【艦長、ブリッジイン】
「状況は?」
俺はブリッジに入るとすぐに状況を尋ねる。
どうするべきか判断する為だ。
「オル・ドーネ級巡洋艦1、ガラーナ級、ゼラーナ級駆逐艦が各一隻ずつです」
「観測データから察すると、ラッツィオ方面より改造が施されているらしい」
「既にAP・EPは展開、奴さん達は目が見えなくて焦っているぞ」
「ホーミングレーザー・シェキナの射程圏内だから既にロックしてある」
「―――で艦長、どうするんだい?」
あらまぁ、俺が来るまでも無かったな。
すでに準備は万端じゃねぇか。
「おし、そのままシェキナ発射ッス。敵の武器をなるべく潰すようにするッス」
「原型はとどめるんだな?」
「でないと高く売れないッスからね。エンジン部もなるべく残すッス」
【アバリスは使いますか?】
「いや、必要ないッス。シェキナだけで十分ッス。と言う訳でストールさん」
「おし!任せろ、ポチっとな!」
船体各所からレーザーが照射され、重力レンズにより偏向。
ストールの勘とユピによる演算により、的確に敵艦へと向かって行く。
「全艦、兵装に着弾、戦闘不能の様です」
「噴射口も潰すッス」
「了解!」
更にレーザーを照射、噴射口に当てて敵を逃げられなくする。
というか段々神掛かって来たなストールさん。
「ミドリさん、降伏勧告を打電、無理なら沈めて構わないッス」
「了解」
ミドリさんが降伏勧告を行うと、敵さんは降伏。
フネを捨てて脱出艇に乗り込み逃げて行った。
「なんとまぁ、歯ごたえの無い敵だったな」
「まぁ敵は逃がしたから、また襲い掛かってくるでしょうな」
「カモがネギしょって帰って来るッスね」
「実に効率的なやり方だ。さすがはユーリってとこかねぇ?」
褒めるなよ。照れるぜ。効率よくやらねぇとフネが立ち行かないだろう?
さて、この後は拿捕したフネごとトラクタービームで牽引する。
「惑星ネロまで後少しッスね」
「案外海賊たちは出て来なかったな」
「まぁ紛争が起こってるからそっちに行ってるんだろうね」
紛争中って言うのはゴタゴタしてるから、政府軍の監視も緩い。
だから商船とか襲い放題だし、軍の輸送船を襲っても良い。
敵方に偽装していればそれだけ稼げると言う訳である。
「稼ぎ方間違えてるよな」
「まぁ効率はいっスけど。まさに外道ッスね」
「まぁ外道だから海賊張ってるんだろうけどな」
「「ちげぇねぇ」ッス」
こんな会話をしながら、三隻ほどの収穫と共に、ネロへとたどり着いた。
***
ステーションにフネを預け、指定された場所に向かう。
と言っても、行くところはやはり酒場だったりする。
「しかし、毎回思うんスけど」
「ん?どうしたユーリ」
「なんで会合場所は酒場ばっかなんでしょうね?」
結構疑問に思っていたのだ。どうせなら人気の無い所で話すんじゃねぇの?
酒場なんて不特定多数の人間が沢山いるのにどうしてなんだ?
「それは・・・」
「逆に酒場のほうが目立ちにくいんだよ」
「「誰だ!」」
いきなり会話に入りこまれたので声のした方を向く。
そこにいたのは50代くらいで髪の毛をオールバックにした男だった。
「よぉ、中佐から連絡は受けてるぜ?」
「あんたがディゴか?」
「つれないな。一度顔は見ている筈だぞ?」
そう言えば、確かにそうだな。
あの時通信の画面に出てた巡洋艦クラスの艦長じゃないか。
「というか、海賊の時のまんま何スね」
「あんたまだそんな格好してるの?」
「いやなに、此方の方が動きやすくてな?意外と良い服だろ?」
さぁ?俺はこの時代のファッションには疎いもんで・・・。
「良いんスか?アレ」
「まぁ普通な方じゃないか?」
「良いんだよ。目立たずに済むと言う意味じゃとても良い服だ」
「確かにそこら辺のおっさんと大差ないッスね」
「はは、ありがとよ」
スパイだけに目立つのはダメなんだろうなぁ。
片手に酒瓶持ってるから仕事帰りに飲んでたおっさんに見えなくもない。
「ああ、そうそう、一人仲間にしてほしいヤツが居るんで紹介してもいいか?」
「仲間?」
「ああ、ゴッゾの生まれでここらの宙域に詳しいんでな?役立つとは思うぜ」
そう言うと彼の背後から、一人の少年が姿を現した。
白い髪の毛で線が細く、眼鏡でインテリっぽい。
「・・・イネス・フィン。よろしく」
「ん、俺は艦長やってるユーリッス」
「あたしは副長のトスカだ」
「艦長・・・?君が・・・?」
「なにか?」
「・・・まぁいい、一応協力させてもらうよ」
「・・・・・・一応?」
「君見たいな子供が艦長とは思えないもんでね。認めたら艦長と呼んでやるよ」
何コイツ?偉そうなこと言いやがって・・・。
「ディゴさん、やはりこの話は無かった事にしてくれッス」
「え!?な!」
「こちとら協力してやる立場なんだ。失礼なヤツを乗せるほどの余裕は無い」
どう見ても対人関係に疎そうだ。
なんとなくだが他のクルーといざこざを起しそうな気がする。
第一目が気に食わねぇ。なんだ人を見た瞬間見下しやがって・・。
俺はそんなに背が低いかこのヤロウ!
「だが、ここらの宙域の案内に・・・」
「別に?急ぎじゃないですし、知らないなら見て回れば良いだけの事ッス」
「嫌しかし・・・」
「それに初対面でいきなり人の姿を見て見下すようなヤツを、俺はフネに入れたくない」
「・・・・艦長がそういうなら、副長の私はなにも言えないねぇ」
そう良い放つと何とも言えない沈黙が流れる。
だが、その沈黙を破り、イネスが口を出した。
「どうやら見誤っていたみたいだな。君は確かに艦長だ」
「どうした急に?」
野郎に褒められても嬉しく無いんだが?
・・・・というかディゴさん、なんで驚愕してるんスか?
「あ、あのイネスが・・・俺の事はこき下ろす事しかしなかったイネスがほめた!?」
「失礼な人ですね。この育毛ヤロウ」
「ズラじゃ無い!この眼鏡が!」
「育毛って言ったんだ。あと眼鏡は名前じゃ無い。イネスだ」
あーもしかして・・・。
「コイツの見下すかのような目は・・・」
「生まれつきだ。あとコイツじゃ無い。イネスだ」
「OKイネス。見た目で判断したのは俺も同じだったみたいだ。そこは謝るッス」
「いいさ、そう言ったのには慣れている」
確かに誤解を頻繁に招きそうだなぁ。
喋り方が妙に冷静なのも、そう言った所から来るのかもしれない。
「何故いきなり褒めた?褒めたところでフネには乗せないぞ?」
「別に?素直にそう思ったから褒めた。ただそれだけさ。そこに他意は無い」
成程なるほど、コイツもそれなりにプライドでもあるのかと思っていたが。
どうやら、キチンと相手を見定める事が出来る人間だったか。
「で、どうする?乗せるのか乗せないのか?」
「実質何が出来る?」
「まぁ色々と・・・科学と指揮と管制なら出来るかな?」
「ふむ・・・」
実質空きが無いな。まぁ軍からの紹介だし、話を本気で蹴るのは不味いな。
とりあえず乗せる事にしとくか。有能ならくみこんじまおう。
「まぁいい、この宙域の案内出来るんスね?」
「そこら辺は任せろ。この宙域は庭みたいなもんだ」
「そうか、それなら航路アドバイザーって事でどうだ?」
「構わない。最初からそのつもりだし、既にディゴ中尉には前金も貰っている」
「了解した。ようこそイネス」
「こちらこそ」
ビジネスな関係も良いな。
「はぁ、結局乗せるんなら今までの会話は何だったんだ・・・」
「ディゴさん、一々気にしてたら身が持ちませんよ?ストレスで・・・」
「おい、今どこを見た?」
「いえ、別に?」
アデランスってこの時代にもあるんだろうか?
「まぁそんな事は置いておいて、紛争の話何スけど」
「・・・じゃ本題に入っか」
流石にふざける雰囲気じゃ無いのは解るんだろう。
ディゴさんの顔が真剣なモノへと変わる。
「直接的な原因はベクサ星系だ」
「ベクサ星系?」
「資源衛星や惑星に恵まれた宙域でな?紛争している2国のちょうど中間にある」
「成程、あ、どうぞ続けてください」
「でだ、ベクサ星系の分割を巡って一度は両国間で分割協定が結ばれたんだが――」
「片方が境界線を越えたと?」
「ああ、分割線を越えて片方が資源採掘を始めちまった」
おー成程、俺の時代で言うところの領海における資源採掘の問題みたいなもんだな?
お互いが決めた領海を越えて採掘したら、そら戦争になるわ。
「最初はいざこざ程度だったんだが、今じゃ艦隊をだして睨みあいってわけさ」
「中央政府軍は動かせないんスか?」
「一応自治権を持つ星だからな。強引な介入をしたら避難を喰らうのは中央政府だ」
「・・・・コレだから政治は面倒臭いんスよね」
「ああ、全くだ」
情報部も大変だな。そんな事態だから休みも取れないだろう。
まぁ同情はしないけどな。
「小マゼラン随一の集積国家エルメッツァ、号して3万隻つー艦船も張り子のトラみたいなもんだ」
「で、俺達は何をすればいいんスか?」
「直接何かしてくれって言う気は今の所ねぇさ」
「今の所、ね?」
てことは時期が来たらやらせる気満々かい。
・・・・やっぱ逃げようかなぁ?
「まぁとりあえずある人物を探して来て欲しい」
「ある人物?」
「ルスファン・アルファロエン、かつて政府軍にいた伝説の戦略家だ」
「伝説ってつくと、なんか胡散臭いッスね」
「まぁ今の人間は殆ど知らんだろう。だが彼なら良い解決方法を思い付くだろうってのがオムス中佐の意見だ」
う~ん、確か原作でこんな展開があった様な気がしないでも?
・・・・・ああ!ルースーファか!あの爺さん!・・・何処に居たっけ?
「ふーん、でどんな人なんだい?」
「引退してからは身を隠し、放浪生活だそうだ。今じゃ70を超えた老人だろう」
「70で放浪?!元気な人ッスね?」
まぁ俺の前の世界のじっ様は、齢80にして登山とかしてるけどな。
「情報が足りないねぇ。それだけじゃ雲をつかむような話だ」
「ラッツィオ宙域の辺境で見たって人間がいるらしい」
「辺境っていうと・・・」
「ボイドゲートを越えたアッチの方だろう。また戻るのか・・」
「面倒臭いッスね」
「頼むぜ、こっちも問題だらけで首も回せないくらいなんだ。マジで頼む」
そう言われてもなぁ。
とりあえず辺境周辺をかたっぱしから調べるしか無いな。
俺達はディゴさんと別れ、そのままフネ戻り翌日になって出港した。
ああ、逆戻りかよ面倒臭いなぁ。
じっ様さがしてエーンやコーラと言う感じで戻ってまいりましたラッツィオ方面。
「ラッツィオよ、私は返ってきた」とかネタをやったら周りから変な目で見られた。
く、くやしい、でも感じ(ry
まぁそんなバカな事は置いておいて、辺境とはいえ惑星の数はそれなりに多い。
この中からジジイを一人探し出せと来たもんだ。
と言うか軍の情報網使えよ!個人で探すよか簡単だろうが!
