【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第六十二章+第六十三章+第六十四章

 

Sideユーリ

 

 

『―――とまぁ、そう言うことなのです』

 

 

俺はセグェン氏からの情報を聞いて、どうやら原作通りの事が起きたと推察した。

エルメッツァ艦隊の壊滅、これは仕方が無い。

敵は非常に強大であり、むしろ数時間持っただけでもすごいことだろう。

 

 

『これを見てどう思いますかな。ユーリくん』

 

「ふむ。エルメッツァの大国神話もこれで終わりでしょうね」

 

『そう、大国は更なる強国に敗れた。コレが意味するところは君なら理解できる筈だ』

 

「・・・小マゼランの壊滅。もしくは従属、ですね」

 

『その通り。小マゼランで一番大きかった国が敗れた。それより小さな勢力しか持たない我々が勝てる見込みは全く無い。恐らく上層部は出来る限りの譲歩を条件に、無条件で降伏する可能性が高い』

 

「・・・まぁ只でさえカルバライヤとの戦争で疲弊している今、新たに戦える力は無いですよね」

 

『そう、我々は勿論。小マゼランに点在するいかなる国も、彼奴らに対抗できる力を持っていないのです。すでに我々は負けたと言ってもいいでしょう』

 

 

・・・この場にトスカ姐さんがいなくて良かったな。

このセグェン氏の言葉を聞いたら、ソレだけで激昂して汚い言葉を吐きだしていたに違いない。

彼女も頭に血が昇るタイプだしなぁ・・・っと、それは置いておいて。

 

 

「成程。つまりセグェン・グラスチ社もどうなるか分からないという訳ですね」

 

『その通りです。今の今までネージリンスにご協力くださってありがとう。コレを言いたかったのです』

 

 

セグェン氏は通信越しではあったが、俺に対して深々と頭を下げていた。

・・・どうやら、俺はこの人を見誤っていた様だ。

商人としての顔もそうだが、コレもまたこの人の素顔なのだろう。

 

 

「その、礼を受け取っておきます」

 

『感謝します。それと我らが同胞を多く救ってくださって、本当にありがとうっ』

 

「・・・偶々近くに居ただけです。別に褒められる様な事じゃない」

 

『―――それでも、私は礼を言いたかったのです』

 

 

そう言うと、セグェン氏はまた俺に頭を下げていた。

腕一本で会社を起し、銀河系に名をとどろかせる程の企業にまで育てた程の男が、宇宙に出てから僅かしか時間が経っていないこの俺に頭を下げる。ある意味信じられない光景だろう。

だけど、いい加減居心地が悪い。なんだか老人を虐めている様な感じがしてならん。

 

 

「あの。もう礼は受け取りましたから、その・・・」

 

『おお、これはいけない。年をとるとついつい感情に左右されやすくなりますわい』

 

「はぁ・・・」

 

『まぁ、同胞の話はこれまでと致しましょう』

 

 

ふむ、同胞の話“は”ね。

 

 

『まぁつまり、これから先、小マゼランに未来は無いのです』

 

「そうなんですか?案外良い統治をしてくれるかもしれませんよ?」

 

『希望的観測に金は掛けられないのが商人です。恐らく無条件降伏後に統治されるでしょうが、そこで我々のようなコングロマリットが優遇される保証は無いのです』

 

 

まぁそりゃなぁ。S・G社は軍部にも深くかかわっていた訳だし?

下手するとそのまま解体される可能性もあるわな。

 

 

『もしかしたらS・G社はお取り潰しとなるかもしれません。そうなれば彼奴等の企業が我が物顔で我々が築き上げた客層も取引先も、研究していた成果すらも持って行ってしまう。それが私には我慢ならんのです』

 

「だが、命あってのものダネでは?」

 

『命あろうとも生きがいがなければ、人は死人と同じですわい。まぁそう言う訳で恐らく取り潰される会社はしょうがないのですが、私は私の宝を侵略者に渡すつもりなんて毛頭ない』

 

「宝、ですか?」

 

『そうです。私の宝。セグェン社が作り上げてきた某大な造船基礎データと・・・私の孫娘です』

 

「・・・」

 

 

おいおい、オイラとっても嫌な予感がするんですが・・・。

 

 

『ユーリくん、お願いです。私の宝であるキャロを、どうか君のフネに乗せてやってほしいのです』

 

 

はい、来ましたー。恐らく核心である話がきましたよー。

なるほど、つまりは避難民云々のことを引き受けるのは、キャロ嬢を俺に預けるということへの非公式な見返りってワケか。

関連性が見いだせない報酬ということになる訳だから、他の人間には判いづらいだろう。

でも、やっぱり疑問が残るな。

 

 

「セグェンさん、一つ聞いてもよろしいか?」

 

『なんでしょう?』

 

「正直に言って貰いたい。何故キャロ嬢を自分のフネに?」

 

『それは以前ユーリくんが良くしてくれたとキャロが―――』

 

「嘘ですね。貴方はそんなことで自分の宝という孫娘を手放す筈が無い」

 

『・・・』

 

「お願いです。腹を割って話しましょう。でなければ私はフネを預かる者として、キャロ嬢を自分のフネに乗せることが出来ない」

 

 

腹に爆弾抱える酔狂さはもってないんよ。

俺がそう伝えると、眉間にしわを寄せてものすご~く悩むセグェン氏。

どうやら思っていたよりもかなり込み入った話のようだ。

どうしよう、俺まだ仕事少し残ってんだヨ。

早くやらないと、トスカ姐さんにチョークスリーパー掛けられちまうんだ。

 

 

『・・・判りました。正直にお話ししましょう』

 

 

っと、いきなりかよ。

とりあえず俺は思考をセグェン氏の方にかた向けた。

 

 

『実はセグェン社にも幾つかの派閥があるのですが―――』

 

「ええ、確か会長派や社長派とかいうヤツですね」

 

『・・・何で知っていらっしゃる?』

 

「以前、キャロ嬢から聞きました」

 

『そ、そうですか・・・まぁソレは良いです。兎に角派閥があるのですが、こたびのヤッハバッハ襲来により、本社がお取り潰しとなる可能性が高いと出た訳なのですが、上層部の何人かがヤッハバッハ高官に贈りものを渡して会社を継続させようと言いだしたのです』

 

 

ここまで来ると大体筋が読めたな。

 

 

「なるほど、その為のキャロ嬢ですか」

 

『そう、我が社の派閥である社長派が中心となってそのような話しが動いているらしいのです。密かにヤッハバッハとコンタクトを取ろうとしていると』

 

「貢物として現会長の孫娘とは・・・これまた3流ドラマみたいですね」

 

『それが現実に起ころうとしているのですから、此方としては堪ったモノではないです。コレを知ったのは秘書のファルネリが教えてくれたからなのです』

 

 

キャロ嬢はああ見えて小マゼランの社交界に顔が知られている。

確かに統治の為に派遣されてくる高官にとってはある意味で非常に有能な存在だろう。

ソレだけでは無く、彼女かなり顔の素材もいいからな。

そっち方面でも人気が出そうだな。うん。

 

 

「・・・しかた無いですね。彼女が慰みモノになるのは流石に気がひけます」

 

『おお!では!』

 

「その代わり、キチンと登録の方お願いしますよ?それと序でに造船基礎データも貰いたい」

 

『その程度で済めば安いものです!すぐにそちらへと向かわせますのでよろしくお願いいたしますぞ!』

 

 

何だか画面の向こうで小躍りしそうなほど喜んでいる。

爺だから見ていても楽しくは無いんだけどな。

つーか造船基礎データは宝じゃ無かったのか?そんなホイホイ渡していいのか?

・・・まあ孫娘には変えられないわな・・・っと、そうだ忘れちゃいけない。

 

 

「ああ、それとキャロ嬢の薬の製造の仕方も教えてほしいです」

 

『お安いご用です。それでは秘密裏にキャロを白鯨に合流させます。合流地点は後でお送りしますので、どうかよろしく』

 

「了解です。ああ、でも一応ウチのクルーと同等、もしくはクルーとして扱いますので、そこはご了承ください」

 

『判りました。キャロにもいい経験になるでしょう。それでは私はコレで』

 

「ええ、それでは」

 

 

こうして、通信が終わり通信室は薄暗い部屋に戻る。

ああ、しかしまたこんなの原作にあったっけなぁ?

少なくてもキャロ嬢がこの時期に合流とか言うのは無かったはずだ。

・・・少なからず俺の行動が影響を与えたかな?

出来れば、バタフライ効果とか起さないでくれよ。

流石に因果律にまで手は出せねぇからな・・・マッドがどうにかしそうだけど気にしない。

 

 

「・・・っと!書類書かなきゃッス!!」

 

 

そう言えばまだ仕事が残っているのだ。急いで戻らねばなるまい。

久々の敬語系で凝った肩をほぐしながら、俺は通信室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

さて、ちーとばかり情報が入ったので整理させてもらう。

セグェン氏から提供された情報によると、エルメッツァ先遣艦隊5000隻を壊滅に追い込んだヤッハバッハ艦隊は、すでに20光年の位置に来ているらしい。

巡航速度で航行したとしても多少の誤差はあれど、大体一か月以内に小マゼランに到達する計算となる。

光の速さで20年掛かる距離を一カ月とか、相当凄い早さということになる。

ボイドゲート使って無いのに後一カ月とか・・・エルメッツァ終わったな。

 

そして各国の対応は、エルメッツァはやはり中心となる艦隊を先の戦争で失ったので、抗戦は絶望的らしい。

ネージリンスの方も、さすがに大国エルメッツァが落されたことで、上層部も重い腰を上げたのか停戦協定をすぐにカルバライヤと締結、艦隊の編成を推し進めている。

一応地方に回されていた地方軍を呼び寄せているらしいが、それでもヤッハバッハの大艦隊に比べれば雀の涙ほどでしかないだろう。

カルバライヤもほぼ同じらしく、艦隊の再編を急ぎつつ、政府の判断待ちといった状況だ。

 

まぁ裏の情報を聞くところによると、どの国でも徹底抗戦を唱えている奴は極僅かでしかいない。

エルメッツァの軍がいれば話は別だったのだろうが、それもいない今、只でさえ戦争で主力を欠いた現状では徹底抗戦では無く、降伏を受け入れるという世論のほうが強い様だ。

 

