【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 囚人編5~7

Side三人称

 

 

 ■監獄惑星エーテルナ・宙域監視室■

 

「ふ~んふんふんフフフ~ン」

 

 宙域監視室、そこは監獄惑星に近づくフネを逐一監視する部屋である。とはいえ監獄惑星に近づく馬鹿なんてそれ程多くないので、今日も今日とて監獄惑星に物資を運びこむ輸送船以外、レーダーに映ることはない。

 

 監視室務めのレーダー手は今日も鼻歌を歌っていれば業務が終わるだろうと考え、売店で何買おうか脳内リストを組み上げていた。ああそう言えば今度の補給で酒が入るだろう。良し、ハリレイク星のスルメを片手に一人で宴会だ。

 

―――……ジ…ジジ……

「うん?」

 

 そんなことを考えていた彼だったが、突然レーダー画面がぶれたことに気が付き、慣れた手つきでコンソールを操りシステムチェックを行い恒星フレア情報を呼びだした。データ上では、今日は晴れ(太陽風フレアは発生しない)システムの故障もない。

 

「どうした?」

「いや、なんだろう?機械の故障か?」

 

 機械の不調は古い機材を使っているからかよく起こる。バンバンと斜め45度で画面を打ちすえると画像が元に戻った為、レーダー手は良し直ったと考え再び物思いにふける。それが彼らの日常であった。

 

 だがもし、この時レーダー手がレーダー画面をキチンと見ていたのなら見えた筈だ。移る筈のないとても小さな陰が、レーダーに写っていたということを。

 

 

監獄惑星エーテルナ・周辺宙域

 

「――……ECMポッド散布完了。ジャマー正常に作動」

 

 僅かなデブリが浮かぶちょうど惑星を挟んで恒星から反対側の陰ゾーンに単機で展開した超高速戦術偵察航宙機、通称スーパーシルフが一つのデブリに寄り添うようにして浮かんでいた。

 

センサーブレードを展開した本機は僅かな電子音を発しながらただ静かにそこにある。だがヒトの眼には映らない電子の世界において、本機はタダの電子戦機を遥かに超える処理速度で監獄惑星に浮かぶ監視衛星のデータリンクを掌握していた。

 

当初は監獄惑星と聞かされていた為、厳重な監視システムが張り巡らされていると思っていた複座機のコパイ(副操縦士)は、あまりにも簡単すぎることに感嘆の息を漏らす。

 

「なんとも、緩みきっているな。」

「楽が出来ていい。コイツもそう言っている」

 

すでに8割方掌握したスーパーシルフはその役目を潜入と監視から欺瞞情報散布へと切り替えていた。これにより次の定時連絡までの2日間、エーテルナは宇宙の孤島と化す。たかだか監獄惑星に対しては異常なことである。

 

だが例え異常と言われても、彼らにはやらねばならぬことだった。

 

「全衛星システム掌握完了」

「了解――こちら特殊戦2番機、敵電子システムの掌握完了」

『此方でも確認した。これよりトランプ隊を発進させる。貴機は彼らと合流しつつ戦術偵察と電子データ収集を行え』

「2番機了解。移動を開始する」

 

 そう言うと機長は通信を切った。そして機器を操作して、これまで最低限の電力しか動いていなかった機体に灯を入れた。

 

「――ん?」

「どうした」

「どうやら奴さんらようやく気が付いたらしい。APか…いやこれはまだシステム走査か…奪われたシステムにどうにか侵入しようとしている」

「防壁展開、サブストラクチャ起動」

「了解、敵アンダーデコイにシフト、デコイに切り替える」

 

 スーパーシルフの電子機器が薄く発光しシステムが活性化する。己が異界の地で構築した砦を奪い返そうと躍起なる相手を電子の海の中で圧倒していく。ついにはウィルス爆弾で初期化を図ったが、ウィルス送信前にシステムのオーバーロードを起させたシルフにより初期化が失敗した。

 

「敵さん大慌てだ」

 

 副操縦士は躍起なってアタックをしかけてくる監獄惑星からの電子攻撃を面白そうに笑う。電子戦に特化した妖精の機体はその尋常ではない処理速度で文字通り相手の走査を煙に巻いていた。システムが掌握されていることに気が付いた監獄惑星から救難信号が発信されるが、それらはすべて事前に散布したECMポッドで拡散され近隣星系まで届くことはない。

 

 スーパーシルフは速度を上げ、VB-6TC(兵員輸送型VB)と新鋭機VF-11を引き連れた隊長機のRVF-0 Sw/Ghostフェニキアの元へと合流した。他の宙域に展開していた他のスーパーシルフもあつまり、全機欠けていないことが判ったところでトランプ隊はエーテルナへと機首を向けた。

 

『白鯨所属の各機に次ぐ、エーテルナへの降下作戦を開始せよ。全火器使用自由』

 

 ププロネンから全編隊へのGOサインが出る。それを合図に次々と各編隊が一糸乱れずにエーテルナを目指し加速していく。スーパーシルフを駆る特殊戦闘偵察隊もそれに追従しつつ、監獄のシステムが奪い返されないようにセンサーブレードを全開にしたままトランプ隊の後に付いた。

 

―――それから少しして先発の部隊が監獄惑星の武装衛星と接触する。

 

「おっぱじめやがった」

 

 前席の操縦士がエーテルナ方面を見つめつつそう漏らした。後席の副操縦士の男も狭いコックピットの中で器用に首を動かすとエーテルナの方を見据える。監獄惑星はまだビー玉サイズだというのに、そこで開かれた戦端は彼らの居るところからでもハッキリと視認出来た。

 

ミサイルが火球となってあたりを照らし、凝集光が敵を焼きながら空間を埋め尽くす。特殊戦によりシステムのアクティブリンクが切られた状態にあった武装衛星は、事前の手順に従い防衛線を突破した機体目掛けてレーザーを照射。旧式ながらも艦船を撃沈せしめる威力があるレーザーだったが、小型で俊敏なVF達を捕らえることはできない。

 

VFたちはレーザー発射の傾向を捉えると、各機が各々の判断で一斉に散開。乱数加速をとりつつジグザグに飛び込んでいく航宙機に対し、武装衛星は手順通りミサイルによる飽和攻撃を開始する。武装衛星から切り離された大型コンテナが自律巡航し、VF隊のすぐ目の前で炸裂。視界いっぱいに大量の子弾ミサイルをばらまいた。

 

VF隊であっても飽和攻撃はかわせないと判断した機から減速していく。だがその中で最古参の傭兵部隊トランプ隊は一気にミサイルの群目掛けて加速していった。ミサイルのセンサーが加速したトランプ隊を最脅威と判断し、一斉にそちらに目掛けてミサイルが押し寄せていく。

 

 命中まで後十秒、減速も回避も間に合わない位置にトランプ隊は進出していた。だがトランプ隊は全く動揺せず、全機一斉に戦闘機形態から人型機動兵器形態へと瞬時に変形。その直後殺到するミサイルへと大量の弾丸とレーザーとマイクロミサイルが発射された。

 

 殺到した所為で密集していたミサイルはその攻撃で一斉に誘爆。宇宙に咲いた火球の中をトランプ隊は減速することなく潜り抜けていく。操作を一瞬でも間違えばたちまち火球の仲間入りだというのに、その機動に迷いは一切なくむしろ魚の群と戯れて楽しんでいるかのように感じられた。

 

 一機も欠けることなくトランプ隊がミサイルの群を突破した後には、誘爆を免れたがセンサーがいかれて迷走する弾頭のみ残される。それを後続にVF-11たちが排除しながらVB-6TCの為に道を作り上げていく。その動きは精練された機械ではなく、生き物のように有機的な動き。部隊全体が一つの生物として動いていた。

 

そんな彼らの後を追う様にして、武装の少ないスーパーシルフ達がその様子を遠距離からカメラで捉え続ける。情報の収集が彼らの仕事だった。

 

「ヒュ~、流石はエース部隊。カスタム機を許されているだけはある」

「――第一陣が大気圏に入った。自律タイプ武装衛星は約8割破壊完了。俺達も監視の為に移動を開始する」

「了解(コピー)……上手く回収できるといいな」

「やってやるさ。その為のシルフだ」

「上等――行こうぜ!」

 

 そして交戦を記録し続けたスーパーシルフ達もエーテルナ衛星軌道上に展開し、そこから強力なECMにより監獄惑星メインシステムをクラッキング。完全にシステムを乗っ取られ囚人データを奪われたエーテルナ囚人管理棟は降下してくるVFやVBを見上げることしかできなかった。

 

 監獄惑星エーテルナはトランプ隊到達後、僅か2時間で完全制圧された。彼らは監獄所長へ収監されていた一部の囚人の引き渡しを要求。元より戦う力など殆ど無い監獄惑星収容所は要求に応じ、指定された囚人をVB-6TCに乗せて黙って彼らを見送ることになった。

 

 監獄惑星側の被害は全システムダウンと通信網の破壊及び自律した武装衛星の全破壊。それとこの混乱に応じた一部囚人の暴動などにより、監守数名が怪我を負うが幸いなことに死者は出なかった。暴動は定時連絡が途絶えてから3日後に派遣された救援艦隊が到着するまで続いたが、所長が管理棟のシステムを最優先で復旧させたことで被害を抑えることに成功する。

 

この監獄惑星を襲撃した集団は当時監獄惑星に務めていた所員が趣味で持っていた光学式カメラにより密かに記録されており、救援艦隊がそのデータを持ちかえったことで襲撃犯の正体が明らかとなった。襲撃者は指名手配中の白鯨艦隊。理由は襲撃者の使用した機体及び彼らが要求した囚人は、捕らえられていた彼らの仲間だったからである。

 

それによりエンデミオンにある全監獄惑星の警戒態勢の引き上げが行われる。かくして小マゼランでは海賊狩りの英雄だった白鯨艦隊はタダの指名手配から一転。監獄惑星襲撃を行った“海賊”として大マゼラン銀河へと指名手配されていくことになった。

 

―――そんな中でも、銀河の煌めきはただ光を放つだけだった。

 

 

***

 

 監獄惑星ラーラウス・管理棟所長室

 

「―――乱闘騒ぎでの負傷者は囚人側で698名、その内乱闘の原因となった派閥の代表者は26名で全員拘束し、所長の指示通りに全員ばらばらに惑星上の収容所に分散させておきました」

 

 部下が読み上げる報告を興味が無さそうに気だるげに聞く男。その男はこの惑星ラーラウスにおいて一番の権力者である所長である。名をドエムバン・ゲス。かつてユーリ達がカルバライヤの保安局と協力し捕縛した元監獄惑星ザクロウ所長の弟である。

 

「――……で、何人が“手紙”を出したんだ?」

「はい、26名中半分の8名です。合計はそちらに―――」

 

 そう言って渡された書類を見たドエムバンはニヤリと嫌らしく笑う。書類にはいくつもの0が付いた数字が羅列されている。それは手紙に同封されたマネーカードデータの総額であり、それがかなりの金額であったため思わず笑みが漏れたのである。

 

そう、手紙とは所長あての賄賂のような物であり、長年ラーラウスにいる囚人なら誰しも知っている問題解決の手段であった。

 