まぁ愚痴っても仕方が無い。幸い記憶をなんとか掘り起こして思い出した。
おおよそ何処にいるのかは見当はついている。
もっとも、気まぐれを起してくれていなければ良いのだが・・・。
「はぁ、面倒臭いッス」
「まぁ輸送品で懐が潤うからそれの序でだと思えばいいじゃないか」
そうエルメッツァ中央から、価値が出そうな品物を幾つかコンテナで持って来てある。
ソレは精密機械だったり希少鉱石だったりと様々だ。
だがコッチみたいな辺境だと、確実に金になるモノでもある。
「そうッスね。お金はいくらあっても良い」
「そうそう」
「特にウチの場合、開発費関係無しに作る技術陣がいるから・・・」
「たしかにね・・・」
思わずため息をつきたくはなる。
あいつ等稀に報告出す前に開発してたりする事があるのだ。
勿論その際に発生する金は後で決算する訳だが、報告が着て無いので事務作業が大変で。
「まぁお陰で普通のフネとは比べ物にならないくらい強力になってるスけどね」
「確かにね。まさか対光学兵器用の熱処理装甲とか着けるとは思わなかったよ」
熱処理装甲ってのは所謂種にでてきたラミネート装甲の事である。
光学兵器が当たった部分が融解を起す前に熱を別の場所に分散させる事が出来るのだ。
お陰で排熱機構さえきっちりしていれば、光学兵器に幾ら晒されても平気なのである。
これとAPFSを合わせ使用すると、光学兵器がまず効かない。
ハイストリームブラスターみたいな大出力砲でも無い限りは大丈夫なのだ。
偶々レアメタルを入手したから、ソレを装甲に塗装し排熱機構を組み込むことで出来たらしい。
なんというチート、お金があるからこそ出来る芸当だよね!
ホント、ゲームでも資金調達で苦労したっけ・・・。
こっちに戻るまでの間に、VF-0もだいぶ改造されバリエーションが増えてるしな。
数百席規模の艦隊相手は難しいが、数十隻規模の艦隊なら相手出来るくらいにはなったと思う。
「しかしアバリスも随分魔改造が・・・」
「アンタが見て無かったから、連中が好き勝手してもはや別のフネだね」
最初は我が艦隊の旗艦だったアバリスは、ウチのマッド共の所為で大きくその姿を変えた。
人が乗らないのを良い事に完璧に居住区画等を一掃、そのスペースに生産機械をブチ込んだ。
小さなカタパルトからは工作艇が発進可能であり、大きなアームもついている。
「完璧工作母艦と化してるッスね」
「どちらかと言えばファクトリーベースだろうね。フェニックスもアソコで組み立てているし」
工作母艦の癖に、ガトリングキャノンがあるから単艦の戦力でもこちらと同程度。
おまけに人が居ないから試作品を使い放題らしく、試作品の塊らしい。
というかマッド共、少しは自重しろよ。前の旗艦だったんだぞアレでも。
「しかし、何でこんなに優秀な人達がこんな辺境に埋もれてたんでしょうね?」
「埋もれてたんじゃ無くて、単に活躍できる場所が無かったのさ」
「まぁウチでなら余程の事が無い限り、開発費をケチらないッスからね」
お陰でウチのフネは部分的に現在の科学力を凌駕している。
どこの未来からきたフネだよオイ。
この分ならヤッハバッハ連中とは互角に戦える・・・かもしれない。
【艦長、そろそろ訓練に行かれる時間では?】
「あ、そう言えばそうッスね。教えてくれて感謝ッス!ユピ」
「それじゃいつも通りに私が指揮を引き継ぐよ?」
「頼むッスよ」
俺は最近日課になったフェニックスの訓練に行く事にした。
***
「ちょっと良いかい?二人で話がしたいんだ」
俺が戦闘シミュレーターへと向かっていると、イネスが声をかけてきた。
「ん、なんだ?」
「いや、今まで君の艦長ぶりを見させてもらってたんだが・・・」
「ふむ」
「君は、本当に自分が艦長にふさわしいと思っているのか?」
「いや何なんスかいきなり」
あまりに唐突過ぎて、正直なんて答えてやるか悩むぜ。
しかし何なんだろうかね?
「早く応えてくれ、どっちなんだ?」
「う~ん、確かに色々俺には足りないッスけど、ふさわしく有ろうとはしてるッスよ?」
まぁふさわしく有ろうとして好き勝手してるけどな。
だって楽しく無かったら意味がねぇんだもん。
「僕の考えは違う」
「何がッスか?」
「僕はいつか自分のフネを持とうと学んでいるんだ。その目から言わせてもらえば―――」
「トスカさん辺りが艦長にふさわしいと言いたいんスね?」
俺が先に答えを言ってしまったのか、言おうとしていた言葉を飲み込むイネス。
まぁあの人は俺よりも有能だしな。俺よか何年も前から0Gしてる訳だし。
「なに、自分でも解ってるッス。こんな俺が艦長でいいのかとかね」
「・・・・」
「だけど、トスカさんもクルーの皆も、俺が艦長でいいって言ってくれたッス。なら男ならその期待に応えなくちゃと思うのは不自然な事ッスか?」
「ふむ、たしかに・・・」
「それに元々このフネを最初に組織したのは俺ッス。俺が立てた旗のもとに、みんな集まってくれたッス。皆信念の様なものを持ってるッスけど、ソレと俺の立てた旗の下が偶々皆にとって居心地がよかっただけ何スよ」
旗の下云々は、某有名な宇宙海賊様から貸していただきました。
「その旗って言うのはなんだい?」
「なに簡単な事ッス。皆で宇宙を回ろう。ただそれだけッス」
「・・・・そうか。すまないな艦長、時間を取ってしまって」
「うんにゃ、貴重な意見が聞けたから良いッスよ。もっと精進しなきゃならんすね」
俺はそう笑いつつもイネスから離れた。
しかし、俺ってそんなにたよりないかね?・・・かもしれないorz
「よし!シミュレーターがんばるぞー!」
コレは早く強くならなくてはと思いシミュレーターへと急ぐ。
尚、艦長として強いのと、戦闘機に乗って強いのとでは違う事に気付いたのはずっと後だった。
その時はマジで俺ってバカだと思って、リアルで自室でorzしてました。
……………………
………………
…………
――惑星レーン―――
小マゼランにおいて中期位にテラフォーミングされ、人が住めるようになった星。大きさは基本的なガイア級であり、人類居住可能の標準クラスである。元々は大気の無い惑星であったのだが、人工的に大気を作りだすことによって20年位でテラフォーミングが完了した。特産品は特には無い。現在の人口はおよそ814500万人、もうチョイ解りやすく書くと81億4千5百万人ということになる。
―――と、手元の資料を調べたらこんなのが出て来た。
現在我々は辺境惑星レーンに赴いていた。
とりあえず星図上の端から攻めて行こうぜ!って俺が決めたからだ。
まぁ正確にはこの星に目的の人物が居るはずなのである。
そういう事で何時ものようにステーションにユピテルを停泊させた。
今回はすぐに出港する事になるかも知れないので、人員は最低限しか降り無い。
俺とトスカ姐さんと護衛役でトーロだけを連れて、下界へと降りて行った。
―――と言っても行く場所は決まっている。酒場しか無い。
適当にVF-0で見て回っても良いんだが、許可を取るのが面倒臭い。
ココ以上に情報が詰まる場所は無いので、とりあえずココから調べるのがセオリーなのだ。
そういう訳で、俺達は酒場に来ている訳なんだが・・・。
「なぁ、爺さんが一人いる気がするんだが?」
「トスカさんもッスか?俺もそう思ってたッス」
「というか、明らかにアレじゃねぇか?」
「だけどトーロ、人違いの可能性も・・・」
「いや、こういった酒場を利用できるのは0Gくらいだから案外当たりかも知れない」
・・・・原作通りこの酒場にルーはいた。
まぁ他の星系を回らなくて済んだから行幸かもしれない。
フネとて使えば少なからず消耗するのである。
「で、誰が行くッスか?」
「決まってんだろう?」
「いう必要もないだろう?」
「・・・・やっぱり俺ッスか」
どうせ何言っても行かされそうなので、何も言わず席を立つ。
そして老人が座っている席へと向かった。
「あのう、もしかして貴方はルスファン・アルファロエンさんでは?」
「ほう、まさしくその通りじゃが、お前さん何処でその名を?」
「実は――――」
色々とてんやわんやしている軍から頼まれて、貴方を探していた事。
紛争解決の為に力貸してくれないかと言う事を説明した。
老体は髭を撫でながらこちらの話を聞き思考の海に入る。
「ふむ・・・ベクサ星系はいつかそうなると思っておったが・・・政府軍も動きが取れず、苦しいところじゃな・・・」
「なんとかなりませんかね?」
「しかし、何故この老骨に?ワシは軍を引退した身じゃぞ?」
「軍が無能・・・いえ、安全に宇宙を航海するには貴方の力が必要なんです。戦略を見る力が」
というか、人手不足なんで猫の手も借りたいとかは言わない方が良いだろうな。
「ふむ、若者にそこまで言われたなら、老人が腰を上げない訳にもいくまい」
「なら」
「お前さんがたに同行する事にしよう」
ふー、良かった。コレでワシは関係ないとか言われなくて。
ジーさん一匹確保だぜ。
「あー後ワシの事はルー・スー・ファーで通しておるから、エルメッツァ軍人との接触はお断りじゃぞ?」
「了解、紛争さえ解決してくれるんなら此方は問題無いッス」
「うむそれじゃお前さんのフネに行くことにしよう。行くぞウォル」
「は、はい」
爺さんと今まで影が薄過ぎて全然気がつかなかった少年を連れて酒場を出た。
しかしこの爺さん、どうやって紛争を解決するつもりなのだろうか?
結構デリケートな問題何だと思うんだが・・・。
ソレはさて置き軌道エレベーターに乗り込みステーションへと向かう。
んでルーのじっ様とお供の少年を連れてステーションの停泊ドッグへと帰ってきた。
「さて、どれがお前さんのフネかな?アソコにあるガラーナ級かの?」
「いいえ、あんな大きさじゃ無いッスよ」
アレでココまで来るとなると結構勇気が居ると思うんだが?
「では、そこにあるフランコ級かの?」
「いいえ違うッス」
「まさかそこのボイエン級?」
「それこそまさかッスよ」
幾らなんでも海賊が出るこの宙域で輸送船で来るバカはいないだろう。
いたら自殺志願者だと思死な。
「ではオル・ドーネ級かの?」
「アレは航続距離が短いッスからね。俺は要らないッス」
「では一体どれがお前さんのフネなんじゃい?もう他にフネは無いじゃろう?」
そうルーのじっ様は言いなすった。そりゃこのドックには無いさ。
「俺らのフネはこのドックの先ッス」
「しかしココから先は大型船クラスのドックじゃろう?」
「ええ、そうスけど」
「こっちのドックが一杯じゃったから使わせてもらったのかの?」
??一体何を言ってるんだこのじっ様は?
「いやコッチのドックじゃ入らないし」
「なんと!と言う事はお前さんは戦艦級のフネを持っているって事か!」
まぁユピテルは戦闘空母だけど戦闘力なら戦艦と言えなくもないしアバリスもあるな。
「まぁそうッスね」
「なるほど、その年でグロスター級を買えるとは、なかなか凄いのじゃな」
「いや、グロスター級でも無いんスけど・・・」
「・・・なに?グロスター級じゃない?」
なんか見てもらった方が早い様な気がする。
「はぁ、まぁとりあえずフネはコッチッス」
「まてまて、お前さんのフネは戦艦じゃろう?」
「そううッスよ」
「生れはロウズでつい最近出て来たんじゃろう?」
「そうッスよ」
「エルメッツァで買える戦艦はグロスター級だけじゃろうが」
そう言えばそうだっけ?
