【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第四十九章+第五十章+第五十一章

 

さて、あのお馬鹿は放っておいてと・・・・・絶対今度会えたら修理費請求してやる。と、話がそれちまったが、デメテールはネージリンス外縁部にある惑星ミラを経由し、そこからボイドゲートに入った。転移した先はネージリンスに属するアーヴェスト星系セクターβ、通称アーヴェストβ。

一応航路自体は絶対防衛圏内の為、特に敵と遭遇することなく目的地へと到達する。まぁ此処を突破されると首都惑星まで目と鼻の先だから、こんな所で敵と遭遇したらもうネージリンス詰んだなって状態なんだけどな。だから此処での戦闘は有り得ない。あるとすればもう少し先の方だろう。

 

さて、本船の目的地は前線統合司令部がある惑星アーマインである。今回はステルスを展開せず、一緒に物資を輸送する輸送船団と共にアーマインの宙域へとやってきたのだ。まぁ輸送船団の規模とデメテール一隻の大きさを比べると、何故か後者の方が大きく見えるんだから不思議だな。

輸送船団自体は大きさが1000mあるかないかのフネが殆どだし、ならべばマグロ対サンマって感じに見える事だろう。

 

 

「・・・物々しい雰囲気ッス」

 

「ココは最前線だからねぇ。ネージの連中も真剣なんだろうさ」

 

 

ソレはさて置き、モニターにはアーマインを中心に200万kmの宙域に縦しん陣形で展開しているネージリンスの艦隊が映っていた。船体番号やエンブレムから、展開中の艦隊はヒュリアス・マセッフ提督率いるネージリンス主力艦隊らしい。

 

 

「成程、流石は正規軍主力艦隊ッス、綺麗に陣形を組んじゃってまぁ・・・俺らみたいな無頼漢とは格が違い過ぎるってワケッスね~」

 

「ああやって態々陣形を組んでいるのも、そういった意味合いがあるのかもしれないねぇ」

 

 

まぁココは最前線だが、同時に色んな戦力が集まる場所でもある訳で、俺らは別に気にしていないと思うが、連中は国の威信も掛かっている訳だ。こうやって力を誇示しておかないと、俺達みたいなフリーランス0Gが逃げだしたりして、寄せ集めに近い軍が崩壊してしまうとかかんがえてるんだろうぁ。

まぁご苦労様なこって、職業軍人とか大変なんだろうなぁ。

 

 

「艦長、間もなく惑星アーマインに到達します」

 

 

と、上の空で適当に考えていたらミドリさんからの報告が入る。

数隻の艦隊とタグボート役の艦艇が接近してきていた。

 

 

「ちゃんとこっちの情報は正規軍に届いてるッスか?近づいただけで撃たれるとかはゴメンッスよ?」

 

「先程確認しました。管理局は既に伝えたと言って来ています。それと序でに停船エリアは荷を降ろした後は惑星を挟んで反対側にしておいてほしいそうです。輸送船が大量に発着するのでデメテールのような巨艦は邪魔だとか」

 

 

現在戦時中だから、戦闘艦や輸送船がひっきりなしに往来している。

そんな中にこんなデカイフネがいたら確かに邪魔だろうな。

とはいえ、管理局の管制ドロイドらしいその台詞に、少しトスカ姐さんはご立腹。

 

 

「さっすが血も肉も無いドロイド、冷たいこと言ってくれるねぇ」

 

「むぅ、私も純粋な意味で血と肉は無いんですけど?」

 

「あんたはもうドロイドでもAIでも無いだろうが」

 

「・・・ソレもそうですね」

 

「あー。とりあえず話進めて良いッスか?」

 

 

ユピとトスカ姐さんが何やら言いあっているのを横目に、話を進める事にしよう。とりあえずタグボートに案内され、仮の停船場所にデメテールを停船させた後、船体各所にある大小様々なハッチを全て解放し、ハシケを使って荷を運びだしてもらう運びとなった。

 

 軌道エレベーター付きの管理局ステーションもあるちゃあるが、そのどれもがデメテールを収容するに至らない大きさのステーションでしか無い。まぁデメテールの大きさは中規模ステーションの大きさとほぼ同じだから仕方ないことだと言える。

 

 百は行くんじゃないかというくらいのハシケや輸送船がデメテールの各ハッチに取りついて、貴重な輸送品を運びだして行く作業を確認した後、一応司令部に出頭してくださいとの旨を受けた為、俺はトスカ姐さんや護衛の保安部員を何名か引き連れて、リシテアに乗り込みアーマインへと降りることにした。

ユピも来たがったが、今回彼女にはユピテル内の警戒を厳にしてほしかったので居残ってもらった。一応ネージリンス軍は友軍であるが・・・・まぁ何時の間にかスパイが入り込む可能性も無きに下あらずだしな。用心しておくにこしたことは無いぜ。

 

 

「うう~、副長ずるいです」

 

「おいおい、お偉いさん達との会合は結構疲れるんだよ?」

 

「でも、艦長と一緒・・・妬ましや・・・」

 

 

 なにやらパルパルとした気配を背筋に感じたが、背後には誰もいない。ナニソレ怖い。

 ともあれ、俺らは惑星アーマインに降りた訳だが、流石は防衛ラインを引いている星だけあり、慌しさと戦争前の熱気というかふいんき?いや雰囲気か、ソレが凄い事になっていた。殺気立つ益荒男も多くいそうだったので、ダバダバいくと危険だと判断した俺は、適当に目立たない様に車に乗って司令部へと向かった。

 

何せ聞き耳を立てると――――

 

“カードゥはぶっ殺すー!”

 

“金さえもらえれば戦うさ。それが人間でもな”

 

“逃げないヤツはカードゥだ。逃げるヤツはよく訓練されたカードゥだ!”

 

“汚物は消毒だー!”“俺の名前を言ってみろ!”“ひゃっはー!我慢できねぇー!”

 

“らんらんるー☆”“おおきくわはー♪”

 

――――などと聞こえてくるので、あんまり近づきたくはないのである。カオスだぜ。

 

 

 さて、司令部の前に付くと、検問が設けられており途中で身分証の提示を求められた。一応0Gとしての身分証であるナショナリティコードを持っているのでソレを提示した所、門兵は手持の小型端末にて照会していた。俺の事が解ると律儀に敬礼してきたのでこちらも手を振って返しておく。

 

 司令部の近くで車を止めた後、施設の中に入り司令本部のある会議室へ向かった。さて、蛇が出るか竜が出るか、どちらにしろ面倒臭い事に変わりは無いがな。

 

 

 

 

 司令部の中も外とあまり変わらず人が蠢いている。そりゃ何時戦闘状態になるか分からんのだから、常に臨戦態勢みたいな感じなのだろう。しかし正直この殺気だった空気の中を移動するのはなんとなく辛い。

 俺達は0Gであるが為、何とも言えない浮いた感があってだな。そうだな、マ○クにカー○ル・サンダ○スが来ちゃったくらいの浮いた感だろうか?いや、むしろド○ルドとカ○ネルが一緒に肩を並べてモスに入っちゃったくらいの違和感?ああ、モス食いてぇ。

 

まぁとりあえず、奥に通してもらい軍人さん達が沢山いる部屋に通された。そこには所謂艦長の帽子をかぶった人間がチラホラ・・・どうやらネージリンス航宙軍の軍人さんらしい。

 

 

「ん?君たちは?」

 

 

何やら話しあっている軍人の一人が俺達に気が付き、声をかけてくる。面倒臭いが応対しない訳にもいかない。てな訳で―――

 

 

「ネージリンス軍、遊撃艦隊として協力する事になった0Gドックのユーリです」

 

「ユーリ?ああ、話しは聞いている。よくネージリンスに参加してくれた」

 

 

 そう言ってねぎらってくれた軍人さんは、ネージリンス軍正規軍の服装から察するに、将官もしくは佐官クラスの人間、しかも船乗りかなぁって感じだった。つーか、アレだ。艦長がつける様な帽子つけてればいやでも艦船の関係者に見えてくるぜ。

 

 俺に気が付いて声をかけてくれたその人はワレンプスと名乗った。階級はやっぱりというか何と言うか航宙軍統合軍大佐という何とも仰々しい肩書きをお持ちのお方でした。軍人の割には意外と柔軟な思考をお持ちの様で、0Gの俺達にも普通に接してくれる。

 

 とりあえず此処まで運んできた物資の目録党を渡し、どうするべきか指示を待った。このワレンプス大佐がこの司令部の中ではかなり上位の人間らしく、指示を結構取り仕切っているようで、俺達は邪魔にならねぇように隅っこで指示を待っていたのだ。

 

とはいえ前線構築でお忙しい皆さんを後目に只待つというのもスッゲェ暇であり、音楽プレイヤーでも買っとけばよかったかなぁとか考えていた。この世界にIポッド的なモンが売ってるかなぁ?あーでも流石にプレイヤーくらいあ―――

 

 

「お待たせした。君たちには今後色々と協力して貰うのだが、その前に一人クルーを紹介しておきたいのだが、良いかね?」

 

「クルーですか?」

 

「ああ、彼を君たちのクルーとして使って欲しいんだ。エルイット君、きてくれたまえ」

 

 

ワレンプス大佐はそう言うと何やら控えていた人物を手招きした。

 

 

「はっ―――エルイット・レーフ少尉だ。よろしく」

 

「彼は機関士としても優秀でな。中々役に立つとは思うぞ」

 

 

 そう言われエルイット少尉を一瞥する、一見頼りなさそうな男だが、ワレンプス大佐がそう評しているからには本当の事なのだろうか。それとも単なる身内贔屓なのか。もし後者なら正直いらんのだけど。

 

 

「ふーむ、機関士、ねぇ?」

 

「エリートエンジニアとして、ちょっとは知られた名前なんだ。頼りにしてくれて良いよ」

 

 

 俺が漏らした言葉にそう返すエルイット。おま、地獄耳か?

あれか?元いじめられっ子でその手の言葉には敏感とかそういうオチか!?