なまじ民主主義の国家が多いから、結局決めるのは軍でも政府でもなく国民だ。

ネージリンスは国民の気質が合理的な考えに基づくところが大きい為、おそらくは降伏出来るように裏で工作を進めているのだろう。

不気味に沈黙を続ける軍司令部がちと怖いぜ。

 

また民主主義では無く、自治領で領主が収めている星系も結構あるのだが、基本的には不干渉、もしくは静観を決めている。

飽く迄も自治領側としては自分たちが所属する派閥が変わる程度の認識でしか無いらしい。

ヤッハバッハが強大な軍事力を背景にせめてくるなら、あっさり降伏して下るつもり満々の様だ。

まぁ無用な犠牲を出さないという意味では、ある意味とても賢い選択だろうよ。

 

ちなみにエルメッツァは結局こっちの忠告を無視した結果壊滅の憂いにあった訳で、このことを後で主要メンバーのみの会議で話した所、やはりトスカ姐さんが紛糾していた。

だが、こうなることは予想の範疇ではあったらしい。

 

 

「ああいう連中は、いつも同じ間違いを繰り返す・・・いまさら何を言っても始まらないさ。ま、一介の航海者の言う事に耳を傾けろという方が無理だしねぇ」

 

 

――と、ある程度理性的な対応を表面上見せていた。

だがよく見れば手が白くなるほど強く握りしめられている辺り、理解はしても感情は納得していないと言ったところだろう。

今度晩酌を差し入れすることにした。溜めこむのはいくないね。

 

 

それはさて置き、ブリッジクルーやトーロやイネスなども加えた会議はかなり荒れた。

血気盛んな連中はとにかく徹底抗戦すべきと声を張り上げ、客観的に冷徹に物ごとを見ている奴は絶対に無理だから退避すべきと反論する。

そしてどっちつかずな奴らは、自分から意見を出さずに静観の構えだ。

 

とりあえず、大まかに3つの意見があるという形になるわけだが、どの意見も根底には共通するものがある。

徹底抗戦にしろ、一度退避するにしろ、最終的には敵は撃ち倒すという意志が込められているのだ。

なまじ小マゼランは自分たちの故郷、荒くれ者たちとはいえ故郷を蹂躙されて黙って見てられるほど冷血漢がいない事に、ある意味で俺はありがたいと思った。

 

だが、そうなると困るのはヤッハバッハの対応である。

とりあえず正面から対峙するのは論外であるが、このまま逃げても碌な軍事力が無い現在の小マゼランはすぐに占領されてしまうだろう。

だからと言って大マゼランに逃げたとしても、大マゼランにヤッハバッハ艦隊がなだれ込んでくる事は明白だ。

盾にすらならねぇとか小マゼラン使えねぇなオイ。

 

これに対応するには選択肢が幾つかある。

一つは隷属。連中の軍門に下るか隷属に見せかけたゲリラ戦を行うというものだ。

大国相手にゲリラ戦は結構有効な戦法である。致命的な打撃は与えられなくても、戦力を減少させたり分散させることが可能であり、また住民に溶け込むことでテロを起すことも出来る。

俺が元いた世界でもテロなどのアレは撲滅とかは難しかったもんな。

まぁ一般人を巻き込むのはいただけないが、戦術的には正しいかもしれない。

テロリストの汚名を着てもいいのならやればいいんじゃないかな。うん。

 

また隷属を選んでも、弱者は強者へとへつらうのは自然の摂理に基づいたものだから責める人間はいない。

しかし、それだと人間の感情というモノが良しとしないのだ。

例え隷属を選んでも、下手すると鬱憤が溜まり爆発する危険性がある。だが鬱憤に任せた感情の爆発から来る抵抗なぞ、精強な軍事力をもつヤッハバッハ相手には小便引っ掛けた程度にもならん。

逆に反航勢力として一挙に殲滅される可能性が高い。

それなら最初から隷属に見せかけて裏でゲリラ戦だろう。

 

二つ目はすぐに逃げ出す。

今取れる中で一番の最善であり、長期的に見れば最悪と言える策である。

逃げだすことは簡単だ。今だ力が隠されているデメテールであるが、現状であっても巡行でならマゼラニックストリームの荒波でも耐え抜き、大マゼランに退避する事くらいできる。

 

しかし、それをすると俺達が通った航路の痕跡が間違いなく残る。

その痕跡を辿り、そのままヤッハバッハ艦隊が大マゼランに到達してしまう可能性が高い。

そうなれば準備も何もしていない大マゼランはいきなり奇襲を受けるに等しく、例え大マゼランの軍が先遣艦隊を倒しても、現行の技術でその後に来るであろうヤッハバッハ本隊と戦えるか疑問である。

 

なにせ原作では十年以上かけて秘密裏ではあったが準備していた大マゼランの軍ですらヤッハバッハの侵攻により半壊しているのである。

ここで逃げれば漏れなくヤッハバッハ付きで大マゼランがアボーンな運命となるので、逃げるのは最終手段ということになる。

 

 

「・・・なんかもう八方塞がりっぽくね?」

 

「同感(一同)」

 

 

冷静に現状を鑑みると一気に会議室のムードが暗くなっちまったぜ。

何せここまでわかった事と言えば―――

 

・抗戦はムリ

・逃げるもダメ

・逃げても逃げきれry追いかけてきた!?な、何をするー!

 

―――である。会議が暗くなるのもいたしかたないことだろう。

 

 

「一応、科学班及び整備班の方に予算は通しておくッス。

最低でもその場から逃げられる程度の装備は研究しておくことをお願いするッス」

 

 

とりあえず、ヤッハバッハ関連についてはこれくらいしか出来そうもない。

科学班を統括しているサナダと整備班のケセイヤから来ている予算案を通すことを進める。

戦争でジャンク品がめいっぱい手に入ったから、予算的には余裕があるからな。

まだまだ航行中に戦闘後で散らばったジャンクが手に入る。

例え売れないゴミであっても金属ではあるから、最悪溶かして金属のインゴットにすれば、それなりの値段となるのだ。

 

 

「了解だ。ま、なるべく予算内に収まる様にしてやるよ」

 

「・・・普通は予算内が基本何スがねー。あとは新しく引き入れた住民とクルーはどうなってるッス?」

 

 

ケセイヤさん達は相変わらず趣味と興味には情熱を傾けることを惜しまないなぁ。

とか考えつつ、新たに入ってきた乗組員のことを聞くと、パリュエン、ミドリ、ヴルゴが順に立ち上がり、現在の状況を報告し始めた。

 

 

「はい、現在大居住区に部屋を割り当てました。家族持ちは最低3LDK、スペースだけは有り余っているので一人身でも今は1DKの状態です」

 

 

とりあえず乗員の住処は大居住区に設定されている。それは俺達主要クルーも同じだ。

俺に至っては一軒家を最近手に入れて、そこに住んでいる。

まさかフネの中に一軒家があるとか普通は思わねぇよな。

 

さて、大居住区は避難民たちを収容してもまだ余裕があった。

なのでさらにそこから選抜した新入りを抱え込めるスペースは十分にある。

逆にスペースがスカスカなのは、今後を見越してのことなので問題は無い。

 

 

「それとそれぞれ適性職への割り振りを開始しました。現行で元々の職業から7割が選別を終えて、それぞれ訓練へと入っています。また以前の職歴を生かして、大居住区に会社を出すことを許可した為、大居住区都市化計画は着々と進行中です」

 

 

元の職業からすぐに仕事に移れる人間は結構多い。

それ以外にも希望者などに限り、他の仕事を割り振っているのが現状だ。

流石に数が多すぎて、以前のように新入りを適当に配置する訳にもいかないのだ。

そんなことをしたら、現状もし緊急事態になった途端、艦が機能しなくなる。

あ~あ、新人が勝手がわからなくて右往左往するあれ、名物だったんだけどなぁ。

ま、彼ら以降の少数配備の連中の選抜では元に戻すから別に良いけどね。

 

 

「戦闘班も艦隊勤務とパイロットで適性を分類、此方は数が少ないこともあり、既に選抜を終えて艦隊勤務はヴルゴ司令やトーロ司令、パイロットはトランプ隊主導の強化合宿実施中です。もっとも、元々戦闘歴が無い者たちばかりなので、とてもではありませんが現状戦闘には出せません」

 

 

コレは戦闘班からの報告だな。

戦闘系に関してはその手の専門家に近いヴルゴがいるし、パイロット育成に関しても百戦錬磨で部隊を数々の修羅場から生還させてきたトランプ隊のププロネンがいるから、彼らに新兵育成は任せている。

特にうちの場合はオートメーション化されたところが多いから、早く慣れてもらわなくてはならないしな。更なる訓練の日々のスタートだろうよ。

 

 

「さて、どうしたものか・・・」

 

 

さて、ちょっと話をずらして後回しにしたヤッハバッハの件。

別に俺らだけが単艦で挑むっていう話では無いのがある意味救いだけど・・・。

 

 

「どうするッス?みんな?」

 

「・・・・・・・・・(一同)」

 

 

良い案は出てくる訳も無く、ジッと手を見る・・・あれ?生命線短くね?

 

 

【あんたねぇ、死ぬわよ!】

 

 

脳内細木先生はお帰り下さい。いや冗談抜きで不吉過ぎますから・・・。

 

 

***

 

 

まぁ会議はこのくらいにして、とりあえず仕事に戻る事にしよう。

兵器関連の予算を通しておいたし、避難民からの選抜で人材の確保は出来た。

無人艦隊から有人艦を加えた半無人艦隊ようやくシフト出来た訳だしな。

あとは艦隊をもう少し増やしておいた方が良いかもしれないな。うん。

 

 

『―――艦長、お時間よろしいですか?』

 

「・・・あいあい、今はなんとかヒマはありますよー」

 

 

 トントンと書類を片しながら、ミドリさんが映る空間ウィンドウに顔を向ける。

 

 

『キャロさんと他2名が合流したとのことです』

 

 

・・・・・・・・おお!

 

 

「おお、そう言えばセグェン氏から頼まれてたッス」

 

『今の間がなんだったのかは聞きませんが、どうされますか?』

 

「う~ん、とりあえず人事の方に回して置いてくれッス~」

 

『会いに行かれないのですか』

 

 

いや、なにその心底驚きましたって顔。

 

 

「飽く迄キャロ嬢を預かる条件は普通のクルーとして扱うことッス。そう言った手前態々会いに行くのはちょっと問題があるッス」

 

 

本音は面倒臭いからなんだけどな!まさに外道!