「まぁ見てもらった方が早いッス。コッチッス」
何だか口で説明しても信じてもらえなさそうなので、このまま弩級艦ドックへと連れて行った。
***
――――弩級艦用・大型ドック――――
「コレがウチのフネ、戦闘空母ユピテルです」
「・・・な、何なんじゃこのフネは・・・こんなフネみた事が無い」
フネの全体が見える展望室で、ルーのじっ様はそう漏らした。
お供のウォル少年も口を半開きにしたまま一歩も動かない。
「まぁ元のフネから大分改造が加えられて、もはや原型が残って無いッス」
「と言う事はカスタム艦ということじゃろうか?」
「いや、もう別のフネと言った方が正しいかもしれないッス」
一応共通規格で部品は揃うんだけどね。
もうズィガ-コ級じゃなくてユピテル級って事で新造艦登録した方が良いかも知んない。
手続きが面倒臭いんでする気は無いけどね。
「まぁこんなとこで突っ立てても意味が無いので、とりあえず我がフネへ」
「あ、ああ・・・お前さん見かけによらず、恐ろしく凄いヤツじゃったんじゃのう」
「俺じゃなくて、俺のクルー達が凄いんスよ」
俺はフネの中を案内しながらそうルーのじっ様に語る。
ウチのマッド連中はスゲェぞと、部分的に大マゼランすら超えるぞと。
ソレを聞いていたじっ様はニコニコしており、ウォル少年はひいていた。
まぁ普通なら厄介者扱いされるマッドみたいな連中を立てるヤツはそうはいないだろう。
マッドは周りが見えなくなるから集団生活が必要なフネにはちょっと合わない事がある。
ウチの場合、ウマい事なじんで・・・というかなじみ過ぎてるから問題無いんだけどな。
「・・・で、ここがフネの頭、ユピテルのブリッジッス」
「おお、この機器配置の感じはアイルラーゼン式の艦橋ですかな?」
「あ、解るッスか?ランキングボーナスで貰ったヤツ何スよ」
まぁそれにサナダさんが異常に手を加えているから、元の艦橋の性能じゃないけどね。
「見ておきなさいウォル、コレが大マゼラン製のフネに良くある艦橋だ」
「・・・・ほぁ」
「はは、見るだけならタダッスから、幾らでも見れば良いッスよ?」
「・・・・ブンブン」
ふむ、ウォル少年は恥ずかしがり屋らしい。
少年と言っているが実際は俺とほぼ同い年の青年だったりするけど・・。
童顔だから少年でいいよな!むしろ美系で童顔ってどうなんよ?
「ま、ブリッジに入るのは自由ッス」
「ソレはありがたいの」
「と言うかお二方は一応客分ッスけど、フネの中に行けない場所は無いッスから」
「む?艦長、ワシは部外者だからいうのも何だが、いささか不用心では?」
じっ様は俺のあまりにフランクな対応に、少しばかり疑問を感じたようだ。
まぁ普通部外者にフネの中を自由にしていいとかいうヤツは少ないしな。
「大丈夫ッスよ。お二方は既にフネに乗れた段階で問題は無いッス」
「何故そこまで信用が・・・」
「ウチのフネは生きているもんで、ユピ!」
【お呼びですか艦長】
何処からともなく聞こえる声に驚くじっ様と少年。
そして俺のすぐ横に現れた空間ウィンドウに気がついた。
「紹介するッス。ウチのフネの警備の一旦を担っている」
【統合統括AIのユピテルです。どうぞよしなに、それとようこそ我がフネへ】
「ほう、珍しい。AI搭載艦何ぞもう姿を消したと思っていたが」
「ウチは人員不足ッスからね。ユピの助けのお陰で随分楽何スよ」
【私はこのフネそのモノです。何か不都合があれば呼んでくださればサポートいたします】
「これはこれは、ご丁寧にどうも」
驚きを隠せないウォル少年はともかく、じっ様の方はどうやらAI搭載艦をご存じの様だな。
「まぁ挨拶もほどほどに、とりあえずこのフネはすぐにでも出港するッスが、何かやり残した事はありますか?」
「いや、放浪の旅の途中じゃったから、あの星に未練はない」
「わかったッス。どうするッス?出港する所をブリッジで見るッスか?」
「いや、色々とあって老骨には応えた。休める場所を貸してほしい」
「それならお二人の部屋に案内させるッス。ユピ」
【はい、艦長】
「この二人を客分の部屋に案内してあげてくれッス」
【了解しました】
とりあえずアバリスに二人を部屋に案内させる事にして出港する事にした。
はぁとりあえずエルメッツァ中央に戻るかな。話しはソレからだ。
「出港準備!エルメッツァ中央に戻るっスよ!」
「「「アイサー艦長」」」
こうしてユピテルは必要な人物を確保し、ステーションを後にした。
***
ルーのじっ様を我が艦に招いてからほぼ一日経過した。
EP(ElectronicProtection )を出力最大にしているから、敵との交戦も無い。
ちょうどボイドゲートを越えてエルメッツァ中央に戻ってきた所だ。
俺はボイドゲートを無事に越えたので、そろそろ休憩を入れようと席を立とうとした。
するとブリッジにルーのじっ様が入ってきたのが見えた。
「ちょっといいかの?」
「あ、ルーさん、どうしたんスか?」
じっ様から話しかけられた。まぁ時間的に見たら――――
「うむ、策がまとまったのでな。ワシらをドゥンガへと送ってほしいのじゃ」
「了解、ドゥンガッスね?そこに送るだけでいいんスか?」
「ああ、ワシらだけでいい。策を為すには相手にしられない事も重要じゃからな」
「まぁ大人数で押しかけたらバレるッスね」
策を思い付いたってところだよな。
「そういう訳じゃ、頼むぞ?」
「アイアイ、それじゃドゥンガ到着まで休んでいてくださいッス」
「お言葉に甘えさせて貰うわい」
じっ様はそう言いつつ、ブリッジをあとにした。
さて―――
「ユピ、聞いてたッスね?」
【すでにトスカさんとイネスさん、ブリッジメンバーに召集をかけました】
流石は我がフネのAI、手際がいい。
「それじゃ、いつものように皆が集まったら、一応ブリッジを遮蔽しておいてくれッス」
【了解です艦長】
しばらくしてブリッジクルー+αが集まった。
「皆聞いてくれッス。ルーさんの策が決まったので、ドゥンガへと針路を取ることになったッス。何か質問があるヤツは居るッスか?」
「「「・・・・」」」
「よろしい、では航路についてなんだけど」
「僕がリーフと一緒に考えれば良いんだね?」
「頼むッス。なるべく早くつける様に考えて航路を設定してくれッス」
「任せてくれ、最短ルートを選択してやるよ」
「俺はどのくらいの速力で運航すればいいか計算すればいいんだな?任せてくれ」
そう言うとさっそく作業に取り掛かる二人。
俺達は話を続けていく。
「さて、これからの事何スが・・・一応紛争状態の地域に行くわけッスから警戒を強化すべきと思うッス」
「確かに様々な艦船が集結中らしいからねぇ」
「噂では海賊連中も参加するらしい。何でも報奨金がでるだとか」
「こ、これは責任重大ね~!頑張るのー!」
「ウス、頼むッスよエコーさん。ウチの目と耳はエコーさん何スから」
「うん、新しく出来たRVF-0(P)との監視網も利用してみる~」
ちなみにRVF-0(P)の(P)はPhantom(ファントム)のPである。
武装を全撤去した完全偵察型で、ステルス機能を大幅に引き上げたバリエーション機だ。
追加増槽を付けているので、他のよりも航宙能力が高いのも特徴である。
「あとはそうスッね・・・なにかこの場で言いたいヤツはいるッスか?」
「艦長、科学班からの報告だが、新しく重力井戸を強化出来たから、同じくデフレクターも強化完了だ。それに伴いホーミングレーザーの重力レンズ生成機構もグレードアップされた事を報告しておく」
「わかったッスサナダさん」
「あ、艦長、さっきサナダさんがいったホーミングレーザーに合わせてFCSも改良されたぜ。俺とユピとでやっておいた」
「わかったッスよ。ストールさん。他はなにかあるッスか?」
見渡すが全員口を閉じたままである。
沈黙は肯定と受け取ることにした。
「よし、なら今日はコレで解散ッスね」
「艦長はいつも通りシミュレーターか?」
「いんや、今日は重力調整した訓練室で軽く汗かいたあと妹との触れ合いでも楽しもうかと」
「ふれあいー?・・・・・ブーッ!」
突然エコーさんが顔を真っ赤にして鼻血を吹いた!
な、なにがどうしたんだ?
「はいエコー、ティッシュよ?それとトントン」
「あうあうー」
ミドリさんにティッシュを渡され、首の後ろをトントンされているエコーさん。
あれ?首の後ろを叩くのは民間療法で効果が無いんじゃなかったか?
というか―――
「だ、大丈夫ッスかエコーさん」
「大丈夫よー」
「くくく、エコーは何を想像したんだか・・・」
「きっと・・・いけない方面・・・ね」
「うう~、副長もミューズもそういう事いわないでよー」
なんか手慣れてるなぁ、俺は知らなかったけど良くある事なのだろうか?
でも何か聞くのが憚られるというかなんて言うか・・・まぁいいか。
「エコーさん大丈夫ッポイんで俺は上がるッスね」
「あいよ、指揮を受け継いだ」
「それじゃお疲れッス~!」
――――俺が出て行ったあと。
「全く、アンタは何鼻血出してんだい」
「なんか想像したら予想外に凄くて~」
「まぁ艦長は何気に美系ですからね。あの情けなささえなければ」
「確かにねぇ、時折見せる真剣な所はいいんだが・・・」
「普段が普段だから、どうにも・・・」
「でも・・・ふれあい・・・ブッ!」
「はい、ティッシュ。それとトントン」
ブリッジでは女性陣のこんな話しがあったらしいが俺は知らなかった。
***
これまた数日が経過しフネは惑星バルネラ、ジェロン、ネロを経由しドゥンガへと向かった。
道中に出て来た海賊連中は適当に追い払うか、追剥するかして対応した。
そして、特に何か起きる訳でも無かったのですこし省略し無事にドゥンガに到達しますた。
とりあえずじっ様とウォル少年をドゥンガに降ろし、しばらくしたら迎えに来る事になった。
様は適当に過ごせとのお達しだ。なので、俺達はまたもや海賊狩りをおこなう事にした。
そろそろ資金が足りなくなりそうなのだ。見境なく開発する連中が居るんでな。
世の中やっぱ銭ズラ。
「艦長、前方からスカーバレルの艦船が接近中―」
「駆逐艦一隻じゃたいした稼ぎにもならんな」
「いやまって、様子がおかしいです・・・コレは通信?」
何故か戦闘出力を出そうとしない海賊船。
こちらとしては海賊船なら無条件で襲っても良いんだが・・・。
「なんて言ってるッスか?」
「ええと、“そこの戦闘艦聞こえるか?当艦に攻撃の意志は無し”だそうです」
「どういう事だろうねぇ?海賊船が交戦の意思なしだなんて」
「わからないッスね。ミドリさん通信回線を開いてくれッス。交信してみるッス」
「アイサー」
すこしして回線がつながったと言われたので、俺は通信を送る。
「こちらユピテルの艦長ユーリ、なぜスカーバレルが交戦を避ける?」
『やはりユピテルか。ここらじゃみた事が無いフネだからすぐに分かったぜ』
「質問しているのはこちらだ。返答次第では破壊も辞さない」
若干高圧的に通信を送る。大人げないかもしれないけど、舐められたら終わりだ。
しかし、俺達って名前が知られているんだろうか?
・・・まぁ結構海賊船は沈めたからなぁ。連中の中で噂になっててもおかしく無い。
『す、すまねぇ!理由何だが、俺達はコレからルッキオ軍に参加するつもりなんだ』
「ルッキオ軍に?」
ルッキオって言ったら、ちょうど今紛争している2国の片割れじゃないか。
つまりコイツらは義勇軍に参加って訳なのね。
『そういう事、もう海賊業とはおさらばって訳だ』
「なるほど、納得した。こちらも海賊で無いフネを襲うつもりは無い」
『へへ、ありがてぇ。それよりあんたもルッキオに行く気はないか?』
「紛争中のとこにか?」
『ああ、今あそこじゃ艦を持っているやつがエントリーするとかなりの額の手当がもらえるらしいぜ?俺達海賊船を何隻も沈めたあんたがこっちに付けば千人力だ』
「・・・考えておくさ。貴艦の航海に幸あらんことを」
『ああ、それじゃあな』
海賊船、いや元海賊船との通信が切れる。
ふむ、義勇軍を随分集めてるんだな。
「どうやらルッキオ側は派手に戦力の増強をしている様だね」
「みたいッスね。バランスが崩れた途端戦争になるッスね」
まぁこう派手にしているって事は電撃戦が狙いかな?
