「……ようやくここまで来た。あと少しでマゼラン銀河百年戦争も終結する」
「おめでとうございます総統」
「この戦いに勝てば例え数十年の平和とはいえ、銀河を統一する事が可能となる。ふふふ、クローニングマシーンでのクローン代謝処置をしてまで生きてきたかいがあるというもの…参謀、全軍の準備は?」
「はっ、御前に」
「そうか……私について来てくれた同士たち、すこし手を止めて聞いてほしい。
―――我々が銀河に出てからおよそ百十余年、その百十余年全てが戦いの日々であった。
長き戦いの中で多くの仲間が一握りの平和の為に散っていった。
諸君らもまた、散っていた彼らの子孫であるが、勇敢であった諸君らの父母の子孫たちと今だにいられることを私は誇りに思っている。
こたびの百年に渡る長き戦いもこの戦いで終わる。これが終われば諸君らは長年の悲願だった平和な世界を享受できる。故に、総統である私は諸君らにお願いする。
決して犬死はしないでほしい。
そしてこのような百年も続いた愚かしい戦争が二度と起きないように、君達の子孫へと語り継いで欲しい。
百年以上生きながらえた老人の、最後の願いだ……全軍が生きて帰れることを望む、以上だ」
「―――全軍出撃!」
時代がうねりを挙げて動く。飛び立つのは万を越える機動兵器。六本の伸縮自在テンタクル・アームと赤いハイヒールを装備し、センサーが集約した巨大なカメラアイを持つその機体。
「――――ゾゴジュアッジュよ。我々に勝利を」
これでうちゅうはわたしにひざまずく( ゚∀゚)フハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
―――恐らく、この光景を見た人々はこう言うだろう。それは夢落ちだヨ、と。
…………………
………………………
……………………………
「………………なんじゃいあの夢わ?」
はいどうも、くどい夢落ちを経験したユーリ君です。
『夢落ち』……それは……シリアスを解きほぐしてくれる物語の癒し。だが……ソレの度が過ぎればそれはっ……ただの『茶番』に変わるっ!正直ゾゴジュアッジュはないと思う。主に世界観的な意味で。
夢見の悪さに辟易しつつベッドから降りる。うーん、まだ少し寝足りない気もするが、時間的には朝時間をとっくに過ぎているから起きた方がよさそうだよなぁ。とりあえず毛布とマットの誘惑を振り切り、囚人服…ではない普通の空間服に着替えた。
そう、囚人服じゃない。あの襤褸で薄汚くて埃っぽくて洗っても落ちない滲みが付いた囚人服じゃなくて、そこいらのスーパーでも売っていそうな既製品だが、新品の服である。なにせここは囚人獄舎じゃないのだ。ここは―――
『ユーリ艦長、起きておりますか?入っても?』
「ん?その声はヴルゴさん。鍵は空いてますよ」
《――カシュン》
「失礼致す。―――その様子だとよく眠れた様ですな」
「お陰さまで。中々良い客室です。このフネの艦長は良い趣味をしていらっしゃる」
「福祉厚生に関しては自分自ら設計に加わりましたからな。客室の雰囲気に関しては以前の領主相手にとった杵柄です。良いフネですよ。このブルーノアは…」
そう俺は今、ブルーノア級一番艦ブルーノアに乗り込んでいる。だって俺が乗っていたリシテアは穴だらけで現在曳航中なんだもん。幾ら堅牢な戦艦だったとはいえ、損害がバイタルパートにも届いていたので無茶し過ぎと整備の人に怒られました。
他の連中も似たりよったりで、皆脱出の時に乗っていた白鯨所属艦隊……混同しない様に旧艦隊と言っておこうか。その旧艦隊から降りてブルーノア率いる新艦隊の方に身を寄せていた。理由としては戦闘のダメージもあったけど、何より飯がないから。
食糧を乗せ換えるって方法もあったけど……それよりも乗っている人間ごと別のフネに移乗して貰った方が遥かに楽だった。そりゃ物資輸送コンテナを作業用エステ使って運びこむより、僅か数十名を移乗させる方が楽に決まっている。
てな訳で、俺達脱出組は新艦隊の方に身を寄せて貰っているという訳である。とりあえず乗り込んで早々思ったのは、久々に食べる白鯨産の飯は美味しかったってこと。少なくても最後に食べたのは5年近く前で、その間ずっと囚人飯を食べていた訳だ。
あれもオツな味で悪くはないが、基本的に質より量で嗜好品より実用品、あじよりカロリー優先だったので、こうして比べてみれば囚人の時食った飯は食べられなくないが、やはり白鯨産のものと比べれば見劣りしてしまうのだ。飯ウマウマ。
「もうすぐ本拠地へと到着するのでブリッジへどうかと思いましてな」
「ああなるほど。それでは行きましょうか」
通信で呼び出せば良いのにとも思ったが、空気が読める俺は口には出さないぜ。まぁ通信で呼び出すんじゃなくて自分で呼びに来るあたり、ヴルゴの実直さが判るってもんだ。………起きて最初に見た顔がおっさんなのはチト残念ではあるが。
「しかし、まさかお一人で脱獄なさるとは驚きましたぞ」
「ん、まぁあんな場所で終わりたいと願えるほど世捨てしていないもので。それに囚人たちの協力もありましたから」
「そう言えば囚人たちですが……いえ彼らはもう囚人ではありませんでしたな失敬」
脱獄した彼らを囚人と言った事を言い直すヴルゴ。
わざわざ言い直すあたり、やはり実直な男である。
「何か問題でも起こしましたか?」
「いえ彼らが元囚人であると聞いた時はそう懸念しましたが……」
「ふふ、意外と行儀が良かったでしょ彼ら」
「監視が無駄になりましたよ」
「まぁ比較的まともな人間を選んで派閥を組んでいたということもあります。とはいえ彼らもまた罪を犯して囚人であった事に変わりはありませんよ」
「そうですな……ですが一つ気になる事があります。元囚人の一人のトトロスという男はご存じで?」
監獄における俺の丁稚一号のトトロスの事は良く知っているが……つかヴルゴの口からトトロスの言葉が出るとは思わなかったので少し驚いた。ふむ、あの男何かしでかしたのかな?
