 その昔、銀河を練り歩いた名もなき男が残してくれた遺産である。

 

 この小さなチップの中には、俺の最初の戦艦であるヴァゼルナイツ級のデータ。

さらには戦艦や空母や巡洋艦の少し壊れたデータが保存されている。

 このデータを見つけられたからこそ、俺は今まで生き残って来れたと言えるだろう。

 

 

「俺が0 Gとしてやって来れたのは、一重にこの中にある戦艦設計図が入っていたからッス。ココのライブラリにそのデータを映しておくのも悪くないかなぁって思って」

 

「まぁ、思いでを刻むんですね!いい考えだと思います」

 

 

 そんな訳でチップのデータをライブラリーフォルダの中に移そうとした。

 ユピに手伝って貰えば楽勝だろうと思ったのだが、その為にはユピにこっちの言語に翻訳して貰う必要があった。

 

 んで、まぁとりあえず準備だけはしておこうと、チップをライブラリに入れた。

 ・・・・入れたつもりだったんだ。

 

 

「あ、あれ?データが勝手に動いてるッス」

 

「ちょっと艦長、なんか変なシステム動かしたんじゃ」

 

「えーと、なんかさっき急に青い変なウィンドウが出て消そうとしてたッス」

 

「え!?あら?!このプログラム連動して・・・止まらない!?」

 

「なーんかヤバい予感がするッス・・・」

 

 

そして俺は、改めてこのフネが異星人のフネである事を理解する事になった。

 やっちまったぜ、テヘ☆

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

「―――で?何か申し開きはあるかい?」

 

「まったくなんにもすべてわたくしがわるぅございますッス~」

 

 

 怒髪天を通り越してすでに(^ω^♯)ビキビキと、青筋から音が出ているトスカさんに睨まれて、ユーリは完全に謙り見事なDO☆GE☆ZA☆を繰り出していた。

 

 周りの連中はそれを見て止めよう・・・と言う訳でもなく、ちょっと複雑な表情で成り行きを見守っている。一体何があったのかというと、

 

 

「ジャンク品の殆どを勝手に使ってフネの工廠で新造艦造るバカが何処に居るッてんだい!」

 

「ヒィィィィィッ!バズーカは勘弁ッス~~~!!!!」

 

 

 あろう事か、フネの財源である筈のジャンク品が、新しいフネに化けたというのだ。

 しかし、何と言うか、トスカ達が帰って来るまでの間にフネの工廠で新造艦を作れるとはデメテールの生産力は凄まじいモノがある。

 

 実はユーリがライブラリだと思っていたあの場所は、簡単に言えばカタログ置き場の様なモノだったのである。恐らく異星人は、あそこで設計図を作ったりして、それを元にフネの工廠で用途にあったフネを建造していたのだろう。

 

 ユーリは只ライブラリにデータを移そうとしただけだった。だが、この時にこのライブラリ備え付けのコンソールの使い方をマスターしていなかった事、そしてユーリがやる事をユピが見ていただけだったという事態が仇となってしまう。

 

 元々ライブラリのコントロールプログラムは異星人用に造られている。相手の意思を読みこんで操作するユビキタスを超えたユビキタスの様な、簡易IFSの様なものだ。当然人の手が加えられていない為、設定は異星人仕様のままである。

 

 今までユーリがライブラリのコンソール操れていたのも、ある種の偶然によるものだった。しかしこの“動かせる”という事実が、このコンソールを“自在に動かせる”と誤認させてしまっていたのである。

 

 

 そして、ライブラリにデータを移そうとして色々と動かそうとして試行錯誤した結果、偶然か、はたまたバグか、ユーリが居れた筈のデータは所々抜けたデータの筈で設計図としては使えない筈なのに、設計図としてライブラリに保存された。

 

しかもシステムエラーの所為かこんがらがった回線を通じて、それがそのまま造船システムに送られてしまったのだ。オートメイション化された工廠はすぐさまその指令を実行し、材料となるモノが置かれた格納庫を自動スキャンする。

 

そしてデメテールの優秀なセンサーは見つけてしまったのだ。材料となるモノ、すなわちこれまで時間をかけて集めたジャンク品の山が収められている格納庫の存在を。

 

 

―――後はお察しのとおりである。

 

 

「だってまさか格納庫から直通で工場区につながるコンベアがあるなんて思わなかったッス」

 

「ふ~ん、で?遺言はそれかい?」

 

「ちょ!マジで勘弁」

 

「あ゛あ゛?」

 

「あ、いや、ほんとうにすいません」

 

