【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第七章+第八章+番外編1+第九章

 

 

 

―――重力井戸制御室―――

 

「ミューズ、トーロどこに行ったか知らないッスか?」

「彼ならトレーニングルームにいるわ…」

「そうか、失礼したッス」

「あ、艦長・・・行っちゃった。今ソコには入らない方が良いのに・・・」

 

***

 

「おーい、トーロは居るッス…ぬがッ!?」

「ん?ユーリじゃねぇか。って、どうした?床に張りついちまってよ?」

 

トレーニングルームに入った途端、曙に乗られたような感覚に襲われた。

 

「・・・・保安部長と連絡が取れねぇって聞いて。たまたま近くを通りかかったから」

「それは解ったけどよ?何で立ち上がらねぇんだ?」

「・・・立てねぇんだよ!!重力もうチョイ落とせこのバカ!!」

 

そろそろラッツィオ軍基地に着くって時に、何で内線が無いとこに居るんだよ。

しかも、重力を調整しやがったな。立てやねぇ上に骨折れそうなんだが?

 

「わりぃわりぃ、鍛錬してる時は誰も来ないからよ?」

「とりあえず早いとこ通常重力に戻してくれ・・・・ミが出そうなんだ」

「げ、解ったちょい待ってろ・・・・よし、解除した」

 

ゲホゲホ、いたたたた。身体中が痛ぇ。

後少し遅かったら、さっき食ったモノと、奇妙な再開をするところだったぜ。

もしくは部屋で溺れ死にってとこか・・・・最悪な死に方だな、おい。

 

「全く、確かに鍛えろって言ったけど、限度ってものがあるッス」

「自分でも何でココまで耐えられるか不思議でならねぇけどな」

「・・・・・まぁ良いッス」

 

呆れてものが言えん。

 

「とりあえず、もうすぐラッツィオ軍基地に着くッスよ?お仕事してくれッス」

「了解艦長」

「全く・・・アイタタ・・・」

 

何で自分のフネん中で怪我してるんだ俺?

とりあえず、大したことは無かったので、ブリッジに向かった。

――――のだが・・・・・。

 

≪ガガガガ・・・ギュィーン・・・ギッコンバッコン!ニュイ~ンモッハジ!!≫

「なんだ?この音」

 

何故か奇妙な音が通路から響いて来た・・・てか、最後の音は何だ?

ん~、別に損傷とかしてないから、フネの修理をしているとかは無いだろうし…はて?

気になった俺は、音のする方へと足を向けることにした。

 

…………………

 

……………

 

………

 

音の元凶は、どうやら倉庫から聞こえてくるらしい。

 

「あれ?確かココは・・・」

 

その倉庫は、ケセイヤさんが“こんな事もあろうかと”と言って作り上げた、

色んなヤバいモノの保管庫だった筈。ちなみにこの間の大砲もココにある。

 

「ま、まさか・・・またなのか?」

 

俺はそう思い、倉庫の扉を手動でそっと少しだけ開けて、中をのぞいてみる事にした。

 

 

「――――――はんちょ~、このシャフトどうするんスか?」

「お?そいつはレールガンのレール部分に代用が効くヤツだな。はの6番に保管しとけ」

「班長、一応デバイスの調整が終わりましたけど、流石に陽電子砲はまずいんじゃ・・・」

「別にタキオン粒子使う大砲作れって言うんじゃねぇんだ。ソレ位大丈夫だって」

「でも基本、廃品ですよ?破壊した船舶から集めたヤツだし」

「ちゃんとスキャンして、強度の方は問題無いって出てるだろうが!」

「この廃品のコンデンサーが、コレだけの大出力に耐えきれますかね?」

「そこら辺は大丈夫だ。コイツはフネの心臓部たるエンジン部分に使われていたヤツだからな」

「しかし・・・何だかなぁ~」

「何ぶつくさ言ってんだ?このキャミーちゃん3世が信用できんとでも?」

「・・・・陽電子砲に、変な名前付けないでください」

 

カラカラ笑うケセイヤさんと、ソレを見てもはや諦めの境地にたどりついた副班長。

どうやらケセイヤさんとその他整備員達が、倉庫の整理と何かの開発をしてたらしい。

 

海賊船を破壊した際に出た廃品の幾つかを、俺に黙って拝借していた様だ。

広いフネだから、俺も全部把握してる訳じゃないけど、こんなことしてたとはね。

 

「いいかお前ら~!後一時間で作業終わらせッぞ!!俺達の合言葉は?」

「「「「こんな事もあろうかと!!」」」」

「良し!作業再開!!」

 

・・・・・・・・・まぁ、少しくらいは目を瞑っておいてやるか。

別に部品の一つや二つで、経営不振に陥る程、生活に困ってないしね。

 

それに皆ちゃんと、ノルマをこなしてからやっているから、レクリエーションみたいなもんだ。

俺がとやかく言う事じゃないかな。うん。

とりあえず邪魔をしない様に、俺はこの場を離れた。

 

「そういや班長?」

「なんだ?」

「このついつい調子に乗って作ってしまった人型機動兵器、どうします?」

「まぁ半分冗談で作ったヤツだからなぁ・・・とりあえず、隅っこに置いていてくれ」

「了~解~」

 

***

 

「データの編集終わりっと…手伝いありがとね?アバリス」

【いいえ、ミドリ。これも私の仕事の内です】

「ふふ、イイ子ですねアバリスは」

【……照れますね】

 

ああ、もう面倒臭いなぁ。

でも艦長の仕事だし・・・難儀やなぁ。

 

「ちわ~ッス」

「あ、艦長」

【艦長、ブリッジイン】

「あ、ミドリさんとアバリスッスか?お仕事ご苦労さんッス」

 

俺は何やら作業をしていたミドリさんを見つつ、自分の席。

まぁ、様は艦長席へ座った。

 

「さてと、もうそろそろラッツィオ軍基地に着くッスね」

「え?あ、はい。そうですね」

【あと艦内時間で、1時間と45分程で到着する予定です】

「ほいじゃ、そろそろクルーに寄港準備を進めるように指示をだしてくれッス」

「了解です。序でに基地司令部に行く人員の選別もしておきます」

「頼むッス。はぁ~だけど、本当は行きたくないッス~」

「クス、頑張ってください。艦長?」

「あ~う~」

【?艦長は行きたくないのに、何故行くのですか?】

「ふっ、男には逃げる事が許されない時があるのさ」

 

ニヒルな笑みを浮かべ、アバリスの問いにそう答える。

オトナのせかいはたいへんなのです。…なんてな。

 

***

 

ラッツィオ軍基地司令部の門兵に話しかけると、すぐさま司令部へと通された。

とりあえずだ、ここら辺は原作通りだったと言っておこう。

若干違ったのは依頼の報酬が、フネの設計図からお金に変化した位である。

 

まぁ簡単に言えばだ、惑星ルード行ってスパイの男から情報貰って来いってお達しである。

惑星ルードに居る男に合言葉言ってデータチップを貰ってくればいいっていう簡単な依頼だ。

そして、軍に睨まれたくないから断れない。なんて、厄介なんだろうか?

 

とりあえず、嫌がらせの仕返しとして、エピタフの情報でも集めてくれと依頼した。

そうそう簡単集まるもんじゃないし、見つかったら見つかったで高く売れるからな。

まぁ期待せずに待とうじゃないか。

 

「あーもう、とりあえずルードに行くッス!」

「まぁ、めんどくさいだろうけど、やるしかないだろうねぇ」

 

ま、そういう訳で、現在惑星ルードに向かっている。

 

「……インフラトン粒子濃度は正常値、機関出力も正常っと」

「しっかし、艦長。何で俺達が軍の使いっ走り何ぞしないとダメなんだ?」

 

航路チャートを確認しながら、リーフがそんな事を口にした。

 

「リーフ、お前海賊で食っていく自身あるッスか?」

「へ?そりゃ必要ならソレ位しますがね」

「俺にはそんな自身無いッスよ。これでも俺はアバリスに乗りこんでる全員の命預かってるッス。とてもじゃないけど、政府に逆らって、狙われながら生きて行く事なんて出来ないッス」

 

毎日警備艇や警備艦隊に追っかけられるような、神経が擦り切れる生活なんて送りたくねェ。

というか、そんな事する為に宇宙に出た訳じゃねぇからな。

 

「そんなもんか?」

「もちろん、こっちにとって不利益にしかならない不条理な命令だったら、絶対に言う事なんて聞く訳無いッス。それどころかそんな命令したヤツをダークマターにでも変えてやるッス。だけど、今回はまだ良心的な依頼ッスからね。出来るだけ政府の人間には協力の姿勢を見せといた方が、後々厄介事が起こらないモノッスよ」

「はは成程、尻尾振っているフリをするって訳だ」

「わんわんって感じッスかね?」

「艦長~犬のモノマネ上手~。かくし芸~?」

「いや、かくし芸じゃ無いッスけど…」

 

エコーさんのどこかズレた発言に、ブリッジの空気がのんびりとしたものに変った。

こういう雰囲気変え方が凄く上手いんだよなぁ、しかも天然でやっているから…。

エコー…恐ろしい子…!!(月○先生っぽく)

 

そんなバカな事考えていると、トスカ姐さんがどこかいつもと違う表情をしている。

どうしたのだろうか?具合でも悪いのかな?まさか生理……。

 

「何か変な事考えなかったかい?ユーリ」

「イイエ、ナンニモ考エテマセンヨ?」

 

あぶねぇ、墓穴掘るとこだったぜ。

 

「・・・・まぁ、あんたの事だから?そうそう利用されるなんて事は無さそうだね?」

「軍相手の事ッスか?はは、利用してくるならコッチも利用してやれば問題ないッスよ」

「ちゃっかりしていると言うか、しっかりしていると言うか」

「いやぁ照れるッス」

「褒めてないよ」

 

さいで。

 

「ん?もうすぐ到着みたいだな」

「早いなぁ、ラッツィオ軍基地出てまだ1時間も経って無いのに」

「一応軍用だからな。EP(Electronic Protection )最大レベルにして、機関出力いっぱいにすれば、一般の船籍なんてめじゃねぇさ」

 

流石軍用、戦闘無しで最大戦速だと、ものすごく速い。

そのまま一気に惑星ルードのステーションにある宇宙港へ入港した。

 

ステーションから惑星に降りて、向かったのは0Gドック御用達の酒場。

というか、指定された受け渡し場所がそこだったと言うだけの話だ。

 

酒場の中は閑散としていた、海賊団が横行しているこの宙域で活動している0Gは少ない。

だから自然と人も少なくなるんだろう。でも目的の人間は人が多かろうが関係なさそうだ。

 

「(普通に軍服着てらぁ)」

 

何せ目的の人物は、普通に政府軍の軍服を身につけている。

一応この近辺は海賊の縄張りなんだから、形だけでも偽装すればいいのに。

 

「ひそひそ(トスカさん、もしかして・・・)」

「ひそひそ(ああ、どう見てもアイツがそうだねぇ)」

「ひそひそ(でもここら辺、海賊の活動圏なのに、偽装しなくても良いんスかね?)」

「ひそひそ(いや、あいつは多分仲介みたいなもんだろう。スパイは別にいるんだよ)」

「ひそひそ(そうなんすか、じゃあとりあえず接触してみますか?)」

「ひそひそ(その方が無難だろうねぇ)」

 

とりあえず、接触してみますか。俺は軍服の男の元へと進んで行き隣に座った。

 

「すみません“ボトル三本奢ります”」

「・・・・・・・スッ」

 

ん、なんぞ?

 

「・・・・マイクロチップ?」

「・・・・・」

 

コイツは・・・届けろって事かい?

俺はそう視線を送る。

 

「・・・コク」

「・・・OK、任せな」

 

どうやら口を聞く気は無いらしい。

それならそれで良い、面倒臭い事になりにくいからな。

 

 

「さて、これでもうココに用は「兄・・・さん?」・・・は?」

 

 

おや?ティータも来ていたのか、というか今兄お兄さんって・・・。

おいおい、もしかして?

 

「このヒト、ティータのお兄さん何スか?」

「ねぇ兄さんなんでしょ?どうして今まで連絡の一つもくれなかったの!?」

「・・・・・」

 

ティータの兄(仮)は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに無表情に戻った。

しかし、その反応だけで彼らが赤の他人でない事は周囲にはバレバレである。

というか俺、この二人に華麗にスルーされてちょっと涙目。

 

「どうして黙っているの兄さん!ねぇ何か言ってよ!!」

「・・・・・・」

 

この空気に居たたまれなくなったのか、彼は足早に酒場を後にした。

残ったのは、実の兄に拒絶された事にショックを受けている少女だけ。

こういう時に効く薬は・・・・

 

「トーロ、出番ッス」

「幼馴染なんだろう?相談くらい聞いてやんな?」

 

トスカ姐さんと一緒に、トーロの背中を押してやる。

こんな時は最終兵器(リーサルウェポン)、最上の薬『幼馴染』を投入するに限る。

 

最もこの場合は、ていの良い生贄という側面も含んでるんだけどな。

そして、そこら辺は嫉妬深いクルーも理解しているらしい。

 

トーロがティータを慰めに行く際、彼に対しちょっかいを出そうとするヤツはいなかった。

と言うよりかは、頑張ってこいという感じの視線の方が多い。

皆女の子スキー!だけど、厄介事はイヤン!って感じらしい。

 

全く普段の馬鹿騒ぎ好きで、お調子者のコイツらはどこに行ったんだか・・・。

まぁ、そんなこと言いつつもトーロを見送った俺が言う事じゃないけどな!

