【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 番外編6+第四十六章+第四十七章+第四十八章

 

真っ暗な宇宙を照らす蒼いインフラトン粒子の光。

この世界では光学兵器なら大抵がインフラトン粒子によって蒼い光となる。

ソレは見ていてとても綺麗で、何処か引き込まれる様な魅力があった。

暗闇に煌めく蒼色の光は、何処か月の光を反射する川面の光の様で風情がある。

とはいえ、今はそんなことを考えている余裕は、俺には無かった。

・・・・少なくとも、友人のフネに直撃する所を見なければ。

 

 

「・・・・・・・」

 

「ユーリ、あんた」

 

 

コンソールに手を叩きつけた音がブリッジに響き沈黙が降りる。

ユピが咄嗟にコンソールの機能をOFFにしてくれなかったら、誤作動を起していただろう。

何と言うかもう怒鳴り散らすとか、そう言うのを超越してしまったらしい。

頭の中がスーッとし、何をするべきかを考え続けている。

こうして試行して、客観的な面で冷静に話しているのもその所為だ。

とはいえ思考的には、かなり怒りの度合いが高いらしいが。

 

 

「――リシテアにEVA(船外活動)要員を乗せてください。発進準備を急がせて」

 

「あ、ああ。解った」

 

 

自分でも信じられない位に、静かで、それでいて響く様な低い声で指示を出した。

だが、俺の指示はそれだけでは終わらない。

ユピにコンソールの操作をONにするように指示を出し、サナダさんの席に回線を繋いでいた。

何時もと違う俺の様子を感じ取ったのか、何処となく彼の表情も硬かった様な気がする。

とはいえ、その時の俺にそんなことを気にする余裕は無く、淡々と用事を述べていた。

 

 

「あとサナダさん、どうしてバウンゼィがああも手も足も出なかったか解ります?」

 

「ん?あ、ああ・・・恐らくだが、機雷で見動きを封じられたダケじゃ無く、攻撃すらも防がれたと艦萎えるべきだろう。――いや待て、解析結果が出た」

 

 

彼はそう言うと空間モニターを投影した。

若干戸惑いを隠せないと言った感じであった。

まぁ普段能天気そうなヤツが豹変していれば戸惑いもあろう。

だが、生来真面目であるサナダさんは俺の質問に律儀に答えてくれた。

 

 

「敵の寮艦なのだが、この艦を中心に向かってインフラトン粒子が集中していくのが観測出来た。恐らくインフラトンを引きつける何かを持つ装置が搭載されているのだろう」

 

「・・・で?」

 

 

普段の俺なら、ココで何かしら反応を示すものだが、どうも気乗りがしなかった。

その所為かやはり感情の起伏の無い静かな声を出してしまう。

 

 

「う、うむ。つまり我々の艦艇が持つインフラトン粒子を使う光学兵装は、あの寮艦に引き寄せられるということだ。実質光学兵装は全て防がれ、旗艦には命中しない」

 

「成程、解析感謝ですサナダさん。引き続き敵艦の解析を急いでください」

 

「り、了解した」

 

 

相変わらず淡々とした俺の雰囲気にサナダさんはやはり戸惑いの顔をしたままだった。

そん時は気がつかなかったが、思い出してみれば彼は若干冷や汗を書いていた様な気がする。

そんなに豹変していたのだろうかとも思ったが、この時の俺はそんなことをつゆほども考えず、サナダさんの報告を脳内でまとめ上げている最中だった。

 

サナダさんの解析により、寮艦の機能が判明した。

なるほど、道理でこの宙域では強力な筈のバウンゼィが潰された筈だ。

攻撃が通用しなければ一方的になぶられたも同じなのだから。

だが、防ぐという訳では無く、只単に攻撃を集中させるだけの様だ。

つまり無効化では無く、防御力が高い寮艦が攻撃を防いでいるだけらしい。

あの寮艦のキャパシティを超えた攻撃を行えば、事実上撃破できる。

 

 

そしてその後は・・・あの旗艦の生殺与奪権を此方が握れるということだ。

 

まずは兵装を破壊しよう、レーダーを叩き折るのも良い。

 

エンジンの噴射口を抉ってしまおう。決して逃げられない様に。

 

爆発させない程度で穴だらけというのも捨てがたい。

 

一気に死なせるのもアレだから、艦橋に小さな穴をあけてしまうのもいい。

 

徐々に酸素が無くなり、苦しみもだえながら死んでいけ・・・。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

イケない、自分の中で何処か暗い感情がひしめいているのが解る。

冷めている、のでは無く、冷静にキレて熱くなっていたのだ。

このままでは冷静な判断が下せない。

ソレは不味い、だがどうする?

 

 

 

そう思った時、俺の身体は勝手に行動していた―――

 

 

 

「ドッセイッ!!!」

 

≪バシンッ!!!≫

 

 

気が付けば俺の拳が俺の顔に突き刺さっていた。

顔面は結構急所が集中している為、殴り付けたところが凄まじく痛い。

だが、何処か熱を帯びた様な痛みとは相対的に俺の思考は急激に元に戻りつつあった。

どの世界でも共通の事だ、テレビの調子が悪ければ、斜め45度の角度で殴ればいい。

なんか違う気もしないでもないが、まぁ気にしない事にしよう。

 

 

「か、艦長!!?」

 

「ユーリ!あんた何してんだい!?」

 

 

周囲が驚いている、無理も無い。

なにせ俺は思いっきり自分の拳で、自らの顔を殴り付けたのだ。

下手すればタダの自虐行為にしか見えない事だろう。事実その通りだし。

だが、お陰でマグマの様にぐつぐつと煮えたぎっていた感情が痛みともに引っ込んでいくのが解る。

そして、それと同時に少しずつだが、暗い感情が消えて冷静な思考が戻ってきた。

 

 

「―――つぁーー!!効いたァァァ!!!でもコレですこしはマシになった」

 

「ゆ、ユーリ?」

 

「大丈夫だよトスカさん。俺はこれからも頑張っていくから」

 

「艦長!それは色々と不味いです!!」

 

 

あ~?だいじょうぶらよ~?かんちょーさんはこのていどではしずみません!

あ~う~・・・・よし、クラクラも落ちついた。

 

 

「ふぅ、なんとか普通に戻れたッス」

 

「あ、いつものユーリだね。良かった」

 

 

心なしか、ブリッジの空気もホッとした様な感じになっていた。

どうやら先程の黒ユーリ降臨がアカンかったらしい。皆ゴメンな。

だけどもう大丈夫や。俺だって艦長だからな。

戦いに私情を挟むことはもうしない。今すべきは人命優先だ。

とにかく、あそこに居る敵をなんとかしないとな!

 

 

「ストール、サナダさんから主砲の散布界データを貰ってすぐに撃てるように準備しておくッス!」

 

「わかった!」

 

「リーフは敵艦がこちらに気付いて攻撃してきたらすぐに避けられる様スタンバイ!」

 

「OK!」

 

「ミドリさんは各部署への伝達をお願いするッス!」

 

「アイサー艦長」

 

「ユピはサナダさんを手伝って解析をお願いするッス。それとトクガワさん」

 

「何じゃ?」

 

「全力は出さないッスけど、相似次元機関の出力調整を頼むッス」

 

「了解じゃ艦長」

 

「あとミューズはデフレクターと艦内の慣性制御をお願いするッス」

 

「・・・了解、よ」

 

 

ブリッジに居るメンバーに指示を出し終えた俺は、メインモニターに目をやった。

敵は今だこの宙域にとどまっている。どうやらボロボロのバウンゼィを鑑賞中らしい。

そしてそのお陰で、敵は隙だらけなのである。このチャンスを逃す手はあるまい。

 

 

さぁ~て、お仕置きの時間だべぇ~。

 

 

***

 

 

「リシテア、本艦ドックから発艦しました」

 

「ステルス解除、APおよびEP最大稼働、主砲群を展開します」

 

 

艦内のドックから直接通じるハッチが開き、中からネビュラス級戦艦リシテアが現れる。

ちなみに戦艦用の重力カタパルトのお陰で、最初から通常空間における最大戦速だ。

普通そんなことをすれば、中の人間がノシイカになってしまうのだが、慣性制御のお陰である程度は平気らしい。

つーか戦艦クラスを扱える重力カタパルトってある意味スゲェな。

 

 

「リシテア、コースそのまま。20秒で機動機雷群に突入します」

 

「リシテアのFCS稼働、本艦も全力でコレを援護するッス。主砲照準、機動機雷群!てぇー!」

 

「よいさほら来たポチっとな!」

 

 

上下12基、連装砲なので計24の弾幕が一斉に放たれる。

一発でもかなりの威力を持つ古代兵器は、進路上の機雷群を一掃して虚空へと消えていった。

これにより、まるで回廊の様に弩級艦程度なら十分通り抜けられるスキマが出来た。

そしてそれによって出来た回廊を、リシテアが全速力で走り抜けていく。

 

 

「敵艦、本艦に気付きました」

 

「敵に隙を与えるなッス!第1砲塔と第2砲塔はあのカニのハサミみたいな構造部分を狙うッス!多分アレが機雷射出口ッスから!他の砲塔はリシテアに近づく機雷の除去を続行ッス」

 

「直接照準合わせ問題無し、補正データ入力、FCSコンタクト。イけるぜ!」

 

「ホールドキャノン!てぇー!!」

 

 

これまでも、ある意味神がかり的な砲撃を行ってきたストール。

鍛えられた彼の砲撃センスは、並の砲撃主を軽く凌駕する。

そんな彼が狙った獲物が逃げられる訳も無く、4条の光線は確実に射出口を破壊していた。

ふむ、ストールにはゴル○13の異名を進呈しよう。俺の脳内ダケで。

 

 

「敵艦から通信です」

 

「無視するッス。今はギリアスを救援するのが先ッス」

 

「了解、以降無視します。――序でにウィルス送っとこ」

 

「ユーリ、もうすぐリシテアがバウンゼィに取りつくよ」

 

 

なんかミドリさんが怖いこと言っていた様な気がするが、俺は華麗にスルーした。

んでトスカ姐さんの言葉を聞き、空間パネルに目を向ける。

ユピが気を利かせてくれたのか、画像補正されて鮮明な映像が映し出されていた。

バウンゼィの倍の大きさを誇るリシテアが、彼の艦を庇う様な位置に付き、空間チューブと救命艇が発進しているのが確認出来た。

 

俺は救助が終わるまで敵艦を近づけさせないよう指示を出す。

どうやら敵艦はよっぽどギリアスに固執しているらしく、逃げようとしないからだ。

だが既に機雷攻撃は封じたし、通常の光学兵装では無いホールドキャノンには寮艦の特殊装置は効果が薄い。

 

まぁ、若干影響を受けるので、命中率が低下しているのがあるかな。

とはいえ敵さん慌てふためいて回避機動を取り始めた為、逃げるタイミングを逃した様だ。

まぁ下手に回頭して背中向けたらすぐに蜂の巣だかんな。

 

 

「敵艦発砲、中型ミサイルも発射されました」

 

「回避ッス!リーフ」

 

 

ステルス解除したから、こちらの姿を見つけたのだろう。

数撃ちゃ当たる方式とでも言おうか、微妙に統制が取れてない砲撃が来た。

なんつーか、精神状態が砲撃に現れているって感じか?

だが、大型ミサイルの発射口は既に潰したから、そうそう簡単にダメージは―――

 

 

≪ズズン≫

 

「敵艦からの中型対艦ミサイル命中、損害軽微」

 

 

―――はい、フラグでした。サーセン!

 

そりゃね、潰したのは大型ミサイル発射口だから、他の兵装は生きてますもんね!

とはいえ、ウチのECMやAP・EPが強力だからか、あまり命中弾は無いみたいだけど。

さっきのは只のラッキーヒットだモンん!ホントだもん!キモイ?サーセン!

