Side三人称
ユーリが過労でぶっ倒れて入院してから一週間が経過したが、今だ修理が完了しないデメテールは絶賛漂流中であった。一応短距離ながらも仮設営のレーダー等でデブリ程度を発見できるくらいには回復しているが、完全復旧にはまだまだ時間が掛る様だ。
現在のところ、融解した装甲板を少しずつであるが引っぺがし、船内工廠へと持ちこむ作業を続けている。なまじ強力な装甲板な為、生半可なレーザートーチでは切断する事が出来ずに高出力な切断工具を使うことになり、かなり時間が掛るのが難点だった。
とはいえ第一装甲板の内3割は、既に内側からこじ開けた格納庫へと収容し、艦内工廠での材料変換待ちである。プラズマエネルギーの塊と化していた衝撃波により融解し蒸発してしまった分が13%ほどあるので、その分は後々補充しなければならないが、しばらくすれば徐々に外装は整ってくるであろう。
もっとも内部に一部流入したエネルギーの所為で、内装系や電装系にもダメージを負っており、それを急ピッチで修復している現在。人の少なさからか外部装甲の修復まで手が回っていない。デリケートな電装に人手を取られるのは仕方ないが、予想していた作業工程は少し遅れを見せていた。
外装甲板近くの格納庫にあった作業用無人エステバリスも隔壁が破られた際にほぼ全部が融解してしまい、この大きなデメテールの身体に対して僅か数百機しか残っていないというのも問題だった。作業に回す作業用機が少なすぎるのである。
また前述のユーリが倒れたことも問題だった。この所為で、乗組員の間に動揺が広がったからでもある。大黒柱である艦長が倒れるというのは多かれ少なかれクルーを動揺させるのに十分な影響力をもっているのだ。
まぁそこら辺を彼はみっちりとトスカや古参クルー達に叱られた為、これ以上虐めてやるのは酷だろう。彼とて好きで倒れた訳では無く、人手が少ないことにより発生した書類仕事の集中が長く続いた事が、彼が過労を溜めこんだ原因なのだから。
しかし艦長というのは戦闘の時以外、実質平時の際は艦内を見て回り、クルーの生の声を聞いたり、各部署から上がる書類を整理するのが仕事である筈である。その艦長が倒れること自体十分異例なことである。
そしてこの“作業する人員の不足”という事態がまさかあんなことを招くとは・・・マッドに命令を下してから倒れたユーリも、空いた時間に細々と命令を実行していたマッド陣営も予期せぬことだったに違いなかった。
………………
……………………
……………………………
ところで宇宙を航海するフネには、昼夜の区別となる朝や夕方等が存在しない。惑星上とは違い太陽が昇って沈むという現象がないからだ。その為特殊な環境育ちでもない限り航宙規定に置いて定められた標準時間を元に一日を決めている。
勿論、全員が一斉に就寝という訳では無い。そんなことをすれば危険にみち溢れた宇宙では簡単に沈没してしまいかねない上、人がいなければフネは動かせない。その為、基本は朝番と夜番の2交代、もしくは昼も咥えての3交代制をとるのが一般的である。
そしてユーリが過労で入院してから一週間経ったある日の夜時間。交代制とはいえ、夜時間に働く人間の数は最低人数しかいない為、艦内は水を打ったかのように静まり返っていた。時刻は24時間を標準時とした午前零時。艦内照明も落され夜の様に暗い大居住ブロックでソレは起きた。
≪―――カタン≫
場所はマッドの研究所として使用されているビルの近く。
突如ビルの通風口のふたが外れ、中からピョコと何かが顔を出した。
「・・・・・(きょろきょろ)」
小さな影は首から上だけとちょこんと通風口から出していた。そして辺りをうかがうかのように顔を左右に振り、スンスンと鼻で匂いを嗅ぐ。少しして周辺に危険は無いと判断したのか、ソレは通風口から這い出て来た。
人間よりもはるかに小さな影は、やはり何かを警戒するかのように辺りをキョロキョロ見回している。
『いなくなってるだと!?なんでじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
「!?!?!?」
その時、突如としてマッドの巣付近にケセイヤの大声が響いたことに、その影はビクンと肩を震わせた。影は怯えるようにその場から逃げだした。ソレはもう必死といった感じで、人がいない道路を走り抜ける。人の気配を感じ取ると、見つかるのが嫌なのか清掃ドロイドの陰に隠れたりしてやり過ごしている辺り大分賢い。
またその影は運が良いのか、どういう訳だが監視システムの丁度死角となる場所を無意識で走り抜けていた。そして長い道路を走り、ぽてんと転んで足をすりむいた影はクスンと鼻をならしたようだったが、余程怖い思いをしたのか走るのをやめようとはしなかった。迫る恐怖から逃げようとしていた様にも見える。
「――ッ――ッ」
長い事走り回った所為か疲れたのだろう、影は息を荒くしていた。トテトテと影は本能的に、人が来ないルートを走り、とある建物へと入っていった。建物の中で運が良い事にカギが掛かっていなかった部屋を見つけたので必死にドアを開けると潜る影。
―――だが影がもぐりこんだその部屋にはこう書かれてあった。
曰く――艦長室・・・と。
Sideout
***
Sideユーリ
一応退院したものの、自宅療養を言い渡されていた俺は結局自室で死んでいた。 いざ休もうと思った途端、身体がおもいっくそ重たく倦怠感が凄まじいことになり、正直風呂とトイレいがいは動く気がおきなかった。どうやら本当に死にそうなほど疲れていたって事らしい。
しかし昼まで寝ていても怒られないってのは嬉しかったけど、実質自宅に缶詰状態じゃね?それにいずれはブリッジ近くにも専用の部屋を準備しなきゃならん。ココだと何かあった時に、すぐにブリッジに行けないからな。ある意味別荘的な感じで使いたいぜ。
「あーうー、ベッドよ。何故こんなにも愛おしいんスか」
柔らかすぎず硬すぎずな低反発マットのベッドの上でごろ寝。これぞ至福の極みである。しかしホントに俺大分疲れてたんだなぁとか考えていると、昼間散々寝てた癖に自然と意識が落ちて眠ってしまった。
モノの数秒で意識が飛ぶとか、俺はのび太くんかよ。
≪パシュ―――≫
意識が飛んだ後しばらくして部屋のドアが開いた。エアロック特有の空気が抜ける音を聞き、俺は意識が覚醒するのを自覚する。どうも前に暴走したユピの事件以来、そう言ったのに敏感になったのだ。
尚ユピとの関係は結局元鞘になっている。俺が倒れた時、彼女がしばらく看病とかしてくれてたんだが、そんなユピを良い笑顔をしたキャロが引き摺って何処かに行ってしまったので、たまにしか来ない。もっともあまり頻繁に来られてもプライベートな時間が欲しいと思う時もあるのでこれはこれで良かったと思っている。
それはともかく、疲れてたからロックをかけ忘れてたんだなコレが。しかし入ってきたヤツの足音はこれまで聞いた事がないほど軽い人の足音だ。はて?俺の部屋に態々やってくる人間でココまで体重が軽いヤツは居ただろうか?
・・・・・・ましゃか宇宙人が!―――いや、そんな訳ないか。ふと時計を見ると午前零時だが流石にお化けでもないだろう。というかお化けが足音出す訳がねぇ。しかし宇宙船に正体不明の何かがいるって言うと、前の世界の洋ゲーを思い出すなぁ。
( 圭)<――呼んだか?
・・・・・・ユーリ、あなた疲れてるのよ。あとIsaacさんは石村に帰れ!