 

 

「ふん、はっきり言いなよ。ウチらの監視役だってさ」

 

 

 エルイット少尉が下がると、トスカ姐さんがそう言った。

 監視役ねぇ、まぁ確かにこの時期に紹介してくるとか・・・そうかもしれんなぁ。

 まぁ一応の雇い主である軍からの紹介だから無碍に出来ないのが辛いぜ。

 

 

「ま、俺らみたいなフリーの連中をそのまま使う訳もないし、正規の軍人が観戦武官として乗り込むくらい予想してたッスけどね」

 

「はは、そんなにはっきり言うと、ほれ、ワビサビってヤツが無いじゃないか」

 

「なぁ~に言ってんだい。親切ごかしに言われる方がよっぽど性質が悪いよ」

 

「トスカさん、別に良いッスよ。俺は気にしないッス(第一、ユピがいるウチでスパイ活動なんて出来ると思うッスか?)」

 

「(・・・・ソレもそうだねぇ。この間あのバカが逃げた時から徐々に監視装置も増やしたしね)」

 

「(そう言う事ッス。まぁともあれ)――よろしくお願いいたします。エルイット少尉」

 

「う、うん、よろしく艦長」

 

 

 トクガワ機関長の自称弟子のルーべが抜けた穴を塞ぐくらいの腕があればいいんだが・・・。

 

 

「さて、この後我々はどうすれば?」

 

「うん、二つの作戦に協力して貰いたい」

 

 

―――ワレンプス大佐から示されたのは二つの作戦の概要だった。

 

 一つは惑星ナヴァラを拠点に、遊撃隊として敵の戦力を削ってもらうこと。0Gである俺達は正規の指揮系統に組み込むことは難しい。だから0Gらしく好き勝手やってくれと言うことだろう。多少お堅い言葉で飾ってあるのは軍隊の癖みたいなもんだから気にしない。

 

 もう一つは惑星ユーロウを拠点に敵輸送ラインの破壊作戦だ。戦いは数とは言うが、それよりも大切なことは後方からの支援物資を前線に届けることだ。どんなに精強な軍隊でも後方支援が無ければ戦うことは出来ないということは有史以来、人が戦いをおこなうようになってからの絶対の法則であると言えよう。ま、ようは通商破壊任務ね。

 

 

「いずれも、それぞれの星の作戦本部で任務確認をした上で実行してくれたまえ。それぞれの基地への橋渡し役はエルイットがやってくれるはずだ」

 

 

 どうやらエルイット少尉はこの宙域で俺達が行動する為の“通行証”代わりらしいな。

 つまり、下手に放逐出来ないという事でもある。考えてんなー。

 

 

「国家間での戦争においてスタンドプレーはまず無意味だ。統率を崩さず確実に相手の戦力と補給路を断つ。地道な作戦だが、その積み重ねが大局を決する。君たちも各基地の命令をよく聞き、作戦を実行してくれ。たのんだよ」

 

 

最後にそう締めくくって、今回の顔合わせ兼今後の方針を教えてもらった。

 まぁ一応各基地の命令には従うぜ?とはいえ最悪逃げるけどな。死にたくないし。

 

 さて、そんなこんなで司令部から出てきたのだが、相変わらずあのカオスな熱気は収まっていなかった。むしろ悪化している。誰だオフロードバイクにとげとげをくっつけて違法改造したバカは?どうでもいいが民間人が火炎放射機って持ってていいのか?・・・あ、警察に捕まってら。

 

 

―――戦争、ソレは社会に多大な混乱をもたらすという。

 

 

もたらし過ぎじゃね?と思ったのは俺だけの秘密。

 

 

***

 

 

 さて、新たな仲間を迎えた後、一応指示を貰ったので、俺達はそれに沿って行動する事になった。とりあえず現在の戦略図を眺め、眺め、眺め、眺めても決まらなかったんで鉛筆立てて倒れた方に決めたらユーロウになった。

 

何?適当?良いんだよ、適当でも。どっち言っても戦争する事に変わりないんだからさ。 そんな訳で自室でユーロウに行く事を決めた俺は、ソレっぽい理由を考えた上でクルー達に公表し、惑星ユーロウへと赴いて補給線破壊任務を手伝うということに決めた。

 ちなみに大義名分的な理由は“戦争において補給路を断つことは、万の軍勢を動けなくさせる事に等しい”というのと“俺達は遊撃艦隊だから、ある程度の行動は黙認される・・・跡は解るッスね?”と言うモノだった。

 

 ちなみに後者の意味は、相手は敵、俺のモノは俺のモノ、敵のモノも俺のモノ、と言う訳である。別に俺たちは義賊って訳じゃないし、普段から違法すれすれのグレーゾーンでおまんま食っているわけだから、ある意味今更って感じだろう。

 

 尚、鹵獲した武器や兵器の扱いについて、ウチのマッド達に任せると発言したことが一番の決定要因だったのかもしれない。最近予算が無くて若干研究を我慢して貰っているから、今度の作戦で上手いこと物資を手に入れればソレらを使ってある程度の発散が見込めると思う。焼け石に水にならなきゃいいけどな。

 

 

 

 

 惑星ユーロウ、地球型惑星というよりかは火星型惑星と言っても良いかもしれない赤い砂と赤い空によって彩られた寂しい星である。テラホーミングされてなんとか地表での呼吸は可能だが、年間平均気温が15℃を突破しないので砂漠の星の癖に寒い。

 

ちなみに住居は今だドームコロニータイプで人口は7億6600万人程。人も少なめだから余計に寒く感じるぜ。別に何か見るもんがある訳でも無いので、星に降りてすぐにユーロウ基地へと向かった。といっても来るのはエルイット少尉と例によってトスカ姐さんだけである。

 

あんまり大勢で押し掛けてもねぇ?

 

ユーロウ基地に行くとエルイットが話を通した為、基地奥の作戦室に通された。彼はそのまま任務の内容を聞く為、現地の担当士官へと情報を貰いに行く。基本的に現地の士官との対応はエルイット少尉がこなしてくれる為、俺とトスカ姐さんは基本確認をすればいいので・・・手持無沙汰だ。

 

 

「・・・・・暇ッスね」

 

「楽っちゃ楽・・・なんだけどねぇ。―――あふ・・・」

 

 

 トスカ姐さんも暇過ぎたのか、欠伸を噛み殺そうとして口に手を当てていた。

 

 

「まったく、こう言うのなら通信だけで済みそうだと思うんスけどねー」

 

「そう言う訳にもいかないよ。今の時代通信だと色んな工作が可能だからねぇ。こういうふうにフネの代表が態々足を運ぶってのも本人確認の為に重要視される傾向があるのさ」

 

「でもその所為で暇でしょうがないッス~」

 

「それは同感。早い所戻って一杯やりたいねぇ」

 

「そういやサド先生がこの間、バイオプラントの一角を借りてついに酒造り始めたらしいっスよ」

 

「酒飲みたいが為にそこまでやるかい?!」

 

「サド先生ッスから」

 

「・・・・それで納得できる自分が怖い」

 

「でも完成したら試飲させてくれるらしいッスよ?酒好きが作る酒っスから、ある程度は期待できるやも」

 

「それは、うん。いいねぇ」

 

 

 あまりに暇だったので、酒の銘柄は何が好きか?どういう飲み方が美味しいのか?で議論をしていた。中々エルイット少尉が戻って来ない為、議論が少し白熱していく。

 

 

「俺としてはキンキンに冷やした酒をちびちびと飲むのが好きっスね」

 

「う~ん、冷やした奴なら一気に煽るのがいいんじゃないか。あたしは一気に飲むね」

 

「まぁまぁ、酒の飲み方は人それぞれ。自分が一番という飲み方をすればいいじゃないか」

 

「「それもそうだ(ッス)・・・・・ん?」」

 

 

 気が付くとトスカ姐さんと会話していた筈なのに、違う人が一緒になって同じ話題で盛り上がっていた。アレ?この人だれ?

 

 

「あんたは?」

 

「んー?まぁお前らと同じくフリーの0Gさ。ところでアンタ、白鯨艦隊って知ってるかい?」

 

「知ってるも何も・・・」

 

「白鯨艦隊はウチが名乗っている艦隊名だよ」

 

 

 そう言うとその男は「なんだと!?」と驚いた顔をした。

 

 

「それじゃあ、ユーリってのは――」

 

「そいつは俺の事ッスね」

 

「へぇ・・・ほう・・・なるほど」

 

 

 何故かその男は俺の名前がユーリだと知るや否や、じろじろと上から下まで視線を這わせてきた。何やらものさしで計られている様な感じがしたから、俺を推し量ろうとしているのか?

 

 

「な、なんなんスか?いきなり人の顔をじろじろと」

 

 

 だが正直勘弁して欲しい。

綺麗なお姉さんならともかく、野郎にジロジロ見られても嬉しくない。

 

 

「いや、噂にゃ聞いていたが、思っていたよりも若いな。しかしサマラと組んでクモの巣ブッ潰したんだから実力は確かって訳だ。っとすまねぇ紹介が遅れたな。俺の名前はユディーン・べトリオ。お前さんに潰されたグアッシュ海賊団の生き残りさ」

 

「グアッシュ海賊団の生き残り?」

 

「はっ、そう身構えるなよ。別に恨みも何もねぇ。お前は勝って、俺達は負けた。ソレだけの事さ」

 

 

 てっきり“仲間を殺された恨み、今ココで晴らす!”とかいって斬りかかってくるかと思ったが、その男、ユディーンは快活に笑いながら手を振ってその意思が無いことを示した。俺は海賊方面にはかなり恨み買ってるから全くもって心臓に悪いぜ。

 

 

「お前も外人部隊や傭兵とかみたいな感じで、ネージリンス軍に参加しに来たんだろ?だったらしばらくはお仲間って訳だ。ま、よろしくたのむぜ」

 

 

 どうやらユディーン(そう呼べと言われた)も、外人部隊として参加する手続きを踏む為にユーロウ基地に来ていたらしい。んで、同じく正直暇だったので会話に潜りこんでいたとの事。

 いや気が付かなかった俺達も俺たちだが、さっきの話の事と言い随分とあっさりというかさっぱりしているというか。トスカ姐さんも微妙な顔してら。

 

 

「―――ん?あんたってもしかしてカルバライヤ人じゃないかい?」

 

「ふふん、解るかい?ドゥボルグってぇ、チンケな資源惑星の生まれさ。

ま、つまんねぇ星だったから、ガキの頃にさっさと飛びだしちまったがな」

 

 

 何そのちょっとコンビニ行ってくるみたいなノリ?つーか母国は良いのかよ?

 

 

「あんまり母国だのなんだの考えたこたぁねぇな。強いて言やぁ、フネが俺の国。船乗りってのはみんな多かれ少なかれそんなもんさ。お前らにだって、そう言う感覚、あるだろう?」

 

「そう言われれば―――」

 

「確かにそうかもねぇ」

 

 

 実際下手したら小さな国並の大きさあるしな。ウチのフネ。

 

 

「いやーしかし今回の依頼は良い儲けになりそうだぜ。ちょいと艦を改造したらあっつーまにクレジッタが飛んじまってよー。その分キッチリ取り変えさねぇとな」

 

「確かに、フネの改造って金掛かるッスよねぇ」

 

「そうそう、管理局の改装ドッグ使えば楽だけど、その分クレジッタが飛んじまうぜ」

 

「あってもあっても足りない。おあしってのはまさに天下の回りものだねぇ」

 

 

 お互い財源難で苦労してるんだなぁとちょっち親近感がわいたぜ。

 そんでしばらくユディーンと会話してたら、ようやくエルイット少尉が帰ってきた。

 

 

「担当の人の話聞いてきたよ。今回の任務はカルバライヤ領星のCL617の周辺宙域で、敵の輸送部隊を襲撃することだって」

 

「ソコはカルバライヤ制宙圏じゃないのかい?」

 

「うん、だから敵は選ばないと大変なことになるよ。主力がいない事は確認済みだけど、増援の大規模部隊とぶつかったら――」

 

「目も当てらんないッスね。了解ッス。最悪逃げるッスけど問題無し?」

 

「エリートエンジニアの僕も死にたくは無いからそれをお勧めだネ」

 

 

 自分で自分の事をエリートって自称するのって恥ずかしくないんかい。

 

 

「・・・で、最低4隻は沈めて欲しいってさ」

 

「最低ッスか。まぁソレは当然としてだ。エルイット少尉」

 

「ん?なに?」

 

「最低4隻と言うが、別に何隻落しても構わんのだろう?」

 

 

 あれ?なんか急に弓を撃ちたくなってきたけど気のせいか?

