【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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旧版【妄想戦記】多分九話から十四話まで

 

 

 

 

――――転生か?第5,7話―――――

 

 

 

 

 

 

優秀すぎたがために、特別にやらされる羽目となった短期魔導師育成プログラム。

命令を受け、このプログラムを開始して2カ月が経過した。

 

最初の数日は鍛えた身体があったとはいえ、訓練が終わるとぶっ倒れていたが、それにも慣れた。

人間は慣れの生き物だと言うけど……ココまで行くともう常識超えてるなぁと思い知らされる。

今ではこの基地における二凶…ワイズ教官とソフィア教官を相手に出来る程になっていた。

 

 

―――――とは言うモノの、実質相手に“できる”ってだけで必ずしも“勝てる”訳じゃない。

 

 

現在、短期魔導師育成プログラムにおける、俺の模擬戦の勝率は6割がいいところだ。

他の教官達もそれぞれ見習うべきところがあるのだが、この二人が断トツでヤバい。

何せこの二人が組んだ時など、俺の勝率は一気に2割…いや1割以下にまで低下するくらいだ。

 

ソフィア教官は近接戦のプロ、そしてワイズ教官は全体を見て指揮も出来るオールラウンダー。

前者がフロント、後者がバックの陣形を取るのだが、それがすこぶる凶悪だった。

 

最初の頃の模擬戦では、まずソフィア教官が、俺の動きを封じるために接近してこようとする。

勿論、彼女の近接戦の強さは知っている為、俺は近づかせまいと弾幕を張ろうとした。

これが1対1ならば、力押しのソレで勝てる…だが、バックのワイズ教官がそれをさせない。

 

かなりの制御力をもったシューターで、オールレンジアタックを仕掛けてくるのだ。

当然こっちもシールドを張るんだけど、魔力弾がシールドに触れた瞬間閃光が走り視界を遮った。

どうやら、スフィアに閃光弾のようになる様な術式が組まれていたらしい。

 

それ自体に威力は無く、只視界を奪うだけなのだが、所見では見切れない為身体が硬直してしまう。

そしてその隙に、ソフィア教官が懐に入り込まれてしまうパターンが多い。

まぁ簡単に言えば、俺は降参せざるを得ない状況に追い込まれるって訳。

 

しかもだ、この二人前衛と後衛で役割が決まっている様に見えて、実は決まっていないのだ。

時折前衛後衛を入れ替えては、こちらを撹乱し罠にはめ、こちらの自信を完膚無きまでに叩き潰す。

もう本当にどんだけぇ~ってくらい強い。

 

お互いが役割を持っている事を理解したうえで、戦場の状況に応じて臨機応変に対応する。

おまけにどちらも『脅威は実力を持って排除せよ』『見敵必殺』を地で行く人達なのだ。

それなのに冷静…お陰で俺はとことん容赦もなく、模擬戦の中で叩き潰されたよ。

 

座学において戦術や戦略についても習ってはいた…。

だがソレを読んで覚えるのと、身を持って体感するのとでは訳が違う。

 

この二人との模擬戦は、俺にいかに固定概念を覆す事、戦術戦略が大事なのかを教えてくれた。

基本母上の戦法は“考えるよりも先に力で叩き潰せ”だったから、まだ慣れない所もあるけどね。

 

 

 

 

 

 

 

さて――――――

 

 

 

 

 

 

 

『多重シールド展開』

「いや…回避を優先」

『了解』

 

 

短かったけど辛かった、短期魔導師育成プログラムも…もうすぐ終わる。

なぜならば――――――――――

 

 

『α1ロスト、策敵中』

「β1の殲滅を優先する…」

『了解、レールブラスター・フルオートファイア』

 

 

―――――――――今日が最後の訓練、卒業審査なのだからッ!!

 

 

***

 

【30分前】

 

「最終総合訓練…ですか?」

「ああ、そのとおりだ」

「フェン君は優秀でしたからね。予定よりも早くプログラムを消化しちゃったのです」

「という訳で、予定を繰り上げて、今日は貴様の卒業審査を兼ねた最終総合訓練をすることとなった!!」

 

ドーンってな感じで俺にそう告げるワイズ教官とソフィア教官。

というか、すでにその前の模擬戦でぼろぼろなんですけど俺?

 

「ソレはハンデって奴です。だって2人合わせても、今のフェン君の魔力量には届かないですから」

「ま、そう言う事だ。何普段通り戦い、我々を下せばいい。実に簡単な事だろう?」

「そう…ですね」

 

いやまぁ確かにそうだけど…。

 

「ちなみに負けたら、超濃縮還元訓練“もう…川を渡りたい…編”を更に2カ月追加です」

「おまけに卒業は無し、その分戦場に出られなくなる上、下手すると実験部隊行きだ」

「あ、ちなみに実験部隊のモルモットにされるって事だからね?当然拒否権は無いよ?」

「…へぁ…」

 

…………俺に死ねと?鬼かアンタら?

 

「ちなみに、ルールも簡単だ。相手を気絶させるか降参を口に言わせればいい」

「時間制限もないですよ?自分の力を精いっぱい発揮すればいいですから」

 

―――――でも2対1って酷く無いすか?

そんな俺の呟きはお構いなしに2人は少し距離を取る。

 

「じゃあまぁ…」

「さっそく…」

「へ?」

 

えと、何故にデバイスを起動してるんスか…?

 

「「最終総合訓練…開始!!」」

「ヴィズ!ローラーダッシュ!!」

 

そして俺はローラーダッシュで、一気にこの二人から距離を取った……というか逃げた。

 

***

 

【更に40分経過】

 

『あ、反応がありました』

「無視しろ…ヴィスはセンサーを全て…α1のトラップ発見に向けるんだ」

『了解』

 

俺は訓練開始と同時に、目の前の2人には目もくれず、ひたすら逃げ隠れると言う戦法を取った。

万全の状態なら、多重シールドを展開し、鉄壁の防御を持ってして、弾幕を張り続けるのだが、今回はそうもいかない。

 

俺は事前にやった模擬戦の所為で、まだ魔力が回復しきっていなかったのだ。

なのでこうして逃げ回る事で、俺のレアスキル“リサイクル”により、魔力の回復を図った。

でもソレは―――――――

 

『ッ!!発見されました!反応はβ1』

「ちぃ…しつこい!!」

「ほらほら逃げなよミーシャ(こぐま)ちゃん♪じゃないと大怪我しちゃうよ~?」

 

――――――――とても甘い考えであった。

 

そう、逃げても逃げても、α1(ワイズ教官)とβ1(ソフィア教官)は追いかけてくる。

なので逃げる為に無駄に魔法を使わされる所為で、回復する魔力量より消費が上回ってしまうのだ。

 

「ちぃ!M82A1起動!」

『起動します』

 

俺は迫ってくるβ1に、圧縮魔力の弾丸を浴びせるが、そんなものどこ吹く風に避けられてしまう。

まるで柳…風に吹かれて、そのまま揺れる柳の枝の様だ。

 

「ン~フフフ、ソレでおわりですかぁ?」

「く…ヴィズ!!」

『多重シールド展開!!』

≪ガキキンッ!!≫

 

しかも、どうにも戦闘に興奮してしまったらしい…。

彼女から放たれる、普段の彼女からは想像できない狂った覇気が俺の動きを制限する。

 

『バースト!!』

「――――ッ!!」

≪ドド――ンッ!!≫

 

俺はバリアバーストでβ1を吹き飛ばし、その場から逃れる。

アレくらいでは倒せない…あの教官なら絶対に―――――

 

「ああ、ビックリしました…いいですねぇ♪」

 

――――――そう言って起き上がるからだ。

 

とにかく俺は本能で、この場から離れたい一心だった。

β1から放たれる狂った殺気…コレが戦場の殺気なんだと思う。

数か月前の俺なら、精神が耐えきれず壊れていたかも知れない程、強烈だ。

 

「――――フォックス2」

『レールブラスター・フルオートファイア』

 

逃げながらも後ろ向きに攻撃するモノの、β1はすぐさま近くのビルの中に逃げ込んでしまう。

もうすでにこんな感じの攻防が3~4度近く続いてたりする。

 

流石にα1との同時攻撃には焦った。

未だ飛べないけど跳ぶ事は出来たので、それを使って逃げたくらいだ。

中々倒す事が出来ないのでいい加減、ストレスも強くなる。

 

「―――――ちくしょう」

 

思わず出たそのつぶやきは、徐々に暗くなってきた訓練場に解けて消えた―――――。

 

***

 

【そして2時間経過】

 

流石は最凶の2人…前線を退いていたとしても、このくらいなら戦闘継続可能か…。

普通の魔導師だったらすでに根を上げている筈だもんな。

 

完全に当りは真っ暗になり、視覚での警戒は困難になってくる。

故に恐らくは魔力探知などを使って来るハズだ。

 

『サーチャーに反応あり…2人ともいます。向うはまだ気付いていません』

「そのまま監視を続行…動きを見せたら知らせて…」

 

俺は訓練場にいくつもある廃ビルの中の一室に隠れていた。

幾度となく痛手を貰ったワイズ教官の得意技であるミラージュハイド…

更に魔力隠蔽も用いて探索されないようにしながら、反撃の機会をうかがっていた。

 

俺とて今まで伊達に殺されかけ…訓練で気絶してたわけじゃない。

相手の得意な術式を盗んだりして、自身を強化したりした。

 

まぁ最もワイズ教官はわざとコピーするように仕向けてた節があったけどね。

自分の弟子みたいに思われてるんだろうなぁ俺。

 

『α1、β1、移動開始、どうやら気付かれたようです』

「…離脱する。ビルのマップをHUD上に表示」

 

兎に角この場から離れないと、2人一緒に来たって事はそろそろ本気で落すつもりに違いない。

コリャ気合を入れないとまずいぜ…全く負けても地獄だし勝っても最前線行きの地獄か…。

本当着いてねぇ…鬱だ。

 

マップに表示されるルートをたどり、階段を上がりつつそんな風に思った。

 

『どうやらビルの中に侵入されたようです。こちらに向かって来ます』

「逃走ルートは…?」

『この廃ビルは第六世代型の高層ビルです。窓が無い為、出入り口は下か屋上のどちらかしかありません』

 

なら仕方ない…上に逃げますか。

どこぞの白い悪魔みたいに砲撃で穴開けられたら楽だろうけど…

そんな事したらビルが倒壊しちまうからな!!

 

身体強化を行いつつ、何とか屋上にまで来れたので、屋上へ出るドアを見つけ外に出る。

俺は飛行魔法を応用した跳躍で、隣のビルにでも乗り移ろうとした。

 

瞬間――――――

 

≪ゾク…≫

「!!??」

 

――――――首筋がチクリとした…コレは殺気か?!

 

そう思ったが早いか、とっさに横に飛び去ると俺がいた所にスフィアが命中し霧散する。

あぶねぇ…避けてなかったら間違いなく首に当って気絶してたぞ。

 

「相変わらず…隠れるのが上手ですね…ワイズ教官」

「……ふっ、昔からかくれんぼには自信があったからな」

 

そう言って、何も無いところから滲み出るかの様にその場に現れるワイズ教官。

下から上がってきたソフィア教官も、追い付いたようだ。

 

「まさか…こんな古典的な方法で来るとは…」

「古典的だろうがなんだろうが、使えるモノは使うのは当り前だろうが?」

「確かに…」

「ねぇおしゃべりも良いんですけど…そろそろ始めませんか?」

「そうだな。―――――展開!」

 

その途端辺り50mくらいが結界に包まれた!これは…強装結界!?