 

 

『了解しました。彼女らの部屋はどうなさいますか?』

 

「てけとーに空いている所に振り分けてあげてくれッス」

 

 

まぁちーと可哀そうな気もするが、公私の区別は付けておかねばなるまいて。

それに一段落したとはいえ、俺にはまだ仕事があばばばばb。

・・・かみさま、ぼくにすいみんじかんをください。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

「コーヒー飲みますか?」

 

「ああ、序でに砂糖多めで頼むッス。ユピ」

 

 

なんか久々にユピを見た気がする。

そんなメタな考えを脳内に思い浮かべていると、何処からともなくドドドドドという音が。

 

 

「じゃまするわよっ!!」

 

≪バンッ!ドゴン!≫

 

 

ドアァァァ!!!お前のことはわすれんぞーーー!!!10秒間だけな。

それは置いておいて、どういう訳か怒り心頭で頭から角が幻視出来るおぜうさまがドアを蹴破って入ってきました。

やっべ、攻撃色で真っ赤だ。怒りで我を忘れてやがるゼ。

 

 

「じゃまするんやったらかえってやー」

 

「このキャロ様が折角来たのにどうして会いに来てくれないのよ!説明を要求するわ!」

 

「おま、もちつけ」

 

 

こうぺったん、ぺったんと・・・いまのところ胸はぺったん。

はい、睨み頂きました。・・・漏れちまうぜ。何がとは聞くなよ?

だってねえ、キャロ嬢は将来はボインちゃん(死語)だけど、今はロリーな訳で。

うん、素晴らしき絶壁。貧乳はステータスで希少価値です。まぁ俺は多きほうが好きです。

あ、すんません、調子こきました。その巨乳好きは敵だっていう目は勘弁してください。

 

 

「あのねぇ、あたし艦長、あなたは一般クルー。いきなり会いに行く訳にもいかんでしょうが」

 

 

とりあえずまぁまぁと手を上げながら、正論を述べえてみた。

前はクルーが来るとその都度歓迎したのだが、今回は時期が悪い。

あまりに大量にクルーが増員されたモンだから、まだ歓迎会的なのも催していないのだ。

みんな殺人的過密スケジュールに忙殺されて超忙しいのである。

そんな中、一人だけに特別目をかけて会いに行くわけにもいかんだろう?

キャロ嬢は可愛いけど、彼女の今の能力は知らんから特に目をかけている訳じゃねぇし。

 

 

「うう、私ユーリと再会できるの楽しみにしてたのに・・・」

 

「はい、再会出来たッスねー、それじゃ俺仕事あるんで」

 

「あの熱い夜はなんだったのかしら」

 

「あの時は確か超巨大恒星ヴァナージの近くを通過して空調が逝かれかけたんスよね」

 

 

そんな訳でキャロ嬢がねつ造している記憶の様な事は起きて無いぜ残念ながら!

つーかテンション高いなキャロ嬢・・・どうしたんだろうか?

 

 

「むきー!艦長は私のこと愛してくれてないの!?」

 

「一番、愛している」

 

「やった!宇宙で一番愛しているってことね!」

 

「ニ番、愛していない。三番、どちらとも言えない」

 

「三択!?まさかの三択なの!?」

 

 

バーロー、そんな恥ずかしいこと真顔で言えるかってんだ。

まぁ俺は三番目を選ぶぜ!まさに外道!

あ、頬を膨らませてプスーってしてら・・・なにこの可愛い生きもの?

 

 

「まぁそれは置いておいて・・・ようこそキャロ・ランバース。我が艦隊は君を歓迎しよう」

 

「ええ、そうね。すこしばかり浮かれ過ぎたわ。此方こそお世話になりますわ艦長」

 

「・・・ぷぷ」

 

「・・・うふふ」

 

「「あ~はっははは!!」」

 

 

そして何かおかしくなって笑い会う俺ら。

あ~いいなぁこの感じ。この撃てばなるかのようなボケと突っ込み。

ネージリンスで別れて以来だぜ。ようこそ相棒、いやお帰り相棒か?

 

 

「くくく、なに?出迎えが無くて寂しかったッスか?」

 

「そ、そんにゃなわけないじゃに」

 

「落ちつけ、深呼吸だ。吸って吸って吐いて、だ」

 

「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー・・・OK、落ちついたわ」

 

 

キャロ嬢にそう言ったら何故かものすごく驚いて噛んだ。一体何に驚いてるんだか。

うふふ、それにしても未婚のおなごになんて単語いわせてるんでしょ。

まぁこの世界の出産ではラマーズ法使わんのだけどね。

 

 

「さて、とりあえず仕事部屋のドアを大破させたことは置いておくとして」

 

「う゛っ、わるかったわよ。ごめんなさい」

 

「うん、別に気にしてないからいいッスよ」

 

「あらそう?良かっ「キャロ嬢のお給金から退くから」このおに!悪魔!」

 

「悪魔で良いよ。悪魔らしいやり方でやらせてもらうから」

 

「うー!うー!」

 

 

そのうーうー言うのはやめなさい!

 

 

「お嬢様。それにユーリ艦長。いい加減話をすすめませんか?」

 

「ファルネリの言う通りです。お二人とも再会が嬉しいといってもはしゃぎ過ぎです」

 

 

突然キャロ嬢と俺以外の声が聞こえた。

声のする方に目を向けると、破壊されたドアの向こうには、元会長秘書のファルネリと老執事のトゥキタの姿が見えた。

恐らくこの二人はセグェン氏がキャロ嬢に付けたサポート役兼教育役兼保護者なのだろう。

本当に過保護だよなぁあの狸の爺さん。まぁこの二人はキャロ嬢にも忠誠を誓っているみたいだから妥当な人選だよな。

どっちも独身みたいだし・・・とか思ったらファルネリさんに睨まれました。おお怖。

 

 

「それで?真面目な話何しに来なすったんスか?こう見えても結構忙しい身なんスがね」

 

「アポを取らなかったのは謝りますわ。ついついこのフネに再び乗った興奮と友人との再開に心が躍り過ぎてしまいましたの」

 

「・・・あ~、キャロ嬢?無理に口調を作らなくても――」

 

「あら?私しここにきてからこの喋り方しかしてませんわよ?」

 

 

何言ってんだとキャロ嬢の顔を見た時、彼女の目が訴えてきた。

なになに?“ファルネリが礼儀に関してうっさいのよ”・・・ああ、そうなの。

でも、すでに“うー☆うー☆”言っていた所はファルネリさんに見られてるんじゃね?

マジやっべとか今更思っても、背後のファルネリさんが逃がさんという顔してるぜ。

あとでまたとっくんなのね~、ご愁傷様。

 

 

「まぁ出迎えの通信すらよこさなかったのは謝るッス。友達にすることじゃないよね」

 

「・・・そうね。私だって寂しかったのに・・・」

 

「まぁその理由もこれを見れば判るッス・・・コイツを見てくれ、コイツをどう思う?」

 

「・・・すごく、おおきいです(書類の山的な意味で)」

 

「でげしょ?最近沢山人を雇い入れたから・・・もう死にたい・・・」

 

「ちょ!そんなことで死んだらダメよ!?」

 

「そんな事とはなんでぃすかー!!元々専門家じゃないのに氷山の一角を崩したんだぞ!!むしろ褒めれ!崇め!称えろッス!」

 

「急に増長!?テンションおかしいわよ!?」

 

「・・・まぁ兎に角、すこぶる忙しいってワケッス。そんなわけでこれからもそれ程顔は合わせられないけどね・・・」

 

 

最近、戦闘の時とかのイベント以外、自宅から出てないのね。

基本的に通常運行は艦内の何処に居てもユピ経由で出来ちゃうし。

 

 

「ふーん、まぁそれはいいとしまして」

 

「いや、流すのかよ・・・」

 

「うるさい。とりあえず今のあんたは疲れ過ぎ!少し息抜きがてら遊びに行くわよ!」

 

「いや、遊びに行くって・・・どこに?」

 

「う・・それは・・・わ、私が居なくなってから変わったところとかあるでしょ?そこを案内しなさい!いいわね!反論は受け付けないわ!」

 

 

うわー横暴だー。俺は終わらせねばならぬ仕事が・・・。

って何で襟首をがっしり掴んでるですぅ?ちょっ!引っ張らないで!伸びる~!!

 

 

「行ってらっしゃいませお嬢様」

 

「ユーリ殿、お嬢様を頼みます」

 

 

ちょっと!常識人のお二人が何故に御手をお降りになられてやがりまするかぁ!!

ゴメン自分で歩くから!だから襟首引っ張らないで!俺はヌコとちゃうね~んっ!!

