【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第六十八章+第六十九章+第七十章

Side三人称

 

デメテールから発進した艦載機隊とアイルラーゼンの空間竜騎隊は、それぞれに編隊を組みつつ、ヤッハバッハの攻撃機編隊と接触した。一番最初の接触で両者ともに対空ミサイルを放った為、少なくても避け切れなかった数百機が火球となる。

それでもひるむことなく両者は加速した為、相対速度の関係で距離が一気に縮まり、すぐさまドッグファイトへと移行した。

 

方やヤッハバッハ汎用艦載機ゼナ・ゲーがクラスターレーザーを照射して十数機をまとめて落し、方やアイルラーゼンの艦載機ノイセンが編隊を組んでゼナ・ゲーを十数機を相手にして落して行く。

機体性能と単機戦闘力に優れたヤッハバッハと機体性能は低くても集団戦法と熟練されたチームワークで戦うアイルラーゼンの戦闘は拮抗していた。

そして、その中でも異色だったのがデメテールから来たVF等の特殊戦機達である。

この時期、可変する機体や人型機体はまだあまり普及しておらず、それもまた彼らが異色であるという風に見せていた。

VF自体の機体性能はエルメッツァ中央軍が各方面に売り出していた汎用機であるフィオリアが原型となっており、多少機動性は向上しているが機体が重くなった分実はそれ程機体性能に変化はない。

だがデメテールのVF隊はゼナ・ゲーやノイセンに劣る機体性能である筈のVFで、ヤッハバッハを圧倒していた。

それは技量の高さも当然ながら、VFという機体には全てAPFS(対エネルギー・プロアクティブ力場遮断装置)が搭載され、また他に類を見ない小型デフレクターを搭載した可変戦闘機と呼ばれる特殊な機体だったからである。

俗に言う戦闘機の形態であるファイターの時では能力的にはゼナ・ゲーにはかなわないが、可変するというトリッキーな機動と人型になる事で発生する能動的質量移動、アンバックにより総合的な戦闘能力はゼナ・ゲーには決して負けなかったのである。

またデメテールにとっては数が少ない艦載機搭乗者の生命を優先した設計の為、APFSやピンポイントでシールドのように展開するデフレクターにより、戦闘機としては以上な防御力を与えられていた。

これは拡散レーザーや拡散ミサイルを主兵装としているヤッハバッハの艦載機にとっては、相性が非常に悪かったと言わざるを得なかった。

VFのAPFSやデフレクターは出力の関係上戦艦クラスの攻撃には耐えられるものでは無かったが、拡散するレーザーなら至近距離でもない限り掠った程度ではダメージを受けなかったのである。

その為、一部のエースを除き、まだ新米が多いデメテールのVF隊でも、圧倒的な数を誇るであろうヤッハバッハと互角以上に戦えたと言える。今回ばかりは機体性能に助けられたという形となっていた。

 

勿論、機体性能だけでは無く、それらを操るエース達も獅子奮迅の働きを示している。

VF混成攻撃機隊のトランプ隊リーダーのププロネンやケーニッヒモンスター部隊のリーダーで自身もVB-6のカスタム機に搭乗しているガザン等は自ら前線に立ち、敵を落し続けていた。

この二人のエースは白鯨艦隊に所属する以前から傭兵で活躍したエースである。

そして彼らの活躍は白鯨に入ってからも衰えることがなく、恩賞としてボーナスとは別に特別に専用機をマッド達に依頼して造ってもらったのである。

こうしてププロネンはRVF-0と呼ばれる本来は電子戦機である機体を元に改造した彼の専用機であるフェニキアを手に入れた。

この機体は彼のレーダーを読む特殊技能であるアルゴスの目を最大限に発揮できるようにされた機体で、大型レドームによる広範囲策敵やECM/ECCM機能はそのままに攻撃力や機動性や速度を向上させた戦術電子戦機として組み上がっている。

彼はこの機体の情報処理能力を使いAWACS、エイワックスとして各編隊へと管制を行う事が出来るのだ。またその情報処理能力は複数の敵機を同時に把握し、攻撃対象とすることも可能としている。ただレドームやスラスター関連にエネルギーを持って行かれた為、通常のVFよりも防御力が下であるのが弱点と言えるだろう。

 

そしてガザンはVB-6ケーニッヒモンスターをベースに、火力重視に設計を変更した機体ヘカトンケイルを駆り戦場で死を振りまいていた。

この機体は名前からもわかる通りに火力と機動性を向上させた彼女の専用機である。

それは他称深紅の稲妻と言われている彼女の特性と良くマッチしていた。

レールキャノンの出力を向上させ、三連装重ミサイルランチャーや対空高機動ミサイルランチャーは二基から倍の四基に変更され、一基しか無かった対空ターレットも三基に増加している。

そして搭載火器を増やした事で機体がやや大型化し、重量も増えたのだがスラスターの配置の変更や高出力化により機動性はむしろ向上している。

シャトル形態でのレールキャノン砲撃も可能となり、弾種も通常炸裂弾の他にAP弾や反陽子弾頭により広範囲攻撃も可能なまさにバケモノと化していた。

ちなみにその姿は若干ガンダムのザンジバルにシルエットが似ているは余談である。

そして彼らのように専用機を与えられた訳ではないが、彼らの傭兵時代からの部下たちの機体にも各々調整やカスタムを加えている為、外見は同じでも中身は別物である機体が多い。

こうして彼らトランプ隊はVF編隊の中でもエース編隊として君臨し、この戦場においても確実な戦果をあげていた。

基本的にププロネンが戦場を把握し、ヘカトンケイルで初撃で大打撃を加えてトランプ隊が殲滅するか、トランプ隊がフォーメーションで敵を撹乱した後、ヘカトンケイルの大火力で止めを刺すかのどちらかだが、その効果は絶大である。

キルレシオが彼らトランプ隊の場合、3部隊同時に相手しても一機も脱落しない程の力があり、熟練したパイロットたちと経験に裏打ちされた技能技量がなせる技であった。

 

≪此方トランプ1、敵機補足(エネミータリホー)、2時方向、下方30°、距離6000、各機交戦せよ≫

≪トランプ2ウィルコ、エンゲージ≫

≪トランプ3、トランプ2を援護する≫

 

とはいえ、彼らが幾らエースであっても、続々と増援が来る戦局を変えられる程では無かった。

戦場で戦う機体数は両陣営ともほぼ同じであったが、後続の機体数はヤッハバッハの方が圧倒的に上であったのだ。

つまりアイルラーゼンやVF混在編隊が幾ら奮闘して敵機を落しても、おかわりはいくらでもやってくるという事であった。そしてそれは人間が乗る戦闘機で戦う彼らにとっては圧倒的に不利であった。

 

 

≪こちらアルファ4!尻に付かれた!誰か助けてくれ!≫

≪アルファ4、待ってろ!オメガ11救援に向かう!≫

 

―――ドーン。

 

≪ギャー!!≫

≪オメガ11、イジェークトッ!!≫

≪クソ!アルファ4が喰われた!オメガ11はベイルアウト!!≫

 

こう言ったことが各所で起こり、徐々にアイルラーゼンの空間竜騎隊は数を減らして行く。

何せ戦闘で消耗しても中々交代出来ないアイルラーゼンとは違い、後続が沢山いるヤッハバッハは何度でも交代してくる為疲れを知らない。

また幾ら落してもすぐに増援が来るという波状攻撃に最初こそ拮抗していた戦況は徐々にアイルラーゼン空間竜騎隊は数をへらしていく。

それはVF混成部隊も同じであり、獅子奮迅のトランプ隊以外では上記と同じく落されて離脱する機体が続出し始めていた。

 

≪ヒィーーハァーーー!!俺も加わるぜい!行け!ゴースト達!≫

 

ヤッハバッハが開けた穴を、疲れを知らない無人攻撃機であるゴースト編隊がその穴を埋めるが、一度破けた水筒からは水がドンドン零れ落ちる様に徐々にその穴は大きくなっていった。

そしてこれまで獅子奮迅の活躍であったトランプ隊も疲労で動きが鈍り始めた。

かれこれ数時間が経過しているのだ。補給のランチを何度頼んだか判らない。

だが疲れた彼らの元にも、ヤッハバッハは容赦なく増援を叩きつけた。

 

≪―――敵増援第7波接近、各機警戒せよ≫

≪何ともすごい数だねぇ。リーダー本当にやるのかい?≫

≪トランプ2へ、撤退は許可できない。交戦せよ≫

≪だろうね。報酬上乗せだ。首を洗って待ってなよ!≫

 

トランプ2ことガザン機は一気に加速して敵編隊の近くへと飛びかかる。

彼女の機体はVB-6をベースとした大型爆撃機に分類される機体だ。

その為軽快な機動を行う事は出来ず、その軌道は必然的にもっさりとしたものとなる。

当然、それを見たヤッハバッハの戦闘機パイロットたちはチャンスだと思いヘカトンケイルへ向けて殺到する。

 

≪舐めんじゃねぇッ!≫

 

だがその機体は大きさは大型爆撃機で一見機動が遅そうに見えても、バケモノなのだ。

ガザンはバーニアを全開に開放する。そのもっさりとした外見からは予想だにできない加速能力で迫っていたゼナ・ゲー達をやり過ごした。

 

≪派手に、逝っときな!≫

 

そして可変爆撃機は急激に可変しながら背面を向く。

主翼が折れまがるとそれは脚部に変わり、背面格納庫カバーが展開し、それがそのまま腕部へと切り替わり、格納庫が開かれたことで4連装レールキャノンが露わになった。

変形に所要した時間は僅か1秒、そして変形が完了したその刹那。

 

―――パウッ!

 

この大型機の持つ4つの砲門が輝き、ゼナ・ゲーの編隊ごと電荷が貫いた。

本来のVB-6は砲撃が出来るだけの可変重爆撃機なので、通常では不可能な芸当だ。

だがヘカトンケイルは接地しての攻撃手段であるレールキャノンを、増設されて出力が上がったバーニアがあるおかげで、接地しなくても砲撃が可能となっていた。

精密射撃こそ出来ないが、至近距離なら問題無く当たる上、余波で敵を撒きこめる。

まさに度胸と技量を兼ね備えたガザンだからこそ出来るドッグファイトであった。

 

≪ハッハ!見たかい!ケツにブチ込んでやった!≫

≪ガザン、あまりそう言う言い方は感心できませんよ?≫

≪良いの良いの。細かいことはねぇ≫

≪・・・まぁ良いですが、ぼうっとしていていいのですか?まだ来ますよ?≫

 

そうププロネンが言うが早いか、ゼナ・ゲー編隊のおかわりが宙域に到達した。

ガザンは迎撃しようとしたが、今度の編隊はベテランが多い編隊であったらしい。

直掩機をしていたVFが瞬時に落されてしまったのだ。

そして今だガウォーク形態のヘカトンケイルへと突撃を仕掛けてくる。

ガザンは堪らずシャトルモードへと移行させるとブースターを吹かして離脱を図った。

だが気が付くのが遅すぎたのか、加速が間に合わず追いつかれてしまう。

そして放たれるクラスターレーザーの雨あられ。クラスターの名は伊達じゃない。

高出力エンジンと大容量ウェポンベイを持つゼナ・ゲーは兎に角撃ちまくる。

それは散弾なんか目じゃない量のレーザーやミサイルが広範囲に弾幕を形成する。

まさに物量差で押しつぶすヤッハバッハの戦い方を体現したような戦法だ。

後方に幾らでもおかわりが控えているヤッハバッハだ。

だからこそ、こうも惜しげもなく弾幕を張れるのである。

全くと言って良いほど隙間が無く、アリの這い出る隙間もない密度のある弾幕。

そんな中をヘカトンケイルの様な大型機が潜り抜けられる訳が無い。

ガリガリとグレイズ・・・もとい、装甲に弾が掠る音がヘカトンケイル内に響いた。

直撃こそ受けていないが、大型機故の被弾率の大きさに徐々に掠り傷が増えていく。

累積ダメージを考えたら、戦闘不能になってもおかしくはない。

それでもまだ動き回っているのはガザンのエースとしての腕前によるものだ。

可変機能を使い大型機らしからぬ乱数機動でなんとか回避しているからである。

彼女は迫りくる敵機とミサイルから逃れるためにフレアとECMを全開で起動。

そして機体を横に滑らせダッチロールを行いつつ、機体を90°上角にする。

そのあまりにも急激な軌道変更にGキャンセラーが限界値を越えた。

ガザンは耐Gスーツを着ても関係なく動く重力に従った血流により、グレイアウトを起しかける。

視界が灰色に染まりかけた。ミサイルアラートが止まらない。

だが止まればそのまま火球に変わることを彼女は体で理解している。

速度計が一定値を越えた、それを見た彼女は操縦感を押し倒す。

 