「人の上に立つ職業柄、悪人かそうでないかを見抜ける目を持っているのですが……ユーリ艦長、質問ですが彼は囚人として監獄にいたのですな?」
「え、ええ。初めてあった時には既に囚人でした。確か情報屋をしていておイタをし過ぎたとか何とか」
「情報屋だったのに罪を犯して収監されたにしては、彼から悪人の空気を感じません。あれは何かを隠している。そんな気がしますぞ」
「まぁ知ってましたよ」
「ご存じだったので?」
ヴルゴに驚かれたが、ねぇ?
「ヴルゴ、監獄ということは多かれ少なかれ何かしらやましい事をした人間が放り込まれる場所です。隠したい事の一つや二つくらいあったでしょう。脱出するにはそういう些細なことに向ける余裕はなかったのですよ。まぁあれは大方自分への監視というところでしょうねぇ」
「………始末しますか?」
そういうと腰に下げたスークリフブレードに手を置くヴルゴさん。イヤ怖ぇよ。
「今はいいです。彼がスパイだとしても、どうせ今は何もできませんよ」
とくにこれから向かう場所は内部からの特定が難しいだろうしね。俺の答えにヴルゴはスッと居住まいを正して剣から手を離した。彼から一瞬感じた殺伐とした空気で彼が武将ではあるが、その本質は武人そのものだなと改めて感じた。
こうして俺のフォローのお陰で平服のままお外に放り出されるという事態にはならなかったトトロスくん。知らないところで命の危機とかイヤな人生だよな。俺はヴルゴに案内するようにいい彼の後に続いた。
ブリッジに着いてから少しすると、外部モニターに小惑星帯が写った。小惑星帯といっても数十キロ~数百キロレベルがごろごろしているような場所だ。なるほど気を隠すなら森の中、デカイものを隠すにはデカイものの中というかんじか。
そうヴルゴに尋ねたところ、ちょっと違いますなと言われた。どうも5年前のあの時に追手から逃げ回って航路から少し外れた際に発見したのがこの小惑星帯らしい。意図してこの小惑星帯を発見したという訳ではなかったのだそうな。
「第一防衛ライン、偽装衛星監視網を通過します」
オペレーターの一人がそう言った。なるほど大分基地に近づきつつあるようだ。しかし偽装衛星というがモニターには衛星らしき姿は見えないので思わず画面を凝視した。考えてみれば偽装と付いているのだし、人の眼でみて判れば世話ないわなぁ。
防衛網は6つほどあるらしく、第2第3までは基本的には監視用であるらしい。正確には第3までの防衛網は使い捨てであり、意図して接近してくる艦船を見つけた際には大型固形燃料ロケットを吹かしてそれ自体が質量ミサイルになるとの事。
そして第4からは小マゼランの監獄惑星ザクロウに用いられていたオールト・インターセプト・システム通称OIS(オイス)の改造版、ハイド・オールド・インターセプト・システム通称HOIS(ホイス)が置かれていた。岩盤で攻撃衛星が偽装されただけらしいけどな。
最後の第5防衛ラインは今乗っているこの艦隊がそうらしい。衛星が感知して撃退するか足止めしている間に部隊を展開するそうだ。ちなみに最終防衛ラインはデメテールの主砲射程圏らしい。主砲をくぐり抜けてまで接近を許したら最後だから最終って訳だ。ちなみにオイスとよめるが決しておいっすーではないのぜ。
んでとりあえず第5までスムーズに来たのはいいんだが……。
「ん~?どれがデメテールなんですか?」
正直、どれも同じような岩塊で見分けがつかないんだぜ。大きさも小さいの(数十キロクラス)から大きいの(数百キロクラス)まである。まさかこの中の一番大きいのがそうだなんて安直な事は言わな―――
「見えましたぞ。あそこの一番大きな岩塊です」
「……………そうですか」
「む、どうかなされたかな?」
「いえ、ただ想像と違っていただけで―――」
「む?」
「―――気にされなくても結構ですよ。それにしても他にも大きな岩塊がありますね。偽装用ですか?」
安直な事は言わないかと思ったが、そんなことはなかったぜ!それはさて置き同じくらい大きな小惑星もごろごろしているあたり偽装しているのかな?
「いえ、純粋な偽装用ではなく資源衛星兼という感じです。この小惑星帯にはなったボールズ達が一カ月で掻き集めたもので、資源採掘の結果、今では外側を残し中は空洞と化しております。そして丁度良いので農業プラント化する話が……まぁ空間の再利用ですな」
「まぁ食糧は沢山ある方がいいと言いますから正解っちゃ正解ですよね。農業プラント化するなら空気生産も可能でしょうし」
「他にも兵器製造プラントやデメテールのドックを模した造船施設等も作るらしいです。まぁ基本的にここでは生きること以外に仕事がありませんからな。逃げ込んだ小惑星帯を本格的に本拠地に仕立て上げるつもりのようです。あのマッド共は」
そう言われて冷や汗しか流れない。マッド共ならやりかねんからである。特にさっきの防衛ラインにあったHOIS (ホイス)とか…設計者は絶対にオールトインターセプトシステムを作ったライが関わってるだろう。ご丁寧に完全に隠された防衛システムを実装してやがったのだ。
アレが本気出せば近寄った艦船は知らない内にオオカミの口の中に頭突っ込んだような状態になる。そのままガプンッ、宇宙の藻屑と消えるって寸法だ。何て恐ろしい。そんなえげつないものと平然と作るのは、ウチのマッド以外にそうはいないだろう。……指向性ゼ○フル粒子とかあったら無力だけど、多分この世界にはないしな。
俺が思考の海に沈んでもフネは進み、ブルーノアは大型の小惑星がごろごろしている中でも一番大きな小惑星に近寄っていた……しかし“小”惑星なのに大型とか何か変な感じがするな。気にしたら負けなのか……まぁいいや。第一小惑星なんていっても大きさはピンからキリまであるしな。
まぁとにかく一番大きな小惑星に近づいたブルーノアは、ある程度小惑星の表面に沿って進み、小惑星表面に出来ていたクレバスへと近寄っていく。クレバスの大きさは小型船なら降りれるが大型船は降りることすら困難だろうに何故だろうと思っていたが、その考えは杞憂であることをすぐに知ることになる。
ブルーノアはある程度クレバスに接近すると一度停船し信号を発信した。するとどうだろう、クレバスがさらに大きく裂けて巨大な谷に変わっていくではないか。少しすればあら不思議、クレバスは谷に変わり、その谷の底に艦隊がそのまま通れるほどの大きな穴、いや回廊がその前に姿を現したではないか。