 

「さぁコレでもう逃げられまい…」

「いい加減追いかけるのも空きました。さぁ戦いましょう?」

「……わかりました」

 

ふぅ、俺こう見えてもまだ年齢一桁なんだけどなぁ…。

何が悲しゅうて、こんな戦争してる世界に来なアカンのや…全く。

とりあえずヴィズを、アルアッソーモードからキーンセイバーに切り替える。

対峙している2人も俺が構えたのを見て、自分のデバイスを構えた

 

 

 

「「いざ…」」

「尋常に…」

「「「勝負!!」」」

 

―――――こうして2対1の不利な戦いが始まった。

 

「切り刻みます!クロックダガー!!」

『Yes,Boss Deep knife・full power!!!』

 

ソフィアさんの持つ、ナイフの形をしたストレージデバイスから男性のように低い声が聞こえた。

そして、高濃度に圧縮された魔力刃が展開される。

 

リーチこそ短いのだが、その圧縮された魔力刃は、プロテクション程度なら簡単に斬り裂いてしまえる。

彼女が考えだし、作ったオリジナルの魔法であり、デバイスのソースをかなり食っている。

だがそのお陰で、例えAAランクのシールドでも斬る事が出来るのだから、どれだけ凄いのかがわかるだろう。

 

「キーンセイバー…」

『キーンセイバー』

 

俺も負けじと双剣になったヴィズから魔力刃を展開して構える。

同時に身体に魔力を巡らし、身体機能の強化を図る。

なんせまだ身体はガキだからな。流石に強化無しだと大人には敵わんのですよ。

 

そして、コレで何度目かは解らない、ソフィア教官との剣劇が始まる。

素早く着きだされた左手の突きを、右手のヴィズの剣の腹で受けとめ、カウンターを返す。

 

だが、それが掠める事は無く、彼女からの右の拳が迫ってくるのが解る。

本当なら避けるのだが、別方向からワイズ教官の放った魔法が迫って来ているのでココは――――

 

「多重プロテクション」

『多重プロテクション』

 

―――――全て受けとめる事にした。

 

「ふふ、うれしいです。今までならココでkillしていたのに」

「成長っていうのは早いもんだな」

「お二人に…扱かれましたから…ね」

 

ギリギリと軋む障壁を維持しながら、マルチタスクによる会話。

これも幾度となく訓練してきた光景だ。

 

「お二人って…他にも教官はいただろう?」

「戦闘方面では…お二人に敵う教官は…いませんでしたよ?」

「うれいしいことを言ってくれますねフェン君は。まぁ事実ですが」

 

そういって今度は距離をとり、突進するかの如く迫る。

俺はバインドを使おうとするが、先にワイズ教官に使われそうになったので、とりあえず逃げた。

 

「おいおい、事実って…まぁそうだな」

「実質前線を退いた方ばかりでしたからね…仕方ないかと…」

「いや、それでも一般の魔導師以上の力はあるんだ。ソレを下せるフェンの方が異常だ」

「ですね~」

 

迫るフォトンバレットをBA(バリアアーマー)の防御力に任せてワザと受ける。

ちょっと驚いた隙に、こちらもマルチタスクで構築したフォトンバレットを放った。

…………ソフィア教官の方に。

 

「うわっ!あぶないですね!まぁ避けますが」

「ほう、そっちを先に倒そうとするか?じゃ俺はチェーンバインドを…」

「させませんって…アルアッソーモード」

『レールブラスター・フルオートファイア!!』

 

瞬時に変形したヴィズの銃口から、マズルフラッシュが出て辺りを照らす。

ワイズ教官はシールドを幾重にも重ね、更に角度を受ける事でソレらをしのいだ。

ちなみにソフィア教官は、ワイズ教官の後ろに退避済みだったりする。

 

「ぐお、相変わらず凄い威力だ…動けやしない」

「まだまだ…ですッ!」

『M82A1 mode release!』

 

空いている左手に兵装デバイスM82A1が展開、内部で魔力が充填圧縮されていく…そして。

 

「フォックス3」

『炸裂弾発射!!』

「ドゥオアアああ!!」

 

五発の砲声…至近距離での爆発の暴風が、ワイズ教官を貫いた。

そしてその爆煙を切り裂いて、鋭く俺に斬りつけようとしているソフィア教官。

実はこのヒト、さっきワイズ教官のジャケット掴んで、砲撃の盾にしてました。

 

その所為でワイズ教官逃げられずボロボロに…なんてひどい人なんだろうか。

自分が避けられないからって他人を盾にするなんて…コレも戦場の習いか?(違います)

 

「はぁぁぁ!!」

「くぅ…!」

 

振られた斬撃をキーンセイバーで受けとめる。

そのままでは連撃が来るのが解っているので、身体強化をMaximにして相手をはじいた!!

弾き飛ばされた勢いで空中にてたたらを踏むソフィア教官。

 

彼女は着地すると、そのまま俺を斬り捨てた―――――

 

「チェック」

「なッ!?」

 

―――――――かに見えた。だが思惑は外れ、彼女は俺をすり抜けてしまう。

 

そして彼女の後ろに立った俺が、首にキーンセイバーを当てていた。

 

「降参…してください」

「……………はふぅ、仕方ないですね」

 

彼女は手からデバイスを放し、両手を頭にやった。

俺は彼女にバインドをかけておく、一応念の為。

 

「でもまさか…幻影だったなんて、驚きました」

「未熟ですがね…」

 

何種明かしをすれば簡単なモノだ。

斬られる直前に幻影魔法で造り出した自分と入れ替えたのだから。

 

「おまけにワイズ教官のミラージュハイドと魔力隠蔽の複合技まで使えるとは凄いですねフェン君」

「苦労させられましたからね…このコンボに…で、降参ですか?」

「あら?私はもうフェン君に捕らわれているのですが?」

 

いやまぁそうなんですがね?

 

「あなたの口から…降参とは聞いていない…」

「………ふふ、良く気が付きましたね?解りました“降参”です♪」

「ありがとうございます」

 

こうして俺はバインドを解いた。

何せ勝利条件は気絶させるか、相手が降参を口にしないとダメなんですからね。

彼女はバインドで縛られた個所をさすりながら、未だ気絶していたワイズ教官の元に近寄った。

 

「さてと…いい加減起きてくださいワイズ教官」

「……………」←気絶中

「…………てい」

≪ドゴンッ!!≫

「ぐアッ!!――――ん?なんだ?どうなってた?ぐぅ…なんか色んなところが痛い…特に顔」

 

うわぁヒデェよソフィア教官…思いっきり顔蹴ってた。

 

「しっかりしてください。もう最終総合訓練は終わりましたよ?」

「おおう、そうでしたか?という事は…」

「ええ、フェン君に捕まってしまい降参と口にしてしまいました」

 

ははは、と笑う教官達…その笑みにどれだけの感情が含まれているのだろうか。

とりあえず、両教官がシャンとして立ったので、俺もそれに習う。

 

「フェン・ラーダー訓練兵」

「ハッ!」

 

軍人が出す独特の気に当てられ、俺も敬礼で返す。

 

「最終総合訓練の結果を伝える………おめでとう、合格だ」

「ハッ!ありがとうございます」

「一六○○の現時刻を持ってして、貴様は短期魔導師育成プログラムを終了した」

「なので、今この時刻を持ってして、あなたは中尉となりました」

「故に今後、貴官は我々の上官になります。今までの訓練ご苦労様でした」

 

ザッと一糸乱れぬ動作で敬礼をするふたり…。

 

「ありがとう…ございます」

 

―――――俺もそれに答え敬礼で返した。

 

「………と、まぁ表向きはこれでいいとしてだね」

「一応今からフェン君は上官になるんだけど、書類上は明日からなんです」

「なので、今の内に色々とお話して、媚でも売ろうかと思っています!」

 

そう言って悪戯っ子の様な顔のお二人さん…

おいおい、せっかくシリアスだったのに、ココで落すなよぉ…。

 

まぁ、堅苦しいのは苦手だから助かったし嫌な気分でも無いけどね。

2人がワザとこうやって、緊張とかほぐしてくれて、しかも労ってくれているのが解るからだ

 

「ワイズ教官…その心は?」

「優秀な教え子に、年金を優遇して貰う事であります!!なんてな?」

「私はそんなことしませんよ?でもその代わり今度ケーキでも奢って下さいです」

「……そんなに使えるお金は…無いのですが?」

 

俺尉官になったとしても未成年だからなぁ…。

この世界なら最低8歳からなら、通帳自由に出来るけど、俺まだ一年程たん無いしね。

 

「大丈夫!将来奢ってくれればいいのです!食べ放題で!」

「一応言っておくが、コイツの食べっぷりは半端無いぞ?」

「はは…知ってます…PXで良く奢らされましたから」

 

この後、一時間は談笑し、今まで話せなかった事を話した。

とても楽しい時間だった…何せ苦しかったからな訓練。

そして、夜も遅かった為、それぞれの宿舎へと足を向けたのであった。

 

 

こうして、俺はUSN軍の魔法部隊の兵士となった。

そして、最終総合訓練が終了してから三日後に、俺は前線近くの基地へと配属される事となった。

 

教官達は次の日から皆俺に敬語で話すようになった。

階級が俺の方が上なのだから、コレは仕方ない…だけどちょっとさみしい。

 

 

だが、ココで培った技術は必ず生き残る為に使う事が出来るだろう。

故に、俺はこの先でもずっと、ここの教官達…特にソフィア教官とおやっさん事ワイズ教官には頭が上がらないだろう。

 

 

今まで――――――本当にありがとうございました!!!

 

Rail Blaster Fullauto Fire

「この香りこそ戦場よ!」

 

 

 

 

 

―――転生か?第6話―――

 

 

 

 

 

Sideジェニス少尉

 

――セスル基地、司令部――

 

その日、俺は司令部に呼び出された。別に何かしでかした訳じゃあない。

俺の小隊の新しい隊長さまが本土から来られるからだ。

そのことの説明を受けに司令官室に入った。

 

「喜べ、ジェニス少尉…貴様のところの隊長が決まった。」

 

そう言って司令官は皮肉たっぷりに俺に書類を投げてよこした。その書類に目を通した俺は唖然とした。

 

「これは何かの冗談ですか?」

「残念ながら現実だ少尉…来週着任してくる。少なくとも仕官学校出のボンボンでは無い事は確かだ。」

「くッ!上の連中は何考えてんだ!」

 

書類に写されている人物…それは7~8歳くらいの子供が写っていた。

 

「司令、命令の撤回は…」

「無理だな。すでに撤回要求を送ったのだが、返ってきたのは撤回要求の撤回状だったよ」

 

司令官も苦笑する…この常に冷静沈着の歴戦の戦士が表情を変えるなんて…。

 

「ちなみにこれは決定事項だ。反論は許されん…くれぐれも壊すなよ?」

「ちっ…了解」

 

まだ、熊が上官になったって方が可愛げがあるぜ。

 

「まっ…あいつの話がホントなら、案外拾いモノかも知れんがな。」

 

司令が最後に何か言っていたみたいだが聞き取れなかった。

しかし、ガキが隊長だなんて此方の精神衛生上にかなり悪い…。

 

とりあえず、壊れないくらいにビビらせてとっとと配置換えを希望するようにしむけるか…うん。

戦場に行って壊れるよりかは幾分かマシだろう―――

 

…………………

 

………………

 

……………

 

1週間経過―――

 

先週と同じく司令官室に呼び出された俺は、依然と同じく司令の目の前に立っていた。

そして今日…新たな隊長が着任されるらしい…しかも7歳のガキが――――

 

≪プルルルル―――ガチャ≫

「―――私だ」

 

――――そんなこと考えてたら司令官室の電話が鳴った。

司令官が応答し電話を切るといささか憐れんだ視線を此方を向けてくる。

 

「少尉、今お前たちの上官が到着した。ここに来るそうだから部隊のところまではお前が案内してやれ。」

 

おいおい…もう来たのかよ…俺に子供のお守りをさせる気かよ…勘弁してくれ…。

 

 

 

 

 

―――――しばらくすると、後の戸が開いた。軽い足音、それが俺の横で停止する。

 

「…フェン・ラーダー中尉…着任しました。」

 

こいつの顔を見て俺は驚いた…感情が見えない…一体どんな経験をすればこんな顔ができるんだ?