≪ふぅぅぅぅ!!≫

 

バレルロールからの急激な下方ループで機体の進行方向を変える。

速度が出ている状態で行った急激な機動変化に肺から空気が強制的に抜けていく。

グレイアウトを起していた血流が今度は逆に視界を赤く染めていく。

レッドアウトの兆候、眩暈と頭痛が来るが止まることなどしない。

そしてその刹那、後方を映すモニターが光に焼かれて一時的にホワイトアウトした。

どうやらヘカトンケイルに搭載されているターレット(自動銃座)に運悪く命中したミサイルと機体がいたらしい。

だがそれを見る余裕なんて無いガザンは朦朧としかける意識を無理矢理戻す。

日々訓練を怠らない肉体は条件反射で機体を安定させる為にうごくのだ。

だが、まだ付いてくる敵編隊を確認した彼女は舌打ちしつつ回避機動に入る。

今度はスプリットSの容量で180°旋回した後、連続して上方ループを行う。

そして乱数回避を織り交ぜつつ再度ダッチロールしながら左へと旋回した。

このマニューバ中は気が付かなかったが、この時ガザン機は機体に装備されたターレットにより3機程撃墜していた。

だがそんなことはどうでもいい、まだ敵は追って来るのだ。

彼女は通信機に向かって大声を出していた。

 

≪チィ!次からはもっと早く言ってくれリーダー!振り切れない!≫

≪倒すので夢中だったでしょう。――大丈夫、慌てなくても救援ならすぐ来ますよ≫

 

ガザンの機体がやられているのに、何処か平然としたププロネン。

彼の態度に若干のいら立ちを感じたが、その瞬間彼女を追っていたゼナ・ゲーが爆散した。

 

≪た・す・け・に・き・た・ぜ・ぇ・いーーー!!ガザンの姐さ~ん!!!≫

 

現れたのは黒の群隊・・・。

そう表現せざるを得ない程の数百機はあろうかというほどの無人機ゴーストの群。

そして黒色に塗装されたゴーストパック装備型エステバリスの集団が数十機。

それらは全速を出していたヘカトンケイルを瞬時に取り囲み、守る様に展開する。

哀れなのはヘカトンケイルを追っていたゼナ・ゲーの編隊だ。

通常の戦闘機よりもはるかに小型の無人機ゴースト。

人型でありながらゴーストパックを装着した事で異常な速度と機動性を持つエステ。

人が乗っていない為に通常では行えない機動を行う無人機に、ゼナ・ゲーは為す術が無い。

統率された動きをしたかと思えば、時折有機的な機動を取る為余計に戦いづらかった。

 

≪はっは!天使とダンスしてな!≫

 

そして放たれるはクラスターミサイルなんか目じゃない量のミサイル。

正直ヤッハバッハの戦闘機乗り達は思った。何この無理ゲー。

だがそんなこたぁお構いなしにホーミングミサイルにロックオンされた。

チャフ、フレア、ECM、色々使っても数が多すぎた。

一部をミサイル防御装置でだまくらかしても、その次には別の奴に標的にされる。

もっとも逆に数が多すぎて一部撃ち落とすと連鎖爆発が起きたが気休めにもならない。

さっきまでの状況と逆の事態が起こり、ヤッハバッハ側としては堪ったものでは無い。

とにかく、この時YAG-D-09ゼナ・ゲーに乗っていたヤツは殆どが全滅である。

一部士官に支給されていたアッパーバージョンであるYAG-D-12ヅム・ゼーもいたが、

逃げ回るので精いっぱいで、なんとか逃げきったところをトランプ隊に落された。

それを見ていたガザンはしばし呆然としたが、ゴーストをこう言う風に使うヤツは一人しかいない事を思い出した。

 

≪ユディーンか!≫

≪うす!姐さん大丈夫だったかぃ?!≫

≪アンタなんでこっちに?アンタの配置はもっと前方だろ?≫

≪ああ、そいつは―――≫

≪私の要請ですよ≫

≪え?リーダーの?≫

 

ガザンが気が付くと、彼女の機体のすぐ横にRVF-0 Sw/Ghostフェニキアがいた。

ププロネンの専用機であるフェニキアは人型に可変してヘカトンケイルを掴んでいる。

通信回線も繋げたらしくヘカトンケイルのコックピットにププロネンの顔が写った。

 

≪ええ、この宙域の防御は彼に一任します。我々は戻らなくてはいけません≫

≪・・・私はまだいけるが、もう限界か?≫

 

ガザンがそう聞くと、ププロネンは頷いて見せた。

 

≪はい、そろそろ疲労度がピークに達します。あなたもそうでしょう?≫

≪いや、私は―――≫

≪疲れている筈です。その機体でミサイルとの空戦機動を取ったのですからね≫

≪・・・・・・≫

 

確かにガザンは今はあまり感じていないが、何処か身体に違和感を感じていた。

実を言うとあの様な戦闘はあれが初めてでは無い。

トランプ隊はエースと呼べる腕前であったが、乗っているのは人間である。

人間であれば疲れもするし腹も減る。長時間の戦闘で彼らは確かに疲弊していたのだ。

それが先程の戦闘である。本来ならVF隊がいる所をガザン機が一機で戦っていた。

あれはVF隊が離脱し、その穴を埋めるためにトランプ隊が散らばった為に、本来ならいる筈の直庵機の数が激減していた。

その為後方支援が特異な筈のヘカトンケイルが前衛で戦っていたのである。

そしてガザンの体力は危険域に近づきつつあることをププロネンは送られてくるバイタルデータで把握していた。

 

≪さきほど右翼に展開していた空間竜騎隊のノイセン部隊が壊滅しました。開かれた穴に敵の艦船が殺到してきています。本船からも防衛ラインを引くという通達がありましたから問題ありません≫

≪つーわけで、俺が全員が離脱するまでここで足止めって訳だ。悪いね、獲物はいただきだ≫

≪食いきれないもんを無理して喰うこたぁない。腹下すよ≫

≪ふへぇ、腹よりも俺ぁ頭がやばいけどにぃ≫

≪そうかい・・・それじゃリーダーに従って後退しますか≫

≪そうしましょう。VF隊、トランプ隊全機集合!一時帰還します!≫

 

ププロネンはフェニキアの通信能力を使い、生き残った部隊を呼び集め撤退した。

ユディーンがその後の宙域を請け負ったが、周囲が完全に後退した所で彼も後退した。

こうして機動戦隊同士の戦いは終わったのであった。

 

 

***

 

Sideユーリ

 

「艦載機隊、全機帰還しました。有人機未帰還は20%、無人機の損耗率60%です」

「大分やられたねぇ、これはしばらくは前に出せないよ」

 

第二回戦の前哨戦は正直どっちが勝ったとも言えない泥仕合だった。

向うは向こうで物量がスゲェし、こっちも劣勢だったけど奮闘したからなぁ。

お陰でこっちの有人機に未帰還者が出ちまった。

まぁ基本戦闘機パイロットはチョンガーが多いから遺族への考慮が少なくて済む。

・・・嫌だなぁ、そう言う考え持つと戦争数字で見てるみたいだぜ。

だけど、俺にとっての戦争は戦うだけじゃないしなぁ。

艦長が呪縛なオーラを放っているように見えるのは俺だけかしらん?

 

「敵艦隊に動きあり、突撃艦と巡洋艦を多数確認。詳細な数は不明」

「息つく暇も無いッスねぇ・・・長距離雷撃戦用意!ステルス観測機発進ッス!」

「了解、ステルス機飛ばします」

 

さて、艦載機同士の戦闘は一応の終了を見せたがまだまだ序の口。

今度は足の速い突撃艦がもう数えきれんくらいに殺到してきた。

なんせ後続が見えねぇくらいだしなぁ。流石は十万以上いるだけはある。

兎に角、此方に接近してくる突撃艦の速度が半端無い程速い。

旧時代のロケットを思わせるシルエットをした艦がヤッハバッハ突撃艦だ。

スティック状の船体は正面からの砲撃戦での被弾率を極端に低下させている。

後で知ったがアレは突撃艦がブランジ級、巡洋艦がダルタベル級と言うらしい。

なんとも、実に合理的な形状をしていらっしゃるぜ。

美しさやらバランスを重視する傾向の小マゼラン艦船は見習ってほしい。

それはさて置き、一応迎撃したが距離が遠いのと大恒星ヴァナージの超重力。

それと敵の突撃艦の持つ極端に被弾率が低いシルエットの所為で全然当たらない。

観測機を飛ばして補正させてはいるがそれでも雀の涙程度だった。

 

「中央アイルラーゼン艦隊動きます。駆逐艦、巡洋艦、戦艦が多数展開」

「馬鹿な!今飛びだしたら確実に標的にされるぞ!」

 

トスカ姐さんが声を張り上げたが、まさにその通りのことが起きた。

駆逐艦のランデ級、巡洋艦のグワンデ級、バスターゾン級。

そして戦艦のバゼルナイツ級を中心とした機甲艦隊が前に出たのだ。

こっちもそうだが艦載機をほぼ落したので砲撃戦に打って出たのだろう。

そして、最初に砲火を放ったのはアイルラーゼンの方だった。

アイルラーゼンは後方からヴィエフ級砲艦が援護射撃をし、艦隊自体も砲撃を開始。

ヤッハバッハもそれに応え、突撃艦が艦首側面の大口径速射砲を連射する。

方や高出力レーザーやリフレクションレーザー、方や実弾砲とミサイル。

どちらの方が早いかは言うまでも無く、アイルラーゼンの攻撃が先に到達する。

直撃を喰らったのだろうか、ヤッハバッハ陣営の方から蒼い閃光が瞬いた。

だがその閃光の数は放たれたレーザーの量としては圧倒的に少ない。

そして少しして敵艦から放たれた実弾砲が到達する。

―――その途端、アイルラーゼンの前衛が崩壊した。

 

信じられない事にランデ級を含めた駆逐艦がほぼ一撃で大破した。

巡洋艦も大破こそしなかったが中破が大多数で小破の艦もかなり出た。

敵のブランジ級の大口径速射砲の威力は想像以上に大きい。

遠距離戦はともかく、すでに中距離戦となり、間もなく至近戦闘になる。

改めてヤッハバッハの技術はあり得ねぇと思った。

 

「敵巡洋艦に動きがあります。左舷ブロックが開口」

 

だがヤッハバッハの攻撃はまだ終わらない。

俺のバトルフェイズは終了して無いぜと言わんばかりに今度は巡洋艦が前に出る

このダルタベル級巡洋艦は右舷に船体全長よりデカイ大きさのリニアカタパルト。

そして船体挟んで左舷には、何か大きなコンテナの様なものを搭載していた。

そして最初はそれは艦載機の保管庫だと思われていたのだが・・・。

 

「ありゃ・・・もしかしてミサイルッスか?」

 

コンテナブロックが開口してみれば、中には平頭なミサイル達がギッシリである。

そしてそれを確認した刹那、大型ミサイルランチャーからミサイルが発射された。

計40発、恐らくこれまでのデータや形状を察するに、弾種はクラスター系である。

正直アホみたいな物量差で大型対艦クラスターミサイルが艦隊に迫っていた。

とはいえ、ミサイル自体の足は遅くアイルラーゼンは落ち着いてほぼすべて迎撃する。

だが、ミサイルを撃ち落としアイルラーゼンが反撃しようとしたその時。

 

「敵突撃艦加速、機甲艦隊に突っ込みます」

 

まるでタイミングを計っていたかの様に、突撃艦が群をなして機甲艦隊に突撃した。

距離が近づけばレーザーの減衰率も下がるので、何隻かは蒼い火球に変わる。

だが多少艦がやられても突撃艇は歩みを止めることはなかった。

そのまま数を少し減らしつつアイルラーゼンの艦隊中央へと直線に並び躍り出る。

そして―――

 

―――シュパパパパパパパパッ!!!!

 

一列に並んだブランジ級の胴体から全方位に対艦ミサイルが射出された。

いやあ、なんつーかまるで花火を見ているかの様な光景だった。

それはブランジ級に搭載された全方位攻撃システムである。

あの突撃艦はその名の通り敵艦隊中央に突撃し、あの攻撃で撹乱するのだ。

密集した艦隊中央でそれをやられたアイルラーゼン艦がドンドン沈んでいく。

こっちにも前方から別の艦隊が迫ってくる為、全力で迎撃していた。

近づけさせてはいけないとあの光景を見て感じたというのもあるが、それ以上にあの突撃艦は非常に不味いと見てとれたからだった。

 

「本艦へ接近する艦隊、計6艦隊。突撃艦数は800」

「撃て!撃ちまくって近寄らせるなッス!」

 

アウトレンジからホールドキャノンで攻撃を掛け、近寄る前に撃沈していく。

だがいかんせん数があまりにも多すぎ、徐々に近寄られているように感じられた。

事実、敵は此方の砲撃パターンを解析したのか、それに合わせて回避するようになる。

どうやら突撃艦には高度な測量機器も搭載されている様だ。

多分先程の全方位攻撃用だが、それ以外でも使用できるのだろう。

そして徐々に押されて中距離にまで接近され、向うからの砲撃が始まった。

 

―――ズズーン!ズズーン!ズガガンッ!!!

