Sideユーリ
さて、こうしてナヴァラから発進した俺達は一路衛星モアへと向かった。
だが作戦本部からの出撃命令がこちらへと届くのが遅すぎたらしい。
俺達がモアに着くと、既に敵艦隊がモアに取りついている状況であった。
「敵艦隊を確認しました。進路上に24隻封鎖線を引いている模様、内8隻はあの新型艦と思われます」
しかも敵の数は凄まじく多かった。
おぼろげに思いだせる原作知識では正確な数は不明だったが、流石にこれ程の艦隊はいなかった筈である。
恐らく白鯨艦隊が大暴れしたから、此方へと向けられる艦隊の量が増えたのだ。
敵側の補給物資奪ったりとやりたい放題だった訳だしなぁ。警戒されたのだろう。
少なくても戦略拠点から離れた宙域に送りこむ数じゃないよコレ?というか大艦隊?
俺はすぐさまヴルゴの無人艦隊を発進させるよう指示を出した。
ちなみにアバリスは損傷がひどくてお休みである。
さて幸いなことに現在デメテールはちょうど敵艦隊から見て天頂方面にいる位置にいた。
今回はココから一気に突撃して敵の中心を突っ切って混乱させるのである。
基本的に前面に砲門が集中しやすいこの世界の艦船の設計上、上からの奇襲は結構有効なのだ。
とはいえ、それは飽く迄艦載機やそれらの様な小さなフネの場合である。
デメテールクラスになると、どうしても機動性に難が出てしまう。
それに幾ら優秀なステルス処理を施してあっても、超質量の物体が移動する以上、それに伴って起るであろう重力変調や空間の歪みは完全には消せないし誤魔化せない。
ある程度は誤魔化せるのだろうが、やはり近づけばセンサーに違和感を覚えて気がつかれてしまうだろう。
だがそれでも、ある程度まで近づけることに変わりは無い。
敵が感知出来ると思われるギリギリの距離をこれまでの戦闘で把握しているので、ギリギリまで近づいたところで一気に無人艦隊を展開した。
そしてカルバライヤ軍の艦隊も無能では無いのか“警戒”はしていたのだろう。
それともこれまでの経験からか今までの様に動揺して動きを乱す艦は少なかった。
すぐに転回行動とそれと同時に対艦ミサイルを天頂方面へと向けて射出したのである。
牽制のつもりらしかったが、実際牽制になっているのだから質が悪い。
まぁ俺が指示を出すまでも無くヴルゴが艦隊を動かして弾幕を張り、ミサイルの殆どを叩き落したので、ラッキーヒットを喰らった巡洋艦以外は目立った損傷は見られない。
そうこうしている間にも場面は動き、ヴルゴ司令が率いる計14隻の艦隊は発進してすぐに敵艦隊を射程に捉えられた。
デメテール及び、無人艦隊旗艦『リシテア』ニ番艦『カルポ』三番艦『テミスト』四番艦『カレ』からなる戦艦が前に出た。
敵艦隊もあの新造艦を前に出すと強力な重力場によるシールドを展開していた。
なるほど、流石は戦艦クラスのジェネレーター出力を全てデフレクターに回したダケはある。
あのヴァランタインのフネであるグランヘイムに搭載されていたピンポイントバリアー(仮)ほど強力ではないが、通常艦船の武装ならばほぼ防げる程だ。
だが、残念ながら特殊な装備は其方だけの専売特許ではない。
遺跡船に搭載されていた未知のシステムを模倣して建造されたホールドキャノン。
デメテールや無人艦隊の戦艦にはこの砲撃システムが実装されているのである。
また俺はあずかり知らぬのだが、合流したマッドと科学班が一丸となってフネの開発を行う為、時間がたてばたつほど武装が改良されていくのである。
そこらに掛ける予算に上限を設けなかった成果であると言えるだろう。
お陰で色んな意味で俺や会計課を苦しめているがソレ位の価値はある。
まぁ趣味に走る某マッドには給料から天引きしているけどな。
ソレは兎も角、戦艦に搭載された貫通力の高いホールドキャノンが一斉射され、敵艦隊の新造艦が張ったデフレクターを貫通して新造艦を撃沈せしめた。
その途端、唐突に敵の陣容が崩壊してしまう。
どうやらカルバライヤ軍は新造艦のデフレクターの防御力に絶対の信頼を置いていたらしい。
そりゃ確かにあの規格外な程の出力で運転すればそう思いたくもなるだろう。
だが悲しいことにこちらも特殊と言えば特殊なのだ。
むしろ特殊さで言えば此方の方が勝っているのだから勝負にならない。
そんな訳でその隙をついて俺達は混乱した敵艦隊の間をすり抜けた。
駆逐艦達の両舷に装備された収納式ガトリングレーザー砲列もすれ違いざまに遺憾なくその性能を発揮していく。
至近距離で大量の弾幕を浴びせかけられた敵艦隊は、口径の小ささ故に撃沈には至らなかったが、それでも航行不能に陥ったことは明白であった。
ここで相手には残念なお知らせだが、フネというのは大きくなればなるほど急には止まれない。
味方の戦列艦は上手いことスキマを縫って回避していたが、ことデメテールはその大きさゆえに、進路上に展開していた何隻かの敵艦を撥ねてしまったのである。
まぁデフレクターに負荷が掛ったが、対艦ミサイルを喰らうほどじゃないので問題無い。
そしてそのまま白鯨艦隊は敵前哨艦隊の封鎖線を突破してモアに到達した。
この調子で衛星モア周辺の敵を片付けようと動いていたのだが―――
≪ドドドドドドドドドドドドドドド――――≫
「うわっ、JoJo・・・じゃなくて振動?!」
突然艦内を揺らす程の振動が起こった。
通常宇宙空間において、こういった風にフネが振動することはあり得ない。
理由として考えられるのは超巨大恒星からのフレアか重力変調だと考えられる。
そしてこれは“フネ自体”が揺れているという感じである。
ということは、これは空間ごと作用する重力変調が起こっているということだ。
「これは・・・ミューズ重力制御を!」
トスカ姐さんが咄嗟に重力制御を担当しているミューズに指示を下した。
ミューズ自身、艦内の重力異常を探知していた為、すぐにコンソールを使い重力井戸を操作していく。
しばらくして艦内の振動が収まっていった。それにしても何があったんだ?
そう思っていると、ユピが何かを探知したと報告してきた。
「前方の衛星モアの表面付近の映像を出します。メインパネルチェンジ」
「こ、コイツは一体?!」
メインモニターに映し出されていた光景は驚愕に値するモノだった。
衛星モアに見ただけで10隻以上のバウーク級戦艦が取りついているのである。
ソレだけなら只単に衛星を制圧しただけに見えたのだが、それ以外のモノが映像に映り込み、事態を余計に複雑化させていた。
「ユピ!ジェロウ教授を呼び出せっ!大至急だ!」
「は、はいぃ!」
トスカ姐さんがユピをせっついて研究室にいる教授を呼び出した。
外の映像は艦内に流されている為、事態を把握していた教授はすぐさま推論を述べてくれた。
『あれは・・・うむ、さっきの振動は強力なデフレクターによる重力波だネ』
「何だと・・・。教授っ!ということはまさか目の前の敵の目的は!?」
『サナダクンが考えているのは概ね当たっていると思うよ。ユピ、モアの軌道計算をしてみなさい』
ある事実に辿りついたのだろうか。サナダさんが大声を上げていた。
ある意味で珍しい光景であったが、緊急事態に近い為それどころでは無い。
教授も非常に冷静に淡々とした口調でサナダさんの言葉を肯定した。
「へひ!?あ、ハイ!・・・出ました。えーと、強力な重力波によってモアの軌道が惑星ナヴァラのすぐ横を通過します」
何だ、ぶつけるんじゃないのかと思ったそこのあなた!そら大間違いだぜ?
詳しいことはウィキ見ろって話だが、自身の重力のみで形を保っている星の場合、ある程度まで近づくとお互いの潮汐力が干渉し合うのである。
またソレはある限界点を突破した途端、その星の両方か片方を破壊してしまうのだ。
そのことをロシュの限界と呼ぶのである。
つまりこのままモアが軌道を外れてナヴァラに近づいて行くと―――
『ロシュの限界を越えた途端、ナヴァラより質量の小さなモアは崩壊し、その破片が降り注いで壊滅的な被害となるだろうネ。幾ら地下都市でも衛星一個分の破片は荷が重すぎるヨ』
―――と、こうなる訳である。岩盤の雨が降る訳だ。しかも問題はそれだけでは無い。
「ソレだけではありません。もし衛星が破壊されればケスラー・シンドロームが発生します」
「そんな事になれば、ネージリンスの食糧事情を支える星が使いモノにならなくなるってワケか・・・どうするユーリ?見捨てるのかい?それともなんとか阻止するのかい?あんたが私らの頭なんだ。あんたが決めな」
「・・・」
展開早くね?こちとら今、戦場に到達したところなのに・・・。
外を見れば二本のブレードが触角に見えるバウーク級戦艦が巨大な重力球を作り出している。
あの重力球を用いて星の持つ重力と反発させることで、ビリヤードの如く押し出す腹なのだろう。
つーか、重力球自体が兵器として転用可能じゃね?重力波砲とかあるしな。
だがこうして俺が判断を決めかねていても、時間は待ってはくれない。
「新たな増援を確認。敵艦識別、ヴォイエ・バウーク級と確認。インフラトンパターンから照合・・・・・・確認完了。シルグファーンのフネです」
「ゲーッ!シルグファーン!?」
接近中の敵艦隊に大海賊シルグファーンがいることは、この間の戦闘とアバリスに残されたデータですぐにわかった。
ジェロウや科学班の出した予想が正しければ、もうすぐモアがナヴァラに向けて落される。
敵艦隊がモアをナヴァラに落すのだから、何としてでも敵艦隊を排除しないと此方への報酬が減ってしまうのでやらなければならない。
「モニターに拡大します」
OPのミドリさんがタタタンとコンソールを操作する。
するとサブモニターに接近してくるシルグファーンの艦隊のアップが映し出された。
・・・これはまた―――
「うわっ、めっちゃ多いッス」
見ただけでも10隻近くの艦隊が此方へと急行していた。
もちろんこの敵艦隊の旗艦はシルグファーンである。
そしてどの艦も改造が施され、オベリスクの様な巨大な柱を両舷に装備しているのである。
このオベリスクの様なモノは巨大なミサイルであると映像解析の結果には出ていた。
だがその解析結果が無くても、俺達にはこの艦隊の装備にはある意味で見覚えがあった。
「アレはクモの巣でみたグアッシュ海賊団の・・・」
「成程、確かにあれなら例え大マゼラン製のフネであっても効果的なダメージを与えられる。考えたな」
そう、オベリスクはグアッシュ海賊団が使用した巨大ミサイルだったのだ。
恐らくはカルバライヤがネージリンスと戦争状態に突入した際にこちらと同じく義勇軍を募集した為、大量のグアッシュ海賊団の残党が流れ込んだからだろう。
グアッシュ海賊団で使われていた独自の技術が拡散したのである。畑迷惑な。
「艦長、一応警告しておくがあのミサイルの弾頭が何であれあの質量だ。直撃を喰らえばデメテールでもタダでは済まんぞ」
「優先的に撃ち落とすか避けるしかないッスね」
幸い超長射程に届く主砲を持つフネがデメテールを含めて5隻いるのだ。
咥えてデメテール本体はレーザー等の熱光学兵器には凄まじいほどの耐性がある。
デフレクターもこの巨体に合わせて非常に堅牢だから並大抵のことでは落ちまい。
まぁ、機動性に難があるけど、それでもグロスター級よりチョイ低めの機動性だ。
大きさから考えると凄まじく驚異的であると言える。重力慣性制御万歳。
「ユーリ、輪形陣をとった方が良い。対空戦ではアレの方が対処しやすいからねぇ」
「そっスね。既にこちらの姿は完全に見つかってる訳だし、今更ステルスしても補足されてアボンッスね」
ステルスは確かに姿を隠せるが完全ではない。
移動する為には当然ながらエンジンを使っている訳でどんなに絞っても痕跡は残る。
また重力変調も極僅かであるが探知出来てしまうのだ。
超長距離ならまだしも、既に補足されていてはねぇ?