・・・・サーセン言い過ぎてサーセ――え?それはも良い?すんません。

 

ともあれ、どうやら中型ミサイルも結構な威力を持っている様である。

今だ全力稼働は出来ないモノの、それでもデメテールの装甲板は通常の艦のソレを凌駕する防御力を持っているのだ。

それに傷をつけることが出来るということは、大マゼラン製の可能性もある。

いや、ホント大マゼランと小マゼランとの技術格差はマジで酷いモンがあるね。

ソレは兎も角、その頼みの綱の中型対艦ミサイルも牽制目的で撃った砲撃が運悪く当たっちゃった所為で沈黙した。

いや、なんか寮艦の持つ機能か何か知らんが、少しだけ干渉を受けたホールドキャノンのエネルギーブレッドがグググと曲がっちゃって、弾頭がまがった先に敵旗艦がいただけやねん。

そんでヒットと・・・なんかめっちゃ哀れやな。

 

 

「ミドリさん、リシテアの方はどうなってるッスか?」

 

「現在救助作業中です。居住ブロックはギリギリ敵弾がかすめた程度で済んだらしく、居住ブロックに避難していた乗組員は無事だそうです」

 

 

まぁ居住ブロックは大概フネの中央にあり、堅牢に造られるのが定石(セオリー)だ。

インフラトン機関が暴走して爆散でもしない限り、大破する攻撃を受けたとしても、居住ブロックに居れば助かる事もあるのだ。

とはいえ、某大海賊の持つ軸線反重力砲とか喰らったら、流石に跡形も残らんけど。

ソレは兎も角として、ギリアスは見つかったのか気になった俺は報告の続きを促した。

 

 

「ギリアスは?」

 

「まだ確認がとれておりません。恐らくバウンゼィのブリッジ部分に居ると思われますが、途中の道が破損により塞がっており、ルートを見つけるのに手間取っているとの事です。現在ケセイヤがバウンゼィのホストコンピュータをハッキングし、ルートを見つけようとしています」

 

「・・・ケセイヤさん、何時の間にか付いてったスか。つーか、あの人の事だから、ホストコンピュータにアクセスしてなんか勝手にデータ持ちだしてきそうッスね」

 

「やるでしょうね。彼の性格なら」

 

 

ギリアスに何か言われたら、俺は知らんかったということを全面に出すかねぇ。

俺は艦長だが、流石に部下の全てを把握しているという訳じゃない。

まぁある程度は責任をとるという事にするし、ケセイヤには減法処分に処すことにするがね。

あの人、自分の趣味である研究開発の為ならポケットマネー出す人だからな。

給料が減らされるのは地味に痛いらしい。

 

 

「敵艦砲撃を再開、大型対艦レーザー1、中型連装レーザー2」

 

「デフレクター展開、TACマニューバで対処しろッス」

 

「了解―――大型レーザー回避成功、中型連装レーザー1デフレクターと接触、相殺。直撃弾無し」

 

 

さて、ソレは兎も角、敵さんとの戦闘の方はと言うと、相変わらずこっちが優勢である。

基本性能が違うというのもあるが、敵の大型艦にある兵装の中で、ウチに一番ダメージを与えられそうなもの。

大型ミサイルの射出口をイの一番にブッ潰したお陰である。

恐らくアレが機雷の発射口を兼ねていたと思われる事から、アソコさえ潰せば機雷も無い。

そしてそれ以外の兵装はいわゆる一般的な艤装というものだ。

特に大型レーザー砲を装備している様だが、ウチのフネの装甲はエネルギー系に特に強い。

ミサイルが若干装甲に傷をつけ始めている様だが、耐久値が違い過ぎるから大丈夫だ。

・・・・ああ、また後で材料の入手から始めないと、書類地獄や~。

 

 

「リシテアより入電、バウンゼィの生存者全収容に成功。ギリアスさんも回収したそうです」

 

「ウス、了解ッス。リシテアは即座に離脱ッス」

 

 

コレでもうバウンゼィの方を気にして戦う必要は無くなったぜ。

何せ原型をとどめてはいるが、もう一撃喰らえば爆散しそうな感じがしたからな。

敵が爪の甘いヤツで助かった。お陰でバウンゼィの救援が間に合ったんだからな。

さぁて、一応普段通りではあるが、それなりに俺も怒りが溜まっているモンでね。

・・・・ココは一丁、タンホイザにでも叩きこんでやるよ。

 

 

「ストール、確か主砲は火線収束射撃が可能だったッスよね」

 

「ああ、出来るぜ。タダまだテストして無いんだが・・・まさか艦長?」

 

「俺ちょっと頭に来てるんス。技術的には問題無いんスよね確か」

 

「ああ、問題はねぇが。テストも無しに撃つのか?」

 

 

まぁそりゃ火線収束モードはまだ試してないからなぁ。

だけど、いずれは試さなきゃいけない事項が、偶々今来ただけさ。

それにな―――完膚無きまでに思いっきりヤっちまいたいんだよ。俺は・・・。

 

 

「そんな暇あるか!」

 

「ってサナダさんどうした!?いきなり叫んで」

 

「い、いや・・・何故かそう叫ばなければならないという感じがしてな」

 

 

サナダさんがなんか言ってるが、とりあえず火線収束モードを試すことになった。

まぁ丁度良い実戦テストだ。理論上は平気だってシミュレータデータもあるからな。

問題は無いさ・・・多分。

 

 

「それじゃあ―――後はわかってるッスね?」

 

「―――あいよ。粉々に、だな?任せとけ。火線収束砲撃に切り替える」

 

「ほいだば、主砲照準!目標敵旗艦!―――てぇーっ!!!!!」

 

 

俺の号令に従い、12基ある主砲群から一斉に薄緑色をした極光が発射された。

螺旋を描く光線は遮るものが無い宇宙に一筋の線を描きつつ、真っ直ぐと敵旗艦へと伸びる。

そして極光は途中で重なりあい、収束した巨大な火線となって襲い掛かった。

ソレに慌てた敵艦隊は、寮艦を盾にする為に火線上に寮艦を急いで配置した。

だが、収束したホールドキャノンの威力は高かった。

収束砲撃の直撃を受けた寮艦は、確かに一瞬だけ耐えて見せた。

そう、一瞬だけ・・・寮艦を屠るだけでは収まらないエネルギーの暴風は、容赦なく敵旗艦にも襲い掛かる。

なまじ収束砲撃だけなら貫通してしまう為、運がよくて大破で済んだのに、態々防御力が高い寮艦を配置した所為で、直前で収束砲撃のエネルギーが拡散してしまった。

フネを貫通出来るエネルギーの殆どが、その空間一帯に襲い掛かった為、敵旗艦はそのエネルギー爆発の光球に巻き込まれてしまったのである。

何故か光球に巻き込まれる一瞬『負ける?私が?――不思議!』とか聞えた俺はデムパでも拾ったのだろうか?

ともあれ、バウンゼィを攻撃していた敵は跡形も無く消滅した。

あまりこう言った事はしない方がいいのだろうが、今回は別だ。

ま、ギリアスには貸しにしておいて、あいつと将来対面する時に便宜でも謀ってもらうべさ。

そんなこんなで、案外あっさりと事態は終息していくのであった。

 

 

***

 

 

「リシテアとバウンゼィ、機雷原を抜けます。本艦に合流するまで後20分」

 

 

バウンゼィの生き残り達を乗せたリシテアが、機雷原に開いた穴を通り抜けて此方へと戻ってくる。

乗りこんだ連中の報告がメール形式で上がって来ているが・・・生き残りは数十人にも満たないらしい。

あのクラスの巡洋艦の最低稼働人数は400前後、ウチみたいに優秀に育ったAIやマッドがいる訳ではないから、一般的な自動航法装置を使っていて大体300人前後いる筈だ。

ちなみにバウンゼィはリシテアがトラクタービームで牽引して持ってきた。

かなり破壊されてはいるが、一応まだキールも残ってるし、あんくらいなら管理局ステーションで修理できることだろう。

・・・・マッド共が勝手に修理、いやさ改造しないか心配だが、そん時はそん時さ。

止める?改造根性に火が付いたマッド共を?ハハ、冗談。俺にはムリだネ。

 

 

「本当は機雷の除去もしていきたいところッスが、まぁこの航路は若干外れてるッスからねぇ」

 

「別に私らがそんなことし無くても、専門のジャンク屋がいるさ。大体エネルギーが勿体無いよ」

 

 

いや、エネルギー自体は古代機関から無尽蔵に引き出せるんスけどね。

まぁ気分ってヤツだな。気分。

 

 

「ところで、ギリアスの奴はどうしたんスか?」

 

「ギリアスさん現在重体で艦内病院でサド先生がオペ中です。処置が済み次第集中治療室へとうつされるようですよ」

 

 

ちなみにアイツ、敵旗艦からの最後の攻撃を受けた際に、コンソールの破片が腹部に刺さっていたらしい。

普通なら死んでしまう様な怪我だったらしいのだが、運が良いのか動脈は外れていた。

おまけに鍛えていたからか並はずれた生命力を持っており、サド先生のその場での応急処置も良かったのか、なんとか治療ポッドに押し込んで回収出来たんだそうだ。

流石はギリアス、Gの頭文字を持つだけはあるな。生命力が図太いぜ。

だがまぁ、以前危険な状態であることに変わりなく、現在はオペ中らしい。

 

 

「大丈夫なんだろうか?」

 

「隣で倒れていた副官さんも重傷でしたけど、それよりも重傷でしたもんね」

 

「まぁ副官君はギリアスが応急手当をした形跡があったし、ソレが功を奏して命の危険は脱しているそうだよ」

 

「・・・・ま、知り合い連中はなんとか助けられたって事ッス。ソレだけはよかったと思うッスよ」

 

 

本当は、周辺の残がいにバウンゼィの脱出ポッドの残がいがあったんだが・・・。

ウチだって万能じゃないからな。間に合わなかったとかは思わんさ。

あの状況ではあれが一番早く付いた状態だったんだ。

あえて言うなら巡り合わせがそうだったとしか言えないねぇ。

とはいえ、今回は少し疲れた――なので欠伸が出てしまう。

そろそろ何時も寝ている時間なのに、今回の件で夜更かししちまったからなぁ。

健康優良児の俺の肉体は、凄まじく睡眠を欲し、その合図が出ちまったって訳だ。

だけど、ブリッジに居る訳だから、目の前で堂々と欠伸できる訳も無く。

俺は顔には出さないで欠伸を行った。

ちょこっと涙が漏れたが生理現象だし、誰も見てねぇだろう。

 

 

「!!(艦長が涙を流してる?!・・・もしかして助けられなかった人達の事を・・・やっぱり艦長は優しいです)」

 

「・・・(誤魔化している様だけど丸見えだよ。相変わらず、何でも一人で抱え込んじまうヤツだねぇユーリは・・・もっと頼って欲しいな。私は、その・・副長な訳だし)」

 

 

?なにやらユピとトスカ姐さんの方から視線を感じるんだが?

・・・ま、まさか俺が欠伸していたことがばれたんか!?

なんとなくいたたまれなくなった俺は、そそくさと逃げるようにブリッジを後にした。

なんか言いたそうな目が逆に痛かったよーチキショー!

 

 

「あ!艦長――」

 

「やめときな。男には時として一人になりたい時もあるのさ」

 

「・・・ですが」

 

「あいつがもしも頼ってきたなら、そん時は一緒に居てやればいい。それが良い女ってもんさ」

 

「そう、ですね。じゃあ待ちます」

 

「ああ、そうしよう。もっと頼られる様に自分を磨きながら、ね」

 

 

ううー、もう部屋に戻って寝るぞー!

低反発マット最高!!いやジャスティス!!とにかく眠って明日に備えるぞー!

 

こうして、意識を失ったままのギリアスを収容し、俺達は目的地であるネージリンスへ向かう航路に乗った。

どれくらいでギリアスが目を覚ますのかは不明だが、まぁ起きたらおどろくだろうなぁ。

 

***

 

―――デメテール工廠区画・蜂の巣型汎用ドック。

 

 

さて、先日ギリアス達を救出した本艦隊所属のバトルシップ・リシテアが艦内ドックに係留されている訳だが・・・。

 

 

「こりゃまた、えらい傷だらけになっちまったもんスね」

 

 

ガラガラのドックに一隻だけいるリシテアを見上げながら、俺はそう漏らしていた。

ギリアス救出の際に受けた傷が結構デカイと聞いて、様子を見に来たのである。

戦艦クラスのフネであるリシテアは、白銀色で綺麗だったその船体のいたるところに亀裂を伴った爆痕が残されており、何とも痛ましい姿に見えた。

 

 

「まぁ、全部第一装甲板で収まっているのが救いだな」

 

 

俺の隣でケセイヤが端末を操作しながらそう応えた。

そう、傷は一見酷く見えるが全部第一装甲板より下には到達していない。

最重要区画(バイタルパート)に到達している損傷は一つも無いのだ。

それどころか搭載されている主砲などの兵装も、見た目は酷いが問題無く稼働する。

それはつまり機雷攻撃による内部の破壊を完全に防いだという事にほかならない。

ブロック工法なので、最重要区画を破壊されなければ、周辺のパーツを取り外して入れ替えるだけで、リシテアは建造当初の美しい姿を取り戻すことが可能となるだろう。

だが、問題はそこでは無いのだ。

 

 

「やっぱり対空兵装が不足していた所為ッスねぇ」

 

「だな、せめてパルスレーザー砲が40基もついてりゃもう少しマシだったことだろうよ」

 

 

そう、問題は戦艦クラスのフネであるリシテアが、こうも攻撃を喰らった事なのだ。

実を言うと、あの時出撃したリシテアにも対空兵装は搭載されている。

航宙機の10機程度ならなんとかなるレベルの対空兵装だ。

だが、リシテアは戦艦であるが為、艤装の設計概念自体は砲雷撃戦仕様となっているのだ。

実を言うと対空防御は艦載機や機動兵器に任せると言った思想で設計されており、砲の配置も今回の様に機雷が浮かぶ様な宙域においての戦闘は想定されていなかったのである。

だがそれでもこれ程の損害を受けるとは予想されていなかった為、急きょ対空兵装の充実化が課題として浮上したのだ。

先も述べたが機動兵器等が対空防御を行うというのは悪くない。

むしろ3次元の機動を取る砲台となれる機動兵器により、固定式砲台では回頭不可能な部分の死角をカバーできるからである。

ミサイルなどが飛んできた方向に機動兵器を集めて、弾幕を張るという使い方も可能だ。

だが、現実問題として現在我が白鯨艦隊に機動兵器群はいない。

造ろうと思えばすぐさま作れるのであるが、ようは操縦出来る人間がいないのである。

何で機動兵器がないのに、対空防御兵装の事に気が付かなかったか?

