【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第三章+第四章

 

とりあえずチェルシーを助ける為に、罠だとは知りつつも戦艦アバリスの進路を一時惑星ロウズに向けた。ある意味で俺のプライベートな事態と言える事件だが、この事をウチのクルー達に話したら普通に救出に賛同して協力してくれるという。

これまで一星系に閉じ込められてきた鬱憤と、妹さんを助けるという人助けの大義名分でデラコンダ相手に大立ち回りが出来るとくれば、協力しない手はないそうな。もうちょっと反対意見の一つでも出るかと思っていたんだがこれは予想外。

 

流石のトスカ姐さんもこの事態は予期して無かったらしく、俺の顔見ながら、あんたの仁徳のなせるワザかねぇ~と呟いていらっしゃったけど…俺って仁徳あるのかな。正直、自分のまわりさえ楽しければ、後はどうなっても良いっていう快楽主義者なんだぜ。

でも、その事をトスカ姐さんに言ったら何故か溜息をつかれた。自分を卑下しすぎだってさ。う~ん、そんなつもりはなかったんだがな。実際好き勝手やってるんだし、嘘ではないのだ。クルー達も巻き込んでるしね。

 

「――艦長、そろそろ惑星ロウズの宙域に入ります」

「ん、了解…あ、そろそろ警戒レベルあげといてくれるッスか」

「アイサー」

 

今回はきっと大規模戦闘になるだろう。戦死者出ちゃうかも知れないなぁ…。

 

「どうしたんだ。艦長が戦闘前に溜息なんて吐くんじゃないよ」

「トスカさん…」

「仮にも艦長なんて重たい看板背負ってんだ。そんなヤツが不安そうにしてたら士気が下がるだろう?前にも言ったじゃないか」

「こういう時は不敵にしてろって事ッスね。いや、俺が溜息ついたのはソレだけじゃないんスよ。圧倒的に人員不足だなぁと」

「仕方ないだろう。慣らし運転もそこそこにここまで来たんだ。途中でステーションによる暇なんて無かったよ」

「お陰で乗員の殆どがドロイド……」

「ま、自律行動が殆ど取れないドロイドだけど、命令さえ下しとけば殆ど間違いなく実行してくれるよ。まだ慣れてない内はむしろそっちの方がいいんじゃないかい?それに最終的な判断はユーリ、アンタが下すんだ。生きるも死ぬもアンタの判断の速さにかかってるって事、忘れんじゃないよ」

 

そう、アバリスは性能こそピカイチだが、その実クルーの大半は航法ドロイドだったりする。いや本当は人間を雇いたかったけど、やはりロウズ自治領じゃデラコンダの信者が多くて、駆逐艦を動かせる程度の人数を集めるので精いっぱいだったんだよねコレが。

それでもまだ募集とかかけてみたけど、基本的に公に出来ない募集なので集まりが悪い。幾らアビオニクスが発展していても人が動かすフネなので200数余名では運行に支障が出てしまうのもしょうがない事なのだ。だから、アバリスに旗艦を変えた時に増えた運用最低人数の補充分は全部ロボット…航法ドロイドなのである。

 

一応は通商空間管理局が提供してくれるサービスで借りられる高性能AIドロイドなので実質フネの運行自体で問題はそうは無い。けれど、やっぱり人間の方が臨機応変に自体に対処できる上に成長というファクターが加わる分、そっちの方が断然良いのである。

ちなみにAIドロイドはこれまた原作OPムービーでフネの操艦を担当していたあの黒いド○ネーターみたいな無機質なロボ。俺んとこだとブリッジには居ないんだけど、機関室とかそういった重要だけど危険な所に集中して配備してある。何でかって言うと、あいつ等の声って機械音すぎて俺には聞き取れないんだわ。

 

「艦長レーダーになんか沢山の浮遊物の影があるわ~、多分領主側の探査衛星~」

「ジャミングは?」

「数が多すぎて、正直のぞみ薄~」

 

 どうやら領主デラコンダは思っていたよりも慎重な人の様だ。手元のコンソールに送ってもらったレーダーには、探査衛星のモノと思われるグリッドがウジャウジャ…さすがの軍用EA装置でも単艦のではこれだけの数を誤魔化すのは無理ぽ。

 

「エネルギーの無駄だし、ジャミングは切っといてくれッス」

「了~解~」

「艦長、デラコンダからの長距離通信が来ていますが…」

「うん?解った、別のモニターに出してくれッス」

「アイサー、3Dホログラムモニターに投影します」

 

ふむ、まだレーダー範囲に入ったばっかりなのにすぐに通信か。普通ならすぐにでも攻撃してくるのがセオリーなのによっぽど自信があるんだな。普通自分の領内で警備隊相手に大立ち回りした俺達なんて海賊と同レベルに思うだろうにわざわざ通信を入れてくるんだからな。

すこししてブリッジの真ん前にある長距離通信用ホログラムモニターが光りを放ち、ブリッジ内部にて一つの形となる。それは人の形をしており、それによって映し出されたのは……メタボでアブラギッシュな…スキンヘッドのジジイ…。

うわぁ写真で見たヤツよりも実物キモイ…広報の写真って加工してあったのかよっ。

 

『貴様がユーリとかいう、我が領内法を破り我が物顔で我が領内を混乱させた0Gドッグか…まだ青臭い小僧ではないか』

 

 当然といえば当然なのだが、通信の相手は友好的という感じではない。あっちにしてみれば俺はテロリストとかに見えているんだろう。

だが、自治領を持っている領主は領内のゴタゴタは自力で解決すべしという法律がある。そのお陰で俺は例えここであの領主を消滅させても、領主の力不足という事でロウズ星系以外では罪に問われない。覚悟は決めた。ならソレを押し通すのみ。

 

『だがお陰で末端の警備がサボっているという事実も判った。ついでに貴様らが無用な殺戮をする様な輩でも無い甘ちゃんだという事もな。巨大なフネまで造りあげたようだがそんな暴挙もここまでだ……領主デラコンダが命じる。武装を解除し、投降せよ。さすれば命だけは助けてやろう』

「命だけはッスか…だが罪には問われると?」

『むろん。我が領内の平穏を脅かしたのだ。そうだな、今ならロウズ星系のスワンプ星でのレアアース採掘10年間でいいだろう。稼いだ分は税金で差し引いた分以外貴様らにくれてやる。悪い話ではあるまい?ん?』

 

 スワンプ星って言ったら沼地だらけっていうか沼地しかない湿度100%の湿地惑星で、通常の航路図にすら載ってないような辺境中の辺境だろ?確かにレアアース採掘はそれなりに良い稼ぎらしいけど、こういう場合そういうのは体のいい島流しって言うんだよおっさん。

 

「そいつはどうも。だけど俺達はそんなカビ臭いところに移住する気は毛頭ないッス」

『それは残念だ。優秀ならば部下にと思ったのだが』

「冗談、辺境に幽閉されて一生終わるのがオチッス。第一0Gドッグは自由の宇宙航海者ッス。そんな事も忘れちまったッスか?苔生したお地蔵さん」

『…………どうやらダークマターになりたいようだな。若き者よ?』

 

 ミシリと、ホログラムに映るデラコンダの額に太い血管が浮かぶ。こ、怖い。

 

「あ、いや…手加減して欲しいなぁなんて…ダメッスか?」

『フッ、0Gドッグを名乗るもの、これくらいで怖じ気づいてどうする?だがまぁ、最後の警告だ。黙って戻るなら今の内―――』

「だが断る!」

 

ズギャーン、命令すれば思い通りになると思っているヤツにNOと言ってやる!―――いや一度言ってみたかったんだよねコレ。兎に角、どうせ俺達は領主法から真っ向に否定する主張を曲げないんだから、堂々と戦おうぜデラコンダ……チートな戦艦もってるヤツの言う言葉じゃねぇけどさ。

 だが俺のモノ言いが癪に障ったのか、さらに頭部の血管が太くなるデラコンダ。あーうん、俺が言うべき事じゃないけど、血管切れない?それ。

 

『ふ、ふざけおって!絶対に沈めてくれるわ!全艦体攻撃準備!』

「あ!その前に妹の……チェルシーは無事なんスか?!」

『チェルシー?……ああ貴様の身内だったか。ふん、ワシとて元は0Gドック、地上の者に危害を加える事は無い。ちゃんと空間通商管理局に監禁してあ――』

「でも誘拐して監禁した時点で危害加えてるんじゃないッスか?そこんとこ道なんスか?」

『………………≪ブツ≫』

「――通信、一方的に切られました」

 

((((逃げたなアレは…))))

 

 

図らずとも俺とブリッジクルー全員の心がシンクロした瞬間だった。

 

* * *

 

「ロウズ軌道上に敵艦~!数は……4、6…計8艦隊~!」

「解析中――周囲4艦隊は水雷艇クラス、直掩艦隊は巡洋艦クラスのグロリアス級、艦隊の中央に一際大きなインフラトン反応を確認、エネルギー総量から考えて敵旗艦グロリアス・デラコンダ級の様です。モニターに投影します」

 

惑星ロウズを背景に上下ひし形布陣で展開しているデラコンダ艦隊。巡洋艦クラスの大きさがあるデラコンダ艦が艦隊中央に布陣し、他の艦は当然ながら中央の旗艦を守る布陣である。前から見ればひし形だが上や真横では三角に見えるあたり立体的な布陣であると言える。

コンソールでデータを手元のサブモニターに呼び出す。

この敵の旗艦、グロリアス・デラコンダ級は元0Gドッグで現エルメッツァ辺境宙区領主デラコンダ・パラコンダが独自に設計し建造した軽巡洋艦であり、そのもっとも大きな特徴は左舷に取り付けられた本体の倍の大きさはあろうかという巨大レーザー砲である。

右舷側にはカウンターウェイトを兼ねた三本の大型エネルギータンクが束ねられており、それを中央船体のウィングブロックで固定している。その上には主機関部と艦橋が置かれ、船体最下部には標準的なインフラトン機関が補機で備えられている。ある意味で三段空母ならぬ三段軽巡洋大砲艦という見た目であった。艦種混ぜ過ぎだろう…。

 

もっとも、左舷側の大型レーザー砲以外に兵装は見当たらず、どれだけその大型砲に自信を持っているかが窺える。恐らく生半可な威力ではなく並の船なら掠っただけでも一撃必殺の威力があるであろう。そうでなければ直接通信できる距離までこちらを近づけさせなかった事だろう。

アレだけの大砲だ。射程もきっと長いに違いない…俺ならアウトレンジからどーんするけどね。対するこちらも大型砲はあるにはあるが、連射性を考えてなのか威力はほどほど…お陰で策もほぼ無しに敵陣深く突っ込まないといけない。数が違うのだから電撃戦をしかけないとジリ貧となるからだ。

 

「敵艦距離そのまま。本艦の有効射程まであと6000」

「戦速そのまま!全艦砲撃戦用意!全砲門開口!照準、敵前衛艦隊!アバリスのマニューバと発射のタイミングを合わせろっス!中央突破して電撃戦で旗艦を落とす!」

「すでにこっちは相手に見つかってんだ!堂々と正面からくらいくよ!弾の出し惜しみするんじゃないよ!相手をタンホイザーに叩きこんでやれッ!」

「「「「了解!」」」」

 

今回作戦はただ一つ、正面から押し切る、コレに尽きる。

 

もうチョイ他にフネがあれば前衛後衛なり艦隊を組めばよかったんだけど、瞬間速度はともかく巡航速度で劣るアルク級じゃアバリスについていけないから後方に下げてしまっている。元より敵の数が予想していたよりずっと多いから通常駆逐艦と変わらないアルク級のクルクスでは役者不足だ。