タダでさえ金が無いのに、そんなに沢山兵隊募っても長くは養えんだろう。
「戦争なんてくだらねぇッス。皆もっと遊んだ方がおもしろいと思うッス」
「確かにねぇ、だが人間の欲望に際限はないんだよ」
「くだらな過ぎて泣けてくるッスね」
そうだねぇと頷くトスカ姐さん。
早いとこ次の宙域にいってみたいから、こんなとこで足止めは御免だ。
紛争と海賊を根絶やしにしてしまえばいいんだろうけど。
「ああ、面倒臭い」
――――俺は艦長席に深く腰掛けて、そう呟くのだった。
漆黒の宇宙の中を綺麗な放物線を描いて飛翔する光が進んでいた。
その光は上と下に放たれており、まるで鏡写しの様に動き有る一点を目指している。
そしてその一点にて交差する光とともに、宇宙に小さな閃光がきらめいた。
「エネルギーブレット、敵艦に着弾」
【敵艦への損害、各武装部分大破、噴射口大破】
「本艦へのダメージは0%」
ブリッジ内に報告の声が響き、緊張の空気が徐々にほぐれて行く。
「今回も百発百中だなストール!やるじゃねぇか」
「へっ!長年の勘とユピのお陰よ!」
「戦闘状態解除、EVA要員は各員配置についてください。繰り返します―――」
今日も今日とていつも通り海賊のお相手だ。
最近有名になってきたのか、此方に挑む海賊は少なくなった。
だがごく稀にこうやって仕掛けてくる命知らずが居る。
こういった存在は普通は拒否したいものだがウチはちがう。
こういう輩をむしろ歓迎している節がある。何故なら――――
『艦長!コリャスゲェ!新型の反陽子魚雷だ!発射管が無いのに何で持ってんだろうな?』
『こっちには軍の試作レーザー砲のスペア、一体どういうルートで手に入れたんだが』
――――とまぁ、こういった具合に、俺達を倒す為にどうやって手に入れたのかは知らないが、中々いい装備をそろえている事があるのだ。
「ルーインさん、適当にあさったらいつも通りに頼むッス!」
『おう、トラクタービームで牽引作業だな?任せとけ』
『敵さんの生き残りはどうします?』
「何時も見たく収容艦クルクスに閉じ込めておくッス」
『了解』
ふぅ、しかし発射管無いのに反陽子魚雷積んでるとか・・・最終的に自爆するつもりだったのか?
でもコレでまたマッド共のおもちゃが増えてしまったな。
今度の奴はフネに搭載するヤツとはいえ、大きさはかなり小さいし・・・。
「反応弾装備みたいな事になったりして・・・」
「ん?ユーリ、どうかしたかい?」
「うんにゃ、何でも無いッスよトスカさん」
一瞬反陽子魚雷を搭載したVF-0フェニックスが浮かんだ。
・・・・どうしよう連中なら片手間で作れちまうよ。
まぁ宇宙空間じゃ反陽子魚雷なんて大きな花火程度でしかないけどね。
「さて、あの爺さんとわかれて既に一週間が経過したわけだが」
「今だ連絡なしッスね。どんだけ待てばいいんだか」
「ま、お陰で総資産は増えてるけどね」
そう、紛争地帯になるって訳で集まってくる海賊連中は皆総じて装備が良い。
しかもウチのクルーには、敵さんのフネを武器だけ壊して無力化出来るヤツがいる。
普通は出来る芸当じゃないけど、ソレの陰でほぼ丸々敵の装備を売れるのだ。
それがどれだけのもうけになるかと言うと・・・原作の10倍くらい軽くいく。
ジャンク品では無くて買い取りという形になる事もあるからだ。
まぁソレもマッド共に食いつくされそうになる時があるけど些細な事だ。
「うしし、銭ズラ、世の中銭ズラ」
「気持ち悪い事してないでとっとと仕事する!」
「ぶ~!だって俺すること無いッス!」
「だったら仕事をあげようか?EVAの手伝いでもしてきな!生身で!」
「いや、それ死ぬッス」
幾ら俺でも生身で宇宙に出たら「URYYYYYYYYっ!」ってなっちまうよ。
具体的に言うとかなり気持ち悪から抽象的にしておく。
「ならVFの訓練で回収作業手伝ってみたらどうですか?」
「その手があったか!」
「やめときな、あと360時間以上のシミュレーター訓練を積まないと、周りが危険だよ」
「むー!」
「なんだい?ふくれっ面になったってダメだからね!・・・・おお、伸びる」
「みょーん!」
トスカ姐さんにほっぺたを引っ張られてる。ちょ、痛いんスけど?
「ええどれどれー?うわぁーのびるー!」
「これまた随分とモチ肌というか・・・・」
「おお、マジで柔らケェ」
「ふむ、艦長の細胞はかなり若いのだろうな」
「意外とプ二プ二ですな。孫を思い出しますわい」
「なんでみんなして伸ばすんスかぁ!仕事に戻るッスッ!」
「「「「了解!」」」」
うう、おもちゃにされちゃった。もうお嫁に行けない・・・って俺は男じゃん。
しかしまだ連絡来ないのか?いい加減待つのも面倒臭いんだが。
「はぁ、本当にさっさと連絡くればいいのに・・・」
俺がそうぼやいた所、神さまに願いが届いたらしい。
「艦長、ルーさんから連絡がありました。至急迎えに来てほしそうです」
「よし!聞いたな?善は急げ、時は金なり!すぐに迎えに行くッスよ!」
「「「「了解!」」」」
ルーのじっ様から連絡が来た!コレで勝つる!
そう言う訳で、俺達は一路惑星ドゥンガへと向かった。
***
――――ドゥンガ・酒場――――
「おお、ココじゃココじゃ」
酒場に入ると、ルーのじっ様がカウンターの片隅で酒を飲んで待っていた。
「ココじゃじゃねぇよ爺さん。のんきに酒なんか飲みやがってよ。両国ともドンドン戦力が増してるってのに・・・」
あまりにのんきな態度に見えたのかトーロが文句を言う。まぁココだけ見ると仕事をしてた様には見えんわなぁ。
「うむ、ソレでいいんじゃよ。器に過ぎた料理を乗せれば、その器は砕け散る物」
「はぁ?」
「つまりだトーロ、もうすぐルッキオは自壊するって事ッス」
「ど、どういう事だよ?なんでルッキオが?」
「ワシとウォルは、今まであらゆる手を用い・・・」
―――とりあえず長かったのでようやくさせてもらうぜ。
簡単に言えば、じっ様たちはあらゆるコネを使い、ルッキオ側が兵を募っていると、この宙域各所にばらしたらしいのだ。当然、報奨金目当ての海賊やらゴロツキが集まって行く。一見すると戦力が増加した様に見えるだろう。
だがその実、軍は集まったゴロツキ達への対処に困っている。あまりに集まり過ぎて今では暴動や略奪が軍内部で起こってしまうくらいなんだそうな。ゴロツキには軍機なんて関係無いから好き勝手やってたら怒られて腹いせにと言うところだろう。
もはや紛争をする前に自国の問題を解決しなければ、自治領として機能する事すら難しくなってきているんだそうだ。
「奴らは自国内のゴロツキの問題に苦労しているからの。そいつらを制圧するという名分があれば」
「中央政府軍も動かすことが出来るってワケッスね?」
「そのとおりじゃ艦長」
しかし考えて見ると内戦おこしてつぶし合いさせた所を横からかっさらう訳か。戦略とはいえエゲツねぇなオイ?
「そしてこれはワシの考えた策では無く、ウォルが考えたものなのじゃ」
「ウォル少年が?・・・・ってアレ?ウォルくんは何処に?」
「・・・(もじもじ)」
見れば柱の陰に隠れているウォル少年、恥ずかしいのか?
「こ奴はこの年でワシの教えを見事に自分の物としておる。やがては銀河を指呼の間に納める軍師になる事じゃろうて」
「へぇ、この子がねぇ?」
「成程、敵に“コレはウォルの罠だ!”とか言わせるワケッスね?わかります」
「・・・(もじもじ)」
しかし、今のこの状態だとただの童顔軍師だろうなぁ。
「さて、ではそろそろ行こうか」
「ん?何処にッスか?」
「ルッキオのゴロツキ退治じゃ、民間人のお前さん等が戦ったという既成事実が必要じゃからの。その連絡を受けて、中央政府軍が動き出すと言う訳じゃ」
「成程・・・まぁ軽く粉砕しますかね」
とりあえずとっとと殺っちまおう。
「良いか?ルッキオ軍の中のゴロツキ共のフネだけを狙うのじゃ。正規軍のフネを沈めてはならんぞ、よいな?」
「あいあい、ルーさん。任してくれッス」
こうして、ルーのじっ様たちと合流した俺達は、ゴロツキ退治へと出発した。
―――ベクサ星系~ルッキオ間・航路中央部―――
「艦長ー、ルッキオ軍を発見しました~」
「艦種識別、一番艦は正規軍のテフィアン級駆逐艦です」
【あとはスカーバレルのジャンゴ級2隻です】
さて、航路に来た訳だが、さっそく此方へと迫る艦隊を見つけ出した俺ら。可哀そうだが紛争解決の生贄だ。さっさと落ちてくれや?
「対艦戦闘用意!敵から攻撃を受けた後反撃する!専守防衛ってヤツだ」
「アイアイ、第一級戦闘配備、コンディションレッド発令します」
「シェキナ準備完了、照準はどうします?」
「一番艦以外を粉砕してやれッス」
さて、コレで敵さんが仕掛けてくれば、紛争に介入と思ったのだが・・・。
「・・・・ねぇトスカさん、気の所為じゃなかったら何スけど」
「奇遇だね。私もちょっと驚いている」
【敵2番艦、3番艦、戦線を離脱、一番艦のみ突っ込んできます】
どうにもこの宙域で暴れ過ぎたようだ。海賊連中が尻尾巻いて逃げて行くのがレーダーマップのモニターにて確認出来る。まぁデカイし特徴的なフネだから噂も広まるわな。
「―――どうするよ艦長?まだシェキナの射程範囲内だけど?」
そうストールが言ってきた。どうするもこうするも、紛争の解決のためだし・・・・。
「目標に変更無し、各砲発射」
「アイサー」
「エネルギーブレット、2~3番艦へと直進」
【2番艦、命中、インフラトン反応拡散、撃沈です。3番艦はブリッジが大破、あ、今轟沈】
「よし、当て逃げみたいだけど次の標的を探すッス!」
正規軍の一番艦であるテフィアン級が突っ込んでくるが、ソレを無視して逃亡する。この宙域は中央政府軍が遠距離監視網を引いている筈だから、数時間もすれば軍が派遣される事だろう。
こちらの識別は0Gドックのまま、つまりは民間人だからな。どんな形であれ紛争に巻き込まれた民間人が、敵さんから攻撃を受けたという形になる訳だ。
「またまた敵さんはっけ~ん!」
「流石に紛争をしているだけの事はある。遭遇率が高いな」
「今度は全艦向かって来るようです。艦長」
「指示は変わらず、敵に与するゴロツキ共のフネを狙えッス!遠慮はいらないッス!」
こうして紛争地域に入ってから数時間後、中央政府軍がようやく重い腰を上げ、かなりの大艦隊を率いて、ルッキオとアルデスタとの紛争へ介入をし始めた。
大義名分は紛争地域に現れる不穏分子達の殲滅、外交的な見地から両国はこの大艦隊を、中央政府からの圧力と認識、そしてこの時を上手く狙って提示された調停を両国が受諾。
ベクサ星系における紛争はめぼしい被害(海賊たちの略奪は除く)を出すことなく、紛争を終結させる事が出来たのであった。
――――ちなみに、両国で紛争の調停が結ばれている頃、俺達はと言うと・・・。
『おーし!レアメタル30トン!採掘完了だ!』
『リチウム、ベリリウム、タングステン、チタン、マンガン、バナジウム、ストロンチウム、セレン、ニッケル、コバルト、パラジウム、モリブデン、インジウム、テルル、ハシニウムの15種類を確保、現在パッケージ作業中』
『こっちはレアアースだな、プロメチウムとルテチウムが殆どだ!コイツは高く売れるぜ!』
『量としては、10トン程度、こちらもパッケージ作業中』
『パトロール隊が巡回するまで後20時間、それまでに後10トン程貰っちゃいましょう!』
『『『おー!』』』
どさくさにまぎれて、人がいない無人採掘場を勝手に使って、レアメタルとレアアースを確保していた。売り払って金にしても良いし、そのまま修繕素材にしても良し。猫ババは最高だね!良い子は真似すんなよ?