それに敵にしてみれば小天体に匹敵するほどの大きさのフネがいる訳だ。
当然、ネージリンスのフネだと思われてるしソレを逃がす手は無いだろう。
・・・あっ。
「ねぇこれって下手したら俺達がネージリンス軍の要塞とかに見られたりしないッスよね?」
「「「「「・・・・げっ!」」」」」
あちゃ~、気が付くのが遅かったが、もしそうなら敵がわんさか寄ってくるぞ。
迂闊に姿を晒すんじゃなかったな。ポカしちまったぜ。
「ふむ、なるほど。有り得ない話では無いな。敵は此方のことを何一つ知らない訳だしな。だがそれよりもだ艦長」
「何スかサナダさん?」
「敵はやる気満々の様だ。ミサイルが発射シーケンスに入っているらしい」
「それを早く言えッスーーーっ!!!!」
「すまない。今報告した」
思わずウガーと言いかけるがそれを遮るかのように敵から通信が届いた。
『貴様ら!あの時の艦隊だな!邪魔立てなどさせんぞ!』
鬼の形相とはこの事だろうか?通信に凄まじい剣幕をしたシルグファーンが映った。
そりゃヴァランタインと比べたら小さいと思えるが、それでも以前の俺が見たら通信越しで気絶できるレベルの気迫を放っている。
まさかヴァランタインとの接触の所為で、こういった気迫に対して変に耐性が付いているとは思わんかった。
「とはいってもこれはお仕事ッスからねぇ。大体天体を他の天体にぶつけるとか卑怯じゃね?」
0Gの持つアンリトゥンルールでも地上への攻撃は厳禁だっていう建前があるんだが。
だがそう言った俺をシルグファーンは侮蔑を込めた視線で見つめてきた。
『・・・その言葉、ネージリンス軍部や首相にそのまま返すがいい。地上の民を人質に敵を倒す刃を研ぐ、その卑劣さがこのような手を取らせたのだ!』
「それはどういうことだい?」
トスカ姐さんがそうシルグファーンに問いかけるが、彼はコレ以上の問答は不要と通信を一方的に閉じてしまった。
その所為でトスカ姐さんのどうするって視線が此方へと向けられる。
「・・・だれか、エルイット少尉から事情聞いて来て。それとヴルゴ艦隊に対空戦及び対艦戦準備って通達ッス」
どうにも流れが早くて止めることも出来そうにない。
エルイット少尉の件も一応思い出せたが断片的過ぎるので確認を兼ねていた。
俺が説明しても良いのだが、この時点で俺が知っているのはおかしい。
下手な行動もとれない為、結局の所原作の通りにエルイット少尉から事情を聞く羽目になるだろう。
―――だが、その前にだ!
「敵艦隊ミサイル発射。迎撃限界点まで後100秒」
「各艦輪形陣のまま対空戦用意ッス!HLは対空拡散モードへ!」
迫りくる巨大ミサイルの群をなんとかせねばならないぜ!
誰が逝った訳でもなく、唐突に切られた火ぶたはすぐに猛火の如き砲撃戦になった。
インフラトン粒子の蒼色で染まったビームやレールガンの砲弾が飛び交っていく。
戦火が煌めくさまは見事なのだが、その渦中にいると思うとやはり生きた心地がしない。
デメテールの装甲や耐久力は高いが、やはり怖さというのはあるのだ。
「敵大型ミサイル、迎撃可能ラインに接近中。FCSコンタクト、各砲同調させます」
「射撃諸元入力完了、それじゃほら来たポチ―――」
「―――!大型ミサイル分裂、多弾頭ミサイルです」
迎撃の為にストールが発射ボタンを押そうとした瞬間、大型ミサイルが突如分裂した。
ミサイルが分裂なんてのは大抵の場合多弾頭ミサイルなのである。
それならば分裂直後で固まっている今の内に撃ち落としてしまえば問題無い。
・・・そう思っていた時期が、ぼくにもありました。
「ミサイル更に分裂。これは、ミサイルキャリヤーだった模様」
「うぇっ!?」
「だー!また射撃諸元入れ直しかよ!」
分裂した弾頭が更に分裂したのである。
これは多弾頭ミサイルではなく、多数のポッドを搭載したミサイルキャリヤーだった。
見た目がグアッシュのとウリふたつの癖に、中身は違いますってか!コン畜生っ。
ミサイルが小さいと侮るなかれ、小さくても弾頭次第ではヤバいのだ。
量子弾頭とか光子弾頭だとか対消滅弾頭とかD(デフレクター)C(キャンセラー)弾頭とか―――
手元のコンピュータのデータだけでもこんなにあるんだぜ?
勿論そのどれもがこの世界ではとても高価だからあまり使われないらしい。
特にデフレクター搭載だと空間ごとダメージを与える量子弾頭以外はあまり効果的じゃない。
もっとも数百とか越えたら通常弾頭でも普通に脅威だけどな
「各砲座迎撃!VF隊も出撃させろッス!あのサイズなら撃ち落とせるッス!」
「了解、最終防衛ライン設定、そこに集中配備します」
VF-0隊が基本装備で出撃するが、あれだけの数を何処まで防げるか。
そりゃね?VFの原作が板野サーカスの本場だけあって迎撃機能はスゲェですよ?
飛んでるミサイルを補足さえすれば迎撃出来るんですから、再現率高ぇなおい。
それでも数が多すぎると迎撃漏れがでちゃうのも世の心理なんだよなぁ。
「各砲座迎撃、拡散ミサイルの3~4割の破壊確実。VF隊も迎撃宙域に突入2割を撃破。残存ミサイルの3割ほどが防衛ライン突破、最終防衛ラインまで60秒」
ほらね?
「チャフ、EP・EA効果無し、最終迎撃ライン突破。予想弾着点――」
ミドリさんが言い切る前に前哨の駆逐艦である『パシテー』『カルデネ』がミサイルの群に取り囲まれた。
弾幕を形成していたが、キャリアーから切り離されたミサイルが小さすぎたのである。
10あった大型ミサイルは、その腹に抱えた40の弾頭を放出し400になったのだ。
その400の弾頭もミサイルポッドであり、さらに大量のミサイルが発射される。
こうして数えるのも億劫になりそうな凄まじい量のミサイルが艦隊に迫ったのである。
こちらも遠距離からの迎撃を行ったが、最終的にその2割が迎撃ラインを突破された。
通常の駆逐艦ならば爆沈させられてもおかしくないミサイルの量に駆逐艦達が耐えきれるとは思えなかった。
次の瞬間、前衛駆逐艦のいた辺りは閃光に包まれた。
回避運動も意味を為さないほど大量のミサイルが無人駆逐艦に命中してしまったのである。
≪―――キュゴォォォォォン・・・≫
「駆逐艦パシテー、カルデネに直撃弾。損害把握中―――」
アレだけ大量の質量弾の直撃を喰らえば巡洋艦、いやさ戦艦ですら危ういかもしれない。
2隻撃沈かぁと冷静な部分で思考していたが、煙が晴れた途端驚きで声を漏らしていた。
なんと、まとわりつく爆炎と煙が消えると、そこには穴ぼこだらけながらなんとか自力航行しているパシテーとカルデネがいたのである。
どうやらパシテーとカルデネを制御するAIがミサイルが命中する直前に砲撃を止め。
そしてジェネレーターに残されたエネルギーの全てをスラスターとデフレクターにつぎ込んだらしい。
リーフの操艦データが反映され、人が乗っていない為無茶な機動が効く無人駆逐艦だったが故、あれだけのミサイルの雨の中直撃弾を減らせたのだろう。
そしてどうしても避けられない分はデフレクターで防御したのだ。
だがそれでも、艦首部に取り付けられていた連装大型ガトリングレーザー砲は見事に大破。
パシテーに至っては艦首部分が完全にもぎ取られてしまっている。
それに両艦とも6つある亜光速エンジンも2つを残して大破していた。
誘爆を避ける為、エンジン部分をオートでパージしているといった有り様だった。
デフレクターを展開するシールドプロジェクターからは煙が上がり、各所の装甲は歪んで火花を放っている。
よくもまぁこれだけ穴だらけにされて沈まなかったモノである。
動かしている準高度AIであるユピコピーはかなり優秀なのだろうか?