 ともあれ、指示は居ただけので、俺達はとっととお仕事をする為に惑星CL617へと向かう準備を進めるのであった。

 

 

Sideout

 

***

 

 

Side三人称

 

 

惑星ユーロウ上空、白鯨艦隊旗艦デメテール蜂の巣型ドッグ―――

 

 

 デメテールの艦内には造船ドッグが存在する。ソレは蜂の巣の形状をしており、6枚の壁で構成されている訳だが、ソレらを可動させることで大抵のサイズのフネを作り出すことが出来た。

 そしてそのドッグには現在唯一の艦隊構成艦であるリシテアが係留されているが、そのすぐ近くのドッグに別のフネが係留されていた。

 

そのフネはやはり小マゼランで見られることは殆ど無い大マゼランのフネの設計図を基にした750m級巡洋艦に該当するマハムント級と呼ばれる巡洋艦であった。これもユーリが昔ロウズの廃棄コロニーにて見つけた(第1章参考)設計図から仕える部分をサルベージしたデータで作り上げられたフネであった。

 

 だが、前のリシテアの様に重要なパーツが抜け落ちていた為、既存の技術の設計図を切り張りする事でなんとか仕えるように再設計されたモノであり、本来のマハムント級とは若干異なるモノとなっていた。その中で最も違うのは、艤装の半分が穴開きで装着されていない事で、仕方ないので現在武装無しで建造し、後から取り付ける作業を行っている最中であった。

 

 それを監督するのは監督室で、様々な場所で作業している部下に指示を飛ばしているケセイヤだった。この穴開き設計図を基に改造を加えたのはケセイヤであり、現在建造中のマハムント級巡洋艦はマハムント/D(デメテール)C(カスタム)級巡洋艦の名称が付く。

 

 主な改修点は主砲であった大型プラズマ砲が、データの欠損で無くなっていた為に、もうノウハウがかなり積み重なったおなじみの兵装であるガトリングレーザー砲の大型を取り付け、また細かな誘導は出来ないがなんとか小型化に成功したホーミングレーザー砲を両舷に各16門ずつ搭載している。そして基本的に人員が乏しいデメテールの実情に合わせ、フネは基本的には無人で運用が可能と言う点が挙げらる。

とはいえネージリンスでソレらのアビオニクスに関する技術を手に入れられた上、無人艦の制御を担当するのはユピと同格のAI達である。その為無人艦といえどもかなりの高性能を持つことが予想されていた。ちなみにユピはソレらの上位存在として登録されている為、ユピが裏切らない限り無人艦も裏切りを起すことが無い。

 

 

「班長~、主砲の取りつけがもすぐ終わるだよぉ」

 

「おっし艤装が完了したから、後は無人制御システムのテストだけだな。

ソレは外に出さないと何とも言えねぇからもう出来るこたぁねぇな」

 

 

 部下が態々監督室にやって来て、その事を伝えてくれる。それを聞いたケセイヤは良しとした。 基本的に彼らはハードを作り上げるだけで、プログラミングに関しては科学班が行う事になっていた。そこれ辺も適材適所というか、なんとなくのウチにそう決まっていた事である。

 無人艦として運用する事は決定していた上、艤装も澄んだためほぼ完成と言っても良かったのだが、細かな調整は科学班達にやってもらわなければならなかったのだ。

 

 

「じゃあ上がっても良いだか?オラ腹減っただよぉ」

 

「バカ、科学班の連中に引き継ぎしてからいけ」

 

 

 ケセイヤはこの愛すべきバカと言うべき部下に応対しつつ、他の作業を監督していく。この仕事はある種のノルマの様な物で、早く終わらせないと趣味の時間が削られてしまうのだ。勿論造り手である彼にとって、フネを作るこの作業は別に苦痛でも何でもない。只単に気分の問題であった。

 

 

「了解だぁ。オラちょっぱやで言って来るだ」

 

「おう、早いとこやって終わらせるぜ」

 

「そうだか?んじゃ班長も一緒にご飯でも行くだか?」

 

「おう、そうだな。確かに飯の時間だ。んじゃ待っててくれや」

 

「了解だぁ。オラは休憩室で待ってるだ」

 

「んーすぐに行くぜ」

 

 

 そう言ってのんびりとした部下を送り出した後、彼はすぐに終わらせなきゃなと一気にコンソールを操作し始める。もとより面倒見が言い彼はこういった付き会いも大事にするのである。

しかし、この光景を影から見つめるモノたちがいた。

 

 

「は、班長・・・あなたもなのか」

 

「クソ!艦長に引き続きってか!?」

 

「・・・・妬ましぃ」

 

「・・・・あれ?おれどうして刃物にぎってるんだ?銘は・・・〆サバ丸・・・だと?」

 

 

 ソレはあの部下と同じく仕事を終えたケセイヤの部下たち♂だ。そして何故彼らがこんなことをしているのかと言うと、言わなくても判る事だろう。あの言葉づかいに独特の訛りをもつ子は、瓶底眼鏡をかけた二股三つ編みおさげの少女なのだ。どういう訳かケセイヤを気にいっているらしく、彼の所での実質の副班長の座を勝ち取った猛者である。

 

 年齢は15歳くらいで、流石のケセイヤも彼女には食指が動かないというか、普段ツナギ姿で見た目を考慮していないその姿に、無意識で彼女を女性というカテゴリーから除外している。まぁ自称紳士である為、ロリコンには走らないのが彼のポリシーなのだ。

 

 お陰でその部下ちゃんとは仕事仲間としてある意味で師弟の様な関係、もしくは兄と妹の様な関係に酷似していた。だが、そんなこと彼女無し(ミナシゴ)である彼らには関係が無い。ここでの問題は自分らの筆頭であるケセイヤが“おなごといる”という点にあるのだ。

 

 

「ここはアレだな。俺達も参加すべきだろうな」

 

「当然だ!整備班でも数少ないおにゃのこを班長の魔の手から守らなくてはな!」

 

「俺達は紳士、YesロリータNoタッチ!」

 

「いや、お前ソレは問題あるだろう。否定はしねぇが」

 

「つーか俺らもトコトン変態という名の紳士だな」

 

「「「「ちげぇねぇ」」」」

 

 そんなこんなで、彼らはケセイヤが仕事を終えた直後に突撃し、なんだかんだあって全員で飯を食いに行く話になった。その時部下ちゃんの反応はというと別に気にした様子も無く皆で飯食ったらウメェだと言っているだけなので、今の所ケセイヤに春は気そうには無かった。

 戦争への準備が進められる中でも忘れられることは無い白鯨クオリティ。そんなちょっとした話し。

 

***

 

「―――空間アレイに反応あり、護衛艦2、輸送船1の編成で4艦隊、計12隻の輸送艦隊です」

 

「見つけたッスね。各艦戦闘配備を急がせるッス」

 

 

 さて、やってまいりましたよ。兵站破壊任務。

 デメテールのブリッジの艦長席で、俺はモニターに映る輸送船団を見つめていた。

 

 

「・・・・のろくさいねぇ」

 

「まぁソレだけ物資を満載してるって事ッスよ。その所為で鈍ガメも良いとこッスけど」

 

 

こちらはステルス全開、おまけに超長距離で無人機による偵察を行っているからか、今だに向うには気が付かれてはいない。

 殲滅するだけなら、この距離からの無人機とのデータリンクによる超長距離砲撃で良いのだが、貧乏なウチとしては、是非とも運んでいる物資が欲しいところだ。

敵のモノは俺のモノ、ジャイアニズム万歳。

 

 

「さぁて、どう料理してやろうかねぇ?」

 

「そりゃ勿論、敵は倒して物資は無傷で頂くッス」

 

 

 とりあえず、今回からは単艦で挑む必要はない。何せ―――

 

 

『こちら艦内工廠ドック、無人艦隊旗艦『リシテア』及び無人巡洋艦『レダ』『ヒマリア』、発進準備完了。現在出撃待機中』

 

「ウス、ヴルゴさんは?」

 

『既にリシテアで待機してますぜ』

 

 

―――ようやく艦隊を造れたんだからな。といっても三隻だけだけどな。

 

 

 なんとか建造出来た無人艦隊を指揮するのは、あのヴルゴ元将軍だ。

 今はヴルゴ司令と言うべきなんだろうか?ともあれ、シミュレーターでも判っていたのだが、彼の指揮能力は抜群に高い。

今回導入するリシテア・レダ・ヒマリアの三隻はリシテア以外は完全な無人艦だが、ユピのコピーAIが搭載されているから大丈夫だろう。

 

 ・・・・逆にAIなのに独断専行しないか心配だが、そこら辺はヴルゴ司令に任せる事にしよう。生まれたてだが、基本的にはユピと同スペックなのだ。育て方によってはどうにでもなるんだぜ。

 

 

「ヴルゴ艦隊、発進準備完了。ゲート開きます」

 

 

 デメテールから発進した3隻はリシテアを中心として並列に隊列を組んだ。

 非常にスムーズなその艦隊機動は、ヴルゴさんの凄さを見せつけてくれる。

 俺がやったら・・・まぁ10回に一度は成功するんじゃね?なさけねぇなorz

 

 

 

 

 さて、発進したヴルゴ艦隊は輸送船団のアウトレンジから後方へと回り込んだ。

 まぁアレですよ。狩りで言う所の追いたて役や猟犬役ってワケです。

 彼らのセンサー範囲に引っ掛かるギリギリの距離を迂回して回ったヴルゴ艦隊は輸送艦隊最後尾にいたタタワ級駆逐艦とバクゥ級巡洋艦を一隻ずつ合計2隻を沈めていった。

長射程の連装ホールドキャノンを持つ戦艦リシテアがまず最初に戦端を開いたのである。

 

このアウトレンジからの超長距離砲撃に驚いた輸送艦隊は、まさしく蜂の巣をつついたかのように慌しくなっていた。

彼らが陣形を整える前にリシテアは随伴艦二隻と共に輸送艦隊に近づいていく。

そしてガトリングレーザー砲の射程内に護衛艦達を収めると矢鱈めったらに撃ちまくった。

散布界が広いガトリングレーザーとマハムントDC級のレダ、ヒマリアの持つ簡易ホーミングレーザー砲がたったの3隻しかいない艦隊だとは到底思えない重厚な弾幕を形成していく。