 

 流石のユーリも怒り心頭のトスカさんに睨まれれば、蛇を前にした蛙、猫に睨まれたネズミ、姉さん女房に叱られる宿六・・・・最後のはちと違うがまぁ似たようなもんだろう。

 

 ちなみにユピもその場に居たのだから、罰せられてもおかしくは無いのだが、彼女の心根を全員知っている為、この騒動はどう考えても目の前で土下座し続ける艦長(バカ)が起したモノだという事を理解している。ユーリ哀れなり。

 

 

「しかし、まさかネビュラス級(武装無し)が艦内で建造出来たとはな」

 

 

 サナダはそう呟き、呆れたように溜息を吐いていた。

 今回建造されたフネはユーリが廃棄されたコロニーで見つけた設計図の一つである、その名もネビュラス(恐らくは星雲の意)級と呼ばれている戦艦だ。

 

元々は大マゼラン星雲の星団国家連合ロンディバルドが保有する主力戦艦であり、火力・機動性・耐久性・レーダー管制等の全ての面で優れており、艦載機搭載機能まで持ち合わせている。また大マゼランにあるジーマ・エミュと呼ばれる国からの技術提供をもっとも多く受けたフネで、重力慣性制御による姿勢制御が可能であるフネだ。

 

武装は基本がプラズマ砲で特装砲として大型陽電子砲が搭載されている。ある意味バゼルナイツ級何ぞ歯牙にもかけない程の、デメテールやその他カスタム艦を除けば銀河で有数の超高性能を誇る戦艦であると言えよう・・・・設計図が完璧であったなら。

 

 

「なんで穴開き設計図でフネが作れるんだよ」

 

「いやー、デメテールの工廠ってホント優秀ッスね」

 

「「「お前が言うな!」」」

 

「フヒヒ、サーセン」

 

 

 そう艦内工廠でお金に変わる筈のジャンク品を大量に消費して造られたフネには、一切の武装がついてはいなかった。また重力慣性制御なんぞ付いておらず、レーダーも通常レベルのモノしか装備されていない。

 

 つまり、ただ大きいだけの輸送船の様な状態なのだ。いや、安価な分輸送船の方がまだマシだったかもしれない。異様に分厚い装甲と強力なエンジンを持つ、強力な・・・弩級輸送船。格好悪いにも程があるというものだろう。

 

 

「少年、とりあえずフネを建造してしまったのは置いておく、問題は残ったジャンクではデメテールの全修理を行うには全然足りないぞ?」

 

 

 その時、ミユが良い放った一言で、ユーリが石化する。

 

 

「ま、マジで?」

 

「確か、全ての格納庫に収納されていたジャンク品を売り払って、丁度デメテールを修理できるだけの金額になる筈だった。この騒ぎで大分ジャンクが消費されてしまった。アレだけではエンジンブロックに使うエネルギー伝導管用特殊鉱石や量子共鳴クォーツが買えん」

 

「なら、また狩りに行けば・・・」

 

「その事ですが艦長、現在当艦は修理を行う為、相似次元機関の火を落しています。また4機ある補機のインフラトン・インヴァイターも比較的損耗が少なかった電源用の1機以外は、全て完全に停止しています」

 

 

 八方ふさがりとはこの事だろう。主機は今まで扱った事のない機関である為、慎重を期す為に完全に停止しているし、他の補機も補機とはいえ超大型である為、修理に手間取らないように1機以外完全停止されている。既に点検ハッチも開いている状態だ。

 

 流石のデメテールも補機が1機あるだけでは、メイン艤装兵装を使う事すら出来ない。アレは莫大なエネルギーを消耗するのだ。補機が全機稼働しているならいざ知らず、補機1機だけでは砲弾一つ満足に撃てるかもわからない。

 

 流石のユーリもこの状況には眉間にしわを寄せていた。全く誰の所為だ?俺の所為か。と自問等している。他のクルー達もどうしたもんかを頭を抱えてしまった。下手すればココで白鯨の旅は終わってしまう事になる。主に経済的な理由で・・・ソレは0Gとしてはあまりに情けないだろう

 

 

「・・・・・・・・・・そうだ。ないならある所から貰えばいいじゃん」

 

 

 ソレはまさに天啓、いやさユーリの脳みそが導き出したある意味最高の方式だ。周りの人間が一体コイツは何言ってるんだという顔をしていても、表面上気にしないを装い(内心ドバドバ滝涙である)、彼は部屋を飛びだして必要な情報を集めた。

 