 

「デフレクターに連続で接触弾、デフレクター展開率94%」

「各艦にも至近弾、及び直撃弾。ですが損傷は無し」

「まだ距離があるからこの程度で済んでるッスけど・・・こりゃ怖いッスね」

 

数百発喰らっただけで6%もデフレクターを削られた。

こりゃ集中砲火でも浴びた火には目も当てられない事になってしまう。

その為艦隊機動と連動したTACマニューバでもっと回避を優先させる指示を出した。

そのお陰で直撃弾が減った為、なんとか押し返すことが出来た。

 

「ほーら如何した!もう掛かってくんなッス!」

「挑発してるのか怖がってるのかどっちなんだい?」

 

んなもん決まってんでしょうがトスカ姐さん・・・どっちもです。

何アレ?数多すぎじゃねぇ?どんだけ実弾撃ってくんの?

どう考えても雨霰レベルじゃねぇよ。大雪ドサってレベルじゃんかよ。

デメテールは大きいから的には苦労しないってか?

これで壊れたら謝罪と賠償を要求するニダ!

撃ちまくってたら何か攻撃があたりにくい後方へと後退してく。

やったね。攻撃は当たり辛くなったが、こっちの負担も減るぜ。

そろそろこっちの切り札のタイタレス級のチャージが終わるころだしな。

それさえ発射すれば、後は巨大恒星ヴァナージさんが一晩で殺ってくれる。

つらつらと、そんなこと考えていた矢先―――

 

「敵突撃艦、艦隊に向けて加速―――ッ!艦長ッ!アレ!」

「どうしたんスかユピ・・・ってうわぁ、マジで?」

 

ユピが叫んだので、何と無くみたモニターには凄まじい物が写っていた。

フネが、突撃艦が、アイルラーゼンの巡洋艦に突き刺さっていた。

え?なに、操船ミスったのか?そう思った瞬間、突撃艦がメインスラスターを吹かす。

あ、もしかしてあれってそういう戦法か!?

 

「バスターゾン級巡洋艦ローワーク、船体中央断絶しました」

「じゅ、巡洋艦が・・・ポッキリ折れちゃいました」

 

ミドリさんはあくまで冷静に、そしてユピは唖然とした感じで報告をする。

実際モニター見ていた俺もびっくりしたのだが、ラム戦をしかけてくるとは・・・。

そして接近を許したアイルラーゼン艦隊は同じ様な感じで撃沈される艦が多数出た。

デメテールは巨大なので突撃艦が突撃してきても突き刺さるだけだ。

だが多分それ許すと内部に敵兵が侵入してくる。

そうなったら内部で白兵戦・・・それだダケは阻止しなければ。

主に破壊工作阻止とか、後の修繕費決算の書類の低減的な意味で!

 

「ストール、もっと弾幕を張るッス!」

「合点だ!そらよ!ポチっとな!!」

 

中距離に近づいてくれたのでHLの射程内に入った。

また他の艦に搭載されているガトリングレーザー砲の射程ギリギリにも入る。

その為、ホールドキャノンのみの時と違い、さらに濃厚な弾幕を形成出来る様になった。

流石にその弾幕の中を突破できる敵艦はいない。

そしてなんとか突撃艦と巡洋艦を後少しで殲滅出来る。

その瞬間―――

 

「大型インフラトン反応多数確認!ヴァナージ影から敵戦艦が多数接近中!」

「チッ!真討ち登場ッスか!皆気を引き締めるッス!」

「了解」×ブリッジ全員

 

ここにきて疲弊した俺達に波状攻撃を掛けるかの如く戦艦がやってきた。

その戦艦はダウグルフ級、全長2kmの巨大戦艦だぜ。

デメテールと比べたら小さいものだが、それでも通常艦艇からしたらデカイ。

そしてデカさに見合い凄まじく硬い戦艦であった。

なんとこの戦艦、超長距離ホールドキャノンを数発は耐えるのである。

超長距離だと周囲の環境により、中々命中しないのでコレは脅威だ。

この距離では殆ど落せないと踏んだ方が良いかもしれない。

 

「敵突撃艦、巡洋艦も確認。敵戦艦と艦隊を組んでいる模様」

 

そしてアレだけ倒したのにまだ敵突撃艦や巡洋艦がいた。

ヤッハバッハ艦隊は見事な四方陣形。ファランクスの様な陣形で迫ってくる。

とくに突撃艦は戦法にラム戦があるので、まるで槍の様だ。

ファランクスで槍・・・お前らはローマの軍勢か!と思った。

あ、つーか高圧的外交とか、軍事を背景にした外交とか・・・歴史は繰り返すってか?

 

「艦長、アイルラーゼン艦隊司令バーゼル大佐より通信です」

「バーゼルさんから?なんだろう――繋いでくれッス」

「了解、通信繋ぎます」

 

まぁ、大方このタイミングで通信が来るって事は―――

 

『ユーリ君、間もなくタイタレスの発射準備が終わる。艦隊ごと後方に下がらせるぞ』

「おお!ようやくッスか!長かったぁ~!」

 

―――ようやく、此方の切り札である決戦砲の発射準備が完了に近づいたって事だ。

 

ああ、長かったぜ。

 

 

***

 

Sideユーリ

 

さて、タイタレスの主砲が発射されたんだが―――アン?描写省くなって?

いやなんつーか如何言えばいいのか判んないって言うか・・・ああ、判った判った。

なんとか説明してみようじゃないか。頑張って。

 

 

 

 

決戦兵器、エクスレーザー砲艦タイタレス級のエネルギーがなんとか充填でき、俺達は一度タイタレス級とヴァナージを結ぶ直線状を開ける為に艦隊を開いた。

タイタレス級の前方をモーゼの如く艦隊が別れたので、敵にもタイタレスの姿が露わになる。今まで此方の艦隊はブラインドの役目を果たしていたって訳だ。

 

『タイタレス、エクスレーザー砲エネルギー充填完了』

『オクトパスアーム可動調整、収束開始』

 

タイタレス級からの通信がデータリンクで入り、発射態勢に移行した事が判った。

しかし、流石は大マゼラン製だな。正直どんだけーって感じか?

なにせメーターが振り切れるんじゃないかって言うほどのエネルギー量。

デメテールの観測機でもギリギリ観測できる範疇なのだから相当凄い。

なるほど、これなら確かに天体に影響を与えられるというもの。

仮にこのエネルギーがどれくらいかと言うと、地球サイズの惑星に撃てばその惑星は跡かたも残らない威力と言えば判るだろうか?波動砲なんか目じゃない威力である。

これも異次元からエネルギーを持って来れるインフラトン・インヴァイターの恩恵だ。

その分チャージにほぼ二日掛かったけど、それ程のエネルギー量なら頷ける。

そして、それだけの時間を掛けたエネルギーが後数分で発射されるのだ。

既に周囲の艦隊は全速後退と反転の準備に入っている。

エクスレーザー砲が発射されてからおよそ5時間半後にここは火の海になるからだ。

ちなみに距離的には60億km、俺達の地球からすると冥王星に行ける距離である。

それだけ離れているのに減衰気にせず撃てるとは、流石は大マゼランry

 

ゲフン、とにかく発射後は速やかにこの宙域を離脱しなければならない。

その為現在タイタレス級に何隻か接舷して乗組員の移乗が行われている。

タイタレス級は砲艦と銘打たれているが、実際には文字通り大砲でしかない。

むしろ巨大な大砲にエンジンと制御室がくっ付いている感じだ。

イメージ付かないなら某ガンダムのヨルムンガンドを想像してみてくれ。

要するに動かせはするが基本的に非常に鈍速なのだ。

よくそれで宇宙の難所であるマゼラニックストリームを突破出来たと思う。

まぁここに持ってくる時も何隻もトラクタービームを出してけん引していた。

そう言う訳でタイタレスはエクスレーザー発射後、この宙域に放棄されるのである。

そんな事して大丈夫かと聞いたら、もう一隻ニ番艦があるから大丈夫だって言われた。

流石は大マゼry

 

『発射まで、後3000秒。各艦対閃光防御』

「ようやくここまで来たねぇ」

 

トスカ姐さんが何処か感慨深そうにそう漏らした。

 

「赤字覚悟のミサイル大決算市でしたッスからねぇ」

 

俺も腕を抱えうんうんと言いながら別な意味で感慨深くそう漏らした。

 

「・・・・あとで仕事だね」

「・・・・そうッスね」

 

そして二人してこの後待っているであろう書類のチョモランマへの登頂を覚悟する。

あんまり実感わかないだろうが、この会戦で実は結構ミサイルとかを消費している。

ちなみに一番大きなのはバーゼル/AS級駆逐艦の特殊兵装の大型空間魚雷だ。

コレは数は少ないが対艦兵装としては威力があったので使用した。

まぁデカすぎて途中で撃ち落とされたので微妙な戦果だったけど。

また艦載機隊は対空ミサイルを装備しているがそれは当然有限だ。

だから使ったら帰還して補給しなければならない。

ビームやレーザーは基本直線なのでホーミングするミサイルは現代でも主力なのだ。

そして連続的戦闘により、凄まじい量のミサイルを消費している。

戦闘中にも関わらず、デメテールの工廠はフル稼働でミサイルの在庫を増産していた。

そうしないと補給が間に合わなかったからだ。

そして溜めこんでいた資源はかなり消耗している。

反陽子弾頭系が特に痛い。反陽子の生成はかなり手間とコストが掛るからな。

そしてそれらの報告書などが纏められ、俺達上の人間の元に届くという訳だ。

実質上、ブリッジ要員は彼らが任されている部署のトップである。

そのため、俺達はこの戦いが終わっても別の戦場が待っているという事になる。

だからそこはかとなく戦闘が終わりに近づくにつれてブリッジの空気は重くなった。

ユピがみんなを励まそうと私も手伝いますと言ってくれるので目頭が熱い。

 

『――・・・発射まで300秒―――』

 

気が付けばカウントダウンは残り5分を切っていた。

あまりのエネルギー量に漏れだした光子が砲口から流れでてキラキラと輝いている。

それは何処か幻想的に見える光景だが、天体一つ壊せる兵器だと思うと背筋が寒い。

少しして1600mもある収束用の巨大重力レンズリングが砲口へと移動する。

傘のように広がった8本のオクトパスアームもレーザー発射の為にチャージしているので発光し、何だか光の傘を横倒しにしたように見えた。

だが、当然こんな派手なモンを見せれば敵さんも慌てるようで・・・。

 

「敵艦隊、さらに増速。此方へと突っ込んできます」

「主砲のインターバルを2から1へ、強制冷却装置可動。ここが正念場ッス!」

「アイサー!」

 

・・・そりゃもう死に物狂いと言う訳でも無いけど、突撃してくる艦艇が増えた。

先程から此方の被弾率が上昇している。何せ防がないと自分たちが死ぬのだ。

事実戻りたくても連中は戻ることが出来ない。

何故なら、このヴァナージによって狭められた航路に密集しているからだ。

しかも連中は俺達よりもずっと数が多く後続も沢山いる。

この意味が分かるか?つまり、連中には後退出来る隙間が無いのだ。

幾ら優秀でも10万規模での艦隊運動では必ずどこかが渋滞する。

それなら万が一を掛けて突撃した方が生存率は高いと考えた訳だ。

というか航路が細長くて狭いから、それ以外の戦法以外取りようが無い。

そしてそんなことをすれば鶴翼で広がっている艦隊に突っ込むことになる。

火線が重なるキルゾーンに自ら突っ込むのは、相当な勇気か、はたまた蛮勇か。

とりあえず半ば偶然だったがヤッハバッハ引き込めた俺らグッジョブ。

 

―――キューン・・・ズォォォォォォッン!!!