「・・・ふぅ、後少しで作業完了か」
「おつかれさん、しかしなんとかなったみたいで良かったね」
「うむ、良くやったの艦長、しかし抜け目がないと言うか何と言うか」
「へへ、照れるッス」
「「いや褒めてないから」」
いやね?どうせこの星系まで出張って来たんだから、少しくらい貰ったって問題無いだろう?どうせいずれは採掘されちまう鉱石達だ。遅いか早いかの違いでしかねぇんだもん。
「しかし、艦長はようやった。・・・そうじゃな、艦隊戦におけるちょっとした技を進呈しようかの」
「技ッスか?」
「うむ、一時的にフネのリミッターを全て外す裏ワザ、その名も『最後の咆哮』じゃ」
最後の咆哮って、全力攻撃する特殊技能だったっけ?
「・・・・・何かすこぶる縁起が悪い名称ッスね?」
「いうな、その代わり効果は確かじゃ。まぁコレを使うとしばらくエネルギーが低下するから、文字通り最後にしか使えんじゃろう」
「まぁ一応貰っておくッス。何かの役には立つかも知れないッスから」
「うむ、それじゃユピくん、このデータをインストールしておいてくれ」
【了解しましたルーさん】
しかし使えるのか使えないのか解らん技だなオイ。さてとこれからどうするべ?
「とりあえず次は海賊の本拠地でも叩くんだろ?」
「・・・・ファズ・マティの位置判明してるなら、巨大な小惑星ぶつけるのダメッスかね?」
「う~ん、そうしたいのは山々だけど、この宙域じゃそいつは無理だろう」
ああ、そう言えばちょうどファズ・マティはメテオストリームの向う側だったな。メテオストリームって言うのは、この周辺の重力場によって引き起こされている小惑星帯の大規模な河の事で、何の準備も無しに突っ込むのは非常に危険な場所でもある。
そう言った意味ではファズ・マティは天然のバリアーに守られた要塞と呼べなくは無い。遠距離からのミサイルによる攻撃は、メテオストリームが全て破壊されてしまうからである。
俺が今言った小惑星を用いた遠距離攻撃も同じ、メテオストリームにさえぎられて途中で軌道が狂ってしまうから当たる事なんてない。幾らなんでも重力偏差で小惑星が渦巻くあの嵐の中を通る小惑星の軌道計算なんて出来るわけがねぇ。
「なら、直接乗り込むしかないんスかね?」
「そうだね。とりあえず縄張り直前にあるゴッゾに向かってみたらどうだい?」
トスカ姐さんはそう言うと、宙域図に示されたメテオストリームのギリギリにある小さな星を指さした。ふむ、人は住んでいるみたいだから情報くらいあるだろうな。
「よし、決定。次の目的地はゴッゾ」
「了解だユーリ、みんなに伝えておくよ」
こうして、ベクサで猫ババを完遂した俺達は、その足でゴッゾに向かったのであった。
***
――――惑星ゴッゾ軌道上・通商管理局、軌道エレベーターステーション。
「ですから、コレ以上は高く買い取りは出来ませんってば!」
「そこをもう一声!大丈夫、いけるっス!ローカルエージェントさん!」
「私にそんな機能ありません。レートでしか売れないのです」
「頑張れ頑張れ!頑張れば何とかなる!いけるいける!」
「いけません!」
く!頭が固いな!ならば!
「・・・・(ボソ)天然オイル」
「む」≪ぴく≫
「・・・・(ボソ)最高級の研磨剤」
「むむ!」≪ぴくぴく≫
「(よし、もう一声)最新のドロイド用冷却装置、新品」
「・・・ゴク、20%でどうです?」
「40%」
「28、コレ以上は」
「35、コレ以上は下げねぇッス」
「なら30%でお願いします!」
「・・・・OKだ。物はアンタあてのコンテナに包んで置くぜ」
「感謝します。ソレではあちらのコンテナを全て買い取りますので、ソレでは失礼」
――――ローカルエージェントは、良い笑顔で戻って行った。
フィー、熱い舌戦だったぜ!ん、何してたかって?そんなの決まってんだろ?値段交渉だよ値段交渉!ベクサで掘った希少鉱石を売る値段をアップさせてもらったのだ。
いやー、ローカルエージェントはインターフェイスが充実してるから、こういった時便利だわ。何せ賄賂が効くロボットとか普通は有り得ねぇもんな。
「・・・・このフネの生活班を受け持つ様になって随分経ったけど、まさかローカルエージェント相手にと交渉する人間を見るなんて思わなかった」
「おろ?アコーさん、どうしたッスか?なんか疲れた顔してるッスよ?」
後ろを見れば、我がフネの生活系統を一手に引き受ける生活班の長が立っていた。何故か額に手を当てて、疲れた顔をしてこちらを見ている。頭痛かしらん?
「・・・・いや、自分とこの艦長がすさまじく常識から逸脱してたのを確認しただけさね」
「????」
「でもま、艦長のお陰で商談が捗ったから良いとするか」
なにか良くわからんが、褒められたのか・・・?まぁいい。
「そう言えば皆は何処に行ったッス?」
「とっくに酒場の方に行ってるよ。副長曰く海賊退治の前の酒宴だとさ」
「あの人はま~た勝手に・・・」
「経費で落させるとか言ってたよ?」
「・・・・まぁ良いッス。みんなには無茶聞いてもらってるんだからこれくらいはね」
幸いなことに経った今希少金属とかが高く売れたからな。今の所懐には若干の余裕がある。全クルーが5回くらい宴会しても余るくらいだ。
「それじゃ、自分は皆のとこにでも行くッスかね。アコーさんもある程度までやったら切り上げてくるッスよ?」
「了解、心配しなくてもタダ酒を逃す手はないさ」
「なら安心。それでは」
とりあえず、俺はステーションの軌道エレベーターに向かった。
…………………
……………
………
酒場に来ると既に酒宴が始まっており、いたるところでクルー達の楽しげな声が響き渡っていた。ウチのクルー達はやることなす事無茶が多いが、何故か酒癖はそれほど悪いヤツは少ない。
「あら、いらっしゃい。こんな辺境にようこそ。私はミィヤ・サキ、これからひいきにしてね?」
俺が中に入ると、恐らく看板娘さんだろう。あずき色の髪の少女が話しかけてきた。
「・・・・・ドリル」
「?どうかしたの」
「うんにゃ、何でもないッス。所で俺はアソコで騒いでる連中の連れッスから案内は良いッスよ」
「ん、わかったわ」
店の奥に帰って行く少女を見送る。しかし見事な巻き髪具合だ。
あれこそまさにドリルの名がふさわしいだろう。
「さてと、トスカさんたち・・・は・・・?」
「さぁさぁ、この寮の酒をトーロが一気できるか勝負だ!」
「トーロお願い!もうやめて!」
「ティータ、すまねぇ・・・姐さんには逆らえねぇんだ」
「お願いトスカ副長!トーロのHPはもう0よ!」
「さぁさぁ賭けた賭けた!」
「・・・・うわぁッス」
コレはしばらく離れている方が賢明だな。俺は巻き込まれたくは無かったので、トーロを見なかった事にし、カウンターの方に移動した。
「・・・ンぐンぐんぐ・・・・ぶはー!」
「「「くそぉ!呑み切りやがった!」」」
「おおえぇぇぇ!!」
「「「吐いた!?こうなるとどうなる!?」」」
「ドローだから親の総取りさね」
「「「ちきしょうー!」」」
―――――他人のフリしてよ。他人のフリ。
そう、ウチのクルー達に酒癖が悪い人間はそうはいないが、唯一の例外がトスカ姐さんなのである。彼女は優秀で人望が厚く、俺よりもずっと指揮官向きな人なんだけど、酒が入るとソレを某幻想殺しの如くに破壊してくれるのだ。
今もトーロをダシにトトカルチョの真っ最中、頬が薄く紅い所を見れば少しばかり酔っているのがよく解る。これさえなければ本当に完璧姉御何だけどなぁ・・・・実におしい。
ぶっ倒れたトーロをティータが介抱しているのを横目に、新たなエモノを探しているようなので顔をそむけた。今眼が合うと俺が標的にされてしまう。
「ねぇ、あなた達、海賊退治に行くの?」
トスカさんが怖いので、俺は一人被害に遭わない様に地味にカウンターで酒を飲んでいると、先ほど話したミィヤが俺に声をかけてきた。
「・・・ん?まぁそうだが?」
「凄いじゃない!この辺の男は、みんなアルゴンを怖がって近づかないのに・・・」
ミィヤの話によると、ここいらの男共は最初こそ抵抗の意思を見せたが、すぐに反抗しなくなったらしい。ソレ以来町には活気が無く、どこか沈んだムードが蔓延しているんだとか。だがソレはある意味正しい行為だろう。危険に手を出さないのは賢いやり方だ。
俺達みたく、戦いながら宇宙を駆け巡る馬鹿野郎達はともかく、この星の人間はいうなれば一般人なのだ。宇宙に出られる人間も、宇宙のならず者相手に戦えるような力をもった人間などでは無く、空間技師や空間鉱員、もしくはコロニー建設関係者などが殆どだと思う。
確かに反逆や抵抗を見せることは時として必要である。だが時と場合を考えた場合、ソレは必ずしもプラスに働く訳ではない。下手したら海賊たちに事故に見せかけられて殺されるとか家族を人質に取られる可能性だってある。
そう考えた場合、この星の人間達のとった行動は正しいのだ。自分に力の無いモノが抵抗しようとするだけ無駄な事である。力の無い正義に意味は無いとは良く行ったもんだろう。まぁ既に政府軍の方には被害通達がいっていた事だし、戦う気が無いわけではないのが救いだ。
「スゴかねぇッス。俺達はあくまで自分たちの利益の為に動くッス。セイギノミカタじゃないッスからね」
「それでも、勇気があるとおもうわ」
うぐ、そんな戦隊ヒーローを見るこどもの様な純粋な目で見られると、何だが自分のしてきた悪事が・・・ね、猫ババくらいはいいじゃないかぁ!
「そんな勇気がある人、私憧れちゃうなぁ・・・」
「・・・・ふふ、そう言われると嬉しいッスが、後ろからすさまじい殺気を感じるから止めておくッスよ。看板娘を奪ったらもうこの星に降りれないだろうしね」
「あら、お上手」
いや、現に冷や汗が流れるくらいの殺気を感じるんスよ?主に私しめの妹様の方から・・・。
「ソレは良いけど、あなた達のフネは大丈夫?この先メテオストームが発生してるけど・・・」
「ふむ、ソレは宇宙海流とでも呼べばいいモノのことだな」
「うわっビックリした!いきなり湧くなイネス!」
「湧くとは失礼な。仕方ないだろう?僕もトスカさんから逃げてきたんだから」
「・・・なら仕方ないッスね」
「さて、話を戻すがこの先にある小惑星帯は、二つの惑星に挟まれた事による強力な引力によって潮の満ち引きの如く流動している。その中を通るって事は何も対処していないと甚大な被害をこうむるってわけさ」
ココまで一息に説明するイネス、コイツの肺活量は一体どうなってやがるんだ?