俺も苦手なんだよ。女の子の泣き顔とか苦しんでるとこって・・・。

 

 

 

「世も末だなぁ」

 

 

 

酒場から出る時、あの兄妹を見てそう呟いたのは、俺だけの秘密。

 

***

 

「ああ艦長、ちょっといいか?」

「ん?何スかサナダさん」

 

フネに乗り込んでラッツィオ軍基地へ向かおうとした矢先。

科学班のサナダさんに、話しかけられた。

 

「この間海賊に襲われただろう?そこでだ、空間ソナーを少し改良して、連中のフネのエンジンが出す特定のインフラトンエネルギーパターンを感知出来る様にしておいた」

「って事は連中から奇襲を受けることは、ほぼなくなったって事ッスか?」

「あの海賊たちがインフラトン機関の出力設定を、ほぼ全く同じにしていたのが幸いだったよ。恐らく同じ整備士たちが調整していたんだろう」

 

成程、それなら確かに探知できる。

 

「わかったッス。それじゃ」

「ああ、ソレと中型レーザーの方も、“我々”科学班が改造を施しておいた。出力は前と比にならないくらい強力なモノとなったぞ?」

 

なんか若干“我々”が強調されているんだが、

サナダさん、ケセイヤさんに【こんな事もあろうかと】を取られたのが、そんなに悔しかったのか?

 

「他にもフネの方の強化もやっておいた。多少費用はかかったが、問題は無いだろう」

「・・・ちなみに、お幾らぐらい?」

「3000Gくらいだ」

 

艦長に相談せずにか・・・ま、いいか。

 

「今回は良いッスけど、次からは報告してくださいよ?」

「ああ、解っている。ケセイヤなどに負けてられんからな」

 

会話がかみ合っていない気もするが、まぁこの人ならそれ程無茶はしないだろう。

もともと3000Gは、科学班全体に回してた予算だし、足りない分は追加を入れれば良いからな。

この程度の出費で、フネの力が上がるなら安いモンだ。

 

「ま、頑張ってくださいッス」

「ああ、解った。任せてくれ」

 

真顔でそう言うサナダさんに、俺はちょっとだけ悪戯をしたくなった。

なので――――

 

「あ、もしかしたら近い内に、新しいフネに変わるかも知んないッスけどね」

「今なんて・・・艦長!?」

 

はっは!さらばだアケチ君!

 

呆けた様な顔をしたサナダさんを見た俺は満足する。

そして、その場にサナダさんを放置して、彼の前から走って消えた。

 

……………………

 

………………

 

…………

 

艦長の仕事を終えた俺。(最近はアバリスが手伝ってくれるので終わるのが速い)

航路に乗ったので、レーダーでの監視レベルを上げて置く事を指示し、ブリッジを後にした。

 

特にやる事が無くても、ぶらぶらと散歩してクルーの様子を見るのも艦長のお仕事である!

・・・と言う風に、理論武装を施し、只単に遊んでいたりする。

 

ちなみに、俺のフネは1000m以上ある戦艦である。

その為、艦内では通路の殆どが稼働式の動く歩道みたくなっていたりする。

未来少年コ○ン(古いなオイ)のイン○ストリアにある動く歩道と同じようなモンだ。

 

もしくは宇宙戦艦○マトの通路かな?

この動く歩道、フネを隅々まで見て回る時に、結構便利である。

やっぱね・・自分の足で歩くとなると、総踏破距離がトンでも無い事になるんだわ。

 

 

「ふ~む、今日はどこに行こうかな?」

 

 

また食堂にでも行ってチェルシーをお喋りでもするか?

でもあんまし彼女のとこに入り浸ると、周囲の誤解がまたものすごい事になりそうだしなぁ。

かと言って、放置するわけにもいかないしなぁ。あの子一応妹だしさ。

 

「おや艦長、道の真ん中で立ち止まってどうしましたかな?」

 

俺がこれからの行動に頭を抱えていると、誰からか声をかけられた。

 

「ム?このどこか人を安心させる御老体の声は・・・機関長ッス!」

「はは、安心させる声ですかな?まぁ長年に生きた年の功と言うヤツですわい」

 

見れば機関長のトクガワさんが、長距離移動用カートに乗ったまま、俺を見上げている。

このトクガワさんは、ロウズで乗り込んだクルーの一人で、ブリッジクルー最年長である。

ロウズでは生き字引と呼ばれ、凄いベテラン機関長で通っていた人だ。

 

何気にこのヒトには逸話が多く、曰く戦艦に乗っていたとか、

星間戦争で英雄の乗るフネの機関長であったとか言う噂もある。

 

何でそんなすごい人が、ウチのフネに乗っているか?

まぁデラコンダの所為で、フネに乗れなくなったって言う簡単な理由だ。

だが何よりも、このヒトの話は為になる事が多いので、他の人からも信頼されている人である。

 

「しかし本当に艦長は何故ここに?この先には機関室しかありませんぞ?」

「いや、やる事が無いのでフラフラしていただけッスよ」

 

機械技術の進歩の盲点ってヤツだ。

艦長がちょーヒマになる。

 

「まぁ、艦長がヒマなのはいい事ですわい」

「そうスかねぇ?」

「そうですとも、艦長がヒマと言う事は、艦内に異常が無いって事ですからな」

 

なるほど、一理ある。艦長の仕事は戦闘指揮もあるからな。

あと船内におけるゴタゴタの解決だとか、裁判官の真似ごとだとか色々と・・・。

 

「ヒマでしたら、機関室でもご覧になりますかな?」

「(そう言えば機関室はまだ自分の目では見て無いッスね・・・)見学しても良いんスか?」

「構いませんとも、艦長はこのフネの責任者ですぞ?何を遠慮なさる事があるんですかな?」

 

そりゃそうだ。

 

「それじゃ、見学させてもらうッス!」

「わかりました。それでは参りましょうか?カートに乗って下さい」

 

俺はトクガワさんの隣に乗り、機関室に案内して貰う事にした。

 

……………………

 

………………

 

…………

 

「ココがフネの心臓部である機関室です」

「ココが・・・ッスか?」

 

カートに揺られ、しばらくして機関室にやって来た。

目の前に広がるのは、オレンジ色の室内灯に照らされた強大なエンジン・・・・。

 

 

 

等では無く―――――

 

 

 

「案外あっさりしたインテリア何スね?」

「艦長がどういったのを想像したかは解らんですが、大体機関室はこざっぱりしとるんですわ」

 

普通にモニターが置いてある部屋だった。

配管とか配線がある訳でもなく、オレンジ色の明かりがある訳でも無い。

言われなければ、ココが機関室とは解らない様な部屋だった。

 

「もうちょっとこう、“フライホイール”的なモノを想像してたんスけどね」

「はっは、そういった部品をむき出しにしていたのは、30世代は前ですわい」

 

げ、そんなに前なのか?

 

「現在の機関は殆どがモジュール化しておりますからな。無駄なスペースが殆ど省かれた所為で、そういったのは全部壁の向こう側ですわい」

 

そう言って、コンコンと壁を叩いて見せるトクガワ機関長。

 

「故障した場合はどうするんスか?」

「機関室専用のマイクロドロイドがおります。ソレらが機関室の整備点検、修理を行っとるんです。実質この部屋は、ソレらドロイドの監視や監督を行う部屋でもあります。もっとも、ブリッジの機関長席で操作可能ですがな」

 

ほへぇー、自動化の波がこんな所にまで・・・。

まぁそりゃそうだよな、現実世界のロケットだって、機関部には入れない訳だし。

 

「しかし、最新型のインフラトン・インヴァーダーは凄いですな」

「そうなんスか?」

 

機関長は、壁のメンテナンスパネルを外して、中を見ながらそう漏らす。

確かランキングが上がったから、ラッツィオで新しい機関部と変えたんだっけ?

 

「それはもう・・この規模で同サイズのエンジンより、40%ほど出力が向上しとります」

「・・・それはスゲェッスね」

 

わぁお、あのエンジンそんなに出力があったんだ。

入れ替える時全然説明見てなかったぞ。

 

「でも、そんな最新鋭のエンジンですら、己の手足のように扱えるトクガワさんは凄いッスね」

「はは、長い事機関長を務めた年長者の勘ってヤツですわい。他の人間でも、頑張れば出来るでしょうよ」

 

いやいや、ご謙遜を・・・。

 

「それでも、そのレベルに到達するのが、凄いんスよ。大抵はそこそこで満足しちゃうッスから」

「はは、そこまで褒められるのは、なんとも恥ずかしいものですなぁ」

「正当な評価を正当に褒めるのは、悪い事じゃ無いッス」

「ふむ、一理ありますな」

 

コロコロとした笑みを湛えつつ、髭を撫でるトクガワさん。

ああ、いいなぁ。コレだよコレ。長い年月を生きた人間だけが出せる悟りオーラ。

こういうオーラ出せる人って、集団の中だと本当に貴重だわ。

 

なんて言うかドシンとした安定感?ついつい喋りたくなっちゃう感じ。

お父さんというかおじいちゃんってゆうタイプかなぁ・・・。

 

「どうかされましたかな?艦長」

「ほへ?・・・あ、いや何でもないッス」

 

あぶねぇ、少しばかりトリップしちまってたぜい☆

 

「そう言えば機関長は、何で機関室に来たんスか?

確かブリッジの機関長席でも、ココの操作って出来るッスよね?」

 

俺がそう聞くと、やわらかい笑みを浮かべながら、トクガワさんはコンソールに詰め寄った。

でも、なんかその笑みは、少しだけ後悔の念が混じっているように見える。

 

「確かに、機関長席でも操作は可能ですじゃ。しかし、機関の調子を知る為には、偶にこうして、機関室に赴き、エンジンの音や振動に異常が無いか調べる必要もあるんですな。機械だよりだと思わぬ事態を招く事もあり得ますからな」

「・・・」

「ワシはとあるフネの機関長をしておりました。当時のワシは、機関の調子を見るというのは、全部機械に任せておった」

 

トクガワ機関長は、此方に背を向けながら昔話を語り始めた。

やべぇ、ものすごく絵になってやがる・・・とか考えつつ、俺は話を黙って聞く事にする。

 

「当時のワシは機械を信用しておったのです。そして信用するあまり慢心を招いたのか、自ら見て回る事を怠った。その結果、ある日フネのエンジンが止まってしまう事件が起きました」

「・・え?」

 

おいおい、ソレは怖いぞ?エンジンが止まるって事は宇宙を漂流するって事じゃないか。

 

「ワシは驚いた。自分が信用している機械が何故突然止まったのかと言う事に・・・。そして機関長席から自分が信用している機械達に指示を飛ばし、原因を突き止めようと頑張った。だが結局、原因が付きとめる事が出来ない。その内にフネの予備電源も落ち、完璧に漂流する事になった。その後は本当に地獄じゃった。薄くなる酸素、水も使えない。艦内の移動も満足に出来ない。最終的には、電源が完璧に落ちる前に発信しておいた救難信号を受けて来た救助艇のお陰で、全員助かったモノの、救助が来る2時間。ワシらは地獄を見た」

 

予備電源が落ちたら、オキシジェン・ジェネレーター(酸素生成機)が使えなくなる。

そうなったら最後、待っている結末は窒息死だ。・・・・うわぁ怖。

 

「それからですな。機械の調子を自分の目で見る様になったのは・・・信用するのも信頼するのも結構、だが忘れてはならんのは、己が確かめてもいないのを信頼信用する事は、愚か者のする事という事・・・ただそれだけの話ですわい」

「怖いッスね。漆黒の宇宙で、エンジン停止だなんて・・・」

「大丈夫じゃ艦長。ワシが生きておる間、フネの機関が止まる事なんぞ無い。させませんとも・・」

「機関長・・・」

 

なんか・・・教訓になる話を聞いたような気がするぜ。

 

「・・・ほっほ、少しばかりしんみりしてしまいましたな?」

「いいや、教訓になったスよ。己から確かめるって事は大切なこと何スね?」

「はてさて・・それは艦長次第ですかな」

 

ヤベぇ、ヤベぇよトクガワさん。あんたマジでなんか悟ってるんじゃね?