「しかし、あのクソ野郎はつかまらないか……」

「はっ?」

「ンん、なんでもない。もう帰って良いぞ」

「わかりました」

 

 部下が出ていくと、ドエムバンはフンと息を吐き行儀悪く両足を机に投げ出した。

 

「――……獄舎全体を巻き込んだ派閥闘争でも起これば、この機に乗じて色々するかと思っていたが……あのクソ野郎は頭のできが以外と良いみたいだな」

 

 そう言って机の上に乗せていた足を退ける。足の下には一枚の書類が置かれており、どうやら囚人のプロフィールのような物らしい。

 

「……兄貴を嵌めたテメェは、絶対ここから生かして出ていかせやシネェ」

 

―――そして書類に記された写真、そこには新人囚人ユーリの名が記されていた。

 

彼の名はドエムバン、監獄惑星ラーラウスの所長、そしてユーリ達の活躍によって逮捕された監獄惑星ザクロウ所長ドエスバンの弟。兄を失脚させたユーリを目のかたきにして痛い目にあわせたいと願う男だった。 

 

「所長ッ!」

「うおっ!?なんだいきなり暴動でも起きたか!?」

 

 突然入ってきた所員に怒りを覚え怒鳴りつけようとするドエムバン。

 

「そ、それが、本土からこんな通信が!」

「あん?どれどれ―――」

 

 だが、それも所員が持ってきた通信内容により、意気消沈した。通信の内容は監獄惑星エーテルナが襲撃を受けたということ。これにより一部の“特別(アドホック)”な囚人が脱獄したため各監獄惑星は警戒レベルを上げ警戒を厳にせよという本国からのお達しであった。

 

「ふ、ふざけやがってェェェェェェェェェェッ!!!!!」

 

 突然の事態にドエムバンはわなわな震えながら通信文書を破り捨ていら立ちを隠さずに雄叫びのような声で怒鳴り散らした。通信文をもってきた所員が怯えた目で彼を見ているがそんなことはお構いなしだ。

 

彼はただ気にくわなかっただけだ。捕まっているのに諦めもしない下賤な0Gドックがうろちょろしているということに我慢がならなかった。すこしして切れた息を整えてから彼は口を開いた。

 

「――……コイツを知っているヤツは?」

「えと、私と通信室の人間だけです」

 

 その答えにドエムバンは二重あごのたるんだ肉をつまみながら思考する仕草をとる。

 

「緘口令だ」

「……は?」

「だから緘口令だ。この通信文の内容は絶対に漏らすな。漏らしたら給料は9割カットだと思え。警戒レベルの上昇は……あー、警戒週間とでも名打っとけ。判ったな!」

「は、はいー!!」

 

 ドエムバンがこの警告文を発表しなかったのには訳があった。ここで下手に本国に救援を頼んだりすれば、それが逆に敵を呼び寄せる結果を生んでしまうと彼は考えたのだ。なのでこの件に関して過剰な反応を取らず、あくまで平常を装い時間を稼ぐという道を彼は選択する。

 

 どうせ相手は一介の0Gなのだ。それも文化的にも技術的にも遅れていた小マゼラン出の。だから本国がキチンと警戒すればいずれすぐに追いつめられる。俗物でしかない彼はそう考えて、再びこの襲撃者の親玉であった男をどう料理してやろうかということに思考を埋没させていった。

 

 もっとも後日何故か保管せよと本国から通達され受け渡されたフネが自分が目の敵にしていたヤツが乗っていたフネだということを知り、少しあわてたのは余談であった。

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

■第801坑道■

 

「う~、鉱石鉱石~」

 

 いま鉱石を求めて全力疾走している俺は、何故か収監されているごく一般の0Gドック。しいて違うところをあげるとすれば、艦隊の艦長をしていたってとこかな~。名前はユーリ。そんな訳でつるはし片手に鉱山へとやってきたのだ。

 

 ふと、坑道を覗くと、掘り出したであろう鉱石の上に一人の若い男がすわっていた。

 

―――ゆらり ゆらり 揺れている 漢(おとこ)心ピーンチ☆

―――かなり かなり ヤバイのさ 助けてダーリン くらくらりん 

 

 ウホッ、良い鉱石!

そう思っていると、突然その上に乗っていた男は、俺の見ている目の前でツナギのホックをはずし始めたのだ!

 

 

―――何もかもが 新しい 世界に来ちゃったZE☆

―――たくさんの ドキドキ☆ 乗り越え 踏み越え イクぞ☆ 

 

「や ら な い か?」

「無理です」

 

 ゆーりは そくとうして まわれみぎを した

 ざんねん まわり こまれて しまった !

 

「付いてこないでください!」

「そんなことよりコイツを見てくれ。コイツをどう思う?」

 

 彼はおもむろに下を指差した。

 

「すごく……大きいです(ジゼルマイト鉱石が)」

「そうか、ならとことん楽しませてやるからな!」

「断固お断りですッ!来るな!来るんじゃないっ!」

「良いこと考えた。おまえそこに一度とまれ」

「断固お断りですッ!とまったらどうなるか!(ナニされるか!)」

「おいおい、どれもこれも断られちゃ俺の立つ瀬がないじゃないか」

「しーましぇ……とにかく付いてくるなッ!」

 

 何故だろう。彼を見ていると括約筋がキュッとなる。主に食われる的な意味で。

 

「くっ!何故だ!隙だらけなのに近寄ったら危険だと勘が警鐘を!」

「俺は何時でもOKだぜ?もっと楽しめよ?それにあいつ等もお待ちかねだ」 

「遅かったじゃないか……」

「手こずっているようだな……尻を貸そう」

「ノーマルなのか、アブノーマルなのか。話はソレからだ」

 

 ダニィ!?なんか増えたぞぉぉぉぉぉっ!!!

 

「クッ!仲間を呼び寄せただと!?た、退避を―――」

「このままでは逃げられてしまうな」

「ああ、だが問題はあるまいゲドよ。既に私はターゲットを捕獲している」

 

 か、身体に縄が、何時の間にっ!?

 

「すべては私のシナリオ通り……残るは肉○ハメハメだ」

「すばらしい。私の目に狂いはなかったようだ……準備は良いか?」

「こちらはお尻の括約は効いている」

「イイぞっ、纏めてハメるには最適だ」

「よし、全員心行くまで楽しませてやるからな!」

「や、やめろ……そんなモノだしてくるんじゃない!止めッ」

 

Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)<ナ、ナニヲスルダーー!!

 

「夜は長いぜ……相棒」

「折れるなよ♡」

 

アッ――――!!!!

 

………………………

…………………

……………

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっぁああああ!!!!――あれ?」

 

 最悪な目覚めだった。途轍もなく恐ろしい夢を見ていた気がする。だがそれを思い出したらヤバいと本能的に理解した俺は、さっさと忘れることにした。一応尻をさすってみた。大丈夫俺はまだ処女だ。

 

 俺はそのまま立ち上がると時計を見た。ふむ、まだ朝にもなっていない時間帯か……“上から”の定期便はまだ先だから今の内に飯を食ってしまおう。そう考えて買い込んだ日持ちのするレトルトを置かずに乾パンを胃に放り込んだ。

 

 あのドドゥンゴ一味と戦いの後、俺は鉱山へと逃げ込んでいた。ゴタゴタが起きることは簡単に想像がついたので、巻き込まれるのを嫌った俺は必要な時以外に上に出ないことを決め、地下の休憩スペースにて寝泊まりしていた。

 

持ちこんだ食料はその時に買えるだけ買った日持ちする食糧を、いまだ大事に食べているので後数日は持つ。全然買い物をしなくなったため掘り出した鉱石を換金したマネーが溜まる一方だが、ないよりかは良いだろう。

 

なにせ上だと綺麗な水を飲むには自販機か酒場で買う必要があったからな。飲む量を最低限にしていてもそれなりに金が掛っちまう。だが地下の休憩室は恩赦なのか水だけは飲み放題と来れば、案外地下生活も悪くないと思ってしまう。

 

「まぁ、それでも天気とかないと気が狂いそうだが……」

 

 見上げても見えるのは大きな岩盤ばかり、ああ無常とはこの事か。とにかく嘆いても始まらないので俺はつるはしを何本かと、愛用の大槌とスコップとバケツをネコ車に放り込んで他の囚人が降りてくる前に坑道の奥へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一つつんでは母の為~…どっせい!」

≪ズガーンッ!≫

「二つ積んでは……なんだっけーっ!」

≪ズドーンッ!≫

「三つ、この世の悪を倒してあげよう……これちが~う!」

≪ドドーンッ!≫

「……ふう、大分掘り進みましたね」

 

 ここはとある坑道の最深部。ここ最近ずっと同じ場所を掘り続け、掘削機も真っ青な掘削速度をマークしつつも誰もいないから褒めてもらえなくて泣きそうな……いけない、一人だと思考が変な方へ流れてしまうな。

 

 何か脱出の手立てがないかと思ったが、現状では何もできない。苛立ちだけが募りストレスを抱えた俺はただひたすら掘削に力を込めていた。立ちふさがる岩盤を憎いあん畜生(ヤッハバッハ)だという風に脳内変換しブッ壊し続ける。

 

 意外とこれがすっきりする。手堅い岩盤を大槌で粉砕した時何ぞ胸が空くような気持だった。さぁみんなもレッツ掘削!がんばればスペランカー先生レベルすぐになれるぞ!岩盤崩落的な意味で!……やな慣れ方だな。

 

 

「……はぁ、でもいい加減あきましたね」

 

 

 かれこれ何日地下に籠っているのかも、もう覚えていない。結構長いこといるような気もするが、ここでの時間は腕時計以外時間の指針がないのだ。しかもこれ朝と昼の表示は出るが何年何日かは判らない仕様なのである。

 

 もしかしたら疲れすぎて丸一日寝て過ごした日もあったかもしれない。休憩室って意外なことだが誰も利用しないので外が何日たったのか判らなくなる。それにそろそろ食料が尽きそうだし、いい加減補給しないと日干しになってしまうだろう。

 

 そう考えた俺は今日も今日とて大量に鉱石を手に入れ、他の連中が掘削している間に急いで換金し、報酬を大量ゲットした。そしてその日の夕方の便で久々に地上へと出た。坑道の籠った空気よりかは埃っぽいが普通の乾燥した大気でも今は満足だ。

 

「地上よ。私は帰ってきた!」

「何言ってんのアンタ?」

 

 いやホント何日経ったのか判らないってのもアレだね。それにしても横のつながりがないというのも困りもんだ。

 

「食料も尽きたことですし、マスターのところにいかないといけませんね」

「そうなの?じゃあアンタ結構ここで過ごして長いのか?」

「あとあの暴動騒ぎがどうなったのかを聞かないと…まぁ金はありますから大丈夫でしょう」

「なぁなぁ聞いてるのか?というか聞けよコラ」

 

 いやいや、さっきからこっちがワ・ザ・と無視しているのに、馴れ馴れしくも話を聞けとかどういうことなんでしょうね?俺は声がする方に顔を向けた。するとそこにはなんかツナギっぽい空間服を着たオールバックの若い男がっ!

