【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第五十八章+第五十九章+第六十章+第六十一章

ナヴァラの軍基地に来たが、いち早く退避勧告を受けたのか中は閑散としていた。

まぁ生命反応が各所に点々と見られる為、一応人間がまだ居ることを示唆している。

とりあえず、部下たちに命じて生命反応がある部屋へと散ってもらった。

 

部下たちが散っていくのを横目に俺もトスカ姐さんやユピを引き連れて基地内部へと侵入した。

既にデブリと化したモアの一部が隕石と化してナヴァラの地表に激突し、地下都市を揺らし始めているので何時天井が抜けるのではと内心戦々恐々だ。

 

大丈夫、時間はまだ少しだけある。20時間という時間は結構長いのだ。

上ではデメテールや無人艦隊達が踏ん張ってくれているのである。

またちらりと見ただけだが、俺達以外の勇気ある0Gドッグ達が救助活動を開始したとの報告も受けているし、ユピが本体(フネ)に意識を戻さない以上、まだ余裕があるから救助できるはずだ。

 

 

「生命反応・・・こっちです」

 

 

俺達の先頭をユピが先行する。彼女は電子知性妖精。

なので、携帯端末の機能を使えばこう言った探索とかもお手の物である。

とはいえ、ここには前に来たことあるんだけどな。

 

相変わらず天井部からの振動に怖々しながら基地内を進んだ。

基地とはいえ、基本的には事務や行政系なのであまり広くは無い。

兎に角片っ端から部屋を回り、まだ残っている人間を外に誘導しておいた。

 

とりあえず兵員輸送用のVB-6TCを呼んであるのでソレに乗って脱出して貰うのだ。

あれなら航宙能力もあるし、元々戦闘用でデフレクター積んでるから、岩盤が崩落して押しつぶされなければ恐らく大丈夫なはずである。

 

そんなわけでいる人間、出会う人を片っ端から外に誘導した。

時折なにを嘆いているのか判らん錯乱したヤツもいたが、ユピが黙って出してくれたスタンガンでバチっと一発!気絶させてVB-6TCに運び込んでおいた。

こうして色々と回り、ようやく最後の休場者達がいる部屋に来ることが出来た。

 

 

「ここで最後です」

 

「ここは、作戦室ッスね」

 

「早い所救助して脱出しよう。外にVB-6TC(モンスター)を待たせてあるからね」

 

 

早いとこ脱出したいトスカ姐さんがグイグイと押してくる。

おいおい、生体反応でココに居ることは判ってんだから相手は逃げねぇだろうに。

あ、いやまぁ普通に動けるんなら逃げているはずなんだけど気にしない。

 

兎に角、俺は作戦室の扉を開けて中に入った。

中は閑散としているというか、殆どの人間が逃げだしたから二人だけしかいない。

その二人というのが・・・

 

 

「ミューラ何してんだよ!早く逃げないと!」

 

「無駄よ。港に行っても、とてもフネには乗れないもの」

 

 

イスに突っ伏しているミューラと、何故かいるエルイット少尉だった。

いや、あんたどうやってここまで来たんだよ?救助班に紛れ込んでたのか?

あんまりに影が薄くて判らんかったよ。イヤマジで。

 

 

「そんな、君なら軍用艦に潜りこめるだろ!」

 

「・・・」

 

「何で黙ってるんだ?君らしくも無いぞ!君はもっとこうゴウイングマイウェイを―――」

 

「あなたが私のことをどう思ってるのかは判ったわ。でも、放っておいてくれる?」

 

 

なにやらギャイギャイ言い合いをしている両者。

まぁどうでもいいんだが――

 

 

「あのう、脱出用のフネならまだ乗れる筈ッスよ?」

 

「ありえないわ。だってこのナヴァラにあるネージリンスのフネじゃ――」

 

「現在白鯨艦隊が全力で避難民の誘導と脱出をさせてるとこッス。

アレだけデカイ図体してるッスからねぇ~。ある程度ペイロードに余裕はあるんスよ」

 

「・・・・でも、私は――」

 

「・・・それとも、もしかして後ろめたいことでもあるから脱出できないとか?」

 

「――ッ!?」

 

 

やっぱりね、そうじゃないかと思ったぜ。

大方、アルカンシエル計画の裏を知っている人間の一人だったんだろう。

一般人を盾にして、最悪犠牲にすることを明言している様な計画だもんなぁ。

成功したならまだしも、成功する前に失敗してる訳で・・・。

 

 

「な~る。噂は本当だった訳だ。超長射程レーザー砲の開発、ってやつのね」

 

 

トスカ姐さんの言葉にビクンと肩を震わせるミューラ、図星だったようだ。

そりゃ、大量虐殺の肩棒を担いでいたとなりゃ、ましてやソレが失敗する事が判ったとなりゃ、今まで国の為に我慢してきたプレッシャーに押しつぶされそうになるのも致し方ないな。

 

 

「しかし弱ったッスね。救助したくても本人が嫌がっている様じゃ・・・」

 

 

流石に自殺志願者を助ける義理はこっちには無いんだぜ。どうするかな。

 

 

「そんな!彼女も助けておくれよ!」

 

「エルイット、もういいの。私はここでナヴァラの天井に押しつぶされて死ぬのよ」

 

「ミューラも諦めないでよ!なにか、何か方法がある筈だ!」

 

「方法って言っても、あれッスか?そのアルカンシエル砲とかで衛星モアごと吹き飛ばすッスか?本当に惑星艦規模の長射程レーザーならソレくらい出来そうな気もするッスけど」

 

 

なんとなく思い付きで口にした提案であったが、エルイットがソレを聞いてその手があったかという顔になる。

いや、流石にムリだろぅ。だってソレが出来るなら―――

 

 

「・・・ムリよ、アレはまだ未完成で出力の50%しかでないわ」

 

「そ、そんなぁ~」

 

 

―――ほらな?試せるなら試してるだろうさ。

 

 

エルイットはミューラの言葉に愕然としている。

ソレに対してミューラは溜息だけ、ありゃきっと出来る事ならと試そうとしたんだろう。

だけど現行の状態だと稼働は出来るが出力不足で衛星を吹っ飛ばすほどじゃない。

だから彼女はここで死を待つことにしたって訳だ。

どうせ、どうにもならないから―――だが。

 

 

「でも少なくても、脱出する避難民たちを乗せる時間は稼げるんじゃないッスか?」

 

「「「「――!!」」」」

 

 

俺がそう言うと皆目を見開いた。

どうやらこの場に居た連中はモアを破壊する事に意識が集中していたらしい。

でも考えてみれば、別にムリに衛星モアを破壊する必要は無いのだ。

 

どうせもう近づきすぎていて、破壊できたとしてもデブリの流入は止められない。

ならそのデブリだけでも吹き飛ばせれば、更に数時間近い時間が稼げる。

現在行われている救助活動をさらに引き伸ばせれば、ソレだけ避難民を誘導できるのだ。

 

流石にナヴァラ地下都市全部の住民を避難させることは出来ないだろう。

だが、それでもほんの少しだけでも時間が稼ぐことが出来れば・・・。

一分一秒でも時間を稼げれば、ソレだけ人の命が助かる筈だぜ!

つーか、むしろ今はそっちの方を優先したいところである。

 

 

「ユピ、デメテールに連絡してマッド4人衆集結させてくれッス」

 

「了解」

 

「ま、待ちなさい!なに勝手なことをしようとしているの!」

 

 

とりあえずマッドを呼ぼうとしたらミューラが激昂して俺の襟首をつかんだ。

いや苦しいんで離し――っ!ギブ!しまってるから!マジでヤバいからっ!!

 

 

「い、いや。だってナヴァラの人達助けたいし・・・」

 

「そんなこと誰も頼んでないじゃない!

失敗したらアナタ達ごと岩盤に押しつぶされるのよ!

そんなことをして意味なんて―――」

 

 

あー、まぁ確かに普通はそう思うわなぁ。

 

 

「まぁとくに意味は無いッスね」

 

「だったら!」

 

「でも、ココでナヴァラを見て見ぬふりしたら、正直俺の夢見が悪くなりそうッス」

 

「はっ?」

 

「それに、こうやって助けるのも人材確保の面もあるし」

 

「・・・」

 

 

ああん、本音言ったらミューラの視線が急にジトっと冷たくなった!

く、くやしい、けど!ビクンビクンッ!

 

 

「真面目に話してくれないかしら?」

 

「ウヒヒwwwサーセンwww」

 

「「「(ダメだコイツ・・・早くなんとかしないと・・・)」」」

 

「(か、艦長。そんなあなたでも―――す、す・・・だめぇ恥ずかしい・・・)」

 

 

あるぇ~?なんかトスカ姐さんを含めた他の奴らの目線まで呆れたって感じに・・・。

若干一名もじもじとしてて微妙に違う目線だけど、まぁいいか。

 

 

「まぁ、真面目な話。救助してるのは単に俺の我が儘何スよ」

 

「わ、我が儘ですって・・・?」

 

「そ。見ていてなんとなく、助けたいと思った。ただそれだけッス」

 

「そ、そんな理由で―――」

 

「もういいッスか?兎に角アルカンシエル砲の制御室を探さないといけないんで」

 

 

俺はそう言って彼女の手を振り払い立ち去ろうとする。

たぶん軍施設であるこの基地周辺にあると思うから、ユピに頼んで基地のネットワークにアクセスすれば大体の場所の見当くらい付きそうだ。

そう思い、トスカ姐さんとユピを連れて部屋から出ようとすると――

 

 

「待ちなさい。制御室の場所は判っているの?」

 

 

――手を振り払われて茫然としていた筈のミューラが声をかけて来た。

 

 

「いんや、場所なんて、ねぇ?」

 

「まぁここには詳しくないし、ねぇ?」

 

「え、ええ!?あ、はい。確かにそうですね。なら私が基地の端末にアクセスして――」

 

「無駄よ。アルカンシエルの情報は極秘。

だから、基地の中枢演算機には記録されて無いわ。 

・・・私を連れて行きなさい。案内する」

 

「どういう風の吹きまわしッスか?」

 

「別に、只単にどうせ死ぬんだし自分の生命くらい自分で使い道を決めたいだけよ」

 

「そっスか。じゃまぁ案内よろしく」

 

「ええ、こっちよ」

 

 

そんな訳で俺達はミューラの先導により、制御室へと向かうことになった。

彼女が何を思って俺達を案内する気になったのかはしらない。

だがまぁ、時間稼ぎが出来るんだし、細かいことは後から気にすることにしたのだ。

何せ今は時間が無い。モアが激突するまで12時間を切ってるんだからな!

 

 

「ああ!ちょっと!おいてかないでよー!!」

 

 

そしてエルイット、テメェはもう少し空気呼んで動こうな?

情けない声出して走ってくんな!シリアス台無しだぜ!

と、微妙にメタなこと考えつつ、基地から出る俺だった。

 

 

***

 

 

さて、案内すると言ってくれたミューラにホイホイ付いて行った俺達。

気が付けばナヴァラ基地の裏手へとやってきていた。

はて、こんな所に入口があるんだっけか?と一瞬原作知識と照合したくなったが、んな駒家ぇ事まで覚えてないのでパス。

そうこうしている内にミューラが基地の壁についている小さなスイッチをピポパと操作すると、ガコンガガガガという音と共に金属製の隔壁が開き、地下への入口が露わになった。

何だか秘密基地みたいで、ちょっちワクワクしたのは秘密だ。

・・・でも基地のコンピュータにすら記録されて無いんだよな?

でも普通に基地の敷地内に入口あるんだが、秘匿とかはどうなってるんだろうか?

いや、逆に考えるんだ!灯台もと暗しという言葉もある!

まぁ確かに秘匿された存在が、馬鹿正直に基地にあるとか思わんわな。

俺だったらそんな設備はもっとこう・・・ナヴァラだったら壁面農園に造るとかするし。

あれ数だけは多いからそう言った設備隠すのにはもってこいって感じだしな。

―――っと、話しがずれたな。失敬。

 

 

「――んで、あそこが制御室なんだろうッスけど・・・」

 

「んー、思っていたよりもいるわね」

 

 

制御室の前には恐らく警備の者だと思われるネージリンス兵たち。

その数はおよそ小隊規模、避難勧告が流されたというのに随分とまぁ。

―――っておいおいおい!