だがこれでは戦闘には参加できまい。仕方ないので駆逐艦を下げることにした。
「パシテーとカルデネを下げるッス。本艦に収容して修理を開始するッス。代わりに巡洋艦を前に出してくれッス」
敵の中には補給艦がいたらしく、次の攻撃の為にミサイルを補充しているらしい。
シルグファーンめ、アウトレンジからのミサイル攻撃とは意外と姑息な手を使いやがる。
まぁこれも戦術だろうし、今までステルスで敵を屠ってきた俺がいえた義理じゃないが。
「ホールドキャノン発射用意っ!ミサイルを撃たせない様に牽制するッス!」
この距離で届くのは特装砲を除けばホールドキャノンくらいである。
だが今はミサイルが今度は断続して発射され精密射撃が出来ない事態に追い込まれている。
なので牽制にやや標準を甘くして撃つくらいしかない。
そして向うの航法班や操縦者も優秀なのか、甘い照準の砲撃があたらないのだ。
ある意味でこう着状態であったが勝機はある。
ミサイルが実弾である以上、防ぎ続ければやがて弾薬は尽きる。
そうすればもっと近づいて精密射撃や弾幕を形成して圧倒出来るはずである。
今までよくも好き勝手撃ってくれたな、ミサイルの至近弾って結構怖いんだぞ!
敵をフルボッコにしてやることを妄想しつつ、今は我慢と耐えた。
―――だがその目論見はあえなく終える事となる。
「敵艦隊後方に更なる反応を確認」
「げっ!増援ッスか!?」
「光学映像で確認、識別・・・増援というよりかはミサイル補給艦の様です」
その報告には愕然とするしか無かった。
こちらは只でさえ大変な量のミサイルの波を防ぐのに精いっぱいなのである。
弾薬尽きればなんとかなると考えていたがどうにもそう簡単にはいかないらしい。
「艦長、今計算してみたが後数時間でモアはナヴァラへと落ちるぞ」
「へぇあ・・・」
サナダさんからの報告に思わず変な声を上げてしまった。
こっちは時間が無いというのに、アウトレンジからのミサイルを撃ちまくるシルグファーンにイライラする。
時間稼ぎが目的なのだとしたら、なんて考えられた戦術だろうか?
あわよくば撃沈出来ればいいし、それが不可能でもこっちはミサイル迎撃に手を咲かねばならない。
通常ミサイル攻撃はレーザー等に比べると初速の差から射程が短いことになっている。
だがあの巨大ミサイルキャリアーを用いれば話は別だ。
アレがあれば超長距離のアウトレンジからでもミサイル発射を可能に出来る。
それこそ艦隊一つを相手にするには十分すぎるくらいに・・・。
だがそれも―――
「データ解析完了。ミサイルの分散地点の割り出しに成功しました」
「反撃開始だぜ。艦長!」
こっちだって只やられていた訳じゃない。
向うのミサイルが分散されるタイミングを計測し、コツコツとデータを集めていたのだ。
また巡洋艦を前に出して対空防御をしている。
巡洋艦は駆逐艦に比べればシールド出力がかなり高いので、被弾こそしているが撃沈は免れていた。
そして俺達は更なる手札を切ることにする。
「ユピ、悪いッスけど“本体”に戻ってくれッス」
「判りました艦長。私はFCSの演算機能を上げる為、しばらく私は意識を本体へと集中させます。よろしいですか?」
「許可するッス。ボディはそこらのイスに座らせておくッスよ。・・・がんばれよユピ」
「はい、艦長もトスカさんも頑張ってください。それでは――」
ユピはそう言うとイスに腰掛けた状態で糸が切れかのように動かなくなる。
今まで多目的な方面に意識を割いていたユピが完全にフネの方に意識を集中させて、本来のコントロールユニットとしての能力を上昇させたのだ。
完全にデメテールそのモノと化したユピにより、慣性射撃やT.A.Cマニューバの反応速度が上昇していく。
「さぁウチの女神さまが頑張ってくれている間に敵を落すぞ!全艦最大戦速!」
「「「「了解っ!」」」」
『こちらヴルゴ艦隊、先行させてもらいます』
「うす、デメテールは後方から援護するッス。損傷艦は随時後退させてくれッス」
『了解しました』
さぁ、第2ラウンドのはじまりだZE!
Sideout
***
Side三人称
さて、ユーリ達が頑張って艦隊戦を行っていた時と同時刻―――
「パシテー・カルデネ両艦の接舷完了!修理作業開始します!」
「オラオラ!時間はまっちゃくれねぇんだ!ありったけのブロックモジュール持ってこい!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉッ!!」」」」」
艦内の造船所を兼ねた蜂の巣型修理ドッグでは男たちの咆哮がとどろいていた。
パシテーとカルデネが大破に限りなく近い状態で戻ってきたからである。
無人艦艇なので人的損失は無いことは行幸であったが、お陰で修理せねばならない。
まぁ幸いなことにアバリス改修作業を行っていた連中が揃っている為、徹夜や趣味に没頭した事で若干ハイになっている整備班達が急ピッチで修理を行っている。
駆逐艦なので大きさも小さかったことが修理を早く終わらせることに拍車をかけていた。
「そこー!バーゼルのエネルギーパイプはT-32型じゃなくてT-67型だろうが!マハムントと間違えんな!規格がチゲェだろ!」
「すいやせーんっ!!!」
「たく・・・ん?だれかライの奴しらねぇか?」
大声で駆逐艦修復の監督をしていたケセイヤが、アバリス改装の為に今の今まで一緒にいた筈の仲間の一人の姿が無いことに気が付き、近くにいた部下に聞いた。
収監惑星ザクロウにおいてリアと共に救出されたライは優秀なエンジニアでもある。
普段は彼女の尻にひかれている情けない男であるが、特定の分野・・・特に整備や開発等においては天才的な技能を発揮する男である。
天才肌故にある意味独特の思考回路を持つライは、マッド四天王に次ぐエンジニアでもあった。
「ライさんだかぁ?あの人だったら確か外の戦闘の様子見て“キター(・∀・)”とか叫んでどっか行っただよ」
三つ編みおさげの部下ちゃんはケセイヤの問いにそう応えていた。
つか、何気に一緒にいること多いなこの二人。
「なにー?また閃きでも来たってか?こんの忙しい時に・・・」
「班長だって時たまやるから人のこと言えねぇだ」
「・・・そうなの?」
部下ちゃんからの指摘に思わず聞き返すケセイヤ。
聞かれた部下ちゃんはうんうんと首を上下に振っている。
まぁケセイヤの暴走は今に始まった事では無いので、もはやおなじみである。
「んだ。あとライさん偶々来てたユディーンさんまで引っ張ってっただ」
「ユディーンをか?アイツなにするつもりなんだ?」
「オラがそんなこと知るわけないっぺ」
「・・・それもそっか。んじゃ作業に戻るか」
「んだな。早く終わらせてチェル姉ぇのごはん食べたいだ」
「お前好きだモンな。チェルシー嬢の飯。安心しろ既に出前は頼んである」
「それでこそ班長だべ!だから大好きだぁ!」
「はっは!褒めるな褒めるな!」
ごはんという単語に思いっきり反応して飛び跳ねる部下ちゃん。
彼女の頭に犬耳が見えて来そうな感じ、所謂わん子ってヤツだ。
ソレを微笑ましそうに眺めているケセイヤの姿は年上の兄貴に見えなくもない。
だが、それに納得出来ない輩もいるようで・・・
「「「「「ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるp・・・・・」」」」」
「いや、お前ら怖いからやめろよ・・・」
作業をしながらもケセイヤと部下ちゃんの様子を見ていたほかの整備員達が呪詛を上げていた。
それでも作業をやめない連中はプロだったが、瘴気を吐くその姿ですべて台無しだった。
一方、そのころライとユディーンは―――
「で?俺はなにすればいいんだぜ?」
「うん、このヘルメットをかぶって欲しいんだ。大丈夫、只単に脳波をスキャンするモノだから危険は無いよ」
「要するに被ればいいんだな?おっしまかせろい―――おお!?宇宙が見える!?」
「そとの映像をダイレクトに流せるんだ。さてとそれじゃそろそろ・・・」
「あん?なにすんだ?」
「うん、僕の研究と倉庫にあった機動兵器で面白いモノをね」
「へぇ、面白いものねぇ?」
「君の能力次第で結構決まるモノだから頼んだよ」
「そうなのかぁ?何か燃えてきたぜぇッ!!」
何やら薄暗い部屋でたくらみを実行に移していた。
そう、ライもまたマッドの一人であり、それゆえに――
「さぁ行くよ。こんなこともあろうかと用意しておいたんだ!」
―――この台詞が吐きたかった。ただそれだけでであった。
***
さて反撃を開始と大口を叩いたは良いが、実質攻めるに攻められない状況が続いていた。いやね、ユピが意識を集中させることで命中率回避率ともに飛躍的に上昇しましたよ?ほかにも指示出して策を巡らしたし、時間を稼げばなんとかなるとは思う。
今も飛来するミサイルキャリアーからミサイルが射出される前に撃ち落とせるくらいになってきた。これで敵艦隊に近づいて砲撃戦に持ち込めば、少なくても此方に軍配があがる。俺はそう思っていたのだが、そんなこと敵もお見通しだったりした。
「敵艦まであと8000――!敵艦隊全速で後退を始めました」
「ちょ!徹底して砲撃戦を避ける気っスか!?」
「キャリアー第5射目も射出、それと・・・機雷も感知」
「なんて奴らだい・・・砲撃戦に持ちこまれれば勝ち目は無いことを知っているんだ。どうするユーリ、相手は手ごわいよ」
「くっ、これが大海賊の実力ってヤツッスか」
甘かった。敵はあれで大海賊と呼ばれるほどの人間。
そして海賊と名がつくからには冷徹で非情で効果的な戦い方をしてもおかしくねぇ。
「ヴルゴ艦隊、砲撃開始。・・・エネルギーブレット、命中せず。射撃諸元修正データリンク中」
「ええい!あの機雷にゃジャミング装置でもくっ付いてんのか!?センサーがぶれて遠距離砲撃照準がやりずれぇ!」
「機雷の除去は!?ププロネン隊は何をしてるッス!」
「現在、ププロネン隊は飛来するミサイルの迎撃に当たっています。ですが人手が足りていません。機雷除去にまで回す人員は本艦隊には残されていないんです」
AIで駆動するVF隊も現在ミサイル迎撃に当たっているからな。
作業艇を出せれば機雷を撤去可能かもしれないが、それをすればミサイルとレーザー飛び交う戦場に鴨をネギつきで突き出すようなもんか・・・。
まぁ作業艇も無人機だから、人的損耗は出ないからいいが、その分お金がね。
「チッ、なら対空砲でなんとか撃ち落とすしか・・・次のミサイルまでは?」
「先程の第5射目は先行する巡洋艦が迎撃しました。次の発射まではおよそ180秒掛かるかと思われます。ですが、巡洋艦の損傷率が上がっています。これ以上の前進は危険です」
「・・・ギリギリまで踏ん張ってもらうッス。次のミサイルの迎撃を終え次第、巡洋艦は後退させてリシテア以外のカルポ、テミスト、カレを前に。アレの耐久力なら例え直撃を喰らってもなんとかなる筈ッス」
「しかし、艦隊の損耗率が・・・いえ、指示通りにします」
損耗率を気にしてたら戦いは勝てない・・・けど、もったいなぁぁぁぁい!!!