 

「近寄らないでくださいっ!」

「な!いきなりなんだよっ!?」

 

 おっと、俺としたことが思わず取り乱してしまった。あの変な夢の所為だな。

 

「嗚呼すみません。貴方が悪夢に出てきた連中と符合する格好をしていた所為でつい拒絶してしまいました。別に特に何かあるって訳じゃありません。なので3m以内に近寄らないでくれませんか」

「いや、それ普通になんかあって拒絶してるっしょ?」

 

 煩い男だね。一々気にしてる奴は嫌いだよ。

 

「それで、なにか様ですか?生憎私と貴方は初対面の筈なのですが」

「いや、なんでそんなに距離とるんだ……はぁ、まあいい。俺はトトロスッつうモンだ。ここに来る前はまぁ色々と火遊びしてたんだがミスってとっ捕まったんだよ。んで最近ここに来たばっかりでさ?アンタここに来てから長いんだろう?色々と教えてもらいたいと思って話しかけたってワケだ」

 

 トトロスと名乗った男は此方が聞いていないことまでベラベラ話してくれた。何でも故郷で情報を扱う仕事をしていたのだが、マフィア関連に情報を流したりなどして小金を稼いだりしていたらしい。んでそいつらとの繋がりがある日暴露されてしまい突然過ぎて逃げる暇もなかったこの男はあっさりと捕まりここにいるんだそうな。

 

 ちなみにそこまで聞かされたが俺は一切彼に対し何で来たのか的はことは訪ねていない。全部前を歩く俺の後ろを歩くコイツが勝手にぺちゃくちゃ話した内容を纏めただけだ。いやまぁ聞いて無いんだが耳には入ってくるモンだからさ?

 

 んで俺としてはトトロスとか言う男の身の上話何ぞ興味はない。

 

 

「――そんでその時俺は行ってやったね。そしたら俺が現れるのは予想外だったらしくてアイツの顔を来たら――」

「あのですね。私は何時までそのくだらない話に付き合えばいいんですかねぇ」

「くだらないって、俺の波乱万丈の半生を面白おかしく語ってあげただけなのブべッ」

 

 いい加減ウザくなったので超パワーセーブした裏拳を叩きこんだ。

 なんか吹っ飛んだけど死んでないなら良いだろう。

 

「ふぅ、ようやく静かになりまし――」

「良いパンチだった。俺の奥底にまで響いたぜ」

「(やっぱり変人か?それとも強く殴り過ぎたか)……とりあえず医務室はアッチです」

「おう!鼻血出ちまったしな。やっぱりアンタに聞いて正解だったな!」

「いえそれよりも頭の検査をお勧めします」

 

 普通囚人だらけの監獄でフレンドリーに話しかけてくる方がおかしい。第一俺だってここに来てから一年経って無いのにな。そんなに古参に見えるんだろうか?つまり老け顔?……若白髪に見えるもんなぁ。

 

 ―――……orz

 

「どうしたんだ?!いきなり倒れるなんて病気か!?」

 

 ちがわい。只単に自分の容姿が結構老けてることに衝撃を受けたんじゃい。

 

「……なんでもありません。とにかく医務室はそっちです」

「ありがとうさん。ここの連中は話しかけても無視しやがるから本当に助かったぜ」

 

……無視できたのか。まぁいい。それじゃあな。

 

「ああちょっと。アンタ名前は?」

「……ユー……」

「ユー?」

「いえユータローです。それではこれで」

「ユータロー?変わった名前だな」

「貴方にそのようなことを言われる筋合いはありませんがね。それでは」

 

 そう言ってトトロスと別れた。けけけ、偽名教えてやったからこれで会うことも無かろうて。しかしトトロスか……随分と気楽な男というかなんというか……なんだろう?何か引っかかる。なんか結構大事なことだったような気がしないでも無いのだが……。

 

(……んなことより飯だ飯。久々にマスターの手料理でも頂きますかねぇ)

 

 男の手料理と書くと吐き気が沸くのは気のせいだ。今の俺は猛烈に他人の料理を所望している!てな訳で酒場へゴー!

 

 

まぁこの時は気がつかなかったんだが、後のちこのトトロスと色々やらかす羽目になるとは、空腹だった俺には想像つかないことであったのはいうまでもない。

 

ああ、早く脱出したいぜ。

 

***

 

Side三人称

 

 

 宇宙におけるステルスというのは、何もレーダー波をジャミングするだけに留まることはない。排熱を内部処理する機構が必要であるし、宇宙は薄暗いとはいえ闇と呼べる空間は少なく、必然的に光学的迷彩もステルスシステムに組みこまれている。

 

 そして宇宙におけるステルスはその隠す対象が大きければ大きいほど隠すことが難しくなる。でかければ遠目からでも視認しやすくなるからだ。隠れる場所が殆ど無い広大な宇宙で隠れ続けることは容易ではないのだ。

 

 だがそんな中でも例外はある。それは小惑星帯がある場合だ。小惑星は数メートルクラスの小型から数百キロクラスの大型まで多種多様であり、その中に紛れ込めば艦隊規模でも見つかることはそうそうない。

 

――そんな小惑星帯の一角に、一際大きな小惑星が浮かんでいた。

 

 一見しただけでは普通の小惑星となんら変わりない大型小惑星。だがその中身はボールズ達により修理素材の掘削が完了し、空洞になった小惑星をそのまま利用した基地と化していた。偽装もほぼ完璧であり、惜しむらくは防衛兵器がないくらいであろう。

 

 数百キロメートルクラスの大型小惑星は36kmクラスのデメテールが停泊できるほどの大きさを誇り、簡易的なドックとしても機能できる。これもボールズ達が一カ月でやってくれた代物である。流石ボールズ、劣化していてもチート具合が半端ではない。

 

 時折やってくるエンデミオンの哨戒艦隊や警備隊の巡視艇の監視を欺き、修理と改造及び戦力の増強を行いつつ、デメテールはただ静かに時を待っていた。

 

 

***

 

「ふーむ、まいったねこれは」

 

 さて、そんな空洞基地に停泊中であるデメテールの艦長宅。主がいない筈のこの家で、何時の間にか入り浸るようになったトスカが炬燵に肘を付けながら唸っていた。ちなみに現在デメテールの内部季節は冬。大居住区は雪が降るほど寒い環境だったりする。

 

 

「これで捕まった連中の大半は救出する事に成功」

「……ですが、艦長だけは捕まったまま、です」

「ユーリ…」

「あの馬鹿。ホント何処にいるのよ…」

「――う゛~…」

「……申し訳ない。我々がもっと気を張っていれば」

 

 ユピテルやチェルシーが心配そうに宙を仰ぎ、キャロはユーリが中々見つからないことに対して悪態をつく。そして身長が座っていても2mはありそうな男。救出された艦隊司令のヴルゴが身を縮こませて謝罪する。

 

 ユーリ達が捕まった際、もっとも近くにいたにも拘らず、敵の艦内への侵入を許し、あまつさえ最高指揮官であるユーリを逃がすこと叶わず共に捕まり、その後別々の場所に移送されてしまったあの事は未だにヴルゴを苛み続けていた。

 

「――いや、あんたが気にすることじゃないし、もう過ぎたことさ。むしろ良く無事で戻って来てくれたと思うよ、ヴルゴ」

「うぐ、しかし副長――」

「誰にだって予測できないこともある。まさか中立の筈のステーションでやって来たばかりの0Gをいきなり捕縛する輩がいるなんて思わないさ。それでも失態だと感じるなら、働きで返せ。――そうユーリなら言うだろうねぇ」

「……承った。このヴルゴ全力を持って当たろう」

 

 ちなみにこの男。帰ってくるなり己の蛮刀型スークリフブレードでハラ切りしようとしたほどの義に熱い漢である。熱い男と言えば聞こえはいいが、下手すると優秀な手駒が自刃してしまう羽目になるので上司としては扱い辛いことこの上ない。

 

 しかし逆にこうして煽れば、扱いにくい熱い男は一騎当千へと切り替わる。アクとクセの強い0Gドックならではの用兵であると言えた。そういった意味ではトスカの方が経験が多い分ユーリより用兵上手であった。

 

「さて、ヴルゴのことは良いとしてだ」

「これで4つ近い監獄惑星を襲撃しました。それと物資補給の為に軍の輸送船団も幾つか……これで名実ともに私たちは海賊です」

「不可抗力だったけど、やっちまったからねぇ」

 

 先日の監獄惑星襲撃の際、彼らは監獄惑星に向かう軍の輸送船を拿捕してしまっていた。決して狙っていた訳ではなく、作戦の邪魔になるから捕まえたのであるが、指名手配されていた為に近くの港に寄る訳にもいかず――という具合である。

 

「でもコンテナの中身が殆どワインってどうなのよ?」

「しかたないよキャロ。データによるとエンデミオン国民の年間に消費するワインの量って桁違いみたいだし、あれくらいこの星系じゃ普通なのかも」

「だとしても限度があるわよ。お陰で艦内市場の酒株価は暴落中なのよ?パン買う金でワイン一瓶買えて釣銭が返ってくるわ」

「あ~、話がずれてるから戻してもいいか?――おほん、とにかく主目的はユーリの発見と奪還で、これまでかなりの情報を手に入れてきたんだが…」

「高度プロテクトの所為でデータ取得はムリ。これ以上はお手上げですね」

 

 トスカがズレた主題を強引に引き戻したが、結局未だ進展がない話ということになってしまった。だがこれまでの情報収集は無駄ではなく、ある事だけはハッキリとした。

 

「どうやら、相当私たちの存在ってのはこっちの銀河じゃ目ざわりらしいねぇ」

「調べられなかったデータ領域の中に、エンデミオンのプログラムを遥かに超えるプロトコルとマトリクスを見つけました。これにより、より上位のシステムによってデータが封印されたと見て間違いないでしょう。それこそエンデミオン上層部すら見ることが出来ない程に」

「それじゃ、相手はエンデミオン大公国だけじゃないんですか?!トスカさん」

「あれくらいの封印を付けられる相手とくりゃ、私の経験上大マゼランだと数えるくらいしか知らないねぇ」

「げぇ、それは厄介ね」

 

 現在デメテールを動かしている最も最高位に近い女性陣たちは、これだけやってもしっぽの先ほどしか掴めなかった相手の強さにゲンナリとした。敵はそれほどまでに強大である。だが残念ながら此方には大きな戦艦がある程度。戦略的には話にならない。

 

「――つまり、副長は今後どうすると?」

「一番いいのはユーリの奪還に尽きるけどねぇ…まぁ現状は場所すら判らないケド」

「ならば、諦めるということで?」

「さて、こう見えても私は案外諦めが悪い方だ」

 

あんたが考えていることと案外同じかもよ?ヴルゴ――とトスカは薄く笑って見せた。見る者ほぼ全員に絶対諦めてないだろうと言わせる光を瞳に灯して。

 

「ふむん」

 

 ヴルゴはヴルゴでこんな事態に陥ったことに、例えそうなる気はなかったとしても加担してしまったという負い目がある為、このまま彼女らに協力しユーリ奪還を続けようとは考えていた。だがしかし、どちらにしてもかなりの戦力がいることだろう。

 

「――現行戦力はデメテールと艦載機のみ。果たして艦隊司令のこの身が何処まで役に立てることか…いや、いざとなればゲリラ屋になってでも戦うだけ、か」

 