硬い装甲がある訳じゃないし、露払い出来る程の数もいない駆逐艦を前に出したところで意味なんて無い。エネルギーと物資の無駄になるし、あれでもほんの少し前に建造した一番最初の乗艦なのだからブッ壊すのも忍びないというのもある。まぁ要するに勿体無いの精神が働いたという訳だ。

 

一応、敵艦隊の前衛は今まで戦って来た警備艦隊が使っている水雷艇と種類が変わらないからなんとかなるだろう。計算上では連中のレーザー砲は此方のAPFシールドを貫ける程の出力は出せない踏んだ上での作戦とも呼べないお粗末な作戦…参謀か軍師が欲しいなぁ。

まぁそれに考え無しで突っ込む訳ではない。グロリアス・デラコンダ艦が持つ巨大レーザー砲が直撃すればいかな大マゼラン製の戦艦でも損害は免れない事だろう。だが科学班のサナダ班長の解析報告によると、あの大砲は次弾までのチャージにかなり時間が掛かるそうだ。

当然こちらだってロックオンされているのだし回避は難しい。だが発射しようとすればエネルギーの集中を探知できる筈。それを元に各部核パルスモーターを使用したT(タクティカル).A(アドバンスト).C(コンバット)マニューバを全開にした回避運動を取れば、発射されてもギリギリで回避可能だ。

 

―――あとは、ウチの操縦士の腕を信じる他ない。ちなみに俺は信じている。

 

「第一、第二各砲塔照準完了、発射準備完了だ!」

「敵レベッカ級加速開始、急速接近中です~。でも何か艦の挙動がおかしいわ~」

「あれま…なんか戸惑ってるって感じッスね」

「まぁレーダーで見るのと実物を近くで見るのじゃ違いもあるもんだよ。ユーリ」

 

やっぱ驚いてるんだろうなぁ。何せこの間まではウチは只の駆逐艦一隻だった。デラコンダもだからこそ俺達を放置していたんだろう。主力を出せばすぐに捻りつぶせると思っていたから。なのに戦力揃えて迎えてみれば来たのはこんな辺境に現れるとは思えないような大型戦艦だったんだからね。

大きさで判るかと思っていたが、そう言えば小マゼランにはビヤット級という全長1200mはある大型の輸送船があるから、もしかしたらアバリスをその輸送船を改造したか何かの張りぼてだと考えたのかもしれない。だがふたを開けてみれば現れたのはこの近辺じゃお目にかかれない戦艦、それなんて無理ゲー?

デラコンダ本人は虚勢なのか、それとも本当に大丈夫だと思っているのか、さっきの通信であまり動揺はしていなかったけど、末端の兵士までは動揺を抑えられないみたいだ。コイツはチャンスだぜ。前の駆逐艦だったらあの戦力相手にも苦戦しただろうけど、この船なら…。

 

「艦長、敵艦から一応降伏勧告来てますけど、どうします?」

 

敵の部下さんも大変だ。命令された以上命令を実行しなきゃならない。

まぁココはあの方を肖り、あの有名なセリフを言ってやることにするかね。

 

「バカめ…と返信してやれ」

「アイサー。――こちら戦艦アバリス“バカめ”以上――」

 

よし、艦長になったら言ってみたい台詞を一応言えたぞ!

全然シチュエーションは違うが関係ない!言えたんだから満足じゃ!

でも敵さんのエネルギーレベルが上昇っと…やっぱり屈辱なのかね?

 

あ、そうだ老婆心だけどコイツも言っておこう―――

 

「あ、ミドリさん。進路妨害しなければ見逃すってついでに言っておいてくれッス」

「アイサー、そのままの言葉を通信で送ります」

 

―――こうして、デラコンダ艦隊との戦闘が始まった、ロウズ上空戦である。

 

 

……………………………………

 

…………………………

 

………………

 

「さて…砲雷班長ストール!」

「はいよ艦長ユーリ!」

「砲撃開始ッス!敵を蹂躙せよッス!」

「はいさー!ポチっとな!」

 

打てば鳴る様な掛け合いで命令を下す。それに合わせ砲雷班の班長ストールが、自分の席のコンソールの発射スイッチを押した。強制冷却機の音が艦内に響き、上甲板の一番とニ番砲塔から、本船から見てやや右舷側上角の敵艦へとレーザーが発射される。

 

「艦首軸線大型レーザーとリフレクションレーザーは前方を塞ぐ艦を狙え!――良し撃ぇ!」

「はいよ……照準よろし、ポチっとな」

 

ちなみに何故ストールがポチっとなと言ったかというと、俺が良くポチっとなと言ってスイッチ押していたのを聞いて、何と無くフレーズを気にいってしまい使う様になったらしい。いやまぁ、イイ感じに緊張がほぐれて良いんだけど…なんかしまらないなぁ。

 

「第一射、敵第一防衛ライン前衛艦を撃沈。軸線砲およびRレーザー砲、障害となる艦に命中、敵艦中破。敵の後続艦に離脱艦が出た模様、混乱してます」

「よし、続けて第二射――「直庵艦隊とデラコンダ艦のインフラトン反応が急速に増大中、発射の予行かと」ちぃッ!回避運動っ!!」

 

第二射を発射しようとすると、ミドリさんが後方にいるデラコンダ艦隊の砲撃準備を感知したと冷静に報告した。航海班のリーフが舵を切りTACM回避運動をアバリスに行わせた直後、かなりの出力のレーザーの群がすぐ脇を通り抜けた。

 回避運動が間に合い直撃どころか運よく掠りもしなかったが、通り過ぎた瞬間に1000mあるフネがかなり揺れた。そして艦橋のモニターが一瞬であるが焼き付きを起す程のパワー…凄まじいの一言だった。

 

「エネルギー量を計測………概算だが直撃を3発受ければヤバいな」

 

とはいえ科学班の班長サナダさんが先程の攻撃を観測し、機器をから目を逸らさずに報告してくる。ちなみにこの場合の直撃っていうのはAPFシールドが防ぎきれなかった余剰エネルギーが装甲にまで達する事、ゲームにおけるクリティカルヒットの事を指す。そりゃあゴンブトレーザーが直撃したら流石にヤバい。

 直後、別の衝撃がフネを揺らす。

 敵の前衛水雷艇はまだ残っている。その攻撃がアバリスを揺らした。だが揺らしただけで目立った被害はない。しかしそれでも相手の方が数が多い事に変わりはない。囲まれて集中砲火、もしくは水雷艇の運動性に翻弄されたりすれば、デラコンダ砲の餌食となる…向こうもそれを望んでいるだろうが、叶えてやる義理はないね。

 

「次弾が来る前に―――両舷全速ッス!!」

「アイサー艦長!――トクガワさん!」

「了解した。機関出力全開、出力を回す」

 

機関長のトクガワさんの操作により、大型戦艦用の大出力インフラトンエンジンが唸りを上げアバリスは粒子の雲を吐き出して一気に加速する。流石は戦艦クラス、この力強さは凄く頼もしく感じる。これならすぐにデラコンダの懐に飛び込める!

 

駄菓子菓子…では無く、だがしかし――――――

 

「敵艦、針路上に侵入~!本艦の進路と交差してます~ッ!」

「ちょっ!?敵さん何考えてんスか!?」

「完全に衝突コースです。激突まで約20秒」

 

―――飛び出すな、戦艦急には止まれない。

 

 その昔どっかで聞いた標語のようなモノが頭に浮かんだ。驚いた事にアバリスの進路とかち合うようにして敵艦の何隻かが飛びこんできたのだ。逃げだす奴もいたが忠誠心を持つ人間もいたという事だろう。戦艦はデカイ分、急停止とかが出来ないという弱点を利用するとは…それ以上にまさか身を呈して守ろうとするとは…護衛艦の鏡だ!

 だけど敵を称賛する前にはやく指示して避けないとヤベェって!!

 

「リーフ!回避してくれッス!!」

「車じゃねぇんだ無茶言うな!どのみちムリ!もう衝突コースに入ってるんだぞッ!」

 

 加速し過ぎた!?相対速度が速すぎて回避できない!?うそん!?

 

「ストール!」

「ムリだ!別のフネ狙ってたから旋回させて照準とか間に合わん!」

 

――ええい、だったら!!

 

「総員耐ショックっス!」

「しょうがないね全く――ミューズ!」

「……了解、重力一時解放、慣性制御を最大に……」

「シ、シートベルト!シートベルトは何処だ!?」

「ああ?!ねぇよンなもん!頭でも押さえてろ!」

 

 もう諦めて衝撃に備えるしかないだろう。ほぼ真っ直ぐ突っ込んでくる敵艦に対し一応迎撃を試みるが相対速度が速すぎて当たらない。しかし火器管制が優秀だったお陰か激突ギリギリで迎撃に成功する。しかしそれは安全距離を大幅にオーバーしている事により大量のデブリ片がアバリスに襲い掛かる事となった。

 APFシールド装置は機関出力さえあれば、大抵の高出力指向性ビームの固有周波数に干渉し減衰及び無効化が可能となる反面、実弾などの物理的な攻撃に対する防御力はない。物理攻撃防御用のシールドも存在するが、基本装備のAPFSと違いモジュールを導入しなければならず、当然本艦には搭載されていなかった。

 

――そして至近距離で爆散した敵艦は、それこそ大型の機雷よりも性質が悪いモノだった。

 

 恐らく、コレが本来の目的。攻撃手段がほぼ前方に装備されている事を考えての攻撃。

爆散して火球と化した敵艦の破片は高速のデブリとなり、周囲へと満遍なく振り撒かれる。そのデブリの雨の中へアバリスは突っ込んだ。旗艦爆発で拡散したインフラトン粒子を纏った青いデブリの群は恐ろしく綺麗で、それでいて規則性の無い砲弾と同じである。アバリスは敵艦を破壊した衝撃波に続く第二の衝撃に襲われた。

 

「うおっと!?――損傷確認急げっ!ダメコンもッス!」

「艦体起こせ!進路がずれてるよ!」

 

 あまりの衝撃にたたらを踏んだがすぐに復帰して矢継ぎ早に指示を飛ばす。

伊達にこれまで実戦で訓練していた訳じゃない。こういうのにも慣れている。

 

「艦首大型対艦レーザー及び第一砲塔が破損、使用不能です。船首部分は第二装甲板まで貫通、一部剥離しています。アポジモータースラスターも一部が損壊、運動性能が14%低下――」

「あわわ、レーダーにノイズが~」

「――運悪くレーダーマストに破片が直撃しています。サブに切り変えさせます」

 

 幸い戦闘系のシステムは殆ど無事で第二主砲も多少デブリを浴びたモノの、ダメージ許容範囲内に収まっているので使用可能ではあった。だが運悪く破片の一つがレーダーやセンサーが集中している場所を貫いていた所為で策敵性能が大幅ダウンしてしまったのが痛い。

 ………この欠片が後数十メートルも横にずれていたら艦橋に直撃だったと思うと、股間が縮みあがりそうだ。もっともマストと艦橋じゃ装甲厚や防御力が違い過ぎるので、多分大丈夫なんだろう。それでも至近距離に着弾し、損害が出ているのは怖い事に変わりはないのである。

 

「こちらトクガワ。機関室に損害無し、航行には支障はないと思われる」

『ブリッジ!こちらダメコン室のケセイヤだ!デブリ片が装甲の薄い粒子ダクトを貫いたみたいだぜ!内側からブッ壊れてインフラトン粒子と空気漏れの警報が止まらねぇ!一応前部ブロックの隔壁は全部降ろしたがまだ警報が止まらんから直接見に行ってくる!』

 

そしてエア漏れである。宇宙における空気の重要性は今更言わなくても良いだろう。幾ら装甲厚がある戦艦でも部分的に弱い個所は幾らでも存在する。装甲があるからと言って、それがイコール壊れないという事にはならないのだ。さっきみたいに大量のデブリ片が当たると、当りどころによっては貫通してしまう。

だから通常は遠距離で破壊するんだよね、至近距離でデブリ食らうよかマシだから。それはともかくとしてケセイヤさん雨の日に『田んぼ見てくる』みたいなノリで身に行ったら死亡フラグが……いや、今はエア漏れをなんとかしないとな。

 

「任せたッス。それと戦闘中だから応急修理を急いでくれッス」

『任された!ちょっ早でやって来るわ!』

「艦長、敵第二防衛ラインのグロリアス級と旗艦グロリアス・デラコンダ級からインフラトン反応の増大を確認。敵特装砲の次弾発射まであと180秒です」

 

 再び敵艦に動きあり、やばい。

 

「トスカさん、今艦首には誰かいるんスか?」

「うんにゃ。元々艦首ブロックの制御はドロイドまかせだから誰もいないよ。応急班もまだ隔壁の向こうで立ち往生だ。一部システムが落ちて隔壁が開かないらしい」

 

 だれもいない、そしてこのフネの頑丈さは折り紙つき……よし!