ああ、せっかく敵から分捕った40mm速射対空レーザーが、TASMミサイルポッドが、複合型レドームアンテナシステムが・・・宇宙のチリに・・・。
アレを取りつける為にどれだけの決算を俺がしたと―――!!
「ゆ、ゆるさん、ゆるさんぞ海賊ども。俺の仕事を増やしやがって、消し炭に変えてやろうか?」
「ユ、ユーリ、あんた目が怖くなってるよ」
「だってトスカさん、また仕事が増えちゃうんスよ!?只でさえ睡眠時間が削られてるってのに・・・マジでヤスリで削ったろっかな・・・」
「何を削る気だい!?」
そりゃナニを・・・おっとこれ以上は紳士な俺の口からは言えないねぇ。
とにかく、これ以上戦力の減少を防ぎたいので、まだ戦艦が持つ内に一気に突撃をかけるべきかと考え始めたその時だった。
「――?ユピ、あなた何かした?」
【いえ、ミドリさん、私はなにもしていませんよ】
「どうかしたのかい?」
突然オペレーターのミドリさんがユピに何かを尋ね、ユピはそれに知らないと応えていた。
何かあったのだろうかとトスカ姐さんが彼女に問うた。
「いえ、それが本艦の下部ハッチの幾つかが解放されまして」
「まさかハッキング攻撃かい!?」
【ソレはあり得ません。私が守っている999の防壁を突破した形跡は全くありません】
「まてまて、それじゃ何で下部ハッチが―――」
俺がそこまで言葉を発したその時である。
突然外部モニターに強烈なスラスターの光りが映りこんだ。
明滅するそれはIFFを発信しつつも人間では耐えられない様な加速で艦隊を抜けだし、前面に展開しているププロネン隊の横を通り抜けて、キリングフィールドへと飛び出したのである。
よく見るとその明滅する光の中には人型と思えるシルエットが垣間見えた。
どこか細身の女性を思わせるソレはインフラトン粒子を撒き散らしながら戦場を飛んでいる。
一体何が起きたのか判らない俺達が茫然としていると、全周波帯にわりこんだ通信が吠えた。
『ィィイーーーヤッホォォォォォォォォォッ!!!!』
ごく最近仲間となったあの元海賊のクルーの歓喜の声がブリッジにこだました。
その声の主はユディーン、あの元海賊のクルーである。
そして、デメテールから発進したその光の正体は、かつてウチで使用する艦載機のレセプションにおいて、AMSが無いことによる操作の難しさ。
それと搭乗者のことを考慮しない殺人的Gなどの様々な原因が加わり、倉庫で埃をかぶっていた筈の機体である帆歪徒・具凛兎・・・いや誤魔化すのはやめよう。
何故かマッドが何処からデムパを受信したのか作られてしまったこの世界には存在しえない機動兵器であるアーマード・コア、ネクストと呼ばれる最強の機体。
ACホワイトグリントとウリふたつの機動兵器が、暗い宇宙をVOBを装着した状態で駆け抜けていったのだ。
装備までは再現できなくて、専用のライフルとレールマシンガンを装備しているけどな。
それ以外はシルエット等ホントウリふたつと言っても良いだろう。
「な、まさかこの声は!?」
「・・・何してるんスか?ユディーンさん」
声だけで誰だかわかったのか、トスカ姐さんも吃驚して思わず語気を強めていた。
いや、マジでなにがどうなってんの?と俺は首を傾げるしか無かったのだった。
Sideout
***
Side三人称
衛星モアの軌道上で繰り広げられる激しい砲雷撃戦。
薄緑色の高出力プラズマビームをよけながら、超大型対艦ミサイルを発射できるように改造されたヴォイエ・バウーク級戦艦の艦橋に、胸元まで伸びきった立派な髭を蓄えた金髪の大男が立っていた。
金髪の大男、彼の名はシルグファーン・オッド。殺しを好まず輸送船のみを狙うことで有名な大海賊である。彼は腰元に付けているスークリフ・ブレードの柄に手をかけ、この艦隊戦を見守っていた。
「・・・衛星モアの軌道変更の進行具合はどうなっている?」
ふと、現在の作戦進行状況を知りたくなった彼はオペレーターに訪ねた。
部下は手元のコンソールを操り、必要な情報を集め統合していく。
「へい、現在フェイズ3まで進んでいやす。あと少しで完全に衝突するか、至近距離を通過するコースに突入するかと」
「そうか。地上の民には申し訳ないが、ココでカルバライヤを潰させる訳にはいかん。連中を通す訳にはいかんのだ」
「ウス。――大型対艦ミサイルの次弾装填完了。次弾発射」
――衛星とはいえ星一つを動かして、他の星へ衝突させるという計画、プランR。
態々ソレ専用のフネまで設計した程、長い時間構想された計画が始動した今、それを止める輩は何としても排除しなければならない。すでに賽は振られたのだ。中途半端に止めるくらいなら最初から地上を攻撃する様な計画に参加はしない。
0Gである彼らは地上へ攻撃するという行為は、禁止するという明確な法律がある訳ではないが、それでも0Gとしての矜持(ルール)がある。だが、それでもカルバライヤに助力する以上、しなければならない事としてその手を染めたのだ。
シルグファーンはじょじょに本来の軌道を逸れていく衛星モアをモニターで眺めつつ、現在ミサイルの連射でなんとか食い止めることに成功している敵艦隊を見た。
強制回線で垣間見た相手は、とても若い艦長だった。それこそ、どうやってあんなフネを任されているのか判らない位に若い。ただの若造であったなら、この計画は恙無く進行し問題無かったことだろう。卓越した艦隊指揮を行える人間でもないことは今までの指揮を見ただけで理解出来たからだ。
相手は自分の艦隊を大事にし過ぎている。彼奴等の目的が衛星モアの進行阻止にあるのなら、艦隊を分けて別動隊を衛星モアに展開している工作隊撃破に向かわせるべきなのである。だが、相手は義勇軍、悪く言えば雇われの艦隊でしか無いことが今回は幸運であった。
ソレによってシルグファーンは時間を稼ぐことが出来たのだ。相手がどんな犠牲を払ってでも目的を完遂する様な人間であったなら、この時間稼ぎは通用しえなかったことだろう。
そう、これは時間稼ぎなのだ。後方からの潤沢な支援の元、なんとか拮抗状態を保っているに過ぎない薄氷の上の作戦。空間を飽和させるかのようなミサイルにより、撃沈とまではいかなくても、敵艦の足を遅くさせる。
立ったソレだけの為にシルグファーンはここに展開しているのである。一分一秒でも長く、工作隊がその使命を終える為だけに、敵艦隊を足止めしているのだ。
元々未完成で渡されたヴォイエ・バウーク級であった事もこの作戦を可能にしている要因である。カルバライヤから支給された際、このフネはまだ完成には至っておらず、それゆえにある程度の強引なカスタマイズが可能であったのだ。
カスタマイズの内容はシンプルだ。元々カルバライヤに居た海賊集団であるグアッシュから得た巨大ミサイルの発射口を取りつけただけなのだ。
だがそのお陰で足止めに成功している。彼は恐らく衛星モアに駐屯していると確信していた敵艦隊、白鯨が絶対にこの作戦においてしゃしゃり出てくるということを予め予想し、その為だけにこのとてつもなく機動性を悪化させるであろうミサイルを搭載したのだ。
超長距離からのミサイル飽和攻撃による敵艦隊侵攻の封鎖。海賊であった頃なら絶対に出来ないコスト度外視の作戦なのである。それ故に失敗は許されない。
「敵艦隊、さらに増速。高エネルギー反応感知!回避機動及びデフレクター出力up!」
白鯨艦隊からのこれで何度目になるか分からない砲撃の予兆を感知し、回避行動に移りつつもデフレクターの出力を上げる。あの艦隊の戦艦が持つ主砲の威力は、常識の範疇を越えており、確実に回避したとしても余波だけでダメージが発生する事がある為だ。
そして一斉射された薄緑の粒子ビームがシルグファーンの艦隊を紙一重といった感じで通過していく。なんども避けているとはいえ、乗組員たちは安堵の息を吐いていた。
「ジャミング機雷もあるこの宙域で、そうそうあてられるものかよ」
そうシルグファーンは周りには聞こえない程度の声で漏らした。
この為だけにカルバライヤ軍と交渉し、態々試作品の高効率ジャミング場を形成できる装置を内蔵した特殊機雷を通常の機雷と混ぜてばら撒いたのだ。どんな高性能センサーでも、いやさ高性能だからこそこのジャミングは効果を発揮するのである。
命中すれば確実に大破してしまう攻撃もそうそう当たらない様にしてしまえば脅威ではない。当たらなければどうということは無いのだ。そう言った意味ではミサイル飽和攻撃は命中率だけは断トツで高い作戦であった。とはいえ敵は非常に優秀であり、徐々にその照準が正確なモノへと変わっているということも理解していた。このままではやがて直撃を喰らう艦が出てもおかしくは無い。
だが、作戦の為に障害となる敵艦隊を足止めをするという役目は十分に果たしたと言える。
「補給艦より連絡、大型ミサイルの残弾が3割を切りました」
「・・・潮時だな。大型拡散量子弾頭ミサイル準備!敵をダークマターにかえしてやれ」
ミサイルも物質を伴う兵装である以上、その展開には限界がある。
この侵攻作戦に合わせて不眠不休で工廠を使って増産させたが、大型ミサイルの残弾は既に乏しいモノとなってしまった。なので彼はこれまで使われなかった切り札とも呼べる大型の量子弾頭が搭載された大型拡散ミサイルの発射許可を出す。
艦載機が撃つ大きさのミサイルであっても、量子弾頭であるなら熱核を遥かに越えるほどの威力となるのだが、その運用の難しさから最後まで温存しておいた虎の子の一発だ。いや、ミサイルキャリアーに搭載された弾頭全てなので虎の子の万発だろうか?