「尚、何で潮の満ち引きの如く流動が起きるのかはよくわかっていないらしく、一説では――――」
このあとイネスは自分の世界に入り、クドクドねちねちと解説をしてくれた。正直すでに予備知識と言う事で知っているけど、空気を呼んで俺は何も言わない。気持ちよく説明したがっているんだからさせておけばいいじゃないか。
「――――まぁそう言う訳で、メテオストリームを通過する際はデフレクターユニットが必要と言う訳なのさ。デフレクターなら、質量物の衝突から船体を守ることが出来る」
「うす、解説ご苦労さんッス。勉強になったッス」
「ホント、アナタ博識ねぇ」
あ、イネスの奴ミィヤに言われたら少し照れてやがる。顔は必死にポーカーフェイスを装って隠してるけど、耳の紅さまではごまかせませんぜ?
「おお!美少年諸君!こんな所に居たぁぁぁ!」
「まず!酔ったトスカさんだ!逃げろ!」
「ちょっとまってくれ!うわっ!」
「ぬふふ、おひとりさま確~保!さぁて、なにしてやろうかなぁ?」
古来より酔った人間ほど始末が悪い物は無い。俺は鍛えているお陰で逃げられたが、イネスがトスカ姐さんに捕まってしまった。しかし助けることは出来ない。もし助けようとすれば、ミイラ取りがミイラになってしまう。
「か、艦長助け―――」
「・・・捕まってしまった自分を恨みたまえ」
「う、うらぎったなぁぁ!艦長ぅぅぅ!!」
「どうとでも取りたまえ、俺は自分の精神の貞操の方が大事ッス」
そう言うと、イネスの顔は絶望の表情に包まれた。
「さぁて、イネスは素材が良いから、アレしかないねぇ。ちょいと奥を借りるよ?」
そう言うと店主がまだなにも行っていないのに、有無を言わさず店の奥にイネスを引きづり込むトスカ姐さん、そして奥の方から何か叫び声が聞こえ始めた。
「ちょ!何服を脱がそうと!止めイヤ!」
「ほれほれ、抵抗しないでおいちゃんにまかせておきな。ゲへへ」
「止めろぉぉぉぉぉ!!!止めてくれぇぇぇぇ!!」
「えーがな、えーがな」
「よくないぃぃぃぃ!!!」
こうしてイネスと言う生贄君のお陰で、クルー達は安堵して酒を飲んでいた。すまんなイネス、お前さんの身体能力の低さが悪いのだよ?酔ってフラフラなトスカ姐さんに捕まるなんてお前くらいのもんだしな。
さて、こうしてトスカ姐さんが奥に引っ込んだ為、しばらく平和な一時だったのだが―――
「ねぇチェルシー、アソコにいる“モノ”はなんだろうね?」
「そうねユーリ、私には“メイド”さんに見えるわ」
「・・・・時たま凄いよね。トスカさん」
「ええ、本当に・・・女の子にしか見えない」
――――しばらくして、イネス♂はイネス♀となって戻ってきた。しかもメイド姿で・・。
「「「メ、メイドさんきたぁぁぁぁぁ!!これで・・・これで勝つる!」」」
「ケセイヤ班長!これカメラッス!」
「ぬおお!よくやった班員A!俺様が激写してくれるわぁぁぁ!」
「「「後で焼き増しお願いします!」」」
そして毎度おなじみ、整備班の男共の暴走。さらには――――
「「「かわいいー!!」」」
「イネス君わー、身体が細くて肌の色が白いからー、とっても可愛いわぁー」
「エコー、鼻から愛が漏れてる。いい加減拭け」
「だってー凄く可愛いんですものー」
「エコーの言う事もわかります。アレはもはや兵器です」
「・・・・ミドリ、お前もか」
―――――とまぁ、女性陣も黄色い叫びを上げ―――――
「「「アレは男アレは男アレは男アレは男―――――」」」」
「「「ちがうちがうちがうちがう―――」」」
「・・・・俺は真実の愛に目覚め≪ガンッ!≫はうっ!」
「あぶねぇ、危なく約一名がバラに目覚めるとこだった・・・」
――――――更に男性陣の一部には危険な兆候が見られるほどだった。
「イネス、おまえ・・・」
「は、はは・・・いいから笑えよ艦長。なんかもうどうでも良い」
「・・・いや、お前さんは良くやったさ」
「イネ子~!そんなとこに居ないでお酌しなぁ!」
「わわ!ちょっと~!こ、こんな事して・・・こんなの僕の役目じゃ・・・」
トスカ姐さんに無理やり引っ張られてイスに座らされたイネスが、涙目でそう言った。ちなみにトスカ姐さんの方が背が高い訳で、必然的に上目使いとなる訳だが―――
「「「ぶはっ!」」」
まぁ当然こうなる訳で・・・今のイネスを見た連中(男女半々)が鼻血を吹きだした。かくいう俺も危なかったが、鋼鉄の精神と後ろに居らっしゃる妹夜叉様の気配のお陰でたえることが出来た。というか妹様がこえぇぇぇ。
こうして、とても騒がしい宴会は明け方まで続き、色々と騒ぎを起してマスターに謝ったりした後、俺は突撃してきたトスカ姐さんに酒びんを口に放り込まれ一気飲み、その所為で途中で眠ってしまったのであった。
***
「―――きて―――おきて」
「・・・・う~ん、あたまいたいー」
「きて―――さい!起きてください!皆さん!」
「――――やかましい!」
「ぐあ!な、何を?」
「いいか店主さん、俺は今モーレツに二日酔いだ。頭いてぇんだわかるだろ?」
二日酔いで痛む頭をさすりながら、のそのそと起き上がる俺達。どうやら全員で明け方ちかくまで騒いでそのまま轟沈してしまったようだ。
「どうしたってんだい、そんなにあわてて?」
他の連中も多かれ少なかれ昨日の酒の影響を受けているのに、トスカ姐さんは平然としていた。このヒトはバケモンかよ・・・。
「そ、それが先ほど海賊らしき男たちがやって来てミィヤさんとイネスさんをさらって行ってしまったんです」
「「「「「「な、なんだって(ですってー!)!」」」」」」
「うわ・・・声が頭に響く・・・」
店主の話を聞いていた周りのクルーの大半が跳ね起きて叫んでいた。
「こうしちゃいられんぞ艦長!俺達の女神さまがさらわれた!」
「すぐに助けに向かうぞ!さぁ起きろ速くしろ艦長!」
「お前ら先行ってエンジンかけてろ」
「「「イェッサー!」」」
すさまじく迅速な行動で、酒場から出て行くクルー連中。
「いや女神って・・・アレは男」
「男でも可愛ければ正義!」
「「「その通り!」」」
「・・・解った。さっさと救出に向かうッス」
とりあえずサド先生に、アルコール分解剤をもらって二日酔いをなんとかしねぇと・・・。そう思い俺たちは酒場を後にした。ちなみにキチンと宴会の後を片づけてから出て行ったことを述べて置く。俺達はそこら辺はきっちりしているのだ。
――――そして以上に熱気が入っている部下を引き連れて、俺はさらわれたイネス達を追いかける為にユピテルとアバリスを今まで発進準備時間の短縮記録を大きく塗り替えて発進、ゴッゾのステーションを後にした。
***
(′・∀・)つSide三人称
*海賊船倉庫
「・・・・ううん、こ、ここは?」
イネスが気がついたのは小汚い倉庫の中だった。辺りを見回すとかなり前からあるのだろうか?埃をかぶった酒瓶ケースやらパッケージやらが散乱している。壁の感じからすると、どうやらフネの中の様である。
おかしい、自分はトスカさんに無理やり酒を飲まされてそのままダウンした筈だから、まだ酒場に居た筈だ。そう思ったモノの、無理やり飲まされた酒の所為か頭が回らない。
≪プシュー≫
その時、この部屋のエアロックが外れる音が響き、扉が開いていく。出てきたのはこの小汚い部屋と同じくらい小汚い男が2人。どう見ても堅気には見えない。
その二人はイネスを見据えると、その身体を舐めまわすかのように見降ろし、下品な笑みを浮かべている。ま、まさか・・・とイネスの脳裏には考えたくもない想像が浮かんだ。
「へっへっへ、アルゴン様に差し上げる前に、ちょっと楽しませて貰おうか?」
そしてその想像は当ってしまったらしい。海賊の片割れがそう言ったのを聞き、イネスは身体が恐怖で硬直するのを感じた。
「おう。早いとこ済ませちまうだ」
もう一人の海賊・・・仮にBとしておこう。そのBがカチャカチャとベルトを外し始めるのを見て慌てるイネス。このままではアッ――――な事をされてしまう!
「わ、わっ・・・ちょ、ちょっと待てって――――」
「いんやまたねぇ」
「こ、こんなベッピン、逃がす手はないだ」
じりじりと近寄ってくる男共にいっそうの恐怖を感じつつもイネスは彼らから逃れようと部屋の奥へと後ずさって行く。しかし狭い部屋の為すぐに壁に当たり下がれなくなってしまった。
イネスの顔が恐怖に歪み、怯えた眼で海賊を睨むのを見て、それが海賊A,Bの被虐心をそそるのか更に笑みを深める男たち。ゆっくりとまるで焦らすかのように迫る所がいやらしい。
この時そう言えば自分はまだ女装していた事を思い出し、きっとこの海賊たちは自分のことを女だと勘違いしていると考えたイネスは力の限りに叫んだ。
「だから待てって!僕は男だぞ!」
「なにぃ?」
「男ぉ~?」
流石に男には手を出さないだろう・・・だがその認識は甘かった。彼らの家業は海賊、当然女性と知り合いになれる接点などは無く、独身が多いのである。
女海賊はいるにはいるが、こんな下っ端のフネに居る訳もなく、独身の男やもめがぎゅうぎゅうの空間でもあるのだ。そんな訳で――――
「まぁ・・・」
「それはそれで。」
「ええ!?」
―――とこうなる訳だ。男は時に性欲に忠実なのである。
「オラ嬢ちゃん!・・・いやこの場合は坊主か?」
「んなことどうでも良いって、速いとこ犯っちまうだ!」
「う、うわぁ!や、止めてぇ!」
男である自分が男に襲われるという恐怖に、腕を振り回してなんとか逃げようとするイネス。しかし腰が抜けてしまい、逃げる事が出来ない!
「おら!手間かけさせんじゃねぇ!」
≪バチン≫
「ひぐぅ!」
そんなイネスの抵抗をモノともせず、海賊Aのゴツイ手から繰り出された平手打ちによって、イネスは床に倒れ伏してしまった。当然男たちはその隙を見逃すことは無い。
「おい!お前そっちもて!縄で縛ってやるんだ!」
「よくみりゃ顔も可愛いだぁ・・・グヒヒ」
「や、やえて、止めてくれぇ・・・」
手を何処から出したのか知らないが縄で縛られ、衣服が裂かれていく。下着が半脱ぎの状態にまできた時、イネスの頭はこの服借りものなのに・・と現実逃避を起していた。
「それじゃ、いただきま~す!」
「い、いやだぁ」
イネス危うし!・・・・と、海賊Aがイネスに覆いかぶさった瞬間!