 

 

アッーーーーーーーーー!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・行きましたな」

 

「そうですわね。さて、お嬢様とユーリ艦長がお出かけしている間に私たちで少し艦長のお手伝いでもして差し上げましょうか」

 

「そうですな。見た所結構乱雑にまとめられている様ですし」

 

「艦長~♪お茶が入りまし―――はれ?艦長は?」

 

「ユピさん、お久しぶりね」

 

「あ、ファルネリさんお久しぶりです。艦長に頼まれてコーヒーを持ってきたんですけど」

 

「ユーリ殿はちょっと息抜きに散歩に行って来ると申しておりました」

 

「そうなのですか・・・あ、初めましてトゥキタさん」

 

「・・・はて?お会いしたことはありましたかな?」

 

「トゥキタさん、ユピさんは、彼女はこのフネを統括しているAIなのよ」

 

「なんと・・・人にしか見えません」

 

「あぅ・・・そのう、あんまり見られるのは――」

 

「おお、申し訳ありません。レディをあまりジロジロ見るのはいけない事でしたな。では改めて、私しはトゥキタ・ガリクソン、ランバース家の執事をしております。現在はお嬢様専属ですが」

 

「白鯨艦隊旗艦デメテールの総合統括AIの電子知性妖精のユピです。よろしくです」

 

「まぁ紹介はそこそこにして、この書類の山を少し片づけましょう?幾らなんでもこのままじゃお仕事も何もない訳だし」

 

「・・・そうですね。お手伝いお願いできますか?」

 

「私はかまいません。ファルネリはどうですかな?」

 

「元からそのつもりですから」

 

 

―――俺がいない所でちゃっかりと和んでいる三人であった。

 

***

 

Sideユーリ

 

 

「いらっしゃいませ~」店員A

「ようこそおいでくださいました~」店員B

「お会計ですか?6番レジにどうぞぉぉ!!」店員C

「ジュースが二点」店員D

「スナックが三点」店員E

「計五点で300クレジットです~」店員F

「袋にお入れしますか?」店員G

「カードでお会計ですね。そこにタッチしてください」店員H

「カードおかえししま~す」店員I

「ご利用ありがとうございました~」店員J・K・L・M・N

 

 

「ねぇユーリ」

 

「なにキャロ嬢?」

 

「・・・店員多くない?」

 

「・・・ちょっと、人事に連絡してくるっス」

 

 

キャロ嬢に拉致られて連れて行かれた船内イオングループ店舗においての出来事。

ちゃんとその後の人事で普通の店舗に戻したぜ?無駄だモン。

 

 

***

 

 

キャロ嬢に連れまわされて物凄く疲れながらも楽しかった日から数日後。

再度行われたこれから先どうすべきかの会議の場において、ついに方針が決定された。

いやまあ、現状を鑑みるとこれ以外のことが出来ないってのもあったんだがな。

そしてその方針を述べたのは、我らがトスカ姐さんであった。

 

 

「大マゼランに協力を求めるんだ」

 

 

この一言。この一言だけが会議室に響いた。

この一言を述べたことで、一瞬静まり返った会議室が、水面に小石を投げたかのようにザワザワし始める。

 

 

「大マゼラン銀河の軍事力なら連中とタメ張れる可能性がある。

幸いアイルラーゼンの人間とは面識があるからね。

バーゼルに連絡を取って救援を頼むのさ」

 

幾度にわたる会議。

その上で出た方針は、やはり大マゼランから応援を呼ぶというものだった。

各国の軍は期待できず、その上迂闊に撤退できないと言うこの状況。

トスカ姐さんが提示した可能性は、このままでは独力だけでヤッハバッハ12万の大群に挑まなければならない白鯨艦隊としては、暗闇の中の光明に見えた。

 

 

「アイルラーゼン。ああ、通商会議のときの―――」

 

 

会議の成り行きを見守っていた俺はトスカ姐さんの言葉に、そういえばそんな人がいたということを思い出した。

マゼラニックストリームにおいて行われた通商会議のパーティーに、トスカ姐さんと一緒に招待状を偽造して入り込んだときに出会った軍人の青年バーゼルさん。

 

軍人ってよりかは騎士っていう感じだったけど、良いとこのお嬢様風の格好に身を包んだトスカ姐さんの真摯な説明を一生懸命聞いてくれたとても気のいい青年だ。

・・・軍人としてそれはどうなんだと突っ込みたくなったが、気にしたら負けだよね。

 

 

「それじゃあ今から連絡を入れるんですかトスカさん?」

 

「いや、ここからじゃ無理だ。IP通信は大小マゼラン間では繋がってないからね」

 

 

イネスがトスカ姐さんに疑問に思った事を聞いた。

だがトスカ姐さんは首を横に振ってそう応える。

だとしたらどうやって連絡を取るつもりなのだという空気が会議室に流れるが、トスカ姐さんはシレっという態度でその疑問に答えた。

 

 

「ただ・・・唯一カシュケントのクー・クーがもつ通信装置だけが大マゼランに通信できるのさ」

 

 

カシュケントの長老会議所の長を務めるクー・クーは、一見業突く張りの婆さんであるが、噂では金さえ積めば手に入れられないものは無いという大商人でもある。

そしてその商品には大マゼラン製のものも含まれるのだ。

また大マゼランとの交易会議を行える事から、マゼラニックストリームには大マゼランと通信できる設備がある事を示している。

それを使えば、確かに大マゼラン側と通信は取れる、だが―――

 

 

「ですが、もしも救援に応じてくれなかったら?その時はどうするんですか?」

 

「そうなったらお手上げさ。両手を上げて降伏するか、自爆覚悟で特攻するか、時期を待つ為に潜伏するか・・・どれにしても大変な事に代わりないよ」

 

 

―――向うが通信に応じて救援を寄こしてくれるかは別問題だった。

 

それもそうである。

冷たい様だが、大マゼラン側にしてみれば自分たちとはまだ関係無い事態なのだ。

軍を動かすには膨大な金が掛る上に向うにしてみれば本当に敵がいるのか判らない。

そんな不確定的な情報だけを信じて軍を出すことはまずないのだ。

とはいえ、全開一応の証拠として航海記録装置のデータを渡してある。

手を付けくわえていない生のデータもあり、その上での救援を求める通信だ。

他の国は解らないがバーゼルの所属するアイルラーゼン共和国なら或いは。

希望的観測は死を招く事は重々承知だが、もはや賭けるしか方法が無いことも事実だった。

 

 

「―――で、ユーリ。どうする?一応私の案はコレだけなんだが・・・」

 

 

トスカ姐さんの言葉に会議室に居る全員が俺の方を見た。

最終的な決定権はこの艦隊の頂点にある俺にゆだねられている為である。

俺はとりあえず最終確認の為に会議室を見渡しながら問うた。

 

 

「・・・これ以外に意見は無いッスか?」

 

 

だれもなにも言わない、つまりコレ以上の意見は出て来ないということだ。

会議室の会話及び内容は全てユピが記録している為、言えなかったとか言ったけど無視されたとかの様な言い訳は通用しない。

誰ひとり手を上げることも無く、これ以外良い手がない為、俺はこの案を承認したのであった。

 

 

***

 

 

ようやく方針が決まった。

とりあえず艦載機量産及び強化を施すことを決まった。

何せ扱える人員が増えたのだ、集団戦闘を行う艦載機が多くて困ることは無い。

また簡易脳内スキャニング装置を今までの操縦システムと併用する事で、更なる戦力アップが出来たとの報告があった。

どうやらウチが直掩機や保全・修理用の作業機として使っている有人エステバリスの操縦系統から流用したらしい。

確かにあれならド素人でも妄想力さえあればベテラン並みに押し上げることが可能だ。

通常の操縦システムを使うことの安心感と、脳内スキャニング装置によって実現するかゆい所に手が届く操縦感を体験すればパイロットとしての成熟も早くなる。

もっとも現実的には例え妄想力があろうとも、パイロットがGに耐えられなければあまり意味を為さないけどな。

幾ら慣性制御装置があるって言っても限度があるし・・・。

それと戦闘艦については現在の艦船数で指揮系統的に精一杯な為、もう少し人材が慣れてくるまで増産は見送った。

だが増産を見送った分、現在就航中の艦隊所属艦の強化を進めることで話はまとまった。

とりあえずガトリングレーザーキャノンの冷却装置の強化による散布時間の延長。

主砲のホールドキャノンの発射時間短縮、持ち味の貫通力の増強。

APFSの強化、ジェネレーターをいじくってデフレクターも強化する。

今の所艦船で決まったのはコレだけである。

ああ、そうそう。その代わりマッド達が鹵獲品でも良いから船を一隻手に入れて欲しいと言っていたっけな。

何でも試作兵器や実験兵装のベースにしたいらしい。

ヤッハバッハが迫っているというのに呑気なものだと思ったが、この先マッド達にはかなり働いてもらう羽目になるだろうから、ご機嫌取りとしてその案を了承した。

後はそれぞれの部署が勝手にやってくれるらしい。ありがたいことだ。

もっとも、それが後にあんなことになるとは思わんかったがな。

でもまぁ、流石に大変だろうから迷惑をかけるからスマンとマッド達に言った。

そしたら連中は笑いながら“期限が短い方が燃える”とか答えやがった。

まぁマッドは徹夜すればするほど、異常なほどの技術を見せてくれるからある意味心配はしてないんだけどな。

ただ暴走には注意せねばなるまい、艦載機に某種ガンダムに出てきた様なMS用の大型ビーム砲パックを運ばせる為にくっつけたばかりか飛行中に発射可能にしてしまったあの大気圏内戦闘機みたいなのにされたら厄介だ。

あんなバランスが悪そうで、おまけに機動性が下がる装置作ったらバンバン落されそうだしな。

ああいうのは流石に造らせないようにしないと・・・。

 

 

 

 

 

 

とりあえず会議も終わり、時間も時間なので帰宅することにした。

残り一カ月ちょっと、それまでに色々としないといけないとなると頭痛い。

それにマッド達の分水域を見極めないとヤバいだろうしなぁ。

内心戦々恐々しつつ、俺は重たく感じる身体を引き摺り歩く。

そろそろ本格的に休みを取らないとヤベェかもしれない。

いやまぁ、それが自覚できるだけで十分危険域なんだろうけど・・・。

まだ多分大丈夫だろうしなぁ、俺若いし。

それでも今はただ、風呂入って眠りたいという欲求が強かったがな。

さて艦内移動用のエアカー乗り場に行くと、そこにトーロが来ていた。

何やら考え事していたらしく、俺が近づくまで顎に手を当てて考え中のポーズを取っていた。

とりあえず指摘していいか?トーロ、それはお前には似合わん。

 

 

「よっ、ユーリ。・・・ちょっといいか?」

 

「なにか用ッスかトーロ?何時もなら自分のフネの改修作業を見に一足先にドッグに行ってるのに・・・」

 

 

そう言えば、以前の旗艦であり現在はトーロの乗艦となっているアバリスだが。

すでに修理が完了してヴルゴ司令の元何処に組み込むか再編待ちだそうだ。

ちなみに修理+マッド達の強化が加わっているらしく、性能が以前とは段違いになっているらしい。

先ず電子機器は火器管制や航路のソフトウェアを以前の奴より数世代分向上させた。

それに伴い、EA(Electronic Attack)、EP(ElectronicProtection )の機能も向上し、光学的なのと電子的なのを合わせて使用するステルスモードもバトルプルーフを経てもっと効率的な仕様へと改善されている。