 何時の間にやら今日の予定へと話がシフトしている女性陣を前に、ヴルゴは彼女らに聞こえない声量でそう呟いていた。実のところ現在この艦長宅にいるのはヴルゴ以外全員女。正直肩身が狭いヴルゴとしてはとっとと仕事に取り掛かりたい。

 

 その為、現状ではやることがない=艦隊戦シミュレーターで鍛錬を積むくらいしか艦隊司令の身である彼にはできそうにない。したがって4人そろってさらに騒がしい女性人たちを尻目に一人この場から静かに立ち去ろうとした。

 

だが――

 

「う゛!」

「うぉっと。デ、ディアナ殿か。いかがしたかな?」

「う゛う゛っう~!」←ボディランゲージ

「……(なにを言っているのかさっぱり判らん)」

「およ、珍しいね。ディがアンタも飯食べていけだってさ」

「い、いえ。これから鍛錬でも―――」

「どうせ今指揮する艦隊もないし。ヒマだよな?なら食べていきなよ。ディの飯は意外といけるよ。つーか食べてけ」

「――う、むぅ」

 

 たまたま御茶を持ってきたディアナに捕まり、純粋な好意から食事の誘いを受け、どうすべきか判らず思わずうなるヴルゴであった。

 

「そうだわっ!あのワインは横流し品みたいな感じにすれば資金を稼げるわ!」

「おっ!いいねぇ!最近マッド共の使いこみが響いて予算がヤバかったんだ」

「どうせ有り余っているんだし…うん、キャロの案はいいと思う」

「でしょでしょ?」

「いっそのこと生産プラントで密造酒でも作りますか。どうせ海賊の汚名は着せられているんですし、今更ですからネ」

 

 そして気が付けば悪だくみが進行しており、皆エチゴヤおぬしも悪よのぉという顔に変わっているのを見て、ヴルゴはこういう時は女性の方が強かで恐ろしいと背筋を震わせたのはいうまでもない。

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

―――それはある日のことでした。

 

 

注:AAはイメージです

 

 

・何と無くネットで世界情勢のニュースを見ていた。

 

 (  ゚д゚ )

_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_

  \/    /

 

 

・ウチの艦隊が海賊として指名手配されていることをしる。

 

 ( ゚д゚ )

_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_

  \/    /

 

 

・冗談だろうと思わず立ち上がる。

 

  ( ゚д゚ ) ガタッ      

  .r   ヾ

__|_| / ̄ ̄ ̄/_

  \/    /

 

 

・信じられなかったので夕日に向かって走り出した。(いくえふめい)

 

 ⊂( ゚д゚ )

   ヽ ⊂ )

   (⁀)| ダッ

   三 `J

 

「廊下は静かにー!」

「すいませーん!」

 

 そして監守に怒られた。

 

 

 

 

 

 

⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブ――ーン

 

 いや、のっけから変なテンションで申し訳ない。何分色々とあったもんで…。まさかね、ヒマつぶしに立ち寄ったライブラリーで、そんなニュースを見る羽目になろうとは思わなかった。つーか指名手配ってお前ら何やったんだYO!

 

 これじゃ俺が戻っても海賊の親玉あつかいになっちまうじゃねぇけ!いやまて落ちつけ。そうしなければならなかった止むを得ないじじょーがあったのかも知れん。まぁその場にいなかったので何とも言えないのが歯がゆいな。

 

 ああちなみに監獄ではあるがライブラリーのような施設も一応ある。金払うのが条件だけどね。日本と違って金さえあれば何でも出来るなんて発展途上国の刑務所みたいだ。基本的には刑期明けるまで生き残れればいいなんていう場所故って感じだぜ。

 

しかし考えてみれば走り出したは良いが俺は今は囚われの身であるのでどうする事も出来ないことに気がついて、半ばやけになりキーンと両手を広げて走っていた。ああん最近ダラシネぇな。

 

「ユータローさん、坑道で両手広げて走るのはちょっと…」

「うるさいんですトトロスさん。どうせ貴方以外誰もいないんだからいいじゃないですか」

 

 そして両手広げて走る俺の後を歩きながら話しかけてきたのは、つい先日監獄へとやって来た新人…というのが表向きの姿を持つ男トトロスである。俺の奇行にもうやだこの人と言わんばかりの瞳で投げやりに域を吐いていた。

 

 まったく失礼なやつである。以前情報ツウを気取った所為で抗争に巻き込まれそうになったのを助けてやったことを忘れてしまったのだろうか。まぁ別に今更変人を見る目で見られたところで全然苦にならないさ。こう見えて0Gドッグで艦長だからネ!

 

「――泣いてもいいですか?」

「いきなりどうしたというか止めてくれよ」

 

はっはっは、やはりコヤツはまだ修業が足りないのう(なんの?)。それはさて置き始めてあった時から変なヤツとは思っていたが、実はコヤツも俺と同じく順応力は半端ではなかった。何とコヤツも初鉱山入りで鉱石ノルマを達成していたのである。

 

シャバでは情報通でいたので“偶然”にも採掘すべき鉱石のことを知っていた――らしい。随分と都合のいい話であろう。しかし俺みたいなイレギュラーはともかくとして、この若くてヒョロイこの男が随分と新人らしくないことをしてくれた。

 

そのお陰でトトロスは新人囚人の稼ぎ頭となり、色んな方面に顔が効く監獄内の情報ツウとしての立場に収まりつつあった。そしてそれは別にどうでもいい。俺にとってコイツが牢名主になろうが陰の監獄長になろうがしったこっちゃない。

 

しかし現実にはコイツは派閥争いに精を出す連中に目を付けられた。それも当然だ。俺がついつい引っ掻き回した所為で、監守の眼を盗んだ水面下ではこの監獄の中は現在戦国時代真っ青の群雄割拠な状態に突入している。

 

当然どの陣営も人材確保に必死であり、そんな中入ってきた稼ぐことのできる人間は彼らにしてみれば格好のカモである。何をするにも焼き立つ者は必要。この閉じられたコミューンでも同じ、だから連中は色んな手を使い自分の陣営に引き込もうとした。

 

勿論俺のところにも勧誘は来ていた。幹部にしてやるやら、派閥に属する女をくれてやろうとか、この監獄の半分をやろうとか色んなうたい文句を言われたもんだ。だが俺はこんな場所で終わるようなタマじゃないと思っていたのですべて断っていた。

 

べ、べつに未だ童貞だから女性を貰えるとか聞かされてしり込みしたとか、荒くれ者が多い監獄で何時下克上が起きるかわからない状況に陥りたく無いというヘタレな理由ではない。断じてないとも。俺は俺と似たような弱い連中を守っているのだ!

 

―――はい、嘘です。面倒くさくて怖かったヘタレなだけです。

 

まぁそれはともかく、そんな風に狙われていたアレを助けたところ、何故か俺に妙になれなれしく接してくるようになった。本人曰く、最初に世話になったから部下やりますぜ、情報持ってくるのはお手のモノなんなのぜとなんとも無理がある語り草。

 

これを信じろというのならダークマターになった部下がよみがえると聞かされた方がまだ信憑性がある。とはいえ、トトロスという男が色々と役に立つことも事実。信頼こそないが信用は出来る腕前だと判っているのである意味付き合いやすい。

 

もっとも何考えているのか判らないあたり、なにされるか気が気じゃないのもあるんだけどね。

 

――やったねユーリ、舎弟がふえたよ!

――オイバカやめろ。

 

とか思ったのは、まぁしょうもないことだろう。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……もうどんだけ歩いたんだよ」

「トトロス、ついて来れないなら置いていくッs……いきますよ」

「ああもう!判りました!判りましたとも!地獄の果てまで付いてきまーす!」

「お断りです。野郎はいりません」

「そこは否定しないでくれよユータローさん!?」

「軟弱者ー」

「絶望した!俺の扱いに絶望した!」

 

 やかましい。男がついてくるとかのほうが悪夢じゃ!

 

「大体ついてくると言ったのは貴方の方からですよ?」

「だって、ついて行けば鉱石の一つや二つくらいおこぼれ貰えるかと思って」

「なら目的は達成してるじゃないですか。さりげなく拾っていたでしょう」

「ゲ、ばれてら。一番いい結晶を拾ってたのに!」

「…(なんで聞いて無いことまで口にするんスか。クセ何スかねぇ)」

 

 さて、坑道で何しているのか気になる人もいるだろう。だがこればっかりは言わずともわかるやもしれん。何てことのない金稼ぎ兼坑道探索である。金を稼ぐ理由は追々説明するとして、何故坑道を探索しているのか。

 

 理由は簡単。自然に出来てしまった天然の洞穴の内の一つが監獄の管理棟地下に繋がっている可能性があったからである。トトロスが仕入れてきた話なのだが、とある坑道でクレバスに落下した囚人が別の坑道から衰弱した状態で発見されたことがあった。

 

 それだけならなんら珍しい物ではない。坑道はアリの巣のように幾重にも重なり合っている迷宮のような場所であるし、洞穴とも繋がっているのでクレバスで落下した先が別の坑道に繋がっていたのも想像出来る範疇である。

 

だがこの話には続きがある。

 

 その囚人は手にコンクリート片を持っていたのだ。それも管理棟などの重要施設にしか使われていないモノと同じ、地下鉱山に使われているような粗末なシロモノではない。古いが壊れにくいであろう上質なコンクリートの欠片を。

 

 これが何を意味するのか。明かりのない冥府のような地下をさまよったであろう囚人が管理棟と同じコンクリート片を握り締めて発見された。つまり、この遭難した囚人はさまよっている際、管理棟地下に繋がる坑道または洞穴を通った可能性があるのだ!

