【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第六十五章+第六十六章+第六十七章

 

どうも、艦長やってるユーリです。

そしてさっそくですが惑星カシュケントにやってまいりました。

前回、空気読めない噂では銀河の半分を手中に収めている帝国が、降伏しないと悪戯もとい殲滅するぞ☆と交渉という名の脅迫をしにやってきました。

俺達はその交渉を止める為に長老会議所へと急いで向かっている最中です。

いやはや、まったく息つく暇も無いとはこの事だーね。

飯とク○するヒマくらいくれたっていいだろうに・・・。

 

それはさて置き、長老会議所へ入ると当然あわあわとしたクー・クーの婆さんがいた。

 

 

「おお!お前さん達、大変じゃ!来よる、ヤッハバッハがついに来よるぞ!」

 

「判ってるさ。その為にアンタんとこまで来たんだ」

 

「反抗作戦というか、連中をここで一時的にでも喰いとめるためには今は降伏して貰ったら困るッスからね」

 

 

そう、倒せないにしても今降伏されては困る。

下手すると一気に艦隊がなだれ込んできて、その足で大マゼランに行く可能性もあるのだ。ちょっとコンビニ行って来る――のノリで行かれては堪ったものではない。

 

 

「そう言われても・・・連中にはむかうなんて無理じゃろうが」

 

「無理でも、やっておかないと後悔するんですよ」

 

 

でないと、大マゼランまで逃げても追いかけてくるし・・・。

だがクー・クーはそんな未来の事よりも今の事の方が大事の様で。

 

 

「アホかい!大国がやられたちゅー今。こんな小さな自治領でどうせいっちゅうんじゃ!降伏じゃ!連中が来たら2秒で降伏じゃ!!」

 

 

とまぁ、降伏降伏とわめくクー婆さんだった。正直見苦しい大人にしか見えん。

だが欲望に忠実で経験が豊富な商人であるからこその決断だろう。

まぁこの世界民主主義あるけど、基本的にそれが通用するのって国家とかくらいだもんな。少しでも星系から外に出たら弱肉強食の世界だし。

彼女が降伏を選ぶのも、強い物には巻かれろという考えがあるからだ。

少なくても一方的な殲滅では無いのだし、多少の窮屈さを我慢さえすれば、降伏を受け入れて生き伸びる事は可能だ。

まぁ、俺とか0Gにはそんなのは耐えられないんだがね。

恐らく正規軍が宙域を占拠したら、その宙域は航海出来なくなる。

自由気ままに航海する事を心情とする俺らにとって、そいつは殺されるのにも等しい訳で・・・。

降伏と叫んでいるクー・クーをどうするとトスカ姐さんと眼を見合せたその時だった。

 

 

「ふふ、流石はカシュケントの長老。物わかりが良い方のようですな」

 

「なにやつ!?」「――!!お、おまえはっ!!?」

 

 

突如部屋に響いた第3者の声に俺達は振り向いた。

そこに居たのは銃を携行させた近衛を引き連れた豪奢な金髪をした白皙の美青年。

ヤッハバッハ総司令のライオスがそこに居た・・・つーかくるの早いなオイ!

出番待ちでもしてたんかい!?タイミングが計ったかのように正確過ぎるだろう!

それに、なんつうイケメンだろうか・・・爆発すればいのに・・・。

 

 

≪ガシャっ≫

 

「ちょっ!いきなり撃ち殺す気ッスか!?」

 

 

うわはーい、変な事考えたら後ろで控えてた近衛に銃向けられちったい。

まぁ俺の後ろにも連中より強化された装甲宇宙服の護衛がいる訳ですけど。

マッドが造ったミョルニルアーマーは伊達じゃない。すでに何度もバージョンアップされているからな。原作みたく周囲にシールド展開まで出来るんだぜ。

とにかく、一色触発、誰かが動けば誰かが死ぬかもしれない様な空気になった。

事実、俺は銃弾一発でも喰らったら泣き叫ぶぞとか考えていると―――

 

 

「銃を降ろせ――失礼した」

 

 

何とあの金髪イケメンが片手で合図を出して先に銃を降ろさせたのだ。

そうしたらこっちも銃を降ろさない訳にはいかない。

黙ってこっちも銃を降ろすように合図し、なんとか一色即発の空気は避けられた。

ふぃー、また懐のボム達が火を・・・つーか鳥モチを吹くとこだったぜ。

 

 

「初めてお目にかかる。ヤッハバッハ先遣艦隊総司令、ライオス・フェムド・へムレオンですカシュケントの長老・・・クー・クーどのですな?」

 

「ひぃ!?」

 

 

婆さんが腰を抜かした。ざまぁ・・・ってそうじゃねぇ!

ええい、こんなに早く来るとかあり得んだろう。普通一日くらい掛けるだろうに!

なに?アレか?言った事はすぐに実行するってヤツですか!?

 

 

「怯えることはない。素直に降伏していただければ手荒な真似は致しません」

 

 

余裕なのか・・・いや、実際余裕から来るのだろう。

非常に紳士的な態度で降伏をクー・クーに迫っていた。

クソ、何よりも悔しいのが敵の首領が目の前にいるというのに手も足も出せない事だ。

今殺すことは可能だろう。ウチの保安部員は百戦錬磨のプロフェッショナルだからな。

装備もマッドの所為でかなり良いから軍人相手もで負けはしないことだろうから、目の前の金髪イケメンをブチ殺すくらい容易いだろう。(近衛が怖いから今はやらんが)

だけど、問題はそれをしたらヤッハバッハから報復攻撃が来るということだ。

仮にも相手は先遣艦隊の総司令、それを問答無用で殺したりなんかしたら兵への対面上、下手人をブチ殺した上でそいつが所属していた所も壊滅させるのは道理だ。

俺は0Gドッグであるが、連中からしてみればここら辺で活動していた以上、俺は小マゼランの所属になる訳だ。少なくてもカシュケントの住人皆殺しは避けられまい。

そうなれば俺は間接的にであるが地上の民に被害を与えたということになる訳で。

0Gのアンリトゥン・ルールにある地上の民に手を出さないに抵触しちまうって訳だ。

一応デメテールは惑星カシュケントの上空にて、艦隊ごとステルスモードのまま待機させているけど、10数万の大軍相手に惑星守りながら戦うのは流石にムリだぜ。

だからここは静観するしかない。我慢じゃ、今は我慢の時なのじゃ。

 

 

「単刀直入に言いますと、我々はあなたに道案内をしていただきたくて、ここまでやってきたのです」

 

「み、道案内・・・?」

 

「そう。ここから大マゼランへと通じるマゼラニックストリームは、かなりの難所だと聞いている」

 

 

なるほど、わざわざ総司令自ら馳せ参じた理由はそれか。

小マゼランは飽く迄前座、このまま一気に大マゼランまで責めるつもり満々って訳だ。

そしてそれを静観している俺らテラ空気。

いや、話に入りこむタイミングが掴めねぇのが正しいか。

 

 

「ですからあなたに道案内をしていただきたいのです。つまらぬトラブルで、皇帝からお預かりした艦船を失う訳には参らぬ故」

 

 

ク ー ・ ク ー は ま だ 怯 え て い る 。

だが、ここで断る道理は彼女には無い訳で――

 

 

 

「そ、それなら―――むがっ!?」

 

「待ちなっ!そうはさせないよ!!」

 

「その先は・・・いわせんっ!」

 

 

当然俺らが前に出た。ちなみに俺は婆さんを羽交い絞めにして口を塞いでいる。

そしてトスカ姐さんがブラスター(何処から出したんだろう?)を取り出し、クー婆の米神に付きつける。

 

 

「ひぃ!?」

 

「コイツのド頭をブッとばされたくなかったら、ここは引いてもらおうか!」

 

 

そしてトスカ姐さんはドスが効いた声でライオス達を睨んだ。

正直、傍目から見たら凄まじくこっちが悪役だろうなぁ。

だって仮にもカシュケントの長老を人質にしているように見える訳だし。

 

 

「・・・誰だ、貴様は。何のつもりだ?」

 

「ハッ。流石はヤッハバッハの艦隊総司令まで上り詰めたお方だ。昔の・・・許嫁も覚えてないってかい?」

 

「む・・・?」

 

「(あー、そういやこの人達って元婚約者・・・飽く迄元だか気にしねぇぜ)」

 

「まさか・・・」

 

 

ライオスはグッと眼にちからをこめる。

いや、トスカ姐さんを撫でまわすかのように・・・言い方がエロいな。

兎に角、ジッと見据えてなにか思考した後、なにかを思い出したように手をポンと叩いた。

今のやけに反応が庶民っぽかったぞオイ・・・。

 

 

「そう・・・そうか、確かに面影がある。トスカ、トスカ・ジッタリンダか」

 

「フン、ようやく思い出したかい。アンタの裏切り、こっちは忘れちゃいないよ!」

 

「ふっ・・・時の流れとは、かくも無残な・・・。無垢なプリンセスが只の阿婆擦れになり果てるのだからな」

 

「(あ゛?テメェさっきなんつった?)」

 

 

ちょいと聞き捨てならん単語が聞えた様な気がしたが気のせいかな。かな。

だが、我慢と自制を理性で強制させて怒りを抑え込んでいる俺は黙ったままでいた。

もっとも額とかには青筋が幾つか浮かび、ヤツの言動を聞いた他の護衛についていた保安部員たちも同様に怒気を発している。

少なくても彼女は乗組員であると同時に付き合いの長い俺らの仲間なのだ。

仲間が侮辱されればケンカ売っているのか、いやケンカ売ってるな、と殴りかかるところだが、ここでそれをしてはいけないことを理解しているが故、手が出せない。

だが仲間がそう思ってくれたのは判ったのか、一瞬怒気に包まれたトスカ姐さんの気配が揺らいだのを感じた。

 

 

「だが――このライオス、過ぎ去った時に、感傷なぞ持ち合わせておらぬ」

 

 

ライオスは俺らの怒気に気が付かなかったか、はたまた気が付いていたが無視したのかは知らないが、何とも思っていないという感じで右手を掲げる。

 

 

「あぶねぇっ!」

 

≪――ザザ!!≫

 

 

恐らく攻撃命令を下そうとしたライオスを見た俺は、クー・クーをトスカ姐さんに任せて彼女をかばう位置に立った。それよりも早く、保安部員たちが分厚い装甲宇宙服を盾にすべく俺らよりまえで壁のように立つ。

 

その威圧感、圧倒的ッ―――!!

 

 

「・・・貴様ら、そこをどけ」

 

「・・・ハッ、いやっスね」

 

 

冷たく睨んでくるライオス、だがそんなこたぁ関係ねぇ。

 

 

「ここで引いたら、男じゃねぇ。仲間守れねぇで何が艦長ってもんだ」

 

 

ちょっとギリアス乗り移ったかなとか考えつつ俺はそう啖呵を切り、エネルギーバズを構える。何処から出したかは聞くな。それに合わせて保安部員達も同じくメーザーライフルや振動剣を構えてライオスとその近衛兵と対峙する。

彼らもまた、仲間を侮辱されて切れかけているのだ。

ソレだけ、俺達0Gの身内にたいする仲間意識というのは強い。

はは、正直ブチ切れて即戦闘で無くてよかったな。オイ。

 

 

「撃てるモンなら売ってみな。少なくてもそっちにゃ強い艦隊は在るみたいだが、そっちの兵士はコイツらに勝てるッスかねぇ?」

 

 

ライオスの近衛兵は見た感じ、どうやら純粋なヤッハバッハ人の兵士では無い様だ。

ヤッハバッハ人の身長は平均2mを越える。特に兵士にはその傾向がみられるらしい。

だがそれにしては連中の大きさはライオスより低い。

だとするならヤッハバッハ人という資格を持った征服惑星からの兵が正しいだろう。

そうならば、ヤッハバッハ人程の生命力や丹力は持ち合わせてはいない。

それなら、例え相手より数が少ないが装甲宇宙服を纏ったウチの保安部員でも対処のしようはあるはずだ。

とはいえ、相手の兵士が8人もいるのに対し、こっちは俺を含めて5人。

数は少ない上に所詮は0Gという無法者(アウトロー)だと侮っているのか、ライオスは改めて攻撃命令を下そうとした。

 

 

「そうか、ならば全員このまま―――」

 

「待ちな!その前にクー・クーの頭をブチ抜くよ!」

 

「はひぃっ!?」

 

 

だがトスカ姐さんがグイッとクー婆の米神にメーザーブラスターを突き付けた為、相手もまた動きを止めた。

いや、トスカ姐さん、確かにこっちがピンチに見えるけどそれはないぜ。

ちょっとシラーっとした眼をして送ってやるがスルーされた。あ、ヒデェ。

 

 

「マゼラニックストリームの途中にゃ、クー・クーしか知らない迷路の様な航路があるんだ!それでもコイツの道案内はいらないってのかい!」

 

「・・・」

 

「ほ、本当じゃ!わしの案内無しではいかな大艦隊でも大量の犠牲がでるぞい!!」

 

「フ・・・つまらぬハッタリを――」

 

 

何やら胡散臭いという目で見てくるライオス。

まぁ向うとしては例え長老で無くても一人や二人くらい違う航路をしている人間がこの星系に紛れている可能性を考えているんだろう。

最悪マゼラニックストリームを抜けて来た交易船を拿捕し、航路データが消される前に抽出すれば大体の見当が付けられる。

あくまで穏便に進めていたのはそれが可能だと判断した為。

要するに、ここでのクー・クーの利用価値は実は結構低かったり・・・あ、詰んだ?