 18隻いるカルバライヤ側の護衛艦隊の反撃よりも濃い弾幕だ。

 向うの護衛艦隊に与える衝撃波いか程のものか想像に難くない。

 

 

「自分で作る様に指示しといてあれッスけど、容赦ないッスね」

 

「私が敵なら初弾見た段階で真っ先に逃げてるね」

 

 

 カルバライヤ人の気質なのか、散布されるレーザーの砲弾の中でも陣形を崩さないように維持し続けている護衛艦隊。自分たちが殺られても護衛を務めて見せるという気概だろう。

でも装甲板を掠るような弾幕を受けている艦隊を見ていた俺は、脳内でカリカリと言ったグレイズ音が聞こえていた辺り、もうダメかもしれない。

 

ああそうそう、この弾幕は当たりそうで中々当らないギリギリの命中率だった。

 散布界パターンを非常に広くして、兎に角上下や両サイドには逃げられなくし、真っ直ぐに走らせるかのように撃ちまくっていたのだ。

 それでも砲撃は掠ったりするし、運が悪いと直撃してしまうから、乗っている連中には溜まったモノでは無い事だろう。

 

 現に護衛艦隊の陰から逸れてしまった輸送艦には、撃沈に至らなくても被弾した艦が幾つか現れていたくらいだ。

 当然奴さん達は躍起になって、輸送艦隊を死守すべく18隻のうち半数以上の12隻が反転してヴルゴ艦隊へと突撃しようとしてきたのである。

 だが、連射性は低いが射程と貫通力と命中率が高いホールドキャノンを主砲にしているリシテアに、超長距離から狙撃されて殆どが撃沈されてしまった。

 流石はAIの火器管制にストールのデータをブチ込んだだけはある。狙いがゴルゴ並だ。

 だがあれだけ派手に撃てば、その分エネルギーの消費も早く、割とすぐに弾幕は下火になる。

 一応ペイロードを犠牲にして、その部分に大型コンデンサーを搭載してあるらしいのだが、やはりアレだけの砲撃は長くは続かないようだった。

 そんな訳で今のうちと判断したのか、生き残りの輸送艦10隻と護衛艦6隻が、この戦域を離脱しようとヴルゴ艦隊を背後に直線状に加速を開始した。

 どの物体でもそうだが、大抵は蛇行するよりも直線の方が加速しやすいからな。

 てな訳で、まんまと加速してくれたわけですよ。こちらの思惑通りにね。

 

 

「さぁ鴨がネギと鍋とみそ背負って来たッス!デメテールのステルス解除、敵艦の前に出るッスよ!主砲とHL準備ッス!」

 

「デフレクターに出力!APFSもステルス解除と同時に展開しな!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 そして、満を持して俺達は補給艦隊の前にその巨体を曝した。

 もしも連中の艦隊機動を言葉に表せるならまさに嘘だろっ!?って感じ。

 そりゃねぇ、信じられない様な攻撃を加えてくる艦隊に追い立てられて、ようやく加速状態に入ろうとしたら、目の前に信じられない程の巨大艦がいきなり現れたりしたら絶望もしたくもなるだろう。

 序でに言うとさっきからEA・EP等の強力な電子攻撃を加えているから、基地に連絡が取れないから増援も呼べやしない。

 通信出来なくした上で逃げられなくするとか結構鬼畜だよなぁ俺。

 

 

「艦長、敵艦隊が降伏勧告に応じました」

 

「ヴルゴ艦隊を引き寄せて射程内に敵艦隊を置いておくッス。変な真似したら撃沈すると脅しておいてくれッス」

 

「了解しました」

 

「あと、輸送船は前から順番に中身を頂いて、空っぽになったフネに敵の捕虜をぎゅうぎゅうにつめといてくれッス。使う人員は任せるッス」

 

「アイアイサー」

 

 

こうして輸送艦隊を狙った作戦における無人艦隊の初陣はあっさりと終了した。

予め無人艦隊であろうとも出来るだけ高性能にし、戦列艦から脱落しないようなフネに改造を加えておいた成果であろう。

このまま戦闘をやり続ければ無人艦の制御AIもドンドン成長していくのだから楽しみだ。

 

さて、拿捕した輸送船は、カルバライヤでは官民問わず使用されているビヤット級と呼ばれる全長1200mクラスの大型輸送船であった。

流石に軍の輸送船だけあり、食糧や医薬品や雑貨、兵器の類まで様々な物資が満載されており、フネの修理素材や備蓄部品まで運んでいたらしく、新たな戦列艦を造りたかったウチとしてはありがたく全部頂戴する事にした。

 

 

「しかしまぁ、最低4隻沈めろって言われてたが、既にその倍を落した事になるねぇ」

 

「運良く大規模輸送艦隊に遭遇で来て良かったッスよホント。」

 

「確かに。で、どうする?このまま報告に戻れるけど?」

 

 

 トスカ姐さんに言われて、俺は少し考える。

輸送艦隊は撃沈せよという命令であったが、その中には輸送船の物資を手に入れてはいけないという条文は無い。

どうせ宇宙のチリにしてしまう気なら、ありがたく利用させてもらおう。

 

 

「期限は設定されて無い訳ッスから、もう少し物資を貰ってからで良くないッスか?」

 

「10隻から手に入れた物資もかなりの量だけど?」

 

「流石にネージリンス軍もこんなに早く戦闘が終わるとは思わんでしょ?最低あと数日はやっとかないと疑われちまうッス」

 

「それもそだね」

 

 

 カルバライヤの連中には悪いけど、これって戦争なのよね。

 そんな訳で、まだしばらくこの宙域にとどまる事になっただった。

 そしてこの後も似た様な状況になったが特に代わり映えも無かったのでキングクリムゾン!

 

 

 

 

 

 

 さて、キンクリして時間が少し飛び数日後、俺達はCL617の付近を通過していた。

 最初程の艦隊ではないがそれでも計10隻以上落したので、その時に手に入れた資材を使いデメテール艦内工廠では次の無人艦隊用の艦船の建造が始まった。

 なんか火事場泥棒みたいな真似してるが、0Gだから仕方が無い。アウトローだもん!

 

 

「――艦長、後方のセンサーに反応あり、フネが一隻接近してきます」

 

「フネ?何処の所属ッスか?ユピ」

 

 

 ま、広大な宇宙空間では中々敵と遭遇しない。

 特にこの辺は前線から離れた補給線なため配置されている敵艦隊もごくわずかなのだ。

 

 

「えーと、あ。味方のIFFの反応です!所属は外人部隊の・・・ユディーンさんだそうです」

 

 

 ユディーン?ああ、ユーロウ基地に居たグアッシュ海賊団の生き残りの。

 

 

「艦長、接近中の艦から通信が来ていますが」

 

「ああ、そのフネは知り合いのフネッス。ミドリさん、通信繋いでくれッス」

 

「了解です」

 

『ようユーリ!久しぶりだな!つーかちんたらやってんなオイ』

 

「ユディーンさん、ちんたらじゃ無くてマイペースと言って欲しいッス」

 

『お、わりぃ。ま、見かけたから挨拶したかったダケだしな。俺達はもっと稼ぎたいから先に行くぜぇ』

 

「ほいほい、ご武運を」

 

 

 そう言うと通信が切れて、デメテールから見て右側の航路を、猛スピードを出したグロスター級戦艦が走り抜けていった。

 エルメッツァで唯一民間でも買えるモデルの戦艦だけど、相当機関部を改造したらしい。

 鈍ガメな戦艦が巡洋艦以上に早く宇宙を飛んでいくとか、結構無茶な改造したのかもな。

 

 

「凄い加速性能ですねぇ」

 

「ま、ウチらはマイペースで行くッスよ」

 

「だけど、このまま進んでもユディーンと鉢合わせするだけだろう?違う航路に入った方がいいんじゃないかい?」

 

 

 トスカ姐さんにそう言われ、確かにそうだと思った。

 この世界では0G同士でのイザコザなんて空気みたいなもんだ。

 おまけに相手とエモノは同じ、難癖つけられるのも面倒だな。

 

 

「ミドリさん、この先の航路に分岐点とかないッスか?」

 

「少々お待ちを・・・・・・・・・分岐点は無いですが迂回路ならあります」

 

「迂回路か、それならユディーンの連中とも鉢合わせは避けられそうだね」

 

「なら迂回する事にするッスか。リーフ」

 

「聞いてたぜ。迂回路に入ればいいんだな?アイアイサー」

 

 

 てな訳で、デメテールはそのまま転針し、迂回路の方へと進む。

 まぁ一応味方同士な訳だし?余計なイザコザは勘弁って事さ。

 その後も輸送艦隊を見つけては襲うを繰り返した。

 んでユディーンと会ってから数時間後、適当に現れる哨戒艦隊を喰っている時だった。

 

 

「艦長、救援信号を感知しました」

 

「救援信号?カルバライヤのッスか?」

 

 

 俺達は一応ネージリンスに参加しているが、ソレ以前に船乗りである。

 敵とはいえ流石に救援信号を発しているヤツに止めを刺す趣味は無かった。

 まぁそれでも一応何処の所属なのか聞いて見たのだが―――

 

 

「いえ、違います。あと、出力が弱くて既に光学映像で捉えられる距離に居る様ですので、光学映像を出します」

 

 

ミドリさんはそう言うとコンソールをピポパと操り、艦長席のスクリーンに外部映像を投影した。そこにはかなり見覚えのあるグロスター級戦艦の残がい・・・つーか。

 

 

「ありゃ?これは―――」

 

「穴空いてるがエンブレムはユディーンのフネのモンじゃないかい?」

 

 

 そう、光学映像に映し出されたのはユディーンのフネ。

 ボロボロにされて、一見しただけではデブリにしか見えない。

 

 

「ったく、しょーもない。無茶し過ぎて、返り討ちにあったんだろ」

 

「まぁまぁ、とりあえず救援信号が出ているって事はまだ生きてるって事ッス。一応味方だし助けてはやらないと・・・」

 

 

 カルバライヤサイドに近いこの宙域で見捨てたらユディーンは助からないだろう。

 流石に夢見が悪いので、救助しようとステルスモードを解除させたその時だった。

 

 

「待ってください!前方の上方より此方に接近してくる艦隊がいます!大型艦も感知!敵艦です!」

 

 

 ユピがそう声を荒げ、別の空間ウィンドウを映しだした。

 そこには大型艦を旗艦とした艦隊が此方へと接近してくる姿が映し出されていた。

 どうやらデブリに隠れていたらしく、今まで気が付かなかった。

 

 

「ちぃ!罠か!」

 

「データ照合―――カルバライヤ軍の新型戦艦でシップネームはゾーマ級です」

 

「ザン級巡洋艦、およびゾロ級駆逐艦も多数確認」

 

 

 光学映像にはまるで鳥の頭見たく鋭角なシルエットをした巡洋艦と駆逐艦の姿が映し出されていた。

 どちらもカルバライヤ正規軍のモノであることは間違いない。

 つーか、ゾーマ級といいザン級といいゾロ級といい、全部鋭角なシルエットしてるなぁ。

 

 

「やる気まんまんッスね・・・各艦第一級戦闘配備!砲雷戦用意!」

 

「ユーリ!ヴルゴ達は?」

 

「いまから出すのは危険すぎるッス!本艦のみで対処す―――」

 

「ゾーマ級に高エネルギー反応!」

 

「「――なっ!」」

 

 

 あわてて光学映像を確認すれば、ゾーマ級の艦首部分が開口し、その部分にインフラトン粒子が収束している。間違いなく艦首特装砲を撃つつもりなのだろう。

 

 

「緊急回避っ!!」

 

「ちっ!!くそ!間に合わねぇ!!」

 

「ゾーマ級、想定出力臨界点に入ります」

 

「デフレクター!APFS最大出力!いそげっ!!」

 

「もうやっています!ミューズさん!デフレクターの方お願いします」

 

「まかせて・・・」

 

 

 こちらが回避機動を取るのとほぼ同じく、敵の艦首特装砲のエネルギー量は増していく。

 なんとかデカイ図体を動かし、回避機動を取り始めた次の瞬間!