 

「ならば応急修理は後回しッ!アバリスはこのまま直進!進路上の直掩艦は無視する!どうせ艦首は壊れてるから、とことん使ってやるッス!ジェネレーター出力をシールドと重力制御に回すッス!」

 

ころころ指揮が変わって悪いが、こっちの方がデケェんだ!体当たりで粉砕してくれるわッ!

 

「ちょっあんた…正気かい?」

「正気も正気ッス、大丈夫ッスよトスカさん、この船はそう簡単には壊れないッス」

 

姐さんが心配そうにこっちを見ている。だけど大丈夫だ。何せ大マゼラン製の戦艦だからな!頑丈さなら折り紙つき、小マゼラン製品よりもずっと上なのだ!なんせさっき敵艦を引き殺したってのに小破しただけだからな!さすがはアバリス、何ともないぜ!

 

「敵艦、再度本艦の針路上に展開します」

「トクガワさん機関出力一杯ッス。リーフ!遠慮しないで思いっきり突っ込め!」

「了解ですじゃ。機関出力、最大から一杯へ」

「へいへい、とんでもねぇ艦長の下についちまったぜ。まぁ!楽しそうだからいいけどなぁ!」

 

 そしてアバリスは加速する。1000m級を俊敏に動かせる大エンジンは伊達では無い。通常空間での戦闘の為、自動的に亜光速までしか出せないが、これ程の巨体が恐ろしい速度で突っ込んでくるのは脅威に映る筈だ。後で突撃バカとか言われそうだが、今のところそれくらいしか戦術が無いのだから、シカタナイネ。

 進路上で行く手を阻むかのように展開した直掩のグロリアス級は、デラコンダ艦程ではないが大型の2連装レーザー砲を左舷に装備している。それを連射して阻もうとしている様だが、生憎シールド強度はこちらが上だ。だが4艦隊も残っている現状、全部相手取るのは危険過ぎる。という訳で、沈んでくれ。

 

―――そして、撃震が走る…という程でもなく振動が走る。

 

「うぉっち?!――損害は?!」

「船首軸線砲完全に大破、ですが敵は真っ二つです。縦に。後は食堂で仕込み中だったスープ鍋が転倒したとか」

「なんで戦闘中に飯作ってんスか…」

「ごはん食べなきゃ戦は出来ません。お陰で夕飯は2時間ほど時間がずれるそうです」

 

 ミドリさん、正確な情報ありがと…でも最後のは余計だよ。

さて、最早戦法でも戦術でもないタダの体当たりを食らったグロリアス級は押し切られるようにして中央の船体部分を潰され、ウィングブロックがその衝撃に耐えきれずにねじ切れた事で、左舷の大型2連装レーザーと右舷のエネルギータンクがある部分が哀れ中央船体から泣き別れとなっていた。

やはり大マゼラン製のフネの頑丈さや堅牢さは小マゼランのフネの比ではない。カタログスペックをそのまま信じていた訳じゃないけど、体当たりしてもこっちは少々揺れるだけである。慣性制御用の重力設備が通常よりも遥かに強力である事が証明された訳だ。

 

「しかし激突させて真っ二つとか意外とエグイ戦法だよな。悪魔だ悪魔」

「ウチの艦長、やる事が時々酷いしな。無茶振りにも慣れたけど。ありゃ外道だ外道」

「あ、敵艦爆散した~、脱出する暇も与えないとか~、そこにしびれる~あこがれる~」

「重力制御が効いてるね………だけど、なんどもやったらこっちが危ないよ」

「ま、これで良いんスよ、一罰百戒っていうの?そんな感じ」

 

 コンソールに目をやれば一目瞭然。たった一隻を破壊しただけで敵の直掩艦隊の艦隊機動が浮足立ったかのように鈍くなっている。ラム攻撃、いやこの場合体当たりによる敵艦の撃破なんてのは、光学兵器による砲撃戦が主体となったこの世界では事故でなければあり得ないような光景だからだろう。

 

 だが、その動揺こそこっちが欲しかった物――!

 

「トクガワっ!」

「主機関出力、推進装置共に問題無しですじゃ副長」

「ユーリ!今なら敵の旗艦の懐に突っ込めるよ!」

 

 なにせ、直掩艦隊の防衛ラインを突破すれば、あとは遮るモノ等ないのだから。

 

「本艦はこれより近接砲撃戦を行う!砲雷班は第二主砲をぶっ放せるように準備!照準、敵旗艦ッス!」

「おうよ!了解っ!」

「デラコンダ艦、レーザー砲のエネルギーチャージが完了した模様です。発射まで後5秒」

「面舵一杯、敵弾回避しつつ、両舷リフレクションカノンで反撃ッス!」

 

アバリスの船体が大きく揺れ、進路方向を面舵(進行方向の右側)にきった瞬間、グロリアス・デラコンダ級の持つ大型レーザーがインフラトンの光を放ちながら発射された。凝縮されたエネルギーを帯びた光弾は最早質量を持っているに等しく、ギュゴゴゴと衝撃波を伴いながらアバリスの左舷を掠めていった。

正直さっき体当たりした時よりもフネが揺れた。それにより咄嗟にコンソールにしがみ付いていた俺は揺れが収まると同時に損害報告を促した。あの攻撃で左舷側の第一装甲板は殆ど剥離…もっとも第二は耐えきったあたりシールドが効いている。機関室は無事だし、上甲板の第二主砲にも被害はないと言ってもいい。だけど――

 

「左舷リフレクションビット大破。リフレクションカノンも損傷」

「構わないッス!右舷側だけでも撃つッス!!砲へのリミッター解除も許可するッス!残ったエネルギーを詰めてやれ!」

「なっ!そんな事したらすぐにぶっ壊れるよ!船体にも被害が出る!」

「どうせ片側ぶっ壊れてるんス!もう片方ぶっ壊れたって同じッス!――ストール!やれっ!!」

「あいよっ!――砲へのリミッターを解除、エネルギー100%から120%へ!リフレクションカノンッ!発射ぁぁ!!!」

 

―――軽い振動、そして眩い光。

 

 右舷のリフレクションビットを犠牲にして収束・加速されたエネルギーは、先程のデラコンダ艦の砲撃と同じくらいの大きさの光弾となり、デラコンダ艦の左舷大型レーザー砲を撃ちすえた。いや撃ち抜いたと言ってもいい。何故なら光弾はデラコンダ砲の砲身の中へ吸い込まれる様に直撃したからだ。

 驚いて照準を行った砲雷班長ストールの方を見やると、何時の間に出したのだろう、直接照準用の照準器…電影クロスゲージって感じの奴をコンソールに接続してあった。つまりさっきの砲撃は艦橋からの直接照準による砲撃だったのだ。なんという神技。思わずあんぐりと口を開けるとなんかサムズアップを返された。

 なんだろう、すっごく殴りたい…。

 

「――敵旗艦、左舷大型砲をパージ、誘爆を回避するためと思われます」

「ふっ、勝ったな…これで相手は戦えまい」

「装甲板が剥離――いえ、パージしました。中から対艦装備と思わしき兵装が」

「へ?……なにそれズっこいッス!!」

 

 原作じゃ大型レーザー以外装備無かったくせに!!

 

「諦めな。あっちは最後までやる気なんだろう」

「う~う~」

「そのうーうー言うのを止めな。と言ってもあっちは主砲をパージしたみたいだから大きさは半減してるね」

 

 グロリアス・デラコンダ級は500m強の大きさがあるが、それは殆どが左舷の大出力レーザー、デラコンダ砲の大きさだ。そいつをパージした事で全長は一気に半分の250mほどにまで縮んでしまった。小型の駆逐艦とほぼ同程度の大きさである。これにより一撃必殺は無くなったと見ていいだろう。

 

「こっちの残っている兵装は?」

「ほぼ無改造だからね。もう上甲板の主砲くらいしか残ってないよ。後は体当たりくらいじゃないかい?」

「……片や主兵装無し、片や満身創痍って感じッスかね」

「流石に敵の大型レーザーは効いたからねぇ。ロールアウト直後の無改造じゃ仕方ないさ。むしろ戦艦に乗り変えたからここまで8艦隊相手にド派手な電撃でキメられたんだ。たいしたもんだよ」

 

 まぁ、駆逐艦なら相手にならないしねこのフネ。

 

「敵艦にエネルギー反応、本艦をロックオンしています」

「うーんと、エネルギー量ってドンくらいスか?」

「おおよそ駆逐艦クラスです。メイン動力を殆ど大型砲に費やしていたからと思われます」

「ウチのシールドは?」

「若干出力低下していますが健在です」

 

 だとすると、勝負にすらならないか……いや最悪を考えろユーリ。

相手がバンザイアタックでも決めてきたら流石に被害が大きいぞ。

 

「砲雷班長、撃て」

「いいんですかい?」

「決着は早めにつけた方が良いんスよ」

 

 追い越した直掩艦隊もそろそろ正気に戻って引き返してくるだろう。そうなると前後…いやデラコンダ艦はもう悪あがきの段階だからほぼ除外して、背後をとられるのはちょいと不味いな。このアバリスもそうなんだが艦隊同士での撃ちあいを想定しているからか、この世界のフネって後方に砲が設置されて無いのが多い。

 敵前で回頭とかある種の浪漫だけど、実際にやったらフルボッコ確実なのでやらない。やらないったらやらないよ?……押すな!絶対押すなよ?!の精神じゃないからな!?