 

 

「総司令!大変です!」

 

「・・・何事だ、トラッパ」

 

 

ライオスが俺達を撃つように指示を出そうとした刹那。

眉毛無しののっぺりとした副官風の男が部屋に飛び込んできた。

あ、あぶねぇ、危うくこっちも応戦する為に引き金引きそうになっちまった。

 

 

「は、アイルラーゼンを名乗る艦隊が、この宙域に接近してきております!」

 

「む!・・・止むを得ん。ここは引こう」

 

「(アイルラーゼン、バーゼルさんか!)」

 

 

エネルギーバズを抱えたまま、俺はあのパーティで一緒に壁の華をしていた軍人の青年を思い出す。向うが送りだした艦隊はやはりバーゼルさんの艦隊だった。

まぁあの人何度かこっちと大マゼラン往復しているから適任と判断されたか。

 

 

「―――だが、クー・クー殿。次は容赦せん。貴女がどのような情報を握っていようと・・・従わぬなら、力で制圧させてもらう・・・それがヤッハバッハだ」

 

 

そう言って、この金髪イケメンは高官が身につけるであろうマントを翻し、兵を伴って部屋から出て行った。彼らが立ち去って少ししてから全員力を抜く。

 

 

「「ふぃぃぃぃぃ~・・・」」

 

「いや、なんでユーリまでそんな緊張してるんだい?」

 

「んなもん、ここで撃ち合いになったら思わず前に出た俺が危なかったからじゃないッスか」

 

「こ、コイツは・・・」

 

「まったく、無茶なハッタリをしよる。命が縮むかとおもったわえ・・・」

 

「はは、あんたが話を合わせてくれて助かったよ」

 

「ふん。人の頭にブラスターを突き付けておいてナ~ニが助かったじゃ」

 

 

まぁまぁ、とりあえずアイルラーゼンのお陰で一息つけるやん。

とはいえそれは一時的、早い所アイルラーゼンと合流しなければ危険が危ない。

 

 

「ああ、ユピ。モンスター迎えによこしてくれッス。長老会議所の目の前に」

 

 

とりあえず兵員輸送用VB-6TCを呼び寄せる。

本来はこういう現地住民がいる惑星内で勝手に飛び回せるのはダメだが非常時だ。

それにこの星の警備隊は既に機能していないみたいだしな。

急ぎだしこれくらいしても問題無い。

てな訳でさっさとVB-6TCモンスターに乗り込み、デメテールに帰還した。

 

 

***

 

 

さて、デメテールと合流した俺達はそのままカシュケント宙域から飛び去った。

とりあえずステルスモードをかけたまま、誰の目にも映ることなく公海上へ出たわけだが―――

 

 

「艦長、針路上に高エネルギー反応を探知。前方にて戦闘が行われていると思われます」

 

「光学センサ、出力最大・・・最大望遠で映像――でます!」

 

 

ヴォンという音と共にメインの空間投影モニターに映し出されたのは、大艦隊同士の会戦だった。数千、数万に届くのではないかという砲火が飛びかい、プラズマの花火が辺りを照らし、弾足の遅いミサイルがレーザーの射線に入り爆散して強烈な光球へと変わる。

それは小マゼランに来てからでも殆どお目に掛かった事が無いクラスの大艦隊同士の戦闘だった。正直見ているだけでもお腹いっぱいな光景だ。

ブリッジの中も静かである。何せ俺らの目的が目的だ。ちょうど目の前で行われている戦闘に飛びこまねばならないかもしれないからだ。

どちらにしてもここまで来て逃げる事は出来ない。

なので、どちらがアイルラーゼンか聞こうとしてその刹那。

 

 

「片方の艦隊、恒星ヴァナージ方面に向けて後退を開始」

 

「・・・どう見るユーリ」

 

「ありゃ・・・ワザと撤退したって感じッスね」

 

 

一見拮抗しているように見えたが、実は片方は全く本気では無かった。

その証拠に片方の艦隊には撃沈はいなくても損傷で煙を吐いている艦が多数いるのに対し、今撤退を開始した艦隊は殆ど無傷。

当たればダメージを与えられた様だが、基本的に逃げに徹する機動を艦隊がとった。

それはすなわち様子見をしていたということにほかならない。

 

 

「・・・まぁここで見ていてもはじまらないッス。ミドリさん、通信回線開いて、多分残った方がアイルラーゼンでしょう」

 

「了解」

 

 

とにかく、残ったアイルラーゼン艦隊と合流しよう。

ミドリさんが現在戦闘後の収拾を図っているアイルラーゼン艦隊に通信回線を開き、間もなく付く事を連絡したのだった。

 

 

……………………………

 

………………………

 

…………………

 

 

此方が連絡を入れる事は、どうやら最初から向うもどうやらその事を予想していたらしく意外とすんなり連絡が通った。バーゼルさんが知らせたんだと思う。

んで、仮のIFFコードを貰い、艦隊に合流する旨を伝えた後、デメテールはステルスを解除すした。

かなり離れてはいるが全長36kmのフネが現れた途端、艦隊に少しだけ動揺が走る。

とはいえ、思っていたよりも動揺が見られないあたり、大分鍛えられている事が判った。

 

 

「艦長、アイルラーゼン艦隊からの誘導ビーコンです」

 

「彼らの指示に従い、デメテールを進ませろッス」

 

 

やがて向うからどの位置に付けばいいのか誘導が来た。

デメテールはその巨体をゆっくり動かしながら所定の位置にて一度停まる。

周りにはデメテールを取り囲むようにアイルラーゼンの艦隊が展開していく。

包囲しているつもりだろうか。まぁコレだけでかいフネだしな。

恐らく用心の為に警戒しているんだろう。

 

 

「やーな感じッスね」

 

「アイルラーゼンは礼儀は弁える。こっちから手を出さなきゃ何もしないさ」

 

「でもあんまりいい気分じゃないですね。小蠅に集られる気分・・・」

 

 

ユピが言ったことはスルーするが、やはりいい気分では無いな。

そう思っていると通信のコールオンが聞えて来た。

向うから通信が来たらしいので、俺はコンソールを操作し直接通信に出る事にする。

そして案の定、通信に映ったのはアイルラーゼンの青年将校その人だった。

 

 

『ユーリくん、久しぶりだな。それに其方は・・・トスカさん、か?以前あった時とは随分雰囲気が違うな』

 

 

俺に挨拶をした後トスカ姐さんを見て驚き目を丸くしている。

まぁ、あの貴婦人というか御令嬢然としていた彼女が、どう見てもアウトローな格好をしているわけだしな。多少は驚くだろう。なにせトスカ姐さんがこっちが素だヨと言っている言葉に普通に応対してるけど、バーゼルさんの目元はひきつってるぜ。

 

 

「バーゼルさん、援軍に来てくれて感謝です。本当によくもまぁこんな遠いところまで来てくれて、0Gではありますが白鯨艦隊の長として御礼を申し上げます」

 

『これは大マゼラン銀河を護る為でもある。礼には及ばないよ』

 

 

そうスか。

しかし、なんつーか良い人だよなこの人。

全身からにじみ出る良いお兄さんオーラとでも言うの?

なんか頼りになるわぁって感じがするんだよね。

 

 

『しかし、一当てしてみたが・・・あれは大変な相手だな』

 

「まぁ小マゼラン一の大国が僅か数回戦で壊滅させられたからねぇ」

 

『だろうな。話には聞いていたが予想以上だ。我々もかなりの難戦を覚悟せねばなるまい』

 

「やはり・・・この艦船数では厳しいかい?」

 

『ああ、先程の戦闘は向こうから撤退してくれたからよかったが、もし攻勢に出られたら勝敗は見えないな』

 

 

そう言って苦笑するが・・・嘘の匂いがぷんぷんだぜぇ。

 

 

「バーゼルさん、失礼ですが今のは・・・」

 

『・・・やはり、判ってしまうかな?』

 

「先程の会戦。此方も見てたので・・・」

 

『そうか・・・ユーリくん、軍事というものはリアルスティックなモノだ。とはいえ、私にも本国の命を受けてやってきた意地もある。連中の進軍は、なんとか止めなければな・・・』

 

 

精神論で敵には勝てない。だが精神なければ戦えないのもまた道理。

正直な話、この艦隊の錬度であるなら対等の数さえそろえれば圧倒出来ただろう。

だが、ここに来る際に脱落したのか、はたまた最初からこれだけの艦隊数だったのかは知らないが、現在の艦船数では敵の艦隊に勝てるかは判らないことは確かだった。

 

 

『正直、相手との戦力のギャップは圧倒的だ。これでは小マゼランの奪還も難しい。だが我々はこのままヤッハバッハを大マゼランに行かせる訳にはいかないと思っている』

 

「つまり、小マゼランは見捨てるって訳だ」

 

『そうせねば、大マゼランも蹂躙される』

 

「・・・ま、つらい選択だってことは解るッスね」

 

「――だね。わかるよ。連中の恐ろしさはね」

 

 

そう俺らが言うと、肩の力を抜くように息を吐き出すバーゼルさん。

なるほど、彼は大分この決断をする為に悩んでくれた様だ。

何せ彼らの名目は小マゼランで蹂躙されている人間たちの救援なのだ。

それがふたを開けてみれば、すでに助ける人々の殆どは敵の手に落ち、しかも敵との戦力差は凄まじくおおきい。俺達と合流しても焼け石に水で雀の涙。

しかも、だとしても自国を揺るがす脅威が存在する以上、軍人としては引けぬ。

まだ戦える上に何かしら方法がある以上、戦わなければ敵前逃亡となってしまうのだ。

 

 

「しかしどうやって進軍を止める?まさか大マゼランへと通じるゲートを破壊しようってんじゃないんだろ?」

 

『ボイドゲートへの攻撃は重大な航宙法違反だ。それにアレは現存する兵器では破壊不可能だよ』

 

「知ってるさ、だから聞いてるんだ」

 

 

そう、デッドゲートが発見され、それがボイドゲートとして機能している事が判ったのが1300年近く前の事だ。

そして人間の歴史が証明している様に、その間も様々な勢力が現れては消えた。

当然重要な輸送ルートとなりえるボイドゲートの存在は戦乱に巻き込まれるに十分な機能を有していた。

だが、どんな勢力が攻撃を加えようとも、ボイドゲートには効果が無かった。

この古代遺跡のような転移門の付近には独特の力場であるボイドフィールドが展開され、レーザーの類は勿論の事、他のどのようなエネルギー兵器も受け付けない。

質量兵器も遺跡の防衛機能なのか、敵性アリと判断されフィールドにふれた途端に分解されて消滅する。

絶対に壊された事が無い実績が、1000年以上たっても稼働し続けるかのボイドゲートが破壊不可能である事を如実に語っていた。

 

 

『・・・巨大砲艦タイタレス。エクスレーザー砲搭載艦だ』

 

「「エクスレーザー砲?」ッスか?」

 

 