また兵装面ではリフレクションレーザー砲が2基追加されて、計4門になっている。

ガトリングレーザー砲も此方でバトルプルーフを経た改良型に換装された。

更には艦対艦や艦対空ミサイル用の多目的VLS発射口も増設された。

これにより攻撃力や対空性能が大幅に向上したのは言うまでも無い。

だが戦闘力を増強した所為で、居住区画が圧迫されて居住性が悪化した。

普通なら短期決戦用の艦としてそれで通すのだが、ウチのマッド達の辞書に妥協という文字は無い。

なんとブロック工法だった事を良いことに、胴体部分を増量。

更に左右のウィングブロックにも厚みを持たせてペイロードを確保したのだ。

それに伴い全長が1850m、全幅が900mと大型化したが、慣性制御及びスラスターの設置個所の見直しにより、機動性は損なわれていないどころか向上している。

これにより居住空間を十分に取れたうえに、艦内工廠も取り外す必要が無くなった。

艦内工廠についてはデメテールの艦内工廠を元に小型・高性能化が済んだタイプに換装した為、実質アバリス単艦での航続距離及び継戦能力がアホみたく伸びたのである。

また装甲の形状改善による剛性の増加、材質変更によるエネルギー兵器への耐性。

それらも付けくわえた結果、アバリスの形状が結構変わってしまった。

直線形状が多かった形から対弾性を考慮したやや丸みを帯びた形状に変わったのだ。

形状的にも大きさ的にも元のバゼルナイツ級からかけ離れてしまったのである。

そしてシルエット的に・・・本来ならまだ開発すらされていない筈のシュテムナイツ級の形状に酷似してしまったのである。

最初見た時に吹きだしちまったのはいい思い出だ。

何をどうすればバゼルナイツ級がシュテムナイツ級に切り替わるんだろうか?

ここにきてマッド達の頭脳が軽く十年以上先を見越していることに戦慄を覚えたぜ。

・・・とはいっても今更な気もしないでもないけどな!

まぁ酷似しているとはいっても元がバゼルナイツ級だから、シュテムナイツ級との中間?あいの子みたいな感じなので、言い逃れはできそうだけどな。

この際アバリス級と改名した方がいいんじゃないかなと思うぜ。

とはいえアイルラーゼンのほうからパテント料払えとか言われないか心配であるが。

 

 

「あのよ、率直に言うわ。俺別行動してもいいか?」

 

「・・・ぱーどぅん?」

 

 

さて、何やらモジモジと・・・気色悪いな男のモジモジは。

まぁ兎に角、トーロが言いだしにくそうにしていたのであるが、意を決したようにそう俺に言い放った。

突然のそれに思わず聞き返してしまう。

 

 

「小マゼランには知り合いも多いしよ。ヤバそうになったら逃げる手伝いをしてやりてぇ。ティータの母親も心配だしな」

 

「・・・・・・」

 

「だから・・・、そのよう・・・」

 

 

さて、どうしてくれようか悩む。確かにトーロの言い分も判らなくはないからだ。

彼の出身は当然のことながらここ小マゼランである。

俺の艦隊に入る前はロウズ領で小さな運送業者を仲間としていたらしい。

エルメッツァが落ちたとなると、以前の仲間のことも心配となるだろう。

 

・・・・・どうする?――――

 

 

・許可する ←

 

・許可しない

 

 

―――許可する・・・となるとどうなるかな?

 

 

「むむむ~、ちぃーと聞くんスけどトーロ。許可したらどうするつもりッスか?」

 

「そ、そりゃ勿論。アバリスで他の奴らんとこ回るんだよ」

 

 

なるほど、どうやらコイツはアバリスを投入する事を念頭に置いているらしい。

とりあえず許可した場合を考えてみる。真っ先に思い至るのが戦力の低下だろう。

何せアバリスは度重なる改修を受けて、今だ第一線級の戦力として君臨している。

おまけにマッド共が自重しなかったお陰で、超高性能万能戦艦と化しているのだ。

その所為でウチの予算が大分持って行かれたのは余談だ。

それにトーロがアバリスで行くとなると、当然のことながら乗組員も連れて行くということになる。

それだけでも此方の戦力が著しく低下してしまうのだ。

――――というか。

 

 

「あんまりこう言うことは言いたく無いんスけど。

一応まだアバリスの所有権は俺にあるんスけど?」

 

「へ?・・・・・・・あっ!?」

 

 

なに?そのたった今気が付いた的な顔。

いや、まさかとは思ってたけど―――

 

 

「おまっ、わすれてたんスか?」

 

「ずっと自分の乗艦にしてたから・・・忘れてたZE☆」

 

「イラッ☆それはないわー」

 

「しょうじきすまんかった」

 

 

―――トーロの奴、アバリスが俺の所有物である事を失念していたらしい。

 

そりゃ一時期離ればなれになって、アバリスの艦長としてずっとやっていたのは知っているが、基本的に艦隊に所属する全てのフネの所有権は俺にあるんだよね。

だから勝手に持って行って貰っちゃ困るって訳で・・・ふむ。

 

 

「ま、良いッスけどね。別行動は許可するッス」

 

「お!やった!あいつ等も助けに行けるぜ!」

 

 

許可を出した事で喜びをあらわにするトーロ。

だが、俺が続けて言った言葉に、一瞬で硬直する。

 

 

「但し、アバリスは置いて行ってもらうッス」

 

「・・・え?――そ、そんな!」

 

「なんで驚くッスか?当然じゃないッスか」

 

「だけどっ」

 

「それでも行きたければ行けばいいッス。俺は止めない」

 

 

冷たく突き放したかの様な言葉。

それを受けてトーロは驚愕とともにその場に立ちつくした。

俺はジッとトーロを見る。睨む訳でもなく、責めるわけでもない。

ただ彼がどう出るかを見つめていた。

 

 

「・・・・・・ああ、判った。それでもいい。今までありがとよ」

 

「トーロ・・・」

 

「仕方ねぇだろ?確かに俺は楽しそうだからこのフネに乗った。この艦隊はユーリが一から頑張ってここまで大きくしたんだ。それなのに俺が尻馬でそこから勝手に持ってくなんてできねぇよ。だけど、知り合い連中のことも放っておけねぇ。なに、逃げるだけなら死にはしねぇからな」

 

 

トーロは残念だなぁと呟きつつも、何処かはにかんだ笑みを浮かべた。

だが、彼のその眼には覚悟したという鈍い光が見える。

本気なのだろう。彼はたった一人でも小マゼランで別行動を取る気なのだ。

 

 

「・・・覚悟の上か?」

 

 

俺はそう聞き返す。彼は何処かすっきりとした表情で―――

 

 

「おうよ・・・ティータには上手く伝えておいてくれよ」

 

 

―――そう、ことばを返してきた。

 

 

「・・・はぁ、ああ~もう・・・止め止め、そういったのは自分で伝えろッス」

 

「だって、危険すぎるから着いてこさせられないだろ」

 

「まったく、何処まで頑固なんスかトーロは」

 

「わりぃな。ユーリ。それじゃ」

 

 

そう言って後頭部を掻きながら踵を返そうとするトーロ。

俺はそれを見て慌てて引きとめた。

 

 

「ああ、ちょっと待てッス」

 

「なんだ?一人で行くならすぐにでも準備しねぇと・・・」

 

「だから、少し待てッス」

 

 

俺は艦内各所に設置されている端末のボタンを押した。

それはコールボタンと呼ばれるもので、押すと直通で中枢AIを呼び出してくれる。

中枢AIとは、当然のことだがユピのことだ。

コールボタンを押すとすぐにユピのホログラムが現れて俺とトーロの間に立つ。

 

 

『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん!お呼びですか?艦長』

 

「ウス。確か戦艦アバリス所有の名義俺になってたッスよね?あれの名義トーロに変更しておいてくれッス。あ、それと至急サナダさん達に連絡。単艦行動に役に立ちそうな試作品でも何でもアバリスに押しつけちまってくれって伝えてくれッス」

 

『了解です!それではっ!』

 

 

ユピにそう伝えて通信を切ると、目の前にポカーンとしたトーロの姿があった。

俺はこほんと咳払いをし、トーロの方を真っ直ぐと見据える。

 

 

「トーロ・アダ。白鯨艦隊のトップとして命令を下す。お前と同じ志の人間を集め、特装艦アバリスと共に小マゼランに残り、ヤッハバッハの侵攻で苦しむ人たちの手助けをせよ」

 

「え!?」

 

「但し、アバリスを敵に奪われてはならない。奪われそうになったら自沈させること。それが別行動を許す条件だ・・・出来るな?」

 

 

俺が力を込めて見つめると、トーロは任せろと大声を出した。

そしてこうしちゃいられねぇとばかりに駆けだして行く。

俺はトーロの後ろ姿を眺めながらもう一度ユピを呼び出して、先程トーロに言った内容を正式な命令として処理させた。

まぁ、なんだ。今までのはどこまで本気なのかを試した訳だ。

意地が悪いかもしれないが、此方に残るということは苦しい生活を余儀なくされる。

生半可な覚悟じゃ残ってやっていけないと思ったからなのだが・・・。

はは、アイツ普通に一人でもやってやるって表情(かお)してやがった。

多分あれは止めても言うことを聞かないから、勝手に飛びだしちまうだろう。

そうなった方が危険すぎるぜ。

ああいうのは直線的なお馬鹿って言われるかもしれない。

だが、俺はそういう馬鹿は嫌いじゃねぇ。むしろ応援したくなる。

まぁ改修が終わったアバリスを手放すのは少し懐的にきついがな。

改修の際に乗せ換えた準高度AIくんには、捉えられたら最悪データだけでもクラッシュさせるようにして置かせよう。

ま、ゲリラを行う気なら万能戦艦アバリスならちょうど良いかもな。

 

 

「・・・俺にはこれくらいしか出来ないッス。すまねぇッス」

 

 

結局トーロと行く事になったのは、チェルシーを除いたアバリス乗組員たちだった。

主要メンバーでいうと艦長のトーロや副長としてイネス、生活班の長としてティータ、他にも各班からの志願者や頼んでみてOKを貰えた人員達である。

そしてその中には、我らがマッドのジェロウ教授の姿もあった。

彼曰く―――

 

 

「わしもここで降りるヨ。アルピナ君の安否が気にかかるのでネ。

今の内にここまで避難させてやるつもりだヨ」

 

 

―――との事。

 