 

「そう言えばさっきの話で、エンジンが止まった原因って、結局何だったんスか?」

「なに、非常に些細な事でしてな?そこにある配電盤と同じモノがショートしただけで、自分で見に来ればすぐに解った故障だったんですな。コレが」

「・・・やっぱり点検って大事ッスね」

「全く持ってその通りですわい」

 

日ごろお世話になっているフネの点検は、キチンと行うという教訓でした。

 

「さて、異常も無いのでワシはそろそろ戻りますかな。艦長はこの後どうなさる?」

「う~ん、そうッスねぇ~?チェルシーのところにでも行ってるッス」

「はは、仲が良いのは良き事ですな?」

「そりゃ自分は彼女の兄ッスから、仲いいのは当然ッス!」

「・・・・まぁ、馬には蹴られたくは無いので、なんにも言いませんわい」

 

おい、ソレはどういう意味ッスか?小一時間ほど問い詰め(ry

 

「それでは、失礼します」

「あ、ちょっ!トクガワ機関長!?」

 

ほっほと笑いながら機関室を出て行ってしまった。

ああ、またあらぬ誤解が発生しているのね。オイラ涙目・・・。

 

 

***

 

 

「どうスか?エコーさん・・・」

「・・・・・大丈夫~。空間ソナーにもレーダーにも反応はないわ~。」

 

ふぅ、どうやら無事に抜けられたみたいだな。

 

「しっかしよく気が付いたッスねぇ?エコーさん」

「えへへ、私だってぇー偶には凄いのだ~!」

 

何があったか?どうやら敵さん航路にて待ち伏せをまたしてくれようとしてたらしい。

だけど今回は先にこっちが気が付いたので、迂回路を通る事が出来たってわけさ。

 

「そうッスねぇ。正確にはセンサー類を強化してくれたサナダさんのお陰ッスけど」

「・・・あがー」

 

褒めて落す!コレ艦長の特権也!・・・なんちゃって。

 

「じゃれあいも良いがユーリ、もうすぐラッツィオ軍基地に付くぞ?」

「・・・・はぁ、またあの中佐とご対面ッスか?」

「仕事だと割り切りな。あんたは艦長なんだからね」

「何か前にも似た様な事聞いたからデジャブ~ッス」

「だから、コンソールの上で垂れるな!」

 

ダリの絵みたくとろけて見た。キモイ!

 

***

 

―――現在位置・ラッツィオ軍基地士官宿舎

 

「待っていたよユーリ君」

「どうも、ご無沙汰です中佐・・・さっそくですけどコレどうぞ」

 

俺はデータチップをオムス中佐に手渡した。

どうでもいいが、とっととおさらばしたいぜ。

場所が場所だから、 0Gの俺は目立つんだよなぁ。

 

「ふむ、確かに受け取った。約束の金はコレだ」

「はぁ、どうも・・・」

 

マネーカードを受け取り、士官宿舎から出ようと踵を返した途端。

 

「ああ、待ちたまえ。実はまた仕事を頼みたいのだが?」

「・・・・・何でしょうか?中佐殿」

 

どうやら俺達をとことん使おうというハラらしい。

 

「実はな?この付近を縄張りにしている海賊団の討伐に、君達も参加してほしいのだ」

「・・・・我々を危険な場所に送り込む気ですか?」

「いや、そう言う訳ではない。ただ単に戦力が不足しているだけだ」

 

そう言うと、中佐は空間パネルを開いて見せる。

そこにはなんかのグラフやら数字が・・・・。

 

「・・・・これは?」

「簡単に言うと、今まで観測された海賊団と我々との単純な戦力比というヤツだ」

「僅差ですけど、海賊団の方が高いですね?・・・・つまりはそう言う事ですか」

 

性能は高めだが数が少ない中央派遣軍。性能は全体的に低めだが、数が多い海賊団。

様は少しでもこっちで頭数をそろえたいというところだろう。

 

「頼めるか?」

「・・・・仲間と相談してから決めたいので、少し時間をください」

「ああ、構わない。どちらにしろデータチップの解析が終わってからでないと出撃できん」

「わかりました。・・・それでは」

 

 

俺はこの場を後にした。

 

 

***

 

外に出て、待たされていた皆と合流。

とりあえずオムスの話が話しな為、ブリッジクルー+αを呼んで、会議と相成った。

 

「会議場所は、0Gドック御用達の酒場です」

「どうしたのユーリ?」

「ああいや、なんかこうしないとダメって言う電波が・・・・」

「そんなことより、オムスに何言われたのかさっさと話しな」

 

話の続きを促すトスカ姐さん。

とりあえず、中佐と話した内容をココでばらした。

カクカクシカジカ四角いなんちゃらってな感じ。

 

以下、各々の反応―――――

 

副長 トスカ   「これまた面倒臭い事になりそうだねぇ」

オペ子ミドリ   「艦長の判断に任せます・・・・」

操舵班リーフ   「俺は金と飯と寝る場所さえあれば何にも言わん」

機関室トクガワ  「ココは慎重に考えた方がいいじゃろう」

生活班アコー   「軍に使われてるねぇ」

レーダー班エコー 「アコー姉ぇの~言う事に賛成~」

砲雷班ストール  「海賊相手なら撃ち損じることはねぇな」

科学班サナダ   「性能差ではこちらが勝ってはいるが、数の暴力と言うものは侮れん」

保安部トーロ   「・・・・よくわからん」

チェルシー    「出来れば荒事はやめた方が・・・」

 

――――だそうで、もろ手を挙げて反対もいなければ賛成もいない。

いやどちらかと言えば反対よりなのかな?あんまりいい顔は皆してないしね。

 

この後およそ3時間、酒場に居座って協議を取り行った。

34時間営業(この星の一日の自転周期は34時間)の酒場とはいえ、流石に従業員にジト目で見られた。

く、悔しい・・でも感じちゃう・・訳が無い。

 

 

「・・・・と言うか、何故こんなことで悩んでるッス?」

 

 

考えて見れば、こちとら状況がヤバくなったらすぐさま逃げられる立場なのだ。

しかも行き先は海賊の本拠地、お宝の一つや二つ位有るだろう。

そう考えたら、上手くすれば儲かるし、例え逃げる事になっても前金とか逃げても金は貰えるとかにしておけば・・・・。

 

「―――――と言うのはどうだろう?」

「「「「「「意義な~し」」」」」」

「うんうん、最初の子坊の時に比べたら随分たくましくなったねぇ。コレもアタシの教育の成果か」

「・・・・時折腹黒いよな、ユーリって」

「ユーリ、変わったね。色んな意味で・・・・」

 

若干名、酷い事言われた気がするが、とりあえず条件付きでの海賊討伐に参加と相成った。

オムス中佐とその他にこの事を話すと少しばかり苦い顔をされたが、了承はして貰えた。よし!

 

 

―――――そう言う訳で、海賊討伐及び海賊島制圧作戦が始動する運びとなった。

 

 

準備に時間が掛かる為、我々もその間に装備を整えるという名目で、武器を購入したりした。

そして俺は、一応の保険の為に造船ドックに赴いて、“アレ”の作成を開始していた。

 

出来る事ならば、使わずに済めば一番なんだけどねぇ。

コレ皆には秘密裏にやっているからな。次は俺が“こんな事もあろうかとぉ!”を言うのだぁ!

お金だけは妙に集まったから、お金のある内に作っちまおうというのもあるんだけどね。

 

***

 

 

一週間後――――――。

 

 

準備は終わり、いよいよ海賊討伐作戦が開始された。

エルメッツァ中央政府軍は菱形陣形をとり、俺達はソレの横にポツンと居たりする。

 

事前に決定されたのは、我々は数が少ない為、敵が待ち構えている防衛線を迂回し、

敵の背後から急襲を仕掛けるアンブレラルートを通る事だった。

 

単艦でしかも高性能艦故の策だと言える。

最悪逃げても良いし、俺達は気楽な雰囲気で臨むことにした。

 

 

 

・・・・・筈だったんだけど。

 

 

 

「エコーさん、マジッスか?」

「うん~マジ~。この先の小惑星帯の中に多数のインフラトン機関の反応を検知したわ~」

「恐らくこちらの情報が漏れてたんだろうねぇ。軍の中に海賊のスパイでもいたんじゃないか?」

 

どうやらこのルートを通ることは予めバレていたらしい。

こちらとしても回避したいのだが、今から迂回しようとしても意味が無い。

どう動かそうが減速が足りず、針路上小惑星帯を突っ切る形になってしまうからである。

 

「ココは下手に回避するよりも、全速で突っ切ってしまった方が被害が少ないだろう」

「・・・・全く、逃げられない上にアンラッキーッスね」

「大丈夫だ。このフネの装備はこの間一新させてもらったから、そう簡単には落ちないさ」

「科学班の腕、信頼してるッス」

 

面倒臭い事になりそうだなぁ。

・・・・出来ればまだお披露目はしたくなかったけど。

 

「アバリス」

【はい、艦長】

「コード881でエルメッツァ軍基地ステーションに送信しといてくれッス」

【了解しました】

 

コレで最悪撃沈は回避できるだろう。

 

「何を企んでるんだい?」

「なに、ちょっとした援軍を頼んだんですよ」

 

問題はアレが到着するまで、持ちこたえられればだけど・・・・。

 

……………………

 

………………

 

…………

 

 

「各区画、エアロック閉鎖!」

「散布界パターン入力主砲及び副砲、1番から4番まで全力斉射開始!」 

 

射程が長いこちらから、先に砲撃を行う。

小惑星帯にある隕石をものともせずに、高出力レーザーと陽電子砲が貫いていった。

ちなみに陽電子砲は整備班の連中が勝手に挿げ替えたものである。

 

「インフラトン反応の拡散を感知」

【計測中・・・・敵巡洋艦1隻、駆逐艦3隻を撃沈】

 

驚いた敵は、まるでネズミのようにワラワラと小惑星帯から飛び出してくる。

おお、スゲェ数。流石海賊の本拠地だわ。こりゃ突っ切るのはムズかしいぞ?

とりあえず、砲撃で数をヘラさねェとな。

 

【敵艦、対艦ミサイル発射、弾数30、着弾まで約50秒】

「緊急回避実行!デフレクター出力最大ッス!」

「アイサー、コンデンサーからエネルギーを回します」

 

敵からのミサイル攻撃に回避機動を取るモノの、こちとら1000m級戦艦。

連中の巡洋艦や駆逐艦からしてみれば、相当当てやすい目標であろう。

鈍亀じゃないが、それでもこれ程の大きなフネを動かすのは容易では無い。

 

「ミサイル、扇形に発射されました!必中弾は16!急速接近!」

「アバリスはミサイルの予想進路を!リーフはそれを見ながら回避運動ッス!」

【了解】「アイサー!」

 

ミサイルはレーザー等のエネルギー系兵装より遅いので、回避する事は出来る。

だが、当たってしまえばその威力はかなり大きい。場合によっては反物質弾もあるくらいだ。

通常はそれに対する防御は、自艦の装甲板が頼りとなってしまうのである。

 

しかもミサイルにはAPFシールドが通用しない。

アレはエネルギー系の波長に合わせた防御フィールドを幾重にも張ることで防御する装置。

したがって物理的な手段には対応できないので、大抵は回避が優先になる。

 

「デフレクター、出力最大!」

 

だがそれを回避する手段はある。それはデフレクター、空間を強力な重力場によって歪ませ、

ある種の壁を形成する事により、あらゆる物理的な手段を軽減させる事が出来る。

重力井戸の技術から派生した防御システムである。

 

【ミサイル、デフレクターの効果範囲まであと20秒】

『総員、耐ショック防御、何かにつかまって下さい』

 

オペレーターがアナウンスを艦内に流す。

戦術モニターには、ミサイルを表すグリッドが、アバリス目がけて殺到していくのが見て取れた。

 

「ゴク」

 

思わず生唾を飲み込んだ次の瞬間!

≪バガァァァァーーーンッッッ!!≫

 

大きな爆発。すぐにフネを揺らす程の衝撃波が、アバリス全体に襲い掛かった。

たまらずにコンソールにしがみついちまうくらいの衝撃だ!

 

「ぐぅ・・・報告!」

「デフレクター出力、80%まで低下」

『こちらダメコン室、艦内は異常無しだ!』

【装甲板にも傷ひとつありません】

「約4名、頭を打って医務室に運ばれました」

 

こちらの損害は軽微、だが衝撃波だけでも中の人間にとっては致命的になる事もある。

 

「アバリス!艦内の余剰区画閉鎖!その分のエネルギーを兵装に回すッス!」

【了解】

「ストール!回したエネルギーで、各砲迎撃!ガトリングキャノンも使用を許可するッス!」

「アイサー!腕が鳴るぜい!ポチっとな!!」

 

大中小の各種高出力レーザー砲、両舷のリフレクションレーザーカノン、

そして何時の間にか外装が付いてしまったガトリングキャノンが散布界広めで発射される。

単艦だが強力な火力、それによる弾幕は艦隊相手に引けを取らない。

 

「エネルギーブレット、敵1番から5番艦に命中、全大破!」

「次弾チャージが終わるまで、回避機動を崩すな!止まれば穴だらけだぞ!」

「敵残存艦、ミサイルを発射・・・!?敵増援を確認!数は10!!」

「クソ、キリが無さそうッスね!敵がこちらを射程に収める前に沈めるッス!」

「アイサー、両舷リフレクションカノンの照準は増援に向ける」

 

なんか馬鹿に敵艦が多いような気がする。

もしかして俺達がこっちに廻る事もばれていた?