なんだっけ?そのどこかFFに出て来そうな名前の兵器。

 

 

『我が軍が極秘に開発していた超出力レーザー砲だ。これを恒星に射ち込む事で内部の陽子-陽子連鎖反応を誘発し、超新星爆発を意図的に起せるだろう』

 

「まさか・・・赤色超巨星ヴァナージを!?」

 

『そう、あれならうってつけだ。一度超新星爆発が起こればその領域は次第に拡大し――大マゼランのボイドゲートも飲み込む』

 

「つまり、破壊は出来無くても通行不能にするって訳ッスね」

 

 

なるほどね、確かにそれなら破壊不可能でも通過は出来ないだろうよ。

何せあれだけの巨大恒星だ。超新星爆発起したらどうなるか簡単に予想が付く。

とりあえず重力変調の嵐が起こって、周辺の航路は使いモノにならなくなる。

さらに強烈なγ線が放射され、周囲50光年以内の惑星に居る生命は死滅する。

おまけに超新星爆発の衝撃波の影響で広範囲に外装ガスが周辺に拡散。

衝撃波によって断熱圧縮や放射性元素の崩壊熱で加熱されたガス雲が誕生する。

それは温度にしておよそ100万K以上に達し、超新星残骸を形成してくれるだろう。

しかも大きくなってガス自体が重力を持つ為、付近の星間ガスを吸収しおよそ数万年規模で輝き続ける。

当然その間は専門の装備を持たせた船でないと行き帰はほぼ不可能。

仮にそこを通り抜けて侵攻しようにも、かなり時間は掛かるだろう。

 

 

「はは、まいったね。トンでも無いこと考えやがる」

 

『こちらに来た時は、まさかそれを使う事になろうとは思ってもみなかったがね』

 

「・・・で、そいつを使うんスか?」

 

『個人的な意見だが、私は君たちを死なせたくはない。だがヤッハバッハを食い止める為に我々はためらうことなくエクスレーザー砲を使用する。その前に大マゼランへと逃げてくれ』

 

「あんたはどうするんだい?」

 

『残念ながら、軍人という職業を選んでしまったのでね』

 

 

そう言いつつも何とも寂しそうな笑みを浮かべるバーゼルさん。

何ともはや、この人この戦で死ぬ気だな・・・。

もし生き伸びたら酒でも飲もう・・・って、それ死亡フラグじゃんよ。

 

 

「ふむ、まぁ確かに妥当な意見ッスね」

 

『うむ、では―――』

 

「だが断るッス」

 

 

ザ・ワールド。(俺の空気読めない意見で)空気が止まる。

はん、そりゃ確かにその手を使えばなんとでもなるだろうさ。

だけどね―――

 

 

「バーゼルさん、軍人はリアリストなのは承知だが――最初から死ぬ気で戦いに挑むヤツがどこにいるんスか・・・?」

 

『そう言う訳ではない。だが時に大多数を救うために多少の犠牲はつきものだ』

 

「それは確かに正論ッス。だけど、だからって死ぬ気でやる事にはならないッス。まだ少しだけ時間はあるッス。ならなにか手が無いか模索しても罰は当たらないっス」

 

 

言外にアンタも死ぬのは惜しいと言ってやる。

そりゃ巨大恒星を撃って道を塞ぐ、もはやこれくらいしかやれない事は解る。

だからって、まるで死に急ぐかの様な言動は、中身日本人な俺には聞き逃せる事じゃ無かった。

 

 

『・・・はは、一本取られたな。だがどうする?少なくてもエクスレーザー砲を使うにはオートでは無理だ』

 

「遠隔操作くらい出来ないんスか?」

 

『出来なくはないが、発射信号の出力上、あまり距離はあけられんぞ』

 

 

一応特殊な暗号化が施された信号だが、通常の発信機からでも送信は可能らしい。

ふむ・・・ならウチの以前開発してたアレを使えば問題はないな。

 

 

「・・・まぁ距離を稼ぐ手立てはウチのあるモノを使えばいいとして、時間稼ぎの手を考えないと駄目っスね」

 

 

何せ高エネルギーで太陽内部の陽子反応を活性化させて爆発させようというのだ。

生半可なパワーじゃそんな芸当は起すことはできない。

彼らが断言しているということはソレが引き起こせるエネルギーを撃てるという訳だが、当然そんなエネルギーを撃ちだすにはかなりの時間を要するだろう。

 

 

「――今敵艦隊はどの辺の位置に居るんだい?」

 

『ちょっとまってくれ、今調べている―――判った。ここからおよそ500万宇宙キロほど離れた所だ。ちょうど件の巨大恒星のヴァナージがある宙域を跨いだ辺りだろう』

 

 

なるほど、巨大恒星ヴァナージの重力圏を抜けるルートは一つしかない。

そうなるとおのずと作戦は限られてくるな。

 

時間を稼ぐという意味でとれる行動は、例えば正面からの会戦。

だがこれにはガチの消耗戦となる事を覚悟しないといけない。

そりゃこっちの状況から考えて短期決戦は魅力だが・・・。

はたして現状の戦力で敵を防ぎきれるかと言えばどうだろう?

流石に戦力的に不安であるし、足止めじゃ無くてカモ鍋になりかねん。

これ以外にあり得るのは敵艦隊を混乱させる為の撹乱。

撹乱を起すには少数先鋭で敵艦隊に突っ込んだり、艦載機部隊で攻撃したりだろう。

だが、少数先鋭もルートが一つしかないなら辿りつく前に砲火の餌食。

艦載機部隊では敵の保有戦艦などから考えて撹乱に至らない。

 

 

――なにかこう、もっと意表を突くなにかはないものだろうか?

 

 

「足を止めたきゃ奇襲がセオリー何スがねぇ」

 

「・・・流石に航路が一本しかない以上、それは無理だろう。別に迂回路でもあるなら別だが・・・しかも相手に発見されていない航路をね」

 

 

そんな都合のいい航路がそうやすやす―――あれ?

 

 

「・・・ねぇトスカさん」

 

 

俺はちーと思いだした事を確認する為にトスカ姐さんの方を振り向いた。

 

 

「なんだい?」

 

「シュベインさんって、どうやってこっちまで来たんでしたっけ?」

 

「そりゃ確か、ハインスぺリアから・・・あっ」

 

「ね?もしかして使えるんじゃ」

 

『なにか策でもあるのかな?こっちにも教えてもらいたいんだが・・・』

 

 

おっとバーゼルさんにも説明しなくてはなるまい。

この間再会した仲間のシュベインさん、彼が此方に来た時のルート。

すなわち、カシュケントの隣星のハインスぺリア付近にある隠し航路が存在するらしいのである。

 

 

「ちょっとシュベインに確認とってくる」

 

「いってら~ス」

 

 

トスカ姐さんがシュベインさんに通信で連絡を取った所、ハインスぺリアの隠し航路はちょうどヤッハバッハ艦隊がいる辺りにつながっているらしい。

なんという幸運、なんという僥倖、それともご都合主義?

なんとでも言えるがとりあえずこの状況は好都合だろう。

 

 

『成程、側面からの不意打ちか・・・』

 

「ちょうど良いことに、ウチの白鯨は隠れて動くにはちょうどいい機能を搭載しているッスからねぇ」

 

「真正面からガチンコするよりかは、勝機はあるだろうよ」

 

 

つまりは側面から奇襲をかけて陽動作戦を展開するのである。

敵は何時の間にか此方が側面に現れて攻撃してきた事に動揺する。

そしてアレだけの大艦隊であるから、一度動揺が伝搬すればすぐに収まる事はない。

その隙をついて、俺達は遊撃をしまくって陽動。

本隊は正面からの彼の言う所の切り札を用いてヤッハバッハを攻撃するのだ。

・・・つーか何時の間にかそれが中央ホログラムモニターに作戦として表示されてるんですけど?

すげぇなアイルラーゼン、よく見たら情報士官らしき人が良い仕事したって顔してるし。

 

 

『・・・判った。陽動作戦については君たちに任せよう。但し、君たちの仕事は飽く迄時間を稼ぐことだ。ある程度の敵艦隊を掻きまわしたらすぐに離脱するんだ。いいね?』

 

「了解ッス(巻き込まれて融解したくないからね)」

 

 

流石のデメテールも超新星爆発には耐えられねぇだろうしね。

ソレ以前に現行ではまだ眠っているシステムが存在するのだ。

完全な時ならともかく今の状態なら逃げるので精いっぱいだろうよ。

 

 

こうして、作戦を話し合った俺達。

どうなるかは判らないが、少なくても相手の天狗をへし折る事はできそうだ。

さてと、とっとと戦闘準備に入ってあん畜生らとドンパチと洒落込みますかねぇ。

 

***

 

 

ヤッハバッハと戦う前。

我等が白鯨艦隊で一艦隊の指揮を担うヴルゴさんに一度聞いてみたことがある。

 

 

「ヴルゴさん、この状況下でどうにかならない?」

 

「ありませんな。ハッキリ言って逃げる方がいいでしょう。戦力が違い過ぎる」

 

 

きっぱりと、完全なる敗北でしょうと言われた。

10万対数万少々+白鯨・・・ま、普通ならコレで戦うなんて正気を疑うな。

 

 

「しかし、アイルラーゼン来ちゃったし」

 

「アイルラーゼンにはアイルラーゼンの国防事情がある。この銀河に派遣される戦力に期待してはいけません。自分の期待を元に作戦を立てるのは、指揮官にとって敗北へとつながる道ですぞ」

 

「ま、そりゃ判るんスがね」

 

「・・・別に戦いは正面からの突撃ではありません。奇策を用いて戦況を覆すのもまた戦術であり策です」

 

「そうッスね。遠くから隕石降らしたり、隕石に紛れて核弾頭ミサイルのコンテナを撃ちこんで敵艦隊の中心で乱射したり、敵艦を少人数でのっとって同士撃ちさせたり、毒ガス積め込んだミサイルで無力化したり――」

 

「・・・・・・えげつないですな(ボソ)」

 

「え?何か言った?」

 

「いえ、別に」

 

 

何故か唐突に眼を逸らされたのはなんだったのじゃろね?

 

 

***

 

 

「間もなく、カシュケントを通過します」

 

 

さて、アイルラーゼンとの共同作戦を組むことになり、俺達はヤッハバッハ艦隊を強襲する為、一路ハインスぺリアへの航路を進んでいた。

カシュケントからはいくつもの光が別れ、さまざまな方面へと飛んでいくのが見える。

どうやら民間船が迫りくるヤッハバッハとの戦いを察知して退避を始めたらしい。

星間戦争というのは、なにも宇宙空間だけが戦場という訳ではない。

近隣の惑星をすべて含んで戦場となるのが宇宙戦争というものなのだ。

その為、0Gの小競り合いではないこういう大規模な戦争の場合。

大抵近隣の惑星では避難をするか地下に潜るかするという。

何故ならごくまれに主戦場から流れたエネルギー弾やミサイルや被弾した戦艦が降ってくることもあるからである。

 

 

「おうおう、蜂の子を散らすようにってなこの事ッスね」

 

「退避勧告が出てるみたいですからね・・・艦長、それよりも」

 

「おう。――本艦隊はこれよりハインスぺリアの秘密航路を抜け、敵へと強襲をかける。全艦第二種戦闘配備、ステルスモード展開、周辺への警戒を厳にせよ!」

 

「了解!全艦第二種戦闘配備!ステルスモードオン!周囲への警戒を厳にしなっ!」

 

 

俺の号令がブリッジに響き、各所呼び指令所へと伝達され、艦隊へと伝わっていく。

さながらスポンジが水を吸ったかのようにそれは瞬く間に広まった。

そして各艦のデフレクターが一時的に解除される。

ステルスモードに入る前には一時的に重力場を解除しなければならないからだ。

 

 

「各艦・・・デフレクターの停止を確認。重力波干渉は・・・確認されず」

 

「ステルス起動します」

 

 

アクティブステルスが稼働を始め、インフラトン機関から排出される青いインフラトン粒子が細くなりやがて消える。

光学迷彩機能が働き、周囲の空間と同化していくようにその姿が溶けていった。

やがてそこにあった筈の超ド級巨大艦の姿はどこにもなく、漆黒の宇宙が見えるだけとなる。

相変わらず姿を完全に隠してしまうコレは凄すぎるな。

ステルスモード展開中はデフレクターが使えなくなるのが難点だが、姿を補足されていない以上攻撃のしようが無いからな。

まるで忍者、流石忍者キタナイ!とか言われそうね。

さて、そんなこんなで黄金の鉄の塊で出来た我らが白鯨はシュベインさんの案内の元。

巧妙に隠された細い航路を進み続ける。

あまり知られていない航路との事なので、道中はそれ程何かが起きることもない。

時間だけが過ぎる・・・やがて、隠し航路を抜けて通常航路へと出た。

しかし辺りには敵影は無し。非常に暇である。

 

 

「暇ッスねぇ~」

 

「ヒマだねぇ」

 

「確かにヒマね」

 

「何時入ってきたキャロ嬢」

 

「ん?ついさっき」

 

 

そして普通なら戦闘配備の時は入って来れない艦橋に普通に侵入しているこの娘。

こりゃ、勝手に入ってきおってからに・・・なに?私は自由なの?お前はネコか!