 

 これが随分昔の話であるなら信憑性は薄かったのだが、どうもここ最近の話らしく、遭難した囚人は今も現役で地下坑道に潜って飯のタネを稼いでいると聞く。もっとも派閥入りしているらしいので本人に話を聞くことは叶わなかったが。

 

 周りの人間はたまたまその囚人がポケットに持っていたお守り代わりのシロモノだったと思っていたらしいが、俺はそうは思わない。なぜなら坑道に繋がっている天然に出来た自然坑道は手が入った坑道と同じく日々成長しているからだ。

 

 もし辿りつけたなら、目的の為の大きな一助になるに間違いない。勘だけどね。

 

「うぉっ?!あぶなっ!?」

「ほお、随分と深いクレバスですねえ。―――落ちなかったんですか」

「なんで残念そうにいうのかな?かな?」

「いえ失敬。何故落ちなかったのです?」

「落ちること確定だったのかよっ!」

 

 そうじゃないと絵的に面白くないぜ。トトロスとの漫才はさて置き、目的のクレバスへとやってきた。暗い坑道に突然口を開けているクレバス。底は暗黒に包まれ目視することはできない。試しに近くに落ちていた小石を落としてみたが音がしない。

 

「結構深いようですね」

「ユ、ユータローさん、やっぱりやめねぇか?他にも管理棟に行く道くらい――」

「男は度胸!なんでも試してみるものさ」

「使い方間違ってるよソレ!」

 

 ぎゃーぎゃー煩いコヤツは放置し、俺はささっと担いでいたリュックのベルトを締め直しそのままクレバスの淵に手を掛け―――

 

「よっ、ホッ――」

 

 そのまま降りる。ロッククライミングってヤツ?上るんじゃなくて降りてるけどね。俺の奇行に最近耐性がついてきたトトロスもこれには額に手を当てて泣き笑い。それでも覚悟を決めたような顔して俺が伝っていった場所に手を掛ける。う~ん、男だねぇ。

 

 ちなみに明かりは手回し充電のヘッドランプと化学反応で光る使い捨てのトーチロッドしかないので暗い。その為なんどか上からトトロスが落下してきたが、俺持ち前の筋肉力にモノを言わせ、ファイトー、一っ~発!とやっていたので死んではいない。

 

 そのまま底に辿りつくかと思ったが、やはりというべきか地下水脈が流れており降りることは出来ず仕方なしに壁沿いに進む。勿論壁に捕まったままでだ。当然俺の後に続くアヤツ、トトロスも必死に泣きながら着いてきたのがおもしろかった。

 

 そして意外と長いクレバスは別の自然洞穴と繋がっていた。ここで俺はごく最近できたと思う足後を発見する。どう考えても話に聞いた囚人が通ったものであろう。風すら吹くことがない坑道で痕跡が消えるには地殻変動とそれに伴う流水がないと消えない。

 

 どうやらさまよった囚人と同じルートを進んでいる。目印代わりにトーチロッドを一本壁に突き刺し、まるで九死に一生を得たような顔をしてぜーはー息を吐いているトトロスに奥に行く事を告げて再び歩き出す。トトロスは絶望的な表情でついてきた。

 

「ほう、素晴らしい光景ですねぇ」

「……ここの地下ってこんなにすごかったのか――…自然惑星を利用したらしいからな」

「ん?トトロスさんなんか言いましたか?」

「それよりもちゃんと道判ってるのかユータローさんよ?」

「んー」

 

 ユーリは思わず道化師のように唸っちゃうんだ。

 

「あ、あんたまさか…」

「いえ、ここまでの道順はちゃんと記憶してますよ?マッピングしてますし」

「ああ、そうなんだ」

「でも帰りも同じ道を通ることになるかは判りませんけどねぇ」

「ああ、遭難か」

 

 まぁどうにかなるでしょ。

 

***

 

 山を越え(いや地下空洞に山っぽいのがあったんよ)谷を越え(クレバスです)、管理棟へとやってきた~♪と思わず歌ってしまいたくなった。

 

「…やっぱり勘は当たってたッス(ボソリ)」

「ん?ユータローさん、なんか言いました?」

 

 いま俺達の前にはクレバスの一部に露出した明らかな人工物であるコンクリートの壁が見えていた。周囲は薄暗く良く見ると膝上まで溜まっていた地下水の池がうっすらと光っている。どうやら細かなジゼルマイト鉱石が流されて蓄積していたらしい。

 

恐らくトトロスの話にあった暗闇をさまよった囚人もこの場所まで辿りついていたのだろう。管理棟と思わしき建造物の基部部分には、地下水の浸食からか少しばかり欠けている部分が目立ち、足元にコンクリート片が散らばっているのが見てとれた。

 

絶対ここまで来ていた。これだけは確信出来た。そして問題はここからである。

 

「ふむ、何処がいいか…」

 

 トトロスが地下水池に溜まった細かなジゼルマイト鉱石の結晶を拾い集めていた時、俺はコンコンとコンクリートの壁を叩いて回っていた。

 

「ここかな?」

≪ゴンゴン≫

「ここがいいかな?」

≪ゴンゴン≫

「それともココかな?」

≪ゴンゴンゴン≫

「ここもいいな☆」

≪ゴィン、ゴィン≫

 

 らんらんるー、……教祖さまお帰りください。変なテンションで脳内教祖が復活しそうだ。まぁそれは今はどうでもいい。聞いただろうこの音の違いを。

 

「…ここか」

 

 俺は背負って来た麻袋のようなバックパックから愛用の品になりつつある大槌を取り出した。音の変化したあたりは地下水によりひび割れが発生していたので、そこに楔を軽く打ち込む。そして後は判るな?

 

「せーのっ!」

 

――吶喊っ、轟音。

 

 空洞に響き渡る破砕音。

人間が出すような音ではないが、出てしまうのだから仕方がない。

 

「ユータローさん!?なにをっ」

 

 大槌をしまう。なぜなら大槌を叩きこんだ壁には、人一人が通れる大きさの穴がぽっかりと開いていたからだ。バックパックを背負い直すとこの間酒場のオイチョカブで没収したレトロなオイルライターで火を付けて穴にかざす。

 

 とりあえず燃えている。ガス管は破壊しなかった様だ。さすが俺、運が良いな。さっきの音に驚いたトトロスが狼狽していたが、着いてくるかここで待つかと聞いたところ彼もまたバックパックを背負い直した。ふむん、意外と胆が据わってるねぇ。

 

「吉と出るか、凶とでるか――当たるも八卦当たらぬも八卦、ですね」

「それって行き当たりばったりって意味じゃ…」

 

 そんなこんなで監獄惑星脱出計画の第一フェイズがさりげなく進行したのだった。

 

 

***

 

――管理棟・地下区画

 

 監獄惑星という惑星一つが監獄であるこの星において、管理棟は地下に膨大なスペースを持つ要塞のような作りをしている。地上入口には幾重にもセンサーが張り巡らされ、許可のない人間が通るとセントリーガンで射殺されてしまうほどだ。

 

「ん?なにしてんだお前ら?」

「いやー洗濯物溜まっちゃったんスよー。ランドリーだと金掛かるしどうしようかなぁって思って」

「ゴホゴホ」

「そっちの奴は風邪でもひいてんのか?つーか手洗いとかまめなヤツだな」

「貧乏性ってのは捨てられないもんスよ。母ちゃんの偉大さが判るってもんス」

「ナハハッ!ちげぇねぇな!邪魔して悪かったな」

「うんにゃ、どうってことねぇッスよ。それじゃ」

 

………行ったか?フッ、俺の三下オーラは健在のようだね。

 

「ぶはぁ、心臓が飛び出るかと思った」

「情けない。一々びくびくしてたらこの先身が持ちませんよ?」

「なんでアンタは全然余裕なんだよ…」

「フンっ、宇宙戦闘に比べれば、ね。それにこういうのは堂々としてれば意外とバレないモノなんです」

 

 さて、そんな地下施設に潜入したのは俺とトトロスだ。思った通りここは管理棟の地下であり監守がうようよしていた。当然そのままでは見つかっしまうが。

 

「まさか、ちょっと制服を拝借しただけでバレないなんて…」

「ここは最深部に近い居住区。彼らのプライベート空間に潜りこんでいる囚人がいるとは誰も予想していない。これを東大デモクラシーと呼ぶ!」

「……灯台もと暗しだろ。響きしかあってない…つーか何しに忍び込んだんだよ。見つかったらタダじゃすまないし最悪殺されるだろうに」

「え?」

「その今更何言ってんの的な眼は止めてくれ。判ってるから。ここまで付いてきたからには腹くくってるから!」

 

 なら文句言うのをやめろっつーに。大体着いてきたのはトトロスの勝手だろうに。まぁ良いけどさ。俺の目的はただ一つ。ここで脱出する為の手がかりを掴むことだ。なんだかんだでこの星からは鉱石が輸出され、少なくない物資が輸入されている。

 

 当然それには輸送船が来る訳だし、他にも囚人護送の為の護送船や連絡船なども監獄惑星に降りてくるはずなのだ。それらに忍び込めれば、もしくは奪取できれば、この星から離脱することは可能となる……筈。

 

出来ることなら白鯨と連絡が取りたいが、まさか海賊行為をしているとは思わなかったしなぁ。実は艦長交代とかで帰ったら殺されたりしてな!この時の俺はまだ白鯨がそれなりに無事に機能していたことを知らなかった。

 

それよりもとりあえずこの星から逃げ出すためにはどうすればいいのかを考える方が先だったのだ。もっともこの星は近くの恒星系から吹き付ける太陽風とこの星の大気により発生した濃密なプラズマ層に内外問わず守られている――ことにされている。

 

 まぁここが人工惑星であることは既に知っているので後は出る手段さえあれば…。

 

「ま、とりあえず色々と見て回ろうじゃないですか」

「はいはい、俺はアホ亭主に惚れちまった女房みたいなもんだ。何処までもどこまでも着いてきま~すってな」

「…………男にそう言われても気色悪いだけですね」

「モノのたとえってことくらい理解しろよ!?」

 

 そんなカリカリしなさんな。乳酸菌とってるぅ?――そう言ったら無言で殴られた。ヒドゥイわ。痛くないけどね。さておふざけもここまでにしてそろそろ調べることは調べることにしよう。折角無事に潜入出来た訳だしな。

 

 俺は堂々と、トトロスはおっかなびっくりという感じで、管理棟地下を歩き回る。俺達がいた監守達の居住スペース。物資倉庫、ジゼルマイト鉱石倉庫、食糧庫、そして万が一暴動が起きた際の武器庫に経路図の入手などなどだ。

 

 つーか経路図さえ手に入れば他の見て回るべきモノはそれほど多くない。一応の確認だけしとけばいいんだしな。てな訳で管理棟地下の経路図とか地図的な物を探して回る。探し物は意外とすぐに見つかった。監守の電子手帳に普通にデータ入ってた。

 

 そのデータだけを物資倉庫で拝借した適当な記録媒体に移し、それを元に上記の場所を見て回る。複数階層に別れそれほど広くはなくても複雑な地下施設でも、経路図さえあれば迷うことはない。俺は方向音痴じゃないからな。

 

「ここが鉱石倉庫で……ん?この隣の空間は一体?」

 

 んで一通り見て回ったところ、経路図上に未知の空間があることが判明。

 

「倉庫に隣接してるから輸送船用のベイとかじゃねぇの?」

「それですっ」

 

 トトロスの何気ない一言に確信を得た俺は、格納庫隣の空間へと続く通路を探して回り、途中監守と遭遇すること8回。それを華麗にやり過ごしてなんとかそれを見つけ出すことに成功。しかし迷路みたいに入り組んでやがる。どうなってんだここの地下はよぉ。

 

 きっと倉庫から直接入れば近いんだろうなぁとか思いつつ、黄色と黒の縞シマ模様でかこってあるエアロックを発見する。いかにも重要そうなブロックに通じておりますと言わんばかりのそれに、俺の期待は膨らむばかりだった。

 

「…開けますよ」

「藪蛇にならなきゃいんですがねぇ」

 

 拝借した監守服のIDカードを用いてドアロックを解除する。記録が残る可能性はあるが、今は確認する方が先だ。IDカードを通した端末からピッという電子音が聞えたかと思うと、エアロックが外れる空気が抜ける音が響く。

 

 パシュという軽い感じで解放された扉の向こうは、とても広い空間が広がっていた。薄暗いが徐々に目が慣れてくると、この20階建てビルがすっぽりと収まりそうな空間に何かが浮かんでいるのが見てとれた。

 

「あっ…」

 