序でに周囲に先導役だろうか?久しく見かけなかったVFの編隊の姿が見える。ちょっと知らない形だから新型だろうか?彼らの後に続き、ブルーノア率いる艦隊は次々と回廊へと降下していく。殿のフネが回廊へ入った途端、再び谷は口を閉じるかの様に狭まり、ただのクレバスへと戻っていく。随分と大がかりな仕掛けである。
まるで秘密基地に入るようなワクワク感を感じるあたり、ここらの設計を誰がしたのかは明白であるがあえて言おう。ケセイヤGJ。俺が中島誠○助さんだったら「良い仕事してますねぇ」と絶賛してやるほどだろう。薄暗いながらも回廊には誘導灯が等間隔に灯りゆっくりとそこを艦隊が進んでいく……かっこいいのう。
そして闇の先に光がぁ……いやまあ回廊つっても数キロもないんですぐに回廊を抜けただけなんだけどね。でも目に入ってきた光景に俺は息を飲んだ。剥き出しの岩盤に、これでもかという感じで固定された人工物、そしてそれを繋ぐチューブ状の通路、そして中央に鎮座するデメテールはインフラトンの輝きを放っている。
なんて、なんて………なんて中途半端設備だ。だがそれが良い(キリ
剥き出しの岩盤の中に浮かぶ人工物とか、まさに秘密基地といったこの宙ぶらりんさがなんとも言えないワビサビを感じさせてくれる。さすがはマッド、機能性だけでなくロマンをキチンと追及するから大好きだぜ。残念ながら俺達は実質海賊なので、正義の味方の基地ではなく、悪党の基地ということになるのであるが。
「ドックに入港します」
ブルーノアはその巨体には似合わないほど繊細な動きで、デメテールの蜂の巣型ドックを真似たであろうスペースへと入港していく。完全に船体がドックに入ったあたりで周囲の壁が開き、中から固定用の大型ガントリークレーンが伸びてガコンというブルーノア船内に響く音と共に船体を固定した。
他にも補給用や整備用のアームが外に出ていたブルーノアを調べ、整備の人間やドロイドが小型艇に乗り周囲に展開している。この蒼い戦闘空母も家に帰ってきたので羽を休める為に機関の火を落とし、停泊モードに移行していた。やがて乗組員に上陸許可を出したヴルゴが、仕事がなくてモニターを見る以外空気だった俺に振り返る。
「さて―――ユーリ艦長、ようこそ小惑星基地レイアに」
「レイアっていうんですか。ふむ命名した人は結構洒落が効いてますね」
「どうしますか?基地内を見学しますか?それとも主要メンバーを招集しますかな?」
「うーん。出来れば見て回りたいけど、それはあとで出来ますので……」
「ではメンバーに招集をかけます。デメテールに向かいましょう」
さて、久々に古参メンバーと対面か……皆老けたかなぁ?あれから5年だしなぁ。まぁおいらはいつも通りに行くしかないんだけどねぇ。腹くくっていきますか。
「やぁみんな、乳酸菌とってるぅ~?」
「……………はぁ?」×全員
しみったれた再会イベントなんてくだらねぇぜ!とか考えて、いきなり銀様の真似をしてみたが、全く似てないから外したらしい。いやそもそもこのネタが判る人間がこの時代にいる訳がないし、第一俺も良く覚えていたもんだ。原作知識はもう殆ど覚えてないってのに困ったチャンなオツムだね!
冗談は置いておいて、久々にブリッジメンバーと、創設以来相棒のトスカ姐さんや我が妹チェルシーや悪友キャロ、それに我が白鯨そのものと言えるユピとの再会を果たしたのであるが、なんでトスカ姐さん外見変わらんのん?むしろ俺よりか若く見えるってどういうことよ?教えてエロい人。
「ム?なぜ皆さん固まっているんですか?」
「ちょっ……あんた、もしかして本当に……あのユーリか?」
「あのユーリか、どのユーリか?このフネに同名の人がいないなら、この私がユーリです。顔を見て判りませんか?」
皆の反応が明らかにおかしいので控えていたヴルゴに尋ねると、彼はちゃんと報告したと返してきた。ただし、IP通信では軍に傍受される恐れがあったので、報告では一方通行の暗号回線を使ったとの事。ふむん、よっぽど外見が変わったインパクトがつよかったのかしらん?
「(ひそひそ)……見てみれば判るかとおもったけど……判らん」
「(ひそひそ)随分と背が伸びてるね。もう私より背が高いんじゃない?」
「(ひそひそ)それに顔が全然違うぜ。なんか眼つきが悪くなってるぜ」
「(ひそひそ)あと良い筋肉してるわねぇ~……アレはあれで良いわ」
「(ひそひそ)……声が違うわ」
「(ひそひそ)確かに5年近く収監されていましたが……イメージ変わり過ぎですね」
「(ひそひそ)言葉使いもどこか違うのぉ。本当に本人か?」
「(ひそひそ)つーか表情胡散臭いし、笑い方が気持ち悪いな」
「(ひそひそ)でもちょっと野性味が増したというか…ポッ」
「(ひそひそ)ユピ、アンタ…」
「ユーリユーリユーリユーリ…」
あるぇー?なんか遠くからヒソヒソ話してて、なんかとっても孤独だよー。
あとごめん、久々だから目から光消えた妹様がものすごく怖いです。
「やれやれ、ようやく外に出られたってのにこの仕打ちですか?まぁ刑期を終えたという訳ではないのですが……そう言えば私の刑期はどれだけあったんでしょうね?」
「もしかして、本当に……ユーリ?」
「そうです。そうですとも。心配しなくても、足はちゃんと二本ついてます」
『うえぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!!???』×全員
うっわ、耳が痛い。急に叫ぶなよ。
「ありえん!確かに面影あるけど背が高い!」
「顔つき違うぞ!むしろイケメン死ね!氏ねじゃなくて死ね!」
「髪が凄く長いわ!というか手入れして無い筈なのに何でそんなに綺麗な銀髪なのよ!馬鹿なの死ぬの!?」
「喋り方も随分変わったのう…変わり過ぎじゃろう」
「笑い方…胡散臭い」
「つーか今頃よく帰って来れたよな。監獄の警備システムって甘いのか?」
「そんな喋り方するのはユーリじゃないな。もっと気色悪い何かだ」
上からストール、リーフ、キャロ、トクガワさん、ミューズさん、ケセイヤ、サナダが矢継ぎ早にまくしたててくる。ヒデェ言われ様だ。オイラあんだけ頑張って慣れない監獄生活を送りここまで逃げて来たってのに労う心はないんですか!