今まで色んな事があり過ぎてそこら辺を完全に忘れてたんだから仕方ないでしょう。

元々機動兵器の扱いはププロネン達に任せてたし、その彼らは見つからないし・・。

まぁ兎も角、今後機動兵器が使えないと言った場面もあるかもしれないということで、リシテアの方も修理がてらに対空兵装を充実させるという事になったのである。

 

 

「ンで、現実問題として修理は兎も角改修は可能何スか?」

 

「ああ、建造予定だった無人駆逐艦の竣工を遅らせりゃ可能だ。もう一つの巡洋艦の方は既に半分完成してるから中止は効かないしな。勿論序でだし、そっちにも同じような改装を行う予定だ」

 

「ふーむ、小回りが利く駆逐艦の導入が遅れるのは少し痛いッスが、まぁ仕方が無いッスね」

 

 

それよりも材料費がかさむなぁと俺は頭を抱える仕草を取った。

ソレを見てケセイヤは苦笑しながら話しを続けた。

 

 

「そうだな。ま、海賊の艦隊を10くらい無傷で拿捕すりゃ金は手に入るんじゃねぇか?」

 

「まぁそう何スがねぇ。このフネなら近づくのは楽勝だろうし・・・問題は砲の威力がデカすぎるって事何スよ」

 

 

攻撃力が強すぎる為、拿捕にとどめるんじゃなくて粉砕になっちまう。

そうなると敵の価値はものすごく低下しちまうのだ。

どうやってもジャンクとかよりも丸ごと残っていた方が買い取り値段が高いからな。

 

 

「ふーん、じゃあ艦長のVF-0を改造して一機で艦隊を落せるくらいにしちまうとかどうだ?兵装さえ落とせば大抵降伏するだろう?」

 

「レッツパァリィィィィィィ!!とか叫んでッスか?いやっスよ疲れるし」

 

 

ゴテゴテにミサイルやレールライフルひっつけたVFで吶喊するなんて俺の趣味じゃない。

そう返事を返すと、ケセイヤは意外と似合いそうなんだがなぁと言って端末の方に目を戻した。

つーかお前は改造がしたいだけだろうに、まぁソレがケセイヤの趣味で生きがいなのだからどうしようもない。

とりあえず出来るだけVFを高性能化させることについては許可を出しておく。

下手に反対するよりも、逃げ道を作っておく方があとあと安全だからな。

戦力増強って言うメリットもあるし。

 

 

「んじゃ、ま。頑張ってくれッス」

 

「おう、任されたぜ」

 

 

俺は振り返らずに手を振りながら、工廠区画を後にした。

 

 

 

***

 

 

ギリアス救出から5日後―――

 

薄暗い部屋の中で、ぼうっとした光が8つ程浮かび上がっていた。

それは有史以来、宇宙に人間が進出してた今でも、現役で使われる事のある原始照明。

いわゆるロウソクの灯りが、暗い部屋の中で輝いていた。

1,5m程度の燭台の上に乗せられたロウソク達の中心立っているのは俺だ。

俺はスークリフブレードの超臨界流体機能をOFFにしたタダの刀剣状態のブレードを、ゆっくりとした非常に緩慢な動きで、不安定な燭台の上に乗せられたロウソクへと向ける。

自分が体で覚えた“もっとも効率の良い動き”をイメージしながらその軌跡をなぞり、剣先がぶれない様に細心の注意を払いつつ、動く。

身体が軋む、額から汗が噴き出てくる。だが、それなりに修錬を積んだお陰か剣先はぶれない様になってきた。

やがて剣先はロウソクの胴体に触れる。

流体皮膜がOFFとなっていても、かなりのキレ味を持つスークリフブレードはゆっくりと、非常にゆっくりとした動きでロウソクの中を通り抜けていく。

やがて、切っ先がロウソクを抜けた。ロウソクの胴体にはコレで2個目の傷が出来る。

そして次のロウソクも同じようにして、胴体に剣先をめり込ませようとしたその瞬間――!!

 

 

「ぶぇッキシッ!!あ~、風邪かな?≪ポロリ≫・・・ってあああ!?」

 

 

くしゃみをした所為で集中が途切れてしまった。

おまけに剣先がめり込んでいたロウソクに振動が伝わり、ロウソクは中ほどからポッキリと折れて床に叩きつけられると、バラバラに崩壊してしまっていた、クソ。

 

 

「ちぇー、今日こそ三カ所斬れると思ったんスけどねぇ」

 

 

俺はブツブツ言いながらもスークリフブレードの剣先の蝋を拭うと、そのまま鞘へとしまった。

パチンという小気味いい音を立てて、刀身が鞘へと収納される。

さて、俺が一体何をやっていたのか気になるヤツも多い事だろう。

これは精神鍛錬を兼ねた剣術の修行である。ちなみに俺の思い付きの修行法だ。

前世のマンガで見た様な記憶がチラホラあるが・・・。

まぁ結構効果的なので、カシュケントを過ぎて以来お気に入りである。

尚、この暗くした訓練室の重力は普通の数倍以上に高められており、だからこそこの短期間でも効果が得られるのだが――閑話休題。

幾ら仕事が忙しかろうと、スキマを見つけては重ねてきたのである。

お陰で機動兵器の扱いが上手くなっていたのだが、何か関係があるんだろうかねぇ?

でも、あの殺人的な仕事量の最中にやった時なんて、死ぬかと思ったけどね。

それでも辞めないのが俺クオリティ!ああ、目が見えない・・・けどビクンビクン!

ちなみに最近はパリュエンさんのお陰で、俺の仕事が若干減ったから、その分訓練に当てられるようになった。

やっぱね、汗流すとストレス発散できる訳ですよ。

少し前よりかは筋肉もついてるし、顔色も良いしまぁまぁって感じかねぇ

 

 

≪ビー≫

 

「少年、ココに居るか?」

 

「んー?ミユさんッスか。何かようッスか?」

 

「少年が携帯端末の電源をOFFにしている所為で連絡が付かないとミドリから連絡が来てね」

 

 

あ、そういや訓練の邪魔にならない様に、通信シャットアウトにしてたんだっけ?

いっけね、訓練終えたのに通信ONにしておくの忘れてたぜ。

 

 

「でだ、偶々ここの近くを通りかかった私が直接伝えに来たという訳だ。まもなく本艦はby度ゲートに入るそうだから、ブリッジに来てほしいだそうだぞ?」

 

「おう、解ったッス。ほいじゃ、汗ふいたら行くッス」

 

 

とりあえず訓練してた所為で汗だくだ。

俺はミユさんの近くにあるイスにおいてあるタオルで、顔をぬぐおうと思いソレに手を伸ばした。

だが俺よりも早くタオルは第三者の手に渡り――

 

ひょい。

 

 

「ほら、少年」

 

「あ、取ってくれてサンキューッス」

 

ポンっと手渡されたタオルをキャッチする。

―――ん?

 

 

「あれ、コレは?」

 

「ソレだけ汗を掻いたんだ。水分補給くらいしておきたまえ」

 

「あ、ドリンクッスか!ありがとうッス!咽がちょうど乾いてたんスよ!」

 

 

タオルと一緒にドリンクが入った容器を渡してくれたらしい。

んで、身内だから油断したんだろう。

俺はその容器の中身を飲みほしていたのである。

だが―――

 

 

「ちなみに薬入りだ」

 

「ぶばぁーーーーーー!!!」

 

 

思わず口に入れた飲みモノを吐きだしていた。

そう、一番の敵は身内であったのだ。

 

 

「ど、どうした少年?むせたのか!?」

 

「ケホっケホっ――何でもないッス (むぅ、少し飲んじまった)」

 

 

ウチのマッド達が作る薬は非常に強力である。

以前、ウチのユピテル内にあった自然公園という名の畑の植物たちは彼らが調合した薬品により、異常な速度で成長し、日々の糧となっていたのだ。

そして現在ではバイオプラントにある植物群にも使用されており、デメテールの艦内の空気や食品を作り出すのに一役買ってはいる。

だけど、実はそれ以外にも沢山薬品を作り上げていたという報告があるのだ。

新薬の開発までやっていたのは驚きだが、実験を受けさせられたヤツは薬を飲むや否や昏睡状態に陥り、懸命の処置(他の新薬の投入)によってなんとか目覚めることが出来た。

しかし、目覚めたそいつの性格は180度反転してしまっていたという。

尚、コイツは新薬を飲む前は結構素行が悪く、ケンカを10回以上行ったペナルティとしての処置として、新薬の実験台第一号としてしまった。

だが、その新薬、胡蝶之夢DX剤を飲んだ後は礼儀正しく清潔で潔癖な人間となってしまった。

人間と言うのは幾ら取りつくろうと、本質が変わらなければ何処かでボロが出る。

だがそいつは本質も変化させられたらしく、別人となってしまっていた。

そして人の本質を人為的に、特に薬品を使い廃人にすることなく、副作用も出さずに変えるなんて前代未聞であった。

それ以来、マッド達から渡される薬品を飲むことは禁止した。

だってそれで死なれたりしたら、夢見が悪くなるからな。

 

 

「ケホっケホっ・・・」

 

「ほ、本当に大丈夫か少年?」

 

「あ、いやホントに大丈夫ッス。むせただけだし」

 

 

さっきのは実際ホントに驚いて、気管の中に少しドリンクが入ってむせただけなんだよな。

だけど薬品入りとか、一体何を入れてくれたんだろうかこの人?

 

 

「ただの栄養剤だったんだが、口に合わなかったかと思ったぞ」

 

 

栄養剤か、マッド達謹製ならさぞかし性能はいいんだろうなぁ。

・・・・・・・・・あれ?あら?おろろ?

 

 

「・・・身体が・・・軽い・・・だと?」

 

「どうやら効いている様だな。流石は私のお手製だ」

 

「え?ミユさんの?」

 

「私の専門は鉱物だが、それ以外にも手慰み程度に習得していてね。まぁ、それは私やケセイヤやサナダも服用している栄養剤を更に成分調整したモノだよ」

 

「はへ~、ソレにしてはすごく効くんスねぇ」

 

「言ったろ?私の手製だと。私は手慰み程度の趣味でも手は抜かない主義だ」

 

「そ、そっスか、でも何でコレを?」

 

 

まぁマッド達の造る薬は即効性が高いから、何か影響が出るならすぐに出ている筈だ。

とりあえず、身体の調子もいいし何で俺に栄養剤をくれようと思ったのか彼女に聞いてみる。

するとミユさんは何故か明後日の方角を向いていた。

思わず釣られて俺もそっちを見たが、何もいない・・・。

まさかミユさんは幽霊が見え――「生憎私はオカルトとは無縁だよ」・・・際ですか。

でも何で明後日の方向いたんだ?アレか?虫でも飛んでたのか?