変なデムパ拾った気がするがおいておこう。
それよりもだが、入ってきたのは多分人だろう。
何せ声はしないが足音は人のそれだしな。
まぁとりあえず話を―――いや待てよ。
ここでふと悪戯を思いついた俺はベッドの頭側にあるスイッチ類に静かに手を伸ばした。このスイッチ類は照明の他に何とテレビやゲームや窓やドアの開閉まで寝ながらできる凄いコンソールだ。
誰が侵入したのかは知らないが、ちょうど暇だったのだ。俺はドアをロックし毛布を頭まですっぽりとかぶり、足音を頼りに此方に近寄るのを待つ。ベッドの近くまで後10歩、8歩、4歩―――
「がおー!たべちゃうぞー!」
「――――っ!!!???」
大声でそんなことを叫びながら、毛布を被った俺はベッドに立ち上がる。
音からすると、相手はたいそう驚いたらしい。ガッタンガラガラと椅子やら何かにぶつかり、その上に乗っていた食器を倒した音が響いた。俺は腹の内で計画通りと悪戯が成功したこととにほくそ笑みつつ毛布を外す。
「さぁて、どこの誰が―――あり?」
毛布を外して部屋を見渡すが、肝心の相手の姿は見えず。はて?ちゃんと音が聞こえたんだけど・・・ってイスとテーブルが倒れてるし誰かはいたんだろうな。でも、何処に?・・・。
小物が床に落ちている。確かに誰かが驚いて倒れたか何かしたときにぶつかったのは確実なのに誰もいない。まるで幽霊でも居るみたいだと思った時、部屋の隅っこの方、箪笥と壁の隙間あたりから音がしたような気がした。
「んー?」
ユーリくんは、思わずこう唸ってみちゃうんだ~☆
なんかやっぱり疲れてるなぁ俺・・・とりあえず壁と箪笥の隙間を覗いてみた。
するとうっすらと暗い影の中に、光る金色の眼が・・・うわっ怖ッ。
「シャァァァッ!!!」
「どぅっあっと!?」
飛び出してきた陰に驚いた俺は尻もちを着いた。その隙に影は俺の脇を通り抜け、部屋の隅っこまで退避していた。いったいぜんたいなにがなんだか・・・とりあえず侵入者の御顔を拝むことにした。
まず目に着いたのはくすんだ銀髪。ショートヘアの銀色の髪を乱雑に切りそろえた感じでまとめ、クリクリっとした金色の虹彩の目が俺を睨んでいた。服は何故か薄汚れた・・・何だろう?シーツ?か何かをポンチョの様に纏っているだけのようだ。
ちなみに結構整った顔をしているが、見た目がかなり小さく子供の様に見えるので性別年齢は不詳。そして何よりも驚いたのは、頭部に生えた髪色と同じ一対のケモノの様な耳だった。多分犬系の耳である。イメージ的には柴犬?
しかし変わったクルーも居たものだ。自分の子供にケモノ耳を着けるなんてな。医療技術の中には当然再生医療もあるわけで、それを応用すればケモノ耳を着けることくらい朝飯前。
しかし幾らなんでもこんな小さな子に耳を植えるなんて・・・好きモンだぜ。世も末だな。だが着衣がシーツだけってのもおかしいな・・・とりあえずお名前でも聞かないとどちらさんだかか判らない。
「えーと、どなた様ッスかね?」
「う゛~~~~~!!ぐるるるるるっ!!」
「う~ん、できれば人語でお願いッス」
「う゛ーーーーーーっ!」
・・・・だめだ、何故か威嚇しか返してくれない。というか本当にケモノっぽいんだけど、どういう事なの?――――はっ、まさかこの子は避難民を乗せた時にそのまま船内で迷って残ってしまった子供じゃないのか?
大居住区にはタムラさんの畑の隣に比較的大きな森林区画もあるし、そこら辺はセンサーが設置しづらいからユピの監視も甘い。きっとこの子はその環境に適応して野生化を遂げてしまったのではないか!?
・・・ユーリ、二度目だけどあなた疲れてるのよ。うん、知ってる。
「どうしたもんスかねぇ~」
「う゛~~~・・・・」
話をしよう。と、誘ってはみたが威嚇が止まらないどころか睨まれた。しどい。
≪・・・――――くきゅるるる・・・≫
「ん?」
どうしたもんかと思っていると、腹の鳴る音が・・・というかこんなにもハッキリ聞えることってあるもんなんだな。ちなみに発信源は今だ警戒と威嚇をしている謎生物くんだけ・・・そして俺の腹は減っていない=プライスレス。
「腹、減ってるッスか?」
「――っ!?う゛~~~!!」
「・・・はい、判りやすいくらいの反応ありがとうッス」
何故かほっぺたを真っ赤にしているあたり、言葉は一応判る様だ。
「う~ん、ホイじゃちょっと待て」
「う゛?」
「え~と、たしかここにとっておきの・・・あったあった、ホレ」
「――ッ!う゛~~!!」
「うまそうだろう?タムラさん特性のアップルパイッスよ~甘くておいしいよ~」
「う゛~~~!!う゛~~~~!!!」
俺の部屋には小さな冷蔵庫が一つある。普段は飲み物とかくらいしか入っていないのだが、こんかい俺が倒れたことでその中には見舞い品が詰め込まれる事となっていた。そしてこのアップルパイもまたそんな見舞い品の一つである。
パイ生地の表面が絶妙な厚さの砂糖によりコーティングされ、パイ生地もとても薄く何度も重ねたことで独特の歯ごたえが堪らない。そしてその香り、船内農場でとれた紅玉に近い香りの高いリンゴを用いている。タムラさん自身が目利きしたモノを使用しており、このパイ自体が限定30個というものだ。
ちなみにリンゴは以前の旗艦ユピテルの中で栽培されていたのと同じである。だから成長が速いのだ。マッドの作りだした薬で異常なほど成長が早く収穫できる回数も多い。若干危険な気もするが、これがフラグにならないことを祈るな・・・なお俺も既に一切れ頂いた。旨かったぜ。
「ほーら、パリッとしてて美味しいぞ~」
ぱたぱたと手を扇ぎ、冷めていても香る甘い匂いを送ってやる。
「――~~、!!う゛~~!!」
香りに誘われたのか一瞬フラ~っと反応したが、すぐに首をブンブンとふり威嚇を続行する謎の侵入者くん。しかし目は良い匂いのするパイに固定されており、やはり腹は減っているのだと言う事が解る。
「・・・ふむん。ならば―――」
≪ことり≫
そして紳士な俺はその事をいち早く察知すると、パイを侵入者くんと俺との中間点に置き少し下がった。侵入者くんはチロチロと物欲しそうにパイを眺めている。ククク、お腹がすいている時にスィーツのにおいを受けて耐えられるのかなぁ?
「ほぅら、うまいぞ~」
「う゛・・・」
「・・・序でにチーズケーキもだしちまうかな~」
「う゛・・・う゛・・・」
「そして取り出したるはぺろぺろキャンディー。何処から出したかは聞いたらダメっスよ」
「!!・・・う~」
そして怒涛のお菓子攻撃。
キャンディーは何故かあった昔懐かしき棒付きのペロペロキャンディーだ。
3本貰ってたので内一本の包装を解いて、舐める。ん、あまい。
「あ~、あまくて美味しいッスねぇ~」
「・・・」
そして沈黙が流れた。向うはこっちの挙動に一々反応する。対する俺はまったくの自然体だ。なにせ寝たからか身体の調子はここ数カ月中一番だと言えるくらいにまで回復している。たかだか子供一人ていどなら怖くはない・・・筈。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・ふぁ~」
「――っ!!う゛~~~っ!!!」
「・・・別に食ったってどうもしねぇッスよ。まずは食いねえ。話はそれからだ」
「・・・・・・・ッ!」
おうおう、迷ってる迷ってる。後もうひと押しって感じか・・・そう言えばまだ貰ったもんがあったような・・。
「おお、あったあった。太古のお菓子再現シリーズ、YOUKANッス」
まぁぶっちゃけタダのようかんなんだけどね。材料不明だけど・・・。
「みんな大好きUMAい棒」
・・・やおきんさんはこの時代にもあるんだろうか?
「ジャンクフードの定番、ポテトチップお味噌味」
意外といけますよ?お味噌味。
「そして後で食べようと思ってたチェルシー手作りサンドイッチ」
パンモロ、偶蹄目ウシ科の肉をローストした物をトマト&レタスにマスタードをつけて共にパンにはさんである一品。味は前の世界で言うところのローストビーフサンド。結構おいしい、小腹空いたら摘みたくなる一品だ。
それらを先程置いたケーキとパイのところにスッと差し出す。紅茶とジュースのパックも忘れないのが紳士のたしなみだ。サンドイッチだけは俺も食べたかったので一切れだけ貰い食べている。うん、やっぱ安心できる味だわ。
んで、睨みあう事数分後――――
「ゴクリ」
流石に耐えきれなくなったのか、唾を飲みこんだ音が聞こえた。
そして侵入者くんはソロソロと手を伸ばし、パイを鷲掴みに・・・。
「・・・むぐ、んぐんぐ・・・ごくん」
「う、旨いッスか?」
「・・・・・・むぐむぐむぐ」
「(これは、どっちだと取ればいいんだろうか?)」
すこしずつ、置かれた食べ物に手を伸ばし、両手で抱きかかえるかの様にして持つと小さく口を開けて頬張る。頬張る。頬張る。多分お気に召したのだろう。ふにゃっとすこし頬が緩み、心なしか食べる速さが上がった。
な、なんだろう?この小動物を餌付けしたような感覚―――
「・・・・(いまなら、触れられるかな?)」
ソロリ、ソロリと少しづつ近づいてみるが逃げる感じはしない。食べることに夢中なのだろう。そんな姿も何処か愛らしく見えて、もしゃもしゃと食べ物を平らげている小動物を撫でてみたいという感情が芽生えた。そして折角だから、俺はこの感情に素直になるZE!