だとしたら・・・・一杯来るわなぁ・・・恨まれてそうだモン。

 

「ガトリングキャノンのエネルギーがチャージし終わるまで、各砲独自に応戦せよ!」

「砲雷班アイサー!」

 

こちらの性能は高いが、数の暴力相手は酷いと思う。

この後も迎撃を続けるがあまりに数が多過ぎて、決定打にかけてしまう。

 

 

 

 

――――そして戦闘開始から3時間あまりが過ぎ、クルー達に若干の疲れが見え始めていた。

 

 

 

 

 

『各クルーは第3班と交代してください。繰り返します――――』

 

次の敵の増援が来るまでは約1時間程だろう。

子の時間を利用して艦内アナウンスで今まで戦闘をしていたクルー達を交代させる。

 

マンパワーが低下すれば、その分戦力も落ちてしまう。

彼らにはしばらくタンクベッドに入って休憩しておいて貰おう。

まだまだ戦闘は長引きそうである。

 

「ユーリ、敵が来るまで少しある。今の内に休んでおきな」

「・・・・了解、ココは任せるッス」

「ああ、まかされたよ」

 

とか言う俺も、トスカさんに指揮を任せて少しばかり休ませてもらう。

まさかこれほどまで長丁場になるとは予想だにせんかった。

中央政府軍の奴ら、海賊の戦力を侮っていたのかな?

 

「ミドリさん、政府軍の戦況は?」

「少し待ってください・・・・どうやらこう着状態みたいですね」

「ふむ、こちらとおんなじッスか」

 

どうやら予想外に海賊たちは奮戦しているようだ。

政府軍と互角に戦っている。こうなると不利なのは――――

 

「数が少ない分、政府軍の連中の方が不利だねぇ」

「やっぱりトスカさんもそう思うッスか?」

「ああ、全体的に戦力が同じなら、数が少ない方が持久力が無いのは明白だからね」

 

こちらも後一隻分の戦艦があれば、子のこう着状態を打破できる。

だが、そんなフネを持っているヤツはウチを除いてはこの宙域には存在しないだろう。

・・・・・大海賊ヴァランタインなら知らんけどね。まぁ助けにはこないだろう。

 

「――――じゃ、長丁場になりそうッスから、俺すこし休むッス」

「ああ、よ~く寝な。その間に終わらせちまうからさ」

「いいッスねぇ、それじゃトスカさんお願いします」

「ああ任せな」

 

俺はフラフラしながら艦長席を立つ。

トスカさんからの軽いジョークに返事をしてブリッジを出ようとしたその瞬間―――――

 

「敵増援、第4波確認!」

「・・・・どうやら、おちおちと寝かせてもらえない見たいッスね」

 

ゲームよか多過ぎでしょう?何この叩いても叩いても湧いてくる感じ?

雲蚊の如く大軍って事ですかい?

 

「・・・・アバリス」

【はい、艦長】

「アレは・・・・まだ?」

【もうこの宙域に入りましたので、後少しで到着するかと】

 

よし、それなら勝てる。

 

俺はある事をアバリスに確認し、コンソールのある艦長席に舞い戻る。

ガトリングキャノンは現在冷却中だから、元の兵装達で勝負するしかないな。

 

「各砲門開け!迎撃準備!リフレクションレーザー発射・・・・」

「後方よりアンノウン反応~!1000m級です~!!」

 

エコーの焦った声がブリッジ内に木霊する。

突如現れた1000m級、周り中敵だらけの今の状況だ。

敵であってもおかしくは無い。

 

「くっ!海賊どもがそんな艦を持っているなんて聞いて無い!」

「政府の奴ら・・・・まさか情報を小出しに?」

 

途端ブリッジクルーの間に動揺が走る。コレはまずい。

 

「落ち着くッス!ブリッジはフネの頭、ここが動揺したらフネが機能しないッス!」

「だ、だがよぅ!」

「アンノウン、インフラトン反応上昇中!砲撃を行うようです!!」

「「「な、なんだってー!!」」」

 

余計に混乱するクルー達、あーもう。

 

「アンノウンからエネルギーブレッドがは発射されました!!」

「い、いかん!デフレクター嫌さAPFSを!!」

「それよりもかいひ~!!」

「だいこんらんです!だいこんらんです!」

「リ、リーフが壊れたぁぁ!!」

 

うわ、もう目も当てらんない位のカオスっぷりだわさ。

 

「な、何でユーリはそんなに落ち着いているんだい?」

 

トスカ姐さんも若干混乱しているようだ。

いや、だってねぇ?

 

「だってアレ、敵じゃないし」

「「「「・・・・はぁ!?」」」」

 

 

 

ざ・わーるど☆そして時は動き出す!

 

 

 

【エネルギーブレッド、本艦右舷を通過して敵艦隊に向かいます】

「え?本当に敵じゃ無い?え?え?」

「どうなってんの?馬鹿なの?死ぬの?」

「艦長・・・・説明をお願いしてもらってもいいか?」

「・・・・やぁバーボンハウスにようこそ、このテキーラはサービスだから落ちついて欲しい」

 

 

つまりはそう――――またなんだ。

 

 

「ユーリ!また秘密裏に戦艦作ったね?!」

「いえすおふこーす。こんな事もあろうかと、増援作っておきました!」

 

言ってやった。こんな事もあろうかとを!

いや、艦長が言うべきセリフでは無いのは解りますから、そんな冷たい目で見んといて・・・。

 

「ま、とりあえず状況を打破する為にやっちゃおう?ね、ね?」

「・・・・ユーリ、後で折檻な?」

 

なして!?とか思いつつも、俺は指示を下す。

 

「アバリス!ズィガーゴ級新造艦ユピテルと共に挟撃を開始!操作は任せる」

【了解しました】

 

こうして、俺達は新造艦との共闘で戦闘を有利に進め、防衛線を突破する事が出来た。

ちなみに新造艦だけど秘密裏に作ってたので、乗組員は乗っておらず現在ユピテルは無人艦。

操作は全部アバリスに頼んでいたのでした。

 

ご都合主義?上等じゃねぇか。

こんくらいしねぇと相手が多すぎたんだよ!!

とりあえず、一気に戦力が上がったので、俺は休憩させてもらう事にした。

 

 

***

 

目が覚めたら本拠地でした。え?何コレ?

 

「お、目が覚めたのかい?」

「というか、何故にもう最終局面?」

 

どうやら予想外に俺が秘密裏に作ったフネは強かったらしい。

無人艦だからってデフレクターとAPFSに頼って吶喊させたら敵総崩れ。

残敵わずか、撃ち放題でウマウマだったんだそうな。

 

まぁ0Gドックランキング10位に入ってるヤツだからソレもそうか。

で、同じ様にして、政府軍の連中とやり合ってたやつらを背後から強襲。

同じくウマウマな状況になり、現在に至るっと。

 

「なんというゴリ押し。だがそれが良い」

「なんか言ったかいユーリ?まぁいいけどとりあえずスークリフブレード装備しな」

「え、なして?」

 

あれ?そう言えばあの剣どこに置いといたっけ?

 

「なしてって、あんたも下に降りて白兵戦するんだよ」

「げぇマジッスか?」

「そう言うこった。さぁとっとと準備しな!」

 

艦長だけに俺が行くことは確定しているようである。

うわぁ、めんどくさい~とか考えつつも自室に向かった。

 

 

 

***

 

 

軌道ステーションの敵は、お世辞にも強いとはいえなかった。

一斉射撃の後、保安員達の突撃によりガタガタにされ、すぐに殲滅されてしまった。

もっともトーロの動きが一番凄かったりする。重力5倍で鍛えたのは伊達じゃ無かったらしい。

何気に銃撃とか避けてたし、お前はどこの侍マスターだ?流星の剣でも持ってるんかい?

 

「バズーカ!バズーカ!グレネードも持ってけ!!」

「「「うわぁぁぁぁぁ!!」」」

 

俺は俺で武器庫から適当に持ちだし撃ちまくっている。

ちなみに弾頭はトリ餅弾、スプラッタは嫌ズラ。

 

ブラスターもパラライズモードとかいう非殺傷モードがあるんだけど・・・。

俺はロマンを優先したぜ!バズーカは漢のロマンです。

 

「ふははは!この世の春が来たぁぁぁ!!」

 

そんな訳で、海賊をある時は吹き飛ばし、ある時は地面に貼り付けて奥へ奥へと向かっていく。

当然忘れてはならない事を、俺は別動隊に指示しておいた。それは――――

 

『艦長!ありましたぜ!お宝の山だ!』

「デカしたッス!ルーイン!!」

 

海賊の本拠地にあるお宝の奪取、戦利品扱いだから文句は言わせません。

AIドロイドも総動員して、人海戦術で運ばせておくよう指示を出した。

 

ちなみにお宝と言っても金銀財宝などでは無く、大抵がレアメタルなどの鉱石だ。

報告の中には、軍の試作パーツとかも含まれてるっぽいから、サナダさん辺りが狂喜乱舞だろう。

おそらくケセイヤさんも一緒になって騒ぐに違いない。

 

そんである程度占領出来たんだけど、敵さんの武器庫近辺で反撃が強いらしい。

敵の司令官がいる所は恐らく武器庫を越えた先にあるから、どうしてもここを通過せにゃならん。

何かブチ壊しに良いのねぇかなぁ?と探していると俺はとてもいいモノを見つけてしまった。

 

「ウホ、いい軽装甲車♪」

 

どうやら海賊たちの戦利品として倉庫区画にあったヤツらしい。

ちなみに倉庫区画は武器庫のすぐ隣だ。

 

「爆弾しかけてアクセル全力全開!!」

 

いやぁオートクルーズは便利です。

そう言う訳で、軽装甲車を武器庫目指して走らせた。

 

軽装甲車は敵に撃たれて炎を拭きながらも前進していく。

敵さんも慌てて武器庫から対戦車装備を持ちだしたが、時既に遅く武器庫の中に突入!

 

そして乗せといた爆弾が爆発し武器庫ごと吹き飛ばしてしまったのであった。

海賊が何人か巻き込まれて吹き飛ばされてたけど、気が付かない事にした。

 

「よくやった、軽装甲車。お前の事は3秒は忘れない・・・」

「バカやってないでいくよユーリ」

「・・・・最近突っ込みが来なくなった。俺は寂しいッス」

「ふっ、一々突っ込み入れたら疲れるからねぇ。放っておくのが一番さ」

「対処法を学習された!?」

 

どうやらトスカ姐さんは俺の想像以上に成長を遂げた様です。

俺を置いて先に行ってしまった。アグレッシブな人だねホント。

こんな感じで重要そうな所は爆破し、貴重品は猫ババして、俺達は奥に向かっていた。

 

尚、中央政府軍の連中は連中で敵の動力部の制圧に向かっていた。

何気にこの本拠地は人工衛星というかコロニーみたいなもんだ。

追い詰めた海賊が自棄になって自爆とかされたらかなわないからね。

 

そんな訳で、戦闘はウチのフネの連中に任せて、俺は遊撃って事で結構好き勝手やっていた。

ここの海賊団何気に趣味が良いらしく、強奪品の中にビンテージのお酒とかが入ってた。

当然頂く、戦利品♪戦利品♪お前の物は俺の物、俺の物は俺の物。ジャイアニズム万歳。

 

『ユーリ!こちらトーロ!敵の親玉を発見したぜ!』

 

――――っと、どうやら敵の親玉の位置を特定出来たようだ。

戦利品集めを一度中断させないといけないらしい。

俺はトーロに了解と言って、敵の親玉の元に向かった。

 

………………

 

…………

 

……

 

他の皆と合流した俺は、海賊団の親玉の居る部屋の前に来ていた。

なんかみんなで入り込もうとしてるけど、俺はそれに待ったをかける。

入った途端撃たれたらかなわんし、ココはセオリーに従って無力化してからにしないかと。

 

どうやら戦闘で気が高ぶっていた様で、少し落ち着いたみんなは了承してくれた。

そんな訳で俺はケセイヤさん特製、閃光音響手擢弾(非殺傷はーと)を取り出し、

ちょっとだけ開けたドアの隙間から10個程投げ入れた。

 

そして扉を閉める!俺は耳を塞ぎ口を開けた。その途端大きな破裂音が鳴り響く。

爆発した10発の大音響が消えた所を見計らい、俺はそうっと扉を開けて見た。

閃光音響手擢弾の所為で、若干煙が出て見にくいが、どうやら無力化に成功したようだ。

 

ボスの居たココは、それ程広い部屋では無かったらしい。

逃げ場も殆ど無く、そんなところに音響弾・・・・うわぁ死ねるわ。

まぁそんな訳で、気絶した馬鹿をこちらは無傷で捕獲出来た。

 

・・・・序でにルードで出会った軍人さんも回収しておいた。何でこんなとこにおるんやろ?

なんかイベントを一つクラッシャーしちゃった様な気もするけど、まぁ良いか。

ローリスクハイリターンが一番いいよね!こっちは戦利品でウマウマだし!