愛弟子のことが気がかりだった為、トーロのそれは渡りに船だったようだ。

マッドの一人が減るのは非常に戦力ダウンになりそうだが、かと言ってジェロウの機嫌を損ねて無理矢理拘束しておくと死亡フラグになりかねない。

怒って変な発明品作って船ぶっ壊されたら溜まったもんじゃない。

マッドなジェロウ教授はやりかねないのだ。意外とマジに。

そんな訳で俺達とは逆の航路に向かうアバリスを見送った。

そして俺達はまたマゼラニックストリームへと戻ってきたのだった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

同時刻―――エルメッツァ本国・惑星ツィーズロンド

 

 

白鯨がマゼラニックストリームに着いたのと同時刻。

エルメッツァの先遣艦隊を打ち破り、快進撃を続けていたヤッハバッハ先遣艦隊が、ついにエルメッツァの首都星である惑星ツィーズロンドへと到着した。

軽く十数万のフネが遮る者がない宇宙を悠々と進み、ツィーズロンドを封鎖する。

エルメッツァの国家元首であるヤズー・ザンスバロスは、元首官邸にてヤッハバッハがエルメッツァ上空に現れ、ツィーズロンドを包囲したと聞き、椅子に力なく倒れ込んだ。

 

 

「し、侵略者が、このエルメッツァ上空に集結しているというのか!?」

 

 

狼狽した彼は、傍に控えるルキャナンに問いただした。

壊滅したエルメッツァ先遣艦隊の数少ない生き残りであるルキャナンは、眉をピクと動かしながらもヤズーの言ったことに同意する。

 

 

「は。各地の地方軍はほぼ壊滅。又は降伏した模様です。完全なる負けですな」

 

「うぬぬぬ・・・このエルメッツァが・・・栄光あるエルメッツァが・・・っ」

 

 

ヤズーはさまざまな感情が渦巻くなかで己の拳を机に叩きつけた。

栄光を守り続けてきた大国が己の代で終わるという苦悩は並ではない。

ルキャナンはその行動には眉一つ動かさず、言葉を続ける。

 

 

「ヤッハバッハは無条件降伏を求めております。閣下の身柄も本国へ送ると―――」

 

 

ルキャナンが述べたヤッハバッハからの通達を聞いたヤズーはガバッと頭を上げる。

 

 

「ル、ルキャナン。ルキャナン君!それだけは・・・なんとかならんのか!?」

 

「だから申し上げておいたのです。本国の戦力を保ったまま降伏するようにと」

 

 

先遣艦隊が負けた後も、国家元首であるヤズーはなんとか戦力を掻き集め、本来なら本国防衛に回す戦力も全て投入してヤッハバッハの侵攻を阻止しようとした。

だがヤッハバッハ先遣艦隊の歩みが止まることは無く、地方軍を織り交ぜた艦隊は全て全滅、宇宙の藻屑と化したのである。

 

 

「それならば、閣下の扱いもまた、ちがっていたものを―――」

 

 

愚かだな。そう小さく口の中で呟いたルキャナンは口をつぐんだ。

目の前にはどうしようもない現状に今にも泣きそうな哀れな男が一人いる。

本国の戦力さえ残して降伏しておけば、ヤッハバッハは占領した星系の軍を放っておくことはできず、少なからず元国家元首となるヤズーにも占領地軍への再編という形で協力を求めたことだろう。

だがあろう事に目の前の元国家元首ヤズーは、全ての戦力を勝てもしないヤッハバッハに投入し、無駄に将官や兵士たちの生命を散らしたのである。

それも大国の元首という椅子に座っていたいという個人的な理由だけで。

 

 

「そんな・・・そんな・・・」

 

「こと、ここにいたっては止むを得ますまい。無条件降伏で、よろしいですな?」

 

「う・・・うっうっ・・・うえっ・・・ううっ・・・」

 

「では失礼します。ライオス総司令と降伏後の処理を話しあわなければなりませんので」

 

 

自分の身かわいさに、ついには泣きだした元国家元首。

それを見限るかのようにルキャナンは踵を返して部屋から去ろうとする。

今は泣く時では無い。エルメッツァという国をコレ以上潰さない為に動く時なのだ。

だが目の前の男は様々なな策を巡らして元首に上り詰めはしたが、所詮は既得利益のことしかない小物政治家でしかない。

参謀が優秀であれば組織は瓦解しない。

その構図がまさに浮き彫りとなった瞬間だった。

 

 

「待って・・・待って、ルキャナンく・・・さん・・・」

 

「・・・」

 

 

ルキャナンが元首室の扉に手を掛けた時、ヤズーが嗚咽混じりに声をかける。

だがルキャナンは歩みを止めることなく、素早く扉を開き外に出た。

 

 

「ふん・・・。戦には負け方というものがある。それを知らぬ男がトップとは・・・我が国の不幸よ」

 

 

それは誰に言った言葉なのか・・・。

あるいは先遣艦隊を全滅させ、おめおめ生きて帰った己への言葉だったのかもしれない。

だが、彼は今が踏ん張りどきであり、死ぬわけにはいかない事を理解している。

この後またあの金髪の美丈夫の総司令と会わねばならないのか。

そう思うと足取りが重くなるルキャナン。

だが、ここで立ち止まる訳にはいかんと己を奮い立たせるとそのまま歩きだした。

エルメッツァの国の高官、その責務を果たす為に。

 

 

***

 

 

ボイドゲートを抜けて、またあの巨大恒星の脇を通過する。

最初ココを通った時と同じようにプロミネンス発生による太陽風と衝撃波が来たが、以前よりも進歩しているデメテールには影響は出なかった。

念のためにキャロ嬢だけはこの区画を通過するときだけ、周囲を水槽で囲まれた水産物生成用プラントの方に移動して貰う。

周囲の水がシールドの役目を果たし、弱い放射線なら防いでくれるという訳だ。

放射線が透過する可能性は低いが、まぁ以前のことも含めての一応の処置だ。

この放射線シールド方法はテラ文明期から存在する由緒正しきやり方だ。

機械でもある程度放射線はブロック出来るけど、まぁ用心だわな。

ちなみにこのやり方はデータバンクに乗っていた。データバンクぱねぇ。

そんで何事も無く巨大恒星ヴァナージを突破したデメテールは、海賊を拿捕して資金源に還元しながらカシュケント近隣宙域に到達したのであった。

 

 

「艦長、間もなくカシュケントです」

 

「カシュケントか・・・何もかもが懐かしい・・・」

 

「・・・は?」

 

「あ、いや・・・何でも無いッス」

 

 

何と言うことだ、何と無くやりたかった沖田艦長を聞かれてしまった。

ミドリさんは訳が解らなくて(◦Д◦)ハァ?って感じだけど、恥ずかしいなぁ、もう。

 

 

***

 

 

カシュケントに付いた俺は護衛を引き連れて長老会議所に向かった。

この星の実質的な長であるクー・クーがいる場所は会議所しかない。

必然的に大マゼランに通じる通信回線はここにあるのだ。

だがエルメッツァ壊滅の話は既にカシュケントまで届いていたらしい。

長老会議所の外も中も何処か慌しい感じであった。

とりあえず受付もすでにいないので勝手に会議所に侵入を果たす。

会議所の一室に入ると、慌てた老婆が1人せせこましく動いているだけだった。

 

 

「おお、お前さん達、大変なことになったのう!」

 

「ここまで来るまでに大体判ってましたけど、既にエルメッツァも壊滅か・・・」

 

「そんとおり。彼奴等め、すでにエルメッツァを支配下においてるようだよ」

 

 

まぁここまでおろおろしていたのを見れば大体予想は付いた。

やはりヤッハバッハの足は早い様だ。

 

 

「エルメッツァが倒れたとなると、近隣星系国家も時期にですね」

 

「ネージリンス本国はあっさり降伏勧告を受け入れちまったよ。唯一まだカルバライヤが抵抗を続けているようじゃがのう・・・」

 

「ネージリンスは戦力を残す道を選んだようだねぇ」

 

 

トスカ姐さんがそう呟いた。なるほど、セグェン氏も大分頑張ったようだ。

戦力を残しておけば、多少は再編させられるけれど国としての対面は残せるもんな。

 

 

「まぁ考えようによっては、小マゼランの支配者がヤッハバッハに変わるだけだ。それなら戦力を蓄えて新しい体勢の中での地位を保つ方が得だと踏んだんだろう」

 

「長いものには巻かれろって感じッスね。流石はネージリンス、合理的」

 

「大方あの狸親父の入れ知恵だと私は思うんだがねぇ」

 

「トスカさんに賛成。あの爺さん結構コネ強いみたいだし・・・」

 

 

まぁ俺に態々キャロ嬢を任せた辺り、権力争いは激化するって事なんだろうなぁ。

何せあの狸爺の政府へのコネは大部分が無価値なものへと変貌する。

今まで築き上げたものを壊され、一から土台作りのやり直しだろう。

あの老人にどこまで出来るかは判らないが、泥水を啜る覚悟はあるって事だろうよ。

おっと、こんな話ししている場合じゃなかったぜ。

 

 

「クー・クー、単刀直入に言いますが大マゼランへの通信回線をお借り出来ますか?」

 

「そんなもんどうする気じゃえ?」

 

「アイルラーゼンに・・・援軍を頼むんだ。来てくれるかは不明だけどね」

 

 

俺の言葉に続き、トスカ姐さんが発した言葉に、クー・クーは眼を見開いた。

うわぁ、真っ青に見える白面メイクの所為で般若みたいに見えるぜ。

 

 

「お・・・おお!その手があったかい!?よ~しよし、特別じゃ。ただで通信回線を使わせてやろう」

 

「金を取る気だったのかい・・・まぁいい、案内してくれ」

 

「ああ、ああ、いいじゃろう。付いてきな」

 

 

そう言うとクー・クーは自分の執務机にあるボタンを2~3個押した。

すると隠し部屋だろうか?奥へと通じる扉が本棚が動いて現れる。

・・・なんつーベタな隠し場所だろうと俺が思ったのは秘密だ。

 

 

「それじゃ、ちょいとお偉いさん方と話してくるよ」

 

「おう、任せたッス。期待してまっせ?」

 

「ああ、ここが女の見せどころってね・・・頑張って見せるさ」

 

 

トスカ姐さんはそう言ってクー・クーの後に続いて隠し部屋に入っていった。

そして彼女らが入ると隠し扉がゴゴゴという音と共にしまった・・・ってあれ?