兎に角、いまやシルグファーン艦隊の弾薬庫と化している大型輸送船のミサイルカーゴからクレーンが伸び、ヴォイエ・バウーク級の両舷に取り付けられた発射口へと量子弾頭ミサイルが装着される。
これを放てば、例え迎撃されようとも何割か到達した時点で、敵艦隊は壊滅的なダメージを受けることになるだろう。上手くやればそのまま殲滅出来るかもしれない。そう思うとシルグファーンの中の攻撃性因子が叫んだ。敵を殺せ、殲滅し蹂躙せよと。
思わず思考が熱くなりそうになった事を感じた彼は一度深呼吸を行いクールダウンを図った。冷静な思考が損なわれる事は命取りにつながることを、これまで培ってきた経験から学んでいる。
息を吐き終えた後、彼は真っ直ぐとモニター越しに敵艦隊を見据えた。
「量子弾頭ミサイル装填完了。本艦他各艦も準備完了でやす」
「これで終わりだ!量子弾頭ミサイル・・・発sy――『ィィイーーーヤッホォォォォォォォォォッ!!!!』――ッ!なんだ?!」
「敵艦隊からの広域通信・・・いえ、敵艦載機からの高出力広域通信です!」
発射命令を下そうとした矢先、突然の広域通信波によって入った叫び声に、彼は思わず発射ボタンから指を離してしまった。
「艦載機だと?あの可変戦闘機か?」
敵の艦隊は既存の艦載機では無いオリジナルの艦載機を所有していることを彼は知っていた。
VFと呼ばれるソレらはかつて戦列を共にしたトーロ達が使っていたと記憶している。
可変機故の圧倒的な機動性とトリッキーさがウリの艦載機だった筈だ。
だが、飽和攻撃を前に機動性の高い艦載機であってもあまり意味は無い筈である。
「いえ、それが――見たことが無い人型機動兵器ですぜ?」
「・・・新型機、か?何故今になって・・・」
シルグファーンは首を傾げていたが、同じ頃白鯨艦隊のユーリも首を傾げていた。
どうでもいい話だが何故かシンクロしていたのである。もっとも、ユーリの場合は何でまだあの機体が残っていたのかという所にあったのだが、そこら辺は割愛しておく。
兎に角、今すべきことは変化した状況の把握にあると彼は考え、一時ミサイルの発射を見送った。
とりあえず、量子弾頭ミサイルを搭載せず、通常弾頭を残している僚艦に機動兵器周辺で拡散するように指示を出した。
幾ら機動性があっても飽和攻撃になるミサイルの雨から逃れるのは至難の技である筈だ。そう考えての指示であったが、その考えがすぐに覆されるとは彼は思っていなかった。
僚艦から発射された大型ミサイルは、途中で分離して大量のミサイルキャリアーへと変化し、そのミサイルキャリアーからも大量のミサイルが発射され、ミサイルの雨が空間に形成されていく。
突如現れた人型機動兵器も大型のブースターらしきモノを背負っており、凄まじい加速でそのミサイルの雨へと突っ込んでいった。
誰もが、速度が出過ぎて避けられないのだろうと思っていた。
『見える!俺にもミサイルがみえるぜぇい!はっはー!三回転捻りッてかぁ!!』
その瞬間―――機動兵器がダンスした。いや、ふざけている訳ではない。この規格外の機体性能を見た人間は、これ以外の言葉が見つからなかったと言った方が良いだろう。ブースターを用いて加速している機動兵器と、キャリアーから放たれたミサイル群との相対速度は、既に人間が見切ることが出来る速度限界を越えていた。
しかし、あの機動兵器はその中をきりもみに近い回転をしながらも、高速で立体機動を描きながら全てのミサイルを避けたのである。常識的な人間から見れば、信じられない様な光景を前に白鯨もシルグファーンも一瞬動きを止めてしまったほどだった。
『おっと、通す訳にはいかねぇんだった』
突破したかと思えば、今度は“その場”で急停止するホワイトグリント。これも非常識だ。幾ら重力制御技術があっても、この急制動では中に人がいればペッチャンコになるほどのGが掛る筈である。だがWGはそのまま振り向き、過ぎ去ったミサイルをまた“追い越した”。
『おらおら!避けられるもんなら避けて魅せなぁ!!』
ミサイルを追い越したWGはデフレクターの出力を上げる。すると機体の周辺で重力子の振動による発光現象が起こり、機体を覆う球状の光りが視認できるほどになった。だがWGはさらにデフレクターの出力を上げる。ソレにより光が機体を覆い尽くし、全長の約2倍にまで膨れ上がった。
そしてそのままWGは、飛び込んでくる拡散しきっていないミサイルの群の中で―――
『弾け飛びなッ!』
―――デフレクターを爆発させた。瞬間的に縮退を起し、それによって高圧縮された重力子が解放され、本来は何もない筈の宇宙空間で重力の波が激しく乱舞する。ミサイルはその影響を受けて明後日の方向へと吹き飛ばされたり重力変調で爆散するものが相次いだ。
シールドをバーストさせた影響からか、バチバチと若干プラズマを纏わせているWG。
その姿は細いシルエットもあって女神の様であったが、明らかにその力は死神そのモノであった。
『さぁて、次は戦艦、逝ってみようかぁ!』
そしてVOBを吹かすWGは、邪魔するモノが消えた宇宙空間を一気に駆け抜ける。
あまりの出来事にあっけにとられていた両陣営であったが、WGが動きだしたことに気が付くとお互いに我に返り戦闘を続行した。シルグファーン艦隊もミサイルでは落すことは不可能と判断し、対空弾幕を形成し、WGを迎え撃とうとする。
だが艦載機の速度を優に超えたWGは僅か数分でシルグファーンの艦隊の目と鼻の先にまで到達してしまう。使い捨てであるVOBをパージしたWGはそのまま近くに居た戦列艦に喰らいついた。
この世界において、艦載機が単騎でフネを落すことはまずあり得ない。編隊を組んだ艦載機が狼の群の様にフネを囲い逃げ場をなくした上でようやく落すことが可能となるのだ。だが、WGはそんなことは関係ないとばかりにパージした反動を利用しそのまま吶喊。
凄まじい速度で戦列艦の持つ堅牢な筈のディゴマ装甲を、それこそまるで紙の様に引きちぎって内部へ入り込み暴れまわる。幾ら全長数百を越える戦艦であろうと、内部機構を攻撃され、竜骨をへし折られれば脆いモノ。インフラトンの輝きと共に戦艦が一隻、宇宙の塵に還った。
「「・・・・・」」
このあまりの事態に長い沈黙の後、両陣営の長が発した言葉は只一つ。
「「・・・なにこれこわい」」
たった一機の機動兵器が無双する戦場だなんて、いつの時代のロボットアニメだと、この光景を見た人間達は思った。ソレ位に衝撃的な光景であったのだ。この時代の戦争の常識を軽く覆し、それどころか常識というラインを斜め上どころかミサイルでかっ飛ばした様な光景。正直言って無茶苦茶である。むしろこれを見て信じろと言われても困ってしまいそうなほどだった。
『戦艦なんて鈍ガメが俺の動きに追随出来るわきゃねぇだろうぉ!』
WGは戦艦を一つ血祭りに挙げ、爆散する寸前に戦艦から飛び出した。そして襲い掛かる対空砲火網の中を悠々と動きまわる。このままいけばシルグファーンの艦隊が危ないかにみえたが、現実はそうでは無かった。何故なら既にWGのフレームは外から見て判るほどに歪み始めていたからだ。アレだけの高機動高加速状態での動きはフレームにも多大な負担を強いたのだろう。
それ故、一番最初にミサイルを避けた様な精彩な動きは既に失われ始めていた。
≪ドゴゴン!≫
『な!直撃を喰らった!?――いぇあっ!!!』
次の瞬間、艦隊が張った対空砲火の一発が運悪くヒットしてしまったWGを火球へと変えてしまった。アレだけの力を見せつけ、戦場を混沌とさせたWGはあまりにもあっけなく、この舞台から消えてしまったのであった。
「し、しんじられねぇ。なんてヤツだ。だけど、これで一安心ですな」
圧倒的な性能を持つ機動兵器の猛攻をくぐり抜けたシルグファーンの艦隊では、安堵の空気が蔓延していた。戦艦を一隻だけ食われてしまったが、それでもあのアホみたいに早い機動兵器が一機だけで本当に良かったと思っていたのだ。シルグファーンもその事には同意していた。此方が切り札である大型拡散量子弾頭ミサイルを持っていたのと同じように、敵もあんな切り札を持っていたのだなとシルグファーンはいい感じに誤解していた。
「敵の切り札は叩き落とした!此方も切り札を使う!!」
切り札を失ったであろう敵を叩くのは今だとばかりに、シルグファーンは先程発射出来なかった大型拡散量子弾頭ミサイルを発射させようとした。敵艦を撃沈したという訳ではないが、性能差がある敵艦隊の戦艦、巡洋艦、駆逐艦を戦闘不能に追い込めたのだ。後は止めとばかりに切り札を撃ちこむだけである。
だが、WGが与えた損害は何も戦艦だけでは無かったようだ。
「すみません、先程の敵機動兵器との交戦で、本艦の位置がずれた所為で射撃諸元を入れ直さないとミサイル発射が出来ません」
突っ込んできたWGを落す為に陣形を組みかえた所為で、ミサイル発射を行う筈の座標からかなり流されてしまっていた。シルグファーンは部下に「いそげよ。敵は待ってはくれないはずだ」と返事を返しつつ、再び戦術モニターに視線を戻した。
流されはしたが微々たるもので、敵との相対距離は変化していない。これならばすぐさまミサイルを撃ち込むことが出来ることだろう。さすればあの強力な艦隊もどれほどまで耐えきれることになるのやら。戦いに負けても戦争には勝ったと彼が思ったその時。
≪――――ズズズーンッッ!!!!≫
「な!?4番艦が轟沈しました!原因不明!」
「な、何が起こっている!?」
先程の機動兵器WGは爆散し、付近に脅威はいなかった筈なのに、突然友軍戦列艦が爆沈してしまったことに、艦隊に動揺が走った。事態の究明をしていた科学班はデータの解析を終えた途端大声で叫んでいた。
「敵艦載機部隊です!下方11時の方向から奇襲されました!」
「レーダー班は何をしていた!」
「迂回してきたものと思われます!≪――ズズーン≫――ッ!6番艦も大破ッ!!」
すぐ近くにて旗艦ヴォイエ・バウークと同じく量子弾頭ミサイルの発射準備を進めていたフネが大破してインフラトン粒子を撒き散らして轟沈する。その様子を映していたモニターをみたシルグファーンは確かに見た。まるでシャトルの様な大型機が複数、巨大な4門の砲門を展開し、今度は此方へと照準を合わせている所を―――
「転舵あぁぁぁっ!!!面舵30!アップトリム全開ッ!!!!!」
シルグファーンの命令はすぐさま伝わり、ヴォイエ・バウークはその巨体を跳ね上げる。それと同時に大型機の砲門から電磁投射の光りと共に砲弾が射出された。
≪――――キュゴォォォォォォォーーーーーーーーッ!!!!!≫
「「「「「ぐぁあーーーー!!!」」」」」