 

 

「いやいや、普通に小隊規模で残ってるってどう何スか?」

 

「平時ならもっといたわよ?ここにつめる人間は貴重だったから」

 

「ブ、ブラスターを持ってるね。

アレはメーザーじゃなくてフォトン、つまりはレーザーだ。

 下手に近づくと灰にされちゃうよ・・・」

 

「う~ん、ココは一つエルイット少尉に肉の壁に――」

 

「僕の説明聞いてたよね!?」

 

「そんなことよりも、今はあいつらをどうするかが問題だろう?」

 

 

目的の制御室はこの先だ。そこにたどり着くにはあそこを突破しないといけない。

さて、問題は連中が俺達の言葉を聞いてくれるかどうか―――

 

 

「ムリだろうね。逃げなきゃ死ぬって言うのに残っているなんて普通の精神状態じゃないさ」

 

 

だろうね。あーもう、ミョルニルアーマーでも着てくるんだったなぁ。

マッド達の趣味で普通にレーザーとか防げるから吶喊出来るのに。

 

 

「あのう、増援を呼ぶとか・・・」

 

「そんな時間は多分もうないんじゃないスかね」

 

「でも、どうするの?兵士たちを突破できなきゃアルカンシエルは使えないよ?」

 

「派手なドンパチも禁止よ。制御室が壊されたらどちらにしてもなにも出来ないわ」

 

「うーん、出来ればあんまり使うつもりはなかったんスが・・・」

 

 

俺はそう言うと懐から3つのボールみたいな球を取り出した。

黒光りするプラスチックみたいなもので覆われ、あからさまに赤いスイッチが付いている。

 

 

「・・・なんだい?そのいかにもって形をした球は?」

 

「ケセイヤさん必殺の非殺傷爆弾まーくつーッス」

 

「「「必殺の非殺傷爆弾Mk-2?」」」

 

「のんのん、まーくつーッス」

 

 

ひらがななのがポイントね!

ついこの間、これで何十回目になるか分からんけど、ケセイヤの部屋を家宅捜査した際に押収したケセイヤ特性の爆弾だ。

非殺傷って銘打っているから、今回の避難誘導で暴徒が出た際に役立つかなぁって思って持って来ていたんだが、まさか本当に使う羽目になるとは――。

 

 

「どんな効果があるんですか?」

 

「知らんねぇ」

 

「いや知らないって」

 

「だって一回も使ったことなかったし、でもケセイヤさんの手製だし、大丈夫ッスよ」

 

「「ああ、確かに・・・」」

 

「「なんでそこで納得するの!?」」

 

 

納得するトスカ姐さん&ユピに驚愕するエルイット&ミューラ。

だってケセイヤさんは我が白鯨艦隊マッド集の筆頭なんだZE☆

まぁそんな訳で―――

 

 

「喰らってたまげろッス!鬼才っジョン・ウーに捧げる芸術的爆発!」

 

「「「「はぁ?!」」」」

 

 

あ、そうか。この世界にその手の映画はもう残ってないんだっけ?

まぁいいや、とりあえず3つの丸い球のあからさまなスイッチをポチっとな。

ピッピッピッというお決まりの電子音が響いたら、兵士たちに向けてポイっちょする。

 

 

「―――ん?なんだ?」

 

「お、おい!まさか手榴弾――」

 

 

連中がソレを投げ返す前に、炸裂。

 

≪ばっちゃっーーーーーーーーーーん!!!!≫

 

黒い球から大量の白い粘々が飛びだし、小隊ごと絡め取り―――

 

≪ジュルジュルジュル――≫

 

「う、うわっ引っ張られ、ってお前ひっつくな!」

 

「しょ、しょうがねぇだろう!こっちも引っ張られて、オワッ!?」

 

―――やがて人間を固めた様な球体オブジェが3つ完成したのだった。キモ。

 

 

「おうおう、流石はケセイヤさん。粘着物質を用いた非殺傷兵器ッスか。

鳥モチバスターみたいなもんスねぇ」

 

「いんや、それよりも使い勝手がいいよ。乾くとベタつかないみたいだ」

 

 

おお!本当だ!しかも完全な球体に近いから、捕まえた人間ごと転がせるぜ!

コレはいいモノだ。今度武装局員の特殊装備として案件通しておこうかな。

とりあえずまとめてひっ捕まえた小隊連中は、俺とユピで外に運びVB-6TCに乗せておいた。

まぁ残して行くには忍びねぇしな。

 

 

「ここが制御室・・・誰もいないッスね」

 

「うわぁ可哀そうに、外に居た連中ここには誰もいないのに守ってたって訳だ」

 

「とにかく、制御室を確保したからシステムを立ちあげないと」

 

 

ミューラはそう言うとコンソールに向かい、自分の階級章をなにかの機械に通した。

 

 

「・・・フッ、ありがたいわね。まだ私のIDでもまだシステムが動くわ」

 

 

するとシステムが立ちあがり、制御室のモニターに灯がともる。

エルイットもコンソールに座り、システムへアクセスを始めた。

んで、俺とトスカ姐さんやユピはというと―――

 

 

「がんばれー!ガンバレー!」

 

「二人とも頑張ってくださーい!」

 

「いや、声出して邪魔しちゃだめだろう?」

 

 

コンピュータ関連で出来ることが無いので、応援するしか無かった。

だって、ネージリンス軍謹製の奴だから、扱ったことないしな。

マッド達を呼んでいたらまぁなんとかなったんだろうが、どうも外が凄いことになっているらしくてここまで来れないらしいから仕方が無い。

 

 

「――インフラトン反応炉No.01~No.30まで並列稼働。

No.00は――チッ、まだできてない。なら01~30のバイパスからなら・・・ビンゴ!

エネルギーはコレで良し!次は発振体ペレットは――

クッ、試作モデルしかない。技術部の連中め、サボってたわね。

これじゃ一回の照射で焼き切れちゃう・・・ううん、それならリミッターを解除して」

 

 

なにやらぶつくさミューラがぼやいているが、こっちにゃさっぱりだ。

サナダさんかジェロウ教授がいればわかるのかねぇ?

すこしして、なんとかアルカンシエル砲を稼働させることに成功したらしい。

なら後は発射するだけであるが、上空に展開中の白鯨を巻き込む訳にもいかない。

なので、射線に被らない様にこっちが移動すべきか。

それともキチンと計算して撃ってくれるのか聞こうとした。

だが―――

 

 

「だめね。やっぱり未完成って・・・」

 

「どうしたんスか?」

 

「管制プログラムがまだ出来あがってないの。

お陰で手動で諸元を合わせないと発射できないわ」

 

 

トラブル発生である。

未完成の兵器故、火器管制がまだ完成していなかったらしい。

その為、自動照準が効かない為、誰かがここに残り手動で照準を合わせねばならない。

なら、外から遠隔操作するとか―――

 

 

「言っておくけど、外部からのハッキングを防ぐために完全に隔絶されたシステムだから遠隔操作もムリよ。それと発射には関係者の認証が不可欠」

 

「ミューラさん、あんた、残るってワケッスか・・・」

 

 

う~ん、そいつは困った。ここに残るって事はかなりの確率で死ねる。

だって、モアが通過するだけにしろ、凄まじい重力変調の嵐が発生する事は確実だからだ。

そんなのが起きたら、幾ら頑丈な岩盤の下にある地下都市でも耐えられるか。

下手すらそのままこの制御室が墓穴になっちまうぜ。

 

 

「さて、ココからは専門家の仕事だよ。

君たちはもう戻った方が良いよ。後はやっとくから」

 

「はぁ?エルイット?あなたなにいってんのよ」

 

 

突然この話を聞いていたエルイットが、コンソールから立ち上がると、俺達に退室するように言った。どうしようかマッド達に相談しようとして、デメテールに連絡を入れようとしていた所だったので、携帯端末を落すところだったぜ。

ミューラも驚いた顔をして、エルイットを見ていた。

 

 

「怖いけど、ぼ、僕だってエリートエンジニアだからね!これくらいなんとかなるさ。

他の人間は邪魔だからコレを扱える僕らだけにしてくれないかな?集中したいんだ。

それに艦長も言ったよね。ナヴァラを助けたいのは自分の我が儘だって・・・。

ならコレは・・・僕の我が儘だから――」

 

「いやソレはいいとして、あんたら置いてことになるんだけど・・・良いんスか?」

 

 

俺がそう言うと、彼は首を横に振りながら応えた。

 

 

「邪魔だから邪魔だって言ってるだけさ。

 どうせ居たって、さっきからおしゃべりしてて役に立たないんだ。

 先に星から離れていてよ」

 

「・・・私抜きで勝手に話を進めちゃって・・・仕方ないわね」

 

「判った!それじゃ後頼むッス!」

 

 

実際おしゃべりつーか雑談してて、ここじゃ役に立たないからな。

エルイットの言うことにも一理ある、ならそれを邪魔してはダメだろう。

それにまだ脱出させた避難民は衛星軌道上のデメテールにいる。

まだ避難活動は終わっていないのだ。

 

 

「エルイット・ルーフ技術少尉、ミューラ管制官、貴方達の勇気は称賛に値する。どうかご無事で」

 

「―――ああ、そっちもちゃんと皆を助けてくれよ」

 

「早く行きなさい。もうあまり時間は無いわよ」

 

 

エルイットはコンソールを操作する手を止めず、返事だけ返すと作業を再開した。

ミューラも同じくコンソールと格闘しつつ、一瞬だけ片手を上げただけだ。

彼らはモニターに表示される複数のデータを同時に処理している。

ミューラさんは兎も角、エルイットもマジでスゲェやつだったのね。

だが、彼らの顔はもはや何とも言えない表情だ。まぁここに残れば十中八九死ぬ。

ソレを思えばそんな顔にもなるってモンか。

 

 

***

 

 

とりあえず、俺達は一度地上に戻り、待機していたVB-6TCに乗り込んだ。

細かな岩盤が落下し始めた地下都市を生身出歩くのはもう無理だった。

生命反応が地下都市各所にあるが、とてもそこまで手を回せない。

一応VB-6TCの艇長に、もう少し救助活動出来ないか聞いたんだ。

だが、もう最後の避難船が退避を開始しており、これ以上ここには留まれないらしい。

いずれにしろアルカンシエル発射後もう一度戻る訳だが、その時まで残っているナヴァラの住民達は自分たちだけで生き残っていて貰うほかない。

仕方なしに俺達はそのまま地下都市を離脱、最後の避難船に回収して貰った。

俺達を回収した避難船はそのままデメテールへと向かい、避難民を降ろすのだという。

地下都市から出た際に外を見たが、周囲は巨大なデブリが増え、地上へと落下していった。

ナヴァラの地表に新たなクレーターが出来るのを見ながら、俺達はデメテールへと帰還したのだった。

 

 

 

 

デメテールに戻った俺はすぐにブリッジに向かった。

もうアルカンシエル発射まで時間が無い。

安全圏に退避しなければ、デメテールごと発射の際の重力波に巻き込まれる。

惑星間の超レイザーをこんな至近距離で発射するのだ。

少なくてもナヴァラの陰に入らなければ被害は免れない事だろう。

それに既に大小様々なデブリが対空砲火をくぐり抜けてきている。

デフレクターに接触しては砕け散るものがほとんどだが、それでも危険だ。

 

 

「ただいま皆!トーロもお疲れッス!」

 

「――デブリβ―234を照準!撃ェーー!!・・・おう、ようやく帰ってきたか」

 

 

俺がいない間大分頑張ったのだろう。かなり疲れ切ったトーロがそこにいた。

これまでずっと迫ってくるデブリの対処をしていたのだ。

精神的に疲れるのも無理はないな。

 

 

「ねぎらいたいとこッスけど、今はそれどころじゃないッス。

後は引き継ぐッスから休憩してくれトーロ」

 

「ああ、判った。後頼むわ・・・」

 

 

そう言ってもう半分寝ちまいそうな感じで身体を引き摺り、ブリッジを後にする。

俺はトーロがブリッジを出ていくのを見送り、コンソールを操作する。

一応大方の情報はユピ経由で聞いているが、それ以外の詳しいのはまだだ。

ソレを察してかトスカ姐さんがすぐにブリッジ全員に向けて回線を開けた。

 

 

「皆、とりあえず現状報告!先ずミドリ!全体の進行状況!」

 

「避難民の受け入れ完了しました。詳しい数は不明ですが十数万規模は救出。

 また現在惑星接近の影響で強力な重力変調が発生しています。

ですので、これ以上の停泊は危険だと判断します」

 

 

先ずミドリさんの報告が最初に上がった。

ナヴァラの総人口はおよそ212万人、救い出せたのは10分の一にも満たない。

だがそれでも、俺達がいなければ助からなかった人たちだ。

だから彼らを助けた俺達は、彼らを近くのネージリンス領星に連れて行く義務がある。

 