 

 

「お、置いて行かれたッス」

 

 

ボケっとしてたら部屋に一人取り残されちまってた。

寂しいので護衛の人達を呼んでてけとーにお喋りした。

護衛の人達は元々保安部員の人間で、俺とも肩を並べて訓練した仲なので顔見知りである。

最近どうよ?とか、カミさん元気?とかの世間話しをしたりした。

他にも噂でもいいので自分の評判を聞いて、人気はあるが顔が知られて無い事を聞いて部屋のど真ん中でorzの体勢になり、護衛の人達から慰められたりした。

そんなことしている内にトスカ姐さんも戻ってきた。

その顔には喜色があることから、どうやら上手くいったみたいである。

 

 

「なんとかなったっぽいッスね」

 

「ああ、どうやら私らが連絡入れる前から降伏寸前のネージリンスからネージリッド経由で救援要請があったらしくてさ。救援艦隊を整えてあるからすぐに送るって」

 

「え?あの狸爺からそんな話し一言も聞いてないッスよ?」

 

「言い忘れた・・・じゃなくて、あえて言わなかったのかもねぇ」

 

「・・・その心は?」

 

「驚かせる為」

 

 

・・・何故だろう、無性にセグェン氏を殴りたくなった。

まぁそんな事はどうでもいい、とりあえず救援が呼べたなら長居は無用。

とっととデメテールに戻って準備をしなくてはなるまい。

恐らく小マゼランで最後の大決戦となる事は確実なのだ。

しっかり準備して死なない様にしないと・・・。

 

 

「それではクー・クー。俺達はこれで――」

 

「次は儲け話の一つでも土産に来るんじゃな。そしたらもっと歓迎してやる」

 

 

帰り際でも商売の話は忘れない。

相変わらずがめつい婆さんだぜと思いつつ、部屋を後にしようとした。

だが―――

 

 

「おっと、そうじゃわすれておった。昨日お前さん達を捜して男が訪ねて来よったぞい」

 

 

男?だれだろ?ギリアス・・・じゃあねぇだろうな。アイツ勝手気ままだし。

 

 

「もしかしてそいつはシュベインとか名乗らなかったかい?」

 

「おお、確かそんな名前じゃ。まだこの周辺をうろちょろしとるじゃろ。その気があれば探してみるんじゃな」

 

 

シュベインさんか・・・大方トスカ姐さんがよんだんだろうなぁ。

何気に便利屋もやっているみたいで情報通だから便利だしな。

とにかく、さっきから隠し部屋の通信回線とはまた別の通信機を前に騒ぎ始めたクー・クーに、とりあえず声かけてから帰ろう。

 

 

「それでは今度こそ失礼します」

 

「そうだ!LLクラスのペイロードのある輸送船を10隻だよ!・・・何だいまだ居たのかい?とっとと帰ったらどうだい?あたしゃ忙しいんだよ」

 

 

輸送船か・・・避難船、な訳が無いから高価な品物を大マゼランに送ろうって腹か?

流石は商人、何処までも金にはがめついねぇ。

 

 

***

 

 

さて、カシュケントを出た後はまだ少し時間がある。

だから海賊を倒して資金&か改造部品入手を行うことになった。

シュベインさんも序でに探す、最悪通信で呼べばいいから優先度は低い。

つか、トスカ姐さん曰くここいらで待ち合わせと言っておきながら他の星行くってどういう事やねん。

それは兎も角として、カシュケント近辺の宙域には、まだ戦火が飛び火していない為か、海賊はまだ生き生きと活動している。

だが、俺達白鯨のことはネットワークでもあるのか伝わっているらしい。

お陰で姿を見せて航行しても殆ど襲われない。知名度ってすげぇな。

兎も角、それでは金が稼げない為意味が無い。

仕方ないので巡洋艦レダに囮になってもらった。

デメテール及び白鯨艦隊はステルスモードを展開する。

そしてそれなりの大きさで、そこそこカモに見えるレダを見つけて海賊が寄って来た。

当然それらを待ち構えて逃げられない様に誘い込み、包囲したところでステルスを解除させる。

大抵それで相手は戦う気力を無くすのか、無血開城みたく降伏してくれる。

お陰でドンドン部品やら材料やらが溜まっていった。

中には何を考えたか頑として抵抗する奴もいた。

・・・布陣を終えて包囲されている奴の末路は想像付くだろう?

さて、集めた鹵獲海賊船をドンドン解体&部品に加工し、それをまた湯水のように消費してマッド達が頑張っていた。

なにやら艦船強化だけでなく、怪しげな兵器の試作品まで造っているらしい。

聞いてみたいけど聞いたら怖い様な気がするのは気の所為ではあるまい。

だから俺は彼らが自分で言いだすまで、つまり本番までとっておくことにした。

決して怖かったからではない、彼らの楽しみを奪わない為の処置なのだ。

だから仕方が無いのである・・・あ、ヘタレっていうな!

 

とにかく金は溜めたし艦隊の強化も吶喊ながら短期間で終了する事が出来た。

艦船数を増やせなかったのは乗組員の錬度の度合いからして無理だったが、それでも艦隊所属艦一隻だけで下手な艦隊よりも強くなっている筈だ。

攻撃を当てずらい、防御が高い、耐久がタフ、攻撃力も出力上げて底上げ。

一晩ではないが、マッド達がこれだけやったのだ、僅か2週間かそこらで。

試作兵器群は要望通り鹵獲した海賊船を与えたので、マッド達はサイエンス・ハイに導かれてそっちでも何かしているらしい。

ちなみに試作兵器搭載艦は艦隊の数に数えていない上、テストが終わり切っていない安全性に自身の無い兵器が乗っているので無人艦だ。

なので、艦船数が増えた事にはしていないのは余談である。閑話休題

 

まぁソレは置いておいて、流石にこれ以上の強化は乗組員の錬度を上げるしかない。

一応猛集中特訓をいれて錬度は上げたが、僅か2週間足らずじゃそこが知れるな。

ユピテルやユピコピー達の補助が無かったら、絶対ヤッハバッハ戦じゃ沈むだろうよ。

アドバンテージを生かして戦わないと、今度の戦いがキツイ事は確実。

気を引き締めなければなるまいて・・・。

 

 

……………………………

 

 

………………………

 

 

…………………

 

 

「それじゃユーリ・・・いくよ?」

 

「あ、ああ。そっとやってくれチェルシー」

 

 

彼女の白魚のように綺麗な手が、俺の硬くなったところに触れる。

 

 

「ん、うん。ふぁん、うあ・・・くぅ・・・ど、どう、かな?」

 

「・・・あ、ああ。もうちょっと強く握って」

 

「んんっ、こう?」

 

「・・・そう、そんな感じ・・・あー、気持ちがいい」

 

 

彼女の手がちょうどいい刺激を与えてくれる。

そのたびに快感が増幅され、とてもいい気持だ・・・。

 

 

「んんっ・・・ふぅ、こんなに硬くしちゃって」

 

「だってしょうが無いじゃないか・・・俺だって色々と、あるんだ」

 

 

チェルシーは頑張って力む。

彼女にとっては精一杯なのだろうが、俺にはとてもいい塩梅だ。

 

 

「ぐっ、ああ!そこいいっ!」

 

「ふ、んん・・・こうすれば・・・もっと、気持ちいい筈・・・んんっ」

 

 

チェルシーの力が更に大きくなる!

だがそれでいて柔らかさを失わないそれは硬くなった部分を包み込んだ。

 

 

「ああ、そこそこ、そう・・・そう!ああそこがいいのぉ!」

 

「うふふ・・・そう、ここがユーリのツボ」

 

 

俺の気持ちいい所がまた一つ・・・。

それを見つけた彼女は笑みを深めながら、さらに包む手を加速させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――――――おれは――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛ぁ~~・・・・気゛持ちえがったッス~」

 

「ふぅ、ユーリったら・・・こんなに肩コリが酷くなるまで頑張ったらダメだよ」

 

「まぁ最近身体動かすのも少しサボってたからねー。凝りもするさ」

 

 

肩もみのあまりの気持ちよさに、おっさんみたいに唸っちまったZ☆E

あん?なんだか大勢の人がこけた様な音が聞こえたような。

別にやましいことは何にもしてませんぜ?ただの肩もみですハイ。

なんで肩もみ?んなもん俺の肩が凝っていたからに決まってるっしょ?

どうもユーリの肉体というのは非常に疲れにくい体質なのは以前も言った通りだ。

なのでこれまで色々と頑張ってデスクワークしてきた訳なんだが、疲労は気が付かないウチに蓄積するらしいな。

一休みの時に肩をグリンと回したら、ゴキゴキゴリゴリという音が響いたのだ。

とてもじゃないが正常な音じゃない、つうか正常なら音は鳴らん。

とりあえずシップでも張ろうと思ったのだが、偶々遊びに来ていたチェルシーがマッサージをしてくれるというではないか。

妹がそう言ってくれるのに、やらせない兄はいないでしょう?