というかリーフよ、イケメン死ねは同意するが俺に言うな。あとキャロよ、髪の毛については遺伝子的にこうなっているだけだからどうしようもないんだが?あとサナダさん、流石にそれは俺のこと全否定じゃないッスか?泣くよ?泣いちゃうよ?
それにトスカ姐さん達が、まるで幽霊を見るかの様なあり得ないものを見る目で俺を見てくるし……というか他の人もチェルシー以外皆似たような目……ちなみにチェルシーはなんか下向いてブツブツっているので目が見えないし、なんか怖い。
「ねえユーリ……本当にユーリなの?」
「キャロ、そう言われるととても悲しい……なんなら遺伝子も調べますか?本人と言わざるを得ない程一致すると思いますけどね」
「ああ御免なさい。だってあまりにも“前”と雰囲気違うんだもの」
『んだんだ』×その他一同
「というか身体が成長しているのはいいとしてだ。その口調なんとかならないかい?アンタの喋り方は必ず“ッス”が付いていたから、なんだか調子がおかしくなるよ」
「ト、トスカさんまで酷いですね。監獄で舐められない様に必死になって口調を直したと言うのに…」
「あー、確かにそれだけヒョロ…背が高くて薄笑い浮かべながら敬語使われたら、相手側にしてみればある意味恐怖だね。色んな意味で」
「それにもうこっちの喋り方の方があっているというか何と言いますか…声も低くなりましたしねぇ。何時までもなんとかッスとか言っていると、やっぱり体面が…」
「「「「いや、でもアンタはやっぱりその喋り方は似合わない」」」」
ヒデェ!俺の苦労はなんだったんだ!?これもう怒っても良いレベルだよな!?
「貴方達、そk「喋り方がどうだろうと、ユーリはユーリだよ?」…チェルシー」
「そんな些細なことよりも、私はユーリが無事に戻って来てくれた方が嬉しい」
「わ、私もそう思います。艦長が戻ってきてくれて本当にうれしいです!」
「……私の味方はチェルシーとユピだけですよ。ハグさせてください。いやむしろ結婚しちゃいましょう」
「「…………はう」」
冗談を言った途端、二人の様子が!?え?なに顔赤くして倒れるほど嫌だったか?!……まぁ理由は判ってるけど、マジかよ。5年もたってるのに酷くなってやがる。距離開けすぎたから余計に感情が高まってるのか?……家帰ったら戸締りに気を付けよう。
「ちょっ!おまっ!?だれか、誰か担架を!メディーック!!」
「もう呼んであります。予想付きましたから」
「流石はミドリ!テキパキと冷静に何でもこなす!そこにしびれる―――」
「まて、それ以上はいけない」
なんかコントが展開されている。ああ、この混沌とした空気こそ白鯨の空気だ。
「ハァ~~…監獄に入った所為か鈍感とか色々と酷くなってるね。まぁとりあえずユーリ」
「なんですかトスカさん」
「他の連中とはあとで引き合わせる。んでだ。ちょっと着きあって欲しいんだけど良いか?ああ、チェルシー達なら医務室手配しとくから心配ないよ?」
「ん?まぁ、いいですけど…」
本当はディアナにも会いたかったけど…まぁ家戻ればすぐ会えるよな。
「んじゃ決まり。私についてきな。他の連中は仕事に戻れ」
トスカ姐さんがそう言うと、全員有無を言わず退室していく。なるほど、どうやら彼女が俺の代わりを長い事勤めてくれていたようだ。チェルシー達もブリッジメンバーと入れ違いに入ってきた医療班が担架で運んでいった。まったく、ジョーク
「どこに連れてかれるんです?」
「ん?ん~、まぁ新しくできたところを案内してやろうと思ってね」
「それはあとでも出来ると思いますけど…」
「……とにかくついてくればいいよ」
あれ?なんか不穏な気配を感じるぞ…勘が警鐘を鳴らしている気がする。いやでもトスカ姐さんに限ってそんなことはないだろう。それならそれで良い女にそう言う事されるのは色々と本望だしな。何をするつもりなのか…まぁ行けば判るか。
とりあえず彼女に案内されて、俺は部屋を後にする。終始無言で壁の花と化していたヴルゴさんも俺達についてくるらしく、俺の後ろを歩いている。そのまま近くの船内列車に乗り、何度か乗り変えた後、車に乗り換えてデメテールの外へと出る。
透明なチューブで出来た何処か一昔前の未来都市に出て来そうな道を走る車は、そのままこの小惑星基地レイアに造られた基地部分へと入っていった。まぁ行く時も通った道だからあんまり語るべきモノはない。基本的に岩石質の岩肌しか無いもんな。
―――んで、良い女(トスカ)につられてホイホイ来ちまった訳だが…。
「あのう、トスカさん?この部屋って……」
「見て判るだろう?執務室さ」
ふむ、確かに机とPC端末以外は特に何もないまごうことなき執務室だな。でもでもなんで執務室にいきなり……………ッ!?ま、まさかあの紙束のチョモランマは!?
「あ!ディアナに会いに行かないと!」
「ヴルゴ!」
「合点ッ!」
「な!貴方たちグルだったんですね!止めろーショッカー!」
嫌な予感的中、急いで離脱を図るが背後に控えていたヴルゴにとっ捕まった。なぜだ!何故動けん!?ヴルゴ貴様武術をたしなんでいるな!?しかもかなりのレベルの捕縛術を!完全に決まってて動けないぞチクショー!
「大丈夫ですユーリ艦長。マッド共謹製の薬もありますぞ」
「薬飲むことは確定何スか!?」
「お、やっぱりアンタはその喋り方が一番だねぇ。ま、見て判る通りだけどあたしはタダの人間だからね。このバケモンみたいな量の仕事はユピの手伝いがあってもこなせなかったんだよね。アンタはホント何時も良い時に来てくれるから大好きだよ」
ちょうど良い時に帰って来てくれたねぇ~と良い笑みを浮かべるトスカ姐さん。そして俺はドナドナが脳内再生される中、執務室へと押し込まれて大量の書類や新しいデータや決算などの仕事をやらされたのだった。
しかもユピが倒れているので彼女の応援は期待できない。なのに書類の山が目の前に…これなんて無理ゲー?戻って来て最初にすることかよ?!普通はこう歓迎パーティー的な何かを催しても良いだろう!?何時もの酒宴はどうしたよ!?