 

 

≪―――ッズギャーーーーーーンッ!!!!!!!≫

 

「うわっ!」「ひえ!」「・・・ぐぅ!」「あいた!」

 

 

 極太のビームがデメテールの右舷の半分を飲み込んでいた。

 爆発等は起きなかったが、かなりの熱量だったらしい。

 

 

「被害報告!」

 

「右舷側第一装甲とホールドキャノンが損傷。4番、5番砲塔の一部分が融解しました。現在ダメコン班が復旧作業中。あと砲列群にも損害あり、ですがHL砲列は使用可能です」

 

「ええい!また修理費が嵩むッス!ゆるさん!許さんぞカルバライヤ!」

 

 

 俺を過労死させるつもりか!許さんぞコラぁ!!!

 

 

「敵は本艦の射程外、ですがゾーマ級の特装砲は再装填までにインターバルがある模様」

 

「デフレクター、APFS出力そのまま!吶喊せよッス!」

 

 

 デメテールの図体では回頭している間に敵の特装砲撃の準備が整ってしまう。

 初撃なら何とか防げるが、同じ個所に何発も当てられては修理代がバカにならない。

 一応第一装甲板で防げるようだが、何度も受けたら流石に持たん。

 

 

「ザン級、ゾロ級がゾーマ級の前に出ました。本艦の進路を妨害する様です」

 

「左舷ホールドキャノン、準備完了次第随時発射ッス。HLの最大射程は?」

 

「間もなく敵艦隊前衛が最大射程圏に収まります」

 

「左舷側HLも発射!当てなくていいから撹乱させよッス!ゾーマ級だけは艦首部だけ破壊せよッス!」

 

「??何でだいユーリ?」

 

「新造艦だし、拿捕してネージリンスに売れば高く買ってもらえるッス」

 

 

 ああトスカ姐さん、そんな呆れた眼で俺を見ないでくれ。

 少しでも修理費の足しになるもんは頂いとかないと勿体無いんだぜ?

 だってそうしないとパリュエンさんが怖いんだモン。

 柔和な表情はそのままに目が・・・目がぁあばばばばば

 

 

「ザン級、ゾロ級を全艦撃破」

 

 

っと、すこしトリップしてたら時間が進んでいた。

 デメテールが発射したホールドキャノンが護衛艦を貫いたらしい。

 画面には船体中央に無残に大穴をあけられた護衛艦が爆散する映像が映し出されていた。

 

 

「ゾーマ級、間もなくHLの最大射程に入ります」

 

「射程に入り次第HL発射ッス。ストール?」

 

「判ってるぜぇ。俺に任せとけ!それじゃほら来た―――」

 

 

ストールは大きく腕を降りかぶり。

 

 

「―――ポチっとな」

 

 

 コンソールのHLの発射ボタンを押した。

 デメテールの左舷側が光りを放ち、大量の光線が弧を描きながらゾーマ級に迫る。

 ゾーマ級もデフレクターを展開し、回避運動でよけようとするが未来予測されている上に照射元で誘導されている凝集光はゾーマ級の回避を意味のないモノとした。

 光弾は多少デフレクターに疎外されたモノの殆どがゾーマ級へと突き刺さる。

 

 

「敵艦の特装砲口の破壊に成功しました!」

 

「「「よっしゃぁぁぁぁ!!」」」

 

「ミドリさん、敵艦に降伏勧告を――」

 

「敵艦、主砲の照準をこちらに向けています」

 

「あれま」

 

 

 どうやら最後の一兵まで戦うつもりらしい。

 ・・・まぁこの際残がいでも良いか。

 

 

「一応勧告を・・・それでだめなら―――」

 

「アイサー、ホールドキャノンを準備しとくぜ」

 

 

 まぁ、戦争中だしね。全てがこっちの思惑通りになる訳でも無し。

 向かって来るならたたき落とすしかない。

 さっきも言ったけど、これって戦争なのよね。

 

 

「ゾーマ級、勧告を無視しました。対艦ミサイルも撃つつもりの様です」

 

「・・・・仕方ないッス。ストール」

 

「あいよ。ポチっとな」

 

 

 そんな訳で、また宇宙にダークマターが増えたのであった。

 とりあえず残がいは回収しておこう。ウン。

 

 

***

 

 

 さて、何やら罠っぽい感じであったが一応撃破できた。

 しかし流石は戦争中、油断したらすぐにフネが傷付いちまったぜ。

 輸送艦ばかり狙ってた所為なのかねぇ?セコ過ぎて行いが悪いとか?

 

 

・・・・・・・・・。

 

 

 理由があり過ぎて何とも言えねぇや。

 

 

「艦長、ユディーンさんの救出が完了したみたいです」

 

「おう、内線のスクリーンに出してくれッス」

 

 

 まぁ例の如く、救援信号を発信していたユディーンのフネには生き残りが多数いた。

 それにはユディーンさんも当然含まれている訳で、とりあえずの挨拶を交わすことにする。

 

 

「了解、回線繋ぎます」

 

「よう、ユディーン・・・・えらくブラザーな髪型になっちゃったッスね」

 

『うるせぇ、少しだけコンソールの火花浴びただけでぇい』

 

 

 アフロって訳じゃないんだけど、それでも大分チリチリだ。

 黒髪っポイ感じなのにアフロ・・・ああでも意外とに合うかも。

 

 

『しかし、ま、助かったぜ。もうちょっとで空気が無くなっちまうところだった』

 

 

 そう語る彼の顔は何時もと違い真剣そのものだった。

 相当切羽詰まっていたって事だろう。

 宇宙空間で空気が徐々に抜けていく、もしくは無くなる恐怖は計り知れない。

 人によっては発狂する事もあるらしい。怖や怖や。

 

 

『カルバライヤの連中もこっちが正規の軍人じゃねぇってこと知ってっから救助してくれねぇんだよ』

 

「ああ、戦時航海法だね」

 

「戦時航海法?なんスかソレ?」

 

『要するに戦時中は倒したフネの乗組員を救助して捕虜にするのは義務だが、俺らみたいな外人部隊の人間には捕虜にする義務が発生しねぇって事。つまり救助する必表がねぇってことさ』

 

「なるほどねぇ・・・ウチも気をつけるッス」

 

『おうおう、是非そうしとけ。それよりもよ。助け序でに俺の艦も曳航してって貰えねぇか?』

 

「そりゃ無理だ。あそこまで壊れちまってたらスクラップにするしかない」

 

「もしくはジャンクで一山幾らッスかねぇ」

 

『く・・・やっぱりそうか・・・』

 

 

 そう言うと彼は頭を抱える仕草を取った。

 自分で改造したフネだ、きっとソレだけ愛着があったんだろう。

 

 

『・・・ま、壊れちまったもんは仕方ねぇ』

 

 

 あ、あら?意外と軽い。

 

 

『んじゃよ、俺を、俺達をこのフネのクルーにしてくれないか?』

 

 

・・・・なんだと?

 

 

『何せ天下の白鯨艦隊だ。ちっと部下として働いてもいいかな、ってよ』

 

「ふむん・・・」

 

 

 基本的に人手不足の我らが白鯨、優秀な人員なら大歓迎・・・と行きたいところだが。

 

 

「成程、つまり俺達が有名だからその傘下にという訳か」

 

『勿論ユーリ個人の資質に惚れたってのもあるぜ?』

 

「・・・まるでヨイショのバーゲンセールだな」

 

『ハッ、こちとら部下を預かる身なんだ。多少のヨイショでも何でもするぜ』

 

「それを本人の前で言うか普通?・・・まぁいい。とりあえずはだ。――本気か?」

 

 

 いつもの~~っスという語尾はなりを潜め、俺は真っ直ぐとスクリーンの先にいるユディーンへと視線を向ける。

 

 

『ああ、本気だ』

 

「言っておくが給料はそれほど高くないぞ?もう一度聞くが本気か?」

 

『ああ、プーよかマシだ』

 

 

 一見口調は非常に軽く見えるが、その眼は真剣そのもの。

 この立ち位置が彼のスタンスなのだろう。誰に対してもソレを曲げない信念の様な物。

 そう言った芯を持つ人間は強い、なるほど・・・確かに失うのは惜しい。

 

 

「ユディーンが俺に付いたとしてメリットは?」

 

『俺自身元海賊で一匹狼やってたから人並み以上に操艦や航宙機の操縦が出来る。あと、部下たちはグアッシュ海賊団に居た時からずっと俺に付き合ってきた猛者だ。損はさせねぇゼ?』

 

「ふーむ、しかしなぁ」

 

 

 裏切り・・・を怖がっている訳ではない。むしろやれるもんならやってみろって感じだ。

 24時間監視出来る女神さまがウチには付いているんだからな。

 俺が懸念しているのは―――

 

 

「抵抗は無いのか?俺は白鯨、海賊専門の追剥だぞ?」

 

『はぁ?なにいってんだお前ぇ?こっちは既に海賊廃業してるんだから問題ねぇだろう?』

 

「いや、過去の確執というか――」

 

 

『ねぇよンなモン。少なくても昔の話に拘るバカは俺の部下にゃいねぇ。グアッシュに居たのだっておまんまと酒が定期的に手に入る職場だったからな。こう見えても軍以外の民間船からは略奪した事ないんだぜぇ?お陰でクモの巣の警備に回されちまったけどな!』

 

 

 あっはははと快活に笑うユディーン。

 見ていてこっちが清々しくなっちまうぜ。

 