「そ~っと・・・」
俺はこの子の頭に手を伸ばす。この欲求は耐えられるものじゃないんだぜ。
そして後数センチで手が届くと言ったところで―――
「―――っ!?」
「・・・あ」
気配を察知されたのか、勢いよく振り返った侵入者くんと俺は目があった。
俺、目をパチクリ。侵入者くん、目をギラギラ。あ、ヤバ―――
「う゛―――っ!!!」
≪がぶりんちょっ≫
「みぎゃ~~~~っ!!!!」
―――本日の教訓。動物は食事中気性が荒くなるので注意しましょう。
≪がぶがぶっ!!≫
「ぐぉぉぉ!!(い、痛いッスゥゥ!!)」
そうですね。お食事中に見ず知らずの第三者に邪魔されたら俺でも怒りますよね。しかし随分と顎がお強いんですね。ははは、鍛えてあったのに腕から血が出て来ちまったぜ。だが、こうなったら俺はあのセリフを言わねばならない!
「い、いたくない――」
「――う゛う゛?」
「大丈夫。痛くない・・・」
どうだ!怒れる狐栗鼠を宥めた有名なこの台詞ッ!
内心めっちゃくちゃ痛いけど我慢じゃユーリ。これはこの子と俺との我慢対決じゃ!俺が痛みで泣くか、この子が先に落ち着くかのチキンレース!
「うう゛~~!!」
「えっ、ちょっと噛む力が上がった――!!?」
・・・御免、マジもう限界。
そ、そんなに強くされたら壊れちゃう。ら、らめぇぇぇぇ!!
笑顔を張り付けたまま、頬をひくつかせて固まる俺だった。
そしてさらに数分間が経過した。
噛みついた侵入者くんはどうしたのかというと――
「う゛」
「・・・いい加減離して欲しいんスけどねぇ・・・」
ガジガジと、まだ噛んでおりました。しかもそれなりに強く。
最初に全力だして顎が疲れたのか今はちょっと強い甘噛みレベルだけど十分痛い。
そうだよ。どうせ俺には青き衣さんの真似なんて出来やしないよーだ。
仕方ないので小さく溜息を吐くと、俺は噛みつかせたまま侵入者くんを持ちあげた。噛むことに専念しているのか、抱き上げたのに反応は特にない。ああ、俺に撫でポのスキルでもあればなぁ、とか思いつつ引き離すのも面倒臭いのでそのままにさせておいた。
「しかしこっちとてやられっぱなしはつまらん!!くすぐっちゃる!!」
「う゛っ!わうー!!」
「ほれほれ!話さないともっとくすぐるッスよ!!」
「う゛~・・・ぎゃおー!」
「うへっ!?今度は右手!?あわわわっ」
じゃれ合い?も、してみた。だけど結局噛まれてしまい撫でる事は出来なかった。くすぐるのはやっぱり嫌がられるのは判ってたんだが・・・・悪戯心がつい。
≪がじがじ≫
「まったく、お前さんはがっちゃんか・・・古いッスね」
今の判る人何人いるかな?
それにしても意外と、というか思っていた以上に軽い。綿羽の如くとでも言えばいいのか、米袋よりもずっと軽いのではないだろうかと感じた。なるほど、先程のケーキやお菓子を全部食べても平気なのは、本当にお腹が減ってたのね。
そしてしばらくジッとしていた。その間もずっと噛み続け一向に離そうとしない。お互いの体温が感じられる距離だというのに、言葉が響く距離だと言うのに、この子は全然噛みつきを解除してくれなかった。
もうなんか執念を見た気がする。この子が噛み切られるほどの顎の力をもってなくて良かったよと心底思ったのは秘密だ。さすがに自室でスプラッタは勘弁願いたい。両手足はまだ自分ので痛いからな。切断は勘弁だ。
( 圭)<切断ならまかせろ!
・・・石村に帰れ。
「・・・ん?」
「う゛~~・・・」
さて、その後十数分もこの子は頑張りを見せ噛みつきを続けていた。だが沢山食べたからなのか眠たくなってきたようでうつらうつらとし始めた。どうすべきか迷ったが、噛みつきを解除してくれない以上どうにもならん。
仕方ないので掛け布団だけ羽織り寒くない様に抱きかかえてみた。するとどうだろう、噛みついたままであるがこの子は眠たそうにしながらもギュッと俺の服を掴んでいるではないか・・・寂しいのかねぇ?とりあえず乗組員の証明になる携帯端末を持っていないあたり、密航者の可能性も出てるんだが・・・・。
「・・・わう、くー、くー・・・」
「クス、こんなあどけない顔してるやつが悪いヤツとは思えないッスねぇ」
俺は眠ってしまった幼子を撫で・・・≪ガブリ≫・・・ようとしたが、噛みつく力が心なしか上昇したので止めておいた。起したら可哀そうだしな。
「ん~、ベッド戻れなくなったけど・・・まぁいいか」
とりあえず壁に寄りかかると、俺はそのまま眼を閉じた。
懐に小さな暖かさを感じた眠りは、意外といい気分だった。
***
――――次の日の朝。(標準時における朝の時間)
『おーい、ユーリいるかい?』
「・・・へぇあ、この声は、トスカさんか?」
『お~い、居るんだろう。ちょっと困ったことが起きた。副長権限ではいるよ』
「ちょっま!」
朝起きると、トスカ姐さんが突然入ってきた。いやん、ノックくらいしてよもう~とかベッドの上で横たわったままほざいたら頭を叩かれた、しどい。
「うう、俺艦長何スよ・・・」
「ならとっとと仕事に戻りな。艦長は椅子の上でどっしり構えているのが仕事さ」
「・・・ユピが外出させてくれないッス」
「あの子も心配性だからねぇ。誰に似たのやら」
「何で俺を見るッスか」
「んー、アンタは心配性ってよりかは臆病だモンねぇ」
「良いんスよ。臆病な方が生き残れるッス。この業界は生き残ったもん勝ちでしょ?」
「その通りだね」
まぁ他愛のない会話はさて置き―――
「んで、何が起きたんスか?装甲剥離?機関暴走?マッド達が何かやらかした?」
「全部起きないとも言えない状況だから何とも言えないが、しいて言うなら最後のが一番近いかねぇ。ケセイヤ、入ってきな」
トスカ姐さんがそう言うと、整備班とマッドの筆頭であるケセイヤさんが部屋に入ってきた。どうやら困った事とは彼が引き起こしたものらしい。
「よぉ艦長。具合どうだ?」
「ぼちぼちッス。で?なにがあったんスか?」
「いやよ?艦長が倒れる前に、人員不足を解消できる何かを作れ的な命令を出しただろう?」
・・・・・ああ!うん!確かにそんなこと朦朧としてたけど言ったぜぇ!
べ、別に忘れてたわけじゃないんだからネ!ホントなんだからネ!
「んでまぁ、一週間くらいあったし幾つか試作品を作ってたんだが―――」
要訳すると―――
試作品が逃げた /(^o^)\<やっばーい!