 

「うむ、確認した。ようこそ中尉…死臭漂う戦場へ、そこにいるジェ二ス少尉が先任だ。部隊のところまで彼に案内してもらえ、以上だ。」

「…了解しました。」

 

感情の無い声で答えた中尉はこっちの方を向いた。

 

「では、此方に…」

 

そのことにうなずき、中尉は俺について部屋をでた。

廊下を歩く間、中尉は一言も言葉を発することも無く俺のあとをついてきた。

 

***

 

―――――隊舎に付くと、俺は小隊を整列させる。

 

「全員聞けぇ!此方が新しく隊長に就任されたフェン中尉だ!」

 

ウチの部隊は30人…全員顔には出してないが、言いたい事はわかる。

 

「中尉挨拶を…」

「…フェンだ。よろしく」

「なんでぇ!そんだけか隊長さんよぉ!聞こえねぇぞ!」

 

声をあげたのはケイン曹長か…普通はこういった事を上官に言うことはタブーなんだが…誰も止めない。勿論俺もだ。

何せコレはワザと仕組んだ事だからだ…まぁウチの隊の洗礼みたいなもんだ。

 

中尉はこう言った事を一体どうするのか、しばらく見学させてもらう事にしよう。

ココでどういう事をするのかが、良い隊長かダメな隊長なのかを分けるのだからな。

 

「威勢がいいな…いつもそんな態度なのか?」

「だからどうしたっての?お怖い隊長さまは哀れなこの自分に罰でも与えてくださるんですかい?」

 

ゲハハと笑うケイン曹長……あの笑い方、演技じゃなくて素なんだよなぁ……気持ち悪。

 

「ケツの穴が心配ならとっととお家に帰ることですなぁ。ええ?小さなお嬢さん?」

 

―――――曹長は相変わらずニヤニヤしながら中尉を馬鹿にしている。

流石に言いすぎだが、ここはガキの来るとこじゃない、だから俺たちはなにも言わない。

中尉は特に怒りを見せることなく一言だけ呟いた。

 

「…寿命を縮めたいようだな?」

 

―――――前言撤回…物凄く怒っていた。

気が付くと中尉の手には、魔力刃を発生させた剣のデバイスがいつの間にか握られ、ケイン曹長の首に当てられている。

いつ抜かれたのか…いや、それよりも驚いたのは中尉から発せられる尋常じゃない殺気…。

殺傷設定なのか、曹長の首からうっすらと血が流れている。それを見ておどろく俺たちを一蹴すると中尉は更に言葉を紡ぐ。

 

「…ふっ、冗談だ。」

 

―――そう言って中尉はデバイスはおろしたが、言葉はまだ続いている。

 

「将校相手にそのクソ態度とは気に入った。そうだな、そんなクソ度胸を持つ貴様を、最前線への旅に招待してやろう。感謝しろ?敵と好きなだけフ○ックできるぞ?おまけにトリガーハッピーなら大好物の…皆殺し(オールキル)と血風呂(ブラッドバス)もセットで付いてくるんだからな…」

「…………」

 

 

無表情で淡々と言う中尉に曹長は呆気にとられて声も出せない。

気持ちはわかる。他の連中も唖然として声も出せない。

…勿論俺もな。

 

「なんだ?随分おとなしいな曹長?うれしくて声も出ないか?生憎俺は男だが、そんなに“溜まってる”なら…別のことで発散させてやろうか?」

 

そう言うと、白い宝石のついたブレスレットに手を当てた……デバイスか?

 

「セットアップ」

『了解』

 

中尉が呟くと、機械的な音声と共に全身鎧のようなおかしなジャケットが展開され、その身を包み込んだ。

中尉は頭からヘルメットを外して此方をみる。手にはさっきの剣型デバイスが握られていた。

 

「なぁ…どうだ曹長?」

そして静かに…そう告げた…まるで死の宣告のように…感情をまったく乗せない声で。

同じく手に持ったデバイスを曹長に向けた中尉は、酷薄な笑みが浮かべている。

 

「――っ中尉!!」

 

流石にヤバいと感じ、思わず声を出しちまった!

曹長も冷や汗流しながら念話で話が違うって言ってきている。

だが、それは俺が言いたい―――というかこんな7歳児なんていてたまるかッ!!

アレは子供の言うことじゃない――というかラーダー夫妻…子供にどんな教育してんだ?

 

俺達にざわざわと動揺が広がっていく。

それを見た中尉はフッと狡猾な笑みを浮かべていた。

 

「…冗談だ。少尉…今後の予定を言え!さっさと前線にいくぞ!我々はごくつぶしでは無いのだからな」

 

 

―――――そこまで言われて俺は我に返る。

 

 

「は!一週間後にエリアBの哨戒任務が入っています。」

「そうかわかった。では我が隊はこれより慣熟訓練を開始する。

各員一時間後に演習場に集合。準備を始めろ」

 

これまでの事に大半の隊員がフリーズをおこしている。

ソレを見た中尉は大きくは無いものの、良く響く声で―――――

 

「……何をしている?今すぐだ」

 

―――――そう発破をかけてきた。

 

「「りょ、了解!!」」

 

凛としたその声に反応していっせいに動きだした俺たち…しかし、これでよかったのかなぁ?

まっしばらくは様子見だな。只者じゃ無い事は十二分に見せつけられたからなぁ。

いきなりの訓練、ワタワタした空気が漂う中、俺達の隊…レッドクリフ隊はどこか不安な感じで準備を始めたのであった。

 

Sideフェン

 

ははは超~こぇ~!

着任早々、いきなり紹介をやらされたと思ったら筋骨隆々なおっさんが反発してきた。

こえぇ~!なにあの腕?なに食ったらあんな象の首もへし折れます的な腕になんの?

 

流石に上官に手はださねぇみたいだが舐められてんなァ~俺。

まァ~こんなガキに指揮されるなんて癪だよな……俺ならゴメンだ。

 

でもなぁ、俺だって伊達に(転生して)生きてねぇ~ゼ!

中身は大人だから相手をイビルやり方だってめっちゃくちゃ詳しいぜ!

さぁアノ訓練の時の言葉(暴言)を思い出せ…ワイズ教官…俺に…力をッ!!!

 

 

 

―――――願いが聞き届けられたのか思いのほか上手くいった。

 

 

 

慣熟訓練を終え、この隊の性格も把握した…後は始めての任務だ。

まぁ初日にいきなり敵さんに遭遇するなんていうのは、そうそう起こらないとおもうから気楽にいくべ。

………一応保険として、毎回敵さんの偵察部隊が来るルートは外しておくか…死にたくないし。

 

 

***

 

 

―――1週間後、エリアB・廃棄都市――

 

 

 

 

敵なんて出無い―――――そう思っていた時期が、僕にもありました。

 

『(ヤード軍曹の分隊が12km先にアンノウン反応を確認)』

『(衛星リンク照会…………出た、恐らく敵の偵察部隊です。どうしましょうか…隊長?)』

「(……殲滅命令が来たよ。さっそく仕事だお前ら…さっさと倒すぞ)」

 

つーか、いきなりの実戦かよ…来る時に見た奴さん達の偵察ルートから大きく外れた地区なのに…

なんでまた俺が居る時に限ってこんなとこに来るかな?

 

「(敵の規模は?)」

『(偵察部隊ですから、5~6人程度の筈です。ヤード軍曹の報告では7人とやや多めですが…)』

「(ヤードの分隊はそのまま監視を続行、他の分隊も展開急げ)」

『『『(了解)』』』

 

ふぅ、一応指示は出せたな…一応ちゃんとした軍人さん達だ。

上官の命令にはちゃんと従ってくれる。

――――内心で何を思っているのかは解らないが……止めよう無駄な思考は命取りになる。

 

『(敵、警戒ライン突破、こちらには気付いてはいません)』

「(了解、他の連中の準備が整うまで待機せよ)」

 

ちなみに今回の哨戒任務で俺は隊を3つに分けて、哨戒を行っていた。

一つは俺と副官であるジェニス少尉の居るA分隊で、二つ目は先ほど俺をバカにしていたケイン曹長率いるB分隊。

で、最後についさっき敵の偵察部隊を見つけてくれたのが、ヤード軍曹率いるC分隊って訳だ。

 

エリヤBはなかなか広かったから、隊を分けて哨戒任務にあたってたんだが……

まさかワザと警戒ルートからハズれた事が裏目に出るなんて……鬱だ。

 

『(―――配置完了)』

「(ん…了解…封時結界・強装結界同時展開…敵を閉じ込めろ)」

『(了解)』

 

3か所を基点とした強大な結界が、敵の部隊を包み込む。

退路を塞ぐと同時に、味方への通信を妨害するための措置だ。

このクラスの結界を解除する為には、SSランクの砲撃でも無いと突破は難しい。

……レアスキル持ちならば話は別だけどね。

 

「(結界魔導師は結界を維持、残りの連中は結界内に入り敵部隊を殲滅するぞ!)」

『『『(了解ッ!)』』』

 

たった7人の偵察部隊相手に20名近く投入させるのはいささかアレな気もする。

だが、もしも敵さんが偵察部隊などでは無く、かく乱を目的とした少数先鋭部隊だった場合の為の措置だ。

 

この世界の魔導師のランクは一つ上がるだけで、その下のランクの魔導師5人分くらいだしな。

ウチの部隊の書類に記載された平均魔導師ランクはAAランク…。

もし敵さんが平均AAA以上なら、マジで全滅の可能性があったり……怖。

そんな事を考えつつ、俺も封時結界の中に突入した。

 

***

 

結界に入りこむと、待ち伏せでもしていたのか、B分隊の突入した辺りから火の手が上がる。

 

『アクセル・シュートッ!』

≪カッ―――――ドドド――ンッ!!≫

『(効果確認―――敵は散開した模様、各員注意を)』

 

故意なのか無作為なのか……

恐らく後者だとは思うが、B分隊からの反撃を受けた7人がそれぞれバラバラに逃げ始めた。

コレはどういう事だろうか?自分の力に自信があるのだとでも言うのだろうか?

だがどっちにしても―――

 

「―――殲滅する事に…変りない」

「…隊長?」

「…何でも無い…各員周辺を警戒」

 

例え今回…初めて人を殺める事になろうとも…な。

 

 

 

 

 

――――作戦開始から20分経過、どうやら敵さん達の魔導師ランクは高くは無い。

 

だがそれを補ってあまりある程の経験を積んでいるベテランの部隊のようだ。

こちらの策敵を上手い事かわしている。

 

今の所こちらに損害は無いが時間がたてばたつほどこっちが不利か………。

どうしよう、まさかココまでしぶといとは思わなかったぜ。

 

「ヴィズ…反応は?」

『有りません』

 

ヴィズのセンサーにも掛からない…か。正直お手上げだな。

ココは廃棄された都市だからなぁ~遮蔽物はギョウサンある訳で…。

 

『(A分隊接敵!奇襲されました!怪我人はありません)』

 

―――――いきなりかよッ!!

 

「(後退しつつ敵の強さを見ろ…体制を立て直せ)」

『(了解ッ!―――ッ速い!こちらA分隊ッ!敵2人がA分隊の方に向かったッ!迎撃を!)』

 

しかもコッチにキターーーー!!!!!

 

「全員聞いたな?距離が600になったら攻撃する!射撃魔法準備!」

 

通信を聞いたA分隊の面々はそれぞれデバイスを立ち上げ、攻撃魔法陣を展開する。

俺もヴィズのマシンガン形態であるアルアッソーの中に、術式レールブラスターを走らせいつでも撃てるよう準備した。

 

『距離2000…1800っち、速い…1600』

 

ドンドン近づいてくる敵さん、ヴィズのHUD上に表示されているレーダー表示には光点が二つ、こちらに向かっているのが確認できた。

 

『距離1400…1200…1000…』

 

―――――まだか…まだなのか?物凄く落ち付かないぜ…。

 

『800…600』

「発射しろッ!!」

 

俺達が撃った魔力弾は弾幕となり、向かって来る敵に迫ったが、その全てが回避された。

それどころか、敵のうち一人はあろうことか俺に狙いを絞って突撃してきた!!

 

「死ねぇぇぇーー!!!!!」

「くッ…キーンセイバー」

『キーンセイバー』

 

俺の魔力光と同じ白い魔力の刃が双剣状に変形したヴィズから伸び、敵の魔力刃を受けとめた。

受けとめた刃を弾いて、斬りかかろうと思ったが、あろうことか再度突進され、鍔迫り合いとなってしまった。

 

その所為で相手の顔がよく見える……若い、俺よか3歳ほど上の10歳くらいだろうか?

恐らくOCUでもこっちと同じ理由で子共が前線に送られているんだろう……辛いな。

俺の思考の一部がややずれた所為で力が少し減ったので押し切られそうになる。

 

必死に相手の魔力刃を押し返す為に、俺は余計な事を考えていた思考を中断させた。

目の前の相手からは、膨大な殺気が放たれており、どうやらUSNをかなり敵視している様だ。

鍔迫り合いの所為で俺が敵に近すぎる為、フレンドリーファイアを警戒してか味方からの援護射撃も出せない。

 

「USNのクソ野郎どもがぁ!!」

「……」

 

くそっ!どうする?なるべくなら殺したくない………って何バカ考えてんだ俺は?

 

「うらぁぁぁ!!」

「ぐ…う…あぁ」

 

ココは……ココは、戦場だぞ!?殺さなきゃ殺されるんだッ!!