 そして、自分の推測が正しいという事を知った彼は―――

 

 

「ちょっとカシュケント行って、お金集めてくるッス!」

 

「え?お、おい!ユーリ・・・ったく!もう!ちゃんと説明してけ!ユピ!フネを任せるよ!」

 

「へ!?は、はい!」

 

 

 唐突に飛び出して行った、行き先から考えるにVF-0Sが置いてある格納庫だろう。トスカは急に飛び出したユーリを追いかけて格納庫に走った。本来なら艦長不在の際は副長である彼女がフネに残らなくてはならないのだが、今はそんなこと気にしている状況でもない。

 

 

 

―――――ユーリは一体何を思い立ったのか?それは次回に明かされる。

 

***

 

Sideユーリ

 

 貿易惑星カシュケント、人口818500万人程の

 

に降り立った俺は、そのままカシュケントバザールを統括する長老会議所へと足を向けた。

 

 

「まったく、何処に行くのかと思えばよりにも寄ってココかい?」

 

「うす、ココでなら金をこしらえる事が可能ッス」

 

「ユーリ悪い事言わないからやめときな。ここの婆はかなりの守銭奴だよ?下手したら私らの全部を身ぐるみはがされちまうよ」

 

 

 そしてどういう訳だか、デメテールを飛びたとうとした俺のVF-0Sの後席に無理矢理乗り込んだトスカ姐さんも、俺と一緒に長老会議所へと来ていた。つーか、あなた副長なのにフネ放置していいんスか?

 

 

「大丈夫、ユピに任せて来た」

 

 

 さいですか。

 ソレはさて置き、今だブツブツ言うトスカ姐さんを宥め、俺はそのまま会議所に入る。長老会議所なんて名前が付いてはいるが、中は非常にシンプルと言うか無駄のない造りである。恐らく余計な装飾に金を掛けるくらいなら、商売に掛ける方がいいと思っているんだろう。

 どういう訳だか神棚は置いてあるし・・・ソレはさて置いて。

 

 

「こんにちは、受け付けはここでいいですか?」

 

「あ、航海者の方ですね?ようこそカシュケントバザールへ」

 

 

 受付の人に挨拶をすると百%の眩しいくらいの営業スマイルをしてくれた。俺も営業用に意識を切り替えて対応し、トスカ姐さんは俺の後ろに立ち動向を見守っている。

 

 

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

「はい、初めてカシュケントに来ましたので、長老であるクー・クー様にご挨拶をと思いまして」

 

 

 クー・クーとはこのカシュケントのバザールを仕切る長老で、実質この星の支配者に当たる人物である。この人物にご挨拶を行い“お土産”等を渡すとバザールにおいて様々な便宜を図ってもらえるという事で有名である。またこの人に頼めば手に入らない商品は無いんだそうだ。

 

 ・・・・ちなみに女性である。参考までに。

 

 

「長老のクー・クー様にごあいさつですか?それは丁度良い時間に来られましたね。現在クー・クー様は執務室においでになりますゆえ。それでは挨拶をなさいますか?」

 

「お願いします」

 

「では、こちらに――」

 

 

 そう言う訳で、俺とトスカ姐さんは建物の奥へと通された。さてココからが白鯨艦隊が存続するか否かの分かれ道、運との勝負だぜ。出来ればがんばって金を手に入れたいところだ。

 俺は案内の人の後を歩きながら、内心気合を入れたのだった。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

案内の人に通されたのは、応接用の部屋であった。部屋の中は若干薄暗く、どうも視覚的効果を狙っているらしい。足元が見づらくてしょうがないんだが、ここの主人の趣向なのだからどうしようもない。

 

 

≪――ごそ≫

 

 

さて通された一室の奥に目を向けると、何やら黒い影が動くのが見えた。よーく見てみると、どうやらシルエット的に人間の様である。目が慣れて来て相手の姿を完全に捉える事が出来るようになって来ると、この部屋には小さな年寄りの女性が蹲る様に座っていた。

 

 だが、小さいというのは姿だけで、その人物が持つ威圧感とも言うべきプレッシャーは恐ろしく大きなモノであるという風に感じられる。流石は貿易惑星の頭を張っている長老と言ったところだろう。長と言う肩書は伊達では無いという事なのだ。

 

 そしてその人物は俺とトスカ姐さんを一瞥すると、若干しゃがれた声で話し始めた。

 

 

「おう、おう。星の海をねぐらとする旅人よ、ようきなすった。持てる者にはパラダイス・・・持たざる者には地獄・・・カシュケントを取り仕切っているクー・クーじゃ」

 