―――って事らしい。
んで監視システムも使って方々探したが見つからない上、人手がないから人海戦術も使用できないと来たもんだ。別に逃げだした試作品はそれ程強い力とか特別な能力がある訳でも無く、只単に手先が器用で色々と日常生活に役立つ程度・・・らしい。
なるほど、つまりはお手伝いさん的な何かを作ったは良いが、試作機が逃げちゃって困っていたってことなのか。確かにお手伝いさんがいれば、今乗り込んでいるクルーならより仕事に専念できるようになるよなぁ。
いやね、家族持ちも居るんだけど基本的に職場が職場だから、やもめとかの一人身が比率的には多いんですわ。書く言う俺もその一人だと思うとなんだか居たたまれない気分となってくる。おや、ケセイヤさんもそう言えば・・・同士よ。
「なぁにそこで熱い握手してるんだい?」
「いいえ、ねぇ?」
「なぁ?」
チョンガーにしか判らないことですよー。トスカ姐さん。
「ふ~ん・・・まぁいいけどさ」
「そんでまぁ話を戻すが、出来れば見つかった時知らせてもらえるように告知とかしたいんだが許可貰えねぇかな?」
「?別に俺から許可貰わなくてもいいんじゃないんスか?」
「いや、ほら。一応発案者艦長ってことになってるしな?」
「そう言った場合、あんたに全責任がある訳だ」
え~、これ以上責任取るとか嫌なんですけど。
「ふん、疲労で朦朧していたって言っても、アンタは艦長命令で指示したんだ。責任くらい持ちな」
「ま、こっちとしては色々できてありがてぇがな。それにその試作品だけに拘ってるってわけでもねぇしよ。他にも別系統で試作機はあるしな」
「え?じゃあなんで探そうと?」
俺がそう尋ねるっと、ケセイヤさんはウっと言葉を詰まらせる。
「そ、そいつはぁ~その~」
「じれったいね。なにが言いたいんだい?」
「まぁまぁトスカさん。でも理由はなん何スか」
「そのだな。作った本人だけに、愛着がな」
「「ああ~なるほど、マッドだ」ッス」
試作品といえども丹精込めて作った物。愛着の一つや二つくらい沸くよなぁ。
「まぁ良いッス。告知して見つかり次第対処することにしましょう」
「ありがとうよ艦長――でもまぁ、アイツこの居住区に居るなら、しばらくは活動限界は向かえないだろうけどなぁ」
「どういうの作ったんだい?」
「まあそこら辺は秘密って事で・・・ところで艦長。ずっと気になってたこと聞いていいか?」
「ん?何スか?」
「なんでずっと掛け布団を羽織ったままなんだ?」
おお、そう言えば―――
「いや、昨日ちょっとしたお客さんが来ちゃって・・・」
「それが?」
「―――見てもらった方が早いッスねぇ」
とりあえず羽織っていた布団を片手で下ろした。そこには昨夜の侵入者くんが今だに片手に噛みついていた。もっとも寝ぼけているからかアムアムと甘噛みになってたけどな。それにしても寝ていても齧るとか、執念凄すぎるだろう・・・。
「「なっ!?」」
「いやはや、まるで野生動物みたいで警戒解くのに苦労したッスよ。あとでデータバンク開いて、この子の両親を探そうと思ってたことッス。迷子だとかだったら――」
「いや、ユーリ。ソイツは迷子なんかじゃないよ」
「・・・・え?」
迷子じゃないの?密航者でもない?じゃあ、この子は一体だれなんさ?
トスカ姐さんはなんか驚きと呆れが入り混じった眼を俺に向けている。そしてケセイヤさんはというと――
「・・・」
「あの、ケセイヤさん?」
「デ、ディアナ~!!探したぞぉぉぉぉっ!!!!」
「―――ッ!!!?」
「うわっ、吃驚したッス」
突如大声を出して両腕を突き出して此方へと突進してきた。
なので思わず――
≪――ガスンッ≫
「イテェ・・・ヒデェよ艦長」
「いや、だって、俺男に抱きつかれる趣味ないッス」
野郎に抱擁されるのは、サッカーで日本が進出した時くらいで結構だと俺は思う。
「俺だってないわっ!俺が抱きしめたかったのはお前の後ろにいるディアナだっ!」
ケセイヤさんは掴みかかりそうなほどの結構な剣幕で俺に言うと、視線を俺の後ろに落とした。一方、俺のうしろでは――
「う゛~~~!!ぐるる!」
昨夜の侵入者――ディアナだったか?ディアナが髪の毛を逆立てる程にケセイヤさんに威嚇し、まるで俺を盾にするかのようにギュッと服の背中の部分を握っておられた。
―――まぁ、とにかくだ。
「トスカさん、説明プリーズッス」
「・・・はぁ、アンタといるとホント退屈しないよ・・・」
そ、そんなに溜息つかなくても・・・うう。おれは悪くないッスー。
***
Side三人称
さて、事情が呑み込めなかったユーリはトスカに説明を頼んだ。そして判った事は、ディアナはケセイヤが作りだした人員不足解消の為の試作品・・・という名の趣味の産物であったということだろう。
ユーリからの命令を受けた際、研究費用をほぼ無制限で使用する事が可能となったのだが、その時にケセイヤのマッドサイエンティストとしての血が騒ぎ、今まで作りたくても資金不足で作れなかった物に着手したのである。
そして完成したのはどんな環境でも動ける耐久力と手先の器用さと賢さと可愛らしさや癒し等、彼が持てるすべての技術と萌えへの欲望を詰め込んだ挙句に、コスト面を考えて常人の半分以下の身長、つまりは人形サイズで製造されたのがディアナという名をつけられた存在であったのだ。
なんと、この獣耳以外は人に見えるディアナという存在は、実はユピと同じ電子知性妖精の素体とほぼ同じナノマシンによる身体を備えた万能お手伝いさんだったのだ!
ΩΩ Ω<ナ、ナンダッテー
「な、なんだって試作がこんな可愛らしい子に―――」
「そりゃお前、一度作りたいと思ったら自重しないし、こんなこともあろうかと作るのが―――」
「ケセイヤさん、自重してくれッス・・・」
片手間に造った。というか片手間が本気だったのだが、とにかくこうして作られたディアナは色々と教育を施され、別途で作った他の試作品とのトライアルの末に量産(ケセイヤの考えではトライアルに負けようが関係なく決定)することになっていた。
「僅か一週間で作るとは・・・」
「マッドに不可能はねぇぞ!」
「威張ることじゃないだろうに」
「う゛~~!!」
だが、どういう訳か突然ディアナはケセイヤのラボがあるマッドの巣から逃げ出したのだ。そして逃亡して逃げ込んだ先が偶然にもユーリの家であったと言うのがここまでの顛末であった。
「しかし、ディアナはなんでこんなに警戒心丸出し何スか?」
「どうせまたケセイヤが変な実験でもしようとしたんだろう?」
「失敬な。大事な試作ちゃんにそんなことしねぇ!」
「じゃあ何したんだい?この子の威嚇する時の目。あれ尋常じゃない程怒ってるよ」
「・・・研究班の女性陣がな。コイツをお披露目した時に可愛い可愛いって言って着せ替えのおもちゃにしちまったんだよ。そりゃもうメイド服やら薄手のワンピースやら、眼福だったぜ」
「っ!!う゛~~!!」
「ディアナが怒ってるのってその所為じゃないッスか?」
「お、俺は参加して無いんだぞ?!着せ替え後を見せられただけだ!」
「この子頭いいッスから、本能的に誰がその集団の筆頭だか見抜いたんじゃ・・・」
「あ~、だったらケセイヤを嫌がるのもわかる気がするねぇ。嫌なことした相手の親玉は嫌なもんだろう?」
ケセイヤはOTLとなった。
「で、どうするッス?まさかこんな状態で連れて帰るって訳にも―――」
いまだに警戒心剥き出しでケセイヤやトスカに威嚇を続けるディアナを見て、ユーリは流石にこんな嫌がっている子をこのまま帰すのは気が引けた。だが、一応製作者はケセイヤなので彼は強く言う事が出来ない。
「・・・う゛ー」
≪――ぎゅ≫
だが、ユーリの心情を感じ取ったのか、ディアナはユーリの服をギュッと握っていた。心なしかディアナの頭に乗っている耳も不安そうに垂れている。
んで、それを見たユーリはと言うと、ドキューンという効果音と共に父性という心を撃ち抜かれていた。今のディアナの姿は庇護欲を誘う似には十分な威力を持っていたのである。
「う~ん、どうもユーリには懐いてるみたいだしねぇ・・・」
「ええーそんな~~!!ディアナ、こっち戻ってきてくれ~~!!」
「・・・(ぷい)」
「ディアナ~~(涙)」
「諦めた方がいいみたいだよ。他にも試作品はあるんだろう?」
「他のは可愛くないんです!可愛いは正義!」
「気持ちは判らんでもない・・ゴホン。どんなのがあるんスか?」
「ん~?ほらコイツらだよ!」
ユーリに質問され、ケセイヤは自分の端末を使い空間投影でこれまでの試作品を映した。そこに映されたのは趣味としてのディアナとは違い、仕事としての試作という無骨なものが多く映されていた。
どれもこれも人手不足を補うために、船内で作業する事を前提としていたからか基本的には人型であり、ターミネーター的なのやロビタの様なロボットまで様々である。そう言ったリストの中に、ユーリは唯一人型では無い物を見つけた。
丸いボディに折り畳み式の四本足。それはユーリが以前いた世界でとあるゲームに登場していたBALLSと呼ばれるオートマトン型ロボットであった。時折マッドは飛んでもない事をしてくれるが、まさかこれまであるとは思わなかったらしい。
BALLS、ボールズは自己を複製する工場を持ったロボットであり、まずは自分のコピーを次々と生産して小惑星などから資源を採取してさまざまな物と作り出せる。このボールズが居た世界ではこの機能により資本主義が崩壊したほどである。
なるほど、今まさに人手が足りないデメテールにはうってつけの存在だった。本当のBALLSとは厳密には違うのだろうが、コンセプトとしてはこのボールズも体内に工場を持つという点では同じであり、自分で増えることも可能という風に使用説明には書かれていた。