 

 

「ま、まぁ少年もこのフネを率いる身なのだ。体調を崩さないよう気をつけてもらわねばと思ってな」

 

「ん~、でも普段は大丈夫だったスよ~?」

 

「何を言う、なんだかんだ言ってこの間から働き詰めで、碌な休息も取らず気が付けばココまで来ていたではないか?見た目以上に少年の身体はボロボロだと私は思うぞ?」

 

 

そういや、あれ飲んでから身体が軽いんだよな。

・・・まだ少し残ってるな。

 

 

「えい――おお、更に身体が楽な気がしてきた」

 

「そうだろう。どうせ解らないだろうから技術的な説明は一切省くが、その栄養剤には人間のコンディションを最適に整えるように調整してある。少しは疲れに効いたのではないか?」

 

「いやいや、少しどころかかなり効いたッス。ありがとうございますミユさん」

 

「あ、ああ。少年が元気ならそれでいいさ。それよりもそろそろブリッジに上った方がいいのではないかね?」

 

 

ミユさんにそう言われてそう言えば呼ばれていた事に気が付いた。

いっけねと言いつつも、上着だけはおり訓練室をでようとした。

既に汗は乾いている・・・っと、その前に。

 

 

「ミユさん、栄養剤感謝ッス。それじゃあまた」

 

「ああ、そうだな。頑張って来い」

 

 

そう言ってくれるミユさん、う~ん励ましてもらえるとはありがたいねぇ。

俺は彼女に手を振りながら急いで訓練室を後にしたのであった。

 

 

 

「やれやれ・・・まったく、ユピや副長が零していたから少し心配だったが、いやいやどうして彼は強いな。本当に――頑張れユーリ艦長」

 

 

そう言って少し微笑しながら訓練室を出るミユさんが目撃されたらしいが。

生憎俺の耳に入ることは無かったのであった。

 

 

***

 

 

さて、デメテールはそれぞれの星域を繋ぐ転移門ボイドゲートを超えて、ネージリンス外縁部へと戻ってきた。

偶に現れるグアッシュ海賊団の残党を鴨葱と思いつつ相手にしつつ、ついに目的地に到着する。

 

 

「管理局とコンタクト、航行許可取れました。惑星シェルネージの衛星軌道上に停泊します」

 

「カシュケントを出立して2週間弱・・・リシテアの修理は完了してたッスね」

 

「ケセイヤ達が頑張ってくれたからな。問題無く稼働するぞ艦長。序でに改修もばっちりだ」

 

 

デメテールは長期航海に向いてはいるが、やはりこの世界においては少しばかり大きい。

だから惑星への交通は、主にリシテアを使うことになるだろう。

・・・・パリュエンさんに頼んで運航スケジュールも決めとかないとな。

 

 

「ミドリさん、艦内アナウンスで―――」

 

「あー、ようやくネージリンスに帰って来たわね。見なさいファルネリ。ネージリンスの宙(ソラ)よ」

 

「ええ、その通りですわね。お嬢様」

 

「――っと、お二人とも何時の間に・・・」

 

 

何時の間にブリッジに来ていたのだろうか?

ブリッジの入口付近では、外部モニターに身を乗り出しているキャロと、そのそばに控えているファルネリさんが立っていた。

まぁ賓客とはいえ、彼女の待遇は通常クルーとほぼ変わらないからな。

携帯端末にアクセスすれば、今フネがどこら辺を進んでいるかくらい解るってもんだ。

それに彼女らにはセグウェン社に連絡を入れてもらわなくてはならないしね。

 

 

「・・・ま、良いッスか。とりあえず、キャロ嬢、ファルネリさん。長い航海お疲れさまでした。いかがでした?本船での航海は?」

 

「ええ、艦長。今まで乗ってきたどのフネよりも快適に過ごせましたわ」

 

「コレは是非とも、我が社に迎え入れたいほどです」

 

「天下のセグウェン社の方々にそう言って貰えるとは光栄ですな。しかしながら、本艦の所属は0Gドッグ。天下御免の無法者ですからな。余程の事が無い限り何処にも所属しないんですわ」

 

「あら、残念ね」

 

「「「ふふふふふ」」」

 

 

と、3人であやしげな社交辞令ごっこをしてみる。

あ~あ、この乗りも後少しでおしまいかぁ。

そう思うと少しは寂しいなぁ。

 

 

「さて、社交辞令ごっこはココまでッス。お二人にはリシテアの方に移ってもらうッス」

 

「あれ?デメテールでステーションにつけないの?」

 

「はは、デメテールはデカすぎるッスから、ステーションの宇宙港に入港出来ないんスよ」

 

「あー、なるほど」

 

「だから、連絡船・・・と言うにはソレもデカいんスが、上陸希望者はリシテアの方に移乗して貰って惑星に降りるッス。まぁ実を言うとウチのフネは万年人手不足だった所為か自動化が進んで、見た目より乗員が少ないから、頑張ればリシテア一隻に全員乗れるんスよね」

 

「それはそれである意味凄いわね。・・・解ったわ。それじゃ準備しておけばいいのね?」

 

「ウス、正確な時間は後で知らせるッス。それ程荷物は無いと思うんスが、準備だけはよろしく頼むッス」

 

 

俺がそう伝えると、二人は解ったと言いブリッジを去っていった。

考えてみれば一応俺も付いて行かなきゃならねぇンダよなぁ。

だって、白鯨艦隊の責任者は俺な訳だし、セグウェン社に送り届けるのに責任者いなくてどうすんヨってな。

 

 

「各員、上陸希望者は早めに準備を行い移乗を開始する事。俺からは以上ッス」

 

「アイサー」

 

 

そんな訳で、取りえず惑星に降りる事にしますかねぇ。

 

 

***

 

 

さて、ステーションで軌道エレベータ―に乗り変えてシェルネージに降りた。

この惑星の資本はセグウェン・グラスチ社によって賄われているらしい。

どの店もS・G社の傘下が殆どだというのだから、影響力は凄まじいモノがあるだろう。

まぁ今回は特に寄る所もないので、キャロ嬢を連れてS・G本社に足を運んだ。

受付につくとファルネリさんが対応し、すぐさま俺達は本社ビル最上階へと案内される。

どの時代もお偉いさん方は高い位置を好むのかねぇ?と、雲の上に突き出す高層ビルの最上階に来た時にそんなことを考えていたら、何時の間にか何やら応接室的な所に案内されていた。

中に入ると、何処かカーネ○サンダースを彷彿させる白髪の老人がそこに居た。

入った瞬間にまるで心の奥を見透かそうとするような視線を感じた。

その視線を辿ると行きつくのはカーネルサ○ダース似の老人。

この人物はタダモノでは無い、少なくてもかなりの重役の人だ。

そう考えて表面上はポーカーフェイスを貫いていると―――

 

 

「おじいさま!!」

 

「おお、キャロ!可愛い孫娘や!よく無事に帰って来てくれたね!この老骨にお前の可愛い顔を見せておくれ」

 

 

―――とまぁ、先程までの何処か慇懃な空気は何処へやら。

 

そこにあったのは純粋に孫との再開を喜ぶタダのジジバカの空気しか無い。

あれ?一瞬でも身構えた俺ってバカなの?死ぬの?

いやいや、あれはきっと孫がいるからだ。

爺さんというモノは孫がいると孫powerによって性格が変化するというのは浦○鉄筋家族でもおなじみである。

きっとこの爺さんもキャロ嬢の為ならランボー張りの働きを見せるに違いない。

 

 

「すまなかったね、キャロ。私がカルバライヤなどに生かせたばかりに・・・」

 

「いいえ、平気だったわ!おじいさま!だってずっとユーリ艦長が丁寧に守ってくれていたモノ!」

 

「おお、おお。その話は聞いているよ。そのユーリくんというのは―――」

 

 

さて、俺が変な方向に思考を逸らしている内に話しは進んだらしい。

気が付けばセグウェン氏とキャロ嬢が此方の方を向いていた。

うむ、そろそろ出番かにゃ?

 

 

「こちらの方ですわ、会長」

 

 

なにやらファルネリさんが俺の方に手を向けている。

そしてセグウェン氏は俺の方を見て、特に驚くと言った事も無くジッと見つめてきた。

なるほど、俺の情報は既に届いてるってわけね。

まぁファルネリさんがずっと俺のフネに居た訳だし、知っているのも当然か。

 

 

「初めまして、セグウェン・ランバース殿。白鯨艦隊のユーリです」

 

「あなたがユーリ君・・・失礼、S・G社会長のセグウェン・ランバースです」

 

 

そう言うとセグウェン氏から手が差し出された。

その意図を察した俺も手を伸ばし、お互いに握手を行う。

ギュッと握られた手は予想に反してごつごつとしていた。

剣だこと銃だこ、それによく見ればこの年齢にして中々の筋肉質である。

それはこのセグウェン氏が一介の商人ではない事を意味していた。

元々は戦う商人だったのかもしれないな。ケンカしたら俺絶対負けるわ。

 

 

「まごむすめを救出し、ここまで送りとどけてもらったことを心から感謝しておりますよ」

 

「いえ・・・色々とありましたから」

 

 

いや、救出には手を貸したんですが、その後はおぜうさまの独断専行デス!

とはいえないのが大人の事情ってもので。

 

 

「ん?なにか―――」

 

「お、おじいさま、言葉だけじゃだめよ!ちゃんとユーリにお礼を上げて頂戴。ココまで頑張ってくれた彼にはソレに応じた報酬があってしかるべきだわ!」

 

 

さすがキャロ嬢、雲行きが怪しくなった瞬間にわりこんできた。

セグウェン氏から見えない位置で“テメェ、余計なこというなよ(超意訳)”という視線を送ってくるぜ。

なんて言うジャイアニズム的視線!く、くやしい、でもビクンビクン!!

まぁ冗談は置いておいてだ。何貰えるんだろうか?

フネの設計図は・・・今更か、ならお金かな。

 

 

「あっはっは、よりより解っておるよ。さて、ユーリ君」

 

「あ、はい。何でしょうか?」

 

「近くに私の経営しているホテルがあります」

 

 

―――な、ホテル・・・だと。ま、まさかお礼というのは身体で!!?

 

 

「そこで改めて、礼とお話をさせていただきたいのですが・・・」

 

 

あ、何だそう言うこと。一瞬ビックリしちまったい。さいきんだらしねぇーな。

俺はセグウェン氏の要望に了解の意を示した。

 

 

「それではキャロ様、コレで我々のエスコートは終了です」

 

「ええ、今まで本当にありがとうユーリ艦長」

 

 

そして表面上は堅苦しい挨拶をキャロ嬢とかわす。

だけど俺達は解っている。お互いの目を見ればわかるのだ。

 

 

“んじゃ、コレでお別れッスけど、またいつか会おうぜ!”

 

“ふふ、そうね。その時はまた貴方のフネに乗りたいわ”

 

“なら出来ればその時までに、何かしらの技能を覚えておいてもらえると、優遇されるッス~”

 

“言ったわね!見てなさい!立派な淑女でありながらも凄い技能を付けて戻ってあげるわ!”

 

 

―――そんなアイコンタクトをかわし、キャロ嬢と別れた俺だった。

 

***

 

 

ホテルに案内されると、俺らは名乗る間もなく奥へと通された。

すでに連絡が行き渡っていたと言えば聞こえはいいが、案内されたのはある意味“特別”なお客様用の部屋であった。

どんな所かと言えば、一見すると普通の部屋なのだがまずドアが通常のと違う。

見た目は同じなのだが、通常のソレと比べると微妙に分厚いのだ。

ソレだけでは無く、窓の方も普通よりいささか小さい。

おまけによく見ると2重3重のガラスが張られており、明らかにタダのガラスでは無い。

この部屋は文字通りVIP用の部屋、もしくはオリの様な物かもしれないな。

ソレはさて置き、部屋で待っているとセグウェン氏が秘書官を連れて部屋に入ってきた。

そして秘書官が部屋の一角にネージリンス周辺の宙域図を張りだした辺りで俺は気付いた。

しまった、絶対に何か厄介事をプレゼンする気だこの爺。

そう思った時には既に防犯の為という理由で部屋のカギが絞められた後だった。

報酬の話しと聞いて、ついついホイホイ付いて来ちまった俺が悪いのかもしれない。

ともあれ、話しだけでも聞いておかないと何されるかわからん。

なのでセグウェン氏が口を開くまで待つことにしたのだった。

 

 

***

 

 

「・・・皆さんはネージリンスの歴史をご存知ですかな?」

 

 

すこし雑談した後、唐突にセグェン氏はそう問うてきた。

 

 

「ええと、たしか昔は難民だったとか」

 

「その通りです。かつてスターバースト現象の発生により、大マゼランのネージリッド領の約半数の星が壊滅しました。その受難を逃れ、我々の祖先はネージリッドから小マゼランへと渡ってきたのです」

 

「・・・」

 

「マゼラニックストリームを苦難の末に越え、最初に辿り着いた地が、ここシェルネージ。かつての首都星です。今ではカルバライヤの脅威に備えてより後方のアークネージ星へと首都を移転しましたがね・・・」

 

「・・・セグウェン氏、失礼ですが我々にそんな昔話をする為にココへと呼んだ訳ではないでしょう?」

 

「いやいや。もちろん、孫娘を助けていただいたお礼をする為ですよ」

 

 

ニコニコと笑うセグェン氏に悪意は感じられない・・・様に見える。

ハッ、逃げられなくしておいてお礼の為?飛んだ狸だな。

 

その後、改めてキャロ嬢の救出に関するお礼と、マネーカードが手渡された。

中身を確認すると何と2万Gもの大金が入っていた。

普通にフネを建造できる金である。流石は大企業会長。

こんな金をポンっと渡せるとは中々懐がデカイ。

俺は偽善者では無いので、迷惑料としてもう少し欲しい所であったが・・・。

まぁここいらが落とし所だろうと思い、カードを受け取った。

コレ税抜きですかと尋ねてみたい衝動はあったが、自重する。

 

 

「んで、私らをココへ呼んだのは、コレだけで済ませるという訳では無いんだろう?」

 

「ほほ、そちらのお嬢さんは話しが早い方がお好みの様ですな」

 

「当然だ。腹芸は好きじゃないんでね」

 

 

トスカ姐さんがそういってセグウェン氏に話しの続きを促した。

俺としても実際そうだと思っていたので、トスカ姐さんを止めずに現状がどう推移するか見る事にする。

・・・・別に丸投げとかじゃないぞ?