 

「……ぁぁぁ」

「クソッ!喰らいやがれッ!エンドストライク!」

 

ガチャンという音、目の前の敵兵の腕に装着されたパイルバンカーから魔力で出来た杭が現れた。

かなりの魔力が収束している…当れば幾ら重装甲のヴィズでも、貫通させられる可能性が高い。

当る事は―――――負けだ。

 

「ぁぁぁ…はぁぁぁ!!!」

 

―――――俺はその瞬間、魔力刃を引いた。

 

「な!?」

 

―――――体勢が崩れる敵兵…俺は覚悟を決めて…

 

「ヤッ!」

≪ズシャ…≫

「あ、あ?……おふッ!(ビチャ)」

 

―――――魔力刃を…振り抜いた。

 

俺の振った魔力刃は、敵さんのわき腹を切裂いた……帰り血が俺の身体に降りかかる。

初めて人を斬った…初めて人を自分の意志で…傷つけた。

思っていたよりもあっさりと人の身体は斬れた……。

だが、その感触は腕から離れようとはしなかった。

怖いとか恐ろしいとかよりも――――気持ち悪い。クソ…胃の中身…戻しそうだ。

 

「ッ…敵一人を撃破…各員引き続き戦闘を続行しろ」

「「「り、了解」」」

 

相手はあっさりと倒れ伏し、俺の足もとに血の海を作って倒れている。

ほんの一瞬の攻防…だがそれだけだ。俺が人の命を奪った…初めての瞬間……。

解ってはいた…魔法の力は人を殺せるって事…だけど…だけど……クソッ!

俺は頭を振り、意識を戦闘に向ける―――そうしなきゃ…耐えられん。

 

「(各員…殲滅を急げ!)」

『『『(了解)』』』

 

フルフェイス型のマスクが付いていてくれて助かった……今、きっと俺の顔……見れたもんじゃないだろうから……畜生。

 

…………………

 

………………

 

……………

 

sideジェニス少尉

 

 

――――無事作戦は終了した。敵は全滅、こちらは無傷。戦果としては上々だ。

だが作戦を指揮した中尉はいま此処にはいない。

基地に帰るまで全く顔色も変えず自然体でいた中尉は、現在部屋で休んでいる。

 

それもそうだ、聞くところによると実戦は今日が初めて…。

つまり初めて人を殺したのだから…歳は7歳なんだがな。

 

優秀な軍人が隊長になったと軍人として喜ぶべきであり…

あんな子供が優秀な軍人になってしまったと人として哀しむべきだと思う。

 

 

―――――で、俺はあの後、一応報告の為に中尉の部屋に向かった。

 

 

一応副官である以上、今回の件の報告書作成はしなけりゃいけないしな。

正直、今あの小さな隊長の元に向かうのは、あんまし気乗りがしないがコレもお仕事なのよね。

………そう思って部屋の前までいくと、吐いている音が漏れて聞こえてきた。

 

『うぅぅ…あぁぁ…』

 

そして次は嗚咽の声…部屋に戻って緊張が解けた所為か…思えばよく今まで持ったもんだ。

その精神力は感嘆にあたいする…部下を不安がらせないよう、自身はいつも通りを貫いたんだろう。

だが中尉はまだ7歳なんだ…心に傷を追っても不思議じゃねぇ。

 

『ぁぁぁ…ヒク…ぁぁ…』

 

時折聞こえる声はなんとも弱弱しい。

俺たちはナンちゅうもんをあの小さな背中に背負わせちまったんだろうか…。

 

『ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい』

 

今日みた中尉の姿は尊敬に値する。的確に指示を出し、作戦地域から帰還する時の殿もやっていた。

だが、今の姿はどうだ?年相応の……小さな子供じゃないか……。

やってはいけない事をして、後悔して泣き崩れている……子供じゃないか……。

 

『…ゆるして…くだ…さ…い』

 

もう、あの子の心は壊れているのかも……いや壊れているのだろう……

人を殺してしまった人間は必ずどこかが壊れる…。

 

俺は報告書の件は後回しにする事にして、中尉の部屋から離れた。

こう言った時は下手に声をかけない方が良いからな。

それに俺達がどうこう言おうが、すでにフェン中尉は隊長なのだ。

この決定は覆されることは無い…功績も出してしまったしな。

 

 

だが、だからこそ…だからこそだ…せめてあの小さな背中を守ってやろうと俺はおもった。

せめてコレ以上、大人の都合で壊れない様に…。

 

 

 

 

 

 

「まさか…こいつらがねぇ。」

 

 

 

 

―――転生か?第7話―――

 

 

 

 

やぁ、みんな!毎度お馴染みフェンくんだ。あの初めて人を殺めた初任務から既に1ヶ月たったぜい。

流石に人を殺したのは辛かった…あの時は部屋に戻った瞬間にトイレに直行してリバースしちまったからな。

ヴィズが励ましてくれなかったらPTSDになってたかも知んない…色んな意味で危なかったぜい。

 

別に人殺しに慣れたい訳じゃないが……こんなご時世だしね。

あん時も後で捕虜にすればよかったとか思ったけど、相手も殺す気で来ていたからなぁ…。

初めての実戦で手加減とかなんて出来るほど、俺は強く無いしね。

 

 

まぁ暗い話は置いておこう――――あの後もすぐに任務が入って、俺たちは出撃していった。

 

 

最初は小隊の連中ともギクシャクしてたんだが、俺が率先して任務を遂行して段々と打ち解けた。

意外なことにジェニス少尉がよく俺のサポートをするようになったんだ。なんでだろ?

特に何か言った訳でも無いのだが……はて?

 

で、俺はいま部屋にて書類整理に追われてる。隊長ってのは事務作業も給料のうちだからな。

ウチのところは優秀な連中が多いのか、他のところに比べたら少ないほうらしいが…多い。

 

「はぁ、7歳児にやらせる量じゃないな…」

『マスター、お気を確かに…』

「まぁまぁそう腐らずに中尉、俺たちも手伝いますから。」

「そうそう」

「…と言いつつ、ソファーでくつろいでる奴等に言われたくは無いな…」

 

何でだか知らんが、俺の部屋はいつの間にか小隊連中がたむろするところになっちまった。

まぁよく書類整理を手伝って貰えるから助かっているけどな。

 

≪ぷるるるる……≫

 

―――さて、みんなで黙々と書類整理をしていると、備え付けの内線が鳴った。

 

「…はい、こちらフェン」

『中尉、司令部からの連絡で司令に呼ばれています。至急、司令室に向かってください』

「了解した。」

 

≪ガチャ!≫

 

「司令が何の用ですかねぇ?」

聞えていたのかジェニス少尉が質問してきた。

 

「さぁな、厄介ごとじゃなきゃいいが…」

この俺の呟きは、後にいろんな意味であたることになった。

 

 

とりあえず司令室に行くとするか…

 

 

***

 

――司令室――

 

≪こんこん≫

「だれだ?」

「レッドクリフ隊、隊長…ラーダー中尉です。」

「入れ。」

 

―――中に入る俺、早いとこ書類を整理したい為、本題を聞くことにした。

 

「それで…なにかあったのですか?」

「なに、大した事じゃない。上からの命令が届いてな?この辺に次元犯罪者が逃げ込んだらしい」

「はぁ…次元犯罪者ですか?ソレは管理局の管轄では?」

「そう。あいつ等の管轄だ。だがどうにも捕まえられなくて、何とか捕縛したい管理局が軍に泣きついた。」

 

司令は皮肉交じりに笑いながらそう言うと、俺に書類の入ったファイルを手渡した。

 

「…それで?」

「それで…だ。管理局の連中と合同で次元犯罪者を捕まえるために、君の部隊にお鉢が回った―――というわけだ」

「了解…我が隊は管理局の応援に向かいます」

「……応援と言ってもアレだ?正直わが軍はこの件についてはあまり好意的では無い。まぁ舐められない様に気をつけてくれ」

「了解」

 

 

アッサリと引き受け、俺は敬礼をすると司令の部屋を出た……しかし、管理局ねぇ?

まぁ連中ウチの国に技術協力もしてるから、軍も協力せざるをえないんだろうなぁ…。

しかも、二日後に現地にて合流…あっそのまえに書類かたづけなきゃ…鬱だ。

 

 

***

 

 

――二日後、合流地点――

 

 

合流地点にて執務官と武装局員達をまつ、今回は新しく入れたデバイスの兵装システムのテストも兼ねている。

ふふふ、今度のはすげぇぞ~相手が敵だから思いっきり可動テストするぞぉ~。

 

「…くくくく」

『マスター…』

―――ん?どうした?

 

『顔に出てます。皆さん引いてますよ?』

顔に出てたか?そういや俺の周りに人がいない…みんな離れたところで怯えた顔してるし…

 

「た、隊長…今度は何作ったんですか?」

「…………………知りたいか?」

「っ!やめときます!」

 

ありゃりゃ、更にどん引きさせちまった。こないだ実験したとき隊舎吹き飛ばしそうになったアレが原因かな?

まぁ、俺がそんなコト考えていると、合流時間丁度に転送魔法陣が展開されて、管理局の連中が転送されてきた。

――――挨拶でもしとくか。とりあえず近くのヤツに話しかける。

 

「…代表の方は?」

 

―――――と、その時、連中の後ろから代表と思われるヤツが出てきた。

 

「次元航行艦イリス所属、ジェノン・トーラス執務官だ。そちらの将校さんはどちらにいるかな?」

 

へー、アレが管理局の執務官かぁ…うん、かなり強いね、あの執務官。

やっぱりエリートなんだろうなぁ…だって全然隙が見当たらないんだもん。

 

「陸軍第7機動魔導師部隊“レッドクリフ”隊長フェン・ラーダー中尉だ。

今回は宜しく頼む…ウチの連中はつぶしが利くので使ってくれ」

「へ?―――あ、ああこちらこそ!」

 

おーおー、目見開いて驚いてるわ。まさか7歳児が隊長で社交辞令を言うなんて思わんだろう。

トーラス執務官以外の局員も唖然としてやがる。ウチの連中は笑ってやがる……うん、後で〆よ!

とりあえず挨拶は済ませたから次は――――

 

「では早速…敵の情報を確認したい…後、敬語は結構だ…背筋がかゆくなる」

うん、相変わらず感情がこもらんなぁ、俺の声。顔も見事な無表情。

 

「…解った…では其方のデバイスに送る」

 

―――――執務官の持つ、管理局標準装備型ストレージデバイスからデータが届く、えーと何々?

 

犯人は複数で廃棄された基地に潜伏。しかも質量兵器搭載の無人兵器を、基地周辺に展開。

かなり大量に…確認できたのだけで雄に500機はある……というか、どうやって集めたんだろう?

 

それと無人機の搭載火器は、機関砲とミサイル位なもんで魔法対応装備は確認できず…か…。

どうやら旧式ばっかみたいだな…でも密集してやがる―――で中々近づけないっと…。

 

あー確かに管理局には荷が思いわ。こいつらには非殺傷設定ちゅう括りがあるしね。

俺は多層式の多重プロテクションがあるから平気だけど、普通の魔導師なら辛いわ。

 

で、肝心の主犯のお名前はっと――モーガン・ベルナルド――っておいおいマジでか!?

ちょい待ちちょい待ち!フロミ成分のある世界だって解ってたけど…いや待て早合点はいけない。

同姓同名の別人の可能性もある―――――出来れば別人でいてくれ頼むから。

 

 

――――――あっ!この後どうするか聞かないと。 

 

 

「情報は確認した…そちら側の作戦は?」

「連中の方が敵の数が多い、だから別働隊を用いて陽動をかけ敵を引き離し、

その隙に機動力のある空戦魔導師が基地内部に侵入、犯罪者を確保する」

「隊長、どうしますか?」

「……」

 

うーむ、どうしようか?こちらとしては、派手に殲滅戦仕掛けても良いんだが…。

とりあえずジェノン執務官に視線を送る…あっ目逸らしやがった。感じ悪いな。

管理局としては犯罪者だとしても無傷で捕らえたいだろうから、ここは顔を立ててやるか…。

 

―――――新式兵装デバイスのテストもしたいしな。

 

「執務官…一つ提案があるのだが?」

「何でしょうか?ラーダー隊長?」

 

俺はジェノン執務官に、なるべく周りにも聞こえるよう響く声で話しかけた。

 

「何シンプルな作戦だ…俺が無人兵器郡に突貫して殲滅し道を開く」

「な!?」

 

俺の言葉に目を見開くジェノン執務官。だが俺は気にせず言葉を紡ぐ。

 

「道ができたら突入して連中を捕らえて欲しいのだが…できるか?」

「なっ単騎でやるのか?!無茶だ!敵が多すぎるッ!

せめて何人かで陽動をして相手の戦力を分散させないと…」

 

ふーむ、やはり反対されたか…俺としては密集されてる今の方が楽なんだけどなァ…。

 

≪――ポンポン≫

ん、誰だ?肩を叩いたの…って何だジェニスか。

 

「大丈夫ですよ。こんなのウチの隊長にしか出来ないですから。ねぇ隊長?」

ジェニス…それは聞きようによっては、任務マル投げに聞えるのだが…?