「初めましてクー・クー様、自分は白鯨のユーリと申します。カシュケントは初めてなので勉強させてもらうために来ました。ああ、コレはほんの詰らないものですが――」

 

 

 俺はそう言ってカードをクー・クー婆に渡す。彼女は懐から携帯端末を取り出し、カードの中身を確認すると、深い皺の入った顔に更に深い皺を浮かべて、笑みを作り上げた。只でさえ白粉が深く塗られて、妖怪然としているのに余計に人外っぽく見えて怖い・・。

 

 

「おうおう、お主ネージリンスの作法を心得て折るのう。エエのう、金と男は、いくらあってもこまらんて・・・・のう旅人よ?」

 

「は、はい。そうです・・ね」

 

 

 今一瞬凄まじく悪寒が走ったんだけど?序でに虫唾と鳥肌も出てますが、ポーカーフェイスを貫く為に吐き気を飲み込んだ。・・・だけどお願いですから俺の尻の方を見ないでください。マジ心折れそうです。

 

 あと、トスカ姐さん、これにはちゃんとした理由があるし、払ったのは俺のポケットマネーだから睨まないでください。クー婆からのプレッシャーとトスカ姐さんからのプレッシャーに挟まれるとマジできついッスから。

 

 

「くふふ、このクー・クー、お前さんの気持ちに感動したわえ。さぁ、このパスを持って行くがよい。クラーネマインのレッドバザールに入れるパスじゃ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 クー婆は小さなカードを俺に手渡してきた。この小さなカードがあれば大分商売がしやすくなる。だけど今回の目的はコレじゃないんだよなぁ。

 

 

「・・・2000Gも払ってコレかい。とことん業突く張りだね」

 

「ちょ!トスカさん!」

 

「聞えちょるよ。な~にいいさねいいさね。既にお前さんらはカシュケントの客人じゃからのう。ひっひっひっ」

 

 

 その時、ぼそりとトスカ姐さんが変な事言ってくれるもんだから、正直心臓がドクンとハネ上がった。わざと下手に出て形だけでも良いから相手の機嫌を良くしているのに、その苦労が水泡に帰すかと思ったからだ。

 

 全く、機嫌悪いのは解るけど、マジで今だけは邪魔しないでほしいぜ。

 

 

「まことに申し訳ありません・・・所でクー様は生粋の商人で、どんなものでも売買を受け付けると聞いたのですが」

 

「おう、おう。確かにこのクー・クーは元からの商売人、売り買いについてはどんな事でも請け負うよ。なんじゃ?お主何か商売でもしにきたんかえ?」

 

「ええ、ちょっとしたモノを売りに来たんです」

 

「ほう?・・・・お前さんの身体か?」

 

 

 ザ・ワールド!時が止まる!だが俺の寿命がマッハでピンチだ。

 この瞬間、クー婆の言葉に俺自身マジで怖かったのだが、それ以上に俺の背後からのプレッシャーが文字通り肌で感じられる位に増大したのだ。唯一助かったのは、その対象は俺では無く目の前のクー婆に向けられていたという事だろう。

 

 ああ、ありがとうトスカ姐さん。愚かな俺を庇い、態々クー婆を威圧してくれるなんて・・・だけど睨みつけている相手は、今回我が白鯨を立て直してくれる程の財力を持つ金のガチョウ。コレ以上失礼があってはならない。なので―――

 

 

「トスカさん、やめて」

 

「――ッ!ユーリ!だけど!!」

 

「いいから、止めてください」

 

 

 ―――彼女を止める。今が勝負の時なのだ。

さっきのはホント怖かったがこの程度で諦める訳にはいかない。

 だが、ちょっと興奮しているのかトスカ姐さんは大声になる。

 

 

「あんた!また自分を犠牲にするつもりかい!」

 

「うぐ、ちょっと揺さぶら――」

 

「そんな事は許さないよ!あんたはどれだけ私に・・・周りに心配を掛けさせれば!」

 

 

 ちょっ、ガクンガクンゆさぶらんといてくれー、胃の中身が出ちゃう~。

 とりあえず冗談はさて置き、彼女を落ちつかせなくてはクー婆に追い出されてしまう。

 だが、俺は揺さぶられているからか声が出し辛い。

 

 くっ、あんまりしたくは無かったが、こうなっては仕方が無い。

俺は隙を見て、俺を揺さぶりながらまくしたてるトスカ姐さんの両腕を掴んだ。

そしたら何処からかjojoなイメージが流れ込んできたんだ。

 