激しい衝撃、直撃を免れたが近接信管でも仕込まれていたのか至近距離で爆散した衝撃波がヴォイエ・バウークに襲い掛かる。シルグファーンは思わずコンソールにしがみついたが、あまりの衝撃で自分の艦長席にへと投げ出されてしまった。
「うぐ、不覚。まさか別動隊を送っていたとは・・・損害報告!」
シャトル型の大型機、ソレはユーリが密かに迂回ルートを進ませていたVB-6ケーニッヒモンスターの部隊であった。その中には一機だけ真っ赤な色をした機体が混じっている所を見るとガザンの部隊であろう。彼女たちは当初はミサイル迎撃に参加していたが、ユーリの指示の元、密かに艦隊を離れて迂回ルートを進み、奇襲する瞬間を狙っていたのである。
実際はWGの攻撃の所為で若干出るタイミングを逃してしまったのだが、それでもミサイル発射寸前での攻撃は大層効いていた。
「各艦被害甚大!撃沈2――≪ズズーン≫――訂正、撃沈3、本艦を含め中破4、小破3。本艦の被害は船底部装甲板に亀裂発生!船底部スラスターが全壊!機動性が57%低下!ミサイル発射機構も損傷大!ミサイル発射できません!」
やたらめったら打撃力だけはあるVB-6は奇襲を行うと同時に、背負ってきた外付けのコンテナミサイルを出血大サービスの如く連射して、その場を離脱していった。4連装大型レールカノンで落されたのは最初の1艦だけで、それ以外は中破や小破であったが、確実に攻撃の殆どが大型拡散ミサイル発射筒に命中していた為、ソレを狙っていた可能性もあった。
「敵艦隊急速接近!本艦では逃げきれません!」
「くっ!これまでか!」
大型ミサイルを発射出来なくなったとなれば、もはや足止めをすることは出来ない。そして先の攻撃で機動性を失ったシルグファーンの艦隊はジャミング機雷の影響圏が関係なくなるくらいの直接照準が可能な距離まで近づいたデメテールによるホールドキャノンの一斉射を受けて殆どのフネが撃沈され、ヴォイエ・バウークも轟沈寸前までのダメージを与えられてしまった。
「やるな・・・まさか俺がこれ程までにやられるとは思わなかったぞ。――だが、もう止められん」
バチバチと火花が飛び散るヴォイエ・バウークの艦橋で、フィードバックによるコンソールの爆発に巻き込まれて吹きとんだ左腕の傷を抑えたシルグファーンは、最後に見た衛星モアの加速度合いと侵入角度を思い出してにやりと笑うと、インフラトン機関が急激な期間停止(メルトダウン)によって暴走爆発を起す直前に最後の咆哮を上げた。
「人の業を背負わされ崩壊する、哀れな星の姿をとくとその眼に焼きつけろっ!」
彼がそう叫んだのと同時に、ヴォイエ・バウークは蒼い火球となって爆沈した。
義賊として名をはせた大海賊シルグファーンはインフラトンの輝きに包まれて、宇宙のチリに還ったのであった。
***
Sideユーリ
大海賊シルグファーン、あんたはマジで強敵だった。
お陰で仲間の一人が散っちまったじゃねぇか。くそったれめ。
「ユディーン・・・」
「おう、よんだかい?」
「え?」
「あん?」
「・・・」
「・・・」
―――なんで、特攻したヤツが生きてるの?
「・・・・!ガタガタブルブル・・・お、お化けがでたぁー!!」
「聞き捨て悪ぃこというなよっ!?」
「落ちつけユーリ。そいつ足ちゃんと生えてるよ?」
【生体反応もキチンと有りますから、生きていらっしゃいますねハイ】
―――・・・あれ?
「何で生きてんの?」
「んなの、アレが無線操作機だったからに決まってんだろうが」
投下される爆弾。・・・良し、とりあえずだ。
「だれかライさん呼んで・・・いや、リアさんに通達、ライを呼べッス」
「アイサー・・・ライの命運も尽きたわね」
「あとユディーンさん、ちょいとこっちゃこい」
「あん?なんだ?」
何も考えてないユディーンを近くに呼んだ。
まったく、何でテメェはそうも軽いんだろうねぇ?
久々にオイちゃんイラッて来ちまったよ♪
「テメェ・・・紛らわしいんだよー!!死んだと思ったじゃねぇか!!」
「ヒデブッ!?」
「ああん?言い訳したいとでも言うんスか?ダラシネぇいな」
「か、関節はやめろー!!たらば!?」
「ほれほれ、まだまだ行くッスよー。オラオラオラオラオラ」
「な、なんでそんな細い体つきしてるくせに・・・アタタ!だから関節はらめー!!」
「伊達に、重力ウン倍の部屋に、籠ってる、訳じゃねぇッス!あとらめー言うな気色悪い!」
喰らえ!見よう見まね筋肉バスター!バウンドした瞬間にサマーソルトで追撃!
そして宙に浮いたユディーンの頭を掴み上げてそのまま床にダンク!
哀れユディーンは艦橋で沈んだのであった。まる。
「・・・ユーリ、やり過ぎ」
「ついカッとなってやった。申し訳ないと思っている。スカッとしたけど」
「まぁ仕事数多くこなしてたもんねぇ。これくらいは良いか。ユディーンも死んでないし」
「今にも死にそうですけどね」
【サド先生呼んでおきましょうか?】
ユピよ。そうは言うがな・・・。
「あ~、痛かったぜぇ~」
「・・・要らないみたいッスねぇ」
「無傷か、ときどき不思議なことが起こるのがこの宇宙―――」
「サナダさん、無理矢理まとめなくても良いですよ?」
「む、むぅ」
***
まぁ冗談はさて置き、ユディーンの野郎は普通に生きていました。
どうやって生き延びたか?それがまためっぽう単純な話でよ。
どうもフネの中にある無人機をコントロールする装置に、ライがあるモノを接続したらしいのだ。
簡易脳波スキャニングシステムを改良した脳波コントロールシステム。ソレが取り付けられた装置の実体だ。
ユディーンはイスに座らされ、顔面まで覆いそうな沢山のコードがついたヘルメットを被って、何時の間にか無人機に改造されていたWGと一体化した。
IP通信を応用したタイムラグ0の遠隔操作装置により操作されたWGは無人機である利点として、対G系のリミッターを解除出来るということがあげられる。
つまり、殺人的なGで駆動しても、遠隔操作だからマンパワー的な限界が来ないということでもあった。しかも、只の遠隔操作では無く、人の意識が反映された有機的パターンを持ってである。
そりゃ抜群に強くなるはずだ。FCSがすこぶる発展したこの時代においても、人が操る有人機の方が落されにくいのはよく知られている話である。人の操縦が生み出す無秩序のパターンに、所詮は機械であるFCSのコンピュータが対応しきれないのだ。
だから今でも人が乗った艦載機がモノを言うって訳で。
「艦長、エルイット少尉をお連れしました」
「ありがとう―――さて、エルイット・レーフ技術少尉。ここに呼ばれた理由は判るな?」
「え、えと・・・艦長?」
何時もと違う俺の雰囲気に何やら戸惑っているエルイット。
だがな、お前さんの茶番に付き合うほどこっちは暇じゃねぇ。
「単刀直入に言おう。エルイット技術少尉、貴方はナヴァラに何があるのかを知っている。違うか?」
「な?!―――何のことかな?」
「とぼけるんじゃないよエルイット。あんた今ので顔色変わってるじゃないか」
「う・・・」
うん、面白いほど顔色が悪くなった。やっぱりあるのか。アレが。
「言いたかないけどね。そっちが隠すって言うならこっちだって協力する義務は無いんだよ?」
「そ、それはこまるよ!誰がナヴァラを守るのさ!」
「何が困るって言うのさ。そっちが秘密にするからこっちも信用できない。ソレだけだろう?飽く迄もこっちはビジネスなんだ。秘密が多い雇い主なんてゴメンだね」
「いや、ぐぅぅ・・・で、でも・・・」
「でも何さ?秘密裏に利用されるのは良い気がしないんだよこっちは」
トスカ姐さんからの口撃に混乱してしまったのかうろたえ続けるエルイット。
だからだろう、彼女からの辛辣な言葉に反論できないのは。
彼にとってみればどうすればいいのか判らないと言う感じなんだろう。
まぁそんなこたぁどうでもいいの。
いい加減エルイットの煮え切らない態度に嫌気がさした俺は、とっとと核心をぶっちゃけちまおうかなぁとちょっと思っていた。
「――ううぅ、そのう、あくまでうわさ何だけど、それでいい?」
「何でも良いから知っていること話す。じゃないと真っ裸で外に放り出すッスよ」
「ヒッ!わ、判ったよ全部話すよ!つまり――アルカンシエル計画には裏がある」
「裏?裏ってのはなんだい?」
「つまり、恒星光発電というのは飽く迄表向き、実は宙域制圧用の長射程レーザーを地上に造っているって・・・」
「成程、恒星光発電用のマイクロ波送受信施設などは、構造的にちょうどいい隠れ蓑になる。だからナヴァラに大気をあえて定着させなかった。大気があると減衰するし、場合によっては放射線シャワーが起きるからな。っとスマン、続けてくれ」
サナダさんが何気に怖いことを言っていたが、つまりはそう言うことだ。
シルグファーンが言っていた民を人質にという言葉の真意である。
要するに某種の軌道間全方位戦略砲レクイエムの様な代物を、ナヴァラに建造していたって言う話であろう。
何せ惑星に建造した超長射程レーザー砲だ。その威力は押して測るべき。
流石は軍隊、0Gと違って地上を攻撃してはいけないというルールは持って無いから実におっソロしいものを考えつくな。
「人間ってやつぁ、ほとほと救えねぇッスね」
戦争ってのはこんなもんだ。結局、憎い相手をぶちのめさないと気がすまない。
こんなものを撃てば、撃ち込まれた星がどうなるか何てガキでも判る。
出力と照射時間さえ十分なら地殻をブチ抜き、マントルを引っ掻き回すことになる。
そうなれば、地上は地磁気が無くなったり惑星崩壊規模の地震に見舞われること必須だ。
戦略兵器なんてもんじゃねぇ、コイツは戦略虐殺兵器だ。
20世紀初頭の核弾頭くらいヤバい代物だぜ。
こういったのを考えつく人間ってのはどんだけ頭がイカレてるんだろうな。
「はぁ、衛星モアの軌道は?」
「既に衝突コースに入っています。あの質量ですから破砕はまず不可能でしょう」
「・・・ちなみに、衝突までの時間は?」
「先程ヴルゴ艦隊が工作艦隊を撃破したので、衝突までまだ20時間ほど猶予があります」
飽く迄、このままの速度で進めばの話ですが・・とミドリさんはそう答えた。
ナヴァラとモアは二重惑星に近い形態を持っている
近づけば近づくほど、お互いの引力で引き寄せあう力が働き、予測不可能な機動や速度を出す可能性が高い。
だけど―――
「・・・見て見ぬふりも、夢見が悪くなりそうッスね」
「ユーリ!?アンタまさか?」
耳元ででっかい声出さなくても聞こえてるよトスカ姐さん。
「各艦に通達。これより白鯨艦隊は全速でナヴァラへと帰還するッス。流石に地上の一般人たちを巻き込むこれを放置するのは気が引けるからね。本船は軌道上で待機し、全投入できるだけのフネ、輸送機、シャトルを使って人々をピストン輸送するッスよ」
まぁ見捨てても良いんだが、なんつーか、ねぇ?