 

 

「はは・・・ではお言葉に甘えて率直にお話しさせていただきましょう。皆さまにはこれから始まる戦争において、我々の味方となっていただきたい」

 

 

ついに来たか。そう思った俺は目で続きを促した。

セグウェン氏はそれに応えて、一体何がどうしてそうなったのかを語り始めた。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

3週間前―――アーヴェスト星系CS667植民惑星上空。

カルバライヤによって発見されたばかりのその星に、ネージリンス所属のフネであるララオ・シェナー艦長率いる植民調査船フレイスールが接近していた。

彼らの目的は同胞たるネージリンスの民の為に、新たなる植民星を開拓し領地を拡大する事。

ネージリンス政府が推進する対カルバライヤ政策の一つでもあり、乗組員たちの士気は高い。

そして、様々な星系を巡りようやく植民可能惑星、コード名CS667を発見した彼らは狂喜した。

コレで新たなるネージリンスの大地が増えた。生存権を拡大できたと。

しかし、その思いはすぐに消沈する事になった。

 

 

「――管理局は何と言っている?」

 

「ハッ、既にカルバライヤによって領有手続きを終えたとの事です」

 

「チッ、あの野蛮人どもに先を越されていたか。植民星としては好条件の星なのだがな」

 

「発見は我々よりも10日ほど先の様ですね。無念であります」

 

 

オペレーターが無念そうにそう言うと、ブリッジ要員達も同じような顔をした。

せっかく発見した星は、あろう事か昔からの仇敵であるカルバライヤに取られてしまっていたからである。

ララオ艦長は艦長席に深く腰掛けると、溜息を吐きつつ指示を出した。

 

「うむ・・・。まぁいい、次の星系に向かうぞ。我らの同胞が住める星を一刻も早く探さねば――」

 

 

確かに良い星を取られたのは悔しい。それがカルバライヤともなればなおさらだ。

だが、今はそんな民族的感情に流されるよりも、仕事を優先した方が万倍もいい。

合理的に物ごとを考えるネージリンスの民特有の考え方であろう。

何時までもこの宙域に居ても仕方が無い為、ララオは宙域を離脱する指示を下そうとした。

だがその時、レーダーを見張っていたオペレーターが叫び声をあげた。

 

 

「か、艦長!大変です!カルバライヤ軍です!5・・・いや10隻はいます!」

 

 

一時騒然とするブリッジ、厄介な相手に見つかってしまった。

ララオも激昂したいのを堪えつつもメインモニターに映像を映す様指示を出す。

そこに映し出されたのは間違いなくカルバライヤの宙域保安局の巡洋艦群。

CS667の陰から続々と現れる艦隊の姿に、なんてことだと内心叫ぶララオだった。

そして、カルバライヤの巡洋艦はフレイスールを射程に収めるとそこで一時停船した。

勿論宙域保安局の人間である彼らもカルバライヤ人であり、ネージリンス所属のフレイスールがうろついているのを見て良い気持ちはしない。

むしろ撃沈したいと願う連中もいたことだろう。

だが、カルバライヤの保安局艦隊の艦隊司令が優秀だったのか、兎に角警告が先に行われた。

とはいえ、強制的に通信を繋げたりしたりと、若干荒かったのは仕方が無い。

 

 

「そこのネージリンスのフネに次ぐ。この星はカルバライヤの領有惑星である!星間法第114条に基づき、この惑星から50万kmは他国の艦船の立ち入りが禁止されている。速やかに回頭しない場合、敵性意思があると判断し攻撃を行う。繰り返す――」

 

「クソ!カードゥ共が!調子に乗りやがって!」

 

「艦長、あれだけの艦隊とやりあったら、本艦はひとたまりもありませんよ!!先制攻撃の許可を!!」

 

 

強制通信回線で告げられた乱暴な言い草に、元々国民感情からカルバライヤの事を嫌っているブリッジの人間達は怒りの声を発した。

ララオも出来る事なら怒声を発し、憎むべきカードゥ共に目にモノを見せてやりたかった。

しかし、そんなことをすればタダでさえ緊張している冷戦状態が破られる。

ソレはすなわち、これまで溜められてきた敵国への鬱憤が解放され、大規模な宇宙戦争に発展することを意味していた。

ララオは流石にソレは不味い、自分がそのきっかけになるのはまっぴら御免と考えていた。

 

 

「・・・・落ちつけ。連中も戦争をしたい訳ではあるまい。

国家間の問題もある。ココは刺激するような真似は避けて退くぞ」

 

「し、しかし・・・」

 

 

ララオの指示にいきり立っていたクルー達が戸惑う。

だが、ララオとしては一刻も早くこの宙域を離脱したかった。

もし今ココで何かきっかけでもあれば、すぐさま戦闘状態に突入しそうな緊張があったからだ。

しかし時として、最悪の事態の予想は現実のものとなってしまう。

 

 

「か、艦長!前方からカルバライヤ艦船が急速接近!本艦を包囲する気です!!」

 

「く、くそうっ!やっぱりあの野蛮人どもは俺達をココで沈める気だ!!」

 

 

何と、突然惑星CS667 の影から大きなフネが姿を現したのだ。

ソレは真っ直ぐと、フレイスールを横切る軌道を取っており、見ようによってはチャージ戦法の様にも見てとれてしまった。

この瞬間、緊張状態であった空気が一気に破かれてしまう。

ソレも―――

 

 

「落ちつかんか!艦種の確認を―――」

 

「死ね!カードゥ共!!!」

 

 

近づいてきたフネの撃沈という、最悪の形でであった。

そしてフレイスールの攻撃で破壊されたフネは植民の為の民間移民船であった。

この民間移民船には乗員が900名、新天地を求めたカルバライヤ人が1200名が乗りこんでおり、計2100名が突然の砲撃によってCS667の大気圏に落されて燃え尽きた。

フレイスールはその後、一連の事態を見た激昂したカルバライヤ軍の猛攻を受けて撃沈された。

 

発砲を命じたのがララオ・シェナーであったのかはたまた彼の部下の暴走であったのかは定かではないモノの、ネージリンスの艦が民間人を乗せた移民船を撃沈したという事実は、カルバライヤ国民の間に最悪の形となって瞬く間に広まっていった

 

 

――そして両国の世論は開戦という方向へと突き進む形になるのであった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

「―――と言う訳なのです」

 

 

重い、非常に重っ苦しい空気が部屋の中に充満する。

つまりはカルバライヤの民間船をネージリンス所属の軍艦が誤認攻撃で撃沈しちまったというのがこの事件の全貌と言ったところだろう。

 

 

「ネージリンス側はこの件に関して交渉で決着をつけたかったのですが、つい先日、カルバライヤ側から宣言が行われまして・・・」

 

「宣言?」

 

「ええ。カルバライヤ星団主席、ナバロフ・ベクタランの名によるアーヴェスト宙域の領有宣言です。この図を見ていただきたい」

 

 

セグェン氏が示したボードには緑と赤で色分けされた宙域図が置かれていた。

赤い方にはカルバライヤの国旗のマーク、逆に緑にはネージリンスが描かれている。

何やら赤い方はUの字型の宙域で、ソレに食い込むように緑の宙域が伸びていた。

 

 

「見ればわかる通り、赤い方がカルバライヤ。緑が我等ネージリンスが発見した領有星です。そしてつい先日、ナバロフ主席は突然銀河中心核を基点として―――」

 

 

図面が変わり、今度は今まで緑がはみ出ていた部分が赤に変わる。

そして今までUの字の先端にあった領有星からラインが引かれた。

 

 

「―――CL665、CL617 の領有を宣言しました。このラインはナバロフラインと呼ばれ、このラインの内側にある星は全てカルバライヤのモノであるということです」

 

「成程、このラインの内側の惑星は自分たちの領有星。つまりラインの内側にあったネージリンスの量優勢は既に制圧されているんですね」

 

「まさにその通りです。ラインの内側にあった居住可能惑星の2星には既に艦隊が送られて制圧されております。テラフォーミング作業に携わっていた住民たちは皆拘束された様です」

 

 

ピッと機器を操作すると図面が消えた。

セグェン氏は此方の方に向き直ると、改めて口を開いた。

 

 

「そしてカルバライヤ側は、アーヴェスト宙域に艦隊を送り続けています。ネージリンス側もコレをカルバライヤによる侵攻作戦と判断し、対抗策として国防宇宙軍4軍の派遣を決定しました」

 

 

おk、最悪だ。完全に戦争状態になってしまった時に帰還してしまったらしい。

セグェン氏もこれまで中立派として頑張ってきたのに、報われねぇなぁ。

 

 

「ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)を多数有するあの宙域をカルバライヤに渡すことはできません。そこで皆さまに依頼したいのです。我々の味方として、戦力として戦ってくれるようにね」

 

 

そう言って頭を下げてくるセグェン氏、だが俺としては正直非常に迷惑な話であった。

俺はあくまでキャロ嬢を送り届けただけである。

ソレが何故戦争の方棒を担ぐ様な依頼を受けなければならないのか?

 

 

「セグェンさん、生憎ウチは0G。正規軍では無くいわば傭兵の様な存在です。カルバライヤの正規軍の様に“よく訓練された”軍隊には太刀打出来ないと思いますが?」

 

 

と言うか、戦うことは出来るだろうけど、損害がバカにならないと思う。

ヤッハバッハとの戦争を控えているのに、今ココで戦力の消耗が起きるのは望ましくない。

なのでやんわりと断りを入れたのだが、セグェン氏は意に還すことも無く平然と言葉を述べた。

 

 

「このような事態において、海賊やフリーの艦船に募集をかける事はどの国でも行っている事です。そう言えば皆さんは以前エルメッツァの方に居られたとか。それなら似た様な募集を見たことがあると思います」

 

「ああ、そう言えば・・・」

 

 

そう言えば確かにアルデスタ・ルッキオ間の星間紛争で似た様な募集を見た。

セグェン氏曰く、戦力とするという理由もあるが、多くは戦力を多く見せる為の張り子のトラにする為の処置なのだという。

つまり、お互いに自分たちの勢力を大きく見せて、相手の士気を落そうとする為らしい。

弾薬補給及び整備は空間通商管理局がやってくれる為、実質国家は報酬金を払うだけで済み、長期的な視野で見れば自国の艦船が撃沈されたりする可能性を考慮した場合、圧倒的に安上がりで済むのである。

そりゃ各国で競って募集かける訳だわ。

この場合先に多くの人員を集められた方が勝者になるんだモンな。

 

 

「私としては是非とも貴方がたに、ネージリンス軍へ協力して貰いたい」

 

「それは・・・ちなみに断るとどうなりますか?」

 

「ええ、勿論突然こんなことを言われて戸惑うのも解ります。・・・ところで私の会社には諜報部がありまして」

 

 

あ、なんかやな予感。

 

 

「“たまたま”カシュケントにもセグェン社の支部があったのですが、そこで異常な量の情報が降り引きされたらしいのです。それこそ、一介の0Gをランキング上位に組み込ませられる量の名声値のやり取りがね」

 

 

・・・・だらだら、冷や汗が出てきたぜ。

 

 

「他にも、おかしな話なのですが、同じ時期にカシュケントのあるマゼラニックストリームで交易会議が行われていたのですが、その交易会議にてセグェン社の者と名乗る人間が出席していたそうです。おかしな話です。今回、カルバライヤとの緊張状態が高まっていた為、星間での渡航を制限した結果、交易会議には我が社は誰ひとりとして人員を派遣していなかったのですがね。不思議な事もあるものです。とはいえ偽造を請け負ったとされるブラックマーケットは既に逃げてしまった為、証拠も何も無いのですが・・・」

 

 

はい、偽造手形を発行した事完全にバレてますねコレ。

不味いよ、イヤマジで不味いよ。

ドンくらい不味いかって言うと、思わずリンディ茶を飲み干しちゃったくらい不味い。

前者はデータだけだから物的証拠は何もないからいいとして、問題は後者だ。

公文書偽造はどの星系国家であろうが凄まじい罪に問われるのである。

コレが知られてしまうと、最悪管理局のステーションで補給を受けられない。

そうなれば海賊に身を落すか、宇宙の藻屑と消え去るしか道が残されていないのだ。

海賊となれば、各国の警備隊、軍隊、バウンティハンターから追われる事になる。

そりゃ眼帯をした海賊はある意味浪漫だけど、流石にまだそうはなりたく無いぜ。

 