 

「次!航海班!」

 

「今の所、重力アンカーで各艦船体を安定させてるが、もうそろそろヤバいぜ」

 

 

次は航海班のリーフからだ。

ロシュの限界点に近づいたため、惑星同士の重力がぶつかり合い激しい重力変調がこの空域で発生しているのである。

その為、艦隊の艦がお互いにぶつからない様に、空間にとどめておく必要がある。

それが重力アンカーだ。重力による錨がフネが流されない様に安定させてくれる。

だが、彼の報告からするにソレも限界の様である。

 

 

「次!重力制御!」

 

「――周辺の重力変調も・・・艦内に影響を与え始めているわ・・・」

 

 

お次はフネの重力井戸・・・グラビティ・ウェルの調整を一手に引き受けるミューズだ。

何も重力変調はフネの外だけで起きているのではない。

空間そのものに影響を与える為、フネの中にも影響が出始めているのである。

ミューズはそれを食い止めようと、先程からピアノを弾くかの如くコンソールを操作していた。

 

 

「次!砲雷班!」

 

「今んとこ火器管制は正常に作動してるけど、もうコレ以上は対処できねぇぜ」

 

 

デメテールの火器管制を引きうけているストールの報告だ。

HL砲列からは先程から随時インターバル1で連射モードとなっている。

デブリの量が多すぎて、既にセンサーの同時標的可能限界を越えているからである。

なので数撃ちゃ当たる方式を途中で採用したようだ。

ドでかいやつにはマーキングしておき、各艦の主砲で対応している。

 

 

「次!機関室班!」

 

「ソレに比べて相似次元機関は絶好調じゃ。

重力変調で空間が歪み、相似次元とアクセスしやすいからかも知れんのう」

 

 

機関長のトクガワさんの報告だ。

デメテールの機関はインフラトン機関では無く、相似次元機関と呼ばれる別種の機関だ。

アレは違う次元から高エネルギーを取得するという方式らしいから、重力変調が発生している現在次元に歪みでも発生してるのかもな。目には見えんけど。

 

 

「次!レーダー班!」

 

「センサーの方は~デブリが多すぎて現在正常稼働できません~」

 

 

久々に登場したエコーの報告だ。

うん、そりゃねぇ。外見ればもうどんだけーって規模だし・・・。

 

 

こうして報告を受けたが、もう既にこの空域にデメテールが留まるのは限界らしい。

外では避難船代わりの駆逐艦半分を除き、全てが出撃し対空砲火網を形成している。

勿論ププロネンのトランプ隊も全機出撃、とくにVB-6はガザン機を除き全てVB-6TCに変更し、地下都市部から直接避難民をピストン輸送に使っている最中だ。

ちなみにガザン機はその強化されたレールカノンと重ミサイル及び各種ミサイル等をデメテールの上部甲板に機体を固定してフルバーストで発射し、デブリの迎撃に当たっている。

もはや固定砲台見たくなっちまったな。

ちなみに反陽子弾頭の使用許可は流石に出してはいない。

衛星軌道上だから、流石に惑星に近過ぎるんだよね。

 

 

『こちらヴルゴ、艦長!コレ以上は無人艦隊が持たない!早くナヴァラから離脱を!』

 

 

各所の状況を確認していると、ちょっと焦った感じのヴルゴさんから通信が来た。

デブリの数が無人艦隊の対空処理能力を大幅にオーバーしている為、無人艦にもかなりのデブリが命中し被害が拡大している。

一応まだ爆散している艦はいないようだが、時間の問題だろう。

 

 

「これ以上の停泊はムリッスか・・・・」

 

 

出来るだけのことはした。乗せられるだけの避難民を救助したのだ。

元から全部を助けられるなんて思ってはいない。

まだ地下都市にいる人々には申し訳ないが、自力で頑張ってもらうしかない。

 

 

「これよりデメテールは当空域を一時離脱!ナヴァラの裏側へ向けて退避するッス!!

機関全速!!急がないと足元から極太レーザーが発射されるから急げ~!!」

 

「「「「アイアイサー!」」」」

 

 

アルカンシエルについては事前に連絡しておいたので、みんな何が起きるのか理解している。

兎に角、白鯨艦隊はこの場から退避しなければならないのだ。

トクガワ機関長が操る相似次元機関が唸りを上げ、機関出力が上昇していく。

ソレに合わせてデフレクターも力強さを増し、降り注ぐデブリからデメテールと白鯨艦隊を守ってくれていた。

殿にヴルゴのリシテアが最後の砲撃を加えながら、巨石飛び交うデブリ地帯を通り抜けていく。

 

 

≪―――ゴゴゴゴゴゴ≫

 

「ぐ!舵が取られる、ぜ!艦長!少し揺れますぜ!」

 

「総員隊ショック防御!あとミューズさん!艦内重力制御は大居住区を優先ッス!」

 

「了解・・・」

 

 

だが、いかな強力な機関出力を持つデメテールでも、この重力の中を飛ぶのはきつい。

かなりの揺れ、強いて言うならジェットコースター並の揺れが大居住区を揺らしていた。

だがそれでも、避難民がいる大居住区は重力制御されたエリヤだけに被害は少ない。

それ以外の場所では揺れるフネに翻弄されて各部署で重軽傷者が続出するが、フネ全体に発生した重力変調を制御できるほどの制御能力は本船には無かった。

 

 

「八時の方向、上角40度よりデブリ飛来、デフレクター貫通されました」

 

「本艦の装甲板と接触、ですが航行に支障はありません艦長」

 

「対空防御を厳に、機関全速、早い所この危険なエリヤから離脱するッス」

 

 

そして俺達は避難民をその懐に抱えたまま、ナヴァラの裏側のグレーゾーンへと退避した。

俺達が退避するのとほぼ同時に、ナヴァラに白い光りの柱が立ち上ったのを、一瞬だけ垣間見た瞬間。

アルカンシエルのレーザー発射と、ロシュの限界を越えたモアの崩壊により、白鯨艦隊は強大な重力波に揉まれたのであった。

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

―――ユーリ達が離脱している頃、ナヴァラ基地地下制御室では・・・・

 

 

「く、どうして、どうしてだよぉ。出力が上がらない」

 

「仕方ないでしょう?アルカンシエルはまだ未完成品なんだから――789回路からこっちにまわして、なんとかしてみるわ」

 

 

非常電源だけがついた薄暗い制御室に残ったエルイットとミューラが、これでもかというくらいにコンソールを叩きまくっていた。

まぁ、本来なら3~4人でするモノを2人でやっていれば、多少操作が荒くもなるだろう。

それでもコンソールがミスらない辺り、2人はエリートだった。

 

 

「はは、みんなを助けてヒーローになるはずなのになぁ」

 

「あなたにヒーローって言葉はにあわなすぎるわね」

 

「煩いな。いいじゃないか。そんなのにあこがれたって」

 

「そう言うのを誇大妄想っていうのよ。合理的に考えて」

 

「そ、そこまでいうかな・・・」

 

 

言い合いをしながらも彼らは手を止めない。

未完成故にさまざまな個所でエラーが発生するたびに彼らが抑え込んでいるからだ。

8割完成しているとは言っても、動作テストもまだなのにいきなりの実戦である。

そりゃエラーくらいでるわな。

 

 

「・・・でも、よかったの?」

 

「なにがよ」

 

「ここに、その・・のこっちゃってさ?」

 

「・・・はぁ~、あなただけじゃムリだと判断したからよ。大体今までアルカンシエルの開発に手を出していなかったあなたがこれを扱えると思ってんの?」

 

「そ、それはそうだけど・・・」

 

「・・・誰かがやらなくちゃダメなのよ。手段がある以上は、ね」

 

 

ミューラは結局ユーリ達とは離脱しなかった。

アルカンシエルを使うのなら、これをココまで作り上げた自分が最後までやる。

そう言って、彼女はこの制御室に留まったのだ。

ナヴァラの民を巻き込んだという自責の念があったのかもしれない。

 

 

「・・・わかったコレね」

 

「え?」

 

「居住域むけの供給を遮断してないからよ。出力が上がらないのは」

 

「あ・・・出力があがって・・・」

 

 

コンソールを凝視するエルイットが驚きの声を上げていた。

どうやらアルカンシエルのエネルギー供給機関はナヴァラ市街用のと共有だったようだ。

ミューラが一時的にそっちへの供給を止めたから、エネルギーが確保できた。

 

 

「現状で最大50%になり次第、発射するわよ」

 

「う、うん!」

 

 

モニター上に表示された内部のエネルギー量を示すグラフが徐々に上昇していく。

重力波で振動する制御室内部には緊張した空気が張り詰めた。

失敗したら、ナヴァラは完全に破壊されてしまうのだ。手に汗が噴き出す。

 

 

「50%まであと少し、カウントダウン開始――5、4、」

 

 

ミューラがカウントダウンを開始し、同時に網膜スキャンセンサーを使って、コンソールを操作すると、制御室中央の台に黄色と黒の縞に囲まれた、いかにもな赤いボタンが現れた。

制御で手いっぱいのミューラに代わり、エルイットがボタンの前に立ち、一緒にカウントする。

 

 

「「3、2、1――」アルカンシエル!はっしゃぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!」

 

 

凄まじい衝撃と轟音が制御室内に響く。

ナヴァラの地上部施設に偽装されたアルカンシエルの砲身から、高エネルギープラズマレーザーが衝突寸前のモアへと向けて発射された。

白い光りが周辺宇宙を明るく照らし、衛星モアをその奔流に呑みこんでいく。

 

 

「ああ・・・」

 

「ああ・・・」

 

そして、制御室も恐ろしいほどの衝撃により、光を失ったのだった。

 

***

 

Sideユーリ

 

衛星モアはロシュの限界を越えて自壊した。

その際大量のデブリが発生し、ナヴァラへと降り注ぐ筈であったが、アルカンシエル砲が発射されたことで破片ごと吹き飛ばされ、ナヴァラはなんとか穴開きチーズになることを防げた。

アルカンシエルの威力は凄まじく、重力変調まで吹き飛ばしてしまったほどだ。

俺達もナヴァラの裏側に退避していなければどうなっていたことか。

改めてホンマモンの軍隊の底力というモノの片鱗を味わったぜ

 

 

「・・・なんとか無事だったみたいッスね・・・」

 

 

 俺はしがみついていた艦長席から手を離し、パタパタとほぐしながらブリッジを見回す。

 それぞれのシートにはちゃんとシートベルトが搭載されていたので、転んで怪我したとか言うヤツはいないようだ。

 まぁ、かなり激しい揺れだったから、みんなちょっと顔色が悪いけどな。

 

 

「ミドリさん、周辺の状況判ります?」

 

「・・・サーチ完了。ギリギリでナヴァラの影に入れたお陰でコレと言った被害は出ていません。強いていうなら、船尾部分を掠ったデブリで損傷した程度です。コレはすぐに直せます」

 

 

 俺はオペレーターのミドリさんに、周辺の状況を聞いて見た。

 どうやらデメテールは上手いことナヴァラの陰に滑り込めたらしい。

お陰で、こっちには実質的被害は皆無の様だ。

 しかしほんの少しとはいえ、艦尾を損傷するとはな。

 殿のヴルゴ艦隊の収容を終えていて僥倖だったぜ。

 下手したらフネをまた一つ失うところだった。

 

 

「艦内の状況はどうだい?」

 

 

 何時の間にか復帰していたトスカ姐さんがユピに訪ねた。

 ユピも最初は目をクルクルにしてフラフラしていたが、ハッとしてフネの中のスキャンをかけた。

 

 

「えっと、一応重力制御を一番に傾けていた大居住区は無事です。

精々乗り物酔いに掛かった人が出ただけです、はい」

 

「今はサド先生を中心とした医療団が診察を開始したそうです」

 

 

 スキャンが終わりユピはそう報告してきた。

 まぁ大居住区は避難民で一杯だしな。街が一つ内包されていると言ってもいいし。

 重力制御に気を付けていなかったら、どんなことになっていたことやら・・・。

 つか、ミドリさんが続けて言っていたが、医療団動くの速いな。

 怪我人がいたらすぐに直しちまうような連中だし、すぐに復活を遂げたんだろうなぁ。

 

 

「―――ですが大居住区以外の区画で小規模ながら被害が発生。

物資保管庫の一部で火災が発生している模様」

 

 

―――げ。

 

 