 

「第二主砲、直接照準よろし」

「撃ぇい!」

「恨むなよ。恨むなら艦長を、だ…ポチっとな」

 

 オイコラ、聞こえてッぞ。流石に数百人分の怨念は荷が重いから塩撒くかね。

 ともかく、そうして発射された主砲はデラコンダ艦を貫いた。攻撃に全てを回し、他は艦隊を組む事で補っていたであろうグロリアス・デラコンダ艦の装甲は、原作で駆逐艦相手に撃沈されてしまう程に紙だ。ましてや出力からして段違いな戦艦クラスの主砲の直撃を受けて耐えきれるようなものじゃない。

 

「敵旗艦、内部で連鎖的に爆発が起こっている模様」

 

たったの一斉射、それだけで致命的なダメージを受けたデラコンダ艦は各所から火を吹いていた。むしろすぐに爆散しないのが不思議であった程だ。内部隔壁の機能は通常のフネよりも高性能だったのだろうか?しばしその光景を茫然と見やる。

 

「艦長、敵艦から通信です」

「……繋いでやれッス」

 

 そうしていたらデラコンダからの通信が来た。既に爆散一歩手前の状態で通信が来るとは思わなかった。だが最後の通信となるだろうし、俺はそれに応じた。武士の情けってヤツである。

 

『小憎らしい小僧め、よくもまぁやってくれたな。これでロウズ辺境領は平安から動乱に成るやもしれぬのに、お主らはそういう事など露ほども気にせずロウズから飛び立つだろう』

 

 忌々しい事にな。そう呟きながらホログラム通信に投影されたデラコンダの姿はボロボロで額から血を流していた。コンソールのフィードバックか衝撃で何処かにぶつけたのだろう。ギンと睨まれたが、それでいて何故か口調とは裏腹に彼は何処か清々しそうだった。

 

「ま、俺達は0Gドッグだから仕方ないッス。決着は宇宙で付けるモノで地上のそれは正直管轄外ッス」

『言ってくれる。これだから若者は始末に悪い……しかし、若者の好奇心とやらを侮っておったという事だろうな。だが、わしが敗れたのは貴様の戦術ではない。そのフネの性能だという事を夢夢忘れん事だ……完敗だ。若き者よ』

 

 うぐ、確かに最初からあり得ないような戦力で攻めたし何か罪悪感がある。でも俺は謝らない。俺の矜持はレベルを上げて物理で殴るだからだ!…いや少しはあるけどね。つーか何か某青い巨星さんと台詞被ってッぞ?!

 

『よく覚えておけ小僧。地に根を坐した0Gドッグの末路というモノを。地上では死にきれず、さりとて自害すらも出来ぬ臆病者の姿をよく見ておけ……そして、わしの様になるなよ』

 

 俺がバカな事を考えている内に向こうは言いたい事を言い切り、通信が切られた。最後に言っていた言葉はよく聞きとれなかったが、言いたいことは何と無く判った。0Gを名乗るなら0Gとして死ね。そう言いたかったんじゃねぇかな。生憎俺は最後は布団の上で死にたい…腹上死じゃねぇぞ?それはそれでありだけど。

 

 ―――思考が逸れたが、デラコンダのフネはそのまま爆散した。

 

「敵旗艦…沈黙、インフラトン反応拡散…撃沈です」

「……案外、あっけないもんスね」

 

 領主法で俺達をこの星系に縛り付けた領主の最後に、俺は小さくそう呟いていた。時代を作るのは老人ではないと赤い人は言っていた気がするが、領主となった彼がこの星系を支えたのも事実。ま、道を踏み外した人間ってのは悲惨何だなと思った。

 

『こちらダメコン室、さっきの砲撃でリフレクションカノンが吹っ飛んだぜ艦長』

 

さて、敗者に対し軽く黙とうしていると、艦のダメージコントロールを請け負っている整備班のダメコンルームから通信が入る。そこの班長ケセイヤからものっそジト眼で睨まれている。ああん、そんな目で見られたら感じry――すっごい冷めた目ですね判ります。

ま、まぁさっきの攻撃はリミッター解除してジェネレーターのエネルギーを過剰流入させたしな。リフレクションレーザーカノン自体が吹き飛んでもおかしく無い。とりあえず外部モニターで確認したところ、そりゃもう盛大に装甲板がまるで花弁を開いたかのように内側から拉げて吹き飛んでいた。

 人員が元より少ないのでドロイドしか回していなかった事が幸いし人的被害はない。でもこれは修理させた後に改造させてもう少し耐久度を上げた方が良いだろう。

 

 もっとも、今はそれよりも――

 

「とりあえず応急修理を急いでしてくれッス。後まだ戦闘は継続中ッスから気を付けて」

『言われるまでもねぇや』

 

渋い顔をしながら通信が切られる。応急とはいえ百数mもぶっ壊れてるから修理するのが大変だと思っているんだろうなぁ。整備班にしてみれば大規模土木工事みたいなもんだしな。フネの応急修理を最優先、特に武装が壊れたままじゃ怖い。

 

「艦長、残存艦隊が撤退――いえ、何隻かが反転、こちらに向かってきます」

 

 タイミング良いなオイ。

 

「トスカさん、残りの兵装は?」

「現状、残りの兵装は中型レーザー砲が一門と小型のが一門だけ。応急修理ですぐ復活するらしい」

「…………いけると思います?」

「さて、まぁ大丈夫だろうさ。幸いAPFシールドはまだ展開してるからねぇ。レーザー程度ならバイタルエリアに損害はでないだろう。こっちが体当りを連発さえしなければ大丈夫じゃないかい?」

 

あ、あれ?トスカ姐さん、なんか言い方にすこし刺があるなぁ。

そう言えば敵艦に衝突する瞬間、何かをぶつけた様な音があった様な…………ま、まさか。

 

「若干、痛かったねぇ…」

 

 頭を摩っているトスカ姐さん、あー…どっかに打ってたのね。

 

「……あとで特別手当出すッス」

「ふふ、解ってるねぇユーリ」

「ああ!!副長だけずるいぜっ!」

「仲間はずれは…いけねぇ。いけねぇよな艦長?」

『「「「そうだそうだ~!」」」』

 

どうやら、特別手当の事をブリッジの面々に聞かれていたらしい。序でにミドリさんが手を回したのだろう。他の部署の連中も続々と手当出せコールが………ちぇッしかたないなぁ。

 

「解ったッス、今回のこれに特別手当と地上での宴会費用を経費で落せるようにするッス」

『「「「流石は俺達の艦長だー!!!」」」』

 

湧きたつ艦内…というかまだ戦闘中じゃ――――

 

「敵全艦轟沈ッと、おわったぜ艦長」

「え、あれ?俺なんも指示して無いよね?」

「まぁ手っ取り早く終わらせておいた、早いとこ宴会したいからな!」

 

まぁ手際が良い事で…。

 

「と、とりあえずロウズの空間通商管理局のステーションに向かうッス!」

『お、ついに愛しの彼女とご対面か?艦長』

 

何時の間にかダメコン室のケセイヤさんから通信が…ってちょい待てって!!

 

「ち、ちがッ!つーか誰が彼女とかデマ教えたんスかっ!?」

『ま、怖がらせちまったんだし?男として責任とれよ艦長~?』

「まって~聞いて~ケセイヤさーんっ!彼女は俺の妹ッスよ?大体なんでそんな話になってんスか?」

『いや、この艦の連中の殆どがそう言ってるぜ?ちなみに情報元は副長だ』

「あ、ケセイヤのバカ!ユーリには教えんなってアレ程!」

 

へぇ、トスカ姐さん…そんな事してたんだ……人の不幸は蜜の味ってか?

 

「ユ、ユーリ?別に悪気があった訳じゃなくてねぇ?」

「…………上司侮辱した罪で強制EVA(船外活動)3時間をペナルティで入れようかなぁ~……デブリってこわいッスよね?クケケケケ―――」

「あたしが悪かった!謝るからそれだけは勘弁してくれ!あとその笑いを止めとくれ!めっちゃ怖い」

 

 

―――まぁ良いけどねぇ…クケケケケケ

 

 

***

 

 

ステーションに着いたアバリスはすぐさまドック入りとあいなった。完成したばっかだったというのに、穴開きチーズも吃驚な穴開き具合で中破に近い損壊具合である。整備を一手に仕切るケセイヤさんが、港で改めてフネの全体を見た時に『俺のアバリスちゃんがキズものに~!!』とか喚いてたな。

だが敢えて言おう。

なにが俺のアバリスだッ!大体アバリスの所有者は俺じゃい!!――まぁそれは良いとして次の航海もある事だし、アバリスには隅々まで修理して貰う事にしよう。

 

 

さて、今回の目的である我が妹様である件のチェルシーだが、調べたところ空間通商管理局の軌道ステーションにある生活区画、デラコンダが借りたという一室に監禁されていた。監禁はしたが別に手錠をかけたりとかはせず、牢屋じゃない場所に人質を置いておいたあたり、デラコンダも流石に少女に手を出すような外道ではなかったらしい。

トスカ姐さんやクルー達に肉親が迎えに行かないでどうすんだと背中を押され、直接俺も出向いたのだが、入口にはデラコンダが雇ったと思われるSPらしき人間が入口を守っていた。こりゃデラコンダの部下とひと悶着あるかなって思ったが……結局、とくに何も起きる事はなかった。

こんな事もあろうかと、戦闘があるかと思って完全武装したフネの連中を背後に待機させて、敵意を感じさせない様にニコニコ笑いながらどいてくれと頼んだだけなんだが……完全におびえた目でヒッと悲鳴に近い声を上げながら、顔をひきつらせてどうぞどうぞと叫んで逃げる様に消えていったのは、うむむ解せぬ。

 

「ここに…チェルシーがいるのか――ふむ…(しまった。何て声をかけるか考えてねぇ…)」

「カッコつけてるとこ申し訳ないけど、早く出してあげたらどうだい?」

「……………トスカさんのイジワル(ええい!ままよ!男ならドーンと逝けドーンと!)」

 

俺はデラコンダの部下から一生借りた(奪ったとも言う)ドアの電子キーを使いロックを外した。プシューという何とも未来的な音を立ててロックが解除され、扉が目の前で開いていく。俺は戦々恐々としながらもスッと一歩を踏み出した。

 

「ユ、ユーリ…なの?」

「こんにち…は――あれ?考えたら今って朝昼夜のどれ何スかね?」

 

 そんなアホな事を考えちゃうのがユーリクオリティ。

 目を皿のように見開いて如何にも驚いていますという表情で出迎えてくれた翠の髪をした少女。この世界の遺伝子は多様性に溢れているから色んな髪色があるのは知っていたが、ヒスイの様に鮮やかな翠色をした髪と瞳というのは実際に見ると凄いって感想しか出ないな……だが綺麗だ。似合っている。うん。

とりあえず脳内データベースと照合したところ、憑依先の写真のように正確な記憶と一致する容姿であることから、彼女が間違いなく我が妹チェルシーである事は判った……しかし、どうでもいいが兄妹設定にしては容姿似てねぇな俺ら。俺は白髪だし、彼女は見事な翠髪……遺伝子の多様性ってスゲェな。

 

「ゆーりぃッ!」

「オワッ!ど、どうしたんスか?!チェルシー」

「ゆーりぃッ!ゆーりぃ!!わーん!」

 

いきなり抱きつかれた?!俺の心臓バックバク?!というかチェルシー泣きだしてしまった。そんなに怖かったんだろうか?………怖いわなぁ、いきなり訳もわからず捕まったんだし――というか後ろのギャラリー!微笑ましそうにニヤニヤ見てんじゃねぇ!仕事しろ仕事!!俺は野次馬連中にシッシとジェスチャーを送り、下がらせた。

気が付けばチェルシーはそのまま気絶している。第一印象として結構繊細に見えた彼女の事だ。これまで無意識であるが張っていた緊張の糸が、助けられた事で切れてしまったのだろう。流石にこんな所に寝かせておくという訳にもいかないので、とりあえずアバリスに連れて行く事にした。

 

 もちろん、万が一に備えて用意した医療班の担架に乗せてな。お姫様だっこなんてしない。疲れるし。

 

………………

 

……………

 

…………

 

 チェルシーを回収した俺達はすぐには出立せずに、そのままステーションのドックに係留していた。エア漏れが起きた程の損傷具合からしてすぐに出港するのは流石に無理があったし、装甲板の張り変えをするなら設備があるドックの方が楽だったからだ。

 そう言った訳で破損部分の修理と並行して、各種補給や整備班とその他の部署の人間も総動員し、自分たちの部署の修理や点検にあたらせている。俺は俺で、ステーションでの手続きや各種消耗品などの書類の整理、各部署からあがってくる報告を処理する為に艦橋に籠りっぱなしとなっていた。

 

『――――……てな訳で、アバリスの修理は明朝に終わるらしい』

「そうスか、報告御苦労さまッス」

『でもよう艦長、幾ら戦闘が激しいとはいえ次からはもうちょい優しく扱ってくれや?キールに歪みが出ちまったら幾らステーションのドックでも直せネェんだぜ?』

「うっ…善処するッス」

『そうしてくれ。フネも人間も健康が一番ってな。それじゃ仕事に戻る』

 

整備班を統括するケセイヤ整備班長からの報告は以上か……送られてきた報告データを見るに、デラコンダ砲が掠った左舷側の装甲板やアポジモーターにセンサー、それに武装系は総取っ換えとなりそうだ。科学班から破損部位も含めて装甲材質を研究し、より強固な構造に変えられないかと試行錯誤している様だが、まだ時間がかかりそうだ。

俺は各部署から上がってくる報告に目を通して処理しながら軽く溜息を吐く。艦長の仕事って航海している時よりも港に居る時の方が忙しい。一度フネだしたら後は事務的なチェックオンリーで基本戦闘があるまで暇だしさ。ツラツラと浮かぶそんな考えを頭を振って追い払いながら仕事してたら医務室からコールが来た。なんだろうか?