―――いまは他の部署の人手もそうだが、何よりも修理に回す人手が欲しい。
「・・・ケセイヤさん」
「おろろ~ん――ん?なんだ艦長」
「この30番目の丸っこいの採用。艦長命令」
「え、うえっ~~!?」
ケセイヤはおどろいて大声を発するが、ユーリとしてはこれは当然だと考えていた。現状ケセイヤが考えたと思われるディアナを含む人型達は流石に遊びが過ぎる。人手不足に人型アンドロイドを作って対応する。実に浪漫だ。面白いことと楽しいことを念頭に行動するユーリとしても是非賛同したいところ。
だが残念な事に、今のデメテールに浪漫を追求する余裕は残念ながらあまりない。生産性を考えるなら下手に人型やらにするよりかは、こう言ったオートマトンタイプの方がずっと建設的で合理的であると彼は判断したのである。現在修理材料は支出あっても補充はないのだから、小さく大量生産向きのボールズにするのは当然だった。
「あ、後増え過ぎない様に一定以上の数になったらそれ以上は増えない様にプログラム師といてくれッス」
「了解~・・・ってディアナはどうするんだよ艦長?」
話は脱線したが、ディアナをどうするかはまだ決まっていないとケセイヤは声を張り上げていた。ケセイヤとしても折角作ったディアナを大事に思っているし、色々と楽しい事( 着せ替えですよ?)等をして遊んでみたいのだ。
彼はマッドサイエンティストと周囲から言われる通り、欲望に忠実なのである。
「ん~、お前さんはどうしたいッスか?」
「・・・う゛?」
そう問われたディアナは賢い頭で考えた。少なくても目の前の奴は嫌なことをしなかったし、そんな気配を感じない。だがアイツ(ケセイヤ)のところに戻るのは嫌だった。アイツはなんだかあの嫌なことをしてきた奴らと同じにおいを感じるからだ。
――まぁそんな訳で、すぐに答えは出た。
「ケセイヤさんのところ、戻る?」
「・・・・ブンブン」
「じゃあ、こっち残るッスか?」
「こくこく」
ケセイヤのところには戻らない。ユーリのところに残る。
そうとれる反応を示した事でケセイヤはそんなーと滝のように涙を流す。
「だそうだよケセイヤ。あんたよっぽど嫌われてたらしいね」
「うう、ちくしょー!いいもんなぁ!俺はマシン一筋だもん!まだ開発費用使いまくれる期間は残ってるからディアナ型を他にも作っちゃるもんねー!!」
「ちょっ!?」
「じゃあな艦長!だいじにしてくれやーっ!!」
そしてケセイヤはそう叫んで、ユーリの部屋から飛び出し家から出ていったのだった。その眼には赤い水が流れ落ちていたらしいが、よく見えなかったのでユーリはスルーしたのだった。
「ふぅ、これで一応は一件落着かねぇ?」
「みたいッスねぇ。まぁ開発するにしても艦内なら資金は殆どいらないし、今のところ材料も有限だから、一定以上は無理何スけどね~」
「あんたも結構腹黒くなったもんだ」
「教育が良かったッスから~。ま、とりあえずよろしくなディアナ」
ユーリはそう言ってディアナを撫でようと手を伸ばす。
懐いてくれたと感じた為、これくらいなら良いだろうと思ったのだ。
だが―――
「う゛―――っ!!」
≪がぶりんちょっ!≫
「う、うわぁぁぁぁっ!!!」
「あれま。懐いてると思ってたんだけど違ったのか?」
「うーー!!」
「イテェッス!マジイテェッス!堪忍してー!!」
この後、ユーリの叫び声を感知したユピが乱入してユーリに噛みついているディアナを何とかしようとしてカオスったり、何故かユピに抱きかかえられたり撫でられたりすることには全く怒らないディアナのこの差にユーリが落ち込んだりしたものの、なるたけ平和に事は終わったのだった。
この小さなお手伝いさんがユーリ争奪戦に参加する事になるかは、神のみぞ知る。
「う゛!」
***
Sideユーリ
漂流を開始してついに2カ月が経過した・・・と書くと、宇宙船という密閉空間なんだから色んな不平不満が出てくる事態になって反乱する者が出て来そうだと思われそうだが、意外とそんなことはなかった。
航海に必要な物は最低限に直し、他の生命維持や生活に必要な方を優先的に直したので、生活する分には問題が起きなかったからである。あまり贅沢なことは出来ないが普通に暮らせるだけでも不平不満は低減されていくのだ。
もっともカシュケント出身のパリュエンさんが内政を取り仕切り、不平不満があまり沸かない様に調整してくれていたお陰でもある。元が商人だけあり、人の心を読み取りどういったモノが必要なのか見る目を確かに持っている。
―――って感じで航海日誌にしたためておいた。まぁ実際事実だけど。
さて、2カ月ちかく経過してこれまで内装を重点的に修理していたのが、今度は外装を重点的に修理するという方向に移行した。基本漂流なので不味復旧しないといけないのが航行システム、そしてエンジンだ。
ロストテクノロジー万歳なエンジンな為、完全な修理はまだ無理だが、少なくても動かせる程度には修理する予定である。といっても材料が足りない為、どこかに惑星かアステロイドベルトでも見つけないと在庫不足で修理できないだろう。
―――そう在庫不足、現在目下の問題は修理素材の在庫不足であった。
まぁアレだ。普段修理素材なんてのは空間通商管理局のステーションで無料で補充して貰えるのが普通・・・この世界の船乗りにとっては当たり前のことだったんだが、現在座標もわからぬ漂流の身。補充は期待できないので自前で探すしかない。
現在位置はどこであれ、マゼラン銀河圏以外にもボイドゲートはあるが、そこにステーションがあるかと言えば答えはNO。それに合わせてボイドゲートが稼働しているのか同化も考えると、多分よくわからんが相場だろうなぁ。
一応、不思議な力を持つエピタフがあればゲート動かせるらしい・・・けど、行き先が何処につながるか判らないから正直最終手段でしかないし、怖いからやんない。とにかく今は何でもいいから惑星がある宙域を探さないと不味いだろうな。
でも悲観的になっても仕方がないので、とにかく白鯨はデメテールの修理を続けていた。外壁がはがされたデメテールは何と言うか一回り小さくなったように見えた。実際第一装甲板を外した上、デメテールの船首付近に左右に出っ張っていた翼上の構造物をニコイチで修理素材にする為に削ったからだ。
お陰でちょっと船首部分が太いだけのスマートな外見となり、白鯨の名前っぽくクジラっぽいシルエットになったのは余談。もっともその所為で主砲の位置を調整しないといけないとケセイヤさんやサナダさん達が嘆いていたけど頑張ってくれたまへ。
ああ、それと前回人手不足解消の為に開発してもらったオートマトン達のお陰で工期が短縮出来た事も述べておこう。BALLS、いや色々と制限をかけたので劣化したからボールズと呼ぼう。このボールズ達のお陰で作業がはかどり、俺の負担も軽減した。
ボールズは見た目が絢爛舞踏祭のソレらとほぼ同じである。体内に工場まで持つ彼らだが、放っておくと際限なく増えて自己進化するらしいので、そこら辺は一定以上は出来ないようにプログラムしているのでしばらくは大丈夫だと思う。
とくに際限なく増える。一体でもいれば自己複製可能だというのがホントスゲェ。試しに残っていた材料で修理お願いしたら僅か半日でネズミ算式に上限の1万体まで増えて、残りの反日で全部の修復やってくれました。ボールズさんマジパネェッス。
ケセイヤさんも自分が作った最初の一体を偉く気にったらしく、何故か髭をつけて可愛がっていた・・・名前もグランパらしいッス。知類みな友達らしいッス。ただコイツらマッドと繋がると本当、できない事が無くなりそうで怖いね。
***
「う゛っ」
「ん、どうしたッス?ディアナ」
「う~!うっう」
「トスカさんが呼んでるッスか?あい判った」
「う゛っ!」
最近ディアナが何て言ってるか判る様になりました。ボディーランゲージと雰囲気だけどよく見れば何考えてるのかくらい判るぜ。ああディアナは結局俺んちに住むことになった。一応彼女は身体は小さくてもお手伝いさんの性能をもっている。だからハウスキーパーになってもらったのだ。
それを決定したらユピがなんか羨ましそうな目をしていたが、スマンが君はしばらく家に入れてやれない。この間の暴走は怖かったからな。勿論もうその事については別段気にしてはいない。怖いのは俺の義妹を含めたクルー達だ。まじめで優しいユピは意外と人望あるんだぜ。
遅れると怒られるので俺はすぐに支度して家を出る。ディアナも最近はすっかりお手伝いさんが板についたらしく、ちゃんとお見送りまでしてくれるようになった。もっとも頭を撫でようとするとがぶりんちょされるのは変わらないけどな。好かれてるのかそうでないのか、今一判らないなぁ。
………………………………
…………………………
……………………
「てな訳で呼ばれたのできましたッス」
「ああ来たね。とりあえずそっち座っとくれ」
「ういッス」
やってきたのはデメテールの航海艦橋だ。ここは簡単に説明すると指揮とか戦闘には直接関わることはないが、フネの行き先などを色々と決める上で大事な部署である。
「んで今回呼んだのは他でも無い。なんとか今の座標・・・というか“とても大まかな”現在位置が判ったんでアンタも呼んだってワケさ」
「おお、ついに判ったんスか・・・大まかだけど」
「ボールズ達のお陰で大分作業がはかどったからね。大まかだけどさ」
探査用のセンサー類がなんとか復旧したから、正確ではないけど位置はなんとか判ったんだよ。とはトスカ姐さんの談。なるほど、ついに復旧したのか。これで宇宙の漂流迷子からは脱出できるだろう。宇宙で漂流、バ○ファムかっ!って話だったしな。いや銀河漂流だったけ?