 

「しかし…」

「…大丈夫だ。この程度の敵ならストレス発散にしかならない…」

「!!」

 

――――うわっ!そんなに驚かんでもいいだろ?別にほんとなんだからさぁ…。

 

「それに俺にはこいつがいる…ヴィズ」

『Yes,マスター、セットアップ』

 

俺は管理局の連中の前で装甲型バリヤジャケット…通称BA(バリヤアーマー)を展開させて纏う。

このヴィズの姿を、もう見慣れているウチの連中は別に驚かないが、管理局の連中はというと……驚いてる驚いてる!

 

「…俺のデバイスは強襲制圧と突破力に特化している。」

「まぁ見ていてくださいよ。ウチの隊長、最近書類仕事でストレス溜まってるんで…」

 

こら!ジェニス!まるでそれじゃ俺がバトルジャンキーみたいじゃないか!

ほら見ろ…クロノ引いてんじゃん。

 

――5分後――

 

すこし揉めたが最終的に俺の案で行くことになった為、部隊のコールサインをきめる。

俺たちの部隊はそのままのレッドクリフ、管理局はブルーレインと呼ぶことにした。

そして、作戦がはじまる―――――――と、その前に。

 

「…少尉」

「はい、」

「後でおぼえてろ?」

「!!?」

 

***

 

Sideジェノン・トーラス

 

僕たちは次元犯罪者を捕まえるために、この国の軍と協力して作戦を行うことになった。

ついでにこの国の有能な魔導師がいたら、勧誘もして来いと提督から言われてる。

で、合流地点に来たわけだが……何で目の前に子供がいる?こちらの代表者を捜しているみたいだが…伝令役か?

とりあえず、この部隊の隊長に合おうと思いこの子に話しかけてみた。

 

「次元航行艦イリス所属、ジェノン・トーラス執務官だ。そちらの将校さんはどちらにいるかな?」

 

すると、周りの連中の顔が妙に硬くなった。なんだ?

そのことに戸惑っていると、そいつらの視線は目の前の子供に集中している。まさか…

 

「陸軍第7機動魔導師部隊“レッドクリフ”隊長フェン・ラーダー中尉だ。

今回は宜しく頼む…ウチの連中はつぶしが利くので使ってくれ」

 

流石に驚いた…管理局も人手不足で就職に年齢制限が無いが、目の前の子供がこの屈強な男たちのトップにいて…

あまつさえ、子供が出すとは思えない程の気迫を放っていることに心底驚いた。

 

「へ?―――あ、ああこちらこそ!」

 

思わずそう声をだして答えた僕は悪くは無いと思う…連れて来た武装局員達も唖然としている。

そして目の前の彼の目はジッと僕たちを見つめてきた。まるで、心の奥まで見られているような感覚に陥る。

その後のことは余り覚えてないが、気が付けばどのように攻めるかの作戦を練っているところだったので急いで話に参加した。

 

彼が提案したのは、彼が単騎で攻め込み殲滅させるというもので、正直余りにも無謀に思えた。

たった一人で次元犯罪者の持つ戦力を相手取るだなんて、質の悪いジョークだと思ったくらいだ。

―――だが、彼の目は真剣そのもの。

 

つまりは本気で1人であの中に飛び込むと言うのだ。

だが、法の番人である執務官としては享受しにくい。

 

彼の部下は止めないのかと思い、彼の後にいた副官らしき男の方に視線を送るが、全く驚いていないどころか平然としている。

他の連中も同様だ。彼らはこの小さい隊長なら出来ると確信している。副官は彼の肩に手を乗せ、僕を説得してくるほどだ。

 

――――それでも了承しかねる僕に、彼は自分のバリヤジャケットを見せてくれた。

 

全身を機械的なフォルムの装甲に覆われたその姿は、あえて言うならロボットのように見える。

彼いわく強襲制圧に特化したデバイスだそうだ。

長いことミッドにいたせいなのかもしれないが、少なくとも僕はあんなデバイスは知らない。

 

結局最後は僕が折れて、彼の作戦で行くことになった。彼には一体どれほどの力があるのか知りたくなったのも理由だ。

何時でも援護できるようにはしておいたから、心配ない…そして全員が配置についたとき作戦は始まった。

 

 

 

「モーガンが居るってことはグレンもいるのかな?」

 

 

 

 

―――転生か?第8話―――

 

 

 

 

や!みんな愉快な転生者のフェンだよ!今回のミッションは敵の殲滅。

しかも相手は無人兵器…つまりは機械だから、全然心が痛まねぇ~ゼッ!!

という訳で、俺は嬉々としてローラーダッシュを使い、所定のポイントに移動していた。

 

「(こちらレッドクリフ1…作戦地域に入る)」

「(…ブルーレイン1了解)」

「(レッドクリフ2了解……隊長、存分にストレス発散をしてください)」

「(…ふっ了解した。)」

予定のポイントに到着し、俺はヴィズの新たな機能を起動させる。

 

「…いくぞヴィズ、“フォルム・ランチャー”バレル展開」

『Yes,“フォルム・ランチャー”マジックレール・バレル展開』

 

俺はヴィズを砲撃に特化したフォルムへと変える…魔力の粒子が長大の砲身を形作る。

格納領域にしまったおいた砲身を再構成して銃型のヴィズと合体させたのだ。

それによって巨大な砲身が、俺の肩のジョイント部分へと接続され、異様な迫力を放っている。

 

コレは一体何かというと、ヴィズは戦況に応じて、瞬時に各兵装部分を切り替えることで、各戦況に対応出来る。まぁ、ぶっちゃけ、フロントミッシ○ンのセットアップシステムのパクリなんだけどね?

で暫定的に、現在ヴィズには5つの兵装を、それぞれフォルムという名前であらかじめ登録してあるのだ。

 

―――――1つ目はフォルム・アサルト

 

普段はこのフォルムがデフォで、一番バランスに優れていて中距離戦で力を発揮する。

またバックパックのリペアは、強力な治癒魔法に魔力を上乗せで消費する。

だが、その代わり、消費魔力を増やしたことで、攻撃で破損したバリヤアーマーの回復。

更には例え腕が吹き飛んでも、吹き飛んだ腕が残ってさえいれば、回復が出来る術式を組み込んだ。

 

 

―――――2つ目はフォルム・ストライカー

 

アサルトと基本は変わらないが、名前の通り近距離戦に特化した形状。

で、手に持っているヴィズも銃型から双剣に変化する。

その際、魔力刃を展開する魔法キーンセイバーを使い、近接戦闘ではかなりの力を発揮できる。

また、バリアアーマーに回す魔力を少し上乗せする事で、防御力のUPにもつながっていたりする。

 

 

―――――3つ目はフォルム・ガンナー

 

遠距離戦に特化した形状で、兵装デバイスとして組み込んだM82A1(こいつだけを単独で起動させるのも可能)をメインアームにして戦う。

 

 

―――――4つ目はフォルム・アサルトⅡ

 

基本はアサルトだがバックパックをリペアパックから、フライアーフィンの魔法を取り込んで作ったジェットパックに切り替える。

ジョットパックをブースターとして稼働させることで、直線での高速移動を可能にさせた。

直線の加速はわずか数秒でトップに入り、最大スピードは空中において音速を軽く超える。

ただ相変わらず細かい機動は取れない為、一撃離脱…もしくは強襲使用である。

 

 

―――――そして今回新しくいれた兵装が、5つ目のフォルム・ランチャー

 

広範囲攻撃魔法「ガルヴァドス」と収束砲撃魔法「グロム」を使う完全な超長距離・殲滅戦特化型。

ガルヴァドスは両肩に形成した魔力スフィアから射出され広範囲を殲滅出来る。

グロムの方は格納しておいたバズーカ型の砲身に、ヴィスを合体させた事で高威力の砲撃が可能だ。

ちなみに、そのバズーカの形状のイメージは所謂ビームバズーカだ。

 

このフォルムチェンジは全部尋常じゃない程魔力を消費するのだが、高魔力量、高魔力精製能力、レアスキルの三拍子がそろった俺なら問題なく使用できる。

まぁ暫定的に造ったモンだし?正直一々フォルム変えながら戦うの面倒だしなぁ。

その内変えるかも知れんがね―――と、思考がずれたな。

 

 

「グロム、スタンバイ」

『術式展開、チャージ終了まであと5秒』

 

砲身内に環状魔法陣が展開され魔力が収束・圧縮されていき、魔力圧力が高まっていく。

その間に俺は、砲身を敵のいる方角にむけ、サーチャーで敵のおおよその位置を割り出す。

そして敵を示す光点がメット内のHUDに表示された…距離は…およそ3km、いけるか…な?

 

『チャージ完了』

「ターゲットインサイト…レッドクリフ1、フォックス4」

『ファイア』

 

術式を展開し、魔力球が臨海に達したところで、俺は最大出力でグロムを発射した。

 

≪ギュォォォ―――ッ!!!!!≫

超長距離からの物理破壊をともなう白い極光は、ほぼ減衰する事無く射線上の敵を全て巻き込み、対物破壊設定の魔法は、敵を粒子に変換していく。

――――そして表示された光点の内、4分の1を消滅させた。

 

≪ガキンッ!パシューーー≫

『砲身の強制冷却中、冷却完了まで40秒』

 

ヴィズは冷却装置を全開にして、水蒸気と余剰魔力を噴出し、砲身の冷却を行っている。

しかし、すげー威力だな…なのはのSRBにも負けないんじゃないか?燃費が凄い悪いけどな。

M82A1の箱型弾槽魔力チェンバーMTS-40の中の魔力…カートリッジ40発分が一回で消えた。

今後の課題は省エネ化か、図式を組むのが面倒そうだなぁ…。

 

「ターゲットスプラッシュ…ガルヴァドス起動」

『Yes,』

 

――――――お次は肩に乗っているロケットランチャー型スフィア…ガルヴァドスを起動する。

 

「…レッドクリフ1、フォックス5」

『フルオート・ファイア』

 

こちらは魔力弾が、予め装填されているので特に何かすることなく、そのまま発射する

 

≪カカカカカカカカッ!―――――――≫

 

高濃度に圧縮された魔力弾が肩に浮かべたスフィアから連続で発射される。

高魔力弾頭は放物線を描き敵の頭上へと落下していく。

 

≪ドドドドドドドーーーンッ!!!≫

 

着弾と同時に魔力弾の外殻が崩壊し、ソレと共に爆発の術式が発動。

一瞬にして辺り一面に、高濃度の魔力が伴ったエネルギーが解放され爆発する。

広範囲に降りそそいだ為、連鎖的に敵を巻き込んで、辺りは火の海と化した。

 

う~ん、コレもやっぱり燃費が悪い、それに誘導が出来ないから初撃にしか使えん。

高速戦闘用に弾速をもっと早くしたヤツも作るかな?いや拡散掃射型も捨てがたい。

むしろ、地雷みたいに設置できるようにするか?ミラージュハイド付きで。

 

『残敵を計測……残り約150』

 

とりあえず敵の数は当初の500から150近くまで数を減らせる事に成功っと…

さてと…一丁踊りに行きますかね!

 

「…フォルム・アサルトⅡ起動…エリアサーチ実行、HUDに生き残りを表示」

『Yes,マスター』

 

メット内のHUDに生き残った無人機が光点で表示される。

とりあえず一番近いやつはっと…11時の方向、距離2km先か…。

 

「砲身格納」

『格納します』

 

俺はかなり大きなロングバレルの砲身を持つバズーカを、格納領域に戻し身軽になる。

同時にジェットパックを展開、余剰魔力で現れた光の翼をともない敵に真っ直ぐに突撃した。

ちなみに飛んではいない、ローラーダッシュの加速装置としてジェットパックを使様している。

スピードはやや落ちるが、その代わりにかなり高機動な動きが可能になるからだ。

 

――――そして、突撃を開始してから数分で、敵さんの生き残りを視認した。

 

『残存部隊確認、飛行型5機、人型10機、大型1』

「ターゲットエンゲージ…交戦する…レッドクリフ1、フォックス2」

『ファイア』

 

≪バララララッ!!!≫

 

ヴィズから放たれる超高速の魔力弾が敵を蜂の巣に変えていく…く~!快感!