 

『艦長、医務室です。例の娘さんが眼をさましました』

 

どうやら気を失った妹君が目を覚ましたらしい。流石に顔を出して色々と話をしないと不味いだろう。そう考えた俺はすぐ行くと返事を返し、手元のチェックボードの電源を切ってブリッジを後にした。やれやれ、忙しいったらありゃしない。

 

 

●戦艦アバリス・医務室●

 

フネにモジュールを組み込むというのは、無限航路の世界の艦船における醍醐味であると言える。完璧にブロック化された各種モジュールユニット、それらを搭載出来る構造の宇宙線、全て同じ規格で成り立っているからこそ出来る芸当だ。この方法考えたヤツって天才だなホント。

 ちなみにモジュールシステムは内装の組み換えという側面もあるが、元よりある設備の強化という側面もある。どんなフネもモジュールを乗せ無くても最低限の医療設備は装備されており、モジュールはソレらの機能増幅を行う装飾のような役割を担う事になる。まぁ流石に宇宙に出るフネに医療設備が標準でないのは無理ゲーだしな。

そんな訳で、空間通商管理局の共通規格のドックで製造されたこの艦にも医務室は常備されている。医務室のモジュールを導入していないので、必要最低限の機能を備えたものでしか無い。設備の都合上、何時間もかかる様な大手術なんぞ出来ないし、出来る事と言えば薬を出すかリジェネレーションポッドによる軽傷の処置程度の物である。   

だが、それでもあるのと無いのでは雲泥の差があると言える。特に軽い怪我ならさほど時間をかけずに再生治療してしまうリジェネレーションポッドは応急処置を行うのに、随分と助かるという事が解った。もっとも元々軍用に設計された艦なので、標準で小マゼラン製とはry―――ともかく強力なのがあるという事だ。

 

さて、とりあえず話を進めるか――俺は今、件の医務室に訪問していた。

 

あの少女チェルシーは憑依先の妹さんであり、そして俺とデラコンダとの戦いに巻き込まれた……いや、俺がこの星系に居座り続けた事で巻き込んだ被害者な訳だし、色々と心配だったのだ。ちなみにその事をブリッジの面々に話したら、色々からかうような事言ってきたので、黒ユーリを降臨させようか悩んだのだが……。

医務室の扉を潜ると、中の空気は通路側と比べると幾分か清浄な空気の様に感じられる。まぁ医務室だけあって空調が少し特別だからだろう。宇宙船での病気ってのは下手すると全滅フラグである。とりあえず先の戦闘での負傷者はもう全員退院しているので、ココに居るのは俺とチェルシーと医療スタッフだけだ。

 

「ちわっす!ウチの妹の見舞いに来ました!」

「艦長、ココは医務室じゃから静かにな?」

「さーせん」

 

ああ、お静かにというのが暗黙の了解の医務室に大声あげて入った馬鹿を医療スタッフが冷めた目で見てくる、悔しい!でも感じ(ry――ってアホやってる場合じゃ無かった。俺はカーテンで区切られたベットに足を向ける。

 

「……………あう」

 

 カーテンに手を伸ばしたが何と無く手が止まる。なんだろう、この全身を締め付けられるような感覚は?まさか、これが恋?………いや一度言ってみたかっただけ。こりゃ多分緊張だな。なにせ、妹なんて画面の向こうにしか………なんだろう、次元を越えて冷たい目が向けられている気がする。ビクンビクン。

 

≪――シャッ≫

 

 ま、そんなのは気にせず開けるのがユーリクオリティ。

 

「ちわーす、三河屋で―ス」

「え?」

 

 目標沈黙、天使が通るよ。はい、仕切り直しですね。判りry

 

「やぁチェルシー、起きてるッスか?」

「あ……ユーリ」

 

ふと思ったんだが、俺なんとなく普通にチェルシーの事を呼び捨てにしたけど、コレって問題ないんだろうか?俺の中の人は、彼女の知っているユーリとは別物な訳だしさ?……………まぁいっか別に、ユーリ君は俺と融合している訳だし、何より今は俺がユーリだからな。

 

「デラコンダに捕まってたんだろ?酷い事はされなかったかい?」

「うん、大丈夫だったわ、ただ閉じ込められていただけだもの…」

 

まぁそこら辺は、彼女が気絶していた間に調査済みではある。女性の医療スタッフが、暴行とか所謂18歳未満お断りな精神破壊プラスアルファな行為とかされなかったかを、隅々までスキャンして調べあげたが結果はシロ。五体満足で本当に何にもされてなかったらしい、アア見えてあのハゲは紳士だったって事か。

 

「……………(じ~~~)」

「……………」

「……………(じ~~~~~)」

「……………はう」

 

ところで何この可愛い生き物?じっと見てたらシーツで顔隠してるんですけど?

さて萌えるのは後にしてだ、俺は彼女に聞かなければならない。今後、俺と共に来るのか、それともフネから降りて普通の生活に戻るのか…出来れば後者が良いなぁ。彼女がこのフネに居ると、俺クルー達に色々とからかわれそうだしさ?

 勿論、助けた事に後悔はしていない。

 どっちかって言うとアフターフォローの観点だ。たとえばの話、俺がこの先有名になるとする。そうすると今回のような事件がまた起こり得る訳で、そして今回の様に敵が紳士的とは限らないって訳で……さすがにこの人畜無害そうな少女が汚されるとかは精神的にムリ。紳士としては放っておけないだろう。

 

 だが逆に連れて行くというのも問題がある。0Gをやって改めて認識した事だがこの稼業は本当にポンポン人が死ぬ。さっきの戦闘だって相手のフネに何百人乗っていて、撃破した時に脱出する事かなわず一緒にダークマターと化した人が沢山いた事だろう。そうなる様に指揮した俺はまさに大量虐殺者って事になる訳だ。

 そんな風に簡単に死に至るかもしれない世界。そんなクソったれだけど魅力的過ぎる世界にカタギの少女として生きられる彼女を巻き込んでいいものか悩む。彼女にもこの憑依先と同じ秘密がある事を俺は知っている。でもだからこそ、彼女には彼女の生き方をしてほしいと思うのは悪い事だろうか? 

 

「なぁ、チェルシー」

「なに?ユーリ」

 

―――だからこそ、俺は心を鬼にするのだ。鬼だ。鬼になるのだぁ。

 

「まず最初に言っておくけど、俺はもうロウズには戻らないと思う」

「え…?」

 

心底驚いたという表情をする彼女、俺はそれを無視し更に言葉を紡ぐ。

 

「……君には選ぶ権利が与えられている。一つはこのフネに居座る…いや乗組員となるかだ。0Gドッグとなる以上、命をかける程危険でスリルいっぱいの生活が待っている。退屈とは無縁の世界に成る事は請け合いッス」

「ちょ、ちょっと待ってユーリ、そんないきなり言われても、私…」

「もう一つは、ここで俺から離れてロウズに残り、平穏な日々を享受する事。メリットは言った通り平穏な世界。命の危険もなく、平和に暮らせるッス」

「………えぅぅ――」

 

 俺と別れる。その話しを出した途端唐突に感情に不安の色が増し涙目となる少女。罪悪感を刺激されて、こっちの精神がびんびん削られているが、これはとっても大切なことなのだ。今の彼女は多少ユーリという存在に依存しているが、恐らくそれ程酷い訳ではない事は会って感じた。

だからこそ、この質問は俺の艦隊がボイドゲートを通る前に決めなければならない。俺やチェルシーには主人公補正というか邪気眼設定のような精神に作用する影響力がプラスされており、それはボイドゲートと呼ばれる空間通商管理局所有の星系間を結ぶゲートを通る事でより強固なモノとなってしまう。

 要するに彼女はゲートを通ると俺についてくるという事しか頭で考えられなくなる。それは精神に作用、いやプログラムを変更するようにして書き換えられてしまうから洗脳よりも性質が悪い。でもゲートを通過する前の今の彼女ならば、ある程度は考えられるとは思う。

 もっとも、知識はともかく彼女の精神は生れたての雛鳥のようなもんであり、こういうロジックな思考は苦手かもしれないがゲートを通る前ならまだマシなのだ。勝手だとは思うが彼女に決めて貰う、それしか俺は思いつかなかった。実のところ、俺もゲートを通過するとどうなるか判らないけど、彼女よりはマシ。

 

「まぁいきなりなのは理解してるッス。だから考える時間はあげるッスよ。このフネは一度、次の宇宙島へ向かう為の物資補給の為に惑星トトラスに向かうんス。んでチェルシー、君にはそれまでにこれからどうするかを決めて置いて欲しい。こればっかりは強要する訳にはいかないッス。俺達は皆、自分の意思で宇宙に出たんだから……おk?」

「…………でも、私はユーリと居たいよ。平和に、過ごしたい」

「ま、それも魅力的なんスが、生憎もう俺は宇宙に魅せられちまってるんでムリッスね。でもだからこそチェルシーは自分で考えなきゃならないよ?俺と居たいからじゃない。自分でどうしたいかを決める。これがチェルシーくんへの宿題」

「宿題って…」

「だって、これでちゃんと答えを出せないようなら、問答無用で置いて行くから」

「え……そんなっ!?」

「だから、ちゃんと考えるッスよ~」

 

バイならと席を立つ俺を見上げながら彼女は眼を見開いていた。なんか捨てられた子犬のビジョンが浮かびそうなほどしょんぼりしちゃってまぁ……可愛い子ねぇ~。もっとも俺の食指は動かんけどな!俺はもっと明るい娘の方が好きぬぁのだぁ~!