「幸い無人区画だった為、現在その区画を閉鎖。真空にして火災を消し止めました」

 

「あっちゃー、やっぱり大居住区以外には被害出てるッスかぁ」

 

「事前に対ショックの指示が飛んでいたので、死んだ人はいません。ですが、一部物資コンテナが崩落したり、振動で配線等がショートして火花が発生した為にボヤを起したようです」

 

 

 う~ん、やっぱり被害は発生してたかぁ~。

 いや、でもアレだけの重力波の嵐の中でコレだけで済んだことの方が僥倖か。

 フネ自体が巨体だから、一部分の酸素が抜けた位じゃ問題はない。

 バイオマスプラントとオキシジェンジェネレーターもあるしな。

 少なくてもこの程度じゃ酸欠とかはおこさんぜ。

 

 

「さて、とりあえずデメテールは航行に支障はないみたいだが・・・どうするユーリ?」

 

 

 トスカ姐さんんがそう聞いてくる。いやまぁやることは決まってるんだがね。

 

 

「・・・全艦に通達。本艦はもう一度ナヴァラへと降りる。救助の続きッス」

 

 

 折角アルカンシエルでデブリが消えた訳だし、まだ生きてる人もいるだろうからな。

それに飛び散ったデブリが軌道上を回っているらしいから、早めに救助しに行かないと、またデブリの雨が降って救助活動が難しくなる。

数時間だけだと思うけど、やらないよりかはマシやねん。 

てな訳で、デブリがもう一度来襲する前に、ナヴァラに降下するぜぇ。

 

 

「あいよ。通達しとく―――既に避難した連中はどうする?」

 

「そうッスねぇ~・・・タムラ料理長に炊き出しをお願いしてくれッス。一時的に本船の食糧庫の制限を解除。出来るだけ暖かい飯でも出してやってくれッス」

 

 

 被害を受けた避難民たちは大なり小なり傷付いているからな。

 少しでもそれらを軽減させるには、飯を食わせた方が良い。

 序でに俺は毛布や怪我人の治療(コレは既に勝手にやってる)などを提供するように通達しておく。コレで少なくても避難民たちがいきなり暴徒になる様なことは防げるはずだ。

 何せ住んでいた所が崩壊した直後だ。どんな精神状態なのか想像に難くない。

あんまりしたくはないが警戒することに越したことは無いだろう。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

………

 

 

 とりあえず、救助の準備が完了するまで少し時間がある。

 何せ先程の重力変調で色々とフネの中のモノを引っ掻き回されたのだ。

 それを片づけるのに時間が掛るのはいたしかたない。

 決してマッド達の研究所からあやしげな爆発音やらが聞こえてくる訳じゃない。

 そうだ、見てはダメだ。見ればきっと―――

 

 

「うわぁぁぁ!!きたぞぉぉぉぉ!!」

 

「開発中の機動兵器が勝手に動いてるだよっ!?」

 

「誰だ!ゾゴジュアッジュなんて作ったヤツは!!」

 

「「「「班長で~~~すッ!!!!!」」」」

 

「俺か!俺のバカぁ~~~~!!!!」

 

 

―――・・・・。

 

 

うん、見なかったことにしよう。ハイヒールはいた機動兵器なんて気色悪いしな。

ちなみにこの機動兵器は半自立型であり、今回の件でスイッチオン!それで動いたらしい。

ハタ迷惑な話である。ちなみに後日廃棄処分された。

さすがにアレを使いたく無いというか、乗りたがるパイロットがいないというか・・・。

設計図ごと廃棄したらしいので、もう再現は無理だろう。

何のために造ったんだか・・・。

 

 

 

 

 ソレは兎も角として、俺は大居住区にある難民キャンプに赴いていた。

 大居住区は10km近くあるから、中に普通にキャンプ作れるんだよね。

 つーか、ビルディング内部のスペース結構余ってるのだ。

だからそっちに優先で入って貰っている。

それに大居住区内はコロニーと同じく気候や気温の調整が容易だ。

外で屋根無しという環境は少し不安だろうが、風邪はひかないと思うのでそこら辺は許容して欲しい。

 一応俺達がここに来た際に使用したテントなどを貸し出したりはしている。

 ・・・といっても全然数が足りない。避難民は十数万以上いるのだ。

仕方ないので現在整備班達が布と骨組のみの簡易天幕を建設している。

イメージ的には自衛隊の海外支援のと似ているのかもしれない。

住む場所よりも、簡易トイレやお風呂、飯を食べる為の集会場の建設だ。

それ以外のパーソナルエリアに関しては、申し訳ないが勘弁して貰うほかない。

どうせ数日中にネージ系の領星には送り届けるのだ。 

それでも文句いうようだったら、最終兵器「テメェら!放り出すぞ!」を使わざるを得ない。

ソレやると後で政府がうっさいのでやらないけど、俺のストレスがマッハになればどうなるか・・・。

 

 

「おお、野外炊事場は、まさに地獄ッス・・・」

 

 

 さて、現在炊き出しを行う為に造った野外炊事場に来ている訳なんだが―――

 

 

「退けい!大鍋が通るぞ!」

 

「スープやシチューはいいとして主食が足りねぇぞ!パン以外は米か!?」

 

「フードカッターの設定はコマ切れにしとけ!調理時間短縮だ!」

 

「し、塩が!塩が足らんのですッ!」

 

「調味料各種調達してきた!たりねぇところは自分で取りに来い!」

 

「おらおらおらおらー!肉を捌くぜ!」「野菜を剥くぜ!」「野菜を刻むぜ!」

 

「ツァイ!ツァイ!」

 

「そんなことより!おうどんたべたい!」

 

 

――――あー、うん。なんて言うか。

 

 

「すげぇ熱気、下手に近寄れないぜ」

 

 

 野外に設置された即席の厨房だというのに全員手を抜かない。

 作っているのは大人数に対応できて尚且つ食べやすいシチュー系の料理の様だ。

 何処で調達したのかは知らないが、炊き出し用に五右衛門風呂が出来そうなほど大きな鍋が設置され、その鍋を総料理長タムラが巨大な木製スプーンで引っ掻き回している。

 そこは機械に任せられないとでも言うのだろうか?流石は料理長。パネェ。

 

 兎に角、そんな感じで着々と艦内における避難民たちへの配給が実施された。

 また、ドロイド達を用いて入ってはいけない場所は封鎖してある。

 ユピも当然のことながら見張っており、避難民たちは大居住区からは出られない。

 時たまなにをトチ狂ったのか、大居住区から抜け出そうとするバカもいたが、このフネの中はユピそのモノなのだ。

 当然何処か他の区画に行ってしまう前に、ドロイドや警備の人間に捕まっている。

 デメテールは勝手に出回られると危ないところもあるからな。

 捕まる人間の殆どは好奇心に溢れた子供が多いらしいが、中には大人も混じっている。

 前者は兎も角、後者の方々にはご遠慮願いたいところだぜ。

 

 

「―――ん?あれは・・・」

 

 

 人ごみでごった返している簡易厨房のすぐ脇の物資置き場。

 そこに見慣れた緑の髪をした少女を見つけた俺はそこに近寄った。

 

 

「――シチューの鍋はドロイドに持ってもらうわ。パンの配給は一人最大3個までとしてね。食糧は惜しみなく使っていいらしいけど、アコーさんのリストによればパンはもうあまりストックが無いらしいの」

 

「了解です。お嬢」

 

「シップショップの在庫も使うらしいから、そっちの方からも貰って来れるようお願い出来る?」

 

「任せてください。作業用にVFかエステ借りれればコンテナごと持ってきますぜ」

 

「ん、お願い」

 

 

 どうやら食糧の配給について指示を周りに出しているらしい。

 彼女は最初期メンバーという位置だから、結構厨房関連では権限があるようだ。

 今も、携帯端末片手に己よりもガタイの良いアンちゃん達を動かしている。

 つーかお嬢とか・・・筋モンじゃあるめぇし。とりあえず声かけとくかな。

 

 

「オッス。精が出るッスねチェルシー」

 

「あ、ユーリ。こんな所に来てどうかしたの?」

 

「いやまぁ姿見えたモンで。俺は今いろんな部署を見て回ってるんスよ」

 

「そっか、大変だね。あーもう、私もコレが無ければついてくのになぁ」

 

 

 携帯端末を振りかざし、ちょっと残念そうにいうチェルシー。

 え?彼女なら以前の様に黒化して勝手についてくるだろう?

 いやいや、それがまたどうして、意外と彼女は平常時はまともなのだ。

 以前のアレは俺という存在が近くに居なかった為に生じた・・・あ~言わば禁断症状みたいなもんだ。

 この娘の依存症は結構深いからな。普段はこうして平常な普通の娘なんだけど、あの時は長いこと離れていた所為で依存度からくる鬱憤がたまりにたまっていた訳だ。

 あの後の標的は俺のみのスーパー鬼ごっこでガス抜きしたから、普通に戻ったのである。

 普通になると、彼女は本来の気質である真面目な性格から、仕事をきっちりやる。

 だからあの暴走を起した後でも、普通に元の仕事場でお仕事に励んでいるという訳なのだ。

 というか、笑うと可愛いモンだから老若男女問わず人気あるのよねこの娘。

 暴走しなければ普通に可愛らしい女の子なのにねー。

 

 

「はは、お仕事は大切ッス。それを判ってるからチェルシーは手を休めてないんスよね」

 

「だって、お仕事は大切だモン。他の皆も頑張ってるから、私だけサボれないよ」

 

「うん、偉い偉い。兄ちゃんは嬉しいぞ」

 

「えへへ、そう言って貰えると何だかうれしいな」

 

「おうおう、そかそか」

 

 

 褒めてやるとはにかみながらにっこりとするチェルシーに、なんかグッときた。

 まぁ顔には出さずに俺は仏の笑みでほかほかと言った後、チェルシーと共に作業していた連中の方を振り返る。

 作業を邪魔しちまったからか、ちょいと怪訝な顔されちまってるな。失敗失敗。

 

 

「―――お前らもウチの妹を手伝ってやってくれよ?よろしく頼むッス」

 

「「「勿論です艦長!」」むしろ彼女を嫁にくださ≪ドゴンッ!≫ぐはっ!」

 

「もう!ふざけたらダメだよ!仕事に戻る!」

 

「「へい!お嬢!」」「ふ、ふぁ~い!」

 

 

 ヴァカな男がいたようだが、俺が手を下すまでも無かったようだ。

 一応だがチェルシーはまだ14歳の少女だ。手を出せばロリコンだぜ。

 せめて後2年は待て、心は日本人の俺なら(相手次第だが)許すやもしれん、ぞ?

 もっとも、その時には俺とVFとかで一騎打ちして貰うがな。

 手加減?そんなことしませんよ?大事な妹守れる奴じゃなきゃ任せる気なんて無いね。

 

 

「チェルシー、男は狼だから気をつけるッスよ」

 

「??うん、わかった。――それじゃ、私は仕事に戻るから」

 

「ウス、頑張ってくれッス」

 

「ユーリもね。それじゃね」

 

 

 仕事に戻る彼女を見送った後、俺も俺で色んな所を見て回る。

 やっぱりね、ブリッジで情報聞くだけじゃ判らんこともあるんですよ。

 託児所的なエリア作らないと、イザコザが起きるとか思わんかったわ。

 とりあえずデメテールに収容した避難民達はなんとかなりそうだ。

 ホント、よかったぜ。

 

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

 さて、一時騒然となったデメテールだが、避難民たちが落ち着くとそれに比例して艦内の状況も落ち着いていった。

 まぁ騒然といっても、コンテナが崩れていた程度であったし、精々ケセイヤデザインの機動兵器の失敗作が変にショートした回路の所為で勝手に誤作動した程度である。

 兎に角、避難民たちを落ちつかせ、艦内環境をどうにかした彼らは、もう一度ナヴァラへと降下する準備に入った。

 第2次ナヴァラ救助支援を行う為である。一応ついさっきモアが崩壊した所なのだ。

 もしかしたら埋まった地下都市部にまだ生きている人間がいるかもしれない。

 そう言う訳でまだもう少しここに留まっての救助を行うことになった。

 ちなみに機関は最長3日、それ以上は避難させたナヴァラの民から苦情が出る。

 それに、3日も経てば天井部に亀裂が入ったナヴァラ地下都市の気圧は0になる。

 どうあがいても3日間が焦点なのだ。それ以上は・・・探しても無駄である。 

 そんな訳でアルカンシエル発射の影響で空間ごとクリーンになったナヴァラ上空へと戻ってきたデメテール。

 ヴルゴ無人艦隊を発進させ、空間通商管理局のステーションへと向かわせた。

 ステーションは表面上はボロボロであったみたいだが、機能は何ら問題無く作動しているらしく、ヴルゴ艦隊の入港を打診すると、いつも通りの対応で許可された。

 