 

≪ドドドドドドドドドドドドドドドドド≫

 

「お、おいユーリ!?」

 

 

な、何を。と解狼狽している彼女の顔へ近付き、そして―――

 

 

≪――――ぺろ≫

 

「この味は・・・動揺している味だぜ?トスカさん」

 

「ッ!~~~!!!」

 

 

 ―――やっちゃったぜ☆

 

最初こそ少し抵抗があったが、部屋に居る間は重力制御で重しを掛けている俺とは地力が違う。その所為か、彼女の抵抗は俺を振りほどく程強くはない。とはいえ、俺の方が少し背が低いから背伸びしなきゃならんから大変だ。

 

 

「な、な、ななな」

 

「7?」

 

「なんてことするんだ!!≪――ヴォン!≫」

 

「おっとあぶねぇッス。持ちつけ」

 

「こんのバカ!バカバカ!大馬鹿!!」

 

「うわっは、オラオラキタww」

 

 

“こっちの言葉を聞かない程興奮している相手には、混沌をぶつけてやればいい。そうすれば大抵は、予想外の出来事に思考が止まる!”

 

 ――――なんてことは無い、そんなことをすれば大抵こうなる。

 

 そして恥ずかしさからか、俺をボコボコにしようとするトスカ姐さんを避けまくる俺。息切れし始めた辺りで、ヒートアップしていた頭が冷えたのかトスカ姐さんは大人しくなった。

 

 

「落ちついたスか?」

 

「え、あ・・う――」

 

 

 今だ若干恥ずかしそうにしている彼女を無視し、俺はクー婆の方に振り返る。

 そして背筋を伸ばした状態で、思いっきり頭を下げて謝罪の意を示した。

 

 

「申し訳ありませんでしたクー様。部下が大変見苦しい真似を・・・」

 

「くふふ、エエわい別に。久々に若き頃の昂ぶりを感じ取れたでな。ヒヒッ若いってのはエエのう」

 

 

 やはりクー婆は中々懐が大きいらしい。今のも昼ドラを見たほどしか思わないんだろう。しかし目の前でこんなことしても動じないとか、どれだけ肝が坐っているいるんだか・・・・。

 実はカシュケントの歓楽街もクー婆のテリトリーだったりして。

 ともあれ、トスカ姐さんの暴走を食い止めたので、俺は商談に入る事にした。

 

 

「実はクー様に買い取って欲しかったのは」

 

「お前さんか?」

 

 

 うお!?またトスカ姐さんから強烈なプレッシャーが!!

 ビクンと身体を震わせるのを見て、笑みを深めるクー婆。

 クソこんの婆ぁ!ワザとやって遊んでるだろう!!

 俺は背後の気配にビクンビクンしながらも口を動かした。

 

 

「いいえ、違います。買い取って欲しかったのはこっちです」

 

「コイツは・・・ナショナリティコードとフェルメナ・ログかい?」

 

「ええ、貴女には自分の“名声”を買い取っていただきたい」

 

 

 俺はクー婆の眼を真っ直ぐ見据えながら、伝えるべき事を述べた。

 さぁ、後は野となれ山となれだな―――

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

「ウショショ、毎度ありぃ」

 

 

 そんなクー婆の声を聞きながら部屋を後にする俺達。

 何と言うかホント綱渡りだった気がするぜ。俺の貞操的な意味で。 

 ソレはさて置き、俺が一体何を売り払ったのかと言うと、簡単に言えば情報である。

 

 名声値というモノが管理局の0Gランキングと呼ばれている順位表がある。それは登録したフネの艦長がそれまでの航海でどれだけの敵を倒してきたのかというのを、数値で表すシステムなのだ。つまり名声とはそれまでの航海で打ち立てて来たそいつの実力を表す訳である。

 

 それと今回の件がどうつながるかと言うと・・・簡単な事だ。

 

 この名声値というものは確かにそれまでの証しであるが、ソレの管理は結構曖昧なのである。ランキングの重要な数値でありながらも、“誰が”“何時”“打ち立てた”という情報は気にされない。通商管理局に申告した時に付く数値なのである。

 

 そして、この名声値を通商管理局に渡す前に、クー婆に売り渡したという訳なのだ。こういった情報でも意外と買い手はいるらしく、手っ取り早くランキングを上げたいお金持ち辺りによく売れているらしい。

 

 こういった事が出来るのも、空間通商管理局とは別のコミューンを形成しているカシュケントならではの裏ワザといったところなのだろう。

 

 

「ふぅ、緊張したッス。なんとか金は手に入ったッス」

 

「そう、だね」

 

 

 そうトスカ姐さんが少し元気なさそうに返事を返す。

冷静になって思うと、俺はなんチューことしてしまったんだろう。

幾ら落ち着かせる為とはいえ、いきなり舐める変態じゃないだろうか?