そんな訳で任せたんだが・・・最初何を間違えたかマッサージはマッサージでも整体をやり始めてな。

しかもどう考えてもやり方間違えている奴でよ?肩外れるかと思った。

どうもサド先生の所の女性看護師の知り合いがこの手の整体が得意らしい。

んで、簡単だから自分でも出来そう → そう思った結果がコレだよ!という訳である。

だから普通の肩を掴んでやるやり方に切り替えてやってくれって頼んだ。

流石に白兵戦以外で怪我をしたいとは思えないからな。

ちょっと残念そうだったが、普通にマッサージした方が上手いじゃないの。

そう言う訳で、俺は気持ちよくて変な声を出していたって訳だ。

チェルシーも俺の肩を揉むのに一生懸命頑張ってたから、息が漏れたんだろうなぁ。

ところで、もし上記を見てあんな事を思った奴がいたなら・・・m9(^Д^)

 

 

「それにしても、随分と凝ってたね」

 

「いやはや、何分アレがねぇ?」

 

「あれって・・・ああ、あの書類の束・・・山?」

 

「どっちかって言うと氷山ッスかね?」

 

 

おもに、全体が見えないという意味で。

 

 

「でも、ようやく全部終わったんスよねぇ。優秀な秘書様が付いてくれたからね」

 

 

ちなみに優秀な秘書様とは言わずもがな。

キャロ嬢の付き添いでくっ付いて来た筈のファルネリさんだ。

本来なら現在デメテールの内政をほぼ率いているパリュエンさんの秘書にする予定だったが、本人の立っての希望もあり現在は俺の秘書官役に落ちついた。

彼女はもともと会長秘書だっただけはあり、書類の重要度によって後回しにしていいか今すぐ取りかからなければならないかが判るらしい。

今ではそのお陰で、増えた筈の仕事がまた減ったのである。

 

 

「彼女曰く、俺一人でやり過ぎのきらいがあるんだとさ」

 

「まぁ確かにちょっと異常だったもの」

 

 

なんとか仕事は終えたからいいんだが、そうしたら身体の疲れが一気に噴き出した。

お陰で肩こりやら身体の強張りやらが気になってしょうがない。

チェルシーがマッサージしてくれたから、まぁマシになったけどな。精神的にも。

 

 

「そうよねー。私にも全然かまってくれないし―」

 

「うんうん、そしてキャロ嬢。おま何時部屋に入ったッスか?」

 

「“そっとやってくれチェルシー”の辺りかしら?」

 

 

随分と最初からだなオイ。

 

 

「やほーチェルシー!元気してた?」

 

「うん、大丈夫。キャロは?」

 

「わたしはもっちろん元気よっ!」

 

「見りゃ判るッスもんねー」

 

 

そして平然と居座る度胸、キャロ嬢・・・恐ろしい娘っ。

俺が白目で戦慄していると、また部屋のドアが開いた。

 

 

「よーす、両手に華とはこれまた良い身分だねぇ」

 

「若い内は何でも挑戦とは言うが・・・まぁほどほどにな少年」

 

「あ、あのう。私は・・・そのう」

 

 

上からトスカ姐さん、ミユさん、ユピの順だ。

いや、両手に華って・・・片方は妹でもう片方は一応預かっている人物なんだけど?

そして何故かこの後、俺の部屋を占領した女性陣によって宴会状態に・・・。

まぁ良いけどさ・・・艦長だから家は広いんだ。

でもよ―――

 

 

「つまみはまだかー!」

 

「はいはいただいまー!!」

 

「この銃はね?衝撃波を発生させられる銃で―――」

 

「へぇ、私もコレクションしてみようかなぁ」

 

「ちなみに私は珍しい鉱石だけどな。ああ少年、私にもなにかつまめるものを」

 

「あいよー!」

 

 

―――なんで、家主の俺がさっきから雑用してんだろうね?

ホント、何しに来たんだ?この人達?

 

 

***

 

 

さて、金稼ぎをしつつシュベインを探していた白鯨艦隊。

この星系を構成する5つの惑星を一つ一つ地道に探して行った。

当初はここに最初に来た時のようにバザールで買い物の一つでもできるかと思っていたが、ヤッハバッハ侵攻の影響で全てのバザールが店を閉じてしまっていた。

そのお陰で、探索自体は非常にすぐに終わってしまう。

どの星系も大規模バザールやマーケットが目玉なため、そこが見れなきゃねぇ?

そうなると俺達0Gの様な宇宙航海者が行けるような場所なんて限られてくる。

通商空間管理局の軌道ステーション、ギルド、酒場くらいのものだろう。

ステーションはただの港であり、地上との連絡口程度で見る場所はない。

ギルドは今まで単独でやってきたシュベインさんがいるとも思えない。

消去法により、のこるは0G御用達の酒場ということになる訳だ

そして今はヤッハバッハが迫りつつある。

なので、こんな中やろうという剛毅な酒場も少なかった。

そんな訳で案の定、各惑星に手分けして人を派遣したらすぐにめっかった。

現在シュベインさんは惑星ハインスぺリアの酒場に居るらしい。

とりあえずトスカ姐さんが呼んだ彼の話を聞きに、ハインスぺリアまで向かうのだった。

 

 

「えーと、アイツはっと・・・お、いたいた」

 

「おお、トスカ様!お待ちしておりました」

 

 

酒場に付いてすぐにカウンター席に座るシュベインさんを発見したので、トスカ姐さんが話をする為に彼に近寄って行った。

俺も話だけでも聞こうとトスカ姐さんの後に続く。

 

 

「悪かったねシュベイン。呼びだしちまってさ」

 

「いえいえ、このシュベイン、トスカ様の為なら・・・おおユーリ様まで」

 

「おいッス~。元気だったッスか~」

 

 

こうして再会した俺達もシュベインと同じくカウンター席に座る。

ちなみにトスカ姐さんを挟んで両サイドに俺とシュベインさんだ。

 

 

「しかし、シュベイン。よくここまで来れたねぇ」

 

「聞いた話じゃすでにエルメッツァもネージリンスもヤッハバッハに押さえられてるっていう話ッスよね。あれ?ならどうやってこっちに?」

 

「はい。途中で何度かヤッハバッハ軍とも遭遇しました。ですが幸いなことに職業柄隠し航路を知っておりましたので」

 

「隠し航路?」

 

「はい、こちらのハインスぺリアに通じる細長い航路がRG宙域につながっていまして」

 

 

流石はシュベインさん、こっちが知りえない色んな情報を持っているな。

まぁ情報屋まがいなこともしていたらしいから、それくらい知って無いと命が危なかったんだろうけど。

 

 

「ヤッハバッハ先遣艦隊の情報はどうなんだい?」

 

「はい、流石というべきか、エルメッツァの迎撃艦隊を撃破してからは怒涛の勢いで小マゼランを席巻しておりまして―――」

 

「小マゼランを完全掌握するのも時間の問題って事ッスね」

 

「その通りです」

 

「ふん・・・流石宇宙の半分を勢力下においていると言っているだけの事はあるか。司令官は何者かわかっているのかい?」

 

「は・・・それが・・・」

 

 

ん?なにやらトスカ姐さんの問いかけにシュベインさんの歯切れが悪くなったぞ。

おまけに俺の方をちらちらと・・・なんぞ?

 

 

「それが、その・・・司令官は―――」

 

『カシュケントの諸君!』

 

「「「!!??」」」

 

 

シュベインさんが思いきって口を開こうとしたその瞬間。

酒場のモニターが切り替わり、自信に満ち溢れた男の声がこだまする。

突然のそれに、俺達三人は驚いてすぐに後ろのモニターに眼をやった。

酒場の大型モニターには、凛とした佇まいのブロンドの青年が映っている。

・・・うほっ、良い男―――ではなくて、ああそうか。あれが―――

 

 

『私はヤッハバッハ先遣艦隊総司令ライオス・フェムド・へムレオンである』

 

 

いましがたシュベインさんが口に出そうとしていた、ヤッハバッハ艦隊の総司令。

ぐぅ、なんてオーラだ。“俺に不可能なことはない”的な波動を感じるぜ!

しかも美形!よく見たら背後に美人女官の姿が見えるだと!?

 

 

『我等の艦隊は、すでにカシュケントまで7光年の宙域に来ている』

 

 

酒場の中にざわめきが起こる。7光年というとかなり近い。

俺達は予想していたからそうでもないが、地元民には驚くべきことだったのだろう。

そしてモニターに映る美形の金髪男の言葉はまだ終わっていない。

 

 

『これよりヤッハバッハの名の下、カシュケント宙域の長老に会談を申し入れる』

 

 

これはまた考えたものだ。向うから会談の要請が来たのだ。

わざわざ民間のTV等の電波帯までジャックして・・・。

こうされてはカシュケント宙域を預かるものとして、クー・クーは会談を受けない訳にはいかない。

この放送により、トップの彼女はいきなり逃げだす訳にもいかなくなったからだ。

今頃会議所のモニターの前で歯ぎしりして悔しがっているだろう。

 

 

『一切の抵抗なく、交渉のテーブルに着いてもらいたい。なお、抵抗するモノは容赦なく殲滅する!』

 

 

交渉と言っておきながら、抵抗するものは殲滅か。

しかし乱暴な言い様だ。それじゃ交渉じゃなくて脅迫だぜ?

回りの一般人の客もヤベェとか早く家族に知らせなきゃと言って走り回ってる。

通信が終わると同時に入口に人が殺到し・・・あ、こけた。人間ドミノってこぇ~。

 

 

「司令官はライオスだったのか!そうなのかッ!!」

 

 

トスカ姐さんの大声が酒場にこだまする・・・ように見えて、実は他の音の方がうるさかったり。

それはさて置き、トスカ姐さんはどこか激昂した感じでシュベインさんの胸倉を乱暴に捻り上げていた。

 

 

「・・・は、はい・・・」

 

「トスカさん、ここで怒っても意味ないッス。冷静に・・・落ち着いて・・・」

 

「・・・くっ」

 

 

俺に指摘されてシュベインさんの胸倉から手を離すトスカ姐さん。

だがやはりまだ不機嫌そうだ・・・女性の怒りは恐ろしいね。

 

「――ユピ、聞こえるッスか?デメテールの発進準備、いそいで」

 

『判りました。すぐに発進準備に掛かります』

 

「・・・どうする気だい?」

 

「兎に角、クー・クーの元に行かないとダメっスね。奴さんらはあの業付く婆さんに降伏を迫るだろうから、ソレだけは阻止しないとこれから来る救援艦隊が蜂の巣ッス」

 

別にあの婆さんが降伏しようが正直どうでもいいんだがね。

それをされるとこの付近における係留地が無くなってしまうのだ。

流石にヤッハバッハと一戦交えようとしているのにそれは不味い。

すでに救援艦隊も発進している。

このまま降伏されれば、下手すれば大口開けたサメの巣に自ら突っ込むようなモンだ。

それだけは阻止しないとな・・・最終的な目的の為に。

 

「あっと・・・それとシュベインさん何スけど」

 

「ああ、どうせ人手はいくらでもいるんだ。これからは手を貸してもらうよ」

 

「かしこまりました」

 

シュベインさんを半ば強引に仲間に引き入れた後、デメテールに戻った俺達は一路、長老会議所のある惑星カシュケントへと向かった。

これでようやく長い様で短かった準備期間は終わりを迎える。

出来る事は出来る範囲で全部やった。後は運次第だろう。

これから起こるであろうヤッハバッハとの第海戦を前に、少し身体が震えた俺だった。

 

***

 

 


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