 

ホールドキャノンの斉射が始まった。

相変わらずの高威力と貫通力で数隻まとめて敵艦を撃沈する。

そしてインターバルの間はHLが発射され、砲撃間隔の隙間を埋める。

ホールドキャノンほどの威力はなくても、複数の“まがる”光線だ。

命中直前まである程度誘導できるその効果は素晴らしいものがある。

一撃で撃沈出来ずとも収束させ同時に命中させれば、小破ないし中破は可能だった。

とはいえ、幾らキルゾーンに入っていると言っても、外宇宙からここまで長い旅を切り抜けてきたヤッハバッハ戦力の底力は途轍もなかった。

小破や中破した艦を後方の艦が追い抜いて盾になり徐々に此方に進んでくるのである。

圧倒的な戦力というのはこれ程やりずらいものかと思う。

なにせ小破や中破だと少し後ろに下がれば応急修理が可能だからである。

特にヤッハバッハのフネは耐久性とダメコンがしっかりしているのか、ホールドキャノン以外の攻撃だと数発程度では沈まなかったのも、彼らが前線を押し上げている原因であった。

 

『発射まで、あと180秒』

「あと3分ッスか・・・短い様でなげぇッス。だけど勝ったなコレは」

 

ついつい某眉なし閣下の真似をしてしまった。

だがここはミサイルが飛びレーザーが照らす戦場。

後少しで発射だと思うと残り2分がとてつもなく長く感じられる。

時間にすればカップラーメン一つ作る程度なのに、手から汗が止まらない。

いや、どちらかと言うと嫌な予感の汗の方が―――

 

「艦長!敵戦艦が一群突っ込んできます!」

「ゲッ!数はどれくらいだいユピ?」

「およそ200隻です!防御帯出力を全開にしている模様!あと100秒でタイタレスに到達します!」

 

そして嫌な予感は当たっちまったようだ。

ヤッハバッハは装甲が分厚い戦艦を盾に、タイタレスへと一直線に向かっている。

当然此方もそれを緩さじと火線が集中させるが、防御に力を回したからか落し辛い。

まるで触手を伸ばすかのように一直線に飛びだす艦隊とかあり得ねぇけどなぁ普通。

 

「敵、先頭の戦艦が沈みます」

 

ホールドキャノンの冷却が終わり一斉射したことで、2kmもある大型戦艦が沈んだ。

後に知ったが、あの戦艦はダウグルフ級と言い上級士官に与えられるものだそうだ。

そんな戦艦をよくもまぁこんな消耗品のように使えるなと感心した。

こっちが苦しい様にアッチも苦しいのだと考えれば、戦っている意味もある。

だが物事と言うのは得てして上手くいっている様に見えても油断できない。

ほんの少しのことで簡単にひっくり返るのが事象なのである。

そしてその考えの通り、事態はより悪い方に転覆する。

 

「・・・?撃沈した戦艦に複数の反応?」

「どうしたミドリ?」

「いえ副長・・・多分戦艦クラスのインフラトン機関の影響かと――」

 

そうミドリさんが推測したその刹那―――

 

「―――ッ!敵突撃艦確認!そんなまさか―――ッ」

「報告ははっきりと」

「は、はい!撃沈した敵戦艦の噴煙の陰から突撃艦が飛びだしました!」

 

俺達が見たのはとてつもない速さで加速する突撃艦達の姿だった。

慌ててさらに弾幕を張ろうとしたが、その瞬間―――

 

―――ズズズーーンッ!!!!!!

 

「うわっ!」

「ぎゃっ!」

「ひえっ!?」

「敵戦艦が爆散しました。突撃艦さらに接近、進路はタイタレス」

 

―――先程沈めた戦艦が大爆発を起した。

 

偶然にもダウグルフ級の主機をアイルラーゼン艦隊が放った弾幕が貫いたのだ。

そしてそれにより大爆発。I3・エクシード航法を可能とする次元を招き寄せることで高エネルギーを生み出すインフラトン機関がそのエネルギーを放出したのだ。

勿論その爆発は拡散するので至近距離でもない限り直接の被害はない。

だがそれよりも問題なのが空間への影響、そして―――

 

「アイルラーゼン艦隊が混乱中、恐らく先の爆発でセンサー系が狂ったようです」

 

―――アイルラーゼン艦隊のセンサー系の目を眩ましたことだった。

 

デメテールは兎も角アイルラーゼンのセンサーは、先程の爆発を察知して自動的にセイフティを落したのだろう。

その所為で一時的にではあるがセンサーの目が閉じてしまった。

そして・・・ウチ以外は突撃艦をロストしてしまったのだ!

 

「突撃艦が5隻防衛ライン突破。最終防衛ラインまで10秒」

「砲撃をッ!」「やっています」

 

唯一デメテールのシステムだけが飛びだしたブランコ級を捉えていた。

だから砲撃をさせようとしたが、主砲は最初から追尾していた訳ではない。

その所為で照準が遅れ、HLやホールドキャノンが突撃艦を捉えた時には―――

 

『――5、4、3、2、――』

 

―――ズガガガガンッ!!!

 

突撃艦が5隻ともタイタレス級に突き刺さっていた。

俺はそんとき驚くとかよりもやられたっていう感じが強かったな。

まさか戦艦にコバンザメのように突撃艦がくっ付いて来て、おまけに戦艦が被弾した時に噴き出した煙の影を利用して、ギリギリまで察知されなかったんだからな。

そして突撃艦はブリッジとエンジンブロックが付いた船体後部を切り離した。

タイタレスの装甲の中には約150mもの楔が5つ撃ち込まれた形となる。

切り離された船体前部は後部が切り離されたと同時に全周囲対空クラスターを発射。

その途端楔が打ち込まれたアームが内側からボコボコと膨らみ爆散する。

ブランジ級突撃艦はその本懐を遂げて、オクトパスアームの一つを破壊したのだった。

 

『――1、発射っ』

 

そしてもはやカウントは止められない。

オクトパスアームが破壊された途端タイタレス級のシステムが破壊されたオクトパスアームへのエネルギー供給をストップし緊急パージした。

そしてそのまま残ったエネルギーを主砲以外のオクトパスアームにバイパスした。

お陰で出力自体はエクスレーザー砲と変わらない威力のが発射される。

だが、ここは狭い航路とはいえヴァナージまで60億近い距離がある。

数撃ちゃ当たる方式の戦艦主砲等とは違い、ちゃんと効果のある場所へ当てなければならない。

だがかなりの時間を掛けて調整してヴァナージのコアに到達できるように調整されていた弾道が、先程の突撃艦の突撃でほんの少し動いてしまった。

ほんの少しだと書いたが、60億kmもあるとその差異は凄まじいものとなる。

だがそんなことはお構いなく発射されたエクスレーザー砲はそのまま宇宙を進む。

そしてヤッハバッハ艦隊を幾つか巻き込み、なんとかヴァナージには到達した

そう、なんとかだ。

軸線がずれたエクスレーザーはコアをかすめる様に反対側に抜けてしまった。

つまり、今回の作戦は―――

 

「・・・エクスレーザー砲、貫通」

「最悪だ・・・もう次弾をチャージする時間なんて・・・」

 

―――失敗に終わる。その言葉が俺達の脳裏を駆け巡るのに時間は掛からなかった。

 

そしてそれを見ていた俺はと言うと、どっしりと艦長席に構え―――

 

「どッドドドドドどうするッスかΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)!?」

「落ちつけユーリ!まだ慌てる時間じゃない!」

 

―――ものすごく動揺してました。誰かボスケテー!!!

 

***

 

 

Side三人称

 

「た、大佐・・・エクスレーザー砲、外れました」

「・・・・」

 

一方、こちらはアイルラーゼン艦隊司令バーゼルの乗艦。

発射されたエクスレーザーが目的を達せられなかった報告を聞いたバーゼルは、静かに椅子に腰を落としていた。

彼らは頼みの綱である決戦砲が外れたことによるショックで茫然としたのだ。

まさに執念、これは相手の執念が為せる技――とでも言えばいいのか。

もはや旗艦のブリッジ要員達は誰も声を出すことが出来ない。

なんと言い現わせばいいのか、判らなかった。

判っていたのは作戦が失敗した事と、とてつもない絶望感に包まれたことだった。

 

「・・・総員撤退戦の準備だ。殿は――私の艦で・・・」

 

なんとか茫然とした中から立ち直ったバーゼルは撤退する命令を各艦隊に通達する。

だが乾坤一擲の攻撃が、まさかの突撃戦法で防がれてしまった所為か空気が重い。

なにせ、タイタレス級のエクスレーザーは本当に一発しか撃てない攻撃だったのだ。

エネルギーチャージには専用のインフラトンインバイターを使用している。

だがそれでもチャージが完了するまでにコレだけの時間を要したのだ。

すでに戦力が半減している現状でまたチャージしたくても無理である。

主砲身こそ無傷ではあるが、エネルギーが無ければそれは鉄屑以下だった。

 

「殿、ですかな?」

「ああ、他の艦隊を逃がす為、そして本国にこの事態を伝えてもらわねばならん。そして殿は間違いなく粒子に帰る・・・すまないが退艦する余裕はなさそうだ」

「この身は国に使える身。覚悟は出来ていますとも」

「・・・すまない」

 

副官やその他の部下たちが自分を見上げてくる。

その眼にはかつてないほどの輝きをたたえた確固たる信念が宿っていた。

彼らは職業軍人である。国の為に税金を喰らって戦争に出るものたちだ。

そしてその本分は本国の国民達や弱き人々の平和を守ることになる。

その為なら命を掛けることをいとわない事を義務付け、また誉れとする。

ラーゼンの指針、旧時代から続く損得抜きで他者の為に行動する概念。

その概念を誇りとしている彼らの眼に、死への恐怖は全く無かった。

これから死地へと赴き、一秒でも長く敵を足止め、味方の撤退を援護する。

たったこれだけのことだが、相手の規模を考えれば殿は生きては帰れない。

だが、職業軍人である彼らは既に覚悟を決めたのだった。

 

そんな中バーゼルは身を乗り出して通信機のスイッチを入れる。

ここまで作戦に尽力してくれた白鯨艦隊にも退去の旨を伝えるためだった。

自分たちは殿となって本国を守るための礎となる覚悟だが、もとより民間からの協力者である彼らを巻き込もうとはバーゼルは露ほどにも考えていない。

むしろ、いち早く大マゼランに向かって貰い、この脅威の警告をしてほしかった。

彼らの船や技術があればマゼラニックストリームくらい楽に越えられる筈だ。

そう思い、白鯨へ通信を繋げようとしたその時だった。

 

「白鯨、いやデメテール!何をしている!」

「如何した?」

「大佐、白鯨艦隊が持ち場を離れタイタレスに向かっています」

「なんだとッ!?」

 

何を考えたのか、白鯨艦隊旗艦が艦隊ごと持ち場を急に離れたのだ。

そして既に役割を失った筈のタイタレスに接舷し、何かの作業を開始した。

唐突の事態に周囲の艦隊もどうすればいいか分からず、バーゼルに指示を求めてきた。

バーゼルはとにかく他の艦隊に陣形を維持することだけに専念せよとつたえ、慌てて白鯨へと通信を繋げた。

 

「ユーリ君!何をしている!もう結果は見えた!君たちも―――」

 

すでに敗戦色濃く、部隊は半数が落され壊滅状態なのだ。

今撤退しないと不味いと考えていたバーゼルの声色は自然と怒鳴るに近い声色に変わっていた。

そんな些細なことにも気が付かず通信を繋げたバーゼルであったが返ってきた通信を聞いて絶句する。

 

『バーゼルさん、ちょっとタイタレス借りるッスよー』

「なっ!?」

 

そのあまりにも軽い・・・ちょっとコンビニ行って来るのような軽いノリ。

ハッ、まさか恐怖のあまりおかしくなってしまったのか!?

気の良い少年であるユーリ君を戦争という狂気でおかしくしてしまったのか!?

何と言う事だ、私たちは守るべきものすら守れないのか・・・。

――と、微妙に見当違いの方向に思考がずれるバーゼル。

しかし彼のそんな苦労など露ほども知らないユーリ達は作業を進めていた。

 

「一体何をする気なんだ?タイタレスが外れた以上、もうこの戦いは――」

『なぁに、一発でダメならもう一発ってね。幸い砲身はまだ使えるらしいじゃないッスか。もう一回チャージすれば使えるッスよ』

 

あまりにあっさりと応えるそれに、やはり気がふれたかとバーゼルは思った。

専用の大型インフラトンインバイターリアクターでもチャージするのに2日近くを要したこの欠陥決戦砲を戦闘中のこの中でチャージ出来る訳が無い。

如何言えばいいのか判らず、思わず口をつぐんだバーゼルにユーリはちょっとうろたえた。

 

『い、いや、ちゃんと考えた末の作戦何スよ?』

「・・・しかし、タイタレスのチャージには非常に時間がかかることくらい君も理解しているだろう?すでに此方の戦力は半分を切っている。これ以上は持たない」

『あー、実はまことに言いづらいんスけど・・・チャージに関してはウチの主機からバイパスしてやればなんとかなりそうなんスよ』

 

そうユーリは何処か申し訳なさげにそう答えた。

実はこれ、ユーリの乗艦デメテールの存在を考えればあり得ない話では無い。

このフネに搭載されている主機は通常のインフラトン機関に非ず。

相似次元機関、理論上でしか存在し得ない筈の太古のオーバーテクノロジーなのだ。

理論上無限に近いエネルギーを供給できる・・・筈のエンジンである。

問題は今だ解析が上手く進んでおらず、全力運転をしたことが無いということ。

だがもはや四の五の言ってられない。ヤッハバッハの魔の手は目前なのだ。

本来なら10年近くかけてゆっくりと全力を出せるよう調整する予定を早めた。

ただそれだけのこと、とはいえ正直何が起きるのかが判らないと言った感じだった。

勿論バーゼルはそのことは知らされていない。

ユーリのフネであるデメテールはタダの巨大な要塞艦であるという認識だ。

ただ、彼の持つ技術力はある意味でアイルラーゼンすら凌駕しているところもある。

白鯨艦隊が持つ少数とはいえ非常に強力な艦隊や艦載機隊を見ればおのずと判るのだ。

それに、確かにデメテールほどの規模なら、あり得ない話では無いかもしれない。

何せ大きさだけでタイタレス級の3倍はあるのだ。

その巨体を運用できるだけのエネルギーを一度全て砲に回せば・・・あるいは。

だが、だからと言って憶測だけではいまいち信用に欠ける。

真偽が判らない以上、今ユーリが行おうとしているのは自殺行為に等しいと思わざるを得なかった。

 

(・・・自殺行為・・・か。俺がソレを否定出来るのか?)