 この空間通商管理局のステーションは国が作ったモノでは無い。

 星間国家が組織される以前から存在する営利活動を目的としない謎の集団。

 絶対中立をうたう空間通商管理局により運用されてきた。

 なぜ国家が彼らに口出しをしなかったのか?簡単である。

 空間通商管理局が扱うのはステーションだけでは無くボイドゲートも含まれるが・・・。

 扱えなかったのだ。人の身ではアレらオーパーツとも呼べる代物は。

 ロストテクノロジーに分類されるソレらをコピーは出来ても、完全に解明することが出来た人間はマゼラン銀河には存在していない。

 特にボイドゲートは空間通商管理局が完全に取り仕切っている。

 その為、もしも何らかの理由で彼らがへそを曲げた場合。

 ボイドゲートにより通運を確保している星間国家は完全に干上がるのである。

 それ故、ボイドゲートを用いる星間国家では暗黙の了解として、空間通商管理局が管理する施設には不干渉ということが定められたのだ。

 それは今でも変わっておらず、いかに戦争しようがなにしようが、国は彼ら空間通商管理局にはちょっかいを出さないのである。

 今回の一件はある意味でその“ちょっかい”の範疇に入りそうであるが、普通に入港を許可する辺り、やはりあまり問題にはされていないのだろう。

 まぁロストテクノロジーで作られたステーションを破壊することは非常に困難であり、むしろその頑丈さの所為で匙を投げられたという裏話もあるのだが、関係無いことなので省略する。

 

 とにかく、ユーリ達はなんとか機能しているステーションに入ると、そのままこれまたなんとか機能している軌道エレベーターを用いて地下都市部へと降りた。

 メンバーはユーリは勿論としてトスカ、そしてヒマだったトーロである。

 後は部下が十数名、ユピは艦内のことがあるのでデメテールで待機と相成った。

 さて、軌道エレベーターは所々デブリ衝突の影響で穴が開いていたりしていた。

だがロストテクノロジーだろうか?

デブリで空いてしまったと思われる外壁の穴に、謎のエネルギーによるスクリーンが張られ、それにより宇宙と中が遮断されていた。

 ソレのお陰でエア漏れは起こっていない。

 流石は空間通商管理局の運営する施設、管理局の科学力は銀河一!なのだろう。

 

 なんとかガタガタする軌道エレベーターを降りて地下都市部に入る一同。

そこには崩落した岩盤で多くの建物が潰された見るも無残な地下都市が広がっていた。

 とはいえ、惑星の衝突が起きた場所としては非常に被害の規模は小さい。

 精々が巨大地震に巻き込まれた程度である。

 これがもしあのままアルカンシエルを発射せず、ロシュの限界を越えたモアをそのままにしていたら、この地下都市のある空間自体が存在しなかったことだろう。

 とりあえず軌道エレベーターの基部へと降り立った彼らは、周囲の捜索に当たる。

 この時、救助隊の一人が軌道エレベーター基部施設内部にある0Gドック用の酒場において、避難してきた人々と思われる一団を発見して保護している。

 考えてみればあの崩落の後も普通に動いている施設だ。避難所と化していても不思議ではない。

 

 ユーリは彼らをデメテールに避難させるよう指示し、それ以外の人員は周辺の捜索に当たらせることを指示した。

 デメテールからはマッドを中心とした科学班などの人員を呼び、倒壊した建物の下に人がいないかを調べさせる。

 機材の方はVB-6TCに輸送させるので、すぐに作業を開始できることだろう。

 そして序でにVFなどの機動兵器もナヴァラに降下させる。

長時間の単独行動が出来ないエステはムリだが、内燃機関を持つVFなら倒壊した建物を掘るのには十分すぎる重機となるだろう。

 そして、このマッド達を呼んだことで、デメテールに新たな力が加わるのだが、そのことをユーリは知らなかった。

 

 

…………………………………

 

 

…………………………

 

 

…………………

 

…………

 

 

 ナヴァラ軍基地に赴いたユーリ達であったが、そこは完全に倒壊していた。

 振動で崩れたというよりかは、落ちてきた天井に潰されたと言った感じか。

 どちらにしろ、もしこの基地の中に人がいたとしても助かったりはしないだろう。

 まぁこの基地に居た人間は、衛星モア崩壊直前に一緒に脱出させた筈なので、恐らくは大丈夫だろう。

 そしてユーリ達は基地の裏手に回った。

 崩落した天井の破片などで若干ゴミゴミしているが、ここの入口はなんとか無事の様だ。

 

 

「これはまた、随分とボロっちくなっちまったねぇ」

 

「二人とも生きてればいいスがねぇ。とりあえず入って見るしかねぇッスね」

 

「んだね。それじゃトーロ、逝って来い」

 

「えー!コンだけボロボロなのに入ってる時に崩壊したらどうすんだよ!」

 

「葬式代は出してやるッス」

 

「ヒデェ!」

 

 

 とりあえず中を調べることにしたユーリ一行、選ばれたのはトーロだった。

 ユーリとトスカのちょっと理不尽な云い様に少し憤慨はしたが、彼はしぶしぶと中へ降りていく。

 

 

「―――大丈夫だ!意外と中は壊れてねぇぞ!」

 

 

 しばらくして中に入ったトーロから大丈夫らしいから降りて来いと言われた。

 ユーリとトスカも基地に降りてみると、確かに中は外と比べると綺麗だった。

 地下施設なため、地震並の振動でも壊れなかったのだろう、地下は地震に強いのだ。

 赤い色の非常灯が点いた通路を進み、彼らは制御室の扉の前へとやってきた。

 ここまではそれ程損傷も無かったので、制御室も大丈夫だろう。

 そう思い彼らは制御室の扉に手をかけた。

 

 

「あれ・・?制御室のドアが開かねえぞ?」

 

「おろ?」

 

「んん?おかしいねぇ」

 

 

 制御室のエアロック式ドアの横にある開閉スイッチを押しても反応が無い。

 どうやらモア崩壊の衝撃の所為で何処かが壊れたようだった。

 トーロがドアの隙間に手を突っ込み、うぐぐぐぐと唸って開けようとしたがびくともしない。

流石は軍用、そん所そこらの人力程度ではあけることはできないらしい。

 

 

「どうするよ?」

 

「う~ん、爆破してみるッスか?」

 

「おいおい、そんなことしたら下手すると倒壊するよ?一応持ってるけど、この建物はダメージを受けてるんだからね」

 

 

 ダメージが少なそうとはいえ、流石に爆薬はダメだろう。

 目には見えない程のダメージなら、爆発の振動でヤヴァイことになるかもしれない。

 じゃあ、どないすんねんとユーリが言い掛けたその時―――

 

 

「・・・まぁ待ちな。ちょいと待ってな」

 

 

 トスカがそう言って二人を退かすと、ドアの開閉スイッチの横に立った。

 ユーリ達からはトスカが陰になって見えないが、何やら手元をカチャカチャ動かしている。

 しばらくして、エアが抜ける音がして、扉のロックが緩んだ。

 

 

「よっし、これで後は引っ張れば開くだろう。誰か手を貸してくれ」

 

「トスカさん、今のって―――」

 

「昔取った杵柄ってね。良い子は真似したらダメさ。おねーさんとの約束さ」

 

 

 流石はトスカ、昔やんちゃしていただけはある。

 まぁ必要であったから身に付けた技能だったのだろう。

 それが良いか悪いかは別にして・・・。

 

 

「それじゃ、セーノッ!」

 

 

 ユーリの掛け声でトスカ、トーロ、その他がドアを両側から引っ張る。

 やはり歪んでいるドアは中々動かなかったが、ユーリがどこから見つけて来た棒をドアの隙間にはさみ、てこの原理で思いっきり押すと、少しずつであったがドアが開いていった。

 やがて、ある程度までこじ開けた所―――

 

 

≪―――ガコンッ!!≫

 

「うわっと!?」

 

 

―――いきなりすんなりと動き、ドアが開いたのであった。

 

 

「あ、ああ!ドアが開いた!ミューラ!たすかったよ!」

 

「・・・ええ、本当ね・・・」

 

「少尉!ミューラさんも無事ッスか!」

 

 

 ドアを開けると崩壊した制御室の僅かなスペースに、エルイットとミューラがお互いを抱きしめ合うかのようにして座りこんでいた。

 微妙に煤汚れてはいるが、どうやら目に見えた怪我はしていないらしい。

 制御室の崩壊具合からすると、ある意味で奇跡に近いだろう。

 

 

「ユーリ艦長!助けに来てくれたんだね!僕・・・きっと助けに来てくれるって思っていたよ!」

 

 

 自分たちが助かったからか、子供の様にはしゃぐエルイット。

 だが、それを見たミューラはというと――

 

 

「あら?さっきまで見捨てられたってブツブツ言ってなかった?」

 

「う・・・」

 

 

―――何気に容赦ない言葉で、エルイットを責めていた。

 

 

「というか、今までここに閉じ込められてたのか?」

 

「ええ、参ったわ。こんなところにエルイットと二人きりなんて」

 

「大丈夫だろう?そいつがあんたに何かするような度胸がある様には見えないしねぇ。こと、女性に対しては・・・」

 

 

 意外と毒舌な女性陣にorzするエルイット。

 がんばれ。頑張ればきっと良いことがあるかもしれないさ。宝くじ的な割合で。

 兎も角、二人を救出したユーリ達は、他にもいた要救助者達を連れて一度デメテールに戻ったのだった。

 

 

 さて、ユーリ達が要救助者を探している最中、マッド達はというとナヴァラにある軍施設に侵入を果たしていた。

別に軍基地だけが軍の施設ではない。実験施設や色んなモノが結構あったりした。

 特に地表に向きだしになったアルカンシエル砲は、その高出力を出す機構などを解析し、今後の兵器開発の参考にしようともくろんでいた。

 そしてどうやら兵器開発の部署と思われる所に来た彼らは、集められるだけの情報を集めていた。

 

 

「おお、見てください教授。コレは新型兵器の図面では?」

 

「これは・・・ほう、“重力制御を利用した光子力砲”とはまたケッタイな代物だヨ」

 

「光子、つまりは光の粒子を重力で圧縮させて指向性を持たせる」

 

「上手く使えりゃ、従来の出力を越えるレーザー砲の完成ってか?」

 

 

 流石は正規軍の軍事施設、機密情報と思わしきモノが沢山ある。

 恐らくは企画段階のモノから、既に図面まで完成しているモノまで沢山あった。

 

 

「こっちは“ボイドフィールドの原理を利用した任意物質崩壊理論”か・・・上手いこと兵器転用できればソレだけで戦略級兵器だな。どう思うケセイヤ?」

 

「ボイドフィールドってあれだろ?ボイドゲートの周囲に展開されるどんな攻撃すら防ぐ謎の力場じゃなかったか?」

 

「ちょっと正確では無いネ。あれは“防ぐ”ではなく任意に“分解”させているんだヨ」

 

「そう言えばそんな理論を研究していたことがあったと昔聞いたことがある。もっとも情報開示を空間通商管理局が拒否したから研究は進んでいないと思っていたが・・・」

 

「ちょっと違うなサナダ。こういったのは解析装置を積んだフネを何回も往復させれば自然とデータは集まる」

 

「レーザーもビームもミサイルも・・・任意に物質を分解できるなら意味を為さないネ」

 

 

 なにやら兵器転用されたら偉いことになりそうなデータを見つけたマッド達。

 だが、それの技術を既に持っていると思われるのが管理局だと判るとケセイヤが叫んだ。

 

 

「くぅぅぅ!空間通商管理局に勤められればなぁ!そういう内部機器弄り放題なのに!」

 

「「「確かにあれのロストテクノロジーはさわりたい」な」ネ」

 

 

 マッド達の頭には新技術解明の文字しかない様であった。

 まぁ管理局は基本ドロイドで運営されており、生きた人間は補給系とかでしか雇用されない為、中枢は謎に満ちているのである。

 ソレは兎も角、マッド達はその後も様々な軍施設をまわり、ついにはアルカンシエル砲の研究部署まで発見した。

 さりげなくシェルターの様になっていた施設で、今回の騒動で人は逃げたが緊急システムが作動して分厚い隔壁が降りていたのだが、VFのパワーの前では敵で無かった。

 