 

 

そんな訳で後処理は政府軍に任せて、俺達は戦利品と共に海賊の本拠地を後にした。

 

 

***

 

今回の闘いでは、戦利品だけでもウマウマだが、軍からの報酬も頂かんといけない。

新造艦ユピテルを導入したは良いけど、お陰で戦利品の利益入れてもプラマイ0なんだよね。

なの、一応頑張った手前、貰える物は頂いておかないと勿体無いってワケ。

 

 

そんな訳でラッツィオ軍基地に来たんだが―――――

 

「はぁ?報酬は払えない?」

「ソレは正確では無いな。君たちに見合う報酬がココでは用意できないのだ」

 

まぁ、ココは辺境の基地みたいなもんですから、あんまりいいモノは無いでしょうな。

 

「そう言う訳で、一度エルメッツァ中央にあるツィーズロンドに来てほしい。そこで報酬を渡そう」

「はぁ、了解です」

 

どうやらお隣の宇宙島へいかなければならない様だ。

まぁ次の目的地はエルメッツァ中央だったから、丁度良いっちゃ丁度良い。

どちらにしろ、しばらくこの宇宙島で狩りは出来なさそうだしな。

 

「まぁ後、私個人から頑張ってくれた君へと報酬を渡しておこう」

「いや、頑張ったのはクルーです・・・・何故近寄って来るんです?」

「ふむ、確かに優秀なクルー達のお陰でもある。だがそれを指揮した君も素晴らしい」

 

な、なぜゆっくり近づいてくる!!ま、まさか!!

 

「い、いや報酬は後でツィーズロンドで・・・!」

「遠慮する必要はない!さぁ受け取りたまえ」

 

 

 

そしてオムス中佐の大きな手が・・・・俺を・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・データチップ?」

 

別に何かされた訳では無く、彼の手から渡されたのは、ちいさなデータチップであった。何ぞコレ?

 

「君は若い、そして可能性がある。その可能性を引き出してもらいたいと私は思ったのでね。そのデータチップの中には艦隊指揮に付いての指南書みたいなモノが入っている」

 

・・・・・ようは、もっと勉強しろって事ッスかい?だんな。

 

「ま、まぁ良いでしょう。ありがたく受け取っておきます」

 

俺はデータチップを懐に納める。

いやはや、一瞬ナニされるかと思ったぜい。

考え違いでよかったぁ。

 

「それじゃ、次会う時はツィーズロンドで」

「ああ、また会おう」

 

こうして俺は隊舎を後にした。

 

***

 

軍基地から戻った後、俺は艦隊を編成し直すとして、旗艦をユピテルへと変更する事にした。

より強力なフネへと乗り換えるのは、当然と言える。というかそれが醍醐味だしね。

 

尚、アバリスの方は随伴艦として、ユピテルの前衛を務める事になった。

コレに戦闘には参加しないが、駆逐艦クルクスが工作艦として追随する形となった。

 

――――これに伴い、それなりに色々とやることがあった。

 

まずクルーの移動、やっぱり人手不足な我が艦隊、今回も人員の補給が間に合わなかった。

仕方が無く、アバリスは改装してCUと直結刺した無人艦として機能する運びとなった。

人間が載っていないので、運転はAIドロイド任せとなるが、しばらくはしょうがないだろう。

 

他にはAIアバリスを基盤ごとユピテルに移動させた。

コイツも今では立派なクルーの一員だし、アバリスの持つマトリクスは、

もはやコピー出来ないくらい成長を遂げていたので、基盤ごとのお引っ越しとなったのである。

 

ちなみに随伴艦となるアバリスとの混同を防ぐ為、新しい名前を艦内で募集する運びとなり、

現在審査中である。結果は後々伝えることにする。

ソレと、収容した軍人さんの引き渡し。

なんとあの基地に居たのはティータの兄のザッカスさんだったのである。

 

どうやら情報はこのヒトから漏れていたらしく。

医務室のサド先生の診察では、強力な麻薬とナノマシンで操られていたとの事。

このフネでは治療は出来ないので、軍の方で治療して貰う為引き渡したのであった。

 

そんな訳で、現在我がユピテルはステーションで足止め中。

しかも本拠地で手に入れた軍の試作パーツの所為で、ウチのマッド2名が燃え上がっており、

フネの改造を行っちゃってくれているので、出港には更に時間がかかると思われる。

 

一体どんな風に改造するんだろうか?

・・・・まさか、某異星人の技術を利用したフネみたく、ロボットに変形とかは無いよな?

いや、アレもロマンですけど、今のフネだとちょっとキツイからなぁ。

 

まぁそんなこんなで、みんなが頑張る中、書類の決算以外やることが無い俺。

なので今日もまた、新しくなった旗艦の中を散歩しているのであった。

 

 

 

――――別に新しくなったから迷った訳ではないと述べておく。艦長の威厳の為に

 

 

***

 

スカーバレル海賊団を倒し、アバリスからユピテルという新造艦に乗り換えた俺達。

フネの改装も兼ねて、しばらくこの宙域に留まることとなった。

 

さて、突然だがアバリスは元々大マゼラン製の大型戦艦に分類されている。

バゼルナイツという艦種で、以前からロンディバルドの主力艦を張っている優秀艦でもある。

簡単に言えばどんな状況にも対応できる優秀な器用貧乏って訳だ。

 

そして、今回手に入れたユピテルは、元々大マゼランの海賊団が保有している艦と同型艦である。

拡張性も高く、対艦戦闘も対空戦闘もこなせる大型戦闘空母なのである。

 

 

―――さて、お気づきになった人もいると思うが、ユピテルは戦闘空母・・・本来空母なのである。

 

 

俺としては戦闘空母と聞くと、某蒼い顔をしたデスラ○総統を思い浮かべるんだが・・・。

まぁそれは置いておくとしてだ。何が言いたいのかと言うと。

ユピテルは航空母艦でもあると言う事である。まぁそんな訳で――――

 

 

「航空母艦なんだから、艦載機の一つでも欲しいよねぇ」

 

 

――――と、この間ついブリッジで漏らしたのがいけなかった。

 

***

 

「で、こうなる訳か・・・」

「ん?どうしたのユーリ?」

「ううん、何でも無いよチェルシー」

 

俺は目の前で繰り広げられ様としているイベント見る。

 

『第一回ユピテル搭載機のトライアルを開催します!』

 

――――つまりはそう言う事だ。

 

今日はフネに乗せる艦載機、ソレのトライアルが行われるのである。

場所はステーション近くの宙域で、そこの映像をステーションのホールに映して貰っている。

ステーションには事前に許可を得ているので問題は無い。

 

『今日は何と科学班班長のサナダさんが解説に来てくださっております』

『よろしく頼む』

 

・・・・何してんだあんたは。

 

『さぁ今回のトライアルでは、整備班の人達がそれぞれチームで機体を製作したらしいです』

『必要とされているのは、機能は勿論、整備性やコスト、耐久性も考慮されるだろう』

『ではそろそろ、各グループの機体の紹介をさせていただきます』

 

進行役がそう言うと、大型スクリーンに映像が映る。

・・・なんかすごく見た事ある形。

 

『幾つになっても男は子供!?夢とロマンを忘れない!最初の機体は何と人型です!!』

『人型タイプには、人間と似たような動作をさせられると言う利点がある。フネの作業機械の代わりも出来るだろう』

『そう言う訳でエントリー№1!帆歪徒・具凛兎です!』

 

スクリーンに投影されたのは、白い色が美しい上に兵器としての質感を失っていないフォルム。

―――ってAC4のホワイト・グリントまんまじゃねぇか!なんでヤンキー風!?

 

『何でも艦載機としては異例のデフレクターとAPFSを搭載した機体だとか』

『それだけでは無く、脳と機体の統合制御体と直結させる事で、恐ろしいほどの性能を得たらしい』

 

ほっ、流石にコジマ粒子は搭載していないか。

つーか、そんなんついてたら、危なっかしくてフネに乗せられんわい。

 

『―――っと、ココで新たな情報が!棄権するそうです』

 

え、なんで?本物と同性能だとするとホワイト・グリント、凄く良い機体じゃん!?

 

『どうやら神経に直接つなぐという行為が出来るパイロットがいないらしい』

『機体はあっても動かせる人間がいなければ話になりませんねぇ』

 

そういえば、そう言った事が出来る人間って大マゼランのジーマの人間くらいだっけ?

それじゃあ小マゼランのこっちで運転できる人間なんていないじゃん。

・・・というかそんな欠点、設計の段階で気付けよ!

うわぁ~意味ねぇ~・・・・おいおい待て待て、ならどうやってアソコに運んだ?

 

『では、気を取り直して!艦載機?それはやっぱりこの形!飛行機型の登場だ!』

 

どうやら帆歪徒・具凛兎は流されたらしい。

続いてスクリーンに映ったのは、オーソドックスな戦闘機の形。

どこかF/A-18ホーネットにシルエットが似ている気がする。

 

『全てにおいてオーソドックス!宇宙の虎!エントリー№2!コスモタイガーⅡの登場だ!』

『ちなみに原型はエルメッツァ中央軍が売りだしている戦闘機のビトンだ』

 

ああ、確かにカタログ上の姿と大分近い・・・か?

もはや別物というか、マジで別物の気がするんだが・・・。

と言うか、Ⅱ?ⅠはどこにいったⅠは?

 

『続いては、人型?戦闘機?ゴメンどっちも欲しかった!一機で二機分美味しい!』

 

お次は同じく飛行機型、かと思いきや・・・。

 

「あ、変形してくよユーリ!人型になっちゃった」

「う、うん。そだね」

『エントリー№3、ヴァリアブルファイター0“フェッニックス”の登場だ!』

 

ってVF-0フェニックスかよ!マクロス0の機体じゃん!!

ていうかアレ大気圏専用機だったじゃん!何で宇宙飛べるの!?

・・・まぁ原作でもエンジンさえ変えれば宇宙を飛べたらしいけど。

 

『原型はビトンのアーパーバージョンのフィオリアだ』

 

いやどう見ても、もはや別物でしょ?あれは。

 

『そしてお次はいよいよ最後のエントリーだ!』

 

たったの3機か・・・まぁそれでも良くココまで思いついたもんだ。

しかし何でもありだな。この際ガンダム出てももう驚かんぞ?

 

『小さなボディは機能美あふれる人型!エンジンが無い!?エネルギーは母艦から送信!』

 

・・・・・・・滅茶苦茶、嫌な予感。

 

『エントリー№4!お花の名前を貰いプロト・エステバリスの登場だぁぁぁ!』

『エンジンを外すと言う大胆な発想によって、コストとダウンサイズを計ったか。やるな』

 

見れば他の機体よか半分程度の大きさのロボット・・・エステバリスがそこに映っていた。

・・・・いや、コンセプトは良いけど、アレ母艦防衛にしか使えないじゃん。

 

宇宙みたいに広大な空間の中で、紐付きの護衛何ぞ意味が無いぞ?

おまけに重要なエネルギー供給の手段は?重力波のアレなんて作ったのか?

 

え、マジで作った?デフレクターの応用?マジ?

偶にスゲェな整備班。趣味もココまで行けば立派な技術だわ。

・・・・それなら重力波砲作ってほしかった。もしくは相転移砲。

 

ちなみにI(イメージ)F(フィードバック)S(システム)は付いていないそうです。

付いているのは、脳波スキャニングを利用した簡易シンクロシステムだけ・・・。

 

―――ってソレも十分に凄いんですけど!?

・・・ホワイト・グリントの連中にも貸してやればよかったのに。

 

***

 

しばらくしてトライアルが始まった。まずは戦闘機において重要な運動性のテスト。

試す方法は簡単、障害物のあるコースをレースして貰うだけだ。

ときたまアクシデントとして、隕石接近を模したカラーボールや模擬弾の銃撃が行われる。

 

パイロットの腕もいるが、何より機体の性能が試されるてるとでもある。

アホなパイロットが扱っても生還出来るのは、かなり高性能であると言う事だ。

 

『各機体位置について・・・よぉいドン!っと言ったら始めてくださいね?』

『何機かフライングしたな』

 

 

・・・・それにしても司会進行役とサナダさんの二人、ノリノリである。

 

 

『では、改めまして・・・ようい』

 

 

各機、一斉にエンジンをふかし、スタートに備えた。

 

 

『ドンッ!!』

 

 

その言葉と共に、一斉にスタート地点から飛びだして行く機体達。

行く先にあるのはデブリ帯を模した、カラーボールの浮かぶ空間。

浮いているカラーボールを浴びずに、どれだけ上手い事動けるかが勝負だ。

 

『さぁ各機一斉にスタートいたしました。この先には魔のカラーボール地帯があるわけですが、解説のサナダさん。どう見ますか?』

『スピードという点からすれば、コスモタイガーⅡが一番だろう。だが回避性能と言う意味では、他の二機に利点があると言える。機動性が問われるところだな』

 

既にコスモタイガーⅡとファイターモードのフェニックスの二機がプロト・エステを追い抜き、

カラーボールが漂う地帯へと、入り込もうとしていた。

 

『おおっと、流石に全速はキツイと判断したか?二機ともスピードを落としています』

『どちらもそれなりに大きい。あの大きさで突っ込むのは無理だろうな』

 

そうこうしている内に追い付いたプロト・エステバリスは、減速した二機を追い抜いた。

そしてそのまま加速し、カラーボール帯の中に突っ込んでいく。

 

『どうしたのかプロト・エステ!いきなり暴走か!?』

 

 

プロト・エステはそのままカラーボールに当たる・・・事は無かった。

身体をひねったり、腕を動かしたりして、アクロバティックな動きで避けている。

 

 

『能動的質量移動姿勢制御だな』

『な、なんです?その舌噛みそうな名前?』

『言葉通りの意味だ。手足を動かす事で質量を操作し、姿勢制御をおこなう』

『はぁ、それが何か意味あるんですか?』

『姿勢制御用の燃料がそれ程要らない。人間型の利点と言うヤツだ』

 

 

あれ?アンバックシステムはガンダムじゃ・・・・まぁ良いか。

そうこうしている内に、今度はフェニックスが変形を始めた。

てっきり人型になるのかと思いきや・・・。

 

『うわぁ、何と言っていいやら、飛行機と人型の中間?・・・と、資料が届きました』

『ふむ、アレは中間形態の“ガウォーク”だ』

『サナダさんに先にいわれてしまいましたが、その通りです。これにより能動的…えーと』

『能動的質量移動姿勢制御・・・言い辛かったら略称のアンバックと言えばいい』

『捕捉ありがとうございます。これによりフェニックスはアンバックも扱えるようになりました』

 

どうやら、三段変形もしっかり作られているらしい。

・・・まさか整備班の中に俺と同類なんていないだろうな?