って途端にニャーって招き猫ポーズをとるんじゃない。可愛いじゃないか。

 

 

「で、どうやって入ったの?」

 

「そんなの私のスニーキングスキルで」

 

「・・・ユピ」

 

「先程トイレに行った艦長の後に続いてはいって来てました」

 

「え!なんで判って?!」

 

「ふははは、残念だったッスね!ユピはこのフネそのもの!彼女にこのフネの中で隠しごとは不可能何スよ!」

 

「げぇー!」

 

「ああー、どうでもいいんだが、前方に艦隊が出てきたらしいんだけど」

 

 

艦隊?このルートはあまり知られていないんじゃ・・・と思ったが、前方に展開しているのはどうやらエルメッツァの艦隊の様だ。

 

 

「光学映像キャッチ、メインに投影します」

 

 

ミドリさんがコンソールを操作し、遠距離だが光学映像を映す。

そこにはエルメッツァであるが、エルメッツァのエンブレムが消された艦隊がいた。

IFFも昔のエルメッツァ軍のではない、ヤッハバッハのものとなっていた。

 

 

「おやおや、降伏した国の艦隊が捨て駒にされたようで」

 

「相手はエルメッツァ人が乗っているけど、ここからは生きるか死ぬかの世界だ。ユーリ、あんたのことだから判ってると思うけど・・・」

 

「ええ、ここで見つかる訳にも行かないし、幸い数もそれほどじゃない。ヤッハバッハがいると予想される地点はまだ先ッスけど挟撃されたくはないッスからね。生き残るためなら、俺は修羅にでもなるッスよ・・・という訳でキャロ嬢、邪魔にならないところで座っててね」

 

「あーあ、折角ヒマになったから遊びに来たのになぁ~。エルメッツァも空気読まないわねぇ」

 

「・・・(キャロ嬢の方が空気読んでない気もするけどな。でもそこもいい所だな)」

 

 

とりあえずキャロ嬢を引きはがして艦長席の横からサブシートを出して座らせる。

戦闘中は何が起きるか分からない。衝撃で投げ出されない様にする為の処置だ。

 

 

「各艦、第一級戦闘配備、艦隊は出さず本艦だけで叩く。火線収束砲撃準備!一隻も逃がすな!」

 

 

艦内にガコンという音が響き、主砲が装甲から分離し連装砲として展開していく。

デメテール船体前部、翼上に広がった部分の上下に設置されている12基の連装砲。

大きさは軽く2kmに達するホールドキャノンは、すぐにエネルギーを収束し始める。

最初からコンデンサにプールしてあるエネルギーのお陰で発射まで十秒も掛からない。

 

 

「1番から12番、射撃諸元確認、火線収束砲撃準備よろし」

 

「デフレクター展開・・・準備よろし」

 

「EA・EPともにステルス解除後最大出力、準備よろし」

 

「よし、各セクション衝撃に備えっ!ステルス解除っ!全砲、てぇー!」

 

「ほいさほらきたポチっとな!」

 

 

砲雷班長のストールが腕を振りかぶってコンソールを押した。

以前より高出力で可動したそれは、大量のプラズマを伴い螺旋を描きつつ発射される。

一基一基の威力は軸線反重力砲には及ばないが、全ての砲が合わさった威力。

 

 

「収束点突破、エネルギーブレッド、火線収束します」

 

 

24条、全ての火線が収束した時の威力は、通常の軸線反重力砲の威力を数倍上回る。

恐らくはヴァランタインのグランヘイム級の全力の軸線反重力砲に匹敵するだろう。

デメテールの連装ホールドキャノン、24門の砲口から放たれた24条の光。

それは途中でより合わさり一つの巨大なエネルギー弾へと変わり艦隊へと直進する。

突如何もない空間から放たれたエネルギー弾に驚き、混乱するエルメッツァ軍。

回避機動を取ろうとする前に、収束ホールドキャノンは艦隊中心部を抉り取った。

後にはジャンクすら残らず、封鎖艦隊の真ん中にぽっかり穴をあけていた。

 

 

「最大戦速!中心へと突入する!HL砲列群起動!エネルギー回せ!」

 

 

主砲発射の際にどうせばれるので、ステルスモードを解除したデメテール。

空間にボウっと現れた巨大艦に、残存エルメッツァ艦隊はさらに混乱していく。

突然の攻撃で艦隊の主力が消し飛び、指揮系統をズタズタにされた。

そんな彼らがまともに迎撃なぞ出来る訳も無く、デメテールを食い止める者はいない。

まだ敵が混乱から復帰していない間に、先程の攻撃で開けた穴へと滑りこんだ。

そして俺は周囲に展開しているエルメッツァ軍に対し、容赦のない砲撃を加えるよう指示を出す。

 

ここからはまさに虐殺といってもよかった。

先制攻撃により、ヤッハバッハ指揮下のエルメッツァ軍は混乱状態だ。

相手の反撃を許さず、情報も漏らさないように徹底的に叩いた。

艦として機能しているのは勿論、エネルギー反応があるフネは全て撃ち落とした。

通話帯には続々と落されることに対する怨嗟の声。

なすすべも無くHLの弾幕が近づき泣き叫ぶ断末魔が入りこんだ。

だがそれでも砲撃の手を緩めることを俺は許さなかった。

そして、デメテールの暴風が過ぎ去った時、後には殆ど何も残らなかった。

 

 

「残存艦・・・探知できず。敵艦隊・・・全滅です」

 

 

ブリッジの中は静寂で包まれていた。

艦隊を展開せずとも単艦で敵艦隊を撃破したのだ。

それも此方のことを敵に悟られない為に、展開していた艦隊を全滅させて。

皆が無言となるのも判るというもんだ。

だが、ここで止まる訳にもいかない為、俺は静寂を破り指示を出す。

 

 

「・・・ステルスモード再起動、各セクションは戦闘で異常が無いかチェックしておけッス。――すまんな、こっちも命がけだ。恨むなら俺だけで良いぞ」

 

 

細かなデブリが浮かぶ戦場をモニターで見つめ、俺はそう漏らす。

キャロ嬢やユピやトスカ姐さんが俺を見てくるが、俺はそれに気が付かなかった。

あのエルメッツァ艦隊とて、捨て駒にされたことくらい理解しているだろう。

だが俺達も、生きる為に、自由に宇宙を行く為に、目の前に立ちふさがった艦隊を消した。

後悔はしない、憐れんだりもしない、それは最大の侮辱となるから。

だから、せめて痛みはないように強力無比で全力を出して攻撃した。

ここで止められる訳にはいかない。既に、賽は振られているのだ。

 

まったく、戦争なんてくだらないぜ。もっと楽しく生きた方が良いだろうに・・・。

俺は内心そう溜息を吐きつつ、第二種戦闘態勢にシフトしたデメテールを戦場へ進ませた。

この虐殺とも呼べる戦闘の責任は全部俺にある。

だから、さっきも言ったが、恨むなら俺を恨めよ。エルメッツァ軍人さんよ・・・。

 

 

***

 

 

通常航路に復帰した俺達はステルスモードではあったが特に敵とは遭遇しなかった。

敵本隊は大分後方に位置していたらしく、ステルス機を出して偵察をした。

結果、ヤッハバッハはRG宙域と呼ばれる宙域にて部隊を待機させていた。

そこはくしくも以前あのバカ皇子を助けた宙域である。

 

 

「いたっ!ヤッハバッハの艦隊だ!」

 

 

トスカ姐さんの声に、俺はコンソールを操作して偵察機からの映像をモニターを出す。

モニターに映し出されたのは、宙域を埋め尽くさんばかりの大艦隊の姿だった。

確かに話では十数万入るとは聞いていたが・・・。

 

 

「うひ~、雲蚊のごとくってなこの事ッスね」

 

 

・・・実際にこの目で見るのは、また違う物があるな。

 

 

「ミドリさん、会敵までの予想時間は?」

 

「・・・このままの速度でおよそ3時間後、戦速を出せば30分です」

 

「なら、ステルスを展開したまま艦隊を発進させておくッス。それとアイルラーゼンは?」

 

「かなり飛ばしてきたので、アイルラーゼン艦隊の予想位置は時間的に言って、ヤッハバッハ艦隊の正面から60万宇宙キロほどの距離にいるかと」

 

 

そして現在の俺達の位置がヤッハバッハ艦隊のちょうど左舷側。

姿はまだ発見されていないので、奇襲をかけるのには良いポジションだと言える。

ただ先程、エルメッツァ艦隊を撃破しているので、定期連絡が無いという事態を鑑み、待ち構えている可能性もある。

とはいえ、ここまで来た以上、そのままUターンとかは出来ない。

 

 

「・・・各艦、第一級戦闘配備、突撃陣形を取り、敵の中を突破するッス」

 

「えっ?それだと集中砲火を浴びないかい?」

 

「下手に外側から仕掛けても、あの数ッスから数が少ない此方が不利ッス。それなら敵陣中央を奇襲しながら突破した方が―――」

 

「成程、相撃ちを恐れて敵の攻撃は少なくなる。電撃戦だね」

 

「デメテールの防御と速力、そしてそれに付いてこられる艦隊がいるから出来る芸当ッスけどね」

 

 

そうでなければ、突っ込むなんて狂気の沙汰だろう。

まぁ正確には中心を突破するのでは無くて、中心からややそれた所。

天頂部に抜けるルートを取りつつゴースターンして急速回頭。

そのままアイルラーゼンの方まで速度を落とさずに駆け抜けるのが理想かな。

 

 

「艦長、大居住区の住民の避難完了。全員強化宇宙服装備完了です」

 

「最低限の生命維持装置だけのこして、他はエネルギー全カット。今回は長くなりそうッスからね。エネルギーはいくらあってもいい。ミューズさん、デフレクターは?」

 

「全力運転で敵のフネと激突し続けても・・・12時間は可動できる・・・わ。それと、ケセイヤさん・・・」

 

「おう、以前のシステムと同じく、各艦との同調展開も可能だぜ。移動しながらでもな」

 

 

デフレクターがあるのと無いでは、その耐久性に絶対的な開きが発生する。

今回は敵陣の中を突っ込むのだから、デフレクターが無いと蜂の巣だろう。

 

 

「リーフ、かじ取りは任せたッスよ!ストールもド派手に撃ちまくるッス!」

 

「任せときな!華麗なTACマニューバ見せてやるぜ!」

 

「今回は何処に撃っても当たるが・・・花火と洒落込むか!」

 

「機関長もエンジンの御機嫌伺いよろしくッス!」

 

「ほっほ、機嫌は良くも無いが悪くも無い。なんとか頑張ってみようか」

 

 

準備はほぼ整った。後は俺が命令するだけ・・・・。

 

 

「・・・」

 

「・・・ユーリ、どうした?」

 

「・・・はは、少しばかり手汗がスゲェッス」

 

 

緊張の所為か、何もしていない筈なのに汗が出る。

手なんて手汗でぬれているくらいだ・・・なんとも、恐ろしいなオイ。

 

 

「怖いかい?」

 

「怖いッス・・・んだども、負けらんねっスから、なら負けないように戦うッス」

 

「そのいきだ。負けると考えたら負ける。何も考えず突っ切ろう」 

 