 

「成程なぁ~、強度とコスト面の問題故に、シンプルなガス式レーザーにしたってワケか」

 

「ある意味で正解だな。シンプルな方が作りやすくて頑丈だというのは歴史が証明している」

 

「軍人の蛮用に耐えられることこそが兵器の基本、か」

 

「それでこの威力なんだから、小マゼランの技術も侮れないネ」

 

「「「違いない」」」

 

 

 こうして、表向き救助がなされていながら、裏では勝手に技術を吸収している白鯨。

 ある意味ばれたら問題なのだが、そこはばれなければ良いのだろう。

 この収穫に満足したマッド達はさっそく手に入れたモノを使い趣味に没頭する。

 サナダとジェロウが設計し、ミユが材質を選び、それを元にケセイヤが作り上げる。

 マッド達が結集した時、只の机上の空論が現実となる。

 それは、はたして白鯨にとって有益なのか、はたまた破滅を呼びこむのか。

 星間戦争に他銀河からの侵略戦争とアクシデントの種は尽きない。

 しかし、これだけは言えた。

 マッドは何処に居てもマッドであると。 

 

 

***

 

 

救助活動は3日目ギリギリまで続いた。

地下都市の中のエアが完全に危険域に入るまで、がれきの下や崩壊した建物を探して回った。

VFのファイター形態が使えるヤツは全員参加だ。勿論俺も例外じゃない。

一杯探して、探して、見つけたのが腕一本って事もあったが、それももう終わりだ。

 

 

『・・・艦長、まもなく地下都市内の気圧は0になります』

 

「――了解したッス。現時刻をもってして、救助者の探索を終えるッス。他の皆にもご苦労様と伝えておいてくれッス」

 

『了解です。通信終わり』

 

 

その時俺は自分専用VF・・・ではなく、ノーマルVFのコックピットに居た。

俺のVFは何故かマッド達に持って行かれてしまった。なので仕方なくノーマルなのだ。

 

ソレは兎も角、デメテールからの通信を受け、他の救助を行っている連中に対し、救助作業終了の指示を出して通信を切った。

やるべきことはやった。助けられるギリギリまで救助活動は行ったのだ。

コレ以上手を貸す義理は無い、大体ネージの方が救助隊を出さないのが悪いのだ。

 

そう言えば傍受した両政府の通信によると、どうも惑星アーマイン上空でのネージとカルバの戦いは、ネージが辛うじて勝利したらしい。勢いに乗って惑星を一つ奪い返したらしいが、かなりの戦力を消耗し、実質痛み分けなのだそうだ。

お陰で反戦気運が高まりを見せているとの情報があったから、セグウェンさん辺りが水面下で活動を開始する事だろう。あの人狸だし。

 

まぁその戦力消耗の影響で軍の再編がてんやわんやになった所為で、本来なら救出に訪れるべき軍隊の救援が殆ど来なかったというのがある。

お陰でデメテールは腹いっぱいに避難民を満載しているんだぜ。

大居住区の収容能力がパネェから、今の所寝泊まり関連に影響は出てないがあまり長くは収容できないしなぁ。

ウチの生活班の班長アコーさんによると、あと精々1週間程度が関の山。

それ以上は倹約なりなんなりしないと無理、か。

まぁ避難民なんだし、他の惑星に届ければそれで終わりなんだがね。

バイオマスプラントと兼任した食糧生産プラントは一応稼働しているし、圧縮食料もカルバライヤ軍から略d・・・もとい、戦利品として頂いたものが異常にあまっている。

飢え死にという事態はあり得ないから、まぁ大丈夫だろうよ。

 

 

「ふぁ~あ・・・ま、俺に出来るのはこれくらいだから、化けて出ないでくれッス」

 

 

俺はそう言い残すと、VFのインフラトン・バーニアを吹かして地下都市から離脱し、軌道上のデメテールに帰還することにした。

まったくもって、救助というのは大変な作業だった

最終的に判明したモアの破片衝突による死者はおよそ50万人以上となっている。

生存したのは150万人、殆どが定期便を乗っ取った即席避難船。

それとデメテール以外にも救助を行っていた0Gのフネやらに助けられたようだ。

その内の10数万人はこっちが受け持ったので、割合的には一番数は多いだろう。

・・・ウチのフネに移住する人とか募集してみようかな?

戦闘班だけじゃなくて、裏方業務である生活班系も人手は足りない。

コレだけ大量に人がいるんだから、多少募集しても問題無いかもな。

 

 

「―――あ、パリュエンさん、俺ッス。実はちょっとやってほしいことが・・・」

 

 

募集はやれるだけやっておこう。まぁ多少選考はさせてもらう。

無駄飯喰らいを養えるほど、ウチは裕福じゃないからな。主にマッドの所為で。

それなりに集まるならよし、ダメでも今よりかはましだろう。

そう考えつつ、デメテールに帰還したのだった。

 

 

***

 

 

デメテールに戻って来た後、俺達はそのままナヴァラの空域を離脱。

その足で隣星のアーマインへと針路をとった。

道中、敗残兵的な連中が数十隻ほどいたが避難民を満載しているので全てスルー。

ステルスモード美味しいですを経験しながら、順調に航路を進んだ。

そしてアーマインまで無事に戻って来れた訳なんだが―――

 

 

注:AAはイメージです

 

 ( ゚д゚ )  ←ユーリ

_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_

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―――という感じでコンソールを・・・え?訳が判らん?

 

 

「つまり、これはどういうこと何スか?」

 

「はぁ、それが予想外な事態に発展しまして・・・」

 

 

俺が何故驚いていたのか?それはちょいと前にパリュエンさんと話した事に起因する。

通信で人材確保が出来ないかパリュエンさんと相談した後、彼はそのままナヴァラ避難民たちに人員募集を公布してみた。

ウチは万年人手不足だし、この際ヌコの手も借りたいという感じだ。

溺れる者は藁をも掴むとでも言えばいいんだろうかね?違うか。

まぁ兎に角、避難民たちにウチで働かないかというのを聞いて見た訳だ。

そして、その結果が―――

 

 

「ま、まさかこんなに沢山応募が来るなんて・・・予想外ッス」

 

「家族持ち許可で、ローテーションはあっても週休二日が大きかったようですね」

 

 

そう、想定していた以上に応募が殺到したのである。

流石に多すぎた為、この件をパリュエンから任されていた担当がウチが戦闘艦であることを話して、尚且つ俺所有のフネだから、よく海賊と戦ったりするということを説明したのだが、それでも半数以上が残ってしまったらしい。

ちなみに、半数減ってもまだ想定の数倍の人数だったんだぜ?

志望動機は避難所に入っても次の職を探すのに苦労するだろうから、多少危険でもウチで働いた方が稼げそうだという理由が多かったらしい。

んで、流石にどうしようって話になって、このフネの実質上トップの俺に話が回ってきたって訳である。

 

 

「選考基準で更に採用者を減らして、戦闘枠にまで広げたんスよね?ならコレ以上はどうしようもないから、とりあえずくじ引きで決めるしかないッス」

 

「はぁ、やはりそうですよね」

 

「ウス。今の所必要な人間の数には限界があるッス。欲を出せば後少しは大丈夫ッスけど、ソレやると選考で落された連中がうっさいッスからねぇ~」

 

「ですね。ではこのようにします。いいですか?」

 

「おう、それでやっちゃってくれッスー」

 

 

当初は生活班のみだったんだけど、どうにも選考基準をくぐり抜けた人間が多くて戦闘枠でふるいにかけようとしたんだが、それすら突破しやがったからそれなりに優秀なんだろう。

小型船舶の運転免許持ちも多いらしいし、これで大幅な航空戦力の戦力アップが図れる。

まぁ最も、戦闘機は初めてという連中が多いらしいし、おまけにウチの戦闘機はトリッキーだから成れるまでは訓練漬けの日々になるだろうけどね。

 

 

「さてと―――」

 

 

 

人事のことを報告に来た部下が帰ったので、俺は俺でまた仕事を再開する。

結局フネの責任者を気取っちゃいるが、全然自由じゃねぇ~。

前から言ってるけど、もうね、アホかってくらいの書類をね、消化せにゃならんのですわ。

 

 

「―――ヒマラヤクラスの登山をする直前が、こんな気分なんだろうなー」

 

 

書類のチョモランマ、いまから登攀開始です!――さぁ、コーヒーの準備は万端か?

 

 

「うっし!やるか!」

 

 

俺は頬を両手で叩いて気合を入れ、最終決算しなきゃならない書類に手を伸ばした。

何せ沢山避難民を乗せたからな。アーマインに着いた時にネージリンス軍から救出に掛かった費用を全額負担してもらえることになったんだが、それについての書類とかが仰山出た。

最初見た時は発狂しかけたね。ネージリンスの阿呆!鬼!過労死させたいのか!

あいつ等こんなときでも役所仕事しやがって、書類出さないと金ださねぇとは・・・。

こう言う時、ネージリンスの合理性的な性格っつーモンが恨めしい。

いや、キチンとやればちゃんとやってくれるけど融通が気かねぇンダよなぁ。

それと、現在俺以外の主要クルーが顔も見せないのは暗にコイツの所為だったりする。

皆それぞれ自分の部署の方で人手不足に四苦八苦しながら書類を片付けている筈だ。

ドロイドは書類決算出来ないからな。コレは自分たちでやるしかないのである。

てな訳で、俺も俺の書類を消化させてもらうZE☆・・・もう死にそうだけどな。

 

 

 

 

 

 

―――そして、それから数時間後。

 

 

「あ~う~、脳がふっとうしちゃう~」

 

 

熱暴走限界まで頑張っていた俺の元に―――

 

 

『ピピ――艦長、超長距離からのIP通信が来ています』

 

「あーうー、今居留守でー『送り主は、セグェン氏からですが?』――え?」

 

 

―――突然狸親父からの通信が舞い込んだのだった。え?ナニソレ怖い。

 

 

***

 

 

■デメテールBブロック・第3層・長距離IP通信室■

 

 

ここはデメテール内に数ある通信室の内の一つ。

何気にブリッジに程近いくせに、通信やらなんやらは大抵ブリッジで、ことが処理できるのであまり使われない場所だ。

そんな場所に態々来たのには理由がある。通信してきた相手がセグェン氏だからだ。

あの一見好々爺に見えるセグェン氏は、和平交渉の裏でちゃんと戦争準備も同時進行させていた狸な爺さんである。

もっとも、それくらい出来なければS・G社をあそこまで大きくは出来なかったんだろうが。

まぁそんな人物が、態々俺みたいな一介の0Gドックというアウトローに連絡を入れようとしているのだ。

ただ事ではないことだろうし、かと言って通信に出ない訳にもいかない。

そんな訳で密会的な通信に臨むって訳である。

 

 

「こちら白鯨艦隊のユーリです。セグェンさんお久しぶりです」

 

『おおユーリくん、久しぶりだね』

 

 

通信に出たのは絵面だけなら某カーネルおじさんに似ている気がする爺さんだ。

いやだって眼鏡にひげでステッキまで持ってるんだぜ?

似てる似てないというのなら、俺は断然似てるに票を入れるね!

 

 

『どうかしたのかね?ユーリくん』

 

「・・・いえ、ちょっと色々とあって疲れていまして」

 

『ソレはいけない。仕事をするのならほどほどが一番ですぞ?身体を壊しては元も子も無いですからな』

 

「エエ確かに・・・」

 

 

軽い現実逃避を起していたが、すぐにセグェン氏から声をかけられた為現実に引き戻される。い、いやだー、オラはもっと夢の中に居たいズラー!とか内心思ったのは内緒だ。

 

 

「そう言えば、アーマインの方で噂で聞いたんですが、カルバライヤと和平交渉の任を任されたと聞きましたが?」

 

『ええ、何分先の戦いで両陣営ともかなりの人材を消失してしまいましたからな。今、和平交渉の為の調整が進んでいる所です。今は私の通信網を用いて、向うの方と非公式に会談が持てないか化策中なんですよ』

 

 

なるほど、公式会見の前に上層部で打ち合わせしておくってわけだ。

そうすれば余計なイザコザで和平交渉がこじれる心配は無い。

和平交渉とは言うが、実際は国民に見せる為のエンターテイメントの側面が強いからな。

恐らく非公式会見の方が本命なんだろうよ。

 

 

「なるほど、セグェンさんも頑張ってください。ところで今回はどのような御用ですか?」

 

『いやなに、我等の同胞を白鯨艦隊が沢山救助したとの情報を得ましてな?御礼を申したいと思ったのが一つあります』

 

「流石は小マゼランに名をとどろかせるS・G社、情報が早いですね」

 

『企業にとって一番の武器は情報の有無ですからな。内容次第では黄金以上の価値を生み出すこともあるのです』

 

「成程。まぁお察しの通り、ナヴァラで救助活動をやって、なんとか十数万人助け出せただけなんですがね」

 

『同時刻、本来なら真っ先に救出に訪れるべき航宙軍が、再編の真っ最中で救助に来れなかったのです。ですからあなた方は誇って良いんですよ。それだけ同胞の命が救われたんですから』

 

「そう言って貰えると、ちょっとほっとしますね」

 

 

い、胃が痛い。表面上すっごくお互いに笑顔で話してるんだけど、セグェン氏全然目が笑って無いんだけど?俺なんか不味いことしたのか?