オリジナル機体が出てこないんですけど?ある意味オリジナルだが・・・。

 

そうこうしている内に、折り返し地点に近づいていく3機。

カラーボール地帯で他の2機を引き離したプロト・エステだったが、

持久力の無さで追い付かれてしまった。

 

しかもエネルギー供給の重力波がカラーボールにさえぎられて上手い事供給出来ないらしい。

ふむ、既にこの段階で、どれを落すのか決定してしまったな。

動けない兵器に意味は無いんだから、その分自立でエネルギーを持っている2機はマシだろう。

 

『おーと!折り返し地点にてエステが止まりました!これはトラブルか!?』

『いや、機能停止している所を見ると、内蔵バッテリーが切れた様だ』

 

そして折り返し、内蔵バッテリーが切れてしまったプロト・エステはココでリタイアだ。

他の二機は別のルートでスタート地点へと向かっている。

同じ戦闘機タイプでも、直線ではコスモタイガーⅡの方が早い様だ。

 

 

『さぁココでアクシデントその一!隕石の来週だぁぁぁ!』

『来週では無く、来秋だ』

 

――――いいえ、正確には来襲です。

 

まぁそんな言葉遊びはともかくとして、隕石を模したカラーボールが次々と発射される。

かなりの数の隕石カラーボールが二機に迫るが・・・。

 

『あやや、存外簡単に避けられてしまいました』

『まぁ宇宙では隕石なんて日常茶飯事、アレくらい避けられなくては意味が無い』

『しかし、それではお茶の間の皆さんが面白く無いですよ?』

 

それにしてもこの司会(ry

ソレはさて置き、更にスピードを上げる2機、まさにデットヒートと言ったところだ。

 

『では、気を取り直してアクシデント第二弾!銃撃戦をかいくぐれスタート!!』

 

今度はミサイルやレーザー、模擬弾が2機に襲い掛かる!

だが2機の性能はかなりいいのか、コスモタイガーⅡは舞い落ちる葉っぱの如くにかわして行く。

一方のフェニックスの方は、変形機構を余すことなく使い、やや強引ながら確実に避けている。

 

そして、疑似的な戦場をかいくぐった2機は、そのままスタート地点へと滑りこむ!

結果は―――

 

『結果は―――同着!同着です!何と言う事でしょう!』

『コレでトトカルチョは親の総取りと言ったところか』

 

いや、賭けゴトしてたんかい。(ズビシッ)

 

結果、この二機が最有力候補となった。どちらも一長一短あり、素晴らしい性能である。

現状で手に入る既製品(レディメイド)の機体よりかはずっと性能が上であろう。

おまけにフネにはマッドが何人もいるみたいだから、どんなことになるか・・・。

 

『さぁ早いようですが、次のトライアルへと進みます』

『と言っても、次が最後だ。やる事はとても簡単、模擬戦をして貰う』

『両機とも、基本の装備のみでの闘いです』

 

確かコスモタイガーⅡはパルスレーザーとミサイル。

VF-0フェニックスはバルカンポットとマイクロミサイルと頭部レーザー機銃だったな。

コレはフェニックスの方が有利か?

 

『両機が指定されたエリアに入り次第、模擬戦は始まります』

『特殊装備はどちらも積んでいない。装備も総合的には似たり寄ったりだ』

『はたしてどちらが模擬戦の勝者となるのでしょうか?ソレではレディー、ゴー!!』

 

両機がエリアに入った途端、切って落とされる火ぶた。

一気にトップスピードまで加速した飛翔体が、宇宙空間を翔けて行く。

 

『どちらも早いですが、若干コスモタイガーの方が早いみたいですね』

『速さは機動戦ではかなりの武器となる。好きなポジションに移動しやすいからだ』

 

最初にバックをとったのは、コスモタイガーⅡ。

振り切ろうとするフェニックスを、己の持つ高速を生かして振り切らせようとしない。

右に逃げれば右に、左に逃げれば左にと、まるで影の如く追いすがる。

 

『おおっと!さっそくフェニックスが背後を取られたァァァ!!』

『ミサイルは対空ミサイルだから、避ける事は困難だろう』

 

≪バシュ、バシュ≫

 

そして翼下のパイロンに付けられたミサイルを発射する。

時間差を置いて2発発射されたミサイルは、獲物を狩る猟犬の如くフェニックスに迫った。

回避しても回避しても、ミサイルのセンサーが優秀なのか振り切れない。

 

『おおっと、フェニックスが避けない!コレはどうした事かぁ!?』

『トラブル・・・と言う訳でもなさそうだ』

 

するとフェニックスは諦めたかのように、ひたすら直線に加速していった。

普通なら回避行動に移るはずである。しかし、フェニックスは避けない。

燃料切れでも待っているのだろうか?

 

しかしミサイルは徐々にフェニックスに追い付いていく。

このままでは燃料切れを起す前に、ミサイルが当たってしまう事であろう。

だがフェニックスはそのまま直線を取り続けていた。

 

何が目的なのかは不明。しかし、その理由はすぐに明らかになった。

ミサイルがギリギリまで近づいた途端、いきなり急旋回を行ったのだ。

 

重力バランサーがギリギリ中和出来るくらいの急旋回。

大きな機体は悲鳴を上げつつも、まるで鷹のように旋廻を終えた。

その次の瞬間――――

 

≪バーン!≫

 

ミサイルが旋廻しようとした途端、突如としてミサイルが爆発してしまった。

爆発したミサイルのすぐ後ろにあったミサイルも、爆発に巻き込まれて破壊される。

 

『こ、コレは一体何故ミサイルが破壊されたのでしょうか?解説のサナダさん』

『恐らく遠心力を利用したのだろう。対空ミサイルは長く飛べる様に細長くなっているから、急旋回に発生する横へのGに、ミサイルの本体が耐えきれなかったのだ』

『おお!あの直線的な回避行動は戦術的な判断だったと言う訳ですか!っと!今度はフェニックスがコスモタイガーⅡの背後を取った!コレは面白くなってきたぁぁぁ!』

 

見れば画面には、振り切ろうとするコスモタイガーⅡを追いかけるフェニックスの姿が。

直線ではコスモタイガーの方が早いようだが、旋廻能力ではフェニックスが上の様である。

そして、フェニックスも翼下に付けられたミサイルポッドから、マイクロミサイルを全弾発射した。

 

『フェニックス、ミサイル発射!まるで弾幕の様だ!』

『片方5発で全弾発射したから、計10発のミサイルだな』

 

小周りの効く小型ミサイルが計10発、コスモタイガーⅡの背後を蛇の如く迫る。

 

「うわっスゴイッスね(まるで坂野サーカスだ)」

「どうしたのユーリ」

「ん?何でも無い」

 

ミサイルというミサイルを、高速のバレルロールで紙一重でかわしている。

幾えものミサイルの軌跡が空間に白い帯を残し、どれだけミサイルがあるかがすぐに解った。

しかし一発も被弾しないとは、どれだけ高性能なのだろうか?

 

「なんだか後ろを取ったり取られたりで忙しそう」

「ああいうのをドッグファイトって言うんだよチェルシー」

「ドッグ?なんで犬なの?」

「ああやってグルグルとお互いの周りを回るのが、犬のケンカみたいだろ?」

 

今も両機とも、お互いを撃墜しようとグルグル回り続けている。

喉笛を噛み切ろうとしている犬のようとはまたしかり。

 

フェニックスはコスモタイガーのレーザーをロールしながらかわし、

タイガーは宙返りの頂点で背面姿勢から横転しインメルマンターンを決める。

フェニックスはそれを追いかける様に、スプリット・Sで追撃する。

 

今度はフェニックスが背後を取られるが、フェニックスは可変機能を用いた強引なベクタード・スラストで機銃の射線から逃れた。そしてそのままタイガーを追いかけ、バルカンポッドを掃射する。

タイガーは進行方向を変えずに機首を上げ、コブラを行う事で出来たラグを利用し射線を回避した。だが執拗に続く銃撃にコブラからそのまま後方に機首を変えるクルビットに移行する。

 

『ハイレベルのマニューバが繰り広げられており!司会が出来ない状況が続いております!』

 

再びクルビットを行い背後を取ったタイガー、そのまま機銃を掃射した。

フェニックスはロールとピッチアップを同時に行うバレルロールで、射線をかわしていく。

しかし全弾かわしきれず、翼に数発喰らってしまっていた。

 

『おーっと!ここでフェニックス被弾!』

『だが有効弾じゃない。まだ飛べる』

 

フェニックスはまだ飛び続けている。バレルロールを止めて今度は垂直に上昇。

持ち前の可変機能を駆使し、真横に反転する無理やりのストールターンを行う。

そしてタイガーとすれ違う瞬間に、フェニックスは勝負に出た!

 

『フェニックス!ここで人型に変わったァァァ!そのままタイガーに掴みかかるッ!』

 

掴みかかった衝撃でバルカンポッドが飛ばされたが、そんなの関係無しに頭部レーザー機銃で攻撃。

そして手足というアドバンテージを生かし、タイガーを掴みながらパンチを入れた。

掴まれているという事により、パンチの威力がダイレクトにタイガーに伝わっていく。

 

『そこまで!コスモタイガーⅡはもう戦闘不能と判断!勝ったのはVF-0フェニックスです!』

 

タイガーの左の主翼がちぎれたところで、フェニックスの勝利宣言が出された。

両者ともボロボロだったが、運がフェニックスに味方したようだ。

コレでこのままドッグファイトを続けていたら、どっちが勝ったかは解らなかった事だろう。

 

 

――――そして、このトライアルの模擬戦の勝者は、フェニックスとなった。

 

 

いやぁー凄かった。久々に燃える戦いを見れたね。本当に凄かったわ。

 

「ユピもお疲れッス。あの機動戦、マジで凄かったッス!」

【おほめにあずかり至極光栄です。艦長】

 

そう、実はあの二機を操作していたのは、AIのユピテルだったのである。

まだパイロットの育成が終わっていないので、機体の性能を見るだけと言う事もあり、

ユピテルがトライアルにおいて、機体操作を担当したのである。

 

「いったい何処であんなハイマニューバを覚えたんスか?」

【色々な資料を集めまして、基本的戦闘機動から曲芸まで幅広く入れました】

 

どうやら最近自分でネットするのが、趣味になっているらしい。

最初に比べたら随分成長したなぁ。俺は嬉しいぜ。

 

「ふぅ、私はよくわからなかったけど、凄かったと思う」

「しかし、コレでケセイヤさんの機体が採用ッスね」

「え?あの戦闘機ケセイヤさん達が作ってたの?」

「なんでもフェニックスは、大分前に作った機体らしくて、ソレを人型に改造しようとして三段変形機構付きのあの機体になったらしッスよ?」

 

ちょっとお値段が張るけど、それでも市販の部品の大部分を流用できるから問題ない。

しかし、戦闘空母に乗せる初めての戦闘機が、まさかVF-0フェニックスとはね。

 

すさまじくロマンだぜ!どうせだから俺専用機作って貰おうっと!

勿論、劇中にあった特攻仕様、別名ぶっこみ仕様でな!