 

ふとそこまで考えて、バーゼルの中で疑問が鎌首を上げた。

自分は先程まで敗戦を悟り一番死亡率が高い筈の殿をしようと決めていた。

考えればこれも自殺行為なのだ。そんな自分が彼の行為を咎められるのか?

そう考えたら、答えられない。ちょっとしたジレンマである。

だが時間が惜しいという感じを隠そうともしないユーリはバーゼルよりも先に口を開いていた。

 

『ま、ウチのエンジンはちょいと特別製なモンで・・・これからやろ事その他は口頭で説明するのは大変なんで一応データだけ渡しとくッス。時間も無いッスからね』

 

そう言うと圧縮ファイルが一つ送られてきた。

バーゼルは半信半疑ながらも一応データの解凍を行う。

どうやら一部のみの情報の様だが、どうやらタイタレスにデメテールからのエネルギー管を幾つか接続し、一気にエネルギーを補充するというものだ。

だがその間デメテールは完全に動けなくなり、デフレクターは兎も角兵装類は殆ど使えなくなると書かれていた。

 

「・・・」

『まぁ言わば賭け何スけどね。最後の悪あがきでも見せてやろうかと思ったんス。後これ使うとタイタレスは完全にぶっ壊れるけど、どうせ廃棄するんだから大丈夫ッスよね?』

「・・・勝算は、ほぼ無いと言っても過言じゃない。それでもやるのか?」

『だって、死にたくねぇッスから。ほいだば、こちとら準備があるんで』

 

そう言って通信回線を切ろうとしたユーリにバーゼルは慌てて待ったを掛けた。

 

「待ちたまえ―――タイタロス級の使用許可を艦隊司令権限で譲渡する。それと今一度陣を引き直す。どれだけ持たせればいい?」

『うぇ!?いや、だって撤退するんじゃなかったんスか?!つーか俺が言う事じゃないッスけど、そんなホイホイと権限を譲渡しちゃっても良いんスか!?』

「我々とて軍人だ。民間人をほっぽいて戦場から逃げ出す何てことは出来ない。盾位は出来る。だから此方が全部墜ちる前になんとかやってくれ」

『バーゼルさん・・・』

 

そう、自分たちは職業軍人だ。軍人である以上、一応民間人を見捨ててはおけない。

つーか軍人なら危険な所に態々でようとする民間人を止めろと言いたいが、ユーリ達の勢力である白鯨艦隊は下手な国家の軍隊よりも強大である。

すでに半壊というか壊滅しかけた艦隊でどうやって止めろと?

 

「いま生き残りで最後まで残る艦隊を掻き集めている。防御に専念させれば盾に喰らいはなるだろう」

『・・・強力感謝するッス』

「頭は下げなくていい。むしろ、救援といってもこれくらいしか出来ない我々を笑ってくれてもいい」

『そんな事出来ないッスよ。そんなことしたら危険を承知で残る連中に失礼ッスから。それに今回の会戦で死んでいったウチの部下やそっちの部下さん達にも申し訳が立たないッス』

「―――感謝する。彼らもそう思われれば報われるだろう」

 

死にゆく訳ではない。生きるために戦うのだ。

それが自分の為か他者の為かの違いだけでバーゼルとユーリとの考えに隔たりはない。

その両者が選んだこの選択は、必ずしも正しいとはいえないのかもしれない。

だが、少なくても―――

 

『出来るだけで良いッス。弾幕を張って敵艦隊を寄せ付けない様にしてくれッス』

「了解した。なんとかやってみる――ユーリ君」

『ん?何スか?』

「・・・死ぬなよ。君はまだ死んではいけない」

『バーゼルさんも、まぁ軍人にそんな事いうのはナンセンスかとも思うッスけど』

「はは、ちがいない――それじゃ、頼んだぞ」

『白鯨艦隊艦長ユーリ、了解であります』

 

最後におどけて見よう見真似であろう敬礼を見せるユーリ。

そんな彼にバーゼルが、いやさブリッジクルー達すらもアイルラーゼン式の敬礼を返した。

そう、まだ戦える。勇気と蛮勇は違うが、戦えるのに逃げるのは論外だ。

多少危険であっても戦おう。彼らはそう心に決めた。

 

 

***

 

Sideユーリ

 

さて、時間軸はほんの少し戻る。

バーゼルさんが固まっている時、俺の方がいち早く現実に戻って来ていた。

とはいえ、現状が凄まじく不味い方向に転がってしまったことは否めない。

なのでボスケテーと叫ぶ声をなんとか咽に押し込めて現状を確認した。

 

「如何なったスか!?」

「突撃艦の強襲で軸線が僅かにズレた為、エクスレーザー砲がヴァナージのコアを捉えずに付き抜けました。その為恒星活動がやや不安定になっただけで、超新星にまで至っていません。現在非常に強いフレアが観測されている為に若干センサーに誤差が発生していますが問題はありません」

 

ミドリさんは淡々とした口調でそう報告してきた。

一応この攻撃で敵艦隊の幾つかを巻き込んだので、数割くらい戦力を減らせた。

現在敵からの砲撃や攻撃があまりこないのも、再編している最中だからだ。

組織戦が基本の艦隊戦では、指揮系統をちゃんとしないと機能出来ない。

艦隊がそれぞればらばらに動いたら艦隊の意味がないからだ。

話しが逸れたが、実際の所は、現在現状が悪化の一歩を辿ると言ったところだろう。

なにせ頼みのエクスレーザー砲が外れたのだ。これは非常に不味い。

 

「ったく、まさか味方の噴煙を利用するなんてね」

「ヤッハバッハ人の底力って感じッスかね。クソったれめ」

 

思わず悪態をついてしまう。

本当にヤッハバッハめ、強引さだけでなくてこう言った柔軟な戦術まで使うか!

まぁヤッハバッハ人の中には、あのバカ皇子を襲っていたヤツみたいな卑劣なヤツも存在しているみたいだしな。

でもそれよりもそう言った難しい指示をこなせるヤッハバッハ軍人の方が怖いぜ。

とまぁ心のなかで悪態を付きまくっていた俺な訳だが、そばに控えるユピが何だか元気が無い。

如何したんだろうか?

 

「ごめんなさい。ユピがもっと早く感知していれば・・・」

 

どうやらユピは戦艦を囮に現れた、突撃艦の察知が遅れた事を悔やんでいるらしい。

 

「ユピは悪くないッス。強いて言うなら全員がもうすぐ終わるって気を抜いた所為ッスよ。俺ももっと警戒してりゃよかった」

 

俺はそう言ってちょっと涙目な彼女を慰めていた。

それに言い訳になるかもしれないが、俺達は連続でかなりの時間戦い続けている。

その所為で疲労の蓄積により何処か集中力の低下が起こっていたのだろう。

とはいえ、それは起こってしまった事への釈明にはならないのだが。

兎に角どうするかねぇ?このままだと敵の数に押し切られちまうよ。

 

「どうするよ艦長?一応まだ砲撃は可能だけど?」

 

砲雷班班長のストールがそう聞いてくるが、俺はどうこたえりゃいいか判らねぇ。

逃げるにしては距離が近過ぎるし、かと言ってもうこっちはボロボロだ。

良いとこフンバって耐える時間が増えるかどうかが関の山だろう。

デメテールだけなら速力があるから振り切って逃げられる可能性は高い。

 

「だけど、絶対すぐに追って来るッスよねぇ」

「ああ、間違いないね。連中のことだからすぐに艦隊を再編して追って来るだろうさ」

 

ここで逃げても追って来ることは確実な訳で・・・。

正直八方ふさがりとはこの事を言うんだろうなぁ。

乾坤一擲のエクスレーザー砲がもう使えないとなりゃ、どうしようも―――

 

「まてよ・・・・サナダさん」

「なんだ?」

「タイタレス級ってもうぶっ壊れちまったッスか?」

「ちょっとまってくれ・・・」

 

サナダさんが空間コンソールを展開(何時造ったんだ?)してスキャンを開始する。

頼むぞ、もし無事だったなら頑張れば何とかなるかも知れねぇ。

そして十秒も待たずに答えが返ってきた。

 

「8本あるアンカーアームの内、一本が破壊されただけで後はまだ動かせるぞ。船体中央の主砲塔ブロックも特に問題はないらしい」

 

尚、アンカーアームとはオクトパスアームのことを指す。ああもう紛らわしいな。

オクトパス(O)アーム(A)と略称にするぞ、正直書きずらい。

とにかくその破壊されたOA以外の機能は無事であるらしい。

ということは、もしかしたらもう一度チャージすれば使えるのでは?

その事をサナダさんに尋ねると、彼は理論上は可能だと答えた。

但し現状ではタイタレス級のインフラトン機関を全開可動しても時間が足りないだろうとの事だった。

だが俺はこの時に平目板・・・もとい閃いたのだ。

 

「サナダさん、確か装甲近辺にはHL用のエネルギー管が主機から延びてるッスよね?」

「それはそうだが、それが?」

「タイタレス級にウチの主機繋げれば短時間でチャージって出来ないッスかね?」

「!!――艦長の発想には何時も驚かされる。ちょっとまってくれ、いま調べる」

 

コロンブスの卵とはこの事か。サナダさんは驚いた感じでコンソールを叩き始めた。

考えてみればウチのフネは非常に特殊なフネなのだ。

なにせ発掘された遺跡艦をそのまま使用している古代船でもある。

所々に垣間見れるオーバーテクノロジーの粋を集めて造られたシステム。

そしてそのシステムの中には当然本艦のメインエンジン。

相似次元機関と呼ばれる本来なら理論しかない筈のエンジンも含まれるのだ。

このエンジンなら多少の無茶をすれば、短時間でのエネルギーチャージが可能かも知れなかった。

その為、いま急いでタイタレス級をスキャンして構造を解析している。

一応アイルラーゼンの軍事機密にあたるものなので、これをしたら撃沈されても文句は言えないのだが、非常時だし誰も気が付かないだろう。

火事場泥棒で申し訳ないが、緊急事態なのだしデータの悪用はしない・・・多分。

 

「艦長、思った通りタイタレス級の折れたアームに接続すれば構造上此方からチャージする事が可能だぞ」

「トクガワさん、現状でデメテールの主機はどれだけ出力出せます?」

「ふむ、今の所機嫌が良いから、60・・・いや70まで出せるかもしれませんな」

 

全力は出したくても出せない。まずそこまで上げられるか分からないのが一つ。

それと全力を出した場合にメインエンジンが耐えられるかが問題か。

未知のシステムを運用して70%で運用出来ること自体が異常なんだがな。

 

「チャージに予想される時間は鈍くらいになりそうッスか?」

「・・・おおよそだが、本艦の全エネルギーを投入すれば、2時間・・・いや40分で終わらせて見せる。いま作業用エステの手配も終了した。こんなこともあろうかと予備のエネルギーパイプを多めに作っておいてよかった」

 

 

「ヤル事はきまったってこったねユーリ?最後に連中の鼻を明かす何かを・・・」

「そうッスよトスカさん―――総員聞いてくれ、本艦はこれよりタイタレス級の再チャージを試みるッス。上手くいくかは判らないッスけど」

 

思わず頬をポリっと掻きながら俺はそう答えた。

コレは賭けだ。賭け金はこっちの命でおまけにレートこそ高いが失敗すれば死ぬ。

確かにタイタレスはもう一度砲撃することは可能だ。

だが、サナダさんの解析したデータでは、あと一回撃てば砲身が焼き切れる。

それだけじゃなくて無理矢理チャージするのだから如何なるか解んない。

だけど―――

 

「これで黙ってたら、0Gの名がすたるってもんス」

 

人間はたとえ如何なるか判っていてもやらなければならない時がある。

死ぬかもしれない、危険かもしれない。だが怖気づく訳にゃいかないんだ。

ヤッハバッハをここで見逃せば、どちらにしろ敵対した俺達に未来はない。

未来の為に、その時間を作る為にも踏ん張らなければならないのだ!