まぁとにかく、トスカ姐さんは足元でせかせか動き回るボールズに指示をだし、スクリーンに現在位置を投影してくれた。現在位置は恒星ヴァナージから離れることおよそ15パーセク。光年に直せば315光年といったところだろう。距離的にはマゼラニックストリームとも近く、エンジンさえ直れば到達は可能だ。
だけど問題はエンジン。前述の通り既に修理用材料が尽きつつある為、これ以上の修理は先ずできない。流石のボールズも材料がなければどうしようもない。とにかく現在残っている材料でのできる範囲での修理を続行し、修理素材がありそうな小惑星でも発見できたらけん引してくるように探査に出している艦隊に指示しておく。
あとは寝て待て。俺に出来る事は書類仕事くらいだが、なぜかボールズが整理したら今までのより減った。理由は知らんが好きな時間を怠惰で過ごせるのだし問題はない。というか今までのが多すぎたのだし、元々人手不足で俺に回って来ていた簡単な書類ばかりだからボールズが処理してもある程度は良いだろう。
そんな訳で、白鯨は漂流を続けながら哨戒と探査を兼ねた艦隊を何度か発進させて周辺の探査を続けた。大まかな位置は判ってもまだ安心できない。せめて宇宙港があるところまでいかないとマジでヤバいからだ。そんな折に探査艦隊は小惑星を発見、けん引してくることに成功する。やったね○○ちゃん、これで修理が出来るよ。
だけどそれで済めば桶屋がもうかる筈もない。小惑星の主成分は珪素、簡単に言えば石英系の結晶が8割を占め、多少のレアメタルを含んでいたけどデメテールの修理にはじぇんじぇん足りなかった。それならそれでもっと集めれば良いのだが、この広い宇宙で正確な座標もわからないのにおいそれと母艦の傍を離れる訳にもいかない。
せめてもう少し正確な位置が判るなら、それを基点としてI3エクシード航法による遠出も可能なのだが・・・このままデメテールから離れたら、通常の艦船はそのまま宇宙の藻屑になれれば恩の字といった末路を辿るだろう。大まかでは無くもう少し座標が判る物、マゼラニックストリームが視認できる位置まで行けるならなぁ。
ただし、マゼラニックストリームは現在暗黒ガスを挟んだの向う側らしく、デメテール側から観測ができていない。大まかな位置が特定ってのはあくまで15パーセクほど距離が離れたってだけで、ならX軸、Y軸とかそういった要素を含めてセクターのどこらへんかと問われれば答えることができないのだ。
宇宙はとてつもなく広いからねぇ、たった数ミリの誤差がこの距離だと数光年の誤差で出ちゃうから恐ろしい。それでも自分の位置と星図さえキチンと機能すれば迷子にはならないけどな。そんな訳で距離は判ったけどまだのろのろ行かなきゃならないというかエンジン修理終わるまでのろのろ行かざるを得なかったのだった。
***
トスカ姐さんとの話も終わり航海艦橋から出た俺は大居住区の商業区域に足を運んでいたのだが―――
「――やぁユーリ君、久しぶりだね」
「おろ?バーゼルさん!」
とても懐かしい人に出会いました。顔を見たのはクルーの葬式以来かな?これまでは仕事の所為で部屋に軟禁という缶詰だったから、本当に彼の顔を見るのは久しぶりである。というか、あれ?なんでここに?
「夕飯の買い物に来たらあうとは、偶然とは面白いものだ」
・・・よく見たら買い物袋下げてら・・・服装も軍服じゃなくて普通の格好だし。
「なんか、随分とここの生活に慣れたっぽく見えるッスね」
「そうかい?まぁ実際のところ、今はここから離れられないだろう?軍服じゃ周囲を威圧するだけだし、郷に従えとも言うしね」
なるほどねぇ。まぁそれなら仕方がないだろう。幾らインフラトン機関が無限に近い航続距離を出せるといっても乗員はそうはいかない。ウチみたく自給自足できる設備を持つフネは珍しいし、かなりの規模のフネかペイロードを犠牲にできるフネに限られる。
それに彼らのフネは軍艦であり、元より艦隊を組んで行動する事を前提としたセットアップがされている。戦闘用は戦闘用、補給用は補給用といった具合の役割分担されているのだから、0Gドッグのフネみたく何でも1艦で出来るという訳ではないのだろう。
だから艦隊を組まない場合、彼らの軍艦の航続距離は民間船にすら劣る。フネは進めるけど食料が尽きたら結局難破することになるのだから、近くにステーションがない以上彼らは白鯨の元から離れることは出来ないのは当然だった。下手に離れたら餓死するとかは流石に嫌なのだろう。
それにこのままだとMIA、戦闘中行方不明者認定されて、本国から家族へと残念ですがという封筒やら便箋やらが届けられ空っぽの小箱とか贈られてしまう。だから彼らもとにかく本国に帰還しないといけないのである意味必死である。故郷に家族を残している者ならなおさらだろう。
「そうスか、なんか不便なところはないッスか?あったらなんとかするんで」
「いや、大丈夫。生活面では問題はない。むしろここまでして貰ってもいいのかと思ったくらいだからね。ここは気楽に過ごせる良いフネだ」
「そういって貰えるのは嬉しいッス。ところでその手に持った袋は?」
「はは、恥ずかしい事に根っからの軍人でね。お陰でこの年になっても嫁ももらえん」
どうやら食料品などを買ったらしいね。お惣菜じゃなく材料というあたり、彼はどうやら結構家事スキルがあるようだ。まぁ軍人で一人暮らしなら出来無くないだろうけどさ。なんかイメージあわねぇーなぁ。
「ただでさえ厄介になっているからな。少しでも負担は軽くしようと出来ることは自分たちでしているだけなんだ。哨戒に出るだけで食事が貰えるとは思ってないのさ」
「いや、でも客分なんだし・・・」
「0Gにも矜持があるように、僕らにも軍人としての意地があるって事」
「ああ、なるほど・・・出来るだけ修理は急がせるんでご心配なく」
「そうしてくれると助かるよ」
そう言えば哨戒艦隊の中にバーゼルさん達のフネが混じってるのが報告に上がってたっけ。まぁ使える物は何でも使えの状態だったから今のところ問題にはなっていないけど、このままだと正規軍を顎でこき使っちまったっていう事になるよなぁ。そう意図として無くてもそういう事実が出来ちまったのは痛い。
これはなんとかせんといかんなとも思いつつ、さりとて変なことは出来ないと来たもんだ。おまけに彼らは、アイルラーゼン人は義理がたいらしく、客分として大人しくしていて欲しいという思惑にはハマってくれそうもない。かと言って無碍にも出来ないというなんとも文字通り厄介な存在だった。
「ああ、あと聞いてるかも知れないッスけど、現在のデメテールがどれだけマゼラン銀河圏から離れてるのか判ったッスよ。15パーセクらしいッス」
「15パーセクか・・・艦隊を組めれば目と鼻の先なんだけどなぁ・・・」
「あいにくまだI3航法が使えないッスからねぇ」
「こっちも艦隊を組まないとその距離はムリだし、現状維持が関の山かな?」
「せめて通信が出来ればよかったんスけど、何分アイルラーゼンまでは距離があり過ぎてウチの設備でも無理ッスからねぇ」
実のところ、ボイドゲートが使えないとインフラトン機関とI3エクシード航法を使用するフネでも動ける距離は恒星間が関の山。前述通り人が耐えきれないからだ。それにボイドゲートってのがまた便利で、どれだけ距離があってもタイムラグ無しで別のゲートから出て来れるのだ。
そりゃフネの設備もそれに似あった物にもなるってモンだ。恒星系を移動できるほどの航続距離さえ持たせればいい訳だし、まぁ俺の元居たところじゃそれすらもオーバーテクノロジーだけど、ここではそれが当たり前。必要がなければそれ以上の変化が起こる筈もなく、結局はそのままって感じなんだろうな。