え?まだ俺が返ってきた事はブルーノアのクルーと主要メンバーしか知らないから、発表はもう少し待つの?その間に書類を片付けさせる?本気?本気と書いてマジと読むくらいに?……ああ、これくらい出来なきゃ白鯨を率いる座を返せないと。
なるほど、ならば戦争(じむさぎょう)だ。鉱山で鍛えた体力と集中力舐めんな。リポディ的な味のするマッド謹製ドリンク剤を飲めば眠気すらこねぇよ!幸いトスカ姐さんたちも手伝ってくれるらしいからな!なんとかやってヤンよ!
………ちなみにこれが実はトスカ姐さんから課せられた俺が本人かどうかを見るテストであった事はあとで知ったのは余談。そしてこの事務仕事により我が家に帰るのが10日後になったのは蛇足である。
「おわんねぇッス!おわんねぇッス!」
「いいから手を動かしな!」
「はぁ、もっと事務方が増えてくれないと、過労で死にますな」
「それ以前に、マッドの薬飲み過ぎてるから、色々と手遅れな気がするッス」
「「……同感」」
そして、あまりの事に俺の口調も元に戻ってしまった。いや大事な時は敬語モードに戻るんだが……どうしてこうなった!?どうしてこうなった!?
***
Sideユーリ
ああ、腰が痛い。
これは別に比喩でもヤぁらしい意味でもなく漠然とした事実である。俺は今モウレツに腰が痛かった。何故か?そんなもん、帰ってきて早々に他のクルーと顔合わせとかもソコソコに執務室に放り込まれて…あとは言わなくてもわかるわよね?
ともかく常時座りっぱなしで空間コンソールのキーを打ち、紙媒体の書類にはハンコを押し、何故か紛れこんでいた科学班&整備班のマッドコンビがお送りするデメテール素敵な楽園化計画と銘打たれたロマンあふるる企画書何ぞ吟味してみたりと……。
とにかく忙しかった。軽く腰痛になりそうなほどに…。
俺が居た時代よか医学が進歩している世界だから、薬やナノマシン薬を使えば平気だがそれでも痛い物は痛い。再生ポッドに入れば腰痛の原因である椎間板ごと通常の状態に戻せるから大丈夫だからって腰痛くなるまでヤルなと、馬鹿かと。
「ミユさん特製の薬が無ければ(腰が)即死だったッス…」
ユーリは思わずそう呟いちゃうんだ――割と冗談抜きで。
さて、若干たそがれながらも俺は自分家への帰路を急いでいた。なんだかんだでトスカ姐さんに捕まり仕事をさせられていたので、フネには帰ったのに自分の家には帰っていないのである。これでは会社に泊まりこむサラリーマンと変わらない。
家に居るであろう同居人のお手伝いさんの事も気になるし……俺忘れられて足りしないかな?もしも忘れ去られてたらもうね、泣くよ?恥も外聞もなく。だって忘れ去られるってとっても悲しくて残酷なことだと思うし。
話は逸れたが、とにかく帰路に着いた俺は大居住区へとやって来ていた。ちなみにここまではマイカーならぬマイVFを使わせてもらった。しかも乗ったのは俺が投獄される前に使っていた俺専用VF-0Sである。所謂指揮官用。
すでに白鯨の主力戦闘機は新型のVF-11に統一され、VF-0は完全にカタ落ち扱いを受けている……だが俺はコイツの方が好き。だってなんかシンプルでゴツゴツしてないし、なにより宇宙機というよりも飛行機って面構えが実に素晴らしい。
まぁソイツをわざわざ中身のアップデートという名の魔改造を施してパッケージ保存しておいてくれたケセイヤ総合整備班長には、こころの中でおおいに感謝しなければならないだろう。口には出さないのがユーリ・クオリティというヤツである。
別にお礼言っても良いんだが……口に出してお礼言うと、その代わりに危ない研究の許可をとか言われそうで……バイオでハザードとか機械達の反乱とかいうのは嫌ですたい。
さてそんな事もあり愛機を一度駐機スペースに停めて住宅地に入ったが、何と無く違和感を覚えていた。道自体は一応見慣れた道なのだろう。大マゼランへの旅の中で何度も通った道なのだから覚えが無い訳が無い。
だが5年の時が流れた居住区の様子は俺の記憶からすっかり様変わりしていた。大居住区は巨大な生活スペースであるが、配置としては自然ドームに近く、実際建物は一つに集中して建立していたのだが、それもこの5年で随分と建物が増えており、以前は遺跡ビル群だった居住区も今や下手な開拓惑星にも負けない規模の街と化していた。
恐らく生活班と行政を指揮っているパリュエンさんが大分頑張ってくれたんだろうな。風の噂に聞いた話にゃ、外の秘密基地にも同じ様に都市を建設する話が出ているらしい。もっとも人員補充の目途がいまだ立っていないので今はムリだが、彼らのバイタリティは将来の事も見据えての事だそうだ。海賊認定受けても逞しい事で。
「おい、あの人……」
「おお!テレビで言ってたウチの艦長じゃねぇか。アレ偽報道じゃなかったんだな」
「また、アレに、きれいどころを、もっていかれるのか、いあいあ」
「あーあ、可愛い系だったのに成長したら……タダの二枚目じゃない、ジュルリ」
「ちょっと貴女、よだれよだれ」
ああ、ご近所さんの眼がまぶしいぜ。若干暗雲とした呪いも混じってるようだけど懐かしい雰囲気じゃねぇか。そうこうして歩いている内に人混みが増した。おや、ここら辺には見覚えがあるな。
「しっかしこの変わり様。パリュエンさんも上手い事やってるって事なんスねー」
ユーリも、思わず口に出しちゃうんだ☆
[――――以上の様に医薬品の材料不足が懸念されており―――]
「街頭テレビでニュースが流れて…ホント街になったんスねー」