 

見るとトスカ姐さんが若干俯いた感じになっている。あー怒ってるかなぁ?

 いやでもさ?いきなり優秀な副官があんな風に取り乱したら驚くじゃん?

 ・・・・いい訳にはならないよなぁ・・・・ココは男がやることは一つ!

 

 

「ゴメンなさい。トスカさん」

 

「な、なんだいイキナリ?」

 

 

 土下座・・・では無く、普通に謝る。流石に往来で土下座はしないさぁ☆

 兎に角腰から90度に身体を前傾姿勢の様に曲げて、トスカ姐さんに向けて謝った。

 

 

「幾らなんでもアレはやり過ぎだったッス。いやホント申し訳ない」

 

「あ、いや・・・私こそ、その取り乱して・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

 

 き、気不味い雰囲気が流れるぜ。やっぱり若造にセクハラされたら怒るよな。

 やっべ、これで実家に帰らせていただきます的な事態になったらマジでヤバいんだけど?

 シュベインさんにばれたら、俺抹殺されそうね!

 うわーん、ちょっと前の俺!調子にのりすぎだー!!

 

 

「(うう、あんな事これまでされたことは無かったんだよぉ。何であの程度でこんなにドキドキするのさ)」

 

「え、えーと。とりあえず帰りますか?」

 

「あ、うん・・・そだね」

 

 

 こうしてなんとかフネを修理できる分の金を手に入れた俺達はデメテールに帰還する。

 帰ってから若干トスカ姐さんとの距離感がびみょんになったが、時間と共にソレも薄れて元の感じになったから気にしない。気にしないったら気にしないのだ!

 ・・・・何時か責任取る為に穴埋めでなんか奢っておこう。

 

 

 ソレはさて置き、本当穴開き設計図で助かったかもしれない。もしネビュラス級を本気で作るとしたら、総額38700Gになった筈である。金が掛るプラズマ系統の武装面が全て無かった上、アビオニクスも通常のフネ程度しか装備されていなかった事もあり、値段的には半額にまで落ち込んだのだ。

 

 お陰で名声値を売った金の分をプラスしても、おつりが来るくらいの金を手に入れられた。デメテールをもう一隻造るって訳じゃないから、修理用の建材費だけだし、後はまた少しずつ稼いで強化を続ける事にしよう。

 

 

 ―――こうしてデメテールの修理は進んでいく事になるのだった。

 

 

***

 

 

 さて、フネの修理もだいぶ進み、俺もようやく暇が出来た頃。

 俺は以前の約束通り、ユピと共にカシュケントに向かっていた。正確にはカシュケントを含む四連星のバザール巡りであるのだが、こまけぇ事は良いんだヨ。

 

 

「えへへ、考えてみれば、この身体で艦長のフェニックスに乗るのって初めてかも」

 

「へぇ~そうだったんスか~。それじゃあ楽しんでもらう為にスピード上げるッスかねぇ」

 

「いいですよー!艦長が耐えられる限界でお願いします!」

 

「・・・・(普通そこはお手柔らかにって感じじゃないの?)」

 

 

 やべ、ユピの身体は俺よか丈夫なんだった。

 ・・・Gキャンセラー最大値だけど大丈夫かな?

 

 

 

 んで、道中は特に何もなく進み、カシュケントを経由し惑星ストレイへと降りた。

 この星は水気が多く、温暖な気候であるらしく、日用品などの雑貨を扱っているホワイトバザールが観光名所らしい。

 

 つーか今更なんだが、これってデートじゃね?

 俺としては楽しいんだけど、ユピも楽しんでくれていると嬉しいな。

 

 でも、もしトスカ姐さんとキスした事が伝わってて、“え~無理やりキス~?キモイ~”

とか言われたら、俺はもうハートブロークンで日本海溝に沈みたくなるぜ。

あう、そう思ったら気分が暗くなって来やがった。

 

 

「艦長・・?どうかなさいましたか?」

 

「へぁ、いや何でもないッス」

 

 

 うわ~ん!この間の俺はどうかしてたんだぁ~!全てはjojo電波が悪いんだ。

 ひ~ん、薄汚れちまっててごめんよ~!だからそんな純粋な目で見んといて~!