「ま、気を落とさんと頑張りましょう。まだ生きてる訳だし、生きてれば連絡の一つや二つくらいすぐに出来るッスよ」
「そうだな。おっと、午後からまた哨戒に出なければならないからこれにて失礼するよ?」
「なんか不都合あったらなんでも言ってくださいッス。出来る限りは善処するんで」
「ああ解った。その言葉だけでも貰っておくよ」
そう言ってバーゼルさんと別れた後、俺も俺でここいらで飯食って帰ろうかと思った。大居住区でも店舗が集中している区画だし、飯を買うには事欠かない。肉類は現在補給がないので少ないが、水産施設で魚や小型のクジラみたいなのを生産しているので今のところ嗜好品以外は普通に食べれるのだ。
だがいざ買おうかと思った時、そう言えば家にはお手伝いさんが一人いたことを思い出し、買うのは止めて帰ることにした。はぁ、早いところ人がいる星系にでも行かないとなぁ、まぁ待つしかないから寝て待つことにでもしよう。果報は寝て待てってね。
―――そうだ日誌でも書こう。艦長と言ったら航海日誌だよな。
***
Sideユーリの日誌より
―――漂流開始5カ月目
漂流を開始してすでに5カ月近い時が流れた。兵糧は底をつき少ない食料を求めて日々暴動が―――なんてことは起きず、キチンと農作業してた所為か豊作となる。まさかの無重力栽培による4mスイカが出た時は度肝を抜かれた。
あと環境設定がすぐに出来るからかとれた作物に一貫性が無く、四季折々の作物が全部出て来ちゃったから風情の欠片もねぇ。3mのカボチャパイが出てきた時は正直苦笑いした。どんだけ食糧できてるんだ?ちなみに農作業はボールズがやってくれました。
―――漂流開始6ヶ月目
さすがにこれ以上留まるのは不味いと判断したのか、バーゼルさんが本国に帰還したいといってきた。バーゼルさんの部下たちからの立っての希望だったらしい。だが今だ漂流するしかないデメテールとしては、それは容認できない話だった。
だけど、彼らは本気だったらしくこのままでは格納庫吹っ飛ばしてでも出ていきそうだったので、仕方なしに大型輸送船に食糧と水をたっぷり積みこみ、これまでの迷惑料として渡して譲渡したら何故か逆に恐縮されてしまった。
そんでしこたま感謝されて彼らを見送ることになった。送迎会では皆羽目を外して飲んで騒いで爆発したのでまぁまぁ楽しかった。野球拳教えたらトスカ姐さんが20人抜きして死屍累々が・・・しかしバーゼルさん流石は軍属、隠れマッチョだった。
まぁ実を言えば既に2か月前にはセンサー類が復旧して正確な座標はある程度絞り込めていたので、彼らがこういう行動を起したのは渡りに船だったんだけど・・・この事は日誌の中にだけに留めておこう。
―――漂流開始7カ月目
補機を使ってエッチラオッチラ進んでいたら、探査に出した艦隊が資源となる小惑星を発見する。運が良かったのか大量のレアメタル等を含有する鉱石が多数内包された小惑星で作業用メカを全部出して採掘にあたらせた。
その日の内にこれまで負荷をかけて少々お疲れ気味だった補機の修理が終了する。主機はちょっと材料が足りないので、まだまだ時間がかかることが懸念されたが、俺達は0Gで別に急ぎの旅じゃないし、食料は仰山あるのでのんびり行く。
久々に海賊を見た。船種はバーゼル級の母体となった全時代のフネをそのまま使用しているらしく、性能はインフラトン機関搭載船に遠く及ばない。一隻だけだったので偵察かもしれなかったが・・・材料ウマー。
―――漂流開始8ヶ月目
漂流して8ヶ月目、なんとか比較的大きな星系に辿りついた。この間の海賊はこの星系から流れて来たらしい。ただこの星系はマゼラン銀河圏の宙図には乗っていない為、通商管理局のステーションやボイドゲートすらない結構ド田舎だった。
航路も途絶えて久しく、自治領だけが小さな箱庭のように発達した星系だったらしい。独自の文化は0Gの好奇心からすれば魅力的だったが、どうやら内紛真っ只中に来てしまったらしく、自治政府VS海賊による前面戦争が勃発していたので接触は諦めた。
ただ修理はしたかったので、自治領政府が海賊退治に必死だったのをいいことにステルス用いてすぐ近くのガス惑星の軌道を巡るリングの中に隠れた。戦場に近いことが難点であるが裏を返せばジャンクが集まりやすい場所でもある。
ステルスを施したフネを何隻か作り資源の回収にあたらせることにした。もしもどちらかに見つかっても全時代のフネを使っている彼らにやられる様なヤツは俺のフネにはいないので大丈夫だとは思う。
でも心配なので科学班に護衛用としてVFの開発を進めることを指示しておいた。周辺のリングから資源を集められるので材料には事欠かないだろう。いい加減修理以外のこともしたかったのか、科学班や整備班は快く引き受けてくれた。
あとガス状惑星はそのままでは人が住める場所ではないが、色々と資源としては解析の結果有用だと判っていたので採掘ステーションを設置、しばらくはこの星系に留まり修理を行うことになる。
―――漂流開始10ヶ月目
ガス惑星に設置したステーションとプラントが稼働を開始。一定条件下で結晶化するフネのレーザー発振体やエンジンコアのベースマテリアルの一つである特殊鉱物フェムトクリスタルを生成できる成分が含まれていたのは僥倖だった。
これで多少日数は掛かるが艦内工廠で特殊な材料を生成していける。デメテールが復活するまで後少しだ。ドンドン作業が早まる気がする。そしてまたしてもボールズがデメテールの艤装を一日でやってくれました。パネェ。
―――漂流開始1年
漂流を開始してから大体1年が過ぎようとしていた。信じられない事に何故か人口が増えつつある。原因はやはりあの戦闘の後の興奮冷めやらぬ空気によって・・・まぁ色々あったんだろう。
プライベートでなにしようと別に構わないんだが、まさかこんなにベビーラッシュが増えるとか予想外でした。産婦人科の医者が足りず、何度も出産を経験している人が産婆さんをしてくれたのでなんとかなった。
・・・ボールズの需要がさらに高まった。
―――漂流開始1年と2カ月
なんとなく宴会をした際にバレンタインの話をしたら、部下たちの間で何故か広まってしまった。あちこちの店舗からチョコレートが消失してリア充シネという思念が込められたであろう藁人形が自然公園のあちこちから見つかった。
ちなみに藁人形のことを教えたのはぼくでーす。そしていま絶賛身体が重たいんだが・・・祈祷師みたいなこと出来る人、誰かいないか?と漏らした所、ミューズがなんか出来たらしい。何と発音しているかわからなかったけど効果はあった。
次の日色んな部署で結構欠勤者が増えたらしいが、人をのろわば穴二つという言葉を贈呈しておきたいのを堪える身にもなってくれ。もっともこの件に関してありがとうの意味を込めてミューズをハグしたところ別な方面から殺気が・・・生きた心地がしなかった。
―――漂流開始1年と4カ月
主機関についての新しい報告が上がってきた。どうもヴァナージ戦役においてデメテールが離脱できた原因は相似次元機関に接続されていたとある装置にあったとの事。その装置の正式名称は不明だったけど、どういう効果があるのかが判明した。
効果は単純、相似次元機関の力を一時的に増大させて相似次元、俗に言うと通常次元とは違う次元の隙間を抜け、フネが進む直線状における任意の座標にワープアウトできるという・・・簡単に言えばワープ装置だった。
・・・だけど今更過ぎる。インフラトン機関ですら順調に加速すれば最大で光速の876倍にまで加速でき、その際には相対論的時間のギャップであるウラシマ効果を調整する為に、子宇宙を現宇宙に形成して駆け抜ける・・・これもワープだ。
しかもこの装置、直線状だけしか使えない。瞬間的な転移みたいなもので瞬発力こそあるが、インフラトン機関も搭載してるのになんでこんな装置が・・・いや、まだ全貌を解明した訳じゃないらしいから・・・きっと、めいびー。