ふと見上げればビルの屋上に設けられた立体空間スクリーンに、大居住区にあるテレビ局(ナヴァラからの受け入れ難民から採用したクルーに元々そう言うテレビ関連の人達がいたらしい)が、ワイドショーを流し、その日の出来事やら色々番組を流していた。
そう言えば俺が帰還したというニュースは、帰ってから3日後くらいに艦内テレビ局と新聞社の手によって報道されていたらしい。もっともオイラ自身がそのことに気付いたのは帰還してから5日後、休憩中にテレビをつけたからだった。
もっとも俺の帰還というのが乗組員すべてに受け入れられたかというとそうでもない。統計をとったところ数こそ少ないが5年もフネを離れていた俺を艦隊トップから降ろして、民主的に指導者を立てようという意見も出ていたのだ。
こればっかりは5年近くも拘留されてしまった俺にも責任の一端があるとはいえ、元々俺が設立した艦隊なのにそこに民主主義とかの思想を持ち出して、トップの座の交代を迫ってくるとはなんともはや……言われたこっちとしちゃ言葉にならない。
正直ショックだったが、デメテールが都市を内包したフネである以上、不平不満の一つや二つあっておかしくない。むしろ9割以上の住民が俺の帰還を喜んでくれたのだからありがたいと喜ぶべきなのだろう。あんまりいい気分にゃならんけどなー。
「お土産はアップルパイでいいよな?」
これが従来の艦隊ならお外に出して粛清とか、どっかの宇宙港に放り出せば済むんだろうけど、ここはすでに一つの都市、いや小国レベルにまで達している以上、下手な粛清は乗組員、いやさ住民の反感を招きやすいだろう。粛清の嵐とか洒落にならねぇべ。
スターリンのしっぽ…いやいやいや、マジ勘弁。
…………………
……………
………
「くく、我が家よ!私は帰ってきたっ!」
手にはデメテール料理街を牛耳るタムラさん特製アップルパイ(コネでちょいと作ってもらった)を持ち、久々の我が家を見上げつつ電子ロックに手をかざす。静脈認証でドアのロックが外れたので俺は中に入った。
ああ、仕事に疲れながらも、戸を開ければそこは暖かい我が家―――
「ただいまディアナ!」
「―――!!」
小さな箒片手に掃除の片づけをしていたディアナに元気良くただいまを言う。専用のメイド服型の空間服をはためかせて振り返ったディアナは、驚愕といった表情を浮かべている。
あり?テレビとかで放送されていたから俺が帰って来ているのは知ってると思ってたんだけど…はて?
「さぁこの胸に飛びこんでおいでー!」
とにかく今はスキンシップを図ろうではないか!そう思い両手を広げ何時ハグが来てもいいよう身構える。一方のディアナは感動のあまりぷるぷると肩を震わせ―――
「ウ゛ーーーッ!!」《――がぶりんちょっ!》
「うぎゃー!頭頂部はぁぁ!!なんでぇぇぇ!?」
―――筈だが、事前に帰ることと伝え忘れればこうなります。
皆も気をつけようね!お兄さんとの約束だ!
「う゛~~」
《がじがじがじがじ―――》
「まってまって!スタップ!それ以上やられたら歯がミソに届いちゃう~!」
「う゛~~~ッ!!!」
「ゴリゴリいってる~!?は、反省してます!顔見せなくて済みませんでしたっ!あとこれタムラさんところのアップルパイ!お土産!買って来た!」
「う゛ッ!」
《シュバッ》
「あー!アップルパイだけもって何処に行くんだ!ディアナ!ディアナァァァッ!!!」
なんという事でしょう。気が付けば手に持っていたアップルパイを奪い取ったディアナが家の奥へと駆けていってしまいました。……こ、これはまさかっ!
「ディアナがぐれた!?」
「ま、帰ってきたのに連絡一ついれずに、そのくせ元気そうに帰ってくれば怒りも沸くってわけよねー。ダメ亭主待つ妻の気持ち?」
「そっスねー。アップルパイだけ強奪してくくらいお怒りのようで……ってキャロさん?」
「ハァイ~、五日ぶりー」
気が付くと後ろに見慣れた金髪をしたキャロが立っていた。何時の間に…。
「別にいいじゃない。ほら私とユーリの仲だしさ」
「そうやって普段からいると既成事実にしてしまうって腹ッスね。おお怖い怖い」
そういうと何かムーって感じで睨まれた。はっは、そういうジョークは嫌いじゃないが好きでもない。自粛しておくれよ。
「うん?ウフフ、普段からって意味ならもう手遅れかもねー」
「………うぇ?」
そんな謎の言葉を残しつつ、臆すことなく家の奥へ上がるキャロ嬢……なんだろう、やな予感が止まらない……まぁいいか。
とにかく彼女を追うようにして俺も中に入る。調度品とかはあまり置いていないので割と殺風景な感じだ。5年も立っているのだし少しは変化があるかとも思ったが、ディアナに任せておいて正解だったかもしれない。
んでとりあえず居間に向かう。そこには確か炬燵を作って置いてあった筈。今の艦内は四季を取り入れた影響でやや寒い温度に設定されているから、温度の調整がある程度効く空間服でも炬燵は嬉しいのだ。
「こたつ~こたつ~こた…」
ボタンを押して微妙に近未来的な自動ドアを開けばそこは―――
「遅かったねユーリ。どっかより道してたの?」
「あ、“ユーリ司令官”お帰りなさい」
「おっす、おかえり~じゃましてるよ~」
―――女の園でした。なにそれこわい。
「…………OK,落ち着こう。まずは落ち着こうか」
「生憎タイムマシンの入口はないよユーリ?」
「…………現実逃避くらいさせてくれたっていいじゃないッスかぁ、トスカさん。つかキャロめそう言う事か」
「だって5年も経ってるんだし、良いじゃない綺麗どころ一杯よ~」
「そういう問題じゃないんスよぉ…」
5年、たかが5年、されど5年。この微妙な時の流れは、俺のベストプレイスを違う色に染め上げていた………安寧の地はないのか俺に!?