ニコニコとした表情を崩さないセグェン氏の前で笑みを張り付けたまま、

俺は胃がキリキリと痛むという事態を経験していた。

一体どこでばれたんだろうかと思ったのだが、考えてみれば丁度キャロ嬢の身分証を偽造した際にファルネリさんが付いて来ていたのを思い出した。

彼女はキャロ嬢サイドの人間である。そしてセグェン社の人間でもあるのだ。

俺の事はあくまでキャロ嬢を捜索する為に利用していたにすぎない。

勿論、時が経つにつれて徐々に仲間意識が芽生えたようだった。

だが彼女の基本的な姿勢は、全く変化していなかったのだ。

キャロ嬢がよくこぼしていたのは、俺にセグェン社に入らないかと言うこと。

もしかしたら、そうなるように仕向ける為に彼女は・・・・。

いや、安易な予想は真実を覆い隠す。下手な妄想はしない方が良い。

でもマジで参ったぜ。コレは。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

ユーリが内心ウンウン唸っていることを、彼と一緒に居るトスカは感じ取っていた。

もしも彼の内心が絵に表せるのであれば、今まさに彼の内心はこんなんだろう。

 

 

_____

 | ∧ ∧.|| .| |  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 |(;゚Д゚)||o| | .< だ、誰か助け・・・!!

 |/  つ   | |  \______

   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

  パタン

ヾ'_____

 ||    |   |

 ||o   .|   |<な、何をする!離せー!!

 ||    |   |

   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

表情こそ変わらないが、冷や汗をかいているのが見えている。

それに何処かそわそわしているのを感じているのである。

ソレは非常に小さな変化であり、常人では見逃してもおかしくは無い小さなサインだ。

だが彼女も伊達にユーリの副官役を務めている訳では無い。

こういった小さな変化も見分けがつくようになっていた。

 

 

(それにしても、狸爺とはよくいったモンだねぇ)

 

 

実の所、今の状況は既に“詰んでいる”と言っても良い。

相手は既にこちらの弱みを握っているのだ。

とはいえ、その原因を作ってしまったのはある意味自分の所為である。

ヤッハバッハとの戦いに備える為に色々となりふり構わず行動した結果がコレだ。

あの時は気が付いていなかったが、今思えば随分危ない橋を渡ったモノである。

 

 

(どうする?ユーリ)

 

 

だが、トスカにはこの状況に口を挟むことが出来ない。

いや、挟むことが出来なかった。何故なら、ここで下手に口を出せば、どんなことになるのか全く予想が付かなかったからである。

ならず者たちが相手であれば、エネルギーバズで吹き飛ばせばいい。

だが相手は只の“可能性”の話をしているだけなのである。

まだ“お前たちが犯人だ”とは一言も言ってはいない。

ココで何かしらのアクションを取れば、ソレは自分たちが犯人という様なものなのだ。

 

 

「・・・・な~るほど、なるほど。ソレはまた面白い話ですねぇ」

 

「ええ、全くですよ。出来れば何故“そのようなことをしたのか”会って話してみたいものです」

 

「そうですね。ちなみに会えたとしたらどうする気なのかをお伺いしても?」

 

「とりあえず、我が社に引き込みたいと思っています」

 

「ほう!ソレはどうしてですかセグェンさん?相手は“犯罪者”なのでしょう?」

 

「だからこそ、ですかな?どんなことにも使い道はあるものですよ」

 

「・・・それは興味深いですね」

 

 

やばい、非常に胃が痛くなってきたよ。

小さな頃に失敗をして怒れる親が黙って見つめてきた時よりも痛いよ。

そうトスカは思った。同じ空気の中に居るユーリが平気そうなのを恨めしく思う。

だがトスカが予想したそれは間違っていた。

ユーリは平気なのでは無く、既に限界突破して開き直っているだけである。

既に会話内容も半分惰性の思い付きで反射で返している様なモノだった。

頭の中はグルングルンとどうすればこの場を切り抜けられるかを考えてショート寸前だったのだ。

 

ココで冷静になって考えてみると、今この場で断るのは非常に不味い。

何故ならこの星はセグェン・グラスチ社のおひざ元であり、おまけにネージリンス元首都なのである。いまこの場でこの誘いを断ろうものならば、ネージリンス側から白鯨艦隊に向けて何かしらのアクションがあってもおかしくは無いのだ。

彼らの事だ、情報収集の際に0Gランキングのログ情報くらい手に入れることは難しくは無いだろう。ソレを見ればユーリは発足から僅か数カ月で0Gランキングの上位ランカーの仲間入りを果たしている。

通常の0Gであるなら十数年、いやさ数十年掛かっても出来るかどうかの戦績をユーリは上げているのである。もしも敵軍に付いた場合、その戦略的な威力は計り知れないとグラスチ社の戦略顧問からそう分析が上がっていた。

 

実際ユーリ個人としては中立でいたいと切に願っている。

だが、ネージリンス領に来た時期が悪かった。

海賊専門の0Gとして、そして最短上位ランカーとして注目されている白鯨。

ソレを引きこめることが出来たなら、恐らくかなりの士気向上があげられる筈である。

エビで鯛を釣るという訳ではないが、彼らの名声を利用すればフリーランスの0Gを集める広告塔がわりとして使う事も出来る。

おまけにファルネリの報告によって白鯨は自前でフネを改修可能な程の技術力、倍以上の艦隊を相手に戦える戦闘能力を兼ね備えている。

歌って踊って士気向上をするアイドルでありながら、戦場で千の敵を屠れる存在。

まさに一騎当千かもしれない戦力が目の前に居るのである。

コレを士気向上に利用しない手は無い事だろう。

とくにネージリンスを拠点としているセグェン社である。

もしもネージリンスがカルバライヤに倒されれば、軍に対してもコネがあるセグェン社は即時解体される可能性が高い。セグェン氏としても、ココまで大きくした会社を自分の代で終わらせるつもりは毛頭なかったのであった。

 

 

「ところで話は変わりますが、ウチのフネの事はご存じで?」

 

「ええ、ファルネリから報告を受けています。大層大きく、また強いフネだとか」

 

「ええ、偶々見つけた遺跡がそのままフネだったので使っています。ですが実際は張りぼての様な物なんですよ。何せ機能の殆どが今だ封印中なので、全力で使えた試しが無いんです」

 

「それは難儀ですね。よろしければ我々の技術者も派遣しましょうか?」

 

「いえ、結構です。何分ウチは0Gですからね。クルーには気性が激しい奴も多いんです。それにマッド達もいますから、下手なことするとそいつらに実験台にされますね」

 

「(マッド?)・・・そうですか、ソレは残念ですな」

 

 

この後、3時間に渡る“話し合い”が行われ、セグェン氏が仕事の為に変えるまで続いた。

そして最終的には、今度の戦争にユーリ達も参戦することが決定した。

とはいえ、その性質上彼らは遊撃部隊という名の愚連隊扱いとなるらしい。

修羅場を幾度となく超えて、歴戦の艦長となりつつあったユーリであったが。

このような絡め手で利用される羽目になるとは思わなかった。

尚、偽造した件についてはユーリは最後までシラを切り通した。

彼としてはなんとなく嫌だったからそうしたのであったが、実はセグェン社の方でも偽造された身分証が使われたということが秘密裏に知れただけで、一切の証拠を持ち合わせていなかった。

お陰で彼は今後S・Gに利用されるということは無くなったのである。

 

この件についてファルネリは、身分証偽造云々に関しては、報告を上げていなかった。

彼女がそうしたのは、キャロも一緒になって偽造に手をかしたということが、万が一にもバレることを恐れたからだった。セグェン社もコングロマリットである以上、一枚岩等では無く会長派、社長派、キャロ派と言った派閥が存在しているのだ。

 

だから彼女はキャロの地位を脅かすような報告はしなかったのである。

ちなみにキャロ派とは、キャロお嬢様FCから派生した組織であり、他二つにならぶ程の規模を誇る派閥である。その組織を構成している人員は“変態と言う名の紳士”であることが多いらしい。

キャロ本人にばれれば、さぞかし冷たい目で居られそうな人種がそろっているが、彼らにしてみればソレもご褒美に含まれるのであろう。忠誠心も高いしね。

 

 

 

ソレは兎も角としてこの後、白鯨艦隊はネージリンス側に味方していく事になる。

ユーリ達にしてみれば、ある意味不本意であったが、実質軍の指揮下では無く、その所属はあくまでもネージリンス軍を攻撃しないだけの遊撃艦隊でしか無かったのが救いだろう。

つまり、ネージリンス軍を攻撃さえしなければ、大抵の事は自分たちで考えて行動できるという事でもあるのだ。最悪戦況が不利になればトンズラをしても文句は言われない。

 

この事は、我が強くて個人技能がモノを言いやすい0Gを軍の指揮下に引いても、軍としての秩序や統率性を失わせる原因にしかならないというネージリンス上層部の判断からだった。

 

兎も角参戦と決まってしまったが、ユーリはポジティブに考えることにした。

逆に考えるんだ。コレはヤッハバッハに備えた対軍訓練として利用できるぞ。

あと、正規軍に当たるかはわからないし、海賊も報奨金目当てで参戦しているのだ。

となればやることはいつもと変わらない、海賊を狩って身ぐるみ剥ぐだけである。

そん時の片手間でネージリンスを支援すればいい。

ああ、完璧だ。コレで行こう巻いて行こう!

 

 

そしてユーリは ふしぎなおどりを おどった

 

 

 *'``・* 。

        |     `*。

       ,。∩ 炎    *    もうどうにでもな~れ

      + (´・ω・`) *。+゚

      `*。 ヽ、  つ *゚*

       `・+。*・' ゚⊃ +゚

       ☆   ∪~ 。*゚

 

***

 

Sideユーリ

 

俺達はS(セグェン)・G(グラスチ)社と契約を交わし遊撃艦隊・・・・実質的には愚連隊だが、ネージリンス側に協力するにあたり、デメテールは様々な準備に忙殺されていた。

最初に与えられた任務は前線への物資補給の為に行く輸送船の護衛兼物資の輸送だった。

デメテールは非常に大きな船である為、ペイロードに通常のフネよりも数百倍の余裕がある。

その為、拡張性が少ないネージリンスのフネでは運びきれない物資を一度に運んでしまおうという目論見であった。

 

あと、コレは作戦とは特に関係は無い話なんだけど、S・G社のセグェン氏から貰ったキャロ嬢護送の報酬。

あれによって、ようやく予算に都合が付き、ついにデメテールに対艦対空戦兼用の大型ホーミングレーザーの搭載に踏み切れた。

艦隊に関してはもう少し時間が掛るが、4~5隻クラスの艦隊を建造中である。

上手いこと予算に都合が付けば、建造可能ではある事だろう。

はぁ、たかが金、されど金、世界を回す怪物相手ではウチの艦隊は手も足も出ねぇ。

 

ソレは兎も角として、ついにHL搭載に踏み切れたわけだが・・・。

デメテールは装甲が特殊な為、各所の砲口を開けるのは容易では無かった。

その為、改修作業は難航するかと思われた。

だがマッド3人衆の参謀、サナダさんの提案で、装甲板と一体化したユニットとしてHLを造り、増加装甲の様にフネに張り付ける形をとることで、フネを無理矢理改装しなくても済むことになった。

流石はマッド!通常の人間には考えもつかない事を考えつく!そこに痺れる憧れ(ry

 

とはいえデメテール程のクラスの大きさとなると、追加装甲の重量増加はかなりのものだ。

ソレと元々付いていた両舷の砲列群との位置関係も考えなければならない。

その為少なくない数のアポジモーターとスラスターの稼働域を塞いだ為、機動性が低下した。

 

だが、追加装甲と言うだけあり船体の防御力は、概算で3割近く上昇させることに成功している。

また、このフネのエンジン出力は従来のソレと比べると桁違いに出力が大きい為、船速に影響はあまり出ないという事であった。

そして外装式HLのエネルギーは、装甲板の外部ハッチの幾つかを改造した部分から伸びたエネルギーパイプによりエネルギーを供給する事が出来る。

そのエネルギーパイプ自体は外装式HL一体化装甲板と従来の装甲板の間を通るので、多少の攻撃ではびくともしない。

最悪損傷個所をパージ出来る為、ダメコンにも一役買っているという形となった。

従来の船で有れば出力と重量の問題でムリであったが、コレも凄まじいクラスの余剰出力をねん出できるデメテールならではと言ったところであろう。

改めて本艦のバケモノ具合が露見した訳だが、まぁこのフネは元々今の時代の人間が作ったもんじゃないしな。

遺跡艦という名前が付いていただけあり、今だにその全貌は隠されていると言っても良い。

改修の際、船体各所に用途不明の機器が発見されているらしい。

・・・・・流石に変形して強行型にシフトしまーす!とかないよな?無いよね!?