 

『それに一度は俺達を負かした男。強いヤツに付き従うのは常識だぜぇ?』

 

「・・・判った、受け入れよう。ようこそユディーン、我が白鯨艦隊へ」

 

『おう!お邪魔するぜぇ!ソレじゃあまたな』

 

 

 とりあえず話が終わったので内線を切る。

 詳しい部署や職場は連中の適性を見て判断って所だな。

 

 

「・・・・あー、まぁ毎度の如くなんスが」

 

「ふ~ん、まぁいいじゃないかい?」

 

「そうですね。こういったことで艦長が独断専行するのはウチの特色みたいなもんですしね」

 

「うう、すまんこってす」

 

 

 若干呆れの目線をトスカ姐さんとユピに向けられている。

 うう、悔しい、でも感じちゃうびくんびくん。

 

 

「と、とりあえず、一度ユーロウに戻るッスかねぇ」

 

「そうしようか。ちなみに何隻落した事にするんだい?」

 

「んー?ん~~・・・まぁ5~6隻程度で良いじゃないッスか?あんまり多くても向うが困るでしょうし、報酬を渋られたら困るッス」

 

「それもそうだねぇ、んじゃ向うに出す報告はそう言う感じでまとめとくよ」

 

「お願いするッス。なんならパリュエンさん達文官も使うと良いッス」

 

「これくらいで一々人を使えるかい。これくらいなんとかしてやるよ。私の仕事だろ?」

 

「うす、頼むッス」

 

 

 こうして、ユディーン以下生き残りの40人の元海賊たちが加わる事になった。

 2~3日はユピが様子を見ていたそうだが、素行や行動に特に問題は無いらしい。

 (もっとも、ウチのクルーと酒の一気飲み勝負やって病院に運ばれると言った事があったが、まぁソレ位はお目こぼしの範疇だろう)

 

 そんな訳で俺達白鯨は新たな仲間を受け入れ、次の作戦を行う為に違う宙域へと向かったのであった。

 

 

 

 

 ・・・・・・・なんか結構重大なことを忘れている気もするが、まぁ大丈夫だろう。

 

 

 

***

 

Side三人称

 

 

 ユーリ達が惑星ユーロウで報酬を受け取っていた時と同時刻。

 エルメッツァのツィーズロンド上空では、エルメッツァ軍ルキャナン軍務官を全権大使として迎えた先遣艦隊が、ヤッハバッハ艦隊に向けて出撃しようとしていた。

 

 艦隊数は総数が5000隻を超えていた。

コレは小マゼラン星間国家連合のエルメッツァにおける空前絶後の大艦隊である。

 その艦隊を率いる旗艦ブラスアームスに軍務官として派遣されたルキャナンと、以前ユーリ達が世話になったモルポタ・ヌーンとオムス・ウェルが乗船していた。

 

 

「ルキャナン軍務官、ようこそブラスアームスへ」

 

「マルキス提督に代わり、お出迎えに上がりました」

 

 

 モルポタとオムスが敬礼をもってして軍務官たるルキャナンを出迎えた。

 本当は提督が出迎えるべきなのだが、その提督は出撃準備に追われている。

 その為、提督の次に偉い人間として彼らが出迎えたのだ。 

 彼らがそう願い出たという理由もある、主に出世の為に。

 

 

「御苦労。・・・・旗艦としてふさわしい良いフネだな」

 

「そのお言葉、マルキス提督もお喜びになるでしょう」

 

「うむ。我がエルメッツァの威信を遍く広める為の航海だ。良い旅になろう」

 

 

 終始和やかに進むかと思われた会話であったが、この時モルポタが若干不安そうに口を開いた。

 

 

「お言葉ですが軍務官。まだヤッハバッハ艦隊の戦力は定かではありません。

くれぐれも警戒を怠ってはならぬものと・・・」

 

「む・・・」

 

 

 モルポタの言葉に、ルキャナンは眉に皺をよせた。

 幸先の良い航海を前に水を差された様な気分になったからだった。

 

 

「モルポタ大佐。その言いよう、我がエルメッツァの力を信じていない様に聞こえますぞ」

 

 

 そんなルキャナンの様子を見たオムスが慌てて口を挟んだ。

 ルキャナンは政府の中枢に食い込む重要人物である。

 そんな相手に失礼があってはならないと彼は動いたのである。

 

だが、正体が定かではない艦隊を相手にする事に不安を持つモルポタ。

 彼も彼で反論しようと口を開こうとした。

 

 

「いや、私は―――」

 

「オムス大佐の言う通りだモルポタ大佐」

 

 

 だが、ソレは若干不機嫌そうなルキャナンに遮られてしまう。

 一応自分よりも上官に値するルキャナンの前に彼は口をつぐむしか無かった。

 

 

「君もエルメッツァの軍人として、誇りを忘れない様にせぬと・・・」

 

 

 ルキャナンはそこまで言うと一度口を閉じて考え、少し意地の悪い笑みを浮かべ。

 

 

「いよいよ、オムス大佐にぬかれることになるぞ」

 

「う・・・っ。は、ははっ!」

 

 

 そう言われ、モルポタは慌てて敬礼を返していた。

 そして彼が感じていた不安感は有耶無耶となり、そのままとなってしまった。

 コレが彼の運命に大きく関わることになろうとは、この時のエルメッツァ先遣艦隊に居る人間には誰にも予想する事は出来なかった。

 

 

―――銀河の星は今日も冷たく瞬いているだけだった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

 さて、フネの損傷は思っていたほどでは無かったので胸を撫でおろした後。

ユーロウでの仕事を終えた俺達は次の仕事を貰いに惑星ナヴァラへとやってきた。

 惑星ナヴァラは衛星モアを持つ星で、二重恒星を巡っている大気が無い星だ。

 データ上ではアーヴェンストにおいて一番最初に移住が始まった星との事。

 

 

「惑星ナヴァラッスか・・・あれ?地表に全然街が無いッス」

 

「ナヴァラは地下に大規模な空洞がある星なんだ。だからその大空洞を利用して大気を満たし、居住域を作ってるんだよ」

 

 

 偶々報告に来ていたエルイット少尉からナヴァラについて説明を受けた。

 地中だから空が見えなくて息苦しそうとか言ったんだが、そうでもないらしい。

 天井が高く、おまけに地熱で年中暖かなんだとか。

 おまけに土の養分が豊富で作物がすぐに育つことからナヴァラでは農耕も盛んらしい。

 

 

「へぇ、年中暖かでご飯が一杯なんスか。何と言うユートピア」

 

「うん、だから発見後すぐに大規模植民が始まって、今じゃ200万人近いネージリンス人が生活してるんだよ」

 

 

 星の規模の割には若干人が少ない気もしないでもない。

 空洞を利用した星だし、空洞が惑星全部を覆っている訳ではないらしい。

 そうなれば人口なんてそんなもんだろう。

 

 でも地下に空洞があってそこに都市があるのかぁ・・・ガミ○ス本星かっ!

 戦闘艦一隻で天井都市ごと落っこちて壊滅するんですね!判ります!

 ・・・・・やめとこ、洒落にならねぇ。言霊がホントになったら困る。

 

 

 

 

 

 

 ヴルゴさんに頼み、リシテアに乗せてもらいナヴァラへと降りる。

 ナヴァラの表面は、なるほど大気が無いから月の表面そっくりだ。

 隕石が燃え尽きないで衝突するから、大地は所々クレーターだらけである。

 空気が無いから風化とかも遅いからだろう。まるっとそのまま残ってやがるぜ。

 

多分前の世界の月の表面も、こんな感じなんだろうなぁと思った。

 そしてナヴァラの景色を眺めている内にリシテアはステーションに入った。

 軌道エレベーターが人がいる星には大抵設置されているって結構凄いよな。

 

 んで、俺達は軌道エレベーターに付いているエレベーター。

 イメージ的には垂直のモノレールかな?それに乗ってナヴァラに降りる。

 ぼーっとしてたら何時の間にか地中に入っててビビったのは秘密だぜ。

 

 

「おお、開けた空間・・・・ってなんだありゃ?」

 

「どうしたユーリ?」

 

「おお、トスカ姐さん、いやね?ほらアソコ。壁になんか芋虫みたいなモンが一杯あるッス」

 

 

 俺が指差した先には、なにやら白っぽい楕円に近い建物・・・なのか?

何かが壁に張り付いているのが見えた。

 

 

「・・・・なんだろうね?私にも判らないよ」

 

「う~ん、そうだこういう時は――エルイット少尉かも~んッス!」

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャ――ごほん、何かよう?艦長」

 

 

 な、なぜ貴様がその言葉を知っている?!とジョジョ立ちしてみた。

 まぁソレは置いておいて、出オチなエルイット少尉に質問をぶつけてみる。

 

 

「ああ、あれかい?アレは農園なんだよ」

 

「農園?あそこ垂直の壁ッスよ?」

 

 

 俺が不思議そうな顔をすると、エルイット少尉は少し苦笑した。

 な、なんだよ、俺にだってしらねぇ事くらいあるだぜ?

 

 

「別に何処だろうとグラヴィティ・ウェルがあれば問題無いよ。あれは限られたスペースを有効活用する為に造られるバイオマスプラントなのさ」

 

 

 彼の説明によると、要はあの幾つもある芋虫みたいな建物は農園なんだそうな。

 地中故に日照には気をつけなくても良い為、こんな場所でも栽培しているんだそうで。

 でも此処で作られた野菜の8割がナヴァラの食卓を支えているんだってさ。

 パネェ・・・いやマジでスゲェな。色んな意味で。

 

 

***

 

 

 そんなビックリ地下世界も時間があれば散策したいところだがそうもいかない。

 一応軍に協力している身なので、このナヴァラにある軍基地に行かねばならないのだ。

 

 

「あ、なんかいい匂いがするッス!」

 

「はいはい、お仕事が先だよ。あとでね~」

 

 

 あう~、せっかくちらりと見かけたケバブっぽい食い物の店が遠ざかる~。

 なんか首根っこ掴まれて連れて来られたのは軍基地。

 ・・・・というか一見すると普通の会社のビルっぽいところ。

 

 

「あれ?地図だと此処で合っているんスよね?」

 

「うーん。ここはまぁ普通のネージリンス軍基地とは毛色がちがうからね」

 

「毛色が違う?」

 

 

 何のことだろうかとエルイット少尉に聞こうとした。

だがエルイットは入れば判ると言って先に行ってしまった。

 仕方ないので、俺やトスカ姐さんらも彼の後に続いて建物に入った。

 

 

――――そして彼の言った意味が判った。

 

 

「うわぁ、民間人だらけ・・・」

 

「これじゃあまるで普通の企業か何かって言われても信じちまうね」

 

 

 建物の中では沢山の民間人と思わしき人達がひしめいていたのだ。

 普通軍基地と名が付いていれば、居るのは例外を除き軍人だと思うんだけど・・・。

 