 

 

『あと、小耳に挟んだのですが、避難民たちから人員を募集したそうですな?それも大量に』

 

「ええ、万年人手不足だったもんで――」

 

『困りますな。勝手に同胞を人材として登用しようなんて』

 

「あー、えーと。ごめんなさい?」

 

『いえ、まぁソレはいいのです。ですが管理局に話しは通しましたかな?』

 

「え?何故です?」

 

『おや、忘れたのですかな?ある程度の集団雇用の際には0Gの場合、管理局に届け出を出さないと、フネのクルーとして認めてもらえず宇宙港に降り立てませんぞ?』

 

「ゲッ――」

 

 

思わず声を漏らしてしまった。

慌てて端末を開いてセグェン氏の言った事を確認してみるとその通りだった。

序でにウチの避難民雇用を任せていた部下に確認をとった所、彼もその事を忘れていたらしい。

そうなると、空間通商管理局にクルーの申請を出しに行かねばならない。

だが、現在その事務に回せる人員がいないんですけどー!!

事務処理が行える人間は現在ネージリンス軍に出す書類の整理に追われている。

俺も含めて、今現在管理局に申請書を掛ける人間が残っていないのだ。

流石に申請する予定のクルーに任せるにもいかないし・・・どうするべ?

 

 

『――ふむ、何でしたら此方の方で手を回しておきましょうかな?』

 

「え?」

 

『そちらは避難民のことで手一杯の御様子。この老人が一肌脱ごうと思いましてな。なぁに、ウチも長いこと宇宙を縄張りに商売しているんです。そう言ったコネは幾つかありますからな。ご心配なさらずに』

 

「は、はぁ・・・」

 

 

不味い。何が不味いのかというと、今の現状を鑑みたら非常に魅力的な申し出なのだ。

ウチとしては人手が欲しいし、ヤッハの事を考えると時間も惜しい。

だから早い所書類を出して、正規クルーとして雇用したいのである。

現状手が空いていない此方としては、ホントにありがたい申し出に映るのだ。

・・・相手がセグェン氏ではなければな。

 

 

「・・・何がお望みです?」

 

『はて?これは只の好意として、人生の先立者からの―――』

 

「セグェンさん、あなたは非常に賢しい辣腕家です。また利益に聡いとも効いた事があります。ですから率直に聞きます。我々に、一介の0Gに肩入れしてまでして欲しいこととは何ですか?」

 

『・・・・』

 

 

正直、これを聞いた時はストレスで俺の胃袋の寿命がマッハだった。

だってこれを聞いた途端、今まで好々爺とした表情が一気に無表情に変わったんだぜ?

ソレは一瞬だったけど、マジで怖かったんだ。

こちとら前世を含め高々数十年生きた程度でしかない若造。

対して相手は云十年会社を引っ張ってきた実業家。

どっちが強いかなんて明白だろ?だけど俺は聞かなきゃならなかった。

こんな時期に態々こんなことを言って来る相手の真意ってヤツを・・・。

しばらく黙っていたセグェン氏であったが、少しするとまたあの好々爺の様な笑みを浮かべて口を開いた。

だが、その声色は先程とは少し異なり若干暗い。

 

 

『ユーリくん達はご存知ですかな?――エルメッツの艦隊が密かにとある勢力と接触していたことを・・・』

 

 

エルメッツァが接触した勢力なんて、この時期のことを考えればヤッハバッハしかないな。

てことは、

 

 

「話し合いで拗れて全滅でもしましたか?」

 

『驚いた。まさか知っていなさるとは・・・』

 

「・・・当てずっぽうで言ってみるもんですね」

 

 

・・・なんてこったい、もうそんな時期か。

どうやらエルメッツァの先遣艦隊がヤッハバッハと接触を果たしたらしい。

そして交渉が拗れてエルメッツァは実力行使に出たものの全滅した。

どういうルートかは知らないが、セグェン氏はその情報をいち早く入手したようだ。

エルメッツァ先遣艦隊に一体なにがおこったのか、そのことを事細かに説明してくれた。

 

***

 

Side三人称

 

 

ユーリ達がナヴァラ上空に留まり、救助活動に没頭していたその頃。

エルメッツァが派遣した先遣艦隊が、本国から離れる事約20光年の位置にて、謎の勢力とされているヤッハバッハ艦隊がいる宙域に到達。

両陣営は会談を行う為に、ファーストコンタクトを取ることまでこぎつけていた。

そしてお互いの艦隊から使者を乗せたフネが一隻ずつ発進。

両陣営のちょうど中間点に当たる位置にて停泊し、階段を行う運びとなったのだった。

 

 

「言語変換ジェネレーターの交換は済んでいるな?」

 

 

そしてエルメッツァ側の大使として、軍務官であるルキャナンが向かっていた。

彼は言語変換ジェネレーターが作動できるかどうか副官に訪ねていた。

 

 

「は、先程交換を終えてあります。データ形式はやや異なっていましたが、問題無くコンバート出来ました」

 

「そうか、最低限の文化水準はあると見える」

 

 

大国の威信をかけた話し合いではあったが、長年小マゼラン一の大国として君臨してきたエルメッツァはヤッハバッハを警戒こそしていたが、それ程危険視はしていなかった。

何故ならエルメッツァにとって現在の位置はホームグラウンドと言ってもいい宙域。

たいして相手はとてつもなく長い航海を続けてきたと思われる一団。

常識的に考えて、長距離の航海を行った相手が、準備を整えた大艦隊相手に奮戦出来る訳が無いと考えていたからだ。

長年大国として君臨した事が、彼らの心情を傲慢にしていたと言えることだろう。

 

 

「もうじきレーダー範囲に入ります。それから30秒後にコンタクトの予定」

 

「うむ・・・」

 

 

エルメッツァ側のフネ、エルメッツァ中央政府軍が正式採用している戦艦であるグロスター級が、ヤッハバッハ側の大使が乗るフネへと近づいた。

有視界で相手の姿を見たエルメッツァ人たちは、一世代前のフネのデザインを取っているヤッハバッハ艦を見て、威圧感こそ感じたがそれ程強い訳ではないだろうと考えていた。

しかし、その距離が縮まるにつれて、徐々にその考えが間違いであることに気づかされる。

 

 

「!!これ程巨大な艦だとは・・・」

 

 

ルキャナンが思わずそう呟いていた。

エルメッツァ中央政府軍が採用しているグロスター級の全長はおよそ800mである。

たいして、ヤッハバッハ側のフネはというとグロスター級の倍以上。

ダウグルフ級とよばれるヤッハバッハ帝国の高位士官に与えられるそのフネは、全長が2250mもあるのだ。

近づけば近づくほど、その威圧感は半端ではない。

システム化が進み、最低限の砲塔しか無いグロスター級に比べ、ダウグルフ級は船体各所に対空ビームシャワークラスター、対空ミサイルランチャークラスターを備えている。

上甲板には4連装主砲塔が2基備えられ、艦底には大型リニアカタパルトまで装備されている。

全身がそれこそ武器の塊、無骨ながらも無駄が無いそれは戦うフネだという事を嫌でも思い知らされる。

 

 

「軍務官、ヤッハバッハに対する認識を改める必要があるのでは?」

 

「む・・・」

 

 

ルキャナンは副官の言葉に一瞬眉を寄せる。

今回軍務官を任された彼は非常に優秀な男であり、副官が漏らした言葉に内心同意していた。

しかし、だからこそこの場でそれに同意することは躊躇われた。

戦争では士気というものが非常に重要なファクターとなる。

精神力だけでは戦えないが、精神力が無いと戦えないのもまた真実なのだ。

いまここで彼が同意してしまえば、そのことが部下の間に伝染してしまう。

万が一戦闘になった場合、そのことが最悪の事態を招く可能性もあった。

それゆえ、ルキャナンは副官の言葉には答えず、そのままヤッハバッハ艦へと向かうのだった。

 

 

「ようこそ。我がヤッハバッハ先遣隊旗艦、ハイメルキアへ。艦隊総司令はこちらでお待ちです」

 

「は・・・」

 

 

エアロックを抜けると、出迎えたのは撫で肩でのっぺりとした感じの顔をした男だった。

仮面のように何処か張り付けた様な笑みを浮かべ、こちらへどうぞと手招いている。

よくある参謀タイプの人間かルキャナンは思いつつ、初めて乗る異星系のフネを見回した。

通路は非常にシンプルかつ、大人が4~5人ならんでも走れるほどの広さがあった。

これは非常時の移動をスムーズにさせる為の処置だろうと彼は思った。

次に歩く時に足に響く感じから察するに、通路の材質はかなり丈夫な金属でつくられている。

エルメッツァ系には無い酷く分厚い感じを受けることから、厚もかなりあるのだろう。

それはつまり豊富な資源を元に、恐ろしく頑丈につくられたことにほかならない。

それでいて一見しただけではソレは理解できないのだから、技術力はかなりのものだ。

ルキャナンは案内されながらも、密かにそうやって相手の観察を怠らなかった。

そして少し進んで昇降機を何度か乗り変えたあと、恐らくは会議室に通された。

そこには金髪蒼目の美丈夫が1人、椅子に腰かけ窓から外を見つめている。

その人物は此方が入ってきた事に気が付くと、微笑みながら振り向き、声をかけて来た。

 

 

「エルメッツァの全権大使、ルキャナン殿ですな。私はライオス・フェムド・へムレオン。ヤッハバッハ皇帝ガーランドより、小マゼラン銀河への先遣艦隊総司令を仰せつかっております」

 

「これは・・・」

 

 

ルキャナンを含め、副官や護衛官達も驚いた表情になる。

なぜなら異性国家の人間である筈の人物の口から、自分たちの国の言葉と同じ言語を発したからである。

それも訛りなどまったくないとても流暢な、聞いていて清々しいほどの発音で。

 

 

「驚きましたな。随分と流暢なエルメッツァ語を話される」

 

 

この場に居るエルメッツァ人の心情を代弁するかのようにルキャナンは応える。

それを聞き、ライオスはまるで子供が悪戯に成功したかのように笑みを浮かべた。

 

 

「はは。彼女・・・ルチアから教わったのですよ」

 

「ルチア・・・?」

 

 

ライオスの言葉に、改めてルキャナンはその背後へと視線を向ける。

そこには、居並ぶ副官らしい男たちに混じって、一人の女性が立っていた。

ルキャナンの視線に気が付いた彼女はライオスの方を向き、ライオスが頷くのを見て改めてルキャナンの方を向いて口を開いた。

 

 

「ルチア・バーミントン・・・かつてツィーズロンドのアカデミーで主任を務めておりました。軍務官にも2、3回お会いしておりますが、覚えていらっしゃいませんか?」

 

 

ルチアと名乗った彼女は、どうやらエルメッツァの出身であるらしかった。

そう言えば何処かで見た顔だと思っていた矢先、ルキャナンはあることを思い出し吃驚した。

 

 

「まさか・・・消息不明となったエピタフ探査船の・・・!?」

 

「はい。今はライオス様に拾われお世話になっております」

 

「・・・っ」

 

 

あっけらかんとそう応えるルチアに対し、ルキャナンは顔を顰める。

何故なら彼女が本当に消息不明となったエピタフ探査船の乗員であったなら、此方の情勢がほぼ丸ごと相手に渡っているということにほかならない。

態々この目の前の美丈夫の副官何ぞやっている辺り、ほぼすべての事を話したと見て間違いない。

エルメッツァは大国とはいえ連合国家である。つまりは言い方は悪いが寄せ集めなのだ。

これまで他国に対して確固たる態度をとれてきたのは、とどのつまり大国故の張り子の虎であったが為であった。

だが、今回のこの相手はその張り子の虎が通じる相手では無いことをルキャナンは密かに感じ取っていた。

そして、ルキャナンの考慮したことは、まるで台本があるかのように的中する。

 