 思わず息が漏れる。薄まった記憶が再び結合し浮かびあがってくる。そこにあったのは俺が囚われた際に敵に鹵獲された筈の白鯨艦隊所属のネビュラス/DC級戦艦リシテアが静かにその場に鎮座していたからだった。

 

 思い出したのは掠れていた原作の記憶。きっかけを得たことで芋づる式に関連記憶が掘り起こされてある程度思いだしたその記憶にあったのは、管理棟の地下にある倉庫にモスボール処置がされた宇宙戦艦が何隻も格納されているということだった。

 

 見ればリシテア以外にも拿捕された際の艦隊が、そのままモスボール処置を施された状態でそこにあった。白く輝くレアメタル製装甲を持つ魔改造されたネビュラス級やマハムント級やバーゼル級の艦船達。ともに星の海で戦った仲間たち。

 

「ヒュ~、これはまた。ただの監獄惑星にしては物々しいもんだ」

「……すでにここにこれがあるとは、予想外ッス」

 

 タダそこにあるだけだというのに、静かに接岸しているだけだというのに、白鯨艦隊戦列艦を見た途端、俺の身体にパリィと電流が走った気がした。アレらの存在感はここ最近薄まって眠っていた宇宙への探求心を再び目覚めさせた。

 

もう何も怖くない。あとは突き進むだけだ。勿論チキンなので計画を練って。

 

「ん?なんか言ったかユータローさん?」

「いえ、何でも―-この戦艦は使えないでしょうかね」

「んー、モスボール処置もキチンとされているみたいだし、ちゃんとした手順で機関さえ動かせれば動くだろう。その前に気付かれたらダメだろうけど」

「……ふむ、ならある程度の戦力は必要ですか」

 

 そうと決まれば話は早いな。

 

「あっおい!どこ行くだ?」

「いえ、とりあえず帰りましょうかと」

「え?!なんかしないのか!?監獄爆破とか、監守の飯に毒混ぜるとか!?」

「貴方が此方をどういう目で見ているのかは後で追及することにして――目的は殆ど達しました。あとは痕跡を残さないように気を付けて地上に戻り、考えることにしましょう……ああ、そうそう」

 

 端末からデータを入手するの忘れないでくださいね。得意なのでしょう?情報通さん――そう笑いながらトトロスに話しかけたところ、彼はただブンブンと首を激しく上下に揺らしただけで声を発しなかった。震えていた気もするがどうでもいい。

 

「さて、下調べは済んだ。あとは計画を練るだけ」

 

 

 どうしてやろうかな。まぁなんとかして見せようじゃないか。そう考えつつ俺は懐かしい仲間のいた格納庫を後にし、管理棟地下から脱出するのであった。エレベータにのって地上から堂々とな。警備が薄すぎるから簡単すぎた。

 

 手に入れたデータは有効活用させてもらおう。俺が再び宇宙に戻る為にね。

 

***

 

Sideユーリ

 

 地上よ!わたしは帰ってきた!―――なんてザルな警備だろうか。いやあれでも警備が上がっているらしいから、よっぽどプラズマ層の守りに自信があるってことなんだろうなぁ。囚人が管理棟にはいって返って来れるレベルだけどね。

 

 それはさて置き、換金だ!とにかく換金だ!――てな訳で酒場にやってきた。

 

「マスター、これ換金してくれませんか」

「……ここでやると手数料で2割持ち分が減るぞ?」

 

 最近知ったのだが、酒場でもジゼルマイトやその他鉱石の換金が可能だったらしい。とはいえ帰りは何時も鮨詰めなエレベーターには手癖の悪いヤツも多く、カードならともかくそれなりに嵩張る鉱石を懐にもって地上に来るのは大変であり、おまけに手数料とられるのでやるヤツは非常に少ない。

 

 まぁ元々酒場で換金してたのが、利便性と混雑による混乱を避ける理由で鉱山に装置を設置した所為で使われなくなったことの名残だもんねぇ。最も今の俺の様に換金できる物を持ちこんでいる人間にしてみればありがたい名残であるといえた。

 

「構いません。どうせ自分の分は大量に持っている」

「……お前さんみたいなお人よし。監獄には似合わんなぁ」

「褒めて頂き恐悦至極……んじゃ何時ものように」

「褒めてねぇぞアホたれ。――少し待ってろ」

 

 相変わらず毒舌なマスターさんはそう言うとカウンターの奥へと消えた。そういえば基本的にモノは酒場で金払えば手に入るけど、一体どこに仕舞ってあるんだろうか?裏手に倉庫とかある様には見えないし……やっぱり地下だろうか?盗難対策とか?

 

 しかしさりげなくだが、拾っておいたジゼルマイト鉱石の結晶、高くてウマーでした。因みにトトロスは手数料が惜しいので明日さっそく坑道に降りるとの事。いやしかし無茶をする。降りる人間で一杯のエレベーターに鉱石の塊持ちこむだなんてな。

 

 手癖の悪いヤツに会わなきゃいいな。そして俺はそのことを忠告していない。まさに外道!後日マジ泣きしているトトロスにあうのは余談である。まぁ結構頑張ってカバンに詰めてたもんなぁ、労力考えたら泣きたくもなるだろうよ。

 

「……ほれ、いつも通り立て替え差し引いた分だ。カード出せ」

「サンクス。おやおや、結構削られてますねー」

 

 手渡されたカードには鉱石を換金し手数料を引いた値から考えると、0が四つほど消えた金額になっていた。まぁそれでも節約すれば2週間は普通に食える金額が残っているので問題無い。物価が高めの監獄惑星ではかなりの額と言っても差支えないだろう。

 

 手の内のマネーカドをクルクルともてあそぶ俺に、マスターさんは呆れた表情を浮かべていた。

 

「あれだけ数の子供を養えばな…このお人よしめ」

「いや何と言いますか。成り行きと言いましょうか…見ていられなかったので」

「甘い、甘すぎる。慈善家でも気取ってるのか貴様は。詐欺師共のイイかもだな」

 

 マスターさんが言った子供を養っていると聞いて、俺の子供と思ったヤツはいないだろう。だって相手もいないし娼婦に手を出せる度胸ないしなぁ~。では一体子供たちとは誰のことを指しているのか?

 

何てことはない。犯罪を起した少年受刑者やこの監獄にある娼婦の元で生れ、商売の邪魔といった理由から捨てられたストリートチルドレンたちのことだ。

 

「いやー、痛いところを突いて来られますなー」

「十分お人よしだ。とくにここじゃあな」

 

 この監獄では金さえ払えば何でもある。酒、金、麻薬、そして女。抜け出せない箱庭であっても人はそれに会ったコミューンを形成している。以前群雄割拠と述べたことがあったが、その実コミューンの末端はマフィアっぽくもあるのだ。

 

 だが女が春を売るという商売が成り立つ以上、そのリスクとして当然子供が生まれるということがある。大抵は堕胎を選ぶらしいが時として稼ぎが悪くて堕胎をするには成長し過ぎてしまい、生むしかなかったという事例がある。

 

 生れてくる子供に罪はないのは当然。だが生んだ親にとってある意味厳しい環境である監獄内ではお荷物でしかない。経済的にも鉱山職とちがい日々の食事を得るのにも苦労する娼婦が子供を育てることは並大抵の苦労ではないのだ。

 

 最初こそ苦労して生んだ愛着からか少しの間育てるという。それこそ如何に残酷な仕打ちであろうか。その内に育てられなくなって捨てるんだぜ?子どもの側からすれば何もできない内に捨てられるほうが冗談キツイって感じだろう。

 

 だが捨てる神あれば拾う神あり、監獄世界には生まれた子供を利用する為のシステムがキチンと存在している。救済ではなく利用なのがみそだ。一つは通称孤児院、悪く言えば将来の奴隷育成所。男の子は労働力、女の子は…そう言う年齢になれば仕込まれる。

 

 もう一つは施設に入らず路上で生活する子供の囚人のグループに引き取られた所謂ストリートチルドレンの集団だ。上記の孤児院と違い、年齢が上の子供らが共同で下の子供らの面倒を見るので結束は固いらしく家族の様である。

 

 だがそれでも生きる為にゴミ拾いの他に身体を売ったりするコがいるので、基本的には孤児院と大差ないのかもしれない。需要があれば供給あり、狭い箱庭世界でも彼らのような“子供”の需要はある。吐き気がするがな。

 

 外のスラム以上にスラムなのが監獄惑星という訳だ。本当に監獄として機能しているんだろうかね?どちらかというと厄介払いの為に閉じ込めてあるというのが正しいだろうな。そしておいらもそんな閉じ込めておきたい一品です。異論は認めるぜ。

 

 さて話が脱線したが、そんなところで俺が出会ったのは一人のストリートチルドレンだった。もとより現実日本では特番などで小耳にはさんだ程度で実際にお目にかかったことはなく、この世界に来てからもずっとフネにいた俺が会うことはない存在である。

 

だども、はじめて会った時は衝撃的だったなぁ。思わず直そうと努力していた、~ッス言葉が再来したくらいに。襤褸を纏っていた…と口にするのは簡単だ。だが現状はそれよりもはるかに酷い環境で暮らしていたというのが一目で理解出来るほどだった。

 

 細い体躯、俺みたく阿呆力の持ち主が触れただけで小枝を折るよりも簡単にちぎれてしまいそうだった。見なり自体は襤褸ではあるがそれ程汚いという訳では無かった。頭のいかれてしまった路上生活者などに比べれば普通の子供に見えるくらいに清潔だ。

 

 不潔にしていれば病気になることを知っている彼らは、自分の出来る範囲で自分の身なりを清潔に保っていた。だが使える水道などないので飽く迄も埃や垢や泥だらけにならない様にしているといった程度でやはり汚いと最初は思ったものだ。

 

 でもね、ほら。基本的人権が保障され子供に教育をすることが義務とされている日本という国で生まれたからだろうかね。彼らを見て、その、ご飯を奢ってしまったのだ。だってあまりに酷い格好でなんかくださいって言って来たから…つい。

 

そしてそれがきっかけだったんだろうな。気が付けば年齢違えど似たような格好の子があれよあれよという間に集まってきた。一人だけに食わせておいて、他の子を放置という訳にもいかず…その日の稼ぎが露となって消えたのは言うまでもない。

 

 んで派閥という訳ではないが、そう言ったストリートチルドレンと交流が少しだけ出来たという訳だ。もっとも基本鉱山にいるので会うことはめったにないがな。偶に飯おごって他のとこの情報を聞いたりする程度の付き合いだ。既に習慣になりそうだけどな。

 

―――日本人だった性なんだろうかね。なんかほっとけなかったんさ。

 

「そう言うマスターさん、あなたも密かに残飯を多く捨てたりしていたじゃないですか」

「…早く行け、こっちは忙しい」

「おや、別に恥ずかしいことではないと思いますが?」

「……出入り禁止にされたく無かったその胡散臭ぇツラをひっこめろ」

「フフ、これは手厳しい。では胡散臭い人は退散させてもらいますか」

 

 きらりと光る笑顔を見せたのに胡散臭がられた。ああん、ひどぅい。まぁ何時も通りに台車にのって運ばれてきた麻袋を背負い酒場から出ようとした。だがその時、入口のほうが妙に騒がしくなる。何だと思い振り返ると人だかりが出来ていた。