 

「とりあえず、俺仕事あるから、ゆっくり休んで頂戴よ」

 

 まだまだ仕事は山積みなのだ。疲労度がMAXとなりそうだが人員不足な内は仕方ないのだ。こうして話をするのも貴重な時間を削っているのだ。だから早く戻って仕事しないとケツかっちんなのだ。泣きそう。もうユーリは泣きそうよぉ。心の汗を胸の内に留め、俺は医務室を後にしようとした。

 

「ま、まってユーリ」

「なんスか?あ、トイレなら出て左にすぐッス」

「……そんな事聞いてないよ」

「売店は右のエレベーターで降りれば良いッスよ」

「ちがうの。そうじゃなくて――」

「あー、残念ながらお風呂は部屋備え付けのシャワーしか今は無くて、何時かテルマエをいれちゃろうかな?どう思う?」

「えっと、良いんじゃないかな……もう、真面目に聞いてよ。それと、ありがとう助けてくれて」

 

 あひょひょ、サーセン。つい反応がおもろうてやっちまった。後悔はしていない。

 

 

 

 

■ロウズ編・第四章■

 

デラコンダを倒した事で政権に少なからず混乱が出たらしいが、宇宙は相変わらず静かに凪いでいた、とかいうとすごくかっこいい気がする今日この頃。領主との戦闘で新造艦にムリさせた事や新造艦の船体の研究に時間をとりたいという思惑も絡んで、ロウズ港を出てからの速度は控えめにしてゆっくりと航路を進んだ。

原作でも寄港せずに一定距離進むと、次に停泊した際に研究が進んだという形で、フネの策敵や機動性や装甲などなど色んなところにポイントを振り分けて強化するシステムがあったが、これもまた似たような形である。別に寄港しなくてもリアルタイムで研究が勝手に進むのが違うところと言えば違うところだろうか。

ともかくロウズを出立してから、船内時間で二日かけて隣星のトトラスへと戻ってきていた。その間も稀に遭遇する元デラコンダの配下の警備部隊はジャンクパーツ的な意味で美味しく頂いた。敵さんらも大将を失い、上層部が混乱しているからか惰性で仕事をこなしていたので真面目に職務をしている人は少なく、脅したらすぐに降参してくれた。お互いに被害もなく、俺に良しお前に良しだった。

 

「もっとも、俺は暇だった訳だが…」

 

 前回の戦闘が大規模でその後処理の仕事は面倒ではあったが、まだ艦隊も組んではいない現状ではそれ程大変という訳ではない。精々消費した物資の補給目録を作成する程度なので1日もあれば終わる。ただそうなると艦長職は基本暇なのである。たびたび起こる戦闘でも俺が指示を出したのは大抵一言で「ぶっぱなせ」だの「撃ち落とせ」程度である。

 あとは船内の散策と航海日誌をつける位しかする事がない。勿論散策には船内で乗組員同士のイザコザが起こっていないかとか、使い勝手はどうか聞いて回ったりとか、次にモジュールを組むなら何を入れようとか考えるという目的もある。まぁ俺の場合は新しくなったから今後も迷わないように地図を片手に道を覚えるというのもあるが。

 

「………んで、何なんスかね?この状況」

 

んで、もうすぐトトラスにつくという頃合い。昼飯を食べに来た筈の俺は何だか良くわからないまま食堂の片隅にある椅子に座らされた。何時もは食堂のど真ん中で乗組員たちと談笑しながら同じ釜の飯を食うという行為を実践して連帯感を育んだり、不満がないかを調べたりするのだが、今日はちょっと違うようだった。

しかし、なんで突然食堂の片隅に追いやられるんだろう?もしかして艦長のような役職の人間が隣にいたら安心して飯が食えないからハブられたとか?泣いちゃうよ?ユーリ君泣いちゃうよ?うさぎは寂しくなると死んじゃうんだよ?そして化けて枕元に出てやるんだ。うらめしやぁ~。

 

…………いや、ウチの乗組員たちは艦長とかを気にかけるとかいうような殊勝な連中じゃない。むしろ誰かれ構わず飲み会に誘い込み、酔い潰れるまで痛飲する先輩のような迷惑な連中ばかりで、俺が来た程度でひるむようなタマは乗っていないから、これには何か理由があるのだろう、多分、きっと、めいびー。

 

と、とりあえず、そうあたりをつけた俺は、しばらく黙ってお冷を睨みつけていた。

 

≪コト≫

「ん?なんだ、料理?」

 

しばらく無言でお冷とにらめっこしていた俺の目の前に配膳される料理の数々、どれもこれもうまそうに湯気を立てていると、書いておけばいいか?まぁ実際ウマそうであるのだが…残念ながら過去から飛んできた俺にしてみれば、目の前に並べられた料理は見た事ある様で見た事がない物ばかりが沢山きたという感じだった。

 いや匂いとかもこれまで嗅いだ事がないエキゾチックな感じがして食欲はそそられますよ?ただ何時も食っている飯は過去の地球でも食べたようなサンドイッチ(パン以外中身は見知らぬ食材)や丼もの(何であるかは不明)だったから、ある意味で未来料理を突然並べられた俺は茫然としていた。そして何よりも―――

 

「チェルシー、これは?」

「ええと、ユーリ食事まだだったよね?」

 

―――それを配膳しているのが我が妹君と来れば、なおさらであろう。何してんのチミィ?

 

「料理長さんに頼んで、厨房を貸して貰ったの。あったかい内に食べて」

「ううん?んー、まぁそこまで言うならいただきます」

 

 厨房は本来厨房関係者しか入れないよー、とか、関係者以前に君はアバリスの乗組員ですらないよー、とかいう言葉は無意味な気がした。何せ食堂の他の席からこっちを窺っている視線を感じる……というか堂々と覗き見をしてらっしゃるブリッジクルーの面々が居るとくれば、一体だれがこんな事を考えて実行したのかは予想がつく。

 しかし、だ。確かにチェルシーの言う通り、目の前で湯気を上げている料理を無視してしまうのも勿体無い気がする。温かい内に食べてという事は、やはりあったかい間が一番うまい料理なのだろう。仕方がない。俺は溜息を内心こぼしながら手元に置かれた食器に手を伸ばした。

 

 

「ねぇユーリ、美味しい?」

「うん、うまい。こらぁウマい」

 

食い始めて十数分、妹君に言われて口から飛び出したのは素直な感想だった。いやマジでウマい。見た事も食べた事もない食べ物だったが妙に舌になじむ味なのだ。それもそのはずで、この料理は憑依先の好物として彼女が良く作っていたと記憶している。身体がウマいと感じているのだから、その中にいる俺もウマいと感じるって訳だ。

そんな訳でがつがつとそれなりに量があった料理を平らげていく、その様子を何処か嬉しそうに見つめるチェルシーは時折口直しに飲むドリンクを継ぎ足したりと俺が言うのもアレだが甲斐甲斐しく傍で色々としてくれている。その姿が健気過ぎて涙が出そうだぜ。そしてそれを遠くから生温かい眼で見守るクルーの姿の所為で色々と台無しだけどな!

まったく、何時の間にクルーを仲間にしてるんだか…チェルシー恐ろしい子。白目を出して戦慄してたりするが、実際はなんて事はなく純粋な彼女はただ素直に色々周囲に聞いて回っており、それが兄の傍に居たいけど兄の気持ちも判りどうすべきか悩むという健気さに見えただけなのだ。そんな事は露ほども判らない俺はただ黙々と料理を平らげた。

 

「はぁ、もう食えねえッス、ごっそさん」

「お粗末さまです」

「……さて、本題に移ろうっか?チェルシー」

「……うん」

 

食事を終えてまったりとしたい気分だったが、はっきりさせねばならない事だろうと思い俺は若干の威圧感を持ってチェルシーの方を向く。なんとなくだがこれは彼女が考えた俺に対してこの間の答えを打ち明ける為の場だと何と無く気が付いていた。最近なったばかりとはいえコレでもフネの頭張ってる艦長だ。それくらいは判る。

みょうに回りくどい気もしないわけでもなかったが、まぁ彼女はどちらかと言えば内気な性格をしているので、自分から打ち明けるには舞台設定も必要だったのかも。それに関しては別に言うべき事はない。彼女の真意も知りたいしね。

 

「お願いです。私をこのフネ。ユーリのフネに乗せてください」

「理由を聞いても良いッスか?」

 

やや事務的な感じもするが重要な事だ。何せこのフネに乗るって事は必然的に0Gドッグになるという事であり、最悪戦闘で死ぬ事もあるのだ。一応この世界の元がゲームなので目の前の彼女が結構最後の方まで居る事は知っている。だが正直なところゲームの話し通り進むか微妙だ。既に逸脱してるし下手したらどっかで沈むかも知んない。

そんなフネに彼女を乗せてもいいのだろうか俺には解らんのだ。ま、どっちにしても乗るだろうけどね。彼女はそういう風に“創られて”いるんだから。まぁそれは置いておこう。チェルシーは俺からの問いに目を逸らさずにきちんと覚悟を決めたようだ。

そして話し始める、己が選んだであろう道を…とか言ってみたり。

 

「私は最初、ユーリには地上で静かに暮らしてほしいって思ってたの」

 

 曰く、安全な地上で安穏と暮らしましょう。

 宇宙は0Gドッグとか海賊などのアウトローの所為で命の危険が伴うような自由世界だが、一転して地上すなわち惑星の方は比較的平和であったりする。ちゃんと政府が管理しているというのもあるし、0Gドッグも海賊も地上の民は狙わないのが暗黙のルールとして存在しているからである。

 カタギに手を出すのは素人のするこっちゃいという事だろう…何処のヤクザ者だ?ともあれ、その暗黙のルール、アンリトゥンルールのお陰で宇宙から地上を攻撃するようなヤツは宇宙航海者にはあまりない。そういった地上を火の海にしちゃうような行為自体が唾棄すべきモノだとされているからだ。

第一惑星を攻めるなら海上封鎖ならぬ宙域封鎖しちゃった方が安上がりで安全なのである。惑星の開拓度合いにもよるらしいが、航路さえ押さえれば人口が多い星ほど干上がるのが早いんだそうな。コレ艦長になってからやっている通信講座で覚えた内容ね?―――さて、そろそろ話しを戻そうか。

 

「――最初フネに乗って驚いたわ。初めて乗る宇宙船で私はただ一人の部外者、それなのに妙に気さくに接してくる人達ばっかりで戸惑う事が多かったわ。だけどこのフネに乗っていて解ったの。皆が笑ってたの。楽しそうに前を見ているのが」

 

バカ騒ぎは大好きな連中だからねぇ~。お陰で酒代が馬鹿にならねぇ…鬱だ。

 

「私もその輪の中に加わりたいって思えたんだ。ユーリの近くにいたいって思えたの。勝手なことかもしれない、だけど私はユーリの隣に居たいの……臆病な私だけどお願いします。私を、このフネに乗せてください!」

 

 そう言ってガクンって音が出そうなほど素早く頭を下げたチェルシーに俺は慌てた。今居る場所は食堂であり、当然一般クルーの眼があって、俺の前では少女が頭を下げていて……クソっ、やられた!ここで断ったら俺がわるもんじゃねぇか!?

 

「そこいらでいいだろう?ユーリ」

「トスカさん…何時の間に来てたんスか?」

「ついさっきさ。いたいけな少女を公共の場で辱めている鬼畜な艦長さん」

「ちょっ!人聞き悪いッス!俺はただ彼女に答えを出してくれと――」

「それなら、別に問題無いねぇ。この娘はちゃ~んと自分で乗りたいって言ったんだ。第一アンタが自分で決めろってこの娘に言ったんだろう?なら男ならそれを守らなくてどうすんだい?」

 

 うぐ…、そりゃまぁ確かに…。

 

「お願いします!」

 

 思わぬトスカ姐さんの乱入に腰が引けた俺。さらにチェルシーはたたみかける様にお願い攻撃を繰り出してくる。やめて!俺の(公共の視線に対する)MPはもうゼロよ!

 

「ああもう!判ったッス!判ったから顔をあげるッス!チェルシー」

「ユーリ、了解してくれるの?」

「俺は最初に言ったッス、このフネに乗るか乗らないか決めるのはチェルシーだって。だから俺は、チェルシーが自分で決めたっていうなら文句は言わないッスよ」

 

 まったく、こんな人眼がある場所でお願いするとか彼女の人見知り的設定は何処に行った?お陰で一般クルーの好奇の目にさらされて俺の精神がマッハでピンチッスよ。多分ないと思うけど、もしこれを意図的にやったんだとしたら……チェルシー、恐ろしい子!