 

戦闘シミュレーター位、ウチの連中なら普通に作れそうだな。

ソフトはサナダ、ハードはケセイヤだったらすさまじくリアルなヤツが出来そうだ。

 

【艦長、次は新兵器のお披露目らしいです。ブリッジへとおこしください】

「了解ッス。チェルシーはどうする?」

「今の内に日用品を買いに言って来るわ。また航海に出るんでしょう?買いだめしとかないと」

「はは、頑張ってくれッス。それじゃあね」

「ええ、また後で」

 

ステーションでチェルシーと別れ、俺はユピテルへと足を運ぶ。

お次は新造兵器のテストを兼ねたお披露目式らしい。

 

一体どんなのを作ったのだろうか、既に俺はワクテカなんだが・・・。

そんな事を思いつつ、ユピテルのブリッジへと急ぐ俺だった。

 

 

***

 

 

「自動標準システム、オールリンク」

【システム、オールグリーン、エラーは認められず】

 

ブリッジ内に緊張した空気が漂い始める。

 

「重力制御装置・・・出力50%で安定・・・重力レンズ形成開始」

「チャンバー内圧力上昇、コンデンサーからエネルギー出力」

 

新システムが起動し、それにかかわっているミューズさんがシステムチェックを行って行く。

次々現れる項目を手動にてチェック、失敗が無いよう細心の注意を払った。

 

「ハード上に問題は見られず、目標前方岩塊群、発射準備よろし」

【全システム問題無し、発射10秒前、カウント開始します】

 

そしてついにカウントダウン、俺はそれを艦長席にて静かに聞く。

となりでは副官のトスカ姐さんが、同じく緊張した顔で、事の顛末を見守っていた。

 

【10、9、8、7、6、5、4】

 

【3】

 

【2】

 

【1】

 

「ホーミングレーザー・シェキナ・・・発射!」

≪バシューッ!!≫

 

冷却機の音が船内に木霊する。

船体側面に取り付けられた発振機から、いくつものレーザーが虚空へと放たれた。

レーザーはそのまま直進するかと思いきや、すぐに射線を曲げて前方へと向かって行く。

そしてそのまま、仮想敵と設定した岩塊へと、弾幕を降らせるのであった。

 

「岩塊の消滅を確認、連続テスト、模擬戦用ドローン射出します」

 

オペレーターのミドリさんの声と共に、無人機達が次々と射出されていく。

ある程度の距離を取りつつ、システムを起動したドローンは、編隊を組んでいった。

ソレらはユピテルを目標に定め、編隊で攻撃機動を取り始める。

 

「システム、高速戦闘にシフト・・・重力レンズ形成完了、拡散タイプ設定」

「出力問題無し、蓄熱量冷却許容限界内で安定、再発射準備よし」

「インターバル1で斉射開始」

 

上下左右斜め、様々な方向から接近する模擬戦用ドローンの編隊。

ソレらを先ほどよりかは細いレーザーが、幾つも照射されていく。

 

全方位に向けて発射される弾幕。

しかも追尾機能付きの前に、ドローンはあっけなく破壊された。

 

「全標的の撃破を確認」

【FCSエラー、認められず。システムオールグリーン】

「発振体の故障も認められず、耐久性もクリア」

「命中率69%、拡散分を差し引けば76%、誘導なら90%」

「APFS及びデフレクター問題無し、波長干渉値も許容範囲内」

「艦長、新装備のテスト完了です」

「・・・・ふっ、勝ったな。コレは」

 

思わず某新世紀の髭司令の真似して腕組んでこう言ってしまった。

既製品じゃないから壊れた時が心配だが、そこら辺は根性で直せそうだな。

 

「射程も重力レンズの形成次第ではかなり遠くまで飛ばせそうです」

「・・・・これ商品登録したら儲かりそうだよな?」

 

商品化してくれれば、部品も生産されるから整備が楽になるだろうな。

 

「無理だな」

「え?何でッスかサナダさん」

「このホーミングレーザーシステムを扱うには、高性能デフレクターが複数必要だ。またソレを搭載できる規模の拡張性、火器管制、それと演算機能が高いスパコン、それだけのシステムを賄えるエネルギーを得られる高出力機関も当然必要になる。商品化しても大型艦専用装備になるだろうから一般には売れん。売れるとしたら軍関係になるだろうな。パテントは持っていかれそうだ」

 

・・・・・納得。しかしスゲェなぁ。

 

SFで夢見たホーミングレーザー砲が作れたなんてな。

まぁホーミングと言っても、ミサイルの如く追いすがるんじゃなくて射線を変える程度だけど。

それでもかなり凄い技術と言わざるを得ない。

 

「ケセイヤさん、おめでとう、この装備頂きッス」

「ヨッシャッ!ソレでこそ作った甲斐があるってモンだぜ!」

 

テストの為、ブリッジに詰めていたケセイヤさんを含めた整備班の連中は歓声を上げた。

その姿は、まるで良い事があった子供の姿そのモノ。

ブリッジクルー達も、どこか微笑ましい目で彼らを見ている。

 

「しかし、随分と改造されたッスね」

「外見も若干変化したからな、元がズィガ-コ級だと解らんだろう」

 

もともとズィガ-コ級戦闘空母は、正面から見ると骸骨みたいな面構えだったんだけど、

ウチのマッド連中の素敵改造によって大部分が改装されてしまった。

 

顔の様な無駄な穴や切れ目は塞がれ、全体的にもシャープなスタイルとなった。

両舷にデフレクターとホーミングレーザー兼用のブレードも設置されセンサー類も増設。

それに伴い防御や通信機能、管制機能も向上している。

 

・・・・なんだろう?この最強のフネを作ろう的な感じは?

既に小マゼランじゃ暴力でしか無いだろうこのフネ。

 

「お陰で溜めこんでたお金は殆どパーッスけどね」

「嫌まさかここまで改造する事になろうとは、自分が時たま恐ろしくなる」

「ホントっすよ。湯水の如く開発費を請求された時にゃどうしようかと・・・」

 

もう決算の書類に埋もれるのは勘弁じゃい。

そう言う訳で、現在所持金の備蓄が殆ど無い為、いい加減お仕事したいです。

 

「帰ったら、アバリスは貨物船化処理しておこう・・移動するだけで金になるわい」

「運送もやるのか?ならばより高速化させる案が・・・」

「しばらくは改造禁止ッス!お金が貯まるまで我慢してくれッス!」

「(・ω・`)」

 

そ、そんな顔でショボーンってすんなよ・・・。

 

「それじゃ、一度ステーションに戻るッス。トスカさん、後頼むッス」

「あいよ」

 

こうしてユピテルの改造は終わった。

ステーションで降りていたクルー達を回収したら、補給した後新たな航海に出る。

次はたしかエルメッツァ中央か・・・あれ?なんか事件があったっけ?

 

なんか忘れている様な気がするが、まぁいいか。

こうして馬鹿みたいに強くなった艦隊はステーションへと針路を取った。

そして俺はこう思う・・・・マッドってスゲェな。

 

***

さて、エルメッツァ中央に行くには、惑星ベルンの航路を経由して、ボイドゲートに入らなくてはならない。一応“この宙域”のスカーバレル海賊団は蹴散らした為、活動は沈静化している。

しかしソレでは、金に出来ない為ラッツィオ軍基地を出た俺達は、早い所次の宙域に進み金を稼ぎたい所である。そうこうしている内に、気が付けばボイドゲート前に来ていた。

 

「ボイドゲートが見えて来ました艦長」

「いよいよこの宙域ともおさらばッスね」

「しかし、次の宙域の方が大変かも知れないね」

 

ボイドゲートを前にして、トスカ姐さんはそんな事を言った。

 

「なんでッスか?」

「次の宙域にもスカーバレル海賊団が居るのさ。恐らく弔い合戦で襲われるだろうさ」

「成程・・・エコーさん聞いてた?」

「はいはい~、警戒レベル上げておくのねー?」

「たのんだッスよ」

 

まぁそんな会話しつつ、俺達は二隻の船を率いてボイドゲートに入って行った。

 

…………………

 

……………

 

…………

 

ボイドゲートを抜けて、エルメッツァ中央にたどりついた。

フネはそのまま航路上一番近い惑星であるパルネラに寄港する。

補給と言うよりかは、情報集めの方が主な目的だ。

 

「そして来たのは例によって酒場だったり」

「マスター!ボンベイサファイアをロックで・・」

 

0Gドッグ御用達酒場は今日もほどほどに繁盛って感じだった。

とりあえず情報が欲しい俺は酒場のマスターに話しかける。

 

「ふむ、情報ですか・・・ネロにメディックという医療団体の本拠地があるのはご存じで?」

「メディック・・・ッスか?」

「ええ、メディックは医療ボランティア団体で紛争地帯で苦しんでいる怪我人を救って回ってるんですよ」

 

ふ~ん、俺の時代で言う所の国境なき医師団みたいなもんか?

とりあえず覚えておこう、まぁ医者はいるから特に重要な問題ではないな。

 

「ああ、それと現在紛争問題でこの宙域は荒れているので気をつけた方が良いですよ」

「ん、情報どうもッス。ホイ、チップ」

 

情報には対価を、ソレはどこの時代にもおんなじだったり。

その後も適当に金を握らせ、噂話も集めて行く。

火が無い所に煙は立たずとは良く言ったモンだ。

 

キナ臭い話がこんな辺境入口近くの田舎惑星にまで届いてやがる。

どうも紛争が始まるというのは決定っぽいな。

しかもこんな時季にツィーズロンドに行く事になっている俺ら。

 

・・・・どう考えても、今度は紛争に参加な予感。

というか参加だろうなぁ。まぁ戦争は稼ぎにはなるか。

なんじゃかんじゃで報酬は支払われるだろうしな。

 

「―――でも俺あの中佐に会いたくない」

 

なんか野心がビンビンって感じでなぁ。

その為に利用されそうで、というか利用されてるんだけどね。

まぁ怖くなったら逃げよう。うん。クルー達の為にもな。

 

 

―――――こうして情報を集めたあと、一日を経たずにすぐにこの惑星を立つ。

 

 

この星には設計図データを売っている会社も何もないからな。

長居してもしょうがないのだ。

 

順調に航路に乗った為、俺はまたやる事が無くなり艦内の散歩へと向かう。

そう言えば、ケセイヤさんに頼んだアレ、出来ているだろうか?

ふとそう思いたった俺は、フネの格納庫兼男共の夢の部屋へと向かった。

 

…………………

 

……………

 

………

 

「イィィィィヤァッホォォォォッ!!」

『どうだい艦長?専用のVF-0Sw/Ghostの乗り心地は?』

「最高ッス!」

 

え?今何しているかって?

ちょうど出来あがった俺専用機に乗って飛びまわってます!

 

当然アレです。劇中最終話登場のゴーストパック装着型です。

Ghostは無人攻撃偵察機じゃなくて、専用パックって事になってるけど・・気にしない!

 

「行くぜ三段変形!!」

 

ファイターからガウォークに変形!そのままバトロイド形態にシフト!

くぅ~ロマンだぜ!最高だぜ!小型船舶運転免許持ってたユーリに感謝!

 

【艦長、フネから離れすぎます。反転してください】

「・・・・了解」

 

細かいサポートはユピテルに頼んであるんだけどな。

ファイターやガウォークはともかく、バトロイド形態はユピのサポートが無いと無理。

FとGがマニュアル運転ならBはオートマって感じ?

 

「早い所、B形態も自分で運転出来る様になりたッスね」

【そしたら私はお役御免で寂しいです・・・】

「いやいや、ユピにはフネの管理っていう仕事が―――」

【艦長のサポートがしたいんです】

「・・・・うれしいこと、言ってくれるじゃないの」

 

グス、本当に成長したなぁユピは。

段々感情って言うのも覚え始めたんじゃないだろうか?

AIに寂しいって言われるとは思わなんだよ?

 

「・・・・それなら、いっその事後席は任せようか?」

【本当ですか!】

「どうせしばらくはパイロットの補充目当てが無いッスからね。その点ユピなら信頼出来る優秀なクルーッスよ?俺の後ろを預けても良い女房役にはちょうどいいッス」

 

ユピはかなり高性能なAIだからな。

航路やレーダーのオペレートはミドリさん譲りでウマいだろう。

 

「そう言う訳でケセイヤさん?聞いてた?」

『おう艦長、面白そうだから任せとけ!通信機能の向上とか“色々”やってやるよ』

【お、お願いいたします!ケセイヤさん!】

『任せとけ!この俺を誰だと思ってやがる!』

「【マッドな整備班長ケセイヤさん!】」

 

俺とユピが口をそろえてそう言うと、ケセイヤさんはサムズアップした。

どうやらマッドは褒め言葉らしい。

 

『そう言う事だ。まぁとりあえず艦長、その機体無事に戻しておいてくれよ?』

「了解ッス。ユピ、帰還誘導頼むッス」

【アイサー艦長♪】

 

あとは帰るだけなんだけど・・・ソレだと面白くないなぁ。

 

「ユピ、ココから全速出すと大体どのくらいかかる?」

【そうですね・・・50分と言ったところでしょうか?】

「ブースター使った状態なら?」

【キャンセラーでもキャンセルしきれないGが発生するのであまりお勧めできません】

 

いやまぁ、そうなんですがね?

どうせ俺専用機なんだから、限界性能を試してみたいじゃないか。

そう言った事を話してみると――――

 

【解りました。サポートします。でも限界だと感じたら私が操縦しますよ?】

「構わないッス。ゴーストパック仕様のコイツの力がみたいんスから」

 

とりあえずB形態からF形態へと戻してっと。

 

「それじゃ行くッスよ!ブースター・イグニッション!!」

 

俺はコンソールに着いた黄色と黒のシマシマのボタンをグイと押す。

 

≪ギュゥゥゥゥン・・・・ドウンッ!≫

「ぐがっ!負けるかぁぁ!」

 

かなり強烈な加速、だけど俺だって負けてやらん。

デイジーリップでも気絶するなんて恥ずかしかったからアレから鍛えたんだ!