 

 

「ユーリ、一通りの処理はすんだよ」

 

「ウス、ご苦労様ッス。で、何人降りたッスか?」

 

「下船希望者はカルバライヤで乗り込んだ連中が殆どだね。ソレと弱気になった下船希望者がチラホラ。合わせると全体の2割って所だろうかねぇ?とりあえず希望者には給料を精算して下船させておいたよ」

 

「・・・?意外と少ないッスね?」

 

「デメテールに乗り込んでくる奴は別に国柄を気にしないというか、自分の趣味が優先でそう言ったのに興味が無いという連中ばかりだからねぇ。基本採用基準が基準がそう言う感じだし」

 

「ま、差別とか関係無しに働ける人間は貴重ッスからねぇ」

 

 

トスカ姐さんが人事から回ってきた情報を俺に伝えてくれる。

しかし全体の2割近くが降りてしまったか。コレはまた仕事が増えそうだ。

幸いなことにマゼラニックストリームで乗り込んだ連中は荒くれ者が多いのか降りて無い。

荒くれ者と書いたが、実際は細かいことは気にしない剛の者たちである。頼もしいぜ。

 

 

「一応足りない分は通商管理局を通じて補充しておいたよ。ま、降りたのが少なかったから、ウチの採用基準でもなんとか補充可能なくらいに集まったけどね。それでも実際人数は割れてるよ」

 

「はぁ、どうしてこうもお馬鹿な人間が多いんスかねぇ?」

 

「バカじゃないさ。自分の故郷を守りたいという思いは誰だって持ってはいる。ユーリもそうだろう?」

 

 

その問いに俺は一応まぁそうッスねと応えておいた。

だけど実際は自分を取り巻く人間以外は守りたいとは思わねぇんだけどね。

 

 

「しかし、人が減った事で指揮系統の混乱が起きなきゃいいんスがね」

 

「そこら辺は大丈夫だろう。ウチってそこら辺かなり柔軟だしね。やるときには気にせずやる人間が多いから大丈夫さ」

 

「それもそうッスね」

 

 

これ一見無責任に見えるかもしれないが、実際クルー達はそれが出来るんだからすごい。

なんつーか、気が付けば自分のやるべき仕事を見つけているって感じ?

コレはウチで実施している新人育成法が一因だと俺は思う。

新人達に“自分はこのフネで何が出来るか”を見つけるまでは明確な部署には点けず、船の中を転々としても良い許可を与えている。

野に放たれた羊の様に最初はオドオドとしておっかなびっくりな人間が徘徊している訳だ。

でもこのフネは0Gであり、時たま戦闘状態に入ることがある。

その時に戦闘準備に加わる人間は基本的に戦闘系部署のどれかに付くのだ。

逆にこの時に動かなければ、科学班、整備班、機関室、補給、生活班のどれかになる。

一応人事に希望を出せば、そこに配属される事も可能ではあるが、やはり自分の性に合った仕事の方が長続きするだろうし、やりがいも見つけやすいだろう。

尚ウチは万年人手不足である為、どこも定員割れを起しているため、多少の人為に同程度では特に問題が起きたりしなかったりする。閑話休題。

 

 

「ああ、それともう一人志願した凄いヤツが居たんだった」

 

 

さて、人員の補給リストを適当に眺めていると、トスカ姐さんがそう言ってきた。

・・・?この時期誰か仲間に入る人間なんて居たっけ?

 

 

「凄いヤツッスか?誰ッス?」

 

「最近ようやく復帰できた奴で――≪プシュー≫――っと、丁度良い。ご本人の登場だ」

 

 

と、その時ブリッジのエアロックが外れる音が響いた。

 

 

「・・・」

 

「あれ?あんたは確か・・・ブルファンゴ・ぺズン!」

 

「そのようなイノシシのバケモノみたいな名前では無い!!―――ごほん、ゼーペンスト本国艦隊司令のヴルゴ・べズンだ。君に救出され、こうして生き恥を曝している貰っている」

 

 

そこに居たのは明らかに武人オーラ出しまくりなヴルゴ将軍その人であった。

ちなみにこの人、アバリスと別れる際に大けがで集中治療室に入れっぱなしになっており、脱出し忘れた哀れな人物でもある。

・・・・下手したらこの人も一緒に宇宙の藻屑になってたんだよなぁ。

いやぁ生きてて良かった。

 

 

「はは、生き恥ッスか。いやでもそれでも生きていてよかったスね」

 

「そう、だろうか?」

 

「そうッスよ、それに俺はアンタのその生きざまが格好良く見えた。だからこそ態々爆散した船から救出したんスよ。いやー、しかし大怪我だったし本当によく生き残れたというか・・・うん、よかったよかった」

 

 

実を言うと、今の今までずっと忘れてたんだけどな!!

ソレを言ったら俺の威厳が下がるから言わない!これぞユーリクオリティ!

 

 

「(この少年は・・・いや、この艦長はそこまで私を買ってくれていたのか)」

 

「・・・・?あの、ヴルゴさん?どうかしたッスか?」

 

「(モノ言いには若干ふざけている部分が見受けられるが、人をよく見ているようだ。クルー達の信頼も厚い・・・ふむ)」

 

「あのー、ちょっとー、急に黙らないでほしいッスー」

 

 

あのね、大男が無言になると結構こわいのよ?

 

 

「うむ・・・。いやなに、ゼーペンストが滅んだ今、この命を君の為に使わせてもらおう。どうか好きに使ってくれ」

 

「おお、ソレはありがたいッス。何せ万年人手不足で大変だったッスからねぇ~。ともあれよろしくッス」

 

 

彼はゼーペンスト自治領とはいえ、70隻近い艦隊を率いていた男だ。

さぞかし能力は高い事だろう、潰さない程度にこき使う事にしよう。

あ、そう言えば・・・・

 

 

「ところで、なんでバハシュールの部下に?ヴルゴさんなら0Gとして名をはせていても不思議は無いと思うんスが?」

 

「まだ私が若りし頃、航海中に海賊に襲われていたところを先代のゼーペンスト領主さまに救われてな。その時、新天地を求めて旅を為されていた領主さまの下に付き、共に苦難の旅を超えてゼーペンスト領を発見した」

 

 

ふとヴルゴさんの目つきが懐かしいモノを思い出す目になった。

 

 

「それ以来私は。ゼーペンストに身を置くようになったが、私も元はネージリンスの出。恩ある領主さまからご子息を守る様に願われて、叶えずにはいられる身では無かったのだ」

 

「そうだったんスか」

 

「私はそう言った古い人間なのかもしれんな」

 

「いやいや、貴方は最後まで先代の領主に忠義を尽くしたんだ。ソレは評価されてしかるべきッスよ。そのご子息を倒した俺達が言うべき言葉じゃないのかも知れないんスがね」

 

「いや、宇宙では弱肉強食が当たり前だ。それをご子息に教育で来ていなかったのは我々家臣の失敗だ。あのお方のご子息なのだから大丈夫。そう言った色眼鏡で見ていたのかも知れん」

 

「ヴルゴさん・・・」

 

「少々愚痴っぽくなってしまったな。気にしないでくれたまえ艦長」

 

「いや、貴方は今の時代には珍しい、とても信用が置ける人間であると改めて理解した」

 

 

こういう人間は貴重だ。仕える人間の為に何処までも付きしたがってくれる。

0Gドックは個人主義者が多い為、裏切り等も日常茶飯事だ。

ウチではそう言うことは少ないだろうが、無いに越したことは無いぜ。

ともあれ、この人物は使えると決めた人間を裏切ることは無いだろう。

そう思わせる何かを、この人から感じたからだ。

 

 

「ヴルゴ・べズン」

 

「ああ――いや・・・はい。艦長」

 

 

なので、俺も久々に、少しばかり真面目に応えようと思う。

 

 

「貴方は自分の命を俺の為に使っても良いと言った。ソレは真か?」

 

 

ジッと相手の目を見つめる。

彼は俺の視線から目を離すことなく、淡々とした、それでいて嘘いつわりの無い声で返した。

 

 

「真であります」

 

「よろしい。なら貴方はいずれ新設する白鯨艦隊の分艦隊司令官に任命しよう」

 

「・・・・・え?」

 

「といっても殆どが無人艦なんだが、ネージリンスで良いAI技術が手に入ったからな。運用に問題は無いとは思う。その時の貴方の活躍に期待する。―――俺の信用裏切んなよ?」

 

「は!はいっ!ソレは肝に銘じてっ!!」

 

 

うわっは、耳がキーンってなった。お前も超音波兵装を自前で持ってる口か。

ともあれ、しばらくヴルゴは唖然としていた。

そりゃそうだろう、復帰してすぐに艦隊の司令官とか普通は無い。

だが、コレも個人の力がデカイ0Gならではの人事と言っても良いだろう。

俺が相当にポカやヘマや外道に走らない限り、コイツは裏切らないだろう。

だからこそ、俺はヴルゴさんを信用し艦隊を預けるのだ。

くくく、そして普段は書類整理の山でおぼれるがいい!

・・・実を言うとソレが本音だったり、俺って外道ね!

 

とはいえ、今はまだリシテア以外の艦の完成が遅れているからあくまで名目上だがな。

それでもこういった堅実な武人が仲間になるのは心強い。

てな訳でトスカ姐さんに視線を送ると、すでに手続きをやってくれていた。

流石はトスカ姐さん、空気読めるぜ。

こうして俺のフネに新たな仲間が加わったのであった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

さて、ユーリ達が出港準備を進めている頃、デメテールの医務室では―――

 

 

「・・・・・あん?ここ、は?―――しらねぇ天井だ」

 

 

―――あの男が目を覚まそうとしていた。

 

そう言わず知れたギリアスその人である。

彼はバウンゼィが撃沈された際に大けがを負い、いまの今まで眠り続けていたのだ。

 

 

「クソ、どういうことだ?俺は生きてんのか?――ッ」

 

 

今だ痛む身体を見ると、明らかに治療された跡がある事に気が付いたギリアス。

どうやら命だけは助かったようだと彼は思っていた。

しかし、何故自分はあの爆発の中生き残り、こんな小奇麗な個室に寝かされていたのだろうかと思考を巡らせていた。

だが、彼は元来本能で動くタイプであり、あまり深く考えないウチに何らかの理由で生かされたと考えるに至った。

実際は彼はバウンゼィから白鯨艦隊のユーリ達によって救助され、今ココに居る。

だが、今の今まで眠り続けていた彼にとって、そんな事態は全く分からなかった。

 

 

「クソ、訳が解んねぇ・・・あのバカが俺を生かす理由なんてあるのか?」

 

 

ココに来て、ギリアスはまず多大な勘違いを起していた。

まず彼を助けたのは、何故か彼と戦っていたあの男という風に勘違いしていた。

ソレは別に相手が自分の知り合いだからでは無く、相手の事だから自分を生かして利用しようと、普段使わない頭を使い、奇跡の様な勘違いを起した結果であった。

いま起している勘違いに使われた脳力の十分の一でも普段の行動に使われていれば、少なくても今も大マゼランを駆け廻っていた事だろう。

とにかく、ココを脱出しなけらばならない。

あいつの事だ、誰ひとり信用していないから部下もいないのだろう。

だとすればこの部屋がある区画は無人であるという可能性が高い。

よしんばドロイドが居ても、素手でブチ壊せる自信はあった。

というか、コイツもある意味で脳筋である。

 

 

「とにかく、ココを抜けだし――「う~ん」・・・だれだ!?」

 

 

突如として聞こえた声に、ギリアスは身構えた。

実はこの個室にはもう一人重症患者が寝かされていた。

誰なのかと言うと―――

 

 

「あ、副官!お前も生きてたんか!!」

 

 

――あの色んな意味で苦労人の副官さんであった。

彼の傷はギリアスよりもずっと軽かった。とはいえ一般人基準では重症である。

こんな腹に船の破片が突き刺さって今の今まで昏睡していたのに、今は普通に動き回れるような謎の回復力を持つ男とは根本的に違うのだ。

とにかくギリアスは知り合いを見つけて内心安堵しつつ声をかけるモノの、やはりと言ってはアレだが、身体能力一般人である副官は目を覚まさなかった。

 

 

「・・・チッ、仕方ねぇな」

 

 

ギリアスはそう言うと自らが寝かされていたベッドからシーツをはぎ取った。

そして今だ眠り続ける副官を背負うと、自分とシーツで縛って固定させる。

 

 

「コレで動き回る分には大丈夫だろう」

 

シーツで固定したお陰である程度両手が自由に動かせる。

コレで逃げる時もデッドウェイトの副官は邪魔にならない。

 

 

「しっかし、アイツ身体検査しなかったのか?隠し携帯端末そのまんまだぜ」

 

 

彼は何時も額につけている赤いハチマキを取り外す。

そのハチマキの中には非常に薄くて小さな小型の携帯端末が仕込まれていた。

何故これの存在に気が付かなかったのか疑問に思ったが、まぁアイツもバカだしなという超理論で勝手に納得した。

ピッピッと携帯端末を操作すると、小さな画面に光点が示される。

この携帯端末は非常に薄くて小さくて壊れにくい代わりに機能が限定されていた。

だが、その機能と言うのが―――

 

 

「よし、バウンゼィも捕獲されたみたいだな。俺ぁついてるぜ!」

 

 

―――自分のフネへのナビ機能であった。

性格には双方向の特殊ビーコンによってお互いの位置を確認する為の物である。

ココでもしギリアスが自分の居たベッドの下を覗き込むことがあったとしよう。

そうすれば、彼は今自分がいる場所が少なくても敵のフネか基地では無いことを知った事だろう。

彼のベッドの下には、彼の持ちモノである剣や普段使っている携帯端末が置きっぱなしになっていたのだから。

ソレは兎も角、彼は両腕を使っても副官がずり落ちない事を確認すると、そのままドアへと近づいた。

 

 

「どっせい!」

 

≪どっごーーーーーん!!!!!!!!!!!!!!!!!!≫

 

 

彼はそのままドアを蹴り破った。お前は人間か?