でも直線だけとか、どこぞの女子中学校に配属された子供先生が主役の漫画に登場する直線距離だけ加速できる某技みたいな微妙さ・・・大丈夫、きっと報われる日も来ます。もっと色々と解析を続けてもらう様に指示をだしたのは言うまでもない。
ちなみにこれ、ウラシマ効果の調整は付いていません。ちょっと外と時間ずれてるかも知んない。まあたったの数時間未来に来ただけだけどね。
―――漂流開始1年6ヶ月目
・・・正直書くことがない。修理は整備班と科学班任せだし、戦闘はここの紛争には介入しないと決めたから戦闘もない。毎日の書類は以前ほどの量では無いので一時間もあれば終わる・・・暇すぎる。
このままでは半分自宅警備員・・・これじゃ艦長として不味いだろうと何時ものように散歩に・・・あれ?艦長の仕事って、書類と戦闘なければ殆ど無くね?ああダメだ職業艦長趣味は遊び人とか洒落にならない。
仕方ないのでデメテールが復帰するまで重力制御室で白兵戦訓練ロボで身体を鍛えて、頭も鍛える為に戦略シミュレーターを利用しまくることにした。勿論最初からハードモードでやるのはお約束、結果惨敗。いたひ。
最初からハードモードは無茶過ぎた。全身ボロボロで杖を付きながら家に帰り玄関で動けなくなりかけるが、なんかディアナが心配でもしてくれたのかポンポンと撫でてくれた。ちょっぴり感動した。だけど撫でさせては貰えないのが悲しかった。
―――漂流開始1年8カ月
フネの修理がここまで時間が掛るものだとは思わなかった。専用のドッグがないと本当に時間が掛る。ボールズでもロストテクノロジーさんのエンジン関連には手が出せなかったのも時間が掛った原因だろう。
もっともそれももうすぐ終わる、なんとかエンジンの修理が終わりそうだと報告を受けたのだ。これでこの宙域からも脱出できると思う。あとは大マゼランまでいけばいいのだ。ああ、これでまたスリルある0G生活に戻れるのだと思うと目頭が熱い。
ところで今日はキャロ嬢が遊びに来ていた。仕事の合間に手作りのケーキ作ったから試食よろしくと言われたのは結構嬉しい。とりあえずケーキはうまかったという事は述べておこう。ただワンホール二段重ねはやめてほしい。
残りは他の知り合いにおすそわけしておこうと心に決め、台所から戻ってくると何故かキャロ嬢はまだ居た。そして何か期待した目で此方を見てくる。食べた時にすでに美味しいと言ってあるから言葉が欲しいのではないだろう。
だとするならば、することは一つ。折角だから、俺は彼女の金糸の髪を撫でてやるぜ!何と無くであったが正解であったらしく、撫でるごとにキャロ嬢は嬉しそうに目を細め、屈託のない笑みを俺に向けていた。
なんだか愛おしさを感じたので、撫で続けていたら物陰に見たことのある銀色の髪が見えた。ディアナだった。何故だか知らないが機嫌が悪そうにかキャロ嬢を撫でる此方を見ている。
もしかして意外と仲がいいキャロ嬢と仲良くしている俺が気にくわないのだろうか?とか考えていたらディアナが何処かに連絡を入れている。一体何だろうかと思いつつキャロ嬢とじゃれあっていると、何故かユピが乱入してきた。
ディアナの交友関係は女性陣を中心に結構広いとは思っていたが、なんでキャロ嬢といるだけでユピを呼んだのだろうか?何故かキャロ嬢は♯を浮かべたユピに引きずられて部屋から退散してしまう。その直後ディアナに頭を齧られた。理不尽だった。
***
Side三人称
そして2年が経過し、ほぼ完全に修復されたデメテールは大マゼランへと向けて発進した。漂流では無いちゃんとした航海、活気立つクルー達。そんな彼らを束ねながらユーリはこれまでの航海日誌を読み返し、艦長席にもたれ掛かりふと溜息を吐く。
「―――ふう」
「おや?どうしたんだい溜息なんかついて?」
「いやぁ、ここ2年間の日誌を読み返したら結構懐かしい話が書いてあったんスよ」
「まぁようやく大マゼランに辿りつけたからねぇ」
「使えるフネを見捨てるわけにもいかなかったし、なんとかここまで来れただけでも恩の字じゃないッスか」
よみがえったデメテールは前とそれ程変わった訳ではない。だがこれまで長く宇宙を旅してきたクルー達の技量は総じて高く越えるのが大変と言われたマゼラニックストリームをなんとか抜けることが出来たのだ。
クルーの中に何度か大マゼランにまで行った人間が居たというのも大きい。カシュケントでは長老クー・クーを利用されない為に、クーが全ての航路を知っていると言ってヤッハバッハを追い返した。
だが、大マゼランと貿易をしている以上、クー以外に大マゼランへの航路を知らない人間がいないとは思えない。案の定、大マゼランへと行った人間はクルーの中に確かにいたのである。
とはいえ、例えそうであっても道のりは険しかった。フネを修理してマゼラニックストリームのガス流を突破してあと少しで大マゼランに到着する。ここまで2年も掛かったのだから―――
「とりあえず、大マゼランはどんな所か見て回りたいッスね」
「ま、大小の国がひしめき合ってるんだろうけどねぇ」
「良いじゃないッスか。俺大マゼラン来たことないし、はやく見てみたいッスよ」
「若いねぇ。ま、気持ちは判らんでも無いか」
「トスカさん、その言い方は――いえ、何でも無いッス」
その所為か若干浮かれていた彼は、途轍もないミスを犯してしまう事になる。
「艦長、間もなく大マゼラン圏に入ります。空間通商管理局のステーションと連絡が付きました」
「おっし!それじゃあ俺はすぐに上陸準備に掛かるッス!」
「ちょっ!艦長の仕事は!?」
「一番最初に上陸するのは俺だー!!」
そう言って彼は艦橋から飛び出し、ステーションへと向かう艦隊に乗りこんだのだ。だが彼はこの時忘れていたのだ。自分が今、大マゼランではどういう立場なのか、そして大マゼラン星系の政府はヤッハバッハとの戦いをどう考えていたのか・・・。
「―――っ!?緊急連絡!?副長!艦長からです!」
「なんだって!?繋ぎな!」
居残り組のトスカの元に、突如ユーリからの緊急通信が入る。
『逃げろ!いそいでこの宙域から離れるッス!』
「ユーリ!何があったんだい!?」
『降りた途端軍に――とにかく逃げろッス。俺達の“知っている”ことは連中には邪魔―――ちょっ!ガス弾きたこれゲホッゲホっおえー!』
「ユーリ!」
『―――うわっなにをするっ!?話さないとぶっ飛ばすアヒンッ』
映像が横倒しとなる。通信を送ってきたユーリが倒れたからだった。そして通信に写ったユーリを何名もの人間が取り押さえたところで通信が切れる。
「通信、途絶――っ!こちらに接近する艦隊を補足。かなりの数です。インフラトン粒子戦闘濃度にまで上昇中。戦闘機の発艦を確認」
最悪の事態だった。まさか上陸した途端捕まるとは誰も思わなかったのだから。必死な思いでここまで来たというのに、この理不尽な仕打ちはなんなのだ。トスカは憤慨している自分の心にふたをして、どう動くべきか頭を働かせることに意識を集中する。
「トスカさん!艦長を助けないと!?」
「・・・いや、撤退するよ」
「どうして!?トスカさん!」
「艦隊は全部ステーションにいる。丸裸なままじゃいい的だ」
「いやです!艦長を見捨てては!」
「状況を見るんだ!すでにユーリは捕らえられちまった!ユーリが逃げろっていっただろう!」
「でも、でも・・・」
「堪えるんだ。あたしらが逃げ切れれば幾らでも奪還のチャンスはある。今はとにかく逃げるよ!ステルス稼働!EA・EPを最大稼働!機雷散布!」
―――こうして、ユーリは囚われの身となった。どうなる白鯨?
・・・・To Be Continued.
……囚人編が見つからない(´・ω・`)