「う゛」
「ディアナ…なんでハウスキーパーな君がいるのに他の人があがりこんでるんスか」
「う゛っう゛っ、う゛~」
「どうせ皆、あなたのコレでしょ?――トスカさん!へんな事ディアナに教えんでください!」
「私は教えて無いね。元からだろうケセイヤ印なんだし」
「嘘だと言えない感じが憎いでッス!」
頭に切り分けたパイと紅茶が乗った盆を器用に載せたディアナが、やれやれといった感じに首を振る。それを見てトスカ姐さんは笑い、ユピはオロオロし、キャロとチェルシーは炬燵にてまどろむ。そんな日常……騒がしい以外なんと言えばいいのやら。
しかしこうして見ると、本来なら死んでいた筈のトスカさんや小マゼランにて大企業の令嬢としての過酷な運命が待っていた筈のキャロ、ほかにも難民とかいろんな人がこのフネに居ると思うと、結構感慨深いものがあるというものだ。
「おーいユーリ、そんなとこ突っ立てないでディがもってきたオヤツでも食べよう」
「美味しい紅茶もあるわよー」
騒がしき日常…平和だねぇ。そんなことを思いつつ俺も炬燵に入ろうかなぁと思ったが、目の前の状況を見て足を止めた。
「ん?コタツに入らないのかい?」
そう言いますがねトスカ姐さん……ここで少し考えてみよう。この家で使っている炬燵は四角い炬燵机なので入れる場所は四方の四辺である。一辺にそれぞれ一人づつ、ユピ、キャロ、トスカ姐さん、チェルシーによって占領されている。
つまりさっきからタダ突っ立っていただけの俺は、ここにいる誰かと一緒に入らないと炬燵に入れないという事なんだよッ!な、なんだってー!………一人ボケ突っ込み終わり。でもこのままじゃ俺座れねぇじゃん。どうするよ?
<ライフカード>
1炬燵から離れたところに座る
2このメンツの中の誰かの隣に入る
3あえて炬燵の上に乗る(行儀が悪い)
どうする、どうするの!続きはWEBでッ!
「あ、司令。こちらにどうぞ」
「あ、ああ、ユピありがとうさん」
「あっ」
「むぅ…」
「ほう」
………WEBで見る前に結果は2番でした。ユピはポンポンと自分の隣を叩きここにどうぞと視線を送る。別に断るもんでもないので俺はユピの隣に座った。
「こ、このコタツっていう暖房器具は、本当にあたたかいですね」
「…………そだね(せ、せまい)」
―――とはいえ極自然に座ったのが間違いだった。
こうやって自然に座ったは良いが……お互いに身体が密着する!炬燵に潜りこんで蓑虫化することを見据えてワザと大きめのを造らせたとはいえ、前世における4人用とさほどかわらん。つまり一辺に二人座るとそれなりにひっつく事になる。
その身体はナノマシン集合体による作りものである筈、だが作りものであるということを感じさせない女性特有のふわふわとした柔らかさ、そして無意識に払ってもフッと感じてしまう甘い香りが心臓を高鳴らせ顔に血が昇るのを感じてしまう。
実を言えば俺はこの5年間こういった機会が一切なかった。監獄には娼婦はいたけど顔も知らぬ相手に手を出す程の勇気が無いヘタレでありまして……つーか殆どを地下坑道との往復で過ごしていたから、酒場でも勧誘とか受けなかった。
厳つい顔つきになっても身体はまだ綺麗なまま――ぶっちゃけ5年間女絶ちをしていたようなもので本能と言いましょうか――とにかく堪らないです。自然と咽が鳴りそうになるのをいかんいかんと首を振って押し留め、平常心と呟き呼吸を深くした。
だがそれでも、少し動くだけで聞こえる着崩れの音、ほのかに香る甘い香りを感じるだけで胸がドキドキするのが止められない。俺に出来る事は表面上問題無しに、内心汗ダラダラでどうしたもんかと悩むくらいだった。
「なぁ~に鼻の下のばしてんのよアンタは」
「お、おいキャロさん?―――」
さっきから睨むように見て来ていたキャロは急に立ちあがると俺の顔に手を伸ばし、結構力込めて引っ張ってきた。さりげなくツイストを加えられたそれは非力な女性の握力であっても俺を涙目にするのに十分な威力を誇る。
「イデデデデデッ―――!痛いでッスっ!」
「キャロさんッ。ユー……提督に酷い事はっ」
「ふん!こんどからは気をつけなさいよねッ」
最後にピンッと力を込めて頬を引っ張って手を離した彼女は、ストンと俺を挟んでユピとは反対側に腰を降ろす。思わず涙目になりながらも、あのうキャロさん?なんでこっち座るのん?と眼で問いかけるが、彼女は俺の視線とは別の方を向いているので眼を見れない。心なしか顔を赤くしていたような……気のせいだったのであろうか?
「……むむぅ……そうだ」
一方その頃。キャロと俺のやり取りを見ていたチェルシーも、良い事考えたという顔をすると行動に出た。なんと彼女、炬燵に潜りこんだかと思うとするりと器用に俺の前に這い出てそのまま膝の上にストンと収まったのだ。19歳にもなり身体も大きくなったというのに身体やわらかい事で。
そすて女性が三人も集まれば騒がしくなるのもまた道理。両サイドとフロントからのドルヴィーサラウンドでワーワーと牽制し合う彼女らに男の俺が口をはさめる筈もなく……ようするに止めらんねぇ。どうせ俺はヘタレですよーだ。
こうなると問題は一人残るトスカ姐さんだ。
流石にトスカ姐さんは彼女たちみたく騒ぐような事もなくこちらを静観している。いや静観しているというか余裕?なんでだろう?疑問に思いおもわず彼女の方を見遣るとトスカ姐さんはにっこりとドキリとするような艶やかな笑みをくれる。
ふと、そう言えば彼女とは色々とキスまでしたような記憶が……そこまで思いだして両サイドステレオで流される喧騒で萎えていた女性を前にした恥ずかしさがふつふつと再燃し、気が付けばあの手この手の恥ずかしさでボッと顔が熱くなった。
そうかっ、いまこの状況で余裕そうなのはそういうことなのねーっ。しかもトスカ姐さんはそんな俺を見て面白そうに……それこそ悪戯を思いついたかのように笑い……スクっと立ちあがって俺の背後に立つと―――
「なんだい?私だけ仲間はずれなんて寂しいねぇ。背中が寒そうだし暖めてあげようか」
―――そういって抱きつき俺の首に腕を絡めて来た。って、うぉい!?