これは・・・そう!避難民の中から人的資源を確保する為の行動なのさ!
・・・ちょっと言い訳が苦しいって?気にすんな。俺は気にしない。
俺がこの手の無茶難題を出すことに皆慣れているのか、そうかの三文字で納得して、それぞれ行動を開始した。・・・トスカ姐さんには溜息つかれたけど気にしない。
でも流石は細けぇ事は気にしない連中だ。頼りになるぜ。
「か、艦長・・・どうして?」
ふと気が付けば茫然としているエルイットがそこにまだ突っ立っていた。
ああ、そういやコイツは客将みたいなもんだからすることないのか。
・・・・・・今まで何して過ごしてたんだろう?ちょっち気になる。
「あれ?エルイット少尉まだ居たんスか?」
「君たちは、自分でも言っていたけど、こっちを助ける義理は無い筈じゃないか」
「・・・まぁ、一応ネージリンスに肩入れしてたッスからねぇ。それに」
―――単に、これも俺のエゴから来る我が儘だから。
そう呟いたのが聞えたのかは知らん。
だが、あえて言おう。これはエゴから来る我が儘であると!
・・・只でさえ寝不足なのに悪夢まで背負い込みたくねぇもんな。
***
それから数時間が経過し、全速でナヴァラに戻ったけど、モアの速度が予想外に早かったのか凄まじく接近してしまっていた。ロシュの限界はまだ超えていないが、時間の問題であることは明白である。
お月見するにはデカすぎるだろうなぁと思いつつ、デメテールをナヴァラの宇宙港すぐ近くの軌道上に停止させた。
この位置はちょうどモアが砕かれた際にデブリが通過すると予想される位置であり、強力なHL砲列とデフレクターを持つデメテールならば、少しの間は盾に出来ると考えたからである。
そして停泊させると、すぐさま準備させていた兵員輸送VBがVFに先導されて発進。
地上施設のゲートをミサイルでブチ抜いて、地下の空間へと突入していった。
VFは可変機であり、作業機械並に細かい動作が出来るからこその芸当だ。
あと非常時だから許してね?請求されてもこちらは一切の責任を取りません。ハイ。
「さて、こっちは宇宙港何スが・・・」
「イモ洗いってのはこういうのを言うんだろうかねぇ?」
ステーションの中は、まるで朝の通勤ラッシュを酷くしたかのように、ナヴァラを脱出しようとする人間達が押し寄せてごった返していた。
何としても助かりたいのか、他人を押しのけて宇宙船やシャトルに飛び込もうとするヤツ。
金ならいくらでも出すとかわめくピザなヤツら。
捨てられた荷物から金目の物をひろいあつめるヤツ。
息子が、娘が、妹が、爺ちゃんバァちゃんが、親がいなくなったと叫ぶヤツ。
子供は要らんかねぇ~子供がいると優先的にフネに乗れるよ~と商売するヤツ。
安全の為に個人用ドッグへ続く道はセキュリティースクリーンで遮断されているが、そっちにも押しかけようとして半ば暴徒となりかけているナヴァラ市民の姿がそこにはあった。
なんつーか、人間の愚かしさを垣間見たというか。何と言うか。
助ける気力がドンドン下がるぜ・・・。
考えてみ?人を押しのけて助かろうとするデブとおっさんとクソ爺。
そう言った連中に押しのけられた善良な女性や子供たち。
助けるなら断然後者でしょ?紳士的な意味で。
しっかし、管理局も社線というか何て言うか。
衛星が激突コースに入ったんだし、管理局ステーションも閉鎖されるかと思ったが、閉鎖どころか全く普段と変わらない営業をしていたんだよなぁ。
入港許可が普段と変わらずに降りた時には流石に唖然としたな。
よっぽど防御に自信があるのか、はたまたAIが古いからこう言ったのに対処出来ないか。
「なんとなくアレ見てると後者の様な気が・・・」
「艦長?どうかなさいましたか?」
ユピが何か言っているが、俺の視線はこんな時でも何時ものように稼働している管理局サイドのドロイド達が、避難しようとしている民衆に押しつぶされかけているのにも関わらず、健気にも自分の職務を全うしようとしている姿が映っていた。
ああ、幾らイモ洗いの所為で動きが取れないからって、掃除用のドロイドに当たるなよ。
掃除機のホース引っこ抜いてどうすんだ?命綱にでもする気かよ。
「とにかく、彼らを避難させるッス。生活班は保安員達と一緒に行動。避難しようとしている彼らをこっちに誘導するッス」
「「「「了解!」」」」
んで、デメテールの生活班と保安員、ソレと手隙の連中がそれぞれチームを作って、持ち場について行く。
ステーションの放送席は既に抑えたし、警備室にも平和的に乗り込んでセキュリティ・スクリーンを解除させられるように手配した。
ミョルニルアーマー装備の保安員達の根気有る説得が功をそうしたのだ。
【避難民の皆さん。こちらは白鯨艦隊です。これより本艦隊は皆さまのナヴァラ脱出を支援する為、30~108番個人用ドックにて、脱出用のフネを用意しています。40番ターミナルへとお集まりください】
そう放送が流れると、半分暴徒と化していた人々は我先にと此方に駆け抜けてくる。
人間だれしも非常時には本性が出ると言うが、これはまさにそれだろう。
一見温和そうな人が、足の遅い老人を蹴飛ばした。
老人は哀れ人々の波にのまれて姿を消してしまうが、その温和そうな人は一番に此方へと辿りついていた。
その老人は後でなんとか救助出来たが、全身人に踏まれてズタボロで、後少し遅ければ惑星衝突では無く避難民に殺されるところだったのだ。
これ程のカオスであるが、ゴツイ装甲宇宙服を纏いメーザーライフルを装備した保安員達の威圧感に、少しだけ動きが鈍ったのは行幸だろう。
さて、ドックに入る唯一のゲートには、所謂改札のごつい番の様な人一人しか通れない様な小さな改札が複数取り付けられている。
幾ら避難民たちが集団で走ってこようが、ココでスピードを落とせざるを得ない為、よくある渋滞の原理が働き、ターミナル前には人がごった返す結果となった。
今の内に列を組むように指示を下し、なんとか列を作ることに成功する。
順番を抜かそうとする不届きものは、物々しい装甲宇宙服姿の保安部員に迫られると途端に大人しくなる為、誘導は意外とスムーズに進んでいった。
「――まぁ、全部を助けるのはムリそうッスね」
「そりゃね。200万人も乗せられないよ」
全長36kmあるデメテールだが、それでも収容可能人数は頑張って数十万人に届くか否かだ。
100万人以上となると、もう乗せられる余裕は全く無くなってしまう。
それに、恐らく時間的にそこまで乗せることは不可能だ。
精々あがいて十数万人が関の山。コレが俺達の限界だぜ。
「とにかく一人でも多くの人達を脱出させるッス。一度地上に降りて避難誘導を行うッス。トスカさんとユピは俺と一緒に一度地上に降りて、軍基地周辺のエリアの住人達を避難させるのについて来て欲しいッス」
「「了解/あいよ」」
人ごみでごった返しているとはいうが、流石に地上行きの軌道エレベーターは閑散としている。俺達は避難誘導の為の人員と共に急いで地上へと降りたのだった。
***
地上は地上で大変カオスな空間と化していた。
何せ若い連中は皆我先にと逃げだし、残っていたのは老人や病人だらけだったのだ。
老人たちは多少認知症の気があったが、これからちょっと宇宙遊覧にでも行きませんかと誘うと、意外とすんなり此方の誘導に従ってくれたので楽だった。
だが問題は病院などに残された重病人達であった。彼らは治療ポッド等に入っている為、そのままでは移動できない。ちゃんとした輸送機でないと死んでしまう可能性があったのである。
まだモアが落ちてくるには時間がある為、とりあえずデメテールから医療団を派遣してソレらの対処に当たらせることにした。
サド先生他医療団、それとギリアスを救助した際に、同じく救出したクルーであったバジル・ファマ医師と、その娘であるルン・ファマ看護師見習いが手伝いを申し出てくれたのはありがたかった。
今は誘導の為に各地区に散らばっているのだが、やっぱり人手が足りなかった。
勇気ある人達が今だ残って避難誘導を続けていたので、その人達と合流出来たのが幸いだ。
そのお陰で地理に明るくない俺達がなんとか避難誘導を行えたのだから。
「ユーリ、各班から報告だ。やっぱり病人や老人が他の地区にも多くいたみたいで、イネス達が増員を求めてる」
「しかし、こっちも手いっぱいですよ」
「くそ、小さいコロニーとはいえ町は町ッス。圧倒的に人手が足りないッス」
随分と前にヘルガが「皆避難するんじゃよー、と」と言いながら大量の御老体達をリアカーで運んで行ったが、それでもまだ人手が足りない。
あと数時間もすればモアが完全に砕け散ってナヴァラに落下するのだ。
そうなればこの地下都市が持つかどうかなんて判らないのである。
とにかく今出来ることは協力してくれる人達と共に避難誘導を行うくらいしか無い。
・・・そう言えばこの近くにはネージリンスの軍基地があったな。
もしかしたらそこにはまだ人間がいるかもしれない。
軍基地だから簡易的なシェルターになると思っている人達とかさ。
他の班は避難誘導に忙しいので、一番近場の俺達が行くのが適当なんだろうな。
そう思っていた次の瞬間――!!