≪ゴガガガガガーーンッ!!!≫
「「な、なんだぁ!?」」
艦内を揺さぶる程の大きな揺れが彼らを襲った。
『“白鯨”だ!あのデカブツが出やがった!テメェ等!死にたくなかったら応戦――な、何だ?!ロボッ――!ガガー・・・!』
「お、おい!どうしたブリッジ!ブリッジーっ!」
いきなり途絶えた放送に、海賊Aが倉庫の端末から通信を入れているがブリッジは沈黙したままで返信が帰ってこない。何かが起きてブリッジは既に落ちたと見て良いだろう。
そして艦内の灯りが非常灯に切り替わった所を見た彼らはことさら慌てていた。
「おいこうしちゃいられネェべ!早いとこ逃げねぇと!」
「逃げるって何処にだよ!とりあえずお楽しみはあとだ!部署に向かうぞ!」
と、海賊Aが海賊Bを鼓舞し、イネスを放置したまま部屋を出ようとしたその時。
≪ドコンッ!ズガガガン!≫
「「うわぁぁぁぁ!」」
「・・・何が、起きて?」
更なる振動、だが砲撃を喰らった様な感じでは無い。
どちらかと言えば何かがぶつかった様な音に聞こえた。
≪――――ガギギギギ・・・・≫
そして艦内に響き渡る金属がひしゃげる時の不快な音。
何なのかは解らなかったが海賊AとBはイネスを放り出してそのまま部屋を出て行った。
「・・・いつつ、何が起きたんだ」
イネスは縄で縛られたまま起き上がる。先ほど海賊Aが使用していた端末に向かったイネスは、顎と舌で器用に端末を操作して船内の状況を調べて見た。
どうやらどこかのフネと交戦中であり、小型艇がこのフネに突入し、艦内に相手が侵入したらしく、銃撃戦が艦内各所で起きていると言う事がわかった。
残念ながら艦外カメラは壊れており、一体誰と戦っているのかは不明である。この端末からでは船内映像も見れない為、侵入してきた人間が誰なのかも解らない。
「く、僕は・・・ココで終わるのか・・・」
そしてイネスはその事に絶望した。恐らくこれは別の海賊か何かに襲われたのだろう。徐々に近づいてくる銃撃の音を聞きながらも、例え助けられても相手が海賊だったら自分はどちらにしても生きてはいられない。もしくはそれに準ずる事をされてしまうだろう。
「僕のフネ・・・持ってみたかったなぁ。そう言った意味じゃ羨ましいよユーリ艦長」
そして浮かんだのは自分と同年代の若き艦長の顔だった。皮肉なことに彼にとってもっとも友人と呼べる関係だったのはユーリだった。ユピテルの乗船してから知らず知らずのうちに、彼は自分の居場所を作っていたのだから。
≪ガガガガガガっ!ボヒュッ!ドコーンッ!≫
【ぐわぁぁぁぁ!】
どうやら大分戦闘区域が近づいてきたらしい。エアロックの向う側からバズーカで吹き飛ばされたかのような音が響き渡ったのがわかった。
≪カンカンカンカン―――≫
ブーツで床を走る音も近付くのが解る。
そしてその音は自分の居る倉庫のすぐ近くで止まった。
(これまでか・・・)
もしかしたら相手が入って来て自分を撃ち殺すかもしれない。
そう思うと彼は自然と涙を流していた。死ぬことへの恐怖では無くコレで果ててしまう悔しさに涙したのだ。
≪プシューーー≫
そしてエアロックが開いていく、イネスは諦めたかのようにその場にうずくまった。だが、彼の予想はまたしても外れることとなる。
「お!イネス発見ッス!おーいみんな~!見つけたッスよ~!」
「え?艦・・・長?」
そこに現れたのは彼が想像していた様な海賊の姿では無く、ここしばらくの間に良く見なれた人間の姿、自分と同じくらいの年齢でどこか抜けた顔をした男がそこにいた。
「おう!イネス!助けにきたぜってうえっ!」
「「「イネス~~~(ちゃ~ん)!!!」」」
そしてその男は、突然後ろから来た団体に押しつぶされるかの様にして倒れ込む。
「ぶはぁぁぁ!なんて刺激的!さすがは我らが女神さまぁぁぁぁ!!」
「俺もう死んでいい。むしろこの光景を忘れない様に誰か殺して!」
「トーロ!見ちゃダメぇぇ!!」≪ズブン!≫
「ぐあぁぁぁぁ目がぁぁ!目がァァァッ!」
「イネスー大丈夫だったー?」
「とりあえず服を着替えさせた方が良いだろう」
「ではこれをどうぞ」
「まってミドリ、ソレは女性モノだよ?」
「・・・・チッ」
「ミドリさんや、女性が舌うちするモノではありませんぞ?」
「ようイネス、無事でなによりだね?」
そして相変わらずの煩さが、この場に広がった。なんとココにはユピテルのブリッジクルー+αが全員集まっているのだ。しかも扉の向こうにはその他のクルー達の姿まで見える。フネの方はどうした?
「重いッスー!皆退いてくれッスー!」
「「「ああ、ゴメン艦長」」」
いまだ皆に潰されていたユーリが手足をばたばたさせて存在をアピールする。
慌ててみんなどいた訳だが、若干泣き顔なのは御愛嬌。
「しくしく、みんなで俺をいじめるッス」
【ご愁傷さまです艦長】
「うう、ユピだけが俺のこと心配してくれるッス」
「私もいるよユーリ」
「じゃ訂正、ユピとチェルシーだけッス」
まだ少し涙目な艦長、と言うか潰された癖に結構元気なやつである。
「所で周辺に敵は?」
【策敵しましたが今のところ反応は――――】
どうやらユピテルが制御しているようだ。しかしたった一人の人間の為に皆で来たと言うのか?だとしたらなんて馬鹿な・・・そうイネスが思った時。
「まぁソレはさて置き、無事でよかったッスね?イネス」
「え・・あ」
艦長に頭を撫でられていた。自分と同じ年齢である筈の艦長なのに、自分を撫でるその手はとても温かく感じられる。まるで父親のようで安心できる雰囲気を感じた。
「さぁ、とにかく帰ろうッス」
「・・・・うん」
彼の言葉に思わず胸がぎゅっとしたのはイネスの秘密である。
Sideout
***
Sideユーリ
ふぅ、なんとかイネスを奪還する事に成功したぜ。様子から察すると後少しで掘られる寸前だったみたいだな。ホント二重の意味で間に会ってよかったよウン。仲間がコレを気におホモだちになっちゃったら目も当てられない。
ちなみにどうやって助けたのかというと、まずユピテルの長距離レーダーで海賊船を探し出す。その際複数の艦船を見つけたが、その中でイネスに持たせておいた携帯端末からのビーコンを探り出した。
該当するフネを見つけたら、ようやく編隊行動がサマになってきたVF-0達を導入、俺達が囮となって海賊たちをひきつけている間にアクティブステルスで隠れながら先行したVF-0達によってブリッジを破壊させた。
そしてVF-0に守られた兵員輸送用ランチが、VF-0が開けた穴から海賊船の中に突入し、更なる混乱を招かせ、その間に砲塔をVF-0 達が破壊、そしてそのままユピテルを接舷させたのだ。
そして俺達はブリッジをユピに任せ、そのまま突入しイネスを見つけ出したと言う訳なのである。とにかく色々とあったものの、イネスが無事でよかったぜ。
そして今ユピテルのブリッジに戻る最中なのであるが―――
「・・・」
「あっはっは。よかったよかった。無事でなによりだねぇ」
「・・・何言ってるんですか?貴女がこんな変な服を着せたからでしょう?」
「なーに言ってんだい?私らの迅速な対応が無かったら、アンタ貞操の危機だったんでしょ?」
あー、トスカ姐さんが誰も触れない様にしてた爆弾を・・・というか。
「そ、その事には感謝してますけど!だからってどうして僕の服はメイド服のままなんですか!」
「たまたまアンタの服は全部洗われている最中でねぇ?」
いまだにイネスの服はあの破けたメイド服のままである。
どうやらどこぞの馬鹿な連中がイネスの服を全て洗いに出したらしい。
しかも、全部all丸洗いで戻ってくるのに2週間はかかると言うおまけ付き。
まぁ犯人はすぐ近くでニヤニヤしているミドリさんだろうが・・・。
「それに陣頭指揮をとったのはユーリだ。まずはユーリに礼を言わなきゃいけないんじゃないかい?」
「うぐ・・・・そうですね」
イネスはそう言うと俺の方に向き直った。
「まぁええと・・・そう言う訳で、あの・・・ありがとう」
「・・・・・」
ええと、とりあえず状況だけ述べて置くぜ?
どう見ても女の子にしか見えない眼鏡メイドさん(服が破けて肌露出)が、目の前で恥ずかしそうに頬を少し染めて、若干視線を外してチラチラと俺を見ながらお礼を述べてくれてます。
「お、おい、艦長。どうした?」
「・・・・・大丈夫、いまちょっとだけときめいた自分を殺したくなっただけだから」
「はっ?」
唖然としてるイネス、仕方ねぇだろうが、お前さんのその姿は男には毒にしかならねぇ。
「何でもねぇ、だからしばらく来るな。その姿はやばいから。誰か女性、イネスに付き添って部屋におくってやってくれッス。このままだと普通にクルーに襲われるだろうから女性の警備員も手配しておいた方が良いッス。そして何でもいいから着替えさせてやってくれッス」
「「「了解しました~!」」」
「ええ!?ちょ!離せ!離してくれ!!」
そしてイネスは女性陣に引きずられて連れていかれてしまった。ドップラー効果と共に・・。
「・・・・さて、とりあえず本題に入っるッス」
とりあえず気を取り直して、いま残っているメンバーだけでブリッジに向かいブリーフィングを行う。ちなみに残ってんのは男性陣と俺とトスカさんだけだ。女性陣はイネスを神輿担ぎにしてでていったからな。
「あのフネをくまなく探ったが、何処にも一緒にさらわれた筈のミィヤの姿はなかった」
【フネのコンピュータのログによると、どうやら別のフネに乗せられたようです】
「つまり、一足早く彼女はファズ・マティへと移送されてしまったと言う事か?」
ストールの質問に、俺は頷く事で答えた。
「となると、メテオストリームを抜ける為にデフレクターの調整が必要と言う訳だな?」
「サナダさん、お願い出来るッスか?」
「ああ、問題無い。急いで作業にかかる」
「残りの全員は恐らく行われるだろう戦闘の準備を急いでくれッス!」
「「「了解!」」」
今度はあの隕石の河を越えた先か、面倒臭いけど女の子放っておくのは男がすたるってモンだぜ。
それに本拠地と有れば・・・・ぐふふ。
「ほんじゃま、海賊退治としゃれこみますか」
そして俺達はそのまま海賊の本拠地ファズ・マティへの針路をとった。
***
さて、惑星ゴッゾと人工惑星ファズ・マティとの間にはメテオストームが流れている。
俺達はファズ・マティへ向かう途中、そのメテオストームの手前まで来ていた。
「おお、コレがメテオストーム」
「すさまじくダイナミックだなオイ」
「こりゃ確かにデフレクター無しで突っ込むのは自殺行為だな」
視界いっぱいのガスとデブリと隕石が、惑星の重力に引かれて荒川の如く目の前を通過していくのが、ココからでも確認出来た。重力偏重の所為か、かなり河が広がっており、ユピテルの全速でも迂回ルートを通れば数週間はかかってしまう事であろう。
つーか、マジスゲェ!宇宙の自然ってのはマジでダイナミックだなオイ!
「ミューズさん、サナダさん」
「このフネ・・・すでに準備は・・・出来てるわ」
「墓の艦も出力を臨界で長時間作動させても大丈夫だ」
おし!なら、行きますか!!