トーロと一緒に偶に重力が何倍かの部屋にいるんだから、それなりに耐えられる筈!

 

 

 

―――と思ったんだけど・・・・・。

 

 

 

「ぐががが・・・・やっぱりまだ無理ッス!」

 

まだ無理でした。ブラックアウト寸前にまで我慢したけどコレ以上は無理。

仕方ないので再度スイッチを押しブースターを止めて通常航行に戻す。

ちぇっ、まだ早すぎたか・・・ケセイヤさんに頼んで対G訓練室作ってもらおう。

 

「はぁ、もっと鍛えよう」

【大丈夫ですか艦長?】

「ん?平気ッスよ。ただ自分の脆弱さを自覚しただけッス」

 

とりあえず戻ったらトーロとの訓練追加しておこうかな。

そう思いつつシートに背を持たれる俺だった。

 

 

***

 

 

さて、専用機が出来たには良いが、練習するヒマもそこそこに、

気が付けばフネは目的地、惑星ツィーズロンドに到着した。

ユピテルはステーションに停泊し、クルー達には休息、そして俺は――――

 

「やってまいりましたが軍司令部ってな」

 

俺以下数名を引き連れて政府軍司令部にやってきています。

ココでくれるって言う報酬の為に俺は来たのである。

 

「流石軍本部、ドデカイ建物ッスね」

「そうかい?これでもこじんまりしている方だと思うが」

「コレでッスか?・・・はぁ宇宙は広い」

 

大きさだけなら東京都庁を軽く超えているんだけどなぁ。

まぁこの世界だと1000mクラスの高層ビルは結構当たり前だからこじんまりしてるのか。

 

「とりあえず守衛さんに話しかければ良いんスかね?」

「まぁ、それが良いだろうね」

「・・・俺が言うんスか?」

「ユーリがあたし達の代表だろう?しゃきっとしな!」

「はぁぁ、またスイッチ切り変えなくちゃ・・・メンドクセェ」

 

俺は深いため息を吐きつつ、司令部の入口に立っている守衛に話しかける。

どうやら既に話は通っているらしく、そのままある一室へと通された。

 

「おお、待っていたぞユーリ君」

「お久しぶりです中佐」

「とうとうロウズからココまでやって来たのだな」

「ええ、トスカさんを含め優秀な部下達に助けられました」

「ふむ、船乗りはそうして航海をするモノだ。仲間の助力を恥じる必要は無いぞ」

「そうですね」

 

とりあえず、挨拶を交わしておく。

ああ、なんでこのヒトの目に止まっちまったんだろうなぁ。

アレか?世界の修正力ってヤツですか?

 

「さて、さっそくだが君に幾つか話がある。まずは頼まれていたエピタフなのだが」

 

そう言うと恐らく何かの宙図らしい画面が浮かび上がる。

すげぇ何も言って無いのに画面を出してる。良い部下がいるんだなオムス中佐。

 

「航宙データの洗いだしに手間取っている状況だ。すまない」

「そうですか」

 

まぁ幾ら軍組織の情報網でも、広大な宇宙でアレを探すのは無理だろう。

出来たとしてもかなり時間が掛かるだろうなぁ、ケケ。

 

「それと一応この宙域にはスカーバレル海賊団がまだ存在している」

 

また画面が変わり、今度はこの周辺の宙域図が投影された。

なんかある惑星がピックアップされてら、何々ファズ・マティ?

 

「かなりの海賊船がファズ・マティに集結中とのことだ」

「ファズ・マティ?」

 

はて?原作にあったような無かったような?

 

「スカーバレル幹部、アルゴン・ナラバスタの本拠地である辺境の人工惑星だ」

「人工惑星ですか。豪勢な事で・・・」

「ラッツィオ方面の海賊の残存戦力が合流するつもりなのだろう」

「・・・・また襲われますなコレわ」

「君たちは大分彼らに恨みを買っている様だから確実だろうな」

 

うわ、面倒臭い。この宙域回るにはその海賊団ボコるしかないじゃん。

 

「まぁそう言う訳で海賊の掃討にも力を貸してほしい」

「報酬は出ますか?」

「おおよそ3000用意してある」

「税込ですか?」

「ああ、税込みでだ」

 

それならば良し。

 

「あと、君たちはディゴという男を知っているか?」

「はぁ?ディゴさんですか?」

 

んー?そんな知り合いはいたかな?

何時も物資を頼んでる業者さんとは違うだろうし・・・。

 

「知りませんね」

「ふむ、実はこの男はスパイでな?」

「スパイ?ザッカスさんじゃなくて?」

 

どうやらスパイは一人では無かったようである。

まぁザッカスさんは隠れる気は毛頭無さそうだったけど。

 

「我々が最初に遭遇した時、君たちに襲い掛かっていたのはこの男だ」

「!―――まさかあの戦闘って仕組まれた・・・」

「いまは紛争地帯に行って貰っている」

 

あ、流しやがったコイツ。

 

「紛争ですか?そう言えば辺境の惑星で噂を聞きました」

「この宙域にある資源惑星帯を巡って紛争が起きているのだ」

 

オムス中佐がそう言うと、宙域図に小さな艦隊達が現れ、ボカスカやり始めた。

うわ、芸が細かいぞ。スゲェなオムス中佐の部下。

 

「そこでの諜報任務について貰っているのだが、大分梃子摺っているようでね」

「要は自分たちの力を貸せと?」

「そうだ、出来れば君たちの力を貸してほしい」

 

おいおい、なんかいきなり言外に力貸せって言われてるぞ?

俺がどうしようか答えをこまねいていた。

すると、今まで黙っていたトスカ姐さんが口を出してきた。

 

「それって、報酬給与の条件に追加した事かい?」

「いや、そう言うつもりは無い。コレは私からの素直な頼みだと思って欲しい」

「ふぅん・・・」

「(げぇ、“素直な頼み”・・・ね?)」

 

けっ、ココで断るのは得策じゃねぇな?

 

「ココで断ると、流星群が来るんでしょうなぁ?」

「ふむ、宇宙では流星群は珍しくないが・・・おそらくな」

 

・・・・やっぱりな。

 

「はぁ、解りました。出来るだけやってみましょう」

「な、ユーリ、いいのかい?」

「下手に放置しても紛争と海賊は来そうですからね」

 

損得勘定から言うと、この宙域に居る以上そっちの方が良いだろうなぁ。

魔改造したフネだから、下手に壊れると修復するのに手間取りそうだし。

 

「こちらに火の子が降りかかる前に消す。俺たちならソレ位出来るでしょう?」

「・・・・」

「感謝する。ディゴ中尉はネロと言う惑星で活動している筈だ」

 

はいはい、接触しろって事ですね?解ります。

 

「了解しました」

「これで私の話は以上だ。ソレと約束の報酬分のマネーカードだ」

「はい、確かに」

 

とりあえず報酬は手に入れたので、俺達は黙って部屋から退室する。

玄関に向かう途中でトスカ姐さんが口を開いた。

 

「ふぅ・・・報酬を貰いに来ただけが、色々頼まれちまったね」

「致し方無いでしょう?ココで断ったら暗殺ですよ」

「やっぱりユーリも気がついていたか」

「ええ、あの中佐はかなりの野心家です。下手に断るのは得策じゃ無い」

「そうだね・・・ところでその喋り方止めな。背筋が痒くなる!」

「あ、酷いッス!俺だって真面目な時は真面目ッス!」

 

そんな事をギャーギャー言い合ってたら、守衛のおじさんに注意されちったい。

 

***

 

「―――――ま、そう言う訳だから、とりあえずネロに向かうッスよ」

「「「「りょうか~い」」」」

「あと恐らく海賊連中が来るけど―――おいしくいただきましょうッス!」

「「「「了解!!」」」」

 

糞面倒臭いがやらない訳にはいかない。

まぁこの程度で軍に狙われるのは前にも行ったがバカらしい。

別に期限指定はされて無いから、道中片手間で問題無いだろう。

 

「さてと、ケセイヤさん?」

『・・・・おう!艦長、なんか用か?』

「フェニックスの電子機器強化タイプは完成してるッスか?」

『おーRVF-0の事だな?出来ているがさっそく使うのか?』

「一応早期警戒機って事で使いたいんスけど?」

『了解だ。すぐにレドームの設定をそれ用に直してやる』

「頼むッスよ?それじゃ」

『ああ』

 

せっかく作った戦闘機達、使わないのはもったいない。

あ、そうだ。忘れちゃだめだった―――

 

「エコーさん、もうすぐ電子偵察機出すんで、其方の方でデータリンクさせといて欲しいッス」

「了解艦長~、此方でもリアルタイムにモニター出来るようにすればいいのねー?」

「専門的な所は任せるッス。ケセイヤさんとも相談してくれッス」

「わかったわ~」

 

コレで奇襲とかそう言った類の攻撃はぐんと減る事だろう。

 

「各部、半舷休息に移行、適当に休息を取りながら過ごしてほしいッス」

「半舷休息了解、アナウンスしておきます」

「うん、トスカさん」

「あいよブリッジは任せておきな」

 

さて、俺はアレの練習でもしてよ。

せっかく作った劇場版特攻仕様機、使わないのはもったいない。

 

……………………

 

………………

 

…………

 

「・・・・ぐあぁぁっ!疲れたッスーー!!」

「お疲れさまユーリ、何してたの?」

 

戦闘シミュレーターが完成したらしいので、其方に行ってました。

しかもサナダさん特製の慣性制御装置によって疑似Gを体感できる本格仕様。

ゲロ吐かずに良くココまで持ったモンだと自分で自分をほめたい。

 

「痛い!筋肉が痛い!乳酸が痛い!」

「それなら新鮮なグレープフルーツジュースが良いね。作ってくる」

「い、いつの間にそんな豆知識を・・・」

 

アスリートは結構飲んでいるらしい。

というかグレープフルーツあったんだこのフネ。

 

「アレ?ユーリ知らないの?フルーツとか船内ショップで買えるんだよ?」

「ふぇ?船内ショップだと・・・・あ!?」

 

そうだ!この間モジュール突っ込んだった!

一々生活班の倉庫に取りに行くのが面倒臭いっていうクルーの要望に応えて!

 

「まってチェルシー、俺も行くッス!つーかまだ俺行った事無い!」

「うん、じゃあいっしょに行きま・・・一緒?・・これってデート・・・ゴニョゴニョ」

「何してるッスチェルシー!早く来ないとおいてくッスよー!」

「へ?ま、待ってユーリ!置いてかないで!」

 

全く、フネがでかすぎるのも問題があるよなぁ。

艦長の俺ですら把握しきれないぜ!

 

そう言う訳で、艦内ショップに足を向けた俺達。

位置的には居住区画、船体のやや後で中心に近い位置にあるらしい。

すぐ隣が生活班の倉庫なので、在庫切れで無い限り品数は途切れないのが自慢だそうだ。

 

「へぇ、ここが艦内ショップッスか?」

「うん、それなりに大きいでしょ?」

 

うん、大きいね。

だけど俺はものすご~く見た事があるんだなコレが。

 

「・・・・これなんていうジャ○コ?」

「ん?何か言ったユーリ?」

「いえいえ、何にも言って無いですよ?」

 

スゲェなイオ○グループ・・・この時代にも残ってやがった。

売っている品物も、多少パッケージが違う程度で変わらな・・・・。

 

「・・・・・何コレ」

「ブルゴ産のグレープフルーツよ」

「・・・・・グレープフルーツってこんなんだっけ?」

「ええ、美味しいよ?」

 

グレープフルーツがブドウのように房についてます。

一体どんな品種改良がおこなわれたんだオイ。

名を体で表したんかい。

 

「・・・いろいろなモノが売ってるッスね」

 

とりあえず流すことにした。

 

「うん、雑貨や食料品、衣服に薬や化粧品、それに武器も売ってるよ」

「・・・・・武器まであるんスか?」

 

マジかよ。ショップ入れた張本人だけど全然知らなかったぞ?

何でもありか?と言うか艦内で武器売ってどうするんだよ?

 

「とりあえずグレープフルーツとか買って帰るッスか」

「うん、解った。じゃあちょっと買って来る」

 

彼女はそう言うと、あの房付きグレープフルーツを持ってレジに向かう。

ちなみにレジはセルフで、商品タグをセンサーにかざした後マネーカードで購入する。

使った分は給料から天引きされるシステムだ。

 

「しかしまぁ、次はどんなモジュール入れるッスかね?」

 

自然公園のモジュールでも購入するかね?

そう思っていると――――

 

「ん?携帯端末が・・・もしもし?」

『あ、艦長、エコーが海賊の艦隊を発見したそうです』

「わかった、すぐに行くッス」

『お待ちしてます』

 

あらら、どうやら敵さんのご登場だ。

全く、航路の安全くらい守ってほしいよな。

政府軍の税金喰いめ!税金は払ってねぇけどな!

 

「チェルシー、ちょっとブリッジにいって来るッス」

「ん、わかった」

「ソレは後で貰うんで頼むッスよ?」

「うん、それじゃあね」

 

俺はショップで彼女と別れ、ブリッジへと向かった。

 


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