 

「昼間っから酒を飲むとはいい度胸だなクズども!」

 

 ゲェ、監獄所長のドエムバンだ。何で監獄惑星所長が護衛付きとはいえ囚人の酒場に来るんだよ。俺はいそいそと身をちぢこませ目立たぬように座る。アレに目を付けられるときっと煩いにちがいないのだ。

 

 身を小さくしている俺とは対照的に、恰幅の割には割と背の低い所長は少しでも体を大きく見せようとしているのか、はたまた偉いんだぞと体現したいとでも言わんばかりに身体を大きくのけぞらせ、口を開いた。

 

「よいか。このドエムバン・ゲス様はちっとの酒くらいは大目に見てやる慈悲をもっておる…。―――が、その酒が少しでも明日の労働に差し支えるようならタダじゃおかんぞ!貴様らは囚人でクズだ!このラーラウス収容所に入れられていることをわすれるな!」

 

 酒場の中は静まり返っているが、特に動揺している風には見られない。ふむ、どうやらドエムバンはときおり囚人いびりにやってくるようだな。俺は基本的に鉱山で美しい汗をかいたあとは部屋に直帰して酒場には物資補給の際にしか来ないので、これまであわなかったのだろう。

 

 周囲をいっかつし囚人たちが黙ったのを見て、如何にも俺様の威厳ですと言わんばかりのドヤ顔を晒す愚鈍な男ドエムバン。回りが黙ったのはただ単に絡まれると独房とか拷問部屋行きなど面倒臭いことばかりだからなのだが…。

 

 まぁ入口付近に立って目を光らせているブラスターで武装した監守がいれば、下手に反抗したりする輩はいないだろう。武器を向けられた人間は大抵竦み上がるし、この時間帯に酒場にいるのは小賢しく稼いだり、監守に賄賂を贈っている連中ばかり。

 

――反抗する気も起きないだろうよ。

 

 さてドエムバンはその後も適当に酔客の間を縫うようにして歩く。よく見たら手を後ろにかざしており、そこに偶に酔客の手が重ねられる時があった。そして何と言うことでしょう。短い指をしたドエムバンの手の中に光る貴金属が。賄賂ですね。判ります。

 

 なるほど、定期的に来るのはそう言うことか…つーかどうやって貴金属を手に入れてるんだと思ったが、考えてみれば密輸的なことをしている人間もいるのだ。別の監守にマネーカードで賄賂渡して、所長にはおべっかがてらの貴金属の賄賂を贈る訳だ。

 

 なんとも、ここラーラウスの監守たちはいい思いしている訳だ。管理棟に潜入した時に妙にワインとか酒の種類が豊富だったのはそう言うことか。本当いいご身分だぜ。監守は搾取する側でこっちはされる側ということなのか。民主主義はどうしたと内心叫んでみる。無駄だけど。

 

 んでドエムバンの賄賂回収が早く終わらんかとちらりと視線を向けると―――

 

「……ん?貴様っ」

「………(やっべ、目があっちまった)」

 

 目と目が合う~♪なんて綺麗なもんじゃなくて、もっとおぞましい感じをうけた。おっさんの油ギッシュな眼は気色悪い。まぁ一つしかない出入り口陣取られて逃げられない中、近づいてこられれば見つかるよな。

 

 そしてドエムバンは獲物を見つけたとばかりに俺をジロリと睨みつけてゆっくりと此方へと歩いてくる。本人は肩を揺らしてイメージはマフィアのボス。見ているこっちからすれば素焼きの狸が歩いてくるようにしか見えん。

 

「まさか、こんな所で会えるとは思わんかったぞ。ユーリ」

「これはこれは。名高きドエムバン所長に名を覚えて貰っているとは」

「くふふ、余裕なのも今の内だ。我が血を分けた兄弟の恨み。ここで晴らしてくれる。そうだな。とりあえず――」

「――ガッっ!」

 

 ドエスバンは大きく振りかぶった腕を振り下ろす。俺は大げさにワザと吹き飛んだ。いや痛くないんだけどさ、そういうの見せるともっと酷くなるのは定番だしね。

 

「――ラーラウスに来た歓迎だ。お前のようなクズは一生ここからは出られんぞっ!」

「………ウぐっ」

 

 俺が無様に転げ落ちたところを更に短い足で蹴りあげるドエムバン。鉄か何か入っているだろうかたいブーツだったが、鍛えられた筋肉を引き締めていたのでダメージはない。ただ地味に食い込んでほんの少し痛かった程度だ。

 

 うん、ダメージはないんだ。ただ黙ってやられるのが癪な程度。ヤダねぇ勝ち誇った顔なんぞ晒しちゃってさ。へどが出るぜ。だが、この様子だと俺がトトロスと一緒に管理棟に侵入したことはバレてなさそうだな。

 

 その後も執拗に蹴り続けるドエムバンだが、息を切らせている上につま先を少し引き摺っていたあたり、どうやら蹴り過ぎで痛めたらしい。対する俺は鍛え方が違うので無言で蹲って見せていた。それに満足したのか汗を拭きながら高笑いして出ていくドエムバン。ウゼェ。

 

 

***

 

 

 酒場を後にし、やってきたはゴミ捨て場近くの広場だ。ゴミ処理施設に放り込む前のゴミが山積みにされている集積場であり、ストリートチルドレンの稼ぎ場所の一つである。若干匂いが酷いが慣れればそれ程でもない。

 

「やぁ皆さん。配給ですよー」

「あ、ユーさんだ!」「ユー来た!」「ユゥ兄来た…」「これで勝つる!」

 

 そして俺の声を聞くと何処からともなく顔を出して集まってくるストリートチルドレンたち。すでに顔を覚えられているので、それ程警戒はされていないようだ。飯を配って歩いた甲斐があったというモノだろう。

 

「え?いや何時も並んでと言ってるでおばっ!?」

 

俺の腹や胸や股目掛けて飛び込んでくる色とりどりの隕石(コメット)たち、岩盤を素手で破壊できる俺も十数名のフライングアタックの前では無力だ。おおユーリよ、死んでしまうとは情けない…がっくし。

 

「ちょっと、食べ物くれるなら早く頂戴よ」

 

 死んでも食い物入った麻袋を手放さなかった俺をげしげしと足蹴にする10歳くらいの金髪の少女が冷めた目で此方を睨んでいる。よっぽど腹をすかせているらしい。まぁ定期的にパンを配ることは週に一度だけだしな。稼ぎがないヤツはつらいだろう。

 

 俺は大量のパンが入った袋を年長組に投げ渡す。向うも理解していて数人がかりで持ち上げると封を解いて既に並んでいる集団に手渡していく。一人一個は確実な数ある筈だ。その間に寸胴鍋へ運んできたポリタンクの中身をぶちまける。中身はスープだ。

 

 流石にパンだけじゃ味気ないだろうし、栄養も偏る。ちなみにコンソメではなくポタージュみたいなどろどろに具材が溶けた栄養価だけは高いスープだ。酒場で金が飛んだ理由はこれだったりする。だが無駄な投資ではないと踏んでいた。

 

 なぜならストリートチルドレンは色んな情報を持っているからだ。それこそ情報通を気取るトトロスみたいに深い情報はないが、広くて浅い噂のような情報ばかり。彼らは何処にでもいるし、何処にいてもなにを聞いていても無視される。

 

だがそれが役に立つこともあるという事だ。例えば―――

 

「ほう、ドドゥンゴの勢力がまた盛り返していると」

「あいつ等腕っ節だけは強いから闘争が起きると大抵相手を吸収しちゃうんだよ」

「でもあいつ等嫌い、ボクたち殴る…また人が増えてた」

「あ、そう言えば新しい定期便来たんだって。やったねラーラウス、囚人が増えるよ」

「「「おい馬鹿やめろ」」」

 

―――とまぁこんな具合にね。

 

 玉石混合、くだらない情報でも価値はある。多少すれていても子供は子供。基本的な情報は忘れたりしない限りは大抵が聞いたままを話してくれる。意図的に騙すつもりもないだろう。俺以外にストリートチルドレンと渡りを付けているヤツはいないからだ。

 

 そんなこんなで話を聞いていたら、ちょっと気になる話があった。何でも今度来た囚人に少年を連れた老人がいたらしい。監獄惑星に高齢の人間が来ることは非常に珍しい。厳しい生活環境の中で老人の体力が長く持つことはなく、大抵すぐ死んでしまうからだ。

 

 だが鉱石採掘を奉仕活動のような形で囚人たちにさせているので労働力が死ぬことはラーラウス監獄惑星は望まない。だから普通は手工業や機械操作などを労働に当てている監獄惑星に護送されるのが普通なのだが…ふむ。

 

 俺は残りの食い物を渡して彼らの元をさった。彼らから貰ったこの情報が気になったからだ。この時期に“少年”を連れた監獄惑星に来る筈のない“老人”に少し心当たりがあったからである。まだ覚えていた原作知識、役に立つか判らんが賭けてみたのだ。

 

 

 

 という訳でやってきたのは俺が最初に入った鉱山である。出戻りでもない限り監獄初心者はここに送られてくるので、会えるとすればここしかあるまい。ここで重要なのは地下に続くエレベーターは朝と夕の2回しか運航しないということだ。

 

 別に入口で待っていてもいいのだが、なんのヒマつぶし道具もない監獄では流石にきつすぎる。携帯電話でもあればインターネットとかにつなげられるのになぁ。まぁない物ねだりは見苦しい限りなので、酒場で待つか入口で待つかの2つが普通の選択肢だ。

 

―――だけど俺は、折角なので第3の選択肢を選ぶ事にするぜ。

 

 昇降機がある入口から脇に300mほどあるいた場所。俺は無造作に積み上げられた岩石を退かしていく。するとしばらくしてぽっかりと地面に開いた穴が見えてきた。何てことはない、コイツは俺が作った地下への隠し通路の一つである。

 

 いやね?坑道の中で朝夕待つっていうのが結構苦痛だったから、有り余るパゥワァを用いて、こうちょいちょいっと…結構便利なんだぜ?昼飯時に回りを気にせずに酒場に戻って温かい飯にありつけるのってさ?

 

それはさて置いて俺は地下坑道へと続く下降トンネルを降りた。アリの作った坑道がこんな感じなんだろうか?見たことないから判らんけど、デコボコであまり歩き心地は良くない。自分で造っておいてなんだが、今度時間あれば手直しがしたいと思う。

 

そんで自力で開けた坑道を通り、自然洞窟を抜け、既存の坑道まで来た時、その会話は聞こえてきた。

 

「ごほっ、ゴホ…ウォルや、大丈夫かのう?」

「(ふるふる)…し、師匠の方が、心配…最近は体調が良くないし、だから僕が持つ」

 

 見れば坑道の向うから鶴嘴とシャベルを担いでいる少年とせき込んでいる老人が歩いてくるのが見えた。そして少年のことを老人はウォルとよんでいた。十中八九ビンゴでありドンピシャリという訳だ。ヒャッハァー!新鮮な老人と若造だぁ(?)