 

「アンタ、なに白目剥いてんだい?」

「月○先生リスペクトッス」

「「………(だれ?それ?)」」

 あ、姐さんも妹君も疑問符浮かべてら、この世界の人は知らんわな。こりゃ失敬。

 

「はぁ…ま、人手不足だしだけどその代わり、きちんと働いてもらうよ?とりあえずは厨房で手伝いをして貰う事にしようかな?」

「あ、ありが…」

「礼は言わない、このフネに乗ると決めたのはチェルシー自身なんスからね。俺ァ来る者拒まずが基本だから、使える人材をフネに雇い入れるのは当然ッス。ま、とにかくだ―――」

 

 改めて居住まいを正し、チェルシーの方を向いて真面目な顔を作る俺。ちゃんと言った通り自分で考えて出した答えだ。俺もちゃんと対応しなければなるまいて。

 

「―――ちゃんとついて来いよ?じゃないと置いていくからね?」

「大丈夫、ちゃんとユーリについて行く」

 

 そして、あとで寝る時に思い出してぎっぷりゃと言いたくなる台詞を吐いたのだった。

ああ、周囲の目がなんか奇怪な物を見る眼だったのも地味に胸が痛いなぁ。

 

―――こうして、生活力高めの主要クルー、チェルシーを仲間にしたのであった。

 

「あ、ちゃんとお給料も出すッスよ」

「え、別に私ここにいられるなら無給でもいいよ?」

「阿呆。雇う以上お金を払うのは普通なの!……大体女の子なんスから色々といるっしょ」

「そういうものなんですか?」

「まぁそう言うもんだねぇ。ようこそチェルシー、改めて歓迎するよ(これで賭けはアタシの総取りだねぇ、くふふテコ入れした甲斐があるってもんさ)」

 

でも何でだろう?トスカ姐さんが悪い顔しているような気がするお( ^ω^)

 

***

 

さて、チェルシーが正式に仲間になったとかのイベント以外は特に何事もなく、無事にトトラスで物資を補充できた俺達は、そのままアバリスの針路をボイドゲートへと向ける前に、ちょいと一週間ほど寄り道をすることにした。目的は何と言ってもお金である。なに簡単な話、ゲートをくぐる前にお金をためるただそれだけ。

 

つまり、しぶとく領内を徘徊しているであろうデラコンダの部下のフネを拿捕するのである。先のデラコンダ戦に置いてアバリスが結構無茶が効く事が解ったのと、連中の装備品ではこの艦のAFPS(えーぴーえふ・しーるど)は貫けない。なら精密射撃で武器だけ破壊し、降伏を呼び掛けてやれば、フネだけが手に入ると言う訳だ。

 

ちなみにジャンクとしてフネを売るのと中古として下取りするのとでは後者の方が高く買い取ってもらえる。今は領主が居なくなって混乱しているから、そいつらを狩ればお金はたまる一方な上、倒した事になるので名声値も上がると一石二鳥で美味しいことだらけである。コレを逃す手は無い。

 え?鬼?鬼畜?悪魔?なんのことだか ゆーりわかんない、てへぺろ

 

「艦長~、新しい敵の団体さんの影を捕えたよ~、どうする?」

「敵さんの艦種は?」

「全てレベッカ級です。どうしますか?」

「それなら答えは決まってるッス、鹵獲するッスよ。儲け儲け」

 

またカモを見つけたぜ!こうなれば稼げるだけ稼ごうでは無いか!ヒャッハー! 

目標はランキング100位に入るくらいまで!!

 

「さっすがはユーリ。戸惑わないね。そこにしびれないしあこがれないが…」

「トスカさん、あの艦隊が何に見えるッス?」

「札束だね」

「問題無いッスね?」

「ああ、問題無いね」

「ほいじゃ、ミドリさん」

「ハイ艦長、戦闘態勢に移行ですね?」

「艦内放送頼むッス」

「アイサー」

 

お仕事お仕事ってな。

こうして俺達は、残党狩りを行う事で資金をドンドン増やしていった。

なるべく抵抗しなければ破壊はしなかった。買い取りの値段が安くなっちゃうので。

 

 

―――そして戦闘シーンカット!カットカットカットォ!…どうせ作業ゲーだし。

 

 

『こちらEVA班、敵さんのフネをトラクタービームで固定しておきました』

「御苦労さまッス。戻ってもらっても良いッスよ?」

『ありがてぇ、そろそろ肺一杯に空気を吸いたかったところだ。それじゃあ一度戻ります』

 

 一見すると宇宙服を着こんだ中間管理職にしか見えないおっさんが通信を切る。彼の名はルーインさんと言い我が艦における貴重な船外活動員である。EVAとはextra-vehicular activityの頭文字をとった言葉で意味はまんま宇宙遊泳とか船外活動というもの。EVA班はフネの外に出て真空の宇宙で作業をする人達の事だ。

 シールドや装甲で守られている宇宙船内部とは異なり、特殊素材製の宇宙服だけしか身を守る物がない場所なので、ある意味EVA班は凄い猛者達である。なにせ鹵獲したフネの牽引とか大型or超小型のデブリ回収には彼らが居ないとなんも出来ないからな。ある意味生活基盤の大黒柱と言ってもいいかもしれない。

 

「警備班室、そっちは?」

『捕虜の方は駆逐艦クルクスの方に詰め終わりました』

「まぁ恐らく奪取される事は無いと思うッスけど…気を付けて戻って来てくれ」

『了解』

 

本日の戦果は水雷艇レベッカ級3隻がまるまるもりもりと、降伏しなかったので止むを得ず破壊したフネのジャンクパーツが幾つかである。それと敵さんが積んでいた食料品もそのままこちらの倉庫行きとなった。宇宙では使えるモノは全て回収するのである。特に宇宙船は豚さんの様に無駄になる部位が無いのだ。

あと、丸ごと捕まえたはいいが当然捕虜がでる訳で、彼らはとりあえずアバリスの後を自動追尾するよう設定したアルク級駆逐艦クルクスに詰め込んだ。多少手狭だろうが倉庫部分を改装して、敵の捕虜を詰め込めるスペースを作っただけなので、捕虜たちの疲労は溜まるだろうが別に住む訳じゃないしそれで良いだろう。

 

むしろ海賊みたいにいらない人間を外に放り出さないだけ優しい方である。外って宇宙空間の事ね?生身で放りだしたら凍るか焦げるか…とにかく碌な死に方じゃないだろうな。尚、内部は隔壁で閉められているから重要区画には入れないし、何より操舵はAIドロイドだ。武装も機関も最低限だし、例え乗っ取られても相手は何もできないだろう。

一応レーションのコンテナを置いてあるから餓死する事もないだろうし、水も節度を持って使えば制限無しだしな。元が日本人なので敵とはいえ捕虜相手にあまり非人道的な事はしないのだ(キリッ……いやまあ、捕虜にしてる時点でダメなんだろうけど、コレがこの世界の流儀と言いましょうか。

あー、うん。とりあえずその話しはもういいから、鹵獲船を次の寄港地である惑星べゼルのステーションで売り払おう。しっかし、随分倒したなぁ~コレで累計何隻目だっけ?ふと気になったから、トスカ姐さんに聞いてみよう。

 

「トスカさん、今回ので累計何隻目でしたっけ?」

「ん?ちょい待ちな―――おおよそ200隻ってとこだね。ちなみに破壊したのを除いて殆どが鹵獲済みだ」

「結構捕まえましたねぇ。でも確かエルメッツァ・ロウズの戦力って数百隻も無かったなッスよね?」

「ああ、おおよそ200隻だね」

 

 んで、さっき累計200隻突破……あれ?

 

「つまり敵はもう出ない?」

「あたし等が捕まえた人数だけで、エルメッツァの戦力を大半捕獲したって事になるねぇ」

「うっわ、領地丸裸じゃん。少々やり過ぎた?」

 

うむむ、ゲームだと無限に敵が湧いて出て来てたけどやっぱりこっちじゃ有限だよな。それに俺らの場合は敵を倒したら残骸はジャンクに、無抵抗なら鹵獲して売り払ったから放置後味方が回収の修理された敵がまた参戦のループが無かったのだ。運が良かったのか稼げない意味で不幸なのか判らんがしばらくこの宙域では敵は出ないだろう。

 

 …………海賊は除いて。

 

「うっわうっわ、この領主星系海賊に荒らされてアボンッスか?」

「アボン?いや大丈夫だと思うよ。基本海賊は航している船舶しか襲わない。第一宇宙に出ている人間の9割かたは0Gドッグなんだ。民間施設がある惑星に地上攻撃なんぞしたらすぐに噂が広まるよ。そしたらソイツは宇宙に居られなくなるだろうね」

「ならいいんスけどねぇ」

「心配しなくても領主が死んだんだ。後継者がいないんだし近い内に隣国に吸収合併でもされるだろう。ま、あたしらにゃ関係ない事だけどね」

 

ま、そりゃ確かに。

後々の事を考えてここの敵からは搾り取れるだけ搾り取ったし、あとの始末はここに引っ込んで住み続けるであろうデラコンダの家臣団に任せる事にしよう。領主を倒したらそこは俺達の物という戦略ゲー的な要素が無いのが悔やまれる。まあ戦艦一隻で領主星系をどうするのかと問われれば、ノープランという他ないので諦めもつく。

しっかしそれなりに敵となった連中を狩り続けた訳だが、0Gドッグのランキングは水雷艇200隻程度じゃ雀の涙ほどしか名声が入らないのでまだまだランク外だ。早くランクを上げたいもんだね。今後の命綱的な意味で。

 

「ふむ、それじゃあ…ボイドゲートを越えますかね。お金も随分貯まったみたいッスから」

「いいんじゃないかい?ちなみに私らの所持金は30万Gに達してるよ」

「随分貯まったッスねー」

「こりゃ宴会開き放題だね」

「まてうわばみ姐さん、それ以上はいけないッス」

 

貴女が飲むとかなりのペースで金が消えるので自重してください。いやホントマジで。

まあ、そんな感じで補給の為に立ち寄った惑星で部下の疲労度を下げる名目でお疲れさん会という名の宴会を毎回開いたりしてるから、それなりに散財してる。レベッカ級は元から結構安い値段だしなぁ、おまけに古いから下取りの値段も安いしな。

 それでもここまで貯められたのは、俺や一部真面目な方々の頑張りによるところが大きい。頑張った。オレ超頑張った。癖とアクが強い部下を叱咤してここまで良くやれたと思う。

 

「じゃあ針路はべゼル。今回の鹵獲船を売り払ったらその足でボイドゲートを越えるッス」

「アイサー」

 

さてさて、今度こそ新世界へってね。

 

***

 

さて、現在我がフネは航路上、惑星べゼルとボイドゲートとの中間地点を通過中である。

なにか忘れている気もするんだが、何だったか思い出せないので、仕事してたんだけど…。

 

『艦長、不審船が接近中です、此方に対してコンタクトを取ろうとしてますが…』

「ん?解ったブリッジに行く」

 

はて?こんなイベントあったかねぇ?