「おいコラっ、皆いい加減にしろっ!はなれんしゃいっ!狭いし熱いし恥ずかしいッス!」
「えー、やーん」
「いまユーリ分補充中なのよー」
「そ、そのう。いまは離れたくないと言いますか。私だけ離れるのも嫌と言いますか……」
「いいじゃないか。ここに居る皆は5年間待たされた分のスキンシップを今濃縮してとってるんだよ?むしろまだまだ甘いと思うよ?」
………もう、どうにでもしてぇ。
***
「――てなことがありましてね。色々と大変な休暇でした」
「なぁ俺が全男乗員代表して言ってもいいか?マジでモゲロよ……」
そして短い休暇も終わり、各責任者会議へと出席中。色々と話をしていたら何故かケセイヤ総合整備班長と休暇の間の話になっていた。
「ところで何でそんな丁寧口調なんだ?」
「いえ少しばかり監獄では色々ありましてね。とりあえずこういう場ではこの口調で通そうかと思いまして。やっぱりおかしいですかね?」
「まぁな。前の喋り方知ってるから胡散臭さしか感じねぇよ。――で、ひっつかれた後はどうなったんだい?」
「いや普通にオヤツ食べて終わりましたよ?夜時間になると皆さん自宅に帰られましたしね」
「そこは普通喰っちまうとか、男の家に女が来たらどうとかになるんじゃねぇのか?」
「フフ、ケセイヤ。考えてもみてください。色んな意味で私が彼女たちに敵うとでも?」
なさけない話ではありますがと呟く俺に、ケセイヤは同情というか呆れというか色々と複雑な感情が籠った溜息を吐く。そう、結局あの後ディアナが食べるならとっとと食べようと騒ぎ、良い雰囲気になる事もなく自体は終息してしまったのだ。
なんか残念というか勿体無いというか……もっとも男性乗組員の憎しみをこの身に受ける程の器はまだないし、そういう関係というのも色々と各所で歪みを引き起こしそうだったので良かったと言えば良かったのであろうが……やっぱり勿体ねぇ。
「あのう、報告続けてもいいですか?」
「おっとこれは申し訳ありません。たしかデメテールの現状の途中でしたねパリュエンさん」
会議の途中で関係ない事を話していた俺達に苦笑を向けるパリュエンに俺は向き直る。だってなぁ、ここで話していることは既に執務室でなんども眼を通したデータの確認作業みたいなもんだから、正直詰まんねぇんだもん。
「はい、では続きをば―――コホン、工業で必要な鉱物資源は周囲の岩塊を含め、現在の消費量を考えれば備蓄も入れておつりが来ます。また食料品の幾つかは基本的な物は船内で生産可能です」
「だが輸入が見込めない以上、一部の農作物や畜産、水産物や医薬品などが手に入りにくい状況で現在艦内を含めすべての工廠では生産に制限をかけている」
「一応消費と生産のバランスは保たれてるが、問題は山積みだぜ」
「なるほど…今の勢力規模ならこれから数十年は安定していられるってワケですね」
「その通りです“司令”」
さてちょっとここで補足するが、俺の役職が艦長から艦隊司令官へとランクアップしてました。俺としては艦長の役職を気にいっていたんだが、大規模な艦隊を指揮する以上、一艦長という訳にはいかず一応艦長より上の司令官というポジに収まったそうな。
なのでこれからはユーリ司令官、簡略して司令と呼ばれる事になりそうである。ああ、でも司令と呼ばれるのも……悪くないかも。とか優越感に浸っていたかったが、少しばかり今の白鯨を取り巻く環境を鑑みると正直あたまがいたい。
「輸入の不可、定期的な物資の補充が出来ないのは痛いですが……なによりも一番の問題はやっぱり人材補充の目途が立たない事でしょうか」
「やはりユーリ司令もそう思われますか」
「もともと数が少ないのをC(コントロール)U(ユニット)とユピで誤魔化してやってきたものですからね。常に人材が火の車だったのは何処の部署も同じ筈だと収監される前から気付いていましたからね」
この先戦闘などの大規模消費が起こらなければ、エンデミオン軍に対する海賊行為により手に入れた物資、周辺宙域に点在する鉱物資源となり得る小惑星、そして元よりデメテールにある生産設備を考慮すれば、数十年単位で生きる事は出来る。
だがだとしても今必要な物やもしもの時の為の備蓄は圧倒的に少ない。しかも今は良くても数年くらいすればベビーブームで人口が増える事が予想されている。しかしその場合クルーとして扱うには最低でも十数年単位で考えなければならない。
なんとも、気の長い話になりそうだ。本当に頭痛を感じて来たよ…。
「なにか対策はありますか?」
額を抑えながら部下に問う。
「対策としては3つ程あります。一つは現状維持。出産を登録制にし、住民が減らない程度に現状を維持させます」
「難しいですね。子供を作りはぐくむのはヒトの本能です。それを抑制することは多大なストレスを与える事に他なりません」
「ええ、参謀会議でもそれが予想されています。他にはサナダさん&ミユさん原案のクローン兵製造、ヴルゴ艦長原案の捕虜洗脳案があります」
「………どれもこれも一癖も二癖もありますねぇ」
クローン兵とか……嫌確かにサイバネティクス文明が頂点まで行って、医療関係にも再生医療が普通に使われている世界だから、クローンの一つや二つくらい簡単に作れるだろうけどさ。それならロボット作った方が楽だぜ。
捕虜洗脳も問題ありだ。今のところ海賊行為の後捕まえた捕虜は、基本的に元のフネに戻し(物資は必要だが売る場所が無いのでフネはいらない)開放している。そうしているから軍も表立って警戒を強くはしていない。
だが、これでもし捕虜を陣営に加える為に洗脳とかして捕縛し続けたらどうなるだろう?当然軍としては捕縛した捕虜たちの事は任務中行方不明か戦死とみなすだろう。そうなれば白鯨艦隊は大殺戮をする大海賊となる。
大海賊の名はちょっとあこがれるが、さすがにそこまで血まみれな状態に勘違いされてまで欲しいとは思わない。というかソレすると下手したら洗脳組と正規軍が戦う訳で、それがばれたらそれを実行させた俺とかへの恨みが半端無い訳で。
「全部むずかしいですね」
「ですよねー」
会議室全体で溜息をつく。それからもああでもないこうでもないドンドンガヤガヤ喧々囂々と会議は困窮を極めるが、いいアイディアは沸いてこない。三人寄れば文殊の知恵と言うが、数十人以上いても問題が難し過ぎれば出ないもんはでない。
結局今回の会議では良い案は出ず。懸案は次回へと持ち越しになる。人はそれを問題の先送りというだろうが、一日や二日でこんな大問題が片付けば行政府は必要ねぇンダよ!と言い訳してみる。
もっとも司令官である俺は彼らが考えた事を聞いてから、GOサインを出すかどうか最終的に判断しなければならないのであるが……さてさて。どうなることやら。
とりあえず、これで全部です。続きは改訂版からになります。
……な、なるべく早く出せるよう頑張るッス