 

 …長く監獄の空気に触れすぎたカモしれないな。

 

「ん?だれぞおるのか?」

 

 変な方に思考が逸れている内に結構近くまで来ていたらしい。少年は気が付いていないようだが老人の方が俺に気がついたようだ。気配察知と軍師資質が関係あるかは置いておくとして、流石は老いてなお小マゼランでは知将と呼ばれていたことはある。

 

「お久しぶりです…」

「む…おお!お主は…」

「あ、あなたは…!」

 

 流浪の名軍師ことルスファン・アルファロエン。俺達からはルー・スー・ファーと呼ばれていた老軍師と、ルーの最後の弟子で軍師の才を持つ少年ウォル・ハガーシェ。小マゼランで一時別れた彼らとの再会は、なんとも埃っぽい場所で実現したのだった。

 

 というか老人なのに地下鉱山によこすとかあり得ねぇだろう。常識的に考えて…って常識が通用してたなら、俺は未だに0Gドックしていたか。なんとも世間というのは世知辛いもんであるな。面倒臭いことこの上ない。

 

「うぅ、ゴホゴホっ」

「し、師匠…!」

「……とりあえず、上に上がりますか。ここはいささか、御老体には差し障る」

 

 俺は秘密の地下通路を通り、彼らを地上へと連れ帰ったのだった。

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

 連れ帰って、何故この監獄に来たのか理由を聞いたところ、彼らはいち早くヤッハバッハという侵略大国の存在に気が尽き、客将として軍師をしていた頃のコネを利用して、マゼラニックストリームから脱出するクー・クーの船団に潜りこむことに成功したらしい。

 

 そして大マゼランに辿りついた彼らは、この2年の間を小マゼランを襲った悲劇を大マゼランに伝えようと各地を翻弄したが、ヤッハバッハに関する混乱を防ぎたい国家からの情報統制により全てを虚偽とされ、騒乱を起そうとした罪で捕らえられてしまったのだそうだ。

 

「――で、老師は体調を崩された。そう言うことか」

「は、はい…」

 

 小マゼランから大マゼランへの脱出劇。それはクー・クーの案内があったにも関わらず思っていた以上に厳しいモノであったらしい。何せ輸送船はクー・クーが欲を出して詰め込んだ財貨や商品のコンテナでぎゅうぎゅう詰めであり、居住区も圧迫していたそうな。

 

 その所為で長旅による体調不良者は続出していたし、苦労して荷揚げした商品も実のところ大マゼランでは旧式であったり型遅れである物が多くて高くは売れず、クー・クーは結局のところ失脚し、財と信用をすべて失い大マゼランの親類の元へと駆けこんだそうな。

 

 小マゼラン随一とまで呼ばれた巨大バザーを牛耳っていた守銭奴ババアの最後としては意外とあっけないものである。それはともかくとしてその所為でルーは体調を崩しており、本来なら空気のいいところで静養するのが吉なのだと医者に言われていたらしい。

 

 しかし、そうなるとここでは絶望的だな。空気の悪さは肺に入れている空気と周りの雰囲気の両方の意味で最悪。静養のセの字も不可能であることは間違いない。精神的にも肉体的にも最悪な環境なのだし、絶対に老師の体調は悪化する。間違いないね。

 

「――まぁ、ここで会ったのも何かの縁。この部屋は自由に使うといいです」

「何から何まですまんのう。ほれウォルも礼をせんか」

「あ、ありがとうございます。ユーリさん」

 

 とりあえず二人に“ちょうど空いた空き部屋”に入ってもらうことにしよう。前の持ち主?先日起きた闘争に巻き込まれて死んでますよ。ここじゃあ日常茶飯事なので今更だし気にしない。一々気にしてたら禿げちまうからな。

 

 二人はたいそう俺に感謝していた様だが、さりげなく家具で隠れている血痕とかについては聞かれるまで黙っておこう。住めればいいのだし、ここでは一々気にしてたら身が持たないさ。習うより慣れろって素晴らしい言葉だよな。

 

 俺はその後も適当に久々に会った二人との会話を楽しみ、就寝時間がきたあたりで自分の部屋に戻る為に部屋から出た。そしてそれから二日ほどが経ち、俺はルーたちに管理棟へと続く坑道の存在、そして管理棟で見つけた自艦隊のフネのことを打ち明けた。

 

聡い老師はこのあからさまな在り様を知り、どう考えても罠じゃなと一言呟いていた。それには俺も同意しておいた。普通囚人から奪った宇宙戦艦をその囚人がいる監獄に、わざわざモスボール処置まで賭けて保管何てする訳がない。

 

な~んかきな臭い理由が背後に見え隠れしていてこっちとしては気分がよくないが、これに乗らないと脱出出来ないこともまた事実。なるほどわざわざ舞台を用意してくださっているのだしそれに乗らない手はないだろう。

 

そんな訳で金さえ払えばそれなりに信用が置けて、尚且つ昔フネを扱った事がある元0Gドックの募集を密かに開始した。フネを運航できるという篩 (ふるい)があったので、集めることに苦労したが、その苦労は並大抵のことではなかった。

 

幾らユピテルコピーたちにより自動化されていても、運行するためには指揮する人間が最低8名必要であり、言いかえればそれだけいなければあの艦隊は動かせない。そうなるとさらに人員は制限されるのだ。

 

 バイトで貨物船に乗ったが実は海賊船で一緒に捕まった人とか、フネで船医してたがアルコール依存症の所為で医療ミス起こした人とか、もと戦闘機乗りで自称撃墜王とか、非常にクセの強い人材は集まる癖に、艦長のような指揮を行った人間は圧倒的に少ない。

 

 なにせここは囚人が住まう監獄惑星だ。全員何かしらの罪を犯した人間で、その中でもクスリとか依存症とかがなくて比較的まともな判断力を持つ人間の方が少ない。辛うじて集まった人材も僅か4名しかいなかった。

 

しかも内2人が博打でフネ取られた挙句密輸が発覚した輸送艦隊で艦長やっていた凡人で、残りは海賊と着たモンだ。前者は金だけで済んだが後者は抜け目なく報酬として脱出したあかつきにはフネごとよこせと催促された。

 

 ネビュラスなどの戦艦クラスに関しては、武装にデメテールで発見された一部ロストテクノロジーを応用している為に、海賊に戻るかもしれない連中に渡すことは拒否したが、ルーの爺様を交えた交渉の結果巡洋艦で妥協してくれるということになった。

 

マハムント級巡洋艦を囚人たちに渡してしまうのはもったいない気もするが、脱出を手伝わせる以上対価は必要である。とはいえマハムント級の武装はホーミングレーザー砲を除き基本高性能だが大マゼランの機材とそれ程性能差はない筈だ。

 

どうせ拿捕された際に調べあげられているので技術漏えい云々とか考えても今更である事だし、マハムント級に搭載されているユピコピは脱出した際に基幹プログラムごと破壊する命令を、白鯨艦隊最上級指揮権保持者権限で出すことにした。

 

HLの運用にはデフレクターによる重力レンズ空間展開の技術が求められる上、通常の統合AIでは専用のプログラムが必要であり運用する事は先ずできない。機関プログラムごとユピコピが消えたマハムントは少し特殊装備付きの巡洋艦に戻るのである。

 

多少汚い気もするが素直に渡す何ぞ一言も交渉では述べていないし、あちらさんも隙があれば撃つ気満々のようなのでお互い様だろう。犯罪者に必要とはいえフネを譲るのだし、これくらいは大目に見て貰ってもいいはずだ。

 

「ふぉっふぉ、意外と悪徳なったようだのう」

「いえいえ、ただ小賢しくしているだけッスよ~」

「ふむ、やはり喋り方はそっちが地かの?」

「直そうとはしてるんですけどねぇ…」

 

さてさて、そういった見つかるとヤバいことを計画しつつも、表面上は監獄に囚われた囚人として生活せねばならない。とりあえずルーとウォルには自分の食い扶持を稼いでもらわなければなるまい。おんぶに抱っこというのはその時は良くても後に障害になるでな。

 

とはいえ結構な高齢者であるルーには鉱山で穴掘り何ぞまず無理だ。というか軍師系なので総じて体力がなく、晩年の諸葛亮孔明の如く病気に掛かっているので無理が出来ず、しかたなく持てる伝手を用いて彼が出来そうな仕事を斡旋してやることにした。

 

まぁそれくらいなら俺にもできらぁな。マスターとか情報通トトロスの手を借りればな。あとは彼らに任せれば少なくても死ぬような労働環境に放り込まれることはないだろう。多分、きっと…めいびー。

 

それはともかくウォルはまだまだぴっちぴちの十代で若いので、俺は彼を鍛えると同時に、共に鉱山で管理棟へ続くルートの拡張を行うことにした。流石に毎回クレバスを通るのはキツイので、簡単に通れるように穴を掘り、少しづつ資材をもってきて補強し崩落することを防ぐことにしたんだ。

 

基本は一人作業だったけど、トトロスの伝手で金さえあれば信用が置ける人間を集めることに成功し作業は予想以上に早く終えることが出来た。知り合ってから数カ月だが、トトロスというこの男は実に使いやすい。

 

知りたい情報をすぐに仕入れ、色んなところと伝手を持ち、まるで今までも上司から使いッパシリをされていたような感じを覚える。いやパシリではないな、パシリを越えたパシリ、パシリオブパシリの称号がふさわしいだろう。

 

そのこと伝えたらマジ泣きして止めてくれって泣き付かれたが、まぁ口では言わないが俺の中でのトトロスの評価はパシリオブパシリで確定しているので今後変わることはないかもしれないな。あ、マジでへこんでらゲラゲラ

 

 

 それはさておきウォル少年については流石にひょろすぎたので、少し鍛える為に俺の作業に付き合わせた。日給はノルマ以上のジゼルマイト鉱石で師匠と二人で贅沢しなければ3食を食べておつりは出せるくらいのモノを渡しておいた。

 

 最初はやはり軍師キャラの宿命と言えばいいのか体力が全然なかった。(もっとも岩を軽々と粉砕する俺と比べるのも酷だとも思うが…)その為鉱山式ブートキャンプを行ってひょろひょろから脱げばすごいレベルにまで到達することに成功する。

 

 もっとも生前の俺と同じく筋肉が付きづらい体質であり、服装がローブに近い空間服姿だったので外見は全く変化なし。生来の気弱さの所為で監獄という閉鎖環境では四苦八苦しているようだ。囚人から見れば彼はネギをもったカモに見えるんだろうな。

 

 しょうがないので派閥に引きこんだ…というか最初から派閥のメンバーだな。よく言うだろう?3人いれば派閥が出来るって…意味が少し違いそうだが、少人数でも組織を作れればそれは派閥となる。結局俺も派閥組って訳だ。くわばらくわばら。

 

 その所為かドドゥンゴからケンカをよくフッ掛けられる様になった。当然俺は逃げられる時は逃げた。一々相手にしている時間はないしキリがないからだ。とはいえ、向うからすれば面白くないらしく、不戦勝で199回向うが勝ち越しとなっている。

 

 はいはい、勝手に勝った負けた言っていてくれと俺は言いたい。たかが収容所で満足できるタマならそれがお似合いさ。俺は当然満足何ぞ出来ないので、ここから脱出させてもらう。ああ、後少し…後少しでココから出られるかな。

 


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