 

「ミドリさん、状況は?」

「現在我が艦の後方400の位置に不審船が一隻、艦種はボイエン級です」

 

ボイエン級ってのは、確かカラバイアってとこの技術を使用したやや小さめの輸送船だったな。

それなりに積載量が優秀だから、各国に輸入されている輸送屋やるヤツにはなじみのあるフネだ。

 

「輸送船じゃないか…で、相手は何だって?」

「それが先程から『俺だ、トーロだ、乗せてくれ』と言ってきています。艦長、トーロって人物に知り合いでも?」

 

あーなりほど、思い出した。トーロの奴か…。

あったねぇ原作でもこんなの。

 

「どうする艦長、撃沈しちゃう?」

「ストール、過激過ぎッス」

 

 そこぉ、キラキラした目で撃つ?撃つ?って顔しない。トリガーハッピーかお前わ。

 

「あとミドリさん、俺が話すから回線つないでくれ」

「はいはい……いいですよ艦長」

 

よし、久しぶりに艦長らしくやりますかね。俺は顔を引き締め、出来るだけ真面目なイメージを、己に反映させる。そして、息を吐き…普段の抜けた声とは違う余所行き様の威厳のある声を出した。

俺だってやろうと思えばこれくらい出来るのだ。普段疲れるからしないが。

 

「こちら戦艦アバリス、当艦に接近中の不審船、何か用か?」

『……こちらトーロ、よう久しぶりだな?ユーリよ。さっきから通信で呼びかけてるのに出てくれないとは随分と―――』

「久しぶりと言われても困る、ソレと貴様に呼び捨てにされる様な関係では無い筈だが?」

『堅ぇ事言うなって!俺とお前の仲だろう?』

 

………どんな仲だよ?お前との関係なんて酒場でのケンカ相手じゃないか。

 

「とにかく要件を言え、一応警告するがこちらに危害を加える場合は撃沈する。進路を妨害しても同様だ。返答は如何?」

『だ か ら !さっきから通信入れてるだろう?俺をそっちのフネに乗せてくれってよ!』

「………ご自分のフネをお持ちのようだが?」

『コレはダチのフネに乗せてもらってるだけだ』

「なら俺の所に来る必要はないだろう。そこが君の出立点だ。精々頑張りたまえ」

『この仕事止めたからもう行き場所がねぇんだ!このフネに乗ってるのも今までの温情みたいなもんなんだ!なぁ頼む後悔させネェから乗せてくれ!この通りだ!』

 

画面の向こうで頭を下げるトーロ、ちょい図々しいな。

しかし、今はこんなヤツだけど原作キャラだし…鍛えれば形になる…かな?

 

「一応聞くが、航海の最中に死ぬ程度の覚悟はあるんだよな?」

『え?…あ、ああ勿論!』

「それなら問題無いな、ウチのフネも人員不足だったからちょうど良いし…」

『マジか?よしゃぁぁッ!』

「とりあえず接舷してやるから乗って来い、以上だ」

 

そう言って通信と切った。

ふと艦橋内を見ると、みんな固まっている…なんだ?

 

「どうしたんスか皆?」

「あ、良かった~。いつもの艦長だ~」

「いつものぼけーっとしたアホな印象とは全然雰囲気違うから誰かと思ったぜ」

「俺なんてびっくりして思わず主砲撃っちまうとこだった」

「………ぼそぼそ」

「ミューズ、言いたいことがあるならちゃんと声に出しましょう。まぁ私もその意見には同意ですが」

「ユーリは時々、こっちが吃驚するほど性格が変わるからねぇ。トトラスでもそうだったし、アンタ実は2重人格とかじゃないのかい?」

「………なんか皆の俺に対する認識が解る言葉ッスね」

 

そりゃ普段抜けた様な感じ出してるけどさぁ…その方が楽だし。

某有名な宇宙海賊の船長も言っている“フネは我が家だ、自分家の中で緊張するバカがどこに居る?”ってな。

 

「でも艦長、勝手に乗せちゃっていいんですか?」

「まぁ、町のチンピラしてたヤツだったから、暴れても鎮圧出来るだろうけどねぇ」

 

腰に吊り下げたメーザーブラスターをさりげなく撫でるトスカ姐さん。

ト、トスカ姐さん怖いッスよ…まぁ良いけど。

 

***

 

意気揚々とブリッジに入って来たトーロ。これがただの船員採用だったならば、艦長の所にわざわざ来る必要はない。こっちがコンソールで辞令出してあとは丸投げである。ただ今回は押しかけというか飛び込み参加という異例のケースだ。その為、面倒臭いが直に挨拶に来させたと言う訳だ。

 

「アバリスにようこそトーロ・アダ…歓迎しよう」

 

俺はワザと重圧感のある雰囲気を漂わせトーロに接した。

何の為?―――ただの悪戯である。

見ろ、トーロがまるで子豚の様に震えておるわい。

 

「よ、よろしく頼む!」

 

歓迎とは言ったがあくまで社交辞令。そんな事に露ほども気が付かず、微妙に緊張しているトーロはなんかシャチほこばった返事を返してきた。彼と最初に出会った時、俺はただのヒョロイ坊主でした。それが今では戦艦の艦長、トーロに見せつけるのは勿論艦長としての威厳(笑)。何故なら彼も特別な存在だからです。

意味が判らない冗句はさて置き、実際俺とトーロではこの短い期間の間で経験した場数が違う。トーロが雲泥のような運輸業に浸っていた頃、こっちは駆逐艦一隻で水雷艇艦隊と渡り合い、ついには戦艦を建造して領主にまで盾突いた人間だ。そんな人間にコンタクトを取ろうとする人間を少しは疑っても普通だよな?

 

「――――……まぁ、堅いのはココまでッスね」

「へ?」

 

纏っている威厳(笑)な雰囲気を解除。再び激変した雰囲気に戸惑うトーロ。面白れぇ

 

「それでお前さんクルーとして何が出来るッス?生活か?医療か?整備か?機関士?それとも警備?まさか戦闘系は……ムリだよな。どう考えてもチンピラだし」

「え?ブリッジクルーじゃねぇのか?」

「はぁ?言ってるッスか?いきなりブリッジクルーになれる訳無いっスよ?」

 

ブリッジクルーってのは各部署の総括、簡単に言えば幹部である。そこに新参の小僧をいきなり入れられる訳無いだろうが!人間関係の摩擦は勘弁じゃ!それ以前に―――

 

「まだトーロの適正がわかんないッス」

「適正?俺が前の職場で何してたか経歴送ったじゃねぇか」

「いや、それでいいんならそれで良いんスがね?一応ウチ独特の決まりというか」

 

 なんと説明したものやら困っているとトスカ姐さんが助け舟を出した。

 

「ウチでは新参は様々な部署に一度は付いて貰う。もしかしたら埋もれた才能があるかもしれないし、前の職場と違う新しい何かを得られる機会でもある」

「だから適当にフネの中うろついてみて、気になった部署で自分が出来そうな仕事をすればいいッス。そこから正式に部署を決める…まぁ様子見の期間ッスね」

「ま、要するに新人研修みたいなもんさ。小僧も頑張りなよ」

 

各部署にはすでにそう通達してあるッスと彼に告げておいた。チェルシーの場合は、もともと生活力高めで彼女自信人に食わせられる程度の料理が出来たから、すぐに厨房の方に入って貰ったけどね。

実際トーロは最初の頃はレベルが低いから、どこに入れても変わんないと思うし…。

 

「ちぇっ、砲雷班か戦闘機科が良かったなぁ」

 

 とはいえ、少し不満だったのか、ぼやくトーロ。

 

「今のところ砲雷班は、そこに居るストールがやってるッスよ?やりたいなら彼を蹴落とさないとね。ソレと戦闘機科は、現在戦闘機を搭載していない本艦には無いッスから」

 

ソレを聞いたトーロはガックシと肩を落としていた。

まぁ君の適正が解るまでの辛抱だ、我慢してくれい。

 

「とりあえずトーロはそこら辺をうろついて、いや徘徊して回るッス」

「いや何で言い直したし?つーか、徘徊とかうろつくって…まぁいいか」

 

トーロはなんか釈然としないぜと言わんばかりに腕を組みながらそう言うと、ブリッジを後にした。

 

 

***

 

 

「さてミドリさん、ボイドゲートまでどん位ッスか?」

「ハイ、艦長。まもなく有視界でも確認できる距離に入ります。パネルに投影します」

 

ミドリさんがコンソールを操作すると、メインモニターに拡大画像が表示される。

そこには、エネルギーの膜のようなモノが巨大な円になった“門”が映っていた。

 

「コレがボイドゲート」

「あたしは何度も通ってるけどねぇ~」

「トスカさん、人がせっかく驚いてるのに落さないでくださいよ…」

「そうだぜ副長、俺達だって見るの初めてなのにさぁ」

「ごめんごめん」

 

なんか緊張感の無い会話している俺達。

まぁ俺も含めて、この宙域から他の宇宙島がある宙域に行った事が無いんだよなぁ。

ある程度興奮もするわな。

 

《―――警告する。領主法により許可証が無い艦船の航行は禁じられている。また現在中央政府の混乱によりゲート周辺の空間は封鎖中である。接近中の艦はただちに武装を解除し、ゲート警備隊の誘導に従いつつ所定の位置にて待機せよ。繰り返す》

 

「艦長、警備艦隊から全周波数帯で警告が来てます」

 

さてと、とうとう違う星系への第一歩か。

 

「トスカさん、準備は?」

「エネルギーは満タン。修理は万全。フネの研究も進んで少しだけ改造も進んだ。デラコンダの時より調子がいいんじゃないかい?」

「なら、面倒臭いから警備艦隊は無視して強行突破するッスよ、全艦対艦戦用意!」

「おいさー!全砲塔、出力臨界までジェネレーター回路解放」

「インフラトン機関、臨界可動開始、出力上昇中……90、100%まで行けますじゃ」

 

艦内の照明が通常巡航から、戦闘巡航の時の非常灯に切り替わる。 

EAやEPを作動させる必要はネェな、もう光学機器に捉えられる範囲内だろうし。

 

「敵艦隊、威嚇砲撃を開始、本艦の右舷を通過します」

 

青色のエネルギーの塊が数本、アバリスの横を駆け抜け虚空へと霧散した。

こういった時は問答無用で撃沈しないとダメだろ…警告無視してるんだし。

 

「―――どうもこの宙域は真空じゃなくガスがあるみたいだな。ふむ、ガスの影響で光学兵器の射線がズレたようだ。お陰でコッチは射撃諸元のデータが取れた。ストール、役立ててくれ」

「ほいよサナダさん、射撃諸元を微変更っと、ピッポッパ……はい完了」

 

科学班のサナダさんの弁、なんだワザとじゃ無くて訓練不足かよ。

 

「こっちも撃ち返すかい?ユーリ」

「先は譲ってやったんだ。もちのロンッス――砲雷班、効力射を狙うぞ!全砲撃ち方始め!」

「はいよ!ポチっとな!」

 

お返しとばかりにこっちも砲撃を開始する。

両舷のリフレクションレーザーカノン、艦首軸線大型レーザー、そして甲板の上の主砲が青い火線を吐き出した。

こちらはガスの対流データは入力済みな為、凝集光の射線が狂う事は無く標的に命中する。

 

「警備艇3隻に命中、大破1、残りは航行不能の模様」

「気にせず突破するッス!ボイドフィールドに入ったら向こうも手が出せないだろうし」

「了解、気にせず突破します」

 

そして俺のフネであるバゼルナイツ級戦艦アバリスは、そのまま警備艇の間を通り過ぎた。恐らく敵さんも止める気力が無かったんだろう。ある一定距離を進んだところでレーザーの一つも撃ってこなくなり、そのまま進路を明け渡したのだ。ありがたいと俺達は隣星系、エルメッツァ・ラッツィオに向けてボイドゲートへと突入した。

 速度を緩めずにボイドゲートの空間転移境界面まで来たアバリスは、まるで豆腐に釘を打ち込むが如く、なんの抵抗も無く鏡面の様に空間が歪み蒼白く光る臨界面へ突入した。その瞬間俺は胸が躍った。新しい世界に飛び込んだという実感を得たのだから。

 

―――さてさて、これからどうなるんだろうねぇ

 

 

 


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