 

「ああ、ココは元々アルカンシェル計画用の施設なんだよ」

 

「アルカンシェル計画?」

 

 

 聞き慣れない単語を聞いて首を傾げる俺ら。

 それを見たエルイットは苦笑しながらも話を続けた。

 

 

「一番規模が大きい施設だったからね。それを今は軍事基地として一部使わせてもらってるんだよ」

 

「そのアルカンシェル計画ってのは―――」

 

 

 トスカ姐さんがエルイットに気いなれない単語の事について聞こうとしたその時。

 

 

「アルカンシェル計画、ナヴァラの二重恒星を利用した。大規模恒星光発電計画の事よ」

 

「ん?誰ッスか?」

 

 

 何やら見かけない女性(ヒト)が会話に入りこんできた。

 その女性は俺達に一瞥をくれただけで、すぐに視線をエルイットに向ける。

 

 

「久しぶりね。エルイット」

 

「ミューラ!ミューラ・タリエイジじゃないか!」

 

 

 どうやらエルイット少尉の知り合いだったらしい。

 彼の顔が知り合いに会えたことで喜色に染まるが、すぐに怪訝な顔に変わった。

 

 

「あれ?でも君は艦隊勤めだった筈じゃ・・・」

 

「管制官として、アルカンシェル計画のチームに引き抜かれたの。

私もフネに乗っているよりこっちの方が相性いいみたい」

 

「そっかぁ。でも久しぶりに君に会えてうれしいよ」

 

「そう?お世辞でも嬉しいわ」

 

 

 なにやら昔話を始めそうな勢いだ。ちょいとわりこませてもらうぜぇ。

 

 

「あのう、エルイット少尉。こちらの方は?」

 

「ああ。君たちにも紹介しておくね。ミューラとは昔、同じ部署でエンジニアとして働いていたんだ」

 

 

 なるほど、昔の同僚って訳だ。

 

 

「とりあえず。此処での貴方達の対応も私がやる事になってるから、よろしく」

 

「ああ、よろしくお願いします」

 

 

 握手・・・って雰囲気じゃないので俺は自重したぜ。

 知ってるか?握手を無視されると結構傷付くんだぜ?

 だから出さぬ。そういう雰囲気でも無いから。

 

 

「え?でも今の君はプロジェクトチームの・・・」

 

「ここは基本的に只の植民惑星だし、戦略的価値の低い星。だから私たちが兼任してるってワケ」

 

「なるほどねぇ。ドコも人手不足は同じってワケッスね」

 

 

 ウチも万年人手不足だしなぁ。

そろそろケセイヤ達マッドに金渡して人造人間でも――。

・・・・案外いけるかも。

 

 

「さて、昔話はこの辺にしておきましょう。では皆さんにこの宙域での任務を説明します」

 

 

 おっと、どうやらこの宙域で俺達にやってほしいことを教えてくれるらしい。

 カクカクシカジカ四角いムーブってな感じで説明されたのはこんな感じ。

 

 

・敵戦力を削ること

・只一つ条件があって、撃破するのはドーゴ級かゾーマ級の戦艦クラスになる。

・敵はCL665の周辺宙域に敵支隊が遊撃隊として確認されている

・最低3隻以上沈めること、ソレ以下は認めねぇ。

 

 

 と、言うことらしい。

 撃退とは簡単に言ってくれるが、カルバライヤの戦艦が相手か。

 何気に戦艦クラスとなるとカルバライヤのフネを相手にするのは面倒だ。

 連中のフネはディゴマ装甲と呼ばれる複合装甲で覆われいる。

 だから微妙に頑丈なのだ。飽く迄もウチと比較したら微妙だけど。

 

 

「撃破、ねぇ?」

 

「すみません。参謀本部からの指示ですので・・・」

 

 

 申し訳なさそうにしているミューラさんに、仕方が無いと返した。

 実際3隻は飽く迄ノルマで、本当はもっと沈めて欲しいのが本音だろうなぁ。

 特にウチは図体デカイから目立つ。戦闘中はステルス解除するしな。

 ああ、沢山群がってきそうだぜ。

 

 

「それとカルバライヤ側が大海賊シルグファーンを雇ったという情報が入っています。注意してください」

 

「シルグファーン!?」

 

「知ってるんスか!?ライデ・・・トスカさん?」

 

「ライデ?――ああ、ランキングにも載っているだろう?

上位ランカーで正当派の海賊だ。厄介な相手だよ」

 

「うわっ、面倒臭そうッスねぇ~」

 

 

 はて?シルグファーンだって?ランキング上位のランカー?

はて、以前何処かで聞いた事がある様な無い様な・・・?

 ・・・・思い出せん。ま、思い出せないなら特に重大でも無いか。

 

 

「はい、そう聞いてます。くれぐれもお気をつけて」

 

「了解、我等白鯨艦隊。すぐに準備にかかる」

 

 

 さーてさて、命令書は貰ったし、人仕事してこようかねぇ。

 ま、その前にしっかり準備しないとな。

 戦争中は何が起きるか判らねぇんだから、しっかり準備しねぇと。

 

 

***

 

 

 さて、指示を受けて敵艦を狩ることを目的に航海に出た俺達。

アレから一週間、なんと既に2隻の敵戦艦を撃破し悠々と航海を続けている。

 戦艦と言っても大抵一艦隊に1隻しかいないので、こちらとしては楽だったがな。

 

それと航海の途中で無人艦隊の艦隊数が更に増えたというのも大きい。

普通の艦隊戦が可能となり、デメテールは隠れていても大丈夫になったのだ。

ちなみに現在の陣容としてはこんな感じ。

 

 

・ネビュラス/DC級戦艦

旗艦『リシテア』ニ番艦『カルポ』三番艦『テミスト』四番艦『カレ』

 

・マハムント/DC級巡洋艦

一番艦『レダ』ニ番艦『ヒマリア』三番艦『エララ』四番艦『ヘルセ』

 

・バーゼル/AS級無人駆逐艦

一番艦『パシテー』二番艦『カルデネ』三番艦『アーケ』

四番艦『イソノエ』五番艦『エリノメ』六番艦『アイトネ』

 

 

―――以上14隻が竣工された。 

 

流石にジャンクやその他は売り払っていた。

だが、利用できる部品は大抵の場合全部かっぱらったからな。

 

なんとか艦隊として恥じない程度な規模になれたと思う。

流石にコレ以上は修理材にとっておきたいという考えから造る予定は無い。

 

デメテールの艦内ドッグには1000m級なら詰めてやれば30隻は収められるけどな。

まぁしばらくはこの感じで行くということだ。多すぎても整備大変だしね。

 

 

「艦長、センサーに感あり。敵艦隊を捉えました」

 

「戦艦は?」

 

「インフラトン粒子排出量からして、恐らく最低3隻はいるかと」

 

「3隻っスか。まぁまぁの規模ッスね」

 

 

 まぁ粒子排出量が多いからと言って、ソレが必ずしも戦艦であるとは限らない。

 例えばカルバライヤだと輸送艦として使われているビヤット級。

 コイツは大きさが1200mもある大型艦で、当然粒子排出量がデカイ。

 古いタイプの機関を積んでいると、粒子排出量が多くなるので誤認しやすくなる。

 その逆も然りだ。高性能な機関を詰んだ戦艦なら巡洋艦と間違える場合もある。

 ならどうするのか?それは実に簡単なことである。

 

 

「長距離偵察機を飛ばすッス。敵の詳細なデータを見て、戦艦がいれば襲うッス」

 

 

 とりあえず確認すりゃいいんだぜ。

 現在の距離からは詳しく解らなくても、偵察機でも飛ばせばすぐにデータは来る。

 それを解析すれば敵の全容くらい掴めるってモンだ。

 ま、ビヤット級ならビヤット級で補給物資を満載しているだろうしな。

 偽装戦艦でないなら鹵獲して中身をまるっと頂いてしまおう。

 

 

「申し訳ないのですが、現在長距離偵察機は全てC整備の真っ最中で出せる機体がありません」

 

「へぅっ!?全部何スか!?一機も無し?!」

 

「はい、ここしばらく長距離偵察機は使いっぱなしでいい加減分解整備が必要だったらしいので、現在パーツ単位にバラバラにされているみたいです。今から急いで組み立てても整備に時間が掛る為、およそ8時間はかかります」

 

「あ~う~・・・」

 

 

 あちゃ~、そらまた運が悪い。

 まぁ長距離偵察RV-0は使い勝手が良かったから、ココ最近多用しすぎたらしい。

 う~ん、まぁ一応ステルスモードあるし、こっそり近づけば大丈夫か?

 

 

「何を悩んでるんだい。せっかく獲物が来たんだ。とっとと狩りに行くよ」

 

「いや、だってキチンと調べてからでないと――」

 

 

 俺がそう慎重な意見を言ったところ、トスカ姐さんが溜息を吐いた。

どうやら弱気になっていると受け取られたらしい。

 

 

「大丈夫だろう。敵の質や数を見てもウチらの方が圧倒的さ。多少無理しても問題無いよ」

 

「そらまぁ、そう何スけどね」

 

 

 相手の数は現在判っているだけでおよそ5~7隻。

 数が安定しないのは超長距離だからセンサーの精度が安定しないから。

 だけど多くても7隻だ。現在デメテールを含めて15隻いるウチと比べたら・・・。

 

 

「・・・確かに、多少の無理は出来るかも」

 

「それじゃきまり。最後の獲物を狩りに行こうじゃないさ」

 

「そっスね。それじゃリーフ。航路設定よろッス」

 

「アイサーだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――艦内時間で3時間が経過した。

 

デメテールは敵艦隊をはっきりと確認出来る位置にまで接近していた。

 と言ってもこちらはステルス全開である意味宇宙空間に溶け込んでいる。

向うがよっぽど近づかないと気付けない為ある意味こっちは忍者だろう。

 この世界にブロンディストがいれば『流石にんじゃきたない』とかこぼしてたかもな。

 

 

「敵艦隊を補足、モニターに出します」

 

 

 ミドリさんがコンソールを使い外の様子をモニターに映す。

 映っていたのは案の定ビヤット級が2隻と巡洋艦多数、ソレと―――

 

 

「アンノウン?未確認の新型かい?」

 

「恐らくは、試験航海でしょうか?」

 

「いや、こんな前線で試験航海も何もないだろう。こりゃ何かあるね」

 

 

―――未確認の新型戦艦が一隻、艦隊の中央に布陣していた。

 

 これまた鋭角なシルエットでバルパスバウの部分が衝角の様に突き出ている。

 その衝角のすぐ脇には片側3本、計6本のブレードが天頂方面を向いて伸びていた。

 何のブレードだか判らないが、新装備の可能性があり油断できない。

 序でに何やら砲塔がレールの上に置かれている。

 恐らくリニアレールの上を砲塔がスライド移動するのだろう。

 上手く使えば少ない砲塔で命中率や射界をコントロールできる。

 そして既存のデータには無い・・・新型艦だよなぁ。

 