「へっ、難しいこと、言ってくれるじゃないの・・・でもトコトンやってやるからな」

 

 

俺はコンソールを押して艦内放送用のマイクのスイッチを入れる。

息を吐いて心を落ち着かせ、俺はマイクの向けて口を開いた。

 

 

『全員聞いてくれ―――これから我が白鯨は敵陣へと突っ込む』

 

『相手は俺達のホームと言える星系を土足で踏みにじってくれた阿呆共だ』

 

『これからの戦闘は、恐らく非常に厳しい物となるだろう』

 

『隣の誰かが死ぬだろう、知り合いの誰かが宇宙へと消えるだろう』

 

『だが、忘れるな。俺達は負けやしない。俺達は負けないのだ』

 

『白鯨艦隊に所属する者は全て負けない。何故か?』

 

『それは絶対に無駄死にしないからにほかならない。犬死にもしない』

 

『俺達はこの戦い、最後まであがいて生き残る』

 

『俺達のホームでの戦いだ。今後の為に俺達は今戦う――』

 

『――俺からの皆への命令はただ一つ。“死ぬな”たったこれだけを守ればいい』

 

『白鯨艦隊に所属する諸君の健闘を期待する――俺からは以上だ』

 

 

俺はそう言ってマイクを切った。

さぁて先のエルメッツァは前菜、今からメインディッシュと洒落込もうじゃないか。

 

 

「艦長、ヴルゴ艦隊の展開、完了しました」

 

 

ミドリさんの報告に、俺は外を映しているウィンドウモニターに目を向ける。

ステルスモード起動中の為、ヴルゴの乗艦であるリシテアの姿は見ることはできないが、ユピが気を効かせてコンピューター補正の掛かった映像に変えてくれた。

大マゼラン国家ロンディバルド系の戦艦であるネビュラス級戦艦リシテア。

その鋭利な直角を繋ぎ合わせた様な白い船体が悠々とデメテールの前に出る。

俺はそれを見届けると、思いっきり肺に空気を取り込み―――

 

 

「全艦、ステルスモード解除!全砲門開き突撃ィっ!!」

 

 

―――艦隊をヤッハバッハへと突っ込ませたのであった。

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

ユーリ達が敵陣に突っ込む直前、アイルラーゼン艦隊がRG宙域の近くへと到着した。

既に両陣営とも準備は万端、何時戦端が切られてもおかしくはない。

ヤッハバッハ艦隊は偵察機を出し、センサーを全開で回して戦闘態勢に移行する。

アイルラーゼンも機動艦隊から艦載機を発進させ、各艦のインフラトン反応も上昇していた。

睨みあう両陣営、何時火蓋が切って落とされてもおかしくない状況。

まだ距離がある為、両者とも無駄な砲撃等はしない。

だが射程圏内に入った瞬間、両陣営から火球が上がるのは確実だった。

故に両陣営ともゆっくりと近づき、セオリーに乗っ取って会戦が行われる。

 

 

――――かに見えた。

 

 

「バーゼル大佐!敵の左翼に陣形の乱れが!」

 

 

アイルラーゼン艦隊旗艦のオペレーターがヤッハバッハ艦隊の異常を察知する。

左舷に展開していた艦隊の陣形が崩れて蒼い光、インフラトン粒子の火球を確認したからだ。

 

 

「ユーリ君たちが到着したか・・・」

 

「光学映像出ます!」

 

「――ッ!!これはまた、随分と派手に動いてくれる」

 

 

バーゼルが見たもの、それは青白く輝く光の球だった。

その光の球からは、薄緑に輝く螺旋の光が12条ずつ交互に放たれている。

巨大なのと小さなのが混ざった光弾は確実に周囲の艦隊を撃沈せしめていた。

またその光の球の先端には光の傘が展開されているのをバーゼルは見た。

それは光の球、白鯨艦隊が放っているHLの収束した状態で展開している光である。

重力レンズで収束も偏向も思いのままに出来るHLを収束した状態で止め、それを盾の代わりとして用いているのだ。

光の球に見えたのは、高出力で展開されているデフレクターの光だろう。

この時、白鯨艦隊はデメテールの強大なデフレクター範囲内に収まっていた。

各艦はデフレクター同調機能を使い、重力子防御帯を同調、励起させていた。

それによりデフレクターの出力は二乗的にハネ上がり、ある程度の攻撃を無効化する。

但し、これには一つだけ弱点があった。

 

 

「ユーリ君、艦隊を展開しているのに、攻撃の数が少ない・・・どういう訳だ」

 

 

そう、この最強の盾と呼べる励起デフレクターは一定以上の攻撃を無効化する。

だがそれは敵だけでは無く、攻撃をするべき白鯨艦隊も同様だ。

複数のデフレクターを同調し励起させている為、内側からの攻撃もある一定以上のエネルギーを保有していないと、放ってもデフレクター内部で反射してしまうのである。

その為、現状白鯨艦隊が攻撃する際はホールドキャノンを搭載したデメテール。

リシテア、カルポ、テミスト、カレのネビュラス級戦艦だけしか攻撃できない。

唯一デメテールのHLはデフレクターを突破出来るが、エネルギーを喰う為撃たないでシールドの様に白鯨艦隊前面に展開して防御を担っている状態だった。

敵を殲滅するというのであれば攻撃の幅が狭まる為、非常に愚策でしかない。

だが今回のように敵を撹乱するという点で言えば、矢鱈めったら撃ちまくるデメテールは非常に厄介な存在であった。

 

 

「(ユーリ君たちは頑張っている・・・が、敵が混乱から体勢を立て直せば危険だ)・・・タイタレス、そっちはどうなっている?」

 

 

バーゼルは後方で控えている筈のタイタレス級巨大レーザー決戦砲艦に連絡を入れる。

本来なら小マゼランの戦闘に応じた極秘実験で実戦データを取る筈の実験艦。

それがいきなりの実戦に放り込まれた為、タイタレススタッフもてんやわんやだ。

その所為で若干通信が伝わるのに遅れが生じる。

 

 

『こ、こちらタイタレス、エネルギー充填65%』

 

「・・・ふむ、ユーリ君たちから借りたデータリンクシステムはかなり優秀だな」

 

 

バーゼルはタイタレスとのデータリンクにユーリ達が貸したRVFを使用している。

電子支援に特化したRVF-0はレドームを背負った機体で攻撃力はポッド以外ない。

だがその代わり、各無人機の天文単位での誘導を可能とするブースターの役割を持っている為、そのシステムを利用し各艦の正確なデータリンクを行っていた。

タイタレスはその巨大さからまだ運用方が確定していない。

その為データ収集の為にユーリ達の申し出を受けたのだ。

 

 

「だがあまり長くは持たん。エネルギー充填を急げ」

 

『りょ、了解!トランスフォーメーション、開始します!』

 

 

タイタレスはようやくエネルギーが半分以上に達した。

ユーリ達が離れてから随分と経つがそれでもまだ半分しかたまっていない。

それが決戦兵器と言われる所以である。戦闘中に充填の遅さで一発しか使えないのだ。

そして増加したエネルギーの排熱をスムーズに行う為の形態。

トランスフォーメーションをタイタレス級は取り始めた。

 

基本的にタイタレス級の形状は遠目から見ると柄頭を付けたメイスの様な形である。

その柄頭の部分に見えるところは8本の巨大な可動式アーム。

通称、大型オクトパス・アームユニットと呼ばれているアームが接続されている。

トランスフォーメーションではそのオクトパス・アームユニットが展開。

まるで傘を広げたかのような形態となるのだ。

そして中央船体から砲身に重力レンズリングユニットが分離。

タイタレスの前方、砲門のそばに設置されるのである。

またこのアーム、砲撃の際の絶大な衝撃を殺す為の重力アンカーとしての役割も担う。

その為、巨大ながらも非常に頑強に造られたアームユニットには、超巨大リフレクションレーザーが8門、大型が5門、中型が16門装備されている。

船体中央の砲身から放たれるエクスレーザーと、オクトパスアームユニットに搭載された大小のレーザーを重力レンズユニットにより収束統合させたレーザーこそ、タイタレス級が放つ決戦レーザー。

エクスレーザー・フルバーストと呼ばれる直径1600mに及ぶ極太レーザーとなるのだ。

 

 

「バーゼル大佐!敵艦隊からの砲撃の密度が上がり始めましたっ!」

 

「落ちつけ、機動艦隊は後方に下げ戦艦を前に出すんだ。それとヴィエフ級砲艦は各自エネルギーが充填完了次第随時発射。弾幕を形成し敵を近づけるな!」

 

「了解!」

 

 

船体の8割が大型粒子加速器と冷却ユニット、ジェネレーターという特異艦。

ヴィエフ級は大砲艦というか、大砲にブリッジとエンジンを付けただけのフネだ。

 

 

「先行してるSS004級からのデータリンク確認。射撃諸元各艦入力完了。発射します」

 

 

ヴィエフ級の様な重砲艦を運用する場合、正確な距離測定が求められる。

その為に必要なのはレーダー等による正確な距離測定なのだが、ヴィエフ級は発射の度に電磁波障害を起す為、自身のレーダーが使用不可能となってしまう。

その為、彼らにはSS004というレーダー管制専用艦が常に共にいる。

SS004が測定したデータをデータリンクにより各艦に送り、射撃諸元とするのだ。

今回は白鯨からRVFも助成している為、更に測定は正確なものとなる。

そしてその測定の元、ヴィエフ級重砲艦隊から多量のレーザーが発射された。

赤い光となったエネルギー弾は、次々とヤッハバッハ艦隊へと突き刺さり、相手に被害を与えていいった。

 

 

 

 

 

一方、ヤッハバッハ艦隊では突如として出現した謎の艦隊からの攻撃により、指揮系統に混乱が発生していた。

 

 

「各艦隊!被害を知らせろ!」

 

「敵N677方面から来襲!左舷に展開していたエルメッツァ艦隊の被害甚大!」

 

「被征服民軍なんぞどうでもいい!此方の艦隊はどうなのだ!」

 

「2040隊、2456隊、2550隊の艦隊が壊滅です!周囲の艦隊が敵艦隊の迎撃を開始するも被害拡大中!」

 

「ええい!遅いわッ!」

 

 

艦隊副官であるトラッパはオペレーターからの報告を聞いてダンと壁を殴る。

被征服民の軍隊が落されようとも心底トラッパはどうでもいい。

だがこの戦いで陛下から賜った艦隊を落され、自分の進退に影響が出る方が不味い。

あのクソ生意気な司令が絶対的な勝利では無いと意味が無いなどと抜かすから!