 良心が絞め付けられて、違う世界の扉を開きかけてるから!

 

 

「と、兎に角、ホワイトバザールでも見に行くッス」

 

「あ、はい。えーと・・・ルートはこっちですね」

 

「え?道解るんスか?」

 

「衛星ハックして指揮下に置きました。コレでこの惑星の中なら迷いませんよ?」

 

「そぉい!ハックしちゃ不味いッス!警備隊に見つかったら―――」

 

「大丈夫ですよ~、ケセイヤさん直伝のハッキングですから絶対にばれませんよ」

 

 

 おk、解った。後でケセイヤさんにはお仕置きだべ。

 純粋なこの娘になんて危険な事教えてんだよ全く!

 

 

「とりあえず、行くッス――ん」

 

「はい・・・(あ、腕組んで貰えた。うれしいなぁ)」

 

 

 だが、実は後で知ったんだが、そのハッキング技能で敵艦のセンサー類をハック。

ステルスモード中の自艦が、相手に見つからないのに一役買っていたらしい。

う~ん、だけど・・・・何ぞ複雑やなぁ。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 さて、バザールという名を冠するだけあり、ホワイトバザールは様々な店で賑わっていた。店と言っても出店に近いものであるが、競争率が激しい立地条件からか、売られているモノの大半は質が良いものばかりである。

 

 パンフによると(デフォルメされたクー婆がマスコットキャラでペ○ちゃんみたく舌出してる)、ホワイトバザールには日用品エリア、医薬品エリア、服飾エリアといった感じに大別されているらしい。

 

 

―――――んで、とりあえず日用品エリアから見て回る事にした。

 

 

「いらっしゃいいらっしゃい!安いよぉっ!!」

 

「ウチの商品はそこらのモノとは一味違うぜ!」

 

「・・・・・タコ、いらんか?」

 

 

 道の半分を占領した出店から、商人たちの威勢のいい掛け声が辺りに響く。

 思わず、前の世界でテレビで見た築地市場みたく感じた。

 流石は貿易惑星だ、活気と熱気が半端では無い。

 

 

「うわぁ~、色んな物が売られてますね~」

 

「似た様なものが多いから、最初見つけた時は買わないで、他の店と比較すると良いんスよ」

 

「艦長ものしり~」

 

「わっはっは、褒めるな褒めるなッス」

 

 

 こうしてユピと日用品エリアを見てまわり、丁度艦内清掃用の洗剤が切れていた事を思い出し、ホワイトバザールで探してみた。ユピが居るのでいつでも衛星にアクセスし相場を調べられる為、明らかにボッている商人に掴まされる事も無く、洗剤二種類セットを500Gほど購入できた。

 

 買った時に商人が「絶対、この二つを混ぜないでくださいね~」とか言ったので、塩素系と酸性系か!と突っ込んでしまったぜ。

 

 次は日用品エリアとつながっている医薬品エリア、様々な病気用のアンプルや無針注射器がおかれている店を見て回っていると、ふとユピが「艦長」と言いながら俺の腕を引いた。なんだろうかと思って彼女が指差す方を向くと、バザールの一角にぽつんとある薬屋が目に入る。

 

 

「あの薬を扱ってるとこがどうかしたんスか?」

 

「色々扱っているみたいですし、サド先生へのお土産として買って行ってあげようかと思いまして」

 

「・・・・ユピは本当にいい子ッスねぇ。だけどサド先生の場合は多分お酒の方がうれしいだろうけど。ま、薬があって困る事は無いッスから見てみるッス」

 

「はい、艦長」

 

 

 とりあえず、薬屋に近づき、置いてある商品を物色してみる。飲み薬は粉から錠剤、カプセルとかまで全種類あるし、塗り薬や張り薬、無針注射器とかまで置いてある。なるほどパンフのうたい文句にもあった、このバザールで手に入らないモノは無いってのもあながち嘘じゃなさそうだ。

 

 んで、薬を物色していると、凄まじく見た事のあるマークの入った薬ん瓶を見つけた。それは前世でも胃腸薬として重宝したラッパのマークが付いたアレである。その薬を手に取った俺は店番をしていた店主に話しかけた。

 

 

「店主、これって」

 

「おお、お客さんお目が高い。それはタイコー薬品が造っている大抵の病気なら一発で直せるというその名も「セーロガン」です。独特の風味と苦みがありますが、い~い薬です」

 

 