 

「ま、輸送艦もいるんだ。叩かない手は無いね」

 

「そうッスね。総員第一種戦闘準備。本艦はステルスモードで待機、ヴルゴ艦隊の発進を急がせるッス。それと周辺の警戒を厳にせよ」

 

「「「アイサー」」」

 

 

 さて、デメテールからヴルゴ司令の無人艦隊を出撃させた。

 当然ながら向うは唐突に現れた艦隊にパニックを起してしまう。

 こっちとしてはそれで好都合なので、そのまま計14隻の艦隊を展開させた。

 

 

「敵新型艦、前に出る様です。他の護衛艦2隻も同様」

 

「ま、輸送艦は艦隊戦じゃ盾にもならないしね。下がらせるのはセオリーさ」

 

 

 輸送艦はペイロードが大きく機関部が強力であることが多い。

 だがその半面、ペイロードを多くする為に武装や装甲は犠牲となっている。

 ビヤット級もその例外に漏れず、武装は隕石破壊用小型レーザー砲のみ。

 装甲もカルバライヤ直伝のディゴマ装甲ではあるが、戦艦等に比べたら紙みたいなものだ。

 

 

「ヴルゴ艦隊、敵艦を射程距離に捉えました」

 

「ガトリングレーザーキャノンで牽制しつつホールドキャノンで狙い撃たせるッス。ビヤット級は絶対に拿捕、新造艦も一応航行不能程度で、後はヴルゴ司令の判断に任せるッス」

 

「了解、そう通達します」

 

 

 ヴルゴ艦隊は敵艦隊から一定の距離を置いて正面に展開した。

 ずらりと横に並んだ鶴翼の陣形と言えば判りやすいだろうか?

 コレの利点は狭撃を行いやすい上、弾幕を張ればまず近寄れない。

 大口をあけて待ち構えるケモノの顎門(あぎと)に入るバカはいないのだ。

 

 

「敵艦隊、間もなく駆逐艦隊と接触します」

 

 

 だが宇宙空間において進み始めた物体が転身を行うのは非常に難しい。

 宇宙ではその空間に留まるという現象は無く、全て相対速度で表される。

 つまり、止まっているように見えてソレは常に動いていると言うことなのだ。

 だから戦艦クラスの大質量をもった物体がすぐその場で転回出来ないのも仕方が無い。

 無理やりやればできるだろうが、少なくても既にセンサーの範囲内に敵がいる。

 そんな中で転回するのは敵に横っ腹を曝す為自殺行為と言っても良いのだ。

 だから大抵は一定の距離を保ち、徐々に減速し然る後に後退する。

そして安全圏まで下がってから転回するのがセオリーなのである。

 

 

「敵艦後退を開始、ヴルゴ艦隊は追い詰める模様。各艦ホールドキャノンを発射」

 

 

 そしてリシテア以下カルポ、テミスト、カレが順次主砲を発射する。

 インフラトン粒子とプラズマが混ざった薄緑のビームが24条発射された。

 完全にオーバーキルの攻撃を受けた護衛艦二隻は跡形も無く大破していく。

 新型戦艦はバイタルエリアに直撃を与えはしなかったが武装は全てホールドキャノンの薄緑色のビームに抉り取られており、爆散する一歩手前まで追い込んである。

 

 結構制圧を急いだのは、何気に新型艦も大型特装砲を装備していたらしく。

 戦闘の最中に何度かインフラトン粒子反応が増大していたからだった。

 まぁ不自然な程通常艤装が少ない為、回りこんでしまえば問題無いのだが。

 

 また、どうやら新型だけはあり強力なデフレクターユニットを搭載していたらしく、ヴルゴ艦隊の放つ攻撃の内、ガトリングレーザー砲の弾幕が逸らされていた。

 ガトリングレーザーなだけはあり、14隻の集中砲火喰らったらデフレクターの許容限界を軽く超えたらしく、一斉射で船内から火を拭きだしていたけどな。

 そしてヴルゴ艦隊は逃げようとしているビヤット級を駆逐艦で取り囲み武装解除を要請。ビヤット級もソレに従い、逃げることを諦めた為輸送船2隻を拿捕する事に成功したのであった。

 

 

「ビヤット級降伏しました。現在戦闘ドロイドを中心に制圧を急がせています」

 

「中身は全部頂くんだね?」

 

「もちろんさぁ☆」

 

「・・・殴っていいかい?」

 

「いや、すんません。上手くいったモンで調子に乗ってました」

 

 

 思わず教祖様を肖ろうとしたのがダメだったポイ。

 とにかく、こっちの巡洋艦が鹵獲した輸送艦に接舷して制圧させる。

 輸送艦はそれ程人員がいる訳でも無いので案外すぐに片が付く。

 そう思っていた時期が僕にもありました。

 

 そう、上が降伏を受諾しても血気盛んな下っ端が言うことを聞かない事がある。

 この鹵獲した輸送艦の内の一隻にもそういう輩が乗りこんでいたらしい。

 貨物室の一室に銃器を持って立てこもっているんだそうな。

 正直それで被害が出るのもメンドイので、他の抵抗が無い所から順に制圧。

 立てこもっているとこは除き、貨物室から貨物を運びだして行く。

 

 要は相手にするからウザいのであって、別にこっちは相手にし無くても良いのだ。

態々立てこもってくれるならそのまま放置して他の事をした方が良い。

 立てこもっている所に戦闘ドロイドを3~4体おいておけば出て来ないしな。

 ・・・・いや、流石に立てこもっている貨物室を外からぶっ壊すはしませんよ?

 

 

「ユピ、現在の進行状況は?」

 

「貨物に関しては元からパッケージされてましたので、後2~30分で作業が終わります。新造艦だと思われるアンノウンに関しては今の所手をつけていませんが・・・」

 

「それで良いッスよ。今はまだ手をつけなくても良いッス。とりあえず牽引して友軍の防衛ラインの内側に入ってから調べりゃいいんスからね。此処は前線だから止まってたら怖くてしょうがない」

 

「クス、そうですね」

 

 

 とはいえ、ほぼこの宙域は制圧が完了したと言える。

 まぁあの新造艦が何かの試作艦なら、もしかしたら増援が来るかもしれない。

 敵に新技術を渡す程、流石にカルバライヤも墜ちてはいないだろう。

 問題は何であのアンノウン艦がこんな所を通っていたかだ。

 試験航海なら前線では無くもっと後方でやるものだろう。

 トスカ姐さんの言う通り、何処かキナ臭いぜ。

 

 

「――ッ!艦長、新たな反応を確認。恐らく敵の増援だと思われます」

 

「各艦迎撃準備、本艦も不測の事態に備えて主砲にエネルギーをチャージしておけッス」

 

「アイサー」

 

 

 おっとちんたらしてた所為で増援が来ちまったぜ。

 一応まだこちらは疲弊してはいないから応戦可能だろうと俺は思った。

 

 

「増援の艦隊の識別は?」

 

「それが、妙に早いフネが・・・これもデータにはありません。ソレと―――」

 

 

 ミドリさんが少しためらうかのような顔をしている。

 珍しい事もあるもんだと思いつつどうしたと訪ねた。

 

 

「もう一隻識別不可の艦の後に続いてきた後続艦に、バゼルナイツ級の反応があります」

 

「おやまぁ、随分といいフネを持っている敵もいるもんスねぇ」

 

 

 アレは突出した性能は持たないが、小マゼランでは十分に強力なフネだ。

 どうやって手似れたんだろうかねぇ。

 

 

「いえ、それが・・・そのバゼルナイツ級の識別は―――アバリスの物なんです」

 

「・・・・へぅっ!?」

 

 

 驚きのあまり思わず変な声で応対してしまった。

 な、なんでアバリスがカルバライヤの連中と行動してるんだ!?

 

 

「アバリスに通信を―――」

 

「それが、無線封鎖しているらしく、通信がつながりません」

 

 

ソレは困った。あの時別れた仲間かもしれないのに連絡が取れないなんて・・・。

もし、あれが本当にアバリスだとして、クルー達は全員いるんだろうか?

実は売りに出されていて、ソレをカルバライヤが買い取っただけなら笑えるぜ。

 

 

『そこのフネ聞こえるか?私は海賊シルグファーンだ』

 

 

Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)イ、イキナリナンダー!?

 

 

「敵艦から強引に全周波数帯での通信です。ヴルゴ艦隊との通信回線に割りこまれました」

 

 

 お、驚いた。いきなりどすの利いたおっさんの声がブリッジに響いたからな。

 ビビりでチキンな俺を舐めるんじゃねぇぞ!

 お化け屋敷に行ったら確実に泣きだせる自信があるぜ!

 

 

『ゆえあってカルバライヤに味方している。そこの艦長の名を聞こう』

 

「あー、此方ネージリンス遊撃艦隊のユーリだ」

 

 

 とりあえず通信を繋げると、モニターには金の長髪と鳩尾にまで伸ばした顎髭が特徴的なダンディーなおじ様が映る。

 お、おお・・・マントまで付けちゃって、“これぞ海賊”っていう見本みたいな人だな。

 ヴァランタイン程じゃないけど、気迫もスゲェや。

 

 

『ほう、お前が艦長か。気の毒だがその艦隊、沈めさせてもらう!』

 

「一つ聞きたいっス。あんたらに随伴しているそのフネは――」

 

『彼らは随伴している訳ではない。だがあの白鯨艦隊の者たちだ。かなり手ごわい事だろう。さて、おしゃべりはココまでだ!武人らしく戦おうではないか!』

 

「え!ちょっちょっと!―――」

 

「回線強制解除されました」

 

 

・・・・やっぱりこの世界の人間って人の話聞かないよ!汚い!

 くっそー、見ればアバリスもやる気満々じゃねぇか。

 フネが変わって識別コードも変えちまったから判らないのか。

 通信入れたくても無線封鎖してて一切回線が開けねぇしどうするよ?

 

 

「アンノウン艦、アバリス、発砲。駆逐艦カルデネに着弾、損害小破」

 

「ちっ、こうなったらブッ倒して話を聞かせてやるッス!」

 

「OHANASHI☆ですね!判ります!」

 

「仕方ないねぇ、各艦戦闘準備!ヴルゴ司令!アンノウンはやっちまって良いが、もう一隻はげきちんするんじゃないよ。航行不能にとどめるんだ」

 

『了解した。ヴルゴ艦隊前に出るぞ!』

 

 

 数奇な運命とでも言うのか、はたまたスゲェ偶然と言うのか。

 せっかく再開したと思った仲間から撃たれるとはねぇ~。

 ま、別れた時とは規模もフネの種類も全然違うからな。

 

 とりあえず、ヴルゴ艦隊と連中とが衝突する。

 下手に姿見せると逃げそうだから、俺達は隠れたままにして様子を見る事にしたのだった。

 

 


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