 

「彼女のお陰で小マゼランの政情、国勢などを既に我々は把握しております」

 

「なっ・・」

 

 

思わず驚きの声を出しそうになったルキャナンだが、その次に放たれたライオスの言葉に、更に驚愕する事になる。

 

 

「その上で申し上げる。エルメッツァ政府は即座に我々ヤッハバッハに無条件降伏し、その下へ入っていただきたい。現政府は解体し、我々の総督府をツィーズロンドへ置く。勿論軍は我々の指揮下ということになります」

 

 

突然の降伏勧告。

エルメッツァ星間連合という大国相手に、目の前の若き美丈夫は気遅れもせずそう言いきったのだ。つまりは我が軍門に下れと、彼らはそう突きつけて来たのである。

 

 

「そ・・・そんな条件がのめるとお思いか?」

 

 

冷や汗が止まらないルキャナンは、何処か震えそうになる自身の声をどうにかしてやりこめて、そう返した。

対するライオスはどこ吹く風。ちょっと演技臭く顎に手を当てて考える仕草を取る。

 

 

「・・・たしかエルメッツァ本国の艦船数は、3万隻ほどとか」

 

「む・・・」

 

「そちらの宙域レーダーでは全容を捉えきれておらぬでしょうが、我が先遣艦隊のそう艦隊数は―――12万です」

 

「っ!?」

 

 

12万、目の前の美丈夫は12万と言ったか?一瞬わが耳を疑うルキャナン。

だがそれを顔には出さない様になんとかポーカーフェイスを保つことには成功する。

 

 

「・・・そのような・・・はったりを・・・」

 

「はったりとお思いなら、現実の力でお見せするまで」

 

 

ライオスの何気ない風に放たれたその一言だけで、ルキャナンは理解してしまった。

この美丈夫が話した内容は、全て本当のことなのだろうということを。

仮にハッタリだとしても、相手の言う通り此方の宙域レーダーではヤッハバッハ先遣艦隊を把握できなかったのだ。

その情報がもたらすこと、それはつまり―――

 

 

「元々、我々ヤッハバッハは、そちらの方が得意なのでね」

 

「く・・・では、これ以上の交渉は無意味ですな。失礼する!」

 

 

したり顔でそう言って来る美丈夫に対し、憎々しいという感情をもはや隠そうとしないでルキャナンは荒々しく席を立ち、会議室から出ようとした。

これは警告でも勧告でも何でもない、ただの命令なのだ。

自分たちに従えと命令しに来たのだ彼らは。

いそいでエルメッツァ側の先遣艦隊と連絡をとり、戦闘準備を整えなくてはならない

そんな彼をライオスが呼びとめた。

 

 

「ルキャナン大使」

 

「まだなにか?」

 

「ズィー・アウム・ヤッハバッハ・・・」

 

「・・・?」

 

「我々はヤッハバッハである、という意味です」

 

「・・・、それ以上の説明は要らぬ、と?」

 

「ふふ・・・」

 

 

ライオスは不敵な笑みを浮かべると、もう用は無いとばかりに椅子に腰かけた。

ルキャナンはそんなライオスを一瞥したあと、そのまま自分たちのフネへと帰還した。

 

 

―――そしてルキャナンが帰還すると同時に、両陣営は戦闘状態に突入する事になった。

 

 

マルキス提督率いるエルメッツァの士気は非常に高く、全艦放送で提督からの激励の言葉が飛び、その後で一斉に各艦が砲門を開き、目の前の侵略者たるヤッハバッハの艦隊に照準を合わせた。

その一糸乱れぬ行動は、彼らがかなりの錬度を持ち将兵たちであることを物語る。

 

一方のヤッハバッハ艦隊はエルメッツァが砲門を開いても、今だ動こうとはしなかった。

命令系統に混乱が発生した訳ではない。では何故か?

それは彼らにとって、目の前のエルメッツァ艦隊は―――

 

 

「前方敵艦隊、砲門開口を確認・・・どうやら抗戦するようですな」

 

「ライオス様・・・」

 

「どうやらルチアの言う通りらしい。保守的な生に汲々とする連中は、その生を支えるロープが切れそうになっていても気付かぬのだ」

 

「はい、もはや滅ぶべき国であると思っております」

 

「つらくはないのか?」

 

「いえ・・・」

 

「では総司令、如何いたしますか?」

 

「・・・もみつぶせ。我々はヤッハバッハである!」

 

 

―――全く、脅威でも何でもない。ただ刈り取るべき存在でしか無かったからである。

 

 

ライオスのもみつぶせの言葉通り、ヤッハバッハの艦隊は前進を開始した。

ブランジ級突撃艦を先鋒に配置し、それに追随して戦艦、巡洋艦、空母と続く完全な突撃陣形を組んだヤッハバッハ艦隊はエルメッツァ艦隊が放つ一斉射撃を受けてもびくともしない。

その事に指揮を執っていたオムス・ウェルが困惑した声を発していた。

 

 

「うむっ・・・敵艦は射程に入っているのか!?」

 

「入っています!ですがダメージを与えられません!」

 

 

エルメッツァ艦隊の放つ攻撃は、確かにヤッハバッハ艦隊に届いていた。

発射されたビームやレーザーのほぼすべてが敵艦に命中していたのである。

だが、稀にプラズマを発する事はあっても、エルメッツァ艦隊の放つ攻撃は強力なAPFSやデフレクターを搭載しているヤッハバッハ艦隊を傷つけることかなわない。

エルメッツァ艦隊はなんとかして相手の進行を阻止しようとするが、まるでダメージを与えられず、ヤッハバッハ艦隊の接近を許してしまう。

やがて相手はエルメッツァ艦隊を十分な射程圏に捉えると、一斉射撃を行った。

光学兵器の多いエルメッツァ艦隊とは異なり、ヤッハバッハ艦隊から放たれるのは数世代前の実弾型の速射砲であった。

だが、突撃の際の速度が加わった大口径の速射砲から放たれる砲弾の雨は、大蛇の顎門となってエルメッツァの前衛守備艦隊を容赦なく食いちぎった。

実弾兵装があまり使われなくなったエルメッツァ側にしてみれば、相性が悪かったと言うほかない。そして敵は速射砲を放ちながら大型ミサイルまで放って、前衛艦隊を文字通りもみつぶした。

 

 

≪ズズーン!!≫

 

「うおっ?!」

 

「ぜ、前衛艦隊ほぼ消失!中衛艦隊も被害多数!旗艦ブラスアームスも轟沈しました!」

 

「ば、ばかな・・・!僅か一斉射で・・!?」

 

「敵艦隊、速度そのまま・・・突っ込んできます!」

 

「うおぉぉっ!?」

 

 

気が付けばヤッハバッハ艦隊は前衛艦隊を軽々と突破し、エルメッツァ艦隊の中央に躍り出ると、これでもかというほどの全方位攻撃を実施した。

この戦法はヤッハバッハが一番得意としている戦法であり、ブランジ級突撃艦にはその為の全方位型対艦ミサイルクラスターが装備されているほどである。

そしてその戦法をもろに喰らったエルメッツァ艦隊はまさにボロボロと言った状況に陥った。

 

 

「ば、ばかな・・・こんな・・・こんな・・・」

 

「モルポタ艦隊各艦!応答せよ!応答せよ!」

 

 

前衛でありながら最初の一斉射で運良く全滅を免れたモルポタ・ヌーン率いる艦隊も、容赦のない敵艦隊の砲撃を避けるの精いっぱいであった。

すでに中衛艦隊にまで切り込んでいる敵艦隊相手に、引くことも逃げる事も出来ない彼らは、なんとか生き残りを集めようと通信を飛ばす。

 

 

「だ、だめです!すでに80%の艦船を失っています!」

 

 

既にエルメッツァ艦隊は艦隊としての機能を失っていた。

実質的な壊滅状態であると言っても良かった。

戦闘が始まったから、まだ1時間と経過していないのにもかかわらずである。

 

 

「後方の艦隊が離脱を開始しました!我が艦も逃げましょう!」

 

「に、逃げるだと・・・?」

 

 

至近弾が炸裂し、そのデブリがデフレクターを揺らす中、モルポタの副官がそう叫ぶ。

モルポタもそうしようと思い、命令を下しかけたその時。

偶々外部モニターに映る自軍の姿を見てしまった。

突撃してくる敵の艦を食い止めようとグロスター級戦艦やサウザーン級巡洋艦が進路上に躍り出るが、突撃艦はなんと立ちふさがる戦艦に文字通り突撃すると、そのまま胴体を突き破って強引に突破している。

爆散するが砲塔は生きているフネが、行かせはしまいとばかりに奮闘し、止めを刺される瞬間をモルポタはその眼で見た。

 

 

「に、逃げる・・・こんな奴らを・・・このまま我が母国へ・・・行かせるのか・・・」

 

 

行かせるのか?ここで自分たちが逃げて、そのままこの無慈悲な侵略者たちを本国へと?

次々と火の球に変えられる同胞たちをみて、モルポタはこれまでにないほどの怒りを覚えつつも、困惑していた。

 

 

「軍人になったとはいえ今まで・・・これ程の戦闘があるとは思ったことは無かった・・・。無難に任務を終え、ほどほどの出世をし・・・、その後は悠々と年金暮らしをするつもりだった・・・」

 

 

戦闘の弩号が鳴り響くブリッジで、モルポタは艦長席のコンソールに寄りかかる。

彼の独白は戦闘の音にまぎれて、周囲には聞こえてはいない。

内容は、微妙に情けないものだが、職業軍人なのだし仕方が無いだろう。

 

 

「業者からのリベートも受け取った。地方軍に便宜を図り、見返りを貰ったりもした」

 

 

・・・ああ、まぁ周りには聞こえていないから大丈夫。

もっとも聞こえていたらしばらく白い目が絶えなかったことだろうが。

 

 

「大国の軍の中で栄光を楽しみつつ・・・人生を終えればそれでよいと考えていた・・・だが」

 

 

モルポタはもう一度戦場を映しだす外部モニターを見つめる。

 

 

「だが・・・今、こうして本当の母国の危機を見た時・・・そうだ私は・・・私は国を・・・民を守る軍人なのだっ!」

 

 

モルポタ・ヌーンは顔を上げると、同胞軍を滅多撃ちにしている敵を思いっきり睨みつける。

そして、居た!まるで敵はいないかの如く我が物顔で突撃艦の後を続いてやって来る敵艦隊の旗艦の姿を!

今まで適当にすごし、適当に出世し、適当に良い思いをしてきた矮小な男であるモルポタが大声を出し決意した瞬間である。

突然大声を上げた彼に、周囲の部下たちも驚いて彼を見上げた。

 

 

「た、大佐?」

 

「総員を退艦させろ!これより我が艦は、敵、旗艦へと特攻を掛ける!!」

 

 

部下たちは驚き、モルポタが乱心したかと考えたが、彼の出す雰囲気にのまれ全員何も言えずブリッジから退室して言った。

モルポタは船内に残るクルーが脱出ポッドに乗り込み全員離脱したのを確かめると、一人操縦席へと座り、インフラトン機関のリミッターを解除した。

通常のグロスター級からは考えられない程の速度を出し、彼の乗艦は突撃艦の群を突破して、ヤッハバッハ先遣艦隊旗艦、ハイメルキアへと迫る。

突然の敵の愚行にも関わらず、ヤッハバッハは特に慌てた様子を見せることは無かった。

全エネルギーをシールドとデフレクターと推進機に回したグロスター級は、各所に砲弾を受けて炎上しながらもその速度を更に加速させる。

 

 

「う・・うう・・・うおおおおおおおおおッッ!!!」

 

 

モルポタを乗せたグロスター級はそのままハイメルキアへと激突。

同時にリミッター解除で焼き切れる寸前だったインフラトン機関も爆発し、周囲に蒼い火球が広がった。

だが、遠目からその光景を見ていたエルメッツァ軍は、次の瞬間吃驚する。

インフラトンの炎に照らされながらも全くの無傷のハイメルキアが、火球の中から姿を現したからである。

 

 

「・・・少し、揺れたか?」

 

「そのようで」

 

 

そのような会話がぶつけられたハイメルキアの艦橋でかわされたとか。

そして、数時間を経たずしてエルメッツァ先遣艦隊は壊滅。

ヤッハバッハはその矛先をエルメッツァ本国へ向けて、進軍を開始したのであった。

 

 

Sideout

 

 

 


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