 

 

「脱出に成功した!ココからは隠密行動で行くぜ!!」

 

 

すでに大きな音を立てているのに、隠密もクソも無いと思うのだが。

細かいことは気にしないというか、一応まだ怪我の後遺症で思考力が低下しているギリアスは遠慮しなかった。

隠密行動と言っておきながら、堂々と廊下を通り“よし、ココは通気口を行くのがお約束だ”と、ある種のホラー映画なら死亡フラグ満載の場所へ入り込んだ。

ちなみに幸か不幸か、ギリアスがいた病室周辺には人が全くいなかった。

まず人員と言う人員が輸送する為の物資の積み込み作業で出払っていた。

人手が足りない為、開いている部署の人間も手伝いに出かけたからである。

またこの時代医療は進歩しており、ある程度の外傷及び病気は治療ポッドに入っているだけで治療が出来た。

その為、普段は診療設備で大酒をかっ喰らっている筈のサドも、もしもの時の為の治療係として艦内の巡回に出ていたのである。

その為、ギリアスがいた病室周辺には誰も人がいない状況となってしまったのだ。

なにせサドの診察では少なくても後数日は目覚めないと思われていたのである。

常人離れした体力と生命力はいかに経験豊富な医者であっても、こんなに早く回復するとは予想する事は出来なかったのだ。生命の神秘である。

そして、最大の問題点としてギリアスが入りこんだのが通風口、エアダクトの中であった事だった。

ふだんデメテールの中は、保安部と統括AIユピテルによって監視されている。

だがコレだけでかいフネであるうえ、今まで眠っていた事もあり、彼らでも部分的には監視できない区画がいくつか存在していた

その数少ない監視が不可能なエリアがエアダクトの中であった。

出入口近辺は監視装置が働いているのだが、エアダクトの中にまで監視装置はつけなかった。

また、丁度この時艦内を監視していたであろうAIは、艦長との“雑談”に全システムを傾けていたため艦内では部分的に監視が甘くなっていた。

普通は有り得ないのだが、マッド共に改造されたユピだからこそ、いやさこの艦隊の空気によってはぐくまれた複雑で有機的なマトリクスを形成しているユピだからこその凡ミスであった。

このように、この場所が敵の基地か何かだと思い込んでいるギリアスにとっては幸運だが、真実を知れば不幸だと思えるほどの偶然が重なり、ギリアスは居住区から逃げだしたのであった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

さて、改装の間に輸送する物資の積み込みも行われ、急ピッチで発進準備が進められた。

フネの準備は滞りなく進んだ・・・・・・かに見えてそうでもない。

実の所、管理局のステーションが使えないから手作業で搬入する訳だ。

管理局のそれよりかは時間が掛るのも仕方が無いだろう。フネ自体デカイしね。

一応手元に送られてきた搬入予定のデータを確認していく作業は、眠い。

いや、もうほんと尋常じゃない量なんだぜ?

A4サイズに起したら軽く伝記並の厚さになると思えるくらいにさ。

でも確認しない訳にはいかないから、とりあえず種類別に大別して確認中。

基本的には医薬品、雑貨、手紙や嗜好品が幾つかだった。

手紙や嗜好品は何で?って思われるかもしれないが、戦場では情報統制という目的でテレビやインターネットすら制限が入る。

そんな訳で前線の兵士にとっての娯楽品はまさに飛ぶように売れていく。

云十万の兵士が一気に買う訳だから、前線基地のPX程度ではすぐに売り切れになる。

だから補給品扱いで追加注文が入るという訳である。

また一人身では無い家族持ちの兵士もいる訳で、手紙を輸送するのはその為でもあるのだ。

家族からの励ましと無事を祈る手紙は、いつの時代でも重宝されるのであろう。

ただその手紙の幾つかには写真入りが入っていることが多いらしい。

当然家族や恋人や自分の子供の写真が入っている訳で・・・。

ああこれでまた“俺、帰ったら結婚するんだ”とか“可愛いだろう?母親似なんだぜ”とかいう死亡フラグ生産機が増えるって訳だ。

チョンガーでその手の話を聞かされる輩はご愁傷様って感じだな。

 

 

「・・・・・ん?」

 

 

さて、確認作業をしていると、目録のある項目が目にとまった。

ソレは実際に搬入されてきた物資の情報をユピが好意で表示してくれているものだったんだが、事前に知らされていたのとは違うモノが紛れ込んでいた。

 

 

「ユピ、ネージリンスの補給担当の人と回線つないで」

 

「はい、艦長」

 

 

回線は少し待ってからつながった。

出たのはネージリンスの補給を担当している後方支援士官である壮年のおっさん。

軍人の筈なのに、何処かくたびれたサラリーマンの様な気配漂う人物だった。

 

 

「遊撃艦隊の旗艦デメテールのユーリです。お忙しいところすみません。少々聞きたい事がありまして」

 

『はいはい、なんでしょうか?搬入に時間でも掛かりそうですか?』

 

 

戦時中の後方支援はまさに戦場である。

戦闘の時と違い前線の兵士を常に支えているのだから、かなりの忙しさだろ。

だが、補給担当官はそんなことをつゆほどにも感じさせない愛想笑いで応答してくれた。

流石はプロであろう。

 

 

「それじゃあ単刀直入に言います。そちらから提供された此方が輸送する手筈の補給物資の目録では、本艦が担当する物資は生活物資及び娯楽品及び医薬品及び食料の筈ですよね?」

 

『えーと、デメテール、艦長はユーリ・・・・はい、確かにそちらが輸送なさるのは生活物資ですね。それと前線ご家族のお手紙とかですハイ』

 

「こちらに実際に搬入されたリストに、明らかに武器弾薬のコンテナが紛れ込んでいるですが?」

 

『・・・・・・・』

 

「・・・・・・・」

 

 

おい、そこで黙るなよ。

だが、よく見ると補給担当官は「そんなはずは」と言いつつ冷や汗を流している。

どうやら向うにとっても手違いであったらしい。確認するから待ってくれと言われた。

しかし、ウチの方の倉庫には既に武器弾薬のコンテナが搬入されている。

すぐにソレらに付いて確認出来たらしく、通信が再度つながった。

 

 

『も、申し訳ありません!そちらに言っている武器コンテナは先程出港した輸送艦に乗せる筈のコンテナです!何かしらの手違いでそちらに搬送されていた様で・・・もうしわけありません』

 

 

画面の向こうで白髪交じりの髪を振りながら補給担当官が必死に頭を下げていた。

すげぇな。この人。普通軍人が宇宙の無法者である0Gドッグに頭なんて下げたりはしない。

よっぽどのお人よしか、はたまたそう言う仮面なのか・・・前者を希望したいね。

 

 

「仕方ありませんね。とりあえず邪魔にならない位置に置いておくので回収よろしく尾根がしますね」

 

『え!?い、いや待ってください!出来ればその武器弾薬も序でに運んでは――』

 

「ダメですよ。ウチが請け負ったのは生活物資関連だったじゃないですか」

 

『そこをなんとか!今送らないと間に合わないんです!』

 

「そこら辺はウチの知ったこっちゃないとこですね」

 

 

今、ユピがコンテナの状況を確認してくれたのだが、運びやすいように簡易梱包しかされて無いそうだ。

ちなみに中身には量子弾頭やらミサイルの弾頭が詰め込まれているらしい。

この手のコンテナは専門の輸送船が衝撃を加えないように慎重に運ぶ。

ミサイル弾頭はまだいい、量子弾頭がフネ内部で爆発しようものなら完璧に消滅だ。

だから専用設備も無いのにミサイル系弾頭を運ぶのは命がけなのである。

 

 

『そこをなんとか』

 

「ムリです」

 

『お願いします』

 

「ムリです」

 

『でもほら、貴方のフネならそうったのを運ぶ設備が――』

 

「ありません」

 

『またまた、今時ミサイルを積んでないフネなんて』

 

「ははは、ウチが該当したみたいですねー」

 

『だけどきっと貴方なら断らない』

 

「だが断る」

 

『即断!?そこに痺れる憧れ――』

 

「まて、それ以上は不味い―――話を戻そうじゃないか」

 

 

この後、持ってていや無理だの話は平行線をたどった。

途中で変な電波が入り、大宇宙の意思に修正されるかと思ったぜ。

まぁ今の積載量から言うと、ペイロードにはまだかなりの余裕がある。

大居住区の方まで使用すればもっと積めることだろう。

だけど、流石に専門の設備も無いのに兵器、特にミサイル弾頭系を運ぶのはいただけない。

万が一襲撃があって爆発でもしたらどうしてくれる?

 

 

「先程から言っているように、ウチでは無理です」

 

『・・・・はぁ、仕方ありませんね。まぁ大体予想は付いてましたし・・・・』

 

「・・・・(予想付いてたなら、何であそこまで食い下がったんだろうか?)」

 

『それも中間管理職の辛いところですよ』

 

「いや、心読まないでください」

 

 

ネージリンスの補給担当官はバケモノか!と俺は戦慄していた。

兎に角、あの武装コンテナは送り返すことに決定した。

最初からリストには記載されて無かったし、俺のフネは弾頭を運ぶ船では無い。

だから別に断っても問題無い筈なんだが、通信を切る前に「お前空気読めよ」的な補給担当官の視線がウザかったぜ。

あ~、こんな時に生活班のアコーさんがいればなぁ。

輸送や物資の取り扱いについてはウチで一番だったし・・・。

ま、居ない人を求めてもしょうがないから、今自分に出来ることを頑張るっぺ。

・・・そんなことを考えていたその時であった――――

 

 

≪―――ズゴガァァァァァン!!!!!!!≫

 

「うわっぷ!?」

 

「キャッ!」

 

 

―――唐突にデメテールに振動が走り、転びそうになった。あ、白だ。

 

 

「な、何が?デブリの巨大なヤツでも衝突したッスか?」

 

 

転んだユピを助け起こしていたその時。

フネの外を映していたモニターの一つに信じられないモノが映っていた。

デメテールの艦船用ハッチをブチ破り、中からバウンゼィが飛びだして、そのままあらぬ方向へと飛んで行ってしまったのである。

 

・・・・何がどうなってるんだ?

俺は茫然とバウンゼィが点になるまでモニターを見つめていた。

なんとか再起動したときには、既にバウンゼィの姿は無くなっていたのであった。

 

 

「な、なんでバウンゼィが――」

 

「そう言えば、ケセイヤさんが余った資材でバウンゼィを修理してました」

 

「え?俺なんも聞いてないよ?」

 

「“ライバルと再開した時に絶対騒ぎになる筈だから、「こんな事もあろうかとフネを修理しておいた」をする為に修理しておくぜ!艦長には内緒な!”・・・とか言ってましたけど」

 

 

あの野郎、変なサプライズをするんじゃねぇよ。

でも何でまたいきなりバウンゼィが発進したんだ?

大体ギリアスは病室に居る筈だし、誰が乗って・・・・・・・・。

 

 

「ね、ねぇユピ?ギリアス達は何処に居るか判るッスか?」

 

「え?医務室に――へ?あ、あれ~!?」

 

「や、やっぱりか・・・・あれにはギリアスが乗ってたのね。つ、通信は!!??」

 

「―――ダメです。全部カットしてるみたいです」

 

 

あ、あの野郎。助けた御礼も言わずに、ウチのフネの外壁傷つけて飛びだしたんかい!

つーか修理代金くらい払え!駐船代も!あと何故ハッチを壊したし?!

 

 

「あ、あと、医務室の扉も破壊されてます。移動したと思われるエアダクトも何カ所か破壊痕を確認しました。そ、そんな私の監視網のスキマを縫って行ったって言うの!?」

 

「デメテールの中まで・・・あの脳筋の大バカ野郎っ!!」

 

 

この、あまりにも予想外な事態の所為でデメテールの外壁修理に人を取られた。

今まで順調で予定よりも早く終わる筈が、ギリアスの所為で予定ギリギリに出港という事に。

おまけに修理代まで嵩む・・・あの大バカ野郎め、今度会ったらタダでは済まさんぞーー!!

 

 

―――そして、ギリギリにデメテールはなんとか出港できたのであった。

 

 

 


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