脚部のローラーが唸り、舞うような機動で敵の攻撃を避けながらヴィズを撃ちまくる。

撃つ毎に、HUDの魔力弾の推定残弾表示が一瞬で十桁位消えていく。

 

『大型無人機接近、注意を』

 

――――と…デカ物が来たみたいだな。

 

「ターゲットインサイト…レールブラスターフォックス2」

『ファイア』

≪バララララッ――――ガガガガガガンッ!!≫

『高出力光波シールドを確認、命中弾ゼロ』

 

どうやら防御に特化した奴みたいだな?AMF(アンチ・マギリンク・フィールド)…

とは違うみたいだけど、かなり分厚い対魔法用のシールドでも持っている。

 

「M82A1…起動、フォックス3」

『ファイア』

≪ドガギン――――≫

『敵に損傷なし』

 

こっちの魔力弾が貫通しない……

弾を一箇所に集中させれば、簡単に貫通できるが、弾がもったいねぇな。

 

『敵増援部隊接近、数およそ30機。ミサイルの発射を確認、着弾まで後140秒』

 

攻撃が効かない事に少し驚いて、俺の一瞬動きが止まった隙を突いて弾幕を張り始めた。

ふ~む中々の状況判断だ。優秀なAI積んでんのか?戦術データリンクも早いしな。

どうやら奴さん、こちらが近づけないようにするつもりみたいだが…甘いな!!

 

「ヴィズ、フォルム・ストライカー、近接攻撃魔法術式キーンセイバー起動」

『フォルム・ストライカー、キーンセイバー起動、魔力刃展開します』

 

双剣型に変化したヴィズを握り締め、キーンセイバーを起動すると白い魔力刃が形成される。

魔力刃形成を確認後、俺はジェットパックをふかし、大型機の懐に跳び込んだ。

敵増援の支援砲撃に多少被弾したが、俺の多層プロテクションを打ち抜ける程の攻撃は無い…。

 

「…はぁぁぁ!!」

≪ガンッ!――パキンッ!!―――≫

 

キーンセイバーの出力を物理破壊に設定して、高出力モードでシールドに突っ込んだ。

過負荷を受けてガラスの割れる様な音と共に敵無人機にシールドは崩壊する。

 

予想外の出来事に、無人機のAIが一瞬のディレイをおこした隙に、ヴィズを真横に構えた俺は、スピードはそのままにすれ違い様に大型機をぶった切った!

俺は別に斬鉄なんて業を持ってるわけじゃない。ただの高い魔力に任せた力押し…。

それでも母上と…母上の部隊の連中との模擬戦、それにこれまでの戦いの中で編み出したモンだ!

 

 

 

―――――――戦で使える剣は…戦場で覚えた剣よ!

 

 

 

≪バァーーンッ!!!!≫

「ターゲットスプラッシュ…」

『熱量増大を探知、追加砲撃来ます。』

 

――――――迫ってくる敵の砲撃をジグザグで避けつつも接近、ヴィズを振り被り…斬る。

 

振り下ろして終りじゃない。

勢いを円を描くように操作し、スピードを落とさないで次の敵へ向かう。

たった一回のすれ違い様に10機の光点が消える…まさに敵がいなくなるまで続くロンド…

 

――――――ソフィア教官との模擬戦で編み出した戦闘機動…その名も“限界機動・戦(いくさ)神楽(かぐら)”

 

味方には勝利を…敵には死を運ぶ戦場の神楽を踊り続け、HUD内の光点はどんどん消えていく。

返り血の如く飛び散ったオイルが、俺の装甲を違う色に染め上げていった。

 

『敵基地からの敵増援部隊の発進を確認、数およそ100機、

二手に別れ包囲する模様、敵射程距離まであと200秒』

 

―-―――おやおや、まだ残ってたか…そうでなきゃ面白くない。

 

『敵基地の砲台が稼働した模様、超長距離砲撃来ます。』

「砲撃回避後、右手の敵部隊に吶喊、撃破する…食い放題だ…」

『Yes、マスター、全部平らげてやりましょう。』

 

俺は敵に向かって翔ける…超長距離砲撃の何発かが、多層障壁を貫いたがバリアアーマーに阻まれて俺自身には損傷なし…いける。

 

「機械風情が…!」

 

そして作戦開始から10分後――――――

 

「お前で…最後だッ!!」

 

―――――――俺は全ての光点を撃破した。

 

「(…こちらレッドクリフ1、敵勢力の殲滅を終了した。後は頼む。)」

「(ブルーレイン1了解)」

 

念話で連絡を入れる。待機していた管理局の連中が基地内部に突入して行った。

ふむ、なかなか訓練された動きだな。隊員間の連携における隙が殆ど無いぜ

 

「(レッドクリフ2了解…ところで隊長どうでした?遊んだ感じは?)」

「(…ばれていたか。)」

「(ええ、何時もより時間かかってましたから)」

「(…ストレスの発散にはなった)」

「(そいつは良かったですねぇ)」

「(とりあえず、まだ作戦中だ。おしゃべりは後にするぞ…通信終り)」

「(了解!)」

 

とりあえず不足の事態が起こっても良いように、レアスキルで魔力回復に努めますかねぇ~。

俺の取り得はこのレアスキルの魔力回復にある。闇の書みたいに一瞬で回復とまではいかないが、それでも格段に早い。

常時起動してるから(強弱は出来るがON、OFFができない)戦闘中も回復して長時間の行動が可能なのだ!便利だねぇ~神経系は疲れるんだけどな。

 

――――さて、そろそろ制圧が終わるかなと思っていると、突然爆発音が聞えた。

 

「っ!報告」

「は!…モーガンを捕まえようとしたところ自爆した模様です。怪我人多数ですが死傷者は無しです。」

 

自爆しただと!?まさか複数のモーガン・ベルナルドがいるとか言わないよな?

名前が名前だし…

 

とりあえず、主犯死亡ではあるが負傷者を収容し、この作戦は終了した。

 

そして基地に戻った俺を待っていたのは、書類の山だった…そうだよ終わらなかったんだよ!

とりあえず逃げようとしているジェニスを捕まえ、また黙々と作業をすることになった俺であった。

……鬱だ……

 

 

 

 

「哀しいけど…これって戦争なのよね。」

 

 

 

 

 

―――妄想戦記 第12話―――

 

 

 

 

 

 

今俺は、セスル基地のブリーフィングルームにいる。

どうやら上の連中が大規模な反攻作戦をおこすらしい。

で、俺たちレッドクリフ隊以外にもこの基地にいる様々な部隊全員が集められているってわけだ。

 

でも書類整理の真っ最中の俺にとっては、気晴らしになる救いの手に見えたよ。

――――だってよ?こないだなんて書類の雪崩に埋まったんだぜ?

 

毎日全部片付けてんのに、次の日には同じ量の書類がまた積んである。

時間がループしてんじゃないかって思いたくなった。冗談ぬきで…。

 

 

「中尉、どんな作戦なんでしょうね?」

 

ジェニスが作戦について聞いてきた。無論俺も知らない。

 

「・・・さぁな、案外集団で休暇を取らせてもらえるかも知れんぞ?」

「それなら大歓迎なんですが…中尉、此処最近きな臭い噂があるのご存知ですか?」

 

―――うわさ?最近部屋に篭りっぱなしで人と話して無いから知らんぞ?

 

「うわさ?」

「はい、哨戒任務に行った連中から聞いたんですけどね。敵が新兵器を投入しているらしいんです。何でもシルエットは人型で、機械と言うより生物だとか…」

 

―――生物…生物兵器かな?いやだよタイラント的な何かが来たら。

 

「興味深いな…その哨戒任務に行った連中はナニを見たんだ?」

「分りません。交戦する前に相手が逃げたらしいです。レコーダーを回してなかったので、

公式な記録に残っていないため、上の奴らは錯覚だろうと言う事にしてるらしいです。」

 

ふむ、確かに見かけただけじゃ証拠にはならんな…

だが火の無いところに煙は起たないしな…なにかあるのかもしれん。

 

どんな作戦を行うのか聞いていない為、

こういった憶測も交え部隊の連中と喋っていると、

ブリーフィングルームにコーウェン准将が入ってきた。

 

どうやらブリーフィングが始まるらしい。

 

「諸君、楽にしてくれ。」

 

敬礼を解き、イスに座る俺らを見て、司令は言葉をつづけた。

 

「諸君も知っての通り、本日未明、合衆国軍第24軍中央司令部により反攻作戦『ヴァイエイト』が発令された。」

 

ヴォンという音と共に背後の大型ディスプレイが起動する。

 

「フリーダム市奪還を目的とする合衆国軍の大規模反攻作戦だ。なお、当作戦は天候等に左右されず決行される。諸君はその反攻作戦に先立ち、ある基地の制圧作戦を行ってもらう。この作戦は『インビジブル』呼称する…では概略を説明する。」

 

准将がそういうと背後の大型パネルに映像が映し出された。

映し出されたのは何かの施設のCGイメージによる概略図…感じからしてかなりの規模だ。

 

「本作戦の第一目的はニューヘルバと呼ばれているこの基地の無力化、

第二目的が可能な限りの敵施設破壊及び敵情報の収集である。」

 

周りから息を飲む音が聞えた――――まぁ理由はわかる。

反攻作戦については知っていたが、まさか別の作戦をこの時期にやるとは思わなかったからな。

 

「ニューヘルバは元々は我が軍の基地であったが、先の敵の侵攻作戦により放棄され、それを敵が占拠し利用している。またこの基地は位置的には今後の戦略的に大変重要になるものが保管されている。」

 

画面が切り替わり、基地の断面図が描かれた映像に変わる。こいつは…

 

「…見て分る通り、ニューヘルバは魔導師が戦場に登場する以前からある基地の1つであり、元々対空陣地を兼ねた高射砲郡が設置されていた。だが魔導師の登場により高射砲で高速で飛来する魔導師を捕らえる事はまず不可能だった為、後に解体され基地内に保管されることとなる。しかし、情報部の情報収集の結果、この高射砲郡を再度地上に設置しようとしている事が衛星からの情報により確認されたのだ。この高射砲の射程圏内には我が軍の侵攻ルートの7割が含まれており、陸戦魔導師が多い我が軍にとっては、のど元に突き付けられた死神の鎌である訳だ。」

 

確かにな…空戦魔導師に砲撃を当てる事は困難だろう。

だが地を張って進むしかない陸戦魔導師には、まさに死神の鎌だ。

 

このクラスの質量兵器を防げるのは、俺を含めて一部の将校クラスの人間だけだ。

一般兵クラスの魔導師に防げるもんじゃない。

 

魔導師の質の向上により、数のアドバンテージが無くなったなんて言うヤツがいるけど、

戦いはやっぱり数だよ!兄貴!

 

人がいなきゃ戦えないし、陣地の占領も出来ない。

大体、補給線を確保できる人数がいなきゃ戦争なんてできませんよ。

 

「この脅威を取り除く事により、フリーダム市に向かうルートと近隣三都市における防衛ラインの戦略的安定を更に強固なものとするのだ。――では次に作戦の概要を説明する。

作戦の第一段階は、第1空戦砲撃魔導師部隊《ヴァルキリーズ》と第4陸戦砲撃魔導師部隊《スルト》を中心とした混成部隊による超長距離砲撃が行われる。超長距離からの砲撃による指揮系統の撹乱が目的だ。

また同時に囮として、第3機甲魔導師部隊《サイクロプス》を基地近辺20kmにまで侵攻、敵の迎撃が開始されると共に、第5陸戦砲撃魔導師部隊《フレイア》の支援砲撃魔法による遠距離飽和攻撃を開始。

敵の二次迎撃の確認を合図に、《サイクロプス》は撤退戦に切り替え、以後敵をその場に釘付けにする。」

 

なるほど…高射砲台が完成する前に、此方から攻撃を仕掛ける事により、敵の注意を引き付ける。

基地の駐留部隊を迎撃にまわさせ、一見すると膠着状態になったと錯覚させるわけか…

しかし、結構大掛かりな作戦だ。この基地の防衛部隊の第2機甲魔導師部隊《ヘリアル》を残してほとんどが出撃なんてかなりの作戦だ。

 

「ここで作戦は第2段階へと移行する。第6強襲魔導師部隊《グリム》を第3機甲魔導師部隊《サイクロプス》とは違うアプローチからニューヘルバ基地へ侵攻させる。

それにより敵基地施設の防衛網及びレーダー施設等を破壊し更なる混乱を発生させる。

続いて、突入部隊として第7機動魔導師部隊《レッドクリフ》が、地下に設置された物資搬入用リニアラインに突入、中央集積場からメインシャフトに続くルートを進み、その際敵との交戦はほぼ無視し、メインシャフト内に突入する。」

 