と、トラッパは内心、近くに居るあの若き金髪の指揮官に対し呪詛を吐いていた。

 

(絶対にアイツよりも上に立って見せるッ)

 

そしてその胸に密かに掻き抱く野心も、黒く燃え上がる。

だがその時だった―――

 

 

「て、敵艦隊!針路を真っ直ぐ本艦へ向けています!?」

 

 

―――敵艦がデフレクターの蒼い光とともに近衛の艦隊をなぎ倒す姿を捉えたのは。

 

 

「た、退避急げ!ハイメルキアを急いで動かすんだ!」

 

「だ、ダメです!間に合いません!!」

 

 

トラッパは大慌てで迫りくる蒼い光の奔流を見る。

その高密度の重力子帯が放つ燐光に触れたフネはことごとく弾き飛ばされている。

しかも相手はトラッパも数えるほどしか言ったことが無い首都艦。

ゼオジバルド級よりも大きいのではないかという巨大艦である。

幾らヤッハバッハのフネであろうが、あの巨大な質量は止められない。

 

 

「・・・全火器と防御帯のエネルギーを推進機に回せ」

 

「司令!それでは本艦の守りが薄くなります!?」

 

「良いから早くしろ。本艦ではアレは沈められん」

 

 

今まで静観の姿勢を取っていたライオスはデメテールが衝突コースを取っていることを知ると、目を開きすぐさま指示を飛ばした。

デメテール程の質量を完全に消滅させる兵器は先遣艦隊は持っていない。

十万を越える火線を集中させれば、幾ら堅牢な防御帯でも撃ち破れよう。

だが、その場合制御を失ったあの巨大な質量がそのまま暴走してしまうことになる。

そうなれば止めることは難しい上、被害も尋常なモノでは無い。それ故――

 

 

「ハイメルキアッ、衝突コースから外れます!」

 

「・・・・くは~・・・」

 

 

ライオスは旗艦ごと逃げろと指示を出した。

凄まじい重力波がフネを揺らしたが、幸い損傷個所は発生していない。

避けられたことにトラッパは思わず安堵の息を吐いている。

プライドもいい、時に敵から逃げない気骨は良いものだ。

だが時と場合による。この場合逃げない事は艦隊の崩壊につながる。

ライオスは天頂方向へとゆっくり上昇していく敵艦隊を見つめながら、いずれ小マゼランを征服した暁にはあの艦隊を手に入れて見せよう。

そして、自身が皇帝へと至る足掛かりにしてくれようと、怒りを封じながら思った。

 

 

「司令!増援が到着します!」

 

「ネージリンスに展開していた3075、3076艦隊、到着した様です」

 

「よし、敵艦隊の両翼に展開し艦載機を発進させ包囲、殲滅せよ」

 

 

ネージリンスを抑えるために展開していた空母を中心とした機動艦隊が到着した。

ライオスはその報告を聞き、すぐさま部隊を展開させる。

艦載機にはデフレクターへの攻撃を第一とし、決して前に出ない様に指示を出した。

屈強な兵と鉄の掟によって団結している機動艦隊は司令の指示をコンマ一秒も無駄にせずに実行していく。

やがて天頂方向へと向かう白鯨を機動艦隊が包囲を完成させたのだった。

 

 

 

 

一方の機動艦隊―――此方は攻撃命令を受けて艦載機が今にも発進しようとしていた。

 

 

『此方管制塔、リニアカタパルトの充填が完了した。発進を許可する』

 

『攻撃隊、システムオールグリーン。出撃する』

 

 

増援の機動艦隊のブラビレイ級三段空母から、汎用艦載機ゼナ・ゲーが射出される。

護衛に付いているダルタベル巡洋艦からもリニアカタパルトで艦載機が発進した。

数百機を越えるであろう攻撃機隊はカタパルトの初速を受けて高速で編隊を組む。

電磁力で艦載機に高初速を与え射出するリニアカタパルトで加速された艦載機達。

彼らは真っ直ぐと射程外からでも視認できる光の球、白鯨へと迫った。

 

 

『3075攻撃隊、敵艦隊(エネミー)を補足(タリホー)』

 

『攻撃隊へ、交戦を許可する。全火器使用自由』

 

『交戦(エンゲージ)』

 

 

対艦用クラスターミサイルと対空クラスターレーザーを備えた汎用機ゼナ・ゲー。

かの機はウェポンベイを開き、中からクラスターミサイルランチャーを露出させる。

小マゼラン製とは比べ物にならない深緑の艦載機達が牙を白鯨へと向けた。

 

 

『エア1、エネミーロックオン、FOX3』

 

 

―――ガコン。バシュー。

 

ミサイルランチャーから白い帯を吹きだしながらミサイルが飛びだした。

数百機のミサイルから放たれたミサイルは数万の小型ミサイルへと分離。

暗い宇宙を埋め尽くすかのような白い帯が蛇のように絡まりながら白鯨を包む。

第一次攻撃で放たれた小型ミサイルは全て、蒼いデフレクターへと命中した。

 

 

『全弾命中、効果確認―――だめだ、目標健在、繰り返す、今だ目標健在!』

 

 

小型ミサイルの爆炎の中からゴゴゴと重力波を響かせてデメテールが顔を出す。

だが無傷という訳では無く、凄まじい爆発でデフレクターに負荷が掛り過ぎたのか駆逐艦と思われるフネから煙が噴き出しているのを攻撃隊のパイロットは見た。

旗艦と思わしき巨大艦も速度を緩めた所を見ると少しは効果があったのだろう。

そう理解した攻撃機隊の隊長は残りのミサイルを全弾撃ちこむように他の機体に指示を出した。

 

 

『第二次攻撃、エネミーロックオン、FOX・・・』

 

 

攻撃機隊隊長機の攻撃指示は途中で途絶える。

何故ならその時隊長機のゼナ・ゲーはいくつもの弾頭に貫かれ爆散していたからだ。

副隊長が指揮権を受け継ぎ編隊を再結集させていく。

そして彼らが見たものは―――

 

 

『・・・ふむ、ヤッハバッハと聞いていましたのでどれほどかと思っていましたが・・・どうやら期待外れだった様です』

 

『まったく戦闘機は数さえいれば良いってモンじゃないよ』

 

 

―――ブースターとレドームが一体化した機体と大きなシャトルタイプの赤い機体。

 

 

トランプ隊隊長のププロネンが駆るRVF-0 Sw/Ghostフェニキア。

ガザンが駆る赤いVB-6Cヘカトンケイルが兵装を此方に向けている光景。

そして―――

 

 

『ヒャッハー!食い放題だぜぇぇぇいぇぇぇ!!』

 

 

―――ユディーン操るQF-2200Dゴーストと高速エステの無人機混合部隊。

 

 

黒いゴーストと大型バックパックを背負ったエステ達がゼナ・ゲーへと銃口を向ける。

それを見たヤッハバッハの3075攻撃隊は散開しようとするが、人知を越える速度で周囲を駆け抜けるゴーストと人型機体になすすべもない。

クラスターレーザー砲を使い彼らに反撃するも、殆ど避けられてしまう。

無人機より速度が遅いVFたちはクラスターを完全には避け切れない。

だが機体に搭載された小型デフレクターが、完全に撃墜されることを防いでくれる。

その為、攻撃機隊は徐々に数を減らしていく、増援が来たので盛り返そうとしたが、まるで歯が立たない。

おまけに妙なバックパックを積んだププロネン機、アホみたいに火力があるガザン機。

この二機の完全な連携プレーにより、瞬時に数十機が落されてしまう。

なので攻撃機隊は攻撃目標を今急激に速度を落とした完全にデメテールに定めようとした。

 

 

―――その時だった。

 

 

『な!?あの巨体が、反転する!?』

 

 

デメテールはその巨大な船体からは想像もつかない程早く、自身の軌道を変更する。

そう、止まったのはエンジントラブルなどではなく、最初から予定通りだったのだ。

デフレクターが弱まったのは攻撃機隊の御手柄であるが、そこには最初から艦載機が展開していたのである。

そして気が付けば先程まで猛威をふるっていた筈の艦載機の姿はそこには無く。

巨大な船体が艦隊を引き連れアイルラーゼンのいる方面へ離脱しようとしている姿だけ。

 

 

『・・・タダで、タダで、いかせてなるものかぁぁぁぁぁ!!』

 

 

加速に入った白鯨を見て半ば茫然とした攻撃機隊の一機が突如として加速する。

突撃していくその攻撃機のパイロットは先の白鯨艦隊の雷撃的突撃で跳ね飛ばされて轟沈した艦隊に友人がいた。

彼は勇猛なるヤッハバッハ人が屈辱を受けたまま黙って見ていることなどせぬ。

そう言わんがばかりか、機体を加速させ再度展開されるデフレクターの内側へと突入。

そしてそのまま、先程煙を吹いていた駆逐艦カルデネに突っ込んだ。

シールドジェネレーターが疲弊していた状態で受けた特攻。

それによりカルデネはジェネレーターから連鎖爆発を起し、そのまま轟沈してしまった。

 

それを見て喜ぶヤッハバッハ攻撃隊であったが、敵艦隊は既に加速状態に入っていた。

その為艦載機の装備では追いつくことは出来ず、戻って機動部隊と合流する。

アレだけの戦闘で攻撃隊の被害は7割の未帰還者を出し、相手に与えた損害は駆逐艦一隻と運悪く撃墜された無人機が数十機のみ。

大損害を被った上にほぼ壊滅した攻撃機隊は継戦不可と判断され後方へ移る事となる。

それが生き残った彼らの生命を永らえさせるのだが、この時はまだ彼らは気が付かなかった。

 

 

***

 

 

デメテールが去った後、ハイメルキアでは―――

 

 

「―――被害を報告しろ」

 

「ハッ、艦船数を合計するとおよそ五千隻が撃沈になり、戦闘不能は三千です。エルメッツァ艦隊は激突の余波で小破したのを合計するとかなりの数になるかと・・・」

 

 

ライオスは損害を聞いてそうかと声を出し無言となる。

損害自体は十数万ほどいる先遣艦隊の全体からしてみれば些細なモノだ。

だが、ライオスは無表情で自分の予定を狂わせた白鯨艦隊を見つめる。

周りは只一人を除いて彼のそれには気が付かなかった。

怒りで硬く白くなるほど手を握り締めて血を流している総司令に。

 

 

「白鯨艦隊・・・か、覚えたぞ。その名前」

 

 

誰に聞かれるでもなく、ライオスはそう呟いていた。

そしてそれを見ていた副官のルチアは黙って救急箱を取りに行くのであった。

 

 

***

 

Side三人称

 

白鯨艦隊が一見無謀に見える突撃を掛けたお陰で、一時的にではあったが戦場に混乱をもたらした。

とくに引っ掻き回されたヤッハバッハ軍の被害は甚大である。

碁盤の目の如く、正確に陣を組んでいたことも、被害を助長させる一因となった。

艦隊戦における艦隊運動を主目的とした陣形は、確かに強固であった。

しかしまさかの横からの奇襲と体当たりを含めた突撃には対応できなかったのである。

艦隊運動に特化しているということは、転じて各艦が自由に動く場所が無いという事。

それ故に他の艦が邪魔となり逃げきれず、デメテールに轢かれたフネが続出したのだ。

そして、ユーリ達がなんとかヤッハバッハ艦隊を突きぬけ。

ユーリくんはクールに去るぜぇとか浮かれていたその時。

暗い宇宙を駆け抜ける白鯨を見つめる一対の目が存在した。

 

 

「巨大船、ヤッハバッハ艦隊の射程から抜けやした。識別は白鯨艦隊」

 

「ほうほう、あの小僧、本当に生きてやがったか」

 

 

顎に手をやり、にやにやとデメテールを見つめるその男。

彼は小マゼラン、大マゼラン問わず人々に恐れられる大海賊。

その大海賊の乗艦、グランヘイムのブリッジにて、この馬鹿らしい戦力差の戦いを見つめていたのは宇宙にその名を轟かす男、ヴァランタインその人だった。

宇宙をまたにかけるこの大海賊は小マゼランを震撼させた巨大勢力。

ヤッハバッハ先遣艦隊が大規模戦闘をしていると聞いて、この宙域にやってきたのだ。

勿論、本来の目的はソレだけでは無いのだが―――

 

 

「ありゃま、ひときわ大きなロストテクノロジーの反応を追って来てみれば既に稼働していて、おまけに大艦隊相手に戦ってやがるぜ。キッシシ、コイツは面白いな!」

 

 

ブリッジに興奮した若い男の声が響く。

自分の席で脚をコンソールに乗せていたその男はデメテールを見るなり身を乗り出して目を輝かせながら画面にくぎ付けだった。

彼はこの海賊船グランヘイムの技術官の頂点に立つ男。

グランヘイムの兵装・システム・構築の全てを一手に引き受けているオオヤマである。

さまざまな技術・サイバネティクスに精通するこの男は、一目見ただけでデメテールがどういう代物なのかを見抜いたのだ。

グランヘイムにも少なからずロストテクノロジーが搭載されているので興奮も一塩だ。

 

 

「体当たりしても大丈夫なデフレクターか・・・相当なジェネレーター出力だ。いや、それ以上に機関出力が尋常じゃねぇな。波長も見たことねぇやつか――」

 

 

いままで足置きでしかなかったコンソールの上で彼の指がダンスを踊る。

超長距離なので正確なスキャンは出来無くても、エネルギースペクトル分析くらいなら出来るのだ。

そしてこの世界では一般的では無い機関を積んでいるデメテール。

技術屋であるオオヤマが興奮するのもうなずけるという話である。

 

 

「――で、どうするよキャプテン?」

 

 

オオヤマは顔を逸らさずに作業を続けながら、ヴァランタインに問うた

口には出さなかったが、このまま見ているか介入するかを問うたのだ。

その問いに対しヴァランタインはにぃっと口角を歪ませる。

 

 

「テメェなら判ってんじゃねぇのかオオヤマよ?」

 