 ニカッ!と良い笑みで答えてくれた店主、コレはどう考えても俺に対するフリだろう。

そして俺は迷うことなく、○露丸もといセーロガンを一つ購入した。

―――― 俺の医療経験が2上昇した! ―――― 

ん?何やらテロップが出た様な・・・気のせいか。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

「「うう゛ぁ~~~~!!」」

 

 

 さて、ココはバザールにあるオープンカフェ。

昼時になり先程よりも人混みが増した為、食事がてら喫茶店に避難したのである。

 適当に注文したらなんか、ケバブサンドみたいなピタパンに肉を挟んだのが出てきた。

 ピリッとした唐辛子系の辛さが何とも言えないぜ。

 

 

「つ、疲れたッスねぇ」

 

「ホントですねー、こんなに活気があると楽しいけど疲れちゃいます」

 

 

 テーブルに突っ伏すよにして、俺達は往来を見つめている。

 先程よりも人が増えて、更に活気を高くなれば商人の声も大きくなるのは必然。

 少し離れた位置にある筈のオープンカフェのテラスにもビリビリ響いてくる。

 カフェで買った飲み物を啜りつつも、少しだけだらけていた。

 

 

「・・・それにしても、服飾職人たちが強かったッスね」

 

「うう、似合うからとか言っていきなり試着室に連れて行くとかどうなんでしょう?」

 

「まぁユピは可愛いからなぁ」←下心全く無しの善意の発言。

 

「う、うぅ~~」

 

 

 顔を赤くして俯くユピ、うんうん、おいちゃんには解るぞぉ。

 服飾エリアについた途端、いきなり一人の商人に声を掛けられたかと思いきや、服は要らないかと声を掛けられて、コレも良い経験だろうと試着してきたらといったのが間違いだった。

 

 まさか試着を終えた後に商人たちの数が増えてて、次はウチの店を、ウチの、うちだ、ってな感じでユピが引っ張りだこにされるなんて思わなかった。ユピは造形物の様な美しさがあるからなぁ。スレンダーな体つきも相まって大抵の衣装が似合う事に合う事・・・。

 

 気が付けば商人連合に取り囲まれていた時は驚いた。一応全員女性だったんだが、只の試着会が何時の間にかウチの専属モデルになってくれといった感じのスカウト合戦に代わっていたのだ。ユピはウチの大事なクルーで仲間だから手放すなんて有り得ないと言ったところ、凄まじい妬みの視線で見られて怖かったぜ。

 

 流石にヤバくなったと思ったから、ユピを抱えて逃げだした。

逃げた途端服飾商人たちも追いかけて来て、おお取りものだっから、ものすごく疲れたぜ。

 ちなみに疲れたってのは肉体じゃなくて精神な?間違えんなよ?

 

大体何で服飾商人なのに、cv若本なマッチョオカマ混じってんだよ。

・・・紐パンなのは本当にカンベンしてくれだったぜ。目が腐るかと思った。

 

 

「こ、この後はどうしますか?」

 

「そうッスね~」

 

 

 荷物は全部郵送してもらえるとはいえ、コレ以上散策するのは後日からの仕事に差し障りそうだ。かと言ってそのまま帰るのでは面白くない。なんか無かったかなっと思考は巡らしていると、俺の脳みその片隅である事が思い返された。

 

 

「そういやキャロ嬢は何処に入院してるんだっけ?」

 

「検索中・・・・――バザール裏手の海運病院ですね」

 

 

 ハックした衛星をリンクして調べたのだろう、フッと無表情になった彼女はそう答えた。

 ふむ、そういやキャロ嬢はこの星系にきてイの一番に入院しちまったんだよな。

 幾ら持病とはいえ、せっかく違う星系に来たのに見て回れないなんて可哀そうに。

 ・・・・そうや。

 

 

「ユピ、この近辺で生花を扱っている店ってあるッスか?」

 

「ちょっと待ってください・・・ホワイトバザールでは無く、隣のブルーバザールにあるかと思われます」

 

 

 ブルーバザールは近年出来た新しいバザールで、新参者の小売業者が軒を連ねるバザールである。ココで店を開くのは他の星系から渡ってきた商人が殆どであり、入れ替わりが激しく時たまクーリングオフが効かない事でも有名である。

 

 だけど今回は花買いたいだけだから、クーリンオフの心配は無いな。

 

 

「キャロ嬢のお見舞いに花でも買ってこうかなって思うんスけど」

 

「いいですね!ではこの後行きましょう」

 

 

 そんな訳で俺達は飯を食った後、ホワイトバザールを後にし、隣のブルーバザールへと向かった。

 

 

 


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