 

「・・・よく言ったよユーリ。私はアンタの案に乗った!」

「トスカさん・・・」

 

トスカ姐さんがそう言ってくれた事に、何だかとてもうれしいと思う反面気恥しい。

とはいえ、恥ずかしいと思う時間も惜しいので、俺は指示を出す。

 

「それじゃ、タイタレス級に接舷準備してくれッス。各セクションも準備を開始――」

「?如何したユーリ?」

 

ふと、ここまで考えて俺が勝手に決めて良いものかと思ってしまった。

確かにこのフネは俺のフネだが、乗っているクルー達の家でもある。

ちょっと心に迷いが出てしまい、思わず口をつぐんでしまった。

だが、それを見ていたミドリさんが普段と変わらない感じで口を開いた。

 

「―――ちなみに、全区画に先程の艦長の言葉を流しました」

「そうッスか・・・ってマジっすかミドリさん!?」

「はい、マジです。ちなみに集計の結果、反対の人間は殆どいませんよ?」

 

そう言ってコンソールに向き直るミドリさんだが、彼女は言外にこう言っていた。

このフネの責任者はアナタなのだと、トップが迷ってどうするのだと。

思いこみでは無いと思いたい。そして多分そう言う意味も込められていると。

だからだろう、俺は何と無くこう漏らしていた。

 

「・・・ふぅ、ウチのフネは馬鹿ばっかりッス」

「その馬鹿の筆頭が何言ってんだか」

「みんなバカなら怖くないって事ですね。わかります」

「「いやユピ、その考えは何か違う」」

 

***

 

Side三人称

 

ユーリ一党が生き残りを賭けた作戦の為にタイタロスを接続した頃。

巨大恒星ヴァナージを挟んだ反対側の宙域にいるヤッハバッハ旗艦傘下艦隊。

その旗艦ハイメルキアでは先程の戦闘における損害の報告を兼ねた会議が行われていた。

戦闘中なため艦隊司令他、出席者は全員ホログラム投影である。

しかしホログラムの数は小マゼラン銀河に侵攻した時と比べれば減っていた。

当初、小マゼラン方面軍先遣艦隊総数12万隻を総括する12の艦隊。

その12の艦隊のトップである人間12名と総司令ライオスを含めた13名がこの場に集う筈であった。

しかし、現在この場にいる艦隊司令の人数は、ライオスを含めて9人となっていた。

但し、この内1名は占領星系の監視の為にいない。

なので、本来はこの場には12名いるべきである。

だがこの場にいるのは9名、先の戦闘におけるエクスレーザー砲の発射の際に前衛で戦った3艦隊はエクスレーザーによって粒子に変換された為、この場にはいなかった。

現在における艦隊総数は9万隻、戦闘可能艦はその内の8万程である。

つまり最低でも3万隻がアイルラーゼンと白鯨艦隊により戦闘不能や撃沈に追い込まれたのである。

 

これは正味な話、想定以上の損害であることは明白であった。

アイルラーゼンの機甲艦隊の実力が小マゼランと次元が違ったのもある。

だが最初の白鯨艦隊の大立ち回りにより、各艦隊は完全に血がのぼってしまった。

それにより逃げていく白鯨を追いかけた為、まんまと相手の戦い易い土俵に上げられてしまったのである。

他の航路を通ればよかったのであるが、ソレは周辺の環境が許さなかった。

技術力には自信があるヤッハバッハであるが・・・。

それでも、巨大恒星ヴァナージ周辺宙域以外の航路を通る事は難しい。

この航路は安定して通ることが出来る唯一の航路となっているのである。

それはヴァナージが持つ超重力と周辺の重力帯との均衡があるからこそだ。

そういった要因が絡み合った末、艦隊数万を失うという大損害である。

ライオスも正直これには頭が痛かった。

彼の野望は最終的にヤッハバッハの頂点に立つ事にある。

しかしこれではのっけから躓いたようなものであり、只でさえ純粋なヤッハバッハ人ではない被征服民出身の成り上がり軍人というハンデを持っている彼には途轍もない痛手であった。

その為、彼の計画をとん挫させかけてくれている白鯨艦隊に対して憎悪の念を抱くのは自然な流れであった事だろう。

 

さて、IFの話であるが、もし先遣艦隊の総司令が冷静沈着の知将だったなら・・・。

このような力ずくによる泥沼な戦いは避けていたことだろう。

態々大艦隊が動き辛くなる狭い回廊を通る必要などはまったくない。

アイルラーゼンがヴァナージを抜けた後は航路を封鎖すればよかったのである。

だが結果的に、ヤッハバッハ艦隊はアイルラーゼンに突撃。

当初から物量作戦であったとはいえ、それでも無視できない被害数となった。

ここまで大きな被害の拡散を招いたのは、一番大きな要因としてヤッハバッハ人の特質が挙げられる。

彼らは野性味あふれるパワフルな人種であることは以前も述べたとおりだろう。

そして熱しやすく、またサバサバしている性質も持ち合わせている。

この熱しやすい性質・・・要するに頭に血が上りやすいのである。

また絶対的な力を持って本来らくしょーな筈の戦闘で沢山の友軍を沈められた事。

それが彼らの自尊心をより刺激し、不利な場面において突撃を掛けたという訳である。

また、そんな彼らの気質に合わせて艦船は設計されているとはいえ限度がある。

ある程度の無茶は可能でも、ソレを越えた無茶をすれば落されるのは当然だった。

 

「・・・予想以上の損害だな」

『ハッ、何分敵艦隊の展開が早く、我々もそれに対応したのですが・・・』

「言い訳はいい。この数字が事実であるなら、それを甘んじて受けとめよう」

 

扇状に展開している敵艦隊の真ん中に一直線に並んで突っ込めばこうもなろう。

ライオスはそう考えつつも、本国で責任を負わされそうだと頭痛がした。

横からスッと水と胃腸薬&頭痛薬のセットをルチアが差し出したのを飲みほし。

さらにどうするかを決めるべく会議に臨む。

 

「さきの戦略級レーザーには驚いたが、突撃隊の尽力で直撃は防げたのは称賛に値するな」

『ソレを聞けば突撃隊の彼らも喜びましょう。勇猛果敢に飛び込み、敵の兵器にダメージを与えたのですから』

「ふむ、彼らには活躍に見合った報酬はあるべきだな。打診しておこう」

『ソレがよろしいですね。ところでこれから如何なさりますかな?』

『兵力は消耗しましたが、すでに此方が圧倒的に有利。第3艦隊は敵の殲滅を上申しますぞ』

『いや待たれよ。彼らもここまで此方に被害を与えた猛者たちだ。最後まで気を抜くことは―――』

『何を言われるか!ここまで戦った相手に敬意を持って全力で当たるべきであろう?大体そんな弱腰では皇帝に宇宙の征服何ぞ片腹痛いと言われてしまうぞ?』

『むぅ、しかしだな。現に想定以上の被害は出ているのだぞ?』

『だからこそ、ここで粉骨砕身に頑張らねば兵が付いてこぬ!』

『卿は兵を無駄死にさせるおつもりか!?』

「・・・もうよい、止めろ。言い争っても会議にはならん」

 

徹底抗戦か、それとも宙域封鎖の上での撤退か。

どちらが良いかと等ライオスに言える訳も無い。

彼は溜息を飲みこみながら、言い争っていた高級士官をいさめる。

彼らは一応言い争いは止めたものの、不満そうであることは見て判る。

その怒りの矛先がまだライオスに向いていないのが唯一の救いだろうか?

 

「とにもかくにも、敵にはどれだけの損害を与えられたのだ?」

「―――報告によりますと、既に敵の総数は半数を切っています」

「確かか?ルチア」

「一番最後の観測データはあの巨大なレーザーが発射される前ですので・・・」

 

ライオスのそばに控える副官のルチアは端末を操りデータを空間投影する。

そこには扇状に展開し、狭い航路から躍り出てくるヤッハバッハ艦隊を頭撃ちにするアイルラーゼン艦隊の姿が写っている。

しかし、それまでの艦隊戦で数を減らしていたからか、艦隊密度は薄かった。

最初こそ優勢だったが時間が立つほどに押され始め、途中で拮抗状態になる。

つまり狭い航路に一部展開したヤッハバッハ数万隻と同程度の戦力である。

 

「これ以降の観測データは?」

『戦闘のどさくさで艦測艇が落されたので、まだ観測しておりません。ですが、それ程変わりはないかと―――しかし妙な話ですな』

「妙、とは?」

 

『はい、こちらもそれなりに損もうしておりますが、それは相手も同じです。ですが連中、相応の損害を与えてられているというのに、いまだに撤退するそぶりがみえません』

『撤退?どうやってです?彼らは大マゼランの艦隊だ。帰ろうにも容易にはゆかぬ』

『だからこそ解せんのです。普通半分以上艦艇がやられればソレは壊滅と言っていい被害となり、遠征しているのならなおさら戻る為に戦力を温存するのが常道。また恐らくは必殺の策であったレーザー砲も失敗し、兵の士気も低下している筈です』

「―――なるほど、確かに妙ではある」

 

ホログラムの司令達が報告する内容を聞いてライオスはそう漏らした。

 

『気の回し過ぎやもしれませんが、何かを待っているのかもしれません』

「・・・いや、ソレはないな」

 

待つ、何を?彼らの本国からは信じられない程の距離があるというのに・・・。

フィクションの瞬間転送装置でも持たないと不可能だ。そうライオスは思った。

 

『それでは、彼らは一体―――』

「我々が引けぬように、彼らも引けない意地があるのだろう」

『意地、ですかな?』

「そう、意地、だ。―――とにかく損傷を受けた艦はすぐに作業艦に修理させよ」

『戦闘は継続という事ですかな?』

「そうだ。彼らの意地に付き合う必要はないが、決着をつけられる時につけないのはヤッハバッハの人間として許されることではない。我々はヤッハバッハなのだ」

『了解です。―――それでは』

 

ホログラムが消え、会議室には静寂が戻る。

ライオスは椅子に深く座りなおすと天を仰ぎつつ息を吐いた。

そしてクルクルと椅子を回しながらこれからのことを考え始める。

何処か子供っぽいその行動。

不遜な態度を取ることが多く、物ごとを冷静に判断している彼。

それでいて熱くなると回りが見えなくなる上、こんな子供っぽさも持っている。

勿論、彼が無能という訳では無く彼が持つ戦場を見る才は本物である。

出なければ彼の様な若者が、総司令の椅子に座っていられる訳がない。

だが時折、こうして無意識に子供のような行動を取るのが彼の癖だった。

そしてそんな彼の様子をルチアは微笑ましそうに見つめていた。

惚れた弱みとでも言うのだろうか?それとも恋は盲目?