「おいおい、薄情なヤツだな。助けねぇのか」

 

「んなもん、いらねぇだろ?」

 

「根拠は?」

 

「勘だ」

 

 

ああそうかいとオオヤマは振り返らず応えた。

ヴァランタインが己の感じるがままに行動する事に、彼に付き従う彼らは慣れている。

それに勘と言ったが、それはいわば核心めいた何かなのだろう。

その何かがなんと言えばいいか判らない為、“勘”と呼称しているに過ぎない。

それなりにヴァランタインと付き合いがある人間は皆そのことを理解している。

それはヴァランタインの采配に自信があるから、信じているからである。

彼の勘と言う名の導きで、ある意味ここまで来たのだから。

まぁ、それはそれで凄いんだが・・・。

 

 

「んじゃ、連中のセンサー範囲に入らなから見物でもしてますかねぇ~」

 

「宇宙に咲くはプラズマの華ってな・・・いい花見じゃねぇか」

 

 

そして彼らはリラックスした状態で何処からか持ちこんだ一升瓶を開ける。

当然中身は酒である。花見には酒が付きモノだとは誰の談か。

彼らは遠くで艦船が轟沈する様を肴に、杯を開けるのであった。

 

 

***

 

 

一方、敵陣を中央突破し、なんとか味方の元へとたどり着いたデメテール。

その機関出力にモノを言わせた突撃攻撃を敢行したフネの損害は、駆逐艦一隻に思われた。

だが実際は――

 

「シールドジェネレーターが過負荷でオーバーロード寸前ッスか。良く持ったッスね」

 

「ケセイヤ達が・・・ちゃんと整備してくれていたお陰・・・もしもあの時壊れてたら蜂の巣だったわ・・・」

 

「グラビティ・ウェルまでダメージッスか。でもミューズさんがデフレクター制御を頑張ってくれたからか、重力井戸のダメージは予想よりも小さいって聞いたッス」

 

「それ程でも・・・あるわ」

 

「あるんかい・・・まぁ良いッスけど」

 

 

―――船体各所へのダメージはかなりのものがあった。

 

 

特にシールド・デフレクター関連のジェネレーター系の損傷は著しい。

万を越える軍勢に体当たり攻撃を仕掛けたことで、ジェネレーターに過剰な負荷が掛ったからである。

それ以外にもいつもより高出力だった主機によって破損した部位もあった。

 

 

「ジェネレーター自体は予備がまだあるッスから交換すれば済むッスけど」

 

「コレ以上はあの戦法は使えませんね。負荷も予想以上に大きかったですし、あれは奇襲が効いたから駆け抜けられました。でも駆逐艦を一隻失った今、同じことを正面からすれば全滅する確率が78,92%です」

 

「・・・まぁ、どちらにしろ後はアイルラーゼンの作戦待ちッスからね」

 

 

ユピの報告に、とりあえずもうやんねぇと心に決めたユーリだった。だって怖いし。

とにかく、安全圏まで一時的に逃れた為、デメテールはさっそく修理を開始していた。

装甲や艤装についてはダメージは皆無であったのでそのままである。

だが、急造のデフレクター同調装備、シールドジェネレーター回りは総取換えとなり、戦闘中ということもあいまって同調装備の修復は後廻し。

その為、次からはデフレクターの励起展開は行う事は不可能となった。

 

「さて、飯ッスね飯」

 

この戦闘は過去、類を見ない程の大規模戦闘であり、非常に長い事戦う事になる。

その為、デメテールでは今は交代で食事を取る事を行っていた。

これから何時飯が食えるかわからないのだから、カロリーは取っておかないといけないのである。

その為、生活班を中心とした裏方一同は総出で各部署に出前を行っていた。

配達の為に艦内を作業用VFとエステが飛びまわっているのはちょっとシュールだ。

だが全員が真面目にこなしているあたり、そこら辺は指摘し無い方がいいのだろう。

まさかタムラ料理長がエステバリスに乗り込み、何時造ったのかエステサイズの中華鍋を振るい、大人数の炊き出しを行っているとか・・・。

しかもセンサーを用いてちゃんと火が通っている料理を作っているとか・・・。

もはや冗談とかにしか見えない光景が大居住区で繰り広げられているとか・・・。

一般人からすれば眉間を押さえたくなる光景なので指摘してはいけない。

 

 

「どうせ長引くんだし出前でも・・・」

 

 

さて、ユーリが食事の出前を頼もうかと思った時だった。

ふと何時もならいる筈の誰かの姿が見えない事にユーリは気が付いた。

 

「ユピ、トスカさん何処に行ったか判るッス?」

 

「トスカさんですか?少々お待ち下さい―――位置特定、Dブロックの格納庫に居ますね」

 

「Dブロックの格納庫?確かそこには・・・」

 

 

Dブロック格納庫。

そこは現在マッド集の“作品”や、使わない物が保管されている区画である。

そしてそこには、トスカの乗艦であったデイジーリップ級が保管されいた。

その事を思い出した時、ユーリの脳裏には電球がぺかーっと光ったのである。

 

「ユピ」

 

「はい、なんですか艦長?」

 

「しばらくブリッジ頼むッス」

 

「はい私にまかせ―――って艦長!?」

 

 

唐突な指揮権の一時的移譲に目を見開いて大声を出すユピ。

AIである筈なのに、ユーリの不可解な行動に驚愕してしまった。

そして声を掛けるべきユーリはというと、既にブリッジを後にしていた。

 

 

「・・・」

 

「・・・で、どうします?ユピ艦長代理」

 

「えっ?!そのまま通すんですかミドリさん!?」

 

「艦長が許可されたのだから文句はないわ」

 

「そ、そんなぁ~」

 

 

後に残された高度知性を有する電子知性妖精はどうしようかと悩んで見せる。

しばらくして、とりあえずユーリが良くしているように椅子に座って待っていよう。

その考えに至った彼女は少し背筋を伸ばして艦長席・・・の隣のサブシートに座った。

で、それを見ていたOPのミドリはユピの何処か背伸びした子供が親の仕事を真似ている様なユピの姿を滑稽に思い、若干肩を揺らして笑いをこらえていたとさ。

 

 

…………………………

 

…………………………………

 

………………………………………

 

ユーリはブリッジから出るとすたすたとDブロックへ歩いて・・・。

 

 

「・・・いや、遠すぎるッス」

 

 

・・・いく訳もなく、普通に艦内を走る列車に乗って船体下部へと向かう。

でかいので移動自体が一苦労だが、列車やVFを利用すればそれほどではない。

まぁVFだといける所に限りがあるので、今回は列車に乗っている訳だ。

下手すれば一つの町に匹敵するデメテールだが、真空のパイプを最高速度が最終的に音速となる列車を使えば、すぐに目的地に到着する。

列車から降りたユーリはDブロックの格納庫へと続く低重力搬入路へと足を向けた。

そこはあえて重力を抑え、物品を運びやすくした空間である。

とはいえ、低重力というのは人間にとっては移動しにくいという空間でもある。

なのでピョンピョンと月面を飛ぶ要領で移動しながら、ユーリはとある事を思い出していた。

それは、もはや錆び付きつつあるが、いまだ色濃く記憶に焼き付いていること。

原作知識という、ユーリにとっては行動の指針である為、ある意味でありがたく。

また、それと同時にある意味で厄介な代物のことだった。

原作において、トスカは奇襲して遭遇した敵旗艦へと、自身の愛機であるデイジーリップ単機で乗り込み、敵の総司令であるライオスと対峙している。

ライオスを討とうとしていたのだろうが、彼女は一瞬の隙を突かれてライオスの剣に切られてしまう。

そして、傷を負いながらも原作のユーリへと最後の通信をいれてから、膨張したヴァナージの炎に包まれて消息不明となってしまうのである。

 

この世界において、ユーリは戦闘に関してはある意味で非常に憶病だった。

対人戦では基本的に不殺、艦隊戦においてもなるべく敵の投降を促す傾向がある。

だが、それゆえに戦いに関しては慎重であると周囲の人間には認識されている。

まぁ実際は中の人が基本的にビビりで怖がりというのもあるのだが。

それはさて置きそういった事情もあり、ユーリは先程の戦いで原作ユーリのように無茶をして敵旗艦を沈めようとはせず、文字通り撹乱や時間稼ぎに徹している。

なにせ皆必死であったし、全速力で当て逃げせよと命令を下していたのだ。

その為、原作で行われた敵旗艦との一騎打ちは行われず、ニアミスしただけに終わっている。

だが、トスカとライオスとの間には、途轍もないほどの因縁がある。

なにせ彼女の星、いや国家はライオスの裏切りにより滅亡しているのだ。

それも、“ヤッハバッハに攻められて”である。

そんな仇敵とも言うべき存在が居た場所を前にして、感情を抑えられるだろうか。

特にデメテールの突撃で敵はまだ混乱している。

デイジーリップは全長100mクラスの小型艇だ。

今だ混乱している艦隊に密かに忍び寄り、敵旗艦へと接舷できる可能性は高い。

恐らくトスカはデイジーリップを使い、ライオスの元へと向かう。

己の復讐の為に、恨みを晴らすために・・・とユーリは考えていた。

 

 

「・・・ここか、随分遠かったッス」

 

 

そして、ユーリはデイジーリップが保管されている格納庫へとようやく辿りついた。

艦長権限で列車を直通で回したりと急いだが、ブリッジからここまで40分近く経過しているあたり、どれだけデメテールがデカイかが判る。

デカすぎるのも考えもんだぜとユーリは考えつつ、静かに格納庫へと入って行った。

 

 

***

 

 

―――デイジーリップの操縦室、そこには足を投げ出して席に座る一人の女性がいた。

 

 

「・・・」

 

 

コンソールの上に足を投げ出し、ややだらしなく座って虚空を眺めている彼女こそ。

この艦隊の設立当初から関わりがあり、もっとも最初にユーリと出会った女性。

周りからはそのさっぱりとした性格からか姐ごや姐貴と慕われる最古参。

意外と可愛い物が好きで、さりげなく部屋には酒びんと共にぬいぐるみが――」

 

 

「ねつ造すんな」

 

「ふひひ、さーせん」

 

 

彼女以外人っ子一人いない筈のデイジーリップに彼女以外の声が響く。

かってにナレーションに介入してくれたソイツは、現在の彼女の雇い主。

そして、もっとも気心が知れた相手でもある、ユーリだった。

 

 

「――で、なにか用かい?」

 

「いや、てっきりデイジーリップで突撃でもしようとしてんじゃないかって思って」

 

「なんだいそりゃ?幾らなんでもそんなことはしない。死にに行く様なモンじゃないか」

 

「へぇあ」

 

 

トスカの呆れ声に思わず変な声を出すユーリ。

どうもトスカが復讐云々はユーリの思いこみで、只単に黄昏ていただけの様だ。

しかし、何故わざわざデイジーリップに来て黄昏ていたのかが判らない。

そんなユーリの心情をさっしたのか、はたまた何と無くそう思ったのか。

トスカは席に深く腰掛けながら、ユーリへと声を発した。

 

 

「・・・過去との決別だよ」

 

「え?」

 

「デイジーリップはね。私が0Gをやり始めたころからずーと一緒だった。いわば私の分身の様なもんなのさ」

 

「あ、なーる」

 

 

トスカの発した言葉はユーリには理解出来た。

フネを持ち、そのフネを自分の意のままに使っている内に、フネは家となり、また自分の半身のように感じられてくる。

 

 

「それに、コイツに乗ってから色んな事もあったしね」

 

「色々ッスか?」

 

「そ。色々と、ね―――」

 

 

そう言ったトスカは何処となく悲しそうな寂しそうな、そんな表情を一瞬浮かべた。

ユーリには彼女がどれだけ大変な思いをしたか、どれだけ苦労したかはしらない。

いや、実際は知っているんだが(酒の席での愚痴、ユーリは基本素面)それをここで言うのも白けるので止めていた。

ともあれ、何故かその後彼女の昔話が始まり、ユーリはそれを黙って聞いていた。

昔話の中には、かつてライアスと自分が婚約者同士だった時の幸せな思い出。

あの女海賊のサマラが若きトスカを男と勘違いして惚れたとかいう裏話。

サマラが結構本気で口説いてきた時、普段の冷徹さとのギャップで女性だったのにクラリときたとかいう様な内容もあった。

そして一通り話終えたトスカは唐突に口をつぐむ。

デイジーリップの操縦室の中に静寂が降りた。

 