「デフレクター出力最大!メテオストームを突破するッス!総員警戒態勢!」
「「「アイサー」」」
『総員警戒態勢が発動されました、繰り返します。総員警戒態勢―――』
重力偏重の河を越えると言う事で、艦内があわただしくなる。まぁ海賊たちが突破しているんだからウチのクルーに出来ない訳が無い・・・筈だ。
「メテオストームの影響圏内まで、あと20宇宙キロ」
「各艦デフレクター最大出力、臨界作動開始!」
デフレクターが作動した。近くに居る工作艦アバリスを見ると、フネを全て囲む程の楕円球型シールドが発生しているのが見て取れた。
【間もなく、河に突入します】
「総員、耐ショック防御!」
そしてフネが河へと突入する。途端―――
≪ゾゴゴゴゴォォォォッッッンッ!!!!!≫
―――かなりの振動が襲い掛かる!隕石、隕鉄等のデブリがデフレクターと接触したのだ。
「ぐわっ!スゲェ揺れ!」
「はっは、バラバラになりそうな勢いだね」
「不吉な事言わんといてください!トスカさん!」
「おっと、これはすまないね」
入った途端、デフレクターに激突するデブリの衝撃波がフネを揺さぶるように振動させている。コリャ本当に普通のフネならひとたまりもない。
【デフレクター出力、4000±100で安定、船体の振動はグリーンエリア内】
「ふむ、外は重力の嵐だな。デフレクター付き観測機があれば調査が出来るのだが・・」
「そんな高価なモン買わないッスよ?」
しかしゲームだとほんの十数秒的な扱いだったけど、なんか実際体験するとかなり長く感じる。まだ突入してから艦内時間では3分も経って無いのに、手に汗が噴き出してくるぜ。
「あと少しでメテオストームを越え」
【警告!小惑星クラスの隕石、接近中!スクリーンに投影!】
ユピが警告を発し、空間スクリーンに投影されたのは、大きさが3kmはありそうな大きな氷の塊だった。
「な!転舵!おも舵50!上下角45!急げッス!」
俺の指示でユピテルは慌てて舵を切るが、重力偏重の所為で上手く動かせない。しかし隕石はドンドン近づいてくる!どうする?!どうすんの俺!
「つ、続きはウェブで!」
「なにワケの解らん事言ってんだい!しゃんとしな!」
おおっとあぶねぇ、混乱してワケの解らん事言っちまったぜ。あのクラスだとデフレクターじゃ防ぎきれない。しかも此方も回避が間に合わない。・・・・ならすることは一つ!
「火器管制開け!シェキナ発射用意!」
「まて艦長!今ホーミングレーザーを放つとエネルギー不足でデフレクターの出力が!」
「押しつぶされるよりかはマシッス!」
防げないし回避できないなら破壊するしかない!
「く、仕方ない。・・ケセイヤ聞こえるか?火器管制室に行ってリミッターを外してくれ!」
『サナダがそこまであせるとはよっぽどだな。待ってろすぐに外してやる』
「シェキナ発振体部分開口、発射用意良し!」
エネルギーの充填レベルがコンソールに表示された。まだだ、まだ低い。
「もうちょっと上がらないんスか!?」
『こちらケセイヤ!リミッター解除完了!』
ケセイヤさんの報告が来ると同時に、エネルギー量がメーターを振り切った。
「撃て!艦長っ!」
「シェキナ発射!総員耐ショック防御!」
「ぽちっとな!」
デフレクター自体を重力レンズとした収束砲撃が、迫る隕氷へ放たれた。
収束したエネルギー弾が氷の一点にブチ当たり、溶解させながら水蒸気爆発を引き起こす。
「隕氷破壊成功!ですが破片が!」
【エネルギー不足でデフレクター出力が50%まで低下!】
「アバリスのガトリングキャノンで対応してくれッス!」
アバリスからの砲撃で此方への破片の直撃は防ぐ事が出来た。
だがまだ災難は終わって無かったようで――――
「あぁッ!」
「どうしたミドリ!驚くんじゃ無くて報告しな!」
「す、すみません。殿にいたクルクスが大破、恐らく撃ち漏らしの破片を浴びたのだと思われます」
【映像出します】
ココに来て殿につけていたクルクスが破片をもろに喰らったらしい。映し出された映像には、今にもデフレクターが消えてしまいそうなクルクスが、所々火を噴き出して爆散する姿だった。
「一歩間違えば・・・俺達も」
誰かが呟いた言葉にブリッジ内にそんな空気が流れ始める。
「ああなりたくなかったら!すぐにこの場を離脱するッス!」
「「「アイサー!」」」
【デフレクター出力更に低下、あ、穴が開いた】
「「「「なにー!」」」」
見れば小さいながらもデフレクターに穴が・・・ま、不味すぎる!
「河の出口まで後少し!エンジン全開ッス!」
「エンジンが焼けてしまうぞ艦長!」
「後で修理すれば良いッス!とにかく急ぐッス!」
全く、あの隕石に出会わなければ普通に突破出来たってのに!ああもう!
「影響圏離脱まであと5秒」
【・・・3,2,1、離脱完了】
「「「た、たすかったぁー」」」
「な、なんとかなったッスね・・・」
「ああ、危なかったけどね」
とりあえず修理をしなければなるまい。この付近には流れからはずれたデブリが集まる小惑星帯があった為、一先ずその中に入り、ユピテルは修理を行う事となった。
***
小惑星帯で修理を行うが、その結果はあまり芳しくない。
整備班から寄せられる報告はそんな感じだった。
『ダメだ艦長、シェキナの発振体は全損、エネルギー回路が殆ど逝っちまってる。一応取っ換えたがこんな簡易修理じゃ艦隊戦やるほどの出力は望み薄だぜ』
「ふーむ、ソレは参ったッスね」
修理はしたが結果は思わしくない。リミッターを外して撃った為、ホーミングレーザー用の発振体は壊れ、エネルギー回路は焼けてしまったのである。
一応壊れた発振体は全て取り換えはしたが、肝心のエネルギー回路の方はちゃんとしたドッグで分解修理が必要な状態何だそうな。
『ソレとデフレクターに空いた穴から入った細かなデブリで、左舷側は総取っ換えだな』
「むぅ、作業時間はどれだけかかりそうッスか?」
『ざっと見積もって1時間はかかりそうだぜ?』
また装甲板にもある程度被害が出ている。第一装甲板だけで防げたのは僥倖と言えるだろう。
「出来ればその半分で出来ないッスか?」
『そうだなぁ、穴をパテで埋めるだけなら動きながらでも出来るぜ?その代わり熱処理装甲が使えなくなるから、耐エネルギー防御がかなり下がるけどな。』
「そこら辺はAPFSがあるから多分大丈夫ッス」
『ならすぐに取りかかるぜ』
既に海賊には俺達が来ている事は知られているだろう。
敵さんが艦隊を展開する前に突入した方が良い。
『後さいわいエンジンは何ともないみたいだから、すぐに発進出来ると思うぜ?』
「了解したッス、ケセイヤさん。とりあえず直せる所は直しておいてくれッス」
『言われるまでもねぇ。通信終わり』
う~ん、だがまずいな。このままだと火力はアバリスだけになってしまう。
ただでさえクルクスを失ってしまったって言うのに、どうしてくれようか?
「・・・・・ユピ」
【はい艦長、何でしょうか?】
「フェニックスの誘導操作はどこまで伸ばせる?」
【そうですね。正確な誘導でしたら通常レーダーの範囲内でしょう】
ふむだとするとかなり敵に近づかないと不味いな。
しかし艦載機で敵を叩くのはかなり時間掛かるしなぁ。
どうしてくれよう?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
【艦長?】
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うがー!考えても解んないッス!」
【お疲れなのでしたら、少し休憩なさいますか?後は私と副長でやっておきますから】
「そう・・・ッスね。じゃちょっと休憩させてもらうッス」
無理に考えた所でいい案は浮かばない。
それにどちらにしろ敵との接近遭遇までは早くても後2時間はかかる。
だったら無理に考えたりしないで1時間程時間を開けて考えた方が良い。
≪ぐぐぅ~・・・≫
・・・・・・とりあえず食堂いってこよ。イネス救出で朝から何にも食べて無いからな。
そう言う訳でブリッジを出た俺は一路食堂へと足を向けた。
………………………
…………………
……………
「定食Aが50!BとCが20のオーダーが入りました!」
「あいよ!すぐに作る!特製は出来てるから出前にいってくれ!」
「「「行ってきます!」」」
「どいたどいた!鍋が通るよ!」
「誰だ!調味料出しっぱなしにした奴は!」
「皿洗いは後で良いから材料切れ!あ?機械を使えばだ?桂剥きする機械なんてあるかよ!」
「ふぉあちゃぁぁぁぁぁ!!」
「あ、あれはタムラさんの奥義対流圏!」
「知っているのか?!」
「ああ、鍋を振って材料をドーム状にすることで熱の対流を作りだし、材料全体に均等に熱を伝わらせて旨味を閉じ込める方法だ。俺初めて見た!」
「お前ら手を止めてんじゃねぇッ!!早く出前行って来い!」
「「わ!すいませ~んっ!!」」
――――――とりあえず食堂来たんだけど、なんか戦場だった。
「こ、これオーダーしても良いんだろうか?」
「ん?あ、艦長どうしました?チェルシーさんなら出前に出ていませんよ?」
注文しようとカウンターに来たんだが、あまりの厨房のすさまじさに絶句してた俺。
偶々近くにいた普段はウエイターしてる人に話しかけられる。
「いや、飯食おうかなって思って・・・しかし凄いッスね?まるで戦場ッス」
「ええ、なんせEVA(船外作業)の真っ最中ですからね。出前のオーダーが大量に来てるんですよ。所でご注文は?」
「じゃ、無難に定食Zで頼むッス」
「あいよ!オーダー定食Z一つ入りました!」
「すぐ作るからまってろぉぉぉぉぉ!!」
「うお!?料理長顔が変わってる!?」
「本気出してますからね」
「ほい!お待ち!」
「って早!?速いッス!」
「まぁ兎に角持ってけよ艦長」
「あ、ああ」
なんか本当に火が通ってるのか心配だなオイ。
とりあえず食堂の空いているテーブル(と言っても外が忙しいので誰もいない)に座る。
「あ、普通に火が通ってる・・・タムラさんパネェ」
食べて見るとあらビックリ、あれだけの短時間で作ったモンだと言うのに普通に食える。
むしろウマいくらいだ。ちなみにメニュー的にはとんかつ的な何かだけどな。
「うんウマい。こりゃ美味い。美味し。相変わらずタムラさんはすごい。うん」
あんなにウマい飯を作れる人が、粗末な飯屋しかやって無かったなんてウソみてぇ。
まぁ原価ギリギリの赤字運営してたらしいから?しかたなかったからなのかもな。
んで、俺は食堂でタムラさんの料理を食べていると、ようやく一区切りついたらしく、出前に出ていた人も戻って来ていた。その中には当然チェルシーも居る。
「あ、ユーリ?ご飯食べに来たの?」
「そうッスよチェルシー。そっちはもう終わりッスか?」
「ううん、今から食事休憩なの」
「じゃ、一緒に食べるッスか?」
「うん!じゃご飯取ってくるから待ってて!」
そう言うと厨房に駆けて行く彼女。そして手にお盆持って戻ってきた。
「ほんじゃま、食べますか」
「うん!」
お互い向かい合わせになって食事を取る。
どうだい?兄妹の仲睦まじいスキンシップの時間さ。
うらやますぃだろう?
「そう言えば作業状況はどうなの?」
「ん?ああ、まぁなんとかね。ただ対艦能力が低下しちゃったんだよなぁ」
現在の近況をチェルシーに話す。
まぁ彼女は難しい事は解んないけどそれでも聞いてくれるので、ちょうどいいストレス発散になるのだ。で、色々と話していたら―――
「戦闘機は使えないの?このフネは確か空母なんでしょ?」
―――と言われたので「ウチの艦載機だと艦隊相手には火力不足だ」と返した。
「じゃあ、何か火力を上げる為の武装をすればいいんじゃない?」
「うんにゃ、一応ファストパック開発でアーマードの開発はしてるッスけど、今回の戦闘には間に合わないッスからね。それでも火力的には足りないッス」
「じゃ、ロボットになれるんだから、戦艦の大砲をもたせちゃうとか?」
「なははははは!そんなこと出来ないッスよ。戦艦クラスの大砲を動かすエネルギーが無いッスからね」
ソレさえ解決できればいけるんだけど・・・・ん?
「いや待てよ?VFに強力な火力を持たせる・・・あ!?」
「どうしたの?」
「よし!いける!コレで勝つる!さっそくケセイヤさんに連絡しなきゃ!」
俺は急いで定食をかっこみ、食器を片づけて食堂を後にする。
出る直前にチェルシーお前最高だわ!と叫んだんだが、何かが倒れる音が聞こえたのは何でだろう?
だが、今はそんなことは関係ない!急いで準備しなければ!
俺は端末でケセイヤさんを呼び出しながら、倉庫へと走って行った。