パネルに表示されるメインシャフト…かなり広いみたいだな…

 

「第7機動魔導師部隊《レッドクリフ》がメインシャフトに到達したのを確認後、作戦は第3段階に移行する。第6強襲魔導師部隊《グリム》は第3機甲魔導師部隊《サイクロプス》と合流、敵に対し面制圧攻撃を行ってもらう。

その動きに呼応する形で、第7機動魔導師部隊《レッドクリフ》の諸君はメインシャフトから通じている基地中枢部に突入、基地最深部の反応炉を破壊し爆発物をセット、離脱してもらう。第7機動魔導師部隊の脱出をもって作戦完了とする。

なお作戦決行は一週間後、これよりセスル基地はコンディションイエローを発令する。任務に全力をもって当たれ、私からは以上だ。」

 

――――こいつは厄介な作戦だな。

 

第7機動魔導師部隊…つまりは俺たちの事だが…

俺たちがどれだけ早く基地中枢に突入できるかがこの作戦の鍵だ。

時間がかかれば、その分友軍に被害が出る。

戦線が維持できなくなれば、外の残存兵力がなだれ込んでこちらもボン!…か。

 

しかし、敵さんの大部分をおびき出すとはいえ、一部隊だけで内部制圧とは…

上の連中もひでぇ作戦考えやがる。

 

まぁ、今更命令には逆らえん。今の内にできる事をやって置くしかないな…

はぁ、また書類が増えそうだ…。

 

***

 

―――1週間後、野営基地――

 

「…今回の作戦で…我がレッドクリフ隊は突入部隊として、敵の懐に飛び込むことになる。」

 

ここは野営基地、作戦決行まであと一時間ほどだ。

我が部隊の任務は他の連中の陽動が成功するまで待機している。

 

「先に簡単に説明したが、確認の為もう一度小隊編成を確認する。俺と副官のジェニス少尉を含めた飛行魔法が使える九人はA分隊とする。そして先行する形で、メインシャフトへと向かう。

コールサインはレッドクリフ1~9とする」

「「了解!」」

 

メインシャフトは垂直の縦穴だ。最低限飛行魔法が使えないと突破に時間がかかる。

俺も飛ぶのは苦手だが、穴を降りるくらいはできる。

 

「次に、ケイン曹長を中心としたB分隊は俺たちが食い残した残敵を掃討しながら退路を確保して貰う。コールサインはレッドクリフ10~20とする。」

「「了解!」」

 

こいつらが一番辛いかも知れない、何せ動きが限定される屋内だ。

敵がわんさかいる基地内で退路を維持し続けるのは、至難の業だ。

 

「そして最後に、ヤード軍曹を中心としたC分隊は基地内にて、爆薬設置及び情報収集を行ってもらう。もし占領に失敗した場合は、我々が脱出に成功後に即座に爆薬を起動、基地を爆破する。

コールサインはレッドクリフ21~32とする。」

「「了解!」」

 

こいつらはいわゆる工作隊みたいな感じだ。

情報が得られれば良し、そうでなかったら徹底的に破壊してもらう。

「以上だ。なにか知りたい事はあるか?」

「「「…」」」

「…無いようだな…これより突入ポイントに向けて進軍する。各小隊はデバイスを起動、通信はチャンネル4にて行え、地獄の釜に突っ込むぞ。」

「「「Sir,Yes,Sir!!!」」」

 

 

さぁ、殺し合いの時間だ!生き残る為の闘いだ!!綺麗事などクソ喰らえ!!

くだらない倫理観など犬に食わせてしまえ!!!

立ち塞がる奴は死神だろうが何だろうが殲滅あるのみ!!!

始めよう、死に魅入られた者同士の宴を!!狂宴を!!!!

 

 

――――なんて事言えたらカッコ良いだろうけど、正直洒落にならない気がしたので自重した。

ヘルシング的な言いまわしは結構好きだけど…俺まだあそこまで狂って無いもんねぇ…。

一応、まだ“人間”の範疇のハズだよ……うん。

 

………………………

 

……………………

 

…………………

 

 

 

―――作戦開始より30分経過―――

 

 

 

『ターゲット、エンゲージ!!フォックス2!フォックス2!』

『ヴァルキリー1から各隊員へ、デバイスが焼きつくまで撃ち続けろ!敵を火達磨にしてやれ!』

『『『了解』』』

『HQから各部隊へ、敵基地から熱源感知、無人迎撃機部隊と推測!数およそ60!』

『サイクロプス1から全隊、食い放題だ!食い尽くすぞ!!』

『『『了解!』』』

『B小隊遅れるな!前衛魔導師のクソ度胸…ココで見せてみろ!!』

『サイクロプス9!ブレイク!ブレイク!』

『す、すげぇ数だ…』

『サイクロプス5!余所見をす……ザザ…』

『い、イヤダッ!死にたく…』

『なんとぉぉぉ!!』

『HQ!デカ物が出た!フレイアに支援砲撃要請!』

『こちらHQ、了解。つなぎの無人機隊が到着するまで持たせろ』

『ターゲットインレンジ!フォックス3!』

『敵熱量増大!敵砲撃来ます!』

『ギャァァァ…ブツ』

『クソッ!8と13が食われた!!支援はまだか!』

『フレイア支援砲撃開始!着弾………今!』

『敵無人迎撃部隊の6割撃破、残り17機、此方の無人機隊と戦闘に入った』

『敵基地内部魔力反応増大!敵迎撃魔導師隊確認!数は20…30?!尚も増員されてます!』

『くそ!サイクロプス1から全小隊へ敵を引き付けるぞ!Fラインまで後退する!』

『敵砲撃魔法きます!結界を!』

『HQよりグリムへ、第2段階に移行!!』

『グリム隊了解、突撃開始します!』

 

 

 

―――――グリムが動いた!

 

 

 

「全員聞いたな?俺たちも行くぞ。」

「ミラージュハイド起動、通信封鎖、レッドクリフ隊!出撃!」

 

***

 

――リニアライン、中央集積場――

 

俺は部下8人を引き連れて先行し…何とか中央集積場にたどり着いた。

今回、俺の速度についてこれるように、こいつ等には俺のローラーダッシュの簡易版と呼べる

Rギアというストレージを渡してある。形はぶっちゃけマッハキャリバーそのものだけどな。

 

「レッドクリフ1からHQへ、基地内部、中央集積場に到達…通信封鎖解除、誘導頼む。」

『HQ了解。レッドクリフ1、その先Bゲート付近に敵迎撃機集結を感知、数は60、交戦はなるべく避けろ。』

「レッドクリフ1了解。聞いたなお前ら…遅れるなよ?」

「「了解!」」

 

俺はローラーダッシュを駆使し、通路の壁を駆け巡る。重力制御魔法を使えば壁走りも簡単だ。

 

「ターゲットエンゲージ!」

「レッドクリフ1、フォックス2!」

 

目の前を塞ぐ無人機に向かってヴィズを掃射しながら突貫する。

 

「撃破確認は後まわしでいい…かまわず突撃しろ!」

「「了解」」

 

中央集積場は規模がデカイ為、無人機の溜まり場になっているらしく、うじゃうじゃ大量にいる。

だが、同士討ちを避けるために、基地内であまり火器の発砲ができないらしい。

格闘戦を行いたくても所詮は無人機…防御魔法を持っている魔導師相手では分が悪いだろう。

誤射を避ける為のAIの思考ルーチンが仇となったな。

 

「レッドクリフ3、ストレートキャノン!」

「レッドクリフ9、ストレートキャノン…」

「レッドクリフ4!ストレートッ!キャノンッ!!」

 

三乗の魔力砲が敵の屍を増やしていく…通路が狭いので被弾しやすいが、それは敵も同じだ。

俺たちは、通れるだけの道を明けるとそのまま突っ込んでいく。

後方から轟音が聞えてきた。どうやらB分隊も奮戦中みたいだな。

 

『300m先メインシャフト…隔壁が降りていきます!』

「ちっ!お前らそこで止まれ!ヴィズ、グロム起動、シークエンス・キャンセル」

『了解』

「フォックス4」

 

隔壁が降り切る前に、俺は発射シークエンスをキャンセルしたグロムを発射した。

普段のより3割程威力が低下しているが、何とか物理破壊でも隔壁をぶち破る強さはある。

放たれた魔力の極光により、目の前の隔壁が音を立てて吹き飛んだ。

 

「ぐぅ…A分隊続け」

「「了解」」

 

シークエンス・キャンセルは、リンカーコアと身体に負担がかかるが、今は休む訳にもいかない。

俺たちは任務を遂行する為、そのままメインシャフトに突入し、下に向かって飛び降りた。

 

しかしなぁ、自由落下の方が早いとはいえ、この感じは気持ちが悪い…。

飛ぶじゃなくて落ちるだから余計にさ…胃袋がよ?上に浮き上がる感じがするんだぜ。

まぁそれは置いておいて、俺はヘッドクォーターに通信を入れた。

一応予定ではこれで作戦は第三段階…基地破壊の為のフェイズへと移行する筈だ。

 

「レッドクリフ1からHQへ…メインシャフト内への侵入に成功した。」

『HQ了解――――全部隊に通達!作戦は第3段階に移行する。』

 

その通信を終えた直後。

 

『下方より敵反応多数!魔導師です!』 

「やっぱり、待ち伏せしてやがったか!隊長!!」

「アローフォーメーション。」

 

メインシャフトに侵入した俺達を倒す為に、敵さんも増員を送ってきたようだ。

俺はヴィズの防御魔法の出力を上げ、俺を先等にして他の連中が続く様にした。

こうすればそう簡単には流れ弾で死ぬことは無いだろう…多分。

 

「ヴィズ、多層プロテクション5層前面集中展開!」

『Yes,マスター、プロテクション集中展開』

 

序でに複数の障壁を展開したので、目の前に分厚い魔力の障壁が出来上がる。

通常の魔導師にこの障壁を破ることは難しい…出来るやつは白い悪魔さん位だと思いたいウン。

 

『敵防衛線突破、中枢区画まで後130秒…』

「隊長、あと少しですな。」

「レッドクリフ7…作戦中だ…気を抜くな…」

「りょうか…≪ドシューッ!!≫うぎゃ!」

「!!―なんだ?!」

 

いきなりレッドクリフ7がビームで撃ち落とされただと!?

 

「魔力反応は無かったぞ!?」

『魔力ではありません。アレは光学兵器です。』

 

何!敵さんそんなものまで持ち出したのか!

 

「全員散開!!回避運動を取れ!もたもたしてると食われるぞ!!」

『前方に駆動音探知、セントリーガンが設置されています。ビーム型も多数確認!』

「ちっ、各員臨機応変に対処せよ!障壁を常時展開しないと落されるぞ!

お前らの糞度胸ここで見せてみろ!!レッドクリフ1フォックス2!フォックス3!」

 

アルアッソーモードのヴィズとM82A1から多重弾核弾が放たれ、セントリーガンを打ち抜いていく。

自由落下中なので、他の連中は逃げ回るばかり…俺だけが何とか攻撃している状態だ。

正直、基地内部にココまで過剰な装備を入れておくなんてな…敵さんもようやるぜホント。

そんなこんなで、セントリーガンを壊せるだけ壊していると、通信を求める音が聞こえた。

 

『(此方レッドクリフ21、聞えますか隊長!)』

 

――――ヤードから通信?なんだこの忙しい時に!!

 

「(なんだ!悪いが今手が離せんのだが!…そこッ!!)」

 

俺を狙ってたセントリーガンを撃ち落す。あぶねぇ。

 

「(おっと…手短に話せ…くっ!)」

『(この基地の情報端末からメインAIにアクセス、八割を掌握しました!

現在データコピーを行っています。そのデータの中に気になるものが…)』

「(なにが入ってた?敵司令の秘蔵コレクションでも入ってたか?)」

『(それの方が何倍もマシですよ隊長。この基地、生体兵器やデバイスを埋め込んだサイボーグ等の人体実験もしていたようです…わが軍の捕虜を使って…)』

 

なっ!何処のスカリエッティだよ!!