 

「―――まぁ、そう色々とあってさ。すこし懐かしくなってここに来たのさ」

 

「ふーん、へぇ~」

 

「・・・なんでそんなにどうでもよさそうなんだい?」

 

「いや、だって、サマラさんの秘密聞いたのは儲けとか思ったけど、考えてみたらそれ知ってるのばれたら俺殺されちまうッスからねぇ。どうしたもんかと」

 

「・・・はぁ~、まったく、あんたといると何だか悩んでいたのがアホらしくなるね」

 

「はは、真面目に堅苦しくよりアホやって楽しくがモットーッスからね。仲間と馬鹿やって、仲間と酒飲んで、仲間と愚痴を言い合う。中々幸せなことだと思うッスよ」

 

「仲間と馬鹿やってか・・・うん、確かに幸せだねぇ」

 

 

トスカは自分の人生を振り返りつつも、最近になってから出来た思い出の方が、強く輝きを放っているように感じられた。

生きるために必死だったあの頃、やることは何でもやり、外見すら気にかけなかった。

流石に身体は売らなかったが、犯罪スレスレのグレーゾーンな事はやってきたような気がする。

だが、ある意味でそんな印象に残りやすい記憶より、ユーリや仲間と共にいた時間。

この短い間に思い出となった記憶の方が、楽しく、またとても暖かいモノだった。

 

 

「・・・ユーリ」

 

「ん、何スか?」

 

 

トスカはコンソールから脚を降ろし、何時の間にか火器管制席。

一番最初にローズから出た時のユーリの席に座っているユーリの方を向く。

 

 

「私は、過去と決別出来るんだろうか・・・」

 

「ん?・・・ん~」

 

「私は、ライオスが来ていると知った時から、ここが熱い」

 

「ま、まさか・・・恋」

 

「恨みだよ。私の星はアイツが滅ぼした様なモンだ。昔ほどじゃないが今も恨んでる。だけど、だけどさ・・・ここに来てから、その気持ちがドンドン無くなるって言うか・・・何て言うか・・・」

 

「・・・恨みが軽くなった?」

 

「そう!それだ。だけど、私の心はそれを良いとも言っているし、ダメだと叫んでる。なぁユーリ、私は過去と決別なんて出来るんだろうか?」

 

 

トスカが漏らしたのは、彼女が抱える心の葛藤の吐露だった。

いま彼女は、仲間や弟のように愛おしく思っているユーリ達の為にに過去と決別するか、それとも心のままにライオスを倒しに行くべきか悩んでいた。

そこへユーリが来たのだから、余計にこころの葛藤は深まるというものである。

だから聞いてみたのだ。ユーリがどうこたえるのか聞きたくて。

どんな風に返事を返してくれるのか聞いてみたくて、彼女は質問を投げかけた。

過去と決別出来ると言ってくれるのか、それともそんな事出来ないと言ってくれるのか。

問いに対して、何故かあぐらをかいて唾付けた指を米神に当てて坐禅するユーリ。

何故か何処からともなくポクポクと聞こえてくるそれを眺めつつ、答えを待った。

 

 

「うー、あー・・・俺には解んねぇッス」

 

「・・・そうか」

 

 

すこしして、帰ってきたのは彼女の臨む答えでは無かった。

それどころか理解できていないと感じた彼女は、何処か寂しい気持ちとなる。

だがそれを見たユーリは慌てた感じで取り繕った。

 

 

「い、いや違うんスよ?確かに判らねぇンスけど、何て言うか・・・」

 

 

ユーリはちょっとタンマと手を交差させる。

そしてまたウーと唸ってから、考えがまとまったのか口を再び開いた。

 

「人の心は解らないもんス。それが例え家族や親友であっても」

 

「そう、だね。確かに人のこころは解らないか」

 

「でも、だからこそ生きるのが面白いんじゃないんスかね」

 

「そう言うもんかい?」

 

「ウス。だって人の心は移り変わるッス。何時までも同じ感情でいられる訳が無いッス。少しづつ、少しづつ、人間は移り変わりゆく。そう考えたら、よくわからないって思ったんスよ。俺は」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

確かに、ユーリの言う事には一理あった。

現にトスカの心情は彼と関わりだしてから随分と変わってしまった。

 

 

「年取れば考えも変わるじゃないッスか。トスカさんだって年を取れば考えも変わるんだ。別にそれが悪い事って訳じゃないッス。それに―――」

 

「?――それに?」

 

「そうやって悩んでるって事は、俺達はトスカさんの仲間だって証拠っスから」

 

 

ユーリはそう言って嬉しそうにニカッと笑みを見せた。

それはトスカがユーリと出会った短い間で常に心に感じていた暖かさを感じさせてくれる、親愛の現れの笑み。

 

 

「・・・あっ」

 

 

そうか、そうだったね。葛藤するってことは、それだけ悩むって事は・・・。

トスカは何処かストンと収まる感じを受けて、思わずポカンとしてしまう。

それはとても簡単な答えだった。

 

 

「ユーリ」

 

「何スか?」

 

「私は・・・まだ過去と決別できないかもしれない。変われないかもしれない」

 

「・・・・・・」

 

「それでも、私を仲間だと言ってくれるのかい?」

 

「あたりまえじゃないッスか」

 

「・・・ありがとう」

 

「・・・どういたしまして」

 

 

ユーリはそう言うと、再びニカっと笑みをたたえてそう応えた。

なるほど、人の心は移り変わるか、だから面白いとはよく言ったものだ。

トスカは過去との決別とか、そういうのを考えるのは後回しにすることにした。

それも大事だが、それよりも自分のことを思ってくれているユーリ達のことの方が重きが上であったから。

そう思うと、彼女は何だか嬉しくなった。

少なくても以前のように一人酒におぼれ無くても良い。

何処か寂しい時間の中で生き無くても良いのだ。

そして、そんな世界を自分にくれたのが、目の前に居るユーリだった。

なんだか、とても愛おしく感じた。・・・だからだろうか―――

 

 

「ユーリ」

 

「今度は何ス・・ムグぅっ?!」

 

 

―――ついつい、ユーリの唇を自分のを重ねたのは。

 

 

「んっ・・・ちゅ・・こく・・・じゅぅ・・・ぁむ・・・こく、ん」

 

「・・・――!!!!!???」

 

序でに以前の仕返しとばかりに舌まで入れたのは余談である。

流石にこういう体験はなかったのか、ユーリの腰が砕けていた。

普段のほほんとしているだけに、こういった反応をされると新鮮で面白い。

 

 

「あむ・・・む・・・ぇう・・・ぷは」

 

 

結構長い事、唇を重ねていたからだろうか。

大人のキスだっただけに・・・まぁあえて表現は控えよう。

ただ二人の間に橋が掛っただけである。あえて何がとはいわない。

 

 

「・・・話を聞いてくれたお礼だよ。あとこの間の仕返し」

 

「そ、そいちゅは・・・どうも」

 

 

そう返した後は何処か腰砕け放心しているユーリだった。

やがて我に返ったのか、仔鹿が立つかのようにプルプル震えながら起きあがる。

そして自分仕事あるッスからと言ってデイジーリップから降りて行った。

もっとも、それをした張本人は何処か満足をしてデイジーリップから降りた。

あれの意外な面を見れた。これで酒の席でからかう要素が増えたねぇとほくそ笑む。

そして、もう来ることはないだろうと思った彼女は格納庫をロックし、その場から立ち去ったのだった。

 

 

***

 

 

さて、そんな事があっても時間は刻々とすぎ、第一回戦をしてから4時間が経過した。

十分な休息とはいえなかったが、タンクベッドシステムによる休息。

また裏方生活班の活躍により十分な食事を取れた白鯨乗組員の士気は高かった。

あの後しばらく放心したり、顔を赤らめていたユーリではあったが、指揮を取らねばならずとぼとぼとブリッジへと戻った。

その様子を見てユピが首を傾げて居たり、大居住区に居る妹君が一瞬黒いオーラを発して周囲の人間が萎縮したり、フラフラと色んなところを手伝っていたキャロもむっと何かを感じたりしたのは余談だ。

ともかく、第一回戦を終えたユーリ達を含むアイルラーゼン軍は後退。

ヴァナージの狭い航路を取り囲むように陣を組み、そこで敵を迎え撃つ体勢を取った。

一方、敵一艦隊に艦隊全てを撹乱させられ、一割にも満たないが一艦隊に負わせられた被害とは思えない被害をこうむったヤッハバッハ艦隊はそれに応じ、ヴァナージを挟んで反対側へと陣取った。

両者の傷は癒えていないが、一度開かれた戦端はどちらかが倒れるまで終わらない。

 

 

「大佐、敵艦隊の敵影をレーダーが捉えました」

 

「・・・ついに来たか。各艦戦闘準備!白鯨にもそう伝えろ!」

 

 

そしてヴァナージの周囲を抜ける狭い航路を越えてヤッハバッハが侵攻を始める。

それをSS004級レーダー専用管制艦が捉え、ここに第二回戦の火蓋が切られた。

待ち構えるアイルラーゼンに対し、ヤッハバッハがとったのは王道と言える作戦。

艦載機を戦法に、突撃艇、巡洋艦、戦艦、空母と続いて突撃という物。

狭い航路を通るしかないヤッハバッハだったが、その数の多さを生かして多少落されても数で押し切る物量作戦と言えた。

そして、それはアイルラーゼンとデータリンクしているデメテールにも伝えられる。

 

 

「敵艦載機編隊を確認、数は2000、尚も増加中」

 

「ついに来たッスね・・・各艦第一級戦闘配備!ジェネレーター出力上げ!VF隊発進準備!ここが正念場ッス!気張るッスよ!」

 

 

ユーリ達白鯨を含めて、アイルラーゼン機動部隊からも艦載機が発進していく。

その中でノイセンやシヴィルと言った汎用機に混じり、VF達も迎撃の為に発進した。

この周囲を重力嵐に囲まれた航路において、ヴァナージの周囲だけが唯一通れる航路。

アイルラーゼンはその狭き航路の出口に陣取る事で数や性能の差を埋めようと考えたのだ。

勿論、ヤッハバッハはその事を百も承知であるが。

だが無様にも最初の一回戦で艦隊を混乱させられ、そのくせ敵への被害は殆ど与えられなかった事態にライオスは少し焦っていた。

ヤッハバッハは風潮として武門を重んじる傾向がある。

先の戦い、彼は敵へ損害を与えることが殆どかな解った事が焦りの原因だ。

それを為したのが一艦隊だけで、目の前に居た旗艦に歯牙にも掛けず素通りしていったことも、彼のプライドに火をつけている動機であった。

彼がもう少し冷静であれば、この場は一時離脱し、戦い易い宙域に誘い込む事を洗濯した事だろう。

だが、白鯨によってもたらされた混乱は、艦隊だけではなく艦隊を指揮するものたちにも影響を与えていた。

 

 

「トランプ隊、無人VF隊、アイルラーゼン空間竜騎隊の編隊に加わります」

 

 

そしてアイルラーゼン空間竜騎兵と呼ばれる機動戦隊と合流したVF隊。

VF-0やRVF-0、VB-6にエステバリスやゴーストまで混じった混在部隊。

巨大恒星ヴァナージの赤い光に照らされた彼らは迎撃の為に速度を上げた。

 

 

 

「各編隊、速度をあげました。敵編隊との予想会敵まで後120秒」

 

「各小隊リーダーに通達、“全火器使用自由、生き残る事を優先、後は好きにやれ”以上ッス」

 

「了解―――――・・・各小隊から返答、“了解、楽しませてもらう”以上です。間もなく交戦予定宙域に到達・・・!各編隊戦闘状態に入りました!」

 

「すぐに突撃艇が来るッス。各艦砲雷撃戦用意、ホールドキャノン展開、HLもすぐ照射出来る様に拡散モードでチャージ開始ッス!」

 

「了解」

 

こうして、アイルラーゼンと白鯨の連合艦隊VSヤッハバッハ先遣艦隊との第二回戦が始まった。

 

 

 


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