 

「―――そう言えば、先程意地と申されましたが・・・」

「ん?ああ、大マゼランの艦隊の事か」

「何故彼らは望みも無い戦いを望むのでしょうか?彼らが反抗しなければ、命を無駄に散らすことも無かったでしょうに・・・」

 

何処か愁いを帯びた表情をするルチア。

彼女は今こそライオスの副官役であるが、元は小マゼランで生きていた女性である。

エルメッツァを見限ったとはいえ、元々軍人では無い彼女のことだ。

戦場で死んでいく人達のことを思うのは仕方が無いことなのである。

 

「ルチア・・・君は優しいのだな」

「あ、いえ。ただ気になっただけでして」

「・・・彼らも引けないのだ。大国から派遣された以上、その責務を負わねばならない。それに、負けるという事実があってはならないのだ」

「それは・・・どう言う事なのですか?」

 

ライオスはこの優しい副官に自分の考えを簡単に説明した。

今相手にしている艦隊は大マゼランからの派遣軍である。

当然、今この小マゼランで起こっている出来事の鎮圧の為の軍である。

だが大マゼラン上層部からすれば、精々が小マゼランでの小競り合い程度の認識だ。

その小競り合いを収め、尚且つ自分たちの力を誇示する。

その為の政治的意味合いが込められた派兵であった筈だ。

だがふたを開けてみればヤッハバッハという超大国との戦争である。

まさか彼らも自分たちと同程度、もしくはそれ以上の力を持つ敵と相対するとは思わなかったことだろう。

幾ら力を誇示するとはいえ、その戦力は多少過剰な規模の救援軍だ。

真正面での戦いであれば、戦闘国家ヤッハバッハが負ける要素はない。

実際正面で戦った時は圧勝に近い戦闘をしているのだ。

今の状況は周囲の環境が影響しているだけで戦力は以前こっちが有利だった。

話を戻すが、そう言う派遣軍ではあるからこそ、彼らは負けて帰ることを許されない。

そうなれば大国が自分たちより下である筈の小マゼランで痛手を受けた事を国民に知られてしまいかねないからだ。

仮に大マゼランの艦隊が引き揚げたとしよう。

そうなると彼らを待ち受ける運命は隔離惑星での強制労働。

もしくは秘密裏に葬り去られるか、表に出ない影の戦力としてその存在を抹消されるかのどれかとなる。

当然彼らは家族や友人に合う事は出来ず、使い捨てとして各地を転々とさせられる。

そうやってジワリジワリと数を減らし、気が付けば証言する人間は居なくなる。

誇大妄想に聞こえるかもしれないが、事実勝った負けたの情報はかなり重要なのだ。

それだけにこの想像はあながち間違いにはなるまいとライオスは踏んでいた。

 

「とにかく、彼らが引けないのと同じように、此方も引けないのだよ」

「そう、ですか・・・」

「心配しなくても戦局はもはや此方が優勢だ。もう少しすれば此方から降伏勧告も出そう。それで良いかね?」

「は、はい。ありがとうございます」

 

どこか嬉しそうに返事をするルチア。

やはり元は一般人の彼女は戦争で人が死ぬという事に躊躇いがあったのだろう。

そんな戦場にそぐわない彼女を好ましく思いつつ、ライオスは指揮に戻ろうとした。

 

「――総司令殿、エルメッツァ本星のジンギィ提督より至急帰還して欲しいとの通信が来ております」

「トラッパ・・・わかった。通信を繋げ」

 

この時、エルメッツァの首都星であるエルメッツァ本星から通信が入る。

通信の送り主はエルメッツァにおかれた総督府の総督。

ジンギィ・ララス・ゼゼンからの救援要請であった。

このジンギィという男、これまでも数々の制圧地で民生を行い。

文化も思考も異なる筈の異人種融和を実現した優秀な統治者である。

だが半面軍事に関しては不得手なところもあり、軍事面はライオスに一任していた。

そして送られてきた通信の内容は、各地で起こった0Gドック達による散発的反乱の為の制圧の為に人を回してほしいというものである。

 

0Gドックは本来自由な航海を行う事を目的とした人間たちの総称である。

だがヤッハバッハはソレらの行為を禁じており、当然彼らも航海に出る事が出来ない状況に追い込まれていた。

もともとが開拓心やハングリー精神に富んだ人間たちである。

そんな彼らを押さえつけることがジンギィには出来なかったのだ。

今回の大マゼラン艦隊との戦いがどういう訳だか小マゼラン全域にも伝わり、それに呼応してまだ戦える0G達が抗議の意味も兼ねて各所で動きだしたのだ。

それは決して計画されていたモノではなく、あるいみ行き当たりばったりのこと。

しかし、偶然か必然か、彼らの自由を取り戻そうとする行為が同時に起こったのだ。

しかもソレはエルメッツァや近隣星系を含めたとてつもなく広範囲である。

ジンギィ提督の元に残された一万の艦船では到底手が足りなかったのだ。

その為、ライオスは自己の艦隊を含めた現在の戦力の半分である四万隻を連れて帰還することになった。

この時のライオスの判断ではすでに戦いの決着は付きつつあると踏んでいた。

なので戦力の半分を連れて後を任せても大丈夫と考えたのである。

どちらにしても航路が狭くて艦隊の半分はまだ戦っていないのだ。

無駄に溜めておくよりかは、もっと広い場所で使った方がいいと考えた。

そして自分が0G達の制圧の総指揮を取ることで二つの局面での功績が得られる。

これでまた野望に近づけると、彼はこの場を先程戦意が有り余っていた艦隊司令に任せ、この宙域から損傷艦を引き連れて後退したのである。

 

そして、結果的にこの事が彼の命を救う事となる。

後退した彼は一度破壊して放棄されたはずのタイタレス級がまた命を吹き返した。

そしてその為にデメテールが取りついた報告を彼らはまだ受けていなかった。

もしその報告を後退する前に聞いていたなら、彼はこの場に残った筈である。

しかし、彼はこの場に残ることなくそのまま帰還したのであった。

 

・・・・・巨大恒星ヴァナージは、まだ揺らいでいる。

 

 

***

 

 

~ヴァナージ宙域・アイルラーゼン白鯨混成艦隊方面~

 

 

さて静かなエルメッツァ方面のヴァナージ宙域とは違い。

マゼラニックストリーム方面のヴァナージ宙域では今だ激しい戦闘が続いていた。

白鯨艦隊はタイタレス級とドッキングし、現在動かすことが出来ない。

またエネルギーのほぼすべてをチャージに回す為に兵装が使えなくなっていた。

その為、護衛艦隊と戦闘機隊の負担が飛躍的に増大していた。

その中で40分のタンクベッド休憩と補給を終えたトランプ隊が再度出撃をかけていた。

だがトランプ隊の面々は、リーダーであるププロネンすらも表情が硬い。

何せかれこれ一日半以上、休憩をはさんでいるとはいえ連続で出撃しているのである。

この容赦のない出撃は肉体と精神への重い負担を彼らに課していた。

タンクベッドは肉体の休息は得られても夢が見れない為に精神の休息は得られない。

しかしその為のリラクゼーションポッドはタンクベッドに比べると数が少なく。

とてもではないが戦闘中に入れることは稀だった。

 

彼らの待機ルームにいる医師らがドクターストップをかけない限りは使用できない。

だがそんな中でも敵は容赦なく出撃してくる為、彼らは擦り切れていく精神を引き摺りながらも自分の機体に乗り込み、カタパルトで撃ちだされて戦場に向かっていた。

 

≪こちら先行しているスカウト4番機 敵機確認 爆装タイプ40 護衛の制空タイプ70確認 各機警戒≫

≪トランプリーダー了解 リーダーより各機 シークエンスG-6 敵機迎撃ラインに侵入した 電子戦用意 マスターアームオン――4番機 戦闘に巻き込まれない内に急いで戻れ 戦場で丸腰は危険です≫

≪了解 ミッションコンプリート RTB≫

 

白鯨艦隊の居る方向へ帰還していくRVF-0を見送るトランプ隊。

彼らは部隊を率いてスカウト4の来た方向へと機首を向けた。

敵は有視界のはるか先の虚空にいる。到達するまで数十秒掛かるだろう。

向うはどうか知らないが、すでに敵を察知している彼らは非常に有利であった。

だが、それでも時間と言う呪縛は彼らを縛りつけ始めていた。

 

≪・・・トランプ9、11 機体がふらついています 大丈夫ですか≫

 

編隊の右翼側にいた内の数機が共にふらつき始めていたのだ。

リーダーであるププロネンは彼らに大丈夫かと通信を送る。

 

≪こちら・・・トランプ9 なんとか平気です≫

≪同じく11 すぐに戻します≫

 

そう返事を返しては来るが、やはり限界が近い。

肉体の疲労を回復しても精神の方が先に参りはじめ、それが肉体に影響を与えている。

9と11はこの戦闘の後はリラクゼーションポッド行きだと彼は思った。

そしてそれにより戦力がさらに低下するということも。

 

ププロネンは愛機フェニキアのレーダー出力を限界まで上げた。

連動して高性能シーカーポッドも起動する。

通常では捉えられない距離だが、元が電子戦機のフェニキアはなんとか捉えられた。

彼はその情報を編隊各機にリンクさせ、一斉に長距離ミサイルを発射させる。

アウトレンジからのミサイル攻撃。

そを逃れる術を持たないヤッハバッハの戦闘機隊の何機かが遠くで火球となっていく。

だが確認する暇も無く今度はトランプ隊はミサイルを避け切ったエース部隊とドックファイトに入る。

 

 

≪――つぅ、数が、多い、ですねぇ≫

≪リーダー、援護砲撃、要請したらいいの、では?≫

≪これくらいで、援護を要請して、どうするのです?私たちが経験した修羅場は、こんなものではない≫

≪・・・ですね。では、気張り、ましょう≫

≪ええ、後30分持たせれば、いいのです≫

 

ププロネンはそう零しながらデメテールのある方向を一瞬見る。

だがドッグファイトの最中であったので一秒も見ることは出来なかった。

 

―――彼らの休息はまだ先だった。

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

一方こちらはデメテールとタイタレスのドッキングした通路―――

 

 

((;;;;゜;;:::(;;:   炎 '';:;;;):;:::))゜))  ::)))

  (((; ;;:: ;:::;;⊂( ゜ω゜ )  ;:;;;,,))...)))))) ::::)

   ((;;;:;;;:,,,." ヽ ⊂ ) ;:;;))):...,),)):;:::::))))

     ("((;:;;;  (⁀) |どどどどど・・・・・

             三 `J

 

「急げ急げヤローども!でっかいソケット持ってこい!あと走れぇい!」

「「「「「「へい!班長!」」」」」」

 

通路では何やら大量のコードやらパイプやらを輸送車から降ろして行く男たちがいた。

彼らはソレらを持って走り、タイタレス側のと接続していく。

 

『班長、主エネルギー伝導管のラインは全部接続完了しただ』

「こっちももうすぐ終わる!そっちは一部ラインから全部へと切り替えろ!」

『了解しただぁ』

「テメェら!アッチはもう終わってるぞぉ!俺達も早い所終わらせるんだっ!」

「「「「「「へい!班長!」」」」」」

 

彼らが何をしているのかと言うと、エネルギーのバイパスを急造しているのである。

タイタレスと既に接続しているとはいえ、デメテールのエネルギーは膨大だ。

全長36kmに及ぶ巨体を動かしているエネルギーである。

ただのエネルギー伝導管ではすぐに融解してしまう為、一気に流すのではなく細かにエネルギー伝導管を分けてチャージしているのだ。

 

『ケセイヤ。強化エネルギー伝導管の補充分が出来た。列車でそっちに送るぞ』

「おう、悪いなミユさん」

 

さて、ケセイヤ達がソケット片手にあっちこっちへ移動していると、彼の端末に通信が入る。通信相手は白鯨が誇るマッド四天王の一人のナージャ・ミユ女史だ。

 

『気にするな。こうフネの中が騒がしくてはおちおち研究もしてられん』

「たしかにな。第一デメテール沈んだら研究もクソもあったもんじゃねぇや」

『・・・あっ』

 

何故か目を見開いているミユを見て怪訝に思うケセイヤ。

いや、まさかとは思うが・・・

 

「・・・なんだその“あっ”って?まさか忘れてたとか?」

 

ケセイヤの核心を突く口撃!ミユ女史に動揺が走る!

 

『い、いや――私はこのフネが沈むとは思っていないのでネ』

「もしもーし、語尾がジェロウ教授になってんぞー」

『う、うるさい。とにかくパイプとか贈ったからな』

「へいへ~い」

『返事はハイだ』

「はいよ。それじゃあな。―――さてと、お前らぁ!準備は?」

「終わってまーす!」

「それじゃ送電開始すっぞ!」

 

ケセイヤが通信を終えるのと同時に作業が完了した為、そのまま送電を開始する。

ヴォンという冷却機のファンの音が響き、エネルギー伝導管に電荷が走った。

 

「これで30カ所のバイパスが完了したから、40%ほど出力上げても平気だな」

「班長、爆発ボルトの設置も完了しました」

「そうか、なら―――撤収!俺達の仕事は終わりだ!ドッグエリアと機関室に行くぞ!」

「「「「「「応ッ!」」」」」」

 

 

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     ("((;:;;;  (⁀) |どどどどど・・・・・

             三 `J

 

 

そして彼らは今度はドッグと機関室に分かれて移動を開始する。

戦闘中は彼らが休める時間は全くと言っていいほどない。

だが、サイエンスハイに取りつかれた猛者たちなので疲れを感じずに作業を行う。

脳内麻薬であるアドレナリンの力は偉大である。

彼らが去った後、バイパスされた所にエネルギーがより高出力で流されはじめた。

こうしてさらにタイタレスのチャージが加速するのであった。

 

 

***

 

Sideユーリ

 

 

アイルラーゼンが協力を申し出てくれた為に共同戦線を張ることになった。

んだども、俺達の数は最初に比べれば非常に少なくなりつつある。

そんな中で敵の数は前と変わらず、おまけに疲労に囚われてはいない。

連中、数だけは多いからしょっちゅう選手交代していればそうもなる。

此方も温存していたヴルゴ艦隊を前面に押し出し、弾幕を張らせている。

もっとも何処まで耐えられるか分からないが、な。

 

≪―――ズズーーンッ≫

 