≪――ズズズズーーーーーン!!!!!≫
「うひゃ!」
「ひにゃ!?」
「ッ!」
唐突にマグニチュード5か6に匹敵するんじゃないかという揺れに見舞われて、俺やユピが転倒し、トスカ姐さんはエレカーに捕まっていたのでなんとか踏ん張っていた。
一体何が起きたのかと思っていると、デメテールに残っているクルーから通信端末に通信が入ってきた。
『――ジジ・・・艦長大変だ!衛星モアの一部が崩れてデブリの落下が始まったぞ!』
「ッ!予想よりも早いッス!!」
デブリが発生した。それはつまりロシュの限界点が近いことを意味している。
もはや一刻の猶予も残されてはいないことを、冷酷にも突き付けられた感じだ。
予想時間をユピが計算して此方に提示してくれたが、予想以上に短い。
あのシルグファーンとの戦いで、思っていたより時間を稼がれた所為だ。
ユピやトスカ姐さんが、俺にどうするという視線を向けてくる。
そう、決断しなければならないのだ。俺は。
「・・・・各班に通達、これより避難誘導から撤退準備へと切り替えるッス」
俺は、決断を下した。今だ残っている人達を見捨てるという選択を。
すでにデブリの降下が始まっているので、俺達も避難を始めないと、この地下都市から脱出することが出来なくなってしまうからだ。
もう少し粘れば助けられる人達もいる。だけど、俺は自分の仲間たちを優先する。
俺の我が儘だからな・・・間に合わなかった連中には悪いが。
「艦長・・・」
「ユーリ・・・」
「・・・大丈夫ッス。最後にナヴァラの軍基地の方も見ていくッス。もしかしたら逃げ遅れた人達がまだ居るかもしれないッスから」
「あ、あそこならそれ程広くないですから!余裕があります!」
「だとしたら、善は急げだ。――全員エレカーに分乗!軍基地に向かうよ!」
「「「「「応ッ!!」」」」」
トスカ姐さんの号令に従い、クルー達がそこら辺で接収したエレカーに分乗していく。
俺もユピに頼んで各班に避難誘導の中止を伝えると、エレカーに乗り込んだ。
Sideout
***
Side三人称
ナヴァラ地下都市にて、ユーリ達が撤退を開始した頃―――
「各砲データリンク、FCSオールグリーン、撃てます」
「全砲発射!一つも欠片を通すなよぉーーーー!!!」
―――衛星軌道上では、始まった大量のデブリの落下を白鯨艦隊が必死に凌いでいた。
潮汐力によって砕かれた最大で全長数kmに達する様な岩の破片を、デメテールやソレに付随するヴルゴ艦隊の戦艦や巡洋艦達が持てる全火力を持って弾幕を張り、地上への落下を阻止しようとしている。
今デメテールの指揮を執っているのは、なんとトーロだ。
今だアバリスが使えない為、それならちょうど良いとユーリに館長代理を頼まれたのである。
『トーロ殿、VBが其方に向かったので、収容を頼む』
「了解ヴルゴ司令。とにかく弾幕を張ってデブリを寄せ付けないでくれ。こっちは腹に沢山避難民を乗せてるからな」
『任せろ、避難民たちはネージの同胞たちだ。鉄壁のヴルゴと呼ばれた手腕はまだ衰えておらん』
「こっちもなんとか迎撃はする。ユーリからの撤退命令も出たらしいから後少しだ」
『ああお互いに頑張ろうぞ――≪ズズン!≫――ッ!そろそろ喋る余裕が無くなってきた。通信終わる!』
デメテールを中心に対空戦闘時と同じく輪形陣を組み、飛来するデブリを主砲や副砲等で粉砕していく。この時、一番奮闘していたのは連装ガトリングレーザー砲だろう。次点でHL砲列だろう。
一番火力があるデメテールや戦艦がもつ主砲のホールドキャノンは、威力的には申し分が無かったのだが、貫通性が高い所為で岩を爆散させずに貫通してしまう為、破砕には向いていなかった。
その点、ガトリングレーザー砲は点ではなく面での攻撃が得意な兵装であり、こう言った大量に飛来するデブリの破砕に向いていた。HLも収束や拡散モードを用いて弾幕を形成する事でデブリの大きさを問わず破砕出来ていた。
とはいえ、時間が経過するごとに飛来するデブリの量がドンドンと増えていくので、徐々に弾幕が押されるのは時間の問題であった。
重力機器関連の操作をしているミューズがトーロに報告をしたのもその時だ。
「館長代理・・・デフレクターの負荷率がかなり上昇している・・・わ」
「マジっすかミューズさん?」
「ええ・・・マジよ。今はまだ大丈夫・・・だけど、細かい粒でもデフレクターに負担は掛かる・・・何か対応をとることをお勧めする・・・わ」
「対応ってったって・・・何かあるのか?」
「私に・・・聞かれても、こまるわ」
「ですよねー」
今の所大きな破片は砲撃で破砕し、細かなヤツはデフレクターではじいている。
だが、流石に数が多くてデフレクターに掛かる負荷が上昇しているのだ。
今はまだいいが、これ以上破片が増えればしまいには防ぎきれなくなる可能性だってある。
だが、だからと言って細かなデブリの破砕に使えそうなモノは―――
『やぁ、お困りの様だなトーロ』
「・・・ライさん、今忙しいから後にしてくれ」
突然ライから艦内通信が入った事にトーロは溜息をついた。
何でだろう、何だか凄く何かやらかしそうな予感が――
『ふふ、ふ。艦長代理。ぼくはこんなこともあろうかと、WGに続いて用意していたのがあるよ。使ってみないかい?』
「・・・使えるのか?」
『勿論、ぼくが設計したオールトインタセプトシステムに搭載されていた―――』
「あー判った判った。技術的な説明は勘弁してくれ。俺が聞きたいのはこの状況下で使えるとかいう話だぜ」
『くふふ、それなら問題無いよ。むしろこう言ったことに向いてるかもしれないよ』
怪しげな笑いを浮かべるライに一抹の不安を覚えるが、ドンドン増えていくデブリの排除に使えるモノがあるというのなら使うべきだろう。まだしばらくはこの場に留まらなければならないのだし・・・仕方ねぇか。トーロはそう思い、艦長代理権限でライの提案を承認する。
許可を貰ったライは、リアにボコボコにされて青あざがついた顔を笑顔にして作業を開始した。
デメテールの両舷ハッチが開かれていく。
そこから次々と何かが射出され、宇宙空間へと飛来していった。
射出されたのは、まるで葉巻に三角の翼がついたかのような棒状の何かである。
先頭にカメラアイと思わしきセンサー類等が取り付けられたソレは、簡単な武装を施した所謂無人機というヤツであろう。
そして、それらは射出されるとそのまま加速して編隊を組んでいく。
まるで生き物のように動くソレらは不規則な機動を取りながら、迫りくる小破片状のデブリへと飛びこんでいった。
デブリに近づくと、一番先頭に居た機体の胴体が開き、中から大量のミサイルがばら撒かれる。
どういう原理でデブリをロックオンしているのかは定かではないが、ほぼすべてのミサイルが周辺を漂っていた小型デブリに命中して更に細かいモノへと粉砕した。
ソレを皮切りに他の機体からもミサイルが射出され、ミサイルを打ち終わった機体はカメラアイを光らせると更に加速し、外付けされた可動式小型高出力レーザー砲2門から赤い光が放たれる。
小型のデブリなんて簡単に蒸発させられ程のレーザーに撃ち抜かれ、デブリの大半はさらに細かく粉砕されていった。
どんどんデメテールから現れるその無人機の数はざっと数百以上だが、凄まじいスピードど不規則な機動でデブリの間をくぐり抜けて叩き落として行くその機体を視認することは難しく、黒色に近いシルエットもあり、まるで幽霊の様だ。
そう、ライがこのデブリ掃討にて用いた機体は、VF-0隊の機体に取り付けるゴーストパックを応用して作られた無人戦闘機、QF-2200Dゴーストと呼ばれる戦闘機であった。
「ウゲぇ~並列操作メンドクせぇ~」
そしてデメテールの中にある、あのWGを操作していた部屋では、これまたユディーンがWGを操作したのと同じようにイスに座り、あの脳波スキャニング装置を被っていいた。
「そう言わないでよ。まさかと思って為したら本当に全部操作出来たんだからさ」
そう、これまた信じられない事に現在外で戦っている数百以上の機体は、なんとユディーンが1人で操作していたのである。
と言ってもWGの時と違い直接操作しているというよりかは、この部分に行くようにおぼろげに思い浮かべることでセンサーがソレを感知し、ソレに合わせた編隊行動をとらせているという感じなのであるが・・・。
でも、一応慣れれば全機体の個別操作も可能にしてあるのがライ・クオリティ。
ソレが出来たら人類未踏の境地に至れるのであるが、この世界の人間だと至れそうなので怖い。
とりあえずこれによって近場の小デブリによる被害がかなり低下した為、救出活動がかなり早まった。
規則的でありながら不規則な機動をとるゴーストのこの機動を、もしこの場にユーリがいて見ていたら、きっとこう言った筈だ。――これなんてファンネル?
「うげぇ~、吐きそう。脳みそが沸騰しそうだぜぇ~」
「がんばれ!今良い所だから!(データ取り的な意味で)」
「そうか、良いところなのか(デブリ迎撃が順調的な意味で)――なら頑張るか!」
そしてこの両者の間には致命的な認識の差がある様であるが・・・。
まぁ誰も気が付かないのでしばらくはこのままだろう。
少なくてもデブリの迎撃は行えているので、問題は無い。
もっとも―――
「う、うげぇ~・・・」
「ん?どうしたユディーン?」
「・・・酔った」
「え?」
「・・・洗面器、はやく」
「せ、洗面器なんてここには「うげぇ~」――ぎゃぁぁぁぁ!!!」
―――ユディーンがどこまで耐えられるかが焦点の様だ。既に限界っぽいけど。
「へへ、ごみん。ぶっかけちまった・・・うぷ」
「ま、まって今袋を探してくるから」
「大丈夫、胃の中のモンは全部出ちまったからすっきりだぜ」
「・・・ああそう。それじゃ、頑張ってくれ」
とりあえず、このシステムの問題点が判っただけでもいいかとライは思い。
ユディーンの方は己が臭いので風呂に入りたがっていた。
そんなこんなで時間は進み、モアはさらに接近していくのであった。