 

「(捕虜がいるのか?)」

『(分りません。ただデータには中枢部に搬入としか書かれていませんから…)』

「(一応捜索しろ…もし生きてるヤツがいたらソイツが証拠になる…条約違反だからな。こってりと絞れるぞ。)」

『(了解)』

 

 

 

全く…戦争のドサクサで何やってんだか…

その後も落下を続けながら、何とか中枢部への侵入に成功した。

 

 

………………………

 

……………………

 

…………………

 

 

―――ニューヘルバ基地最深部、反応炉区画―――

 

 

「A分隊集合、損害報告」

「…レッドクリフ4、7が殺られました。それと5、8が負傷、戦闘は難しいです。」

「……反応炉破壊には俺とレッドクリフ2で行く…6と9は5と8を連れて後退しろ。」

「「了解」」

 

なんとか全員で中枢部へたどり着いたモノの予想外に敵が残っていた所為で何人かやられた。

魔導師は優先で倒したから、残りが殆ど無人機だから良いけど、後続がきたら少々不味いかもな。

とりあえず後退していく部下を見つめながら、唯一この後俺と行動を共にする副官へ指示を出す。

 

「ジェニス、ここからは無闇に砲撃魔法等は使えん。前衛は俺がやるから射撃魔法で援護を…」

「了解、背中は任せてください。」

 

ヴィズの箱型マガジン魔力チェンバーを予備に切り替え、フォルムをストライカーへ変える。

ここからは、俺とジェニスの二人だけで進む事になる。

正直心細いが仕方ない…地上で頑張ってくれている味方が崩れる前に破壊しないとな。

 

「…行くぞジェニス…目指すは反応炉だ」

「Yes,Sir!!」

 

流石に反応炉を落とされたくは無いらしく、敵の質が上にいた奴らとは一線を架していた。

だがこちらにも時間がない為、力押しで俺が防御力にモノを言わせて突っ込んで撹乱。

 

撃ち漏らした敵をジェニスが射撃魔法で息の根を止めるというコンビネーションで進む。

何とかココを防衛していたと思われる、最後の魔導師を殺したところで、また通信が入った。

 

『(此方レッドクリフ21、…ザザ…隊長聞えますか?)』

「(ややノイズが入るが聞えるぞ…どうした?)」

『(先ほどB分隊が中枢部に突入したのですが、捕虜だったものを発見しました。)』

 

―――――だったもの…か。

 

「(…皆殺しか?)」

『(正確には実験台にされたようです。何かに引き裂かれたような死に方でした。)』

 

エグイねぇ…幾ら戦争でもやっていいことくらいあるだろうが…全く救い難いぜ。

 

「(…遺品を回収してやれ…あと研究区画と思われる場所はデータをコピーし終えたら、

念入りに…徹底的に爆破しろ!隊長であるこの俺が許す)」

『(了解、あと捕虜を引き裂いたと思われる実験体ですが移送データによると、

どうやら反応炉の防衛にあてられたようです。用心を…)』

 

そう言ってヤードは通信を切った。

 

***

 

 

―――反応炉、隔壁前―――

 

俺は反応炉の手前の隔壁前に来ている。

なんかね…エライ分厚い隔壁なんですよ。そんで俺の本能が告げてるんです。

 

―――――あけちゃだめ………って…ぶるっ。

 

と、とにかく不吉な何かを扉の向こうから感じるんです。

できる事なら回れ右して帰りたいのですが任務だし、それに――――

 

『マスター!やりました!隔壁の制御の把握に成功しました!!』

 

――――この子がね…張り切ってくれたんですよ…はぁ。

 

「…隔壁、解放。」

『了解』

≪ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッ!…………ガゴン!!≫

 

あー、開いたね…。

扉を開けるとそこは……………………反応炉でした。うんほかに何もない。

 

「…レッドクリフ2、制御室で反応炉を緊急停止させろ…その後爆発物をセットして撤退する。」

「了解」

 

≪ゾワ…≫

 

「!!」

「わっ!ちょっと!隊長!」

 

俺はジェニスを押し倒した…。

その直後、俺らが居た位置を何かが抉りとった…てか重金属製の床なのに!!。

 

「いてて、隊長…俺にそんな趣味は…」

「馬鹿言ってないで後を見ろ!ジェニス!」

 

全くなんでこんな所に配置するんだよ…ラスボスかっての!

まるで水死体みたいで継ぎ接ぎだらけな肌、異常発達した右腕、光りを反射しない濁った瞳。

ソレと体中に埋め込まれ盛り上がっている機械類…間違いねぇ、こいつが報告にあった―――――

 

 

「『実験体』か…クソ」

 

 

ソイツは白く濁った目で、こっちを見続けている…見えてるのかは分らないが、恐らく元は人間だ。機械を埋め込んで自由を奪い…次元世界の生物と融合させたり…人間がすることじゃないな。

コリャ原作のスカさんのほうがまだ可愛くみえるぜ…少なくともこんなのは作って無かったし。

 

「た、隊長…」

 

ややビビった声を出すジェニス…まぁ気持ちは解る。

俺も素面であったら失禁しちまうくらいのインパクトだ。

まぁとりあえず指示を出さなくては……。

 

「俺が仕掛ける…お前は制御室に行け…」

「!しかし」

「お前に…アレの相手ができるか?」

「く…了解…」

 

こうして会話してても実験体からは目を逸らさない。

奴さんもこちらを伺うかの様に微動だにしない。

生き残るには…やはり倒すしかないみたいだな。

 

「ヴィズ…」

『了解、キーンセイバーを殺傷設定から物理破壊に移行』

 

俺は剣を構え直し、相手を見据え………一気に相手の領域に踏み込んだ。

 

「……………はっ!」

 

≪ガン!≫ 

初撃は簡単に防がれて金属に弾かれたかの様な…ありえない音がした。

 

【■■■■■――――!!!】

 

どうやら今ので怒らせちまったみたいだな…

 

【■■■、■■■――――!!!】

 

実験体は右手の爪を大きく振り被り…

 

≪ヴォン≫

 

――――音速を超える速さで振り下ろした。

 

「ちいっ!」

『ローラーダッシュ』

 

脚部のモーターが唸り、敵さんの爪が掠りはしたものの回避する事に成功。

ふぃー、あぶねェ~ヴィズが機転利かせてくれなかったら、この物語が終わっちまうとこだったぜ。

しかし、あの爪は脅威だな…全体の動きはソレほどじゃないけど、右腕だけ妙に早いぜ。

 

「シュート」

『フォトンバレット・シュート!』

 

―――――射撃魔法を一発…あくまで布石でしかない≪ヴォン!≫な、何!?

 

「ぐはっ!」

『マスター!』

 

くそが…腕が伸びやがった。おまけに肩に…爪、刺しやがって…

げほっ…アバラも…折れた…かな…うっ。

 

「ゲホッ!」

≪ビチャ!≫

 

あー…口の中切った時とはまた違う鉄の味が…。

 

「やろう…」

『マスター動かないで!』

 

おいおい…うごかねぇと潰されるぞありゃ。

 

【■■■■……】

 

なんだ…なんで、こっちを見てくる…?

 

【■■ゴ■■ロ■ジ■■■テ…】

 

いま“殺して”って聞こえた―――空耳か?

 

【■■■■■――――!!!】

 

「ちぃ!」

 

多重プロテクションを展開した俺を、そのまま伸ばした腕を使い吹き飛ばした。

多層プロテクションごと吹き飛ばすなんて…なんてちからだ…

 

「ヒュ…ゲボッ!」

『マスターこれ以上は!』

 

【■■ゴ■■ロ■ジ■■■テ■■■ロ■ジ■■テ…】

 

 

間違いない…殺してって…言ってる。

被害者の人格も移植してんのかも……胸糞が悪い…。

 

「ヴィ…ズ…キ、キーン…セ…バー…CS」

『しかし…』

「はや…く」

『了解、キーンセイバーCSモード』

 

二振りの剣だったヴィズが合わさり、1つの大剣に変わる。

キーンセイバー・クライシス・スキュア・モード…通称K,C,S。

己の魔力を更に上乗せさせ、極限まで収束させた魔力刃は触れたものを粒子にまで還元させる。

俺は意志の力で痛みをこらえ、剣を構えた……伊達に母上からの訓練を受けていた訳じゃない。

 

「いく…ぞ…。」

『…チェンバー・ロード』

≪ガシン!≫という音と共に箱型マガジンからカートリッジで言うところの3発分がロードされる。

 

「くらえ…」

『ディメンジョン・グレイブ!』

 

カートリッジ三発分を消費させ、膨れ上がった大剣を実験体に振り下ろす。

爪でガードしようとしたのか、実験体は右手を挙げるが――――

 

≪ジュ……≫

 

―――――魔力刃に触れる直前に、右腕がグズグズになって崩壊、消滅した。

 

「はぁぁぁ……!!」

 

遮るものが無くなった光の刃はそのまま実験体の身体の半分を照らす。

そして実験体を粒子にまで変換させながら…白い機神の剣が―――――

 

≪ザンッ…≫

 

―――――無慈悲に…そして静かに振り下ろされた。

 

いや彼らにとってはこれが慈悲なのかもしれない…。

声も挙げる事無く絶命した実験体だったが、剣で斬られるその一瞬。

その顔は眠りにつく事が出来るかの様に…とても穏やかだったからだ。

 

「ぐ…」

『マスター!?』

 

そして、俺も限界に来てしまったようだ…目が霞む…ぜ。

と、とにかく応急処置を…。

 

「ヴィズ…リペア…」

『しかし、魔力負担が…』

「チェンバーを使え…急いでくれ…目が霞ん…で…」

『は、はい!リペアパック起動、応急システム展開!チェンバー内の貯蓄魔力を消費します』

 

リペアにより傷が一応はふさがっていく。

それによって大分楽にはなったモノの、気を抜けば意識が飛んでしまいそうだ。

 

「中尉!」

「…ジェニス…反応炉は?」

「停止させました。爆発物のセットも完了…あとは離脱するだけです」

「よし…時限装置…起動…ここから…離脱す…る。」

 

正直息も切れ切れ、限界まで消耗してしまった身体は言う事を上手く聞いてくれない。

立ち上がろうとしたが、景色がふらついてしまい立てない…これは血を流しすぎたかな?

 

「だめだな…立てない…ジェニス…俺にかまわ…」

「かまわず逃げろっていう命令は無しですよ隊長。よいショット。」

 

いきなり抱きかかえられた…しかも…お姫様抱っこ!!せ、せめて…

 

「おんぶ…位…してくれ…はずい」

「時間が無いため却下します。(HQ、レッドクリフ1負傷、至急後送の準備を頼む)」

「クソ…あとは…たの…んだ」

 

 

 

 

―――――ここで俺の意識は一旦途切れた…。

 

 

 

 

***

 

「うぐ…ココ…は?」

『あ、マスター気が付きましたか?ココは味方の野戦病院です。作戦は成功しました』

「ヴィズ…か」

 

俺が次に目覚めたのは、敵さんの基地からほど近い、味方の野営基地の野戦病院だった。

 

「アノ後どうなった?」

『あ、ハイ説明させて貰いますね?まずは―――――』

 

ヴィズからアノ後なにが起きたのかを聞いた。

あの後、副官のジェニスが指揮をとり、爆発物のタイマーをセットして脱出。

 

地下に造られた反応炉の爆発と、基地内部に仕掛けられた爆薬によって基地は内部から破壊された。これによって、もはや基地として機能する事は出来無いだろうとの事。

 

「ふむ…そうか」

『なんとか生き残れましたね…いやはやマスターが気絶した時はどうしたモノかと…』

「なぁヴィズ…」

『はい?何でしょうか?』

「今回…何人哨戒任務に行った?」

『………………6名です』

「そう…か」

 

俺たちの部隊の損失は、ABCある分隊あわせて6名が哨戒任務に旅立ったらしい。

犠牲が出る事は覚悟していたが、やっぱり実際に出るとこたえるな。

 

「辛い…な」

『辛くても…任務ですから…』

「ふふ、確かに……あまりにこういう事が多すぎて……もはや泣く事も出来ない」

『マスター』

 

昔は映画でも泣けるほどの純情だったのにな…人間ってのは物事に慣れる。

もう部下が死んだくらいじゃ涙も出やしない…人が本当に死んだっていうのに…。

 

「はぁ…止めておこう…ヴィズ、後何か報告はあるか?」

『あ、ハイ…失った人員の補充が来週にもあるそうです。詳しくはジェニスさんに聞いてください』

「そうか…ヴィズ、俺は…後どれくらい寝られるか?」

『ざっと3時間くらいでしょう』

「2時間後に…おこしてくれ」

『解りましたマスター…おやすみなさい』

 

今だけは…何も考えたくない…そう思い再びベッドの中に入り泥のように眠りを貪った。

 

そして一週間後、俺たちは新しい兵員を補充され、新たな任務につかされる運びとなった。

 

それが兵隊、それが軍人、その事が頭で分っていても、心が受け止めるには時間がかかる。

 

そのため、この作戦からしばらくの間……俺の心が晴れることは無かった。

 

 

 

 

 

 


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