「おっと、今度の揺れは大きいッスね」

 

コレで通産何度目かは解らないが砲撃が命中した。

普段ならデメテールの運動性を持ってすれば避け切れる砲撃だが、今はタイタレスという重たいもんをぶら下げているので殆ど動くことが出来ない。

一応全兵装へのエネルギーはカットしてチャージ分以外を全て防御に回している。

だども、命中してデフレクターが揺れているのを見るのはあんまりいい気分じゃない。

さっきなんか一瞬デフレクターが抜かれたもんな。

もっとも抜けたのがレーザーとかの光学兵器だったからAPFSが防いだけどね。

 

「あーん、私のお肌が傷付いちゃいます」

「お肌って・・・ああ、そうだった。ユピはこのフネそのものだもんねぇ?」

「フネとはいえ女の子なんスよねぇ。可哀そうに・・・」

 

泣くなユピよ。後でケセイヤさんに頼んで装甲板一斉点検とかしてやるからさ。

そうすりゃ洗ったみたいにピカピカになれるって・・・多分。

 

「ところでミドリさん、現状は?」

「はい、現在エネルギー供給率は39%です。ですが先程バイパス回路が完成しました。これで一気にエネルギー供給が加速する事が予想されるので約29%程短縮できると思われます」

「ヴルゴ艦隊の様子は?」

「今の所無事です。連れて行かせたゴースト編隊を攻撃機、エステバリスを直庵機に分けて敵を撹乱しつつ戦術的には優位に立っています」

「戦術的には、か」

「はい、戦術的には、です」

 

そう、戦術的にはヴルゴ艦隊は有利に立てている。

だが戦略的に見ればコレ以上の戦闘継続は不味い。主に損失的な意味で。

一応ガトリングレーザーで弾幕を形成している様だが、アレはジェネレーターへの負荷が強い。

連続稼働なら持って数分が関の山だろう。

それに幾ら弾幕を形成しても―――

 

「敵突撃艦3隻、防衛ライン突破」

「ええ!?」

「まっすぐ此方に向かってきます。接敵まで後30秒」

『すまん艦長!抜かれてしまった』

 

とまぁ、こんな具合に小型艦は稀に突破してしまう。

大型艦は逆に被弾率がデカイからカモなんだがな。

 

「うぃっス。その分はこっちで処理しとくッス」

『すまない。すぐにでも反転したいのだが・・・』

「そこでアンタが抜けたら前線が崩壊するッス。大丈夫、戦艦ならともかく突撃艦ッスからね。だから戦艦だけは通さないでくれよ?」

『―――ッ了解』

「・・・さて、んな訳でガザンさん、迎撃頼んだッス」

『あいよ。任せておきな』

『ガザンの姐さん、撹乱ように何機か回すか?』

『おう、頼んだユディーン』

 

通信が切れると赤い大型機と黒い無人機が何機か敵突撃艦の方へと飛んでいった。

少しして白い閃光が伸びたかと思うと、3つの火球が光学映像モニターに映る。

至近距離でガザン機のヘカトンケイルが持つレールカノンの直撃を受けたんだろう。

戦艦ならともかく、突撃艦となるとあれを相手にするには少し荷が重いぜ?

もっとも戦艦が来たらより辛いんだけどな。

火砲の数も装甲の厚さも全然違う、戦艦だけは通さないでほしいね。

こっちはまだ動けないんだから・・・。

 

「タイタレスへのチャージ率52%を突破、作業用エステバリスが帰還します」

 

作業が終わった作業用エステバリスが帰還を始めている。

これで接続通路は無人区画となるから、寄りチャージの出力を上げられるな。

 

『此方機関室、もう少しこいつは頑張れるらしいがどうするんじゃ?』

 

渡りに船だ。もっとあげちまえ。

そう指示を出すと機関出力が上がったのだろう。

ドッキングした場所から光子が漏れ始めるのがブリッジからでも観測できた。

逆に船内の照明がやや不安定に面滅したけど、チャージ中だから仕方が無い。

かなりエネルギーがチャージ出来たわけだから、このまま順調に進んで――

 

「艦長、恒星ヴァナージに異常な量の電磁波と熱量を感知しました。200秒後に巨大フレアが発生する可能性が―――」

 

―――もうやだこの戦場。

 

「至急各艦シールド準備、艦載機はただちに帰還させるッス。間に合わないなら友軍艦の陰に!急げッス!それと一応アイルラーゼン側にも警告を!」

「了解」

 

どうやら先程の掠ったエクスレーザーが太陽活動を活発化させたようだ。

太陽風フレアは太陽系クラスの恒星なら、今の技術力を持ってすればそれ程脅威ではないが、ヴァナージクラスとなると話は別だ。

アレの大きさは下手すると太陽系がすっぽり収まるデカさがある赤色超巨星だ。

周囲に放たれるエネルギーの総量は太陽の三万倍・・・もう比べるのもアホらしい。

そんなエネルギーを持つ恒星からフレアが発生したらフネはともかく艦載機はヤバい。

だって最低でも太陽の3万倍だぜ?そこから出るフレアなんて物理的な作用まで――

 

「フレア発生しました。本艦到達まで30秒」

「デフレクターの効果範囲タイタレスまで広げます」

 

思ってたよりも早かったな・・・。

そう思った途端震度6はありそうな振動がデメテールを襲う。

そう、あのクラスの恒星ともなれば質量を伴ったエネルギーや重力波も発生する。

空間ごと揺らすような力が働いているのだからその影響は計り知れない。

 

「作業用エステバリス、78から150番台まで通信途絶」

「人的被害は?ププロネンさん達は?」

「幸いやられたのは全て無人機です。トランプ隊は少し前に休憩の為に帰頭しています。ですが外にいた無人機有人機問わず先のフレアで基盤を焼かれたらしく応答なし。またフレアの残留した高エネルギープラズマが周囲にある為に艦載機発艦不可能です」

 

自然の猛威で艦載機が使えなくなったおっ( ^ω^)

だけど、それは向こうも同じなんだおっ(^ω^ )

だからガチの艦隊戦に移行しただけなんだおっ(^ω^)

 

―――おっおっ言うんじゃありません!

 

しかし参ったな。

フレアは高エネルギー状態の太陽風も伴うから通信状態が悪化する。

ヤッハバッハ側にも被害が発生しているだろうけどセンサーも不調で確認出来ない。

まぁ艦載機が動かせなくなったのはある意味で僥倖だろう。

艦船なら砲撃出来るが小さな艦載機は迎撃が難しい。

一機ではそれほどで無くても数百機纏めてきたらその攻撃力は馬鹿にならないからな。

考えてほしい、ヤッハバッハの戦力はそれこそ宙域を埋めるほどなのだ。

一斉に発艦した艦載機の群はまるでバッタの群のように見える。

それこそフネを食いちぎる顎門を持ったクソみたいなバッタだ。

そんなもんにさらされるくらいなら、まだ艦隊戦をした方が良いってモンだ。

もっとも性能的に拮抗してるから落したりするのは非常に困難だけど。

 

「エネルギーの充填率は?」

「後20%、カウント600で時間合わせします・・・3、2、1、今です」

 

カウントが残り10分で固定された。

凄まじい勢いでチャージしている為に各部署に些細ながら影響が出始めていた。

中でもフレアの影響もあるかもしれないが、デメテールがうっすらと発光している。

正確には装甲板から淡い緑色の光が漏れ始めていた。

心なしかフネ自体が揺れている様な気もする。

高エネルギーを一カ所に集中させたことで何かしらの影響が出たのだろうか?

ちなみにこの事について科学班のサナダさんに意見を聞こうとしたのだが。

すでにその席はもぬけの殻でサナダさんはブリッジを飛びだして観測しに言っていた。

さすがはサナダさん、こんな時でも研究ですか。

 

「しかし、なんか静かになったッスね」

「そりゃね。今周囲はプラズマ流が渦巻いているからミサイルが使えないんだろ」

「そういえば、ヤッハバッハ艦艇の主兵装ってミサイルが多かったですね」

 

可視可能な程のエネルギーを持ったフレアのプラズマだ。

艦載機すら飛ばせないのにミサイルなんて撃ったら途端爆発する。

心なしか光学兵器にも干渉しているらしく、微妙に精度が落ちている。

 

「各艦隊の砲撃精度30%低下、高エネルギーが観測機器やレーザーに干渉している所為だと思われます」

 

・・・タイタレスは大丈夫なんだろうか?

 

「タイタレスのエクスレーザーは出力がケタ違いですので、この程度のプラズマでは干渉を受けません」

 

あ、そうなの。まぁそれなら構わんのだが・・・。

そろそろヴルゴ艦隊を後退させないと、タイタレスの射線に入ってしまうな。

とりあえずバーゼルさんに連絡を入れてカウントダウンが始まったので援護を頼んだ。

そしてここにきてアイルラーゼン艦隊が意地を見せる。急に砲撃の量が増したのだ。

何故に砲撃がと思ったが、その理由はすぐにわかった。

彼らの巡洋艦であるバスターゾン級巡洋艦が艦前方の兵装ブロックを切り離したのだ。

切り離された兵装ブロックは周囲に展開し、死角にあった兵装も起動した。

その為砲撃が若干増えたように感じられたのである。

多方向攻撃システムを艦砲を増やすために使用するとは思いきったことをする。

一応ジェネレーター搭載らしいが、それでも短時間しか起動できない。

恐らく兵装ブロックは廃棄することも前提に一斉攻勢に出たのだ。

そしてソレだけ頑張ってくれているのが解る。だからこっちも―――

 

「ストール。FCSの調整は?」

「へへ、大マゼラン製だったからちょっと感じに手間取ったが、なんとかなったぜ」

 

ストールはそう言うと、自身の目の前にある物に目を向けた。

砲雷班長席に座る彼の目の前には、銃のトリガーを取って付けた様な物がある。

そう、それは引き金。タイタレス級のエクスレーザー砲用のトリガーなのだ。

いや、本当に取って付けたんだけどね。

だってアレ、ストールのコレクションからの流用だもん。

是非使わせてほしいと何処で調達したのか旧式砲艦の手動制御トリガーを持ってきたんだ。

まぁ気持ちは解らんでも無い。憧れるよね。そう言うの。

 

「艦長、エネルギー充填率96%、まもなく発射準備が整います」

 

お、もうそんな時間か。

ミドリさんの報告に俺は思考の海から意識を上げる。

 

「本艦はこれよりエクスレーザー砲発射体勢に移行するッス。総員耐ショック」

「アイサー」

「ストール、俺らの命運、あんたに預けるッス」

「アイサー任せろ艦長。一度これくらいドでかいのをぶっ放してみたかった」

 

ストールはコキコキ指を鳴らしつつ、慣れた手つきでコンソールを操作する。

するとそれまでタダのトリガーだった物が起動したのかいくつもの光が回路のように浮かび上がり文様を作り出した。

 

「カウントダウン、30秒を切りました。各区間隔壁閉鎖。重力アンカー射出します」

「重力アンカー・・・射出、固定確認・・・」

「ヴルゴ艦隊、アイルラーゼン、エクスレーザーの射線から離れます」

 

戦術モニター上のヴルゴやアイルラーゼンを示すグリッドが移動していく。

予想される射線から全ての艦艇が離れつつ、押し込もうと突進してくる敵を撃ち落としていた。

デメテールの中は非常用電源に切り替わり、周囲が赤い光に染まる。

外を映すモニターには接合部や船体から光子を漏らすデメテールとタイタレスが写った。

 

「エネルギー充填100%!エクスレーザー発射10秒前!目標赤色超巨星ヴァナージ!」

 

―――10

 

―――9

 

―――8

 

カウントダウンが始まり、出力がドンドン上昇していく。

未知のテクノロジーの塊である相似次元機関が唸りを上げフネ全体が振動した。

そしてデメテールとタイタレスの輝きがさらに増していく。

 

―――7

 

―――6

 

―――5

 

周囲のアイルラーゼン艦が完全に撤退を終えた。

遮る物がいなくなり、そこにめがけて敵艦隊が押し寄せてくる。

だがもう遅い、ミサイルでも撃てたなら勝算もあったことだろうに・・・。

 

―――4

 

―――3

 

―――2

 

そして、カウントダウンが終わった。

 

―――1

 

「エクスレーザー・フルバースト!発射!」

 

ストールが引き金を引いた。

その途端周囲の空間を押しのけて膨張した光子の塊が発射される。

オクトパスアームが壊れた為に主砲身に限界まで溜めたエネルギーが解き放たれた。

第一射目を遥かに上回るリミッターすら解除した全力の砲撃が、射線上の敵艦隊の8割を飲みこんでそのままヴァナージへと直進する。

 

 

そして天体を破壊せしめる光は原初の炎へと―――直撃した。

 

 

 


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